以下に、本発明の実施形態に係る潤滑制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[第1実施形態]
図1から図11を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、潤滑制御装置に関する。図1は、本発明の第1実施形態に係る変速機を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の潤滑制御装置1は、オイルポンプ62と、変速機油路63と、油温調節回路4と、を含む。潤滑制御装置1は、更に、制御部50を含んでもよい。図1に示す変速機3は、動力源としてエンジン2(図4参照)を有する車両100に搭載されている。本実施形態の変速機3は、有段式の自動変速機である。変速機3は、係合装置としてクラッチやブレーキを有している。変速機3は、係合状態とされる係合装置の組み合わせに応じた変速比でエンジン2の回転を駆動輪に伝達する。図1に示すように、変速機3は、潤滑制御装置1と、AT変速制御部64と、トルクコンバータ7と、オイルパン61を含んで構成されている。
変速機3のオイルパン61には、トランスミッションオイル6が貯留されている。トランスミッションオイル6は、変速機3のオイルであり、変速機3の各部を循環する。オイルポンプ62は、オイルパン61に貯留されているトランスミッションオイル6を吸引し、加圧して送り出す。オイルポンプ62によって送り出されたトランスミッションオイル6は、変速機3内を循環した後にオイルパン61に戻される。
変速機油路63は、オイルポンプ62によって送り出されたトランスミッションオイル6が流れる油路である。変速機油路63は、吸入油路63a、吐出油路63b、第一油路63c、第二油路63d、第三油路63e、第四油路63f、第五油路63g、係合側供給油路63h、解放側供給油路63i、潤滑系油路63jおよび戻し油路63kを有する。
吸入油路63aは、オイルパン61とオイルポンプ62の吸入ポートとを接続する。吐出油路63bは、オイルポンプ62の吐出ポートに接続されている。吐出油路63bは、AT変速制御部64に接続されている。AT変速制御部64は、変速機3の各係合装置に対して供給する油圧を制御する。プライマリレギュレータバルブ65は、吐出油路63bの油圧を所定のライン圧に調圧する。プライマリレギュレータバルブ65は、吐出油路63bおよび第一油路63cにそれぞれ接続されている。調圧の結果として余剰となったトランスミッションオイル6は、プライマリレギュレータバルブ65から第一油路63cに排出される。
第一油路63cにおけるプライマリレギュレータバルブ65側と反対側の端部には、第二油路63dおよび第三油路63eが接続されている。第三油路63eには、セカンダリレギュレータバルブ66が配置されている。セカンダリレギュレータバルブ66は、第一油路63c、第二油路63dおよび第三油路63eの油圧をライン圧以下の所定の目標圧に調圧する。調圧の結果として余剰となったトランスミッションオイル6は、セカンダリレギュレータバルブ66から第五油路63gに排出される。第二油路63dにおける下流側には、ロックアップコントロールバルブ67が配置されている。ロックアップコントロールバルブ67は、第二油路63dおよび第四油路63fと接続されており、第四油路63fに供給する油圧を制御する。ロックアップコントロールバルブ67は、第二油路63dの圧力をロックアップクラッチ7aにおいて必要とされる油圧に調圧して第四油路63fに供給する。
ロックアップリレーバルブ68は、トルクコンバータ7が有するロックアップクラッチ7aの解放、係合の切り替えを制御する。ロックアップリレーバルブ68は、第四油路63f、第五油路63g、係合側供給油路63h、解放側供給油路63iおよび潤滑系油路63jとそれぞれ接続されている。係合側供給油路63hおよび解放側供給油路63iは、トルクコンバータ7への供給油路である。係合側供給油路63hは、ロックアップクラッチ7aを係合させる向きの油圧を発生させる係合油圧室に接続されている。係合側供給油路63hを介してトルクコンバータ7の係合油圧室に供給される油圧は、ロックアップクラッチ7aの入力側の摩擦係合要素と出力側の摩擦係合要素を係合させる押圧力を発生させる。係合側供給油路63hを介してトルクコンバータ7に供給される油圧は、例えば、ロックアップピストンを係合方向に押圧してロックアップクラッチ7aを係合させる。
解放側供給油路63iは、ロックアップクラッチ7aを解放させる向きの油圧を発生させる解放油圧室に接続されている。解放側供給油路63iを介してトルクコンバータ7の解放油圧室に供給される油圧は、ロックアップクラッチ7aの入力側の摩擦係合要素と出力側の摩擦係合要素とを離間させる押圧力を発生させる。解放側供給油路63iを介してトルクコンバータ7に供給される油圧は、例えば、ロックアップピストンを解放方向に押圧してロックアップクラッチ7aを解放させる。
潤滑系油路63jは、トルクコンバータチェックバルブ70を介して油温調節回路4に接続されている。トルクコンバータチェックバルブ70は、トルクコンバータ7側から油温調節回路4側へのトランスミッションオイル6の流れを許容し、油温調節回路4側からトルクコンバータ7側へのトランスミッションオイル6の流れを規制する。トルクコンバータチェックバルブ70は、油温調節回路4側の油圧と比べてトルクコンバータ7側の油圧が所定圧以上高い場合に開弁する。
第五油路63gには、戻し油路63kが接続されている。戻し油路63kは、第五油路63gと吸入油路63aとを接続している。戻し油路63kは、オイルポンプ62によって変速機油路63を介して圧送されるトランスミッションオイル6のうち、余剰分を吸入油路63aに供給する油路である。戻し油路63kには、チェックバルブ72が配置されている。チェックバルブ72は、油温調節回路4へトランスミッションオイル6が流れるように、第五油路63gの油圧を調圧する。例えば、チェックバルブ72の開弁圧は、トルクコンバータチェックバルブ70の開弁圧よりも高くされる。
