原子力発電プラントとして、例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)及び加圧水型原子力発電プラント(以下、PWRプラントという)が知られている。例えば、BWRプラントは、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された冷却水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉からタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水としてRPVに供給される。RPV内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水に含まれる金属不純物が給水配管に設けられたろ過脱塩装置で除去される。
BWRプラント及びPWRプラント等の原子力発電プラントでは、腐食を抑制するために、炉水と接触するRPV等の主要な構造部材にステンレス鋼及びニッケル基合金などを用いている。また、原子炉冷却材浄化系、余熱除去系、原子炉隔離時冷却系、炉心スプレイ系、給水系及び復水系などの構造部材には、プラントの製造所要コストの低減、あるいは給水系及び復水系を流れる高温水に起因するステンレス鋼の応力腐食割れの回避等の観点から、主として炭素鋼部材が用いられる。
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物はRPV及び再循環系配管等の接水部からも発生するため、主要な一次系の構造部材には腐食の少ないステンレス鋼及びニッケル基合金などの不銹鋼が使用される。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水(RPV内に存在する冷却水)と接触することを防いでいる。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水に僅かに含まれる金属不純物を積極的に除去している。
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水が極僅かな金属不純物を含むことを回避できないため、金属不純物の一部が、金属酸化物として、炉心内の燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料から放出される中性子の照射により原子核反応を起こし、60Co,58Co,51Cr及び54Mn等の放射性核種になる。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままであるが、一部の放射性核種は、炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水中の放射性物質は、原子炉浄化系によって一部除去されるが、除去されなかった放射性物質は、炉水と共に循環している間に、構造部材の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構造部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
そこで、配管への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、亜鉛などの金属イオンを炉水に注入して、炉水と接触する再循環系配管内面に亜鉛を含む緻密な酸化皮膜を形成させることにより、酸化皮膜中へのコバルト60及びコバルト58等の放射性核種の取り込みを抑制する方法が提案されている(特開昭63−172999号公報参照)。
また、原子力プラントの運転停止中に、化学除染後の原子力プラント構造部材表面にフェライト皮膜としてマグネタイト皮膜を形成することによって、原子力プラントの運転後においてその構造部材表面に放射性核種が付着することを抑制する方法が、特開2006−38483号公報及び特開2007−192745号公報に提案されている。この方法は、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液、過酸化水素及びヒドラジンを含み、常温から100℃の範囲に加熱された処理液を、その構造部材の表面に接触させてその表面にフェライト皮膜を形成するものである。さらに、マグネタイト皮膜よりも安定なニッケルフェライト皮膜もしくは、亜鉛フェライト皮膜を原子力プラント構造部材表面に形成し、プラントの運転後においてその構造部材表面に放射性核種が付着することをさらに抑制する方法が提案されている(特開2007−182604号公報及び特開2008−304381号公報参照)。
特開昭58−79196号公報は、原子力プラントの構造部材の炉水と接触する表面への放射性核種の付着を抑制するために、炉水中にNiイオンを注入し、Niイオンを含む炉水を構造部材の表面(例えば、配管の内面)に接触させて、その構造部材の表面への放射性核種(例えば、60Co)の付着を抑制すること記載している。
