JP6402037B2 - 延伸繊維の製造方法及び延伸繊維 - Google Patents

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Description

本発明は、延伸繊維の製造方法及び延伸繊維に関する。より詳しくは、溶融紡糸により得た未延伸糸を延伸処理して延伸繊維を製造する方法及びこの方法で製造された延伸繊維に関する。
近年、更なる性能向上を目指し、薄く、強く、緻密な不織布が求められており、それに用いられる延伸繊維においても細繊度化が求められている。そこで、例えばポリエステル系繊維では、紡糸及び延伸を行うことで細繊度化する方法、海島構造の未延伸糸を延伸し、海成分を除去することで細繊度化する方法、及び分割型未延伸糸を延伸し、分割処理して細繊度化する方法などが行われている。
一方、オレフィン系繊維は、溶融張力が高く、紡糸及び延伸を行う方法では細繊度未延伸糸が得られ難いため、主に、分割方式によって細繊度化されている。また、ポリプロピレン繊維については、未延伸糸の結晶のβ晶化を促進して延伸工程での延伸倍率を高めることにより細繊度化する方法(特許文献1)や、メルトインデックスが100〜1500のポリプロピレンを配合することにより細繊度化する方法(特許文献2)も提案されている。
極細かつ高強度のポリプロピレン繊維を得るため、メルトフローレートが30〜100g/10分のアイソタクチックポリプロピレンを40質量%以上含有するポリオレフィン樹脂を溶融紡糸して得た未延伸糸を、90℃の温水中で定長熱処理後に延伸し、更に100〜140℃の定長熱処理を行う方法も提案されている(特許文献3)。
特開平11−140719号公報 特開2001−159026号公報 特開2014−196577号公報
しかしながら、分割方式によってオレフィン系の延伸繊維を細繊度化すると、抄紙法で不織布を形成する際に、スラリー原液の段階で分割が進行しやすく、分散性が低下するという問題点がある。一方、特許文献1〜3に記載の技術はいずれも延伸工程に着目したものであるが、これらの方法では未延伸糸に繊度斑が発生しやすい。
繊度の小さい未延伸糸は、繊度が大きい未延伸糸に比べて延伸時の伸び代が少なく、延伸可能な倍率が小さい。延伸繊維を製造する際は、複数の未延伸糸を同時に紡糸し、その複数の未延伸糸を同時に延伸するため、紡糸工程で未延伸糸に繊度斑が発生すると、延伸工程で、延伸切れの発生を防止するために、延伸倍率を繊度が小さい未延伸糸が延伸可能な範囲に設定しなければならなくなる。その結果、繊度が大きい未延伸糸を本来延伸可能な倍率まで延伸することができず、延伸繊維の繊度全体平均として細繊度繊維を得ることが困難になる。この未延伸糸の繊度斑の問題は、特に1紡糸あたりのフィラメント数が多い場合に顕著である。
そこで、本発明は、1紡糸あたりのフィラメント数が多い場合でも、高強度で低熱収縮率の細繊度延伸糸を安定して製造することが可能な延伸繊維の製造方法及び延伸繊維を提供することを目的とする。
溶融紡糸により得られる未延伸糸を細繊度化する場合は、一般に、紡糸口金(紡糸ノズル)の吐出孔から吐出される樹脂の量(1ホールあたりの樹脂吐出量)を、紡糸可能な範囲内で比較的少ない量になるよう適宜調整した上で、高温で紡出した未延伸糸を、徐冷冷却し、比較的高速で引取る方法が採用されている。しかしながら、樹脂を高温にすると、粘度が低下して流動性が高くなるため、紡糸口金内部を通過する際に背圧が掛かりにくくなり、紡糸口金の隅々まで樹脂を行き渡らせることが困難になる。その結果、紡糸口金に多数設けられた吐出孔それぞれの樹脂吐出量を均等にすることが困難になる。そして、このような状態で紡糸口金から樹脂を吐出すると、得られる未延伸糸に繊度斑が発生する。
そこで、本発明者は、繊度斑がなく細繊度の未延伸糸を得る方法について鋭意検討を行い、紡糸口金から吐出される樹脂のメルトフローレートを特定の範囲にすると共に、樹脂に固化促進剤を配合して固化速度を速めることで、未延伸糸の繊度を均一化できることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明に係る延伸繊維の製造方法は、溶融紡糸により、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を紡糸して、繊度が1.0dTex以下の未延伸糸を得る紡糸工程と、前記未延伸糸を延伸処理する延伸工程と、を有し、前記樹脂は固化促進剤を含有し、前記紡糸工程では、紡糸口金から吐出された樹脂の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの範囲が、70〜200g/10分である。
前記紡糸工程では、例えば筒状冷却装置により、冷却風の風速が1〜10m/秒、冷却風の温度が10〜30℃の条件で、前記未延伸糸を急冷する。
前記樹脂は、結晶性プロピレン系重合体としてアイソタクチックポリプロピレンを含有していてもよい。
また、前記樹脂には、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが700〜1550g/10分のアイソタクチックポリプロピレン及びメタロセンポリプロピレンのうち少なくとも1種の可塑剤を、合計で15〜30質量%添加することができる。
更に、前記樹脂は、前記固化促進剤として、結晶核剤を0.05〜1質量%又は前記結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体を1〜30質量%含有していてもよい。
一方、前記結晶核剤は、例えば有機系造核剤である。
また、前記結晶核剤が、リン酸エステル系金属塩又はジベンジリデンソルビトール系でもよい。
更に、前記オレフィン系重合体は、例えばメチルペンテン重合体である。
この延伸繊維の製造方法では、前記未延伸糸の繊度斑を表す変動率を20%以下とすることができる。
本発明に係る延伸繊維は、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂からなり溶融紡糸された未延伸糸を延伸してなる延伸繊維であって、前記樹脂に固化促進剤が配合されており、示差走査熱量計により、昇温速度30℃/分で室温から250℃まで昇温し、融解熱量法により測定した結晶化度が35%以上であり、かつ、250℃まで昇温した後、降温速度を10℃/分にして室温まで降温したとき、125℃以上に結晶化に伴う発熱ピークを有する。即ち、本発明の延伸繊維は、250℃まで昇温して溶融した後、室温まで降温すると、降温過程において結晶化に伴う1又は2以上の発熱ピークが観察され、そのうち少なくとも1つのピークは、125℃以上の温度範囲にピークトップ温度(再結晶化温度)を有する
た、本発明の延伸繊維は、前記樹脂に、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが700〜1550g/10分のアイソタクチックポリプロピレン及びメタロセンポリプロピレンのうち少なくとも1種の可塑剤が、合計で15〜30質量%添加されており、示差走査熱量計により、昇温速度30℃/分で室温から250℃まで昇温し、融解熱量法により測定した結晶化度が40%以上であってもよい。
なお、本発明における「固化促進剤」は、紡糸口金から吐出された樹脂(未延伸糸)の固化速度を速めて、紡糸した未延伸糸の繊度及び形状を短時間で固定化する作用がある添加物を示し、以下の説明においても同様である。
本発明によれば、繊度斑が小さく、細繊度の未延伸糸が得られるため、1紡糸あたりのフィラメント数が多い場合でも、高強度で低熱収縮率の細繊度延伸糸を安定して製造することができる。
本発明の実施形態の延伸繊維の製造方法を示すフローチャートである。 実施例1の未延伸糸の断面を示す顕微鏡写真である。 実施例8の未延伸糸の断面を示す顕微鏡写真である。 比較例3の未延伸糸の断面を示す顕微鏡写真である。
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
先ず、本発明の実施形態に係る延伸繊維の製造方法について説明する。図1は本実施形態の延伸繊維の製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態の延伸繊維の製造方法は、溶融紡糸により未延伸糸を得る紡糸工程(ステップS1)と、未延伸糸を延伸処理する延伸工程(ステップS2)とを行う。なお、以下の説明においては、特に断りがない限り、メルトフローレート(Melt Flow Rate:MFR)の値は、JIS K7210のA法に基づいて、温度:230℃、荷重:21.18Nの条件で測定した値である。
