以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が好適に適用された断接機構すなわち噛合式クラッチ装置を含む4輪駆動車両10の構成を概略的に説明する骨子図である。図1において、4輪駆動車両10は、エンジン12を駆動源とし、エンジン12の動力を主駆動輪に対応する左右の前輪14L、14R(特に区別しない場合には、前輪14という)に伝達する第1の動力伝達経路と、エンジン12の動力を副駆動輪に対応する左右の後輪16L、16R(特に区別しない場合には、後輪16という)に伝達する第2の動力伝達経路とを備えているFFベースの4輪駆動装置を備えている。この4輪駆動車両10の2輪駆動状態では、エンジン12から自動変速機18を介して伝達された駆動力を前輪用駆動力配分ユニット20および左右の車軸22L、22Rを通して左右の前輪14L、14Rへ伝達される。この2輪駆動状態では、少なくともトランスファ26に設けられた第1クラッチ(噛合式クラッチ装置)24が解放され、プロペラシャフト28、および、後輪用駆動力配分ユニット30および後輪16へは動力が伝達されない。しかし、4輪駆動状態では、上記2輪駆動状態に加えて、第1クラッチ24および第2クラッチ32が共に係合されて、上記プロペラシャフト28、および、後輪用駆動力配分ユニット30および後輪16へエンジン12からの駆動力が伝達される。なお、図1では図示されていないが、エンジン12と自動変速機18との間には、流体伝動装置であるトルクコンバータ或いはクラッチが設けられている。
自動変速機18は、例えば、複数の遊星歯車装置および摩擦係合装置(クラッチ、ブレーキ)を備えてそれら摩擦係合装置を選択的に係合させることで変速段が選択される形式の有段式自動変速機、常時噛合型平行軸式変速機の変速段がシフトアクチュエータおよびセレクトアクチュエータによって選択される形式の有段式自動変速機、或いは、伝動ベルトが巻き掛けられた一対の有効径が可変の可変プーリの有効径を変化させることで変速比が連続的に変化させられる形式の無段変速機などで構成されている。なお、自動変速機18は公知の技術であるため、具体的な構造や作動の説明については省略する。
前輪用駆動力配分ユニット20は、回転軸線C1まわりに回転可能に設けられ、自動変速機18の出力歯車18aと噛み合うリングギヤ20rと、それに固定されたデフケース(ディファレンシャルケース)20cと、そのデフケース20c内に収容された差動歯車機構20dとを有しており、前輪14の左右の車軸22L、22Rにそれらの差回転を許容しつつ駆動力を伝達する。なお、上記デフケース20cには、トランスファ26に設けられた入力軸34の軸端に形成された第1外周スプライン歯34aと嵌合する内周噛合歯20aが形成されている。これにより、エンジン12からデフケース20cを介して左右の前輪14L、14Rへ伝達する駆動力の一部が、入力軸34を介してトランスファ26に入力されるようになっている。
左右の後輪16へ駆動力を配分する後輪用駆動力配分ユニット30には、図1に示すように、プロペラシャフト28の一端部にカップリング36を介して連結されたドライブピニオン38と相対回転不能に係合する円筒状の第1回転部材40のリングギヤ40aと、その第1回転部材40と後輪16の一対の車軸42L、42Rとの間を選択的に連結する第2クラッチ32と、その第2クラッチ32を介して入力されるエンジン12からの動力を後輪16の左右の車軸42L、42Rに適宜差回転を与えつつ伝達させる差動歯車機構42とが、備えられている。
差動歯車機構42は、図1に示すように、回転軸線C2まわりに回転可能に支持されたデフケース42cと、後輪16の一対の車軸42L、42Rにそれぞれ連結され、デフケース42c内において互いに対向する状態で回転軸線C2まわりに回転可能にそのデフケース42cに支持された一対のサイドギヤ42aと、回転軸線C2に直交する回転軸線C3まわりに回転可能にデフケース42cに支持され、一対のサイドギヤ42aと噛み合う状態でそれらの間に配置された一対のピニオン42bとを有している。また、差動歯車機構42は公知の技術であるため、具体的な構造や作動の説明については省略する。
カップリング36は、図1に示すように、プロペラシャフト28と第1回転部材40との間に設けられ、一方の回転要素36aと他方の回転要素36bとの間でトルク伝達を行う。また、カップリング36は、例えば湿式多板クラッチで構成される電子制御カップリングであり、カップリング36の伝達トルクを制御することにより、前後輪のトルク配分を100:0〜50:50の間で連続的に変更することができる。