発明者らは、特開2006−38483号公報及び特開2007−182604号公報等に記載された仮設設備である皮膜形成装置を用いないで、原子力プラントの構造部材であるステンレス鋼製の構造部材(以下、ステンレス鋼構造部材という)及び炭素鋼製の構造部材(以下、炭素鋼構造部材という)の炉水と接触する表面への放射性核種の付着を抑制する方法について検討した。この検討の結果を以下に説明する。
発明者らは、まず、原子力プラントのステンレス鋼部材の炉水と接触する表面への放射性核種、例えば、60Coの付着を確認する試験を、2個のステンレス鋼製の試験片(ステンレス鋼試験片という)を用いて行った。これらのステンレス鋼試験片は、原子力プラントのステンレス鋼部材を模擬している。これらのステンレス鋼試験片として、表面に貴金属である白金が付着していないステンレス鋼試験片A、及び表面に白金が付着されたステンレス鋼試験片Bを用いた。
60Coの付着を確認する試験には、ステンレス鋼製配管、このステンレス鋼製配管に設けられたポンプ、そのステンレス鋼製配管の両端部が接続された容器及びこの容器に設けられたヒーターを有する実験装置が用いられた。上記したステンレス鋼試験片A及びBを吊るしてステンレス鋼製配管内に配置し、60Coを含む純水をその容器からステンレス鋼製配管に供給した。容器内の純水は、原子力発電プラントの運転時における原子炉圧力容器内の炉水を模擬するように、5ppmのNiイオン、及び0.1ppbの60Coを含んでおり、そのヒーターで加熱されて約280℃になっている。ステンレス鋼製配管に設けられたポンプの駆動によって、5ppmのNiイオン、及び0.1ppbの60Coを含んで約280℃の純水が、容器及びステンレス鋼製配管により形成される閉ループ内を循環し、ステンレス鋼製配管内に配置されたステンレス鋼試験片A及びBのそれぞれの表面に接触する。このステンレス鋼製配管を含む閉ループ内で循環されるその純水には、50ppbになるように水素が注入される。試験片A及びBは、ステンレス鋼製配管内においてその純水中に500時間浸漬される。50ppbの水素、5ppmのNiイオン及び60Coを含んで約280℃の温度の純水に浸漬された試験片A及びBは、浸漬時間が500時間に達したとき、ステンレス鋼製配管から取り出される。その後、それぞれの試験片に付着している60Coの付着量を測定した。それぞれの試験片への60Coの付着量の測定結果を図3に示す。
表面に白金が付着されたステンレス鋼試験片Bへの60Coの付着量は、表面に白金が付着していないステンレス鋼試験片Aへのその付着量よりも著しく低減される。参考に、上記の閉ループ内を循環する、Niイオンを含まないで60Coを含む約280℃の純水に表面に白金が付着していないステンレス鋼試験片Aを同じ時間浸漬させた場合における、ステンレス鋼試験片Aへの60Coの付着量を、通常水質(参考)として図3に合わせて示す。Niイオン、及び60Coを含む約280℃の純水に浸漬されたステンレス鋼試験片B及びAのそれぞれへの60Coの付着量は、Niイオンを含まないで60Coを含む約280℃の純水に浸漬されたステンレス鋼試験片Aへのその付着量よりも低減される。
発明者らは、図3に示す実験結果を踏まえ、上記閉ループ内を循環して各ステンレス鋼試験片が浸漬される、60Coを含む約280℃の純水に含まれるNiイオンの濃度を変化させ、このNiイオン濃度の変化による各ステンレス鋼試験片の60Co付着量への影響を調べた。この結果を、図4に基づいて説明する。
表面に白金が付着していないステンレス鋼試験片A及び表面に白金が付着されたステンレス鋼試験片Bのそれぞれへの60Coの付着量は、これらの試験片に接触する純水中のNiイオンの濃度が増加するに伴って減少する。特に、その純水中のNiイオン濃度が5ppb未満では60Coの付着量が急激に減少し、そのNiイオン濃度が5ppb以上になると、60Coの付着量の減少度合いが小さくなる。このため、原子力プラントの構造部材に接触する炉水中のNiイオン濃度は、5ppb以上にすることが望ましい。炉水中のNiイオンの濃度は15ppb以下にすることが好ましい。
発明者らは、図4に示すように、表面に白金が付着していないステンレス鋼試験片Aよりも表面に白金が付着されたステンレス鋼試験片Bにおいて60Coの付着量が減少する理由について検討した。
その理由を表1に基づいて説明する。ステンレス鋼試験片Aでは、表1に示すように、ステンレス鋼試験片Aの表面に形成された酸化皮膜に、Niが11.2%及びCoが1.2%含まれている。一方で、ステンレス鋼試験片Bでは、この試験片の表面に形成された酸化皮膜に、Niが18.0%及びCoが0.2%含まれている。つまり、試験片の表面に貴金属である白金が付着していることにより、CoよりもNiがその酸化皮膜に付着し易くなっている。このため、ステンレス鋼試験片Aよりも白金が付着されたステンレス鋼試験片Bにおいて60Coの付着量が減少するのである。
上記の実験はステンレス鋼試験片を用いて行ったが、炭素鋼製の試験片でも同様な結果が得られた。なお、貴金属としては、白金以外に、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム及びオスミウムのいずれかを用いてもよい。
