JP6377997B2 - 正極複合材及びこれを用いた硫化物全固体電池 - Google Patents

正極複合材及びこれを用いた硫化物全固体電池 Download PDF

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Description

本発明は、正極複合材及びこれを用いた硫化物全固体電池に関する。
難燃性の固体電解質を用いた固体電解質層を有する金属イオン二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池等。以下において、固体電解質層を有するリチウムイオン二次電池を「全固体電池」と称することがある。)は、安全性を確保するためのシステムを簡素化しやすい等の長所を有している。
このような全固体電池に関する技術として、例えば特許文献1には、負極、電解質、及び正極からなり、電解質としてリチウムイオン伝導性固体電解質を用いた全固体リチウム電池において、リチウムイオン伝導性固体電解質が硫化物を主体としたものであり、正極活物質が、全固体リチウム電池の動作中にリチウム電極基準で3V以上の電位において酸化還元反応を示すものであり、かつ正極活物質の表面が実質的に電子伝導性を持たないリチウムイオン伝導性酸化物で被覆されて、該リチウムイオン伝導性酸化物が該正極活物質と該固体電解質との間に介在されている全固体リチウム電池が開示されている。この特許文献1には、正極活物質としてLiCoOやLiNi1/2Mn1/2等が開示され、リチウムイオン伝導性酸化物としてLiNbOやLi4/3Ti5/3やLiTaO等が開示されている。また、特許文献2には、リチウムイオン二次電池正極材料粉末と硫化物系固体電解質粉末とを含有するリチウムイオン二次電池正極合材粉末、を含有する正極と、固体電解質粉末を含有する電解質層と、を備えるリチウムイオン二次電池が開示されている。この特許文献2には、一般式Li1−yM’(XOで表わされる結晶を含む正極材料粉末が開示され、明細書の段落[0045]には、正極材料粉末はLiOやPを含むことが好ましいことが記載され、同段落[0049]には、さらにNb、B、またはGeOを添加してもよい旨、記載されている。また、特許文献3には、LiMO(MはMn、Co、Ni、Feのうちいずれか一種以上の遷移金属)を主成分とする正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層と、を有する薄膜固体二次電池が開示されている。この特許文献3には、固体電解質として、LiPO、LiO−Al−TiO−P系酸化物、LiO−Al−GeO−P系酸化物、LiO−La−TiO系酸化物、LiO−La−ZrO系酸化物が開示されている。また、特許文献4には、全固体リチウムイオン電池に関する技術が開示されている。この特許文献4の明細書の段落[0021]には、正極活物質の表面をリチウムイオン伝導性の酸化物系固体電解質で修飾しても良い旨、記載されており、修飾するイオン伝導性酸化物系固体電解質として、LiTi12等が例示されている。また、特願2013−178245号には、リチウムイオン伝導性を有する、LiO−P−Nb−B−GeO系ガラス電解質が開示されている。
特許第4982866号公報 特開2013−97892号公報 特開2013−62242号公報 特開2014−41720号公報
特許文献1に開示されている全固体リチウム電池は、容量(充電容量及び放電容量。以下において、充電容量及び放電容量をまとめて、単に「容量」と称することがある。)が低く、充放電効率も低い。特許文献1乃至特許文献4に開示されている技術を組み合わせても、容量及び充放電効率を高めた硫化物全固体電池(硫化物の固体電解質を用いた全固体電池。以下において同じ。)を得ることは困難であった。
そこで本発明は、硫化物全固体電池の容量及び充放電効率を高めることが可能な正極複合材、並びに、これを用いた硫化物全固体電池を提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、層状構造のLiNi0.5Mn0.5正極活物質の表面にLiO−P−Nb−B−GeOガラスを被覆することにより得られる正極複合材を用いることにより、硫化物全固体電池の充電容量、放電容量、及び、充放電効率を高めることが可能になることを知見した。本発明は、当該知見に基づいて完成させた。
