以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態では変速装置を備える車両を自動二輪車として説明する。また、本実施の形態において前,後,左,右とは、上記自動二輪車のシートに着座した状態で見た場合の前,後,左,右を意味する。
本実施の形態の変速装置は、奇数段と偶数段の変速ギア段の動力伝達をそれぞれ交互に行うことで、切れ目ない変速を実現する複数の摩擦伝動式のクラッチを備え、1基のエンジンとともに駆動ユニットとして車両としての自動二輪車に搭載されている。まず、変速装置を有する駆動ユニットが搭載された自動二輪車の概要について説明する。
(1)自動二輪車の構成
図1は、本発明の一実施の形態に係る変速装置を備える車両の側面図である。
図1に示すように、自動二輪車100は、前端側にヘッドパイプ2が設けられ、後方に延びつつ下方に傾斜するとともに、エンジン6、変速装置7、モータ8等を含む駆動ユニットが内部に配置されたメインフレーム1を備える。ヘッドパイプ2には、上部にハンドル5が取り付けられたフロントフォーク3が回動可能に設けられ、このフロントフォーク3の下端で回転自在に取り付けられた前輪4を支持している。
このハンドル5には、運転者の操作により駆動ユニット(図2参照)の変速装置7に変速動作させるシフトスイッチ15が設けられている。シフトスイッチ15は、図示しないシフトアップボタンおよびシフトダウンボタンを有する。シフトアップボタンが運転者に押下されることによって、変速装置7はシフトアップ動作を実行し、シフトダウンボタンが運転者に押下されることによって、変速装置7はシフトダウン動作を実行する。
メインフレーム1内に配置された駆動ユニットでは、エンジン6が、シリンダヘッドの下方にクランクシャフト60を車両の前後方向に直交する方向(左右方向)に略水平に延在させて車両の略中央部分に設けられている。エンジン6の後方側には、クランクシャフト60に接続され、クランクシャフト60を介して入力される動力を用いる変速装置7が設けられている。エンジン6と変速装置7との間には、変速装置7にギアシフトさせるモータ8が設けられ、このモータ8は、変速装置7のシフト機構701のシフトカム14(図2参照)を回転駆動してギアシフトを行う。
また、メインフレーム1において下方に傾斜する後端辺部から、リアアーム11が後方に延在して接合されている。リアアーム11は、後輪12および図示しないドリブンスプロケットを回転可能に保持している。
なお、自動二輪車100では、駆動ユニットの上方にシート9及び燃料タンク9aが配置され、シート9及び燃料タンク9aと駆動ユニットとの間には、自動二輪車100の各部の動作を制御するECU(Electronic Control Unit;電子制御ユニット)10が配設されている。このECU10によって、1基のエンジンに対して、それぞれ奇数段と偶数段の変速ギア段(変速ギア機構)の動力伝達を行う2基の摩擦伝動式クラッチを装備したツインクラッチ式の変速装置7の動作は制御される。
変速装置7は、車両において、変速機構700の左右方向における中心と自動二輪車100の左右方向における中心とが近接するように設けられている。
(2)変速装置の構成
図2は、図1の変速装置7の構成を説明する概略図であり、詳細には、変速装置を有する駆動ユニットの概略図である。なお、図2では、エンジン本体は図示省略している。
図2に示すように変速装置7は、エンジン6のクランクシャフト60に接続され、クランクシャフト60から伝達されるトルクを可変して後輪12側に伝達する変速機構700と、変速機構700における可変動作を行うシフト機構701とを有する。
変速機構700は、車両と直交する方向で略水平に配置されたクランクシャフト60と平行に配置される第1メインシャフト(第1主軸)71、第2メインシャフト(第2主軸)72及びドライブシャフト(出力軸)73と、第1クラッチ74と、第2クラッチ75とを有する。更に、変速機構700は、各シャフト71〜73間の動力伝達を行う各ギア81〜86、711、712、721、722、731、732と、ドライブスプロケット(以下「スプロケット」という)76、第1及び第2クラッチアクチュエータ77、78等を有する。
変速機構700では、第1及び第2メインシャフト71、72に伝達される動力は、各ギア81〜86、711、712、721、722、731、732を適宜選択して、後方に配置されたドライブシャフト73に伝達される。ドライブシャフト73の一端部(左側端部)にはスプロケット76が固定され、このスプロケット76には、後輪12の回転軸に設けられギアに巻回されたドライブチェーン13が巻回されている。スプロケット76が、ドライブシャフト73の回転に伴い回転することによって、ドライブチェーン13を介して駆動力を後輪(駆動輪)12に伝達される。
第1メインシャフト71において奇数段の変速ギア段(各ギア81、83、85、711、712、731)を介して後輪12に出力する駆動力の伝達部位と、第2メインシャフト72において偶数段のギア段(各ギア82、84、86、721、722、732)を介して後輪12に出力する駆動力の伝達部位とは、略同径の外径である。また、これら第1メインシャフト71の駆動力の伝達部位と、第2メインシャフト71、72の駆動力の伝達部位とは同心円上で重なることなく配置されている。この変速機構700では、互いに同径の外径を有する第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72が同一軸線上に左右に並べて配設され、それぞれ独立で回動する。
第1メインシャフト71は、第1クラッチ74に連結され、第2メインシャフト72は、第2クラッチ75に連結されている。第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、車両の前後方向と直交する方向(ここでは左右方向)に離間して配置されている。
第1クラッチ74は、第1クラッチアクチュエータ77を介してECU10により動作を制御され、奇数段ギア(1速ギア711と81、3速ギア712と83および5速ギア85と731)群を有する奇数ギア段の動力伝達を行う。
また、第2クラッチ75は、第2クラッチアクチュエータ78を介してECU10により動作を制御され、偶数段ギア(2速ギア721と82、4速ギア722と84および6速ギア86と732)群を有する偶数ギア段の動力伝達を行う。
変速機構700において各ギア81〜86、711、712、721、722、731、732に対して行われるギアシフトは、シフト機構701におけるシフトカム14の回転によって可動するシフトフォーク141〜144によって行われる。
このように変速装置7を用いた車両100において、クランクシャフト60からのエンジン6の駆動力は、第1及び第2クラッチ74、75、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72を有する独立の2系統からドライブシャフト73を介して出力されてチェーン13を介してドリブンスプロケットに伝達され、後輪12を回転させる。別言すれば、ドライブシャフト73は、第1クラッチ74及び第2クラッチ75の選択によって奇数段変速ギア機構(各ギア81、83、85、711、712、731)又は偶数段変速ギア機構(各ギア82、84、86、721、722、732)を介して伝達される動力を後輪12に出力する。
ここで、変速装置7の変速機構700について具体的に説明する。
(2−1)変速装置の変速機構
図3は、図1に示す変速装置の説明に供する図であり、変速装置を備える駆動ユニットの要部を示す部分平断面図である。なお、図3では、便宜上、構成部材の断面を示すハッチングは省略している。
変速装置7の変速機構700は、駆動ユニットのクランクケース92において、クランクシャフト60が左右方向に向けて配設されたシャフト収容部921に隣接し、且つシャフト収容部921の長手方向に沿って形成されたミッションケース770を含む領域に配設されている。
ミッションケース770は、シャフト収容部921及びクランクケース92とともに駆動ユニットの筐体(駆動ユニット筐体)920を構成する。
この駆動ユニット筐体920には、側方被覆部(クラッチカバー)770aと、ベルハウジング930と、側方被覆部(クラッチカバー)770bとが取り付けられる。側方被覆部(クラッチカバー)770aは、駆動ユニット筐体920におけるミッションケース770の一側面部(右側面部)に着脱自在に取り付けられ、第1クラッチ74を一側方(右側)から覆っている。また、ベルハウジング930は、ミッションケース770の他側面部(左側面部)に着脱自在に取り付けられている。側方被覆部(クラッチカバー)770bは、ベルハウジング930の他側方に当該ベルハウジング930を覆うように着脱自在に設けられ、第2クラッチ75を他側方(左側)から覆っている。
ミッションケース770は、クランクケース92においてシャフト収容部921の延在方向と平行に形成されている。ミッションケース770は、第1及び第2メインシャフト71、72の一部と、ドライブシャフト73と、各ギア81〜86、711、712、721、722、731、732とを収容している。
側方被覆部770a、770bは、それぞれベル状に形成され、第1クラッチ74、第2クラッチ75に対して、クランクケース92の両側方(左右側)側から覆う。
側方被覆部770a、770bのうち一方(右側)の側方被覆部770aは、ミッションケース770の一方の側面部(ここでは、右側部)に着脱自在に取り付けられ、この一方の側面部とともに第1クラッチ74を収蔵するクラッチケースを構成している。
また、側方被覆部770bは、ミッションケース770の他側面部(左側面部)に着脱自在に取り付けられたベルハウジング930とともに、第2クラッチ75を収蔵するクラッチケース(ケーシング部材)を構成している。なお、図3では、便宜上、ベルハウジング930をハッチングで示す。
駆動ユニット筐体920のクランクケース92には、スタータモータ93が取り付けられ、このスタータモータ93によってアイドラーギア97及びスタータギア96が駆動される。ギア94aは、クランクシャフト60のクランクウェブ62に設けられたギア62aに接続されているとともに、ワンウェイクラッチ部95を介してスタータモータ93の駆動により回転するスタータギア96に接続されている。これにより、ギア94aは、スタータモータ93が駆動する際には、ワンウェイクラッチ部95を介してスタータギア96と一体的に回転し、クランクシャフト60を回転させる。
また、クランクケース92には、発電機94が取り付けられ、この発電機94はギア94aと一体的に回転する。前述の通り、ギア94aは、クランクシャフト60のクランクウェブ62に設けられたギア62aに接続されている。これにより、クランクシャフト60が回転すると、発電機94が駆動される。
図2及び図3に示すように、エンジン6(図1)のクランクシャフト60は、複数のクランクウェブ61及び62を有する。クランクシャフト60は、図3に示すように、延在方向の中央部分を、車幅方向の略中心に位置するようにクランクケース92のシャフト収容部921内に配置されている。
クランクシャフト60における複数のクランクウェブ61のうち、クランクシャフト60の一端部および他端部に配置されるクランクウェブ61a、61bは、それぞれの外周にはギア溝が形成された外歯歯車である。これらクランクウェブ61a、61bは、シャフト収容部921において、クランクケース92の両端側(軸方向の両端側)で第1クラッチ74及び第2クラッチ75側(ここでは後方)に開口する開口部92a、92bから、両クラッチケース内(側方被覆部770a、770b内)に臨む位置に配置される。
クランクシャフト60においてギア溝が形成されたクランクウェブ61a、61bのうち、一端部に配置されるクランクウェブ61aは、シャフト収容部921内において第1クラッチ74における第1のプライマリドリブンギア(「第1入力ギア」ともいう)40と歯合している。この歯合により、クランクシャフト60の一端部のクランクウェブ61aから第1入力ギア40に伝達される動力は、第1クラッチ74を介して、クランクシャフト60の一端部側から変速装置7の第1メインシャフト71に伝達される。
一方、クランクシャフト60においてギア溝が形成されたクランクウェブ61a、61bのうち、他端部に配置されるクランクウェブ61bは、クラッチケース内において第2クラッチ75における第2のプライマリドリブンギア(「第2入力ギア」といもいう)50と歯合している。この歯合により、クランクシャフト60の他端部のクランクウェブ61bから第2入力ギア50に伝達される動力は、クランクシャフト60の他端部側から第2メインシャフト72に伝達される。
これらクランクウェブ61bのギア溝と第2入力ギア50との歯合部分は、駆動ユニット筐体920においてシャフト収容部921の他端側(左側)でクラッチケース内に連通する連通部分に配置されている。この連通部分は、シャフト収容部921の他端部側の開口部92bと、クラッチケースを形成するベルハウジング930の接合部分に形成された貫通孔940とにより形成される。
第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、クランクシャフト60の後方で、且つ、クランクシャフト60の両端部60a、60bにそれぞれ対向して配置されている。第1クラッチ74及び第2クラッチ75には、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の基端部71a、72aがそれぞれ連結されている。
第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72は、第1クラッチ74及び第2クラッチ75から互いに対向する方向に向かって延在し、自動二輪車100の前後方向に対して略直角に交差する方向(ここでは左右方向)に配置されている。
また、第1及び第2メインシャフト71、72は、駆動ユニットのユニット筐体920に、互いに対向する先端部71b、72bの端面部分同士を自動二輪車100の車幅方向の略中心に位置するように配設されている。
具体的には、第1メインシャフト71の先端部(他端部)71b側および第2メインシャフト72の先端部(他端部)72b側は、駆動ユニットのクランクケース92に連続する中空のミッションケース770内に挿入されている。ここでは、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72は、クランクケース92に、それぞれの基端部(一端部)71a、72a側をそれぞれ、ミッションケース770の両側方向から左右に突出させた状態で配設されている。
同一軸線上で、互いに対向する第1メインシャフト71の先端部71b及び第2メインシャフト72の先端部72bどうしは、ミッションケース770内において、軸受771、772に挿入され、回動自在に軸支されている。これら軸受771、772は、ミッションケース770内周面から立ち上がるフランジ部773の開口部に内嵌されている。
フランジ部773は、軸受771、772を介して第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の先端部71b、72bの端面どうしを、当該フランジ部773の中央部において対向させた状態でそれぞれを回動自在に支持している。
なお、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の先端部71b、72bは、ミッションケース770内のフランジ部773内の軸受771、772に挿入されていることによってクランクケース92に回動自在に軸支されているが、これに限らない。例えば、中空の第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の先端部71b、72bの一方のみをミッションケース770内に設けられたフランジ部内の軸受で受けた構成とする。この構成において、先端部71b、72bの一方の内周にニードルベアリングを取り付けて、このニードルベアリング内に、先端部71b、72bの他方を挿入した構成とする。すなわち、同軸上に一列に並べて配置される第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72において隣り合う端部どうしの他方の端部を一方の端部に回動自在に挿入して、一方の端部のみを軸受を介して当該ユニットケース770から立ち上がるフランジ部773に支持させる。
簡略して言えば、同軸上に配置された2つのメインシャフトのうち、一方のメインシャフトの端部に、他方のメインシャフトの端部を挿入し、一方のメインシャフトの当該端部のみをミッションケース770内において回動自在に支持させる。この構成によれば、メインシャフトの双方を中空にして、それぞれの中空部分を潤滑油の流路とする場合、2つのメインシャフトの双方が重なる端部または端部近傍の一点で潤滑油を流入させるだけで、メインシャフトの双方内に好適に潤滑油を流すことができる。
このように同一軸線上に配置された第1及び第2メインシャフト71、72の端部のうち左右方向で最も離間する側の端部(基端部)71a、72aに、第1クラッチ74及び第2クラッチ75が配置されている。
これら第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、ミッションケース770の両側面部から軸方向外方に突出した第1及び第2メインシャフト71、72の基端部(一端部)71a、72aに、軸方向外方に接続されている。なお、第2メインシャフト72の基端部72aは、ミッションケース770の他側面部及び他側面部に着脱自在に取り付けられたベルハウジング930よりも軸方向外側に突出し、隣り合うドライブシャフト73の同側方側(左側)の端部よりも軸方向外方(左側)に位置している。
第1クラッチ74は、ミッションケース770の一側面部よりも軸方向外側に配置され、一側面部(車両中心軸に対して略水平に直交する方向の一側面部)に脱着自在に取り付けられる側方被覆部770aにより被覆されている。
また、第2クラッチ75は、ミッションケース770の他側面部及び他側面部に脱着自在に取り付けられたベルハウジング930よりも軸方向外側に配置され、側方被覆部770bによって軸方向外方から覆われている。
第2クラッチ75は、第2メインシャフト72の基端部72aに、スプロケット76の一部とドライブシャフト73の軸方向側方(左側)で重なる位置で、脱着自在に接続されている。
この第2クラッチ75と軸方向で離間するスプロケット76との間には、第2クラッチ75を収蔵するクラッチケースの一部であり、第2クラッチ75とスプロケット76とを仕切るベルハウジング930の底面部(隔壁部材)が配置されている。
すなわち、ベルハウジング930の底面部によって、側方被覆部770bとベルハウジング930とで形成され、第2クラッチ75を収蔵するクラッチケースと、スプロケット76とスプロケット76に巻回され後方に導出されるチェーン13とによってなる外部に露出した駆動力出力部分の領域とが仕切られている。
図53は、本発明の一実施の形態に係る変速装置を備える車両の駆動ユニットにおいて両側方被覆部及び第2クラッチ75とベルハウジング930を外した状態を示す平断面図である。
図53に示す駆動ユニットの一側方(右側)では、駆動ユニット筐体920において、側方被覆部770aをミッションケース770から取り外している。
このような変速装置7を有する駆動ユニットによれば、車両に搭載された状態で、側方被覆部770aを取り外すだけで、第1クラッチ74を車両の一側方(右側方)に露出させることができ、第1クラッチ74のメンテナンスを容易に行うことができる。
また、駆動ユニットの他側方では、ベルハウジング930付きクランクケース92から他方被覆部770bを軸方向側方(左側)に取り外し、更に、第2クラッチ75及びベルハウジング930を、クランクケース92(具体的には、クランクケース92後方のミッションケース770部分)から軸方向側方(左側)に取り外している。
