JP2013029401A - プラント構成部材への放射性核種付着抑制方法 - Google Patents

プラント構成部材への放射性核種付着抑制方法 Download PDF

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Abstract

【課題】原子力プラント構成部材に付着する放射性核種をさらに低減できるプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法を提供する。
【解決手段】皮膜形成装置の循環配管の両端部をBWRプラントの再循環系配管に接続する(S1)。再循環系配管内の化学除染を実行する(S2)。循環配管内を流れる水(または皮膜形成水溶液)の温度を60〜100℃に加熱する(S3)。コバルトイオン及びギ酸を含む薬液を循環配管に注入する(S4)。鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液を、コバルトイオン及びギ酸を含む水溶液に注入する(S5)。過酸化水素を、クロムイオン及び鉄(II)イオン等を含む水溶液に注入する(S6)。ヒドラジンを、クロムイオン、鉄(II)イオン及び過酸化水素を含む水溶液に注入する(S7)。その後、この水溶液を再循環系配管内に導いて再循環系配管の内面に非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を形成する。
【選択図】図1

Description

本発明は、プラント構成部材への放射性核種付着抑制方法に係り、特に、沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適なプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法に関する。
発電プラントとして、例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)及び加圧水型原子力発電プラント(以下、PWRプラントという)が知られている。例えば、BWRプラントは、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された冷却水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、RPVからタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水としてRPVに供給される。RPV内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水に含まれる金属不純物が給水配管に設けられたろ過脱塩装置で除去される。
BWRプラント及びPWRプラント等の原子力発電プラントでは、原子炉圧力容器などの主要な構成部材は、腐食を抑制するために、水が接触する接水部にステンレス鋼及びニッケル基合金などを用いている。また、原子炉冷却材浄化系、余熱除去系、原子炉隔離時冷却系、炉心スプレイ系、給水系及び復水系などの構成部材は、プラントの製造所要コストを低減する観点、あるいは給水系や復水系を流れる高温水に起因するステンレス鋼の応力腐食割れを避ける観点などから、主として炭素鋼部材が用いられる。
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、燃料スペーサやスペーサスプリング、RPV及び再循環系配管等の接水部からも発生することから、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼、ニッケル基合金、ジルコニウム合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水(RPV内に存在する冷却水)と接触することを防いでいる。炉水とは、原子炉内に存在する冷却水である。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在は避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料から放出される中性子の照射により原子核反応を起こし、コバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54等の放射性核種になる。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままであるが、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水に含まれる放射性物質は、原子炉浄化系によって取り除かれる。しかしながら、除去されなかった放射性物質は炉水とともに再循環系などを循環している間に、構成部材の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
そこで、配管への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、亜鉛などの金属イオンを炉水に注入して、炉水と接触する再循環系配管内面に亜鉛を含む緻密な酸化皮膜を形成させることにより、酸化皮膜内へのコバルト60及びコバルト58等の放射性核種の取り込みを抑制する方法が提案されている(特開昭58−79196公報参照)。
また、化学除染後において原子力プラントの構成部材の表面にマグネタイトを含むフェライト皮膜を形成することによって、原子力プラントの運転開始後においてその構成部材の表面に放射性核種が付着することを抑制する方法が、特開2006−384319号公報及び特開2007−192745号公報に提案されている。この方法は、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液、過酸化水素及びヒドラジンを含み、常温から100℃の範囲に加熱された処理液を、その構成部材表面に接触させてその表面にマグネタイトを含む皮膜を形成するものである。さらに、ニッケルもしくは亜鉛を含むフェライト皮膜を原子力プラントの構成部材の表面に形成し、プラントの運転開始後においてその構成部材の表面に放射性核種が付着することをさらに抑制する方法が提案されている(特開2010−229543号公報及び特開2010−276490号公報参照)。
これらの皮膜形成方法は、放射性核種の付着抑制だけでなく、構成部材の腐食抑制方法としても提案されている。特開2006−384319号公報、特開2007−192745号公報には、原子炉装荷前の燃料スペーサやスペーサスプリング表面にマグネタイトを含む皮膜を形成することによって、燃料スペーサやスペーサスプリングからの溶出を低減し、炉水中の放射性核種濃度を低減する方法が提案されている。
特開昭58−79196号公報 特開2006−384319号公報 特開2007−192745号公報 特開2010−229543号公報 特開2010−276490号公報
