本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をA〜Bと表記した場合、その数値範囲に下限Aおよび上限Bの値は含まれるものとする。
〔表示装置の構成〕
図1は、本実施形態の表示装置10の概略の構成を示す断面図である。表示装置10は、表示セル11の一方の面側に偏光板12を配置して構成されている。表示セル11は、液晶表示パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機EL(OLED:Organic light-Emitting Diode)ディスプレイで構成することができる。LCDやOLEDは、マトリクス状に配置される複数の画素を有しており、各画素の駆動をTFT(Thin Film Transistor)などのスイッチング素子によってON/OFFすることにより、表示を行う。
なお、表示セル11がLCDの場合、表示セル11は、一対の基板で液晶層を挟持した液晶セルを考えることができる。なお、液晶セルに対して偏光板12とは反対側には、偏光板12とクロスニコル状態で配置される別の偏光板と、液晶セルを照明するバックライトとが設けられるが、図1では、それらの図示を省略している。表示セル11がOLEDディスプレイの場合の詳細な構成については後述する。
また、表示装置10は、偏光板12に対して表示セル11とは反対側に、フロントウィンドウ13を有している。フロントウィンドウ13は、表示装置10の外装カバーとなるものであり、例えばカバーガラスで構成されている。フロントウィンドウ13と偏光板12との間には、例えば紫外線硬化型樹脂からなる充填材14が充填されている。充填材14がない場合は、フロントウィンドウ13と偏光板12との間に空気層が形成されるため、フロントウィンドウ13および偏光板12と空気層との界面での光の反射により、表示画像の視認性が低下する場合がある。しかし、上記の充填材14により、フロントウィンドウ13と偏光板12との間に空気層が形成されないため、上記界面での光の反射による表示画像の視認性の低下を回避することができる。
偏光板12は、所定の直線偏光を透過する偏光子21を有している。偏光子21の一方の面側(表示セル11とは反対側)には、接着層22を介して、λ/4フィルム23と、紫外線硬化型樹脂からなる硬化層24とがこの順で積層されている。また、偏光子21の他方の面側(表示セル11側)には、接着層25を介して保護フィルム26が貼り合わされている。
偏光子21は、例えばポリビニルアルコールフィルムを二色性色素で染色し、高倍率延伸することで得られるものである。偏光子21は、アルカリ処理(鹸化処理ともいう)された後、一方の面側にλ/4フィルム23が接着層22を介して貼り合わされ、他方の面側に保護フィルム26が接着層25を介して貼り合わされる。
偏光子21の厚さをBμmとすると、偏光板12の薄型化の観点から、
1μm<B≦20μm
であることが望ましく、
1μm<B≦15μm
であることがさらに望ましい。
接着層22・25は、例えばポリビニルアルコール接着剤(PVA接着剤、水糊)からなる層であるが、紫外線硬化型の接着剤(UV接着剤)からなる層であってもよい。これらの接着剤は、接着面に塗布する状態では液体であり、塗布後に乾燥または紫外線照射によって硬化することで、2者を接着する。つまり、接着層22・25は、液状からの状態変化によって、偏光子21とλ/4フィルム23、偏光子21と保護フィルム26とをそれぞれ接着する。このように、接着層22・25は、液状からの状態変化によって2者を接着する点で、そのような状態変化を起こさずに2者を接着する粘着層(基材の上に粘着剤を有するシート状の粘着層)とは異なっている。
本実施形態では、接着層22・25の厚みをそれぞれAμmとすると、
0μm<A≦5μm
である。したがって、接着層22・25を用いることにより、アクリル系の粘着剤(厚さ10μm程度)を用いる構成に比べて、偏光板12を容易に薄型化することができる。
λ/4フィルム23は、透過光に対して波長の1/4程度の面内位相差を付与する層であり、本実施形態では、セルロース系樹脂(セルロース系ポリマー)を含んでいる。なお、λ/4フィルム23は、セルロース系ポリマーの代わりにポリカーボネート系樹脂(ポリカーボネート系ポリマー)を含んでいてもよいし、シクロオレフィン系樹脂(シクロオレフィン系ポリマー)を含んでいてもよい。ただし、耐薬品性の観点からは、λ/4フィルム23は、セルロース系ポリマーまたはポリカーボネート系ポリマーを含んでいることが望ましい。
λ/4フィルム23は、厚さが10μm〜70μmの薄膜のλ/4フィルムである。また、λ/4フィルム23の遅相軸と偏光子21の吸収軸とのなす角度(交差角)は、30°〜60°であり、これによって、偏光子21からの直線偏光は、λ/4フィルム23によって円偏光または楕円偏光に変換される。
硬化層24(ハードコート層とも言う)は、活性エネルギー線硬化型樹脂(例えば紫外線硬化型樹脂)で構成されており、偏光板12の表面を保護する機能を有している。硬化層24は、紫外線吸収機能を持つ有機化合物を含んでいる。このような有機化合物(有機UV吸収剤)としては、例えばチヌビン928(BASFジャパン株式会社製)を用いることができる。
保護フィルム26は、例えばアクリル樹脂、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート(PC)からなる光学フィルムで構成される。表示セル11がLCDの場合、保護フィルム26は、単に偏光子21の裏面側を保護するフィルムとして設けられているが、所望の光学補償機能を有する位相差フィルムを兼ねた光学フィルムとして設けられてもよい。
なお、表示セル11がLCDの場合、表示セル11(液晶セル)に対して偏光板12とは反対側に配置される別の偏光板は、偏光子の表面を2つの光学フィルムで挟持して構成されるが、上記の偏光子および光学フィルムとしては、偏光板12の偏光子21および保護フィルム26と同様のものを用いることができる。
なお、表示セル11がOLEDディスプレイの場合、偏光板12は、外光反射防止のための円偏光板(または楕円偏光板)として機能することが好ましい。このような円偏光板を構成するためには、偏光子21の表示セル11側の保護フィルム26を、透過光に対して波長の1/4程度の面内位相差を付与する光学フィルムとし、偏光子21の吸収軸と保護フィルム26の遅相軸とがおよそ45°の角度で交差するように、偏光子21と保護フィルム26とを接着層25を介して貼り合わせることが好ましい。
上記の偏光板12において、偏光子21のさらに外側に(視認側に)、λ/4フィルム23が配置されているので、表示セル11から出射されて偏光子21を透過した直線偏光は、λ/4フィルム23にて円偏光または楕円偏光に変換される。したがって、観察者が偏光サングラスを装着して表示装置10の表示画像を観察する場合に、どのような角度で観察する場合でも(偏光子21の透過軸(吸収軸に垂直)と、偏光サングラスの透過軸とがどのようにズレていても)、偏光サングラスの透過軸に平行な光の成分を観察者の眼に導いて表示画像を観察させることができ、観察する角度によって表示画像が見え難くなるのを抑制することができる。
また、本実施形態では、上述したように、紫外線硬化型樹脂からなる硬化層24が、紫外線吸収機能を持つ有機化合物を含んでいる。これにより、硬化層24は、厚さ方向において、硬化時に紫外線が照射される側(紫外線入射側、λ/4フィルム23とは反対側の表面側)ほど、紫外線を吸収して硬化しやすくなり、その反対側の裏面側(λ/4フィルム23側)ほど、硬化しにくくなる。つまり、硬化層24は、λ/4フィルム23との界面側で表面側よりも柔らかくなる(硬度が下がる)。
これにより、偏光子21に接着層22を介して薄膜のλ/4フィルム23と硬化層24とを積層して偏光板12が構成されている場合でも、耐久試験時にλ/4フィルム23に対する硬化層24側からの応力が軽減される。これにより、耐久試験時にλ/4フィルム23にクラックが生じるのを抑えることができる。また、λ/4フィルム23が偏光子21に接着層22を介して強固に接着されていることで、耐久試験による偏光子21の収縮に伴ってλ/4フィルム23が収縮しても、硬化層24におけるλ/4フィルム23との界面に近い部分(表面側よりも柔らかい部分)がその収縮に追従するため、硬化層24とλ/4フィルム23との密着性を維持できる。
したがって、薄膜のλ/4フィルム23を、接着層22を介して偏光子21に接着した薄型の偏光板12の構成で、耐久試験によるλ/4フィルム23のクラックや硬化層24の剥がれを抑えることができる。その結果、上記の偏光板12を表示装置10に適用した場合でも、偏光サングラスを装着した状態での、λ/4フィルム23のクラックや硬化層24の剥がれに起因する表示画像の視認性の劣化を抑えることができる。
ここで、上記した偏光子21およびλ/4フィルム23は、それぞれ長尺状であってもよい。この場合、λ/4フィルム23の遅相軸が、λ/4フィルム23の長手方向に対して30°〜60°傾斜していることが望ましい。この場合、長尺状のλ/4フィルム23を、後述する斜め延伸によって作製してロール状のフィルムとし、これをロール状の偏光子21と、いわゆるロール・トゥ・ロール方式で貼り合わせて長尺状の偏光板12を作製することができる。したがって、フィルム片を1枚ずつ貼り合わせるバッチ式で偏光板12を作製する場合に比べて、生産性が飛躍的に向上し、歩留りも大幅に改善することができる。
なお、λ/4フィルム23の接着層22側に、λ/4フィルム23の接着性を向上させるための易接着層が設けられてもよい。易接着層は、λ/4フィルム23の接着層22側に易接着処理を行うことによって形成される。易接着処理としては、コロナ(放電)処理、プラズマ処理、フレーム処理、イトロ処理、グロー処理、オゾン処理、プライマー塗布処理等があるが、このうち少なくとも1種が実施されればよい。これらの易接着処理のうち、生産性の観点からは、コロナ処理、プラズマ処理が易接着処理として好ましい。
図2は、本実施形態の表示装置10に適用される偏光板12の他の構成を示す断面図である。偏光板12において、硬化層24の上に、機能層としてのオーバーコート層27が形成されていてもよい。オーバーコート層27は、硬化層24と同様の活性エネルギー線硬化型樹脂(例えば紫外線硬化型樹脂)からなるハードコート層(硬化層)で構成されることが好ましく、実質的に紫外線吸収機能を持つ有機化合物を含まないか、紫外線吸収機能を持つ有機化合物の含有量(質量%)が硬化層24よりも少ないハードコート層で構成されることが更に好ましい。
このように、硬化層24の上にオーバーコート層27を設けることにより、硬化層24の表面を保護することができる。また、オーバーコート層27がハードコート層であれば、λ/4フィルム23の片側にハードコート層が2層形成されていることになるので、偏光板12の表面保護を確実に図ることができる。更にオーバーコート層を実質的に紫外線吸収機能を持つ有機化合物を含まないか、紫外線吸収機能を持つ有機化合物の含有量(質量%)が硬化層24よりも少ないハードコート層で構成することで、硬化層24に含まれる紫外線吸収機能を持つ有機化合物が外部へ溶出することをより抑制することが可能となる。
〔偏光板の各層の詳細について〕
<偏光子>
偏光板の主たる構成要素である偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
偏光子としては、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものを用いることができる。偏光子の膜厚は、1〜30μmが好ましく、1〜20μmがより好ましく、1〜15μmがより一層好ましく、2〜15μmがさらに好ましい。
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、ケン化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。なかでも、熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能及び耐久性能に優れているうえに、色斑が少なく、大型液晶表示装置に特に好ましく用いられる。
また、特開2011−100161号公報、特許第4691205号公報、特許4751481号公報、特許第4804589号公報に記載の方法で、塗布型偏光子を作製し、本実施形態のλ/4フィルムと貼り合わせてもよい。
<λ/4フィルム>
λ/4フィルムは、所定の光の波長(通常、可視光領域)に対して、フィルムの面内位相差が約1/4となるフィルムをいう。λ/4フィルムは、可視光の波長の範囲においてほぼ完全な円偏光を得るため、可視光の波長の範囲において概ね波長の1/4の位相差を有する広帯域λ/4フィルムであることが好ましい。
λ/4フィルムは、波長550nmで測定した面内リタデーション値Ro(550)が、60nm以上220nm以下の範囲にあることが好ましく、80nm以上200nm以下の範囲であることがより好ましく、90nm以上190nm以下の範囲であることがさらに好ましい。なお、面内リタデーション値Roは、以下の式で表される。
Ro=(nx−ny)×d
ただし、式中、nx、nyは、23℃RH、波長550nmにおける屈折率のうち、フィルムの面内で最大の屈折率(遅相軸方向の屈折率ともいう)、およびフィルム面内で遅相軸に直交する方向の屈折率であり、dはフィルムの厚み(nm)である。
Roは、自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、各波長での複屈折率測定により算出することができる。
さらに、λ/4フィルムとして有効に機能するためには、同時に、Ro(590)−Ro(450)≧2nmの関係を満足することが好ましく、Ro(590)−Ro(450)≧5nmであることがより好ましく、Ro(590)−Ro(450)≧10nmであることがさらに好ましい。
λ/4フィルムの遅相軸と後述する偏光子の透過軸との角度が実質的に45°になるように積層すると円偏光板が得られる。実質的に45°とは、30°〜60°の範囲、より望ましくは40°〜50°の範囲であることを意味する。λ/4フィルムの面内の遅相軸と偏光子の透過軸との角度は、41〜49°であることが好ましく、42〜48°であることがより好ましく、43〜47°であることがより一層好ましく、44〜46°であることがさらに好ましい。
λ/4フィルムとしては、光学的に透明な樹脂であれば特に限定はなく、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂などを用いることができる。中でも、耐薬品性の観点から、λ/4フィルムは、セルロース系樹脂またはポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。また、耐熱性の観点から、λ/4フィルムは、セルロース系樹脂であることが好ましい。
(セルロース系樹脂)
セルロース系樹脂(セルロースエステル系樹脂を含む)としては、下記式(i)および(ii)を満たすセルロースアシレートを含有するものであることが望ましい。
式(i) 2.0≦Z1<3.0
式(ii) 0≦X
ただし、式(i)および式(ii)において、Z1はセルロースアシレートの総アシル置換度を表し、Xはセルロースアシレートのプロピオニル置換度およびブチリル置換度の総和を表す。
〈セルロースアシレート〉
本実施形態で用いることができるセルロースアシレートフィルムは、セルロールアシレートを主成分として含有する。
本実施形態で用いることができるセルロースアシレートフィルムは、フィルムの全質量100質量%に対して、セルロースアシレートを好ましくは60〜100質量%の範囲で含む。
セルロースアシレートとしては、セルロースと、炭素数2〜22程度の脂肪族カルボン酸および/または芳香族カルボン酸とのエステルが挙げられ、特に、セルロースと炭素数が6以下の低級脂肪酸とのエステルであることが好ましい。
セルロースの水酸基に結合するアシル基は、直鎖であっても分岐していてもよく、また環を形成してもよい。さらに別の置換基が置換してもよい。同じ置換度である場合、上述した炭素数が多いと複屈折性が低下するため、炭素数としては炭素数2〜6のアシル基の中で選択することが好ましく、プロピオニル置換度およびブチリル置換度の総和は0.5以上である。前記セルロースアシレートとしての炭素数が2〜4であることが好ましく、炭素数が2〜3であることがより好ましい。
具体的には、セルロースアシレートとしては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートまたはセルロースアセテートフタレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基、ブチレート基またはフタリル基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルを用いることができる。なお、ブチレートを形成するブチリル基は、直鎖であっても分岐していてもよい。
本実施形態においては、セルロースアシレートとして、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートが特に好ましく用いられる。
また、本実施形態に係るセルロースアシレートは、下記の数式(iii)および数式(iv)を同時に満足するものが好ましい。
式(iii) 2.0≦X+Y<3.0
式(iv) 0≦X
ただし、式中、Yはアセチル基の置換度を表し、Xはプロピオニル基もしくはブチリル基またはその混合物の置換度を表す。
また、目的に叶う光学特性を得るために、置換度の異なる樹脂を混合して用いてもよい。その際の混合比としては、1:99〜99:1(質量比)が好ましい。
上述した中でも、特にセルロースアセテートプロピオネートが、セルロースアシレートとして好ましく用いられる。セルロースアセテートプロピオネートでは、0≦Y≦2.5であり、かつ、0.5≦X≦3.0である(ただし、2.0≦X+Y<3.0である)ことが好ましく、0.5≦Y≦2.0であり、かつ、1.0≦X≦2.0である(ただし、2.0≦X+Y<3.0である)ことがより好ましい。なお、アシル基の置換度は、ASTM−D817−96に準じて測定されうる。
セルロースアシレートの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどが挙げられる。また、それらから得られたセルロースアシレートは、それぞれ任意の割合で混合使用されうる。
セルロースアシレートは、公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
〈添加剤〉
本実施形態のλ/4フィルムは、後述する斜め延伸により、長尺状の斜め延伸フィルムとして作製されるが、セルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、長尺斜め延伸フィルムにしたときの透過率が80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上であることが好ましい。
添加される添加剤としては、可塑剤、紫外線吸収剤、リタデーション調整剤、酸化防止剤、劣化防止剤、剥離助剤、界面活性剤、染料、微粒子等がある。本実施形態において、微粒子以外の添加剤についてはセルロースエステル溶液の調製の際に添加してもよいし、微粒子分散液の調製の際に添加してもよい。有機ELディスプレイ等の画像表示装置に使用する偏光板には、耐熱耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等を添加することが好ましい。
これらの化合物は、セルロースエステルに対して1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%となるように含まれていることが好ましい。また、延伸および乾燥中のブリードアウト等を抑制させるため、200℃における蒸気圧が1400Pa以下の化合物であることが好ましい。
これらの化合物は、セルロースエステル溶液の調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
(リタデーション調整剤)
リタデーションを調整するために添加する化合物は、欧州特許911,656A2号明細書に記載されているような、二つ以上の芳香族環を有する芳香族化合物を使用することができる。
また、2種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。該芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族性ヘテロ環であることが特に好ましく、芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。中でも1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。
(ポリマーまたはオリゴマー)
本実施形態におけるセルロースエステルフィルムは、セルロースエステルと、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、およびスルホ基から選ばれる置換基を有しかつ重量平均分子量が500〜200,000の範囲内であるビニル系化合物のポリマーまたはオリゴマーとを含有することが好ましい。当該セルロースエステルと、当該ポリマーまたはオリゴマーとの含有量の質量比が、95:5〜50:50の範囲内であることが好ましい。
(マット剤)
本実施形態では、マット剤として微粒子を長尺斜め延伸フィルム中に含有させることができ、これによって、延伸フィルムが長尺の場合、搬送や巻き取りをしやすくすることができる。
マット剤の粒径は10nm〜0.1μmの1次粒子もしくは2次粒子であることが好ましい。1次粒子の針状比は1.1以下の略球状のマット剤が好ましく用いられる。
微粒子としては、ケイ素を含むものが好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。本実施形態に好ましい二酸化珪素の微粒子としては、例えば、日本アエロジル(株)製のアエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されているものを挙げることができ、アエロジル200V、R972、R972V、R974、R202、R812を好ましく用いることができる。ポリマーの微粒子の例として、シリコーン樹脂、弗素樹脂およびアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120および同240(東芝シリコーン(株)製)を挙げることができる。
