JP6368939B2 - 難燃性木材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、難燃性木材の製造方法に関する。
木質材料は、意匠性に優れ、高断熱性、やわらかさといった高機能性を持つ半面、燃えやすいという欠点をもつ。そのため、燃えにくさを求められる場所に使用するためには、不燃化・難燃化処理(以後、「難燃化処理」という)を施した木質材料が使用される。
難燃化処理として、例えば、ホウ酸系及びリン酸系の水溶性薬剤を含む水溶液を木材に圧入した後に乾燥して、難燃化成分を木材内部に析出させることで難燃化処理した木材を得る方法が知られている(例えば、特許文献1)。また、アルミン酸ナトリウム水溶液を木質材料に接触させて得たアルミン酸ナトリウム含有木質材料に、二酸化炭素を接触させ、木質材料中に水酸化アルミニウムを生成させて、難燃性を有する木質材料を得る方法が知られている(例えば、特許文献2)。
特開2006−182024号公報 特開2013−28042号公報
特許文献1で用いられる、ホウ酸系及びリン酸系の薬剤は水溶性であるため、乾燥時に薬剤が木材表面に浮かび上がってくる白化現象が起こり、薬剤を有効に木材内に注入しにくいという問題が生ずる。さらに、処理された難燃化木材と水とを接触させると薬剤が溶出するため、難燃性が低下するとともに、木材外観、人体、環境への悪影響が懸念される。そのため、水と接触しない場所での使用に限定されているのが現状である。また、特許文献1及び特許文献2のように、溶媒として水を用いる手法では、乾燥状態の難燃化木材を得るためには、注入した溶液に含まれる水分を蒸発させる必要があり、エネルギーが大量に必要であり、さらに処理に時間を要する。
このような従来技術の課題に鑑み、本発明は、処理する際の必要乾燥エネルギー負荷が小さく、難燃化成分の再溶出が抑制された難燃化木材の製造方法を提供する。
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
本発明の第一の態様は、(a)アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方並びに有機溶剤を含む木材処理溶液と木材とを接触させて、木材処理溶液含有木材を得る工程、
(b)木材処理溶液含有木材の内部で、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方と水との接触により、前記木材処理溶液含有木材の内部に水酸化アルミニウムを析出させて、水酸化アルミニウム含有木材を得る工程、及び
(c)水酸化アルミニウム含有木材から、有機溶剤の少なくとも一部を除去して、難燃性木材を得る工程
を含む、難燃性木材の製造方法である。
本発明の第二の態様は、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方が10℃で液体である、前記の難燃性木材の製造方法である。
本発明の第三の態様は、木材処理溶液中のアルミニウム元素濃度が2.5重量%以上である、前記の難燃性木材の製造方法である。
本発明によれば、処理する際の必要乾燥エネルギー負荷が小さく、難燃化成分の再溶出が抑制された難燃化木材の製造方法を提供することができる。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
[工程(a)]
工程(a)では、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方並びに有機溶剤を含む木材処理溶液と木材とを接触させて、木材処理溶液含有木材を得る。
本発明において、木材処理溶液は、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方並びに有機溶剤を含む溶液である。木材処理溶液は、アルミニウムアルコキシド及び有機溶剤を含む溶液であってもよく、アルミニウムキレート及び有機溶剤を含む溶液であってもよい。木材処理溶液に用いられる有機溶剤は、水溶媒と比較して、乾燥に必要なエネルギーが小さく、乾燥速度が速いため、低コストで木材を処理することが可能である。また、一般的に有機溶剤は、水に対して低粘度であるため、木材の内部の細かい部分まで木材処理溶液がより浸透しやすくなると考えられる。
<有機溶剤>
有機溶剤は、固体のアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方が溶解するか、液体のアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方と均一に混ざるもので、かつ木材に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。有機溶剤は、後述する工程(b)において副生するアルミニウムアルコキシド由来のアルコール、及び、アルミニウムキレート由来のアルコールやジケトンの3つの成分の少なくとも一方と混和可能な溶剤であることが好ましい。有機溶剤は、例えば、炭化水素系溶剤、含塩素系溶剤、含フッ素系溶剤が挙げられる。なお、塩素及びフッ素のいずれも含有する溶剤は、含フッ素系溶剤とする。
炭化水素系溶剤として、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶剤;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和環状炭化水素系溶剤が挙げられる。