[ステップS1:紡糸工程]
紡糸工程では、溶融紡糸により、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を紡糸し、繊度が1.0dTex以下の未延伸糸を得る。その際、樹脂に固化促進剤を配合すると共に、紡糸口金から吐出された樹脂のMFRを70〜200g/10分の範囲にする。
(樹脂)
樹脂の主成分である結晶性プロピレン系重合体としては、例えば結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、プロピレン重合体にエチレン単位がランダムに導入されているエチレン−プロピレンランダム共重合体、プロピレン重合体にエチレン単位のみからなる重合部がブロック状に導入されているエチレン−プロピレンブロック共重合体、前述したエチレン−プロピレンランダム共重合体又はエチレン−プロピレンブロック共重合体に更にブテン−1などのα−オレフィンを共重合した結晶性プロピレン−エチレン−α−オレフィン共重合体などが挙げられる。これらの中でも、延伸性、繊維物性及び熱収縮抑制の観点から、アイソタクチックポリプロピレンが好適である。
(固化促進剤)
固化促進剤は、紡糸口金から吐出された樹脂(未延伸糸)の固化速度を速くするものであり、例えば結晶核剤や主成分である結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体を用いることができる。
<結晶核剤>
結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂に結晶核剤を添加すると、溶融した樹脂が紡糸口金から吐出されて冷却される際に、結晶核剤が自ら結晶核として又は結晶性プロピレン系重合体に対して結晶形成を誘発する造核剤として作用するため、再結晶化温度が上昇する。これにより、紡糸口金から吐出された樹脂がより高い温度で固化し始めるため、紡糸工程の冷却が安定し、紡糸繊維(未延伸糸)の繊度斑を低減することができる。
その結果、紡糸金口から吐出し紡糸された多数の紡糸繊維(未延伸糸)の繊維間での繊度や形状のばらつき及び各繊維内における配向や結晶構造のばらつきが小さくなるため、紡糸段階に続く延伸段階において、延伸段階延伸倍率をより高くすることができ、延伸工程での延伸性が向上する。また、結晶核が増加するため、微結晶が生成されやすくなり、高倍率かつ高速で延伸変形に追従することが可能な未延伸糸が得られる。即ち、延伸しやすい内部構造を、予め延伸工程の前段階である紡糸工程において形成することができる。
ここで、樹脂に添加する結晶核剤としては、無機系核剤や有機系核剤を使用することができる。無機系核剤の具体例としては、タルク、カオリン、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、硫酸カルシウム及び硫酸バリウムなどが挙げられる。一方、有機系核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウムなどの安息香酸金属塩系核剤、シュウ酸カルシウムなどのシュウ酸金属塩系核剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムなどのステアリン酸金属塩系核剤、アルミニウムベンゾエート、カリウムベンゾエート、リチウムベンゾエートなどのベンゾエート金属塩系核剤、リン酸エステル系金属塩系核剤、ジベンジリデンソルビトール系核剤が挙げられる。
また、結晶核剤は、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂が溶融状態のときに、共に溶融するもの及び完全には溶融せずに樹脂中に分散するもののいずれでもよく、溶融せずにそれ自体が核となるものでもよい。本実施形態の延伸繊維の製造方法においては、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂との関係において、共に溶融して親和する結晶核剤及び完全には溶融しないがその一部が樹脂となじみあう結晶核剤を使用することが好ましい。
このような結晶核剤を使用すると、吐出孔が多数設けられた紡糸口金を用いて紡糸した場合でも、紡糸直後の冷却において、各吐出孔から紡出される繊維間の繊度(太さ)斑を十分に低減することができる。その他に、結晶核剤には、未延伸糸の内部構造に微結晶を形成することにより、次の延伸工程での延伸性を更に向上することができるという効果もある。
また、無機系の核剤は溶融しないため、個々の紡糸条件と延伸条件とについて、核剤の添加量を繊細に調整する必要があるが、有機系核剤は比較的低い添加量で、より広い紡糸、延伸条件に適応できるようになる。このため、結晶核剤には、有機系核剤を使用することが好ましく、特に、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂との関係においては、共に溶融して親和しやすいという点から、有機系造核剤を用いることがより好ましい。
樹脂と共に溶融して親和する有機系造核剤としては、例えばジベンジリデンソルビトール系核剤が挙げられる。具体的には、ジベンジリデンソルビトール(DBS)、モノメチルジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4−ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール(p−MDBS)、ジメチルジベンジリデンソルビトール(例えば、1,3:2,4−ビス(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール(3,4−DMDBS)などが好ましく用いられる。
一方、一部が樹脂となじみあう有機系核剤としては、分子量が400を超える程度に比較的大きな有機系骨格を有する核剤が好ましく、その具体例としてはリン酸エステル金属塩系核剤が挙げられる。各種リン酸エステル金属塩系核剤の中でも、特に、リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジーtert−ブリルフェニル)アルミニウム塩、リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジーtert−ブリルフェニル)アルカリ金属塩が好ましい。また、リン酸エステル金属塩系核剤におけるアルカリ金属は、ナトリウム、リチウム及びカリウムが好適である。
なお、前述した結晶核剤は、単独で使用してもよいが、効果や生産性などを考慮し、それぞれを適度な比率で混合して使用することもできる。ただし、結晶核剤の添加量が少なすぎると、繊維間での繊度や形状のばらつきの低減及び各繊維内における配向や結晶構造のばらつきの低減などの紡糸冷却時の繊維形状固定化効果が十分に得られず、微結晶の形成が不十分となる。一方、結晶核剤の添加量が多すぎると、前述した効果が飽和するだけでなく、添加した結晶核剤が樹脂と共に紡糸口金の吐出孔に付着して炭化し、吐出孔の汚れが増加する。紡糸口金の吐出孔の汚れは、樹脂のスムーズな吐出を妨げるため、紡糸工程の安定性が低下する。これらの理由から、結晶核剤の添加量は、樹脂全質量あたり0.05〜1質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
<結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体>
固化促進剤として添加されるオレフィン系重合体は、結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いものであれば特に限定されるものではないが、例えばメチルペンテン重合体を使用することができる。このようなオレフィン系重合体は、結晶性プロピレン系重合体よりも高い温度で結晶固化する。このため、樹脂に結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体が分散されていると、紡糸口金から吐出直後の半溶融状態にある樹脂がより速く固化し、繊維としての形及び太さ(繊度)が固定化される。