図54は、本発明の一実施の形態に係る変速装置を備える車両において第2クラッチを覆う側方被覆部と第2クラッチ及びベルハウジングを外した状態を示す側面図である。
このように、側方被覆部770b、第2クラッチ75及びベルハウジング930を外した変速装置7を備える駆動ユニットは、車両に搭載された状態で、他側方(ここでは左側方)にスプロケット76及びスプロケット76に巻回されるチェーン13を露出させることができる。
したがって、エンジン6、クランクシャフト60とともに、第1メインシャフト71、第2メインシャフト72、ドライブシャフト73と、各シャフト71〜73間の動力伝達を行う各ギア81〜86、711、712、721、722、731、732等を配置した駆動ユニットを車両に搭載した後で、車両の側方側(左側方)側で、スプロケット76及びスプロケット76に巻回されるドライブチェーン13の組み付けを行うことができる。
また、図54に示すように、変速装置7を有する車両では、側方被覆部770bを取り外すとともに、第2クラッチ75を第2メインシャフト72の基端部72aから外し、更に、ベルハウジング930をクランクケース92から取り外して、スプロケット76を車両の他側方(左側方)に露出させることができる。
これにより、変速装置7を備える駆動ユニットを車両に搭載した状態で、スプロケット76のメンテナンス、つまり、ドライブチェーン13等を含む後輪12への駆動力の出力部分のメンテナンスを容易に行うことができる。このように、変速装置7を備える車両では、エンジンを車載したままの状態で、ドライブチェーン13と、スプロケット76とを整備できる。
図55は、本発明の一実施の形態に係る変速装置を備える車両において第2クラッチ側を覆う側方被覆部を外した状態を示す車両の側面図である。
図55に示すように、第2クラッチ75を被覆する側方被覆部770bを、軸方向外方である他側方(左側)に取り外すだけで、第2クラッチ75を車両の側方に露出させることができる。これにより、車両に駆動ユニットを搭載した後でも、第2クラッチ75を収蔵するクラッチケースの一部である側方被覆部770bを取り外し、駆動ユニットをフレーム11(図1参照)から取り出すことなく、第2クラッチ75のメンテナンスを容易に行うことができる。
これら第1及び第2クラッチ74、75は、プライマリドリブンギア40、50を介して、車両前後方向と直交する方向(車幅方向)に延在し、且つ略水平に配置されたクランクシャフト60の両端側から動力を取り出して、第1及び第2メインシャフト71、72にそれぞれ伝達させている。
また、これら第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、それぞれクランクシャフト60により第1及び第2メインシャフト71、72に伝達され、車両前進させるトルクとは逆方向のトルクが掛かることを制限するバックトルク制限装置を備える。なお、バックトルク制限装置を備える第1クラッチ74及び第2クラッチ75の詳細な構成については後述する。
本実施の形態では、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72は、同一軸線上に離間して配置された構成としたが、それぞれ第1クラッチ74及び第2クラッチ75を介して入力され、ドライブシャフト73に出力されるクランクシャフト60のトルクの伝達経路が同一軸線上で重複しない別系統であれば、どのように構成されてもよい。言い換えれば、第1及び第2メインシャフト71、72は、複数の入力路からクランクシャフト60のトルクが入力され、ドライブシャフト73を介して出力される動力を伝達する部位が同心二重に重ならない構成であれば、どのように設けられてもよい。例えば、同一軸線上に位置させた第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72の互いに対向する先端部同士を回動自在に重ねた構成としてもよい。
図4は、第1および第2クラッチ74,75ならびに第1および第2メインシャフト71,72を示す要部断面図である。
図2〜図4に示す第1および第2クラッチ74,75は、ここでは、同様の構成の多板式クラッチを適用している。
図4に示すように第1クラッチ74は、第1のプライマリドリブンギア(第1入力ギア)40、クラッチハウジング740、複数のクラッチプレート741、複数のフリクションプレート744、プレッシャプレート部742およびクラッチスプリング743、センターハブ745を有する。また、第2クラッチ75は、第2のプライマリドリブンギア(第2入力ギア)50、クラッチハウジング750、複数のクラッチプレート751、複数のフリクションプレート754、プレッシャプレート部752およびクラッチスプリング753、センターハブ755を有する。
第1クラッチ74では、図4に示すように、プレッシャプレート部742の第1押圧板7421は、クラッチスプリング743により第1入力ギア40側に付勢されている。それにより、通常時には、複数のクラッチプレート741と複数のフリクションプレート744が互いに接触され、クランクシャフト60(図2参照)のトルクが、第1入力ギア40およびクラッチハウジング740、センターハブ745を介して第1メインシャフト71に伝達される状態となっている。
第2クラッチ75では、プレッシャプレート部752の第1押圧板7521は、クラッチスプリング753により第2入力ギア50側に付勢されている。それにより、通常時には、複数のクラッチプレート751と複数のフリクションプレート754が互いに接触され、クランクシャフト60(図2参照)のトルクが、第2入力ギア50およびクラッチハウジング750、センターハブ755を介して第2メインシャフト72に伝達される状態となっている。
また、図2に示すように、第1クラッチ74には、第1のプルロッド70を介して第1クラッチアクチュエータ77が連結されている。また、第2クラッチ75には、第2のプルロッド80を介して第2クラッチアクチュエータ78が連結されている。
第1のプルロッド70は、第1クラッチ74のプレッシャプレート部742(図3及び図4参照)に連結され、第2のプルロッド80は、第2クラッチ75のプレッシャプレート部752(図3及び図4参照)に連結されている。
図2に示す第1クラッチアクチュエータ77は、例えば、第1のプルロッド70を第1クラッチアクチュエータ77側に引き寄せるリンク(図示せず)、リンクを作動させる油圧シリンダ(図示せず)およびその油圧シリンダに油圧を発生させるためのモータ(図示せず)等を有する。第2クラッチアクチュエータ78は、第1クラッチアクチュエータ77と同様の構成を有する。
本実施の形態においては、第1クラッチアクチュエータ77により第1のプルロッド70が第1クラッチアクチュエータ77側に引き寄せられることにより、プレッシャプレート部742(図3及び図4参照)において第1押圧板7421が第1クラッチアクチュエータ77側に引き寄せられる。それにより、複数のクラッチプレート741と複数のフリクションプレート744(図4参照)が互いに離間され、第1入力ギア40から第1メインシャフト71へのトルクの伝達が切断される。
また、第2クラッチアクチュエータ78により第2のプルロッド80が第2クラッチアクチュエータ78側に引き寄せられることにより、プレッシャプレート部752(図3及び図4参照)の第1押圧板7521が第2クラッチアクチュエータ78側に引き寄せられる。それにより、複数のクラッチプレート751と複数のフリクションプレート754(図4参照)が互いに離間され、第2入力ギア50から第2メインシャフト72へのトルクの伝達が切断される。
このように第1および第2クラッチ74,75は、常態時では接続された状態であり、第1および第2クラッチアクチュエータ77,78が駆動されることにより切断される。
これら第1および第2クラッチ74,75は、それぞれ、第1及び第2メインシャフト71、72において、エンジン駆動によりクランクシャフト60の回転に伴い回転する方向である順方向(エンジンが車両を加速するように駆動する方向)とは逆方向に掛かるトルクを制限するバックトルク制限装置を、有する。
具体的には、第1クラッチ74は、第1メインシャフト71に掛かるバックトルクを制限するバックトルク制限装置を備え、第2クラッチ75は、第2メインシャフト72に掛かるバックトルクを制限するバックトルク制限装置を備える。これらバックトルク制限装置の容量は、逆トルク容量(減速向きのトルク容量)の絶対値<順トルク容量(駆動向きトルクの容量)に設定されるものとする。
ここで、バックトルク制限装置を備えるクラッチ(第1クラッチ74及び第2クラッチ75)の構成について詳細に説明する。
なお、第1クラッチ74と第2クラッチ75とは、同一の基本的構成で鏡面対称の構造を有している。よって、第2クラッチ75も第1クラッチ74と同様の基本的構成で鏡面対称構造としたバックトルク制限装置を備える。よって、以下では、第1クラッチ74の構成のみ説明し、第2クラッチ75の構成についての説明は省略する。
図5は、図3に示す変速装置7における第1クラッチ74から、クラッチスプリング743及びプレッシャープレート部742取り外した状態を、右側方から見た図であり、図6は、図5に示す第1クラッチのE−F−G線部分断面図である。また、図7は、図6に示す第1クラッチの要部構成を示す分解斜視図である。なお、図6に示すクラッチ74では、回転中心mを挟み上下で異なる部位の要部断面を示している。
図6及び図7に示すように、第1クラッチ74にクランクシャフト60のトルクを伝達する第1入力ギア40は、第1メインシャフト71の他端部(基端部)71a上に、外挿されたカラー40a及びカラー40aに外挿されたニードルベアリング40bに外装されている。これにより入力ギア40は、第1メインシャフト71上に回転自在となっている。
この第1入力ギア40に、クラッチハウジング740が、入力ギア40とともに回転自在に一体的に設けられている。
クラッチハウジング740は、有底筒状をなし、第1メインシャフト71の端部(基端部71a)上に回転自在に外挿された入力ギア40のハブ部分に、その底部の中心に第1メインシャフト71を挿通させて、内部を一端側に開口させた状態で一体的に取り付けられている。このようにクラッチハウジング740は、第1入力ギア40とともに第1メインシャフト71の端部(基端部71a)外周上に、第1入力ギア40とともに第1メインシャフト71と同一軸心で回転自在に取り付けられている。
クラッチハウジング740の内側には、軸方向に交互に互いに接離自在に配置された環状のフリクションプレート(「摩擦板」ともいう)744及び環状のクラッチプレート(「クラッチ板」ともいう)741が設けられている。更に、クラッチハウジング740の内側には、摩擦板744及びクラッチ板741の内側に配置されたセンターハブ745と、第1押圧板7421とともに摩擦板744及びクラッチ板741を挟む第2押圧板7422と、が設けられている。
なお、これらセンターハブ745と、第2押圧板7422とで、クラッチハウジング740内に配置されたクラッチハブ部を構成している。
環状の摩擦板744は、第1メインシャフト71の軸心と同心となるように配置され、外周に形成された外径スプラインを、クラッチハウジング740の周壁部の内周面に形成された内径スプラインに歯合させている。これにより摩擦板744は、クラッチハウジング740とともに第1メインシャフト71の軸心を中心に回転自在となっている。
これら複数の摩擦板744間に配置された複数の環状のクラッチ板741は、内周に形成された内径スプラインを介して、クラッチ板741の内側に配置されたセンターハブ745に歯合させている。これによりクラッチ板741は、センターハブ745とともに回転する。
図6に示すようにセンターハブ745は、クラッチハウジング740内で突出する第1メインシャフト71から半径方向外方に張り出してフランジ状に取り付けられた第2押圧板7422に対して、軸方向に接離自在に隣接配置されている。なお、この第1メインシャフト71の端部(詳細には基端)には、外挿されたリーフスプリング746を介して段付きナット(マフラ)747が取り付けられている。
また、この段付きナット747は、第2押圧板7422を第1メインシャフト71の端部に固定して、当該メインシャフト71からの抜けを防止するとともに、リーフスプリング746の軸方向への移動を抑止している。
センターハブ745は、第1メインシャフト71の端部を囲むように配置され、外周面にクラッチ板741の内径スプラインに歯合する外径スプラインが形成された円筒状部7451と、第2押圧板7422の押圧ボス部7426に配置された円環板状のボス部7452とで有底円筒状に形成されてなる。なお、ここでは円筒状部7451は、一方の開口側の内壁部分に内側に張り出した図示しないリベット孔を有する取付片を備え、この取付片の裏面側に、ボス部7452が取り付けられてなる。
図6に示す円筒状部7451は、一端側の開口端縁部で第1押圧板7421とほぞ組によって、回転方向への移動を規制された状態で軸方向へ移動自在に接続されている。具体的には、円筒状部7451の開口端縁部において外周面に形成された外径スプライン7451aが、第1押圧板7421の本体7421aの外周部から第2押圧板7422側に突出する環状突部7421bの内壁面に軸方向に形成された内径スプライン7421cに歯合して、周方向への移動を規制され且つ軸方向に移動自在となっている。
この円筒状部7451の他端側の開口部は、ボス部7452により閉塞され、このボス部7452は、第1メインシャフト71の一端側から、リーフスプリング746によって第2押圧板7422側に付勢されている。
リーフスプリング746は、センターハブ745内で、第2押圧板7422の押圧ボス部7426を挿通して突出する第1メインシャフト71に取り付けられた段着きナット747に固定されている。リーフスプリング746は、クラッチハウジング740内で、段着きナット747側から、第2押圧板7422に対して軸方向に接離自在に配置されたボス部7452(センターハブ745)を第2押圧板7422側に押圧する。
ボス部7452は、周方向に沿って開口し、第2押圧板7422から軸方向に沿って立ち上がるスタッド7423を周方向に移動自在に貫通させる長穴7453と、第2押圧板7422に形成された凹状の作動側カム7424と軸周りで係脱自在に係合する凸状の従動側カム7454とを有する。これら長穴7453及び従動側カム7454は、ボス部7452に周方向に沿って所定間隔を空けて複数配置されている。
このボス部7452は、第1メインシャフト71の端部に取り付けられる第2押圧板7422の押圧ボス部7426の押圧ボスハブ部7426bに回動自在に外挿されている。また、センターハブ745におけるボス部7452の受動側カム7454は、押圧ボス部7426の作動側カム7424内に配置され係合状態となっている。なお、この状態におけるボス部7452では、長穴に外周部7426aから立ち上がるスタッド7423が周方向に所定長移動自在に内挿されている。
従動側カム7454は、ボス部7452において、第2押圧板7422の押圧ボス部7426に対向する側の面(便宜上対向面という)に、押圧ボス部7426側に突出して設けられている。従動側カム7454は、軸周りに一方向に回転した際には、対向面が差動側カム7424に当接したまま回転方向に係合し、他方向に回転した際には、対向面が差動側カム7424から離脱しつつ回動するようにボス部7452に形成されている。
図8は、第1クラッチ74における従動側カム7454を備えるセンターハブ745のボス部7452を示す図であり、図8(a)は同ボス部7452を対向面と反対の表面側、つまり、第1メインシャフト71の一端側(車両右側)からみた図、図8(b)は、図8(a)のR−R線部分断面図である。
図8に示すように、従動側カム7454は、センターハブ745において筒状部7451内に架設されるボス部7452の対向面7452aから突出して形成されている。従動側カム7454は、車両を右側から見て反時計回り方向への回転によって駆動輪である後輪に出力される場合に作動側カム7424と面接触する反時計回り方向側の接触端面部7454aと、この接触端面部7454aの突端から時計回り方向側に向かって傾斜する傾斜面部7454bとを有する。ここでは、従動側カム7454は、対向面7452aに対して、接触端面部7454aが垂直に立ち上がり、この接触端面部7454aの突辺部から対向面7452a側に傾斜する傾斜面部7454bを有する縦断面直角台形状に形成されている。
なお、センターハブ745のボス部7452には、中央部の開口部に沿って、所定間隔を空けて、長穴7453と、円筒状部7451(図6参照)の内壁部分から内側に張り出した取付片の図示しないリベット孔に、リベットを介して接合されるリベット孔7452bとが形成されている。
図6に示すように、従動側カム部7454に対応して作動側カム部(螺旋カム)7424は、第2押圧板7422において、センターハブ745のボス部7452に対向する押圧ボス部7426の対向面上で凹状に形成されている。
押圧ボス部7426は、円盤状をなし、外周に沿って取り付けられる環状のフランジ部7427と、対向面上から立ち上がるように取り付けられた複数のスタッド7423とにより第2押圧板7422を構成している(図6及び図7参照)。
図9は、第1クラッチ74における第2押圧板7422の押圧ボス部7426を示す図であり、図9(a)は押圧ボス部7426を対向面側、つまり、第1メインシャフト71の一端側(車両右側)から見た正面図、図9(b)は、図9(a)のS−S線部分断面図である。
図9に示す押圧ボス部7426は、円板状をなし中央部に形成された開口部に挿入された第1メインシャフト71の基端部71aにスプライン結合により接合されており、第1メインシャフト71と同一軸心で一体的に回転する。
押圧ボス部7426では、センターハブ745のボス部7452に対向する対向面を有する円盤状の外周部7426aにおいて、第1メインシャフト71が挿入された開口部回りの中央部分で、ボス部7452側に突出する押圧ボスハブ部7426bを有する。
この押圧ボスハブ部7426bに、センターハブ745のボス部7452は軸方向及び周方向に移動自在に外挿され、押圧ボス部7426に対して軸方向に重ねて配置される。このとき、押圧ボス部7426において外周部7426aの対向面に形成された凹状の作動側カム7424内には、センターハブ745のボス部7452に設けられた凸状の従動側カム7454が係脱自在に嵌合している。
なお、作動側カム7424は、対向面から、従動側カム7454の形状に対応してなり、軸方向と平行で対向面と垂直な垂直端面7424aと、周方向に沿って傾斜する傾斜面7424bとを有する凹状に形成されている。
第2押圧板7422における作動側カム部7424と、センターハブ745における従動側カム部7454とは、第1メインシャフト71の軸心を中心に一方の軸回り方向で回転して係合し、他方の軸回り方向での回転では外れるように形成されている。
具体的には、作動側カム部7424及び従動側カム部7454では、互いに摺動する傾斜面7424b、7454bが、軸心を中心に螺旋状に傾斜する面として形成されている。
ここで、他方の軸回り方向とは、第1クラッチ74を介してクランクシャフト60から伝達され、駆動輪を駆動させる順トルク方向とは逆方向とする。よって、この第1クラッチ74における他方の軸回り方向とは、第1メインシャフト71の回転において、車両右側から見たドライブシャフト73に順トルクを伝達させる反時計回りの方向とは逆の、時計回りの方向である。
なお、第2クラッチ75における他方の軸回り方向は、車両左側から見て、第2メインシャフト72の回転において、ドライブシャフト73に順トルクを伝達させる時計回りの方向とは逆の、反時計回りの方向となる。
このため、第1クラッチ74と鏡面対称の構造を有する第2クラッチ75では、図10に示すセンターハブ755のボス部7552と、図11に示す第2押圧板の押圧ボス部7526とが第2メインシャフト72の基端部72a側を中心に回動自在に嵌合する。