塩素系溶剤は、塩素及び炭素を含み、場合により水素を含む溶剤であり、塩化メチレン、トリクロロエチレン等が挙げられる。
フッ素系溶剤は、フッ素及び炭素を含み、場合により塩素、酸素及び水素を含む溶剤であり、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン等のクロロフルオロハイドロカーボン;1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン等のハイドロフルオロカーボン;1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ−2,2,2−トリフルオロエタン、ノナフルオロブトキシメタン、ノナフルオロブトキシエタン等のハイドロフルオロエーテルが挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
アルミニウムアルコキシド由来のアルコール、及び、アルミニウムキレート由来のアルコールやジケトンの3つの成分の少なくとも一方と混和可能な溶剤は、炭化水素系溶剤、含塩素系溶剤及び含フッ素系溶剤が挙げられる。また、有機溶剤にエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール等のアルコールを併用してもよい。木材処理溶液がアルコールを含有することで、木材処理溶液に含有されるアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の有機溶剤に対する溶解度が向上する傾向がある。
取り扱い及び安全性の観点から、有機溶剤は引火点を持たない溶剤であることが好ましい。このような引火点を持たない溶剤として、含塩素系溶剤及び含フッ素系溶剤が挙げられる。さらに、入手が容易であり、不燃性により優れ安全性が高く、コストの観点から、塩化メチレンが特に好ましい。本発明において、溶剤の引火点は、タグ密閉方式により測定された値である。
<アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレート>
アルミニウムアルコキシドは、一般式:Al(OR)で表わされる化合物であり、式中、Rは、アルキル基であり、各ORは、同一であっても、互いに異なっていてもよい。
アルミニウムキレートは、一般式:Al(OR)(3−m)で表わされる化合物であり、式中、m=0〜2であり、Rは、アルキル基であり、各ORは、同一であっても、互いに異なっていてもよく、Xは、R’−CO−CH−CO−OR’で表わされる基である。R’は、アルキル基であり、各R’は、同一であっても、互いに異なっていてもよい。
上記R又はR’で示されるアルキル基は、特に限定されないが、例えば炭素原子数1〜12の直鎖又は分岐状のアルキル基であり、アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は3〜5であるのが好ましい。炭素数が3以上であると、水との反応性が高くなりすぎず、アルミニウムアルコキシドを木材へ含浸させやすく、取り扱いが容易になる傾向があり、5以下であると、水との反応性が良好であり、短時間で水と反応できる傾向がある。
アルミニウムアルコキシドについては、ORの1つが他の2つのORと異なることが好ましい。このようなアルミニウムアルコキシドは、有機溶剤への溶解性が格段に上昇する傾向があり、アルミニウムアルコキシドが高濃度である木材処理溶液を調製することが可能となる。また、このようなアルミニウムアルコキシドは、常温で固体ではなく液状であることが多く、有機溶剤との混合作業も容易になる。なお、アルミニウムアルコキシドが固体である場合は、有機溶剤と混合した後、一度融点以上に昇温させてアルミニウムアルコキシドを完全に融解させた後に有機溶剤に溶解させ、冷却することで、アルミニウムアルコキシドが有機溶剤に均一に溶解した木材処理溶液を得ることができる。
アルミニウムアルコキシドは、具体的には、アルミニウムイソプロポキシド、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムエトキシド等が挙げられ、アルミニウムイソプロポキシド及びモノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシドが好ましく、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシドがより好ましい。
アルミニウムアルコキシドは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
アルミニウムキレートについては、一般式:Al(OR)(3−m)おいて、m=0〜2が好ましく、m=1〜2がより好ましい。このようなアルミニウムキレートは、有機溶剤への溶解性が格段に上昇する傾向があり、アルミニウムキレートが高濃度である木材処理溶液を調製することが可能となる。特に、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレートが好ましい。