制御部50は、電子制御ユニット等の制御装置であり、変速機3を制御する。制御部50は、プライマリレギュレータバルブ65、セカンダリレギュレータバルブ66、ロックアップコントロールバルブ67およびロックアップリレーバルブ68を制御する。また、制御部50は、AT変速制御部64によって変速機3の変速を制御する。制御部50には、油温センサ51が接続されている。油温センサ51は、トランスミッションオイル6の温度を検出する。油温センサ51は、例えば、吐出油路63bのトランスミッションオイル6の油温を検出する。以下の説明では、トランスミッションオイル6の温度を「T/M油温」とも称する。
図2を参照して、ロックアップクラッチ7aの解放状態におけるトランスミッションオイル6の流れについて説明する。ロックアップクラッチ7aを解放する場合、制御部50は、ロックアップリレーバルブ68に対してロックアップ解放指令を行う。ロックアップリレーバルブ68は、ロックアップ解放指令に基づき、図2に示すように第四油路63fと解放側供給油路63iを連通し、かつ係合側供給油路63hと潤滑系油路63jを連通する。これにより、図2に示すように、ロックアップコントロールバルブ67によって調圧されたトランスミッションオイル6は、ロックアップリレーバルブ68および解放側供給油路63iを介してトルクコンバータ7に流入する。その結果、ロックアップクラッチ7aは解放する。トルクコンバータ7内のトランスミッションオイル6は、係合側供給油路63hからロックアップリレーバルブ68を介して潤滑系油路63jに流出する。
制御部50は、T/M油温がロックアップ許可温度未満である場合、ロックアップクラッチ7aの係合を禁止し、ロックアップクラッチ7aを解放状態とする。制御部50は、例えば、油温センサ51によって検出された温度をロックアップ許可温度と比較して、その比較結果に基づいてロックアップクラッチ7aの係合を禁止するか許可するかを決定する。
図3を参照して、ロックアップクラッチ7aの係合状態におけるトランスミッションオイル6の流れについて説明する。制御部50は、T/M油温がロックアップ許可温度以上であると、ロックアップクラッチ7aの係合を許可する。制御部50は、ロックアップクラッチ7aを係合する場合、ロックアップリレーバルブ68に対してロックアップ係合指令を行う。ロックアップリレーバルブ68は、ロックアップ係合指令に基づき、第四油路63fと係合側供給油路63hを連通し、かつ第五油路63gと潤滑系油路63jとを連通する。これにより、図3に示すように、ロックアップコントロールバルブ67によって調圧されたトランスミッションオイル6は、ロックアップリレーバルブ68および係合側供給油路63hを介してトルクコンバータ7に流入し、ロックアップクラッチ7aを係合させる。
図4を参照して、油温調節回路4について説明する。図4に示すように、油温調節回路4は、潤滑油路40と、環流油路41と、熱交換器42と、制御バルブ45を含む。潤滑系油路63jは、トルクコンバータチェックバルブ70よりも下流側において、潤滑油路40と環流油路41とに分岐している。潤滑油路40は、変速機3の被潤滑部46にトランスミッションオイル6を導く油路である。潤滑油路40は、被潤滑部46を介してオイルパン61に接続されている。被潤滑部46に導かれたトランスミッションオイル6は、被潤滑部46を経由して流れる際に、被潤滑部46を潤滑し、被潤滑部46と熱交換してからオイルパン61へ流入する。つまり、潤滑油路40は、被潤滑部46を経由させてオイルパン61にトランスミッションオイル6を導く油路である。環流油路41は、熱交換器42および被潤滑部46を迂回してオイルパン61にトランスミッションオイル6を導く油路、言い換えると、オイルパン61にオイルを環流させる油路である。
熱交換器42は、潤滑油路40に配置され、エンジン2内を循環する液状媒体と潤滑油路40を流れるトランスミッションオイル6との熱交換を行う。熱交換器42は、潤滑系油路63jと被潤滑部46との間に介在しており、潤滑系油路63jから被潤滑部46へ流れるトランスミッションオイル6の温度を調節する。本実施形態の熱交換器42は、後述するエンジンオイル5とトランスミッションオイル6との熱交換を行う。熱交換器42は、変速機3の暖機中など、トランスミッションオイル6の温度がエンジンオイル5の温度よりも低温である場合、トランスミッションオイル6の温度を上昇させるオイルウォーマーとして機能する。一方、熱交換器42は、変速機3の暖機完了後など、トランスミッションオイル6の温度がエンジンオイル5の温度よりも高温である場合、トランスミッションオイル6の温度を低下させるオイルクーラーとして機能する。
被潤滑部46は、例えば、変速機3のギヤの噛み合い部であり、典型的には、遊星歯車機構のギヤの噛み合い部や、デファレンシャルギヤの噛み合い部である。エンジン2は、エンジン2内を循環する液状媒体として、エンジンオイル5および冷却水9を有している。エンジンオイル5は、エンジンオイルポンプによって送り出されてエンジン2内を循環する。エンジンオイル5は、エンジン2の各部を潤滑および冷却する。冷却水9は、ウォーターポンプによって送り出されてエンジン2内を循環する。また、冷却水9の水温が一定以上の温度となると、冷却水9はラジエータによって冷却される。
熱交換器42には、第一入口油路42a、第一出口油路42b、第二入口油路42cおよび第二出口油路42dがそれぞれ接続されている。第一入口油路42aは、潤滑油路40における潤滑系油路63j側と接続されている。第一出口油路42bは、潤滑油路40における被潤滑部46側と接続されている。潤滑系油路63jから潤滑油路40に流入したトランスミッションオイル6は、第一入口油路42aを介して熱交換器42に流入し、第一出口油路42bを介して熱交換器42から流出する。熱交換器42から流出したトランスミッションオイル6は、潤滑油路40によって被潤滑部46に導かれる。エンジンオイル5は、第二入口油路42cを介してエンジン2から熱交換器42に流入し、第二出口油路42dを介して熱交換器42からエンジン2へ流出する。
