JP6339104B2 - 原子炉の冷却回路の構成部材の表面汚染除去方法 - Google Patents

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Description

本発明は、原子力発電所、すなわち、加圧水型原子炉または沸騰水型原子炉の冷却回路の構成部材の表面汚染除去の方法に関する。冷却回路の主要部は、核燃料を含む燃料要素が内部に配置される原子炉圧力容器である。それぞれが冷却ポンプを有する複数の冷却ループが原子炉圧力容器に配置されることが通常である。
例えば、300℃周辺の温度を有する加圧水型原子炉の発電運転の条件下では、例えば冷却ループの配管系を構成するオーステナイト系FeCrNiステンレス鋼や、例えば蒸気発生器の交換管を構成するNi合金や、例えば冷却ポンプに用いられるコバルトを含む部材などの他の材料でさえも、いくらかの水溶性を示す。上述の合金から浸出する金属イオンは、冷却の流れの中で原子炉圧力容器へ進み、その一部は、圧力容器内で支配的な中性子照射によって放射性の核種に変換される。この核種は、冷却システムのいたるところの冷却の流れによって同様に運ばれ、運転中の冷却システムの構成部材の表面上に形成される酸化物層に取り込まれる。運転時間の増大とともに、放射化した核種は酸化物層の内部および/またはその上に蓄積し、冷却システムの構成部材での放射線量または線量率が増大する。構成部材に用いられる合金の種類に応じて、酸化物層は、主な成分として、二価および三価の鉄を有する酸化鉄、および、上述の鋼の中の合金成分として存在する他の金属、特にクロムやニッケルの酸化物を含む。ここで、ニッケルは常に二価の形態(Ni2+)で存在し、クロムは三価の形態(Cr3+)で存在する。
検査、保守、修理および分解測定が冷却システムにて実行されることができる前に、職員の放射線被曝を低減するため、各構成部材の放射線の低減が必要である。これは、構成部材の表面に存在する酸化物層を汚染除去工程を用いて可能な限り完全に除去することにより達成される。このような汚染除去工程では、冷却システム全体または全体から分離された部分のいずれか一方が例えばバルブを用いて洗浄水溶液で満たされるか、システムの個々の構成部材が洗浄液を含む個別の容器内で処理される。
クロムを含む構成部材の場合、酸化物層はまず酸化的に処理され(酸化工程)、酸化物層はつづいて汚染除去工程として知られている酸性条件下で酸(以下、汚染除去酸とも称される)を用いて溶かされる。汚染除去酸を用いた処理中に溶けた状態となる金属イオンは、水溶液がイオン交換器を通過することにより水溶液から除去される。酸化工程の後に存在するいかなる余分な酸化剤は、還元工程において還元剤を追加することにより中和または還元される。したがって、汚染除去工程における酸化物層の溶解または金属イオンの浸出は、酸化剤の欠如を生じさせる。余分な酸化剤の還元は、独立した処理工程となることができる。この工程において、過マンガン酸イオンおよび二酸化マンガンの還元のために、還元の目的のためにのみ作用する還元剤(例えば、アスコルビン酸、クエン酸またはシュウ酸)が洗浄液に加えられる。しかしながら、余分な酸化剤の還元は、汚染除去工程内においても実行されることができる。この場合、第1に余分な酸化剤を中和または還元するのに十分であり、第2に酸化物の溶解を生じさせるのに十分である量の有機汚染除去酸が加えられる。一般に、「酸化工程−還元工程−汚染除去工程」または「酸化工程−汚染除去工程(同時還元を伴う)」の処理シーケンスを備える処理または汚染除去のサイクルは、要件を満たす汚染除去または構成部材表面の放射線の低減を実現するために、多くの回数実行される。上述した種類の汚染除去工程は、例えばCORD(chemical oxidation, reduction and decontamination;化学的な酸化、還元および汚染除去)の名称で知られている。
酸化物層の酸化的処理は必要不可欠である。クロム(III)酸化物および三価のクロムを含む混合酸化物(特にスピネル型)が汚染除去酸において難溶性であり汚染除去において問題となるためである。溶解度を高めるために、酸化物層は最初にCe4+、HMnO、H、KMnO、酸もしくはアルカリを伴うKMnOまたはオゾンといった酸化剤の水溶液を用いて処理される。この処理の結果は、Cr(III)がCr(VI)に酸化されてCrO 2−として溶けることである。
汚染除去工程にて還元剤が存在する(有機汚染除去酸を用いるときは常にそうである)ために、酸化工程で形成され、水溶液中にクロム酸塩として存在するクロム(VI)は、さらにまたクロム(III)に還元される。汚染除去工程の終わりにて、基本的にCr(III)、Fe(II)、Fe(III)、Ni(II)およびコバルト60といった放射性同位体も洗浄液中に存在する。これら金属イオンは、イオン交換器を用いて洗浄液から除去されることができる。汚染除去工程にて頻繁に用いられる汚染除去酸の一つは、シュウ酸である。シュウ酸は、構成部材の表面から酸化物層が除去されて効果的に溶かされるのを可能にするからである。