発明者らは、原子力発電プラントに適用するのに好適な部材の表面に緻密なマグネタイトを含む皮膜を形成し放射性核種の付着を抑制する、特開2006−384319号公報及び特開2007−192745号公報に記載されたマグネタイト皮膜をステンレス鋼製の試験片の表面に形成し、放射性核種の付着を抑制する方法を詳細に検討した。その結果、発明者らは、放射性核種の付着を抑制できるそのマグネタイト皮膜に、このマグネタイト被膜と接触する炉水から極微量の放射性核種が取り込まれることを確認した。
本発明の目的は、プラント構成部材に付着する放射性核種をさらに低減することができるプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法を提供することにある。
上記した目的を達成する本発明の特徴は、非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤を含み、pHが5.5〜9.0の範囲内である皮膜形成液を、プラントを構成する構成部材の表面に接触させ、その構成部材の表面に非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を形成することにある。
構成部材の表面に非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を形成することにより、その構成部材の表面への放射性核種の付着をさらに抑制することができる。
上記した目的は、非放射性アルミニウムイオン、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤を含み、pHが5.5〜9.0の範囲内である皮膜形成液を、プラントを構成する構成部材の表面に接触させ、その構成部材の表面に非放射性アルミニウムを含むフェライト皮膜を形成することによっても達成することができる。
上記した目的は、非放射性マンガンイオン、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤を含み、pHが5.5〜9.0の範囲内である皮膜形成液を、プラントを構成する構成部材の表面に接触させ、その構成部材の表面に非放射性マンガンを含むフェライト皮膜を形成することによっても達成することができる。
上記した目的は、非放射性リチウムイオン、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤を含み、pHが5.5〜9.0の範囲内である皮膜形成液を、プラントを構成する構成部材の表面に接触させ、その構成部材の表面に非放射性リチウムを含むフェライト皮膜を形成することによっても達成することができる。
本発明によれば、プラント構成部材に付着する放射性核種をさらに低減することができる。
本発明の好適な一実施例であるBWRプラントの再循環系配管に適用する実施例1のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 図1に示す実施例1のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置をBWRプラントの再循環系配管に接続した状態を示す説明図である。 図2に示す皮膜形成装置の詳細構成図である。 各フェライト皮膜のギブス自由エネルギーを示す説明図である。 別々のステンレス鋼の表面に形成したマグネタイト皮膜及び非放射性コバルトを含むフェライト皮膜のそれぞれへの60Coの付着量を示す説明図である。 本発明の他の実施例であるBWRプラントの再循環系配管に適用する実施例2のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 図6に示す実施例2のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置の詳細構成図である。 本発明の他の実施例であるBWRプラントの再循環系配管に適用する実施例3のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。
発明者らは、特開2006−384319号公報及び特開2007−192745号公報に記載されたマグネタイト皮膜をステンレス鋼製の試験片の表面に形成し、放射性核種の付着を抑制する方法を詳細に検討し、放射性核種の付着を著しく低減できるマグネタイト皮膜においても、放射性核種を含む水が接触したときに、微量の放射性核種が取り込まれることを確認した。そこで、発明者らは、原子力プラントの運転環境において熱力学的に安定なフェライト皮膜について検討した。発明者らが理論的に計算して求めたフェライトのギブス自由エネルギーを図4に示す。ギブス自由エネルギーはフェライトの安定性を示す指標であり、ギブス自由エネルギーが高いフェライトほど、放射性核種の取り込みが少なくなる。図4に示すように、原子力プラントの運転中において、原子力プラントの構成部材の表面でFe、NiFe及びZnFeよりも安定なフェライトは、FeAl、MnFe、CoFe、LiFe、及びLiFeTiOであった。ここで、それぞれのフェライトに含まれるAl,Mn,Co及びLiは、非放射性のAl,Mn,Co及びLiである。発明者らは、これらのフェライトうちの1つの皮膜を原子力プラントの構成部材の表面に形成することによって、そのフェライト皮膜への放射性コバルト(例えば、60Co)の取り込み量がマグネタイト皮膜よりも低減され、原子力プラントの構成部材への放射性コバルト付着量が低減すると考えた。
そこで、発明者らは、Feを主構成イオンとする酸化皮膜の形成方法について検討した。上記のフェライト皮膜のうちCoFeを形成するには、式(1)の反応を起こせばよい。
Co2++2Fe3++4HO → CoFe+8H ……(1)
以上に述べた検討の結果、発明者らは、プラント構成部材の表面に非放射性コバルトを含むフェライト(CoFe)の形成する際には、水に、非放射性コバルトイオンを含む第4薬剤、鉄(II)イオンを含む第1薬剤、酸化剤を含む第2薬剤及びpH調整剤を含む第3薬剤を、皮膜形成液に、第4薬剤、第2薬剤、第3薬剤及び第1薬剤の順に添加すればよいと考えた。
放射能付着抑制効果を実験により確認した結果を図5に示す。図5から明らかなように、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を表面に形成したステンレス鋼製の試験片は、マグネタイト皮膜を表面に形成したステンレス鋼製の試験片よりもコバルト60付着量が少なくなった。すなわち、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を表面に形成した試験片では、放射性核種の付着がさらに抑制されている。これは、炉水に含まれた放射性コバルトの、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜への取り込みは、構成部材の表面に形成された非放射性コバルトを含むフェライト皮膜に含まれる非放射性コバルトと炉水に含まれた放射性コバルトの同位体置換のみによって行われる。このため、構成部材の表面に形成された非放射性コバルトを含むフェライト皮膜への放射性核種の付着が抑制される。CoFe皮膜以外のFeAl皮膜、MnFe皮膜、及び」LiFe皮膜のそれぞれの皮膜は、皮膜の熱力学的安定性をマグネタイト皮膜よりも高めることができ、Coの付着をマグネタイトに比べて抑制することができる。