バイパス油路43は、熱交換器42を迂回させて被潤滑部46にトランスミッションオイル6を導く油路である。バイパス油路43は、潤滑油路40における熱交換器42よりも潤滑系油路63j側と被潤滑部46側とを連通している。バイパス油路43には、バイパスバルブ44が配置されている。本実施形態のバイパスバルブ44は、圧力差に応じて開閉するチェックバルブである。バイパスバルブ44は、バイパス油路43における潤滑系油路63j側の圧力が被潤滑部46側の圧力よりも所定圧以上高い場合に開弁する。開弁状態のバイパスバルブ44は、潤滑系油路63jから潤滑油路40に流入するトランスミッションオイル6の少なくとも一部を、熱交換器42を迂回して被潤滑部46へ供給する。一方、閉弁状態のバイパスバルブ44は、潤滑系油路63jから潤滑油路40に流入するトランスミッションオイル6の全量を、熱交換器42を経由して被潤滑部46へ供給する。
制御バルブ45は、変速機油路63から潤滑油路40へ流れるトランスミッションオイル6の流量を調節する。本実施形態の制御バルブ45は、環流油路41に配置されている。本実施形態の制御バルブ45は、電磁式のアクチュエータを有しており、制御信号に応じて全開状態あるいは全閉状態に切り替わる開閉弁である。以下の説明では、潤滑系油路63jから潤滑油路40へ流れるトランスミッションオイル6の流量を供給油量V1[L/min]と称し、潤滑系油路63jから環流油路41へ流れるトランスミッションオイル6の流量を排出油量V2[L/min]と称する。
制御バルブ45は、全開状態である場合、供給油量V1の値を制御バルブ45によって調節可能な最小流量とする。制御バルブ45は、全閉状態である場合、供給油量V1の値を制御バルブ45によって調節可能な最大流量とする。全閉状態にある制御バルブ45は、排出油量V2の値を実質的に0として、潤滑系油路63jのトランスミッションオイル6を全て潤滑油路40に流す。
本実施形態の制御部50は、トランスミッションオイル6の温度(T/M油温)に応じて制御バルブ45の開閉状態を制御する。
熱交換器42において交換される熱交換量について説明する。以下の説明では、熱交換器42の入口側のT/M油温を「入口側油温Tin」と称し、熱交換器42の出口側のT/M油温を「出口側油温Tout」と称する。出口側油温Toutは、例えば、下記[数1]によって算出される。
ここで、熱交換量Q(V1)[W]は、熱交換器42においてエンジンオイル5とトランスミッションオイル6との間で交換される単位時間あたりの熱量、密度ρはトランスミッションオイル6の密度、比熱cはトランスミッションオイル6の比熱である。
熱交換量Q(V1)は、供給油量V1の関数であり、下記[数2]と表すことができる。
ここで、係数αおよびβは、熱交換器42の形状、熱交換の相手方の流体(本実施形態では、エンジンオイル5)の流量、熱交換する2つの流体の温度差ΔT等によって決まる。例えば、図5に示すように、同じ供給油量V1の値に対して、エンジンオイル5の流量が増加するに従って熱交換器42における熱交換量Qが増加する。つまり、エンジンオイル5の流量の増加に従って係数αが増加する。
図6には、エンジン回転Neおよび温度差ΔTと、係数αおよびβとの関係が示されている。図6の横軸は、エンジン油温Tengと入口側油温Tinとの温度差ΔTを示し、縦軸は、エンジン回転数Neを示す。本実施形態の車両100は、エンジン2の回転によって駆動されるメカオイルポンプによってエンジンオイル5を循環させる。エンジンオイル5の流量はエンジン回転数Neに略比例するため、縦軸はエンジンオイル5の流量を示しているともいえる。図6に示すように、係数α、βは、エンジンオイル5の流量の増加に応じて増加すると共に、温度差ΔTの増加に応じて増加する。
本実施形態の熱交換器42では、供給油量V1が減少するに従って、通過前後の油温の変化量(Tout−Tin)が増加する。なお、このような特性は、本実施形態の熱交換器42に限らず、従来の熱交換器が一般的に有する特性である。
(損失トルクの低減量)
T/M油温の上昇による損失トルクの低減量について説明する。被潤滑部46に対して供給するトランスミッションオイル6の温度T
LUBの単位上昇量あたりの変速機3の損失トルクTQ
lossの減少量は、下記[数3]で表される。以下の説明では、被潤滑部46に対して供給するトランスミッションオイル6の温度T
LUBを単に「被潤滑部油温T
LUB」と称する。
オイルパン61全体のトランスミッションオイル6の温度(平均温度)T
V/Bの単位上昇量あたりの変速機3の損失トルクTQ
lossの減少量は、下記[数4]で表される。以下の説明では、オイルパン61全体のトランスミッションオイル6の温度T
V/Bを単に「オイルパン油温T
V/B」と称する。
上記[数1]乃至[数4]から、熱交換器42にトランスミッションオイル6を供給油量V1で流入させた場合の変速機3の損失トルクTQ
lossの減少量の合計ΔTQ
lossは、下記[数5]によって表される。以下の説明では、損失トルクTQ
lossの減少量の合計ΔTQ
lossを「合計損失トルク低減量ΔTQ
loss」と称する。
ここで、V
allは、変速機3が有するトランスミッションオイル6の総量[L]である。
次に、主として被潤滑部油温TLUBに応じて変化する損失トルクおよび主としてオイルパン油温TV/Bに応じて変化する損失トルクについて説明する。図7には、本実施形態の有段式の変速機3の各部における損失が示されている。図7において、LP(40)およびLP(80)は、オイルポンプ62における損失トルクを示し、LG(40)およびLG(80)は、被潤滑部46における損失トルクを示す。各損失トルクにおいて、括弧内の数字は、供給されるトランスミッションオイル6の温度を示す。例えば、損失トルクLP(40)は、オイルパン油温TV/Bが40[℃]である場合のオイルポンプ62の損失トルクを示し、損失トルクLG(80)は、被潤滑部油温TLUBが80[℃]である場合の被潤滑部46の損失トルクを示す。図7に示すように、オイルポンプ62の損失トルクLPおよび被潤滑部46の損失トルクLPは、それぞれT/M油温の上昇に応じて低減する。同じ温度のT/M油温の上昇に対して、被潤滑部46の損失トルクLGの低減量ΔLGは、オイルポンプ62の損失トルクLGの低減量ΔLPよりも大きい。
