以下、本発明の一実施の形態を添付した図面を参照して説明する。
図1は、エンジンEを示す。このエンジンEは、水冷式で単気筒4ストローク内燃機関であり、シリンダ1と、シリンダ1に往復動可能に嵌合するピストン3と、シリンダ1に順次重ねて結合されるシリンダヘッド3Aおよびヘッドカバー3Bと、シリンダ1の下端部に結合されるクランクケース2とを備え、クランクケース2には、図2に示すように、クランク軸5が主軸受6,7を介して回転可能に支持されている。4はコンロッドである。クランク軸5の回転中心線L1は、車体の前後方向を指向し、回転中心線L1の方向である軸方向にクランクケース2が二分されており、クランクケース2は2つのケース半体2a,2b、すなわち前ケース半体2aと後ケース半体2bとを結合して構成され、その内側にクランク軸5のクランク部が収納されるクランク室8が形成されている。クランク部は、クランクピン8Eおよびクランクウェブ8fとを含む部分である。
エンジンEは、各々図示は省略したが、シリンダヘッド3Aに設けられた吸気ポートおよび排気ポートをそれぞれ開閉する吸気弁および排気弁と、カム軸9の動弁カムに駆動されるプッシュロッドによりそれら吸気弁および排気弁をクランク軸5の回転に同期して開閉する頭上弁型の動弁装置とを備えている。そして、吸気ポートから吸入される混合気がピストン3とシリンダヘッド3Aとの間に形成される燃焼室で燃焼し、燃焼圧によりピストン3が駆動され、コンロッド4を介してクランク軸5が回転駆動される。エンジンEの出力軸としてのクランク軸5は、クランク室8から前方および後方にそれぞれ延出する前延出部5aおよび後延出部5bを有する。なお、「前」または「後」は、それらのいずれかをクランク軸5の軸方向の一方としたときの他方であり、「前」および「後」は、それぞれ軸方向の一方または他方と言うことができる。
前ケース半体2aには、前ケース半体2aを前方から覆う前カバー10が結合され、前ケース半体2aおよび前カバー10により前収納室12が形成される。前ケース半体2aに保持される主軸受6から前方に延出する前延出部5aは前収納室12で延びて、前軸端部5cが軸受14を介して前カバー10に回転可能に支持される。また、後ケース半体2bには、後ケース半体2bを後方から覆う後カバー11が結合され、後ケース半体2bおよび後カバー11により後収納室13が形成される。後ケース半体2bに保持される主軸受7から後方に延出する後延出部5bは後収納室13で延びている。
前収納室12で、前延出部5aには前軸端部5cから順次、遠心式クラッチCと、1次減速機構Rと、カム軸9(図1参照)を回転駆動する動弁用伝動機構を構成する駆動スプロケット15とが設けられる。後収納室13で、後延出部5bの後軸端部5dにはリコイルスタータ16が結合され、後軸端部5dから順次、交流発電機17と始動用被動ギヤ19とが設けられる。始動用被動ギヤ19はギヤ19aに噛み合い、このギヤ19aはスタータモータ18の出力ギヤ18aに噛み合う。始動用被動ギヤ19はスタータモータ18の回転をクランク軸5に伝達する始動用減速機構を構成し、この始動用減速機構は後カバー11に支持されている。始動用被動ギヤ19は一方向クラッチ20を介して交流発電機17のロータ17aに結合される。
遠心式クラッチCは、クランク軸5と一体に回転する入力部材としての板状のクラッチインナ21と、径方向外方でクラッチインナ21を囲む出力部材としての碗状のクラッアウタ22と、クラッチインナ21に枢支されたクラッチシュー23とを備える。クラッチシュー23は、クラッチの断続状態を、クランク軸5の回転速度(エンジン回転速度)に応じて発生する遠心力により制御する遠心ウエイトである。そして、エンジン回転速度がアイドリング速度を越えると、クラッチスプリング24の弾発力に抗してクラッチシュー23が遠心力によりクランク軸5の径方向で外方に揺動し、クラッチアウタ22に接触し始め、エンジンEの動力がクラッチインナ21からクラッチアウタ22に伝達される。エンジン回転速度が増加するにつれて、遠心式クラッチCは、クラッチアウタ22がクラッチシュー23との問に多少の滑りを生じつつ回転する半クラッチ状態(部分接続状態)に至り、半クラッチ状態を経て、クラッチインナ21とクラッチアウタ22とが一体的に回転する完全接続状態に到達する。
1次減速機構Rは、駆動ギヤ25と、駆動ギヤ25に噛合し、クランク軸5の回転変動を抑制するダンパを有した被動ギヤ26とから構成される。駆動ギヤ25は、前延出部5aに相対回転可能に支持されると共にクラッチアウタ22のボス部22aにスプライン嵌合してクラッチアウタ22に一体回転可能に結合される。
