以下、図面を用いて本発明に係る実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。例えば、本発明は、短棒形状の軽金属材料でなる圧送体であるビレット2を溶融シリンダ11に挿入して溶融体に溶融する溶融装置10と、溶融シリンダ11から供給される溶融体を射出シリンダ21で計量したあと圧送体であるプランジャ24で射出するプランジャ射出装置20と、溶融シリンダ11と射出シリンダ21を連通する連通路18aを含んだ図1のようなホットチャンバ方式の射出装置1における溶融装置10又はプランジャ射出装置20のいずれか一方の装置又はそれら両方の装置に適用されてもよいし、その他にも、前述の連通路を含まないコールドチャンバ方式の射出装置(図示省略)における溶融装置又はプランジャ射出装置のいずれか一方の装置又はそれら両方の装置に適用されてもよいし、軽金属材料を溶融する溶解炉等から供給される軽金属材料の溶融体を射出シリンダで計量したあと圧送体であるプランジャで射出する方式の射出装置(図示省略)に適用されてもよいし、射出シリンダ内で圧送体であるビレットが先端側から少なくとも1ショット分の溶融体に溶融するとともに1ショット分の溶融体を圧送体であるビレットで押し出すことで射出する自己消費型プランジャ方式の射出装置(図示省略)に適用されてもよい等、本発明の趣旨を逸脱しない限り各種の射出装置に適用が可能である。ビレット2は、例えば、マグネシウム、アルミニウム等の軽金属材料から成る。なお、プランジャ24とは、先端部にチェックリングを有するスクリュ等各種射出軸を含むものとする。
最初に、射出装置1に供給される軽金属材料を説明する。軽金属材料は、図1に示されるように、円柱の棒材を所定寸法に切断したような短棒形状に形成され、その外周及び切断面が平滑に仕上げられたビレット2である。ビレット2の外径は後に説明される溶融シリンダ11のシリンダ孔11aの基端11b側(図中右側)の内径より若干小さく形成される。ビレット2が加熱されて熱膨張してもシリンダ孔11aの基端11b側に干渉して挿入不能にならないようにするためである。ビレット2の長さは、1回のショットで射出される射出容積の数ショット分ないしは10数ショット分の容積を含む長さに形成され、その取扱いやすさを考慮して、例えば150mmないし300mm程度に形成される。軽金属材料がこのようなビレット形状で供給されるので、その保管や運搬等の取扱いが容易である。なお、1回のショットで射出される射出容積は、1ショットでの成形品の容積とそれに付随するスプル、ランナ等の容積、及び熱的な変化を見込んだ容積を合計した、従来公知の容積である。
軽金属材料が上記のようなビレット形状で供給される本発明に係る軽金属射出成形機の射出装置1(以下、単に射出装置1と称する。)は、概略以下のように構成される。この射出装置1は、図1に示すように、溶融装置10とプランジャ射出装置20とそれらを連結する連結部材18と射出時に軽金属材料の溶融体(以下、溶湯と称する。)がプランジャ射出装置20から溶融装置10に逆流することを防ぐ逆流防止装置30とを含んで構成される。
溶融装置10は、溶融シリンダ11とビレット供給装置40とビレット挿入装置50とを含んで構成される。溶融シリンダ11は、その基端11bから順次挿入されるビレット2を複数本収容する長さに形成された長尺のシリンダであり、後に説明されるように、そのシリンダ孔11aの基端11b近傍を除く大部分がビレット2より若干大径に形成され、そのシリンダ孔11aの先端がエンドプラグ13によって塞がれる。溶融シリンダ11の基端11bはビレット供給装置40を収容する中央枠部材90に固定される。中央枠部材90は、四方を囲む矩形の4つの側板と1つの底板で構成され、対向する側板90aの一方に溶融シリンダ11が接続されもう一方の側板90aにビレット挿入装置50が接続される。そして、これらの2つの側板90aには、ビレット2の外径よりわずかに大きい透孔90bが形成される。このように、溶融シリンダ11とビレット供給装置40とビレット挿入装置50とは1直線上に直列に配置される。そして、ビレット2は、後に説明されるように、ビレット供給装置40によって溶融シリンダ11の後方に複数ショット毎に1個ずつ補給され、ビレット挿入装置50のプッシャ52aによって溶融シリンダ11中に挿入される。こうして、本発明では、軽金属材料がビレット形状で溶融装置10に供給されて溶融される。
