以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
(変速機の概要)
図1は、自動車用の変速機1の概略を示す図である。図2は、自動車用の変速機1の斜視図である。なお、図2においては、一部の構成を省略している。
図1および図2に示すように、エンジンEの駆動力を駆動輪に伝達する本実施形態の変速機1は、ミッションケース15に保持されたベアリングに回転自在に軸支され、発進クラッチ2を介してエンジンEのクランクシャフトに接続された入力軸3を備えている。入力軸3は、エンジンEの駆動力によって回転するものであり、エンジンEからの動力の伝達経路の上流側に配される第1入力軸3aと、下流側に配された第2入力軸3bと、で構成される。これら第1入力軸3aおよび第2入力軸3bの間に、緩衝機構300が設けられている。この緩衝機構300は、入力軸3に設定トルク以上のトルク変動をもたらすスパイクトルクが生じると、すべり運動を生じさせて第1入力軸3aと第2入力軸3bとを相対回転させ、スパイクトルクを予め設定された設定トルクまでカットする。
また、変速機1は、ミッションケース15の上方に保持されたベアリングに回転自在に軸支され、入力軸3と相対回転自在に配された第1メインシャフト4および第2メインシャフト5を備えている。第1メインシャフト4および第2メインシャフト5は、入力軸3に対して平行に配されるとともに、互いに軸心を一致させた状態で、軸方向に離隔して対向配置されている。また、第1メインシャフト4は中空で構成され、第1メインシャフト4の内部に入力軸3(第2入力軸3b)が相対回転自在に挿通されている。さらに、ミッションケース15には、ベアリングに回転自在に軸支され、入力軸3、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に対して平行に配されたドリブンシャフト6およびアイドラシャフト7が収容されている。アイドラシャフト7は、ミッションケース15における入力軸3よりもやや下方に並ぶように配置され、ドリブンシャフト6は、ミッションケース15における入力軸3およびアイドラシャフト7よりも下方に配置される。
第1メインシャフト4および第2メインシャフト5には、それぞれ複数のドライブギヤDv(1速用ドライブギヤ11〜4速用ドライブギヤ14)が固定されている。より詳細には、第2メインシャフト5には、1速用ドライブギヤ11および3速用ドライブギヤ13が固定されており、第1メインシャフト4には、2速用ドライブギヤ12および4速用ドライブギヤ14が固定されている。このように、本実施形態の変速機1は、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に、それぞれギヤ比を異にする複数段のドライブギヤDvが設けられ、連続するギヤ比のドライブギヤDvが、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5に交互に配されている。
一方、ドリブンシャフト6は、駆動輪に接続されており、ドライブギヤDvそれぞれに噛合するドリブンギヤDn(1速用ドリブンギヤ21〜4速用ドリブンギヤ24)が相対回転自在に設けられている。また、ドリブンシャフト6には、当該ドリブンシャフト6にドリブンギヤDnを連結させて、当該ドリブンギヤDnとドリブンシャフト6とを一体回転させる連結状態、および、ドリブンシャフト6とドリブンギヤDnとが相対回転する切り離し状態のいずれかを選択的に切り替えるギヤ切替機構100a、100bが設けられている。
アイドラシャフト7には、1速用ドリブンギヤ21に噛合するアイドラギヤ31が固定されるとともに、2速用ドライブギヤ12に噛合するアイドラギヤ32が相対回転自在に設けられている。また、アイドラシャフト7には、当該アイドラシャフト7にアイドラギヤ32を連結させて、当該アイドラギヤ32とアイドラシャフト7とを一体回転させる連結状態、および、アイドラシャフト7とアイドラギヤ32とが相対回転する切り離し状態のいずれかを選択的に切り替えるギヤ切替機構100cが設けられている。
ギヤ切替機構100aは、1速用ドリブンギヤ21と3速用ドリブンギヤ23との間に設けられ、ドリブンシャフト6に対して1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23のいずれか一方を連結状態にしたとき、ドリブンシャフト6に対して1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23のいずれか他方を切り離し状態にする。
具体的に説明すると、ギヤ切替機構100aは、1速用ドリブンギヤ21と3速用ドリブンギヤ23との間において、ドリブンシャフト6に相対回転不能に固定されたハブ101aと、ハブ101aにドリブンシャフト6の軸方向に移動自在に保持されたスリーブ102aと、を有する。スリーブ102aの外周には、不図示のシフトフォークが係合されており、不図示のアクチュエータ(電動シリンダ等)によってドリブンシャフト6の軸方向に移動される。
また、ギヤ切替機構100aは、1速用ドリブンギヤ21に固定されたハブ21aと、3速用ドリブンギヤ23に固定されたハブ23aと、を備えている。これらハブ21a、23aは互いに対向配置されており、いずれもスリーブ102aに係合可能に構成されている。そして、スリーブ102aが図示のニュートラル位置にある場合には、スリーブ102aが1速用ドリブンギヤ21のハブ21aおよび3速用ドリブンギヤ23のハブ23aと切り離し状態にあり、1速用ドリブンギヤ21および3速用ドリブンギヤ23が、ドリブンシャフト6に対して相対回転する。