(その他の添加剤)
その他、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等の熱安定剤を加えてもよい。さらに界面活性剤、剥離促進剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加えてもよい。
本実施形態で用いることができるセルロースエステル系樹脂フィルムは公知の方法で製膜することができ、その中でも溶液流延法や溶融流延法が好ましい。製膜方法については後述する。
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂としては、特に限定なく種々のものが使用でき、化学的性質および物性の点から芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましく、特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。その中でも、ビスフェノールAにベンゼン環、シクロヘキサン環、および脂肪族炭化水素基等を導入したビスフェノールA誘導体を用いたものがより好ましい。さらに、ビスフェノールAの中央の炭素に対して、非対称に上記官能基が導入された誘導体を用いて得られた、単位分子内の異方性を減少させた構造のポリカーボネート樹脂が特に好ましい。このようなポリカーボネート樹脂としては、例えば、ビスフェノールAの中央の炭素の2個のメチル基をベンゼン環に置き換えたもの、ビスフェノールAのそれぞれのベンゼン環の一の水素をメチル基やフェニル基などで中央炭素に対し非対称に置換したものを用いて得られるポリカーボネート樹脂が特に好ましい。
具体的には、4,4′−ジヒドロキシジフェニルアルカンまたはこれらのハロゲン置換体からホスゲン法またはエステル交換法によって得られるものであり、例えば、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルブタン等が挙げられる。また、この他にも例えば、特開2006−215465号公報、特開2006−91836号公報、特開2005−121813号公報、特開2003−167121号公報、特開2009−126128号公報、特開2012−31369号公報、特開2012−67300号公報、国際公開第00/26705号等に記載されているポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂は、ポリスチレン系樹脂、メチルメタクリレート系樹脂、およびセルロースアセテート系樹脂等の透明性樹脂と混合して使用してもよい。また、セルロースアセテート系樹脂を用いて形成した樹脂フィルムの少なくとも一方の面にポリカーボネート系樹脂を含有する樹脂層を積層してもよい。
ポリカーボネート系樹脂は、ガラス転移点(Tg)が110℃以上であって、吸水率(23℃水中、24時間の条件で測定した値)が0.3%以下のものであることが好ましい。また、Tgが120℃以上であって、吸水率が0.2%以下のものがより好ましい。
本実施形態で用いることができるポリカーボネート系樹脂フィルムは公知の方法で製膜することができ、その中でも溶液流延法や溶融流延法が好ましい。
(脂環式オレフィンポリマー系樹脂)
脂環式オレフィンポリマー系樹脂としては、特開平05−310845号公報に記載されている環状オレフィンランダム多元共重合体、特開平05−97978号公報に記載されている水素添加重合体、特開平11−124429号公報に記載されている熱可塑性ジシクロペンタジエン系開環重合体およびその水素添加物等を採用することができる。
脂環式オレフィンポリマー系樹脂は、飽和脂環炭化水素(シクロアルカン)構造や不飽和脂環炭化水素(シクロアルケン)構造のごとき脂環式構造を有するポリマーである。脂環式構造を構成する炭素原子数には、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、機械強度、耐熱性および長尺フィルムの成形性の特性が高度にバランスされ、好適である。
脂環式オレフィンポリマー中の脂環式構造を含有してなる繰り返し単位の割合は、適宜選択すればよいが、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式ポリオレフィン樹脂中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると、本実施形態の長尺斜め延伸フィルムより得られる位相差フィルム等の光学材料の透明性および耐熱性が向上するので好ましい。
脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂およびこれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体またはそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体またはそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性および軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
上記のようなノルボルネン系樹脂を用いた長尺フィルムを成形する方法としては、溶液製膜法や溶融押出法の製造方法が好まれる。溶融押出法としては、ダイスを用いるインフレーション法等が挙げられるが、生産性や厚さ精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。
Tダイを用いた押出成形法としては、特開2004−233604号公報に記載されているような、冷却ドラムに密着させる時の溶融状態の熱可塑性樹脂を安定な状態に保つ方法により、リタデーションや配向角といった光学特性のばらつきが小さい長尺フィルムを製造することができる。
具体的には、1)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;2)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から最初に密着する冷却ドラムまでを囲い部材で覆い、囲い部材からダイス開口部または最初に密着する冷却ドラムまでの距離を100mm以下とする方法;3)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂より10mm以内の雰囲気の温度を特定の温度に加温する方法;4)関係を満たすようにダイスから押し出されたシート状の熱可塑性樹脂を50kPa以下の圧力下で冷却ドラムに密着させて引き取る方法;5)溶融押出法で長尺フィルムを製造する際に、ダイス開口部から押し出されたシート状の熱可塑性樹脂に、最初に密着する冷却ドラムの引取速度との速度差が0.2m/s以下の風を吹き付ける方法;が挙げられる。
この長尺フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
<接着層>
偏光子とλ/4フィルムとは、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を接着剤(水糊)として用いて貼り合わせることもできるし、紫外線硬化型の接着剤を用いて貼り合わせることもできる。以下、紫外線硬化型の接着剤の詳細について説明する。
紫外線硬化型接着剤には、カチオン重合型とラジカル重合型がある。本実施形態に好適に用いることのできる紫外線硬化型接着剤の好ましい例には、以下の(α)〜(δ)の各成分を含有する紫外線硬化型接着剤組成物が含まれる。
(α)カチオン重合性化合物
(β)光カチオン重合開始剤
(γ)380nmより長い波長の光に極大吸収を示す光増感剤
(δ)ナフタレン系光増感助剤
(カチオン重合性化合物(α))
紫外線硬化型接着剤組成物の主成分で、重合硬化により接着力を与える成分となるカチオン重合性化合物(α)は、カチオン重合により硬化する化合物であればよいが、特に分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含むことが好ましい。エポキシ化合物には、分子内に芳香環を有する芳香族エポキシ化合物、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有し、そのうちの少なくとも1個が脂環式環に結合している脂環式エポキシ化合物、分子内に芳香環を有さず、エポキシ基とそれが結合する2個の炭素原子を含む環(通常はオキシラン環)の一方の炭素原子が別の脂肪族炭素原子に結合している脂肪族エポキシ化合物等がある。
本実施形態で用いる紫外線硬化型接着剤組成物は、カチオン重合性化合物(α)として、特に芳香環を含まないエポキシ樹脂、脂環式エポキシ化合物を主成分とするものが好ましい。脂環式エポキシ化合物を主成分とするカチオン重合性化合物を用いれば、貯蔵弾性率の高い硬化物を与え、その硬化物(接着剤層)を介してλ/4フィルムと偏光子とが接着された偏光板において、偏光子が割れにくくなる。
脂環式エポキシ化合物は、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有し、そのうちの少なくとも1個が脂環式環に結合しているものである。ここで、脂環式環に結合しているエポキシ基とは、次式(ep)に示すように、エポキシ基(−O−)の2本の結合手が脂環式環を構成する2個の炭素原子(通常は隣り合う炭素原子)にそれぞれ直接結合していることを意味する。下記一般式(ep)において、mは2〜5の整数を表す。
一般式(ep)における(CH2)m中の水素原子を1個又は複数個取り除いた形の基が他の化学構造に結合した化合物が、脂環式エポキシ化合物となりうる。脂環式環を構成する水素原子は、メチル基やエチル基のように、直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。なかでも、エポキシシクロペンタン環(上記式(ep)においてm=3のもの)や、エポキシシクロヘキサン環(上記式(ep)においてm=4のもの)を有する化合物が好ましい。
また、脂環式エポキシ化合物に、脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂を併用することが有効である。脂環式エポキシ化合物を主成分とし、これに脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂を併用したものを、カチオン重合性化合物とすれば、硬化物の高い貯蔵弾性率を保持しながら、λ/4フィルムと偏光子との密着性を一層高めることができる。
ここでいう脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂とは、分子内にエポキシ基とそれが結合する2個の炭素原子を含む環(通常はオキシラン環)の一方の炭素原子が別の脂肪族炭素原子に結合している化合物である。その例として、多価アルコール(フェノール)のポリグリシジルエーテルを挙げることができる。なかでも、入手が容易で偏光子と保護フィルムとの密着性を高める効果が大きいことから、下記一般式(ge)で示されるジグリシジルエーテル化合物が好ましい。
ただし、式中、Xは直接結合、メチレン基、炭素原子数1〜4のアルキリデン基、脂環式炭化水素基、O、S、SO2、SS、SO、CO、OCO又は下記式(ge−1)〜(ge−3)で表される3種の置換基からなる群から選ばれる置換基を表し、アルキリデン基はハロゲン原子で置換されていてもよい。
式(ge−1)において、R25及びR26は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜3のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基により置換されてもよいフェニル基あるいは炭素原子数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基により置換されてもよい炭素原子数3〜10のシクロアルキル基を表し、R25及びR26は互いに連結して環を形成してもよい。
式(ge−2)において、A及びDは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数6〜20のアリール基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数7〜20のアリールアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数2〜20の複素環基又はハロゲン原子を表し、当該アルキル基、アリール基、アリールアルキル基中のメチレン基は、不飽和結合、−O−又は−S−で中断されていてもよい。aは0〜4の数を表し、dは0〜4の数を表す。
一般式(ge)で表されるジグリシジルエーテル化合物としては、例えばビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテルのようなビスフェノール型エポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、エポキシ化ポリビニルフェノールのような多官能型のエポキシ樹脂;脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル;脂肪族多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル;アルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられ、なかでも、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテルが、入手が容易なので好ましい。
上記の脂肪族多価アルコールとしては、例えば、炭素数2〜20の範囲内のものを例示できる。より具体的には、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF等の脂環式ジオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヘキシトール類、ペンチトール類、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、テトラメチロールプロパン等の三価以上のポリオールが挙げられる。
脂環式エポキシ化合物と脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂を併用する場合、両者の配合割合は、カチオン重合性化合物全体の量を基準に、脂環式エポキシ化合物を50〜95質量%、そして脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂を5質量%以上とするのが好ましい。脂環式エポキシ化合物をカチオン重合性化合物全体中で50質量%以上配合することにより、硬化物の80℃における貯蔵弾性率が1,000MPa以上になり、このような硬化物(接着剤層)を介して偏光子とλ/4フィルムとが接着された偏光板において、偏光子が割れにくくなる。また、脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂を、カチオン重合性化合物全体に対して5質量%以上配合することにより、偏光子とλ/4フィルムとの密着性が向上する。脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂の量は、カチオン重合性化合物が脂環式エポキシ化合物との二成分系である場合には、カチオン重合性化合物全体の量を基準に50質量%まで許容されるが、硬化物の貯蔵弾性率の低下を抑え、偏光子の割れを防止する観点から、カチオン重合性化合物全体の量を基準に45質量%以下とするのが好ましい。
本実施形態の紫外線硬化型接着剤組成物を構成するカチオン重合性化合物(α)として、以上説明したような脂環式エポキシ化合物及び脂環式エポキシ基を実質的に有さないエポキシ樹脂を併用する場合、それぞれが上述した量となる範囲において、これらに加えて、他のカチオン重合性化合物を含んでいてもよい。他のカチオン重合性化合物としては、一般式(ep)及び一般式(ge)以外のエポキシ化合物、オキセタン化合物等が挙げられる。
一般式(ep)及び一般式(ge)以外のエポキシ化合物には、一般式(ep)以外の分子内に少なくとも1個の脂環式環に結合するエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物、一般式(ge)以外の脂肪族炭素原子に結合するオキシラン環を有する脂肪族エポキシ化合物、分子内に芳香環とエポキシ基を有する芳香族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物における芳香環が水素化されている水素化エポキシ化合物等がある。
一般式(ep)以外の分子内に少なくとも1個の脂環式環に結合するエポキシ基を有する脂環式エポキシ化合物の例として、4−ビニルシクロヘキセンジエポキシドや1,2:8,9−ジエポキシリモネンの如きビニルシクロヘキセン類のジエポキシド等がある。
一般式(ge)以外の脂肪族炭素原子に結合するオキシラン環を有する脂肪族エポキシ化合物の例として、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル等がある。
分子内に芳香環とエポキシ基を有する芳香族エポキシ化合物は、分子内に少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシ基(水酸基)を有する芳香族ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテルとすることができ、その具体例として、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテル、フェノールノボラック樹脂のグリシジルエーテル等がある。
芳香族エポキシ化合物における芳香環が水素化されている水素化エポキシ化合物は、上記の芳香族エポキシ化合物の原料である分子内に少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシ基(水酸基)を有する芳香族ポリヒドロキシ化合物を、触媒の存在下、加圧下で選択的に水素化反応を行って、得られた水素化ポリヒドロキシ化合物をグリシジルエーテル化して得ることができる。具体例として、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、水素化ビスフェノールSのジグリシジルエーテル等が挙げられる。
これら一般式(ep)及び一般式(ge)以外のエポキシ化合物のうち、脂環式環に結合するエポキシ基を有し、先に定義した脂環式エポキシ化合物に分類される化合物を配合する場合は、一般式(ep)で示される脂環式エポキシ化合物との和が、カチオン重合性化合物の合計量を基準に95質量%を超えない範囲で用いられる。
また、任意のカチオン重合性化合物となりうるオキセタン化合物は、分子内に4員環エーテル(オキセタニル基)を有する化合物である。その具体例としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル〕ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ〔(3−エチル−3−オキセタニル)メチル〕エーテル、ビス〔(3−エチル−3−オキセタニル)メチル〕エーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(シクロヘキシルオキシメチル)オキセタン、フェノールノボラックオキセタン、1,3−ビス〔(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ〕ベンゼン、オキセタニルシルセスキオキサン、オキセタニルシリケート等が挙げられる。
カチオン重合性化合物全体の量を基準に、オキセタン化合物を30質量%以下の割合で配合することにより、エポキシ化合物だけをカチオン重合性化合物として用いた場合に比べ、硬化性が向上するといった効果が期待できることがある。
(光カチオン重合開始剤(β))
本実施形態では、以上のようなカチオン重合性化合物を、活性エネルギー線の照射によってカチオン重合させて硬化させ、接着剤層を形成することから、紫外線硬化型接着剤組成物には、光カチオン重合開始剤(β)を配合することが好ましい。
光カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線のような活性エネルギー線の照射によって、カチオン種又はルイス酸を発生させ、カチオン重合性化合物(α)の重合反応を開始するものである。光カチオン重合開始剤は、光で触媒的に作用するため、カチオン重合性化合物(α)に混合しても保存安定性や作業性に優れる。活性エネルギー線の照射によりカチオン種やルイス酸を生じる化合物として、例えば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩;鉄−アレン錯体等を挙げることができる。
芳香族ジアゾニウム塩としては、例えばベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロボレート等が挙げられる。
芳香族ヨードニウム塩としては、例えばジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4−ノニルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