図1に示すように、円筒状の第1回転部材40の内周側を車軸42Lが貫通している。また、第1回転部材40の差動歯車機構42側とは反対側の端部にはリングギヤ40aが形成されており、そのリングギヤ40aがドライブピニオン38と噛み合わされることで、第1回転部材40はドライブピニオン38と一体的に回転する。また、第1回転部材40の差動歯車機構42側の端部には第2クラッチ32の一部を構成するクラッチ歯40bが形成されている。なお、差動歯車機構42のデフケース42cの第1回転部材40側の端部には、第2クラッチ32の一部を構成するクラッチ歯42dが形成されている。
第2クラッチ32は、第1回転部材40と差動歯車機構42のデフケース42cとの間を選択的に連結するための噛合クラッチ、すなわち第1回転部材40と差動歯車機構42との間を断接するための噛合クラッチである。また、第2クラッチ32は、第1回転部材40に形成されたクラッチ歯40bと、デフケース42cに形成されたクラッチ歯42dと、それらクラッチ歯40bおよびクラッチ歯42dと噛合可能な内周歯44aが形成されて回転軸線C2方向に移動可能に設けられているスリーブ44と、そのスリーブ44を回転軸線C2方向に駆動させる第2クラッチアクチュエータ46とを備える噛合式のドグクラッチ(断接機構)である。なお、第2クラッチアクチュエータ46は、電子制御装置100から出力される指令信号によってスリーブ44をその回転軸線C2方向に駆動させる。また、第2クラッチ32には、スリーブ44の内周歯44aを第1回転部材40のクラッチ歯40bに噛み合わせるのに先立って第1回転部材40の回転とデフケース42cの回転とを同期させるよく知られた同期装置48が備えられている。なお、上記第2クラッチ32では、第1クラッチ24が開放されている2輪駆動状態において、図1に示すように、第2クラッチアクチュエータ46によってスリーブ44が差動歯車機構42側に移動させられて、プロペラシャフト28と後輪16L、16Rとの間すなわち第1回転部材40とデフケース42cとの間が解放されると、左右の後輪16L、16Rからプロペラシャフト28が切り離されて、そのプロペラシャフト28等の回転抵抗による車両の走行抵抗が低減される。本実施例では、上記第2クラッチ32がディスコネクト機構に対応している。
トランスファ26は、図1および図2に示すように、プロペラシャフト28を駆動するためにそのプロペラシャフト28の他端部に連結されたドリブンピニオン50と動力伝達のために噛み合う円筒状のリングギヤ52と、エンジン12からデフケース20cを介して前輪14L、14Rへ伝達される駆動力の一部が入力される円筒状の入力軸34と、デフケース20cからプロペラシャフト28への動力伝達経路において、そのデフケース20cとプロペラシャフト28との間すなわちデフケース20cに連結された入力軸34とプロペラシャフト28に連結されたリングギヤ52との間を断接する第1クラッチ24とを備えており、第1クラッチ24が係合して入力軸34とリングギヤ52との間が接続されると、エンジン12から左右の前輪14L、14Rに伝達される駆動力の一部が、プロペラシャフト28を介して左右の後輪16L、16Rへ出力されるようになっている。
上記円筒状のリングギヤ52は、図2および図3に示すように、例えば斜歯又はハイポイドギヤが形成された傘歯車であり、そのリングギヤ52の内周部から前輪14R側に略円筒状に突出する軸部52aが形成されている。また、円筒状のリングギヤ52は、ユニットケース(ケース)54内に設けられた軸受56によりその軸部52aが支持されることによって回転軸線C1まわりに回転可能に片持状に支持されている。上記円筒状の入力軸34は、図2および図3に示すように、円筒状のリングギヤ52の内側を貫通して、その入力軸34の一部がリングギヤ52の内側に配置されている。また、上記円筒状の入力軸34は、ユニットケース54内に設けられた一対の軸受58に両端部が支持されることによって、その入力軸34が回転軸線C1まわりに回動可能にすなわちリングギヤ52と同心に回転可能に支持されている。リングギヤ52の軸部52aの前輪14L側の側面には、噛合歯52bが形成されており、リングギヤ52は、可動スリーブ(第1噛合部材)60と同心に設けられた第2噛合部材に対応している。そして、それら可動スリーブ(第1噛合部材)60とリングギヤ(第2噛合部材)52とは、狭義の噛合クラッチを構成している。