以上に述べた検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例であるBWRプラントの再循環系配管に適用した実施例1のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法を、図1、図2及び図3を用いて説明する。本実施例では、特に、非放射性コバルトを含むフェライト(CoFe)皮膜の形成について詳細に説明する。
原子力発電プラントであるBWRプラントは、図2に示すように、原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)12を有し、RPV12内に複数のジェットポンプ14を設置している。炉心13には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管22、及び再循環系配管22に設置された再循環ポンプ21を有する。給水系は、復水器4とRPV12を連絡する給水配管10に、復水ポンプ5、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)6、低圧給水加熱器8、給水ポンプ7及び高圧給水加熱器9を、復水器4からRPV12に向って、この順に設置して構成されている。原子炉浄化系は、再循環系配管22と給水配管10を連絡する浄化系配管20に、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27をこの順に設置している。浄化系配管20は、再循環ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。原子炉1は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器11内に設置されている。
RPV12内の冷却水は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14内に噴出される。ジェットポンプ14のノズルの周囲に存在する冷却水も、ジェットポンプ14内に吸引されて炉心13に供給される。炉心13に供給された冷却水は燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、加熱された冷却水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV12内に設けられた気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)にて水分が除去された後に、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。
タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧される。給水は、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱されてRPV12内に導かれる。抽気配管15でタービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
再循環系配管22内を流れる冷却水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって原子炉浄化系の浄化系配管20内に流入し、再生熱交換器25及び非再生熱交換器26で冷却された後、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された冷却水は、再生熱交換器25で加熱されて浄化系配管20及び給水配管10を経てRPV12内に戻される。
BWRプラントの運転が停止された後のBWRプラントの運転停止期間内で、仮設設備である皮膜形成装置30の循環配管(皮膜形成液配管)35の両端が、ステンレス鋼製の再循環系配管22に接続される。この循環配管35を再循環系配管22に接続する作業を具体的説明する。BWRプラントの運転停止後に、例えば、再循環系配管22に接続されている浄化系配管20に設置されたバルブ23のボンネットを開放して浄化系ポンプ24側を封鎖する。皮膜形成装置30の循環配管35の一端をバルブ23のフランジに接続する。これにより、循環配管35の一端が再循環系ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。他方、再循環ポンプ21の下流側で再循環系配管22に接続されたドレン配管または計装配管などの枝管を切り離し、その切り離された枝管に、皮膜形成装置30の循環配管35の他端を接続する。循環配管35の両端を再循環系配管22に接続することによって、再循環系配管22及び循環配管35を含む閉ループが形成される。再循環系配管22の両端部におけるRPV12内での各開口部は、皮膜形成液がRPV12内に流入しないように、プラグ(図示せず)でそれぞれ封鎖される。皮膜形成装置30は、再循環系配管22の内面にコバルを含むトフェライト皮膜が形成され、このフェライト皮膜の形成に使用した皮膜形成液の処理が終了した後で且つBWRプラントの運転停止期間内に、再循環系配管22から取り外される。その後で、BWRプラントの運転が開始される。
皮膜形成装置30は、再循環系配管22の内面への非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成、及びこの皮膜の形成に使用した皮膜形成液の処理の両方に用いられる。さらに、皮膜形成装置30は、再循環系配管22内面の化学除染を行う際にも用いられる。再循環系配管22に接続された皮膜形成装置30は、BWRプラントの放射線管理区域である原子炉格納容器11内に配置されている。
本実施例では、再循環系配管22を皮膜形成対象物にしたが、給水系、冷却材浄化系、及び補機冷却水系の各配管を皮膜形成対象物にする場合には、該当する皮膜形成対象物の配管系に循環配管35を接続する。
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。皮膜形成装置30は、サージタンク31、循環配管35、鉄(II)イオン注入装置85、酸化剤注入装置86、pH調整剤注入装置87、コバルトイオン注入装置88、フィルタ51、加熱器53、分解装置64及びカチオン交換樹脂塔60を備えている。