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、層状構造のLiNi0.5Mn0.5正極活物質と、該正極活物質の表面を被覆するLiO−P−Nb−B−GeOガラスと、を有する、正極複合材である。
このような正極複合材を硫化物全固体電池の正極に用いることにより、硫化物全固体電池の充電容量、放電容量、及び、充放電効率を高めることが可能になる。したがって、本発明の第1の態様によれば、硫化物全固体電池の容量及び充放電効率を高めることが可能な、正極複合材を提供することができる。
本発明の第2の態様は、正極層及び負極層と、これらの間に配設された硫化物固体電解質層と、を有し、正極層に、上記本発明の第1の態様にかかる正極複合材が含まれている、硫化物全固体電池である。
本発明の第1の態様にかかる正極複合材は、硫化物全固体電池の容量及び充放電効率を高めることが可能である。したがって、本発明の第1の態様にかかる正極複合材を正極層に用いることにより、容量及び充放電効率を高めた硫化物全固体電池を提供することが可能になる。
本発明によれば、硫化物全固体電池の容量及び充放電効率を高めることが可能な正極複合材、並びに、これを用いた硫化物全固体電池を提供することができる。
本発明の正極複合材を説明する図である。 本発明の硫化物全固体電池を説明する図である。 実施例5の充放電試験結果を示す図である。
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されない。
1.正極複合材
図1は、本発明の一の実施形態にかかる正極複合材1を説明する断面図である。図1に示した正極複合材1は、層状構造のLiNi0.5Mn0.5正極活物質1aと、該正極活物質1aの表面を被覆するLiO−P−Nb−B−GeOガラス(以下において、LiO−P−Nb−B−GeOガラスを「Li−P−Nb−B−Geガラス」と称することがある。)1bと、を有している。
層状構造のLiNi0.5Mn0.5正極活物質1aは、これまでに用いられてきた層状構造の正極活物質であるLiCoOに比べて高い理論容量を示す。そのため、この正極活物質1aを用いることにより、硫化物全固体電池の高容量化を図ることが期待される。しかしながら、表面を被覆しないままの正極活物質1aを用いて作製した硫化物全固体電池は、容量及び充放電効率が低下しやすい。そこで、硫化物全固体電池の高容量化を図るために、正極活物質1aの表面に被覆層を形成することにより得られる正極複合材を用いる。ここで、層状構造の正極活物質であるLiCoOやLiNi1/3Mn1/3Co1/3の表面を被覆する被覆材として、LiNbOが知られている。しかしながら、正極活物質1aの表面をLiNbOで被覆した正極複合材を用いた硫化物全固体電池は、容量及び充放電効率の一方又は両方が低下しやすい。これに対し、正極活物質1aの表面をLi−P−Nb−B−Geガラス1bで被覆した正極複合材1を用いることにより、硫化物全固体電池の容量及び充放電効率を高めることが可能になる。
次に、Li−P−Nb−B−Geガラス1bの組成成分について説明する。以下の説明において、各成分の含有量は、酸化物基準のモル%で示す。ここで、「酸化物基準のモル%」とは、Li−P−Nb−B−Geガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、塩化物、アンモニウム塩、メタリン酸化合物等が溶融時にすべて分解されて酸化物の状態へと変化すると仮定して、Li−P−Nb−B−Geガラス中に含有される各成分の組成を表記する方法である。この生成酸化物の物質の総和を100mol%として、Li−P−Nb−B−Geガラス中に含有される各成分の物質量の割合を表記する。
以下、本明細書においては、特に明示しない限り、Li−P−Nb−B−Geガラスの構成成分の含有量を、酸化物基準のモル%で表記する。
LiO成分は、キャリアを提供しリチウムイオン伝導性の付与に必須の成分である。LiO成分の含有量が30%未満であると、リチウムイオン伝導性が発現しない、又はリチウムイオン伝導度が著しく小さくなる。そのため、LiO成分の含有量の下限は30%が好ましく、40%がより好ましく、45%が特に好ましい。また、LiO成分の含有量が65%を超えると、結晶化してリチウムイオン伝導性の低いLiPOが析出する等の結果、リチウムイオン伝導性の高いLi−P−Nb−B−Geガラスが得られにくくなる。そのため、LiO成分の含有量の上限は65%が好ましく、63%がより好ましく、59%が特に好ましい。