芳香族スルホニウム塩としては、例えばトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4,4′−ビス〔ジフェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、4,4′−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、4,4′−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントンヘキサフルオロアンチモネート、7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントンテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−フェニルカルボニル−4′−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィドヘキサフルオロホスフェート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4′−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィドヘキサフルオロアンチモネート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4′−ジ(p−トルイル)スルホニオ−ジフェニルスルフィドテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
鉄−アレン錯体としては、例えばキシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロアンチモネート、クメン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート、キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタナイド等が挙げられる。
これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらのなかでも特に芳香族スルホニウム塩は、300nm付近の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができ、好ましく用いられる。
光カチオン重合開始剤(β)の配合量は、カチオン重合性化合物(α)全体100質量部に対して1〜10質量部とする。カチオン重合性化合物(α)100質量部あたり光カチオン重合開始剤を1質量部以上配合することにより、カチオン重合性化合物(α)を十分に硬化させることができ、得られる偏光板に高い機械強度と接着強度を与える。一方、その量が多くなると、硬化物中のイオン性物質が増加することで硬化物の吸湿性が高くなり、偏光板の耐久性能を低下させる可能性があるため、光カチオン重合開始剤(β)の量は、カチオン重合性化合物(α)100質量部あたり10質量部以下とする。
光カチオン重合開始剤(β)の配合量は、カチオン重合性化合物(α)100質量部あたり2質量部以上とするのが好ましく、また6質量部以下とするのが好ましい。
(光増感剤(γ))
本実施形態の紫外線硬化型接着剤組成物は、以上のようなエポキシ化合物を含むカチオン重合性化合物(α)及び光カチオン重合開始剤(β)に加えて、380nmより長い波長の光に極大吸収を示す光増感剤(γ)を含有する。上記光カチオン重合開始剤(β)は、300nm付近又はそれより短い波長に極大吸収を示し、その付近の波長の光に感応して、カチオン種又はルイス酸を発生させ、カチオン重合性化合物(α)のカチオン重合を開始させるが、それよりも長い波長の光にも感応するように、380nmより長い波長の光に極大吸収を示す光増感剤(γ)が配合される。
このような光増感剤(γ)としては、下記一般式(at)で示されるアントラセン系化合物が有利に用いられる。
ただし、式中、R5及びR6は、それぞれ独立に炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を表す。R7は、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
一般式(at)で示されるアントラセン系化合物の具体例としては、9,10−ジメトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジプロポキシアントラセン、9,10−ジイソプロポキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセン、9,10−ジペンチルオキシアントラセン、9,10−ジヘキシルオキシアントラセン、9,10−ビス(2−メトキシエトキシ)アントラセン、9,10−ビス(2−エトキシエトキシ)アントラセン、9,10−ビス(2−ブトキシエトキシ)アントラセン、9,10−ビス(3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、2−メチル又は2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、2−メチル又は2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン、2−メチル又は2−エチル−9,10−ジプロポキシアントラセン、2−メチル又は2−エチル−9,10−ジイソプロポキシアントラセン、2−メチル又は2−エチル−9,10−ジブトキシアントラセン、2−メチル又は2−エチル−9,10−ジペンチルオキシアントラセン、2−メチル又は2−エチル−9,10−ジヘキシルオキシアントラセン等が挙げられる。
紫外線硬化型接着剤組成物に上記のような光増感剤(γ)を配合することにより、それを配合しない場合に比べて、紫外線硬化型接着剤組成物の硬化性が向上する。紫外線硬化型接着剤組成物を構成するカチオン重合性化合物(α)の100質量部に対する光増感剤(γ)の配合量を、0.1質量部以上とすることにより、硬化性が向上する効果が発現する。一方、低温保管時の析出を防ぐため、カチオン重合性化合物(α)100質量部に対して2質量部以下の配合量とする。偏光板のニュートラルグレーを維持する観点から、偏光子と保護フィルムとの接着性が適度に保たれる範囲で、光増感剤(γ)の配合量を少なくするほうが有利である。例えば、カチオン重合性化合物(α)100質量部に対し、光増感剤(γ)の量を0.1〜0.5質量部、さらには0.1〜0.3質量部の範囲とするのが好ましい。
(光増感助剤(δ))
本実施形態の紫外線硬化型接着剤組成物は、上述したエポキシ化合物を含むカチオン重合性化合物(α)、光カチオン重合開始剤(β)及び光増感剤(γ)に加えて、下記一般式(nf)で示されるナフタレン系光増感助剤(δ)を含有することができる。
ただし、式中、R1及びR2はそれぞれ、炭素数1〜6のアルキル基である。
ナフタレン系光増感助剤(δ)の具体例としては、1,4−ジメトキシナフタレン、1−エトキシ−4−メトキシナフタレン、1,4−ジエトキシナフタレン、1,4−ジプロポキシナフタレン、1,4−ジブトキシナフタレン等が挙げられる。
本実施形態の紫外線硬化型接着剤組成物において、ナフタレン系光増感助剤(δ)を配合することにより、それを配合しない場合に比べて、紫外線硬化型接着剤組成物の硬化性が向上する。紫外線硬化型接着剤組成物を構成するカチオン重合性化合物(α)の100質量部に対するナフタレン系光増感助剤(δ)の配合量を0.1質量部以上とすることにより、硬化性が向上する効果が発現する。一方、低温保管時の析出を防ぐため、カチオン重合性化合物(α)100質量部に対して10質量部以下の配合量とする。好ましくは、カチオン重合性化合物(α)100質量部に対して5質量部以下の配合量である。
さらに、本実施形態の紫外線硬化型接着剤組成物には、本実施形態の効果を損なわない限り、任意成分である他の成分として、添加剤成分を含有させることができる。添加剤成分としては、前述の光カチオン重合開始剤及び光増感剤(γ)の他、光増感剤(γ)以外の光増感剤、熱カチオン重合開始剤、ポリオール類、イオントラップ剤、酸化防止剤、光安定剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、色素、有機溶剤等を配合することができる。
添加剤成分を含有させる場合、添加剤成分の使用量は、前述のカチオン重合性化合物(α)の100質量部に対して1000質量部以下であることが好ましい。使用量が1000質量部以下である場合、本発明に用いられ得る紫外線硬化型接着剤組成物の必須成分であるカチオン重合性化合物(α)、光カチオン重合開始剤(β)、光増感剤(γ)及び光増感助剤(δ)の組合せによる、保存安定性の向上、変色防止、硬化速度の向上、良好な接着性の確保という効果を良好に発揮させることができる。
<ハードコート層>
(活性エネルギー線硬化樹脂)
本実施形態で用いられるハードコート層は、紫外線等活性エネルギー線照射により硬化する活性エネルギー線硬化樹脂を含有することが好ましい。
活性エネルギー線硬化樹脂とは、紫外線や電子線のような活性エネルギー線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂である。活性エネルギー線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性エネルギー線照射によって硬化する樹脂でもよい。
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、又は紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、又はプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒドロキシル基(水酸基)を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる。例えば、特開昭59−151110号に記載の、ユニディック17−806(DIC(株)製)100部とコロネートL(日本ポリウレタン(株)製)1部との混合物等が好ましく用いられる。
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂は、一般にポリエステル末端のヒドロキシル基(水酸基)やカルボキシル基に2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸のようなモノマーを反応させることによって容易に得ることができる(例えば、特開昭59−151112号)。
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂は、エポキシ樹脂の末端のヒドロキシル基(水酸基)にアクリル酸、アクリル酸クロライド、グリシジルアクリレートのようなモノマーを反応させて得られる。
紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂としては、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることができる。
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシ樹脂の例として、有用に用いられるエポキシ系活性エネルギー線反応性化合物を示す。
(a)ビスフェノールAのグリシジルエーテル(この化合物はエピクロルヒドリンとビスフェノールAとの反応により、重合度の異なる混合物として得られる)
(b)ビスフェノールA等のフェノール性OHを2個有する化合物に、エピクロルヒドリン、エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを反応させ末端にグリシジルエーテル基を有する化合物
(c)4,4′−メチレンビスフェノールのグリシジルエーテル
(d)ノボラック樹脂又はレゾール樹脂のフェノールフォルムアルデヒド樹脂のエポキシ化合物
(e)脂環式エポキシドを有する化合物、例えば、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)オキザレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−シクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルピメレート)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−1−メチル−シクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシ−1′−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチル−シクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシ−6′−メチル−1′−シクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5′,5′−スピロ−3″,4″−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン
(f)2塩基酸のジグリシジルエーテル、例えば、ジグリシジルオキザレート、ジグリシジルアジペート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジルフタレート
(g)グリコールのジグリシジルエーテル、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、コポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)ジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル
(h)ポリマー酸のグリシジルエステル、例えば、ポリアクリル酸ポリグリシジルエステル、ポリエステルジグリシジルエステル
(i)多価アルコールのグリシジルエーテル、例えば、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、グルコーストリグリシジルエーテル
(j)2−フルオロアルキル−1,2−ジオールのジグリシジルエーテルとしては、前記低屈折率物質のフッ素含有樹脂のフッ素含有エポキシ化合物に挙げた化合物例と同様のもの
(k)含フッ素アルカン末端ジオールグリシジルエーテルとしては、上記低屈折率物質のフッ素含有樹脂のフッ素含有エポキシ化合物等を挙げることができる。
上記エポキシ化合物の分子量は、平均分子量として2000以下で、好ましくは1000以下である。
上記のエポキシ化合物を活性エネルギー線により硬化する場合、より硬度を上げるためには、(h)又は(i)の多官能のエポキシ基を有する化合物を混合して用いると効果的である。
エポキシ系活性エネルギー線反応性化合物をカチオン重合させる光重合開始剤又は光増感剤は、活性エネルギー線照射によりカチオン重合開始物質を放出することが可能な化合物であり、特に好ましくは、照射によりカチオン重合開始能のあるルイス酸を放出するオニウム塩の一群の複塩である。
活性エネルギー線反応性化合物エポキシ樹脂は、ラジカル重合によるのではなく、カチオン重合により重合、架橋構造又は網目構造を形成する。ラジカル重合と異なり反応系中の酸素に影響を受けないため好ましい活性エネルギー線反応性樹脂である。
本実施形態に有用な活性エネルギー線反応性エポキシ樹脂は、活性エネルギー線照射によりカチオン重合を開始させる物質を放出する光重合開始剤又は光増感剤により重合する。光重合開始剤としては、光照射によりカチオン重合を開始させるルイス酸を放出するオニウム塩の複塩の一群が特に好ましい。
かかる代表的なものは下記一般式(a)で表される化合物である。
一般式(a):〔(R1)a(R2)b(R3)c(R4)dZ〕w+〔MeXv〕w-
式中、カチオンはオニウムであり、ZはS、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、ハロゲン(例えばI、Br、Cl)、又はN=N(ジアゾ)であり、R1、R2、R3、R4は同一であっても異なっていてもよい有機の基である。a、b、c、dはそれぞれ0〜3の整数であって、a+b+c+dはZの価数に等しい。Meはハロゲン化物錯体の中心原子である金属又は半金属(metalloid)であり、B、P、As、Sb、Fe、Sn、Bi、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、Mn、Co等である。Xはハロゲンであり、wはハロゲン化錯体イオンの正味の電荷であり、vはハロゲン化錯体イオン中のハロゲン原子の数である。
上記一般式(a)の陰イオン〔MeXv〕w-の具体例としては、テトラフルオロボレート(BF4 -)、テトラフルオロホスフェート(PF4 -)、テトラフルオロアンチモネート(SbF4 -)、テトラフルオロアルセネート(AsF4 -)、テトラクロロアンチモネート(SbCl4 -)等を挙げることができる。
また、その他の陰イオンとしては過塩素酸イオン(ClO4 -)、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CF3SO3 -)、フルオロスルホン酸イオン(FSO3 -)、トルエンスルホン酸イオン、トリニトロベンゼン酸陰イオン等を挙げることができる。
このようなオニウム塩の中でも特に芳香族オニウム塩をカチオン重合開始剤として使用するのが有効であり、中でも特開昭50−151996号、同50−158680号等に記載の芳香族ハロニウム塩、特開昭50−151997号、同52−30899号、同59−55420号、同55−125105号等に記載のVIA族芳香族オニウム塩、特開昭56−8428号、同56−149402号、同57−192429号等に記載のオキソスルホキソニウム塩、特公昭49−17040号等に記載の芳香族ジアゾニウム塩、米国特許第4,139,655号等に記載のチオピリリューム塩等が好ましい。また、アルミニウム錯体や光分解性けい素化合物系重合開始剤等を挙げることができる。上記カチオン重合開始剤と、ベンゾフェノン、ベンゾインイソプロピルエーテル、チオキサントン等の光増感剤を併用することができる。
また、エポキシアクリレート基を有する活性エネルギー線反応性化合物の場合は、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の光増感剤を用いることができる。この活性エネルギー線反応性化合物に用いられる光増感剤や光開始剤は、紫外線反応性化合物100質量部に対して0.1質量部〜15質量部で光反応を開始するには十分であり、好ましくは1質量部〜10質量部である。この増感剤は近紫外線領域から可視光線領域に吸収極大のあるものが好ましい。
本実施形態に有用な活性エネルギー線硬化樹脂組成物において、重合開始剤は、一般的には、活性エネルギー線硬化性エポキシ樹脂(プレポリマー)100質量部に対して0.1質量部〜15質量部の使用が好ましく、更に好ましくは、1質量部〜10質量部の範囲の添加が好ましい。
また、エポキシ樹脂を上記ウレタンアクリレート型樹脂、ポリエーテルアクリレート型樹脂等と併用することもでき、この場合、活性エネルギー線ラジカル重合開始剤と活性エネルギー線カチオン重合開始剤を併用することが好ましい。
また、本実施形態に用いられるハードコート層には、オキセタン化合物を用いることもできる。用いられるオキセタン化合物は、酸素又は硫黄を含む3員環のオキセタン環を有する化合物である。中でも酸素を含むオキセタン環を有する化合物が好ましい。オキセタン環は、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アリールアルキル基、アルコキシル基、アリルオキシ基、アセトキシ基で置換されていてもよい。具体的には、3,3−ビス(クロルメチル)オキセタン、3,3−ビス(ヨードメチル)オキセタン、3,3−ビス(メトキシメチル)オキセタン、3,3−ビス(フェノキシメチル)オキセタン、3−メチル−3クロルメチルオキセタン、3,3−ビス(アセトキシメチル)オキセタン、3,3−ビス(フルオロメチル)オキセタン、3,3−ビス(ブロモメチル)オキセタン、3,3−ジメチルオキセタン等が挙げられる。なお、本実施形態では、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。
本実施形態に用いられるハードコート層には、公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又はゼラチン等の親水性樹脂等のバインダーを上記記載の活性エネルギー線硬化樹脂に混合して使用することができる。これらの樹脂は、その分子中に極性基を持っていることが好ましい。極性基としては、−COOM、−OH、−NR2、−NR3X、−SO3M、−OSO3M、−PO3M2、−OPO3M(ここで、Mは水素原子、アルカリ金属又はアンモニウム基を、Xはアミン塩を形成する酸を、Rは水素原子、アルキル基を表す)等を挙げることができる。
本実施形態に用いられるハードコート層が活性エネルギー線硬化型樹脂を含む場合、活性エネルギー線の照射方法としては、支持体上に、防眩性ハードコート層、反射防止層(中〜高屈折率層及び低屈折率層)等の塗設後に活性エネルギー線を照射してもよいが、ハードコート層塗設時に活性エネルギー線を照射することが好ましい。
本実施形態に使用する活性エネルギー線は、紫外線、電子線、γ線等で、化合物を活性化させるエネルギー源であれば制限なく使用できるが、紫外線、電子線が好ましく、特に取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという点で紫外線が好ましい。紫外線反応性化合物を光重合させる紫外線の光源としては、紫外線を発生する光源であれば何れも使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプ又はシンクロトロン放射光等も用いることができる。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は20mJ/cm2以上が好ましく、更に好ましくは、50mJ/cm2〜10000mJ/cm2であり、特に好ましくは、50mJ/cm2〜2000mJ/cm2である。
紫外線照射は、ハードコート層と後述する反射防止層を構成する複数の層(中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層)それぞれに対して1層設ける毎に照射してもよいし、積層後照射してもよい。或いはこれらを組み合わせて照射してもよい。生産性の点から、多層を積層後、紫外線を照射することが好ましい。