即ち、前述した結晶核剤は結晶性プロピレン系重合体の固化を促進するのに対して、結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体は、自身が結晶固化することにより、樹脂全体としての固化速度を速めるものである。従って、固化促進剤として結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体を用いる場合は、結晶核剤を用いる場合よりも添加量を多くすることが好ましい。
結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体の添加量が、樹脂全質量あたり1質量%未満の場合、未延伸糸の固化促進効果が不十分となり、繊維間及び繊維内に斑が発生することがある。一方、樹脂に、30質量%を超えて結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体を添加すると、紡糸直後に急速に固化が進むため、引取ローラーで高速引取を行って極細化する前に固化することがあり、1.0dTex以下の極細な未延伸糸を製造することが難しくなる。
よって、結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体を添加する場合は、樹脂全質量あたり1〜30質量%とすることが好ましい。なお、固化促進効果の向上及び細繊度の未延伸糸を安定して製造する観点から、結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体の添加量は、樹脂全質量あたり5〜20質量%とすることがより好ましい。
(MFR)
紡糸口金から吐出された樹脂のMFRが70g/10分未満の場合、溶融樹脂の溶融張力が高くなり、繊度が1.0dTex以下の未延伸糸を得ることが難しくなる。一方、紡糸口金から吐出された樹脂のMFRが200g/10分を超えると、溶融樹脂の溶融張力が低くなり過ぎるため、未延伸糸の繊度斑が大きくなると共に、紡糸性が著しく低下する傾向にある。よって、紡糸口金から吐出された樹脂のMFRは70〜200g/10分とする。なお、紡糸切れ抑制及び紡糸安定性の観点から、紡糸口金から吐出された樹脂のMFRは90〜170g/10分であることが好ましい。
ここで、紡糸口金から吐出される樹脂のMFRは、紡糸温度の変更、或いは樹脂に可塑剤として高MFR(700〜1550g/10分程度)のアイソタクチックポリプロピレンやメタロセンポリプロピレンを添加することにより調整することができる。また、樹脂にラジカル発生剤であり熱分解剤でもあるヒドロキシアミンエステルを添加し、紡糸押出機内において溶融状態にあるときに、主成分である結晶性プロピレン系重合体の分子鎖を切断して低分子化することによって、紡糸口金から吐出される樹脂のMFRを調整してもよい。更に、紡糸口金から吐出された樹脂のMFRは、樹脂に分子量の小さいポリプロピレンワックスなどを添加することによっても調整することが可能である。
なお、樹脂の主成分として、MFRが異なる2種類以上の結晶性プロピレン系重合体を配合したものを用いて擬似的に分子量分布を広くする方法や、MFRが低い(10g/10分以下程度の)結晶性プロピレン系重合体を配合したものを用いる方法でも、紡糸口金から吐出される樹脂のMFRを調整することは可能である。しかしながら、これらの方法で樹脂のMFRを調整した場合、細繊度の未延伸糸を得ることはできるが、その後の延伸工程において延伸倍率が低下する傾向があるため、このような配合のものを用いる場合には、延伸可能な倍率を確かめた上で、製造することが必要となる。
このため、樹脂の主成分には、高MFRかつ分子量分布が狭い結晶性プロピレン系重合体を使用し、これに、前述した高MFRのアイソタクチックポリプロピレン及びメタロセンポリプロピレンのうち少なくとも1種の可塑剤を、樹脂全質量あたり、合計で15〜30質量%添加することが好ましい。これらの可塑剤を、前述した範囲で添加することにより、延伸性が良好で、細繊度の未延伸糸を得ることができる。
なお、可塑剤の添加量が、樹脂全質量あたり15質量%未満の場合、紡糸口金から吐出された樹脂の流動性が低くなり、繊維径(太さ)を大きく変化させることが難しくなるため、細繊度の未延伸糸を安定して紡糸することが困難となることがある。一方、樹脂全質量あたり30質量%を超えて可塑剤を添加すると、逆に、紡糸口金から吐出された樹脂の流動性が高くなり過ぎるため、未延伸糸の繊度斑が大きくなるだけでなく、紡糸後の冷却において樹脂の固化が遅れるため、安定して紡糸することが困難になる傾向がある。
(冷却方法)
特許文献1に記載された方法のように、紡糸口金から吐出された高温の樹脂(未延伸糸)を徐冷冷却すると、冷却風の出口に近い糸と遠い糸の間で冷却斑が生じるため、未延伸糸に繊度斑が発生しやすくなる。また、糸の自重や冷却風による糸揺れも、紡糸された未延伸糸に繊度斑が発生する原因となる。このため、本実施形態の延伸繊維の製造方法では、紡糸工程において、紡糸口金から吐出された樹脂を急冷し、未延伸糸の形状を早急に固定することが好ましい。
具体的には、前述した方法で紡糸した未延伸糸を、筒状冷却装置により、急冷することが好ましい。冷却装置として、紡糸口金から紡出された多数の溶融糸条(未延伸糸)に、一定方向から冷却風を当てる装置(一方向(横向き)冷却装置)を用いた場合、風の吹き出し口に近い糸は急冷され、離れた糸は徐冷されるため、未延伸糸の冷却状態が不均一となり繊度斑が起こりやすい傾向にある。これに対して、紡糸口金から紡出された多数の溶融糸条(未延伸糸)に向けて、全周方向(360°)から冷却風を吹き出す筒状冷却装置(サーキュラー(円筒)冷却装置)を用いると、未延伸糸を均一に冷却することができる。
また、紡糸口金から紡出された多数の溶融糸条(未延伸糸)の中心部に、外側に向けて360°方向に冷却風を吹き出す装置(キャンドル(円柱)冷却装置)を配置し、内側から風を当てて冷却する方法もある。このような円柱冷却装置を用いる冷却方法を「外吹き冷却法」と呼び、前述した筒状冷却装置を用いる冷却法を「内吹き冷却法」と呼ぶ。
本実施形態の延伸繊維の製造方法においては、紡糸口金から紡出された溶融糸条(未延伸糸)が、紡糸引き取り装置によって高速で巻き取られることがある。このとき、未延伸糸は固化の途中であるため、随伴気流を生ずる領域より上流において、複数の未延伸糸の間を冷却風が通過するように、360°方向に対して又は360°方向から冷却風を吹き出す冷却装置を用いることが好ましい。特に、冷却時に溶融糸条(未延伸糸)と接触する虞がないことから、内吹き冷却を行う筒状冷却装置を用いることが好ましい。
その際、冷却風の風速は1〜10m/秒が好ましく、冷却効率や冷却風による糸揺れを考慮すると3〜7m/秒であることがより好ましい。また、冷却効率の観点から、冷却風の温度は10〜30℃であることが好ましい。このような条件で、筒状冷却装置により未延伸糸を急冷することにより、1紡糸あたりのフィラメント数が多い場合でも、繊度斑がなく細繊度の未延伸糸を安定して製造することができる。
(変動率)
前述した方法により得られる未延伸糸は、繊度斑を表す変動率を20%以下にすることができる。繊度斑が大きくなると、繊度の細い繊維が発生し、細い繊維は高倍率で延伸することができないため、最終的に得られる延伸糸繊度が太くなる。よって、本実施形態の延伸繊維の製造方法では、未延伸糸の変動率を20%以下にすることが好ましく、高倍率で延伸し、より極細な延伸繊維を製造するためには、変動率を10%以下にすることが好ましい。
[ステップS2:延伸工程]
延伸工程では、前述した紡糸工程で作製した繊度が1.0dTex以下の未延伸糸を延伸処理し、所定繊度の延伸繊維を得る。この延伸工程は、紡糸工程とは別に行ってもよいが、紡糸工程の後に連続して行ってもよい。紡糸工程で作製した未延伸糸を集めて合糸した後で延伸するという工程では、紡糸工程と延伸工程とを別工程で行うため、一旦紡糸した繊維(未延伸糸)を延伸工程で必要な繊維本になるまで待機する時間が発生する。一方、これらの工程を連続で行うと、このような待機時間が不要となるため、延伸する未延伸糸の時間経過に伴う結晶化の進行などによる内部状態が均一となる。その結果、これらを別工程で行う場合よりも、繊維間で延伸可能な最大倍率が揃うため、延伸繊維の繊度及び繊維物性がより均質化され、延伸工程の安定性が向上する。
また、延伸工程は、高温下で行うことが望ましく、これによって高倍率な延伸が可能となり、細繊度な延伸繊維が得られる。延伸工程での加熱延伸方法としては、高温加熱板との接触加熱延伸、遠赤外線などによる放射加熱延伸、温水加熱延伸、水蒸気加熱延伸などを適用することができる。これらの方法の中でも、加熱すべき繊維を比較的短時間のうちに高温まで加熱できることから、加圧飽和水蒸気中での延伸が好ましい。また、ステープルファイバーやチョップドストランドの生産に用いられるトウ延伸は、トータル繊度が大きい未延伸糸の集合体を延伸する必要があり、トウ内を均等にかつ短時間で加熱ができる点から、高圧な加圧飽和水蒸気加熱延伸が特に好ましい。