成分は、電気陰性度の差が大きく、リチウムイオンを可動イオンとする高イオン伝導体を得るのに好適なガラス形成成分であり、Li−P−Nb−B−Geガラスの形成に必須の成分である。P成分の含有量が5%未満であるとガラス化しにくくなる。そのため、P成分の含有量の下限は5%が好ましく、6%がより好ましく、7%が特に好ましい。また、P成分の含有量が40%を超えると、化学的安定性が減少し、且つ、さらに溶融温度が上昇する結果、所望の特性が得られにくくなる。そのため、P成分の含有量の上限は40%が好ましく、38.5%がより好ましく、35%が特に好ましい。
Nb成分は、ガラス形成に寄与し、ガラスの熱的安定性を増大させ、溶融温度を下げ、網目修飾酸化物の働きをもってガラスを形成しやすくし、さらにリチウムイオン伝導度を高めるために必要な成分である。Nb成分を含有させることにより、Li−P−Nb−B−Geガラス中にリチウム−酸素の結合の無いNbO6/2八面体構造が形成され、結果としてリチウム−酸素結合が低減するため、このような効果が得られると考えられる。また、Li−P−Nb−B−Geガラス中において、Nb成分は、網目形成酸化物であるPによる網目構造中にリチウムイオンがトラップされるのを防ぐことで、リチウムイオンの伝導パスを確保する効果を発揮する。これらの効果を十分に得るために、Nb成分の含有量の下限は1%であることが好ましく、2.5%であることがより好ましい。一方、Nb成分の含有量が20%を超えると、ガラスの安定性が低下して結晶化が促される。そのため、Nb成分の含有量の上限は20%とすることが好ましく、18%とすることがより好ましく、17.5%とすることが特に好ましい。
成分は、ガラスの形成に有用な成分であり、ガラスの溶融温度を下げ、化学的安定性を増大させ、粘性を下げる成分である。これらの効果を十分に得るために、B成分の含有量の下限は3%であることが好ましく、5%であることがより好ましい。一方、B成分の含有量が25%を超えると、結晶化が促され、且つ、リチウムイオンを高濃度に含むLi−P−Nb−B−Geガラスが得られにくくなり、リチウムイオン伝導度が低下する。そのため、B成分の含有量の上限は25%であることが好ましく、24.5%であることがより好ましく、24%であることが特に好ましい。
GeO成分は、ガラス化を容易にする成分であり、その含有量が0.2%未満であると、熱的安定性が低下する結果、ガラスが得られにくくなる。そのため、GeO成分の含有量の下限は0.2%であることが好ましく、0.3%であることがより好ましく、0.4%であることが特に好ましい。一方、GeO成分の含有量が7%を超えると、溶融温度の上昇を招き、且つ、リチウムイオンを高濃度に含むLi−P−Nb−B−Geガラスが得られにくくなる結果、リチウムイオン伝導度が低下する。そのため、GeO成分の含有量の上限は7%であることが好ましく、6%とすることがより好ましく、5%とすることが特に好ましい。
Li−P−Nb−B−Geガラスでは、Nb成分及びGeO成分の含有量の合計に対するLiO成分の含有量の比LiO/(Nb+GeO)が、2.0以上であることが好ましい。この比を2.0以上にすることにより、リチウムが高濃度に含まれ、且つ、Nb成分及びGeO成分の効果を最大限に利用できるため、リチウムイオン伝導度の高いLi−P−Nb−B−Geガラスを得ることができる。したがって、上記比LiO/(Nb+GeO)は、2.0以上であることが好ましく、2.3以上であることがより好ましく、2.5以上であることが特に好ましい。一方、上記比LiO/(Nb+GeO)が15よりも大きくなると、Nb成分の含有量が極端に低下し、Nb成分による効果が十分に得られなくなるため、リチウムイオン伝導度が極端に低下する。そのため、上記比LiO/(Nb+GeO)は、15以下であることが好ましく、14.5以下であることがより好ましく、14以下であることが特に好ましい。