これに対して、スリーブ102aが軸方向に沿って1速用ドリブンギヤ21側に移動されると、スリーブ102aが1速用ドリブンギヤ21のハブ21aに係合し、ドリブンシャフト6のハブ101aと、1速用ドリブンギヤ21のハブ21aとが、スリーブ102aによって架け渡された状態となる。これにより、ドリブンシャフト6に対して1速用ドリブンギヤ21が連結状態となり、1速用ドリブンギヤ21がドリブンシャフト6と一体回転するとともに、ドリブンシャフト6に対して3速用ドリブンギヤ23が切り離し状態となり、3速用ドリブンギヤ23がドリブンシャフト6と相対回転する。また、スリーブ102aが軸方向に沿って3速用ドリブンギヤ23側に移動されると、スリーブ102aが3速用ドリブンギヤ23のハブ23aに係合し、ドリブンシャフト6のハブ101aと、3速用ドリブンギヤ23のハブ23aとが、スリーブ102aによって架け渡された状態となる。これにより、ドリブンシャフト6に対して3速用ドリブンギヤ23が連結状態となり、3速用ドリブンギヤ23がドリブンシャフト6と一体回転するとともに、ドリブンシャフト6に対して1速用ドリブンギヤ21が切り離し状態となり、1速用ドリブンギヤ21がドリブンシャフト6と相対回転する。
なお、ここでは、ギヤ切替機構100aについて説明したが、ギヤ切替機構100bもギヤ切替機構100aと同様に構成されている。すなわち、ギヤ切替機構100bは、2速用ドリブンギヤ22と4速用ドリブンギヤ24との間において、ドリブンシャフト6に相対回転不能に固定されたハブ101bと、ハブ101bにドリブンシャフト6の軸方向に移動自在に保持されたスリーブ102bと、2速用ドリブンギヤ22に固定されたハブ22aと、4速用ドリブンギヤ24に固定されたハブ24aと、を備えている。そして、スリーブ102bが図示のニュートラル位置にある場合には、スリーブ102bが2速用ドリブンギヤ22のハブ22aおよび4速用ドリブンギヤ24のハブ24aと切り離し状態にあり、2速用ドリブンギヤ22および4速用ドリブンギヤ24が、ドリブンシャフト6に対して相対回転する。
一方、スリーブ102bが軸方向に沿って2速用ドリブンギヤ22側に移動されると、スリーブ102bが2速用ドリブンギヤ22のハブ22aに係合し、ドリブンシャフト6のハブ101bと、2速用ドリブンギヤ22のハブ22aとが、スリーブ102bによって架け渡された状態となる。これにより、ドリブンシャフト6に対して2速用ドリブンギヤ22が連結状態となり、2速用ドリブンギヤ22がドリブンシャフト6と一体回転するとともに、ドリブンシャフト6に対して4速用ドリブンギヤ24が切り離し状態となり、4速用ドリブンギヤ24がドリブンシャフト6と相対回転する。また、スリーブ102bが軸方向に沿って4速用ドリブンギヤ24側に移動されると、スリーブ102bが4速用ドリブンギヤ24のハブ24aに係合し、ドリブンシャフト6のハブ101bと、4速用ドリブンギヤ24のハブ24aとが、スリーブ102bによって架け渡された状態となる。これにより、ドリブンシャフト6に対して4速用ドリブンギヤ24が連結状態となり、4速用ドリブンギヤ24がドリブンシャフト6と一体回転するとともに、ドリブンシャフト6に対して2速用ドリブンギヤ22が切り離し状態となり、2速用ドリブンギヤ22がドリブンシャフト6と相対回転する。
ギヤ切替機構100cは、アイドラギヤ32に隣接して設けられ、アイドラシャフト7に相対回転不能に固定されたハブ101cと、ハブ101cにアイドラシャフト7の軸方向に移動自在に保持されたスリーブ102cと、を有する。スリーブ102cの外周には、不図示のシフトフォークが係合されており、不図示のアクチュエータ(電動シリンダ等)によってアイドラシャフト7の軸方向に移動される。
また、ギヤ切替機構100cは、アイドラギヤ32に固定されたハブ32aを備えている。ハブ32aはスリーブ102cに係合可能に構成されている。そして、スリーブ102cが図示のニュートラル位置にある場合には、スリーブ102cがアイドラギヤ32のハブ32aと切り離し状態にあり、アイドラギヤ32が、アイドラシャフト7に対して相対回転する。
これに対して、スリーブ102cが軸方向に沿ってアイドラギヤ32側に移動されると、スリーブ102cがアイドラギヤ32のハブ32aに係合し、アイドラシャフト7のハブ101cと、アイドラギヤ32のハブ32aとが、スリーブ102cによって架け渡された状態となる。これにより、アイドラシャフト7に対してアイドラギヤ32が連結状態となり、アイドラギヤ32がアイドラシャフト7と一体回転する。
なお、スリーブ102aと1速用ドリブンギヤ21のハブ21aとの間、スリーブ102aと3速用ドリブンギヤ23のハブ23aとの間、スリーブ102bと2速用ドリブンギヤ22のハブ22aとの間、スリーブ102bと4速用ドリブンギヤ24のハブ24aとの間、および、スリーブ102cとアイドラギヤ32のハブ32aとの間には、それぞれシンクロメッシュ機構(同期機構)が設けられている。
そして、図1に示すように、変速機1は、入力軸3の回転動力の伝達経路を、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5のいずれかに選択的に切り替える軸切替機構50を備えている。この軸切替機構50は、シフト部60aおよびシフト部60bにより切り替えられ、動力伝達経路として第1メインシャフト4が選択されると、入力軸3と第1メインシャフト4とを一体回転させ、動力伝達経路として第2メインシャフト5が選択されると、入力軸3と第2メインシャフト5とを一体回転させるものである。以下に、軸切替機構50およびシフト部60a、60bの構成について詳細に説明する。
(軸切替機構50およびシフト部60a、60bの構成)
図3は、軸切替機構50およびシフト部60a、60bを説明する概略断面図である。図3に示すように、軸切替機構50は、第2入力軸3bに設けられたドグ部材51(第1回転体)、第1メインシャフト4に設けられた第1切替装置50a、および、第2メインシャフト5に設けられた第2切替装置50bで構成されている。第2入力軸3bは、第1メインシャフト4よりも軸長が長く形成されており、第2入力軸3bのうち、緩衝機構300が設けられた端部と反対側の端部が、中空の第1メインシャフト4よりも軸方向に突出している。そして、この第2入力軸3bにおける第1メインシャフト4よりも突出した部位、すなわち、第1メインシャフト4と第2メインシャフト5との間にドグ部材51が設けられている。
