本発明者らは、原子力プラントの構成部材の水の接する表面への放射性核種の付着を抑制するために種々の検討をし、原子力プラントの運転環境において、母材の腐食によって母材の表面に形成される酸化皮膜の量が増加すると共に、母材への放射性核種の付着量も増加するとの知見を得た。
図4は、ステンレス鋼の母材の腐食量(横軸)と、コバルト60付着量(縦軸)の関係を示したものであり、母材の表面に形成される酸化皮膜の量(母材の腐食量)に対して、放射性核種(例えばコバルト60)の付着量が右肩上がりに増加している。このことから、母材の腐食量を抑制すれば、母材への放射性核種の付着量も低減できると考察した。この考察に基づき、原子炉運転条件におけるステンレス鋼の放射性核種付着抑制方法を検討した。
その結果、セリウムを含む粒子や皮膜をステンレス鋼表面に形成した後、原子炉運転条件にさらすと、マグネタイト皮膜を形成した場合よりも放射性核種の付着を抑制する事ができることを確認した。図5にセリウムの粒子を付着させた試験片を用いて放射性核種であるコバルト60の付着試験を行った結果を示す。
図5から明らかなように、マグネタイト皮膜の試験片のコバルト60付着量を1.0としたときに、セリウムを含む粒子を付着させた試験片のコバルト60付着量は、0.7程度であり、コバルト60付着量が大幅に低減されている事がわかる。なお、皮膜処理を行わない場合の試験片のコバルト60付着量も図示しているが、これは2.0程度である。
なお、セリウムを含む粒子の付着方法としては例えば、学術文献論文誌「Corrosion Science」46号 2004年 75−89頁に報告された方法がある。しかし、同報告では薬剤に硫酸を使用しているため、構成機器の健全性を維持する観点から、同報告の方法をそのまま用いることができない。また、同報告ではステンレス鋼表面は金属表面が薬剤に接している事が必要となっている。つまり、供用運転後の原子炉構成機器の表面には腐食により生成した酸化皮膜が形成されているため、同報告をそのまま用いることは同様にできない。
そこで、発明者らは、酸化皮膜が形成される前の段階で処理すべきことから、原子力発電プラントで一般的に行われている化学除染の実施後に連続して行うことに思い至った。さらに具体的には、除染工程の終了段階から原子炉起動までの間に行われる事が望ましい。
ここで化学除染とは、原子力プラントの構成部材(配管及び機器等)の表面に形成された酸化皮膜及び構成部材の表面に付着した放射性核種を溶解して除去する処理方法である。したがって、化学除染によって原子力プラントの構成部材の金属表面が露出した状態で、本発明の放射性核種付着抑制方法を適用する。その結果、本発明によって原子力プラントの構成部材の水との接する表面にセリウムを含む粒子または皮膜が形成され、放射性核種の付着を好適に抑制する事ができる。
図6に化学除染処理に連続して硫酸の代わりにギ酸を用いた場合のセリウムを含む粒子及び皮膜の施工時間と、マグネタイト皮膜の施工時間の比較を示す。セリウム皮膜(酸化セリウムの皮膜)の場合の施工時間を1としたときの、マグネタイト皮膜の場合の施工時間は25程度である。この図6から明らかなように施工時間は1/25になり、施工時間が短縮できる事を確認できた。
発明者らは、セリウムイオンを含む第1の薬剤、酸化能力を持つ第2の薬剤、及び酸性溶液である第3の薬剤を含む水溶液を、原子力プラントの構成部材の金属表面に接触させてその金属表面にセリウム皮膜を形成する替りに、セリウムイオンを含む薬剤及びpH調整剤を含む水溶液をその金属表面に接触させた場合でも、その金属表面にセリウム粒子を膜状に付着できることを見出した。pH調整剤としてヒドラジンを用いた場合における構成部材の表面にセリウム粒子を膜状に付着するのに要する施工時間は、図7に示すように、酸化能力を持つ第2の薬剤及び酸性溶液である第3の薬剤を用いた場合におけるセリウム皮膜を形成するために要する施工時間の約1/3に短縮される。これは、ヒドラジン(pH調整剤)の添加によりその水溶液のpHの増加に起因して、セリウムイオンが酸化セリウムとして構成部材の表面に析出しやすくなり、結果的に、構成部材の表面への析出した酸化セリウムの付着が促進されるためである。
本発明は沸騰水型原子力発電プラントの炉水再循環系及び炉水浄化系に使用されることが最も好適であるが、この限りではなく炉水の接する原子力プラントの構成部材の表面に広く使用する事ができる。また、本発明は沸騰水型原子力発電プラントだけでなく加圧水型原子力発電プラントの炉水に接する構成部材にも同様に用いることができる。
