JP2016102727A - 原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法及び皮膜形成装置 - Google Patents

原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法及び皮膜形成装置 Download PDF

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秀幸 細川
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Abstract

【課題】炉水と接触する、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着をさらに低減できる原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を提供する。【解決手段】皮膜形成装置の循環配管をBWRプラントの炭素鋼部材である浄化系配管に接続するS1。浄化系配管の内面の還元除染を実施するS2。その還元除染が終了した後、循環配管に、亜鉛イオン、クロム酸イオン及びpHを増加できる還元剤(例えば、ヒドラジン)を注入するS7,S8及びS9。亜鉛イオン、クロム酸イオン及び還元剤を含み、pHが4.8〜11.4の範囲内に存在する皮膜形成水溶液を、浄化系配管に供給するS10。この皮膜形成水溶液が浄化系配管の内面に接触することによって、亜鉛クロマイト皮膜が浄化系配管の内面に形成されるS11。皮膜形成装置の循環配管を浄化系配管から取り外すS13。【選択図】図1

Description

本発明は、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法及び皮膜形成装置に係り、特に、沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法及び皮膜形成装置に関する。
原子力発電プラントとして、例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)及び加圧水型原子力発電プラント(以下、PWRプラントという)が知られている。例えば、BWRプラントは、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有し、炉心に装荷された燃料集合体に冷却水を供給する再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)を備えている。
BWRプラント及びPWRプラント等の原子力発電プラントでは、原子炉圧力容器などの主要な構成部材は、腐食を抑制するために、水が接触する部分をステンレス鋼及びニッケル基合金などで構成する。また、原子炉冷却材浄化系、余熱除去系(残留熱除去系)、原子炉隔離時冷却系、炉心スプレイ系、給水系及び復水系などの構成部材は、原子力プラントの製造所要コストを低減する観点、及び給水系及び復水系を流れる高温水に起因するステンレス鋼の応力腐食割れを避ける観点から、主として炭素鋼部材が用いられる。
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等の接水部からも発生するため、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼、ニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水(RPV内に存在する冷却水)と接触することを防いでいる。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在は避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体内の燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物に含まれる金属元素は、燃料棒内の核燃料から放出される中性子の照射により原子核反応を起こし、コバルト60、コバルト58、クロム51、マンガン54等の放射性核種になる。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままであるが、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水中の放射性物質は、原子炉浄化系によって取り除かれる。しかしながら、除去されなかった放射性物質は炉水とともに再循環系などを循環している間に、構成部材の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
そこで、配管への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、亜鉛などの金属イオンを炉水に注入して、炉水と接触する再循環系配管内面に亜鉛を含む緻密な酸化皮膜を形成させることにより、酸化皮膜中へのコバルト60及びコバルト58等の放射性核種の取り込みを抑制する方法が提案されている(特開昭58−79196号公報参照)。
また、一度、RPVに連絡される配管の内面に形成された酸化皮膜に取り込まれたコバルト60及びコバルト58等の放射性核種を、化学薬品を用いて配管内面から溶解して除去する化学除染法が提案されている(特開平11−344597)。
さらに、化学除染後の原子力プラント構成部材の炉水と接触する表面にフェライト皮膜であるマグネタイト皮膜を形成することによって、原子力プラントの運転後においてその構成部材の表面に放射性核種を付着することを抑制する方法が、特開2006−38483号公報及び特開2007−192745号公報に提案されている。この方法は、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液、過酸化水素及びヒドラジンを含み、常温から100℃の範囲に加熱された処理液を、その構成部材の表面に接触させてその表面にフェライト皮膜を形成するものである。さらに、マグネタイト皮膜よりも安定なニッケルフェライト皮膜もしくは亜鉛フェライト皮膜を原子力プラント構成部材の表面に形成し、原子力プラントの運転後においてその構成部材の表面に放射性核種が付着することをさらに抑制する方法が提案されている。
炭素鋼部材の表面に放射性核種が付着することを抑制する方法としては、アルカリ水を注入して、炭素鋼部材である炭素鋼製の配管に接する炉水温度を250℃以上に100時間以上保持して、その配管の内面に酸化皮膜を形成する方法が提案されている(特開平9−166694号公報参照)。
また、特開2001−91688号公報は、原子力発電プラントの構造部材の応力腐食割れの発生、及び応力腐食割れによるき裂進展のそれぞれを抑制し、構造部材の健全性を維持するために、亜鉛クロマイと及びクロム酸化物が混在する亜鉛及びクロムの複合酸化物皮膜を、構造部材の、炉水と接触する表面に形成することを記載している。
特開2000−105295号公報は、運転を経験した原子力プラントの配管の内面に対して化学除染を実施することを記載する。この化学除染では、過マンガン酸カリウム水溶液(酸化除染液)を用いる酸化除染及びヒドラジンを含むシュウ酸水溶液(還元除染液)を用いる還元除染が実施される。
特開昭58−79196号公報 特開平11−344597号公報 特開2006−38483号公報 特開2007−192745号公報 特開平9−166694号公報 特開2001−91688号公報 特開2000−105295号公報
特開昭58−79196号公報に記載されたように、原子炉圧力容器内に存在する炉水に亜鉛を注入することによって、亜鉛を含む炉水が再循環系配管等のステンレス鋼製配管の内面に接触することによって、炉水に含まれている放射性核種(例えば、Co―60)ステンレス鋼製の配管の内面への付着が抑制される。この結果、原子炉圧力容器に接続されたステンレス鋼製の配管の表面線量率が低下し、このステンレス鋼製配管の周囲で保守点検を行う従事者の被ばく線量が低減される。
しかしながら、亜鉛などの金属イオンを炉水中に注入する場合では、原子炉圧力容器に連絡される炭素鋼製配管(例えば、原子炉浄化系及び残留熱除去系等の各配管)の内面への放射性核種の付着抑制効果は、ステンレス鋼製配管の内面へのその付着抑制効果よりも低減される。このため、原子炉圧力容器に連絡される炭素鋼製配管、すなわち、原子力発電プラントの、炉水と接触する炭素鋼製部材への放射性核種の付着をさらに抑制することが望まれる。
特開2001−91688号公報は構造部材の表面に亜鉛クロマイと及びクロム酸化物が混在する亜鉛及びクロムの複合酸化物皮膜を形成することを記載しているが、この亜鉛クロマイと及びクロム酸化物が混在する亜鉛及びクロムの複合酸化物皮膜の形成は構造部材の応力腐食割れの発生及び応力腐食割れによるき裂進展を抑制するためである。応力腐食割れは、炭素鋼製の構造部材ではなく、炉水と接触するステンレス鋼製の構造部材で発生する。このため、特開2001−91688号公報においてその複合酸化物皮膜を形成する構造部材はステンレス鋼製の構造部材であり、特開2001−91688号公報は、炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制について言及していない。
本発明の目的は、炉水と接触する、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着をさらに低減することができる原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法及び皮膜形成装置を提供することにある。
上記した目的を達成する本発明の特徴は、クロム酸イオン、亜鉛イオン及び還元剤を含む皮膜形成液を原子力プラントの炭素鋼部材の表面に接触させ、
その皮膜形成液が接触する、炭素鋼部材の表面に、亜鉛クロマイト(ZnCr24)の皮膜を形成し、
炭素鋼部材表面への皮膜形成液の接触、及び炭素鋼部材の表面への亜鉛クロマイト皮膜の形成のそれぞれは、原子力プラントが運転されていないときに行われることにある。
原子力プラントが運転されていないときに、クロム酸イオン、亜鉛イオン及び還元剤を含む皮膜形成液を原子力プラントの炭素鋼部材の表面に接触させることにより、原子力プラントが運転されていないときに炭素鋼部材の表面に亜鉛クロマイト(ZnCr24)皮膜を形成することができる。このため、次の運転サイクルで原子力プラントの運転を行うために、原子力プラントの起動を開始した直後から炭素鋼部材の表面への放射性核種の付着をさらに抑制することができる。また、皮膜形成液に含まれる還元剤の作用によって、皮膜形成液に接触する、炭素鋼部材の表面の電位が低下されるため、その表面への亜鉛クロマイト皮膜の付着が容易に行われ、亜鉛クロマイト皮膜が炭素鋼部材の表面に効率良く形成される。この結果、亜鉛クロマイト皮膜によるその表面への放射性核種の付着をさらに抑制することができる。
好ましくは、炭素鋼部材の表面に接触される皮膜形成液のpHが4.8〜11.4の範囲内に存在することが望ましい。
さらに好ましくは、還元剤として皮膜形成液のpHを増加する還元剤を用いることが望ましい。
本発明によれば、炉水と接触する、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着をさらに低減することができる。