すなわち、第2クラッチ75では、図10に示すボス部7552及び図11に示す押圧ボス部7526のそれぞれの対向面には、凸状の従動側カム7554及び凹状の作動側カム7524が形成されている。これら従動側カム7554及び作動側カム7524は、それぞれの対向面に、第2メインシャフト72の軸心を中心に相対的に回動した際に、車両左側から見て、一方の軸回り方向(時計回りの方向)では互いに係合し、他方の軸回り方向(反時計回りの方向)では互いに外れるように形成されている。
具体的には、作動側カム7524及び従動側カム7554は、車両左側からみて時計回り側の端部に、軸心を通る平面上に配置され、相対回転した際に互いに面接触して係合する接触端面7524a、7554aを有する。また、作動側カム7524及び従動側カム7554は、反時計回り方向側の端部に連続し、軸心を中心に螺旋状に傾斜する傾斜面7524b、7554bを有し、これら、傾斜面7524b、7554bが互いに摺動することによって、ボス部7552は、押圧ボス部7526にから軸方向に離間する。
これら同一の軸心で相対的に回転する作動側カム及び従動側カムの動作によって、クラッチは、バックトルクを制限する。
図12は、軸心側から見た押圧ボス部の作動側カムとボス部の受動側カムの関係を示す模式図である。なお、ここでは、第1クラッチにおける押圧ボス部の作動側カムとボス部の受動側カムを用いて説明する。
作動側カム7424と受動側カム7454との係合状態において、第1入力ギア40を介して、クランクシャフト60からトルクが伝達されると、クラッチ74では、センターハブ745のボス部7452に、順トルクが掛かるZ方向である一方向(車両を右から見てメインシャフトの反時計回りの方向)に回転する。このとき、図12(a)に示すように、従動側カム部7454及び作動側カム部7424を介して、押圧ボス部7426はZ方向に押圧され、同方向に移動して、第1メインシャフト71をZ方向に回転させる。
また、この構成では、押圧ボス部7426に対して、軸回り方向における他方向に回転するように、センターハブ745のボス部7452から伝達されるZ方向に回転するトルクよりも大きな力が加わる場合、図12(b)に示すように、従動側カム部7452は作動側カム部7424の傾斜面を摺動する。これにより、ボス部7452は、押圧ボス部7424に対して−Z方向に移動する。
そして、ボス部7452の従動側カム部7454が、作動側カム部7424の傾斜面を更に摺動することによって、図12(c)に示すように、押圧ボス部7426の作動側カム部7424から離間する。これにより、センターハブ745自体は、軸方向に沿って、第2押圧板7422から離間する方向(第1メインシャフト71の基端部側への方向)に移動することになる。
このように構成された第1クラッチ74及び第2クラッチ75を介してクランクシャフト60の両端部から動力が取り出され、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72に選択的に伝達されて、ドライブシャフト73から後輪12(図1参照)へ出力される。
次に、作動側カム7424及び従動側カム7454を有するクラッチ74,75におけるバックトルク制限装置の動作を説明する。
この説明にあたり、クラッチ74、75を有する駆動ユニットでは、図13に示すように、車両を右側から見て、順トルクを掛けて通常駆動する場合、クランクシャフト60は矢印X方向で示す時計回り(clockwise:CW)で回転する。また、メインシャフト(第1及び第2メインシャフト71、72)は、矢印Zで示す反時計回り(counterclockwise:CCW)で回転し、ドライブシャフト73は、矢印Xで示す時計回り(CW)に回動するものとする。
駆動ユニットにおいて、エンジンが発生してクラッチ74、75に伝達されるトルクのうち、クラッチ74に対して、メインシャフト71に対して、ドライブシャフト73に動力を伝達して走行方向に後輪12を回転させる方向に掛かるトルクを順トルク(正トルク)とする。また、この順トルクとは逆方向に掛かるトルクを逆トルクという。
<クラッチに順トルクが掛かる場合>
順トルクが掛かる場合では、例えば、クランクシャフト60が時計回り(X方向)に回転し、メインシャフトはZ方向に回転し、ドライブシャフト73はX方向へ回転するものとする。
すなわち、エンジン駆動によってCW方向Xに回転するクランクシャフト60からの動力は、第1入力ギア40を介してクラッチハウジング740に入力され、クラッチハウジング740は第1メインシャフト71の軸心を中心に、CCW方向Z向きに回転する。
クラッチハウジング740がZ方向に回転すると、クラッチハウジング740の内径スプラインに歯合する各摩擦板744も一体的に回転する。摩擦板744間には、内径スプラインでセンターハブ745の外径に歯合している複数のクラッチ板741が交互に挟まれている。
クラッチの接続時では、クラッチスプリング743が伸びようとする力によって、第1押圧板7421が第2押圧板7422の向きに押圧される。このため、この押圧力によって、各摩擦板744及び各クラッチ板741が第2押圧板7422へ押し付けられ、各摩擦板744及び各クラッチ板741の間には、相互に押圧力が作用して摩擦力が発生する。
この構成によって、各摩擦板744が回転すると、クラッチ板741を介してセンターハブ745は回転する。
また、センターハブ745には、各摩擦板744及び各クラッチ板741の間で発生した摩擦力に加えて、各摩擦板744と各クラッチ板741との有効接触半径(接触巾の略中央から第1メインシャフト71の中心までの距離)を乗じた大きさのトルク(即ち、クラッチの伝達トルク容量)を上限としたクランクシャフト(エンジンクランクシャフト)60からのトルクが、伝達される。
センターハブ745は、第2押圧板7422に、カムの凹凸を組み合わせ、その係脱によって軸方向に移動自在に組み付けられている。具体的には、バックトルク制限装置のカム(ここでは、凹状の作動側カム部7424、凸状の従動側カム部7454)は、センターハブ745のボス部7452及び第2押圧板7422における押圧ボス部7426のそれぞれの対向面に設けられている。これらバックトルク制限装置のカム(ここでは、凹状の作動側カム部7424、凸状の従動側カム部7454)は、それぞれ第1メインシャフト71の中心軸に対して略平行な面で形成された一方の面と、略螺旋状の面として形成された他方の面とを有している。
これら一方の面は、凹状の作動側カム部7424、凸状の従動側カム部7454において、第1メインシャフト71における駆動方向Z向き側の端部に形成され、他方の面は、一方の面側から、逆Z向き側に向かって傾斜するように形成されている。
このため、エンジンの駆動中において、クラッチハウジング740、摩擦板744、クラッチ板741及びセンターハブ745が、第2押圧板7422及び第1メインシャフト71を駆動する向き(Z向き)にトルクを伝達している際には、カム凹凸の第1メインシャフト71の中心軸に略平行な面を介して、センターハブ745から第2押圧板7422の押圧ボス部7426へトルクが伝達される。
第2押圧板7422の押圧ボス部7426は、開口部を形成する内周面に形成された内径スプラインを介して、第1メインシャフト71の外径スプラインと歯合している。このため、第2押圧板7422の押圧ボス部7426に作用するトルクは、第1メインシャフト71に伝達され、メインシャフト71上の各ギア(第1メインシャフト71においては固定ギア711、5速ギア85およびスプラインギア712)のいずれかを介してドライブシャフト73にトルクを伝達して、駆動力が出力される。
このように第1クラッチ74は、クランクシャフト60に第1入力ギア40を介して回動自在に連結されたクラッチハウジング740と、第1メインシャフト71に同一軸心で回転自在に連結され、クラッチハウジング740内に配置されたクラッチハブ部(第2押圧板7422、センターハブ745)と、クラッチハウジング740及びクラッチハブ部との間に交互に介設された摩擦板744とクラッチ板741と、摩擦板744を軸方向に押圧して、摩擦板744及びクラッチ板741間を接続する第1押圧板(押圧板部)7421と、押圧板7421を摩擦板744側に押圧するクラッチスプリング(付勢部材)743と、を有する。また、クラッチハブ部は、第1メインシャフト71に直結された第2押圧板7422の押圧ボス部(クラッチボス部)7426と、クラッチ板741を保持すると共に押圧ボス部7426に対し軸方向に移動自在であり且つ、相対回転可能なセンターハブ745とを備える。
バックトルク制限装置は、押圧ボス部7426とセンターハブ745において互いの対向面の一方に軸方向に凹ませて形成された作動側カム(凹部)7424と、他方の面に、軸方向に突出して形成された受動側カム(凸部)7454と、リーフスプリング(リミット用付勢部材)746とを備える。
作動側カム(凹部)7424は、後輪12を駆動させる順トルクが掛かる方向とは周方向逆側の面が回動中心を中心とした螺旋状のカム面である。受動側カム(凸部)7454は、凹状の作動側カム(凹部)7424の形状に対応して形成されている。受動側カム(凸部)7454は、押圧ボス部7426がセンターハブ745に対し、センターハブ745の回転方向側に相対的に回転した際に、センターハブ745を第1押圧板7421側に移動させてクラッチを切断する。
また、リーフスプリング746は、センターハブ745を押圧ボス部7426に押圧して、押圧ボス部7426に作用する逆トルクが所定以下の時には作動側カム7424(凹部)に従動側カム(凸部)7454を互いに係合してセンターハブ745に対する相対回転を不能とし、逆トルクが所定のトルクを越える時には、作動側カム7424(凹部)のカム面に従動側カム(凸部)7454を摺動させて、押圧ボス部7426とセンターハブ745とを相対回転させる。
<クラッチに逆トルクが掛かる場合>
ここで逆トルクとは、エンジン6(図1参照)から第1入力ギア40を介してクラッチハウジング740、摩擦板744、クラッチ板741、センターハブ745に入力されるトルクが、減速向き(矢印Zに反対の向き)となるトルクを言う。
なお、逆トルクは、左右に水平に配置されたクランクシャフト60の両端部から動力を取り出す駆動ユニットの構成において、シフトチェンジ等において左右双方の動力伝達系のギアがそれぞれ動力を伝達可能に歯合する状態で、左右の両クラッチ74、75がそれぞれ接続され、両クラッチにトルクが掛かった場合に発生する。通常は、駆動ユニットの変速機構700では、ECU10によって、一方から他方へクラッチの接続を切り替えることによりシフトチェンジが瞬時に行われるように制御されるため、逆トルクが掛かることによる影響は無い。しかしながら、シフトチェンジの際に、ECU10による制御が何らかの影響で行われない等の場合に、クランクシャフト60の両端部の一方から動力を取り出す一方のクラッチに対して、他方のクラッチを有する動力伝達系からクランクシャフト60とドライブシャフト73を介して、回転方向とは逆のトルクが掛かる場合がある。
ここでは、一方のクラッチ(ここでは第1クラッチ74)から他方のクラッチ(例えば第1クラッチ74に対して第2クラッチ75)を有する動力伝達系において逆トルクが掛かる場合について説明する。
図13は、本発明に係る変速装置におけるバックトルク制限動作の説明に供する図であり、車両に搭載された本案変速装置のクランクシャフト、メインシャフト、及びドライブシャフトの軸配置を、車両の右側面側から見た模式図である。車両の前進(通常の進行方向に走行している)時、図13において、クランクシャフト60、メインシャフト71、ドライブシャフト73は、それぞれX方向、Z方向、X方向に回転している。また前述の通り、車両の前進時、つまり、通常の進行方向に走行している時、第1クラッチ74には逆トルクが作用している。
この状態の第1クラッチ74(図6参照)では、作動側カム7424及び従動側カム7454において互いに摺動する他方の面である第1メインシャフト71中心軸を中心とした略螺旋の面を介して、第2押圧板7422の押圧ボス部7426からセンターハブ745へ逆トルクが伝達される。つまり、ドライブシャフト73→第1メインシャフト71→第2押圧板7422の順に逆トルクが伝達される状態において、センターハブ745の従動カム7454は、逆トルクによって、第2押圧板7422の作動側カム7424に沿って螺旋状に迫り上がるように移動する。このように従動カム7454が作動側カム7424に沿って移動すると、第2押圧板7422の押圧ボス部7426とセンターハブ745のボス部7452が第1メインシャフト71の軸線上において離間するように移動する(図12参照)。
すなわち、従動側カム7454を有するセンターハブ745のボス部7452は、第1メインシャフト71を中心に回転しつつ、第1押圧板7421に向かって、第1メインシャフト71の軸方向に沿って移動する。
ところで、センターハブ745のボス部7452は、ナット747を介して、リーフスプリング746によって、従動カム7454の突起(凸)が作動カム部(螺旋カム)7424の窪み(凹)に収蔵される方向、つまりセンターハブ745が第2押圧版7422側に寄せて拘束される方向に付勢されている。
このため、バックトルク制限装置の作動前のクラッチ74では、センターハブ745は、逆トルクによって他方の面(螺旋カム面)に生じる抗力のR方向成分(図6参照)とリーフスプリング746の押し付け力とが拮抗するところまで、作動側カム7424(螺旋カム)からR方向側に回転しつつ迫り上がる。
このように迫り上がるセンターハブ745の一方の端面(筒状部の開口側端面)が第1押圧板7421に到達するまでは、逆トルクは、ドライブシャフト73から第1メインシャフト71、第2押圧版7422の押圧ボス部7426、作動側カム7424及び従動側カム7454の螺旋カム面を介して、センターハブ745、クラッチ板741、摩擦板744、クラッチハウジング740、さらに第1入力ギア40を介してクランクシャフト60、即ちエンジン6(図1参照)の順に伝達される。
逆トルクが更に大きくなると、クラッチ74における制限装置が作動する。
具体的には、逆トルクの大きさが更に大きくなり、センターハブ745の端面(筒状部の開口側端面)が第1押圧板7421に到達すると、逆トルクにより螺旋カム面に生じる抗力のR方向成分と、リーフスプリング746の付勢力に加えたクラッチスプリング743の押し付け力の合力とが拮抗する位置まで、センターハブ745は、回動しつつ螺旋カム面をR方向に迫り上がる。
これにより、第1押圧板7421を介して摩擦板744とクラッチ板741を第2押圧板7422へ押し付けていたクラッチスプリング743の押圧力が減少する。よって、各摩擦板744及び各クラッチ板741の間に作用していた摩擦力が低下して、クラッチの伝達トルク容量は下がる。このとき、逆トルクの大きさが、クラッチスプリング743の押圧力が減じられたクラッチの伝達トルク容量を下回る範囲では、クラッチ74は逆トルクの伝達を続ける。他方、逆トルクの大きさがクラッチスプリング743の押圧力が減じられたクラッチの伝達トルク容量を上回る場合、摩擦板744とクラッチ板741が相対回転し、つまりクラッチが滑って逆トルクの伝達が制限されることとなる。
これにより、逆トルクに対するクラッチの伝達トルク容量は、クラッチが滑る状態が上限となり、それより大きな逆トルクが伝達されることはない。
このようにクラッチに逆トルクが掛かる場合、所定容量を超えると第1押圧板7421と各クラッチ板741が各摩擦板744に対して滑るバックトルク制限装置の作動によって、逆トルクに対する伝達トルク容量を制限できる。
このバックトルク制限装置作動からの復帰は、エンジン6(図1参照)のスロットルを操作したり、ドライブシャフト73の回転数が変化したり、他方のクラッチ(例では第2クラッチ75)を操作するクラッチアクチュエータ(78)、あるいはシフト機構701を操作したり、等によって逆トルクが小さくなる乃至順トルクの状態へ移行すると、センターハブ745は、リーフスプリング746により螺旋カムの斜面に沿ってR方向の逆方向に押し戻される。
つまり、センターハブ745は第2押圧板7422側に移動して、減じられていたクラッチスプリング743に因る押圧力が復元し、第1クラッチ74の伝達トルク容量が回復する。このとき、互いのボス部のカム面7454bと7424b、あるいは7454aと7424aが係合し、この係合する面でトルクを伝達する状態に戻る。
このように構成された第1及び第2メインシャフト71、72のそれぞれに第1及び第2クラッチ74、75が選択的に接続されることによって、変速機構700は、奇数段と偶数段の変速ギア段の動力伝達を行う。なお、変速機構700における変速ギア段のギアシフトは、ECU10によって、変速機構700とともに制御されるシフト機構701の動作によって行われる。
このようにバックトルク制限装置を有するクラッチの選択的な接続によって、エンジンの動力を出力する第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72と、ドライブシャフト73とを接続する各ギアについて説明する。
図2〜図4に示すように、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72上には、それぞれ、ドライブシャフト73のギア81、82、731、732、83、84に歯合する各ギア711、721、85、86、712、722が配置されている。
具体的には、第1メインシャフト71上には、第1クラッチ74が接続される基端側から順に、固定ギア(1速対応ギア)711、5速ギア85およびスプラインギア(3速対応ギア)712が配設されている。固定ギア711は、第1メインシャフト71に一体的に形成され、第1メインシャフト71とともに回転する。固定ギア711は、ドライブシャフト73の1速ギア81に歯合しており、ここでは、1速対応ギアとも称する。
5速ギア85は、第1メインシャフト71上において、1速対応の固定ギア711と、3速対応のスプラインギア712との間に互いに離間した位置に、軸方向への移動を規制された状態で、第1メインシャフト71の軸周りに回転自在に取り付けられている。
5速ギア85は、ドライブシャフト73のスプラインギア731(5速対応ギア)に歯合している。
スプラインギア712は、第1メインシャフト71上に、当該第1メインシャフト71の先端側、つまり、第1クラッチ74から離間する側の端部側に、第1メインシャフト71の回転に伴い回転するとともに、軸方向に移動自在に取り付けられている。
具体的には、スプラインギア712は、第1メインシャフト71における先端部の外周に軸方向に沿って形成されたスプラインによって、第1メインシャフト71に対して回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられ、ドライブシャフト73の3速ギア83に歯合している。このスプラインギア712は、シフトフォーク142に連結され、シフトフォーク142の移動によって第1メインシャフト71上を軸方向に移動する。なお、スプラインギア712は、ここでは、3速対応ギアとも称する。
スプラインギア712は、第1メインシャフト71上を5速ギア85側に移動して5速ギア85と係合し、第1メインシャフト71上における5速ギア85の軸回りの回動(空転)を規制する。スプラインギア712が5速ギア85に係合することにより、5速ギア85を第1メインシャフト71に固定し、第1メインシャフト71の回転とともに一体的に回転可能にさせる。
一方、第2メインシャフト72上には、第2クラッチ75が接続される基端部側から順に、固定ギア(2速対応ギア)721、6速ギア86およびスプラインギア(4速対応ギア)722が配設されている。
固定ギア721は、第2メインシャフト72に一体的に形成され、第2メインシャフト72とともに回転する。固定ギア721は、ドライブシャフト73の2速ギア82に歯合しており、ここでは、2速対応ギアとも称する。