プランジャ射出装置20は、射出シリンダ21と射出ノズル22とプランジャ24とプランジャ駆動装置60とを含む。射出シリンダ21は、計量した溶湯を貯留するシリンダ孔21aを有し、その先端側にノズルアダプタ23を介して図示省略された金型に当接する射出ノズル22が取り付けられる。プランジャ24は、その基端(根元)でプランジャ駆動装置60のピストンロッド62に接続されて射出シリンダ21中で前後に移動制御される。プランジャ24は、かかる移動制御により溶湯を圧送する。このようなプランジャ射出装置20は、図示省略した機台上で前後に移動する移動ベース91上に載置されて、射出装置1全体が図示省略した型締装置に対して離接するように移動する。これらの射出シリンダ21、射出ノズル22、プランジャ24、及びプランジャ駆動装置60は、後に更に詳細に説明される。
溶融シリンダ11の先端近傍と射出シリンダ21の先端近傍とは、連結部材18によって連結される一方、両方のシリンダ11、21の基端11b,21b側が中央枠部材90とプランジャ駆動装置60の油圧シリンダ61との間で連結ベース部材92を介して強固に結合される。連結部材18の中には連通路18aが形成され、その連通路18aは、溶融シリンダ11のシリンダ孔11aと射出シリンダ21のシリンダ孔21aとを連通する。溶融シリンダ11の先端近傍と射出シリンダ21の先端近傍とは、連結部材18を介して図示省略された引っ張りボルトによって相互に引っ張られた状態で固定される。それで、連結部材18の両端は、溶融シリンダ11や射出シリンダ21の外周に対して嵌り込むようにして固定される。特に、連通路18aは細径のパイプによって形成され、その端面が溶融シリンダ11や射出シリンダ21に押し当てられる。
連通路18aは、逆流防止装置30によって、計量動作の開始時に開かれ射出動作の直前に閉じられる。したがって、逆流防止装置30は、そのような開閉動作をする装置であれば従来公知の装置であってもよい。或いは簡易には従来公知のバルブが採用されてもよい。それらのバルブは、余りに公知であるためにその図示が省略されるが、例えば、チェックバルブ或いはロータリバルブが採用される。前者は、溶湯の流れと共に正逆両方向に移動して射出時に弁座に着座して連通路18aを塞ぐ弁体を含むバルブである。後者は、連通路18a中にあって回動することによって連通路18aを連通又は閉鎖する管路を備えた回転バルブである。特に、チェックバルブは、射出時に逆流防止するタイミングが正確ではないことから、精密な成形が要求されない射出成形機において採用され得る。
このような射出装置1において、計量の度に前進するビレット2が溶融シリンダ11中で先端から先に順次溶融し、溶融した溶湯は射出シリンダ21や連結部材18の中で溶融状態に保持される。それで、これらのシリンダ11、21及び連結部材18は、巻回されたバンドヒータ等によって所定の温度に加熱制御される。
例えば、溶融シリンダ11には、図1に示されるような4個の加熱ヒータ12a、12b、12c、12dが巻回される。そして、先端側の2個の加熱ヒータ12a、12bがビレット2の溶融温度に、加熱ヒータ12cがその溶融温度より若干低い温度に、そして基端11b側の加熱ヒータ12dが溶融温度より更に低い温度に設定される。特に、基端11b側の加熱ヒータ12dは、溶融シリンダ11の基端11b側に位置するビレット2が前進の際に変形しない程度にその軟化が抑えられるような、低めの温度に設定される。例えば、ビレット2がマグネシウム合金である場合には、先端側の加熱ヒータ12a、12bが650℃程度に、加熱ヒータ12cが600℃程度に、そして基端11b側の加熱ヒータ12dが350℃から400℃程度に適宜に調整される。マグネシウム合金は350℃程度に加熱されたときから実質的に軟化し始めて650℃程度に加熱されたときに完全に溶融するからである。ただし、加熱ヒータ12dの温度は、具体的な実施例によって若干異なり、後に説明する実施例では異なる温度に調整される。中央枠部材90の側板90aは通常加熱されることはない。