本発明の好適な一実施例である実施例1を図1、図2及び図3を用いて説明する。実施例1は、沸騰水型原子力発電プラントの再循環系配管部材にセリウムを含む粒子及び皮膜の形成方法を施した例を示している。
まず、図2を用いて本実施例が適用される原子力発電プラントとして沸騰水型原子力発電プラントの構成について説明する。沸騰水型原子力発電プラントは、主要構成部として原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。
このうち原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器12を有し、原子炉圧力容器12内にジェットポンプ14を設置している。炉心13には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。なお原子炉1は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器11内に設置されている。
再循環系は、再循環系配管22、及び再循環系配管22に設置された再循環ポンプ21を有している。
給水系は、復水器4と原子炉圧力容器12を連絡する給水配管10に、復水ポンプ5、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)6、低圧給水加熱器8、給水ポンプ7及び高圧給水加熱器9を、復水器4から原子炉圧力容器12に向って、図示の順に設置して構成されている。
原子炉浄化系は、再循環系配管22と給水配管10を連絡する浄化系配管20に、浄化系ポンプ24、再生熱交換器25、非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27をこの順に設置している。浄化系配管20は、再循環ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。
以上のように構成された沸騰水型原子力発電プラントは、以下に示すように運用される。まず、原子炉圧力容器12内の冷却水は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14内に噴出される。ジェットポンプ14のノズルの周囲に存在する冷却水も、ジェットポンプ14内に吸引されて炉心13に供給される。炉心13に供給された冷却水は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された一部の冷却水が蒸気になる。
この蒸気は、原子炉圧力容器12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮されて水になる。
この水は、給水として、給水配管10を通り原子炉圧力容器12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧される。給水は、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱されて原子炉圧力容器12内に導かれる。なお、抽気配管15でタービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
また再循環系配管22内を流れる冷却水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって原子炉浄化系の浄化系配管20内に流入し、再生熱交換器25及び非再生熱交換器26で冷却された後、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された冷却水は、再生熱交換器25で加熱されて浄化系配管20及び給水配管10を経て原子炉圧力容器12内に戻される。
以上の一般的な沸騰水型原子力発電プラントの構成において、本発明の第一の実施例では再循環系に成膜装置30を仮設設置する。以下、本発明を適用した沸騰水型原子力発電プラントの動作について、成膜装置30と原子炉浄化系の関係を中心に説明する。
