JP6385246B2 - 平面導波路型レーザ装置 - Google Patents

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本発明は、平面導波路型レーザ装置に関するものである。
レーザ光源は、広色域・高寿命という特長を活かし、表示装置への用途展開が近年盛んに行われている。特に、二次元空間変調素子(例えば、デジタルマイクロミラーデバイス)との親和性の高さから、プロジェクタの次世代光源として定着しつつある。この赤、緑、青の光源として、900nm帯、1μm帯、1.3μm帯のレーザ光を基本波レーザ光とし、かつ、非線形材料を用いて第二高調波を発生(SHG:Second Harmonic Generation)する波長変換レーザが開発されている。その中でも、1μm帯の基本波レーザ光を用いた緑色波長変換レーザ装置は、同色の半導体レーザ装置に対し性能・製造性の両面において優れているため、緑用のレーザ光源として一般的である。
これらの波長変換レーザ装置を実現する方法として、例えば、特許文献1に開示された平面導波路型レーザ装置がある。特許文献1に開示された従来の平面導波路型レーザ装置は主に、励起用半導体レーザ素子、レーザ媒質および導波路型非線形材料素子の3要素から構成される。以下、レーザ媒質の光軸方向をz軸方向、レーザ媒質の厚さ方向をy軸方向、これらと垂直方向をx軸方向として説明する。レーザ媒質は、詳細には、直下にクラッドを有し、接合剤を介してヒートシンクと接合される。ヒートシンクは、x軸方向に沿って(m+1)個の櫛歯を備えた周期的な櫛構造を有する。ここで、mは励起用半導体レーザ素子の発光点数に相当する。
上記の構成からなる特許文献1に記載の平面導波路型レーザ装置の動作について述べる。レーザ媒質の一方の端面から入射した励起光はレーザ媒質で吸収され、内部で基本波レーザ光に対する利得を発生する。この利得により、基本波レーザ光は、レーザ媒質の一方の端面と導波路型非線形材料素子の一方の端面との間でレーザ発振し、導波路型非線形材料素子を通過する際に波長変換され、SHG光が導波路型非線形材料素子の一方の端面から出射される。
なお、レーザ媒質における基本波レーザ光は、レーザ媒質および導波路型非線形材料素子が薄い導波路構造で構成されるy軸方向では、導波路構造で選択されるモードで発振する。一方、y軸方向におけるレーザ発振は、レーザ媒質および非線形材料素子の幅が波長に対し十分大きいため、空間型の共振器を形成する。
このような構造では、レーザ媒質とヒートシンクが接していない領域の温度上昇が、レーザ媒質とヒートシンクが接している領域での温度上昇に対し大きくなる。このとき、例えばレーザ媒質の光学的特性がdn/dT>0(nはレーザ媒質の屈折率、Tはレーザ媒質の温度)の場合、同一波長の基本波レーザ光に対する屈折率が最も高くなるヒートシンクの櫛歯間の中心を光軸とした熱レンズが形成され、x軸方向に空間モードが形成される。
したがって、ヒートシンクにおけるx軸方向に沿った櫛パターンは、隣接する発振モードが干渉しない間隔を空けて配置されるため、それぞれ独立したm個の空間モードを櫛構造と同間隔に形成可能となる。さらに、基本波レーザ光の発振モードの間隔と、励起レーザ素子の対応する発光点の間隔とを等しくすることで、基本波レーザ光と励起光の重なり領域が最大化され、高効率な励起が可能となる。
特許第4392024号公報
従来の平面導波路型レーザ装置においては、適切な動作を行うために、ヒートシンクを熱伝導性の高い排熱部材、例えば主材料がCuからなるブロック等に接合してレーザ媒質を冷却する必要がある。これは、励起用半導体レーザ素子による励起光とレーザ媒質で発生する基本波レーザ光の光エネルギーの差分が、熱エネルギーとしてレーザ媒質内に生じるためである。レーザ媒質のうち、効率よく排熱が行われる端側が中心側よりも冷えるため、中心側は平坦だが端側で温度が下がる山型の温度分布が形成される。