変速機Mは、上記被動ギヤ26を含み、被動ギヤ26は、メイン軸30に相対回転可能に設けられる。メイン軸30は、図3に示すように、クランク室8と前収納室12に跨って配置される第1メイン軸31および第2メイン軸32を備え、第2メイン軸32の中空部に第1メイン軸31が相対回転可能にかつ同軸に貫通している。第1メイン軸31は、第2メイン軸32よりも長い軸長を有し、メイン軸30の軸長を規定する。第1メイン軸31は軸受35,36を介して回転可能に支持されると共にクランク軸5の回転中心線L1に平行な回転中心線L2を有し、かつクランク室8に収納される内軸部31aと、前収納室12に収納される外軸部31bとを備える。軸受35から前方に延出して前収納室12で延びる外軸部31bは、前軸端部31cで軸受39を介して前カバー10に回転可能に支持され、後軸端部31dは軸受36により後ケース半体2bに支持される。外軸部31bには、前軸端部31cからクランクケース2に向かって、第1変速クラッチ41、被動ギヤ26、第2変速クラッチ42が順次設けられ、被動ギヤ26は、メイン軸30の軸方向で、両変速クラッチ41,42の間に配置される。
第1,第2変速クラッチ41,42(ツインクラッチ)は、図2に示すように、被動ギヤ26に連結されている。被動ギヤ26は第1メイン軸31の外周で円板状のディスク部26cを挟んで前後方向に延びるボス部からなる1対の前後の連結部26a,26bを有し、前連結部26aおよび後連結部26bをそれぞれ介して第1,第2変速クラッチ41,42に動力を伝達する。被動ギヤ26を含む1次減速機構Rは、遠心式クラッチCからの動力を第1,第2変速クラッチ41,42に伝達する伝達機構である。
第1変速クラッチ41は、軸方向で、遠心式クラッチCよりも前ケース半体2a寄りに隣接して位置する。第1変速クラッチ41は、遠心式クラッチCおよび1次減速機構Rを介して伝達される動力の入力側で前連結部26aにスプライン嵌合して一体回転可能に結合され、第1メイン軸31への動力の出力側で外軸部31bにスプライン嵌合されて一体回転可能に結合される。第2変速クラッチ42は、遠心式クラッチCおよび1次減速機構Rを介して伝達される動力の入力側で後連結部26bにスプライン嵌合して一体回転可能に結合され、第2メイン軸32への動力の出力側で、軸受35から前方に突出して前収納室12で延びる前軸端部32aにスプライン嵌合されて一体回転可能に結合される。両変速クラッチ41,42は同一構造の油圧式の多板摩擦式クラッチであり、前連結部26aまたは後連結部26bの外周にスプライン嵌合して一体回転可能に設けられる入力部材としての椀状のクラッチアウタ60と、クラッチアウタ60に一体回転可能に噛合する複数の第1クラッチ板62と、第1クラッチ板62と交互に積層される複数の第2クラッチ板63と、第2クラッチ板63が一体回転可能に噛合する出力部材としてのクラッチインナ61と、第1,第2クラッチ板62,63が互いに接触するように押圧すべくクラッチアウタ60に摺動可能に嵌合するピストン64とを備える。
各変速クラッチ41,42にはクラッチアウタ60およびピストン64によりそれぞれ油圧室65,66が形成される。そして、第1変速クラッチ41の油圧室65は、軸方向で第2変速クラッチ42寄りに配置され、第2変速クラッチ42の油圧室66は軸方向で第1変速クラッチ41寄りに配置されることにより、第1,第2変速クラッチ41,42は、油圧室65および油圧室66が軸方向で互いに近接するように、背中合わせに配置される。油圧室65,66には、前カバー10および前延出部5aに設けられる油路67,68を通じて作動油が供給および排出されて制御される。
油圧室65,66の油圧が高圧になると、戻しばね69の弾発力に抗してピストン64が、第1クラッチ板62を第2クラッチ板63に押し付けて、両クラッチ板62,63の間の摩擦によりクラッチアウタ60とクラッチインナ61とが一体に回転する接続状態になり、油圧室65,66の油圧が低圧になると、戻しばね69の弾発力により両クラッチ板62,63が離隔して、クラッチアウタ60とクラッチインナ61との間で動力の伝達が遮断される切断状態になる。
油圧室65,66の作動油の圧力は、クランク軸5により駆動される油圧ポンプを油圧源として、油圧制御装置により制御される。該油圧制御装置は、制御弁ユニット71を備え、制御弁ユニット71は、クランク軸5により駆動される油圧ポンプの吐出圧力を制御する。制御弁ユニット71は、複数の油圧制御弁を備える。油圧制御弁が電子制御ユニット70により制御されて、第1メイン軸31に設けられた油路67,68を通じて油圧室65,66に対する作動油の供給および排出が制御され、各変速クラッチ41,42の切断および接続、すなわち断続状態が制御される。