上記の検討結果を反映した、本発明の実施例を、以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの構造部材への放射性核種付着抑制方法を、図1及び図2を用いて説明する。
まず、本実施例が適用される沸騰水型原子力発電プラント(BWRプラント)の概略構成を、図2を用いて説明する。BWRプラント30は、原子炉1、タービン9、復水器10、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉1は、炉心3を内蔵する原子炉圧力容器(RPV)2を有し、RPV2内に複数のジェットポンプ4を設置している。RPV2内に配置されてステンレス鋼製の円筒状の炉心シュラウド(図示せず)によって取り囲まれた炉心3には、多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。各ジェットポンプ4は炉心シュラウドとRPV2の間に配置される。再循環系は、ステンレス鋼製の複数の再循環系配管5、及び再循環系配管5のそれぞれに設置された再循環ポンプ6を有する。
給水系は、復水器10とRPV2を連絡する炭素鋼製の給水配管11に、復水ポンプ12、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)13、低圧給水加熱器14、給水ポンプ15及び高圧給水加熱器16を、復水器10からRPV2に向って、この順に設置して構成されている。原子炉浄化系22は、再循環系配管5と給水配管11を連絡する炭素鋼製の浄化系配管23に、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26及び浄化装置27をこの順に設置している。浄化系配管23は、再循環ポンプ6の上流で再循環系配管5に接続される。原子炉1は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器7内に設置されている。
RPV2内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ6で昇圧され、再循環系配管5を通ってジェットポンプ4内に噴射される。この噴射により、ジェットポンプ4のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ4内に吸引されて炉心3に供給される。炉心3に供給された炉水は燃料集合体の各燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、加熱された炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV2内に設けられた気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)にて水分が除去された後に、RPV2から主蒸気配管8を通ってタービン9に導かれ、タービン9を回転させる。タービン9に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。
タービン9から排出された蒸気は、復水器10で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管11を通りRPV2内に供給される。給水配管11を流れる給水は、復水ポンプ12で昇圧され、復水浄化装置13で不純物が除去され、給水ポンプ15でさらに昇圧される。給水は、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器15で加熱されてRPV2内に導かれる。抽気配管17によりタービン9から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器16にそれぞれ供給され、給水を加熱する。
再循環系配管5内を流れる炉水の一部は、浄化系配管23内に流入して浄化系ポンプ24により昇圧され、浄化系配管23を通って再生熱交換器25及び非再生熱交換器26で冷却され、浄化装置27に導かれる。炉水に含まれる60Co等の放射性核種は浄化系配管23で除去される。浄化系配管23から浄化されて排出された炉水は、再生熱交換器25で加熱され、浄化系配管23及び給水配管11を通ってRPV2に戻される。
BWRプラント30に適用される本実施例の原子力プラントの構造部材への放射性核種付着抑制方法を以下に説明する。BWRプラント30は、本実施例の原子力プラントの構造部材への放射性核種付着抑制方法を実施するために、還元剤注入装置18、ニッケル注入装置20及び貴金属注入装置28を有する。還元剤注入装置18、ニッケル注入装置20及び貴金属注入装置28は、浄化系配管23と給水配管11との接続点と高圧給水加熱器15の間で給水配管11に接続される。具体的には、還元剤注入装置18は開閉弁19を設けた注入配管31により、ニッケル注入装置20は開閉弁21を設けた注入配管32により、さらに貴金属注入装置28は開閉弁29を設けた注入配管33により、給水配管11にそれぞれ接続される。還元剤注入装置18、ニッケル注入装置20及び貴金属注入装置28は、復水浄化装置13と低圧給水加熱器14の間で給水配管11に接続してもよい。