従来の平面導波路型レーザ装置では、このヒートシンクから排熱部材への排熱で生じる温度分布が、上記のヒートシンクの周期的な熱レンズによって形成されるx軸方向の発振モードに悪影響を及ぼす。ヒートシンクから排熱部材への排熱で生じる温度分布と、ヒートシンクの櫛歯構造によって形成される温度分布を足し合わせた、レーザ媒質における温度分布について、レーザ媒質中心側に位置する櫛歯間の温度分布が、櫛歯中心に関して左右対称であるのに対し、端側に位置する櫛歯間の温度分布は、ヒートシンクから排熱部材で生じる温度分布の傾斜の影響で左右非対称となる。
この温度分布の左右非対称性によって、レーザ媒質の端側で形成される熱レンズの光軸が、それぞれの櫛歯間の中心からレーザ媒質の中心側に向かってシフトし、基本波レーザ光の発振モードの光軸と励起用半導体レーザ素子の光軸とでずれを生じる。これは励起光とレーザ媒質内の発振モード分布との重なり領域の減少、すなわち基本レーザ光の利得低下につながる。この基本波レーザ光の利得低下は、基本波レーザ光の出力低下、さらには導波路型非線形材料素子におけるSHG光出力の低下を招く。
そこで、本発明は、レーザ媒質の冷却に用いられる排熱部材によって生じる温度分布の非対称性を解消し、基本波レーザ出力、さらにSHG出力の高効率化を実現することが可能な平面導波路型レーザ装置を提供することを目的とする。
本発明に係る平面導波路型レーザ装置は、光軸に対して垂直方向に配置される複数の発光点を有する半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子が発するレーザ光に対する利得を発生するレーザ媒質と、前記光軸に対して垂直の前記レーザ媒質の厚さ方向に設けられる導波路構造と、前記レーザ媒質の厚さ方向の一面側に接合されるヒートシンクとを有する導波路型固体レーザ素子とを備え、前記ヒートシンクは、前記レーザ媒質との接合面に、前記光軸および前記レーザ媒質の厚さ方向に対して垂直方向に沿って設けられ、かつ、前記複数の発光点に対応する周期的な櫛構造を備え、前記櫛構造は、櫛歯の先端を前記レーザ媒質に接合して発生する温度分布と、当該温度分布によって生成される周期的な屈折率分布を、前記光軸および前記レーザ媒質の厚さ方向に対して垂直方向に形成し、前記導波路型固体レーザ素子のレーザ光は、前記レーザ媒質の厚さ方向に導波路モードを形成するとともに、前記光軸および前記レーザ媒質の厚さ方向に対する垂直方向に前記屈折率分布による空間モードを形成し、前記櫛構造において、前記光軸および前記レーザ媒質の厚さ方向に対して垂直方向における最端または当該最端から所定数以内の前記櫛歯の櫛幅が前記最端以外または前記最端から前記所定数以外の前記櫛歯の櫛幅よりも狭いものである。
本発明によれば、ヒートシンクは、レーザ媒質との接合面に、光軸およびレーザ媒質の厚さ方向に対して垂直方向に沿って設けられ、かつ、複数の発光点に対応する周期的な櫛構造を備え、櫛構造は、櫛歯の先端をレーザ媒質に接合して発生する温度分布と、当該温度分布によって生成される周期的な屈折率分布を、光軸およびレーザ媒質の厚さ方向に対して垂直方向に形成し、導波路型固体レーザ素子のレーザ光は、レーザ媒質の厚さ方向に導波路モードを形成するとともに、光軸およびレーザ媒質の厚さ方向に対する垂直方向に屈折率分布による空間モードを形成し、櫛構造において、光軸およびレーザ媒質の厚さ方向に対して垂直方向における最端または当該最端から所定数以内の櫛歯の櫛幅が最端以外または最端から所定数以外の櫛歯の櫛幅よりも狭い。
したがって、光軸およびレーザ媒質の厚さ方向に対する垂直方向の空間モードを形成する熱レンズにおいて発生する温度分布の非対称性を解消し、基本波レーザ出力およびSHG出力の高効率化を実現することができる。
実施の形態に係る平面導波路型レーザ装置の側面図である。 図1のA-A断面図である。 ヒートシンクの櫛歯の櫛幅による温度分布への影響を説明するための図である。 レーザ媒質に生じる温度分布を説明するための図である。 レーザ媒質に生じる温度分布を説明するための図である。 最適な櫛幅の設計例を説明するための図である。 前提技術に係る平面導波路型レーザ装置の側面図である。 図7のB-B断面図である。 ヒートシンクの動作を説明するための図である。 ヒートシンクの動作を説明するための図である。 レーザ媒質に生じる温度分布を説明するための図である。 レーザ媒質に生じる温度分布を説明するための図である。 レーザ媒質に生じる温度分布を説明するための図である。