このドグ部材51は、第2入力軸3bの端部にスプライン係合されており、軸方向の移動が規制されたまま、第2入力軸3bと一体回転する。詳しくは後述するが、ドグ部材51は、第1切替装置50a側に位置する端面に待機ドグ52a(第1ドグ)、第2切替装置50b側に位置する端面に待機ドグ52b(第1ドグ)が、それぞれ、複数(本実施形態では3つ)、周方向に等間隔を維持して突設されている。
また、第1切替装置50aは、第1メインシャフト4におけるドグ部材51側の端部に設けられており、第2切替装置50bは、第2メインシャフト5におけるドグ部材51側の端部に設けられている。これら第1切替装置50aおよび第2切替装置50bは、一部の部品の寸法が異なる点を除いて同一の構成である。
また、第1切替装置50aおよび第2切替装置50bは、それぞれ、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5の軸方向(以下、単に軸方向と称す)に移動自在なドライブ側スリーブ53(第2回転体)およびコースト側スリーブ54(第2回転体)を備えている。
第1切替装置50aのコースト側スリーブ54には、シフトフォーク8aが係合され、第1切替装置50aのドライブ側スリーブ53には、シフトフォーク8bが係合されている。また、第2切替装置50bのコースト側スリーブ54には、シフトフォーク8cが係合され、第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53には、シフトフォーク8dが係合されている。シフトフォーク8a〜8dは、図1に示す制御部10の制御によって駆動するアクチュエータ9からの押圧力を受けて軸方向に可動する。以下、シフトフォーク8a〜8dを可動させるシフト部60a、60bについて説明する。
シフト部60aでは、第1切替装置50aのコースト側スリーブ54に係合されるシフトフォーク8aと、第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53に係合されるシフトフォーク8dとが、連結部61aを介して接続される。シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dには、図2に示すように、詳しくは後述する潤滑補助部68が先端側上方に架け渡されている。
シフトフォーク8aは、末端に形成された貫通孔8aaに、アクチュエータ9からの押圧力を受けるアクチュエータロッド62aが規制部63aを介して相対移動自在に挿通されている。シフトフォーク8dは、末端に形成された貫通孔8daに、アクチュエータロッド62aが規制部64aを介して相対移動自在に挿通されている。規制部63aおよび規制部64aは、アクチュエータロッド62aに固定されている。
規制部63aおよび規制部64aの間には、ワッシャー65a、コイルばねで構成される付勢部66a、ワッシャー67aが順に並んで配置され、これらにアクチュエータロッド62aが挿通されている。ワッシャー65aおよびワッシャー67aは、内径が規制部63aおよび規制部64aの外径よりも小さく、外径が貫通孔8aaおよび貫通孔8daの内径よりも大きい。
そして、アクチュエータ9からの押圧力を受けてアクチュエータロッド62aがシフトフォーク8aからシフトフォーク8dへ向かう方向に移動されると、規制部63aがワッシャー65aを介して付勢部66aに押圧力を伝達する。そうすると、付勢部66aが弾性変形して収縮し、シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dは、ワッシャー67aを介して、シフトフォーク8aからシフトフォーク8dへ向かう方向に付勢されて可動する。そして、シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dの可動によって、詳しくは後述するように、第1切替装置50aのコースト側スリーブ54の飛込ドグ54cと待機ドグ52aとを噛合させたり、第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cと待機ドグ52aとの噛合を解除させたりする。
また、アクチュエータ9からの押圧力を受けてアクチュエータロッド62aがシフトフォーク8dからシフトフォーク8aへ向かう方向に移動されると、規制部64aがワッシャー67aを介して付勢部66aに押圧力を伝達する。そうすると、付勢部66aが弾性変形して収縮し、シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dは、ワッシャー65aを介して、シフトフォーク8dからシフトフォーク8aへ向かう方向に付勢されて可動する。そして、シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dの可動によって、詳しくは後述するように、第1切替装置50aのコースト側スリーブ54の飛込ドグ54cと待機ドグ52aとの噛合を解除させたり、第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cと待機ドグ52aとを噛合させたりする。
一方、シフト部60bでは、第1切替装置50aのドライブ側スリーブ53に係合されるシフトフォーク8bと、第2切替装置50bのコースト側スリーブ54に係合されるシフトフォーク8cとが、連結部61bを介して接続される。
シフトフォーク8bは、末端に形成された貫通孔8baに、アクチュエータ9からの押圧力を受けるアクチュエータロッド62bが規制部63bを介して相対移動自在に挿通されている。シフトフォーク8cは、末端に形成された貫通孔8caに、アクチュエータロッド62bが規制部64bを介して相対移動自在に挿通されている。規制部63bおよび規制部64bは、アクチュエータロッド62bに固定されている。
規制部63bおよび規制部64bの間には、ワッシャー65b、コイルばねで構成される付勢部66b、ワッシャー67bが順に並んで配置され、これらにアクチュエータロッド62bが挿通されている。ワッシャー65bおよびワッシャー67bは、内径が規制部63bおよび規制部64bの外径よりも小さく、外径が貫通孔8baおよび貫通孔8caの内径よりも大きい。