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 図1に示す原子力原子力プラントにおける炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置を沸騰水型原子力発電プラントの原子炉浄化系の浄化系配管に接続した状態を示す説明図である。 図2に示す皮膜形成装置の詳細構成図である。 炭素鋼試験片表面におけるFeに対するCrの割合の変化によるその表面へのCo−60の付着量を示す説明図である。 表面におけるFeに対するCrの割合が19%及び22%であるそれぞれの炭素鋼試験片の、Co−60付着試験後に形成された酸化皮膜のレーザーラマンスペクトル分析結果を示す説明図である。 Crを中心に見た場合における90℃でのCr−Zn−HO系の電位−pH図である。 Znを中心に見た場合における90℃でのCr−Zn−HO系の電位−pH図である。 本発明の好適な他の実施例である実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 図1に示す原子力原子力プラントにおける炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置の構成図である。 本発明の好適な他の実施例である実施例3の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 図10に示す原子力原子力プラントにおける炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置を沸騰水型原子力発電プラントの再循環系配管及び原子炉浄化系の浄化系配管に接続した状態を示す説明図である。 本発明の好適な他の実施例である実施例4の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 本発明の好適な他の実施例である実施例5の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 図13に示す原子力原子力プラントにおける炭素鋼部材へのフェライト皮膜形成方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置の構成図である。 本発明の好適な他の実施例である実施例6の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。 本発明の他の好適な実施例である実施例7の原子力原子力プラントにおける炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置を沸騰水型原子力発電プラントの残留熱除去系の残留熱除去系配管に接続した状態を示す説明図である。
原子力プラントを対象にした、亜鉛を炉水に注入する放射性核種付着抑制方法では、ステンレス鋼製の構造部材の炉水と接触する表面に亜鉛を含む酸化皮膜を形成することによってその構造部材の腐食を抑制し、その構造部材への放射性核種の付着を抑制している。しかしながら、炉水への亜鉛注入による構造部材への放射性核種の付着抑制効果は、前述したように、ステンレス鋼製の構造部材よりも、炭素鋼製の構造部材(以下、炭素鋼部材という)で低下する。
そこで、発明者らは、炭素鋼部材の水の接する表面への放射性核種の付着を抑制するために種々の検討を行った。
発明者らは、原子力プラントの運転条件を模擬した水質環境下での原子力プラントの構造部材(炉水と接触する構造部材)への放射性核種、例えば、Co−60の付着に及ぼす炉水の水質及び構造部材の材料の影響を調べた。その結果、構造部材の表面へのCo−60の付着は、構造部材の表面に形成される酸化皮膜にCo−60が取り込まれることによって生じることが分かり、発明者らは、酸化皮膜へのCo−60の取り込みを抑制するためには酸化皮膜形成の元になる構造部材の腐食を抑制すれば良いとの結論に達した。
発明者らは、このような考察に基づき、原子力プラントの運転条件における炭素鋼部材へのCo−60の付着を抑制する方法を検討した。この検討結果を以下に説明する。
発明者らは、まず、原子力プラントの炭素鋼部材の炉水と接触する表面への放射性核種、例えば、Co−60の付着を確認する試験を、4個の炭素鋼製の試験片(以下、炭素鋼試験片という)を用いて行った。これらの炭素鋼試験片は、原子力プラントの炭素鋼部材を模擬している。これらの炭素鋼試験片として、試験片の母材に含まれるFeとCrの合金皮膜が表面に形成されていない炭素鋼試験片A(表面のCrは0%)、及び試験片の母材に含まれるFeとCrの合金皮膜が表面に形成された炭素鋼試験片B,C及びDを用いた。試験片Bは、炭素鋼試験片の表面のFeに対してCrを16%含むFeとCrの合金皮膜を表面に形成している。試験片Cは、炭素鋼試験片の表面のFeに対してCrを19%含むFeとCrの合金皮膜を表面に形成している。試験片Dは、炭素鋼試験片の表面のFeに対してCrを22%含むFeとCrの合金皮膜を表面に形成している。
Co−60の付着を確認する試験には、ステンレス鋼製配管、このステンレス鋼製配管に設けられたポンプ、そのステンレス鋼製配管の両端部が接続された容器及びこの容器に設けられたヒーターを有する実験装置が用いられた。上記した試験片A,B、C及びDを吊るしてステンレス鋼製配管内に配置し、亜鉛を含む純水をその容器からステンレス鋼製配管に供給した。容器内の純水は、原子力発電プラントの運転時における原子炉圧力容器内の炉水を模擬するように、5ppbの亜鉛を含んでおり、そのヒーターで加熱されて約280℃になっている。ステンレス鋼製配管に設けられたポンプの駆動によって、5ppbの亜鉛を含んで約280℃の温度の純水が、容器及びステンレス鋼製配管により形成される閉ループ内を循環し、ステンレス鋼製配管内に配置された試験片A,B、C及びDのそれぞれの表面に接触する。試験片A,B、C及びDは、ステンレス鋼製配管内においてその純水中に500時間浸漬される。5ppbの亜鉛を含んで約280℃の温度の純水に浸漬された試験片A,B、C及びDは、浸漬時間が500時間に達したとき、ステンレス鋼製配管から取り出される。その後、それぞれの試験片に付着しているCo−60の付着量を測定した。Co−60の付着量の測定結果を図4に示す。
図4から明らかなように、FeとCrの合金皮膜が表面に形成されている炭素鋼試験片A,B、C及びDでは、FeとCrの合金皮膜が表面に形成されていない炭素鋼試験片Aに比べてCo−60付着量が低下している。特に、試験片A,B、C及びDのうちでも、表面のFeに対してCrを22%含むFeとCrの合金皮膜を表面に形成している試験片Dは、Co―60付着量を大幅に低下させている。
そこで、Co―60の付着試験後に、試験片B及びDのそれぞれの表面をラマン分光によって分析した。この分析結果を図5に示す。Co−60の付着量が大幅に低減された、表面のFeに対してCrを22%含むFeとCrの合金皮膜を表面に形成する試験片Dでは、ZnCr24(亜鉛クロマイト)及びNiFe24(ニッケルフェライト)の2成分を主に含む酸化皮膜がその表面に形成されていた。その酸化皮膜に含まれるZnCr24及びNiFe24のそれぞれの割合は、ZnCr24がNiFe24に比べて圧倒的に多くなっている。これに対し、Co−60付着の抑制効果が小さい、表面のFeに対して22%未満のCrを含むFeとCrの合金皮膜を表面に形成する試験片、例えば、試験片Bでは、NiFe24を含む酸化皮膜が形成されていた。試験片Bに形成されたその酸化皮膜はZnCr24を含んでいない。
この結果、発明者らは、表面のFeに対して22%以上のCrを含むFeとCrの合金皮膜を表面に形成する試験片Dでは、その合金皮膜上に形成される酸化皮膜の表面にZnCr24が主に形成され、Co―60の付着量が抑制されたと考えた。
ZnCr24皮膜の形成には、Zn2+及びCr3+が必要になる。そこで、発明者らは、図6及び図7にそれぞれ示された、Cr及びZnのそれぞれの電位−pH図を基に、炭素鋼部材の表面へのZnCr24皮膜の形成について検討した。図7に示すように、Zn2+の領域はZnCr24の領域と直接隣り合っているため、Zn2+を添加して生成した皮膜形成液のpHを増加させることにより、炭素鋼部材の表面に付着したZn2+をZnCr24に変えることができる。一方、図6に示すように、Cr3+の領域とZnCr24の領域の間にCrO(OH)の領域が存在するため、Cr3+を添加して生成した皮膜形成液を炭素鋼部材の表面に接触させた場合には、CrO(OH)がZnCr24よりも先に炭素鋼部材の表面に析出する可能性がある。このため、発明者らは、Cr3+の代わりにHCrO4 -を添加して生成した皮膜形成液を用いてこの皮膜形成液が接触する炭素鋼部材の表面の電位を下げて同時に皮膜形成液のpHを増加させる方法を考えた。電位を下げるためには皮膜形成液に還元剤を添加する必要があり、還元作用及びアルカリ化の作用(pHの増加)を同時に達成するためには、還元剤としてpHを調節できる還元剤、例えば、ヒドラジン(N24)を用いることが好ましい。N24を使用すれば、図6及び図7のそれぞれにおいて矢印で示したように、電位及びpHを調節することができ、炭素鋼部材表面でのZnCr24皮膜の生成が容易になる。
Zn2+、HCrO4 -及びN24を用いたZnCr24の生成反応は、例えば、(1)式のように表わされる。
Zn2++2HCrO4 -+2H24 → ZnCr24+2N2+4H2O+H2 …(1)
(1)式の反応は、Zn2+とHCrO4 -が化学量論比で存在する場合に収支が成立する。この反応では、Zn2+が不足する場合には、HCrO4 -だけが還元されてCrO(OH)が析出される。CrO(OH)が原子力発電プラントの運転時において高温の炉水に晒された場合には、CrO(OH)は脱水してCr23を生成する。その際、Cr23は炉水に含まれるCo−60を取り込むことによりCoCr24を生成する。また、一旦生成されたCr23も、原子力発電プラントの運転時における水素が注入された、CoCr24が安定になる炉水の還元環境において、Co−60を取り込んでしまう可能性がある。そこで、ZnCr24を形成させる際には、CrO(OH)の形成、及びCrO(OH)を経由したCr23の形成が起こらないように、HCrO4 -がZn2+に対して化学量論比で不足しないようにする必要がある。
ヒドラジン以外の還元剤としてヒドロキシルアミン、尿素または水素化ホウ素ナトリウムを用いてもよい。なお、ヒドロキシルアミン及び尿素は、ヒドラジンと同様に、pHを増加する還元剤である。水素化ホウ素ナトリウムは、pHを増加すること、すなわち、pHを調節することができない。皮膜形成液のpHを調節するpH調整剤としてヒドラジン以外にアンモニアを用いてもよい。なお、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン及び尿素は触媒及び酸化剤を用いて分解することができるが、水素化ホウ素ナトリウム及びアンモニアはそれらによっては分解できない。
ZnCr24の形成自体は上記した方法で可能である。しかし、この方法を供用中の原子力プラントに適用した場合には、炭素鋼部材の、炉水に接触している表面に、既に、放射性核種を含む酸化皮膜が形成されているため、この酸化皮膜の上にZnCr24の皮膜が形成されてしまう。このため、炭素鋼部材の表面に既に存在する酸化皮膜に取り込まれたCo−60による線量を、この酸化皮膜上に形成されたZnCr24皮膜によって抑制できないため、新たなCo−60の付着が少ない場合においても、線量の抑制効果は小さくなる。このような課題を改善するためには、炭素鋼部材表面へのZnCr24皮膜の形成は、原子力プラントで一般的に行われている化学除染を炭素鋼部材に対して実施した後で、この化学除染に引き続いて行われることが望ましい。具体的には、炭素鋼部材表面へのZnCr24皮膜の形成は、化学除染工程の終了時点から原子力プラントの起動までの期間内に行われることが望ましい。