また、射出ノズル22、ノズルアダプタ23及び射出シリンダ21には、加熱ヒータ25、26、及び27が巻回され、連結部材18には加熱ヒータ19が巻回される。そして、ビレット2がマグネシウム合金である場合に、これらのヒータが650℃程度に温度制御されて、連結部材18や射出シリンダ21の中の溶湯が溶融状態に維持される。特に、加熱ヒータ25の制御温度は、成形サイクル時間(射出間隔)に合わせて調整されることもある。射出ノズル22からの溶湯の洩れ出しをその中で生成するコールドプラグによって防止して、成形サイクルに合わせて射出ノズル22を開閉するためである。
こうして、ビレット2は、溶融シリンダ11の基端11b側でその軟化が防止された状態で予備加熱され、その中程から先端側にかけての位置で急激に加熱されてその先端側で急速に溶融する。材料であるビレット2が溶融して生成される溶湯の量は、射出容積の数ショット分になるように調整される。このような溶融装置10では、最小限の材料が溶融されるだけであるから加熱エネルギーが少なくて済み効率的である。また、溶融装置10は、溶解炉ほど大きな容積を必要としないので、装置としては小型で簡素なものとなる。また、溶融のための昇温時間或いは固化のための降温時間が短くて済むから保守点検作業での無駄な待ち時間が最小限に抑えられる。
次に、本発明に係る射出装置1の主要な構成要素のより細部を説明する。
ビレット供給装置40は、多数のビレット2を貯留すると共にビレット2が溶融シリンダ11に挿入されるようにビレット2を溶融シリンダ11の後端の直近の同芯位置に1個ずつ供給する装置である。このため、ビレット供給装置40は、例えば図2の断面図に示されるような、ビレット2が整列状態で多数装填されるホッパ41と、ビレット2を整列状態で順次落下させるシュート42と、ビレット2を一旦受け止めて1個ずつ落下させるための2つのシャッタ装置43,44と、ビレット2を溶融シリンダ11の軸中心に同芯に保持する保持部45とからなるように構成される。ホッパ41の中には、ビレット2が停滞することなく落下するように、葛折れの案内溝を形成する仕切り41aが配設される。2つのシャッタ装置43,44は、それぞれのシャッタプレート43a,44aを交互に開閉動作させることによってビレット2を1個ずつ保持部45に向けて落下させる。エアシリンダ等の流体シリンダ43b,44bは、シャッタプレート43a,44aをそれぞれ進退させる。保持部45は、落下してくるビレット2を受け止めるとともに後述するプッシャ52aで押し出す際にビレット2を移動方向に案内するための凹部45aが形成されている。保持部45の凹部45aの中心は、溶融シリンダのシリンダ孔11aの中心に略一致するように形成される。
このような構成によって、ホッパ41から補給されたビレット2は、保持部45によってシリンダ孔11aの中心に同芯に保持される。もちろん、ビレット供給装置40は、ビレット2を1個ずつシリンダ孔11aの中心に同芯に保持するように供給する装置であれば各種構成の装置を採用することもできる。
ビレット挿入装置50は、ビレット2の補給時にビレット2を溶融シリンダ11の中に挿入する装置であればどのような装置であってもよい。例えば、ビレット挿入装置50は、図1のように、油圧シリンダ51と、油圧シリンダ51によって前後に移動制御されるピストンロッド52と、このピストンロッド先端に一体に形成されたプッシャ52aを含むように構成される。プッシャ52aは、その先端部分(図中で左端部分)がビレット2よりわずかに細く形成されて、溶融シリンダ11中にわずかに侵入する際に溶融シリンダ11に接触することなく侵入する。それで、プッシャ52aと溶融シリンダ11との間に摩耗は発生しない。プッシャ52aの最大移動ストロークは、ビレット2の全長を若干超える長さに構成される。プッシャ52aの位置は、図示省略された例えばリニアスケール等の位置検出装置によって検出され、図示省略された制御装置にフィードバックされて制御される。このようなビレット挿入装置50は、油圧シリンダ駆動の駆動装置に限らず、サーボモータの回転運動をボールねじ等を介して直線運動に変えてプッシャ52aを移動する公知の電動駆動装置であってもよい。