Li−P−Nb−B−Geガラスには、上記成分に加えて、Ta成分やV成分を含有させることができる。これらの成分を含有させることにより、Nb成分と同様に、ガラスの熱的安定性を増大させ、網目修飾酸化物の働きをもってガラスを形成しやすくし、さらにリチウムイオン伝導度を高めることが可能になる。また、これらの成分は、網目形成酸化物であるPによる網目構造中にリチウムイオンがトラップされるのを防ぐことで、リチウムイオンの伝導パスを確保する効果を発揮する。しかしながら、これらの成分の含有量(何れか一方の成分のみが含有される場合には当該一方の成分の含有量。両方の成分が含有される場合には両方の成分の合計の含有量。以下において同じ。)とNb成分の含有量との合計が20%を超えると、ガラスの安定性が低下して結晶化が促され、且つ、溶融温度が上昇する。そのため、これらの成分の含有量の上限は、Nb成分の含有量をX%とするとき、20−X%とすることが好ましく、18.5−X%とすることがより好ましく、17.5−X%とすることが特に好ましい。
Li−P−Nb−B−Geガラスには、これらの成分以外にも、SiO、KO、CsO、MgO、CaO、BaO、ZnO、SnO、Y、Bi、TeO、Sb、Co、CuO、Fe等の成分を添加することができる。これらの成分の合計の添加量が5%を超えると、リチウムイオンを高濃度に含んだ高いリチウムイオン伝導度を有するLi−P−Nb−B−Geガラスが得られ難くなる。そのため、これらの成分の合計の添加量は5%以下にすべきである。また、Alも添加することができるが、同様の理由により、添加量は10%以下にすべきである。
Li−P−Nb−B−Geガラスの組成には、NaO成分は可能な限り含まないことが好ましい。この成分がガラス中に存在すると、アルカリイオンの混合効果によって、リチウムイオンの伝導が阻害されて伝導度が下がりやすくなる。また、Li−P−Nb−B−Geガラスの組成に硫黄や塩素が含まれると、リチウムイオン伝導性は少し向上するものの、化学的耐久性や安定性が悪くなるため、可能な限り含まないことが好ましい。Li−P−Nb−B−Geガラスの組成には、環境や人体に対して害を与える可能性のあるPb、As、Cd、Hg等の成分も可能な限り含まないことが好ましい。さらに、希少金属酸化物であるLaに代表されるランタノイド、Acに代表されるアクチノイド、Ru、Co、Ir、In、Se、Hf等の成分は、コスト高を招く可能性があるため、この観点を考慮して、含有の有無や含有量を決めることが好ましい。Li−P−Nb−B−Geガラスにおいては、その性質から結晶化が促進されるため、Sr、Mn、Ni、Zr等の成分も可能な限り含まないことが好ましい。
Li−P−Nb−B−Geガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を、石英坩堝、アルミナ坩堝、又は、白金坩堝に入れる。その後、1000〜1450℃の温度範囲で0.5〜4時間に亘って溶融して撹拌均質化を行う。次いで、成形型にキャストして徐冷、又は、金型にてプレス成型、又は、5〜25℃の水中にキャストする等の方法により、作製することができる。
Li−P−Nb−B−Geガラスのリチウムイオン伝導度は、好ましくは5.00×10−8(S/cm)、より好ましくは6.40×10−8(S/cm)、特に好ましくは7.00×10−8(S/cm)を下限とする。これにより、全固体電池に好適に利用することができる。Li−P−Nb−B−Geガラスのリチウムイオン伝導度を高めることにより、全固体電池の性能を向上させることが可能になる。
Li−P−Nb−B−Geガラスの溶融温度は1350℃以下であり、より好ましい態様では1325℃以下、特に好ましい態様では1300℃以下である。Li−P−Nb−B−Geガラスの溶融温度は、950℃まで得ることが可能である。ここで、「ガラスの溶融温度」とは、ガラスの原料粉体を加熱した時に、原料粉体が融液となり、融液面及び融液内部に、未溶融の原料粉体及び原料粉体から生成された固形物(以下において、「融け残り」と称する。)が無くなる温度である。融液面より上部の坩堝の内壁に固形物が付着していても、それらは無視する。ただし、ガラスの溶融温度の直接的な測定は困難な場合には、原料粉体を昇温しながら加熱し、50℃又は25℃刻みで観察し、目視で融液面及び融液内部に融け残りが観察されなくなった温度を、ガラスの溶融温度とすることができる。
Li−P−Nb−B−Geガラスは、リチウムを高濃度に含有し、高いリチウムイオン伝導度を有しながらも、化学的、熱的に安定であり、大気中及び水中において、目視で著しいガラスの変質は見られない。