本実施形態の潤滑制御装置1は、変速機3の暖機中に熱交換器42への供給油量V1を低減して被潤滑部油温TLUBを上昇させることにより、変速機3の合計損失トルク低減量ΔTQlossを向上させる。具体的には、制御部50は、T/M油温が第一温度To1未満である場合、制御バルブ45を全開状態とする。ここで、第一温度To1は、変速機3の暖機完了と判定されるT/M油温の閾値である。制御バルブ45が全開状態であると、全閉状態である場合と比較して、供給油量V1が少なくなる。これにより、制御バルブ45が全開状態であると、全閉状態である場合よりも、入口側油温Tinに対する出口側油温Toutの上昇量が大きくなる。従って、制御バルブ45を全開状態とすることで、被潤滑部油温TLUBを早期に上昇させて変速機3の全体的な損失トルク低減量を大きくすることができる。
本実施形態の潤滑制御装置1では、変速機3の暖機中に制御バルブ45を全開状態とした場合に、制御バルブ45を全閉状態とするよりも合計損失トルク低減量ΔTQlossを効果的に向上させるように制御バルブ45が構成されている。すなわち、T/M油温が第一温度To1未満である場合に、制御バルブ45を全開状態とした場合の合計損失トルク低減量ΔTQlossの値が制御バルブ45を全閉状態とした場合の合計損失トルク低減量ΔTQlossの値よりも大きく、かつ合計損失トルク低減量ΔTQlossの差が可能な限り大きくなるように、全開状態における制御バルブ45の流路抵抗が設定されている。
また、本実施形態の制御バルブ45は、T/M油温が第一温度To1よりも低い第二温度To2未満である場合、オイルパン油温TV/Bの上昇を被潤滑部油温TLUBの上昇よりも優先する。これにより、以下に説明するように、車両100の燃費を向上させることができる。
第二温度To2は、所定制御が許可される下限のT/M油温である。所定制御は、変速機3が搭載された車両100の燃料消費量を低減させる省エネルギー制御であり、例えば、減速S&S制御、フリーラン制御、ロックアップ制御、フレックスロックアップ制御等である。減速S&S制御は、制動時などの車両100の減速時に、自動的にエンジン2を停止させ、かつ所定の条件に基づいて自動的にエンジン2を再始動する制御である。フリーラン制御は、エンジン2と車輪との動力伝達を遮断し、エンジン2を停止した状態で車両100を走行させる制御である。ロックアップ制御は、車速等に基づいてロックアップクラッチ7aを係合する制御である。フレックスロックアップ制御は、車速等に基づいてロックアップクラッチ7aをスリップ係合させる制御である。ロックアップ制御やフレックスロックアップ制御は、エンジン2と車輪との伝達効率を向上させることにより、燃料消費量を低減させる。
所定制御は、T/M油温が第二温度To2以上である場合に許可される。例えば、減速S&S制御やフリーラン制御を実行する車両100では、エンジン2が停止している間の油圧を確保するために、メカオイルポンプに加えて、電動オイルポンプが配置されている。T/M油温が低温であると電動オイルポンプの負荷が大きくなるため、T/M油温が第二温度To2以上となるまで、減速S&S制御やフリーラン制御は許可されない。なお、第二温度To2は、所定制御のそれぞれの制御によって異なっていてもよい。例えば、フリーラン制御が許可される下限のT/M油温と、ロックアップ制御が許可される下限のT/M油温とは異なる温度であってもよい。
制御部50は、T/M油温が第二温度To2未満である場合、制御バルブ45を全閉状態とする。制御バルブ45が全閉状態とされることで、潤滑系油路63j内のトランスミッションオイル6は、全て潤滑油路40から熱交換器42へ流入する。これにより、制御バルブ45が全開状態である場合と比較して、供給油量V1が多くなり、エンジンオイル5からトランスミッションオイル6へ与えられる熱量Q[W]が多くなる。つまり、制御バルブ45が全閉状態とされることで、制御バルブ45が全開状態である場合よりも変速機3内の全トランスミッションオイル6の温度上昇が速くなる。よって、所定制御が許可される時期が早まり、車両100の効率が向上する。
図8および図9を参照して、本実施形態の潤滑制御装置1の動作について説明する。図8に示すフローチャートは、所定の間隔で繰り返し実行される。図9のタイムチャートには、(a)油水温、および(b)制御バルブの開閉状態が示されている。(a)の欄には、エンジン水温Tw、エンジン油温Teng、被潤滑部油温TLUB、本実施形態のオイルパン油温TV/B、および比較用のオイルパン油温TV/B0が示されている。比較用のオイルパン油温TV/B0は、T/M油温が第二温度To2以上となった後も制御バルブ45を全閉状態とし続けた場合のオイルパン61の油温の推移を示している。
ステップS10において、制御部50は、T/M油温が第一温度To1未満であるか否かを判定する。判定対象のT/M油温は、例えば、油温センサ51によって検出されたT/M油温である。図9に示す時間範囲では、T/M油温(オイルパン油温TV/B)が第一温度To1未満であり、ステップS10で肯定判定がなされる。ステップS10でT/M油温が第一温度To1未満であると肯定判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS20に進み、否定判定された場合(ステップS10−N)はステップS40に進む。
ステップS20において、制御部50は、T/M油温が第二温度To2以上であるか否かを判定する。ステップS20でT/M油温が第二温度To2以上であると判定された場合(ステップS20−Y)にはステップS30に進み、否定判定された場合(ステップS20−N)にはステップS40に進む。
