JP6344924B2 - S−アリルシステインの製造方法 - Google Patents

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本発明は、S−アリルシステインの製造方法に関する。
従来、ニンニク、タマネギなどのアリウム属の植物には、種々の含硫アミノ酸が含まれることが知られているが、近年、含硫アミノ酸の一種であるS−アリルシステインの有する様々な生理学的作用が注目されている。S−アリルシステインの生理学的作用を利用したものとしては、例えば、腫瘍発生予防剤(例えば、特許文献1を参照)、肝疾患治療剤(例えば、特許文献2を参照)、臓器繊維化抑制剤(例えば、特許文献3を参照)、精子機能低下抑制剤(例えば、特許文献4を参照)などが知られている。
しかしながら、例えば、ニンニクなどに含まれるS−アリルシステインの含有量は、ごく僅かであり、また、その含有量を高める方法についてはほとんど報告がない。具体的には、ニンニクに含まれるS−アリルシステインの含有量を高める方法としては、例えば、生ニンニクをエタノール水溶液に2年間程度浸漬して熟成させることによりS−アリルシステインに代表される含硫アミノ酸を蓄積させる方法や、低温貯蔵した生ニンニクを45℃から65℃に温蔵して含硫アミノ酸を蓄積させる方法(例えば、特許文献5を参照)が挙げられる程度である。
S−アリルシステインの含有量を高める前者の方法は、大きな設備を用い、非常に長期間をかけて行う必要がある。また、後者の方法では、2週間程度で製造することが可能ではあるが、黒ニンニクのように完全熟成状態にはならないため、S−アリルシステインの含有量が高められたニンニク中には、ニンニク特有の臭いが残る。従って、これを飲食品、飼料、医薬品、医薬部外品、健康食品などへ配合する場合には、使用が制限される問題がある。
特許第2828471号公報 特公平5−60447号公報 特開2007−77116号公報 特開2012−17295号公報 特開2005−278635号公報
本発明は、短時間で簡便にS−アリルシステインを製造する方法を提供することを主な目的とする。
本発明者は、このような課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、意外なことに、内在するアリイナーゼを失活処理した、アリウム属の植物、当該植物の搾汁、及び当該植物の抽出物からなる群から選択された少なくとも1種を特定の温度で加熱するという極めて簡便な方法により、短時間でS−アリルシステインを製造できることを見出した。さらに、この方法によれば、アリウム属の植物に特有の臭気が効果的に低減された生成物としてS−アリルシステインが得られることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 内在するアリイナーゼを失活処理した、アリウム属の植物、前記植物の搾汁、及び前記植物の抽出物からなる群から選択された少なくとも1種を20〜75℃で加熱する加熱工程を備える、S−アリルシステインの製造方法。
項2. 前記アリウム属の植物が、アリインを含む、項1に記載のS−アリルシステインの製造方法。
項3. 前記アリウム属の植物が、ニンニク、タマネギ、ラッキョウ、ギョウジャニンニク、及びアサツキからなる群から選択された少なくとも1種である、項1または2に記載のS−アリルシステインの製造方法。
項4. 前記加熱工程の前に、アリウム属の植物、前記植物の搾汁、及び前記植物の抽出物からなる群から選択された少なくとも1種を加熱して、内在するアリイナーゼを失活させる失活工程をさらに備える、項1〜3のいずれかに記載のS−アリルシステインの製造方法。
項5. 前記失活工程において、熱水加熱処理、蒸気加熱処理、及びマイクロ波加熱処理の少なくとも1種の加熱処理を行う、項1〜4のいずれかに記載のS−アリルシステインの製造方法。
本発明によれば、短時間で簡便にS−アリルシステインを製造する方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、アリウム属特有の臭気が効果的に低減された生成物としてS−アリルシステインが得られる。
本発明のS−アリルシステインの製造方法は、内在するアリイナーゼを失活処理した、アリウム属の植物、当該植物の搾汁、及び当該植物の抽出物からなる群から選択された少なくとも1種を20〜75℃という特定の温度で加熱する加熱工程を備えることを特徴とする。本発明において、アリイナーゼとは、アリウム属の植物に内在する酵素であり、アリウム属の植物に含まれるアリインを臭気成分であるアリシンへ変換させることが知られている。本発明においては、内在するアリイナーゼを失活処理した上記のアリウム属の植物等を原料として用いることにより、原料中のアリインの減少を抑制することが可能となる。また、アリシンの生成を抑制することにより、アリウム属の植物に特有の臭気を低減することができる。