以上に述べた検討結果を反映した本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図1、図2及び図3を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法は、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントいう)の原子炉浄化系の浄化系配管に適用される。
BWRプラントは、原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉1は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器11内に設置される。原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)12を有し、RPV12内にジェットポンプ14を設置している。炉心13に装荷された多数の燃料集合体(図示せず)は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。炉心13は、原子炉圧力容器12内に配置された円筒状のステンレス鋼製の炉心シュラウド(図示せず)によって取り囲まれる。再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管17、及び再循環系配管17に設置された再循環ポンプ16を有する。再循環系配管17の一端は、RPV12に接続されて、RPV12と炉心シュラウドの間に形成される環状の冷却水通路であるダウンカマに連絡される。再循環系配管17の他端は、ダウンカマ内に配置されるジェットポンプ14のノズル(図示せず)に連絡される。
給水系では、復水ポンプ5、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)6、低圧給水加熱器8、給水ポンプ7及び高圧給水加熱器9が、復水器4からRPV12に向って、この順に復水器4とRPV12を連絡する炭素鋼製の給水配管10に設置される。原子炉浄化系では、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27がこの順に再循環系配管17と給水配管10を連絡する炭素鋼製の浄化系配管20に設置される。浄化系配管20において、図2に示すように、開閉弁23が浄化系ポンプ20と再循環系配管17の間に設けられ、開閉弁21が浄化系ポンプ24と再生熱交換器25の間に設けられ、及び開閉弁22が再生熱交換器25と非再生熱交換器26の間に設けられる。浄化系配管20は、再循環ポンプ16の上流で再循環系配管17に接続される。
RPV12内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ16で昇圧され、再循環系配管17を通ってジェットポンプ14内に噴出される。ジェットポンプ14のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ14内に吸引されて炉心13に供給される。炉心13に供給された炉水は燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、この炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧される。給水は、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱されてRPV12内に導かれる。抽気配管15でタービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
再循環系配管17内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって原子炉浄化系の浄化系配管20内に流入し、再生熱交換器25及び非再生熱交換器26で冷却された後、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された炉水は、再生熱交換器25で加熱されて浄化系配管20及び給水配管10を経てRPV12内に戻される。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法に適用される皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。
皮膜形成装置30は、サージタンク31、循環ポンプ32,58、循環配管35、エゼクタ37、亜鉛イオン注入装置38、クロム酸イオン注入装置43、還元剤注入装置48、酸化剤注入装置53、加熱器60、冷却装置61、陽イオン交換樹脂塔62、混床樹脂塔63及び分解装置64を備えている。
開閉弁65、循環ポンプ58、弁66,67,68及び69、サージタンク31、循環ポンプ32、弁33及び開閉弁34が、上流よりこの順に循環配管35に設けられている。加熱器60は、サージタンク31内に配置されてサージタンク31に取り付けられる。弁71及びフィルタ59が、弁66をバイパスして循環配管35に両端部が接続される配管70に設置される。冷却器61及び弁73が、両端部が循環配管35に接続されて弁67をバイパスする配管72に設置される。両端が循環配管35に接続されて弁68をバイパスする配管74に、陽イオン交換樹脂塔62及び弁75が設置される。両端部が配管74に接続されて陽イオン交換樹脂塔62及び弁75をバイパスする配管76に、混床樹脂塔63及び弁77が設置される。陽イオン交換樹脂が陽イオン交換樹脂塔62に充填され、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂が混床樹脂塔63に充填されている。
分解装置64及び弁79が設置される配管78が、弁69をバイパスして循環配管35に接続される。分解装置64は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。サージタンク31が弁69と循環ポンプ32の間で循環配管35に設置される。弁36及びエゼクタ37が設けられた配管80が、循環ポンプ32と弁33の間で循環配管35に接続され、さらに、サージタンク31に接続される。浄化系配管20の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ37に設けられている。
亜鉛イオン注入装置38が、薬液タンク39、注入ポンプ40及び注入配管42を有する。薬液タンク39は、注入ポンプ40及び弁41を有する注入配管42によって、接続点81で循環配管35に接続される。ギ酸亜鉛水溶液が薬液タンク39に充填される。
クロム酸イオン注入装置43が、薬液タンク44、注入ポンプ45及び注入配管47を有する。薬液タンク44は、注入ポンプ45及び弁46を有する注入配管47によって接続点82で循環配管35に接続される。薬液タンク39には、クロム酸(CrO3)を水に溶解して調製したクロム酸水溶液が充填されている。
還元剤注入装置48が、薬液タンク49、注入ポンプ50及び注入配管52を有する。薬液タンク49は、注入ポンプ50及び弁51を有する注入配管52によって、接続点81と接続点82の間に位置する接続点83で循環配管35に接続される。薬液タンク49には還元剤であるヒドラジンの水溶液が充填されている。
酸化剤注入装置53が、薬液タンク54、注入ポンプ55及び注入配管57を有する。薬液タンク54は、注入ポンプ55及び弁56を設けた注入配管57によって、弁33と接続点87の間に位置する接続点93で循環配管35に接続される。薬液タンク54には酸化剤である過酸化水素が充填される。酸化剤としては、オゾンを溶解した水を用いてもよい。弁92を有する注入配管91が、注入ポンプ55と弁56の間で注入配管57に接続され、さらに、分解装置64よりも上流で配管78に接続される。
pH計84が、接続点81と開閉弁34の間で循環配管35に設置されている。
皮膜形成装置30を用いた本実施例の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図1を用いて詳細に説明する。本実施例の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法において、皮膜形成装置30は、皮膜形成対象物である炭素鋼配管系の内面へのZnCr24皮膜の形成だけでなく、この皮膜形成前におけるその内面の還元除染にも使用される。
まず、皮膜形成装置を皮膜形成対象物である炭素鋼配管系に接続する(ステップS1)。或る一つの運転サイクルでのBWRプラントの運転が炉心内の燃料集合体の交換のために停止された後のBWRプラントの運転停止期間において、仮設設備である皮膜形成装置30の循環配管35の両端部が、皮膜形成対象物の炭素鋼配管系である炭素鋼製の浄化系配管(原子力プラントの構成部材である炭素鋼部材)20に接続される。すなわち、BWRプラントの運転停止後に、例えば、浄化系配管20に設けられた開閉弁23のボンネットを開放してこのボンネットの浄化系ポンプ24側を封鎖すると共に、開閉弁23のフランジを用いて皮膜形成装置30の循環配管35の一端を、浄化系ポンプ24と再循環系配管17の間で浄化系配管20に接続する。さらに、浄化系配管20に設けられた開閉弁22のボンネットを開放し、このボンネットの非再生熱交換器26側を封鎖する。開閉弁22のフランジを用いて皮膜形成装置30の循環配管35の他端を、再生熱交換器25と非再生熱交換器26の間で浄化系配管20に接続する。循環配管35の両端が浄化系配管20に接続され、浄化系配管20及び循環配管35を含む閉ループが形成される。
皮膜形成対象物に対する還元除染を実施する(ステップS2)。運転を経験したBWRプラントの浄化系配管20の内面には、放射性核種を含む鉄酸化物の皮膜が形成されている。このため、放射性核種を含んでいる鉄酸化物の皮膜を除去して浄化系配管20の表面線量率を下げるとともに、ZnCr24皮膜の浄化系配管20の内面への密着性を向上させるために、浄化系配管20の内面に対して還元除染を実施する。炭素鋼製の浄化系配管20の内面にはクロム酸化物の皮膜が形成されていないので、ステップS2では、鉄酸化物の皮膜を除去する、特開2000−105295号公報に記載された化学除染の一種である還元除染が実施される。本実施例のステップS2では、過マンガン酸カリウム水溶液を用いた酸化除染は実施されない。
その還元除染について簡単に説明する。皮膜形成装置30において、開閉弁65、弁66,67,68,69及び33、及び開閉弁34をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ32及び58を駆動する。サージタンク31内の水が、循環配管35及び浄化系配管20を含む閉ループで循環される。加熱器60により循環する水を加熱し、この水の温度が90℃になったときに弁36を開く。エゼクタ37に連絡されているホッパ(図示せず)から供給される所定量のシュウ酸(還元除染剤)が、エゼクタ37から配管80内に流入し、配管80内を流れる水によりサージタンク31に導かる。サージタンク31では、このシュウ酸が水に溶解され、シュウ酸水溶液(還元除染液)が生成される。循環ポンプ32により昇圧された90℃のシュウ酸水溶液が、循環配管35を通って浄化系配管20に供給される。このシュウ酸水溶液が浄化系配管20に供給される前に、還元剤注入装置48の薬液タンク49内のヒドラジン水溶液が注入配管52を通して循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液に注入され、このシュウ酸水溶液のpHが2.5に調節される。注入されるヒドラジン水溶液に含まれるヒドラジンは、このとき、還元剤ではなくpH調整剤として作用し、シュウ酸水溶液のpHを調節する。薬液タンク49から注入されるヒドラジン水溶液の量は、pH計84で測定されたpHが2.5になるように注入ポンプ50の回転速度(または弁51の開度)を制御することにより調節される。
