本発明の実施形態において、(a)前記一対のカム部材にそれぞれ形成されたカム面には、前記一対のカム部材が相対回転させられた時における前記一対のカム部材の他方に対する前記一対のカム部材の一方の前記回転軸線まわりの第1回転方向において、前記第1回転方向に向うに連れて溝の深さが深くなるように傾斜した第1傾斜面と、前記第1回転方向に向うに連れて溝の深さが浅くなるように傾斜した第2傾斜面とが隣接して形成されており、(b)前記対向面に対する前記一対のカム部材の前記第1傾斜面の角度は、前記対向面に対する前記一対のカム部材の前記第2傾斜面の角度と同じであり、(c)前記戻り角度をΦ、前記対向面に対する前記一対のカム部材の前記第1傾斜面の角度をθ、前記一対のカム部材のそれぞれに形成された複数の溝状の前記カム面の中心を通る円の半径をR、前記一対のカム部材の一方が復動した時における前記断接スリーブの前記回転軸線方向の戻り量をA、円周率をπとしたとき、前記戻り角度Φは式Φ=(A/tanθ)×(180/(π×R))で表わされる。このため、前記一対のカム部材の一方が復動して前記同期装置が非作動となり前記アウトプットシャフトの回転速度が低下しても、前記断接スリーブの第2断接歯が前記リングギヤの第1断接歯に噛み合うよりも早く、前記駆動輪から前記アウトプットシャフトまでのガタが詰められる。
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において、図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が好適に適用された4輪駆動車両10の構成を概略的に説明する骨子図である。図1において、4輪駆動車両10は、エンジン12の動力を主駆動輪に対応する左右の前輪14L、14Rに伝達する第1の動力伝達経路と、エンジン12の動力を副駆動輪に対応する左右の後輪(一対の駆動輪)16L、16Rに伝達する第2の動力伝達経路とを有しているFFベースの4輪駆動装置を備えている。この4輪駆動車両10の2輪駆動状態では、エンジン12から自動変速機18を介して伝達された駆動力が前輪用駆動力配分装置20および左右の車軸22L、22Rを介して左右の前輪14L、14Rへ伝達される。この2輪駆動状態では、少なくともトランスファ26に設けられた第1クラッチ24が解放され、プロペラシャフト28、および、後輪用駆動力配分装置(車両用駆動力配分装置)30および後輪16L、16Rへは駆動力が伝達されない。しかし、4輪駆動状態では、上記2輪駆動状態に加えて、第1クラッチ24および第2クラッチ(断接装置)32が共に係合されて、プロペラシャフト28、および、後輪用駆動力配分装置30および後輪16L、16Rへエンジン12からの駆動力が伝達される。
前輪用駆動力配分装置20は、図1に示すように、第1回転軸線C1まわりに回転可能に設けられ、自動変速機18の出力歯車18aと噛み合うリングギヤ20rと、リングギヤ20rに固定されたデフケース20cと、デフケース20c内に収容された差動歯車機構20dとを有しており、前輪14L、14Rに連結された左右の車軸22L、22Rの差回転を許容しつつリングギヤ20rに伝達された駆動力を左右の車軸22L、22Rへ伝達する。なお、デフケース20cには、トランスファ26に設けられた円筒形状の入力軸34のデフケース20c側の端部に形成された第1外周スプライン歯34aと嵌合する内周噛合歯20aが形成されている。
トランスファ26は、図1に示すように、プロペラシャフト28を駆動するためにプロペラシャフト28の前輪14L、14R側の端部に連結されたドリブンピニオン36と噛み合う円筒状のリングギヤ38と、エンジン12からデフケース20cを介して前輪14L、14Rへ伝達される駆動力の一部が入力される円筒状の入力軸34と、デフケース20cからプロペラシャフト28への動力伝達経路において入力軸34とリングギヤ38との間の動力伝達経路を断接する第1クラッチ24とを備えており、第1クラッチ24が係合して入力軸34とリングギヤ38との間の動力伝達経路が接続されると、エンジン12から左右の前輪14L、14Rに伝達される駆動力の一部が、プロペラシャフト28を介して左右の後輪16L、16Rへ出力されるようになっている。