加圧飽和水蒸気中で延伸する場合、その条件は、特に限定されるものではないが、通常は110℃以上で行われる。加圧飽和水蒸気の温度が110℃未満の場合、高倍率延伸及び高速延伸を行う上で、前述した加圧飽和水蒸気中での延伸効果が十分に得られないことがある。また、加圧飽和水蒸気の温度は、結晶性プロピレン系重合体が溶融しない範囲であれば、高い方が基本的には好ましい。延伸倍率、延伸速度及び経済性などを考慮すると、この加圧飽和水蒸気の好ましい温度範囲は115〜160℃であり、より好ましくは120〜150℃である。
一方、延伸倍率は、未延伸糸の繊度に応じて適宜選択することができるが、通常は、全延伸倍率で2.0〜10.0倍であり、好ましくは2.0〜7.0倍である。また、延伸速度は、例えば20〜900m/分程度とすることができる。特に、紡糸工程と延伸工程を連続して行う場合は、生産性の観点から、より高速で行うことが好ましい。
前述した方法により製造された延伸繊維は、油剤処理や乾燥処理を経て、織布用として用いられる長繊維フィラメントの形態にすることができる。また、不織布用として用いられる形態とするために、延伸工程に引き続き油剤処理、捲縮加工処理及び乾燥処理を経て、ステープルファイバーにしてもよい。更に、油剤処理後に、乾燥処理を経て又は乾燥処理を経ずに短繊維に切断し、チョップドファイバーとすることもできる。
[延伸繊維]
前述した紡糸工程及び延伸工程を行うことにより、細繊度の延伸繊維が得られる。この延伸繊維は、繊度が0.2dTex以下、繊維強度が5.0cN/dTex以上であることが好ましい。これにより、電池セパレータなどの不織布に用いた場合、優れた特性を得ることができる。
本実施形態の延伸繊維の製造方法により得られる延伸繊維は、示差走査熱量計(DSC)により、昇温速度30℃/分で室温から250℃まで昇温し、融解熱量法により測定した結晶化度が35%以上であり、かつ、250℃まで昇温した後、降温速度を10℃/分にして室温まで降温したとき、125℃以上に結晶化に伴う発熱ピークを有する。即ち、本実施形態の延伸繊維は、250℃まで昇温して溶融した後、室温まで降温する間に、結晶化に伴う1又は2以上の発熱ピークが観察され、そのうち少なくとも1つのピークは、125℃以上の温度範囲にピークトップ温度(再結晶化温度)を有する。そして、結晶化度及び再結晶温度を前述した範囲にすることにより、延伸繊維の弾性率及び熱安定性が良好になる。
また、樹脂に、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが700〜1550g/10分のアイソタクチックポリプロピレン及びメタロセンポリプロピレンのうち少なくとも1種の可塑剤が、合計で15〜30質量%添加されている場合は、前述した延伸繊維の結晶化度を40%以上にすることができる。これにより、延伸繊維の弾性率及び熱安定性を更に向上させることができる。
ここで規定する延伸繊維の結晶化度は、DSCを用いて測定した延伸繊維の融解熱量から算出した値である。なお、結晶化度は、延伸繊維の主原料である結晶性プロピレン系重合体の1種であるアイソタクチックポリプロピレンの完全結晶における融解熱量文献値(209J/g)を結晶化度100%とし、アイソタクチックポリプロピレン換算値として算出した。また、延伸繊維の測定量は約8mgとし、室温から250℃まで、昇温速度30℃/分で、昇温走査した。
DSCを用いて樹脂の融点を測定する場合は、一般に、昇温速度は10℃/分に設定されるが、延伸物のような配向結晶化が生じているものの融解熱量を測定し、繊維に内在している結晶化度の差異を求める場合は、昇温速度が遅いと、昇温中に結晶化が進行し、測定前と異なる状態の融解熱量を測定することになる。そこで、本実施形態においては、昇温速度を30℃/分として測定し、その値から延伸繊維の結晶化度を算出した。
本実施形態の延伸繊維の製造方法では、紡糸口金から吐出される樹脂のメルトフローレートを特定の範囲にすると共に、樹脂に固化促進剤を配合しているため、1紡糸あたりのフィラメント数が多い場合でも、繊度斑がなく細繊度の未延伸糸を得ることができる。そして、この未延伸糸を延伸することにより、高強度で低熱収縮率の細繊度延伸糸を安定して製造することが可能となる。
また、生産効率を上げる目的から、吐出孔の数が1000ホール以上の多ホールを有する大径の紡糸口金(紡糸ノズル)を使用して紡糸する場合があるが、1紡糸あたりのフィラメント数が多くなるほど、未延伸糸の繊度斑が発生しやすくなる。一方、本実施形態の延伸繊維の製造方法は、未延伸糸の繊度斑を抑制することができるため、1紡糸あたりのフィラメント数が1000本以上の場合に特に有効であり、このような場合でも、高強度で低熱収縮率の細繊度延伸糸を安定して製造することが可能である。
更に、本実施形態の延伸繊維の製造方法により得られる繊維は、高強度及び低熱収縮率であるため、各種不織布用途、電池セパレータ及びフィルターなどの用途に好適に用いることができる。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記の方法及び条件で延伸繊維を製造し、その性能を評価した。
[樹脂]
(a)主原料(結晶性プロピレン重合体)
アイソタクチックポリプロピレン(MFR=60g/10分〔230℃、21.18N荷重〕、融点=161℃、再結晶化温度=110℃)
(b)結晶核剤
A:ジメチルベンジリデンソルビトール
B:リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブリルフェニル)アルミニウム塩
C:タルク(粒子径0.6μm)
(c)結晶性プロピレン重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体
ポリメチルペンテン(MFR=100g/10分〔260℃、49.0N荷重〕、融点=223℃、再結晶化温度=208℃)
(d)可塑剤
I:アイソタクチックポリプロピレン(MFR=700g/10分、Q値=2.4)。
II:メタロセン高MFR顆粒状ポリプロプレン(MFR=1550g/10分)と、パウダー状ポリプロピレン(MFR=40g/10分)とを、質量比で、80:20の割合でブレンドし、混練して作製したマスターバッチ(計算MFR=746g/10分)。
[評価・測定方法]
(1)単糸繊度
未延伸糸及び延伸糸の単糸繊度は、JIS L 1015に準じて測定した。
(2)MFR
原料ペレット及び紡糸口金から吐出された繊維状物について、JIS K 7210のA法により、MFRを測定した。その際の測定条件を以下に示す。
・主原料(結晶性プロピレン重合体):試験温度230℃、試験荷重21.18N。
・紡糸口金吐出後の繊維状物(樹脂):試験温度230℃、試験荷重21.18N。
・樹脂(ブレンド物):下記数式1及び数式2から求めた。なお、下記数式1,2におけるwは構成成分iの質量分画、MFRは構成要素iのメルトフローレート、nはブレンド中の構成成分の総数である。
(3)延伸倍率
単糸切れ、延伸切れ及びローラー巻き付きがなく、安定して延伸可能な最大延伸倍率を調べた。
(4)単糸強伸度ヤング率
JIS L 1015に準じて測定した。
(5)乾熱収縮率
JIS L 1015に準じて測定した。その際、熱処理温度は120℃とし、熱処理時間は10分間とした。
(6)延伸繊維の結晶化度
延伸繊維の結晶化度は、以下に示す手順で測定した。
i:測定用試料の準備
延伸繊維をエタノール:メタノール=2:1の混合液で洗浄した後、室温で3時間以上風乾燥して、付着油剤及び水分を除去した。
ii:吸熱量の測定
株式会社島津製作所製の示差走査熱量計(DSC−60)を用いて、iで準備した延伸繊維を8.0±0.3mgの質量範囲になるように秤量し、融解熱量測定用のアルミニウム製セル中に封入した。そして、窒素雰囲気下にて、昇温速度を30℃/分にして室温から250℃まで昇温し、延伸繊維の融解熱量ΔHPP(J/g)を算出した。
iii:結晶化度の算出