6速ギア86は、第2メインシャフト72上において、2速対応の固定ギア721と、4速対応ギアであるスプラインギア722との間に互いに離間した位置に、軸方向への移動を規制された状態で、第2メインシャフト72の軸周りに回転自在に取り付けられている。この6速ギア86は、ドライブシャフト73のスプラインギア732(6速対応ギア)に歯合している。
スプラインギア(「4速対応ギア」ともいう)722は、第2メインシャフト72上に、当該第2メインシャフト72の先端側、つまり、第2クラッチ75から離間する側の端部側に、第2メインシャフト72の回転に伴い回転するとともに、軸方向に移動自在に取り付けられている。
具体的には、スプラインギア722は、第2メインシャフト72における先端部の外周に軸方向に沿って形成されたスプラインによって、第2メインシャフト72に対する回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられ、ドライブシャフト73の4速ギア84に歯合している。このスプラインギア722は、シフトフォーク143に連結され、シフトフォーク143の移動によって第2メインシャフト72上を軸方向に移動する。
スプラインギア722は、第2メインシャフト72上を6速ギア86側に移動して6速ギア86と係合し、第2メインシャフト72上における6速ギア86の軸回りの回動(空転)を規制する。スプラインギア722が6速ギア86に係合することにより、6速ギア86を第2メインシャフト72に固定し、第2メインシャフト72の回転とともに一体的に回転可能にさせる。
一方、図2及び図3に示すドライブシャフト73には、第1クラッチ74側から順に1速ギア81、スプラインギア(5速対応ギア)731、3速ギア83、4速ギア84、スプラインギア(6速対応ギア)732、2速ギア82およびスプロケット76が配置されている。
ドライブシャフト73において、1速ギア81、3速ギア83、4速ギア84および2速ギア82は、ドライブシャフト73の軸方向における移動が禁止された状態でドライブシャフト73を中心に回転自在に設けられている。
スプラインギア(「5速対応ギア」ともいう)731は、ドライブシャフト73に対して、スプライン係合によって回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられている。すなわち、スプラインギア731は、ドライブシャフト73に対してスラスト方向に移動自在で且つ、ドライブシャフト73とともに回転するように取り付けられている。このスプラインギア731は、シフト機構701のシフトフォーク141に連結され、シフトフォーク141の可動によってドライブシャフト73上を軸方向に移動する。
スプラインギア(「6速対応ギア」ともいう)732は、ドライブシャフト73に対して、スプライン係合によって回動を規制されつつ、軸方向にはスライド移動自在に取り付けられている。すなわち、スプラインギア(6速対応ギア)732は、ドライブシャフト73に対してスラスト方向に移動自在で且つ、ドライブシャフト73とともに回転するように取り付けられている。このスプラインギア732は、シフト機構701のシフトフォーク144に連結され、シフトフォーク144の可動によってドライブシャフト73上を軸方向に移動する。
なお、ドライブシャフト73の一方側の端部、ここでは、第2クラッチ75側に位置する端部には、ドライブシャフト73の回転とともに一体的に回転するスプロケット76が設けられ、スプロケット76には、図1のチェーン13が取り付けられている。
これらスプラインギア712、722、731、732は、変速ギアとしてそれぞれ機能するとともにドグセレクタとして機能している。スプラインギア712、722、731、732は、軸方向に移動することによって、軸方向で隣り合う各変速ギア(1速ギア81〜6速ギア86)のそれぞれにドグ機構により連結される。つまり、スプラインギア712、722、731、732と、軸方向で隣り合う各変速ギアとの互いの対向面同士に、互いに嵌合する凹凸部が形成され、凹凸部が嵌合することによって両ギアは一体的に回動する。
第1及び第2メインシャフト71、72上に配置された各ギア711、721、85、86、712、722と、ドライブシャフト73上に配置された各ギア81、82、731、732、83、84とにおける1速〜6速までの各ギアポジションを説明する。
1速ギアポジションでは、第1メインシャフト71上のスプラインギア(3速対応ギア)712は、5速ギア85から離間して、ドライブシャフト73上の3速ギア83と歯合する。また、ドライブシャフト73上のスプラインギア(5速対応ギア)731は、1速ギア81側に移動して、3速ギア83から離間し、且つ、1速ギア81に嵌合することによって連結する。これにより、1速ギア81は、スプラインギア731を介してドライブシャフト73に一体的に固定した状態にする。このとき、第1メインシャフト71のスプラインギア712と歯合する3速ギア83、及びドライブシャフト73のスプラインギア731に歯合する5速ギア85は、それぞれの軸周りで空転する状態となる。
2速ギアポジションでは、第2メインシャフト72上のスプラインギア(4速対応ギア)722は、6速ギア86から離間して、ドライブシャフト73上の4速ギア84に歯合する。また、ドライブシャフト73上のスプラインギア(6速対応ギア)732は、2速ギア82側に移動して、4速ギア84から離間し、且つ、2速ギア82に嵌合することによって連結する。これにより、2速ギア82は、スプラインギア732を介してドライブシャフト73に、一体的に固定した状態にする。このとき、第2メインシャフト72のスプラインギア722と歯合する4速ギア84、及びドライブシャフト73のスプラインギア732に歯合する6速ギア86は、それぞれの軸周りで空転する状態となる。
3速ギアポジションでは、第1メインシャフト71上のスプラインギア(3速対応ギア)712は、5速ギア85から離間してドライブシャフト73上の3速ギア83と歯合する。また、ドライブシャフト73上のスプラインギア(5速対応ギア)731は、3速ギア83側に移動して、1速ギア81から離間し、且つ、3速ギア83に嵌合することによって連結する。これにより、3速ギア83は、スプラインギア731を介してドライブシャフト73に一体的に固定した状態となる。このとき、第1メインシャフト71の固定ギア711と歯合する1速ギア81、及びドライブシャフト73のスプラインギア731に歯合する5速ギア85は、それぞれの軸周りで空転する状態となる。
4速ギアポジションでは、第2メインシャフト72上のスプラインギア(4速対応ギア)722は、6速ギア86から離間してドライブシャフト73上の4速ギア84と歯合する。また、ドライブシャフト73上のスプラインギア(6速対応ギア)732は、4速ギア84側に移動して、2速ギア82から離間し、且つ4速ギア84に嵌合することによって連結する。これにより、4速ギア84は、スプラインギア732を介してドライブシャフト73に一体的に固定した状態となる。このとき、第2メインシャフト72の固定ギア721と歯合する2速ギア82、及びドライブシャフト73のスプラインギア732に歯合する6速ギア86は、それぞれの軸周りで空転する状態となる。
5速ギアポジションでは、第1メインシャフト71上のスプラインギア(3速対応ギア)712は、5速ギア85側に移動し、且つ、5速ギア85に嵌合することによって連結し、当該5速ギア85を、スプラインギア712を介して第1メインシャフトに一体的に固定した状態にする。また、ドライブシャフト73上のスプラインギア(5速対応ギア)731は、1速ギア81及び3速ギア83の双方から離間して、双方に連結しない位置で、5速ギア85と歯合する。このとき、第1メインシャフト71の固定ギア711及びスプラインギア712に歯合するドライブシャフト73上の1速ギア81及び3速ギア83は、それぞれドライブシャフト73の軸周りで空転する状態となる。
6速ギアポジションでは、第2メインシャフト72上のスプラインギア(4速対応ギア)722は、6速ギア86側に移動して、且つ、6速ギア86に嵌合することによって連結し、当該6速ギア86を、スプラインギア722を介して第2メインシャフト72に一体的に固定した状態にする。また、ドライブシャフト73上のスプラインギア732は、2速ギア82及び4速ギア84の双方から離間して、双方に連結しない位置で、6速ギア86と歯合する。このとき、第2メインシャフト72の固定ギア721及びスプラインギア722に歯合するドライブシャフト73上の2速ギア82及び4速ギア84は、それぞれドライブシャフト73の軸周りで空転する状態となる。
このように変速機構700の各スプラインギア712、722、731、732が、シフトフォーク141〜144によって、軸方向に適宜移動することによって、変速装置7では、ギアシフトが行われる。
次に、変速装置7において、シフトフォーク141〜144を介して、変速機構700の各スプラインギア712、722、731、732を軸方向移動してギアシフトを行うシフト機構701について説明する。
(2−2)変速装置のシフト機構
図2に示すシフト機構701は、先端部で各スプラインギア731、712、722,732に連結され、それぞれ長尺をなすシフトフォーク141〜144と、回転軸が第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73と平行に配置されるとともに回転してシフトフォーク141〜144をそれぞれ当該回転軸の軸方向に可動させる円筒状のシフトカム14と、シフトカム14を回転駆動させるシフトカム駆動装置800と、モータ8と、モータ8とカム駆動装置800とを連結して、モータ8の駆動力を伝達する伝動機構41とを有する。
シフトフォーク141〜144は、各スプラインギア731、712、722,732とシフトカム14との間に架設されており、互いに、第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73、シフトカム14の軸方向で離間して配置されている。これらシフトフォーク141〜144は互いに平行するように並べられ、それぞれがシフトカム14の回転軸の軸方向に移動自在に配置されている。
シフトフォーク141〜144は、基端側のピン部を、シフトカム14の外周に形成された4本のカム溝14a〜14dにおけるそれぞれの溝内に、移動自在に配置させている。すなわち、シフトフォーク141〜144は、シフトカム14を原節とした従節をなしており、シフトカム14のカム溝14a〜14dの形状によって第1及び第2メインシャフト71、72、及びドライブシャフト73の軸方向にスライド移動する。このスライド移動によって、先端部に連結される各スプラインギア731、712、722,732は、各々の内径に挿通されている各軸上を軸方向にそれぞれ移動する。
シフトカム14は、伝動機構41を介してシフトカム駆動装置800に伝達されるモータ8の駆動力によって回転駆動し、この回転によって、カム溝14a〜14dの形状に応じてシフトフォーク141〜144のうち少なくとも一つを移動させる。
図14は、本実施の形態の変速装置におけるシフトカム14におけるカム溝の展開図である。なお、図14に示す1〜6、Nは、1〜6速及びN(ニュートラル)のギアポジションに対応したシフトカムの各カム溝内を摺動する、シフトフォーク141〜144におけるピン部の、シフトカム14の回転軸の軸方向における位置の中心を示している。
このようなカム溝14a〜14dを有するシフトカム14の回転に追従して可動するシフトフォーク141〜144によって、その移動したシフトフォークに連結されるスプラインギアが移動して、変速装置7(変速機構700)のギアシフトが行われる。シフトカム駆動装置800の詳細は後述する。
なお、本実施の形態においては、運転者がシフトスイッチ15のシフトアップボタンまたはシフトダウンボタンを押下することによって、そのことを示す信号(以下、シフト信号と称する)がシフトスイッチ15からECU10へ出力される。ECU10は、入力されるシフト信号に基づいて、第1および第2クラッチアクチュエータ77,78ならびにモータ8を制御する。この制御によって、第1および第2クラッチ74,75のいずれか一方、又は、クラッチ74,75の双方が切断されるとともにシフトカム14が回転し、変速装置7(変速機構700)のギアシフトを行う。以下、自動二輪車での変速装置7におけるシフト動作について説明する。
(2−2−1)シフト動作
本実施の形態では、変速機構700は、ニュートラルポジションおよび1速〜6速のギアポジションを有する。ECU10は、上記シフト信号に基づいて、変速機構700のギアポジションをニュートラルポジションおよび1〜6速のギアポジションのうちいずれかのギアポジションに設定する。なお、変速機構700における変速比(減速比)は、1速が最も大きく、2速、3速、4速、5速および6速と順に小さくなる。
また、本実施の形態においては、第1および第2メインシャフト71,72からドライブシャフト73へのトルクの伝達が遮断されている状態の変速機構700のギアポジションを変速機構700のニュートラルポジションと称する。
さらに、クランクシャフト60のトルクが1速ギア81を介してドライブシャフト73に伝達されている状態の変速機構700のギアポジションを1速と称し、クランクシャフト60のトルクが2速ギア82を介してドライブシャフト73に伝達されている状態の変速機構700のギアポジションを2速と称する。同様に、クランクシャフト60のトルクが3速ギア83、4速ギア84、5速ギア85および6速ギア86を介してドライブシャフト73に伝達されている場合の変速機構700のギアポジションを、それぞれ3速、4速、5速および6速と称する。
また、第1メインシャフト71とドライブシャフト73との間におけるトルクの伝達が遮断されている状態の奇数ギア群のギアポジションを奇数ギア群のニュートラルポジションと称し、第2メインシャフト72とドライブシャフト73との間におけるトルクの伝達が遮断されている状態の偶数ギア群のギアポジションを偶数ギア群のニュートラルポジションと称する。
したがって、本実施の形態においては、奇数ギア群および偶数ギア群のギアポジションが共にニュートラルポジションである場合に、変速機構700のギアポジションがニュートラルポジションとなる。なお、図2に示す変速機構700のギアポジションはニュートラルポジションである。
以下、図面を用いて変速装置7におけるシフト動作について詳細に説明する。なお、シフト動作は、シフトアップ及びシフトダウンにおいても同様の順に行われる。
図15は、図2に示す変速機構700の各ギアポジションにおける第1クラッチ74、第2クラッチ75、シフトカム14、及び1速ギア81〜6速ギア86の状態を示す図である。
なお、図15における「ギアポジション」の欄は、変速機構700のギアポジションを示す。また、「基準状態」の欄は、ECU10によるシフト動作の終了時点(開始時点)における第1クラッチ74、第2クラッチ75、シフトカム14、奇数ギアおよび偶数ギアの状態を示す。したがって、運転者によりシフトスイッチ15(図1)が操作されていない場合には、第1クラッチ74、第2クラッチ75、シフトカム14、奇数ギアおよび偶数ギアは、いずれかのギアポジションの基準状態で保持される。なお、図15においては、各ギアポジションの基準状態が「基準状態」の欄内の“○”で示されている。
また、図15において「第1クラッチ」および「第2クラッチ」の欄における“○”は、第1クラッチ74または第2クラッチ75が接続されていることを示し、“×”は第1クラッチ74または第2クラッチ75が切断されていることを示し、“△”は第1クラッチ74または第2クラッチ75が半クラッチ状態であることを示す。
また、図15において、「奇数ギア」および「偶数ギア」の欄における“N”は、奇数ギア群または偶数ギア群がニュートラルポジションであることを示す。
さらに、図15において、「奇数ギア」の欄における“1”は、1速ギア81にスプラインギア731(図2参照)が連結されている状態を示し、“3”は3速ギア83にスプラインギア731が連結されている状態を示し、“5”は5速ギア85にスプラインギア712(図2参照)が連結されている状態を示す。なお、「奇数ギア」の欄に示されるギア以外の奇数ギアには、スプラインギア712,731は連結されていない。
また、「偶数ギア」の欄における“2”は、2速ギア82にスプラインギア732(図2参照)が連結されている状態を示し、“4”は4速ギア84にスプラインギア732が連結されている状態を示し、“6”は6速ギア86にスプラインギア722(図2参照)が連結されている状態を示す。なお、「偶数ギア」の欄に示されるギア以外の偶数ギアには、スプラインギア722,723は連結されていない。
本実施の形態においては、運転者がシフトスイッチ15(図1)を操作した場合、ECU10は、第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78およびモータ8を制御する。それにより、奇数ギアおよび偶数ギアの状態を、1速上または1速下のギアポジションの基準状態へと移行させる。
このとき、第1クラッチ74、第2クラッチ75、シフトカム14、奇数ギアおよび偶数ギアは、図15において任意のギアポジションの基準状態とそのギアポジションの1速上または1速下の基準状態との間に示される各状態を経て1速上または1速下の基準状態へ移行する。
なお、本実施の形態においては、シフトカム14が基準状態から約6°回転したときにドグ機構により変速ギアとスプラインギアとが接触する。
以下、ギアポジションが2速から3速へとシフトアップされる場合を例に挙げて図15に示す関係を詳細に説明する。
図16〜図22は、ギアポジションが2速から3速へシフトアップされるときの変速機構700の状態を示す図である。なお、図16に示す変速機構700は2速の基準状態を示し、図22に示す変速機構700は3速の基準状態を示す。また、図16〜図22中の矢印は、クランクシャフト60(図2参照)のトルクの伝達経路を示す。
図15および図16に示すように、変速機構700のギアポジションが2速の基準状態である場合、第1および第2クラッチ74,75がともに接続されている。
この場合、図16に矢印で示すように、クランクシャフト60(図2参照)のトルクは、第1および第2クラッチ74,75を介して第1および第2メインシャフト71,72に伝達される。
ここで、図15および図16に示すように、2速の基準状態においては、奇数ギア群はニュートラルポジションに設定されている。そのため、第1メインシャフト71のトルクはドライブシャフト73に伝達されない。
詳細には、図16に示すように、第1メインシャフト71のトルクは、固定ギア711を介して1速ギア81に伝達され、スプラインギア712を介して3速ギア83に伝達される。しかし、1速ギア81および3速ギア83がドライブシャフト73に回転自在に設けられているため、1速ギア81および3速ギア83のトルクはドライブシャフト73に伝達されない。また、5速ギア85は第1メインシャフト71に回転自在に設けられているので、第1メインシャフト71のトルクは5速ギア85に伝達されない。したがって、第1メインシャフト71のトルクはドライブシャフト73に伝達されない。
一方、図15および図16に示すように、偶数ギア群はニュートラルポジションに設定されておらず、2速ギア82にスプラインギア732が嵌合して連結されている。この場合、図16に示すように、第2メインシャフト72のトルクは、固定ギア721、2速ギア82およびスプラインギア732を介してドライブシャフト73に伝達される。それにより、スプロケット76が回転する。スプロケット76に伝達されたトルクは、チェーン13(図1)を介して後輪12(図1)に伝達される。それにより、自動二輪車100が2速で走行する。
なお、6速ギア86は第2メインシャフト72に回転自在に設けられているので、第2メインシャフト72のトルクが6速ギア86を介してスプラインギア732に伝達されることはない。また、4速ギア84はドライブシャフト73に回転自在に設けられているので、第2メインシャフト72のトルクがスプラインギア722および4速ギア84を介してドライブシャフト73に伝達されることはない。