シフト部60bでは、シフト部60aと同様に、アクチュエータロッド62bがアクチュエータ9から押圧力を受けると、付勢部66bの付勢力によりシフトフォーク8bおよびシフトフォーク8cが可動する。そして、押圧力を受ける向きによって、詳しくは後述するように、第1切替装置50aのドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cと待機ドグ52aとを噛合させたり、その噛合を解除させたりする。また、第2切替装置50bのコースト側スリーブ54の飛込ドグ54cと待機ドグ52bとの噛合を解除させたり、噛合させたりする。
(第2切替装置50bの構成および動作)
図4は、第2切替装置50bの分解斜視図である。第2切替装置50bは、ドライブ側スリーブ53とコースト側スリーブ54の双方を備えているが、ここでは、コースト側スリーブ54については図示および説明を省略する。
図4に示すように、第2切替装置50bは、第2メインシャフト5に固定され第2メインシャフト5と一体回転する略円筒状のハブ55を備えている。ハブ55の外周面には、ハブ55の径方向内側に窪み、軸方向に延在する溝55aが、第2メインシャフト5の周方向(以下、単に周方向と称す)に等間隔に複数形成されている。
ドグ部材51は、軸方向に貫通し不図示のスプライン溝が形成された貫通孔51aを有する。そして、ドグ部材51は、貫通孔51aに第2入力軸3bが挿通され、ハブ55に対して軸方向に対向して配置される。また、ドグ部材51の第2切替装置50b側に位置する端面の外周側には、上述したように、待機ドグ52bが周方向(回転方向)に等間隔に複数配列されている。なお、ドグ部材51の第1切替装置50a側に位置する端面の外周側には、待機ドグ52aが周方向に等間隔に複数配列されている。
ドライブ側スリーブ53は、環状のリング部53aを有し、リング部53aの中心にハブ55が挿通される。また、ドライブ側スリーブ53は、キー部53bを有する。キー部53bは、リング部53aからリング部53aの径方向内側に突出するとともに、ドグ部材51に向かって軸方向に延在する。
キー部53bは、周方向(回転方向)に等間隔に複数(ここでは3つ)配列されており、キー部53bの先端には、待機ドグ52bと噛合可能な飛込ドグ53c(第1ドグ)が形成されている。そして、キー部53bは、ハブ55の溝55aに嵌合しており、ドライブ側スリーブ53は、キー部53bがハブ55の溝55aを摺動することで、軸方向に移動する。
そして、ドライブ側スリーブ53は、キー部53bがハブ55の溝55aに嵌合していることから、ハブ55に対する相対回転が規制され、第2メインシャフト5およびハブ55とともに一体回転することとなる。
図5は、第2切替装置50bの側面図であり、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cと、ドグ部材51の待機ドグ52bの近傍を抽出して示す。図5(a)では、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cと、ドグ部材51の待機ドグ52bが噛合していない。この状態では、ドライブ側スリーブ53は、ハブ55とともに、第2メインシャフト5と一体回転する。一方、ドグ部材51は、第2メインシャフト5と相対回転自在となっている。
そして、上述したシフトフォーク8cが、ドライブ側スリーブ53をドグ部材51側に移動させる。すると、図5(b)に示すように、ドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cが、ドグ部材51に設けられた複数の待機ドグ52bの周方向の隙間に入る。
このように、図5(a)から図5(b)へと、ドグ部材51およびドライブ側スリーブ53が互いに近接する近接方向に相対移動すると、待機ドグ52bおよび、ドライブ側スリーブ53に設けられた飛込ドグ53cが噛合して待機ドグ52bと飛込ドグ53cが一体回転する動力伝達状態となる。
また、図5(b)から図5(a)へと、ドグ部材51およびドライブ側スリーブ53が互いに離隔する離隔方向に相対移動すると、ドグ部材51およびドライブ側スリーブ53の噛合が解除されて待機ドグ52bと飛込ドグ53cが相対回転する切り離し状態となる。
図6は、加速時における第2メインシャフト5から第1メインシャフト4への動力伝達経路の切り替えを説明する図である。なお、以下において、「加速」とは、エンジンEの駆動力によって車両が加速する状態をいうものであり、例えば、坂を下るときに、自重によって車両が加速する状態をいうものではない。図6に示すように、軸切替機構50は、待機ドグ52aが設けられたドグ部材51の一方の側面側に第1切替装置50aが配され、待機ドグ52bが設けられたドグ部材51の他方の側面側に第2切替装置50bが配される。以下では、車両の前進走行時、ドグ部材51(入力軸3)、第1切替装置50a(第1メインシャフト4)および第2切替装置50b(第2メインシャフト5)は、いずれも実線矢印で示す方向に回転するものとして説明する。
待機ドグ52aは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向前方側に位置するリーディング面52afと、回転方向後方側に位置するトレーリング面52arと、を備えている。待機ドグ52aは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向の幅が、突設方向の基端側(ドグ部材51側)よりも先端側(第1切替装置50a側)の方が広い、すなわち、先端幅広の形状となっている。同様に、待機ドグ52bは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向前方側に位置するリーディング面52bfと、回転方向後方側に位置するトレーリング面52brと、を備えている。待機ドグ52bは、ドグ部材51(入力軸3)の回転方向の幅が、突設方向の基端側(ドグ部材51側)よりも先端側(第2切替装置50b側)の方が広い、すなわち、先端幅広の形状となっている。