沸騰水型原子力発電プラントにおいて、通常は再循環系により炉水は再循環されると共に、その一部が原子炉浄化系に導入されて炉水を浄化している。つまり、弁23は原子炉浄化系側に開放しており、再循環系配管22内を流れる冷却水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって原子炉浄化系の浄化系配管20内に流入している。このとき、弁23は成膜装置30側を閉止している。
しかるに、原子炉1の運転が停止されたとき、例えば、再循環系配管22から分岐されている浄化系配管20に設けられた弁23のボンネットを開放して炉水浄化装置27側を閉止する。また、弁23のフランジを用いて仮設配管を連結して成膜装置30への流入路35を形成する。
他方、再循環ポンプ21の下流側にあるドレン配管や計装配管などを切り離す。その切り離された枝管に処理液を循環可能にすべく、仮設配管を接続して成膜装置30の流出路36を形成する。なお、本例では、成膜装置30を再循環系配管に接続しているが、これに限られず、給水系、冷却材浄化系、復水系や補機冷却水系やクーリングタワーを用いる冷却水系統など、プラントを構成する系統の部材に炉水が接触する部分(これらの部分の部材を総称して原子力プラントの構成部材と表現している)に成膜装置30を適用してもよい。
図2に示したように、実施例1では沸騰水型原子力発電プラントの再循環系配管22に本発明を適用したセリウム粒子及び皮膜の成膜装置30を接続している。図3は、成膜装置30の具体的な構成を示している。図2では、成膜装置30が、再循環系配管22に仮設配管で連結されている。
成膜装置30は、流入側弁Viと流出側弁Voを介して再循環系配管22に仮設配管で連結されている。流出側弁Voは、再循環系配管22の、再循環ポンプ21よりも下流側に、流入側弁Viは再循環系配管22の、再循環ポンプ21よりも上流側に接続されている。図5の例では、成膜装置30の流入側弁Viは、再循環ポンプ21よりも上流側で再循環系配管22に接続された浄化系配管20に設けられた弁23に接続されている。
本実施形態の成膜装置30は、化学除染処理に兼用できるように構成されている。化学除染処理のために、成膜装置30は、図3に示すように、処理に用いる水が充填されるサージタンク31と、サージタンク31の水を抜き出して弁V1,流出側弁Voを介して再循環系配管22の一端に供給する循環ポンプP1などを備えている。また、循環ポンプP1の吐出側から弁V2、エゼクタEJを介してサージタンク31に戻る帰還流路L2が形成されている。エゼクタEJは、配管内の汚染物を酸化溶解するための過マンガン酸カリウム、あるいは配管内の汚染物を還元溶解するためのシュウ酸を注入するためのホッパを有する。
以下、成膜装置30の詳細な構成を、図3により説明する。成膜装置30は、サージタンク31、循環配管L1及びカチオン交換樹脂塔60を備えている。
流入側弁Vi、循環ポンプP2、弁V3、加熱器H、弁V4、V5,V6、サージタンク31、循環ポンプP1、弁V1及び開閉弁Viが、上流よりこの順に循環配管路L1に設けられている。
また、弁V3をバイパスして循環配管L1に接続される配管L3に、弁V7及びフィルタFが設置される。加熱器H及び弁V4をバイパスする配管L4が循環配管L1に接続され、冷却器C及び弁V8が配管L4に設置される。
さらに両端が循環配管L1に接続されて弁V5をバイパスする配管L5に、カチオン交換樹脂塔60及び弁V9が設置される。同様に両端が配管L1に接続されてカチオン交換樹脂塔60及び弁V9をバイパスする配管L6に、混床樹脂塔62及び弁V10が設置される。
さらに弁V11及び分解装置64が設置される配管L7が弁V6をバイパスして循環配管L1に接続される。分解装置64は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。
サージタンク31が弁V6と循環ポンプP1の間で循環配管L1に設置される。弁V2及びエゼクタEJが設けられる配管L2が、弁V1と循環ポンプP1の間で循環配管L1に接続され、さらに、サージタンク31に接続されている。エゼクタEJにはホッパ(図示せず)が設けられている。ホッパからは再循環系配管22の内面の汚染物を酸化溶解するために用いる過マンガン酸カリウム(酸化除染剤)、さらには再循環系配管22の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)が投入され、エゼクタEJを介して、サージタンク31内に供給する。この時ヒドラジンを注入する場合がある。