pHが2.5で90℃のシュウ酸水溶液は、浄化系配管20の還元除染対象個所の内面に接触してこの内面に形成されている鉄酸化物の皮膜を溶解し、鉄酸化物の皮膜を浄化系配管20の内面から除去する。浄化系配管20内のシュウ酸水溶液は、浄化系配管20から循環配管35に戻され、循環配管35及び浄化系配管20を含む閉ループ内を循環しながら浄化系配管20の内面に対する還元除染を実施する。
還元除染により、浄化系配管20内面の鉄酸化物の溶解が進むと、シュウ酸水溶液における放射性核種及び鉄のそれぞれの陽イオン濃度が上昇する。これらのイオン濃度を低減するために、浄化系配管20から循環配管35に戻されたシュウ酸水溶液は、弁75を開いて弁68を閉じることによって、陽イオン交換樹脂塔62に供給される。シュウ酸水溶液に含まれたそれぞれの陽イオンが、陽イオン交換樹脂塔62内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。
シュウ酸水溶液を用いて浄化系配管20を還元除染するとき、浄化系配管20の内面に存在する鉄酸化物皮膜上に難溶解性のシュウ酸鉄(III)が形成されると、シュウ酸によるその鉄酸化物皮膜の溶解が抑制される。このため、弁68を開いて弁75を閉じてシュウ酸水溶液の陽イオン交換樹脂塔62への供給を停止する。その後、弁92を閉じた状態で弁56を開き、注入ポンプ55を駆動することにより、薬液タンク54内の過酸化水素が、注入配管57を通して循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液に注入される。過酸化水素を含み、pHが2.5で90℃のシュウ酸水溶液が、循環配管35を通して浄化系配管20に導かれる。このため、浄化系配管20の内面に形成された鉄酸化物皮膜上に形成されたシュウ酸鉄(III)に含まれるFe(II)が、過酸化水素の作用によってFe(III)に酸化され、(2)式の反応によって生成されたシュウ酸鉄(III)錯体がシュウ酸水溶液に溶解する。
2Fe(COO)2+H22+2(COOH)2 → 2Fe[(COO)2]2 -+2H2O+2H+ …(2)
浄化系配管20の内面のシュウ酸鉄(III)が過酸化水素によって溶解されてシュウ酸水溶液に注入した過酸化水素が反応によって消失したことを確認した後、シュウ酸水溶液による浄化系配管20内面の鉄酸化物皮膜の除去、及び弁75を開いて弁68を閉じ、陽イオン交換樹脂塔62による放射性核種及び鉄のそれぞれの陽イオンの除去が実施される。なお、循環配管35に戻されたシュウ酸溶液内の過酸化水素の消失は、以下のようにして確認される。戻されたシュウ酸溶液を循環配管35からサンプリングし、過酸化水素と反応する試験紙を、サンプリングしたシュウ酸水溶液に、所定時間の間、浸漬させる。この試験紙を見ることによって、シュウ酸溶液に含まれた過酸化水素の消失を確認できる。
還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する(ステップS3)。浄化系配管20の還元除染対象個所における線量率が設定線量率まで低下したとき(還元除染対象個所の放射線検出によって確認)、または還元除染時間が所定の時間に達したとき、浄化系配管20の還元除染に用いたシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンの分解を開始する。弁68を開いて弁75を閉じて陽イオン交換樹脂塔62へのシュウ酸水溶液の供給を停止し、さらに、弁79を開いて弁69の開度を一部閉じて循環配管35を流れるシュウ酸水溶液の一部を、配管78を通して分解装置64に供給する。弁56を閉じた状態で弁92を開き、注入ポンプ55を駆動する。薬液タンク54内の過酸化水素が、注入配管91及び配管78を介して分解装置64に導かれる。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンが、分解装置64内において、活性炭触媒に含まれるルテニウム、及びその過酸化水素の作用により分解される。ルテニウムの作用により、シュウ酸は(3)式に示すように過酸化水素と反応して二酸化炭素及び水に分解され、ヒドラジンは(4)式に示すように過酸化水素と反応して窒素及び水に分解される。
(COOH)2+H22 → 2CO2+2H2O …(3)
24+2H22 → N2+4H2O …(4)
分解装置64に供給された過酸化水素が(3)式及び(4)式の反応によって完全に消費されて分解装置64から循環配管35に過酸化水素が流出しないように、薬液タンク54から分解装置64への過酸化水素の供給量が、注入ポンプ55(または弁92)によって調節される。
炭素鋼配管系の内面からシュウ酸鉄を除去する(ステップS4)。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンの分解工程においても、シュウ酸水溶液にシュウ酸が存在する場合には、浄化系配管20の内面にシュウ酸鉄(III)が析出する可能性がある。そこで、シュウ酸の分解が或る程度進んだとき、前述の還元除染工程と同様に、過酸化水素を、注入配管57を通して循環配管35内のシュウ酸水溶液に注入する。過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が浄化系配管20内に流入すると、浄化系配管20の内面に析出したシュウ酸鉄(III)が、前述したように、浄化系配管20の内面から除去される。シュウ酸鉄(III)を除去するためにシュウ酸水溶液(還元除染液)に注入する酸化剤としては、過酸化水素以外に、オゾンまたは酸素を用いてもよい。
ステップS4において薬液タンク54から循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液に過酸化水素を注入する際には、弁68を開いて弁75を閉じて陽イオン交換樹脂塔62へのシュウ酸水溶液の供給を停止する。これは、シュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素により、陽イオン交換樹脂塔62内の陽イオン交換樹脂が劣化することを防ぐためである。
水酸化鉄の析出を抑制する(ステップS5)。シュウ酸の分解が進んでいるため、過酸化水素の酸化作用によってシュウ酸鉄(III)に含まれるFe(II)が酸化されて生成されたFe(III)を溶解状態に維持する、シュウ酸水溶液内のシュウ酸が不足し、Fe(OH)3が炭素鋼部材である浄化系配管20の内面に析出する可能性がある。Fe(OH)3の浄化系配管20内面への析出は、後述する循環配管35への亜鉛イオン及びクロム酸イオンの注入による浄化系配管20の内面へのZnCr24皮膜の形成を阻害する要因となる。このため、Fe(OH)3の浄化系配管20内面への析出を抑制するために、ギ酸が、例えば、ホッパ(図示せず)からエゼクタ37を通して配管80内に注入される。このギ酸は、配管80内を流れるシュウ酸溶液と共にサージタンク31に導かれる。過酸化水素、ヒドラジン及びギ酸を含んで90℃のシュウ酸水溶液が、循環配管35を通して浄化系配管20内に供給される。このシュウ酸水溶液に含まれているギ酸の作用により、Fe(OH)3の析出が抑制される。水酸化鉄の析出抑制のために用いる薬剤としてギ酸以外に酢酸またはマロン酸を用いてもよい。ギ酸は酸化剤が供給される分解装置64内で分解されるが、酢酸及びマロン酸は、分解装置64で分解することができなく、実施例5で用いられる水素化ホウ素ナトリウム(還元剤)及びアンモニア(pH調整剤)と同様に、陽イオン交換樹脂塔62または混床樹脂塔63で除去される。
過酸化水素の注入によるシュウ酸鉄(III)の除去(ステップS4)及びギ酸の注入による水酸化鉄の析出抑制(ステップS5)の各工程は、シュウ酸水溶液、すなわち還元除染液に含まれるシュウ酸(還元除染剤)の一部が分解された状態で行われる。
ステップS4及びS5のそれぞれの工程を実施している間、浄化系配管20から循環配管に戻されたシュウ酸水溶液は分解装置64に供給され、このシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸、ヒドラジン及びギ酸の分解が、配管91を通して過酸化水素が供給される分解装置64内で継続される。循環配管に戻されたシュウ酸水溶液は注水配管57を通して注入される過酸化水素を含んでいるので、その分、弁92の開度を調節して、配管91を通して分解装置64に供給される過酸化水素の量を減少させる。
シュウ酸及びヒドラジンの分解を終了する(ステップS6)。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸、ヒドラジン及びギ酸の分解工程を終了するために、弁56を閉じて薬液タンク54から循環配管35への過酸化水素の注入を停止し、エゼクタ37から配管80へのギ酸の注入も停止する。過酸化水素及びギ酸の注入停止により、循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液の過酸化水素及びギ酸のそれぞれの濃度が低下する。循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液の過酸化水素濃度が1ppm以下になったとき、弁75を開いて弁68を閉じ、シュウ酸水溶液を陽イオン交換樹脂塔62に供給する。シュウ酸水溶液に含まれる放射性核種及び鉄などの陽イオンが陽イオン交換樹脂塔62によって除去される。
陽イオン交換樹脂塔62から排出されたシュウ酸水溶液が分解装置64に供給される。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸、ヒドラジン及びギ酸の分解が、過酸化水素が供給される分解装置64内で行われる。分解の容易さから、シュウ酸水溶液に含まれるヒドラジンの分解が先に終了し、次に、シュウ酸の分解が終了する。シュウ酸及びヒドラジンの分解が終了したとき、極少量(約10ppm)のギ酸が残っている状態で、シュウ酸及びヒドラジンの分解が終了する。
シュウ酸及びヒドラジンの分解終了後、弁68及び69を開いて弁75,79及び92を閉じる。このとき、極めて低い濃度(約10ppm)のギ酸を含む水溶液、実質的な水が循環配管35及び浄化系配管20内に存在する。10ppmのギ酸が残留するこの水は、サージタンク31内で加熱器60によって加熱されて90℃の水になる。循環ポンプ32,58の駆動により、90℃の水が、循環配管35及び浄化系配管20を含む閉ループ内を循環する。
亜鉛イオンを注入する(ステップS7)。弁41を開いて注入ポンプ40を駆動する。薬液タンク39内のギ酸亜鉛水溶液が、注入配管42を通って循環配管35内を流れる90℃の皮膜形成水溶液(シュウ酸及びヒドラジンの分解が終了した後の期間の初期においては、実質的に90℃の水)に注入される。注入ポンプ40の回転速度(または弁41の開度)を制御し、循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液(皮膜形成液)の亜鉛濃度が150ppmになるように、循環配管35内に注入するギ酸亜鉛水溶液の注入量を調節する。薬液タンク39に充填された、Zn2+を含むギ酸亜鉛水溶液の亜鉛濃度は、循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液の亜鉛濃度(150ppm)よりも高い。