第1変速クラッチ41は、軸方向で、遠心式クラッチCにおいて最大外径を有するクラッチアウタ22と、クランク軸5に連結された駆動ギヤ25との間に位置しており、クラッチアウタ22、駆動ギヤ25およびクラッチアウタ22の最小外形を有するボス部22aによって形成される間隙に位置する。第2変速クラッチ42は、軸方向で、駆動ギヤ25と、クランク軸5を軸支する軸受35との間に位置しており、駆動ギヤ25、軸受35を支持する前ケース半体2aの後部分およびクランク軸5によって形成される間隙に位置する。また、遠心式クラッチCにおいて最大外径を有するクラッチアウタ22は、軸方向で、第1変速クラッチ41と前カバー10との間に位置し、第1変速クラッチ41、前カバー10およびメイン軸30によって形成される間隙に位置する。この構成により、第1変速クラッチ41、遠心式クラッチCおよび第2変速クラッチ42が軸方向および径方向に互いに近接して配置される。
本構成では、1次減速機構Rからの動力が、第1変速クラッチ41および第2変速クラッチ42のクラッチアウタ60にそれぞれ伝達される。そして、第1変速クラッチ41を接続すると、1次減速機構Rからの動力が、第1変速クラッチ41のクラッチインナ61を介して第1メイン軸31に伝達される。一方、第2変速クラッチ42を接続すると、1次減速機構Rからの動力が、第2変速クラッチ42のクラッチインナ61を介して第2メイン軸32に伝達される。
第1メイン軸31および第2メイン軸32は、ミッション室を兼ねるクランク室8に延びている。このクランク室8には、第1メイン軸31および第2メイン軸32の他に第1メイン軸31の回転中心線L2と平行な回転中心線L3を有するカウンタ軸33が配置される。カウンタ軸33は、前軸端部33aが軸受37に支持され、後軸端部33bが軸受38に支持される。同じくクランク室8には、カウンタ軸33の回転中心線L3と平行な回転中心線L4を有するリバースアイドル軸(回転中心軸)34が配置される。リバースアイドル軸34は、支持軸部34aの回りを筒部34bが回転する軸である。
第1メイン軸31、第2メイン軸32、カウンタ軸33およびリバースアイドル軸34には、変速要素群としての変速歯車列群M10(図3参照)が配置される。
この変速歯車列群M10は、1速変速段を設定する1速歯車列G1と、2速変速段を設定する2速歯車列G2と、3速変速段を設定する3速歯車列G3と、4速変速段を設定する4速歯車列G4と、5速変速段を設定する5速歯車列G5と、後進変速段を設定する後進変速歯車列GRと、を備える。
メイン軸30の第2メイン軸32に対し、2速歯車列G2の駆動歯車M2(第2駆動歯車、2速駆動歯車)と、4速歯車列G4の駆動歯車M4とが一体成形されて一体回転可能に設けられる。2速歯車列G2の駆動歯車M2は、カウンタ軸33に相対回転可能に設けられた被動歯車C2(被駆動歯車)に常時噛み合い、4速歯車列G4の駆動歯車M4は、カウンタ軸33に相対回転可能に設けられた被動歯車C4に常時噛み合う。また、第1メイン軸31に対し、1速歯車列G1の駆動歯車M1(1速駆動歯車)が一体成形されて一体回転可能に設けられ、1速歯車列G1の駆動歯車M1は、カウンタ軸33に相対回転可能に設けられた被動歯車C1(1速被駆動歯車)に常時噛み合う。
第1メイン軸31には、1速歯車列G1の駆動歯車M1に隣接して、3速歯車列G3の駆動歯車M3が相対回転可能に設けられ、これに隣接して、5速歯車列G5の駆動歯車M5(第1シフタ81)が軸方向に移動可能かつ一体回転可能にスプライン嵌合すると共に、後進変速歯車列GR用の駆動歯車MRが軸31に対し相対回転可能に設けられる。3速歯車列G3の駆動歯車M3は、被動歯車C3(第2シフタ82)に噛み合い可能であり、被動歯車C3はカウンタ軸33に対し軸方向に移動可能かつ一体回転可能にスプライン嵌合される。5速歯車列G5の駆動歯車M5は、被動歯車C5に噛み合い可能であり、被動歯車C5はカウンタ軸33に対し相対回転可能に設けられる。
後進変速歯車列GR用の駆動歯車MR(第1駆動歯車、後進駆動歯車)は、リバースアイドル軸43に一体成形された第1被動歯車R1(第4歯車)に常時噛み合い、リバースアイドル軸43には第1被動歯車R1から離れて第2被動歯車R2(第3歯車)が一体成形され、第2被動歯車R2は2速歯車列G2の被動歯車C2に常時噛み合う。後進変速歯車列GRは、駆動歯車MR、第1被動歯車R1、第2被動歯車R2および被動歯車C2によって構成される。