アルミニウムキレートは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明において、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方は、固体又は液体であってもよいが、10℃で液体であるのが好ましく、25℃で液体であるのがより好ましい。「10℃で液体である」とは、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の融点が10℃以下であるか、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方が10℃で流動性を有することをいう。なお、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの両方が用いられる場合、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの混合物が10℃で流動性を有していればよい。
10℃で液体であるアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方は、有機溶剤に溶解しやすいため、木材処理溶液の調製のために必要なエネルギーがより少なくなる傾向がある。そのため、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方がより高濃度である木材処理溶液をより低エネルギーで調製することができる傾向がある。よって、木材処理溶液に含まれるアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方を、10℃で液体であるアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方とすることで、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方並びに有機溶剤の均一溶液を調製しやすく、より簡便に木材処理溶液を製造することができ、またアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方がより高濃度である均一溶液を得ることができる。
10℃で液体であるアルミニウムアルコキシドとして、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムジsec−ブトキシドモノイソプロポキシドが挙げられ、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシドが好ましい。10℃で液体であるアルミニウムキレートとして、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレートが挙げられる。よって、木材処理溶液が、アルミニウムアルコキシド及び有機溶剤を含み、アルミニウムアルコキシドが、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシドであるのが好ましい。また、木材処理溶液が、アルミニウムキレート及び有機溶剤を含み、アルミニウムキレートが、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレートであるのも好ましい。
<Al含有量>
木材処理溶液におけるアルミニウム元素濃度の下限値は、特に限定されず、例えば、1.5重量%以上とすることができ、2.0重量%以上であるのが好ましく、2.5重量%以上であるのがより好ましい。また、木材処理溶液中のアルミニウム元素濃度の上限値は、特に限定されず、例えば10.0重量%以下とすることができ、8.0重量%以下とすることが好ましく、7.0重量%以下であるのがより好ましい。木材処理溶液におけるアルミニウム元素濃度が2.5重量%以上であれば、木材により高濃度で難燃性成分を析出させることができ、得られる難燃性木材の難燃性がさらに向上する傾向がある。また、木材処理溶液におけるアルミニウム元素濃度が10.0重量%以下であれば、難燃性を十分に発現しながら、難燃性木材が軽量化でき、木材あたりのアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の使用量の増加が抑えられる傾向がある。木材処理溶液におけるアルミニウム元素濃度は、木材処理溶液を調製する際のアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の仕込み量から算出することができる。また、ICP発光分光分析により測定することもできる。
本発明において、上記したアルミニウム元素の含有量を満足すれば、木材処理溶液中のアルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート及び有機溶剤の含有量は、特に限定されない。例えば、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方並びに有機溶剤の合計に対して、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の含有量の下限値は、10重量%以上とすることができ、20重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。また、例えば、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方並びに有機溶剤の合計に対して、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の含有量の上限値は、例えば、90重量%以下とすることができ、80重量%以下が好ましく、70重量%以下がより好ましい。なお、木材処理溶液が、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの両方を含む場合、前記のアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の含有量は、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの合計量をいう。