延伸繊維の結晶化度XPPC(%)は、iiで算出した融解熱量ΔHPPを用いて、下記数式3により算出した。なお、下記数式3におけるΔHPPCは、ポリプロピレンの完全結晶の融解熱量であり、本実施例においては、文献(J.Brandrup & E.H.Immergut:Polymer Handbook (2nd.Ed.),John Wiley & Sons,New York (1975) V-24.)に基づいて、209J/gとした。
(7)延伸繊維の再結晶化温度
延伸繊維の再結晶化温度は、以下に示す手順で測定した。
i:測定用試料の準備
延伸繊維をエタノール:メタノール=2:1の混合液で洗浄した後、室温で3時間以上風乾燥して、付着油剤及び水分を除去した。
ii:再結晶化温度の測定
株式会社島津製作所製の示差走査熱量計(DSC−60)を用いて、iで準備した延伸繊維を8.0±0.3mgの質量範囲になるように秤量し、融解熱量測定用のアルミニウム製セル中に封入した。そして、窒素雰囲気下にて、昇温速度を30℃/分にして室温から250℃まで昇温した後、降温速度を10℃/分にして室温まで降温し、結晶化に伴う発熱ピークを確認した。
(8)未延伸糸の繊度斑
未延伸糸を長さ方向に対して垂直に切断した断面を電子顕微鏡で撮影した。得られた写真から未延伸糸断面を任意に100本選択し、それらの直径を写真上で測定し平均値x(μm)を算出した。そして、未延伸糸直径の標準偏差をσとし、下記数式4より繊度斑を表す変動率CV(%)を算出した。
<実施例1>
(1)未延伸糸の作製
樹脂には、主原料(結晶性プロピレン重合体)に、可塑剤Iを20.0質量%、結晶核剤Aを0.2質量%添加したものを用いた。紡糸条件は、押出機シリンダー温度を267℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を200m/分とし、樹脂の吐出量及び紡糸後の冷却条件を調整することにより、繊度が0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。紡糸後の未延伸糸は、サーキュラー(円筒)冷却装置を用いて、風速:5m/秒、風温:20℃の条件で急冷した。
このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは98.9g/10分であった。図2は実施例1の未延伸糸の断面を示す顕微鏡写真である。図2に示すように、実施例1の未延伸糸は繊度が揃っており、未延伸糸の繊度斑を表す変動率も6.6%と、後述する比較例の未延伸糸に比べて低減していた。これは、樹脂に結晶核剤を添加したことにより、未延伸糸の結晶化温度が上昇して、紡糸工程の冷却が安定し、未延伸糸の繊度斑が低減したものと考えられる。
(2)延伸繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程が実施することができるように、3台のローラー間に蒸気延伸槽(1段目、常圧蒸気100℃)及び緊張熱処理槽(2段目、常圧蒸気100℃)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、まず紡糸工程で得た未延伸糸を、紡糸工程に連続して、導入ローラー(G1ローラー)速度200m/分で導入し、延伸繊維引き出しローラー(G2ローラー)の速度を増加させ、蒸気延伸槽(1段目、常圧蒸気100℃)にて延伸を行った。連続して、緊張熱処理引き出しローラー(G3ローラー)を延伸繊維引き出しローラー(G2ローラー)と同速で引き出し、緊張熱処理槽(2段目、常圧蒸気100℃)にて緊張熱処理した。
その結果、単糸切れ、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる速度は620m/分であり、全延伸倍率は3.10倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.160dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例1の延伸繊維は、DSCにより昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが104.7J/gであり、結晶化度は50.1%であった。また、実施例1の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、125.9℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:125.9℃)。
<実施例2>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを16.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更に結晶核剤Aを0.2質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは102.8g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は5.9%であった。
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は710m/分、全延伸倍率は3.55倍であり、実施例1よりも延伸性が向上していた。この実施例2では、可塑剤Iと共に配合されている高MFR成分(MFR=1550)を含む可塑剤IIが、延伸時に分子鎖のスリップ剤としての効果を発揮し、未延伸糸が急激な変形(高速度な延伸及び/又は高倍率な延伸)にも追従できるようになったため、延伸倍率が向上したと考えられる。
得られた延伸繊維は、繊度が0.139dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例2の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが107.6J/gであり、結晶化度は51.5%であった。また、実施例2の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.3℃)。
<実施例3>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを20.0質量%、結晶核剤Bを0.3質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは98.4g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.7%であった。
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は610m/分であり、全延伸倍率は3.05倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.162dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例3の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが104.0J/gであり、結晶化度は49.8%であった。また、実施例3の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、129.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:129.3℃)。
<実施例4>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを16.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更に結晶核剤Bを0.2質量%添加した原料を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは101.3g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.0%であった。
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は700m/分、全延伸倍率は3.50倍であり、前述した実施例3よりも延伸性が向上していた。この実施例4では、可塑剤Iと共に配合されている高MFR成分(MFR=1550)を含む可塑剤IIが、延伸時に分子鎖のスリップ剤としての効果を発揮し、未延伸糸が急激な変形(高速度な延伸及び/又は高倍率な延伸)にも追従できるようになったため、延伸倍率が向上したと考えられる。