第1メイン軸31上の駆動歯車M5は、凹部41を有し、凹部41には、図3に示すように、シフトフォーク40が嵌合する。後述するシフトフォーク40の動作により、駆動歯車M5が図中左方に移動すると駆動歯車M5の凹部42に3速の駆動歯車M3の凸部43が嵌合し、両歯車M3,M5が一体化し第1メイン軸31と共に一体回転可能となる。駆動歯車M5が図中右方に移動すると駆動歯車M5の凹部44に後進用の駆動歯車MRの凸部45が嵌合し、両歯車M5,MRが一体化し第1メイン軸31と共に一体回転可能となる。カウンタ軸33に対しスプライン嵌合した被動歯車C3は、凹部141を有し、凹部141には、シフトフォーク140が嵌合する。後述するシフトフォーク140の動作により、被動歯車C3が図中左方に移動すると被動歯車C3の凸部142が1速の被動歯車C1の凹部143に嵌合し、両歯車C1,C3が一体化しカウンタ軸33と共に一体回転可能となる。被動歯車C3が図中右方に移動すると被動歯車C3の凹部144に5速の被動歯車C5の凸部145が嵌合し、両歯車C3,C5が一体化しカウンタ軸33と共に一体回転可能となる。
2速の被動歯車C2と4速の被動歯車C4間のカウンタ軸33には、カウンタ軸33に対しスプライン嵌合した第3シフタ83が設けられる。第3シフタ83は、凹部241を有し、凹部241には、シフトフォーク240が嵌合する。シフトフォーク240の動作により、シフタ83が図中左方に移動するとシフタ83の凸部242が4速の被動歯車C4の凹部243に嵌合し、シフタ83と歯車C4が一体化しカウンタ軸33と共に一体回転可能となる。シフトフォーク240の動作により、シフタ83が図中右方に移動するとシフタ83の凸部244が2速の被動歯車C2の凹部245に嵌合し、シフタ83と歯車C2が一体化しカウンタ軸33と共に一体回転可能となる。
カウンタ軸33は、図2に示すように、軸受38から後方に突出し、該突出して後収納室13で延びる後軸端部33bには、出力用駆動ギヤ29aが設けられる。出力用駆動ギヤ29aは出力用被動ギヤ29bに噛み合い、出力用被動ギヤ29bは、駆動軸Dに設けられる。駆動軸Dは、前ケース半体2aおよび後ケース半体2bに軸受27,28を介して回転可能に支持される。上記出力用駆動ギヤ29aは、駆動軸Dに設けられる出力用被動ギヤ29bと共に変速機Mからの動力を減速して駆動軸Dに伝達する伝達機構である2次減速機構29を構成する。
図5は、特定の変速段を選択する選択機構M20を示す。選択機構M20は第1シフタ81〜第3シフタ83(図4参照)を備え、各シフタ81〜83はシフトフォーク40,140,240によりメイン軸30上またはカウンタ軸33上で軸方向に移動可能である。シフトフォーク40,140,240は支軸87に摺動可能に支持され、該支軸87は前ケース半体2aおよび後ケース半体2bに支持される。シフトフォーク40,140,240の基部はシフトドラム90の外周面に設けられたカム溝91〜93に嵌合し、間欠送り機構100によりシフトドラム90が間欠的に回転するとカム溝91〜93のカムプロフィルに従いシフトフォーク40,140,240が軸方向に移動し、シフタ81〜83をメイン軸30上またはカウンタ軸33上で移動させる。
間欠送り機構100は、両ケース半体2a,2bを前後方向に回転可能に貫通したシフトスピンドル101を備える。シフトスピンドル101は前ケース半体2aから前方に突出する前端部101aが前カバー10を介して回転可能に支持され、前端部101aには、減速歯車列121を介して、電動モータ120が連結される。電動モータ120はギヤケース122に取付けられ、減速歯車列121は前カバー10およびギヤケース122間に形成されたギヤ室123に収納される。シフトスピンドル101の後端部101bは後ケース半体2bに回転可能に支持され、後カバー11にはシフトドラム90の回転位置を検出する回転位置検出器72と、シフトスピンドル101の回転位置を検出する回転位置検出器73とが取付けられる。