正極活物質1aと該正極活物質1aの表面を被覆しているLi−P−Nb−B−Geガラス1bとを有する正極複合材1は、例えば以下のように作製される。まず、公知の方法で作製する等により、正極活物質1aを準備する。その後、正極活物質1aの表面を、Li−P−Nb−B−Geガラス1bによって被覆する。正極活物質1aの表面を、Li−P−Nb−B−Geガラス1bによって被覆する際の具体的な方法としては、転動流動コーティング法、メカノフュージョン法、CVD法、およびPVD法等の方法を例示することができる。
図1には、正極活物質1aの全表面がLi−P−Nb−B−Geガラス1bによって被覆されている正極複合材1を示したが、本発明の正極複合材は当該形態に限定されない。本発明の正極複合材は、正極活物質の表面の少なくとも一部がLi−P−Nb−B−Geガラスによって被覆されていれば良い。ただし、硫化物全固体電池の容量及び充放電効率を高めやすい正極複合材を得る観点から、正極活物質の全表面に占める、Li−P−Nb−B−Geガラスによって被覆されている部分の割合は、高ければ高いほど好ましく、正極活物質の全表面がLi−P−Nb−B−Geガラスによって被覆されていることが特に好ましい。正極活物質の表面を被覆しているLi−P−Nb−B−Geガラスは、例えばX線光電子分光法(XPS分光装置)によって確認することができる。
本発明において、正極活物質1aの表面を被覆しているLi−P−Nb−B−Geガラス1bの厚さは、特に限定されない。Li−P−Nb−B−Geガラス1bの厚さは、本発明の上記効果を奏しやすい形態にする観点からは、1nm以上とすることが好ましく、2nm以上とすることがより好ましく、5nm以上とすることが特に好ましい。一方、リチウムイオンの伝導経路の長さを短くすることによって硫化物全固体電池の性能を高めやすい形態にする等の観点からは、Li−P−Nb−B−Geガラス1bの厚さを薄くすることが好ましい。Li−P−Nb−B−Geガラス1bの厚さは、100nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがより好ましく、20nm以下とすることが特に好ましい。
2.硫化物全固体電池
図2は、本発明の硫化物全固体電池10を説明する図である。図2では、硫化物全固体電池10を簡略化して示しており、端子や外装材等の記載を省略している。図2に示した硫化物全固体電池10は、正極集電体11と、該正極集電体11に接続された正極層12と、負極集電体15と、該負極集電体15に接続された負極層14と、正極層12及び負極層14の間に配設された硫化物固体電解質層13と、を有している。
正極集電体11は、正極層12に接続された導電体である。正極集電体11には、硫化物全固体電池の正極側の集電体として使用可能な公知の金属を用いることができる。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、Inからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。正極集電体11の形状は特に限定されず、例えば、上記金属材料によって形成された箔等を用いることができる。
正極層12は、少なくとも正極複合材1を含む層である。正極層12には、正極複合材1に加え、必要に応じて、硫化物固体電解質、導電材、バインダー等を適宜含有させることができる。
正極層12に含有される正極複合材1の形状は、例えば粒子状や薄膜状等にすることができる。正極複合材1が粒子状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば1nm以上100μm以下であることが好ましく、10nm以上30μm以下であることがより好ましい。また、正極層12における正極複合材1の含有量は、特に限定されないが、質量%で、例えば40%以上99%以下とすることが好ましい。
正極層12に含有させることが可能な硫化物固体電解質としては、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−P、LiS−P、LiPS等を例示することができる。