開閉弁47、循環ポンプ48、弁49、加熱器53、弁55,56及び57、サージタンク31、循環ポンプ32、弁33及び開閉弁34が、上流よりこの順に循環配管35に設けられている。弁49をバイパスして循環配管35に接続される配管71に、弁50及びフィルタ51が設置される。加熱器53及び弁55をバイパスする配管66が循環配管35に接続され、冷却器58及び弁59が配管66に設置される。両端が循環配管35に接続されて弁56をバイパスする配管67に、カチオン交換樹脂塔60及び弁61が設置される。両端が配管67に接続されてカチオン交換樹脂塔60及び弁61をバイパスする配管68に、混床樹脂塔62及び弁63が設置される。
弁65及び分解装置64が設置される配管69が弁57をバイパスして循環配管35に接続される。分解装置64は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。サージタンク31が弁57と循環ポンプ32の間で循環配管35に設置される。弁36及びエゼクタ37が設けられる配管70が、弁33と循環ポンプ32の間で循環配管35に接続され、さらに、サージタンク31に接続されている。非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を形成する再循環系配管22の内面の汚染物を酸化溶解するために用いる過マンガン酸カリウム(酸化除染剤)、さらには再循環系配管22の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ37に設けられている。
鉄(II)イオン注入装置85が、薬液タンク45、注入ポンプ43及び注入配管72を有する。薬液タンク45は、注入ポンプ43及び弁41を有する注入配管72によって循環配管35に接続される。薬液タンク45は、鉄をギ酸で溶解して調製した2価の鉄(II)イオンを含む薬剤(第1薬剤)を充填している。この薬剤はギ酸を含んでいる。なお、鉄を溶解させる薬剤としては、ギ酸に限らず、鉄(II)イオンの対アニオンとなるカルボン酸または炭酸を用いることができる。鉄を溶解する、ギ酸以外のカルボン酸として、シュウ酸またはマロン酸を用いてもよい。
酸化剤注入装置86が、薬液タンク46、注入ポンプ44及び注入配管73を有する。薬液タンク46は、注入ポンプ44及び弁42を有する注入配管73によって循環配管35に接続される。薬液タンク46は、酸化剤(第2薬剤)である過酸化水素を充填している。
pH調整剤注入装置87が、薬液タンク40、注入ポンプ39及び注入配管74を有する。薬液タンク40は、注入ポンプ39及び弁38を有する注入配管74によって循環配管35に接続される。薬液タンク40はpH調整剤(第3薬剤)であるヒドラジンを充填する。
コバルトイオン注入装置88が、薬液タンク80、注入ポンプ81及び注入配管83を有する。薬液タンク80は、注入ポンプ81及び弁82を有する注入配管83によって循環配管35に接続される。薬液タンク80は、コバルトをギ酸で溶解して調製した3価の非放射性コバルトイオンを含む薬剤(第4薬剤)が充填されている。この薬剤はギ酸を含んでいる。なお、コバルトを溶解させる薬剤としては、ギ酸に限らず、鉄(II)イオンの対アニオンとなるカルボン酸または炭酸を用いることができる。コバルトを溶解するカルボン酸として、シュウ酸またはマロン酸を用いてもよい。発明者らは、ギ酸でのコバルトの溶解方法を検討した。この結果、固体のコバルトをギ酸に浸漬することによって、コバルトが完全に溶解し、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成に使用できる非放射性コバルトイオンを含む薬剤(第1薬剤)を得ることができた。
本実施例では、コバルトイオン注入装置88の循環配管35への第1接続点(注入配管83と循環配管35の接続点)84、鉄(II)イオン注入装置85の循環配管35への第2接続点(注入配管72と循環配管35の接続点)78、酸化剤注入装置86の循環配管35への第3接続点(注入配管73と循環配管35の接続点)79、及びpH調整剤注入装置87の循環配管35への第4接続点(注入配管74と循環配管35の接続点)77が、この順序で上流から下流に向って配置されている。第1接続点84が最も上流に位置している。第4接続点77は、循環配管35において、皮膜形成対象物にできるだけ近い位置に配置させることが好ましい。
弁54を設けた配管75が配管73と配管69を連絡する。pH計76が、第4接続点77よりも下流で循環配管35に設置される。導電率計89が循環配管35に設けられる。各薬剤が循環配管35に注入される前では、サージタンク31は、処理に用いられる水が充填されている。皮膜形成液に含まれる酸素濃度を少なくするために、薬液タンク45及びサージタンク31内に窒素またはアルゴンなどの不活性ガスをバブリングすることが好ましい。
分解装置64は、鉄(II)イオンの対アニオンとして使用するカルボン酸(例えば、ギ酸)、及びpH調整剤のヒドラジンを分解できるようになっている。つまり、鉄(II)イオンの対アニオンとしては、廃棄物量の低減化を考慮して水及び二酸化炭素に分解できるカルボン酸、または気体として放出可能で廃棄物を増やさない炭酸を用いている。
本実施例における酸化皮膜形成方法を、図1を用いて詳細に説明する。図1に示す手順は、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成だけでなく、化学除染、及び非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成に用いた皮膜形成液(例えば、皮膜形成水溶液)の処理の手順も含んでいる。まず、皮膜形成装置30を皮膜形成対象の配管系に接続する(ステップS1)。すなわち、BWRプラントの運転がBWRプラントの定期検査のために停止された後のBWRプラントの運転停止期間において、前述したように、循環配管35が皮膜形成対象物の配管系である再循環系配管(原子力プラントの構成部材)22に接続される。
皮膜形成対象箇所に対する化学除染を実施する(ステップS2)。運転を経験したBWRプラントでは、RPV12内の冷却水(以下、炉水という)と接触する、再循環系配管22の内面に、酸化皮膜が形成されている。そのBWRプラントでは、この酸化皮膜が放射性核種を含んでいる。ステップS2の一例は、化学的な処理によりその酸化皮膜を、皮膜形成対象物である再循環系配管22の内面から取り除く処理である。皮膜形成対象物の配管系への非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成は、その再循環系配管内面の腐食抑制及び放射性核種の付着抑制を目的とするものであるが、その酸化皮膜の形成に際しては再循環系配管22の内面に対して予め化学除染を実施しておくことが好ましい。