シフトドラム90の前端部90aにはピンプレート108がボルト止めされる。ピンプレート108は、図6A,Bに示すように、外観が略星形であり、周方向に等間隔に配列されると共に前方に突出した6本の送りピン108aと、周方向に等間隔に外周に形成された6個の凹部108bとを備える。ピンプレート108に対向し、シフタプレート106が位置される。シフタプレート106にはシフトスピンドル101の径方向に延びた長孔106a,106bが形成され、一方の長孔106aにはばね107を介してガイドピン111が挿通し、他方の長孔106bには別のガイドピン112が挿通する。ガイドピン111,112は、チェンジアーム103の各孔103c,103dを貫通し、カシメにより固定される。これによれば、チェンジアーム103に対しシフタプレート106がシフトスピンドル101の径方向に摺動可能に連結され、シフタプレート106はばね107でシフトスピンドル101の径方向内方(矢印Xの方向)に付勢される。シフタプレート106はシフトドラム90側に折曲げられた送り爪106c,106dを備え、各送り爪は外側にカム106e,106fを一体に備える。一方の送り爪がピンプレート108の送りピン108aの1つに係合する(図5参照)。
チェンジアーム103はシフトスピンドル101に対し相対回転可能である。また、チェンジアーム103には、図6Bに示すように、開口103aが形成され、開口103aの縁部には、チェンジアーム103の一部が折り曲げられて形成された一対のばね受け部103bが設けられる。開口103aは、小幅開口部103eと大幅開口部103fを備え、図6Aに示すように、小幅開口部103eに、シフトスピンドル101に固定されたアーム102の先端部102aが挿通し、大幅開口部103fに、前ケース半体2aに固着された規制ピン104が挿通する。シフトスピンドル101の外周部にチェンジアーム103を中立位置に復帰させる戻しばね105が巻かれ、戻しばね105の両脚部はアーム102の先端部102aおよび規制ピン104を挟んで延び、一対のばね受け部103bに係合する。戻しばね105の両脚部はチェンジアーム103が中立位置にあるときばね受け部103bの両側に当接する。
ピンプレート108の外周に当接可能なローラ109を備え、このローラ109はアーム114に軸支される。アーム114は支軸113を介して前ケース半体2aに揺動可能に支持され、アーム114はばね110によりローラ109をピンプレート108の外周に押圧する方向に付勢される。ローラ109はピンプレート108の凹部108bの1つに係合することでピンプレート108の回転位置を保持する。
この選択機構M20では、電動モータ120を駆動し、シフトスピンドル101を正・逆いずれかの方向に回転すると、シフトスピンドル101に固定されたアーム102の先端部102aを介して、チェンジアーム103が、大幅開口部103fの縁部に規制ピン104が当たるまで、正・逆いずれかの方向に回転する。すると、シフタプレート106の両送り爪106c,106dの一方が、ピンプレート108の送りピン108aの1つに係合し、送りピン108aを介して、シフトスピンドル101の回転力をピンプレート108に伝達し、これにより、シフトドラム90が正・逆いずれかの方向に回転する。チェンジアーム103が中立位置に復帰する際には、戻しばね105のばね力で、シフトスピンドル101共々、チェンジアーム103とシフタプレート106とを逆転させて行われる。この際には、シフタプレート106の両送り爪106c,106dのカム106e,106fの一方に、ピンプレート108の送りピン108aの1つが当接し、これにより、シフタプレート106がばね107のばね力に抗してシフトスピンドル101の径方向外方に移動し、両送り爪106c,106dの一方が、送りピン108aの1つを乗り越える。ピンプレート108の回転位置は、ピンプレート108の凹部bの1つに、ローラ109が係合して保持される。
電子制御ユニット70は、上述したように油圧制御弁を制御して第1,第2変速クラッチ41,42の断続状態を制御する他に、図5に示すように、電動モータ120に接続され、回転量と回転方向とを制御する。電子制御ユニット70には、エンジンEおよび車両の運転状態を検出する運転状態検出手段74および両回転位置検出器72,73からの信号が入力される。運転状態検出手段74は、車速検出手段74aおよびエンジンEの負荷を検出するアクセル開度検出手段74bを備え、電子制御ユニット70は、運転状態検出手段74からの信号に基づいてシフトスピンドル101を回転駆動し、運転状態に応じて変速機Mの変速位置を自動的に制御する。
該電子制御ユニット70は、回転位置検出器73により検出される回転位置に基づいて、シフトスピンドル101の回転位置をフィードバック制御し、これにより回転位置に応じて変化するシフトスピンドル101の回転速度を制御する。なお、変速機Mの変速位置を制御するためのオプション装置として、車両のハンドルに設けられるシフトアップスイッチおよびシフトダウンスイッチ等のシフトスイッチが、運転者が指示する変速位置が入力される変速操作部として設けられてもよい。この場合、該シフトスイッチからの信号が入力される電子制御ユニット70は、該シフトスイッチからの信号に応じて電動モータ120の作動を制御し、シフトスピンドル101および間欠送り機構100を介してシフトドラム90の回転を制御する。