<前提技術>
最初に、前提技術に係る平面導波路型レーザ装置100について説明する。図7は、前提技術に係る平面導波路型レーザ装置100の側面図である。図7に示すように、平面導波路型レーザ装置100は主に、励起用半導体レーザ素子101、レーザ媒質105および導波路型非線形材料素子107の3要素から構成される。図7において、レーザ媒質105の光軸方向106をz軸方向、レーザ媒質105の厚さ方向をy軸方向とし、z軸方向およびy軸方向と垂直な方向をx軸方向として説明する。
レーザ媒質105におけるy軸方向の一面にクラッド104が配置され、レーザ媒質105は、クラッド104に接合剤103を介してヒートシンク102と接合される。図8は、図7のB-B断面図である。図8に示すように、ヒートシンク102はx軸方向に沿って設けられた周期的な櫛構造を備え、櫛構造は(m+1)個の櫛歯を備える。ここで、mは励起用半導体レーザ素子101の発光点数に相当する。なお、それぞれの櫛歯の櫛幅は等しく、ここではwとする。また、レーザ媒質105の端面105aおよび導波路型非線形材料素子107の端面107bには、レーザ媒質105によって生じる基本波レーザ光を反射する全反射膜が配置され、さらにレーザ媒質105の端面105bおよび導波路型非線形材料素子107の端面107aには、基本波レーザ光の反射を抑制する反射防止膜が配置される。
次に、平面導波路型レーザ装置100の動作について説明する。レーザ媒質105の端面105aから入射した励起光はレーザ媒質105で吸収され、レーザ媒質105の内部で基本波レーザ光に対する利得を発生する。この利得によって、基本波レーザ光は、レーザ媒質105の端面105aと導波路型非線形材料素子107の端面107bとの間でレーザ発振する。そして、基本波レーザ光が導波路型非線形材料素子107を通過する際に波長変換され、SHG光が端面107bから出射される。
なお、レーザ媒質105における基本波レーザ光は、レーザ媒質105および導波路型非線形材料素子107が薄い導波路構造で構成されるy軸方向では、導波路構造で選択されるモードで発振する。一方、x軸方向におけるレーザ発振は、レーザ媒質105および導波路型非線形材料素子107の幅が波長に対し十分大きいため、空間型の共振器を形成する。
図9は、ヒートシンク102の動作を説明するための図であり、図8におけるヒートシンク102とレーザ媒質105の接合部を拡大した図である。図9においては、平面導波路型レーザ装置100を駆動した際の熱の流れを矢印201および矢印202で示している。また、同図に記載のグラフは、横軸がレーザ媒質105のx軸方向に対応し、縦軸がレーザ媒質105の温度上昇を表している。このような構造では、レーザ媒質105とヒートシンク102が接していない領域の温度上昇が、レーザ媒質105とヒートシンク102が接している領域での温度上昇に対し大きくなる。
この効果によってレーザ媒質105に生じる温度分布203を、図8の断面図に対応させた模式図が図10であり、図10は、ヒートシンク102の動作を説明するための図である。このとき、例えばレーザ媒質105の光学的特性がdn/dT>0(nはレーザ媒質105の屈折率、Tはレーザ媒質105の温度)の場合、同一波長の基本波レーザ光に対する屈折率が最も高くなるヒートシンク102の隣接する櫛歯間の中心(図10中の点線)を光軸とした熱レンズが形成され、x軸方向に空間モードが形成される。したがって、ヒートシンク102のx軸方向に沿った櫛パターンは、隣接する発振モードが干渉しない間隔を空けて配置されるため、それぞれ独立したm個の空間モードが櫛構造と同間隔に形成可能となる。さらに、基本波レーザ光の発振モードの間隔と、励起用半導体レーザ素子101の対応する発光点の間隔とを等しくすることで、基本波レーザ光と励起光の重なり領域が最大化され、高効率な励起が可能となる。