そして、第1切替装置50aのドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cは、待機ドグ52aのリーディング面52afに係合可能なリーディング爪53fを備えており、また、第1切替装置50aのコースト側スリーブ54の飛込ドグ54cは、待機ドグ52aのトレーリング面52arに係合可能なトレーリング爪54rを備えている。これらリーディング爪53fおよびトレーリング爪54rは、それぞれ待機ドグ52aのリーディング面52afおよびトレーリング面52arに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
一方、第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53の飛込ドグ53cは、待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合可能なリーディング爪53fを備えており、また、第2切替装置50bのコースト側スリーブ54の飛込ドグ54cは、待機ドグ52bのトレーリング面52brに係合可能なトレーリング爪54rを備えている。これらリーディング爪53fおよびトレーリング爪54rは、それぞれ待機ドグ52bのリーディング面52bfおよびトレーリング面52brに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
そして、図6(a)に示すように、制御部10がアクチュエータ9を制御していない場合、すなわち、第1切替装置50aおよび第2切替装置50bがいずれも切り離し状態にあるとき、飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cがいずれもドグ部材51から離隔した位置に保持される。このとき、飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cは、いずれも待機ドグ52aおよび待機ドグ52bと非係合状態となっており、第1メインシャフト4および第2メインシャフト5が、入力軸3から切り離されて相対回転可能な状態に維持されている。
上記の状態から、例えば、変速段を1速にシフトする場合には、第2切替装置50bを連結状態とし、第2切替装置50bを介して、入力軸3および第2メインシャフト5を一体回転させる。より詳細に説明すると、1速にシフトする場合、制御部10は、図1において説明したように、予め、ギヤ切替機構100aのスリーブ102aを1速用ドリブンギヤ21側に移動させ、ドリブンシャフト6と1速用ドリブンギヤ21とが一体回転する連結状態にする。なお、制御部10は、ギヤ切替機構100b、100cをニュートラル状態にする。
この状態で、制御部10は、アクチュエータ9を制御して、図6(b)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cを、ドグ部材51側に移動させる。このとき、飛込ドグ53cのリーディング爪53fが、待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合し、入力軸3の回転動力が、ドグ部材51の待機ドグ52b、飛込ドグ53cを介して第2メインシャフト5に伝達され、入力軸3と第2メインシャフト5とが一体回転する。これにより、エンジンEの駆動力が、入力軸3、ドグ部材51、第2切替装置50b、第2メインシャフト5、1速用ドライブギヤ11、1速用ドリブンギヤ21、ドリブンシャフト6を介して駆動輪に伝達される(図1参照)。
また、車両の加速状態において、1速から2速にアップシフトする際には、制御部10が、次のようにアクチュエータ9を制御する。すなわち、1速から2速にアップシフトする場合、制御部10は、予め、ギヤ切替機構100bのスリーブ102bを2速用ドリブンギヤ22側に移動させ、ドリブンシャフト6と2速用ドリブンギヤ22とが一体回転する連結状態にする(図1参照)。これにより、第1メインシャフト4には、2速用ドリブンギヤ22および2速用ドライブギヤ12を介して、ドリブンシャフト6の回転動力が伝達され、第1メインシャフト4が回転状態となる。
このとき、第1メインシャフト4の回転数は、ドグ部材51(入力軸3)よりも小さいため、ドグ部材51と第1切替装置50aとの間に差回転が生じている。この状態で、制御部10は、アクチュエータ9を制御して、図6(c)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cを、ドグ部材51から離隔する方向に移動させるとともに、第1切替装置50aの飛込ドグ53cを、ドグ部材51側に移動させる。
なお、1速の加速状態では、第2切替装置50bにおける飛込ドグ53cのリーディング爪53fが待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合しているが、飛込ドグ54cと待機ドグ52bのトレーリング面52brとは非係合状態に維持されている。したがって、第2切替装置50bの飛込ドグ54cは、ドグ部材51から離隔する方向に移動可能となっている。
そして、図6(c)に示すように、ドグ部材51と第1切替装置50aとの間に差回転が生じた状態で、第1切替装置50aの飛込ドグ53cが、ドグ部材51側に移動すると、図6(d)に示すように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cのリーディング爪53fが、待機ドグ52aのリーディング面52afに係合する。このように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cが待機ドグ52aに係合すると、第2メインシャフト5と入力軸3とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に第1メインシャフト4側に切り替わる。換言すれば、1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21を介した動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22に切り替わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。