ここで、運転者がギアポジションを3速にするためにシフトスイッチ15(図1)のシフトアップボタンを押下した場合、ECU10(図2参照)は、第1クラッチアクチュエータ77(図2参照)を制御する。それにより、図15および図17に示すように第1クラッチ74が切断され、クランクシャフト60(図2参照)から第1メインシャフト71へのトルクの伝達が遮断される。
次に、ECU10は、図15に示すように、モータ8(図2参照)を制御することによりシフトカム14を所定角度(本実施の形態においては約30°)回転させる。それにより、シフトフォーク141(図2参照)が第2クラッチ75側に移動する。その結果、図18に示すように、スプラインギア731が3速ギア83側に移動し、3速ギア83とスプラインギア731とが嵌合して連結される。
この場合、スプラインギア712、3速ギア83およびスプラインギア731を介して第1メインシャフト71とドライブシャフト73との間で回転が連結される。しかし、第1クラッチ74が切断されているので、第1メインシャフト71とドライブシャフト73との間でトルクは伝達されない。即ち、2速の基準状態(図16)と同様に、クランクシャフト60(図2参照)のトルクは第2クラッチ75、固定ギア721、2速ギア82、スプラインギア732およびドライブシャフト73を通る経路でスプロケット76に伝達される。
したがって、第1メインシャフト71とドライブシャフト73との間で回転が連結されても、クランクシャフト60とスプロケット76との回転速度比は変化しない。それにより、自動二輪車100に駆動力を変化させることなく、スプラインギア731と3速ギア83とを連結させることができる。なお、図18に示す状態では、クランクシャフト60とスプロケット76との回転速度比が変化しないので、自動二輪車100の2速走行が維持される。
次に、ECU10は、第1および第2クラッチアクチュエータ77,78(図2参照)を制御し、図15および図18〜図20に示すように、第1クラッチ74を切断状態から半クラッチ状態および接続状態へと移行させ、第2クラッチ75を接続状態から半クラッチ状態および切断状態へと移行させる。
この場合、図18〜図20に示すように、クランクシャフト60から第1クラッチ74、第1メインシャフト71、スプラインギア712、3速ギア83およびスプラインギア731を介してドライブシャフト73に伝達されるトルクは徐々に大きくなる。一方、クランクシャフト60から第2クラッチ75、第2メインシャフト72、固定ギア721、2速ギア82およびスプラインギア732を介してドライブシャフト73に伝達されるトルクは徐々に小さくなり、第2クラッチ75が切断されることにより0になる。
この場合、第1クラッチ74が接続される際に、クランクシャフト60からスプロケット76に伝達されるトルクが急激に増加することを防止することができる。また、第2クラッチ75が切断される際に、クランクシャフト60からスプロケット76に伝達されるトルクが急激に低下することを防止することができる。
これらの結果、変速機構700のギアポジションが2速から3速へ切り換わる際に、スプロケット76のトルクが急激に変化することを防止することができる。それにより、自動二輪車100に変速ショックが生じることを防止することができ、運転者に不快な操作感が付与されることを防止することができる。また、ギアポジションが2速から3速へ切り換えられる際に、クランクシャフト60からスプロケット76へのトルクの伝達が遮断されないので、迅速かつ円滑な変速動作が可能になる。
次に、ECU10は、図15に示すように、モータ8(図2参照)を制御することによりシフトカム14を所定角度(本実施の形態においては約30°)回転させる。このシフトカム14の回転によって、シフトフォーク144(図2参照)が第1クラッチ74側に移動する。その結果、図21に示すように、スプラインギア732が6速ギア86のみと歯合し、2速ギア82及び4速ギア84のいずれとも嵌合による連結が行われない位置に移動する。それにより、偶数ギア群がニュートラルポジションに設定され、第2メインシャフト72とドライブシャフト73との間における回転の連結が遮断される。
その後、ECU10は、図15および図22に示すように、第2クラッチアクチュエータ78(図2参照)を制御することにより第2クラッチ75を接続する。それにより、2速から3速へのギアシフトが完了する。
(2−2−2)各ギアポジションの基準状態
次に、各ギアポジションの基準状態を簡単に説明する。なお、ニュートラルポジション、2速および3速の基準状態(図2、図16および図22参照)については既に説明したので以下においては説明を省略する。
(a)1速
図23は、変速機構700の1速の基準状態を示す図である。なお、図23および後述の図24〜図26中の矢印は、クランクシャフト60(図2参照)からスプロケット76へのトルクの伝達経路を示す。
図15および図23に示すように、変速機構700のギアポジションが1速の基準状態である場合、偶数ギア群がニュートラルポジションに設定され、1速ギア81にスプラインギア731が連結される。この場合、図23に示すように、クランクシャフト60のトルクは、第1クラッチ74、第1メインシャフト71、固定ギア711、1速ギア81、スプラインギア731およびドライブシャフト73を介してスプロケット76に伝達される。スプロケット76に伝達されたトルクは、チェーン13(図1)を介して後輪12に伝達される。それにより、自動二輪車100が1速で走行する。
(b)4速
図24は、変速機構700の4速の基準状態を示す図である。
図15および図24に示すように、変速機構700のギアポジションが4速の基準状態である場合、奇数ギア群がニュートラルポジションに設定され、4速ギア84にスプラインギア732が連結される。この場合、図24に示すように、クランクシャフト60のトルクは、第2クラッチ75、第2メインシャフト72、スプラインギア722、4速ギア84、スプラインギア732およびドライブシャフト73を介してスプロケット76に伝達される。それにより、自動二輪車100が4速で走行する。
(c)5速
図25は、変速機構700の5速の基準状態を示す図である。
図15および図25に示すように、変速機構700のギアポジションが5速の基準状態である場合、偶数ギア群がニュートラルポジションに設定され、5速ギア85にスプラインギア712が連結される。この場合、図25に示すように、クランクシャフト60のトルクは、第1クラッチ74、第1メインシャフト71、スプラインギア712、5速ギア85、スプラインギア731およびドライブシャフト73を介してスプロケット76に伝達される。それにより、クランクシャフト60のトルクが5速の変速比でスプロケット76に伝達される。それにより、自動二輪車100が5速で走行する。
(d)6速
図26は、変速機構700の6速の基準状態を示す図である。
図15および図26に示すように、変速機構700のギアポジションが6速の基準状態である場合、奇数ギア群がニュートラルポジションに設定され、6速ギア86にスプラインギア722が連結される。この場合、図26に示すように、クランクシャフト60のトルクは、第2クラッチ75、第2メインシャフト72、スプラインギア722、6速ギア86、スプラインギア732およびドライブシャフト73を介してスプロケット76に伝達される。それにより、自動二輪車100が6速で走行する。
このように変速装置7における各ギアポジションへのシフトチェンジは、ECU10によって制御される。本実施の形態では、シフト信号が入力されたECU10によって変速装置7は、奇数ギア段の動力伝達に用いられる第1クラッチ74と、偶数ギア段の動力伝達に用いられる第2クラッチ75とを交互に選択的に切り替えるとともに、シフト機構701によってギアシフトする。
ギアをシフトアップ又はシフトダウンする場合、つまりシフトチェンジを行う場合、変速装置7は、動力伝達するクラッチを、一方のクラッチから他方のクラッチに切り替える前に、次に用いられる他方のクラッチにおけるギア段をシフト(プリシフト)する。
ギアをシフトアップ又はシフトダウンする際では、一方のクラッチは、メインシャフトに接続(エンゲージ)されてドライブシャフト73に動力を伝達する動力伝達系を構成している。この間、他方のクラッチは、各ギアをニュートラルポジションに位置させた状態で対応するメインシャフトに接続されている。そして、ECU10へのシフト信号の入力によってシフトチェンジする際には、他方のクラッチを接続状態から、切断(リリース)状態にした後、一方のクラッチが切断(リリース)状態及び他方のクラッチが接続(エンゲージ)状態となる前に、次のギア段として用いられるギア段へのシフト動作が行われる。次のギア段へのシフト後に、当該ギア段に動力を伝達するメインシャフトへの他方のクラッチの接続後、切断された一方のクラッチは、配置されたギア段をニュートラルポジションにしたメインシャフトに再び接続される。
これにより車両では、他方のクラッチの接続後、当該他方のクラッチで動力伝達を行いつつ、一方のクラッチをニュートラルポジションにギアが配置されたメインシャフトに接続した状態で走行することとなる。よって、変速中も駆動輪である後輪12に駆動力を途切れることなく出力できる。
ところで、走行中のシフトチェンジにおけるプリシフト時に、ECU10の不具合により第1および第2クラッチアクチュエータ77,78の駆動制御が滞った場合等、左右両クラッチ74、75の双方ともエンゲージ(接続)した状態(二重係合)で双方にクランクシャフト60からのトルクが伝達された状態となることが考えられる。
つまり、両クラッチ74、75とともに別系統の動力伝達系を形成するギアがそれぞれ歯合した状態で、つまり、二重噛み合いした状態となり、クランクシャフト60と、変速機構700(第1及び第2クラッチ74、75、第1及び第2メインシャフト71、72、ドライブシャフト73、各ギア)とによる伝達機構内で内部循環トルクが発生する。
図56は、走行中の変速装置7で第1クラッチ74及び第2クラッチ75の双方ともエンゲージした状態(二重係合)において発生する内部循環トルクを示す模式図である。なお、図56では、第1クラッチ側のギア段が、第2クラッチ側よりも上のギア段が選択されているものとして図示している。
具体的には、ドライブシャフト73には、後輪12側からエンジン6を押しがけするときに似たトルクTDが掛かる。このドライブシャフト73の駆動方向の回転は、奇数ギア段を介して第1メインシャフト71に伝達されるととともに偶数ギア段を介して第2メインシャフト72に伝達される。また、第1及び第2クラッチ74、75は、クランクシャフト60において同一の回転数で拘束されており、一方のクラッチが滑るまではクランクシャフト60との連結によって双方クラッチの相対的な回転が規制される。これにより、ドライブシャフト73に連結された奇数ギア段及び偶数ギア段のうち、上のギア段側のメインシャフトに掛かるトルクが駆動方向に大きくなり、したのギア段側のメインシャフトに掛かるトルクは駆動方向に小さくなる。図56では、両クラッチを比較して、内部循環トルクTIあるいはTIdによって、第1クラッチ74においては順方向(エンジン6から後輪12を駆動する時と同じ向き)にトルクが増加し、第2クラッチ75においては順方向(エンジン6から後輪12を駆動するのと同じ向き)のトルクが減少、乃至逆方向にトルクが大きくなっている。
図56(a)に示すようにエンジン6(図1参照)の発生している駆動力が大きく、車両が加速中であれば、上のギア段側のメインシャフト(例えば、第1メインシャフト71)において大きくなるトルクTC1は、順トルク(駆動方向の回転力)である。このため、当該メインシャフト(例えば、第1メインシャフト71)に接続されるクラッチ(例えば、第1クラッチ74)のトルク容量を超えて滑っても、後輪12をロックすることがない。図56(a)では、TC1+TC2=TE、TC1=(1/2×TD−TId)/Ro、TC2=(1/2×TD−TId)/Reであり、内部循環トルク分だけ低速(Ro)側の負荷トルクが減少して、高速(Re)側が先に順トルク容量に達する。
一方、図56(b)に示すようにエンジン6の発生している駆動力が小さく、緩加速乃至減速中に内部循環トルクが発生した場合、クランクシャフト60の両端部からそれぞれ動力を取り出す第1及び第2クラッチ74、75のうち、減速比が大きい、下段のギア段が選択されているメインシャフト側の一方のクラッチには、当該一方のクラッチにおける順トルク(エンジン6から後輪12を駆動する時と同じ向きのトルク)が掛かる際の回転方向とは逆の回転方向のトルクが掛かる。図56(b)では、TC1=−TC2(<0)であり、低速(Ro)側には、逆向き、且つ高速(Re)がと同じ大きさの負荷トルクが作用して、低速(Ro)側が先に逆トルク容量に達する。例えば、上となるギア段が選択されている偶数段から下となるギア段が選択されている奇数段への減速中のプリシフト時に、左右両クラッチ74、75の双方ともエンゲージ(二重係合)して、内部循環トルクが作用する場合では、第1クラッチ74に掛かるバックトルクが増加する。
このように一方のクラッチに掛かるバックトルクが増加する場合に対応して、第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、各変速ギア段にトルクを伝達する第1及び第2メインシャフト71、72に対する接続(エンゲージ)状態を、加速中の回転方向に対しては強く、減速中の回転方向に対しては弱くして一定のトルクを越えると切断するバックトルク制限装置を有している。すなわち、一方のクラッチ(ここでは、第1クラッチ74とする)にトルク容量を超えたバックトルクが掛かる場合、上述したバックトルク制限機能が作用する。
具体的には、順トルク方向に回転する第2押圧板7422における押圧ボス部7426の作動側カム7424に従動側カム7422で係合しているセンターハブ745に逆トルクが掛かり、順トルクで駆動する際の回転方向と逆方向に回転する。
これにより、作動側カム7424の傾斜面に沿って、従動側カム7422が摺動していき、センターハブ745は第2押圧板7422の押圧ボス部7426から軸方向で離間する方向に移動していく。
離間したセンターハブ745は、第1押圧板7421側に移動し、当該第1押圧板7421をクラッチスプリング743の押圧に抗して押し返し、各摩擦板744及び各クラッチ板741へクラッチスプリング743によって付加されていた押圧力を減じる。これにより、各摩擦板744及び各クラッチ板741の間に作用していた摩擦力が低下して、摩擦板744とクラッチ板741が相対回転し、つまりクラッチが滑ってトルクの伝達が制限される。
ここで、バックトルク制限装置のトルク容量を、クラッチの順トルクに対するトルク容量より小さく(バックトルク容量の絶対値<順トルク容量)設定することにより、バックトルクの作用している側のクラッチを選択的に滑らせることが出来る。即ち、減速比が大きい、下となるギア段が選択されているメインシャフト側のクラッチを選択的して、当該クラッチを介したトルクの伝達を制限することが可能となる。
減速中にエンジンブレーキを効かせて駆動輪12に制動力を与える場合、或るギア段でエンジンブレーキを作用させた場合に比べて、その下となるギア段でエンジンブレーキを作用させた場合とでは、下となるギア段に因るほうがエンジンブレーキの効きが強い。つまり、変速装置7のギア段を適宜選択することによって、エンジンブレーキの効きの強さ(制動力の大きさ)を加減することが出来る。
また、減速中であるため車両は前のめりになり、駆動輪である後輪12と地面との接地面積が小さく、ドライブシャフト73を後輪側から強制的に回す力は加速時よりも弱い。ここで、特に減速中に内部循環トルクが発生した場合(図56(b)参照)、バックトルク制限装置のトルク容量が、クラッチの順トルクに対するトルク容量より小さく(バックトルク容量の絶対値<順トルク容量)設定されていれば、バックトルクの作用している側のクラッチを選択的に滑らせることができる。即ち、減速比が大きい下となるギア段が選択されているメインシャフト側のクラッチを選択的して、当該クラッチを介したトルクの伝達を制限することができる。これにより、エンジンブレーキが意図せず強く効いてしまうこと及び後輪12がロックされることを回避出来る。
つまり、減速中の内部循環トルク発生時において、下のギア段のクラッチではトルク容量を超えて選択的に当該クラッチが滑り出すこととなり、運転車が意図しない強いエンジンブレーキが作用することや後輪がロックされることを防止する。
(3)本実施の形態の変速装置7による効果
本実施の形態の変速装置7は、クランクシャフト60から伝達される回転動力を、第1メインシャフト71に入力して、変速ギア段の奇数段として設定される奇数段変速ギア機構(各ギア81、83、85、711、712、731)を介して駆動力を駆動輪に出力させる第1クラッチ74と、クランクシャフト60から伝達される回転動力を第2メインシャフト72に入力して、変速ギア段の偶数段として設定される偶数段変速ギア機構(各ギア82、84、86、721、722、732)を介して駆動力を後輪12に出力させる第2クラッチ75と、を備える。
第1クラッチ74及び第2クラッチ75は、クランクシャフト60の長手方向の中心を通り且つクランクシャフト60に直交する中心平面に対して略等間隔を空けて略対称な位置に配置されるとともに、クランクシャフト60の両端部側からそれぞれ動力が伝達される。第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72は、それぞれ奇数段変速ギア機構及び偶数段変速ギア機構を介して駆動輪に出力する際の駆動力の伝達部位が、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72において同心円上で重なることなく、クランクシャフト60と平行な同一軸線上に配置されている。また、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72のそれぞれにおける駆動力の伝達部位の軸外径は略同径となっている。
このため、本実施の形態によれば、従来の構成と異なり、第1メインシャフト71および第2メインシャフト72により二重管構造に形成されておらず、第1メインシャフト71および第2メインシャフト72における直径の一方を他方に対して大きくする必要がない。これに対応して、第1メインシャフト71および第2メインシャフト72に取り付けられるギア(固定ギア、変速ギアおよびスプラインギア)の直径を大きくする必要がない。
また、第1および第2メインシャフト71,72に設けられるギアの直径を小さくすることができるので、それらのギアに噛み合うギア(ドライブシャフト73に設けられるギア)の直径を小さくすることができる。それにより、第1および第2メインシャフト71,72とドライブシャフト73との間の距離を小さくすることができ、変速装置7の小型化が可能となる。
特に、本実施の形態の変速装置7では、第1メインシャフト71および第2メインシャフト72が、同一軸線上で端面同士を対向させて回動自在に配置されているため、互いに分離しており、自動二輪車に搭載する場合、既存のメインシャフトと同径のメインシャフトを、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72として用いることができる。
また、第1メインシャフト71と第2メインシャフト72とが略同一軸線上に設けられているので、第1メインシャフト71とドライブシャフト73との間隔または第2メインシャフト72とドライブシャフト73との間隔が大きくならない。
これにより、既存の自動二輪車におけるクランクシャフト、メインシャフト、ドライブシャフトのそれぞれの軸間を変更することなく、本実施の形態の変速装置7を有する駆動ユニットを自動二輪車に搭載できる。よって、既存の自動二輪車の車両ディメンションを制約することなく、自動二輪車のホイルベースを変更することなく搭載することができ、自動二輪車のフレームなどを大幅変更することなく搭載することができる。