平面導波路型レーザ装置100においては、適切な動作を行うために、ヒートシンク102を熱伝導性の高い排熱部材、例えば主材料がCuからなるブロック等に接合してレーザ媒質105を冷却する必要がある。これは、励起用半導体レーザ素子101による励起光とレーザ媒質105で発生する基本波レーザ光の光エネルギーの差分が、熱エネルギーとしてレーザ媒質105内に生じるためである。
図11は、レーザ媒質105に生じる温度分布を説明するための図であり、ヒートシンク102から排熱部材108への排熱によって、レーザ媒質105のx軸方向に形成される温度分布204を示す。図11に示すように、レーザ媒質105のうち、効率よく排熱が行われる端側が中心側よりも冷えるため、中心側は平坦だが端側で温度が下がる山型の温度分布204が形成される。
平面導波路型レーザ装置100では、ヒートシンク102から排熱部材108への排熱で生じる温度分布204が、上記のヒートシンク102の周期的な熱レンズによって形成されるx軸方向の発振モードに悪影響を及ぼす。図12は、レーザ媒質105に生じる温度分布205を説明するための図である。より具体的には、図12は、ヒートシンク102から排熱部材108への排熱で生じる温度分布204と、ヒートシンク102の櫛歯構造によって形成される温度分布203を足し合わせた、レーザ媒質105における温度分布205を表す。
また、図13は、レーザ媒質105に生じる温度分布205を説明するための図である。より具体的には、図13は、温度分布205が温度分布203と温度分布204の足し合わせで形成されることを示す概念図である。温度分布205について、レーザ媒質105の中心側に位置する櫛歯間の温度分布が、櫛歯中心に関して左右対称であるのに対し、端側に位置する櫛歯間の温度分布は、ヒートシンク102から排熱部材108で生じる温度分布204の傾斜の影響で左右非対称となる。この温度分布の左右非対称性によって、レーザ媒質105の端側で形成される熱レンズの光軸が、それぞれの櫛歯間の中心からレーザ媒質105の中心側に向かってシフトする。これにより、基本波レーザ光の発振モードの光軸と励起用半導体レーザ素子101の光軸とでずれを生じる。これは励起光とレーザ媒質105内の発振モード分布との重なり領域の減少、すなわち基本レーザ光の利得低下につながる。この基本波レーザ光の利得低下は、基本波レーザ光の出力低下、さらには導波路型非線形材料素子107におけるSHG光出力の低下を招く。
本発明の平面導波路型レーザ装置においては、櫛構造を有するヒートシンクの櫛幅等を適切に設定することで、排熱部材によって生じる温度分布の非対称性を解消し、基本波レーザ出力、さらにはSHG出力の高効率化を実現している。
<実施の形態>
(構成)
本発明の実施の形態について、図面を用いて以下に説明する。図1は、本実施の形態に係る平面導波路型レーザ装置1の側面図である。図1に示すように、平面導波路型レーザ装置1は、励起用半導体レーザ素子2、導波路型固体レーザ素子3および導波路型非線形材料素子4を備える。なお、図1において、光軸方向9をz軸方向、レーザ媒質5の厚さ方向をy軸方向とし、z軸方向およびy軸方向と垂直な方向をx軸方向として説明する。
励起用半導体レーザ素子2は、x軸方向に沿って配置される複数の発光点を備え、例えば半導体レーザアレイである。導波路型固体レーザ素子3は、レーザ媒質5、クラッド6、接合剤7およびヒートシンク8を備える。クラッド6は、レーザ媒質5におけるy軸方向の一面に配置され、レーザ媒質5は、レーザ媒質5におけるy軸方向の一面側にヒートシンク8と接合される。より具体的には、レーザ媒質5は、クラッド6に接合剤7を介してヒートシンク8と接合される。導波路型固体レーザ素子3は、さらに導波路構造を備える。導波路構造は、導波路型固体レーザ素子3におけるy軸方向に設けられ、より具体的には、レーザ媒質5がy軸方向の一面側をクラッド6、それとは別の一面側を空気で挟まれることで形成されるスラブ型の導波路構造である。