しかしながら、いくつかの汚染除去酸(具体的にはシュウ酸を含む)がNi2+、Fe2+、Co2+といった二価の金属イオンとともに難溶性の沈殿物(以下において例示を目的として参照されるであろうシュウ酸の場合、シュウ酸塩の沈殿物)を形成することは不利である。上述の沈殿物は、冷却システム全体を通じて運ばれることができ、蒸気発生器などの配管および構成部材の内面上に堆積されることができる。さらに、沈殿物は、全工程の実行を困難にする。
さらに不利なことは、とりわけシュウ酸塩の沈殿物の形成過程において、水溶液中に存在する放射性核種の共沈が生じるために構成部材表面の再汚染が生じることである。再汚染のリスクは、特に体積に対して大きな表面積比率を有する構成部材である場合に大きい。これは、特に、直径の小さな非常に多数の交換管を有する蒸気発生器の場合である。さらに、再汚染は、低流量の領域において優先的に生じる。
シュウ酸塩の沈殿物および他の沈殿物が形成されることのさらなる不利なことは、これらがフィルタ装置、例えばイオン交換器の上流のフィルタや、循環ポンプのシーブトレイもしくは保護フィルタを詰まらせることができる点にある。最後に、酸化工程および汚染除去工程を備える上述の処理サイクルが繰り返されるとき、つまり、汚染除去工程の後に新たな酸化工程が続くときにさらなる不利なことが生じる。先行する汚染除去工程にて沈殿物が形成されている場合、対応する金属イオン(例えば、ニッケルシュウ酸塩の沈殿物の場合にはNi)をイオン交換器を用いて洗浄液から除去することができない。その結果、沈殿物のシュウ酸基が後続の酸化工程において二酸化炭素と水に酸化されて、酸化剤が有益な目的なしに消費されてしまうこととなる。一方で、シュウ酸が溶液中に存在する場合、つまり、シュウ酸が沈殿物の形態にて結合していない場合、シュウ酸は簡単な方法で破壊される(つまり、二酸化炭素と水に変換される)ことができる。例えば、浄化溶液がイオン交換器に運ばれる前に、例えば紫外光を用いた単純かつ安価な方法によってである。
上述の種類の沈殿物が汚染除去工程の間に生じているとき、これらを少なくとも部分的に汚染除去されるべき水溶液または冷却システムから再び除去して、汚染除去方法を継続できるようにするには、時間および金銭の観点で大きな支出が必要である。その結果、相応に大きい能力の交換器を用いることにより、汚染除去工程の間に水溶液からニッケルを除去する比率を増大させる試みが過去になされてきた。これは、技術的な理由から、比較的大きいシステム(例えば、冷却回路全体)の洗浄または汚染除去において、限定された範囲でのみ可能である。
上記事情に鑑み、本発明の目的は、指摘した不利な点において改善された汚染除去方法を提案することにある。
この目的は、冒頭に述べた種類の汚染除去方法において、酸化工程の間に水溶液に溶かされる金属イオンが、汚染除去工程が実行される前、つまり、有機汚染除去酸が追加される前に、陽イオン交換器を用いて溶液から除去されることにより実現される。この目的のため、水溶液は、プロセス工学の観点から有利である方法で、陽イオン交換器を通過する。ニッケルが特に難溶性の塩または沈殿物を有機酸とともに形成するため、ニッケルの除去はここで特に有利である。
上述したように、後続の汚染除去工程において汚染除去酸を用いて酸化物層が処理されて、酸化物層からかなりの程度まで金属イオンが溶けるとき、規定される金属イオン濃度は従来の汚染除去方法よりも低い。なぜなら、酸化工程にて溶液中に溶けていく金属イオンの少なくとも一部は、事前に除去されており、もはや溶液中に存在しないからである。したがって、汚染除去酸の金属塩の溶解度積(金属の陽イオンの活性と酸の陰イオンの活性の積)のリスクが上回ること、および、難溶性の沈殿物が形成されることが低減される。特に、ニッケルおよびシュウ酸の場合、ニッケルシュウ酸塩が比較的低い溶解度積を有するため、難溶性のニッケルシュウ酸塩の堆積物の形成が致命的となる。
イオン交換器は一般に有機物であるため、酸化剤による影響を受けやすい。特に、非常に強力な酸化剤であって、本発明に係る方法の使用に好ましい過マンガン酸、または、そのアルカリ金属塩による影響を受けやすい。したがって、特に有機のイオン交換器を用いる場合、金属イオンを除去するために陽イオン交換器に溶液を通過させる前に、還元剤を用いて水溶液中に依然として存在する酸化剤を中和することは有利である。
後続の汚染除去工程にて用いられる汚染除去酸は、好ましくは還元剤として用いられる。ここで、この酸が任意の場合にその場で利用可能であることは有利であり、その結果、例えば調達や保管のための追加の支出、および、例えばグリオキシル酸といった汚染除去酸とは異なる還元剤が使われるべきとなる場合に必要となるかもしれない追加の許可が不要となる。
本発明に係る方法は、例えば、沸騰水型原子炉などの原子炉の冷却システム全体または冷却システムの一部に用いることができる。
加圧水型原子炉の冷却システムまたは一次回路を模式的に示す図である。 ニッケルイオンの濃度または量の変化を示すグラフである。