この実施例4で得られた延伸繊維は、繊度が0.141dTexであり、十分な繊維物性を有していた。また、実施例4の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが106.8J/gであり、結晶化度は51.1%であった。更に、実施例4の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、129.8℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:129.8℃)。
<実施例5>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを20.0質量%添加すると共に、結晶核剤Cを0.3質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。その際、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは97.1g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.8%であった。
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は600m/分であり、全延伸倍率は3.00倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.165dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例5の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが102.8J/gであり、結晶化度は49.2%であった。また、実施例5の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、125.6℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:125.6℃)。
<実施例6>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを16.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更に結晶核剤Cを0.3質量%添加した原料を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは99.6g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.2%であった。
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は690m/分、全延伸倍率は3.45倍であり、前述した実施例5よりも延伸性が向上していた。この実施例6では、可塑剤Iと共に配合されている高MFR成分(MFR=1550)を含む可塑剤IIが、延伸時に分子鎖のスリップ剤としての効果を発揮し、未延伸糸が急激な変形(高速度な延伸及び/又は高倍率な延伸)にも追従できるようになったため、延伸倍率が向上したと考えられる。
また、得られた延伸繊維は、繊度が0.143dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例6の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが105.8J/gであり、結晶化度は50.6%であった。また、実施例6の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、125.9℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:125.9℃)。
<実施例7>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを11.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更に結晶核剤Aを0.2質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは92.6g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は9.1%であった。
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同様の方法及び条件で延伸処理を行った。単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は640m/分、全延伸倍率は3.20倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.155dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例7の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが102.6J/gであり、結晶化度は49.1%であった。また、実施例7の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.2℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.2℃)。
<実施例8>
(1)未延伸糸の作製
前述した実施例2と同じ樹脂を用いて、紡糸速度を150m/分にした以外は、実施例2と同様の方法及び条件で、繊度が0.60dTexの未延伸糸を紡糸した。その際、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは102.8g/10分であった。図3は実施例8の未延伸糸の断面を示す顕微鏡写真である。図3に示すように、実施例8の未延伸糸は繊度が揃っており、未延伸糸の繊度斑を表す変動率も5.9%と、後述する比較例の未延伸糸に比べて低減していた。
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)の速度150m/分にした以外は、実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は540m/分、全延伸倍率は3.60倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.183dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
この実施例8の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが101.8J/gであり、結晶化度は48.7%であった。また、実施例8の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.2℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.2℃)。
<実施例9>
(1)未延伸糸の作製
前述した実施例2と同じ樹脂を用いて、実施例2と同様の方法及び条件で、繊度が0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。なお、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFR及び未延伸糸の変動率も実施例2と同様である。
(2)延伸繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程が行えるように、3台のローラー間に予備延伸槽(1段目、常圧蒸気100℃)及び本延伸槽(2段目、加圧飽和水蒸気146℃)が連続して配置された2段延伸装置を用いた。そして、まず紡糸工程で得た未延伸糸を、紡糸工程に連続して、導入ローラー(G1ローラー)速度200m/分で導入し、予備延伸引き出しローラー(G2ローラー)速度680m/分の条件で、100℃の常圧蒸気で予備延伸処理した後、連続して延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の速度を増加させ、146℃の加圧飽和水蒸気中で2段目の本延伸を行った。