ステップS30において、制御部50は、制御バルブ45を全開状態とする。図9では、時刻t1にT/M油温が第二温度To2に到達して、ステップS20で肯定判定がなされる。従って、制御部50は、時刻t1に制御バルブ45に対して、全開状態とする指令を出力する。制御バルブ45が全開状態となることで、被潤滑部油温TLUBの温度上昇が促進される。ステップS30が実行されると、制御プロセスが終了する。
ステップS40において、制御部50は、制御バルブ45を全閉状態とする。制御部50は、制御バルブ45に対して、全閉状態とする指令を出力する。制御バルブ45が全閉状態となることで、潤滑系油路63j内のトランスミッションオイル6は、全て潤滑油路40に流入する。図9では、時刻t1までの間はT/M油温(オイルパン油温TV/B)が第二温度To2未満であり、ステップS20で否定判定がなされる。これにより、時刻t1までの間は制御バルブ45が全閉状態とされて、オイルパン油温TV/Bの上昇が促進される。よって、変速機3全体のT/M油温の上昇速度が速くなり、所定制御の実行開始時期が早まるという利点がある。ステップS40が実行されると、制御プロセスが終了する。
図10を参照して、本実施形態の潤滑制御装置1が制御バルブ45を全開状態とすることによる効果について説明する。図10には、T/M油温が第二温度To2以上となった場合に、(a)制御バルブ45が全開状態とされる場合(本実施形態)と、(b)制御バルブ45が全閉状態とされる場合(比較例)の損失トルクの変化が示されている。なお、損失トルクの変化前後において、相対的に左側の棒グラフには、T/M油温が第二温度To2となったとき(図9の時刻t1)における損失トルクの値が示されており、相対的に右側の棒グラフには、T/M油温が第二温度To2以上となった後の平均損失トルクの値が示されている。
各棒グラフには、オイルポンプ62の損失トルクLPおよび被潤滑部46の損失トルクLGが示されている。図10に示すように、本実施形態のようにT/M油温が第二温度To2以上となった場合に制御バルブ45が全開状態とされることで、全閉状態とされる比較例よりも、T/M油温が第二温度To2以上となった後の平均損失トルクが小さくなる。よって、本実施形態の潤滑制御装置1は、所定制御が実行可能となった後の変速機3の損失トルクを低減することができる。
図11を参照して、本実施形態の潤滑制御装置1が所定制御の開始を早めることによる効果について説明する。図11には、T/M油温が第二温度To2未満である場合に、(a)制御バルブ45が全閉状態とされる場合(本実施形態)と、(b)制御バルブ45が全開状態とされる場合(比較例)の燃料消費量が示されている。T/M油温が第二温度To2以上となった後は、それぞれ制御バルブ45が全開状態とされる。それぞれの燃料消費量は、LA4の走行モードで車両100が走行した場合に消費される量である。図11に示す実験結果では、本実施形態の制御により、所定制御の開始時期が早められることで約6%の燃費削減効果が確認された。
以上説明したように、本実施形態の潤滑制御装置1の制御バルブ45は、T/M油温が第一温度To1未満である場合(ステップS10−Y)、変速機油路63から潤滑油路40へ流れるトランスミッションオイル6の流量を制御バルブ45によって調節可能な最大流量よりも少なくする(ステップS30)。これにより、被潤滑部46に供給されるトランスミッションオイル6の温度上昇が促進され、変速機3の損失が低減される。
本実施形態の制御バルブ45は、T/M油温が第一温度To1未満である場合、変速機油路63から潤滑油路40へ流れるトランスミッションオイル6の流量を制御バルブ45によって調節可能な最小流量とする。制御バルブ45は、全開状態となることによって、供給油量V1を調節可能な最小流量とする。供給油量V1が最小流量とされることにより、被潤滑部46に供給されるトランスミッションオイル6の温度上昇速度が最大となり、変速機3の損失が効果的に低減される。
本実施形態の制御バルブ45は、T/M油温が第一温度To1よりも低い第二温度To2未満である場合(ステップS20−Y)、T/M油温が第二温度To2以上である場合(ステップS30)よりも変速機油路63から潤滑油路40へ流れるトランスミッションオイル6の流量を多くする(ステップS40)。言い換えると、T/M油温が第一温度To1未満であっても、T/M油温が上昇して第二温度To2に到達するまでの間は、オイルパン油温TV/Bの上昇が被潤滑部油温TLUBの上昇よりも優先される。これにより、所定制御の実行が許可されるタイミングが早められ、車両100の損失低減および燃費の向上が可能となる。
本実施形態の制御バルブ45は、T/M油温が第二温度To2未満である場合、変速機油路63から潤滑油路40へ流れるトランスミッションオイル6の流量を制御バルブ45によって調節可能な最大流量とする。制御バルブ45は、閉弁することにより、供給油量V1を最大流量とする。供給油量V1が最大流量とされることにより、熱交換器42において交換される熱量Qが最大となり、所定制御の開始時期が早められる。
[第1実施形態の第1変形例]
第1実施形態の第1変形例について説明する。図12は、第1実施形態の第1変形例に係る動作を示すフローチャート、図13は、第1実施形態の第1変形例に係るバルブ制御マップ、図14は、第1実施形態の第1変形例に係るタイムチャートである。本変形例において上記第1実施形態と異なる点は、熱交換によってトランスミッションオイル6が得ることのできる最大熱量Qmax[W]に基づいて制御バルブ45の開閉制御がなされる点である。最大熱量Qmaxは、熱交換器42における熱交換によってトランスミッションオイル6が得ることのできる熱量Qの最大値である。言い換えると、最大熱量Qmaxは、供給油量V1を制御バルブ45によって調節可能な最大流量とした場合に熱交換器42においてトランスミッションオイル6がエンジンオイル5から得る熱量Qである。
図12に示すフローチャートにおいて、上記第1実施形態のフローチャート(図8)と異なる点は、ステップS20とステップS30との間に、ステップS25が設けられている点である。ステップS10,S30,S40については、上記第1実施形態と同様である。