また、電子線も同様に使用できる。電子線としては、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される50〜1000keV、好ましくは100〜300keVのエネルギーを有する電子線を挙げることができる。
本実施形態に使用する上記活性エネルギー線反応性化合物を光重合又は光架橋反応を開始させるには、上記活性エネルギー線反応性化合物のみでも開始するが、重合の誘導期が長かったり、重合開始が遅かったりするため、光増感剤や光開始剤を用いることが好ましく、それにより重合を早めることができる。
本実施形態に用いられるハードコート層が活性エネルギー線硬化樹脂を含有する場合、活性エネルギー線の照射時においては、光反応開始剤、光増感剤を用いることができる。
具体的には、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることができる。また、エポキシアクリレート系樹脂の合成に光反応剤を使用する際に、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることができる。塗布乾燥後に揮発する溶媒成分を除いた紫外線硬化性樹脂組成物に含まれる光反応開始剤及び/又は光増感剤の使用量は、組成物の1質量%〜10質量%が好ましく、特に好ましくは2.5質量%〜6質量%である。
また、活性エネルギー線硬化樹脂として、紫外線硬化性樹脂を用いる場合、前記紫外線硬化性樹脂の光硬化を妨げない程度に、後述する紫外線吸収剤を紫外線硬化性樹脂組成物に含ませてもよい。
ハードコート層の耐熱性を高めるために、光硬化反応を抑制しないような酸化防止剤を選んで用いることができる。例えば、ヒンダードフェノール誘導体、チオプロピオン酸誘導体、ホスファイト誘導体等を挙げることができる。具体的には、例えば、4,4′−チオビス(6−tert−3−メチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)メシチレン、ジ−オクタデシル−4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルベンジルホスフェート等を挙げることができる。
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、アデカオプトマーKR、BYシリーズのKR−400、KR−410、KR−550、KR−566、KR−567、BY−320B(以上、(株)ADEKA製)、コーエイハードのA−101−KK、A−101−WS、C−302、C−401−N、C−501、M−101、M−102、T−102、D−102、NS−101、FT−102Q8、MAG−1−P20、AG−106、M−101−C(以上、広栄化学工業(株)製)、セイカビームのPHC2210(S)、PHCX−9(K−3)、PHC2213、DP−10、DP−20、DP−30、P1000、P1100、P1200、P1300、P1400、P1500、P1600、SCR900(以上、大日精化工業(株)製)、KRM7033、KRM7039、KRM7130、KRM7131、UVECRYL29201、UVECRYL29202(以上、ダイセル・ユーシービー(株))、RC−5015、RC−5016、RC−5020、RC−5031、RC−5100、RC−5102、RC−5120、RC−5122、RC−5152、RC−5171、RC−5180、RC−5181(以上、DIC(株)製)、オーレックスNo.340クリヤ(中国塗料(株)製)、サンラッド H−601(三洋化成工業(株)製)、SP−1509、SP−1507(以上、昭和高分子(株)製)、RCC−15C(グレース・ジャパン(株)製)、アロニックスM−6100、M−8030、M−8060(以上、東亞合成(株)製)、又はその他の市販のものから適宜選択して利用することができる。
活性エネルギー線硬化樹脂を含む塗布組成物は、固形分濃度は10質量%〜95質量%であることが好ましく、塗布方法により適当な濃度が選ばれる。
本実施形態に用いられるハードコート層、及び反射防止層は界面活性剤を含有することも好ましく、界面活性剤としては、シリコーン系又はフッ素系界面活性剤が好ましい。
シリコーン系界面活性剤としては、疎水基がジメチルポリシロキサン、親水基がポリオキシアルキレンから構成される非イオン界面活性剤が好ましい。
非イオン界面活性剤は、水溶液中でイオンに解離する基を有しない系面活性剤を総称していうが、疎水基のほか親水性基として多価アルコール類のヒドロキシル基(水酸基)、また、ポリオキシアルキレン鎖(ポリオキシエチレン)等を親水基として有するものである。親水性はアルコール性ヒドロキシル基(水酸基)の数が多くなるに従って、またポリオキシアルキレン鎖(ポリオキシエチレン鎖)が長くなるに従って強くなる。
本実施形態に係る非イオン界面活性剤は、疎水基としてジメチルポリシロキサンを有することが好ましい。疎水基がジメチルポリシロキサン、親水基がポリオキシアルキレンから構成される非イオン界面活性剤を用いると、防眩性ハードコート層や低屈折率層のムラや膜表面の防汚性が向上する。ポリメチルシロキサンからなる疎水基が表面に配向し汚れにくい膜表面を形成するものと考えられる。他の界面活性剤を用いることでは得られない効果である。
これらの非イオン活性剤の具体例としては、例えば、日本ユニカー(株)製、シリコーン界面活性剤 SILWET L−77、L−720、L−7001、L−7002、L−7604、Y−7006、FZ−2101、FZ−2104、FZ−2105、FZ−2110、FZ−2118、FZ−2120、FZ−2122、FZ−2123、FZ−2130、FZ−2154、FZ−2161、FZ−2162、FZ−2163、FZ−2164、FZ−2166、FZ−2191等が挙げられる。
また、SUPERSILWET SS−2801、SS−2802、SS−2803、SS−2804、SS−2805等が挙げられる。
また、これら、疎水基がジメチルポリシロキサン、親水基がポリオキシアルキレンから構成される非イオン系の界面活性剤の好ましい構造としては、ジメチルポリシロキサン構造部分とポリオキシアルキレン鎖が交互に繰り返し結合した直鎖状のブロックコポリマーであることが好ましい。主鎖骨格の鎖長が長く、直鎖状の構造であることから、優れている。親水基と疎水基が交互に繰り返したブロックコポリマーであることにより、シリカ微粒子の表面を1つの活性剤分子が、複数の箇所で、これを覆うように吸着することができるためと考えられる。
これらの具体例としては、例えば、日本ユニカー(株)製、シリコーン界面活性剤 ABN SILWET FZ−2203、FZ−2207、FZ−2208等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、疎水基がパーフルオロカーボンチェインをもつ界面活性剤を用いることができる。種類としては、フルオロアルキルカルボン酸、N−パーフルオロオクタンスルホニルグルタミン酸ジナトリウム、3−(フルオロアルキルオキシ)−1−アルキルスルホン酸ナトリウム、3−(ω−フルオロアルカノイル−N−エチルアミノ)−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、N−(3−パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル−N,N−ジメチル−N−カルボキシメチレンアンモニウムベタイン、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミド、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、N−プロピル−N−(2−ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、パーフルオロアルキルスルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル−N−エチルスルホニルグリシン塩、リン酸ビス(N−パーフルオロオクチルスルホニル−N−エチルアミノエチル)等が挙げられる。本実施形態では非イオン界面活性剤が好ましい。
これらのフッ素系界面活性剤はメガファック、エフトップ、サーフロン、フタージェント、ユニダイン、フローラード、ゾニール等の商品名で市販されている。
好ましい添加量はハードコート層、及び反射防止層の塗布液に含まれる固形分当たり0.01〜3.0%であり、より好ましくは0.02〜1.0%である。
他の界面活性剤を併用して用いることもでき、適宜、例えばスルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、リン酸エステル塩系等のアニオン界面活性剤、また、ポリオキシエチレン鎖親水基として有するエーテル型、エーテルエステル型等の非イオン界面活性剤等を併用してもよい。
ハードコート層を塗設する際の溶媒は、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他の溶媒の中から適宜選択し、又は混合して使用できる。好ましくは、プロピレングリコールモノ(C1〜C4)アルキルエーテル又はプロピレングリコールモノ(C1〜C4)アルキルエーテルエステルを5質量%以上、更に好ましくは5質量%〜80質量%以上含有する溶媒が用いられる。
ハードコート層組成物塗布液の塗布方法としては、グラビアコーター、スピナーコーター、ワイヤーバーコーター、ロールコーター、リバースコーター、押出コーター、エアードクターコーター、スプレーコート、インクジェット法等公知の方法を用いることができる。塗布量はウエット膜厚で5μm〜30μmが適当で、好ましくは10μm〜20μmである。塗布速度は10m/分〜200m/分が好ましい。
ハードコート層組成物は塗布乾燥された後、紫外線や電子線等の活性エネルギー線を照射され硬化処理されることが好ましいが、前記活性エネルギー線の照射時間は0.5秒〜5分が好ましく、紫外線硬化性樹脂の硬化効率、作業効率等から更に好ましくは、3秒〜2分である。
本実施形態のハードコート層は、以下のように構成されることが好ましい。
硬化層としてのハードコート層は、活性エネルギー線硬化型イソシアヌレート誘導体と後述するA群の活性エネルギー線硬化型樹脂から選択される樹脂を含有する。活性エネルギー線硬化型イソシアヌレート誘導体とA群の活性エネルギー線硬化型樹脂との含有質量比(活性エネルギー線硬化型イソシアヌレート誘導体:A群の活性エネルギー線硬化型樹脂)は、6.0:1.0〜1.0:2.0の範囲内である。
以下において、活性エネルギー線硬化型イソシアヌレート誘導体、A群の活性エネルギー線硬化型樹脂を含む活性エネルギー線硬化型樹脂全般を、単に活性エネルギー線硬化型樹脂と記載する。
活性エネルギー線硬化型樹脂とは、紫外線や電子線のような活性エネルギー線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂をいい、具体的にはエチレン性不飽和基を有する樹脂である。エチレン性不飽和基としては、ビニル基、ビニルエーテル基、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリルアミド基が挙げられ、製造が容易である点で、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
(活性エネルギー線硬化型イソシアヌレート誘導体)
活性エネルギー線硬化型のイソシアヌレート誘導体としては、イソシアヌル酸骨格に1個以上のエチレン性不飽和基が結合した構造を有する化合物であればよく、特に制限はないが、下記一般式(a)で示されるように、同一分子内に3個以上のエチレン性不飽和基及び1個以上のイソシアヌレート環を有する化合物が好ましい。エチレン性不飽和基の種類は、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニルエーテル基であり、より好ましくはメタクリロイル基又はアクリロイル基であり、特に好ましくはアクリロイル基である。
式中、L2は2価の連結基であり、好ましくは、イソシアヌレート環に炭素原子が結合している置換又は無置換の炭素原子数4以下のアルキレンオキシ基又はポリアルキレンオキシ基であり、特に好ましくはアルキレンオキシ基であり、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。R2は水素原子又はメチル基を表し、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
一般式(a)で示される具体的化合物を以下に示すが、これらに限られない。
その他の化合物としては、イソシアヌル酸ジアクリレート化合物が挙がられ、下記一般式(b)で表されるイソシアヌル酸エトキシ変性ジアクリレートが好ましい。
その他として、ε−カプロラクトン変性の活性エネルギー線硬化型のイソシアヌレート誘導体を挙げることもでき、具体的には下記一般式(c)で表される化合物である。
式中、R1〜R3は下記a,b,cで示される官能基を表す。R1〜R3の少なくとも1つはbの官能基である。
a:−H、若しくは(CH2)n−OH(n=1〜10、好ましくはn=2〜6)
b:−(CH2)n−O−(COC5H10)m−COCH=CH2(n=1〜10、好ましくはn=2〜6、m=2〜8)
c:−(CH2)n−O−R(Rは(メタ)アクリロイル基、n=1〜10、好ましくはn=2〜6)〕
一般式(c)で示される具体的化合物を以下に示すが、これらに限られない。
イソシアヌル酸トリアクリレート化合物の市販品としては、例えば新中村化学工業株式会社製A−9300等が挙げられる。イソシアヌル酸ジアクリレート化合物の市販品としては、例えば東亞合成株式会社製アロニックスM−215等が挙がられる。イソシアヌル酸トリアクリレート化合物及びイソシアヌル酸ジアクリレート化合物の混合物としては、例えば東亞合成株式会社製アロニックスM−315、アロニックスM−313等が挙げられる。
ε−カプロラクトン変性の活性エネルギー線硬化型のイソシアヌレート誘導体としては、ε−カプロラクトン変性トリス−(アクリロキシエチル)イソシアヌレートである新中村化学工業株式会社製A−9300−1CL、東亞合成株式会社製アロニックスM−327等を挙げることができるが、これらに限定されない。
(A群の活性エネルギー線硬化型樹脂)
A群に示される活性エネルギー線硬化型樹脂は、下記A1〜A3の樹脂である。
A1:イミド基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂
A2:エチレンオキサイド骨格を有する活性エネルギー線硬化型樹脂
A3:プロピレンオキサイド骨格を有する活性エネルギー線硬化型樹脂
(A1:イミド基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂)
イミド基としては、下記一般式(d)で表される環状イミド基等が挙げられる。
一般式(d)において、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基若しくはアリール基を表すか、又はR1及びR2は一つとなって5員環若しくは6員環を形成する炭化水素基を表す。
上記アルキル基としては、炭素数4以下のアルキル基が好ましい。上記アルケニル基としては、炭素数4以下のアルケニル基が好ましい。上記アリール基としては、フェニル基等を挙げることができる。一つとなって5員環若しくは6員環を形成する上記炭化水素基としては、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−等が挙げられ、不飽和の炭化水素基としては、−CH=CHCH2−、−CH2CH=CHCH2−等が挙げられる。
さらに具体例として、以下の式(d−1)〜式(d−6)に示す環状イミド基等が挙げられる。式(d−5)におけるXは塩素原子又は臭素原子を表す。また、式(d−6)におけるPhはフェニル基を表す。
式(d−5)中、Xとしては、一方が水素原子で他方が炭素数4以下のアルキル基であるか、両方が炭素数4以下のアルキル基であるか、又はそれぞれが一つとなって炭素環を形成する飽和炭化水素基であることが好ましい。
環状イミド基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂としては、下記一般式(A1−1)で表されるマレイミドアクリレート等が挙げられる。
一般式(A1−1)において、R1及びR2は上述の一般式(d)のR1及びR2と同義である。R3は炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し、R4は水素原子又はメチル基を表し、nは1から6の整数を表す。
一般式(A1−1)で表される化合物としては、具体的には下記一般式(A1−11)〜(A1−13)で表される化合物等が挙げられるが、これらには限定されない。
一般式(A1−11)〜(A1−13)において、R4及びR5は水素原子又はメチル基を表し、nは1から6の整数を表す。
一般式(A1−1)で表される化合物の市販品としては、東亞合成(株)製アロニックスM−145を挙げることができる。また、フタルイミド基等を有する活性エネルギー線硬化型樹脂としては、アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド等が挙げられ、市販品としては、東亞合成(株)製アロニックスM−140を挙げることができる。これらイミド基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂としては、ポリマー化合物で有ってもよい。
(A2:エチレンオキサイド骨格を有する活性エネルギー線硬化型樹脂)
(A3:プロピレンオキサイド骨格を有する活性エネルギー線硬化型樹脂)
エチレンオキサイド骨格又はプロピレンオキサイド骨格を有する活性エネルギー線硬化型樹脂としては、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドが付加(変性)された(メタ)アクリレートを挙げることができる。
具体的には、エチレンオキサイド変性グリセロールトリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセロールトリアクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパンアクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられるが、これらには限定されない。また、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート等、アクリレートの基本骨格にエチレンオキサイド骨格又はプロピレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリレートも挙げることができるが、これらには限定されない。
市販品としては、新中村化学工業株式会社、東亞合成株式会社等で製造された樹脂が挙げられる。具体的には、エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名:NKエステル ATM−4E、新中村化学工業株式会社製)、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(商品名、NKエステル A−200:新中村化学工業株式会社製)、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート(商品名、NKエステル A−600:新中村化学工業株式会社製)、ポリプロピレングリコール(#700)ジアクリレート(商品名、NKエステル APG−700:新中村化学工業株式会社製)等を挙げることができる。
上記A群の活性エネルギー線硬化型樹脂としては、イミド基を有する活性エネルギー線硬化型樹脂であることが、優れた鉛筆硬度が得られる点から好ましい。
ハードコート層に、活性エネルギー線硬化型イソシアヌレート誘導体及び上記A群の活性エネルギー線硬化型樹脂を用い、これら樹脂の含有質量比を活性エネルギー線硬化型イソシアヌレート誘導体:A群の活性エネルギー線硬化型樹脂=6.0:1.0〜1.0:2.0の範囲内とすることで、厳しい環境下にあっても優れた層間密着性と可とう性の特性が得られる。また、本実施形態においては、活性エネルギー線硬化型イソシアヌレート誘導体及びA群の活性エネルギー線硬化型樹脂以外の第3成分の樹脂を併用してもよい。
活性エネルギー線硬化型樹脂イソシアヌレート誘導体及びA群の活性エネルギー線硬化型樹脂以外の第3の成分としては、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂又は紫外線硬化型エポキシ樹脂等が挙げられる。なかでも紫外線硬化型アクリレート系樹脂が好ましい。
紫外線硬化型アクリレート系樹脂としては、多官能アクリレートが好ましい。多官能アクリレートとしては、ペンタエリスリトール多官能アクリレート、ジペンタエリスリトール多官能アクリレート、ペンタエリスリトール多官能メタクリレート又はジペンタエリスリトール多官能メタクリレートよりなる群から選ばれることが好ましい。ここで、多官能アクリレートとは、分子中に2個以上のアクリロイルオキシ基又はメタクロイルオキシ基を有する化合物である。
多官能アクリレートのモノマーとしては、例えば1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が好ましく挙げられる。
その他、単官能アクリレートを用いてもよい。単官能アクリレートとしては、イソボロニルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソオクチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベヘニルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等が挙げられる。
単官能アクリレートとしては、新中村化学工業株式会社や大阪有機化学工業株式会社等から入手できる。これらの化合物は、それぞれ単独か又は2種以上を混合して用いられる。また、上記モノマーの2量体、3量体等のオリゴマーであってもよい。