クロム酸イオンを注入する(ステップS8)。弁46を開いて注入ポンプ45を駆動する。薬液タンク44内のクロム酸水溶液が、注入配管47を通って循環配管35内を流れる90℃の皮膜形成水溶液(上記の分解終了後の初期においては、実質的に90℃の水)に注入される。クロム酸水溶液はクロム酸イオン(HCrO -)を含んでいる。注入ポンプ45の回転速度(または弁46の開度)を制御し、循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液のクロム濃度が200ppmになるように、循環配管35内に注入するクロム酸水溶液の注入量を調節する。薬液タンク44に充填されたクロム酸水溶液のクロム濃度は、循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液のクロム濃度(200ppm)よりも高い。
循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液に含まれる亜鉛に対するその皮膜形成水溶液に含まれるクロムのモル比(Cr/Zn)は2を下回り、皮膜形成水溶液は浄化系配管20の内面へのZnCr24皮膜の形成に必要な量の亜鉛に対して亜鉛過剰の状態になっている。なお、Cr/Znは、0<Cr/Zn<2を満足することが望ましい。本実施例では、皮膜形成水溶液の亜鉛濃度が150ppmであり、クロム濃度が200ppmであるため、Cr/Znが1.33となり、皮膜形成水溶液は亜鉛過剰の状態になっているので、Cr23の元になるCrO(OH)の生成が抑制される。この結果、浄化系配管20の炉水と接触する内面へのCoCr24の析出が抑制される。
還元剤を注入する(ステップS9)。弁51を開いて注入ポンプ50を駆動することにより、薬液タンク49内の還元剤水溶液、例えば、ヒドラジン水溶液が、注入配管52を通って循環配管35内を流れる90℃の皮膜形成水溶液(上記の分解終了後の初期においては、実質的に90℃の水)に注入される。注入ポンプ50の回転速度(または弁51の開度)を制御し、循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液のpHが、ZnCr24の安定領域である4.8〜11.4(図6及び図7参照)の範囲内の、例えば、7.0になるように、ヒドラジン水溶液の注入量を調節する。循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液のpHは、pH計84で測定される。
ステップS9で注入する還元剤は、皮膜形成水溶液に含まれる6価のクロムを還元して3価のクロムにする。皮膜形成水溶液に含まれるクロムが還元により3価になることによって、浄化系配管20の内面に、ZnCr24の皮膜が形成され易くなる。
皮膜形成液を炭素鋼配管系に供給する(ステップS10)。Zn2+、HCrO4 -、ギ酸及びヒドラジンを含み、pHが4.8〜11.4内の、例えば、8.0である90℃の皮膜形成水溶液(皮膜形成液)が、循環ポンプ32によって加圧され、循環配管35から浄化系配管20に供給される。
亜鉛クロマイト皮膜を炭素鋼配管系の内面に形成する(ステップS11)。Zn2+及びHCrO4 -を含み、pHが8.0である90℃の皮膜形成水溶液(Cr/Zn=1.33)が、還元除染によって放射性核種を含む鉄酸化物皮膜が除去された浄化系配管20の内面に接触する。この結果、皮膜形成水溶液に含まれるZn2+、HCrO4 -及びヒドラジンが、(5)式に示す反応を生じてZnCr24を生成するため、亜鉛クロマイト(ZnCr24)皮膜が浄化系配管20の内面に形成される。
Zn2++2HCrO4-+2N24 → ZnCr24+2N2+4H2O+H2 …(5)
浄化系配管20から循環配管35に排出された皮膜形成水溶液は、前述したように、薬液タンク39内のギ酸亜鉛水溶液、薬液タンク44内のクロム酸水溶液及び薬液タンク49内のヒドラジン水溶液が注入されてZn2+及びHCrO4 -を含み、pHが8.0である90℃の皮膜形成水溶液(Cr/Zn=1.33)となって浄化系配管20内に再び供給される。皮膜形成水溶液の、循環配管35及び浄化系配管20を含む閉ループ内の循環によって、浄化系配管20の内面に形成される亜鉛クロマイト皮膜の厚みが増加する。亜鉛クロマイト皮膜の厚みが、設定厚み、例えば、亜鉛クロマイト皮膜が浄化系配管20の内面をほぼ均一に被覆する50μg/cm2になったとき、浄化系配管20の内面への亜鉛クロマイト皮膜の形成を終了する。浄化系配管20の内面に50μg/cm2の亜鉛クロマイト皮膜が形成されたとき、この亜鉛クロマイト皮膜のCrの、浄化系配管20の内面のFeに対する割合は35%になる。亜鉛クロマイト皮膜の厚みが設定厚みになったことは、皮膜形成水溶液の浄化系配管20への供給開始からの経過時間が設定時間になったことで判定される。この設定時間は、実験によって予め求めることによって設定できる。
皮膜形成水溶液に含まれるギ酸及びpHを増加する還元剤を分解する(ステップS12)。浄化系配管20の内面に形成された亜鉛クロマイト皮膜の厚みが設定厚みになったとき、すなわち、皮膜形成水溶液の浄化系配管20への供給開始から設定時間が経過したとき、弁75を開いて弁68を閉じ、皮膜形成水溶液を陽イオン交換樹脂塔62に供給し、この皮膜形成水溶液に含まれている未反応のZn2+が陽イオン交換樹脂塔62内の陽イオン交換樹脂によって除去される。皮膜形成水溶液に含まれた未反応のZn2+の除去が終了した後、弁68を開いて弁75を閉じ、さらに、弁79を開いて弁69の開度を調節して分解装置64に皮膜形成水溶液の一部を供給する。弁92を開き、薬液タンク54内の過酸化水素を分解装置64に供給する。分解装置64内で、活性炭触媒に含まれるルテニウム、及び過酸化水素の作用により、皮膜形成水溶液に含まれるヒドラジン及びギ酸がそれぞれ分解される。ヒドラジンが前述の(4)式の反応により分解され、さらに、ギ酸が下記の(6)式の反応により分解される。
HCOOH+H22 → CO2+2H2O …(6)
皮膜形成水溶液に含まれるギ酸及びヒドラジンの分解が終了した後、弁69を開いて弁79を閉じ、分解装置64への皮膜形成水溶液の供給を停止する。注入ポンプ55を停止して弁92を閉じ、分解装置64への過酸化水素の供給も停止する。さらに、弁71を開いて弁66を閉じ、皮膜形成水溶液をフィルタ59に供給する。皮膜形成水溶液に含まれる微細な固形物がフィルタ59で除去される。その後、弁73を開いて弁67を閉じ、冷却器61の冷却により皮膜形成水溶液の温度を60℃まで低下させる。また、弁77を開いて弁68を閉じ、温度が60℃に低下した皮膜形成水溶液を混床樹脂塔63に供給する。皮膜形成水溶液に残留する陽イオン及び陰イオンが、混床樹脂塔63内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂によって除去され、皮膜形成水溶液が浄化される(浄化工程)。皮膜形成水溶液は、浄化によって実質的に水になる。
皮膜形成水溶液の浄化後、前述の閉ループ内に存在する水は、廃液であり、貯蔵タンク(図示せず)内に排出される。この貯蔵タンク内の廃液は、必要な処理を行い、外部の環境に排出できる水質になった後に外部環境に排出される。
皮膜形成装置を炭素鋼配管系から取り外す(ステップS13)。その閉ループ内に存在する水が排出された後、皮膜形成装置30の循環配管35が浄化系配管20から取り外される。循環配管35の両端部が接続された開閉弁22及び23のそれぞれが、循環配管35の両端部が接続される前の状態に復旧される。
循環配管35が取り外されて浄化系配管20が復旧され、BWRプラントの保守点検等が終了した後、BWRプラントは、次の運転サイクルにおける運転を行うために、起動される。
本実施例によれば、BWRプラントの運転が停止されているとき、すなわち、BWRが運転されていないときに、クロム酸イオン、亜鉛イオン及び還元剤であるヒドラジンを含む皮膜形成水溶液を浄化系配管20の内面に接触させ、この皮膜形成水溶液の浄化系配管20の内面への接触により、BWRプラントが運転されていないときに浄化系配管20の内面に亜鉛クロマイト(ZnCr24)皮膜を形成することができる。このため、次の運転サイクルにおけるBWRプラントの運転を開始した直後から、浄化系配管20の内面への放射性核種(例えば、Co−60)の付着を抑制することができる。皮膜形成水溶液に含まれる還元剤の作用によって浄化系配管20の内面の電位が低下されるため、亜鉛クロマイトが浄化系配管20の内面に容易に付着し、亜鉛クロマイト皮膜が浄化系配管20の内面に効率良く形成される。また、本実施例は、BWRプラントが運転されていないときに、クロム酸イオン、亜鉛イオン及び還元剤であるヒドラジンを含む皮膜形成水溶液を用いて浄化系配管20の内面に亜鉛クロマイト皮膜を形成するため、BWRプラントの運転再開後にRPV12内の炉水に亜鉛を注入する必要がない。
浄化系配管20の内面に接触する皮膜形成水溶液のpHが、4.8〜11.4の範囲内の8.0であるため、皮膜形成水溶液に含まれる亜鉛(II)イオン(Zn2+)、クロム酸イオン(HCrO4-)及びヒドラジンが(5)式で表される反応を生じて亜鉛クロマイトが浄化系配管20の内面で効率良く生成される。この結果、浄化系配管20の内面への亜鉛クロマイト皮膜の形成に要する時間が短縮される。
本実施例では、還元剤としてpHを増加する還元剤(例えば、ヒドラジン)を用いているので、この還元剤の作用によって浄化系配管20の内面の電位を低減し、皮膜形成水溶液のpHを増加させることができる。このため、炉水に含まれるCo−60を取り込んでCoCr24を生成するCr23の元になるCrO(OH)が、浄化系配管20の内面に生成されず、皮膜形成水溶液に含まれる亜鉛(II)イオン(Zn2+)及びクロム酸イオン(HCrO4-)を原料とし、ヒドラジンの前述の作用により、浄化系配管20へのCo−60の取り込みを抑制する亜鉛クロマイト(ZnCr24)皮膜を、浄化系配管20の内面に形成できる。なお、pHを増加する還元剤(例えば、ヒドラジン)を用いているので、本実施例では、実施例5のように、還元剤とは別にpH調整剤を注入する必要がなく、皮膜形成装置30は、後述の皮膜形成装置30Bのように、pH調整剤注入装置94を設ける必要がない。このため、皮膜形成装置30は皮膜形成装置30Bに比べてより小型化される。
さらに、浄化系配管20の内面にCrO(OH)が形成されたとき、BWRプラントの運転中において、CrO(OH)は浄化系配管20内を流れる高温の炉水(約280℃)に晒されることにより脱水されてCr23になる。このとき、Cr23がCo−60と反応して放射性のCoCr24を生成する。本実施例は、CrO(OH)が生成されないために、BWRプラントの運転中において、Cr23とCo−60との反応が生じなく浄化系配管20へのCo−60の取り込みがさらに抑制され、浄化系配管20の表面線量率が低減される。
本実施例では、浄化系配管20の内面に形成された亜鉛クロマイト皮膜に含まれるCrが、浄化系配管20の内面のFeに対して35%の割合になっているため、浄化系配管20に取り込まれる放射性核種の量が著しく減少する。このような現象によっても、浄化系配管20の表面線量率がさらに低下する。