本変形例のフローチャートでは、ステップS20で肯定判定がなされた場合(ステップS20−Y)にステップS25に進む。ステップS25において、制御部50は、温度差ΔTが閾値ΔT1以上であり、かつエンジン回転数Neが閾値Ne1以上であるか否かを判定する。ステップS25では、熱交換器42における熱交換によってトランスミッションオイル6が得ることのできる最大熱量が所定値以上であるか否かが判定される。本実施形態の潤滑制御装置1では、図13に示すように制御バルブ45の閉領域および開領域が定められている。図13において、横軸は温度差ΔT、縦軸はエンジン回転数Neを示す。温度差ΔTが閾値ΔT1以上、かつエンジン回転数Neが閾値Ne1以上である領域は、制御バルブ45を全閉状態とする閉領域である。一方、温度差ΔTが閾値ΔT1未満である領域、およびエンジン回転数Neが閾値Ne1未満である領域は、制御バルブ45を全開状態とする開領域である。
閾値ΔT1およびNe1は、最大熱量Qmaxが所定値以上となるように定められている。最大熱量Qmaxが大きい場合、その熱を最大限に熱交換に利用すれば、オイルパン油温TV/Bの上昇量が大きくなる。本変形例の所定値は、制御バルブ45が全開状態である場合の合計損失トルク低減量ΔTQlossと全閉状態である場合の合計損失トルク低減量ΔTQlossとが等しくなる最大熱量Qmaxの値に設定されている。最大熱量Qmaxが所定値未満である場合、制御バルブ45を全開状態とした方が、全閉状態とした場合よりも合計損失トルク低減量ΔTQlossが大きくなり、燃費が向上する。一方、最大熱量Qmaxが所定値以上である場合、制御バルブ45を全閉状態とした場合の合計損失トルク低減量ΔTQlossが全開状態とした場合の合計損失トルク低減量ΔTQloss以上となる。
ステップS25で肯定判定された場合(ステップS25−Y)にはステップS40に進み、否定判定された場合(ステップS25−N)にはステップS30に進む。
本変形例の制御によれば、T/M油温が第二温度To2以上でかつ第一温度To1未満である場合に、最大熱量Qmaxが所定値未満であるとき(ステップS25−N)は、ステップS30で制御バルブ45が全開状態とされる。言い換えると、トランスミッションオイル6が熱交換によって多くの熱量Qを得ることができない場合には、その限られたエネルギーが被潤滑部油温TLUBを上昇させるため有効利用される。一方、最大熱量Qmaxが所定値以上であるとき(ステップS25−Y)は、ステップS40で制御バルブ45が全閉状態とされる。言い換えると、トランスミッションオイル6が熱交換によって多くの熱量Qを得ることができる場合には、オイルパン油温TV/Bの上昇が優先される。これにより、変速機3の効率の最大化が図られる。
なお、変速機3の種類によって、所定値が異なる値とされてもよい。例えば、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)は、有段変速機に比べてギヤの噛み合い部が少ない。このため、無段変速機において被潤滑部油温TLUBを上昇させることによる損失低減効果とオイルパン油温TV/Bを上昇させることによる損失低減効果との差は、有段変速機における差よりも小さくなると考えられる。そこで、図15に示すように、変速機3が無段変速機である場合、温度差ΔTの閾値ΔT2は、有段変速機における閾値ΔT1よりも小さな値とされる。また、変速機3が無段変速機である場合、エンジン回転数Neの閾値Ne2は、有段変速機における閾値Ne1よりも小さな値とされる。変速機3は、デュアルクラッチ式の自動変速機DCT(Dual Clutch Transmission)等であってもよい。変速機3の種類に応じて、温度差ΔTおよびエンジン回転数Neの閾値が適宜調整されることが望ましい。
以上説明したように、本変形例の制御バルブ45は、最大熱量Qmaxが所定値以上である(ステップS25−Y)場合、最大熱量Qmaxが所定値未満である(ステップS25−N)場合よりも変速機油路63から潤滑油路40へ流れるトランスミッションオイル6の流量を多くする。これにより、変速機3の効率の最大化が可能となる。また、最大熱量Qmaxが所定値未満である場合、エンジン油温Tengが昇温していない場合がある。こうした場合に制御バルブ45が変速機油路63から潤滑油路40へ流れるトランスミッションオイル6の流量を少なくすることで、エンジン2の暖機を優先して全体の損失を低減することができる。
[第2実施形態]
図16から図18を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図16は、第2実施形態に係る潤滑制御装置の概略構成図、図17は、第2実施形態に係る供給油量マップ、図18は、第2実施形態の制御バルブの開閉動作に係るタイムチャートである。
図16に示す制御バルブ47は、弁開度θ[%]を任意の開度に制御可能な流量制御弁である。制御バルブ47は、弁開度θが大きくなるに従って供給油量V1を減少させ、排出油量V2を増加させる。制御バルブ47は、弁開度θが最大開度となっている全開状態である場合、供給油量V1の値を制御バルブ47によって調節可能な最小流量とする。制御バルブ47は、弁開度θが小さくなるに従って供給油量V1を増加させ、排出油量V2を減少させる。制御バルブ47は、全閉状態である場合、供給油量V1の値を制御バルブ47によって調節可能な最大流量とする。全閉状態にある制御バルブ47は、排出油量V2の値を実質的に0として、潤滑系油路63jのトランスミッションオイル6を全て潤滑油路40に流す。