上記第1クラッチ24は、トランスファ26の入力軸34とリングギヤ52との間を断接するための噛合式クラッチであり、図2および図3に示すように、入力軸34の中央部の外周面に形成された第2外周スプライン歯34bに回転軸線C1方向の移動可能に常時噛み合う内周噛合歯60a、および回転軸線C1方向の移動により円筒状のリングギヤ(第2噛合部材)52の軸部52aの前輪14L側の側面に形成された噛合歯52bと噛み合い可能な外周噛合歯60bが形成された可動スリーブ(第1噛合部材)60と、その可動スリーブ60を、その外周噛合歯60bがリングギヤ52の噛合歯52bと噛み合うことによりリングギヤ52と入力軸34とが相対回転不能に連結するコネクト位置とその外周噛合歯60bがリングギヤ52の噛合歯52bと噛み合わないことによりリングギヤ52と入力軸34との相対回転を許容するディスコネクト位置とに回転軸線C1方向に移動させて切り換える第1クラッチアクチュエータ62等とを、含んで構成される噛合式クラッチ装置である。なお、上記噛合式クラッチ装置の一部すなわち可動スリーブ60は、円筒状のリングギヤ52の内径側においてそのリングギヤ52と入力軸34との間に配設されている。また、第1クラッチ24の可動スリーブ60および第1クラッチアクチュエータ62は、ユニットケース54内において、一対の軸受58の間に配置されている。
上記第1クラッチアクチュエータ62は、図2に示すように、プロペラシャフト28の回転軸線C4に対してリングギヤ52と同じ側に配設されている。図2および図3に示すように、上記第1クラッチアクチュエータ62は、ユニットケース54内に設けられた環状の電磁石66と、その電磁石66の作動によって入力軸34の回転力をボールカム82へ伝達する摩擦クラッチ89とを備えている。この摩擦クラッチ89は、動力を断接するものではなく、第1クラッチ24の作動を実行させるものであるので、節パイロットクラッチ或いは補助クラッチとも称されるものである。
移動機構67は、入力軸34の回転力をその入力軸34の回転軸線C1方向の推力に変換するボールカム82と、そのボールカム82により変換された推力に基づいて可動スリーブ(第1噛合部材)60を移動させ且つその可動スリーブ60の移動位置に保持するラチェット機構(掛止め機構、掛外し機構)76とを備えている。そして、可動スリーブ60と一対の軸受58の前輪14L側の軸受58との間に介在され、その可動スリーブ60を上記ディスコネクト位置から上記コネクト位置に向かって付勢するすなわち可動スリーブ60を回転軸線C1方向において前輪14R側に付勢するスプリング64が備えられている。
ラチェット機構76は、ユニットケース54内に設けられた環状の電磁石66が円板状の可動片68を吸着することにより所定のストロークで回転軸線C1方向に往復移動させられる環状の第1ピストン70と、入力軸34に対して相対回転可能に設けられ、その第1ピストン70によりスプリング64の付勢力に抗して回転軸線C1方向に移動させられる環状の第2ピストン72と、掛止歯74aを有して入力軸34に相対回転不能かつ回転軸線C1方向に移動不能に設けられ、その掛止歯74aで第1ピストン70により移動させられたその第2ピストン72を掛け止める環状のホルダー74とを備え、その第1ピストン70の所定回の往復ストロークでその第2ピストン72が可動スリーブ60を前記ディスコネクト位置へスプリング64の付勢力に抗して移動させ、その所定回を越えるとその第2ピストン72を掛け外してスプリング64の付勢力に従って可動スリーブ60を前記コネクト位置へ移動させる。なお、上記ラチェット機構76は、円筒状のリングギヤ52の内径側すなわちそのリングギヤ52の円筒状の軸部52aの内径側において、その軸部52aと入力軸34との間に配設されている。
ボールカム82は、ラチェット機構76と電磁石66との間に、そのラチェット機構76の第1ピストン70と回転軸線C1方向において重なる状態で介挿された環状の支持部材(環状部材)78と、それら支持部材78と第1ピストン70とに周方向の複数箇所(たとえば3箇所)に形成された、周方向で深さが変化する互いに対向する溝状の一対のカム面70a、78aで挟まれた複数個(たとえば3個)の球状転動体80とを有し、それら支持部材78と第1ピストン70とが相対回転させられるとそれら支持部材78と第1ピストン70との間が回転軸線C1方向に離隔させる。これによって、ボールカム82により第1ピストン70が回転軸線C1方向において前輪14R側、前輪14L側へ例えば1、2回程度往復移動させられると、図2に示す回転軸線C1に対して上側すなわちエンジン12側のトランスファ26に示すように、可動スリーブ60がラチェット機構76を介して前記ディスコネクト位置へスプリング64の付勢力に抗して移動させられて、可動スリーブ60の外周噛合歯60bとリングギヤ52の噛合歯52bとの噛み合いが解かれて第1クラッチ24が解放する。また、ボールカム82によって第1ピストン70が例えば3回程度往復移動させられるとすなわち第1ピストン70の往復回数が所定回を超えると、図2の回転軸線C1に対して下側すなわちエンジン12側とは反対側のトランスファ26に示すように、第2ピストン72がラチェット機構76においてホルダー74の掛止歯74aから掛け外され可動スリーブ60がスプリング64の付勢力に従って前記コネクト位置へ移動させられて、可動スリーブ60の外周噛合歯60bとリングギヤ52の噛合歯52bとが噛み合わされ第1クラッチ24が係合する。