ステップS2で適用する化学除染は、公知の方法(特開2000−105295号公報参照)であるが、簡単に説明する。まず、弁34,33,57,56,55,49及び47をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ32及び48を駆動する。これにより、循環配管35及び再循環系配管22の閉ループ内にサージタンク31内の水を循環させる。加熱器53により循環する水を加熱し、この水の温度が90℃になったときに弁36を開く。エゼクタ37につながっているホッパから供給される必要量の過マンガン酸カリウムが、配管70内を流れる水によりサージタンク31内に導かる。過マンガン酸カリウムがサージタンク31内で水に溶解し、酸化除染液(過マンガン酸カリウム水溶液)が生成される。この酸化除染液は、循環ポンプ32の駆動によってサージタンク31から循環配管35を経て再循環系配管22内に供給される。酸化除染液は、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜などの汚染物を酸化して溶解する。
酸化除染が終了した後、上記のホッパからシュウ酸をサージタンク31内に注入する。このシュウ酸によって酸化除染液に含まれている過マンガン酸カリウムが分解される。その後、サージタンク31内で生成されてpHが調整された還元除染液(シュウ酸水溶液)は、循環ポンプ32によって再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に存在する腐食生成物の還元溶解を行う。還元除染液のpHが、薬液タンク40から循環配管35内に供給されるヒドラジンによって調整される。再循環系配管22から排出されて循環配管35に戻された還元除染液の一部が、金属陽イオンを除去するために、必要な弁操作によりカチオン交換樹脂塔60に導かれる。
還元除染の終了後、弁65を開いて弁57の開度を調整し、循環配管35内を流れる還元除染液の一部を分解装置64に供給する。この還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、薬液タンク46から配管75を通して分解装置64に導かれた過酸化水素、及び分解装置64内の活性炭触媒の作用によって分解される。シュウ酸及びヒドラジンの分解後、弁55を閉じて加熱器53による加熱を停止させ、同時に、弁59を開いて除染液を冷却器58で冷却する。冷却された除染液(例えば、60℃)が、不純物を除去するために、混床樹脂塔62に供給される。
原子力プラントの構成部材である再循環系配管22の化学除染が終了した後、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成処理が実行される。
皮膜形成対象物の除染が終了した後、皮膜形成液の温度調整を行う(ステップS3)。皮膜形成対象物の除染終了後、すなわち、皮膜形成装置30による最後の浄化運転が終了した後、以下の弁操作が行われる。弁50を開いて弁49を閉じ、フィルタ51への通水を開始する。弁56を開いて弁63を閉じることにより、混床樹脂塔62への通水を停止する。さらに、弁55を開いて加熱器53によって循環配管35内の水を所定温度まで加熱する。弁47,57,33及び34は開いており、弁36,59,61,65,38,41,42及び82は閉じている。循環ポンプ32,48が回転している。フィルタ51への通水は、水中に残留している微細な固形物を除去し、この固形物の表面にも酸化皮膜が形成されて薬剤が無駄に使用されることを防止するためである。また、フィルタ51への皮膜形成液の供給を化学除染中に実施した場合には、溶解によって生じた高濃度の鉄に起因する水酸化物でフィルタの圧力損失が高くなる恐れがあるため適切ではない。
本実施例では、皮膜形成液の温度は、再循環系配管22の内面に皮膜を形成している間、加熱器53によって90℃に調節され、この温度に保持される。しかしながら、皮膜形成液の温度はその温度に限られない。要は原子炉の運転時における構成部材である再循環系配管22の腐食を抑制できる程度に、クロムを含む酸化皮膜が形成できてこの皮膜の結晶等の膜構造が緻密に形成できればよいのである。したがって、皮膜形成液の温度は、100℃以下が好ましく、下限は20℃でもよいが、クロムを含む酸化皮膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上が好ましい。したがって、皮膜形成処理における皮膜形成液の温度は、加熱器53を制御することによって60℃〜100℃の範囲に含まれる温度に調節することが望ましい。皮膜形成液の温度が100℃以下であるので、皮膜形成液の沸騰を抑制するための加圧が不要であり、仮設設備である皮膜形成装置30を耐圧構造にする必要がなく、皮膜形成装置30を小型化できる。
化学除染の終了後で後述の各薬剤が循環配管35に注入される前では、循環配管35から再循環系配管22に供給される液体は、各薬剤の注入により皮膜形成液になる水である。この場合には、ステップS3では、循環配管35内を流れる水が加熱装置53により、例えば、90℃に加熱される。
第2薬剤に含まれる鉄(II)イオンを酸化させて水酸化第二鉄を生成させないために、皮膜形成液内の溶存酸素を除去することが必要である。このため、サージタンク31及び薬液タンク45内で、不活性ガスのバブリングまたは真空脱気を行うことが好ましい。
非放射性コバルトイオンを含む薬剤(第4薬剤)を皮膜形成液に注入する(ステップS4)。弁82を開いて注入ポンプ81を駆動することにより、非放射性コバルトイオン及びギ酸を含む薬液(第4薬剤)が、薬液タンク80から注入配管83を通って、第1接続点84から循環配管35内を流れている所定温度(例えば、75℃)の水溶液である皮膜形成液(第4薬剤が初めて注入されるときは水)に注入される。非放射性コバルトイオン及びギ酸を含む水溶液が、循環配管35を通して再循環系配管22内に供給される。再循環系配管22から排出されたこの水溶液は循環配管35に戻される。
鉄(II)イオンを含む薬液(第1薬剤)を皮膜形成液に注入する(ステップS5)。弁41を開いて注入ポンプ43を駆動させ、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液(第1薬剤)が、薬液タンク45から、注入配管72を通って、循環配管35内を流れている非放射性コバルトイオンを含んでいる水溶液である皮膜形成液に注入される。ここで注入される第1薬剤は、例えば、鉄をギ酸で溶解して調製した鉄(II)イオン及びこのギ酸を含んでいる。注入された鉄(II)イオンの一部が、皮膜形成液内で水酸化第一鉄となる。
酸化剤(第2薬剤)を皮膜形成液に注入する(ステップS6)。弁42を開いて注入ポンプ44を駆動させ、酸化剤である過酸化水素を、薬液タンク46から注入配管73を通して、循環配管35内を流れている非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄を含む皮膜形成液に注入する。酸化剤としては、過酸化水素以外に、オゾンまたは酸素を溶解した薬剤を用いてもよい。