セリウムイオン注入装置85は、薬液タンク45、注入ポンプP3、弁V12及び注入配管L8を有する。薬液タンク45は、注入ポンプP3及び弁V12を有する注入配管L8によって循環配管L1に接続される。薬液タンク45には、炭酸セリウム又は硝酸セリウムを水に溶解して調製した薬剤(第1薬剤)が充填されている。なお、セリウムを溶解させる薬剤としては、有機酸塩又は無機酸塩などを用いることができる。また、炭酸セリウムなどのセリウムを含む個体をギ酸、シュウ酸などの有機酸に溶解して作製しても良い。
酸化剤注入装置86は、薬液タンク46、注入ポンプP4、弁V13及び注入配管L9を有する。薬液タンク46は、注入ポンプP4及び弁V13を有する注入配管L9によって循環配管L1に接続される。薬液タンク46には、酸化剤(第2薬剤)である過酸化水素や過マンガン酸カリウムの水溶液が充填されている。
酸性液注入装置87は、薬液タンク40、注入ポンプP5、弁V14及び注入配管L10を有する。薬液タンク40は、注入ポンプP5及び弁V14を有する注入配管L10によって循環配管L1に接続される。薬液タンク40は酸性の溶液(第3薬剤)であるギ酸、シュウ酸等の有機酸や硝酸などの無機酸を充填する。
なお、酸化剤注入装置86の注入ポンプP4出口と、分解装置64の入り口側との間には弁V15を介して配管路L11が形成されている。
分解装置64は、使用する有機酸(例えば、ギ酸)、及び除染時に使用するpH調整剤のヒドラジンを分解できるようになっている。つまり、セリウムイオンの対アニオンとしては、廃棄物量の低減化を考慮して水および二酸化炭素に分解できる有機酸、又は気体として放出可能で廃棄物を増やさない炭酸を用いている。
本実施例におけるセリウムを含む粒子及び皮膜の形成方法を、図1及び図3を用いて詳細に説明する。図1に示す手順は、セリウムを含む粒子及び皮膜の形成処理だけでなく、その前処理である化学除染液の処理の手順も含んでいる。
図1に示す手順では、まず処理ステップS1において成膜装置30を皮膜形成対象の配管系に接続する。すなわち、沸騰水型原子力発電プラントが、その定期検査のために停止された後の運転停止期間において、前述したように、図3の循環配管L1が皮膜形成対象の配管系である再循環系配管22に接続される。
次に処理ステップS2では、皮膜形成対象箇所に対する化学除染を実施する。この場合の皮膜形成対象箇所は、炉水と接触する再循環系である。再循環系配管22の内面は、酸化皮膜が形成されている。沸騰水型原子力発電プラントにおいては、この酸化皮膜が放射性核種を含んでいる。処理ステップS2の一例では、化学的な処理によりその酸化皮膜を、皮膜形成対象箇所である再循環系配管22の内面から取り除く処理を行う。
皮膜形成対象の配管系へのセリウムを含む粒子及び皮膜の形成は、その再循環系配管内面の腐食抑制を目的とするものであるが、その形成に際しては再循環系配管22の内面に対して予め化学除染を実施しておくことが好ましい。セリウムを含む粒子及び皮膜を形成する前に皮膜形成対象の部材の表面が露出されていればよいので、化学除染の替りに機械的な除染処理を適用することも可能である。
処理ステップS2で適用する化学除染の一例について簡単に説明する。この手法は、特開2000−105295号公報に記載されている手法を利用することができる。図6の構成で実現する場合を例にとり説明すると、まず図3において、弁Vi,V3,V4−V6,V1、及びVoをそれぞれ開いて循環配管路L1を形成し、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプP1及びP2を駆動する。これにより、図2に示す再循環系配管22内にサージタンク31内の水を循環させる。このとき、加熱器Hにより循環する水を加熱し、この水の温度が90℃になったときに帰還配管L2に設けられた弁V2を開く。
これによりエゼクタEJにつながっているホッパから供給される必要量の過マンガン酸カリウムが、配管L2内を流れる温水によりサージタンク31内に導かれる。化学除染における第1段階処理S21は、図10に示すように過マンガン酸カリウムを用いた酸化除染処理である。なお、図10は、図1の化学除染(処理ステップS2)における一連の処理工程を示している。