レーザ媒質5の端面5aおよび導波路型非線形材料素子4の端面4bには、レーザ媒質5によって生じる基本波レーザ光を反射する全反射膜が配置され、さらにレーザ媒質5の端面5bおよび導波路型非線形材料素子4の端面4aには、基本波レーザ光の反射を抑制する反射防止膜が配置される。
導波路型非線形材料素子4は、例えばLiNbOまたはLiTaOなどの一般的な波長変換素子である。導波路型非線形材料素子4は、y軸方向に設けられる導波路構造を備え、導波路型固体レーザ素子3の出射光である基本波レーザ光の光軸上に配置される。
また、レーザ媒質5は、例えばNd:YAGまたはNd:YVOなどの一般的な固体レーザ材料、クラッド6は、レーザ媒質5よりも屈折率の低い材料、接合剤7は、光学接着剤または金属はんだ、ヒートシンク8は、例えばSiなどの熱伝導率の高い材料を用いることが望ましい。ここで、基本波レーザ光のレーザ媒質5である固体レーザ材料において、z軸方向に垂直な端面5aおよび端面5bの形状は例えば長方形であり、端面5aおよび端面5bは典型的には、y軸方向の厚さが数μmから数十μm、x軸方向の幅が数百μmから数mmの大きさを有する。なお、接合剤7は、クラッド6とヒートシンク8を直接接合する際には不必要となる。
図2は、図1のA-A断面図である。図2に示すように、ヒートシンク8は、x軸方向に沿って周期的な櫛構造を有する。櫛構造は、ヒートシンク8におけるレーザ媒質5との接合面に設けられ、複数の発光点に対応する。すなわち、接合剤7を介してクラッド6に接合される櫛歯部分と接合されずに空間をなす部分が周期的に繰り返される。ここで、櫛歯の数は前提技術と同様に(m+1)本であることが望ましい。なお、mは励起用半導体レーザ素子2の発光点数に相当する。
ヒートシンク8の櫛構造は、x軸方向における最端または当該最端から所定数以内の櫛歯の櫛幅w’が最端以外または最端から所定数以外の櫛歯の櫛幅wよりも狭い。実施の形態では、例えば、x軸方向の両端から数えてそれぞれ1番目からn番目の櫛歯の櫛幅w’が、それ以外の櫛歯の櫛幅wよりも狭い。さらに、隣接する櫛歯中心間の距離、すなわち、櫛歯のピッチΛがいずれの櫛歯間でも等しい。なお、ヒートシンク8の櫛歯の総本数をXとすると、nは1≦n<X/2を満たす整数であり、例えば、図2はX=11、n=2の場合に相当する。また、櫛幅w、w’および櫛歯のピッチΛは、典型的には、数十μmから数百μmの大きさを有する。
(動作)
次に、平面導波路型レーザ装置1の動作について説明する。図1と図2に示すように、平面導波路型レーザ装置1では、m個の発光点を有する励起用半導体レーザ素子2からのレーザ光(励起光)によってレーザ媒質5が励起され、レーザ媒質5の内部で基本波レーザ光に対する利得を発生する。この利得によって基本波レーザ光が発振に至る。なお、基本波レーザ光の共振器を構成する反射鏡は、レーザ媒質5の端面5aと端面5b間、端面5aと導波路型非線形材料素子4の端面4b間、または端面5aと端面4bの近傍に配置された波長選択素子などからなる。そして、基本波レーザ光が導波路型非線形材料素子4を通過する際に波長変換され、SHG光が端面4bから出射される。ここで、レーザ媒質5は吸収した励起光の一部が熱に変換されることで発熱するが、その熱を排熱するヒートシンク8がx軸方向に周期的な櫛構造を有するため、レーザ媒質5においてもx軸方向に周期的な温度分布が発生する。
図3は、ヒートシンク8の櫛歯の櫛幅による温度分布への影響を説明するための図である。より具体的には、図3は、レーザ媒質5とヒートシンク8の接合部分の拡大図であり、図3(a)は櫛幅が広い場合を示す図、図3(b)は櫛幅が狭い場合を示す図である。なお、図中の矢印は熱の流れを示す。図3(a),(b)に示すように、レーザ媒質5とヒートシンク8が接していない領域の温度上昇が、ヒートシンク8と接している領域での温度上昇に対し大きくなり、隣接する2本の櫛歯間の中心で最大となる。このヒートシンク8の櫛構造に起因するレーザ媒質5の温度分布は、図3(a)に示すように、櫛歯が幅広なほど温度上昇が小さく、図3(b)に示すように、櫛幅が狭いほど温度上昇が大きくなる。これはレーザ媒質5と接する櫛歯が幅広なほどヒートシンク8への排熱が促進されるためである。