活性エネルギー線硬化型樹脂の粘度は、塗布性及び後述する算術平均粗さRaの制御の点から25℃における粘度が3000mPa・s以下であることが好ましく、2000mPa・s以下がさらに好ましい。この粘度はB型粘度計を用いて25℃の条件にて測定した値である。
ハードコート層には活性エネルギー線硬化型樹脂の硬化促進のため、光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤量としては、質量比で、光重合開始剤:活性エネルギー線硬化型樹脂=20:100〜0.01:100の範囲内で含有することが好ましい。
光重合開始剤としては、具体的には、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等の他、これらの誘導体を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
ハードコート層およびオーバーコート層等の機能層には、塗布性を向上させる観点から、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、非イオン性界面活性剤等の界面活性剤又はフッ素−シロキサングラフトポリマーを含有させてもよい。
非イオン性界面活性剤としては、花王株式会社製:エマルゲン102KG、エマルゲン103、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマルゲン108、エマルゲン109P、エマルゲン120、エマルゲン123P、エマルゲン147、エマルゲン210P、エマルゲン220、エマルゲン306P、エマルゲン320P、エマルゲン404、エマルゲン408、エマルゲン409PV、エマルゲン420、エマルゲン430、エマルゲン705、エマルゲン707、エマルゲン709、エマルゲン1108、エマルゲン1118S−70、エマルゲン1135S−70、エマルゲン2020G−HA、エマルゲン2025G、エマルゲンLS−106、エマルゲンLS−110、エマルゲンLS−114等を挙げることができる。シリコーン系界面活性剤としては、信越化学工業株式会社製:X−22−4272、X−22−6266、KF−351、KF−352、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−618、KF−6011、KF−6015、KF−6004、ビックケミー社製:BYK−300、BYK−302、BYK−306、BYK−307、BYK−310、BYK−313、BYK−315、BYK−320、BYK−322、BYK−323、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−342、BYK−345/346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYK−370、BYK−377、BYK−378、BYK−3455、BYK−UV3510、BYK−UV3500、BYK−UV3530、BYK−UV3570等が挙げられる。
フッ素−シロキサングラフトポリマーとは、少なくともフッ素系樹脂に、シロキサン及び/又はオルガノシロキサン単体を含むポリシロキサン及び/又はオルガノポリシロキサンをグラフト化させて得られる共重合体のポリマーをいう。フッ素−シロキサングラフトポリマーの市販品としては、富士化成工業株式会社製のZX−022H、ZX−007C、ZX−049、ZX−047−D等を挙げることができる。これらの成分は、塗布液中の固形分成分に対し、0.005質量%以上、5質量%以下の範囲で添加することが好ましい。
ハードコート層およびオーバーコート層等の機能層には、アクリル系やその他の界面活性剤(界面調整剤、レベリング剤)を含有させてもよい。アクリル系の界面活性剤としては、例えばビックケミー社製:BYK−350、BYK−354、BYK−355/356、BYK−358N/361N、BYK−381、BYK−392、BYK−394、BYK−3441、共栄社化学株式会社製:ポリフローNo.7、ポリフローNo.50E、ポリフローNo.50EHF、ポリフローNo.54N、ポリフローNo.75、ポリフローNo.77、ポリフローNo.85、ポリフローNo.85HF、ポリフローNo.90、ポリフローNo.90D−50、ポリフローNo.95、ポリフローPW−95、ポリフローNo.99C等が挙げられる。その他の界面活性剤としては、例えばビックケミー社製:BYK−399、BYK−3440、BYK−3550、BYK−SILCLEAN 3700、BYK−SILCLEAN 3720、BYK−DYNWET 800、日信化学工業社製:サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール104A、サーフィノール104PA、サーフィノール104PG−50、サーフィノール104S、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノール465、サーフィノール485、サーフィノールSE、サーフィノールSE−F、サーフィノールPSA−336、サーフィノール61、ダイノール604、ダイノール607、サーフィノール2502、サーフィノール82等が挙げられる。
本実施形態のハードコート層は、溶剤で希釈されたハードコート層組成物を、以下の方法でフィルム基材上に塗布、乾燥、硬化して設けることが好ましい。溶剤としては、ケトン類又はエステル類が好ましい。
ケトン類としては、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等を挙げることができる。
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル等を挙げることができるが、これらには限定されない。
その他の溶剤としては、アルコール類(エタノール、メタノール、ブタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ジアセトンアルコール)、炭化水素類(トルエン、キシレン、ベンゼン、シクロヘキサン)、グリコールエーテル類(プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル等)等を好ましく用いることができる。これらの溶剤は、ハードコート層に含有される活性エネルギー線硬化型樹脂100質量部に対し、20〜200質量部の範囲で用いることで、ハードコート層組成物としての安定性に優れる。
塗布量は、ウェット膜厚としては0.1〜40μmが適当であり、好ましくは0.5〜30μmである。また、ドライ膜厚としては平均膜厚0.1〜30μmが適当であり、好ましくは1〜20μm、特に好ましくは4〜15μmである。
(ハードコート層の作製方法)
ハードコート層は、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイ(押し出し)コーター、インクジェット法等の公知の塗布方法を用いて、ハードコート層を形成するハードコート層組成物を塗布し、塗布後、乾燥し、UV硬化処理し、さらに必要に応じて、UV硬化に加熱処理することで形成できる。UV硬化後の加熱処理温度としては80℃以上が好ましく、さらに好ましくは100℃以上であり、特に好ましくは120℃以上である。このような高温でUV硬化後の加熱処理を行うことで、ハードコート層の機械的膜強度(耐擦性、鉛筆硬度)に優れる。
乾燥は、減率乾燥区間の温度が90℃以上の高温で行うことが好ましく、95℃以上130℃以下で行うことがより好ましい。減率乾燥区間の温度を高温にして処理とすることで、ハードコート層の形成時に塗膜樹脂中で対流が生じるため、ハードコート層の表面に微細な表面粗れが発現しやすく、所望の算術平均粗さRaが得られやすい。
一般に、乾燥プロセスは、乾燥が始まると、乾燥速度が一定の状態から徐々に減少する状態へと変化していくことが知られており、乾燥速度が一定の区間は恒率乾燥区間、乾燥速度が減少していく区間は減率乾燥区間と呼ばれる。恒率乾燥区間においては流入する熱量は全て塗膜表面の溶媒蒸発に費やされており、塗膜表面の溶媒が少なくなると蒸発面が表面から内部に移動して減率乾燥区間に入る。これ以降は塗膜表面の温度が上昇し熱風温度に近づいていくため、ハードコート層組成物の温度が上昇し、ハードコート層組成物中の活性エネルギー線硬化型樹脂の粘度が低下して流動性が増すと考えられる。
UV硬化処理の光源としては、紫外線を発生する光源であれば制限なく使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。照射条件は、それぞれのランプによって異なるが、活性線の照射量は、通常50〜1000mJ/cm2、好ましくは50〜300mJ/cm2である。
<紫外線吸収機能を持つ有機化合物>
上記のハードコート層には、紫外線吸収機能を持つ有機化合物(以下、紫外線吸収化合物とも称する)が含有されている。本実施形態では、融点が20℃以下である紫外線吸収化合物を用いることができ、また、分子内にエステル基を有する紫外線吸収化合物を用いることができる。
融点が20℃以下である紫外線吸収化合物は、融点が20℃よりも高い紫外線吸収化合物と併用することもできる。同様に、分子内にエステル基を有する紫外線吸収化合物は、分子内にエステル基を有しない紫外線吸収化合物と併用することもできる。
本実施形態で用いられる紫外線吸収化合物は、融点が20℃以下であればよいが、具体例としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物が挙げられ、ベンゾトリアゾール系化合物が特に好ましい。
更に、本実施形態の紫外線吸収化合物は、ハードコート層の樹脂との相溶性の点から、炭素数8以上のアルキル鎖、アルケニル鎖、アルキレン鎖又はアルキレンオキシド鎖を有することが好ましい。
また、本実施形態紫外線吸収化合物は、分子量3000以下であることが好ましく、特に2000以下であることが好ましい。
また、上記した紫外線吸収化合物と併用できる紫外線吸収化合物としては、一般的に使用されている紫外線吸収化合物を用いることができるが、具体的には、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物が挙げられる。中でも好ましいのは、ベンゾトリアゾール系化合物(例えばチヌビン928(BASFジャパン株式会社製))である。
以下に本発明に用いられる紫外線吸収化合物の具体例を示すが、これらに限定されるわけではない。
本実施形態の積層フィルムは、上記硬化層の他にさらに機能層を有してもよい。本実施形態において、機能層は特に限定されないが、機能層としては、反射防止層、低屈折率層、ハードコート層、光散乱層、光拡散層、帯電防止層、導電層、電極層、複屈折層、表面エネルギー調整層、UV吸収層、色材層、耐水層、特定のガスバリア層、耐熱層、磁気層、酸化防止層、オーバーコート層など多くの応用がある。
〔長尺斜め延伸フィルムの製造方法〕
上述したλ/4フィルムは、以下に示す長尺斜め延伸フィルムの製造方法を用いて製造することができる。長尺斜め延伸フィルムとは、互いに直交する長手方向および幅手方向に対して配向方向が傾斜した長尺状の斜め延伸フィルムである。
長尺斜め延伸フィルムの配向方向、すなわち、遅相軸の方向は、フィルム面内において、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度をなす方向である(自動的にフィルムの長手方向に対しても0°を超え90°未満の角度をなす方向となる)。遅相軸は、通常延伸方向または延伸方向に直角な方向に発現するので、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の角度で延伸を行うことにより、かかる遅相軸を有する長尺斜め延伸フィルムを製造しうる。長尺斜め延伸フィルムの幅手方向と遅相軸とがなす角度、すなわち配向角は、0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
本実施形態において、長尺とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するもの(フィルムロール)を考えることができる。
長尺斜め延伸フィルムを製造する際には、フィルムを連続的に製造することにより、フィルムを所望の長さにすることができる。なお、長尺斜め延伸フィルムは、長尺フィルムを製膜した後にこれを一度巻芯に巻き取って巻回体(長尺フィルム原反)とし、この巻回体から長尺フィルムを斜め延伸工程に供給して製造するようにしてもよいし、製膜後の長尺フィルムを巻き取ることなく、製膜工程から連続して斜め延伸工程に供給して製造することもできる。製膜工程と斜め延伸工程とを連続して行うことは、延伸後のフィルムの膜厚や光学値の結果をフィードバックして製膜条件を変更し、所望の長尺斜め延伸フィルムを得ることができるので好ましい。
以下、本発明の実施態様を、適宜図面を参照して具体的に説明する。なお、以下での説明において、長尺フィルムと記載した場合は、斜め延伸工程での延伸対象となる長尺状のフィルムのことを指し、斜め延伸後の長尺斜め延伸フィルムとは区別されるものとする。
(長尺フィルムの製膜法)
本実施形態の長尺フィルムは、以下に示す溶液流延法、溶融流延法のどちらでも製膜することができる。以下、各製膜法について説明する。なお、以下では、長尺フィルムとして、例えばセルロースエステル系樹脂フィルムを製膜する場合について説明するが、他の樹脂フィルムの製膜についても勿論適用することができる。
[溶液流延法]
フィルムの着色抑制、異物欠点の抑制、ダイラインなどの光学欠点の抑制、フィルムの平面性、透明度に優れるなどの観点からは、長尺フィルムを溶液流延法で製膜することが好ましい。
(有機溶媒)
本実施形態に係るセルロースエステル系樹脂フィルムを溶液流延法で製造する場合のドープを形成するのに有用な有機溶媒は、セルロースアセテート、その他の添加剤を同時に溶解するものであれば制限なく用いることができる。
例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができ、塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。
ドープには、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有させることが好ましい。ドープ中のアルコールの比率が高くなるとウェブがゲル化し、金属支持体からの剥離が容易になり、また、アルコールの割合が少ない時は非塩素系有機溶媒系でのセルロースアセテートの溶解を促進する役割もある。
特に、メチレンクロライド、および炭素数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールを含有する溶媒に、アクリル樹脂と、セルロースエステル樹脂と、アクリル粒子の3種を、少なくとも計15〜45質量%溶解させたドープ組成物であることが好ましい。
炭素原子数1〜4の直鎖または分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性を確保でき、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等から、エタノールが好ましい。
(溶液流延)
本実施形態に係るセルロースエステル系樹脂フィルムは、溶液流延法によって製造することができる。溶液流延法では、樹脂および添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープをベルト状もしくはドラム状の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻き取る工程により行われる。
ドープ中のセルロースアセテートの濃度は高いほうが、金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、濃度が高過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
流延工程の金属支持体の表面温度は、−50℃〜溶剤が沸騰して発泡しない温度以下に設定される。支持体温度が高いほうがウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高すぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。
好ましい支持体温度としては、0〜100℃で適宜決定され、5〜30℃が更に好ましい。または、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いるほうが、熱の伝達が効率的に行われ、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短くなるため、好ましい。
温風を用いる場合は、溶媒の蒸発潜熱によるウェブの温度低下を考慮して、溶媒の沸点以上の温風を使用しつつ、発泡も防ぎながら目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
特に、流延から剥離するまでの間で支持体の温度および乾燥風の温度を変更し、効率的に乾燥を行うことが好ましい。
セルロースエステル系樹脂フィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量が10〜150質量%であることが好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。ここで、残留溶媒量は、下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
なお、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量(g)であり、NはMを115℃で1時間の加熱した後の質量(g)である。
また、セルロース系樹脂フィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
フィルム乾燥工程では、一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
[溶融流延法]
溶融流延法は、後述する斜め延伸後のフィルムの厚み方向のリタデーションRtを小さくすることが容易となり、残留揮発性成分量が少なくフィルムの寸法安定性にも優れる等の観点から、好ましい製膜法である。溶融流延法は、樹脂および可塑剤などの添加剤を含む組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性のセルロースアセテートを含む溶融物を流延してフィルムを製膜する方法をいう。溶融流延によって形成される方法は、溶融押出(成形)法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度および表面精度などに優れるフィルムが得られる溶融押出法が好ましい。また、溶融押出法で用いる複数の原材料は、通常、予め混錬してペレット化しておくことが好ましい。
ペレット化は、公知の方法で行えばよい。例えば、乾燥セルロースアセテートや可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出し機に供給し、1軸や2軸の押出し機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷または空冷し、カッティングすることでペレット化できる。
添加剤は、押出し機に供給する前に混合しておいてもよいし、それぞれ個別のフィーダーで供給してもよい。また、粒子や酸化防止剤等の少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に混合しておくことが好ましい。
押出し機は、剪断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。例えば、2軸押出し機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。もちろんペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出し機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
上記ペレットを1軸や2軸タイプの押出し機を用いて、押出す際の溶融温度を200〜300℃程度とし、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過し異物を除去した後、Tダイからフィルム状に流延し、冷却ロールと弾性タッチロールとでフィルムをニップし、冷却ロール上で固化させる。
供給ホッパーから押出し機へ上記ペレットを導入する際は、真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。
押出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体を複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し接触箇所を焼結し一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、濾過精度を調整できる。
可塑剤や粒子などの添加剤は、予め樹脂と混合しておいてもよいし、押出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
冷却ロールと弾性タッチロールとでフィルムをニップする際のタッチロール側のフィルム温度は、フィルムのTg(ガラス転移温度)以上Tg+110℃以下にすることが好ましい。このような目的で使用する弾性体表面を有するロールは、公知のロールを使用できる。
弾性タッチロールは挟圧回転体ともいう。弾性タッチロールとしては、市販されているものを用いることもできる。
冷却ロールからフィルムを剥離する際は、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
なお、上記した各製膜法で製膜される長尺フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
(長尺フィルムの仕様)