過マンガン酸カリウムがサージタンク31内で水に溶解し、酸化除染液(過マンガン酸カリウム水溶液)が生成される。この酸化除染液は、循環ポンプP1の駆動によってサージタンク31から循環配管L1を経て再循環系配管22内に供給される。酸化除染液は、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜などの汚染物を酸化して溶解する。
図10において化学除染における第1段階処理(処理ステップS21)である過マンガン酸カリウム水溶液による酸化除染が終了した後、化学除染における第2段階処理であるシュウ酸水溶液による還元除染(処理ステップS22)が実施される。ここでは、エゼクタEJにつながっているホッパから、今度はシュウ酸をサージタンク31内に注入する。このシュウ酸によって酸化除染液に含まれている過マンガン酸カリウムが分解される。
その後、サージタンク31内で生成されてpHが調整された還元除染液(シュウ酸水溶液)は、循環ポンプP1によって再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に存在する腐食生成物の還元溶解を行う。尚このとき、酸性液注入装置87が機能して、還元除染液のpHを、薬液タンク40から循環配管L1内に供給されるヒドラジンによって調整する。酸性液注入装置87における還元除染液のpH制御は、pH検出器76の検出地を帰還して行う。
再循環系配管22から排出されて循環配管L1に戻された還元除染液の一部は、金属陽イオンを除去するために、必要な弁操作によりカチオン交換樹脂塔60に導かれる。
図10において化学除染における第2段階処理(処理ステップS22)であるシュウ酸水溶液による還元除染の終了後、化学除染における第3段階処理(処理ステップS23)である還元除染液の回収、分解を実施する。回収、分解工程では、弁V11を開いて弁V6の開度を調整し、循環配管L1内を流れる還元除染液の一部を分解装置64に供給する。この還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、酸化剤注入装置86内の薬液タンク46から弁V15,配管L11を通して分解装置64に導かれた過酸化水素、及び分解装置64内の活性炭触媒の作用によって分解される。
シュウ酸及びヒドラジンの分解後、弁V4を閉じて加熱器Hによる加熱を停止させ、同時に、弁V8を開いて除染液を冷却器Cで冷却する。冷却された除染液(例えば、60℃)が、不純物を除去するために、混床樹脂塔62に供給される。
以上が、図1の化学除染(処理ステップS2)における一連の処理工程である。この処理工程は、新設のプラント、例えば、新設の沸騰水型原子力発電プラントの配管(再循環系配管等)内にセリウムを含む粒子及び皮膜を形成する場合には、実施する必要がない。処理ステップS2の化学除染工程は、既設の沸騰水型原子力発電プラントの配管(再循環系配管等)内にセリウムを含む粒子及び皮膜を形成する場合に実施される。
部材の化学除染が終了した後、セリウムを含む粒子及び皮膜の形成処理が実行される。皮膜形成対象箇所の除染が終了した後、図1の処理ステップS3では形成水溶液の温度調整を行う。このため、皮膜形成対象箇所の除染終了後、すなわち、成膜装置30による最後の浄化運転が終了した後、以下の弁操作が行われる。
弁V7を開いて弁V3を閉じ、フィルタFへの通水を開始する。弁V5を開いて弁V10を閉じることにより、混床樹脂塔62への通水を停止する。さらに、弁V4を開いて加熱器Hによって循環配管L1内の水を所定温度まで加熱する。この状態で弁Vo,V6,V1及びViは開いており、上記以外の弁は閉じている。なお、フィルタFへの通水は、水中に残留している微細な固形物を除去し、この固形物の表面にもセリウムを含む粒子及び皮膜が形成されて薬剤が無駄に使用されることを防止するためである。
形成水溶液の温度は、再循環系配管22の内面に皮膜を形成している間、75℃程度に保持されることが好ましいが、この温度に限られない。要は原子炉の運転時における部材の腐食を抑制できる程度に、形成されたセリウムを含む粒子及び皮膜の結晶等の構造が緻密に形成できればよい。したがって、形成水溶液の温度は、再循環系配管22の最高使用温度以下、すなわち、280℃以下が好ましい。形成水溶液の温度は少なくとも200℃以下が好ましく、下限は20℃でもよいが、セリウムを含む粒子及び皮膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上が好ましい。100℃以上では形成水溶液の沸騰を抑制するため、加圧しなければならず仮設設備の耐圧性が要求されるようになり設備が大型化するため好ましくない。したがって、皮膜形成処理における形成水溶液の温度は、100℃以下がより好ましく、60℃以上100℃以下の範囲に含まれる温度に制御することが望ましい。