本実施例では、Cr/Znが0<Cr/Zn<2を満足する1.33であり、皮膜形成水溶液が亜鉛過剰の状態になっているため、Cr23の元になるCrO(OH)の生成が抑制される。この結果、浄化系配管20の内面へのCoCr24の析出が抑制される。すなわち、浄化系配管20の表面線量率の低下が促進される。
本実施例によれば、浄化系配管20の内面に形成された、放射性核種を含む鉄酸化物皮膜を還元除染によって除去した後に、この浄化系配管20の内面に、前述したように、亜鉛クロマイト皮膜を形成しているため、放射性核種が存在していない浄化系配管20の内面に、浄化系配管20への放射性核種の取り込みを抑制する亜鉛クロマイト皮膜を形成することができる。この結果、亜鉛クロマイト皮膜の形成後にBWRプラントを運転した場合においても、浄化系配管20の表面線量率を低減することができる。
本実施例では、ZnCr24皮膜の形成に使用される薬剤として塩化物イオンまたは硫酸イオンを含む薬剤を用いていないため、BWRプラントの炭素鋼部材の健全性(例えば、耐腐食性)を害することがない。さらに、本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法に用いられる皮膜形成装置30は、化学除染の機能を有しており、本実施例で用いられた薬剤のうち、ギ酸亜鉛水溶液に含まれるギ酸、及び還元剤であるヒドラジンを分解することが可能である。このため、本実施例は、廃棄される陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂が少なくなり放射性廃棄物の発生量をさらに低減できる。
本発明の他の好適な実施例である実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図8及び図9を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法は、実施例1と同様に、BWRプラントの原子炉浄化系の浄化系配管に適用される。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法に用いられる皮膜形成装置30Aを説明する。皮膜形成装置30Aは、実施例1で用いられる皮膜形成装置30に酸素ガス供給装置85を追加し、皮膜形成装置30に設けられた、弁56を有する注入配管57を削除した構成を有する(図9参照)。注入配管91が薬液タンク54に接続され、注入ポンプ55が注入配管91に設けられる。皮膜形成装置30Aの他の構成は皮膜形成装置30と同じである。
酸素ガス供給装置85は、図9に示すように、酸素ガスボンベ(酸素ガス貯蔵容器)86、酸素ガス供給管87及び散気管88を有する。散気管88は、サージタンク31内で底部に配置され、酸素ガス供給管87の一端部に接続される。散気管88の上部には、多数の噴出口が形成されている。酸素ガスボンベ86が、サージタンク31の外部に配置され、酸素ガス供給管87の他端部に接続される。開閉弁(図示せず)及び流量調節弁(図示せず)が酸素ガス供給管87に設けられる。
皮膜形成装置30Aを用いた本実施例の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図8を用いて説明する。本実施例の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法でも、実施例1で実施されたステップS1〜S13の各工程が、BWRプラントの運転が停止されているときに実施される。しかしながら、本実施例の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法では、ステップS4のシュウ酸鉄(III)の除去工程が、還元除染(ステップS2)の開始後でシュウ酸及びヒドラジンの分解(ステップS3)開始前に行われる。これは、シュウ酸鉄(III)の除去工程において酸化剤である酸素ガスを循環配管35に注入することによって可能になった。
皮膜形成装置30Aの循環配管35の両端部を皮膜形成対象物である浄化系配管20に接続し(ステップS1)、その浄化系配管20の内面に対する還元除染を開始する(ステップS2)。
次に、シュウ酸鉄(III)の除去工程(ステップS4)が実施される。この工程では、酸素ガス供給管87に設けられた開閉弁を開いて流量調節弁の開度を調節することによって、酸素ガスボンベ86内の酸素ガスが、所定量、酸素ガス供給管87を通してサージタンク31内の散気管88に供給される。この酸素ガスは、散気管88に形成された各噴出口からサージタンク31内のシュウ酸水溶液に注入され、シュウ酸水溶液に溶解する。その後、ステップS3及びS5〜S13の各工程が実施される。本実施例においても、浄化系配管20の内面に亜鉛クロマイト皮膜が形成される。
実施例1では、シュウ酸及びヒドラジンの分解工程(ステップS3)において過酸化水素を用いて浄化系配管20の内面に形成されたシュウ酸鉄(III)を除去する。このとき、過酸化水素による陽イオン交換樹脂塔62内の陽イオン交換樹脂の劣化を防止するため、シュウ酸水溶液に注入した過酸化水素が消失するまで弁75を閉じて弁68を開き、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液の陽イオン交換樹脂塔62への供給を停止している。
しかしながら、本実施例では、浄化系配管20の内面に析出したシュウ酸鉄(III)は、シュウ酸水溶液に溶解された前述の酸素の作用によって除去される。シュウ酸鉄(III)は、(7)式で表わされる反応により酸素で酸化され、シュウ酸水溶液に溶解される。
4Fe(COO)2+O2+4(COOH)2
→ 4Fe[(COO)2]2 -+2H2O+4H …(7)
実施例1では、還元除染でシュウ酸水溶液に溶出した放射性核種及び金属イオンを陽イオン交換樹脂塔62で除去する必要があるため、過酸化水素のシュウ酸水溶液への注入は、弁75及び68の開閉を切り替えて断続的に行われる。しかし、酸素による陽イオン交換樹脂の劣化の度合いは極僅かであるため、本実施例では、弁75及び68の開閉を行わず、酸素を含むシュウ酸水溶液を陽イオン交換樹脂塔62に供給しながらシュウ酸及びヒドラジンの分解装置64での分解を行うことができる。このため、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンの分解を早く終わらせることができる。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。
本発明の他の好適な実施例である実施例3の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図10及び図11を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法は、BWRプラントの原子炉浄化系の浄化系配管及び再循環系の再循環系配管に適用される。本実施例では皮膜形成装置30が用いられる。
本実施例の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図10に示す手順に沿って説明する。本実施例の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法では、実施例1の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法においてステップS1をステップS1Aに変え、さらに、ステップS3B,S15及びS16を追加した手順が実施される。本実施例の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法の他の工程は、実施例1の、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法と同じである。
皮膜形成装置を皮膜形成対象の炭素鋼系配管及びステンレス鋼配管系に接続する(ステップS1A)。BWRプラントの運転が停止されている期間において、皮膜形成装置30の循環配管35の一端部が、実施例1と同様に、開閉弁22のフランジを用いて炭素鋼製の浄化系配管20に接続される。さらに、循環配管35の一端部が、ステンレス鋼製の再循環系配管17に接続された残留熱除去系配管89に設けられてボンネットが開放された弁90のフランジを用いて残留熱除去系配管89に接続される。循環配管35、再循環系配管17及び浄化系配管20を含む閉ループが形成される。
ステンレス鋼製の再循環系配管17の内面には、BWRプラントの運転中において、鉄酸化物及びクロム酸化物を含む酸化皮膜が形成される。クロム酸化物にも放射性核種(例えば、Co−60)が取り込まれている。このため、本実施例では、特開2000−105295号公報に記載された化学除染、すなわち、酸化除染及び還元除染が実施される。
酸化除染を実施する(ステップS15)。水温が上昇して約90℃になったとき、弁36を開く。ホッパから投入された過マンガン酸カリウム(酸化除染剤)が、エゼクタ37及び配管80を通してサージタンク31に導かれる。過マンガン酸カリウム(酸化除染剤)がサージタンク31内で90℃の水に溶解し、過マンガン酸カリウム水溶液(酸化除染液)が生成される。この過マンガン酸カリウム水溶液は、循環ポンプ32で昇圧され、サージタンク31から循環配管35を通して再循環系配管17に供給される。過マンガン酸カリウム水溶液は、再循環系配管17の内面に付着しているクロム酸化物を溶解して除去する。過マンガン酸カリウム水溶液は、再循環系配管17から浄化系配管20を通って循環配管35に戻され、循環配管35、再循環系配管17及び浄化系配管20を含む閉ループ内を循環する。炭素鋼製の浄化系配管20の内面にはクロム酸化物が存在しないので、浄化系配管20に対する酸化除染は実質的に実施されない。
酸化除染を所定時間行った後、過マンガン酸イオンと当量のシュウ酸をホッパから投入してエゼクタ37及び配管80を通してサージタンク31に供給する。このシュウ酸の供給により、過マンガン酸カリウム水溶液に含まれる過マンガン酸イオンを二酸化マンガンにまで還元して酸化力を消失させる。
次に、ステップS2の還元除染が実施される。この還元除染では、ホッパ及びエゼクタ37及び配管80を通してサージタンク31内にシュウ酸がさらに供給され、前述したように、pH2.5のシュウ酸水溶液が生成される。このシュウ酸水溶液が上記の閉ループ内を循環し、再循環系配管17及び浄化系配管20のそれぞれの内面に付着している鉄酸化物を溶解して除去する。これらの配管に対する還元除染が、所定時間、実施される。
除染の終了を判定する(ステップS16)。この除染の判定は、再循環系配管17の外側に配置された第1放射線検出装置(図示せず)で測定された再循環系配管17の線量率、及び浄化系配管20の外側に配置された第2放射線検出装置(図示せず)で測定された浄化系配管20の線量率を用いて行われる。
シュウ酸及びヒドラジンを分解する(ステップS3B)。再循環系配管17の線量率及び浄化系配管20の線量率のいずれかが設定線量率を超えているとき、実施例1のステップS3と同様なシュウ酸及びヒドラジンの分解が行われる。このステップS3Bの分解工程では、ステップS3と異なり実質的に無くなるまでシュウ酸が分解される。
ステップS3Bの分解工程が終了した後、ステップS15及びS2の各除染が実施される。ステップS16の除染終了判定で再循環系配管17及び浄化系配管20の各線量率が設定線量率以下であると判定されたとき、ステップS3の分解工程が実施され、シュウ酸及びヒドラジンのそれぞれの一部が分解される。ステップS4(シュウ酸鉄(III)の除去)及びS5(水酸化鉄の析出抑制)が実施され、ステップS6でシュウ酸及びヒドラジンの分解が終了する。化学除染は、酸化除染及び還元除染のうちどちらでも先に開始して良いが、最後は還元除染で終了する。