pH調整剤(第3薬剤)を皮膜形成液に注入する(ステップS7)。弁38を開いて注入ポンプ39を駆動することにより、pH調整剤(例えば、ヒドラジン)を、薬液タンク40から、注入配管74を通して循環配管35内を流れている皮膜形成液に注入する。pH計76は、循環配管35を流れる皮膜形成液のpHを計測する。制御装置(図示せず)が、このpH計測値に基づいて、注入ポンプ39の回転速度(または弁38の開度)を制御してヒドラジンの注入量を調節し、皮膜形成液のpHを5.5よりも大きく9.0以下の範囲内で、例えば、7.0に調節する。すなわち、ヒドラジン、鉄(II)イオン、非放射性コバルトイオン、水酸化第一鉄、ギ酸及び過酸化水素を含む水溶液である皮膜形成液のpHが、7.0に調節される。ヒドラジンによってpHが7.0に調節されて温度が90℃である、非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン、水酸化第一鉄及び過酸化水素を含む皮膜形成液が再循環系配管22内を流れて再循環系配管22の内面に接触するので、その皮膜形成液に含まれた非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄が、原子力プラントの構成部材である再循環系配管22の内面に吸着され、過酸化水素の作用により酸化される。これにより、再循環系配管22の内面に非放射性コバルトを含むフェライト(CoFe)皮膜が形成される。皮膜形成液に含まれた過酸化水素は、再循環系配管22の内面に吸着された、鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄を酸化させる反応を生じさせる。ヒドラジンにより皮膜形成液のpHがクロムを含む酸化皮膜生成反応を進行させる7.0に調節されているので、上記したように、再循環系配管22の内面に非放射性コバルトを含むフェライト皮膜が形成される。
循環ポンプ32,48が駆動されているので、ヒドラジン、非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン、水酸化第一鉄及び過酸化水素を含む皮膜形成液が、循環配管35により、開閉弁34を介して再循環系配管22内に供給される。この皮膜形成液は、再循環系配管22内を流れ、循環配管35の弁47側へと戻される。戻された皮膜形成液に、非放射性コバルトイオン及びギ酸を含む薬液(第4薬剤)、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液(第1薬剤)、過酸化水素(第2薬剤)及びヒドラジン(第3薬剤)が注入され、この皮膜形成液が再び再循環系配管22内に導かれる。皮膜形成液(例えば、皮膜形成水溶液)が再循環系配管22の内面に接触することによって、非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄が部材である再循環系配管22の内面に吸着され、吸着された非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄が過酸化水素によって酸化され、ヒドラジンの作用でpHが7.0になっているので再循環系配管22の内面に、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜が、再循環系配管22の内面に形成される。
ステップS4〜7の実施により、非放射性コバルトイオンが含まれた薬液、鉄(II)イオンが含まれた薬液、過酸化水素及びヒドラジンが皮膜形成液に注入される。ステップS4〜S7における各薬剤の注入を、連続的に実施することが好ましい。より具体的には、第1接続点84で非放射性コバルトイオンを含む薬液が注入された皮膜形成液が第2接続点78に到達したときに、鉄(II)イオンを含む薬液が注入される。非放射性コバルトイオン及び鉄(II)イオンを含む皮膜形成液が第3接続点79に到達したときに、酸化剤である過酸化水素が注入される。非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン及び過酸化水素を含む皮膜形成液が第4接続点77に達したときに、pH調整剤であるヒドラジンの皮膜形成液への注入が実施される。
循環配管35の内面での無駄な非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成を防止するため、pH調整剤の循環配管35への注入ポイントは、皮膜形成対象物である再循環系配管22に近い位置、すなわち、開閉弁34と循環配管35の接続点に近い位置にすることが好ましい。
非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成処理が完了したかが判定される(ステップS8)。この判定は、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成処理開始後の経過時間で行われる。この経過時間が再循環系配管22の内面に所定の厚みの非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を形成するのに要する時間になるまでの間は、ステップS8の判定は「NO」になる。ステップS4〜S7の操作が繰り返し行われる。ステップS8の判定が「YES」になったとき、制御装置(図示せず)が、注入ポンプ39,43,44及び81を停止して(または弁38,41,42及び82を閉じ)各薬液の、循環している皮膜形成液への注入を停止する。これによって、再循環系配管22の内面への非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成作業が終了する。所定厚みの、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜が、皮膜形成液と接触している、再循環系配管22の内面全面に亘って形成されている。
鉄(II)イオンが含まれた薬液、非放射性コバルトイオンが含まれた薬液、過酸化水素及びヒドラジンの皮膜形成液への注入は、設定厚みの非放射性コバルトを含むフェライト皮膜が再循環系配管22の内面に形成されるまで、継続して行われる。
その後、皮膜形成液に含まれている薬剤の分解が実施される(ステップS9)。再循環系配管22の内面への非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成に使用された皮膜形成液は、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜の形成が終了した後においても、ヒドラジン及び有機酸であるギ酸を含んでいる。皮膜形成液に含まれた薬剤であるヒドラジン及びギ酸は、還元除染剤であるシュウ酸の分解と同様に、分解装置64で分解される。皮膜形成液に含まれた各薬剤の分解処理では、弁57,65の開度を調整し、循環配管35内の皮膜形成液の一部を分解装置64に供給する。弁54を開くことにより、過酸化水素が、薬液タンク46から配管75を通して分解装置64に供給される。ヒドラジン及びギ酸は、分解装置64内で過酸化水素及び活性炭触媒の作用により分解される。ヒドラジンは窒素と水に、ギ酸は二酸化炭素と水にそれぞれ分解する。皮膜形成液に含まれた各薬剤の分解が終了した後、循環配管35が再循環系配管22から取り外され、バルブ28等が元通りに復旧される。これにより、BWRプラントの運転が開始できる状態になる。