次に処理ステップS4では、セリウムイオンを含む薬液(第1薬剤)を形成水溶液に注入する。このとき、セリウムイオン注入装置85内の弁V12を開いて注入ポンプP3を駆動させ、セリウムイオン薬液(第1薬剤)を、薬液タンク45から、注入配管L8を通して、循環配管L1内を流れている水に注入する。ここで注入される第1薬剤は、例えば、炭酸セリウムを水で溶解して調整したセリウムイオンを含んでいる。
処理ステップS5では、酸化剤を形成水溶液に注入する。このとき、酸化剤注入装置86内の弁V13を開いて注入ポンプP4を駆動させ、酸化剤である過酸化水素を、薬液タンク46から注入配管L9を通して、循環配管L1内を流れているセリウムイオンを含む形成水溶液に注入する。酸化剤としては、過酸化水素以外に、過マンガン酸カリウムを用いてもよい。
処理ステップS5では、酸性の水溶液(第3薬剤)を形成水溶液に注入する。このとき、酸性液注入装置87内の弁V14を開いて注入ポンプP5を駆動することにより、酸性溶液(例えば、ギ酸水溶液)を、薬液タンク40から、注入配管L10を通して循環配管L1内を流れている形成水溶液に注入する。
この結果としてセリウムイオン(セリウムイオン注入装置85)、酸化剤(酸化剤注入装置86)、酸性溶液(酸性液注入装置87)を含む形成水溶液が、再循環系配管22内を流れるので、原子力プラントの構成部材である再循環系配管22の内面に吸着されたセリウムイオンが、酸化物である酸化セリウムに変化する。これにより、再循環系配管22の内面にセリウムを含む粒子及び皮膜(酸化セリウムの粒子及びこの皮膜)が形成される。
またこのとき、循環配管L1上では循環ポンプP1,P2が駆動されているので、セリウムイオン、酸化剤、酸性溶液を含む形成水溶液が、循環配管L1により、弁Voを介して再循環系配管22内に供給される。この形成水溶液は、再循環系配管22内を流れ、循環配管L1の弁Vi側へと戻される。
処理ステップS4〜S6の実施により、セリウムイオンが含まれた薬液(第1薬剤)、過酸化水素(第2薬剤)及び酸性溶液(第3薬剤)を含む形成水溶液が、再循環系配管22に供給されて再循環系配管22の内面に接触される。特に、ステップS4、S5及びS6における各薬剤の注入を、連続的に実施することが好ましい。
処理ステップS7では、セリウムを含む粒子及び皮膜の形成処理が完了したかが判定される。この判定は、セリウムを含む粒子及び皮膜の形成処理開始後の経過時間で行われる。この経過時間が再循環系配管22の内面に所定の厚みのセリウムを含む粒子及び皮膜を形成するのに要する時間になるまでの間は、処理ステップS7の判定は「NO」になる。処理ステップS4〜S6の操作が繰り返し行われる。処理ステップS7の判定が「YES」になったとき、制御装置(図示せず)が、注入ポンプP3、P4,P5を停止して(または弁V12,V13、V14)各薬剤の、循環している形成水溶液への注入を停止する。これによって、再循環系配管22の内面へのセリウムを含む粒子及び皮膜の形成作業が終了する。
セリウムイオンが含まれた薬液(第1薬剤)、過酸化水素(第2薬剤)及び酸性溶液(第3薬剤)の形成水溶液への注入は、設定厚みのセリウムを含む粒子及び皮膜が形成されるまで、継続して行われる。
その後、処理ステップS8では形成水溶液に含まれている薬剤の分解が実施される。再循環系配管22の内面へのセリウムを含む粒子及び皮膜の形成に使用された形成水溶液は、セリウムを含む粒子及び皮膜の形成が終了した後においても、有機酸であるギ酸を含んでいる。
形成水溶液に含まれたギ酸は、還元除染剤であるシュウ酸の分解と同様に、分解装置64で分解される。薬剤の分解処理では、弁V6,V11の開度を調整し、循環配管L1内の形成水溶液の一部を分解装置64に供給する。
また弁V15を開くことにより、過酸化水素が、薬液タンク46から配管L11を通して分解装置64に供給される。ギ酸は、分解装置64内で過酸化水素及び活性炭触媒の作用により分解される。ギ酸は二酸化炭素と水に分解する。形成水溶液に含まれている薬剤の分解が終了した後、循環配管L1が再循環系配管22から取り外され、弁Vo,Vi等が元通りに復旧される。これにより、沸騰水型原子力発電プラントの運転が開始できる状態になる。