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる速度は840m/分、全延伸倍率は4.20倍となった。この実施例9では、加圧飽和水蒸気延伸(146℃)を用いているため、前述した実施例2よりも高倍率で延伸が可能であった。そして、得られた延伸繊維の繊度は、0.118dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
この実施例9の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが114.7J/gであり、結晶化度は54.9%であった。また、実施例9の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.3℃)。
<実施例10>
(1)未延伸糸の作製
前述した実施例2と同じ樹脂を用いて、実施例2と同様の方法及び条件で、繊度が0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。なお、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFR及び未延伸糸の変動率も実施例2と同様である。
(2)延伸繊維の作製
紡糸工程と延伸工程が別工程でそれぞれ独立しており、3台のローラー間に予備延伸槽(1段目、温水93℃)及び本延伸槽(2段目、加圧飽和水蒸気146℃)が連続して配置された2段延伸装置を用いた。本実施例では、先ず、(1)で得た未延伸糸を複数錘分合糸した後、直ちに、まとめたトウを導入ローラー(G1ローラー)速度10m/分の条件で引き出した。予備延伸引出しローラー(G2ローラー)速度23m/分の条件で、93℃の温水で予備延伸処理した後、連続して延伸繊維引出しローラー(G3ローラー)の速度を増加させ、146℃の加圧飽和水蒸気中で2段目の本延伸を行った。
その結果、単糸切れや延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は29m/分であり、全延伸倍率は2.90倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.171dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例10の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが117.2J/gであり、結晶化度は56.1%であった。また、実施例10の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.3℃)。
<実施例11>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを20.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更にポリプロピレンより高融点を有するオレフィン系重合体としてポリメチルペンテンを12.0質量%添加した樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。その際、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは114.5g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.5%であった。これは、再結晶化温度が208℃であるポリメチルペンテンが、再結晶化温度が110℃である主原料のアイソタクチックポリプロピレンよりも先に高い温度で固化したため、未延伸糸の形状が安定化し、繊度斑が低減したものと考えられる。
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は590m/分、全延伸倍率は2.95倍であった。また、得られた延伸繊維は、繊度が0.168dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例11の延伸繊維は、未延伸糸の繊度斑が小さいため、延伸可能な倍率を低下させる必要がなく、細繊度化が可能であった。
また、実施例11の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で250℃まで昇温し、測定した融解熱量ΔHPPは102.0J/gで、結晶化度は48.8%であった。更に、実施例11の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、207.8℃にポリメチルペンテンによる再結晶化に伴う発熱ピークが、110.2℃にアイソタクチックポリプロピレンによる再結晶化に伴う発熱ピークがそれぞれ観察された(再結晶化温度207℃及び110.2℃)。
<比較例1>
(1)未延伸糸の作製
樹脂に、主原料のみを用いた以外は、実施例1と同様の方法及び条件で未延伸糸を作製した。その結果、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂の溶融張力が高いため、安定紡糸可能な未延伸糸繊度は1.50dTexと太くなった。紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは69.6g/10分であった。また未延伸糸の繊度斑を表す変動率は21.2%と高かった。
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)速度を150m/分にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、延伸処理を行った。その結果、(1)で作製した未延伸糸は繊度斑が大きかったため、高い延伸倍率が掛けられず、延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は360m/分、全延伸倍率は2.40倍に留まった。そして、比較例1の延伸繊維は、十分な繊維物性を有していたが、繊度は0.688Texと太いものであった。
この比較例1の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが65.2J/g、結晶化度は31.2%であり、前述した各実施例よりも小さい値であった。また、比較例1の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、110.2℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:110.2℃)。
<比較例2>
(1)未延伸糸の作製
樹脂に主原料のみを用い、紡糸後に一方向(横向き)冷却装置により、風速:6m/秒、風温:20℃の条件で冷却した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で未延伸糸を作製した。その結果、一方向(横向き)冷却によって繊度斑が発生したため、安定紡糸可能な未延伸糸の繊度は2.00dTexと太くなった。また、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは69.6g/10分であり、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は30.7%と、前述した実施例に比べて高かった。これは、一定方向から冷却風を押し出す方法では、風の吹き出し口に近い糸は急冷されるが、離れた糸は徐冷されるため、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂の冷却状態が不均一となり、未延伸糸に繊度斑が発生したためと考えられる。
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)速度を150m/分とした以外は、実施例1と同様の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、未延伸糸の繊度斑が大きく、高い延伸倍率が掛けられなかったため、延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は345m/分であり、全延伸倍率も2.30倍に留まった。得られた延伸繊維のは、十分な繊維物性を有していたが、繊度が0.957dTexと太いものであった。