本実施例によれば、再循環系配管22の炉水と接触する内面に非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を形成するので、再循環系配管22の内面に形成された非放射性コバルトを含むフェライト皮膜への、炉水に含まれる放射性核種の取り込み量が、再循環系配管22の内面にマグネタイト皮膜を形成した場合におけるこのマグネタイト皮膜への放射性核種の取り込み量よりも低減される。すなわち、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜が形成された再循環系配管22の内面への放射性核種の付着が、マグネタイト皮膜を形成した場合に比べてさらに抑制される。
ステップS4及びS5において非放射性コバルトイオンを含む薬液及び鉄(II)イオンを含む薬液を、循環配管35内を流れる皮膜形成液に注入して非放射性コバルトイオン及び鉄(II)イオンが皮膜形成液に拡散された後に、この皮膜形成液に酸化剤(例えば、過酸化水素)及びpH調整剤(例えば、ヒドラジン)を注入することによって、組成が均一な非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を、皮膜形成対象物である再循環系配管22の内面に効率的に形成させることができる。また、非放射性コバルトイオンを含む薬液及び鉄(II)イオンを含む薬液を、循環配管35内を流れる皮膜形成液に注入した後に、ヒドラジン及び過酸化水素の混合液をその皮膜形成液に注入しても同様な効果を得ることができる。
本実施例は、新設のBWRプラントに適用することができる。新設のBWRプラントは、まだ、運転されていないので、RPV12に接続された配管系に含まれる配管の内面には、放射性核種を含む酸化皮膜が形成されていない。このため、化学除染によるその酸化皮膜の除去を行う必要がなく、非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン、水酸化第一鉄及び過酸化水素を含み、pHが7.0で温度が90℃である皮膜形成液が、上記したように、その配管内に供給され、その配管の内面に非放射性コバルトを含むフェライト皮膜が形成される。
本発明の他の実施例であるBWRプラントの再循環系配管に適用した実施例2のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法を、図6及び図7を用いて説明する。本実施例のプラント構成部材へのフェライト皮膜形成方法は、実施例1のプラント構成部材へのフェライト皮膜形成方法においてステップS4〜S7をステップS10に替えた方法である。
本実施例のプラント構成部材へのフェライト皮膜形成方法においても、皮膜形成装置30Aが用いられる。この皮膜形成装置30Aは、図7に示す構成を有し、実施例1で用いられる皮膜形成装置30において鉄(II)イオン注入装置85、pH調整剤注入装置87及びコバルトイオン注入装置88の替りに皮膜形成液注入装置90を備え、酸化剤注入装置86を循環配管35に直接接続しないで配管69に接続した構成を有する。皮膜形成装置30Aの他の構成は皮膜形成装置30と同じである。
皮膜形成液注入装置90は、薬液タンク93、注入ポンプ91及び注入配管94を有する。薬液タンク93は、注入ポンプ91及び弁92を有する注入配管94によって循環配管35に接続される。注入配管94と循環配管35の接続点95は、弁33と開閉弁34の間に存在する。皮膜形成液が薬液タンク93に充填される。
本実施例のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法を、図6を用いて説明する。皮膜形成装置30Aの循環配管35の両端を、実施例1と同様に、皮膜形成対象物である再循環系配管22に接続する(ステップS1)。その後、再循環系配管22の内面に対して化学除染が行われ(ステップS2)、循環配管35および再循環系配管22を循環する皮膜形成液(または水)が加熱装置53で加熱され、皮膜形成液(または水)の温度が、例えば、90℃に調節される(ステップS3)。
皮膜形成液を注入する(ステップS10)。弁92を開いて注入ポンプ91を駆動することにより、薬液タンク93内に充填された皮膜形成液が注入配管94を通って循環配管35内に注入される。薬液タンク93から注入される皮膜形成液は、鉄(II)イオン、クロムイオン、ギ酸、ヒドラジン、過酸化水素及び水酸化第一鉄を含んでpHが7.0に調節されている。
この皮膜形成液は、放射線管理区域外の非放射線管理区域(例えば、工場等)において作成される。非放射性コバルトイオン及びギ酸を含む薬液(第4薬剤)、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液(第1薬剤)、酸化剤である過酸化水素、及びpH調整剤であるヒドラジンが予め混合され、鉄(II)イオン、非放射性コバルトイオン、ギ酸、ヒドラジン、過酸化水素及び水酸化第一鉄を含んでpHが7.0に調節された皮膜形成液が、搬送容器に充填されて、放射線管理区域である原子炉建屋内に搬送される。原子炉建屋内に搬送された搬送容器内の皮膜形成液は、皮膜形成装置35Aが原子炉建屋内に設置されたとき、薬液タンク93内に充填される。皮膜形成液は、pHを5.5よりも大きく9.0以下の範囲内で、例えば、7.0に調節され、温度を加熱装置53で60℃〜100℃の範囲内で例えば90℃に調節される。
薬液タンク93から循環配管35内に注入された皮膜形成液は、循環配管35内を流れる90℃の水(または皮膜形成液)とともに、循環ポンプ32の駆動によって、循環配管35を通り、再循環系配管22内に導かれる。その皮膜形成液と接触する再循環系配管22の内面に、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜が形成される。
再循環系配管22の内面に、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜が形成され、ステップS8の判定が「YES」になったとき、ステップS9で皮膜形成液に含まれている薬剤の分解が実施される。この薬剤の分解が終了したとき、本実施例のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法の全工程が終了する。
本実施例は、実施例1で生じた各効果を得ることができる。さらに、本実施例によれば、薬液タンク93から皮膜形成液を循環配管35内に注入するので、鉄(II)イオン注入装置85、pH調整剤注入装置87及びコバルトイオン注入装置88を皮膜形成液注入装置90にすることができ、皮膜形成装置30Aの構造を単純化することができる。