また、第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72における動力伝達部位が同軸円上に重なっていない。つまり、第1メインシャフト71及び第2メインシャフトにそれぞれ配設されるギア711、85、712、721、86、722)と、これらに歯合するドライブシャフト73に配置された各ギア81、731、83、82、732、84)とのギア比設定の自由度が制限されることない。
また、本実施の形態においては、第1クラッチ74と第2クラッチ75とが対向するように配置され、第1クラッチ74と第2クラッチ75との間に第1および第2メインシャフト71,72が設けられている。これにより、自動二輪車100の左右方向における中心と変速機構700の重心位置とが大きく離間させることがない。
したがって、変速装置7、つまり駆動ユニットを自動二輪車100に搭載しても、自動二輪車100の左右の一方に重量が偏ることがなく、自動二輪車100自体の左右バランスを容易に安定させることができ、自動二輪車100の操作性を向上させることができる。
また、第1クラッチ74と第2クラッチ75が、クランクシャフト60の長手方向の中心を通り且つクランクシャフト60に直交する中心平面に対して略等間隔を空けて略対称な位置に配置されている。詳細には、第1クラッチ74と第2クラッチ75は、クランクシャフト60と平行な同一軸線上に配置された第1メインシャフト71と第2メインシャフト72のそれぞれ離間する側の端部(基端部)に接続され、クランクシャフト60の両端部に対して、クランクシャフト60の軸方向と直交して所定の間隔、離れた位置に、それぞれ配置されている。
これにより、第1クラッチ74、第2クラッチ75を収容する駆動ユニットの筐体において、第1クラッチ74と第2クラッチ75を覆う部位(クラッチケースの側方被覆部770a、770b)の車幅方向の突出度合いも、駆動ユニットのクランクシャフト60における長手方向の中心を通り軸に垂直な中心平面に対して略同等の長さとなっている。
このため、駆動ユニットにおけるクランクシャフト60の長手方向の略中心を通る垂直な平面を、自動二輪車100の車両の中心平面に合わせて、駆動ユニットを車両に搭載できる。よって、図57に示すように、第1クラッチ74、第のクラッチ75をそれぞれ側方から覆う側方被覆部770a、770bの突出度合いにより形成されるバンク角θも狭幅とすることができ、乗員の乗車姿勢も制約することがない。
また、本実施の形態においては、第1メインシャフト71、第2メインシャフト72、第1クラッチ74および第2クラッチ75がクランクシャフト60およびドライブシャフト73より上方に配置されている。この場合、自動二輪車100の下部の幅が大きくなることを防止することができる。それにより、自動二輪車100のバンク角を大きくすることができ、自動二輪車100の操作性を一層向上させることができる。
また、駆動ユニットにおいて重量が嵩む第1クラッチ74、第2クラッチ75が駆動ユニットの重心に対して略左右対称の位置に配置されているため、搭載される自動二輪車100のフレーム形状を左右で別段変更する必要がなく、フレームにおける左右の剛性を好適に形成しやすい。
また、第1メインシャフト71および第2メインシャフト72が別個に設けられているので、エンジン6からドライブシャフト73へトルクを伝達する2つの動力伝達経路(第1メインシャフト71を通る経路および第2メインシャフト72を通る経路)のうち、一方の経路を用いることができない場合、他方の経路を用いて後輪12に駆動力を出力できる。
また、本実施の形態においては、クランクシャフト60の一端部に配置されるクランクウェブ61aに第1入力ギア40が噛み合い、クランクシャフト60の他端部に配置されるクランクウェブ61bに第2入力ギア50が噛み合っている。この場合、エンジン6の重心と変速機構700の重心とが大きく離間することを防止することができる。それにより、自動二輪車100の左右バランスをさらに容易に安定させることができる。
また、本実施の形態においては、スプロケット76は、左右方向に並ぶ第2入力ギア50と2速ギア82との間の領域にスプロケット76の一部を挟むように配置されている。この場合、変速機構700の左右方向における中心を自動二輪車100の左右方向における中心から大きく離間させることなく、ドライブシャフト73にスプロケット76を設けることができる。それにより、自動二輪車100の幅の大型化を防止することができる。
さらに、スプロケット76は、図3に示すように、駆動ユニット筐体920の外に露出して配置されている。具体的には、スプロケット76は、駆動ユニット筐体920の一側方(左側方)から回動自在に突出するドライブシャフト73の一端部(左側端部)に取り付けられている。つまり、スプロケット76自体は、駆動ユニット筐体920の一側(左側)で外部に露出した状態で配置されている。なお、駆動ユニット筐体920は、クランクシャフト60、第1メインシャフト71、奇数段変速ギア機構(各ギア81、83、85、711、712、731)、第1クラッチ74、第2メインシャフト72、偶数段変速ギア機構(各ギア82、84、86、721、722、732)、第2クラッチ75及びドライブシャフト73を収蔵する。
この駆動ユニット筐体920では、スプロケット76の一側方(左側)に、第2クラッチ75を収蔵するクラッチケースを形成するベルハウジング930及び側方被覆部770bが配置されている。
ベルハウジング930は、第2クラッチ75とスプロケット76の間を仕切るように配置されている。詳細には、ベルハウジング930は、第2クラッチ75を収蔵する領域と、スプロケット76及びスプロケット76に巻回され車両後方に導出されるチェーン13とによってなる駆動力出力部分の配置領域とを仕切るように配置されている。これらベルハウジング930及び側方被覆部770bは、駆動ユニット筐体920に対して、一側方(左側)に着脱自在に取り付けられている。
これにより、側方被覆部770b、第2クラッチ75、ベルハウジング930を外すことによって、スプロケット76を車両の側方に露出させることができ、エンジン6を含む駆動ユニットを車両(自動二輪車)100に搭載した状態のまま、ドライブチェーンとスプロケット76を整備できる。
また、駆動ユニットでは、第1クラッチ74と第2クラッチ75とをそれぞれ側方から覆う側方被覆部770a、770bを、それぞれ駆動ユニット筐体920に対して取り外すことができる。
よって、駆動ユニットを車両(自動二輪車)100に搭載した状態のまま、第1クラッチ74、及び第2クラッチ75を車両の両側方に露出させることができ、一基のクラッチを備える従来の自動二輪車と同様に、クラッチを整備することができる。
すなわち、従来の自動二輪車と異なり、一基のエンジンに対して2基のクラッチを備える構成であっても、従来と同様にクラッチの整備を行うことができる。
また、本実施の形態においては、各ギアポジションの基準状態においては、奇数ギア群および偶数ギア群のうち一方がニュートラルポジションに保持される。それにより、第1および第2クラッチ74,75を共に接続した状態で自動二輪車100を走行させることができる。
したがって、自動二輪車100が一定のギアポジションで走行している場合には、第1および第2クラッチアクチュエータ77,78を駆動したまま保持する必要がない。それにより、第1クラッチアクチュエータ77、第2クラッチアクチュエータ78及びレリーズベアリング70a、80aの長寿命化が可能になる。また、ECU10による第1および第2クラッチアクチュエータ77,78の制御を簡易化することができる。
また、本実施の形態においては、ギアポジションが切り換えられる際に、第1および第2クラッチ74,75が共に半クラッチ状態にされる。この場合、スプロケット76のトルクが急激に変化することを防止することができる。それにより、自動二輪車100に変速ショックが生じることを防止することができ、運転者に不快感を与えることがない。また、ギアポジションが切り換えられる際に、クランクシャフト60からスプロケット76へのトルクの伝達が遮断されないので、迅速かつ円滑な変速動作が可能になる。
なお、第1入力ギア40における減速比と第2入力ギア50における減速比とは、同一でもよく、異なっていてもよい。
第1入力ギア40における減速比と第2入力ギア50における減速比とを同一にする場合、第1クラッチ74のクラッチ容量(クラッチの滑りが防止される最大トルク)と第2クラッチ75のクラッチ容量とを等しくすることができる。それにより、第1クラッチ74と第2クラッチ75とで部品の共通化を実現でき、自動二輪車100の製作コストの削減を図ることができる。
また、第1入力ギア40のおける減速比と第2入力ギア50における減速比とを異ならせる場合には、第1クラッチ74を介してドライブシャフト73に伝達されるトルクの変速比と、第2クラッチ75を介してドライブシャフト73に伝達されるトルクの変速比との差を大きくすることができる。それにより、変速機構700における変速比の幅を大きくすることができ、自動二輪車100の走行性能が向上する。
また、通常は自動二輪車100の発進時に用いられないクラッチすなわち第2クラッチ75のクラッチ容量を第1クラッチ74のクラッチ容量よりも小さくしてもよい。この場合、変速機構700の小型化および軽量化が可能となる。また、変速機構700の前後方向に延びる軸周りの慣性モーメントを小さくすることができるので、自動二輪車100の走行性能が向上する。
また、上記実施の形態においては、クランクシャフト60のトルクがクランクウェブ61a及び61bを介して第1および第2クラッチ74,75に伝達されているが、クランクシャフト60から第1および第2クラッチ74,75へのトルク伝達方法は上記の例に限定されない。たとえば、クランクシャフト60にトルク伝達用のギアを2つ設け、それら2つのギアを介してクランクシャフト60のトルクを第1および第2クラッチ74,75に伝達してもよい。
このように本実施の形態の変速装置7によれば、十分に小型化を図ることができるとともに左右の重量バランスが偏ることがなく、ギアチェンジを円滑に行うことができ、容易に自動二輪車に搭載できる。
(4)潤滑油供給路
次に、図4を用いて、第1および第2クラッチ74,75への潤滑油の供給経路及び供給方法について説明する。
第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72は、それぞれの内部に、軸方向に沿って延在するとともに一端側で開口する空洞部781、782を有する。ここでは、空洞部781は第1メインシャフト71の先端71bで開口する導油孔781aに連通し、空洞部782は第2メインシャフト72の一端(ここでは先端)72bで開口する導油孔782aに連通するように形成されている。これら導油孔781a、782aは、駆動ユニットケース側から供給される潤滑油を第1メインシャフト71及び第2メインシャフト72内の空洞部781、782に導油する。
また、第1メインシャフト71には、空洞部781と第1メインシャフト71の外部とを連通させる複数の貫通孔783が形成され、第2メインシャフト72には、空洞部782と第2メインシャフト72の外部とを連通させる複数の貫通孔784が形成されている。
図27は、図4のA−A線断面図である。図4および図27に示すように、ミッションケース770内のフランジ部773は、軸受771、772を内嵌する開口部の内周面において軸方向の中央部分にリング状の溝774を有する。また、フランジ部773には、溝774に連通するように潤滑油供給路775が形成されている。潤滑油供給路775は、図示しない潤滑油供給源に接続されている。
溝774には、軸受771,772を固定するためのサークリップ776が嵌め込まれている。なお、本実施の形態においては、溝774と潤滑油供給路775との連通部を閉塞しないように、サークリップ776が溝774に取り付けられている。
このような構成において、潤滑油供給源から潤滑油供給路775に供給された潤滑油は、図27に矢印で示すように、潤滑油供給路775の一端からフランジ部773内の空間に供給される。フランジ部773内に供給された潤滑油は、第1メインシャフト71(図4)の一端71bおよび第2メインシャフト72の一端72bから、導油孔781a、782aを介して空洞部781(図4)および空洞部782へと流入する。空洞部781内に流入した潤滑油は、複数の貫通孔783(図4)を介して第1クラッチ74内および第1メインシャフト71の外周部に供給される。これにより、第1クラッチ74の温度上昇が防止されるとともに、固定ギア711、5速ギア85およびスプラインギア712が潤滑される。また、空洞部782内に流入した潤滑油は、複数の貫通孔784(図4)を介して第2クラッチ75内および第2メインシャフト72の外周部に供給される。これにより、第2クラッチ75の温度上昇が防止されるとともに、スプラインギア722、6速ギア86および固定ギア721が潤滑される。
このように、本実施の形態の変速装置7では、フランジ部773内の空間に供給された潤滑油が空洞部781および空洞部782により2分されて第1クラッチ74および第2クラッチ75に供給される。それにより、第1クラッチ74および第2クラッチ75に均等に潤滑油を供給することができる。この場合、第1クラッチ74および第2クラッチ75の一方の潤滑油が不足することを防止でき、第1および第2クラッチ74,75の耐久性の向上を図ることができる。
(5)シフト機構
次に、シフト機構701について説明する。
図28は、図15に示すギアポジション、奇数ギアおよび偶数ギアの関係を簡略化した図である。
図28に示すように、本実施の形態においては、変速機構700がシフトアップまたはシフトダウンされる際に、奇数ギア群および偶数ギア群が交互にニュートラルポジションに設定される。詳細には、変速機構700のギアポジションが1速、3速または5速に設定されている場合には偶数ギア群がニュートラルポジションに設定され、ギアポジションが2速、4速または6速に設定されている場合には奇数ギア群がニュートラルポジションに設定される。
したがって、変速機構700が1段シフトアップまたは1段シフトダウンされる際には、ニュートラルポジションに設定されている奇数ギア群のうちのいずれかの変速ギアまたはニュートラルポジションに設定されている偶数ギア群のうちのいずれかの変速ギアにスプラインギアが連結される。
ここで、上記スプラインギアが連結される変速ギアおよびそのスプラインギアのうち、一方のギアにはクランクシャフト60(図2参照)の回転が伝達されており、他方のギアにはドライブシャフト73の回転が伝達されている。そのため、スプラインギアの回転速度と変速ギアの回転速度が異なっている。この状態でスプラインギアと変速ギアとを確実に嵌合連結させるためには、スプラインギアを変速ギア側へ高速で移動させる必要がある。そのためには、シフトカム14を大きなトルクで回転させなければならない。
本実施の形態に係るシフト機構701(図2参照)によれば、シフトカム14を大きなトルクで回転させることができる。それにより、スプラインギアを高速で移動させることができる。その結果、スプラインギアと変速ギアとを確実に嵌合連結させることができる。以下、図面を用いてシフト機構701について詳細に説明する。
(5−1)概略構成
まず、シフトカム駆動装置800の概略構成について図面を用いて説明する。
図29は、シフト機構701を示す斜視図であり、図30は、シフト機構701の分解斜視図であり、図31は、シフト機構701の断面図である。また、図32は、図29とは異なる方向から見たシフト機構701の一部を示す分解斜視図である。なお、図29〜図32および後述の図33〜図41においては、基準状態(図15参照)におけるシフト機構701について説明する。
また、図29〜図32および後述の図33〜図51においては、位置関係を明確にするため互いに直交するX方向、Y方向およびZ方向を示す矢印を付している。X方向およびY方向は水平面内で互いに直交し、Z方向は鉛直方向に相当する。なお、各方向において矢印が向かう方向を+方向とし、その反対の方向を−方向とする。また、Z方向において矢印が向かう方向を上方とし、その反対の方向を下方とする。
図29〜図31に示すように、シフト機構701は、シフトカム14、シフトフォーク141〜144、およびシフトカム駆動装置800を含む。
シフトカム14は円筒形状を有する。シフトカム14の外周面の一端部には、複数の溝部145が形成されている。本実施の形態においては、シフトカム14の軸心に対して60°ごとに6つの溝部145が形成されている。図30および図31に示すように、シフトカム14の一方の側面における中心部には、貫通孔146が形成されている。また、シフトカム14の一方の側面における中心部から偏った位置に係止穴147が形成されている。
図29〜図31に示すように、シフトカム駆動装置800は、第1の回転部材801、位置決めシャフト802(図30および図31)、第2の回転部材803、規制部材804(図30および図31)、第3の回転部材805(図30および図31)、収容部材806、第1の伝達部材807、トーションバネ808、および第2の伝達部材809を含む。
図30および図31に示すように、第1の回転部材801は、小径の円筒部811および大径の円筒部812を有する。図29〜図32に示すように、第1の回転部材801の外周部には、径方向に突出するように断面略三角形状の複数の突出部813が形成されている。本実施の形態においては、第1の回転部材801の軸心に対して60°ごとに6つの突出部813が形成されている。また、周方向で隣り合う突出部813と突出部813とにより凹部814が形成されている。
図31に示すように、円筒部811の側面の中心部には貫通孔815が形成されている。また、円筒部811の側面の中心部から偏った位置に係止穴816が形成されている。
貫通孔146および貫通孔815に位置決めシャフト802の一方側が挿入されている。これにより、シフトカム14の回転軸と第1の回転部材801の回転軸とが同一直線上に設けられる。また、係止穴147および係止穴816に係止部材822が嵌め込まれるように円筒部811とシフトカム14とが連結されている。これにより、シフトカム14と第1の回転部材801とが一体回転可能となる。
ミッションケース770内にはバネ791,792が設けられている。バネ791の一端には、移動部材793が当接されている。移動部材793は、バネ791の軸方向に移動可能に設けられている。また、バネ792の一端には、移動部材794が当接されている。移動部材794は、バネ792の軸方向に移動可能に設けられている。
移動部材793とシフトカム14の外周面の一端部との間にはボール795が設けられている。ボール795は、移動部材793を介してバネ791によりシフトカム14側に付勢されている。また、移動部材794と第1の回転部材801の外周面(突出部813および凹部814(図30)が形成される領域)との間にはボール796が設けられている。ボール796は、移動部材794を介してバネ792により第1の回転部材801側に付勢されている。第1の回転部材801の詳細は後述する。
図30〜図32に示すように、第2の回転部材803は、ロータ部831およびそのロータ部831の軸方向に延びるように形成されるシャフト部832を有する。図31および図32に示すように、ロータ部831の軸心部には、円柱状の穴833が形成されている。
図30〜図32に示すように、ロータ部831は、第1のラチェット301、第2のラチェット302、および第1のラチェット301と第2のラチェット302とを連結するように設けられる筒状の連結部303を含む。
図30および図32に示すように、第1のラチェット301には爪板834,835が取り付けられ、第2のラチェット302には爪板836,837が取り付けられる。
図31に示すように、穴833には位置決めシャフト802の他端側が挿入されている。それにより、シフトカム14の回転軸、第1の回転部材801の回転軸および第2の回転部材803の回転軸が同一直線上に設けられる。なお、第1のラチェット301は円筒部812内に収容されている。