以上のような周期的な温度分布が生成されるレーザ媒質5では、例えばレーザ媒質5の光学的特性がdn/dT>0(nはレーザ媒質5の屈折率、Tはレーザ媒質5の温度)の場合、基本波レーザ光に対する屈折率は、隣接する2本の櫛歯間の中心で最も高くなり、櫛歯の部分に近づくに従い低くなる。すなわち、温度分布と同じ屈折率分布となる。そのため、それぞれの櫛歯間の中心を光軸とした熱レンズが形成され、x軸方向に基本波レーザ光の空間モードが形成される。すなわち、m個の熱レンズがそれぞれの櫛歯間に形成される。このとき、櫛歯のピッチは、励起用半導体レーザ素子2におけるm本のレーザ光の光軸が、ヒートシンク8の櫛構造に起因して形成されるm個の熱レンズの光軸と一致するように定めることが望ましい。以上のように、x軸方向では基本波レーザ光は発振モードであるが、y軸方向では導波路型固体レーザ素子3はスラブ型の導波路構造を有するため、基本波レーザ光は導波路モードによって発振する。
なお、本実施の形態に係る平面導波路型レーザ装置1は、前提技術に係る平面導波路型レーザ装置100と同様、適切な動作を行うために、ヒートシンク8を熱伝導性の高い排熱部材10、例えば主材料がCuからなるブロック等に接合してレーザ媒質5を冷却する必要がある。なお、排熱部材10は、排熱性能およびヒートシンク8との接合容易性を考慮して、ヒートシンク8に対して十分大きいことが望ましい。
本実施の形態では、櫛構造において、x軸方向における最端または最端から所定数以内の櫛歯の櫛幅w’を、最端以外または最端から所定数以外の櫛歯の櫛幅wよりも狭くすることで、排熱部材10への接合時に発生する温度分布の非対称性を解消し、基本波レーザ光のx軸方向の空間モードを形成する熱レンズを左右対称にすることが可能となる。
図4は、レーザ媒質5に生じる温度分布13を説明するための図である。図5は、レーザ媒質5に生じる温度分布13を説明するための図であり、ヒートシンク8の周期的な櫛構造による温度分布11と、排熱部材10によって発生する温度分布12とを足し合わせることで、温度分布13が形成されることを示す概念図である。ヒートシンク8の周期的な櫛構造によって形成される温度分布11において、櫛幅の狭いx軸方向の端側は中心側よりも温度が高くなる。これはレーザ媒質5のx軸方向の端側は、櫛幅の狭い櫛歯と接合されることで、櫛幅の広い櫛歯と接合される中心側よりも櫛歯間の温度極大点が高くなるためである(図3(a),(b)参照)。温度分布11が、ヒートシンク8から排熱部材10への排熱によってレーザ媒質5に形成される山型の温度分布12と合わさることで、櫛歯間の中心(図4中の点線)に関して左右対称の温度分布13がレーザ媒質5に生成される。
図6は、最適な櫛幅の設計例を説明するための図であり、励起用半導体レーザ素子2の発光点数を15個、すなわちヒートシンク8の櫛歯数を16個として仮定した場合の、ヒートシンク8の櫛幅wおよびw’とレーザ媒質5の温度の関係を示す図である。図5の縦軸は、ヒートシンク8のそれぞれの櫛歯間中心付近を極大点とする温度分布のうち、レーザ媒質5端側の櫛歯間中心温度(端から数えて1本目と2本目の櫛歯間中心温度)と、レーザ媒質5中央の櫛歯間中心温度(端から数えて7本目と8本目の櫛歯間中心温度)の差分を表している。前提技術のヒートシンク102を模擬した構造、すなわち、w’/w=1の構造では、ヒートシンク102に接合された排熱部材10への排熱の影響でレーザ媒質105のx軸方向の端側と中心側に温度差が生じている。しかし、本実施の形態のヒートシンク8の端側の櫛幅w’を、例えば、w’/w=0.7を満たすような櫛幅にすることで、排熱部材によって生じる温度差が解消される。