走行変速段の自動確立動作を説明する。
変速機Mは、各変速位置、すなわち車両前進時の複数の変速位置、ここでは1速〜5速位置、車両後進時の後退位置およびニュートラル位置の選択を可能とする。変速機Mのニュートラル位置では、シフトドラム90がニュートラル位置に応じた回転位置にあり、図3に示すように、第1〜第3シフタ81〜83は中立位置にある。ニュートラル位置が選択されると、電子制御ユニット70は、第1変速クラッチ41、第2変速クラッチ42を共に遮断する。この状態では、1次減速機構Rからの動力が第1メイン軸31、第2メイン軸32のいずれにも伝達されない。
シフトアップ時には、電子制御ユニット70が電動モータ120を制御し、間欠送り機構100を介してシフトドラム90を1速段位置に回転する。すると、カム溝91〜93のカムプロフィルに従い、第2シフタ82がシフトフォーク140により図3中で左方に移動し、第3シフタ83がシフトフォーク240により図3中で右方に移動する。そして、第2変速クラッチ42を遮断のまま、第1変速クラッチ41を接続する。これにより1速段が確立する。1速段では、1次減速機構Rからの動力が、第1変速クラッチ41のクラッチインナ61を介して第1メイン軸31に伝達し、1速歯車列G1、すなわち、駆動歯車M1、被動歯車C1および第2シフタ82を介してカウンタ軸33に伝達し、2次減速機構29を構成する出力用駆動ギヤ29aおよび出力用被動ギヤ29bを介して減速して駆動軸Dに伝達する。
2速段の確立時には、電子制御ユニット70が、運転状態検出手段74からの信号に応じて第1変速クラッチ41を遮断すると共に、第2変速クラッチ42を接続する。1次減速機構Rからの動力は、第2変速クラッチ42のクラッチインナ61を介して第2メイン軸32に伝達し、2速歯車列G2、すなわち、駆動歯車M2、被動歯車C2および第3シフタ83を介してカウンタ軸33に伝達し、2次減速機構29を構成する出力用駆動ギヤ29aおよび出力用被動ギヤ29bを介して減速して駆動軸Dに伝達する。1速から2速への切換時には、シフトドラム90が回転しないため、通常走行時に要求される短時間での変速が可能となる。
3速変速段を確立する場合、電動モータ120を制御し、間欠送り機構100を介してシフトドラム90を回転し、カム溝91〜93のカムプロフィルに従い、第1シフタ81を図中左方に、第2シフタ82を中立位置に、第3シフタ83を図中左方に移動する。そして、第1変速クラッチ41を接続し、第2変速クラッチ42を遮断する。この場合、中立位置にある第3シフタ83が、その位置で被動歯車C3を構成し、1次減速機構Rからの動力は、第1変速クラッチ41のクラッチインナ61を介して第1メイン軸31に伝達し、3速歯車列G3、すなわち、駆動歯車M3および被動歯車C3(第3シフタ83)を介してカウンタ軸33に伝達し、2次減速機構29を構成する出力用駆動ギヤ29aおよび出力用被動ギヤ29bを介して減速して駆動軸Dに伝達する。
4速変速段時には、第1変速クラッチ41を遮断すると共に、第2変速クラッチ42を接続する。1次減速機構Rからの動力は、第2変速クラッチ42のクラッチインナ61を介して第2メイン軸32に伝達し、4速歯車列G4、すなわち、駆動歯車M4、被動歯車C4および第3シフタ83を介してカウンタ軸33に伝達し、2次減速機構29を構成する出力用駆動ギヤ29aおよび出力用被動ギヤ29bを介して減速して駆動軸Dに伝達する。3速から4速への切換時にも、シフトドラム90が回転しないため、通常走行時に要求される短時間での変速が可能となる。
5速変速段では、電動モータ120を制御し、間欠送り機構100を介してシフトドラム90を回転し、カム溝91〜93のカムプロフィルに従い、第1シフタ81を中立位置に戻し、第2シフタ82をシフトフォーク140により図3中で右方に移動する。そして、第1変速クラッチ41を接続し、第2変速クラッチ42を遮断する。1次減速機構Rからの動力は、第1変速クラッチ41のクラッチインナ61を介して第1メイン軸31に伝達し、5速歯車列G5、すなわち、駆動歯車M5(第1シフタ81)、被動歯車C5および第2シフタ82を介してカウンタ軸33に伝達し、2次減速機構29を構成する出力用駆動ギヤ29aおよび出力用被動ギヤ29bを介して減速して駆動軸Dに伝達する。
シフトダウン時には、シフトドラム90を逆方向に回転させることで、上述した手順とは逆の手順で変速段が確立される。