<その他の成分>
木材処理溶液は、本発明の目的を奏する範囲内で、さらなる成分を含有することができる。このような成分として、防腐剤、酸化防止剤、防蟻剤、防カビ剤等が挙げられる。これらは、単独又は複数を組み合わせて用いてもよい。その他の成分は、水分を含まないのが好ましい。また、その他の成分の含有量は、特に限定されないが、木材処理溶液に対して0.1〜5.0重量%であるのが好ましい。
<粘度>
本発明において、木材処理溶液は、低粘度であることが好ましく、木材の内部の細かい部分までより浸透しやすい。
本発明において、木材処理溶液は、木材処理溶液に含まれる各成分を混合することにより調製することができる。例えば、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方が、調製時において固体である場合等は、場合により加熱、加圧をしてもよい。これによりアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の有機溶剤に対する溶解度が上昇し、木材処理溶液を低エネルギー、低コストで調製することができる傾向がある。
<木材>
木材は、特に限定されず、種々の木材を用いることができ、スギ、ヒノキ、スプルース、ブナ、ナラ、キリ、ラワン、黒檀及びチーク等が挙げられる。木材の形状は、特に限定されず、板状、棒状、柱状等であることができる。
木材は、通常、水を含有する。水の量は、木材の種類に応じて異なっているため、特に限定されない。木材は、例えば、0.1〜100重量%、好ましくは10〜30重量%の水を含有する。木材中の水の重量は、市販の高周波式含水率計によって測定することができる。
<木材処理溶液と木材との接触方法>
木材処理溶液と木材との接触方法は、特に限定されない。例えば、木材処理溶液に木材を含浸する方法や、木材に木材処理溶液を塗布する方法等が挙げられる。木材処理時間に相当する、木材処理溶液と木材との接触時間は、所望量の木材処理溶液を含有する木材が得られる時間であれば特に限定されず、1分以上が好ましく、10分〜10時間がより好ましく、10分〜60分が特に好ましい。
接触時における、木材及び木材処理溶液の量は、所望の量の木材処理溶液が木材に含有される量であれば、特に限定されないが、例えば、木材100重量部に対して、木材処理溶液を10〜1,000重量部とすることができ、100〜500重量部であるのが好ましく、100〜300重量部とすることがより好ましい。
<加圧処理>
木材と木材処理溶液との接触は、大気圧下で行うことができるが、木材処理溶液と接触している木材を加圧することが好ましい。具体的には、木材を0.1〜1.0MPaGで加圧することが好ましい。木材を加圧することで、木材内部に木材処理溶液が浸透しやすくなる傾向がある。加圧時間は、所望量の木材処理溶液を含有する木材が得られる時間であれば特に限定されず、1分以上が好ましく、10分〜10時間がより好ましく、10分〜60分が特に好ましい。ここで、「PaG」は、大気圧に対する相対圧力であるゲージ圧を意味する。
<減圧処理>
また、木材を木材処理溶液に接触させる前に、木材を減圧状態にすることが好ましい。具体的には、木材を−0.001〜−0.101MPaGで減圧処理して、木材を減圧状態にすることが好ましい。木材内部の空気の量を減らすことで、木材処理溶液が木材の内部により浸透しやすくなる傾向があり、これにより木材処理溶液を大量又は効率的に木材内に含有させることができる。減圧時間は、特に限定されず、1分以上が好ましく、10分〜5時間がより好ましく、10分〜60分であることが特に好ましい。ここで、−0.101MPaGは、大気圧に対して0.101MPa低い圧力であることを示す。
処理温度は、特に限定されないが、10〜50℃で行うことができ、10〜40℃が好ましい。
木材処理溶液含有木材において、木材の重量に対して1〜5倍の量の木材処理溶液が含有されるのが好ましい。木材処理溶液含有木材における木材処理溶液の含有量は、木材処理溶液の含有前後の木材の重量によって求めることができる。
[工程(b)]
工程(b)では、木材処理溶液含有木材の内部で、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方と水との接触により、前記木材処理溶液含有木材の内部に水酸化アルミニウムを析出させて、水酸化アルミニウム含有木材を得る。
工程(b)において、アルミニウムアルコキシドは木材の内部で水と反応し、下記反応式(1)で示すように水酸化アルミニウムを生成する。また、工程(b)において、アルミニウムキレートは木材の内部で水と反応し、下記反応式(2)で示すように水酸化アルミニウムを生成する。