なお、触媒を用いた分解装置64の替りに紫外線照射装置を用いることも可能である。紫外線照射装置も、酸化剤の存在下でヒドラジン、ギ酸及びシュウ酸を分解することができる。
ヒドラジン及びギ酸を分解装置64において上記のように気体及び水に分解することによって、カチオン交換樹脂塔60によるヒドラジン及び混床樹脂塔62によるギ酸の除去を回避できるので、カチオン交換樹脂塔60及び混床樹脂塔62内の使用済イオン交換樹脂の廃棄量を著しく低減できる。
本実施例は、セリウムを含む粒子及び皮膜の形成に必要な酸化剤及び形成水溶液に含まれたヒドラジン及びギ酸の分解時に使用する酸化剤として、同じ種類の過酸化水素を用いているので、酸化剤を充填する薬液タンク46及びそれを移送する注入ポンプP4を共用することができる。このため、成膜装置30の構造を簡素化することができる。
本実施例は、セリウムを含む粒子及び皮膜の形成に使用する薬剤に塩素を含む薬剤を用いていないため、沸騰水型原子力発電プラントの構成部材の健全性(例えば、耐腐食性)を害することがない。なお、薬剤の使用量を抑制するには、余分な反応生成物を分離除去して未反応薬剤を回収し、回収後の未反応薬剤を再利用することが好ましい。
本実施例では、再循環系配管22の内面にセリウム粒子が皮膜状に付着するので、再循環系配管22の内面への放射性核種、例えば、コバルト60の付着を抑制することができる。さらに、本実施例では、セリウムイオン、過酸化水素(酸化剤)及びギ酸(第3薬剤)を含む水溶液を再循環系配管22の内面に接触させるので、再循環系配管22の内面に所定厚みのセリウムが付着するまでの施工時間を短縮することができる。
本実施例では、ステンレス鋼製の再循環系配管22の内面に酸化セリウムの粒子を付着させることにより、再循環系配管22の内面に、再循環系配管22の母材の組成である鉄、クロム、ニッケル及びセリウムの酸化物から成る不動態膜が形成される。
本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラントの構成部材への放射性核種付着抑制方法を、図11、図12及び図13を用いて説明する。本実施例は、沸騰水型原子力発電プラントの、ステンレス鋼部材及び炭素鋼部材を有する給水配管に適用される。
本実施例の原子力プラントの構成部材への放射性核種付着抑制方法では、図13に示す成膜装置30Aをその給水配管に接続し、図11に示す手順に基づいた処理が実行される。
本実施例の原子力プラントの構成部材への放射性核種付着抑制方法で実行される図11に示された手順は、実施例1の原子力プラントの構成部材への放射性核種付着抑制方法で実行される図1に示された手順のうち処理ステップS5(酸化剤注入)及びS6(酸性溶液注入)を処理ステップS9(pH調整剤注入)に替えた手順になっている。本実施例の手順で実行される他の処理ステップは実施例1の手順で実行される処理ステップと同じである。
本実施例で用いられる成膜装置30Aは、実施例1で用いられる成膜装置30において酸性液注入装置87を除去してpH調整剤注入装置88を追加した構成を有し、さらに、酸化剤注入装置86の配管L11を、循環配管L1に直接接続しないで分解装置64の上流で配管L7に直接接続している。成膜装置30Aの他の構成は成膜装置30と同じである。
pH調整剤注入装置88は、薬液タンク47、注入ポンプP6及び注入配管L13を有する。薬液タンク47は、注入ポンプP6及び弁V15を有する注入配管L13によって循環配管L1に接続される。薬液タンク47には、pH調整剤である例えばヒドラジンが充填されている。
本実施例の原子力プラントの構成部材への放射性核種付着抑制方法の手順を、図11を基づいて説明する。沸騰水型原子力発電プラントの運転が停止された後に、図11に示された処理ステップS1〜S8のそれぞれの工程が実施される。処理ステップS1では、成膜装置30Aの循環配管L1の一端部を、復水浄化装置6と給水ポンプの間で給水配管に設けられた弁V16のボンネットを開放し、成膜装置30Aの循環配管L1の一端部を給水ポンプ7側の給水配管10のフランジに接続する。成膜装置30Aの循環配管L1の一端部を、浄化系配管20と給水配管10の接続点より上流で高圧給水加熱器9よりも下流で給水配管10に接続する。その後、実施例1と同様に、処理ステップS2,S3及びS4をそれぞれ実施する。