なお、S−アリルシステインの天然物は、一般に、下記一般式で示される構造を有する。
本発明において、生成物であるS−アリルシステインは、上記構造を有するS−アリルシステインの他、これの光学異性体であってもよいし、各光学異性体の混合物であってもよい。
原料となるアリウム属の植物としては、700種類以上が知られており、S−アリルシステインを生成し得るものであればいずれを用いてもよい。アリウム属の植物としては、アリインを含むものが好ましい。アリウム属の植物の具体例としては、ニンニク、タマネギ、ギョウジャニンニク、ヒメニラ、ニラ、カンケイニラ、イトラッキョウ、キイイトラッキョウ、ミヤマラッキョウ、ノビル、ヤマラッキョウ、アサツキ、エゾネギ、ヒメエゾネギ、シブツアサツキ、シロウマアサツキ、イズアサツキ、ツリーオニオン、ネギ、ワケギ、リーキ、ラッキョウ、シマラッキョウ、シャロット、エシャロット、青ネギ、チャイブ、ヤグラネギ、白ネギなどが挙げられる。これらの中でも、アリインなどの含硫アミノ酸を高濃度に含む観点から、ニンニク(Allium sativum L.)、タマネギ(Allium cepa L.)、アサツキ(Allium schoenoprasum L.)、ラッキョウ(Allium chinense G.Don)、ギョウジャニンニク(Allium victorialis subsp. platyphyllum)などが好ましく、ニンニク(Allium sativum L.)がより好ましい。アリウム属の植物は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明においては、アリウム属の植物をそのまま失活処理したものを加熱工程に供してもよいし、当該植物の切断物、破砕物、磨砕物、粉末などを失活処理したものを加熱工程に供してもよい。アリウム属の植物の切断物、破砕物、磨砕物、粉末は、例えば、当該植物をクラッシャー、ミキサー、フードプロセッサー、パルパーフィッシャーなどを用いて切断、破砕、磨砕、粉末化することによって得られる。
また、アリウム属の植物の搾汁は、例えばフィルタープレス、ジューサーミキサーなどを用いて調製することができる。搾汁は、上記磨砕物を、濾布などを用いて濾過することによっても調製することができる。アリウム属の植物の切断物、破砕物、磨砕物、及び搾汁は、希釈物または濃縮物であってもよい。希釈物としては、例えば、当該植物の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁などを水で1〜50倍程度に希釈したものが挙げられる。また、濃縮物としては、例えば、当該植物の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁などを凍結濃縮、減圧濃縮などの手段によって1〜100倍に濃縮したものなどが挙げられる。アリウム属の植物の切断物、破砕物、磨砕物、搾汁は、冷凍したものであってもよい。
本発明においては、内在するアリイナーゼを失活処理した上記のアリウム属の植物等を加熱処理することによりS−アリルシステインが効率よく得られる。本発明の製造方法によってS−アリルシステインが効率よく得られる機構の詳細は明らかではないが、例えば、アリウム属の植物に含まれている何らかの成分の働きにより、アリインまたはγ−グルタミル−S−アリルシステインがS−アリルシステインへ変換される機構、アリインから反応中間体を経てS−アリルシステインへと変換される機構などが考えられる。なお、本発明においては、内在するアリイナーゼを失活処理したアリウム属の植物等を上記特定の温度で加熱処理することにより、アリウム属の植物中のアリインを還元する還元剤等(例えば、酵素、還元性化合物など)を添加しなくてもS−アリルシステインが効率よく得られる。
なお、アリインとは、含硫アミノ酸の一種であり、アリウム属の植物に広く含まれている。アリインの天然物は、一般に、下記一般式で示される構造を有する。
S−アリルシステインの生成を促進する観点からは、加熱工程において、内在するアリイナーゼを失活処理した上記アリウム属の植物等の加熱は、20〜75℃の温度で行うことが必要である。加熱温度としては、好ましくは25〜65℃、より好ましくは25〜55℃、さらに好ましくは30〜45℃が挙げられる。