また、このとき、第1切替装置50aの飛込ドグ53cと、ドグ部材51の待機ドグ52aとが係合すると、入力軸3の回転数が低下する。これにより、第2切替装置50bの飛込ドグ53cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも大きくなり、第2切替装置50bの飛込ドグ53cとドグ部材51の待機ドグ52bとの係合が解除される。したがって、制御部10は、アクチュエータ9を制御して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51側に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51から離隔する方向に移動させる。また、これと同時に、ギヤ切替機構100aを制御して、1速用ドリブンギヤ21とドリブンシャフト6とを切り離し状態にする。これにより、図6(e)に示すように、1速から2速への加速時アップシフトが完了することとなる。
以上のように、本実施形態の変速機1によれば、トルク切れを生じることなく、アップシフトを行うことができる。なお、ここでは、1速から2速への加速時アップシフトについて説明したが、3速から4速への加速時アップシフトも上記と同様である。
一方、例えば、変速段をバックにシフトする場合には、制御部10は、予め、ギヤ切替機構100bのスリーブ102bを2速用ドリブンギヤ22側に移動させ、ドリブンシャフト6と2速用ドリブンギヤ22とが一体回転する連結状態にする。また、ギヤ切替機構100cのスリーブ102cをアイドラギヤ32側に移動させ、アイドラシャフト7とアイドラギヤ32とが一体回転する連結状態にする。なお、制御部10は、ギヤ切替機構100bをニュートラル状態にする。
この状態で、制御部10は、アクチュエータ9を制御して、第2切替装置50bの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cを、ドグ部材51側に移動させる(図6(b)参照)。このとき、飛込ドグ53cのリーディング爪53fが、待機ドグ52bのリーディング面52bfに係合し、入力軸3の回転動力が、ドグ部材51の待機ドグ52b、飛込ドグ53cを介して第2メインシャフト5に伝達され、入力軸3と第2メインシャフト5とが一体回転する。これにより、エンジンEの駆動力が、入力軸3、ドグ部材51、第2切替装置50b、第2メインシャフト5、1速用ドライブギヤ11、1速用ドリブンギヤ21、アイドラギヤ31、アイドラシャフト7、アイドラギヤ32、2速用ドライブギヤ12、2速用ドリブンギヤ22およびドリブンシャフト6を介して駆動輪に伝達される(図1参照)。
ところで、例えば、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51側に移動させる際、第2切替装置50bの飛込ドグ53cが待機ドグ52bに衝突せずにドグ部材51の端面まで到達すれば、第2切替装置50bの飛込ドグ53cと待機ドグ52bは、噛み合いが適切になされる。しかし、第2切替装置50bの飛込ドグ53cが待機ドグ52bの差回転やシフトフォーク8dの移動タイミングによっては、第2切替装置50bの飛込ドグ53cが待機ドグ52bの飛込ドグ53c側の面に衝突し、第2切替装置50bの飛込ドグ53cは待機ドグ52から弾かれてしまう。
第2切替装置50bの飛込ドグ53cが弾かれると、第2切替装置50bの飛込ドグ53cが弾かれたことによるシフトフォーク8dの変位は、付勢部66aの伸縮によって吸収され、付勢部66aの反発力によって、再び、第2切替装置50bの飛込ドグ53cがドグ部材51に向かって移動する。第2切替装置50bの飛込ドグ53cと待機ドグ52bが噛合するまで、この衝突が繰り返される。
第2切替装置50bの飛込ドグ53cが待機ドグ52bから弾かれて、待機ドグ52bと噛合されずに停滞している間、アクチュエータ9はシフトフォーク8dを可動させるようにアクチュエータロッド62aを変位させ続け、付勢部66aによってシフトフォーク8dの可動方向への押圧力が蓄積される。そして、付勢部66aの付勢力が徐々に増加し、第2切替装置50bの飛込ドグ53cが待機ドグ52b側に移動する速度が上昇するため、第2切替装置50bの飛込ドグ53cが待機ドグ52bに衝突せずにドグ部材51の本体まで到達し易くなり、第2切替装置50bの飛込ドグ53cが待機ドグ52bに対して浅い噛み合い状態となることを防止する。
また、例えば、1速から2速への加速時アップシフトにおいては、図6(d)に示すように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cがドグ部材51の待機ドグ52aに係合して、第2切替装置50bの飛込ドグ53cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも大きくなる。このとき、第2切替装置50bの飛込ドグ53cとドグ部材51の待機ドグ52bとの係合が解除され、制御部10は、アクチュエータ9を制御して、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51から離隔する方向に移動させる。しかし、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51の待機ドグ52bから抜き切る前に、飛込ドグ53cと待機ドグ52bが衝突することがある。衝突により第2切替装置50bの飛込ドグ53cがドグ部材51から離隔する方向に弾かれると、第2切替装置50bの飛込ドグ53cが弾かれたことによるシフトフォーク8dの変位は、付勢部66aの伸縮によって吸収され、アクチュエータロッド62aを介してアクチュエータ9に入力される衝撃を緩和する。