Al(OR)+3HO→Al(OH)+3R−OH 反応式(1)
Al(OR)(3−m)+3HO→Al(OH)+mR−OH+(3−m)XH 反応式(2)
水酸化アルミニウム含有木材における水酸化アルミニウム析出量は特に限定されない。例えば、木材100重量部に対して、16重量部以上の水酸化アルミニウムを木材内部に析出させることが好ましく、20〜80重量部の水酸化アルミニウムを木材内部に析出させることがより好ましく、20〜40重量部の水酸化アルミニウムを木材内部に析出させることが特に好ましい。これにより、優れた難燃性を有する難燃性木材が得られる。ここで、木材の重量は、工程(a)で用いられる木材の重量をいい、工程(b)における木材処理溶液含有木材から、木材が含有する木材処理溶液の量を減じた重量である。水酸化アルミニウムの析出量は、木材処理溶液に含まれるアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の量、木材に含まれる木材処理溶液の含有量、並びにアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方と水との反応条件(水の量、接触時間及び接触温度)により調節することができる。アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方は、木材中の水分だけでなく、空気中の水分ともすぐに反応し固体の水酸化アルミニウムとして析出する。このため水酸化アルミニウム(分子量:78)の析出量は木材処理溶液中のアルミニウム元素濃度(重量%)を使用して、以下の計算式で算出することができる。
水酸化アルミニウムの析出量=((木材への木材処理溶液接触(注入)後の木材の重量)−(木材への木材処理溶液接触前の木材の重量))×(木材処理溶液中のアルミニウム元素濃度(重量%)÷100)×78÷27
アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方と反応する木材の内部の水は、木材が通常有する水、外部から直接又は蒸気として供給される水等が挙げられる。工程(b)において、木材処理溶液に含まれるアルミニウム元素1モルに対して3モルの水が反応する。ここで、水の量は、通常木材内部に含まれる水の量で充分であるが、木材内部の水の量が少ない場合には、外部から水を直接又は蒸気として供給してもよい。また、木材処理溶液との接触前に、予め外部から水を木材に供給してもよい。さらに、後述する工程(c)において、有機溶剤の除去するための方法が水蒸気乾燥である場合、乾燥は水蒸気を含む雰囲気で実施される。そのため、水蒸気乾燥で用いられる水蒸気によって、木材の内部の水を供給してもよい。
<接触時間と温度>
アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方と水との接触時間及び接触温度は、木材中に所望の量の水酸化アルミニウムが析出する時間及び温度であれば特に限定されない。例えば、木材処理溶液含有木材を、10〜100℃、好ましくは20〜50℃で、10分〜200時間、好ましくは1時間〜50時間放置することが挙げられる。また、木材内の水の量が少ない場合には、温度を上昇させたり、反応時間を長くしたりして、反応を制御することも可能である。
水酸化アルミニウム含有木材において、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方がすべて水酸化アルミニウムになっていてもよく、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の少なくとも一部が水酸化アルミニウムになっていてもよい。具体的には、水酸化アルミニウム含有木材において、工程(a)で得られるアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方の少なくとも90モル%以上が水酸化アルミニウムになっていることができ、95モル%以上が水酸化アルミニウムになっていることがより好ましい。
[工程(c)]
工程(c)では、水酸化アルミニウム含有木材から、有機溶剤の少なくとも一部を除去して、難燃性木材を得る。
有機溶剤を除去するための方法は、特に限定されないが、乾燥方法が挙げられる。乾燥方法としては、加温による乾燥方法に加え、熱風乾燥、減圧乾燥、水蒸気乾燥、又は、大気雰囲気中に放置する乾燥方法が挙げられる。これら乾燥方法を組み合わせてもよい。例えば、水酸化アルミニウム含有木材を、20〜100℃、好ましくは40〜80℃で、10分〜200時間、好ましくは5時間〜20時間放置することが挙げられる。
工程(c)において、工程(b)で得られる木材処理溶液含有木材が有する有機溶剤の90重量%以上が除去されるのが好ましく、95重量%以上が除去されるのがより好ましく、99重量%以上が除去されるのが特に好ましい。
工程(b)及び工程(c)はそれぞれ独立して行ってもよく、また一つの工程として一緒に行ってもよい。例えば、工程(c)における、有機溶剤を除去するための方法が水蒸気乾燥である場合、水蒸気乾燥で用いられる水蒸気によって、木材の内部に水を供給してもよい。これにより、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方と水との反応がより促進される傾向がある。