図30および図32に示すように、規制部材804は円板形状を有する。図32に示すように、規制部材804の+X方向側の面の中心部には、第1の凹部401が形成されている。また、図30に示すように、規制部材804の−X方向側の面の中心部には、第2の凹部402が形成されている。
また、図30および図32に示すように、規制部材804には、中心部から上方に向かって延びるように切り込み部841が形成されている。図31に示すように、切り込み部841に第2の回転部材803の連結部303が嵌め込まれている。
図30〜図32に示すように、第3の回転部材805は、第1の円筒部851、第2の円筒部852および第3の円筒部853を有する。図31に示すように、第2の回転部材803は、第3の回転部材805内に回転自在に取り付けられている。第2のラチェット302は第1の円筒部851内に収容されている。また、シャフト部832の一端部は第3の円筒部853の一端から突出している。
図29〜図31に示すように、収容部材806は、フランジ部861および筒状の収容部862を有する。図31に示すように、フランジ部861はミッションケース770に取り付けられている。それにより収容部材806が固定されている。規制部材804は収容部材806に固定されている。
第3の回転部材805は、収容部材806内に回転自在に取り付けられている。第1の円筒部851および第2の円筒部852は、収容部862内に収容されている。第3の円筒部853は、収容部材806の一端から突出している。
図29〜図31に示すように、第1の伝達部材807は、円盤状の本体部871および連結部872を有する。連結部872は、本体部871の外周部から上方に向かって延びるように形成されている。連結部872には、−X方向に延びるように板状の係止部873が形成されている。
図31に示すように、本体部871は、第3の回転部材805における第3の円筒部853に固定されている。また、図29〜図31に示すように、連結部872は、伝動機構41の一端に連結されている。伝動41の他端は、モータ8(図1)の回転軸(図示せず)に連結されている。
図29〜図31に示すように、トーションバネ808は、第1の係止部881(図29および図30)および第2の係止部882を有する。第1の係止部881は、トーションバネ808の屈曲する一端部により構成され、第2の係止部882は、トーションバネ808の屈曲する他端部により構成される。
第2の伝達部材809は、円盤状の本体部891およびその本体部891の上部に形成される断面略L字状の係止部892を有する。係止部892は、先端部が+X方向に延びるように形成されている。
図29および図31に示すように、第2の回転部材803におけるシャフト部832の一端部に第2の伝達部材809の本体部891が固定される。第1の伝達部材807における本体部871の一端側および第2の伝達部材809における本体部891の一端側がトーションバネ808の内径に嵌め込まれる。これにより、本体部871および本体部891がトーションバネ808の略回転軸となる。
なお、図29に示すように、第1の伝達部材807の係止部873および第2の伝達部材809の係止部892は、トーションバネ808の第1の係止部881と第2の係止部882との間に設けられている。また、図29および図31に示すように、係止部873は係止部892の上方に隙間を空けて設けられている。
(5−2)シフトカム駆動装置の内部構成
以下、シフトカム駆動装置800の内部構成について図面を用いて説明する。
図33は、シフト機構701において図31のA−A線で示す部位の断面図であり、図34は、シフト機構701において図31のB−B線で示す部位の断面図であり、図35は、シフト機構701において図31のC−C線で示す部位の断面図であり、図36は、シフト機構701において図31のD−D線で示す部位の断面図である。また、図37は、第1の回転部材801および規制部材804を示す斜視図であり、図38および図39は、第2の回転部材803、規制部材804、第3の回転部材805、収容部材806、第1の伝達部材807、トーションバネ808および第2の伝達部材809を示す斜視図である。さらに、図40は、第2の回転部材803および規制部材804を示す斜視図であり、図41は、第2の回転部材803および第3の回転部材805を示す斜視図である。
図33に示すように、各突出部813の頂点部には、面取り面131が形成されている。面取り面131は、第1の回転部材801の軸心を中心とする所定の円周面で形成されている。本実施の形態においては、YZ平面において、各面取り面131と、各溝部145とを、位置決めシャフト802を中心とする半径の略同一半径上に位置させて、第1の回転部材801とシフトカム14とが連結されている。
また、ボール795およびボール796はYZ平面における位置決めシャフト802に対するボール795の中心点の方向と、位置決めシャフト802に対するボール796の中心点の方向とが等しくなるように、配置されている。
図33および図37に示すように、円筒部812の内周面817は凹凸形状を有する。詳細には、内周面817には、円筒部812の軸心に対して30°ごとに断面略V字状の凹面818が形成されている。
図33、図38および図39に示すように、第1のラチェット301(図33参照)には、内方に向かって湾曲するように凹部311および凹部312が形成されている。第1のラチェット301の上部には第1の扇状部313が形成され、第1のラチェット301の下部には第2の扇状部314が形成されている。なお、第1のラチェット301は、第2の回転部材803の回転軸を含み扇状部313のYZ平面における中心を通る平面に対して対称で、且つX方向に一様な形状となるように形成されている。
図33に示すように、爪板834の一端部は、凹部311の上側の湾曲する隅部に嵌め込まれている。爪板834は、一端部を揺動中心として揺動可能に設けられている。また、爪板835の一端部は、凹部312の上側の湾曲する隅部に嵌め込まれている。爪板835は、一端部を揺動中心として揺動可能に設けられている。なお、以下の説明においては、爪板834の他端を爪板834の先端とし、爪板835の他端を爪板835の先端とする。
第2の扇状部314の凹部311側には、穴315が形成されている。穴315は、第2の扇状部314における下部の中央部から凹部311の下側の隅部に向かって延びるように形成されている。また、第2の扇状部314における凹部312側には、穴316が形成されている。穴316は、第2の扇状部314における下部の中央部から凹部312の下側の隅部に向かって延びるように形成されている。
穴315内にはバネ317が設けられている。バネ317の一端は、爪板834の下面に当接されている。本実施の形態においては、基準状態において爪板834の先端面が位置決めシャフト802の+Y方向に位置する凹面818の下側の傾斜面に近接した状態で対向するように、バネ317の寸法が設定されている。
また、穴316内にはバネ318が設けられている。バネ318の一端は、爪板835の下面に当接されている。本実施の形態においては、基準状態において爪板835の先端面が位置決めシャフト802の−Y方向に位置する凹面818の下側の傾斜面に近接した状態で対向するように、バネ318の寸法が設定されている。
図33および図37、図38に示すように、爪板834,835の+X方向側は円筒部812内に収容されている。また、図34および図37〜図39に示すように、爪板834,835の−X方向側は規制部材804の第1の凹部401内に収容されている。
図34および図35に示すように、第1の凹部401および第2の凹部402は、第2の回転部材803の回転軸を含み基準状態における扇状部313のYZ平面における中心を通る平面に対して対称で、且つX方向にそれぞれ一様な形状となるように形成されている。
図32および図34に示すように、第1の凹部401は、+Y方向側において上方から順に設けられる誘導面411、補助面412、部分円筒面413および係止面414、ならびに−Y方向側において上方から順に設けられる誘導面415、補助面416、部分円筒面417および係止面418を有する。
図34に示すように、誘導面411は、切り込み部841の側部から斜め下方に向かって延びるように形成されている。誘導面411は、YZ平面において規制部材804の外方に向かって凸となるように緩やかに湾曲している。また、誘導面411は、YZ平面において円筒部812の内周面817より内方(内径)に設けられている。
補助面412は、基準状態において位置決めシャフト802の側方に位置する凹面818の上側の傾斜面と略面一になるように形成されている。部分円筒面413は、第2の回転部材803の軸心を中心とする所定の円の円周上に位置するように形成されている。部分円筒面413は、内周面817より外方(外径)に設けられている。
係止面414は、基準状態において位置決めシャフト802の側方に位置する凹面818の1つ下方の凹面818における上側の傾斜面と略平行となるように形成されている。また、係止面414と上記の傾斜面との間の距離は爪板834の厚みと略等しくなるように設定されている。係止面414は、YZ平面において円筒部812の内周面817より内方(内径)の位置まで延びるように形成されている。
誘導面415、補助面416、部分円筒面417および係止面418は、誘導面411、補助面412、部分円筒面413および係止面414とそれぞれ同様に形成されている。
また、図35および図37に示すように、第2の凹部402は、+Y方向側において上方から順に設けられる上面421、部分円筒面422、トリガ面423、開放面424、底面425および係止面426、ならびに−Y方向側において上方から順に設けられる上面431、部分円筒面432、トリガ面433、開放面434、底面435および係止面436を有する。
図35に示すように、上面421は、切り込み部841の側部から+Y方向に延びるように形成されている。部分円筒面422は、第2の回転部材803の軸心を中心とする所定の円の円周上に位置するように形成されている。
トリガ面423は、位置決めシャフト802の略水平方向において斜め下方に向かって延びるように形成されている。開放面424は、部分円筒面422よりも位置決めシャフト802側において略鉛直方向に延びるように形成されている。底面425は、緩やかに傾斜するように形成されている。係止面426は、斜め上方に向かって延びるように形成されている。
上面431、部分円筒面432、トリガ面433、開放面434、底面435および係止面436は、上面421、部分円筒面422、トリガ面423、開放面424、底面425および係止面426とそれぞれ同様に形成されている。
図32および図36に示すように、第1の円筒部851は、部分円筒部511および部分円筒部512を有する。また、第1の円筒部851には、部分円筒部511の内周面と部分円筒部512の内周面とを接続するように傾斜面513,514が形成されている。
図36に示すように、部分円筒部511の内周面は、第2の回転部材803の軸心を中心とする所定の円(以下、第1の円と称する)の円周上に設けられている。また、部分円筒部512の内周面は、第2の回転部材803の軸心を中心としかつ上記第1の円より径大の所定の円(以下、第2の円と称する)の円周上に位置するように設けられている。
なお、上記第1の円の半径は、トリガ面423および開放面424により形成される角部211と第2の回転部材803の軸心との間の距離よりも小さく、トリガ面433および開放面434により形成される角部212と第2の回転部材803の軸心との間の距離よりも小さい。
また、上記第2の円の半径は、開放面424および底面425により形成される隅部221と第2の回転部材803の軸心との間の距離よりも大きく、開放面434および底面435により形成される隅部241と第2の回転部材803の軸心との間の距離よりも大きい。
また、第3の回転部材805では、基準状態において傾斜面513,514がトリガ面423,433よりも上方に位置するように、部分円筒部511および部分円筒部512が形成されている。
図36および図40に示すように、第2のラチェット302には、内方に向かって湾曲するように凹部321および凹部322が形成されている。また、第2のラチェット302の上部には第1の扇状部323が形成され、第2のラチェット302の下部には第2の扇状部324が形成されている。なお、第2のラチェット302は、第2の回転部材803の回転軸を含み扇状部323のYZ平面における中心を通る平面に対して対称で、且つX方向に一様な形状となるように形成されている。
図36に示すように、爪板836の一端部は、凹部321の上側の湾曲する隅部に嵌め込まれている。爪板836は、一端部を揺動中心として揺動可能に設けられている。また、爪板837の一端部は、凹部322の上側の湾曲する隅部に嵌め込まれている。爪板837は、一端部を揺動中心として揺動可能に設けられている。なお、以下の説明においては、爪板836の他端を爪板836の先端とし、爪板837の他端を爪板837の先端とする。
第2の扇状部324の凹部321側には、穴325が形成されている。穴325は、第2の扇状部324における下部の中央部から凹部321の下側の隅部に向かって延びるように形成されている。また、第2の扇状部324における凹部322側には、穴326が形成されている。穴326は、第2の扇状部324における下部の中央部から凹部322の下側の隅部に向かって延びるように形成されている。
穴325内にはバネ327が設けられている。バネ327の一端は、爪板836の下面に当接されている。本実施の形態においては、基準状態において爪板836の先端面がトリガ面423に近接した状態で対向するように、バネ327の寸法が設定されている。
また、穴326内にはバネ328が設けられている。バネ328の一端は、爪板837の下面に当接されている。本実施の形態においては、基準状態において爪板837の先端面がトリガ面433に近接した状態で対向するように、バネ328の寸法が設定されている。
図35および図40に示すように、爪板836,837の+X方向側は規制部材804の第2の凹部402内に収容されている。また、図36および図41に示すように、爪板836,837の−X方向側は第3の回転部材805における第1の円筒部851内に収容されている。
(5−3)シフト機構の動作
以下、ギアシフトが行われる際のシフト機構701の動作について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下においては、運転者によりシフトスイッチ15(図2参照)のシフトアップボタンが押下された場合について説明する。
図42〜図51は、ギアシフトが行われる際のシフト機構701の動作を説明するための図である。なお、図42および図43は、シフトカム駆動装置800の斜視図である。また、図44〜図51(a)〜(d)は、シフト機構701において、図31に示すA−A線、B−B線、C−C線及びD−D線のそれぞれによって示す部位の断面図である。例えば、図44〜図51の(a)は、シフト機構701において図31のA−A線で示す部位の断面図であり、(b)は、シフト機構701において図31のB−B線で示す部位の断面図である。また、図44〜図51の(c)はシフト機構701において図31のC−C線で示す断面図であり、(d)はシフト機構701において図31のD−D線で示す部位の断面図である。なお、図44(a)〜(d)は、基準状態における各部位の断面図(図33〜図36の各断面図に対応)が示されている。さらに、図31及び図44において、シフトカム14は、溝部145においてボール795が移動部材793を介してバネ791によりシフトカム14側に付勢されていることによって回転を拘束されている。ボール795に因るシフトカム14の回転を拘束するトルクについて、詳細は後述する。
運転者によりシフトアップボタンが押下された場合、ECU10(図2参照)によりモータ8(図2参照)が制御され、モータ8の回転軸(図示せず)が所定角度(本実施の形態においては約40°)回転する。図29〜図31、図42に示すように、モータ8の回転軸には揺れ腕42が接続されており、モータ8の回転軸が回転することにより揺れ腕42が回動され、伝動機構41が略Y軸方向に移動される。それにより、図42に示すように、第1の伝達部材807が伝動機構41によって矢印Rで示す方向に回転される。なお、以下の説明においては、矢印Rの方向の回転を反時計回りの回転とし、その逆の方向の回転を時計回りの回転とする。
第1の伝達部材807が反時計回りに回転することにより、トーションバネ808の第2の係止部882が係止部873によって反時計回りの方向に押される。それにより、トーションバネ808の第1の係止部881において反時計回りの方向のトルクが発生する。
トーションバネ808に発生したトルクは、第1の係止部881を介して係止部892に与えられる。それにより、第2の伝達部材809に反時計回りの方向のトルクが与えられる。上述したように、第2の伝達部材809には第2の回転部材803のシャフト部832が固定されている。したがって、第2の伝達部材809に与えられたトルクは、第2の回転部材803に与えられる。
ここで、図44(c)及び図44(d)に示すように、基準状態においては、爪板836の先端面は、規制部材804のトリガ面423に近接した状態で対向している。この場合、トーションバネ808(図42参照)から与えられるトルクによって第2の回転部材803が回転しても、その回転動作の開始直後に爪板836の先端面がトリガ面423に当接する。よって、爪板836の移動は阻止され、第2の回転部材803の回転を阻止する。
したがって、モータ8(図31)の回転動作の開始直後は、図44(d)および図45(d)に示すように、第2の回転部材803が停止した状態で第3の回転部材805のみが回転する。これにより、図42に示すように、係止部873と係止部892とが離間され、トーションバネ808に反時計回りのトルクが蓄積される。
図45(d)に示すように、第3の回転部材805が回転する際には、第3の回転部材805の傾斜面513は、規制部材804のトリガ面423に交差するように移動する。このとき、傾斜面513は爪板836を押圧する。これにより、爪板836はバネ327を押圧しつつ傾斜面513上を第3の回転部材805の内方に向かって折りたたまれるように移動する。
第3の回転部材805が基準状態から所定角度(例えば、約32.5°)回転すると、傾斜面513によって爪板836はトリガ面423上から完全に押し出される。これにより、トーションバネ808に蓄積されたトルクが開放される。その結果、図46(c)及び図46(d)に示すように、第2の回転部材803は、爪板836の先端部を開放面424に沿って底面425に向かって移動させつつ、反時計回りに回転する。
ここで、爪板834の先端面は、図44(a)に示すように、基準状態では、第1の回転部材801における所定の凹面818における下側の傾斜面に近接した状態で、当該傾斜面に対向している。このため、図46(a)及び図46(b)に示すように、第2の回転部材803が反時計回りに回転することによって、爪板834の先端面により凹面818が押され、第1の回転部材801が反時計回りに回転する。
また、第1の回転部材801の回転によって、シフトカム14が回転する。このときのトーションバネ808から第2の伝達部材809、第2の回転部材803、及び爪板834を介して第1の回転部材とシフトカム14へ反時計回りの向きに付勢されるトルクは、基準状態においてボール795がシフトカム14の回転を拘束するトルクよりも大きく設定されている。
よって、シフトフォーク141〜144(図2参照)のうちのいずれかのシフトフォークが移動する。その結果、図15、図17および図18で説明したように、ニュートラルポジションに設定されている奇数ギア群のうちのいずれかの変速ギアまたはニュートラルポジションに設定されている偶数ギア群のうちのいずれかの変速ギアにスプラインギアが連結される。