また、電磁石66とボールカム82との間には、図3に詳細に示すように、電磁石66側のユニットケース54の内周面に形成された内周スプライン歯54aと、電磁石66と可動片68との間に配設され、ユニットケース54の内周スプライン歯54aと相対回転不能且つ回転軸線C1方向の移動可能に係合される円板状の一対のクラッチプレート84および86と、その一対のクラッチプレート84および86との間に配設された円板形状のクラッチディスク88と、そのクラッチディスク88を相対回転不能且つ回転軸線C1方向の移動可能に係合する支持部材78の外周スプライン歯78bとを有する摩擦クラッチ89が備えられている。また、環状の第1ピストン70と環状の支持部材78との間の周方向の複数箇所に形成された凹溝状のカム面70a、78aは、その周方向に向かうに連れてそれらカム面70a、78aの間の回転軸線C1方向における距離が短くなるように傾斜している。なお、図3の断面図で示す上記カム面70a、78aは、それらカム面70a、78aの間の中央の距離が最も長い状態を示すものである。また、上記第1ピストン70の前輪14R側の端部の内周面には、入力軸34の前輪14R側の端部の外周面に形成された第3外周スプライン歯34cと相対回転不能且つ回転軸線C1方向の移動可能に噛み合う内周噛合歯70bが形成されている。
上記のように構成された電磁石66およびボールカム82では、例えば、車両走行中で入力軸34が回転している状態において、電磁石66によって可動片68が吸着されると、その可動片68によってクラッチディスク88が一対のクラッチプレート84および86に挟圧されてそのクラッチディスク88に制動トルクが伝達される。すなわち、電磁石66によって可動片68が吸着されるとクラッチディスク88を介して支持部材78に制動トルクが伝達される。このため、上記制動トルクによってそれら支持部材78と第1ピストン70との間に相対回転が発生して、第1ピストン70は球状転動体80を介して支持部材78に対して回転軸線C1方向において前輪14L側へ移動し、入力軸34の回転力が回転軸線C1方向の推力に変換される。また、電磁石66に可動片68が吸着されない時には、支持部材78はユニットケース54に対して相対回転可能となるので、その支持部材78が球状転動体80を介して第1ピストン70と連れまわって支持部材78と第1ピストン70との間に相対回転が発生しなくなり、第1ピストン70の回転軸線C1方向における移動が停止する。なお、電磁石66に対する通電電流は、第1ピストン70の移動に伴って増加するスプリング64の付勢力(抗力)により、第1ピストン70の推力が球状転動体80がカム面70a、78aを乗り越えない値に設定されている。
図4は、ラチェット機構76の一例の作動原理を説明する模式図であり、環状の第1ピストン70、環状の第2ピストン72、および環状のホルダー74をそれぞれ展開した状態を示している。ラチェット機構76は、掛止め機構および掛外し機構として機能するものであり、第2ピストン72からホルダー74側に突設された突起72aを掛け止めるための円周方向に連なる鋸歯状の掛止歯74aが周期的に形成され、入力軸34に固定された位置固定のホルダー74と、そのホルダー74と相対回転不能且つ回転軸線C1方向の相対移動可能に設けられ、ホルダー74の掛止歯74aと同様の鋸歯形状であるが周方向に半位相ずれた形状で周方向に連なり、第2ピストン72の突起72aを受け止める受止歯70cが周期的に形成され、スプリング64の付勢力に抗して第2ピストン72をボールカム82の1ストローク分だけ移動させる第1ピストン70とを備えている。なお、上記第1ピストン70の受止歯70cおよびホルダー74の掛止歯74aの先端の斜面には、突起72aの滑りを止めるストッパ70dおよび74bがそれぞれ設けられている。