ついで、1速から後進への切換を説明する。
1速段では、上述したように、第2シフタ82がシフトフォーク140により図3中で左方に移動し、第3シフタ83がシフトフォーク240により図3中で右方に移動している。1速から後進への切換時には、電子制御ユニット70が電動モータ120を制御し、間欠送り機構100を介してシフトドラム90を回転し、カム溝91〜93のカムプロフィルに従い、第3シフタ83を図3中で右方に移動したまま、第1シフタ81を図3中で右方に移動し、第2シフタ82を中立位置に戻す。そして、第1変速クラッチ41を接続し、第2変速クラッチ42を遮断する。1次減速機構Rからの動力は、第1変速クラッチ41のクラッチインナ61を介して第1メイン軸31に伝達し、後進変速歯車列GR、すなわち、駆動歯車MR、第1被動歯車R1を経てリバースアイドル軸43に伝達し、第2被動歯車R2、被動歯車C2および第3シフタ83を介してカウンタ軸33に伝達し、2次減速機構29を構成する出力用駆動ギヤ29aおよび出力用被動ギヤ29bを介して減速して駆動軸Dに伝達する。
本実施の形態では、メイン軸30が相対回転可能な第1メイン軸31および第2メイン軸32で構成され、第1メイン軸31には駆動歯車MR(第1駆動歯車)、第2メイン軸32には駆動歯車M2(第2駆動歯車)を設け、カウンタ軸33には駆動歯車M2に噛合する被動歯車C2(被駆動歯車)を設け、リバースアイドル軸(回転軸)34には被動歯車C2に噛合する第2被動歯車R2(第3歯車)と、駆動歯車MRに噛合する第1被動歯車R1(第4歯車)とを備えたため、第1メイン軸31が回転しているときは駆動歯車MRから第4および第3歯車R1,R2を介して被動歯車C2に動力が伝達され、第2メイン軸32が回転しているときは駆動歯車M2から被動歯車C2に動力が伝達され、一つの被動歯車C2を複数の変速段で共用でき、従来構成に比べ、カウンタ軸33上の歯車数を一つ少なくできる。通常、メイン軸31上の歯車よりもカウンタ軸33上の歯車の方が大径であり、カウンタ軸33の歯車数を増すとエンジンEが大型化するが、本構成では、カウンタ軸33上の歯車数を減少できるため、エンジンEを小型、軽量化できる。
第1メイン軸31に一体回転可能に駆動歯車M1(1速駆動歯車)を備え、カウンタ軸33に第2シフタ82(第2クラッチ)を介して該軸33と一体回転/相対回転を制御される被動歯車C1(1速被駆動歯車)を備え、第2メイン軸32に駆動歯車M2(2速駆動歯車)を備え、さらに第1メイン軸31に第1シフタ81(第1クラッチ)を介して第1メイン軸31と一体回転/相対回転を制御される駆動歯車MR(後進駆動歯車)を備えたため、短時間での変速が要求される通常走行時には、クランク軸5の動力を第1メイン軸31から第2メイン軸32に切換えて1速から2速に変速し、クランク軸5の動力を第2メイン軸32から第1メイン軸31に切換えて2速から1速に変速する。従って、変速時にはシフトドラム90を回転させずに、隣接する変速段に切換えできるので、スムーズな加減速およびショックの小さい変速を行うことができ車両の乗り心地が向上する。また、後進時には、第1シフタ81(第1クラッチ)を制御して、第1メイン軸31と駆動歯車MRとを一体回転させると共に、第2シフタ82を制御して、カウンタ軸33と被動歯車C1(1速被駆動歯車)とを相対回転させる。いずれの場合も、カウンタ軸33に設けた被動歯車C2(被駆動歯車)は、カウンタ軸33と一体回転可能な状態のままでよく、2速と1速の切換、1速と後進の切換を、カウンタ軸33上に被動歯車C2を一体回転可能にしたまま切換えできる。
第2メイン軸32の中空部に第1メイン軸31を貫通させたため、第1メイン軸31が第2メイン軸32よりも小径となり、駆動歯車M1(1速駆動歯車)が駆動歯車M2(2速駆動歯車)よりも小径になる。
メイン軸30に設けた第1,第2変速クラッチ(ツイン変速用クラッチ)41,42により第1メイン軸31および第2メイン軸32への動力伝達を切換可能としたため、第1メイン軸31および第2メイン軸32への動力切換が良好になる。
遠心式クラッチCはクランク軸5に設けられ、第1,第2変速クラッチ41,42は、変速機Mの、クランク軸5に平行に配置されたメイン軸30に対し、該メイン軸30の軸方向から見て遠心式クラッチCと重なる位置に配置したため、遠心式クラッチCおよび第1,第2変速クラッチ41,42が大型化しても、クランク軸5とメイン軸30との軸問距離が小さくなり、クランク軸5とメイン軸30とをコンパクトに配置でき、エンジンEおよび変速機Mを備えるパワーユニットをコンパクト化できる。第1,第2変速クラッチ41,42は、軸方向で前ケース半体2aと遠心式クラッチCとの間に配置される。従って、メイン軸30の第1メイン軸31を短くでき、第1,第2変速クラッチ41,42の重量が比較的大きくても、その重量を、遠心式クラッチCよりもクランクケース2寄りで受けることができる。