このように構成されたビレット挿入装置50は、ビレット2の補給時にプッシャ52aをビレット2の全長以上の距離だけ後退させてビレット2の供給される空間を確保して、次にプッシャ52aを前進させて補給されたビレット2を溶融シリンダ11の中に挿入する。また、ビレット挿入装置50は、計量時にプッシャ52aを逐次前進させて、1回の前進で1ショット分の射出容積に相当する溶湯を射出シリンダ21に送り込んで計量する。
プランジャ24は、図1に示すように射出シリンダ21のシリンダ孔21aの内径よりも小径に形成されるとともに大部分が同一寸法の単純な円柱形状に形成されてもよい。また、プランジャ24は、従来公知のものであってもよい。例えば、本発明は、射出シリンダ21のシリンダ孔21aの内径よりわずかに小径のヘッド部24aとそのヘッド部24aより小径のシャフト部24bを備えるプランジャ(図示省略)と併用することも可能である。
プランジャ駆動装置60は、例えば、図1のように、油圧シリンダ61と、油圧シリンダ61によって前後に移動制御されるピストンロッド62と、ピストンロッド62とプランジャ24とを結合するカップリング63とを含む。プランジャ24は、射出シリンダ21の中に挿通され、油圧シリンダ61によって前後に駆動される。プランジャ24の位置は、図示省略された例えばリニアスケール等の位置検出装置によって検出され、図示省略した制御装置にフィードバックされてその位置が制御される。プランジャ24の移動可能な最大ストロークは、当然、射出装置1の最大射出容積に合わせてあらかじめ設計されている。このようなプランジャ駆動装置60は、油圧シリンダ駆動の駆動装置に限らず、サーボモータの回転運動をボールねじ等を介して直線運動に変えてプランジャ24を移動する公知の電動駆動装置であってもよい。
このように構成されたプランジャ駆動装置60は、計量時と射出時にプランジャ24の後退動作と前進動作を制御する。すなわち、計量時には、ビレット挿入装置50のプッシャ52aを押し込む圧力の制御に合わせてプランジャ24の後退を許容する背圧が制御されて、溶融シリンダ11中の溶湯の圧力上昇が抑えられると共に射出シリンダ21中の溶湯の圧力、すなわち計量時の背圧が適正に制御される。このとき、プランジャ24の後退位置が計量のための位置として検出されることは従来と同じである。また、射出時には、溶湯の射出速度及び射出圧力を制御する従来と同じ制御が行われる。また、プランジャ駆動装置60は、プランジャ24を所定量後退させる、従来公知のサックバック動作も行う。プランジャ射出装置20が逆流防止装置30を介して溶融装置10から切り離されるのでこのようなサックバック動作が正確に可能になる。
射出シリンダ21の基端21bは、プランジャ駆動装置60の前方に接続部材64を介して固定される。一実施例として図示された接続部材64は、プランジャ24の後部やカップリング63を移動可能に収容する筒状の部材で、その前方に近い位置にプランジャ24とほとんど隙間のない状態で嵌り合う隔壁64aを備え、射出シリンダ21の基端21bと隔壁64aとの間に空間66を備える。空間66の下方には、回収パン65が接続部材64の下側に着脱自在に用意される。このような構成によって、万一溶湯がプランジャ24のヘッド部24aを越えて洩れ出すことがあっても、溶湯はこの空間66より外に飛び出すことなく回収パン65に回収される。
この場合、接続部材64の上側に不活性ガスが注入される注入孔64bが設けられて空間66に不活性ガスが注入されてもよい。これによって運転開始直前にシリンダ孔21a内空気がパージされる。このようなパージは、特に、マグネシウム成形の場合に材料の酸化防止のために役立つ。供給される不活性ガスの量は、上記空間66及び射出シリンダ21とプランジャ24の間のわずかな間隙に供給されるだけであるからわずかで済む。もちろんこの不活性ガスがシリンダ後方から溶湯中に侵入することはない。したがって、成形開始後においてはガスの供給を停止してもなんら支障は無い。