図4の(a)および(e)は、可動スリーブ60が上記コネクト位置にある時に第2ピストン72から突設された突起72aがホルダー74の掛止歯74aに掛け止められた位置に位置している状態を示し、この状態では第1ピストン70がそのベース位置に位置させられている。図4の(b)は、第1ピストン70が電磁石66およびボールカム82の作動によりその移動ストロークST分だけスプリング64の付勢力に抗してそのベース位置から移動させられた状態を示している。この過程では、第1ピストン70により第2ピストン72が移動させられてホルダー74から離されるとともに、第2ピストン72が第1ピストン70の斜面を滑り落ちる。図4の(c)は、第1ピストン70が電磁石66およびボールカム82の非作動によりスプリング64の付勢力に従ってその移動ストロークST分だけ戻されてベース位置に位置させられた状態を示している。この過程では第2ピストン72がホルダー74の掛止歯74aの上に掛け止められ、前記ディスコネクト位置に保持される。図4の(d)は、再び第1ピストン70が電磁石66およびボールカム82の作動によりその移動ストロークST分だけスプリング64の付勢力に抗してそのベース位置から移動させられた状態を示している。この過程では、第2ピストン72が更にスプリング64側に移動させられて同期装置94の入力軸34側の摩擦係合部材90とリングギヤ52側の摩擦係合部材92とが摩擦係合して入力軸24とリングギヤ52とが回転同期させられる。次いで、図4の(e)に示すように、第1ピストン70が電磁石66およびボールカム82の非作動によりスプリング64の付勢力に従ってその移動ストロークST分だけ戻されてベース位置に位置させられると、第2ピストン72がコネクト位置へ位置させられて、噛み合いが完了させられる。
これにより、ラチェット機構76では、ボールカム82による第1ピストン70の往復移動で第2ピストン72を周方向へ送りつつ上記ディスコネクト位置へ向かって順次移動させられる。そして、その第2ピストン72の移動回数が所定回数(1回)に到達すると、その第2ピストン72が上記ディスコネクト位置に位置させられる。また、ラチェット機構76では、第2ピストン72の移動回数が上記2回に到達すると、その第2ピストン72がホルダー74の掛止歯74a及びストッパ74bから掛け外されてスプリング64の付勢力により可動スリーブ60が上記コネクト位置へ移動する。
また、図3に示すように、第1クラッチアクチュエータ62には、可動スリーブ60が前記コネクト位置に移動させられるのに先立って最も前記ディスコネクト位置側に移動したときに、入力軸34の回転とリングギヤ52の回転とを同期させる同期装置94が備えられている。なお、上記同期装置94は、円筒状のリングギヤ52の内径側すなわちそのリングギヤ52の円筒状の軸部52aの内径側において、可動スリーブ60とラチェット機構76との間に配設されている。
上記同期装置94には、図3に示すように、入力軸34に可動スリーブ60を介して相対回転不能且つ回転軸線C1方向に移動可能に設けられた入力軸34側の摩擦係合部材90と、リングギヤ52に相対回転不能且つ回転軸線C1方向に可動スリーブ60と共に移動可能に設けられたリングギヤ52側の摩擦係合部材92とが備えられている。なお、上記リングギヤ52側の摩擦係合部材92には、リングギヤ52の軸部52aの内周面に形成された内周スプライン歯52cに相対回転不能且つ回転軸線C1方向に移動可能に噛み合う外周噛合歯92aと、入力軸34側の摩擦係合部材90の内周面に形成され回転軸線C1に対して僅かに傾斜した円錐状内周摩擦面90aに摺接可能な円錐状外周摩擦面92bと、可動スリーブ60と第2ピストン72との間に介在された環状の環状部材96の外周面に形成され回転軸線C1に対して僅かに傾斜した円錐状外周当接面96aに当接する円錐状内周当接面92cとが設けられている。このため、上記リングギヤ52側の摩擦係合部材92は、そのリングギヤ52側の摩擦係合部材92の前輪14L側の端部に可動スリーブ60の前輪14R側の端部が当接され、且つそのリングギヤ52側の摩擦係合部材92の円錐状内周当接面92cに環状部材96の円錐状外周当接面96aが当接されることによって、回転軸線C1方向に可動スリーブ60と共に移動する。また、環状部材96の内周面には、入力軸34の第2外周スプライン歯34bと相対回転不能且つ回転軸線C1方向の移動可能に噛み合う内周噛合歯96bが形成されている。
また、上記入力軸34側の摩擦係合部材90には、図3に示すように、上述した円錐状内周摩擦面90aと、可動スリーブ60と相対回転不能且つ回転軸線C1方向の移動可能にその可動スリーブ60の外周面に形成された外周スプライン歯60cと回転軸線C1方向に移動可能且つ回転軸線C1まわりの相対回転不能に噛み合う内周噛合歯90bと、リングギヤ52の軸部52bの前輪14L側の端部の内周面に形成され回転軸線C1に対して僅かに傾斜した円錐状内周当接面52dに当接可能な円錐状外周当接面90cとが設けられている。