制御バルブ47は、T/M油温が第一温度To1未満、かつ第二温度To2以上である場合、変速機油路63から潤滑油路40へ流れるトランスミッションオイル6の流量(供給油量V1)を制御バルブ47によって調節可能な最大流量よりも少なくする。本実施形態の制御部50は、図17に示す供給油量マップに基づいて、制御バルブ47の弁開度θを決定する。図17の供給油量マップにおいて、横軸は温度差ΔT、縦軸はエンジン回転数Neを示す。本実施形態の供給油量マップは、オイルポンプ62の引き摺り損失や被潤滑部46の引き摺り損失の特性に基づいて、合計損失トルク低減量ΔTQlossを最大化するように定められている。図17に示すように、温度差ΔTまたはエンジン回転数Neが増加するに従って、目標とする供給油量V1が大きな値となる。供給油量マップは、例えば、温度差ΔTの変化およびエンジン回転数Neの変化に応じて供給油量V1が連続的に変化するように定められている。制御部50は、目標とする供給油量V1の増加に応じて、制御バルブ47の弁開度θを小さな開度(全閉側の開度)とする。言い換えると、制御バルブ47は、最大熱量Qmaxが大きな値となるに従って弁開度θを閉じ側の開度として供給油量V1を増加させる。
本実施形態の供給油量V1の目標値は、被潤滑部油温TLUBの上昇による損失トルクΔTQlossの低減量([数5]の右辺第1項)と、オイルパン油温TV/Bの上昇による損失トルクΔTQlossの低減量([数5]の右辺第2項)とが等しくなるように定められている。図18には、本実施形態の供給油量マップに基づいて制御された場合の制御バルブ47の弁開度の推移が示されている。時刻t1までの期間は、T/M油温が第二温度To2未満であるため、制御バルブ47は全閉状態とされる。時刻t1にT/M油温が第二温度To2となると、供給油量マップに基づいて、制御バルブ47が開弁される。それまで制御バルブ47が全閉状態とされて熱交換器42における熱交換量が最大となっており、時刻t1ではエンジン油温TengとT/M油温との温度差がそれほど開いていない。言い換えると、時刻t1では温度差ΔTが小さな値である。このため、時刻t1では制御バルブ47の弁開度θが大きな開度、例えば最大開度とされる。制御バルブ47が開弁することで、熱交換器42において交換される熱量Qの値は、最大熱量Qmaxよりも小さくなる。従って、時間の経過と共に温度差ΔTが増加し、弁開度θは閉じ側の開度に変化していく。時刻t2には、供給油量マップに定められた供給油量V1の目標値が最大流量となり、制御バルブ47が閉弁される。
[第2実施形態の第1変形例]
第2実施形態の第1変形例について説明する。図19は、第2実施形態の第1変形例における制御バルブの開閉動作に係るタイムチャートである。第2実施形態の第1変形例において、上記第2実施形態と異なる点は、T/M油温が第二温度To2に到達したときに制御バルブ47の弁開度θを徐々に増加させていく点である。
図19において、時刻t1にT/M油温が第二温度To2に到達する。制御部50は、時刻t1において、供給油量マップから決定される制御バルブ47の目標弁開度θが全開の開度であったとしても、制御バルブ47に対する弁開度θの指令値を目標弁開度θよりも閉弁側の中間開度θ1とする。制御部50は、時刻t1以降に弁開度θの指令値を徐々に目標弁開度θに向けて増加させていく。制御部50は、制御バルブ47の弁開度θが供給油量マップから決定される目標弁開度θまで増加すると、その後は目標弁開度θを弁開度θの指令値として制御バルブ47に出力する。
第1変形例の制御バルブ47に対する開閉制御によれば、所定制御のハンチングを抑制することができる。T/M油温が第二温度To2に到達したときに、一気に制御バルブ47を全開状態にしてしまうと、トランスミッションオイル6の熱が変速機3のケースハウジングなどに奪われて、オイルパン油温TV/Bが低下することがある。これにより、T/M油温が第二温度To2未満に低下し、所定制御が禁止されてしまうことで制御のハンチングが発生する可能性がある。本変形例の開閉制御によって制御バルブ47の弁開度θを徐々に増加させていくことにより、所定制御のハンチングを未然に防ぐことが可能となる。
[第2実施形態の第2変形例]
第2実施形態の第2変形例について説明する。図20は、第2実施形態の第2変形例における制御バルブの開閉動作に係るタイムチャートである。第2実施形態の第2変形例において、上記第2実施形態と異なる点は、制御バルブ47が開弁しているときに、温度差ΔTが所定値以上となると制御バルブ47が閉弁される点である。
時刻t1にT/M油温が第二温度To2以上となって制御バルブ47が開弁される。制御バルブ47が開弁していると、制御バルブ47が閉弁状態である場合よりも熱交換器42においてエンジンオイル5からトランスミッションオイル6へ与えられる熱量Qが小さくなり、温度差ΔTが拡大する。制御部50は、温度差ΔTが所定値以上となると、制御バルブ47を閉弁する。本変形例では、供給油量マップから決定される弁開度θにかかわらず、温度差ΔTが所定値以上であると制御バルブ47を全閉状態とする。例えば、時刻t3に温度差ΔTが所定値以上となったときに、供給油量マップに基づく弁開度θの目標値が全閉と全開の間の中間開度θ2であったとしても、制御バルブ47が閉じられる。本変形例の開閉制御は、オイルパン油温TV/Bの上昇を促進し、変速機3の暖機を早期に完了させることができる。
[第2実施形態の第3変形例]
第2実施形態の第3変形例について説明する。上記第2実施形態では、第二温度To2以上でかつ第一温度To1未満のT/M油温の範囲において、温度差ΔTおよびエンジン回転数Neに応じて弁開度θが可変とされたが、これに代えて、上記の温度範囲における弁開度θが一定値とされてもよい。この場合の弁開度θは全開と全閉との間の中間開度とされてもよく、最大開度とされてもよい。
[上記各実施形態の第1変形例]
上記第1実施形態および第2実施形態の第1変形例について説明する。潤滑制御装置1は、以下に説明する特性を有する車両100に搭載されることが好ましい。図21は、油温と動粘度との関係の一例を示す図、図22は、車両の好ましい特性について説明する図である。エンジンオイル5およびトランスミッションオイル6の動粘度は、油温に応じて変化する。図21は、T/M油温とトランスミッションオイル6の動粘度との関係の一例を示している。動粘度は、T/M油温が高温となるに従って低下する。エンジンオイル5の油温と動粘度との関係も同様である。