さらに、本実施例でも、実施例1と同様に、ステップS7〜S13の各工程が実施される。ステップS10の工程では、Zn2+及びHCrO4 -を含み、pHが8.0である90℃の皮膜形成水溶液が、循環ポンプ32によって加圧され、循環配管35から再循環系配管17及び浄化系配管20に順番に供給される。ステップS11の工程では、再循環系配管17及び浄化系配管20の各内面に亜鉛クロマイト皮膜が形成される。ステップS13で皮膜形成装置30が取り外された後、開閉弁22及び90が復旧され、そしてBWRプラントが起動される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は再循環系配管17及び浄化系配管20の各内面の化学除染を行うことができ、それぞれの内面に亜鉛クロマイト皮膜を形成することができる。
本発明の他の好適な実施例である実施例4の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図12を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法は、BWRプラントの原子炉浄化系の浄化系配管に適用され、皮膜形成装置30を使用する。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法では、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法で実施されるステップS1〜S13の各工程が実施され、さらに、ステップS17の工程が実施される。ステップS3の後にステップS6が実施され、ステップS4〜S17がステップS6とステップS7の間で実施される。ステップS7の後には、ステップS8〜S13が順次実行される。
本実施例では、実施例1のようにシュウ酸及びヒドラジンのそれぞれの一部が分解された後ではなく、シュウ酸及びヒドラジンのそれぞれの分解が終了した後に、シュウ酸鉄の除去工程(ステップS4)及び水酸化鉄の析出抑制工程(ステップS5)が実行される。このステップS5で用いられたギ酸は、ステップS17で過酸化水素が供給される分解装置64内で分解される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。しかしながら、本実施例ではステップS4及びS5の各工程がステップS6の後で実施されるために、ギ酸の分解工程(ステップS17)を新たに実施する必要があり、本実施例において、皮膜形成装置30を浄化系配管20に接続してから皮膜形成装置30を浄化系配管20から取り外すまでに要する期間が、実施例1において要するその期間よりも長くなる。
本発明の他の好適な実施例である実施例5の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図13及び図14を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法は、BWRプラントの浄化系配管に適用され、図14に示す皮膜形成装置30Bを使用する。実施例1〜4の各実施例では、還元作用及びpH調整作用を有する、皮膜形成水溶液のpHを増加する還元剤(例えば、ヒドラジン)を用いているが、本実施例では、皮膜形成水溶液のpHを増加しない還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を使用し、この還元剤と共にpH調整剤(例えば、アンモニア)を、別途、使用している。pHを増加しない還元剤はpHを調節できない還元剤である。
皮膜形成装置30Bは、前述の皮膜形成装置30にpH調整剤注入装置94を追加した構成を有する。皮膜形成装置30Bの他の構成は前述の皮膜形成装置30と同じである。皮膜形成装置30Bでは、水素化ホウ素ナトリウム水溶液が還元剤注入装置48の薬液タンク49に充填される。pH調整剤注入装置94が、薬液タンク95、注入ポンプ96及び注入配管98を有する。薬液タンク95は、注入ポンプ96及び弁97を有する注入配管98によって、接続点107で循環配管35に接続される。アンモニア水溶液が薬液タンク95に充填されている。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図13に示された手順に沿って説明する。
皮膜形成装置30Bの循環配管35の両端部が、実施例1と同様に、浄化系配管20に接続される(ステップS1)。その後、浄化系配管20の還元除染を実施する(ステップS2)。pH調整剤注入装置94の薬液タンク95内のアンモニア水溶液が、弁97を開いて注入ポンプ96を駆動することによって注入配管98を通して循環配管35内を流れるシュウ酸水溶液に注入され、このシュウ酸水溶液のpHが2.5に調節される。pHが2.5で90℃のシュウ酸水溶液と接触する、浄化系配管20の内面が還元除染される。
シュウ酸を分解する(ステップS3A)。還元除染が終了した後、弁75を開いて弁68を閉じ、アンモニアを含むシュウ酸水溶液を陽イオン交換樹脂塔62に供給し、陽イオン交換樹脂によってアンモニアを除去する。さらに、弁79を開いて弁69の開度を調節し、弁69を流れるシュウ酸水溶液の一部を分解装置64に供給し、実施例1と同様に、シュウ酸を分解する。分解装置64では、アンモニアは分解されない。
シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸の一部が分解され、アンモニアの一部が除去された後、ステップS4及びS5の各工程が実施される。ステップS4で過酸化水素がシュウ酸水溶液に注入される前に、弁68を開いて弁75を閉じる。ステップS4及びS5の各工程が実施されている間、分解装置64によるシュウ酸の分解が継続して行われている。
ステップS5の工程が終了したとき、アンモニアの除去、及びシュウ酸及びこの工程で注入したギ酸の分解が行われる。シュウ酸水溶液に含まれるアンモニアを除去するために、弁75を開いて弁68を閉じ、陽イオン交換樹脂塔62によってシュウ酸水溶液に含まれるアンモニアを除去する。アンモニアが除去されてシュウ酸が分解されたとき、シュウ酸の分解が終了する(ステップS6A)。
その後、実施例1と同様に、ステップS7〜S9の各工程が、順次、実施される。ステップS9では、還元剤である水素化ホウ素ナトリウムの水溶液が、還元剤注入装置48の薬液タンク49から循環配管35に注入される。さらに、pH調整剤の注入が実施される(ステップS14)。アンモニア水溶液が、弁97を開いて注入ポンプ96を駆動することによって薬液タンク95から循環配管35に注入される。
ステップS10で浄化系配管20に供給される皮膜形成水溶液は、Zn2+、HCrO4 -、ギ酸、水素化ホウ素ナトリウム及びアンモニアを含み、pHが8.0である90℃の皮膜形成水溶液(Cr/Zn=1.33)である。水素化ホウ素ナトリウム水溶液の注入により浄化系配管20の内面の電位が、例えば、0.0Vになり、アンモニア水溶液の注入により皮膜形成水溶液のpHが、例えば、上記した8.0になる。この皮膜形成水溶液が浄化系配管20の内面に接触することにより、亜鉛クロマイト皮膜がその内面に形成される(ステップS11)。亜鉛クロマイト皮膜を形成する間、弁68が開いて弁75,77を閉じ、皮膜形成水溶液の陽イオン交換樹脂塔62及び混床樹脂塔63への供給が停止されている。
ギ酸の分解及び還元剤及びpH調整剤の除去を実施する(ステップS12A)。所定厚みの亜鉛クロマイト皮膜がその内面に形成された後、弁75及び79を開いて弁68を閉じ、さらに、弁69の開度を減少する。皮膜形成水溶液に含まれる水素化ホウ素ナトリウム、アンモニア及び金属イオンが陽イオン交換樹脂塔62で除去される。陽イオン交換樹脂塔62から排出された皮膜形成液に含まれたギ酸が、配管91を通して供給された過酸化水素及び分解装置64内の活性炭触媒に含まれるルテニウムの作用により、分解装置64で分解される。
ギ酸の分解が終了した後、弁79を閉じて弁69を開き、弁71,73及び77を開いて弁66,67及び75を閉じる。皮膜形成水溶液に含まれる微細な固形物がフィルタ59で除去され、冷却器61による冷却で皮膜形成水溶液の温度を60℃まで低下させる。この皮膜形成水溶液が混床樹脂塔63に供給に供給され、皮膜形成水溶液に残留する陽イオン及び陰イオンが、混床樹脂塔63で除去される。このような浄化工程が終了した後、ステップS13で、循環配管35の両端部が浄化系配管20から取り外される。
本実施例は、皮膜形成装置のコンパクト化及び放射性廃棄物の発生量の低減を除いて実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例によれば、実施例1におけるヒドラジンの作用が水素化ホウ素ナトリウム及びアンモニアのそれぞれの作用で肩代わりされるため、亜鉛クロマイト皮膜を浄化系配管20の内面に形成することができる。また、本実施例で用いられる水素化ホウ素ナトリウム及びアンモニアは、過酸化水素及びルテニウムの作用によって分解されず、陽イオン交換樹脂塔62及び混床樹脂塔63内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂によって除去されるため、放射性廃棄物となる使用済の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の廃棄量が増加する。陽イオン交換樹脂塔62及び混床樹脂塔63は、各々の廃棄量の増加を見込んで予め陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂のそれぞれを充填している。
本発明の他の好適な実施例である実施例6の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図15を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法は、運転を経験していない新規のBWRプラントの原子炉浄化系の浄化系配管に適用され、図14に示す皮膜形成装置30Bを使用する。
新規のBWRプラントでは、浄化系配管20の内面に放射性核種を含む酸化皮膜が形成されていないため、還元除染等の化学除染を実施する必要がない。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図15の手順に沿って説明する。
皮膜形成装置30Bの循環配管35の両端部が、実施例1と同様に、浄化系配管20に接続される(ステップS1)。循環配管35の浄化系配管20への接続は、新規のBWRプラントの建設終了後でこの新規のBWRプラントの試運転が開始される前の期間で行われる。皮膜形成装置30Bの循環配管35が浄化系配管20に接続された後、循環ポンプ32,58を駆動し、循環配管35及び浄化系配管20を含む閉ループ内で水を循環させ、循環する水をサージタンク31内の加熱器60により加熱して水の温度を90℃にする。この90℃の水への、Zn2+の注入(ステップS7)、HCrO4 -の注入(ステップS8)、水素化ホウ素ナトリウムの注入(ステップS9)及びアンモニアの注入(ステップS14)が実施され、サージタンク31及び循環配管35内で、Zn2+、HCrO4 -、ギ酸、水素化ホウ素ナトリウム及びアンモニアを含み、pHが8.0である90℃の皮膜形成水溶液(Cr/Zn=1.33)が生成される。この皮膜形成水溶液が浄化系配管20に供給され(ステップS10)、浄化系配管20の内面の亜鉛クロマイト皮膜が形成される(ステップS11)。所定厚みの亜鉛クロマイト皮膜が浄化系配管20の内面に形成された後、ギ酸の分解及び還元剤及びpH調整剤の除去が実施される(ステップS12A)。ステップS12Aの工程の後に、ステップS13の工程が実施される。