更に、本発明に係るプランジャ射出装置20には、溶湯(溶融体)を収容する収容部である射出室21cを先端側に有するシリンダ(射出シリンダ21)の基端21bに溶湯の洩れ出しを効果的に抑制可能な分割シール機構100が設けられている。これより、図3〜図6を用いて分割シール機構100についてより詳細に説明する。
既出の図1にも示すようにプランジャ射出装置20は、射出シリンダ21の基端21bにおいてプランジャ24の径に則った環状の円板(以下、リング形状と称する。)であって、複数に分割された分割シール機構100を特徴的に有する。分割シール機構100は、射出シリンダ21の基端21bにおけるシリンダ孔21aの内径が大きく形成されている大径部と当該大径部を射出シリンダ21の基端21b側から塞ぐバックフランジ105との間に形成される環状空間からなる環状溝に収容される。図3及び図4では、分割シール機構100の構成概略が示されている。分割シール機構100は、2以上の複数、好ましくは3以上の複数の分割された部品(以下、単に分割部品100eと称する。)の組み合わせから成りリング形状を構成する。分割シール機構100は、外周面100aと、内周面100bと、表面(おもてめん)100cと、裏面100dを有するリング形状である。分割シール機構100は、表面100cが射出シリンダ21の環状溝の射出室21c側の側面に対面し、裏面100dが環状溝のバックフランジ105側の側面に対面し、外周面100aが環状溝の底面に対面し、そして、内周面100bがプランジャ24の外周面に対面する。分割シール機構100は、環状溝の中で表面100c側と裏面100d側に僅かな隙間を有して摺動可能に環状溝の中に収納されている。環状溝の底面と分割シール機構100の外周面100aの間は、後述される溶湯を収納するための空間となる収納空間102が形成される。なお、分割数が少ないとフィット性に欠け、逆に多いと製作が難化する傾向にあるので、好ましくは、3〜6個の分割部品100eから構成され、更に好ましくは、図3に示すように4つの分割部品100eより構成されるとよい。
分割部品100eの端部どうしは、互いに入り込み突起103と合わせ溝104とが嵌合して接続される。例えば、一端に入り込み突起103、他端に合わせ溝104を有する同一の分割部品100eを複数個接続することで、分割シール機構100におけるリング形状が構成される。ここでは入り込み突起103と合わせ溝104とは同一形状であり且つ円弧の一部としてリング形状に沿うように形成されることが好ましい。入り込み突起103と合わせ溝104との嵌合に際して、通常時は遊びを有するように接続される。また、分割シール機構100は、射出室21c側に対面する表面100cに溶湯の流路として機能する複数の圧力伝搬溝101を有する。図3に示す例では分割シール機構100は、16個の圧力伝搬溝101を有する。ただし、あくまでも例示でありこの限りではない。好ましくは、圧力伝搬溝101は表面100cにおいて等間隔に配置される。
上述の機構を以てプランジャ24を射出方向に前進させると、射出シリンダ21の先端側の射出室21cにおいて収容されている溶湯は、プランジャ24に沿ってバックフローする。分割シール機構100の表面100cに達した溶湯は、圧力伝搬溝101を通りその先にある収納空間102に充満する。すると、分割シール機構100には射出方向と逆向きに圧力がかかり、バックフランジ105との隙間が無くなる。更に充満した溶湯による分割シール機構100の外周面100aへの圧力が分割シール機構100の内周面100bにかかる圧力に比して大きくなる。ここで、分割シール機構100の分割部品100eそれぞれは遊びを有しながら嵌合接続されているので、リング形状を有する分割シール機構100は内径方向に収縮し、これにより圧送体であるプランジャ24が分割シール機構100によって締め付けられる。すなわち、射出シリンダ21とプランジャ24との間が適切にシールされ、効果的にバックフローを防止することができる射出装置1を実現することができる。特に、分割シール機構100がプランジャ24を締め付ける圧力が変わることで、流体の圧力が高い場合でも洩れを最小限にすることができる。