また、正極層12に含有させることが可能な導電材としては、気相成長炭素繊維、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料のほか、硫化物全固体電池の使用時の環境に耐えることが可能な金属材料を例示することができる。
また、正極層12に含有させることが可能なバインダーとしては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を例示することができる。
上記正極複合材1、硫化物固体電解質、及び、バインダー等を液体に分散して調整したスラリー状の正極組成物を用いて正極層12を作製する場合、使用可能な液体としてはヘプタン等を例示することができ、無極性溶媒を好ましく用いることができる。また、正極層12の厚さは、例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。また、硫化物全固体電池10の性能を高めやすくするために、正極層12はプレスする過程を経て作製されることが好ましい。本発明において、正極層12をプレスする際の圧力は、例えば100MPa程度とすることができる。
硫化物固体電解質層13は、少なくとも硫化物固体電解質を含有する層であり、硫化物固体電解質に加えて、バインダーを適宜含有させることができる。硫化物固体電解質層13に含有させることが可能な硫化物固体電解質としては、正極層12に含有させることが可能な上記硫化物固体電解質を例示することができる。また、硫化物固体電解質層13に含有させることが可能なバインダーとしては、正極層12に含有させることが可能な上記バインダーを例示することができる。ただし、硫化物全固体電池10の高出力化を図りやすくするために、硫化物固体電解質の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された硫化物固体電解質を有する硫化物固体電解質層13を形成可能にする等の観点から、硫化物固体電解質層13にバインダーを含有させる場合、その含有率は5質量%以下とすることが好ましい。また、液体に上記硫化物固体電解質等を分散して調整したスラリー状の硫化物固体電解質組成物を正極層や負極層等の基材に塗布する過程を経て硫化物固体電解質層13を作製する場合、硫化物固体電解質等を分散させる液体としては、ヘプタン等を例示することができ、無極性溶媒を好ましく用いることができる。硫化物固体電解質層13における硫化物固体電解質の含有量は、質量%で、例えば60%以上、中でも70%以上、特に80%以上であることが好ましい。硫化物固体電解質層13の厚さは、電池の構成によって大きく異なるが、例えば、0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。また、硫化物全固体電池10の性能を高めやすくするために、硫化物固体電解質層13はプレスする過程を経て作製されることが好ましい。本発明において、硫化物固体電解質層13をプレスする際の圧力は、例えば100MPa程度とすることができる。
負極層14は、少なくとも負極活物質を含む層である。負極層14には、負極活物質に加え、必要に応じて、硫化物固体電解質、導電材、バインダー等を適宜含有させることができる。
負極層14に含有させることが可能な負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な公知の負極活物質を適宜用いることができる。そのような負極活物質としては、例えば、カーボン活物質、酸化物活物質、及び、金属活物質等を挙げることができる。カーボン活物質は、炭素を含有していれば特に限定されず、例えばグラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。酸化物活物質としては、例えばNb、LiTi12、SiO等を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、Si、及び、Sn等を挙げることができる。また、負極活物質として、リチウム含有金属活物質を用いても良い。リチウム含有金属活物質としては、少なくともLiを含有する活物質であれば特に限定されず、Li金属であっても良く、Li合金であっても良い。Li合金としては、例えば、Liと、In、Al、Si、及び、Snの少なくとも一種とを含有する合金を挙げることができる。負極活物質の形状は、例えば粒子状、薄膜状等にすることができる。負極活物質が粒子状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば1nm以上100μm以下であることが好ましく、10nm以上30μm以下であることがより好ましい。また、負極層14における負極活物質の含有量は、特に限定されないが、質量%で、例えば40%以上99%以下とすることが好ましい。