図7は、減速時における第1メインシャフト4から第2メインシャフト5への動力伝達経路の切り替えを説明する図である。なお、以下において、「減速」とは、エンジンブレーキによる車両の減速状態をいうものであり、坂を上るときに車両が減速する状態をいうものではない。例えば、上記のようにして、1速から2速にアップシフトされ、第1メインシャフト4と入力軸3とが連結状態にあるとする。そして、車両が2速の減速状態で走行している場合には、図7(a)に示すように、第1切替装置50aにおける飛込ドグ54cのトレーリング爪54rが、待機ドグ52aのトレーリング面52arに係合されており、第1切替装置50aの飛込ドグ54cおよびドグ部材51の待機ドグ52aを介して、入力軸3と第1メインシャフト4とが一体回転している。
上記の状態において、2速から1速にダウンシフトする際には、制御部10が、次のようにアクチュエータ9を制御する。すなわち、2速から1速にダウンシフトする場合、制御部10は、予め、ギヤ切替機構100aのスリーブ102aを1速用ドリブンギヤ21側に移動させ、ドリブンシャフト6と1速用ドリブンギヤ21とが一体回転する連結状態にする(図1参照)。これにより、第2メインシャフト5には、1速用ドリブンギヤ21および1速用ドライブギヤ11を介して、ドリブンシャフト6の回転動力が伝達され、第2メインシャフト5が回転状態となる。
このとき、第2メインシャフト5の回転数は、ドグ部材51(入力軸3)よりも大きいため、ドグ部材51と第2切替装置50bとの間に差回転が生じている。この状態で、制御部10は、アクチュエータ9を制御して、図7(b)に示すように、第1切替装置50aの飛込ドグ53cを、ドグ部材51から離隔する方向に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ54cを、ドグ部材51側に移動させる。
なお、2速の減速状態では、第1切替装置50aにおける飛込ドグ54cのトレーリング爪54rが待機ドグ52aのトレーリング面52arに係合しているが、飛込ドグ53cと待機ドグ52aのリーディング面52afとは非係合状態に維持されている。したがって、第1切替装置50aの飛込ドグ53cは、ドグ部材51から離隔する方向に移動可能となっている。
そして、ドグ部材51と第2切替装置50bとの間に差回転が生じた状態で、第2切替装置50bの飛込ドグ54cが、ドグ部材51側に移動すると、図7(c)に示すように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cのトレーリング爪54rが、待機ドグ52bのトレーリング面52brに係合する。このように、第2切替装置50bの飛込ドグ54cが待機ドグ52bに係合すると、第1メインシャフト4と入力軸3とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に第2メインシャフト5側に切り替わる。換言すれば、2速用ドライブギヤ12および2速用ドリブンギヤ22を介した動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が、瞬間的に1速用ドライブギヤ11および1速用ドリブンギヤ21に切り替わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。
また、このとき、第2切替装置50bの飛込ドグ54cと、ドグ部材51の待機ドグ52bとが係合すると、入力軸3の回転数が上昇する。これにより、第1切替装置50aの飛込ドグ54cの回転数が、ドグ部材51の回転数よりも小さくなり、第1切替装置50aの飛込ドグ54cとドグ部材51の待機ドグ52aとの係合が解除される。したがって、制御部10は、アクチュエータ9を制御して、第1切替装置50aの飛込ドグ54cをドグ部材51から離隔する方向に移動させるとともに、第2切替装置50bの飛込ドグ53cをドグ部材51側に移動させる。また、これと同時に、ギヤ切替機構100bを制御して、2速用ドリブンギヤ22とドリブンシャフト6とを切り離し状態にする。これにより、図7(d)に示すように、2速から1速への減速時ダウンシフトが完了することとなる。
このように、本実施形態の変速機1によれば、トルク切れを生じることなく、ダウンシフトを行うことができる。なお、ここでは、2速から1速への減速時ダウンシフトについて説明したが、4速から3速への減速時ダウンシフトも上記と同様である。
以上の説明のとおり、変速機1によれば、第1切替装置50aの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cが待機ドグ52a側に移動され、当該待機ドグ52aのリーディング面52afと飛込ドグ53cとが係合されて、もしくは、当該待機ドグ52aのトレーリング面52arと飛込ドグ54cとが係合されて、入力軸3と第1メインシャフト4とが一体回転する動力伝達状態となる。また、第2切替装置50bの飛込ドグ53cおよび飛込ドグ54cが待機ドグ52b側に移動され、当該待機ドグ52bのリーディング面52bfと飛込ドグ53cとが係合されて、もしくは、当該待機ドグ52bのトレーリング面52brと飛込ドグ54cとが係合されて、入力軸3と第2メインシャフト5とが一体回転する動力伝達状態となる。
(潤滑補助部68の構成)
図8は、変速機1の正面図である。なお、図8においては、説明の便宜上、一部の構成を省略している。
図2および図3に示したように、シフトフォーク8a〜8bは、アクチュエータロッド62a、62bが挿通される貫通孔8aa〜8daとは反対側に支持部8ab〜支持部8dbを有する。支持部8ab〜8dbは、約180度の円弧状に形成されており、内周側にドライブ側スリーブ53またはコースト側スリーブ54が摺動する溝8ac〜8dcが形成されている。
そして、支持部8abおよび支持部8dbにおける周方向の両端のうち、相対的に上方に位置する端部は、支持部8bbおよび支持部8cbにおける周方向の両端のうち、相対的に上方に位置する端部よりも上方に位置している。また、支持部8abおよび支持部8dbには、周方向の両端のうち、相対的に上方に位置する端部側に潤滑補助部68が回転軸方向に沿って架け渡されている。そして、潤滑補助部68は、支持部8bbおよび支持部8cbにおける周方向の両端のうち、相対的に上方に位置する端部の上方に位置する。また、潤滑補助部68には、シフト方向の所定の位置に磁石69が設けられている。