以上のように構成された4輪駆動車両10では、例えば、第1クラッチ24および第2クラッチ32が共に係合されている4輪駆動状態において、図示しない電子制御装置100で2輪駆動走行モードが選択されると、トランスファ26において第1クラッチアクチュエータ62によって可動スリーブ60がディスコネクト位置に移動して第1クラッチ24が解放され、第2クラッチアクチュエータ46によってスリーブ44が非噛合位置に移動して第2クラッチ32が解放されて、エンジン12から駆動力が主駆動輪である前輪14だけに伝達する2輪駆動状態となる。また、第1クラッチ24および第2クラッチ32が共に解放されている2輪駆動状態において、図示しない電子制御装置100で4輪駆動走行モードが選択されると、トランスファ26において第1クラッチアクチュエータ62によって可動スリーブ60がコネクト位置に移動して第1クラッチ24が係合され、第2クラッチアクチュエータ46によってスリーブ44が噛合位置に移動して第2クラッチ32が係合されて、エンジン12から駆動力が前輪14および後輪16に伝達する4輪駆動状態となる。
図1に戻って、電子制御装置100は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を含む所謂マイクロコンピュータにより構成されており、予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理し、2WDと4WDと間の切換制御、噛合式クラッチ装置である第1クラッチ24における第1クラッチアクチュエータ62の作動制御等の種々の制御を実行する。
図5は、電子制御装置100の制御作動の要部すなわち第1クラッチアクチュエータ62の作動を制御するための制御ルーチンを示すフローチャートである。図5の制御ルーチンは、たとえば2輪駆動走行状態から4輪駆動走行状態へ切り換えるために電子制御装置100から第1クラッチ24を係合させる指令が出されたことによって開始される。
図5のステップS1(以下、ステップを省略する)では、第1クラッチアクチュエータ62を作動させるために電磁石66の励磁を行なうアクチュエータオン信号が出力される。次いで、作動停止時期決定手段に対応するS2では、第1クラッチアクチュエータ62の作動開始からの入力軸34の回転数N34(rpm)或いは車速V(km/h)の積算値に基づいて第1クラッチアクチュエータ62の作動停止時期(タイミング)すなわち電磁石66の非励磁のタイミングが決定される。具体的には、第1ピストン70の移動距離は、ボールカム82の球状転動体80を挟む第1ピストン70と支持部材78との相対回転角度Ncum(s)に対応しており、電磁石66に対して一定の励磁電流が供給されているという条件下では、その相対回転角度Ncum(s)の積算値が直接的に第1ピストン70の移動距離に対応している。その相対回転角度の積算値は、車速Vおよび入力軸34の回転数N34(rpm)の積算値∫f(s)にそれぞれ比例する。このため、可動スリーブ60をコネクト位置とする図4の(a)からディスコネクト位置とする図4の(c)とするための第1ピストン70の移動距離を確実に得るための第1閾値G1が予め計算または実験により求められ、可動スリーブ60をディスコネクト位置とする図4の(c)からコネクト位置とする図4の(e)とするための第1ピストン70の移動距離(ホルダー74の掛止歯74aの上に掛け止められた第2ピストン72の突起72aがその掛止歯74aの上に設けられたストッパ74bを確実に乗り越えるための第1ピストン70の移動距離)を確実に得るための第2閾値G2が予め計算または実験により求められている。そして、可動スリーブ60をコネクト位置とする図4の(a)からディスコネクト位置とする図4の(c)とするための電磁石66の作動時では、車速V或いは入力軸34の回転数N34(rpm)の積算値∫f(s)が第1閾値G1を超えたと判断されると、S3においてその電磁石66の励磁を終了してその作動が停止させられる。また、可動スリーブ60をコネクト位置とする図4の(a)からディスコネクト位置とする図4の(c)とするための電磁石66の作動時では、車速V或いは入力軸34の回転数N34(rpm)の積算値∫f(s)が第2閾値G2を超えたと判断されると、S3においてその電磁石66の励磁を終了してその作動が停止させられる。上記S2における判定式は、(1a)式および(1b)式にて表される。