本実施形態における長尺フィルムの厚さは、10〜70μm、好ましくは10〜60μm、より好ましくは10〜50μm、より好ましくは15〜35μmである。また、本実施形態では、後述する延伸ゾーンに供給される長尺フィルムの流れ方向(搬送方向)の厚みムラσmは、後述する斜め延伸テンター入口でのフィルムの引取張力を一定に保ち、配向角やリタデーションといった光学特性を安定させる観点から、0.30μm未満、好ましくは0.25μm未満、さらに好ましくは0.20μm未満である必要がある。長尺フィルムの流れ方向の厚みムラσmが0.30μm以上となると、長尺斜め延伸フィルムのリタデーションや配向角といった光学特性のバラツキが顕著に悪化する。
また、長尺フィルムとして、幅方向の厚み勾配を有するフィルムが供給されてもよい。長尺フィルムの厚みの勾配は、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルム厚みを最も均一なものとしうるよう、実験的に厚み勾配を様々に変化させたフィルムを延伸することにより、経験的に求めることができる。長尺フィルムの厚みの勾配は、例えば、厚みの厚い側の端部の厚みが、厚みの薄い側の端部よりも0.5〜3%程度厚くなるように調整することができる。
長尺フィルムの幅は、特に限定されないが、500〜4000mm、好ましくは1000〜2000mmとすることができる。
長尺フィルムの斜め延伸時の延伸温度での好ましい弾性率は、ヤング率で表して、0.01MPa以上5000MPa以下、更に好ましくは0.1MPa以上500MPa以下である。弾性率が低すぎると、延伸時・延伸後の収縮率が低くなり、シワが消えにくくなる。また、弾性率が高すぎると、延伸時にかかる張力が大きくなり、フィルムの両側縁部を保持する部分の強度を高くする必要が生じ、後工程のテンターに対する負荷が大きくなる。
長尺フィルムとしては、無配向なものを用いてもよいし、あらかじめ配向を有するフィルムが供給されてもよい。また、必要であれば長尺フィルムの配向の幅手方向の分布が弓なり状、いわゆるボウイングを成していてもよい。要は、長尺フィルムの配向状態を、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルムの配向を所望なものとしうるよう、調整することができる。
〔斜め延伸フィルムの製造方法および製造装置〕
次に、上述した長尺フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸して長尺状の斜め延伸フィルムを製造する、斜め延伸フィルムの製造方法および製造装置について説明する。
(装置の概要)
図3は、斜め延伸フィルムの製造装置1の概略の構成を模式的に示す平面図である。製造装置1は、長尺フィルムの搬送方向上流側から順に、フィルム繰り出し部2と、搬送方向変更部3と、ガイドロール4と、延伸部5と、ガイドロール6と、搬送方向変更部7と、フィルム切断装置8と、フィルム巻き取り部9とを備えている。なお、延伸部5の詳細については後述する。
フィルム繰り出し部2は、上述した長尺フィルムを繰り出して延伸部5に供給するものである。このフィルム繰り出し部2は、長尺フィルムの製膜装置と別体で構成されていてもよいし、一体的に構成されてもよい。前者の場合、長尺フィルムを製膜後に一度巻芯に巻き取って巻回体(長尺フィルム原反)となったものをフィルム繰り出し部2に装填することで、フィルム繰り出し部2から長尺フィルムが繰り出される。一方、後者の場合、フィルム繰り出し部2は、長尺フィルムの製膜後、その長尺フィルムを巻き取ることなく、延伸部5に対して繰り出すことになる。
搬送方向変更部3は、フィルム繰り出し部2から繰り出される長尺フィルムの搬送方向を、斜め延伸テンターとしての延伸部5の入口に向かう方向に変更するものである。このような搬送方向変更部3は、例えばフィルムを搬送しながら折り返すことによって搬送方向を変更するターンバーや、そのターンバーをフィルムに平行な面内で回転させる回転テーブルを含んで構成されている。
搬送方向変更部3にて長尺フィルムの搬送方向を上記のように変更することにより、製造装置1全体の幅をより狭くすることが可能となるほか、フィルムの送り出し位置および角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺斜め延伸フィルムを得ることが可能となる。また、フィルム繰り出し部2および搬送方向変更部3を移動可能(スライド可能、旋回可能)とすれば、延伸部5において長尺フィルムの幅手方向の両端部を挟む左右のクリップ(把持具)のフィルムへの噛込み不良を有効に防止することができる。
なお、上記したフィルム繰り出し部2は、延伸部5の入口に対して所定角度で長尺フィルムを送り出せるように、スライドおよび旋回可能となっていてもよい。この場合は、搬送方向変更部3の設置を省略した構成とすることもできる。
ガイドロール4は、長尺フィルムの走行時の軌道を安定させるために、延伸部5の上流側に少なくとも1本設けられている。なお、ガイドロール4は、フィルムを挟む上下一対のロール対で構成されてもよいし、複数のロール対で構成されてもよい。延伸部5の入口に最も近いガイドロール4は、フィルムの走行を案内する従動ロールであり、不図示の軸受部を介してそれぞれ回転自在に軸支される。ガイドロール4の材質としては、公知のものを用いることが可能である。なお、フィルムの傷つきを防止するために、ガイドロール4の表面にセラミックコートを施したり、アルミニウム等の軽金属にクロームメッキを施す等によってガイドロール4を軽量化することが好ましい。
また、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4よりも上流側のロールのうちの1本は、ゴムロールを圧接させてニップすることが好ましい。このようなニップロールにすることで、フィルムの流れ方向における繰出張力の変動を抑えることが可能となる。
延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の両端(左右)の一対の軸受部には、当該ロールにおいてフィルムに生じている張力を検出するためのフィルム張力検出装置として、第1張力検出装置、第2張力検出装置がそれぞれ設けられている。フィルム張力検出装置としては、例えばロードセルを用いることができる。ロードセルとしては、引張または圧縮型の公知のものを用いることができる。ロードセルは、着力点に作用する荷重を起歪体に取り付けられた歪ゲージにより電気信号に変換して検出する装置である。
ロードセルは、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の左右の軸受部に設置されることにより、走行中のフィルムがロールに及ぼす力、即ちフィルムの両側縁近傍に生じているフィルム進行方向における張力を左右独立に検出する。なお、ロールの軸受部を構成する支持体に歪ゲージを直接取り付けて、該支持体に生じる歪に基づいて荷重、即ちフィルム張力を検出するようにしてもよい。発生する歪とフィルム張力との関係は、予め計測され、既知であるものとする。
フィルム繰り出し部2または搬送方向変更部3から延伸部5に供給されるフィルムの位置および搬送方向が、延伸部5の入口に向かう位置および搬送方向からズレている場合、このズレ量に応じて、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4におけるフィルムの両側縁近傍の張力に差が生じることになる。したがって、上述したようなフィルム張力検出装置を設けて上記の張力差を検出することにより、当該ズレの程度を判別することができる。つまり、フィルムの搬送位置および搬送方向が適正であれば(延伸部5の入口に向かう位置および方向であれば)、上記ガイドロール4に作用する荷重は軸方向の両端で粗均等になるが、適正でなければ、左右でフィルム張力に差が生じる。
したがって、延伸部5の入口に最も近いガイドロール4の左右のフィルム張力差が等しくなるように、例えば上記した搬送方向変更部3によってフィルムの位置および搬送方向(延伸部5の入口に対する角度)を適切に調整すれば、延伸部5の入口部の把持具によるフィルムの把持が安定し、把持具外れ等の障害の発生を少なくできる。更に、延伸部5による斜め延伸後のフィルムの幅方向における物性を安定させることができる。
ガイドロール6は、延伸部5にて斜め延伸されたフィルムの走行時の軌道を安定させるために、延伸部5の下流側に少なくとも1本設けられている。
搬送方向変更部7は、延伸部5から搬送される延伸後のフィルムの搬送方向を、フィルム巻き取り部9に向かう方向に変更するものである。
ここで、配向角(フィルムの面内遅相軸の方向)の微調整や製品バリエーションに対応するために、延伸部5の入口でのフィルム進行方向と延伸部5の出口でのフィルム進行方向とがなす角度の調整が必要となる。この角度調整のためには、製膜したフィルムの進行方向を搬送方向変更部3によって変更してフィルムを延伸部5の入口に導く、および/または延伸部5の出口から出たフィルムの進行方向を搬送方向変更部7によって変更してフィルムをフィルム巻き取り部9の方向に戻すことが必要となる。
また、製膜および斜め延伸を連続して行うことが、生産性や収率の点で好ましい。製膜工程、斜め延伸工程、巻取工程を連続して行う場合、搬送方向変更部3および/または搬送方向変更部7によってフィルムの進行方向を変更し、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向を一致させる、つまり、図3に示すように、フィルム繰り出し部2から繰り出されるフィルムの進行方向(繰り出し方向)と、フィルム巻き取り部9にて巻き取られる直前のフィルムの進行方向(巻き取り方向)とを一致させることにより、フィルム進行方向に対する装置全体の幅を小さくすることができる。
なお、製膜工程と巻取工程とでフィルムの進行方向は必ずしも一致させる必要はないが、フィルム繰り出し部2とフィルム巻き取り部9とが干渉しないレイアウトとなるように、搬送方向変更部3および/または搬送方向変更部7によってフィルムの進行方向を変更することが好ましい。
上記のような搬送方向変更部3・7としては、エアーフローロールもしくはエアーターンバーを用いるなど、公知の手法で実現することができる。
フィルム切断装置8は、延伸部5にて延伸されたフィルム(長尺斜め延伸フィルム)を、幅手方向を含む断面に沿って切断するものであり、切断部材を有している。切断部材は、例えばハサミやカッター(スリッター、帯状の刃(トムソン刃)を含む)で構成されるが、これらに限定されるわけではなく、その他にも、回転する丸鋸やレーザー照射装置などで構成することも可能である。
フィルム巻き取り部9は、延伸部5から搬送方向変更部7を介して搬送されるフィルムを巻き取るものであり、例えばワインダー装置、アキューム装置、ドライブ装置などで構成される。フィルム巻き取り部9は、フィルムの巻き取り位置を調整すべく、横方向にスライドできる構造であることが好ましい。
フィルム巻き取り部9は、延伸部5の出口に対して所定角度でフィルムを引き取れるように、フィルムの引き取り位置および角度を細かく制御できるようになっている。これにより、膜厚、光学値のバラツキが小さい長尺斜め延伸フィルムを得ることが可能となる。また、フィルムのシワの発生を有効に防止することができるとともに、フィルムの巻き取り性が向上するため、フィルムを長尺で巻き取ることが可能となる。
このフィルム巻き取り部9は、延伸部5にて延伸されて搬送されるフィルムを一定の張力で引き取る引取部を構成している。なお、延伸部5とフィルム巻き取り部9との間に、フィルムを一定の張力で引き取るための引取ロールを設けるようにしてもよい。また、上述したガイドロール6に上記引取ロールとしての機能を持たせてもよい。
本実施形態において、延伸後のフィルムの引取張力T(N/m)は、100N/m<T<300N/m、好ましくは150N/m<T<250N/mの間で調整することが好ましい。上記の引取張力が100N/m以下では、フィルムのたるみや皺が発生しやすく、リタデーション、配向角のフィルム幅方向のプロファイルも悪化する。逆に、引取張力が300N/m以上となると、配向角のフィルム幅方向のバラツキが悪化し、幅収率(幅方向の取り効率)を悪化させてしまう。
また、本実施形態においては、上記引取張力Tの変動を±5%未満、好ましくは±3%未満の精度で制御することが好ましい。上記引取張力Tの変動が±5%以上であると、幅方向および流れ方向(搬送方向)の光学特性のバラツキが大きくなる。上記引取張力Tの変動を上記範囲内に制御する方法としては、延伸部5の出口側の最初のロール(ガイドロール6)にかかる荷重、すなわちフィルムの張力を測定し、その値が一定となるように、一般的なPID制御方式により引取ロールまたはフィルム巻き取り部9の巻取ロールの回転速度を制御する方法が挙げられる。上記荷重を測定する方法としては、ガイドロール6の軸受部にロードセルを取り付け、ガイドロール6に加わる荷重、すなわちフィルムの張力を測定する方法が挙げられる。ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。
延伸後のフィルムは、延伸部5の把持具による把持が開放されて、延伸部5の出口から排出され、把持具で把持されていたフィルムの両端(両側)が必要に応じてトリミングされた後に、フィルム切断装置8によって所定の長さごとに切断され、順次巻芯(巻取ロール)に巻き取られて、斜め延伸フィルムの巻回体となる。
また、斜め延伸フィルムを巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを斜め延伸フィルムに重ねて同時に巻き取ってもよいし、巻き取りによって重なる斜め延伸フィルムの少なくとも一方(好ましくは両方)の端にテープ等を貼り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、斜め延伸フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
(延伸部の詳細)
次に、上述した延伸部5の詳細について説明する。図4は、延伸部5のレールパターンの一例を模式的に示す平面図である。但し、これは一例であって、延伸部5の構成はこれに限定されるものではない。
本実施形態における長尺斜め延伸フィルムの製造は、延伸部5として、斜め延伸可能なテンター(斜め延伸機)を用いて行われる。このテンターは、長尺フィルムを、延伸可能な任意の温度に加熱し、斜め延伸する装置である。このテンターは、加熱ゾーンZと、左右で一対のレールRi・Roと、レールRi・Roに沿って走行してフィルムを搬送する多数の把持具Ci・Co(図4では、1組の把持具のみを図示)とを備えている。なお、加熱ゾーンZの詳細については後述する。レールRi・Roは、それぞれ、複数のレール部を連結部で連結して構成されている(図4中の白丸は連結部の一例である)。把持具Ci・Coは、フィルムの幅手方向の両端を把持するクリップで構成されている。
図4において、長尺フィルムの繰出方向D1は、延伸後の長尺斜め延伸フィルムの巻取方向D2と異なっており、巻取方向D2との間で繰出角度θiを成している。繰出角度θiは0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
このように、繰出方向D1と巻取方向D2とが異なっているため、テンターのレールパターンは左右で非対称な形状となっている。そして、製造すべき長尺斜め延伸フィルムに与える配向角θ、延伸倍率等に応じて、レールパターンを手動または自動で調整できるようになっている。本実施形態の製造方法で用いられる斜め延伸機では、レールRi・Roを構成する各レール部およびレール連結部の位置を自由に設定し、レールパターンを任意に変更できることが好ましい。
本実施形態において、テンターの把持具Ci・Coは、前後の把持具Ci・Coと一定間隔を保って、一定速度で走行するようになっている。把持具Ci・Coの走行速度は適宜選択できるが、通常、1〜150m/minである。左右一対の把持具Ci・Coの走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。これは、延伸工程出口でフィルムの左右に進行速度差があると、延伸工程出口におけるシワ、寄りが発生するため、左右の把持具Ci・Coの速度差は、実質的に同速度であることが求められるためである。一般的なテンター装置等では、チェーンを駆動するスプロケットの歯の周期、駆動モータの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本発明の実施形態で述べる速度差には該当しない。
本実施形態の製造方法で用いられる斜め延伸機において、特にフィルムの搬送が斜めになる箇所において、把持具の軌跡を規制するレールには、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、あるいは局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が曲線を描くようにすることが望ましい。
このように、長尺フィルムに斜め方向の配向を付与するために用いられる斜め延伸テンターは、レールパターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定でき、さらに、フィルムの配向軸(遅相軸)をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚みやリタデーションを制御できるテンターであることが好ましい。
次に、延伸部5での延伸動作について説明する。長尺フィルムは、その両端を左右の把持具Ci・Coによって把持され、加熱ゾーンZ内を把持具Ci・Coの走行に伴って搬送される。左右の把持具Ci・Coは、延伸部5の入口部(図中Aの位置)において、フィルムの進行方向(繰出方向D1)に対して略垂直な方向に相対しており、左右非対称なレールRi・Ro上をそれぞれ走行し、延伸終了時の出口部(図中Bの位置)で把持したフィルムを開放する。把持具Ci・Coから開放されたフィルムは、前述したフィルム巻き取り部9にて巻芯に巻き取られる。一対のレールRi・Roは、それぞれ無端状の連続軌道を有しており、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持具Ci・Coは、外側のレールを走行して順次入口部に戻されるようになっている。
このとき、レールRi・Roは左右非対称であるため、図4の例では、図中Aの位置で相対していた左右の把持具Ci・Coは、レールRi・Ro上を走行するにつれて、レールRi側(インコース側)を走行する把持具CiがレールRo側(アウトコース側)を走行する把持具Coに対して先行する位置関係となる。
すなわち、図中Aの位置でフィルムの繰出方向D1に対して略垂直な方向に相対していた把持具Ci・Coのうち、一方の把持具Ciがフィルムの延伸終了時の位置Bに先に到達したときには、把持具Ci・Coを結んだ直線がフィルムの巻取方向D2に略垂直な方向に対して、角度θLだけ傾斜している。以上の所作をもって、長尺フィルムが幅手方向に対してθLの角度で斜め延伸されることとなる。ここで、略垂直とは、90±1°の範囲にあることを示す。
次に、上記した加熱ゾーンZの詳細について説明する。延伸部5の加熱ゾーンZは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および熱固定ゾーンZ3で構成されている。延伸部5では、把持具Ci・Coによって把持されたフィルムは、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2、熱固定ゾーンZ3を順に通過する。本実施形態では、予熱ゾーンZ1と延伸ゾーンZ2とは隔壁で区切られており、延伸ゾーンZ2と熱固定ゾーンZ3とは隔壁で区切られている。
予熱ゾーンZ1とは、加熱ゾーンZの入口部において、フィルムの両端を把持した把持具Ci・Coが、左右で(フィルム幅方向に)一定の間隔を保ったまま走行する区間を指す。
延伸ゾーンZ2とは、フィルムの両端を把持した把持具Ci・Coの間隔が開き出し、所定の間隔になるまでの区間を指す。このとき、上述のような斜め延伸が行われるが、必要に応じて斜め延伸前後において縦方向あるいは横方向に延伸してもよい。
熱固定ゾーンZ3とは、延伸ゾーンZ2より後の、把持具Ci・Coの間隔が再び一定となる区間であって、両端の把持具Ci・Coが互いに平行を保ったまま走行する区間を指す。
なお、延伸後のフィルムは、熱固定ゾーンZ3を通過した後に、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg(℃)以下に設定される区間(冷却ゾーン)を通過してもよい。このとき、冷却によるフィルムの縮みを考慮して、予め対向する把持具Ci・Coの間隔を狭めるようなレールパターンとしてもよい。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンZ1の温度はTg〜Tg+30℃、延伸ゾーンZ2の温度はTg〜Tg+30℃、熱固定ゾーンZ3及び冷却ゾーンの温度はTg−30〜Tg+20℃に設定することが好ましい。
なお、予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2および熱固定ゾーンZ3の長さは適宜選択でき、延伸ゾーンZ2の長さに対して、予熱ゾーンZ1の長さは通常100〜150%、熱固定ゾーンZ3の長さは通常50〜100%である。
また、延伸前のフィルムの幅をWo(mm)とし、延伸後のフィルムの幅をW(mm)とすると、延伸工程における延伸倍率R(W/Wo)は、好ましくは1.3〜3.0、より好ましくは1.5〜2.8である。延伸倍率がこの範囲にあると、フィルムの幅方向の厚みムラが小さくなるので好ましい。斜め延伸テンターの延伸ゾーンZ2において、幅方向で延伸温度に差を付けると、幅方向厚みムラをさらに良好なレベルにすることが可能になる。なお、上記の延伸倍率Rは、テンター入口部で把持したクリップ両端の間隔W1がテンター出口部において間隔W2となったときの倍率(W2/W1)に等しい。
なお、延伸部5における斜め延伸の手法は、上述した手法に限定されるわけではなく、例えば特開2008−23775号公報に開示されているような、同時2軸延伸によって斜め延伸を行ってもよい。なお、同時2軸延伸とは、供給される長尺フィルムの幅手方向の両端部を各把持具によって把持し、各把持具を移動させながら長尺フィルムを搬送するとともに、長尺フィルムの搬送方向を一定としたまま、一方の把持具の移動速度と他方の把持具の移動速度とを異ならせることにより、長尺フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸する方法である。その他、特開2011−11434号公報に開示されているような手法で斜め延伸を行ってもよい。