原子炉を起動する(ステップS1)。炉心3内の燃料集合体の交換作業等により停止されていた原子炉1が起動される。再循環ポンプ6が駆動されて前述したように炉心3に冷却水が供給され、炉心3内の燃料集合体間に挿入されている複数の制御棒が徐々に引き抜かれる。制御棒の引き抜き及び炉心3に供給される冷却水流量の増大により、原子炉出力が増加し、やがて、原子炉出力が定格出力である100%出力に到達する。
還元剤を注入する(ステップS2)。原子炉出力が100%出力まで上昇した後、開閉弁19を開いて還元剤注入装置18から還元剤である、例えば、水素を、注入配管31を通して給水配管11内を流れる給水に注入する。注入された水素は、給水と共に給水配管11を通ってRPV2内に供給され、RPV2内の炉水に混合される。還元剤注入装置18から水素の注入は、炉水中の水素濃度が50ppbになるように行われる。水素注入による炉水中の水素濃度は、モル比で、炉水の放射線分解により生成される、炉水中の酸化性化学種(過酸化水素及び酸素など)の濃度の1/2である。
RPV2内の炉水は、炉心3に装荷されている燃料集合体の燃料棒に含まれる核燃料物質の核分裂によって発生する放射線が照射されて放射線分解する。この炉水の放射線分解によって炉水中に過酸化水素及び酸素などの酸化性化学種が生成される。この酸化性化学種の影響により、炉水と接触する、BWRプラント30の構造部材(例えば、再循環系配管5)の腐食電位が上昇し、ステンレス鋼製の構造部材、例えば、再循環系配管5に応力腐食割れが発生し易くなる。炉水に注入された水素は、この応力腐食割れの発生を抑制する働きがある。炉水中の注入された水素は、炉水に含まれる酸化性化学種(例えば、溶存酸素)と反応して水を生成し、炉水中の酸化性化学種の濃度を低下させる。このため、ステンレス鋼製の構造部材における応力腐食割れの発生確率が低減される。
貴金属イオンを注入する(ステップS3)。貴金属注入装置28には、貴金属である白金イオンを含む水溶液が充填されている。開閉弁29を開いて貴金属注入装置28から白金イオンを含む水溶液を、注入配管33を通して給水配管11内を流れる給水に注入する。注入された白金イオンは、給水と共に給水配管11を通ってRPV2内に供給され、RPV2内の炉水に混入される。
白金イオンを含む炉水は、再循環系ポンプ6の駆動により再循環系配管5を通ってジェットポンプ4に供給され、ジェットポンプ4から吐出されて炉水に供給される。再循環系配管5内を流れる、白金イオンを含む炉水の一部は、浄化系配管23内に流入して浄化系ポンプ24で昇圧され、炉水に含まれる60Co等の放射性核種及び白金イオンは浄化系配管23で除去される。白金イオンを含む炉水が、RPV2内の炉心シュラウドの表面、再循環系配管5及び浄化系配管23のそれぞれの内面等に接触する。このため、炉心シュラウドの表面、再循環系配管5及び浄化系配管23のそれぞれの内面等に白金イオンが吸着され、この白金イオンは炉水に含まれる還元剤である水素の作用により白金に変換される。このため、炉心シュラウド、再循環系配管5及び浄化系配管23等のBWRプラント30の構造部材の炉水と接触する表面に白金が付着される。
本実施例では、それらの構造部材の炉水と接触する表面に0.03μg/cm2の白金が付着するように、白金イオンが貴金属注入装置28から給水配管11に注入される。
ニッケルイオンを注入する(ステップS4)。ニッケル注入装置20には、ギ酸ニッケルの水溶液が充填されている。この水溶液中では、ギ酸ニッケルのニッケルはニッケルイオンになっており、ギ酸ニッケル水溶液は、Niイオンを含む水溶液である。ギ酸ニッケルの替りに炭酸ニッケルを用いてもよい。BWRプラントの構造部材の、炉水に接触する表面に白金が付着された後に、開閉弁21を開いてニッケル注入装置20からNiイオンを含む水溶液を、注入配管32を通して給水配管11内を流れる給水に注入する。注入されたNiイオンは、給水と共に給水配管11を通ってRPV2内に供給される。Niイオンを含む水溶液の注入は、炉水中のNiイオン濃度が、5ppb〜15ppbの範囲内で、例えば、10ppbになるように行われる。このNiイオンは、白金が付着した炉心シュラウド、再循環系配管5及び浄化系配管23等の、BWRプラント30の構造部材の炉水と接触する表面(白金が付着)の近傍でNiに変換され、このNiが、それらの構造部材のその表面に形成された酸化皮膜に付着し、酸化皮膜内に取り込まれる。