また、工程(b)において、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方と水分との反応が完全に終わっていない状態で急速に乾燥を行うと、未反応又は一部のアルコキシ基しか反応していないアルミニウムアルコキシド、並びに、未反応又はアルコキシ基及びXの一部しか反応していないアルミニウムキレートの少なくとも一方が木材表面に濃縮する場合がある。この場合、木材表面でこのアルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方が大気中の水分と反応することにより、木材表面に白い析出物が存在する場合がある。しかし、所望の難燃性を発現するために必要な量で水酸化アルミニウムが木材中に存在していれば、木材表面に存在する析出物をふき取り等により除去して使用することに問題はない。
<再利用について>
木材処理溶液に含まれる有機溶剤は、再利用することができる。すなわち、工程(b)及び工程(c)で揮発し、乾燥により除去される有機溶剤を回収して再利用することができる。また、工程(b)で生成し、(c)で除去されうるアルコール、あるいは、アルコールとジケトンの混合物を回収し燃料等への転用することもできる。
<難燃性木材>
本発明の難燃性木材の製造方法により得られる木材は、優れた難燃性を有する。このようにして得られた難燃性木材の用途として、木製のエクステリア製品(デッキ材、杭等)、構造用材料、合板、木製パネル、木製サッシ等が挙げられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
<木材処理溶液の調製>
塩化メチレン(旭硝子株式会社製)(タグ密閉方式よる引火点:なし)と、10℃で高粘性液体であるモノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシド(川研ファインケミカル株式会社製 製品名AMD)を重量換算で1:1で混合し、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシド50重量%及び塩化メチレン50重量%の均一な非常に低粘度の混合溶液である木材処理溶液を得た。この木材処理溶液におけるアルミニウム元素の濃度は、6.19重量%に相当する。
<木材処理溶液含有木材の調製>
厚さ5mmの木材板から切り出した2.24gのスギの木材片を、耐圧密閉容器に入れ、−0.097MPaGにて20分減圧処理を行った後、減圧状態から大気圧と平衡になるまで木材処理溶液を容器に吸い込ませた。窒素ガスにて0.76MPaGに加圧後、30分静置した。その後、容器内の圧力を大気圧まで解放後、容器内の木材処理溶液を抜き出し、乾燥前の木材処理溶液含有木材を得た。この時の重量は6.24gであり、木材処理溶液の含有量は4.00gと予想される。これより、木材内に存在するAMDは2.00gであり、これが全て反応して生成する水酸化アルミニウムの重量は0.72gと計算される。すなわち、木材100重量部に対する水酸化アルミニウムの析出量は、31.9重量部に相当する。
<難燃性木材の調製>
500mlビーカー中に木材処理溶液含有木材を入れ、室温(25℃)でドラフト内にて48時間放置した。このときの重量は3.19gであり、木材には若干の臭気があった。さらに、50℃で12時間乾燥し、難燃性木材2.83gを得た。この時木材は無臭であった。木材処理溶液による難燃化処理前後の木材の重量変化は、0.59gの増加であり、木材処理溶液の含有量から推測される水酸化アルミニウムにほぼ相当する量の重量増加であった。計算予測値よりも低い原因としては、木材中の水分量の減少が影響していると思われる。
<難燃性の評価>
上記のように作製した難燃性木材の中央部に、1,300℃の集中炎を生じさせることができるガスバーナー(PRINCE GB−2001)を用いて木材中央部に炎を30秒間あてる燃焼性試験を行い、木材の燃焼状態、及び、炭化領域の大きさを観察した。ガスバーナーであぶっている間は、炎はあがらず、表面が赤熱している状態であった。燃焼試験後でも裏面まで炭化は進行していなかった。
(実施例2)
<木材処理溶液の調製>
トルエン(関東化学製)(タグ密閉方式よる引火点:5℃)と、常温(25℃)で固体であるアルミニウムイソプロポキシド(川研ファインケミカル株式会社製 製品名AIPD)とを、AIPDが20重量%(アルミニウム元素換算2.65重量%)となるように、耐圧、密閉容器化で水分が混入しないように混合し、140℃で24時間攪拌を行った後、室温に冷却して、トルエン及びAIPDの均一溶液である木材処理溶液を得た。
<難燃性木材の調製>
実施例1と同一板から切り出した木材2.35gに対し、実施例1と同様の処理を行い、難燃性木材を得た。木材処理溶液の含有前後の重量差は4.15gで、これに相当する水酸化アルミニウム量は0.317gであり、乾燥処理後の難燃性木材の重量2.57gから推測される量とほぼ同じであった。すなわち、木材100重量部に対する水酸化アルミニウムの析出量は、13.5重量部に相当する。
<難燃性の評価>
実施例1と同様の方法で燃焼試験を行ったところ、ガスバーナーをあてている間はわずかな炎を出しながら燃焼した。試験後の木材の裏側はわずかに炭化した程度であった。
(実施例3)