<長尺斜め延伸フィルムの品質>
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムにおいては、配向角θが巻取方向に対して、例えば0°より大きく90°未満の範囲に傾斜しており、少なくとも1300mmの幅において、幅方向の、面内リタデーションRoのバラツキが10nm以下、配向角θのバラツキが10°以下であることが好ましい。また、前記長尺斜め延伸フィルムの、波長550nmで測定した面内リタデーション値Ro(550)が、60nm以上220nm以下の範囲にあることが好ましく、80nm以上200nm以下の範囲であることがより好ましく、90nm以上190nm以下の範囲であることがさらに好ましい。
すなわち、本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムにおいて、面内リタデーションRoのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、2nm以下であり、1nm以下であることが好ましい。面内リタデーションRoのバラツキを上記範囲にすることにより、長尺斜め延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL画像表示装置に適用したときに、黒表示時の外光反射光の漏れによる色ムラを抑えることができる。また、長尺斜め延伸フィルムを例えば液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることも可能になる。
また、本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムにおいて、配向角θのバラツキは、幅方向の少なくとも1300mmにおいて、10°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましく、1°以下であることが最も好ましい。配向角θのバラツキが0.5を超える長尺斜め延伸フィルムを偏光子と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL表示装置などの画像表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、明暗のコントラストを低下させることがある。
なお、前記Roは、面内遅相軸方向の屈折率nxと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nyとの差にフィルムの平均厚みdを乗算した値(Ro=(nx−ny)×d)である。
本実施形態の製造方法により得られた長尺斜め延伸フィルムの平均厚みは、機械的強度および表示装置の薄型化などの観点から、10〜70μm、好ましくは10〜60μm、さらに好ましくは10〜50μm、特に好ましくは15〜35μmである。また、上記長尺斜め延伸フィルムの幅方向の厚みムラは、巻き取りの可否に影響を与えるため、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
<円偏光板>
本実施形態では、偏光板保護フィルム、偏光子、λ/4フィルムをこの順で積層して円偏光板を構成することができる。この場合、λ/4フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸(または透過軸)とのなす角度は45°である。本実施形態においては、長尺状偏光板保護フィルム、長尺状偏光子、長尺状λ/4フィルム(長尺斜め延伸フィルム)がこの順で積層して形成されることが好ましい。
本実施形態の円偏光板は、偏光子として、ヨウ素または二色性染料をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用し、λ/4フィルム/偏光子の構成で貼合して製造することができる。偏光子の膜厚は、5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。
偏光板は、一般的な方法で作製することができる。アルカリ鹸化処理したλ/4フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わされることが好ましい。
偏光板は、更に当該偏光板の偏光板保護フィルムの反対面に剥離フィルムを貼合して構成することができる。保護フィルムおよび剥離フィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
<有機EL画像表示装置>
図5は、本実施形態の有機EL画像表示装置100の概略の構成を示す断面図である。なお、有機EL画像表示装置100の構成は、これに限定されるものではない。
有機EL画像表示装置100は、有機EL素子101上に接着層201を介して円偏光板301を形成することによって構成されている。有機EL素子101は、ガラスやポリイミド等を用いた基板111上に、順に、金属電極112、発光層113、透明電極(ITO等)114、封止層115を有して構成されている。なお、金属電極112は、反射電極と透明電極とで構成されていてもよい。
円偏光板301は、有機EL素子101側から順に、光学フィルム316、接着層315、偏光子311、接着層312、λ/4フィルム313、硬化層314を積層してなる。なお、光学フィルム316、接着層315、偏光子311、接着層312、λ/4フィルム313、硬化層314は、それぞれ、図1の保護フィルム26、接着層25、偏光子21、接着層22、λ/4フィルム23、硬化層24に対応している。また、光学フィルム316は、ここではλ/4フィルムであり、偏光子311の透過軸と光学フィルム316の遅相軸とのなす角度が約45°(または135°)となるように貼り合わされている。なお、有機EL画像表示装置100は、図1のフロントウィンドウ13および充填材14に相当する部材も有しているが、図5ではその図示を省略している。
上記の硬化層314は、有機EL画像表示装置100の表面のキズを防止するだけではなく、円偏光板301による反りを防止する効果を有する。更に、硬化層314上には、反射防止層を有していてもよい。上記有機EL素子101自体の厚さは1μm程度である。
上記の構成において、金属電極112と透明電極114とに電圧を印加すると、発光層113に対して、金属電極112および透明電極114のうちで陰極となる電極から電子が注入され、陽極となる電極から正孔が注入され、両者が発光層113で再結合することにより、発光層113の発光特性に対応した可視光線の発光が生じる。発光層113で生じた光は、直接または金属電極112で反射した後、透明電極114および円偏光板301を介して外部に取り出されることになる。
このとき、円偏光板301の偏光子311を透過した直線偏光が、λ/4フィルム313にて円偏光または楕円偏光に変換されるため、偏光サングラスを装着して有機EL表示装置100の表示画像をどのような角度で観察する場合でも、偏光サングラスの透過軸に平行な光の成分を観察者の眼に導いて表示画像を観察させることができる。
ところで、一般に、有機EL画像表示装置においては、透明基板上に金属電極と発光層と透明電極とを順に積層して発光体である素子(有機EL素子)が形成されている。ここで、発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、このような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層との積層体や、これらの正孔注入層、発光層、電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
有機EL画像表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物質を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
有機EL画像表示装置においては、発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
このような構成の有機EL画像表示装置において、発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL画像表示装置の表示面が鏡面のように見える。
本実施形態の円偏光板は、このような外光反射が特に問題となる有機EL画像表示装置に適している。
すなわち、有機EL素子101の非発光時に、室内照明等により有機EL素子101の外部から入射した外光は、円偏光板301の偏光子311によって半分は吸収され、残りの半分は直線偏光として透過し、光学フィルム316に入射する。光学フィルム316に入射した光は、偏光子311の透過軸と光学フィルム316の遅相軸とが45°(または135°)で交差するように配置されているため、光学フィルム316を透過することにより円偏光に変換される。
光学フィルム316から出射された円偏光は、有機EL素子101の金属電極112で鏡面反射する際に、位相が180度反転し、逆回りの円偏光として反射される。この反射光は、光学フィルム316に入射することにより、偏光子311の透過軸に垂直(吸収軸に平行)な直線偏光に変換されるため、偏光子311で全て吸収され、外部に出射されないことになる。つまり、円偏光板301により、有機EL素子101での外光反射を低減することができる。
〔実施例〕
以下、本実施形態における偏光板の具体例な実施例について、比較例も挙げながら説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下では、「部」あるいは「%」の表記を用いるが、特に断らない限り、これらは「質量部」あるいは「質量%」を表すものとする。なお、後述する実施例11〜13以外の実施例は、本発明の単なる参考例であり、本発明には属さないものである。
<長尺フィルムの作製>
以下の方法により、長尺フィルムA〜Cを作製した。
(長尺フィルムA)
長尺フィルムAは、ポリカーボネート系樹脂フィルム(PC)であり、以下の製造方法により作製した。
≪ドープ組成物≫
ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量4万、ビスフェノールA型)
100質量部
2−(2′ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−ベンゾトリアゾール
1.0質量部
メチレンクロライド 430質量部
メタノール 90質量部
上記組成物を密閉容器に投入し、加圧下で80℃に保温し攪拌しながら完全に溶解して、ドープ組成物を得た。
次いで、このドープ組成物を濾過し、冷却して33℃に保ち、ステンレスバンド上に均一に流延し、33℃で5分間乾燥した。その後、65℃でリタデーションが5nmになるように乾燥時間を調整し、ステンレスバンド上から剥離後、多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ膜厚85μm、幅1000mm、光弾性係数が2.5×10-11(Pa-1)の長尺フィルムAを得た。
(長尺フィルムB)
長尺フィルムBは、シクロオレフィン系樹脂フィルム(COP)であり、以下の製造方法により作製した。
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500質量部に、1−ヘキセン1.2質量部、ジブチルエーテル0.15質量部、トリイソブチルアルミニウム0.30質量部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン、以下、DCPと略記)20質量部、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン(以下、MTFと略記)140質量部および8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−ドデカ−3−エン(以下、MTDと略記)40質量部からなるノルボルネン系モノマー混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40質量部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06質量部とイソプロピルアルコール0.52質量部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100質量部に対して、シクロヘキサン270質量部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル−アルミナ触媒(日揮触媒化成(株)製)5質量部を加え、水素により5MPaに加圧して攪拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、DCP/MTF/MTD開環重合体水素化ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。
濾過により水素化触媒を除去した後、軟質重合体((株)クラレ製;セプトン2002)および酸化防止剤(チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製;イルガノックス1010)を、得られた溶液にそれぞれ添加して溶解させた(いずれも重合体100質量部あたり0.1質量部)。次いで、溶液から、溶媒であるシクロヘキサンおよびその他の揮発成分を、円筒型濃縮乾燥器((株)日立製作所製)を用いて除去し、水素化ポリマーを溶融状態で押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化して回収した。重合体中の各ノルボルネン系モノマーの共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/MTF/MTD=10/70/20でほぼ仕込組成に等しかった。この開環重合体水素添加物の、重量平均分子量(Mw)は31,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.5、水素添加率は99.9%、Tgは134℃であった。
得られた開環重合体水素添加物のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した。次いで、前記ペレットを、コートハンガータイプのTダイを有する短軸押出機(三菱重工業(株)製:スクリュー径90mm、Tダイリップ部材質は炭化タングステン、溶融樹脂との剥離強度44N)を用いて溶融押出成形して厚み75μmのシクロオレフィンポリマーフィルムを製造した。押出成形は、クラス10,000以下のクリーンルーム内で、溶融樹脂温度240℃、Tダイ温度240℃の成形条件にて幅1000mm、光弾性係数5.0×10-12(Pa-1)の長尺フィルムBを得た。
(長尺フィルムC)
長尺フィルムCは、セルロースエステル系樹脂フィルムであり、以下の製造方法により作製した。
≪微粒子分散液≫
微粒子(アエロジルR972V 日本アエロジル(株)製)
11質量部
エタノール 89質量部
以上をディゾルバーで50分間攪拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。
≪微粒子添加液≫
以下の組成に基づいて、メチレンクロライドを入れた溶解タンクに充分攪拌しながら、上記微粒子分散液をゆっくりと添加した。さらに二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
メチレンクロライド 99質量部
微粒子分散液1 5質量部
≪主ドープ液≫
下記組成の主ドープ液を調製した。まず加圧溶解タンクにメチレンクロライドとエタノールを添加した。溶剤の入った加圧溶解タンクにセルロースアセテートを攪拌しながら投入した。これを加熱し、攪拌しながら、完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過し、主ドープ液を調製した。なお、糖エステル化合物およびエステル化合物は、以下の合成例により合成した化合物を用いた。
《主ドープ液の組成》
メチレンクロライド 340質量部
エタノール 64質量部
セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.50、プロピオニル基置換度0.90、総置換度2.40)
100質量部
糖エステル化合物 5.0質量部
エステル化合物 5.0質量部
微粒子添加液1 1質量部
≪糖エステル化合物の合成≫
以下の工程により、糖エステル化合物を合成した。
攪拌装置、還流冷却器、温度計および窒素ガス導入管を備えた四頭コルベンに、ショ糖34.2g(0.1モル)、無水安息香酸180.8g(0.6モル)、ピリジン379.7g(4.8モル)を仕込み、攪拌下に窒素ガス導入管から窒素ガスをバブリングさせながら昇温し、70℃で5時間エステル化反応を行った。
次に、コルベン内を4×102Pa以下に減圧し、60℃で過剰のピリジンを留去した後に、コルベン内を1.3×10Pa以下に減圧し、120℃まで昇温させ、無水安息香酸、生成した安息香酸の大部分を留去した。
最後に、分取したトルエン層に水100gを添加し、常温で30分間水洗後、トルエン層を分取し、減圧下(4×102Pa以下)、60℃でトルエンを留去させ、化合物A−1、A−2、A−3、A−4およびA−5の混合物(糖エステル化合物)を得た。
得られた混合物をHPLCおよびLC−MASSで解析したところ、A−1が1.3質量%、A−2が13.4質量%、A−3が13.1質量%、A−4が31.7質量%、A−5が40.5質量%であった。平均置換度は5.5であった。
《HPLC−MSの測定条件》
1)LC部
装置:日本分光(株)製カラムオーブン(JASCO CO−965)、ディテクター(JASCO UV−970−240nm)、ポンプ(JASCO PU−980)、デガッサ−(JASCO DG−980−50)
カラム:Inertsil ODS−3 粒子径5μm 4.6×250mm(ジーエルサイエンス(株)製)
カラム温度:40℃
流速:1ml/min
移動相:THF(1%酢酸):H2O(50:50)
注入量:3μl
2)MS部
装置:LCQ DECA(Thermo Quest(株)製)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法
Spray Voltage:5kV
Capillary温度:180℃
Vaporizer温度:450℃
≪エステル化合物の合成≫
以下の工程により、エステル化合物を合成した。
1,2−プロピレングリコール251g、無水フタル酸278g、アジピン酸91g、安息香酸610g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.191gを、温度計、攪拌器、緩急冷却管を備えた2Lの四つ口フラスコに仕込み、窒素気流中230℃になるまで、攪拌しながら徐々に昇温する。15時間脱水縮合反応させ、反応終了後200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去することにより、エステル化合物を得た。エステル化合物は、1,2−プロピレングリコール、無水フタル酸およびアジピン酸が縮合して形成されたポリエステル鎖の末端に安息香酸のエステルを有する。エステル化合物の酸価は0.10、数平均分子量は450であった。
次いで、無端ベルト流延装置を用い、ステンレスベルト支持体上に均一に流延した。
無端ベルト流延装置では、上記主ドープ液をステンレススティールベルト支持体上に均一に流延した。ステンレススティールベルト支持体上で、流延(キャスト)した長尺フィルム中の残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレススティールベルト支持体上から剥離し、多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、幅1000mmの長尺フィルムCを得た。このとき長尺フィルムCの膜厚は100μmであり、光弾性係数は2.0×10-12(Pa-1)であった。
上記長尺フィルムA〜Cの光弾性係数の測定方法としては、以下のような手順で実施した。
得られた長尺フィルムA〜Cを30mm×50mmのサンプルサイズに切り出し、大塚電子(株)製のセルギャップ検査装置(RETS−1200、測定径:直径5mm、光源:589nm)を用い、フィルム厚みがd(nm)であるサンプルを支持具に挟み長手方向に9.81×106の応力σ(Pa)をかけた。この応力下での位相差R1(nm)を測定した。応力をかける前の位相差をR0(nm)とし、下記式に代入して光弾性係数Cσ(Pa-1)を求めた。
Cσ(Pa-1)=(R1−R0)/(σ×d)
<実施例1>
[λ/4フィルムの作製]
図3で示した製造装置を用いて、配向角θが45°となるように長尺フィルムCを延伸して、λ/4フィルムとしての長尺斜め延伸フィルムを作製した。長尺フィルムの搬送速度は25m/分とした。延伸装置から排出された長尺斜め延伸フィルムの端部トリミング処理を施し、最終的な長尺斜め延伸フィルムのフィルム幅を調整した。λ/4フィルムの膜厚は30μmであり、Roは138nmであった。
[保護フィルムの作製]
ラクトン環単位を含む下記アクリル樹脂の調製を行った。すなわち、特開2008−9378号公報[0222]〜[0224]の製造例1に従い、メタクリル酸メチル7500g、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2500gから合成し、ラクトン化率98%、Tg=134℃のアクリル樹脂を得た。
調製した前記アクリル樹脂を90℃の真空乾燥機で乾燥して含水率を0.03%以下とした後、安定剤(イルガノックス1010(チバガイギ(株)製)0.3重量%添加し230℃において窒素気流中下、ベント付2軸混練押出し機を用い、水中に押出しストランド状にした後、裁断し直径3mm長さ5mmのペレットを得た。