負極層14に含有させることが可能な硫化物固体電解質としては、正極層12に含有させることが可能な上記硫化物固体電解質を例示することができる。また、負極層14に含有させることが可能なバインダーとしては、正極層12に含有させることが可能な上記バインダーを例示することができる。
また、液体に上記負極活物質等を分散して調整したスラリー状の負極組成物を用いて負極層14を作製する場合、負極活物質等を分散させる液体としては、ヘプタン等を例示することができ、無極性溶媒を好ましく用いることができる。また、負極層14の厚さは、例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。また、硫化物全固体電池10の性能を高めやすくするために、負極層14はプレスする過程を経て作製されることが好ましい。本発明において、負極層14をプレスする際の圧力は、例えば100MPa程度とすることができる。
負極集電体15は、負極層14に接続された導電体である。負極集電体15には、硫化物全固体電池の負極側の集電体として使用可能な公知の金属を用いることができる。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、Inからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。負極集電体15の形状は特に限定されず、例えば、上記金属材料によって形成された箔等を用いることができる。
硫化物全固体電池10は、例えば、ラミネートフィルム等の外装材に包まれた状態で、使用される。このラミネートフィルムとしては、硫化物全固体電池で使用可能な公知のラミネートフィルムを用いることができる。そのようなラミネートフィルムとしては、樹脂製のラミネートフィルムや、樹脂製のラミネートフィルムに金属を蒸着させたフィルム等を例示することができる。
硫化物全固体電池10は、例えば、以下のような過程を経て、作製することができる。正極層12は、例えば、上記スラリー状の正極組成物を正極集電体11の表面に塗布し乾燥した後、適宜プレスする過程を経て、作製することができる。また、硫化物固体電解質層13は、例えば、硫化物固体電解質の粒子をプレスする過程を経て、作製することができる。また、負極層14は、例えば、上記スラリー状の負極組成物を負極集電体15の表面に塗布し乾燥した後、適宜プレスする過程を経て、作製することができる。このようにして、正極層12、硫化物固体電解質層13、及び、負極層14を作製したら、正極層12と負極層14との間に硫化物固体電解質層13が配置されるように、これらを積層した後、プレスする過程を経ることにより、硫化物全固体電池10を作製することができる。
上述のように、硫化物全固体電池10は、正極複合材1を含む正極層12を備えている。正極複合材1は、硫化物全固体電池の容量及び充放電効率を高めることが可能なので、本発明によれば、容量及び充放電効率を高めることが可能な、硫化物全固体電池10を提供することができる。
実施例を参照しつつ、本発明について、さらに説明を続ける。
(1)試料作製
<実施例1>
転動流動コーティング装置(パウレック社製)を用いて、層状構造のLiNi0.5Mn0.5正極活物質の表面に、Li−P−Nb−B−Geガラス(LiO−P−Nb−B−GeO系ガラス電解質)を、厚さが約10nmとなるように被覆することにより、正極複合材を作製した。その後、作製した正極複合材を、大気中、500℃で20時間に亘って熱処理を行った。次に、熱処理後の正極複合材と、LiS−P系硫化物固体電解質と、導電材のカーボンとを、体積比率で、正極複合材:硫化物固体電解質:導電材=30:70:5となるように秤量し、これらを混合することにより、正極合材を作製した。このようにして作製した正極合材を用いて、正極層を作製した。さらに、LiS−P系硫化物固体電解質を用いて硫化物固体電解質層を作製し、グラファイトを用いて負極層を作製し、これらを用いて硫化物全固体電池を作製した。そして、作製した硫化物全固体電池に対し、充放電測定試験を行った。充放電測定は、25℃で4.9V−0.9Vの範囲で測定し、1/10Cレートで定電流試験をした後、1/100Cレートとなる電流値を終止条件とした。