添付の図1は、加圧水型原子炉の冷却システムまたは一次回路を模式的に示す。加圧水型原子炉は、少なくとも運転中に複数の燃料要素2が内部に存在する圧力容器1と、圧力容器1に加えて蒸気発生器4および冷却材ポンプ5といった様々な装置に接続されるラインシステム3とを備える。二次回路11は、特に、発電機12を駆動する蒸気タービン13を備え、同時に図1に示される。問題としている洗浄または汚染除去の目的は、一次回路の構成要素の内面に存在する酸化物層を溶かすこと、および、溶液の状態となったその成分を水溶液から除去することにある。冷却システム全体は、例えばシュウ酸といった有機酸錯化剤を含む水溶液で満たされている。以下では、例示を目的としてシュウ酸が参照されるであろう。ここで満たされているというとき、これは、発電運転の停止後(つまり、プラントの停止後)に冷却システム中に存在する冷却材が当該水溶液を形成し、酸化工程を実行するために酸化剤(好ましくは、過マンガン酸または過マンガン酸カリウム)がこの水溶液に加えられている方法を含むように解釈されるべきである。全体での汚染除去の場合、冷却システム全体が満たされる。さもなければ、一部分のみ、例えば、ラインシステムのある部分のみが処理されることができる。
本発明の方法を加圧水型原子炉の冷却システム全体の汚染除去に用いることについて、最初の洗浄サイクルのみを考慮して、以下に説明される。
酸化剤として約200ppmの濃度の過マンガン酸を用いる水溶液中において、約90度の温度で酸化が実行された。添付のグラフから分かるように、ニッケルイオンの濃度または量は、酸化工程(I)の間に6000g以上の範囲の値まで約10時間をかけて上昇し、その後、実質的に一定に維持された。酸化工程の開始から約17時間後、消費されていない過マンガン酸を中和するために、わずかに超化学量論的量のシュウ酸が還元剤として水溶液に導入された。還元剤の作用が認められる約3時間後に、ニッケルイオン(II)の除去および必然的に他の金属イオンの除去が20時間の時点で開始された。この除去は、高度に概略化され技術的に単純化された態様で図1に示されるように、陽イオン交換器8に接続すること、つまり、冷却システム中を循環する水溶液の支流が陽イオン交換器8を通じて運ばれるようにバイパス9のバルブ10が開放されることによってなされた。
グラフから分かるように、ニッケルは陽イオン交換器により引き留められて、システム全体でのその量または濃度が次第に減少する。本実施例において、水溶液中に溶けているニッケルの量は、ニッケル除去(II)の間、漸近的により低い値の約500gに近づく。
この時点(つまり、洗浄サイクルの開始から約35時間後)にて、シュウ酸の導入による汚染除去工程(III)が開始された。この導入は、水溶液中においてシュウ酸濃度が2000ppmを超えないようにして実行された。グラフから、ニッケルの量が酸化物層の溶解を受けて最初に大きく増加したが、その後、接続された陽イオン交換器8の結果として低下したことが分かる。フェーズIにて形成されたニッケルの量が本発明にしたがって除去されていない場合、フェーズIIIにて約7000gのニッケルの量が存在しないかもしれず、その代わりに、水溶液中に約13000gよりも顕著に多いニッケルの総量が存在するかもしれない。後者の場合、溶解度の問題および沈殿物のリスクにつながるかもしれない。

Claims (5)

  1. 原子力発電所の冷却システムの金属部材の酸化物層を有する表面の化学的な汚染除去の方法であって、
    酸化剤を含む水溶液を用いて酸化物層が処理される少なくとも一つの酸化工程と、
    金属イオンとともに難溶性の沈殿物を形成する性質を有する汚染除去酸の水溶液を用いて酸化物層が処理される後続の汚染除去工程と、を備え、
    汚染除去工程が実行される前に、酸化工程の間に溶けた状態となる金属イオンが陽イオン交換器を用いて水溶液から除去され
    金属イオンの除去の前に、還元剤を用いて水溶液中に存在する酸化剤が中和される還元工程が実行され、
    後続の汚染除去工程にて用いられる汚染除去酸は、還元剤として用いられることを特徴とする方法。
  2. 後続の汚染除去工程にて用いられる汚染除去酸は、ニッケルイオンとともに難溶性の沈殿物を形成する性質を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 水溶液の少なくとも一部が陽イオン交換器を通過し、水溶液中に存在する金属イオンが除去されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
  4. 酸化工程において、過マンガン酸または過マンガン酸塩が用いられることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
  5. 汚染除去酸としてシュウ酸を用いることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
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