図22には、オイル5,6の動粘度と損失トルクとの関係の好ましい一例が示されている。図22において、横軸は動粘度ν[mm2/sec]を示し、縦軸は損失トルクTL[Nm]を示す。エンジン2の損失トルクTLENGは、エンジンオイル5の動粘度νENGの値と、エンジン2の損失トルクの大きさとの対応関係を示している。
エンジン2の損失トルクTLENGを示す線は、例えば、エンジントルクの実測値から算出した損失トルクの値を直線近似(1次近似)することで求められた直線である。エンジン2の損失トルクTLENGは、例えば、エンジン2の理論的な出力トルクとエンジン2の実際の出力トルクとの差分トルクである。エンジン2の理論的な出力トルクは、例えば、エンジンオイル5の動粘度の値が0であると仮定した場合のエンジン2の出力トルク、言い換えると、エンジンオイル5の粘性による引き摺り損失等がないとした場合のエンジン2の出力トルクである。
なお、損失トルクTLのラインは、所定の温度範囲における実測値(若しくはシミュレーションによる計算値)を近似したものであることが好ましい。所定の温度範囲は、例えば、想定される環境温度の範囲や、常用領域の温度範囲、燃費算出のためのモード走行において定められた温度範囲等である。所定の温度範囲の下限値は、例えば、25℃や0℃などである。所定の温度範囲の上限値は、例えば、定常温度や暖機完了の閾値の温度であり、一例として80℃とされてもよい。所定の温度範囲の上限値は、オイル5,6の使用限界温度、例えば120℃とされてもよい。
熱交換器42における熱交換により、エンジンオイル5の温度が低下する(熱交換を行わない場合と比較して温度上昇量が低下する)と、エンジンオイル5の動粘度νENGが増加する。温度低下に伴う動粘度の増加量ΔνENGに応じて、エンジン2の損失トルクの増加量ΔTLENGが決まる。エンジンオイル5の動粘度の単位増加量あたりのエンジン2における損失トルクの増加量の大きさ|ΔTLENG/ΔνENG|は、損失トルクTLENGの傾きγから、Tanγとして求めることができる。以下の説明では、エンジンオイル5の動粘度の変化に対するエンジン2における損失トルクの変化度合いを「エンジン2の損失トルク感度Tanγ」とも称する。
変速機3の損失トルクTLT/Mは、トランスミッションオイル6の動粘度νT/Mの値と、変速機3の損失トルクの大きさとの対応関係を示している。変速機3の損失トルクTLT/Mは、例えば、変速機3の入力トルクと出力トルクとの差分トルクである。変速機3の損失トルクTLT/Mを示す線は、例えば、変速機3の入力トルクと出力トルクの実測値から算出した損失トルクの値を直線近似することで求められた直線である。
熱交換器42における熱交換により、トランスミッションオイル6の温度が上昇すると、トランスミッションオイル6の動粘度νT/Mが減少する。温度上昇に伴う動粘度の減少量ΔνT/Mに応じて、変速機3の損失トルクの低下量ΔTLT/Mが決まる。トランスミッションオイル6の動粘度の単位減少量あたりの変速機3における損失トルクの低下量の大きさ|ΔTLT/M/ΔνT/M|は、損失トルクTLT/Mの傾きδから、Tanδとして求めることができる。以下の説明では、トランスミッションオイル6の動粘度の変化に対する変速機3における損失トルクの変化度合いを「変速機3の損失トルク感度Tanδ」とも称する。
冷間始動時等において、エンジン2が運転している場合、一般的に、エンジン油温がT/M油温よりも速く上昇する。言い換えると、エンジン油温は、T/M油温よりも高温となる。従って、暖機時には、熱交換器42において、エンジンオイル5からトランスミッションオイル6へ熱が与えられる。この熱交換により、熱交換を行わない場合と比べてエンジン油温が低下して、エンジン2の損失トルクは増加する。一方、熱交換を行わない場合よりもT/M油温が上昇して、変速機3の損失トルクは低下する。
ここで、図22に示す車両特性では、変速機3の損失トルク感度Tanδは、エンジン2の損失トルク感度Tanγよりも大きい。従って、熱交換器42での熱交換によるT/M油温の上昇に伴う動粘度νT/Mの減少に応じた変速機3の損失トルクの低下量ΔTLT/Mの大きさが、熱交換によるエンジン油温の低下に伴う動粘度νENGの増加に応じたエンジン2の損失トルクの増加量ΔTLENGの大きさよりも大きくなる。その結果、エンジン2の損失トルクTLENGと変速機3の損失トルクTLT/Mを合わせた総合的な損失トルクTLTTLの大きさを低減させることができる。
このような特性を有する車両100では、熱交換器42においてトランスミッションオイル6とエンジンオイル5との熱交換を行わせることにより、熱交換がなされない場合と比較して、暖機時に総合的な損失トルクTLTTLを低減させることが可能となる。更に、制御バルブ45,47によって熱交換器42側に流れる供給油量V1を適切に制御することで、総合的な損失トルクTLTTLの最小化を図ることができる。
[上記各実施形態の第2変形例]
上記第1実施形態および第2実施形態の第2変形例について説明する。上記第1実施形態において、制御バルブ45は、温度感応型の切替弁であってもよい。温度感応型の制御バルブ45として、例えば、形状記憶合金のように温度に応じて自動的に変形するアクチュエータを有するものが挙げられる。
制御バルブ47は、弁開度θをリニアに変化させることができるものに代えて、段階的に弁開度θを変化させるものであってもよい。段階的に弁開度θを変化させる制御バルブ47は、例えば、全開および全閉の他に、弁開度θを少なくとも1段階の中間開度に制御できる。
制御バルブ45,47は、環流油路41に代えて、潤滑油路40に設けられてもよく、潤滑油路40と環流油路41との分岐部に設けられてもよい。
上記各実施形態において、熱交換器42に送られるエンジン2の液状媒体は、エンジンオイル5に代えて冷却水9であってもよい。
上記の各実施形態および各変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。