<実施例2>
充放電測定条件の充電終止電圧を5.4Vに変更したことを除き、実施例1と同じ条件で試験を行った。
<実施例3>
充放電測定条件の充電終止電圧を5.9Vに変更したことを除き、実施例1と同じ条件で試験を行った。
<実施例4>
充放電測定条件の評価温度を60℃に変更したことを除き、実施例1と同じ条件で試験を行った。
<実施例5>
充放電測定条件の充電終止電圧を5.4Vに変更したことを除き、実施例4と同じ条件で試験を行った。
<実施例6>
充放電測定条件の充電終止電圧を5.9Vに変更したことを除き、実施例4と同じ条件で試験を行った。
<比較例1>
コート剤を被覆しない正極活物質を用いたことを除き、実施例5と同じ条件で試験を行った。
<比較例2>
コート剤にLiNbOを用いたことを除き、実施例2と同じ条件で試験を行った。
<比較例3>
コート剤にLiNbOを用いたことを除き、実施例5と同じ条件で試験を行った。
<比較例4>
正極活物質にスピネル構造のLiNi0.5Mn1.5を用いたことを除き、実施例1と同じ条件で試験を行った。
(2)結果
実施例1乃至実施例6、及び、比較例1乃至比較例4の、試験条件及び試験結果を、表1に示す。また、実施例5の充放電測定試験結果を図3に示す。なお、表1に示した充放電効率(%)は、100×初回放電容量/初回充電容量により算出した値である。
また、参考までに、従来技術(特開2014−41720号公報)の充放電測定試験結果を表2に示す。上記実施例及び比較例とは異なる結果であることを明確にするため、表2では、「参考例」という表現を使用した。なお、上記実施例の結果との比較を容易にするため、表2には、充放電効率=100×放電容量/充電容量の値を追加した。
表1に示したように、層状構造のLiNi0.5Mn0.5正極活物質と、該正極活物質の表面を被覆するLiO−P−Nb−B−GeOガラスと、を有する、本発明の正極複合材を用いた実施例1乃至実施例6(本発明の硫化物全固体電池)は、充電容量及び放電容量が高く、充放電効率が高かった。例えば、充放電試験温度及び充電終止電圧の条件が同じであった実施例2と比較例2とを比べると、実施例2の充電容量及び放電容量は、比較例2の充電容量及び放電容量よりも2割以上増大した。また、充放電試験温度及び充電終止電圧の条件が同じであった実施例5と比較例3とを比べると、実施例5の充電容量及び放電容量は、比較例3の充電容量及び放電容量よりも2割以上増大し、且つ、実施例5の充放電効率は比較例3の充放電効率よりも17%程度高かった。
また、表1に示したように、本発明の硫化物全固体電池(実施例1乃至実施例6)は、充放電試験温度や充電終止電圧を変化させても、高い充放電効率を維持した。この結果から、本発明の正極複合材を用いた本発明の硫化物全固体電池では、厳しい条件で電池を使用した場合であっても、SEI(Solid Electrolyte Interphase)生成等の副反応が抑制されていると考えられる。
また、表1に示したように、本発明の硫化物全固体電池は、どの条件でも85%以上の充放電効率が得られており、従来技術よりも充放電効率を向上させることができた。
1…正極複合材
1a…層状構造のLiNi0.5Mn0.5正極活物質
1b…LiO−P−Nb−B−GeOガラス
10…硫化物全固体電池
11…正極集電体
12…正極層
13…硫化物固体電解質層
14…負極層
15…負極集電体

Claims (2)

  1. 層状構造のLiNi0.5Mn0.5正極活物質と、
    該正極活物質の表面を被覆するLiO−P−Nb−B−GeOガラスと、
    を有し、
    前記Li O−P −Nb −B −GeO ガラスのLi O成分の含有量が30モル%以上65モル%以下である、
    硫化物全固体電池用正極複合材。
  2. 正極層及び負極層と、これらの間に配設された硫化物固体電解質層とを有し、
    前記正極層に、請求項1に記載の正極複合材が含まれている、硫化物全固体電池。
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