本実施例では、Niイオンを注入することによって炉水中のNiイオン濃度が増加し、再循環系配管5等のステンレス鋼製の、BWRプラント30の構造部材、及び炉浄化系配管23等の炭素鋼製の、BWRプラント30の構造部材のそれぞれの炉水と接触する表面への放射性核種(例えば、60Co)の付着量が減少する。特に、本実施例では、Niイオン注入前に貴金属イオン、例えば、白金イオンを炉水に注入してそれらの構造部材の炉水と接触するそれぞれの表面に白金を付着しているので、表1に示すように、それらの構造部材の炉水と接触する表面に形成される酸化皮膜に付着するNiの含有量が、放射性核種、例えば、Coよりも大きくなり、60Coの量が減少する。この結果、本実施例では、図4の横軸のNiイオン濃度10ppbにおいて○印で示されたように、構造部材の炉水と接触する表面への放射性核種、例えば、60Coの付着量が著しく低減される。
もし、貴金属イオンの注入(ステップS3)の前にNiイオンの注入(ステップS4)を実施した場合には、貴金属、例えば、白金が付着していない、構造部材の炉水と接触する表面に、Niイオンを含み白金イオンを含まない炉水が接触することになる。この場合には、酸化皮膜に取り込まれるNiの量よりも酸化皮膜に取り込まれる60Coの量が多くなる(表1参照)。すなわち、BWRプラント30の構造部材の炉水と接触する表面への60Coの付着量が増大する。
このため、ステンレス鋼製及び炭素鋼製のそれぞれの構造部材の、炉水と接触する表面への放射性核種の付着量をさらに低減するためには、Niイオンの注入(ステップS4)の前に、貴金属イオンの注入(ステップS3)のを実施し、Niイオンを含む炉水を接触させる、その構造部材の表面に貴金属、例えば、白金を予め付着させておく必要がある。
本実施例では、水素を炉水に注入するために、前述したように、水素の作用により、ステンレス鋼製及び炭素鋼製のそれぞれの構造部材の腐食電位が低下する。このように、腐食電位が低下したステンレス鋼製及び炭素鋼製のそれぞれの構造部材の、炉水と接触する表面にNiを付着させるので、それらの構造部材の炉水と接触する表面への60Co等の放射性核種の付着量がさらに低減される。
特開2007−182604号公報で提案された、BWRプラントの運転停止中における再循環系配管等の内面へのニッケルフェライト皮膜の形成では、貴金属が付着していない、構造部材の炉水と接触する表面に、Niイオンを含む水溶液を接触させている。これは、図4に示された貴金属が付着していない試験片にNiイオンを含む水溶液を接触させることと実質的に同じである。このため、白金を表面に付着させた、BWRプラント30の構造部材のその表面に、Niイオンを含む炉水を接触させる本実施例は、特開2007−182604号公報で提案された方法で構造部材の表面にニッケルフェライト皮膜を形成した場合に比べて、BWRプラントの構造部材の表面に付着する放射性核種の量をさらに低減することができる。
本実施例は、白金を表面に付着させた、BWRプラント30の構造部材のその表面に、Niイオンを含む炉水を接触させているため、特開昭58−79196号公報に記載された方法よりも、BWRプラントの構造部材の表面に付着する放射性核種の量をさらに低減することができる。
また、特開2007−182604号公報で提案された方法では、Niイオンを含む水溶液を構造部材である再循環系配管に供給する、仮設設備である皮膜形成装置を再循環系配管に接続し、ニッケルフェライト皮膜の形成後にその皮膜形成装置を再循環系配管から取り外す必要がある。本実施例では、このような仮設設備である皮膜形成装置を使用しないため、皮膜形成層落ちの接続及び取り外しを行う必要がなく、特開2007−182604号公報で提案された方法に比べて簡単にBWRプラントの構造部材の表面にNiを付着させることができる。
本発明の好適な他の実施例である実施例2の原子力プラントの構造部材への放射性核種付着抑制方法を、図5を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの構造部材への放射性核種付着抑制方法は、BWRプラントに適用される。
BWRプラント30Aに適用される本実施例の原子力プラントの構造部材への放射性核種付着抑制方法を以下に説明する。BWRプラント30Aは、前述のBWRプラント30と同様に、還元剤注入装置18、ニッケル注入装置20及び貴金属注入装置28を有する。BWRプラント30Aでは、還元剤注入装置18、ニッケル注入装置20及び貴金属注入装置28は浄化装置27よりも下流で浄化系配管23に接続されている。
本実施例の原子力プラントの構造部材への放射性核種付着抑制方法においても、実施例1と同様に、ステップS1〜S4の各工程が実施される。BWRプラント30Aが起動され(ステップS1)、還元剤注入装置18からの水素の注入(ステップS2)、貴金属注入装置28からの白金イオンの注入(ステップS3)及びニッケル注入装置20からのNiイオンの注入(ステップS4)がそれぞれ行われる。水素、白金イオン及びNiイオンのそれぞれは、浄化装置27よりも下流の位置で浄化系配管23内を流れる炉水に注入され、給水配管11を経由してRPV2内の炉水に注入される。Niイオンの浄化系配管23への注入は、水素及び白金イオンの注入が開始されてBWRプラント30Aの構造部材の炉水と接触する表面に白金が付着された後に行われる。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。