なお、図46(b)に示すように、爪板834は、第2の回転部材803が反時計回りに約30°回転したときに係止面414に当接する。これにより、第2の回転部材803の回転角度が約30°に制限される。また、図47(d)に示すように、爪板836は、第3の回転部材805が反時計回りに約45°回転したときに係止面426に当接する。これにより、第3の回転部材805の回転角度が約45°に制限される。
このように、本実施の形態においては、第3の回転部材805の回転可能角度が第2の回転部材803の回転可能角度よりも大きく設定されている。この場合、第3の回転部材805の回転角度が約30°以上になるようにモータ8の回転軸を回転させることができるので、ECU10(図2参照)によるモータ8(図2参照)の制御が容易になる。それにより、第3の回転部材805の回転量が不足することを確実に防止することができる。その結果、第2の回転部材803を確実に回転させることができ、シフトカム14を確実に回転させることができる。
その後、ECU10によりモータ8が再び制御され、モータ8の回転軸が時計回りに所定角度(本実施の形態においては約40°)回転する。言い換えれば、回転軸が元の位置に復帰する。これにより、第1の伝達部材807と第3の回転部材805が時計回りに約45°回転する。その結果、図48に示すように、第3の回転部材805が元の位置(基準状態と同じ位置)に戻る。
また、第2の伝達部材809の係止部892は、第1の伝達部材807の係止部873と、トーションバネ808の係止部881、882とによって回転を拘束され、第1の伝達部材807と共に時計回りに回転する。このときトーションバネ808によって係止部892と係止部873との相対回転を拘束するトルクは、第2の回転部材803が図47の位置から図48の位置へ移動する際に、バネ317の伸縮によって爪板834が内周面817を押圧して第2の回転部材803と第1の回転部材801の相対回転を規制しようとするトルクより大きく設定されている。その結果、第2の回転部材803が第3の回転部材805と共に元の位置(基準状態と同じ位置)に戻される。
なお、第2の回転部材803が図47の位置から図48の位置へ移動する際には、第1の回転部材801は外周面の凹部814においてボール796が移動部材794を介してバネ792により第1の回転部材801側に付勢されていることによって回転を拘束されている。このときボール796によって第1の回転部材801の回転を拘束するトルクは、バネ317の伸縮によって爪板834が内周面817を押圧して第2の回転部材803と第1の回転部材との相対回転を規制しようとするトルクより大きく設定されている。なお、ボール796が第1の回転部材801の回転を拘束するトルクについての詳細は後述する。
これにより、第2の回転部材803が図47の位置から図48の位置へ移動する際には、爪板834は、バネ317を伸縮させつつ内周面817に沿って移動する。したがって、第2の回転部材803が図47の位置から図48の位置へ移動する際に、爪板834を介した第1の回転部材801の回転が防止される。
また、第2の回転部材803が図47の位置から図48の位置へ移動する際には、爪板835の先端部は、誘導面415および補助面416を沿うように移動する。ここで、誘導面415はYZ平面において円筒部812の内周面817より内方に設けられている。また、補助面416は、凹面818の上側の傾斜面と略面一になるように形成されている。したがって、第2の回転部材803が図47の位置から図48の位置へ移動する際に、爪板835を介した第1の回転部材801の回転が防止される。
以上の結果、図47および図48に示すように、第1の回転部材801およびシフトカム14を停止させた状態で、第2の回転部材803のみを回転させることができる。
その後、ECU10(図2参照)によりモータ8(図2参照)が再び制御され、図48〜図51に示すように、第1の回転部材801およびシフトカム14が図44〜図47と同様に反時計回りに約30°回転する。これにより、シフトフォーク141〜144(図2参照)のうちのいずれかのシフトフォークが移動する。その結果、図15、図20および図21で説明したように、奇数ギア群および偶数ギア群のうちの一方がニュートラルポジションに設定される。
その後、ECU10(図2参照)によりモータ8(図2参照)が再び制御され、第3の回転部材805が時計回りに約45°回転する。これにより、図47および図48で説明したように、シフトカム14および第1の回転部材801が停止した状態で、第2の回転部材803が基準状態(図44の状態)の位置に戻される。その結果、変速機構700のギアシフトが終了する。
なお、変速機構700がシフトダウンされる場合には、第2の回転部材803が図44〜図51で説明した回転方向と逆の方向に回転される。
(5−4)シフトカムに与えられるトルク
次に、シフトカム14に与えられるトルクについて説明する。
図52は、シフトカム14が或る基準状態から次の基準状態までの60°回転する際に、シフトカム14および第1の回転部材801に与えられるトルクを示した図である。
図52において縦軸はシフトカム14および第1の回転部材801に与えられるトルク[Nm]を示し、横軸はシフトカム14および第1の回転部材801の基準状態からの回転角度[deg]を示す。したがって、図52において回転角度0°および60°は、シフトカム14および第1の回転部材801の基準状態を示す。なお、図52においては、反時計回りの方向のトルクが正の値として示され、時計回りの方向のトルクが負の値として示されている。
また、図52において、一点鎖線Aは、バネ791(図31参照)からボール795(図31参照)を介してシフトカム14に与えられるトルクを示し、点線Bは、バネ792(図31参照)からボール796(図31参照)を介して第1の回転部材801に与えられるトルクを示す。さらに、図52において、実線Cは、一点鎖線Aで示すトルクおよび点線Bで示すトルクの合成トルクを示し、破線Dは、トーションバネ808からシフトカム14および第1の回転部材801に与えられるトルクを示し、二点鎖線Eは、実線Cで示すトルクおよび破線Dで示すトルクの合成トルクを示す。したがって、シフトカム14に与えられる実際のトルクは二点鎖線Eで示される値となる。
図33に示す基準状態においては、ボール795は溝部145の中央部で停止している。この場合、バネ791(図31参照)からボール795を介してシフトカム14に与えられる力の方向はシフトカム14の径方向に一致する。そのため、ボール795からシフトカム14にトルクは与えられない。
また、基準状態においては、ボール796は突出部813の面取り面131上に位置している。この場合、バネ792(図31参照)からボール796を介して第1の回転部材801に与えられる力の方向は第1の回転部材801の径方向に一致する。そのため、ボール796から第1の回転部材801にトルクは与えられない。
(a)バネ791からシフトカム14に与えられるトルク
まず、バネ791からシフトカム14に与えられるトルクについて説明する。
基準状態からシフトカム14が反時計回りに回転することによって、ボール795が溝部145から押し出される。このとき、ボール795とシフトカム14との接点は、図33において当該溝部145の左側の角縁に沿って移動する。このとき、バネ791から押圧を受けるボール795とシフトカム14の接点における法線力により、シフトカム14にモーメントが作用する。すなわち、図52の一点鎖線Aで示すように、バネ791からシフトカム14に負のトルクが与えられる。
バネ791からシフトカム14へ与えられる負のトルクは、シフトカム14の回転動作開始直後に最大となる。その後、バネ791からシフトカム14へ与えられる負のトルクは、シフトカム14の回転角度の増加に従って減少する。
ボール795(図33参照)は、シフトカム14が基準状態から約6°回転したとき(ドグ機構によって変速ギアとスプラインギアとが嵌合して連結する部分同士が接触する直前)に溝部145から完全に押し出される。ボール795とシフトカム14との接点が溝部145内に位置していない場合、バネ791からボール795を介してシフトカム14に与えられる力の方向はシフトカム14の径方向に一致する。そのため、このときのバネ791からシフトカム14に与えられるトルクは図52に一点鎖線Aで示すように0となる。
なお、本実施の形態においては、シフトカム14が基準状態から約±6°以上回転することにより溝部145からボール795が完全に押し出されるように溝部145が形成されている。したがって、図52に一点鎖線Aで示すように、シフトカム14の基準状態からの回転角度(以下、単に回転角度と略記する。)が約6°〜約54°の範囲内にある場合には、バネ791からシフトカム14に与えられるトルクは0となる。
図50(a)に示すように、シフトカム14の回転角度が約54°を超えることにより、ボール795とシフトカム14との接点が溝部145内に再び移動する。このとき、ボール795とシフトカム14との接点は、図50(a)に示す溝部145の右側の角縁に沿って移動する。このとき、バネ791から押圧を受けるボール795とシフトカム14の接点における法線力により、シフトカム14にモーメントが作用し、すなわち、図52に一点鎖線Aで示すように、バネ791からシフトカム14に正のトルクが与えられる。
図52に示す一点鎖線Aで示すように、バネ791からシフトカム14に与えられる正のトルクは、シフトカム14の回転角度が60°になるまで、つまり、ボール795が溝部145の中央部で停止されるまで、シフトカム14の回転角度の増加に従って増加する。
シフトカム14の回転角度が60°になったときに、ボール795は溝部145の左右両側の角縁でシフトカム14と接する。このとき、左右両側の接点における法線力によってシフトカム14に作用する周方向に沿った双方向のモーメントが拮抗する。すなわち、バネ791からの押圧によって、シフトカム14は、双方向に保持トルクを有した安定の状態で保持される。
(b)バネ792から第1の回転部材801に与えられるトルク
次に、バネ792(図31)から第1の回転部材801に与えられるトルクについて説明する。
第1の回転部材801が反時計回りに回転を開始した直後は、ボール796と第1の回転部材801との接点が面取り面131(図33参照)上に位置している。この場合、バネ792からボール796を介して第1の回転部材801に与えられる力の方向は第1の回転部材801の径方向に一致する。そのため、バネ792から第1の回転部材801へトルクは与えられない。すなわち、第1の回転部材801の回転開始直後では、バネ792から第1の回転部材801に与えられるトルクは、図52の点線Bで示すように0に維持される。
図33において、第1の回転部材801が更に反時計回りに回転することによって、ボール796と突出部813との接点は、面取り面131から突出部813の左側の角縁に移動する。このとき、バネ792から押圧を受けるボール796と第1の回転部材801の接点における法線力によって、第1の回転部材801にモーメントが作用する。すなわち、図52に点線Bで示すように、バネ792から第1の回転部材801に正のトルクが与えられる。
点線Bで示すバネ792から第1の回転部材801に与えられる正のトルクは、第1の回転部材801が基準状態から約6°回転したとき(ドグ機構によって変速ギアとスプラインギアとが嵌合して連結する部分同士が接触する直前)に最大となり、その後、徐々に減少する。なお、バネ792から第1の回転部材801に与えられるトルクの変動特性およびトルクが最大となる第1の回転部材801の回転角度は、突出部813の形状によって決定される。
図46(a)に示すように、第1の回転部材801が基準状態から約30°回転することによって、ボール796と第1の回転部材801とは、凹部814の中央部を挟み当該凹部814の左右の突出部813へ至る起伏斜面の両側で接する。このとき、左右両側の接点における法線力によって第1の回転部材801に作用する双方向のモーメントが拮抗する。そのため、図52に点線Bで示すように、バネ792からの押圧によって、第1の回転部材801は、周方向に沿った双方向に保持トルクを有した安定の状態で保持される。
第1の回転部材801が図46(a)に示す位置から更に反時計回りに回転することによって、ボール796と第1の回転部材801との接点は、図46(a)で示す凹部814の左側の起伏面に移動する。このとき、バネ792から押圧を受けるボール796と第1の回転部材801の接点における法線力によって、第1の回転部材801にモーメントが作用する。すなわち、図52に点線Bで示すように、バネ792から第1の回転部材801に負のトルクが与えられる。
点線Bで示すバネ792から第1の回転部材801に与えられる負のトルクは、第1の回転部材801が基準状態から約54°回転したときに、負に最大となる。その後、ボール796と第1の回転部材801との接点が面取り面131(図50(a)参照)上に移動することによって、バネ792から第1の回転部材801に与えられるトルクは0になる。
(c)バネ791から与えられるトルクおよびバネ792から与えられるトルクの合成トルク
図52に点線Cで示すように、バネ791からシフトカム14に与えられるトルクおよびバネ792から第1の回転部材801に与えられるトルクの合成トルクは、シフトカム14の回転角度が0°〜約2.5°の範囲では負の値、約2.5°〜30°の範囲では正の値となり、30°〜約57.5°の範囲では負の値、約57.5°〜60°の範囲では負の値となる。また、シフトカム14の回転角度が0°、30°、60°の各位相では、シフトカム14は回転の双方向に保持トルクを有する安定な状態に保持される。
(d)トーションバネ808から第1の回転部材801およびシフトカム14に与えられるトルク
図44〜図51で説明したように、本実施の形態においては、第3の回転部材805が基準状態から約30°回転するごとに、トーションバネ808に蓄積されたトルクが第1の回転部材801およびシフトカム14に与えられる。これにより、第1の回転部材801およびシフトカム14は30°回転する。
したがって、トーションバネ808から第1の回転部材801およびシフトカム14に与えられるトルクは、図52の破線Dで示すように、第1の回転部材801およびシフトカム14の回転角度が0°および30°であるときに最大となる。
(e)バネ791、バネ792およびトーションバネ808から与えられるトルク
本実施の形態に係るシフト機構701においては、バネ791,792からシフトカム14に与えられるトルク(図52の実線C)およびトーションバネ808からシフトカム14に与えられるトルク(図52の破線D)を合成したトルクがシフトカム14に与えられる。すなわち、図52に2点鎖線Eで示される値がシフトカム14に与えられる。
なお、上述したように、バネ791からシフトカム14に与えられるトルクおよびバネ792から第1の回転部材801に与えられるトルクの合成トルク(実線Cの値)は、シフトカム14の回転角度が0°〜30°の範囲ではほぼ正の値となり、30°〜60°の範囲ではほぼ負の値となる。したがって、二点鎖線Eで示すように、シフトカム14の回転角度が0°〜30°の範囲においてシフトカム14に与えられるトルクの方が30°〜60°の範囲においてシフトカム14に与えられるトルクよりも大きくなる。
また、シフトカム14に与えられるトルクは、シフトカム14の回転角度が約6°となるとき(ドグ機構によって変速ギアとスプラインギアとが嵌合して連結する部分同士が接触する直前)に最大となる。
(6)シフト機構の効果
本実施の形態においては、トーションバネ808に一旦大きなトルクを蓄積し、その蓄積したトルクを開放することによりシフトカム14が回転される。したがって、シフトカム14の回転開始時に大きなトルクをシフトカム14に与えることができる。その結果、スプラインギアを高速で移動させることができるので、スプラインギアと変速ギアとを確実に連結および離間させることができる。
また、シフトカム14の回転角度が0°〜30°の範囲においてシフトカム14に与えられるトルクの方が30°〜60°の範囲においてシフトカム14に与えられるトルクよりも大きい。この場合、シフトカム14を基準状態から30°回転させる際に、スプラインギアをより高速で移動させることができる。よって、スプラインギアの回転速度と変速ギアの回転速度とに大きな差が生じている場合にも、スプラインギアと変速ギアとを確実に連結させることができる。
また、ドグ機構によって変速ギアとスプラインギアとが嵌合して連結する部分同士が接触する直前(本実施の形態においては、シフトカム14の回転角度が約6°のとき)にシフトカム14に与えられるトルクが最大となる。この場合、スプラインギアと変速ギアとが接触する際に、スプラインギアを高速で移動させることができる。その結果、スプラインギアと変速ギアとを確実に連結させることができる。
なお、シフトカム14に与えられるトルクが最大となるシフトカム14の回転角度は、スプラインギアと変速ギアの嵌合連結部が接触するときのシフトカム14の回転角度に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、シフトカム14が約8°回転したときにドグ機構によるスプラインギアと変速ギアとの接触が開始される場合には、シフトカム14の回転角度が約8°(ドグ機構により変速ギアとスプラインギアとが接触する直前の回転角度)となるときにシフトカム14に最大のトルクを与えてもよい。
また、シフトカム14に与えられるトルクの大きさは、シフト機構701の構成等に応じて適宜設定することが好ましい。なお、シフトカム14の与えられるトルクの大きさは、バネ791、バネ792およびトーションバネ808のバネ定数や取り付け荷重を適宜変更することによっても変更することができる。
また、基準状態(図15参照)及び各基準状態の間でシフトカム14を停止させている場合、即ち、シフトカム14の回転角度を0°、30°、60°、・・・、の30°毎のいずれかの位相に停止させているときは、シフトカム14はバネ791及びバネ792の押圧による保持トルクによって回転を拘束され、安定な状態に保持される。
なお、本実施の形態においては、シフトカム14を回転させる際に、合成トルクにおいてシフトカム14の回転方向と逆方向のトルクがシフトカム14に与えられないようにバネ791、バネ792およびトーションバネ808が設けられている。
(7)他の実施の形態
上記実施の形態では、車両の一例として本発明を自動二輪車に適用した場合について説明したが、本発明は、自動三輸車、自動四輸車等の他の車両にも同様に適用することができる。
また、上記実施の形態では、変速比を6段階(1速〜6速)に変化可能な変速装置7について説明したが、変速装置7の変速比は、5段階以下に設定されてもよく、7段階以上に設定されてもよい。なお、第1メインシャフト71、第2メインシャフト72およびドライブシャフト73に設けられるギアの数は、変速装置7において設定される変速比の段数に応じて適宜調整される。
また、上記実施の形態では、溝部145および突出部813がシフトカム14および第1の回転部材801の軸心に対して60°ごとに6つずつ形成されているが、溝部145および突出部813の数は、変速装置7において設定される変速比の段数に応じて適宜設定される。
また、上記実施の形態では、シフトカム駆動装置800によってシフトカム14が約30°ずつ回転されているが、シフトカム14の回転角度は、変速装置7において設定される変速比の段数に応じて適宜設定される。
また、上記実施の形態では、トルクを蓄積する手段としてトーションバネ808が用いられているが、トーションバネ808の代わりにトーションバー、圧縮コイルバネ、空気バネ等の他の弾性部材を用いてもよい。
また、上記実施の形態では、シフトカム14および第1の回転部材801にトルクを与える手段としてコイル状のバネ791,792を用いたが板バネ等の他の弾性部材を用いてもよい。
さらに、上記実施の形態では、第1クラッチ74及び第2クラッチ75をそれぞれ湿式多板摩擦伝動式としたが、これに限らず、単板、多板、湿式、乾式のいずれでもよく、また、遠心クラッチ等であってもよい。