pH調整剤を注入する(処理ステップS9)。セリウムイオンを含む薬液(第1薬剤)を、セリウムイオン注入装置85の薬液タンク45から循環配管L1内を流れる75℃の水に注入されて、セリウムイオンを含む水溶液が注入配管L13と給水配管10の接続点に達したとき、pH調整剤注入装置88からpH調整剤であるヒドラジンが、注入配管L1に注入される。ヒドラジンの注入は、弁V15を開いて注入ポンプP6を駆動することにより、薬液タンク47から配管L13を通して行われる。ヒドラジンの注入により、循環配管L1内でセリウムイオン及びヒドラジンを含む水溶液である75℃の形成水溶液が生成される。ヒドラジンの注入により、その形成水溶液のpHを6〜9.5の範囲内のpH、例えば、pH7に調節する。形成水溶液のpHが6以上になると、酸化セリウムの粒子が生成される。
セリウムイオン及びヒドラジンを含む形成水溶液が、循環配管L1から給水配管10内に供給される。形成水溶液が給水配管10の内面に接触し、pH7の形成水溶液に含まれるセリウムイオンが酸化セリウムとしてこの内面に析出しやすくなる。このため、酸化セリウム粒子が給水配管10の内面に付着する。給水配管10内の形成水溶液は、高圧給水加熱器9の下流で循環配管L1に排出され、循環ポンプP2,P1により昇圧される。セリウムイオン注入装置85からセリウムイオンを含む薬液、及びpH調整剤注入装置88からのヒドラジンがこの形成水溶液に注入され、形成水溶液は再び給水配管10に供給される。
処理ステップS7で、給水配管10の内面にセリウム粒子が所定の厚みに付着したかが、実施例1と同様に、判定される。所定の厚みの酸化セリウム粒子が付着したとき、弁V12が閉じられて注入ポンプP3が停止され、セリウムイオンを含む薬液の循環配管L1への注入が停止される。また、弁V15が閉じられて注入ポンプP6が停止され、ヒドラジンの循環配管L1への注入が停止される。その後、処理ステップS8において、ヒドラジンの分解装置64での分解が実施例1と同様に行われる。なお、形成水溶液に残留しているセリウムイオンは、カチオン交換樹脂塔60及び混床樹脂塔62で除去される。
処理ステップS8の処理が終了した後、給水配管10及び循環配管l1のそれぞれの内部に存在する水溶液が放射性廃棄物処理設備に排出されて処理される。その後、循環配管L1が給水配管10から取り外され、沸騰水型原子力発電プラントが起動される。
pH調整剤として、ヒドラジンの替りにアンモニアを用いてもよい。
給水配管10はステンレス鋼で構成された部分(ステンレス鋼部材)及び炭素鋼で構成された部分(炭素鋼部材)を有するため、実施例1で用いる酸性溶液を使用した場合には、特に、炭素鋼部材の給水に接触する母材表面が酸性溶液により溶解して、セリウム粒子の付着が不可能になる。このため、本実施例では、酸化剤及び酸性溶液の替りにpH調整剤を用いることによって、原子力プラントの構成部材である給水配管10の母材表面の溶解を抑制し、給水配管10の炭素鋼部材の内面にもセリウム粒子を付着させることができる。
セリウムイオン及びpH調整剤であるヒドラジンを含む形成水溶液を給水配管10の内面に接触させるので、再循環系配管22の内面に所定厚みの酸化セリウムが付着するまでの施工時間を、実施例1よりもさらに短縮することができる。ヒドラジンを用いて形成水溶液のpHを6以上にすると、セリウムイオンを酸化セリウムにすることができ、酸化セリウムが給水配管10の内面に付着しやすくなる。
本実施例によれば、実施例2で生じる各効果を得ることができる。実施例1では酸化剤及び酸性溶液(例えば、ギ酸水溶液)を使用しているため、形成水溶液のギ酸濃度が高くなって形成水溶液のpHが小さくなりすぎると(pHが5.5未満になると)、炭素鋼製の給水配管10が溶解するという問題が発生する可能性がある。しかしながら、本実施例では、実施例1等のように酸化剤及び酸性溶液(例えば、ギ酸水溶液)を注入していないので、給水配管10の内面が溶解するという問題が発生しない。なお、酸化剤及び酸性溶液(例えば、ギ酸水溶液)を注入する実施例1等の前述の各実施例では、ギ酸水溶液の注入量を調節し、セリウムイオン、酸化剤及び酸性溶液(例えば、ギ酸水溶液)を含む形成水溶液のpHを5.5以上にする必要がある。