第1変速クラッチ41の油圧室65および第2変速クラッチ42の油圧室66が軸方向で互いに近接するように、背中合わせに配置されるため、第1,第2変速クラッチ41,42においてそれぞれの油圧室65,66に作動油を導く油路67,68の長さの差を小さくでき、第1,第2変速クラッチ41,42の作動応答性の均一化に寄与し、変速の切換フィーリングが向上する。遠心式クラッチCからの動力を第1,第2変速クラッチ41,42に伝達する被動ギヤ26が、軸方向で両変速クラッチ41,42間に配置される。従って、遠心式クラッチCから第1,第2変速クラッチ41,42への動力の伝達経路長を均等化することができ、両変速クラッチ41,42に同等の動力が伝達されるので、第1,第2変速クラッチ41,42の作動応答性の均一化に寄与し、変速の切換フィーリングを向上させることができる。
選択機構M20は、1つの電動モータ120と、電動モータ120により回転駆動されるシフトスピンドル101と、シフトスピンドル101の回転に応じてシフトドラム90を間欠的に回転させる間欠送り機構100とを備えるため、従来からマニュアル式の選択機構に使用されているシフトスピンドル101および間欠送り機構100をそのまま流用することができ、電動モータ120の採用による選択機構M20の自動化を、低コストで実現することができる。また、変速機Mが不整地走行用鞍乗型車両をはじめ、自動二輪車として使用される場合にも、従来の足による変速切換機構(ギヤチェンジ機構)と同じ位置にシフトドラム90やシフトスピンドル101を配置できるので、マニュアル変速機付の車両の構造を大きく変えることなく、自動変速機付の車両のパワーユニットとして、本構成の変速機Mを搭載可能である。
遠心式クラッチC、第1,第2変速クラッチ41,42および被動ギヤ26は、いずれも比較的大径である。そのうち、比較的高い頻度でメンテナンスを行う必要がある発進クラッチ、すなわち遠心式クラッチCが、前収納室12の最前位置、または軸方向で前カバー10への最近接位置に配置されるので、メンテナンス作業が容易になる。両変速クラッチ41,42には、同一構造のクラッチが使用されたため、コストの削減ができる。被動ギヤ26、そのダンパ、および両変速クラッチ41,42の各クラッチアウタ60は、両変速クラッチ41,42の断続状態に関わらず、一緒に回転する。これら被動ギヤ26、両変速クラッチ41,42の各クラッチアウタ60および該ダンパを集約化したため、コンパクト化および軽量化が図れる。
以上、一実施の形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は、これら形態に限定されるものではない。例えば、エンジンは多気筒内燃機関であってもよい。エンジンは、往復動するピストンを備える内燃機関以外の内燃機関または原動機であってもよい。シフトドラムの案内部はカム溝以外の案内部、例えば凸条などであってもよい。選択手段は、シフトドラムが運転者の直接の操作により回転駆動されるマニュアル式であってもよい。本発明が適用された車両用動力伝達装置は、エンジンとしての内燃機関Eと共に、車両としての不整地走行用鞍乗型車両に搭載されるパワーユニットを構成する。前記動力伝達装置は、変速歯車列群M10のなかから歯車列G1〜G5,GRを択一的に選択して走行変速段を確立する自動変速機としての常時噛合い式の歯車変速機M(変速機M)と、変速機Mに対して内燃機関Eが発生する動力の伝達および遮断を行う発進クラッチを構成する遠心式クラッチCと、変速機Mで変速された動力が伝達される駆動軸Dとを備える。例えば、駆動軸Dの動力は、前推進軸および後推進軸を介してそれぞれ前輪および後輪に伝達され、それら車輪が回転駆動される。
2…クランクケース、5…クランク軸、10…前カバー、11…後カバー、30…メイン軸、31…第1メイン軸、32…第2メイン軸、33…カウンタ軸、41,42…変速クラッチ、81,82,83…シフタ、90…シフトドラム、91〜93…カム溝100…間欠送り機構、M…変速機、E…エンジン、C…遠心式クラッチ、R…1次減速機構、G1〜G5,GR…歯車列、M2…第2駆動歯車、C2…被動歯車(被駆動歯車)、M1…駆動歯車(1速駆動歯車)C1…被動歯車(1速被駆動歯車)、R1…第1被動歯車(第4歯車)、R2…第2被動歯車(第3歯車)。