ところで、分割シール機構100がプランジャ24を締め付ける圧力は、分割シール機構100の内径方向に向かう圧力から外径方向に向かう圧力を差し引いた値となる。すなわち、当該締め付ける圧力P'は、分割シール機構100の分割数n、溶湯の圧力P、分割シール機構100の外径D、内径d、幅t、及び入り込み突起103(或いは合わせ溝104)を除いた断面積Sを用いて下記の式(1)のように表される。
P'={t×(D−d)×P×sin(π/n)}−{2×S×P×sin(π/n)} (1)
第1項が内径方向に向かう圧力を表し、第2項が外径方向に向かう圧力を表している。
特許文献1等に開示されている、分割シール機構100を有さない従来技術に係る射出シリンダを使用する場合、プランジャの後方側の温度は低いため、かかる部分が射出シリンダ内に挿入されると射出シリンダに収容されている溶湯の温度が一時的に低下して軽金属材料が過大に自己シールし、抵抗や摩擦力が大きくなるという問題があった。これに対して、本発明では溶湯が収納空間102に充満する圧力を利用してシールする構造であるため、プランジャ24を前後することによる温度変動で溶湯が固化してプランジャ24の移動を妨げることのない温度に常に設定することができる。その結果、ストローク領域を多くとれつつも射出シリンダ21とプランジャ24の動作抵抗が極力少なく、摩耗も少ない射出装置1を実現することができる。特に、従来困難であったアルミニウム合金等を効果的に軽金属材料として選択することができる。
加えて、分割シール機構100を用いることで従来に比して摩耗に対する耐久性を向上させることができる。従来では一般的に、ホットチャンバ方式の射出装置において、プランジャ24の先端にバネ特性のあるピストンリングを入れて射出する方式が取られている。かかる方式では、洩れることを許容するチャンバの中で動作しているが、洩れが摩耗も助長して早期の交換が必要になる。一方、本発明に係る分割シール機構100は、材料の選定が自由で周りとの熱膨張差があるものでも使用できるため、ピストンリングを用いた方法に比して早期の交換が必要とはならない。
また、次の構成要素を具備して実施することがより好ましい。
第1に、図1にも示すように、分割シール機構100を溶湯(溶融体)を収容する収容部である溶融室を先端側に有するシリンダ(溶融シリンダ11)の基端11bに略同様に設けることが好ましい。上述の通り、分割シール機構100は、射出シリンダ21の基端21bに設けられ、射出シリンダ21における軽金属材料が過大に自己シールし抵抗や摩擦力が大きくなるという問題が解決されるが、同様の問題は、溶融シリンダ11においても起こりうるものである。溶融シリンダ11の基端11bに略同様に設けることで、分割シール機構100は、溶湯のバックフローによって圧送体であるビレット2を締め付けるように機能する。かかる構成によって、溶融シリンダ11における軽金属材料が過大に自己シールし抵抗や摩擦力が大きくなるという問題が解決される。
第2に、射出シリンダ21の基端21bに有する環状溝の底面と分割シール機構100の外周面100aとの間の隙間でなる収納空間102に入り込むような環状突起(以下、移動規制部106と称する。)をバックフランジ105に設けることが好ましい。これにより分割シール機構100の不用意な径方向の移動を防止するとともに中心軸の位置出しにも用いることができるからである。例えば図4の例においては、矢印Xに示される変位にまで移動を防止することができる。