本実施の形態では、図2に示すように、ヒートシンク8のx軸方向の両端から2本ずつの櫛歯の櫛幅w’のみ、それ以外の櫛歯の櫛幅wよりも狭くした例を示したが、本発明はこれに限らない。すなわち、両端から1本ずつ(最端)のみ、または両端から3本ずつのみ櫛歯の櫛幅を狭くするといった応用も可能である。何本の櫛歯の櫛幅を狭くするかという設計は、ヒートシンク8に接合した排熱部材によって生じる温度分布204(図11参照)の程度によって決めることが望ましい。なお、いずれの場合でも櫛歯のピッチが一定であるため、導波路型固体レーザ素子3の全長が変わることはない。
本実施の形態は、ヒートシンク8の櫛歯の櫛幅としてwとw’(w>w’)の2種類のみであったが、これ以外の場合でも本発明と同等の効果を得られる。例えば、隣接する櫛歯中心間の距離Λが一定であり、かつ、3種類の異なる櫛幅w1、w2およびw3(w1>w2>w3)を有する櫛歯からなるヒートシンク8を用いた場合であってもよい。この場合に、ヒートシンク8のx軸方向の端側から中心側に向かって櫛幅がw3、w2、w1と変化していくように櫛歯を配置してもよい。これにより、ヒートシンク8に接合した排熱部材によって生じる温度分布の改善を、一層高精度に行うことが可能となる。さらに4種類以上の異なる櫛幅を用いた場合も同様である。なお、いずれの場合でも櫛歯のピッチが一定であるため、導波路型固体レーザ素子3の全長が変わることはない。
(効果)
以上のように、実施の形態に係る平面導波路型レーザ装置1では、ヒートシンク8は、レーザ媒質5との接合面に、x軸方向に沿って設けられ、かつ、複数の発光点に対応する周期的な櫛構造を備え、櫛構造は、櫛歯の先端をレーザ媒質5に接合して発生する温度分布と、当該温度分布によって生成される周期的な屈折率分布を、x軸方向に形成し、導波路型固体レーザ素子3のレーザ光は、y軸方向に導波路モードを形成するとともに、x軸方向に屈折率分布による空間モードを形成し、櫛構造において、x軸方向における最端または当該最端から所定数以内の櫛歯の櫛幅が最端以外または最端から所定数以外の櫛歯の櫛幅よりも狭い。
したがって、x軸方向の空間モードを形成する熱レンズにおいて発生する温度分布の非対称性を解消し、基本波レーザ出力およびSHG出力の高効率化を実現することができる。
導波路型固体レーザ素子3の出射光の光軸上に、y軸方向に設けられる導波路構造を有する導波路型非線形材料素子4が配置されるため、導波路型固体レーザ素子3から出力される基本波レーザ光を導波路型非線形材料素子4に効率よく入力することができ、SHG出力の高効率化を実現することができる。
また、x軸方向の空間モードを形成する熱レンズにおいて発生する非対称性を解消することで、従来の平面導波路型レーザ装置において課題であった基本波レーザ光の光軸と励起用半導体レーザ素子の光軸とのずれが解消され、基本波レーザ光の発振モードと励起光の重なり領域が最大化される。その結果、基本波レーザ光に対する利得が改善することで、基本波レーザ光の高効率な発振動作が可能となる。また、導波路型非線形材料素子4からのSHG光についても高効率動作が可能となる。平面導波路型レーザ装置1の高効率動作化は、従来の平面導波路型レーザ装置を用いた場合よりも少ない装置数で所望の出力を賄えるため、レーザ光源を使用する装置(例えばレーザプロジェクタ)を製造する上でのコスト面のボトルネックであるレーザ光源の数の削減が可能となる。
また、高効率動作化によって従来の平面導波路型レーザ装置で得られていた所望の出力を、一層低パワーの励起光で得ることが可能となる。このことは、平面導波路型レーザ装置1の省電力化が可能となるだけでなく、励起用半導体レーザ素子2を低電流で駆動可能となるため、製造コスト面のボトルネックであるレーザ光源の長寿命化につながる。これにより、平面導波路型レーザ装置1におけるエネルギー消費量の削減および長期使用が可能となる。
一方、レーザ媒質の温度分布改善の手段としては、本実施の形態に示すヒートシンク8の櫛幅を端側で狭くするといった方法に限らない。例えば特許文献1に記載されているような、櫛幅はヒートシンクの中心側・端側に依らず一定のままとし、隣接する櫛歯の中心間の距離(櫛歯のピッチ)を変える方法がある。すなわち、ヒートシンクの端側の櫛歯ピッチを、中心側でのピッチΛよりも広いΛ’(Λ’>Λ)としてレーザ媒質との非接合領域を大きくすることで、レーザ媒質の端側の温度を中心側よりも高くし、ヒートシンクに接合された排熱部材によって形成される温度分布を解消することが可能である。