∫f(s)ds>G1 ・・・(1a)
∫f(s)ds>G2 ・・・(1b)
ここで、支持部材78と第1ピストン70との対向面に周方向の複数箇所(たとえば3箇所)に形成された、周方向で深さが変化する互いに対向する溝状の一対のカム面70a、78aの傾斜角をθとし、そのカム面70a、78aの回転軸線C1まわりの曲率半径をRとすると、上記判定式(1a)および(1b)は(2a)式および(2b)式にて表される。
∫((1/60)・Ncum(s)・2π・R・tanθ)ds>G1・・・(2a)
∫((1/60)・Ncum(s)・2π・R・tanθ)ds>G2・・・(2b)
また、車両の変速機18の出力軸の回転を検出する車速センサから出力された車速信号に基づいて上記Ncum(s)が求められてもよいが、左右の車輪速度14Lおよび14Rにそれぞれ設けられた既存の車輪速センサPLおよびPRが用いられてもよい。それら車輪速センサPLおよびPRから検出された右の車輪速度14Lおよび14Rの車輪回転数をNwl(s)およびNwr(s)を用いる場合は、それらの平均値を車速に対応するNcum(s)とすることができるので、上記(2a)式および(2b)式に換えて、(3a)式および(3b)を用いることができる。
∫(Nwl(s)+Nwr(s))ds>(60G1/(π・R・tanθ))・・・(3a)
∫(Nwl(s)+Nwr(s))ds>(60G2/(π・R・tanθ))・・・(3b)
また、左右の車輪速度14Lおよび14Rの初速回転数をNwl(0)およびNwr(0)を用いる場合は、上記(3a)式および(3b)式に換えて、(4a)式および(4b)を用いることができる。
(Nwl(0)+Nwr(0))・t>(60G1/(π・R・tanθ))・・・(4a)
(Nwl(0)+Nwr(0))・t>(60G2/(π・R・tanθ))・・・(4b)
また、上記(2a)式および(2b)の右辺、(3a)式および(3b)の右辺、閾値G1およびG2、或いは、上記(4a)式および(4b)の右辺には、所定の余裕値が加えられたものが用いられてもよい。
上述のように、本実施例の第1クラッチ(噛合式クラッチ装置)24によれば、第1クラッチアクチュエータ(アクチュエータ)62の作動開始からの入力軸(回転軸)34の回転数が可動スリーブ(第1噛合部材)60の移動距離に対応しているので、その可動スリーブ60或いはそれと共に移動する部材の移動位置を検出するセンサを新たに設けなくても、第1クラッチアクチュエータ62たとえば電磁石66の作動開始からの入力軸(回転軸)34の回転数に基づいて第1クラッチアクチュエータ62たとえば電磁石66の作動停止時期が正確に決定される。すなわち、車速すなわち入力軸(回転軸)34の回転速度の影響によりアクチュエータON信号から一定時間後の可動スリーブ(第1噛合部材)60の移動位置が変化したとしても、その可動スリーブ(第1噛合部材)60の移動距離が確実に得られた段階で第1クラッチアクチュエータ62たとえば電磁石66の作動停止時期が決定される。
また、本実施例の第1クラッチ(噛合式クラッチ装置)24によれば、入力軸(回転軸)34の回転数は、車両の変速機18の出力軸の回転を検出する車速センサから出力された車速信号、或いは車輪の回転を検出する車輪速センサPLおよびPRから出力された車輪速信号に基づいて算出される。これにより、可動スリーブ(第1噛合部材)60或いはそれと共に移動する部材の移動位置を検出するセンサを新たに設けなくても、既存のセンサを用いることができるので、第1クラッチアクチュエータ62たとえば電磁石66の作動停止時期を安価に決定することができる。
また、本実施例の第1クラッチ(噛合式クラッチ装置)24によれば、第1クラッチアクチュエータ(アクチュエータ)62は、電磁石66と、その電磁石66から発生する磁力により作動し、入力軸(回転軸)34の回転を伝達する摩擦クラッチ89とを含み、前記移動機構67は、その摩擦クラッチ89から伝達された回転を入力軸(回転軸)34の回転軸線C1方向の所定ストロークの移動に変換して出力するボールカム82と、そのボールカム82の1回または2回以上の出力に応答して可動スリーブ(第1噛合部材)60を移動させるラチェット機構(掛止機構)76とを含む。この場合には、摩擦クラッチ89の作動時間すなわち電磁石66の作動時間は、ボールカム82により変換される入力軸(回転軸)34の回転軸線C1方向の所定ストロークの移動に必要かつ十分な時間とされるので、その移動ストロークが不十分な段階で電磁石の作動停止時期が決定されて掛止め機構での掛け止めができず作動前の位置に戻ってしまうことが防止される。