さらには、上記温度範囲での加熱工程を行った後に、さらに加熱工程を行うことがいっそう好ましい。すなわち、加熱工程を2段階で行うことが好ましい。例えば、第1段階目の加熱工程として25〜55℃の温度範囲で10〜30時間加熱処理を施した後、さらに第2段階目の加熱工程として、45〜90℃の温度範囲で、より好ましくは50〜75℃の温度範囲で、10〜50時間の加熱を行うと、より効率的に生成反応が進み、第1段階での加熱工程を長時間行うよりも、より短時間で効率的にS−アリルシステインが得られる。なお、第1段階目の加熱工程で75℃を超えて加熱した場合には、S−アリルシステインは実質的に生成しないが、加熱工程を2段階に分けて行う場合、第1段階目の加熱工程で75℃を超えない温度で加熱すれば、その後の第2段階目の加熱工程で75℃を超える温度で加熱しても効率的にS−アリルシステインが得られる。
本発明の製造方法において、上記特定の温度範囲での加熱によりS−アリルシステインが効率よく得られる機構の詳細は明らかではないが、例えば、アリウム属の植物に含まれている何らかの成分の働きにより、アリインまたはγ−グルタミル−S−アリルシステインがS−アリルシステインへ変換される機構、アリインから反応中間体を経てS−アリルシステインへと変換される機構などの複数の機構が関与しているものと考えられる。
また、加熱工程を2段階で行うことにより、より効率的にS−アリルシステインが生成する理由としては、第1段階での比較的低温の加熱工程によって、例えば、アリウム属の植物に含まれている何らかの成分の働きが抑制または活性化され、引き続く第2段階目の加熱工程により、アリインまたはγ−グルタミル−S−アリルシステインがS−アリルシステインへ変換される機構、アリインから反応中間体を経てS−アリルシステインへと変換される機構などの複数の機構の関与をよりいっそう促進していることに起因すると考えられる。
加熱工程における加熱は、攪拌しながら行ってもよいし、静置させて行ってもよい。攪拌方法としては、特に制限されず、例えば、攪拌羽、ミキサー、スターラーなどを用いて攪拌する方法が挙げられる。
また、加熱工程におけるアリウム属の植物等のpHとしては、好ましくはpH2〜12程度、より好ましくはpH4〜12、さらに好ましくはpH7〜9が挙げられる。加熱時間は、使用する原料の種類、量などによっても異なるが、通常1〜48時間程度の範囲に設定することが好ましい。
さらに、本発明の製造方法においては、加熱工程の前に、上記アリウム属の植物、当該植物の搾汁、及び当該植物の抽出物からなる群から選択された少なくとも1種に内在する、アリイナーゼを失活させる失活工程をさらに備えていてもよい。
前記内在するアリイナーゼを失活処理する方法は、アリウム属の植物に内在するアリイナーゼの酵素活性を失活させることができれば、特に限定されないが、例えば、当該アリウム属の植物等の内部温度を60℃以上に高める加熱処理、酸処理、アルカリ処理が挙げられ、加熱処理が好ましい。失活処理におけるアリウム属の植物等の内部温度を60℃以上に高める加熱処理方法の具体例としては、熱水加熱処理、蒸気加熱処理、マイクロ波加熱処理などが挙げられ、マイクロ波加熱処理が好ましい。当該失活工程によって、内在するアリイナーゼを失活させた上記アリウム属の植物等が得られ、これを上記加熱工程に供することができる。
加熱工程の後、粗生成物から、濾過、遠心分離、濃縮、抽出等の通常の単離操作によってS−アリルシステインを分離する単離工程を行うことができる。さらに、S−アリルシステインの純度を高めるために、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の通常の精製操作によって、S−アリルシステインを精製する精製工程を行うことができる。また、粗生成物を、フリーズドライ、スプレードライなどの方法によって乾燥させて固形物(粉末、顆粒など)とすることもできる。本発明の製造方法によって得られるS−アリルシステインの単離物、精製物や、S−アリルシステインを含む粗生成物は、医薬品、医薬部外品、飲食品、化粧品、飼料、健康食品などとして好適に使用することができる。
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。なお、実施例及び比較例中の測定方法は次の通りである。
(HPLC分析条件)
カラム:CapcellPakSCXUGcolumn(φ4.6×250mm、資生堂製)
カラム温度:45℃