また、比較例2の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが61.9J/g、結晶化度は29.6%となり、前述した各実施例よりも小さい値であった。更に、比較例2の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、110.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:110.3℃)。
<比較例3>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを10.0質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、未延伸糸を作製した。その結果、比較例3は樹脂に固化促進剤が添加されていないため、実施例1に比べて、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂の繊度斑が大きく、安定紡糸可能な未延伸糸繊度は0.60dTexに留まった。また、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは84.5g/10分であった。図4は比較例3の未延伸糸の断面を示す顕微鏡写真である。図4に示すように、比較例3の未延伸糸は繊度にばらつきが見られ、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は24.1%と高かった。
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)の速度を150m/分にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は382.5m/分、全延伸倍率は2.55倍であった。得られた延伸繊維は、十分な繊維物性を有していたが、繊度は0.259dTexと太かった。比較例3では、繊度斑によって未延伸繊維に細い繊維が作られ、延伸倍率はこの一番細い未延伸糸の延伸性に基づき決定されるため、最大延伸倍率が低下し、結果として延伸繊維の繊度が太くなったものと考えられる。
また、この比較例3の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが70.4J/g、結晶化度は33.7%となり、前述した各実施例よりも小さい値であった。更に、比較例3の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、110.9℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:110.9℃)。
<比較例4>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤IIを10.0質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、未延伸糸を紡糸した。その結果、比較例4は樹脂に固化促進剤が添加されていないため、実施例1に比べて紡糸口金から吐出された繊維状樹脂の繊度斑が大きく、安定紡糸可能な未延伸糸繊度は0.60dTexに留まった。その際、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは85.1/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は23.8%と高かった。
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)の速度を150m/分にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は375m/分、全延伸倍率は2.50倍であった。得られた延伸繊維は、十分な繊維物性を有していたが、0.264dTexと太かった。比較例4では、繊度斑によって未延伸繊維に細い繊維が作られ、延伸倍率はこの一番細い未延伸糸の延伸性に基づき決定されるため、最大延伸倍率が低下し、結果として延伸繊維の繊度が太くなったものと考えられる。
また、この比較例4の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔHPPが71.9J/g、結晶化度は34.4%であり、前述した各実施例よりも小さい値であった。更に、比較例4の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、110.7℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:110.7℃)。
以上の結果を下記表1及び表2にまとめて示す。
上記表1及び表2に示すように、実施例1〜11の製造方法は、比較例1〜4の製造方法に比べて未延伸糸の繊度斑を大幅に低減することが可能であるため、1紡糸あたりのフィラメント数が多い場合でも、高強度で低熱収縮率の細繊度延伸糸を安定して製造できることが確認された。

Claims (11)

  1. 溶融紡糸により、結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂を紡糸して、繊度が1.0dTex以下の未延伸糸を得る紡糸工程と、
    前記未延伸糸を延伸処理する延伸工程と、を有し、
    前記樹脂は固化促進剤を含有し、
    前記紡糸工程では、紡糸口金から吐出された樹脂の230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートの範囲が、70〜200g/10分である延伸繊維の製造方法。
  2. 前記紡糸工程は、筒状冷却装置により、冷却風の風速が1〜10m/秒、冷却風の温度が10〜30℃の条件で、前記未延伸糸を急冷する請求項1に記載の延伸繊維の製造方法。
  3. 前記樹脂は、結晶性プロピレン系重合体としてアイソタクチックポリプロピレンを含有する請求項1又は2に記載の延伸繊維の製造方法。
  4. 前記樹脂には、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが700〜1550g/10分のアイソタクチックポリプロピレン及びメタロセンポリプロピレンのうち少なくとも1種の可塑剤が、合計で15〜30質量%添加されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の延伸繊維の製造方法。
  5. 前記樹脂は、前記固化促進剤として、結晶核剤を0.05〜1質量%又は前記結晶性プロピレン系重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体を1〜30質量%含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の延伸繊維の製造方法。
  6. 前記結晶核剤は、有機系造核剤である請求項5に記載の延伸繊維の製造方法。
  7. 前記結晶核剤が、リン酸エステル系金属塩又はジベンジリデンソルビトール系である請求項5又は6に記載の延伸繊維の製造方法。
  8. 前記オレフィン系重合体は、メチルペンテン重合体である請求項5に記載の延伸繊維の製造方法。
  9. 前記未延伸糸の繊度斑を表す変動率が20%以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載の延伸繊維の製造方法。
  10. 結晶性プロピレン系重合体を主成分とする樹脂からなり溶融紡糸された未延伸糸を延伸してなる延伸繊維であって
    記樹脂は固化促進剤を含有し、
    示差走査熱量計により、昇温速度30℃/分で室温から250℃まで昇温し、融解熱量法により測定した結晶化度が35%以上であり、かつ、250℃まで昇温した後、降温速度を10℃/分にして室温まで降温したとき、125℃以上に結晶化に伴う発熱ピークを有する延伸繊維。
  11. 前記樹脂には、230℃、21.18N荷重におけるメルトフローレートが700〜1550g/10分のアイソタクチックポリプロピレン及びメタロセンポリプロピレンのうち少なくとも1種の可塑剤が、合計で15〜30質量%添加されており、
    示差走査熱量計により、昇温速度30℃/分で室温から250℃まで昇温し、融解熱量法により測定した結晶化度が40%以上である請求項10に記載の延伸繊維。
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