次に、前述の実施例1と同様に、トランスファ106内に設けられてプロペラシャフト28、および、後輪用駆動力配分ユニット30および後輪16へ選択的に動力を伝達する、本発明の他の実施例のである第1クラッチ(噛合式クラッチ装置)110を、図6を用いて説明する。なお、以下の実施例の説明において、前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図6のトランスファ106のケース108内において、入力軸と平行な回転軸線C5まわりに回転可能な円筒軸状のリングギヤ112が設けられており、そのリングギヤ112は、プロペラシャフト28の他端部に連結されて回転軸線C4まわりに回転させられるドリブンピニオン50と動力伝達のために噛み合っている。噛合歯112aが一端部に形成され、リングギヤ112に対し相対回転不能且つ回転軸線C5方向に移動可能な第1噛合部材114と、入力軸に固定されたギヤ115と噛み合う入力ギヤ116と螺旋溝118と噛合歯112aに噛み合う噛合歯120aとが形成されリングギヤ112に対し相対回転可能な第2係合部材120とが、リングギヤ112に設けられている。
第1クラッチ(噛合式クラッチ装置)110は、リングギヤ112に設けられた第1噛合部材114に相対回転可能且つ第1噛合部材114と共にリングギヤ112の回転軸線C5方向に移動可能に設けられた基部122aとその基部122aに対して回動可能に設けられ且つ第2係合部材120に形成された螺旋溝118に係合可能な先端部122bとを有するホーク部材122と、ホーク部材122または第1噛合部材114を第2係合部材120側すなわちコネクト位置に向かって付勢するリターンスプリング124とを有する移動機構126と、トランスファ106のケース108に回動可能に基部128aが設けられ、先端部128bがホーク部材122の先端部122bを押圧して螺旋溝118に係合させるとともにそのホーク部材122の先端部122bを掛け止めてホーク部材122をディスコネクト位置に保持する押圧レバー128とその押圧レバー128を駆動する電磁石130とを有するアクチュエータ132とを含む。
このように構成された第1クラッチ(噛合式クラッチ装置)110では、電磁石130が非励磁である場合は、ホーク部材122の先端部128bが第2係合部材120に形成された螺旋溝118から離隔するので、リターンスプリング124の付勢力に従って第1噛合部材114がコネクト位置へ移動し、第2係合部材120の噛合歯120aと第1噛合部材114の噛合歯112aとが噛み合う状態に保持される。電磁石130が励磁されてホーク部材122の先端部128bが第2係合部材120の螺旋溝118に係合すると、第2係合部材120の回転に伴って1噛合部材114がリターンスプリング124の付勢力に抗して移動し、第2係合部材120の噛合歯120aと第1噛合部材114の噛合歯112aとの噛み合いが解消され、この状態で押圧レバー128の先端部128bがホーク部材122の先端部122bを掛け止めるので、第1噛合部材114がディスコネクト位置に保持される。
本実施例の第1クラッチ(噛合式クラッチ装置)110によれば、電磁石130の作動時間は、ホーク部材122により変換されるリングギヤ112の回転軸線C5方向の所定ストロークの移動が必要かつ十分な時間とされるので、その移動ストロークが不十分な段階で電磁石の作動停止時期が決定されて、掛止め機構での掛け止めができず、前の位置に戻ってしまうことが防止される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例の第1クラッチ24、110は、トランスファ26、106において後輪へ伝達される駆動力の断接に用いられていたが、他の部位および他の目的で用いられたものでもよい。
また、前述の実施例の第1クラッチ24の移動機構67、第1クラッチ110の移動機構126では、電磁石66、130の1回の励磁でコネクト位置からディスコネクト位置へ切換られるように構成されていたが、2回以上の励磁によって切換られるように構成されていてもよい。
前述の実施例の4輪駆動車両10は、トランスファ26を有する前輪用駆動力配分ユニット20が備えられたFFベースの車両であったが、本発明はFRベース、RRベースなど適宜組み合わせて実施することができる。また、前述の実施例では、第1クラッチ24は、可動スリーブ60等を含む噛合式断接機構で構成されていたが、その噛合式断接機構以外で構成されていても良い。例えば多板摩擦クラッチ等で構成されていても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。