本実施例は実施例5で生じる各効果を得ることができる。本実施例は新規のBWRプラントの炭素鋼製の浄化系配管20の内面に亜鉛クロマイト皮膜を形成するため、この皮膜形成の前に、浄化系配管20に対する還元除染を行う必要がない。
本実施例において、水素化ホウ素ナトリウム(還元剤)及びアンモニア(pH調整剤)を、実施例1で用いられる、pHを増加する還元剤(例えば、ヒドラジン)に替えてもよい。この場合には、皮膜形成装置30が用いられ、図15に示されるステップS14の工程が不要になり、ステップS12AがステップS12になる。
本発明の他の好適な実施例である実施例7の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法を、図16を用いて説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法は、BWRプラントの残留熱除去系の炭素鋼製の残留熱除去系配管に適用される。
残留熱除去系99は、2系統設けられ、2系統の再循環系の再循環系配管17のそれぞれに接続されている。図16には、1系統の残留熱除去系99を示している。各残留熱除去系99は、炭素鋼製の残留熱除去系配管100、残留熱除去系配管100に設けられたポンプ101、及びこのポンプ101の下流で残留熱除去系配管100に設けられた熱交換器(冷却器)102を有する。残留熱除去系配管100の一端は再循環ポンプ16の上流側で再循環系配管17に接続され、残留熱除去系配管100の他端は再循環ポンプ16の下流側で再循環系配管17に接続される。残留熱除去系配管100は二個所で原子炉格納容器11を貫通している。一つの貫通部では、原子炉格納容器11の内側に配置された隔離弁103A及び原子炉格納容器11の外側に配置された隔離弁103Bが残留熱除去系配管100にそれぞれ設けられる。他の貫通部では、原子炉格納容器11の内側に配置された隔離弁104A及び原子炉格納容器11の外側に配置された隔離弁104Bが残留熱除去系配管100にそれぞれ設けられる。弁105が隔離弁103Bとポンプ101の間で残留熱除去系配管100に設けられ、弁106が隔離弁104Bと熱交換器102の間で残留熱除去系配管100に設けられる。
残留熱除去系99は、例えば、BWRプラントの運転停止後における炉心13で発生する崩壊熱を除去する。BWRプラントの運転停止後、ポンプ101を駆動し、その崩壊熱で加熱された原子炉圧力容器12内の炉水を再循環系配管17から残留熱除去系配管100に導き、熱交換器102で冷却する。冷却された炉水は、再循環系ポンプ16の下流側で再循環系配管17に流入し、ジェットポンプ14を通って炉心13に供給され、炉心13内の各燃料集合体を冷却する。
本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法では、実施例1で実施されたステップS1〜S13の各工程が実行される。
或る一つの運転サイクルでの運転が終了してBWRプラントの運転が停止されている期間において、皮膜形成装置30の循環配管35の一端部を、ボンネットが開放された弁105のフランジを用いて残留熱除去系配管100に接続し、皮膜形成装置30の循環配管35の他端部を、ボンネットが開放された弁106のフランジを用いて残留熱除去系配管100に接続する(ステップS1)。シュウ酸水溶液を用いて残留熱除去系配管100の内面の還元除染が行われる(ステップS2)。
その後、実施例1と同様に、ステップS3〜S13の各工程が実施される。ステップS10の工程では、Zn2+及びHCrO4 -を含み、pHが8.0である90℃の皮膜形成水溶液が、残留熱除去系配管100に供給される。ステップS11の工程では、残留熱除去系配管100の内面に亜鉛クロマイト皮膜が形成される。
皮膜形成装置30の循環配管35が残留熱除去系配管100から取り外され(ステップS13)、弁105及び106が復旧された後、次の新たな一つの運転サイクルでのBWRプラントの運転が開始される。
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例は、実施例1のように浄化系配管20ではなく残留熱除去系配管100の表面線量率を低減できる。
実施例1〜6のそれぞれは、残留熱除去系配管100に対して適用することができる。さらに、実施例1ないし7は加圧水型原子力プラントにも適用できる。
1…原子炉、3…タービン、4…復水器、10…給水配管、12…原子炉圧力容器、17…再循環系配管、20…浄化系配管、30,30A,30B…皮膜形成装置、31…サージタンク、32,58…循環ポンプ、35…循環配管、38…亜鉛イオン注入装置、43…クロム酸イオン注入装置、48…還元剤注入装置、53…酸化剤注入装置、59…フィルタ、60…加熱器、61…冷却器、62…陽イオン交換樹脂塔、63…混床樹脂塔、64…分解装置、85…酸素ガス供給装置、94…pH調整剤注入装置、99…残留熱除去系、100…残留熱除去系配管。

Claims (15)

  1. クロム酸イオン、亜鉛イオン及び還元剤を含む皮膜形成液を原子力プラントの炭素鋼部材の表面に接触させ、
    前記皮膜形成液が接触する、前記炭素鋼部材の表面に、亜鉛クロマイトの皮膜を形成し、
    前記炭素鋼部材表面への前記皮膜形成液の接触、及び前記炭素鋼部材の表面への前記亜鉛クロマイト皮膜の形成のそれぞれは、前記原子力プラントが運転されていないときに行われることを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  2. 前記炭素鋼部材の表面に形成される前記亜鉛クロマイト皮膜が、前記炭素鋼部材の前記表面のFeに対してCrを22%以上含んでいる亜鉛クロマイト皮膜である請求項1に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  3. 前記炭素鋼部材の表面に接触される前記皮膜形成液は、4.8〜11.4の範囲内のpHを有している請求項1または2に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  4. 前記還元剤として前記皮膜形成液のpHを増加する還元剤を用いる請求項3に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  5. 前記pHを増加する還元剤を分解する請求項4に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  6. 前記皮膜形成液に含まれる亜鉛とクロムのモル比Cr/Znが0<Cr/Zn<2を満足している請求項1に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  7. 還元除染剤を含んでいる還元除染液を用いて前記炭素鋼部材の前記表面を還元除染し、前記炭素鋼部材の表面への前記亜鉛クロマイト皮膜の形成が、前記炭素鋼部材の前記表面への前記還元除染が終了した後に行われる請求項1に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  8. 前記還元除染後に実施される前記還元除染剤の分解工程内で、前記還元除染剤の一部を分解した後で前記水溶液に前記還元除染剤が残っている期間内で、前記炭素鋼部材の前記表面に析出したシュウ酸鉄の除去する工程、及び前記表面への水酸化鉄の析出を抑制する工程を実施する請求項7に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  9. 前記還元除染後に実施される前記還元除染剤の分解工程が終了した後、前記炭素鋼部材の前記表面に析出したシュウ酸鉄の除去する工程、及び前記表面への水酸化鉄の析出を抑制する工程を実施する請求項7に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  10. 前記シュウ酸鉄を除去する工程では、前記炭素鋼部材の前記表面に接触される還元除染液に酸化剤を注入する請求項8または9に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  11. 前記酸化剤として酸素ガスを用いる請求項10に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  12. 原子力プラントの原子炉圧力容器に接続される炭素鋼部材である第1配管に、第2配管を接続し、
    前記第2配管を通して前記第1配管に、クロム酸イオン、亜鉛イオン及び還元剤を含む皮膜形成液を供給して前記皮膜形成液を前記第1配管の内面に接触させ、
    前記皮膜形成液が接触する、前記第1配管の内面に、亜鉛クロマイトの皮膜を形成し、
    前記亜鉛クロマイト皮膜が前記第1配管の内面に形成された後、前記第2配管を前記第1配管から取り外し、
    前記第1配管への前記第2配管の接続、前記第1配管の前記内面への前記皮膜形成液の接触、前記第1配管の前記内面への前記亜鉛クロマイト皮膜の形成、及び前記第1配管からの前記第2配管の取り外しは、前記原子力プラントが運転されていないときに行われることを特徴とする原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  13. 前記原子炉圧力容器に接続された、原子力プラントのステンレス鋼部材である第3配管に、前記第2配管の一端部を接続して、前記第3配管に接続された前記第1配管に、前記第2配管の他端部を接続し、前記第1配管、前記第2配管及び前記第3配管を含む閉ループを形成し、
    前記第2配管に供給される前記皮膜形成液を前記第3配管に供給して前記皮膜形成液を前記第1配管の内面と共に前記第3配管の内面に接触させ、
    前記第1配管の前記内面と共に前記皮膜形成液が接触する前記第3配管の前記内面に、前記亜鉛クロマイトの皮膜を形成し、
    前記亜鉛クロマイト皮膜が前記第1配管及び前記第3配管のそれぞれの前記内面に形成された後、前記第2配管を前記第1配管及び前記第3配管のそれぞれから取り外し、
    前記第3配管への前記第2配管の接続、前記第3配管の前記内面への前記皮膜形成液の接触、前記第3配管の前記内面への前記亜鉛クロマイト皮膜の形成、及び前記第3配管のからの前記第2配管の取り外しは、前記原子力プラントが運転されていないときに行われる請求項12に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  14. 前記皮膜形成液に含まれる前記還元剤により、前記炭素鋼部材の電位及び前記皮膜形成液のpHのそれぞれの調節を行う請求項12または13に記載の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種付着抑制方法。
  15. 皮膜形成液を導く配管と、前記配管に接続された亜鉛イオン注入装置と、前記配管に接続されたクロム酸イオン注入装置と、前記配管に接続された、pHを増加する還元剤を注入する装置と、前記配管に設けられ、前記皮膜形成液を昇圧するポンプと、前記皮膜形成装置を加熱する加熱装置とを備えたことを特徴とする皮膜形成装置。
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