第3に、上述の移動規制部106とともに又は移動規制部106に代えて、分割シール機構100の外周面100aに、射出シリンダ21に対して予圧する予圧手段107を設けることが好ましい。なぜなら、急激な圧力がかかる場合、換言すると材料が高速に移動する場合は分割シール機構100の内周面100bとプランジャ24との間に隙間がある状態で、分割シール機構100がプランジャ24を締め付ける一瞬前に、分割シール機構100の内周面100bとプランジャ24との間から溶湯が洩れるおそれがあり、これを防止するためである。予圧手段107が射出シリンダ21を押圧することで、その反力によって、溶湯による圧力が作用していない場合であっても分割シール機構100が適切にプランジャ24に当接することとなる。
第4に、外周面100aと内周面100bとの圧力のバランスをとるために、主に図5に示すように、内周面100bに圧力がかかるような複数の流路(ラビリンス108)や窪み(圧力溜まり109)を設けることが好ましい。例えば、ラビリンス108は、圧力溜まり109に連通し、分割部品100eの表面100c又は分割部品100eの入り込み突起103と合わせ溝104を除く端部端面に開口しているとよい。上記実施形態においては、分割シール機構100の内周面100bに対する圧力が適当に作用していないと必要以上に過大な外圧がかかり、分割シール機構100の締め付けが強すぎて摩耗が大きくなることも考えられるからである。
第5に、一般的に、プランジャ24及び分割シール機構100の材料が異なると温度による熱膨張や熱収縮がそれぞれ異なるので、使用する温度において分割シール機構100の内周面100bをプランジャ24の外周面100aに当接させることができる内周面100bになるように、内径等を合わせることが好ましい。
更に、次の変形例が考えられる。
上記実施形態において、圧力伝搬溝101は、分割シール機構100の底面100cに設けられるものである。一方変形例として、圧力伝搬溝101を分割シール機構100の表面100cと接触する射出シリンダ21の環状溝の側壁に設けてもよい。かかる構成であっても圧力伝搬溝101に溶湯が流れこむため、上記実施形態と略同様の効果を奏する。
上記実施形態において、分割部品100eの端部どうしは、互いに入り込み突起103と合わせ溝104とが嵌合して接続される。しかしながらあくまでも一実施形態に過ぎず、後方への更なるバックフローを防止可能で且つ分割シール機構100が内径方向に収縮しプランジャ24を締め付ける構成であれば、他の形態であってもよい。例えば、図6に示す変形例が考えられる。本例では、入り込み突起103とあわせ溝104の両方を分割部品100eの両方の端部にそれぞれ有し、隣合う分割部品100eどうしの間で入り込み突起103とあわせ溝104がそれぞれ嵌合して、2つの入り込み突起103が前後に重なるようにして密着し、シリンダの後方を向く重なり方向(図6におけるY方向)へのバックフローを防止する。一方重なり方向と垂直な方向には遊びがあり、図6におけるZ方向に向かって互いが近づくように移動する。これにより、外周面からの圧力によって分割シール機構100が内径方向に収縮しプランジャ24を締め付けることとなる。
上記実施形態のような連通部材18を有するホットチャンバ式の射出装置1に代えて、コールドチャンバ式の射出装置に本発明に係る分割シール機構100を適用してもよいし、収容部となる射出室を有するシリンダとなる射出シリンダと当該射出室内で溶湯とするとともに当該溶湯を押し出す圧送体となるビレットとを含んだ自己消費型プランジャ式の射出装置に本発明の分割シール機構100を適用してもよい。
以上のように構成されたこの発明の射出装置1によって、次のように成形運転が行われる。説明の都合上、本番の射出成形運転を先に説明する。成形運転が行われる前には、複数本のビレット2があらかじめ溶融シリンダ11の中に供給されて数ショット分の射出容積に相当する溶湯が溶融シリンダ11の前方の溶融室に確保されている。まず、計量が行われる。このため、逆流防止弁棒31が連通路18aを開きプッシャ52aが前進すると共にプランジャ24が後退して、溶湯が射出シリンダ21の前方の射出室21cに移される。この計量工程は、通常、先の成形サイクルで充填された成形品の冷却工程中に行われる。この計量によって、1ショット分の射出容積に相当する溶湯が射出シリンダ21中に確保される。このとき、プッシャ52aの前進動作とプランジャ24の後退動作が略一致すると共に溶融シリンダ11中の溶湯と射出シリンダ21中の溶湯の圧力が所定の圧力に維持されるように制御されるので、プッシャ52aがビレット2を介して溶湯を押し込む圧力が特段に高圧になることがない。分割シール機構100を溶融シリンダ11においても使用する場合、溶融シリンダ11中の溶湯のバックフローは、既述されたように阻止されることとなる。