<木材処理溶液の調製>
塩化メチレン(旭硝子株式会社製)(タグ密閉方式よる引火点:なし)と、10℃で高粘性液体であるアルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(川研ファインケミカル株式会社製 製品名ALCH)を重量換算で65:35で混合し、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート65重量%及び塩化メチレン35重量%の均一な非常に低粘度の混合溶液である木材処理溶液を得た。この木材処理溶液におけるアルミニウム元素の濃度は、6.32重量%に相当する。
<木材処理溶液含有木材の調製>
厚さ5mmの木材板から切り出した2.10gのスギの木材片を、耐圧密閉容器に入れ、−0.097MPaGにて20分減圧処理を行った後、減圧状態から大気圧と平衡になるまで木材処理溶液を容器に吸い込ませた。窒素ガスにて0.76MPaGに加圧後、30分静置した。その後、容器内の圧力を大気圧まで解放後、容器内の木材処理溶液を抜き出し、乾燥前の木材処理溶液含有木材を得た。この時の重量は6.11gであり、木材処理溶液の含有量は4.01gと予想される。これより、木材内に存在するALCHは2.61gであり、これが全て反応して生成する水酸化アルミニウムの重量は0.73gと計算される。すなわち、木材100重量部に対する水酸化アルミニウムの析出量は、34.9重量部に相当する。
<難燃性木材の調製>
500mlビーカー中に木材処理溶液含有木材を入れ、室温(25℃)でドラフト内にて48時間放置した。このときの重量は3.81gであり、木材には若干の臭気があった。さらに、70℃で12時間減圧乾燥し、難燃性木材2.85gを得た。この時木材は無臭であった。木材処理溶液による難燃化処理前後の木材の重量変化は、0.75gの増加であり、木材処理溶液の含有量から推測される水酸化アルミニウムにほぼ相当する量の重量増加であった。
<難燃性の評価>
実施例1と同様の方法で燃焼試験を行ったところ、ガスバーナーをあてている間はわずかな炎を出しながら燃焼した。試験後の木材の裏側はわずかに炭化した程度であった。
(参考例1)
実施例2と同様に、トルエン(関東化学製)と、常温で固体であるアルミニウムイソプロポキシド(川研ファインケミカル株式会社製 製品名AIPD)を、AIPDが20重量%(アルミニウム元素換算2.65重量%)となるように、耐圧密閉容器中で水分が混入しないように混合し、70℃で24時間攪拌を行った後、室温に冷却した。その結果、AIPDが完全に溶解しておらず、均一な木材処理溶液は得られなかった。
(比較例1)
実施例1で使用した木材と同一板から切り出した、木材処理溶液による処理を行っていない木材片に対して、実施例1と同様の燃焼性評価を行った。ガスバーナーの炎をあてている間、及び、火を消した後も、赤色の大きな炎をあげて燃焼した。また、炎を当てている裏面もすぐに炭化した。試験後、水をかけて消火した際には炭化した部分を中心に二つに折れてしまうほど炭化が進行していた。

Claims (9)

  1. (a)アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方並びに有機溶剤を含む木材処理溶液と木材とを接触させて、木材処理溶液含有木材を得る工程、
    (b)木材処理溶液含有木材の内部で、アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方と水との接触により、前記木材処理溶液含有木材の内部に水酸化アルミニウムを析出させて、水酸化アルミニウム含有木材を得る工程、及び
    (c)水酸化アルミニウム含有木材から、有機溶剤の少なくとも一部を除去して、難燃性木材を得る工程
    を含む、難燃性木材の製造方法。
  2. アルミニウムアルコキシド及びアルミニウムキレートの少なくとも一方が10℃で液体である、請求項1に記載の難燃性木材の製造方法。
  3. 木材処理溶液が、アルミニウムアルコキシド及び有機溶剤を含み、アルミニウムアルコキシドが、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシドである、請求項1又は2に記載の難燃性木材の製造方法。
  4. 木材処理溶液が、アルミニウムキレート及び有機溶剤を含み、アルミニウムキレートが、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレートである、請求項1又は2に記載の難燃性木材の製造方法。
  5. 木材処理溶液中のアルミニウム元素濃度が2.5重量%以上である、請求項1〜4いずれか1項に記載の難燃性木材の製造方法。
  6. 有機溶剤が引火点を持たない溶剤である、請求項1〜いずれか1項に記載の難燃性木材の製造方法。
  7. 有機溶剤が、塩化メチレンである、請求項1〜いずれか1項に記載の難燃性木材の製造方法。
  8. 工程(a)が、木材処理溶液と木材とを減圧状態で接触させることを含む、請求項1〜いずれか1項に記載の難燃性木材の製造方法。
  9. 工程(a)が、木材処理溶液と接触している木材を0.1MPaG以上に加圧することを含む、請求項1〜いずれか1項に記載の難燃性木材の製造方法。
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