本実施例では、搬送容器で搬送する皮膜形成液がpH調整剤であるヒドラジンを含んでいるので、皮膜形成液の搬送中において、搬送容器内の皮膜形成液内での反応が抑制される。このため、非放射線管理区域外で生成された皮膜形成液を原子炉建屋内に搬送した後であっても、その皮膜形成液を用いて皮膜形成対象物、すなわち、BWRプラントの構成部材(例えば、再循環系配管22)の炉水に接触する表面に、非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を形成することができる。
本発明の他の実施例であるBWRプラントの再循環系配管に適用した実施例3のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法を、図3及び図8を用いて説明する。本実施例のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法は、実施例1において非放射性コバルトイオンの注入を非放射性アルミニウムイオンの注入に替えた方法である。非放射性アルミニウムイオン及びギ酸を含む薬液(第4薬剤)が、薬液タンク80に充填される。本実施例では、コバルトイオン注入装置88がアルミニウムイオン注入装置になる。このため、本実施例では、図3に示されるコバルトイオン注入装置88をアルミニウムイオン注入装置88と称する。
実施例1と同様に、ステップS1〜S3の各工程が実施される。その後、ステップS11,S5,S6及びS7のそれぞれの薬剤の注入がこの順序で行われる。アルミニウムイオン溶液が薬液タンク88から循環配管35に注入され(ステップS11)、鉄(II)イオン溶液が薬液タンク45から循環配管35に注入され(ステップS5)、酸化剤である過酸化水素溶液が薬液タンク46から循環配管35に注入され(ステップS6)、及びpH調整剤であるヒドラジンが薬液タンク40から循環配管35に注入される(ステップS7)。これらの薬剤の注入により、循環配管35内で、非放射性アルミニウムイオン、鉄(II)イオン、過酸化水素およびヒドラジンを含んでpHが7.0の皮膜形成液が生成される。この皮膜形成液は、90℃の温度で、循環配管35から再循環系配管22に供給され、再循環系配管22の内面に接触する。この結果、非放射性アルミニウムを含むフェライト(FeAl)皮膜が再循環系配管22の内面に形成される。ステップS8の判定が「YES」になったとき、ステップS9の皮膜形成液に含まれている薬剤の分解が実施される。この薬剤の分解が終了したとき、本実施例のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法の全工程が終了する。
本実施例は、実施例1で生じる効果を得ることができる。
実施例3において、薬液タンク80にアルミニウムイオン溶液の替りに、マンガンイオン溶液(またはリチウムイオン溶液)を充填して、マンガンイオン溶液(またはリチウムイオン溶液)を循環配管35に注入し、非放射性マンガンイオン(または非放射性リチウムイオン)、鉄(II)イオン、過酸化水素およびヒドラジンを含んでpHが7.0で温度が90℃の皮膜形成液を再循環系配管22に供給することにより、非放射性マンガンを含むフェライト皮膜(非放射性リチウムを含むフェライト皮膜)が再循環系配管22の内面に形成される。皮膜形成液は、pHを5.5よりも大きく9.0以下の範囲内で、例えば、7.0に調節され、温度を加熱装置53で60℃〜100℃の範囲内で例えば90℃に調節される。
実施例2及び3を新設のBWRプラントに適用する場合には、化学除染を行う必要がない。
実施例1〜3の各プラント構成部材への放射性核種付着抑制方法は、BWRプラントにおいて浄化系配管20の内面に該当するフェライト皮膜を形成する場合にも適用することができる。さらに、実施例1〜3の各プラント構成部材への放射性核種付着抑制方法は、加圧水型原子力発電プラントに適用することができ、再処理施設の配管系に適用することができる。
本発明は、原子力プラント及び再処理施設のステンレス鋼製の配管に適用することができる。
1…原子炉、3…タービン、4…復水器、10…給水配管、12…原子炉圧力容器、30,30A…皮膜形成装置、31…サージタンク、32,48…循環ポンプ、35…循環配管、40,45,46,80,93…薬液タンク、39,43,44,81,91…注入ポンプ、53…加熱器、64…分解装置、72,73,74,83,94…注入配管、85…鉄(II)イオン注入装置、86…酸化剤注入装置、87…pH調整剤注入装置、88…コバルトイオン注入装置、90…皮膜形成液注入装置。

Claims (5)

  1. 非放射性コバルトイオン、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤を含み、pHが5.5〜9.0の範囲内である皮膜形成液を、プラントを構成する構成部材の表面に接触させ、
    前記構成部材の前記表面に非放射性コバルトを含むフェライト皮膜を形成することを特徴とするプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法。
  2. 非放射性アルミニウムイオン、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤を含み、pHが5.5〜9.0の範囲内である皮膜形成液を、プラントを構成する構成部材の表面に接触させ、
    前記構成部材の前記表面に非放射性アルミニウムを含むフェライト皮膜を形成することを特徴とするプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法。
  3. 非放射性マンガンイオン、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤を含み、pHが5.5〜9.0の範囲内である皮膜形成液を、プラントを構成する構成部材の表面に接触させ、
    前記構成部材の前記表面に非放射性マンガンを含むフェライト皮膜を形成することを特徴とするプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法。
  4. 非放射性リチウムイオン、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤を含み、pHが5.5〜9.0の範囲内である皮膜形成液を、プラントを構成する構成部材の表面に接触させ、
    前記構成部材の前記表面に非放射性リチウムを含むフェライト皮膜を形成することを特徴とするプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法。
  5. 前記構成部材の表面に折衝させる前記皮膜形成液の温度を、60℃〜100℃の範囲内の温度にする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のプラント構成部材への放射性核種付着抑制方法。
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