そして、図2および図8に示すように、潤滑補助部68は、シフト部60aおよびシフト部60bがミッションケース15内に収容される際、ミッションケース15から離隔し、かつ、詳しくは後述するように、潤滑油がミッションケース15の内壁を伝って導かれる位置に配置される。また、潤滑補助部68は、ミッションケース15に設けられた位置センサ70に磁石69が対向するように配置される。これにより、位置センサ70は、磁石69から発せられた磁力強度に応じて、シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dの位置を検出する。
ところで、変速機1では、アクチュエータ9とシフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dとの押圧力の伝達経路の間には付勢部66aが設けられているため、アクチュエータロッド62aの位置を検出しても、シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dの正確な位置を検出することができない。そのため、シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dの位置を直接的に検出する必要があるが、付勢部66a、シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dがミッションケース15内に収容されているため、接触式の位置センサでは、シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dを検出することが困難である。そこで、位置センサ70によってシフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dの位置を非接触で検出する。シフトフォーク8aおよびシフトフォーク8dの位置を非接触で検出するためには、ミッションケース15に設けられた位置センサ70の近傍に磁石69を配置する必要があるが、磁石69は、潤滑補助部68に設けられることにより位置センサ70の近傍に配置することができる。
(潤滑油の供給)
ここで、ミッションケース15には、図8中ハッチングで示すように、潤滑油が貯蔵されている。潤滑油は、軸切替機構50が浸かることなく、かつ、アイドラシャフト7に設けられたアイドラギヤ31、32の少なくとも一部が浸かる量に設定されている。また、潤滑油は、ドリブンシャフト6に設けられたドリブンギヤDnの一部も浸かる量に設定されている。
そして、例えば、変速段が1速にシフトされ、第2切替装置50bの飛込ドグ53cと待機ドグ52bとが係合されて動力伝達状態となると、図8中太線矢印で示す方向に、1速用ドライブギヤ11、1速用ドリブンギヤ21およびアイドラギヤ31が回転するとする。このとき、1速用ドリブンギヤ21およびアイドラギヤ31は、一部が潤滑油に満たされているため、回転により潤滑油を上方に掻き上げることになる。掻き上げられた潤滑油の一部は、ミッションケース15の内壁に付着し、図8中白抜き矢印で示す方向に沿って、ミッションケース15の内壁を伝って潤滑補助部68に導かれる。
潤滑補助部68がミッションケース15の内壁を伝って潤滑油が導かれる位置に配置されているため、ミッションケース15の内壁を伝って潤滑補助部68に導かれた潤滑油は、ミッションケース15の内壁と潤滑補助部68との間を通過することなく、潤滑補助部68に導かれることになる。つまり、潤滑補助部68は、1速用ドリブンギヤ21およびアイドラギヤ31により掻き上げられてミッションケース15の内壁を伝って導かれた潤滑油を効率よく集めることができる。
そして、潤滑補助部68に導かれた潤滑油は、潤滑補助部68の下方に滴下する。潤滑補助部68の下方には、シフトフォーク8bおよびシフトフォーク8cの支持部8bbおよび支持部8cbにおける周方向の両端のうち、相対的に上方に位置する端部が位置しており、滴下した潤滑油の一部が、支持部8bbおよび支持部8cbの溝8bcおよび溝8ccに供給される。これにより、シフトフォーク8bと第1切替装置50aのコースト側スリーブ54との間に潤滑油を供給することができるとともに、シフトフォーク8cと第2切替装置50bのドライブ側スリーブ53との間に潤滑油を供給することができる。また、潤滑補助部68の下方に滴下した潤滑油の一部が、ハブ55に供給されることで、ハブ55とドライブ側スリーブ53およびコースト側スリーブ54との間に潤滑油を供給することができる。
以上のように、潤滑補助部68は、ミッションケース15の内壁から離隔し、かつ、潤滑油がミッションケース15の内壁を伝って導かれる位置に配置され、その下方に潤滑油の供給先である軸切替機構50が配置されている。これにより、ドリブンギヤDnやアイドラギヤ31、32等が回転することによって掻き上げられた潤滑油がミッションケース15の内壁を伝って潤滑補助部68に導かれるので、潤滑補助部68が掻き上げられた潤滑油を効率よく集め、集められた潤滑油が滴下して軸切替機構50に供給される。かくして、潤滑油の供給先である軸切替機構50を効率よく潤滑することができる。
上述した実施形態では、潤滑油の供給先として軸切替機構50が設けられていたが、軸切替機構50以外の他の部材が供給先であってもよい。
また、上述した実施形態では、例えば、飛込ドグ53cと待機ドグ52aとを噛合させることで動力伝達状態にし、飛込ドグ53cと待機ドグ52aとの噛合を解除させることで切り離し状態にするようにした。しかし、同軸上に設けられた2つの回転体が設けれ、一方の回転体をシフトフォークで移動させることで、動力伝達状態および切り離し状態にするものであればよい。
また、上述した実施形態では、潤滑補助部68に磁石69が設けられるようにしたが、磁石69が設けられていなくてもよい。
また、上述した実施形態では、例えば、シフトフォーク8aとシフトフォーク8dとが、連結部61aを介して接続され、一体的に移動するようにしたが、シフトフォーク8aとシフトフォーク8dが独立して移動するようにしてもよい。同様に、シフトフォーク8bとシフトフォーク8cが独立して移動するようにしてもよい。
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。