これらのペレットを90℃の真空乾燥機で乾燥し含水率を0.03%以下とした後、1軸混練押出し機を用い供給部210℃、圧縮部230℃、計量部230℃で混練し押出した。このとき押し出し機とダイの間に300メッシュのスクリーンフィルター、ギアポンプ、濾過精度7μmのリーフディスクフィルターをこの順に配置し、これらをメルト配管で連結した。さらにスタチックミキサーをダイ直前のメルト配管内に設置した。ダイ両端の温度とダイ中央の温度の差、ダイリップ温度とダイ温度の差温度、C/T比は、所定の条件とした。
この後、3連のキャストロール上にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側のキャストロール(チルロール)に所定の面圧でタッチロールを接触させた。タッチロールは特開平11−235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの、但し薄肉金属外筒厚みは2mmとした)を用い、所定のタッチ圧、タッチロール温度で使用した。なお、チルロールを含む3連のキャストロールの温度は、上流から順に、タッチロール温度+3℃、タッチロール温度−2℃、タッチロール温度−7℃とした。
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各5cm)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ20μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。また製膜幅1.5mとし、製膜速度30m/分で3000m巻き取った。巻き取った保護フィルムの厚さは、30μmとした。
[偏光子の作製]
けん化度99.95モル%、重合度2400のポリビニルアルコール(PVA)100質量部に、グリセリン10質量部、及び水170質量部を含浸させたものを溶融混練し、脱泡後、Tダイから金属ロール上に溶融押出し、製膜した。その後、乾燥・熱処理して、PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムは、平均厚さが25μm、水分率が4.4%、フィルム幅が3mであった。
次に、得られたPVAフィルムを予備膨潤、染色、湿式法による一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で、連続的に処理して、偏光層(偏光子)を作製した。
すなわち、PVAフィルムを温度30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの温度35℃の水溶液中に3分間浸した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中でフィルムにかかる張力が700N/mの条件下で、6倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度40g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの温度30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。
その後、PVAフィルムを取り出し、温度40℃で熱風乾燥し、更に温度100℃で5分間熱処理を行った。得られた偏光層は、平均厚さが18μm、偏光性能については透過率が43.0%、偏光度が99.5%、2色性比が40.1であった。
[偏光子へのフィルムの貼合]
下記工程1〜4に従って、偏光子の表面にλ/4フィルムを貼り合わせ、偏光子の裏面に保護フィルムを貼り合わせた。
(工程1)
前述の偏光子を、固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤溶液の貯留槽中に1〜2秒間浸漬した。
(工程2)
λ/4フィルムに対して、下記条件でアルカリ処理を実施した。
鹸化工程 2.5mol/L−KOH 50℃ 120秒
水洗工程 水 30℃ 60秒
中和工程 10質量部HCl 30℃ 45秒
水洗工程 水 30℃ 60秒
鹸化処理後、水洗、中和、水洗の順に行い、次いで100℃で乾燥する。
次いで、工程1で用いたポリビニルアルコール接着剤溶液に偏光子を浸漬した。浸漬した偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、この偏光子をλ/4フィルムおよび保護フィルムで挟み込んで、積層配置した。
(工程3)
積層物を、2つの回転するローラにて、20〜30N/cm2の圧力で約2m/minの速度で貼り合わせた。このとき、気泡が入らないように注意した。
(工程4)
工程3で作製した試料を、温度100℃の乾燥機中にて5分間乾燥処理し、ロール状の積層体とした。
[ハードコート層の形成]
下記のハードコート層組成物を孔径0.4μmのポリプロピレン製フィルターで濾過し、押し出しコーターを用いて濾過物を、上記積層体のλ/4フィルム上に塗布した。これを恒率乾燥区間温度80℃、減率乾燥区間温度80℃で乾燥した後、酸素濃度が1.0体積%以下の雰囲気になるように窒素パージしながら、紫外線ランプを用い照射部の照度が100mW/cm2で、照射量を0.23J/cm2として塗布層を硬化させ、ドライ膜厚7.5μmのハードコート層(硬化層)を形成した。
(ハードコート層組成物)
《樹脂》
・ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(NKエステルA−TMM−3L、新中村化学工業(株)製)
30質量部
・活性エネルギー線硬化型イソシアヌレート誘導体:トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(NKエステルA−9300、新中村化学工業(株)製)
35質量部
・A群の活性エネルギー線硬化型樹脂:N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド(アロニックスM−140、東亞合成(株)製)
35質量部
《光重合開始剤》
・イルガキュア184(BASFジャパン(株)製) 5質量部
《添加剤》
・ポリエーテル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサン:BYK−UV3510(ビックケミー社製)
1質量部
《溶剤》
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 15質量部
・酢酸メチル 25質量部
・メチルエチルケトン 60質量部
《紫外線吸収剤》
・チヌビン928(BASFジャパン(株)製) 12質量部
以上により、偏光子の一方の面に接着層(PVA接着剤(水糊))を介してλ/4フィルム、有機UV吸収剤を含有する硬化層を形成し、他方の面に保護フィルムを形成してなる、実施例1の偏光板を作製した。なお、実施例1では、λ/4フィルムの厚さは30μmであり、接着層の厚みは0.02μmであった。
<実施例2>
実施例2では、偏光子へのλ/4フィルムおよび保護フィルムの貼合を、紫外線硬化型接着剤(UV接着剤)を用いて行った以外は、実施例1と同様にして偏光板を作製した。
[紫外線硬化型接着剤1の調製]
下記の各成分を混合した後、脱泡して、紫外線硬化型接着剤液1を調製した。なお、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートは、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、下記にはトリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートの固形分量を表示した。
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート
45質量部
エポリードGT−301(ダイセル化学社製の脂環式エポキシ樹脂)
40質量部
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル 15質量部
トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート 2.3質量部
9,10−ジブトキシアントラセン 0.1質量部
1,4−ジエトキシナフタレン 2.0質量部
《偏光板の作製》
まず、λ/4フィルムの表面にコロナ放電処理を施した。なお、コロナ放電処理の条件は、コロナ出力強度2.0kW、ライン速度18m/分とした。次いで、λ/4フィルムのコロナ放電処理面に、上記調製した紫外線硬化型接着剤液1を、硬化後の膜厚が約2μmとなるようにバーコーターで塗工してUV接着層1を形成した。そして、得られたUV接着層1に偏光子(厚さ18μm)を貼合した。
次いで、保護フィルムの表面にコロナ放電処理を施した。コロナ放電処理の条件は、コロナ出力強度2.0kW、速度18m/分とした。そして、保護フィルムのコロナ放電処理面に、上記調製した紫外線硬化型接着剤液1を、硬化後の膜厚が約2μmとなるようにバーコーターで塗工してUV接着層2を形成した。
そして、偏光子のλ/4フィルム側とは反対側の面に、UV接着層2を介して保護フィルムを貼合した。これにより、λ/4フィルム/UV接着層1/偏光子/UV接着層2/保護フィルムが積層された積層体を得た。このとき、保護フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸とが45°の角度をなすように貼合した。
この積層体の両面側から、ベルトコンベア付き紫外線照射装置(ランプは、フュージョンUVシステムズ社製のDバルブを使用)を用いて、積算光量が750mJ/cm2となるように紫外線を照射し、それぞれのUV接着層1・2を硬化させた。その後、λ/4フィルムの表面に実施例1と同様にして硬化層を形成して偏光板を作製した。
<実施例3>
実施例3では、偏光子とλ/4フィルム、偏光子と保護フィルムとのUV接着を、WO2012/086465の実施例1と同様の手法で行った以外は、実施例2と同様にして偏光板を作製した。より具体的には以下の通りである。
(活性エネルギー線)
活性エネルギー線として、紫外線(ガリウム封入メタルハライドランプ)(照射装置:Fusion UV Systems,Inc社製Light HAMMER10、バルブ:Vバルブ、ピーク照度:1600mW/cm2、積算照射量1000/mJ/cm2(波長380〜440nm))を使用した。なお、紫外線の照度は、Solatell社製Sola−Checkシステムを使用して測定した。
(活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の調整)
以下の各成分を混合して50℃で1時間撹拌し、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を得た。
(1)ラジカル重合性化合物
HEAA(ヒドロキシエチルアクリルアミド)興人社製
38.3質量部
(2)ラジカル重合性化合物
アロニックスM−220(トリプロピレングリコールジアクリレート)、東亞合成社製
19.1質量部
(3)ラジカル重合性化合物
ACMO(アクリロイルモルホリン)、興人社製 38.3質量部
(4)光重合開始剤
KAYACURE DETX−S(ジエチルチオキサントン)、日本化薬社製
1.4質量部
IRGACURE907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、BASF社製
1.4質量部
次に、λ/4フィルムおよび保護フィルム上に、上記の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を、MCDコーター(富士機械社製)(セル形状:ハニカム、グラビアロール線数:1000本/inch、回転速度140%/対ライン速)を用いて、厚み0.5μmになるように塗工し、偏光子の両面にロール機で貼り合わせた。その後、偏光子の両側(λ/4フィルム側および保護フィルム側)から、IRヒーターを用いて50℃に加温し、上記紫外線を両面に照射して上記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を硬化させた後、70℃で3分間熱風乾燥して偏光板を得た。貼り合わせのライン速度は25m/minで行った。
<実施例4>
実施例4では、λ/4フィルムの厚さを18μmから12μmに薄くして偏光板を作製した以外は、実施例1と同様である。
<実施例5>
実施例5では、λ/4フィルムの厚さを18μmから5μmにさらに薄くして偏光板を作製した以外は、実施例1と同様である。
<実施例6>
実施例6では、ポリカーボネート系樹脂フィルムである長尺フィルムAを斜め延伸してλ/4フィルムを作製し、このλ/4フィルムを用いて偏光板を作製した以外は、実施例2と同様である。λ/4フィルムの膜厚は30μmであり、Roは120nmであった。
<実施例7>
実施例7では、シクロオレフィン系樹脂フィルムである長尺フィルムBを斜め延伸してλ/4フィルムを作製し、このλ/4フィルムを用いて偏光板を作製した以外は、実施例2と同様である。λ/4フィルムの膜厚は30μmであり、Roは90nmであった。
<実施例8>
実施例8では、硬化層に含まれる紫外線吸収剤と同じものをλ/4フィルムに含ませて偏光板を作製した以外は、実施例1と同様である。λ/4フィルムの膜厚は30μmであり、Roは138nmであった。
<実施例9>
実施例9では、硬化層に含まれる添加剤として、BYK−UV3510の代わりにアクリル系の界面活性剤(表面調整剤)であるBYK−381(ビックケミー社製)を用いて偏光板を作製した。上記偏光板におけるλ/4フィルムの膜厚は20μmであり、Roは80nmであり、偏光子の厚さは12μmであった。上記以外は、実施例3と同様である。
<実施例10>
実施例10では、硬化層に含まれる添加剤として、BYK−381の代わりにサーフィノール104PG−50(日信化学工業社製)を用いて偏光板を作製した以外は、実施例9と同様である。本実施例においても、λ/4フィルムの膜厚は20μmであり、Roは80nmであった。
<実施例11>
実施例11では、硬化層の上に、機能層であるオーバーコート層を形成して偏光板を作製した以外は、実施例9と同様である。オーバーコート層は、実施例1の硬化層から、紫外線吸収剤であるチヌビン928を抜いたもので構成されており、乾燥後の膜厚が2μmとなるように、硬化層の上に塗布されている。なお、硬化層およびオーバーコート層の添加剤としては、どちらも、シリコーン系界面活性剤であるKF−351(信越化学工業株式会社製)を用いた。本実施例においても、λ/4フィルムの膜厚は20μmであり、Roは80nmであった。
<実施例12>
実施例12では、オーバーコート層の添加剤として、KF−351の代わりにBYK−381を用いて偏光板を作製した以外は、実施例11と同様である。本実施例においても、λ/4フィルムの膜厚は20μmであり、Roは80nmであった。
<実施例13>
実施例13では、オーバーコート層の添加剤として、KF−351の代わりにサーフィノール104PG−50(日信化学工業社製)を用いて偏光板を作製した以外は、実施例11と同様である。本実施例においても、λ/4フィルムの膜厚は20μmであり、Roは80nmであった。
<比較例1>
比較例1では、λ/4フィルムを特許文献1のように厚さ80μmの厚膜とし、硬化層に含有させていた紫外線吸収剤(有機化合物)を、厚膜のλ/4フィルムに含有させた点を除き、実施例1と同様にして偏光板を作製した。λ/4フィルムのRoは138nmであった。
<比較例2>
比較例2では、シクロオレフィン系樹脂フィルムである長尺フィルムBを斜め延伸して厚さ80μmの厚膜λ/4フィルムを作製し、厚さ10μmのアクリル系粘着剤からなる粘着層を介して、λ/4フィルムを偏光子に貼合した。また、硬化層に、紫外線吸収剤として無機微粒子(ここでは酸化チタン)を含有させた。それ以外は、実施例1と同様にして偏光板を作製した。λ/4フィルムのRoは138nmであった。
<比較例3>
比較例3では、厚膜λ/4フィルムの代わりに、厚さ30μmの薄膜λ/4フィルムを用いて偏光板を作製した以外は、比較例2と同様である。λ/4フィルムのRoは138nmであった。
<比較例4>
比較例4では、粘着層ではなく、PVAからなる接着層(厚さ0.02μm)を介して厚膜λ/4フィルムを偏光子に貼合した以外は、比較例2と同様にして偏光板を作製した。
<比較例5>
比較例5では、厚膜λ/4フィルムの代わりに、厚さ30μmの薄膜λ/4フィルムを用いて偏光板を作製した以外は、比較例4と同様である。λ/4フィルムのRoは138nmであった。
<比較例6>
比較例6では、硬化層に、紫外線吸収機能を持つ無機微粒子を含めずに偏光板を作製した以外は、比較例5と同様である。
<比較例7>
比較例7では、ポリカーボネート系樹脂フィルムである長尺フィルムAを斜め延伸して厚さ35μmの薄膜λ/4フィルムを作製し、この薄膜λ/4フィルムを用いて偏光板を作製した以外は、比較例1と同様である。λ/4フィルムのRoは138nmであった。
<液晶表示装置の作製および耐久試験>
市販の10インチの液晶表示装置の予め貼合されていた視認側の偏光板を剥がし、上記作製した偏光板を液晶セルの基板面に貼合して、液晶表示装置を作製した。その際、偏光板の貼合は、予め貼合されていた偏光板と同一方向に吸収軸が向くように行った。そして、このような液晶表示装置を、サンプルとして20個作製した。そして、耐久試験として、液晶表示装置を60℃95%RHで500時間放置した後、偏光顕微鏡を用いて、画面中心部と画面周辺部とで視認性を以下の基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎ 周辺部輝度アップ(視認性劣化)が、サンプル20個中で0個であった。
○ 周辺部輝度アップ(視認性劣化)が、サンプル20個中で1〜2個であった。
× 周辺部輝度アップ(視認性劣化)が、サンプル20個中で3個以上であった。
なお、偏光板の硬化層がλ/4フィルムから剥がれたり、λ/4フィルムにクラックが生じると、偏光サングラスを装着して表示画像を観察したときに、画面周辺部の輝度がアップして視認性が劣化するため、輝度に基づいて視認性を評価することができる。
なお、硬化層がλ/4フィルムから剥がれると、硬化層とλ/4フィルムの間に空気層ができ、硬化層と空気層との界面、および空気層とλ/4フィルムとの界面で反射が起こる。また、λ/4フィルムにクラックが生じると、クラック部分で光の散乱が起こる。このため、硬化層の剥がれやλ/4フィルムにクラックが生じると、偏光サングラスを装着して表示画像を観察したときに、画面周辺部の輝度がアップするものと推測される。
表1は、実施例1〜13および比較例1〜7の偏光板を用いた液晶表示装置について、耐久試験後の視認性の評価を行った結果を示している。
実施例1〜13では、耐久試験による視認性劣化が抑えられている。これは、以下の理由によるものと考えられる。膜厚70μm以下の薄膜のλ/4フィルムを、接着層を介して偏光子に接着した薄型の偏光板において、紫外線硬化型樹脂からなる硬化層に有機UV吸収剤が含まれていると、UV照射による硬化の際に、表面側よりもλ/4フィルムとの界面側で硬化層が柔らかくなり、耐久試験時にλ/4フィルムに対する硬化層側からの応力が軽減されるため、λ/4フィルムにクラックが生じにくくなる。また、耐久試験による偏光子の収縮に伴ってλ/4フィルムが収縮しても、硬化層のλ/4フィルム側がその収縮に追従するため、硬化層とλ/4フィルムとの密着性低下が抑えられ、硬化層が剥がれにくくなる。
特に、偏光子の厚さが薄い実施例4、5、9〜13では、耐久試験による視認性の劣化を抑える効果が高い結果が得られている。これは、偏光子の厚さが薄いと、耐久試験時に偏光子の収縮によってλ/4フィルムにかかる応力が小さくなり、λ/4フィルムにクラックがさらに生じにくくなるためと考えられる。また、偏光子の収縮に伴うλ/4フィルムの収縮も小さいため、硬化層の剥がれもさらに抑制されるものと考えられる。
なお、実施例1〜13では、全て、偏光子の厚さが20μm以下となっているが、偏光子の厚さが18μmの実施例1等では視認性の評価が○であり、偏光子の厚さが12μmの実施例4では視認性の評価が◎であることから、偏光子の厚さが18μmと12μmとの間の15μm以下であれば、視認性の評価が◎となり、視認性劣化を抑える本発明の効果が大きいことが推測される。したがって、視認性劣化を抑える観点からは、偏光子の厚さは18μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがさらに好ましいと言える。
一方、比較例5〜7の偏光板を用いた場合、視認性が劣化している。これは、比較例5の偏光板では、硬化層にUV吸収剤が含有されているが、それが無機微粒子であるため、ハードコート層とλ/4フィルムとの界面付近に無機微粒子が存在して両者の密着性が低下し、耐久試験時にハードコート層が剥がれやすくなっているためと考えられる。また、比較例6および7の偏光板では、硬化層にUV吸収剤が含有されておらず、UV照射によってλ/4フィルムとの界面付近で硬化層の硬度を下げることができないため、耐久試験時に偏光子側からの応力のみならず硬化層側からの応力がλ/4フィルムに作用してλ/4フィルムにクラックが生じているためと考えられる。
なお、比較例1〜4の偏光板は、本発明の前提となる構成、つまり、薄膜のλ/4フィルムを、接着層を介して偏光子に接着した構成を有していないものであるが、本発明が薄型の偏光板で生じる課題を解決するものであることを明確にするために挙げたものである。比較例1〜4のように、膜厚80μm以上の厚膜のλ/4フィルムを用いた構成や、偏光子とλ/4フィルムとを粘着層を介して貼り合わせた構成では、上記のような視認性の劣化は確認されなかったが、これは以下の理由によると考えられる。
厚膜のλ/4フィルムを用いた場合は、λ/4フィルムが耐久試験時の偏光子側およびハードコート層側からの応力に耐え得る膜厚を有しているため、λ/4フィルムにクラックが生じにくくなる。また、λ/4フィルムが厚膜の場合は、耐久試験時に偏光子の収縮に伴ってλ/4フィルムが収縮しにくくなるため、ハードコート層が剥がれにくくなる。一方、偏光子とλ/4フィルムとを粘着層を介して貼り合わせた構成では、粘着層が耐久試験時に偏光子の収縮による応力を吸収し、λ/4フィルムにかかる応力を軽減するため、λ/4フィルムにクラックが入りにくくなる。また、粘着層が弾性を有することで、耐久試験時に偏光子の収縮が粘着層で吸収されるため、λ/4フィルムの収縮が軽減される。このため、(ハードコート層が無機微粒子を含んでいても)ハードコート層が剥がれにくくなる。