計量によって射出シリンダ21中に供給された溶湯は、加熱ヒータ27によって溶融状態に維持される。次に、逆流防止弁棒31が連通路18aを閉じ、プランジャ24が前進して1ショット分の溶湯が射出ノズル22から金型に射出される。そして、従来公知の保圧が必要に応じて行われ、冷却工程に入って上記の計量が再開される。計量の度に消費される、溶融シリンダ11中の溶湯は、計量後次の計量が始まるまでの間に溶融されて補充される。
ビレット2が射出の度に溶融されてビレット1本分の射出が行われると、新しいビレット2の補給が行われる。この補給動作は、計量中にプッシャ52aがビレット1本分の距離を超えて前進したことをプッシャ52aの位置検出器が検出したときから始まる。最初に、ビレット挿入装置50がプッシャ52aをビレット2の全長以上の距離だけ後退させてビレット2が供給される空間を溶融シリンダ11の後方に確保する。次にビレット供給装置40が1個のビレット2を溶融シリンダ11後方に供給し、最後にビレット挿入装置50がそのビレット2を溶融シリンダ11中に押し込む。このとき、ビレット2の端面が平滑に仕上げられており、溶融シリンダ11とビレット2の隙間が僅少になるように形成されているので、両者の隙間に空気等が入り込むことはほとんどない。この補給動作は成形品の冷却期間中に行われる。したがって、補給動作が成形サイクルに遅れを来すことはない。
上記本番の成形運転前の準備は次のように行われる。最初に、好ましくは不活性ガスが注入されてシリンダ中の空気がパージされる。次に、あらかじめホッパ41に貯蔵されていたビレット2がビレット供給装置40によって溶融シリンダ11後方に供給され、ビレット挿入装置50によって溶融シリンダ11の中に挿入される。最初、溶融シリンダ11がビレット2で一杯になるように複数のビレット2が挿入される。このとき、逆流防止弁棒31は連通路18aを閉じている。
複数本のビレット2は、溶融シリンダ11の中で前方に押し込まれた状態で加熱ヒータ12a、12b、12c及び12dによって加熱され、先端側に位置する部分から先に溶融し始める。溶融シリンダ11の先端側に残留していた空気の大部分は、溶湯が充満するに連れてほとんど後方に押し出される。やがて数ショット分の溶湯が確保されると、逆流防止弁棒31が連通路18aを開き、続けてプッシャ52aが前進すると共にプランジャ24が後退して、溶湯が射出シリンダ21に送り込まれる。そして、押し出されずに溶湯の中に残留していた空気や不活性ガスが溶湯と共にパージされる。特にエンドプラグ13の導入孔13dが溶融シリンダ孔11aの上方に開口するように形成されている場合には、このパージが速やかに行われる。
溶湯が射出シリンダ21中に充満すると、射出動作が行われる。特に射出ノズル22のノズル孔22aが射出シリンダ孔21aの上方に開口するように形成されている場合には、速やかにパージが行われる。パージが完了すると射出ノズル22が金型に当接されて、予備成形が何回か行われる。成形条件が調整されてそれが安定すると成形前の準備動作が完了する。この際、分割シール機構100を射出シリンダ21に設けられているため、溶融シリンダ11中の溶湯のバックフローは、既述されたように阻止されることとなる。
以上説明した発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明に係る趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明に係る範囲から排除するものではない。特に具体的な装置については、本発明に係る趣旨に添った基本的な機能を有するものは、本発明に含まれる。