しかし、ピッチの狭い中心側とピッチの広い端側で、ヒートシンクの櫛歯中心に形成される熱レンズの光軸の間隔に差異が生じる。このような構造において基本波レーザ光と励起レーザ光の重なりを最大にするためには、励起用半導体レーザ素子の発光点ピッチを、ヒートシンクの櫛歯のピッチΛに合わせて同一バー内で複数のピッチを設けることが必要となるが、このような励起用半導体レーザ素子の設計は一般的に敬遠される。発光点間隔が変わることで、励起用半導体レーザ素子内の各発光点に対応する活性層温度のばらつきが大きくなり、特性のばらつき、例えば発振波長のばらつき等が生じるためである。また、ヒートシンクのx軸方向の全長が伸びることで材料コストの増大を招く。特に、ヒートシンク上のレーザ媒質は一般的に非常に高価であるため、このことのインパクトは大きい。
これに対し、本実施の形態に係る平面導波路型レーザ装置1では、ヒートシンク8の櫛歯のピッチΛがx軸方向に渡って一定になるように櫛幅を変更しているため、レーザ媒質5に発生する温度分布の周期もx軸方向に沿って一定となる。このような構造を採用することで、複数の発光点を有する励起用半導体レーザ素子2を簡易な構造にすることが可能であり、例えば、発光点がx軸方向に沿って一定のピッチを持つ半導体レーザアレイによって構成可能となる。以上により、励起用半導体レーザ素子2の製造コストを抑えることが可能となる。また、励起用半導体レーザ素子2を簡易な構造にすることで励起用半導体レーザ素子2の歩留まり向上、ひいては平面導波路型レーザ装置1の歩留まり向上を図ることが可能となる。
また、励起用半導体レーザ素子2の発光点のピッチを一定とすることができるため、発光点数の変更に際し、バーのカット位置の変更のみで対応可能となる。さらには、レーザ媒質5の温度分布の改善を行う上でヒートシンク8およびレーザ媒質5の全長は変化しないため、材料コストを抑えることが可能である。
なお、本発明は、その発明の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
1 平面導波路型レーザ装置、2 励起用半導体レーザ素子、3 導波路型固体レーザ素子、4 導波路型非線形材料素子、5 レーザ媒質、8 ヒートシンク。

Claims (2)

  1. 光軸に対して垂直方向に配置される複数の発光点を有する半導体レーザ素子と、
    前記半導体レーザ素子が発するレーザ光に対する利得を発生するレーザ媒質と、前記光軸に対して垂直の前記レーザ媒質の厚さ方向に設けられる導波路構造と、前記レーザ媒質の厚さ方向の一面側に接合されるヒートシンクとを有する導波路型固体レーザ素子と、
    を備え、
    前記ヒートシンクは、前記レーザ媒質との接合面に、前記光軸および前記レーザ媒質の厚さ方向に対して垂直方向に沿って設けられ、かつ、前記複数の発光点に対応する周期的な櫛構造を備え、
    前記櫛構造は、櫛歯の先端を前記レーザ媒質に接合して発生する温度分布と、当該温度分布によって生成される周期的な屈折率分布を、前記光軸および前記レーザ媒質の厚さ方向に対して垂直方向に形成し、
    前記導波路型固体レーザ素子のレーザ光は、前記レーザ媒質の厚さ方向に導波路モードを形成するとともに、前記光軸および前記レーザ媒質の厚さ方向に対する垂直方向に前記屈折率分布による空間モードを形成し、
    前記櫛構造において、前記光軸および前記レーザ媒質の厚さ方向に対して垂直方向における最端または当該最端から所定数以内の前記櫛歯の櫛幅が前記最端以外または前記最端から前記所定数以外の前記櫛歯の櫛幅よりも狭い、平面導波路型レーザ装置。
  2. 前記導波路型固体レーザ素子の出射光の光軸上に、前記レーザ媒質の厚さ方向に設けられる導波路構造を有する非線形材料素子が配置される、請求項1記載の平面導波路型レーザ装置。
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