移動相:10mM KH2PO4水溶液(pH2.5)
流速:1mL/min
測定波長:210nm
(実施例1)
ニンニク(品種名:福地ホワイト)1kgの芯を除去した後、約2〜3cmの鱗片に分け、マイクロ波加熱装置にて加熱処理(周波数:2.45GHz、出力:2000W、照射時間:2分間)を施し、アリイナーゼを失活させた。その後、純水1Lを添加して石臼式粉砕機(増幸産業製、商品名:スーパーマスコロイダー)にて摩砕し、ニンニクペーストを得た。そのペーストに対して、5規定の水酸化ナトリウム水溶液をpH8になるように添加して撹拌した後、35℃に加熱して48時間反応させた。加熱反応終了後、そのまま凍結乾燥・粉砕して粉末を得た。粉末中のS−アリルシステインの含有量をHPLCで分析したところ、1.35g/100gであった。この粉末の水溶液をLC/TOF−MS(ブルカー・ダルトニクス製microTOF2−kp)を用いて測定したところ、[M+H]+として162.0583の質量が検出され、S−アリルシステインが生成していることが確認された。
(比較例1)
マイクロ波加熱装置にて加熱処理を施さなかったこと以外は、実施例1と同様の操作にて粉末を得た。粉末中のS−アリルシステインの含有量をHPLCで分析したところ、S−アリルシステイン含有量は、0.005g/100gであり、その粉末はアリウム属の植物に特有の臭気が強いものであった。
(実施例2)
ギョウジャニンニク1kgに対して、マイクロ波加熱装置で加熱処理(周波数:2.45GHz、出力:2000W、照射時間:2分間)を施し、アリイナーゼを失活させた。その後、包丁で5cm程度に切断し、純水1Lを添加して石臼式粉砕機(増幸産業製、商品名:スーパーマスコロイダー)にて摩砕しギョウジャニンニクペーストを得た。そのペーストに対して、5規定の水酸化ナトリウム水溶液をpH8になるように添加して撹拌した後、35℃に加熱して48時間反応させた。加熱反応終了後、そのまま凍結乾燥・粉砕して粉末を得た。粉末中のS−アリルシステインの含有量をHPLCで分析したところ、0.40g/100gであった。
(実施例3)
ニンニク(品種名:福地ホワイト)1kgの芯を除去した後、約2〜3cmの鱗片に分け、純水1000mLの沸騰水中で5分間加熱し、アリイナーゼを失活させた。その後、NPaクラッシャー(タイプ:NR−8、NPaシステム株式会社)にてそのまま摩砕し、ニンニクペーストを得た。そのペーストに対して、5規定の水酸化ナトリウム水溶液をpH8になるように添加して撹拌した後、35℃に加熱して16時間反応させた後に、80℃に加熱してさらに10時間反応させた。加熱反応終了後、そのまま凍結乾燥・粉砕して粉末を得た。粉末中のS−アリルシステインの含有量をHPLCで分析したところ、1.40g/100gであった。
(比較例2)
沸騰水にて失活処理を施さなかったこと以外は、実施例3と同様の操作にて粉末を得た。粉末中のS−アリルシステインの含有量をHPLCで分析したところ、0.005g/100gであった。
アリイナーゼを失活させたアリウム属の植物を加熱した実施例1〜3においては、生成物中のS−アリルシステイン量が高く、アリウム属の植物に特有の臭気が効果的に低減されたものであった。一方、比較例1,2においては、失活処理を施さなかったアリウム属植物を用いたため、S−アリルシステインの含有量が実施例1〜3と比較して1/10以下であり、アリウム属の植物に特有の臭気が強いものであった。

Claims (3)

  1. 内在するアリイナーゼが失活処理(但し、発酵による失活処理を除く)された、アリウム属の植物、前記植物の搾汁、及び前記植物の抽出物からなる群から選択された少なくとも1種を20〜75℃で加熱する加熱工程と、
    前記加熱工程の前に、アリウム属の植物、前記植物の搾汁、及び前記植物の抽出物からなる群から選択された少なくとも1種を、熱水加熱処理、蒸気加熱処理、及びマイクロ波加熱処理の少なくとも1種の加熱処理を行って、内在するアリイナーゼを失活させる失活工程と、を備える、S−アリルシステインの製造方法。
  2. 前記アリウム属の植物が、アリインを含む、請求項1に記載のS−アリルシステインの製造方法。
  3. 前記アリウム属の植物が、ニンニク、タマネギ、ラッキョウ、ギョウジャニンニク、及びアサツキからなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1または2に記載のS−アリルシステインの製造方法。
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