第1クラッチ24には、図1に示すように、入力軸34に対して第1回転軸線C1方向に移動可能且つ入力軸34に対して相対回転不能に入力軸34に配設され、外周に外周断接歯40aが形成された断接スリーブ40と、断接スリーブ40を第1非噛合位置から第1噛合位置に向けて付勢するコイル状の第1リターンスプリング42と、断接スリーブ40を第1回転軸線C1方向に移動させて、断接スリーブ40を前記第1噛合位置と前記第1非噛合位置との間で移動させる移動機構44と、移動機構44を駆動させるアクチュエータ46とが備えられている。なお、上記第1噛合位置は、移動機構44によって断接スリーブ40が第1回転軸線C1方向に移動し断接スリーブ40の外周断接歯40aがリングギヤ38の内周断接歯38aと噛み合う位置であり、上記第1噛合位置では、リングギヤ38と入力軸34との相対回転が不能となる。また、上記第1非噛合位置は、移動機構44によって断接スリーブ40が第1回転軸線C1方向に移動し断接スリーブ40の外周断接歯40aがリングギヤ38の内周断接歯38aと噛み合わない位置であり、上記第1非噛合位置では、リングギヤ38と入力軸34との相対回転が可能となる。なお、移動機構44には、断接スリーブ40が前記非噛合位置から前記噛合位置へ移動する際に、入力軸34すなわち断接スリーブ40の回転速度とリングギヤ38の回転速度とを同期させる同期装置48が配設されている。
後輪用駆動力配分装置30は、図1および図2に示すように、プロペラシャフト28から左右の後輪16L、16Rへの動力伝達経路に、プロペラシャフト28の後輪16L、16R側の端部にカップリング50を介して連結されたドライブピニオン52と噛み合うリングギヤ54と、第2回転軸線(回転軸線)C2まわりに回転可能に後輪用駆動力配分装置30のケース部材56に第1軸受58および第2軸受60を介して支持された円筒状のアウトプットシャフト62と、アウトプットシャフト62から後輪16L、16R側へ出力されるトルクを左右の後輪16L、16Rのそれぞれに伝達する一対の左電子制御カップリング(電子制御カップリング)64Lおよび右電子制御カップリング(電子制御カップリング)64R(図1参照)と、リングギヤ54とアウトプットシャフト62との間の動力伝達経路を断接する第2クラッチ32とを備えている。なお、左電子制御カップリング64Lおよび右電子制御カップリング64Rは、アウトプットシャフト62と左右の後輪16L、16Rとの間の伝達トルクをそれぞれ制御する湿式多板クラッチ式の電子制御カップリングである。また、後輪用駆動力配分装置30は、4輪駆動車両10の4輪駆動状態において、エンジン12からプロペラシャフト28を介してリングギヤ54に伝達された駆動力を一対の左電子制御カップリング64Lおよび右電子制御カップリング64Rを介して後輪(駆動輪)16L、16Rへそれぞれ配分する。
第2クラッチ32には、図2に示すように、リングギヤ54に形成された内周断接歯(第1断接歯)54aに噛合可能な外周断接歯(第2断接歯)66aを有し、アウトプットシャフト62に相対回転不能かつ第2回転軸線C2方向に移動可能に設けられ、外周断接歯66aが内周断接歯54aに噛み合う第2噛合位置(噛合位置)と外周断接歯66aが内周断接歯54aに噛み合わない第2非噛合位置(非噛合位置)との間で第2回転軸線C2方向に移動させられる断接スリーブ66と、断接スリーブ66を前記第2非噛合位置から前記第2噛合位置に向けて付勢するコイル状の第1リターンスプリング(リターンスプリング)68と、断接スリーブ66を第2回転軸線C2方向に移動させて、断接スリーブ66を前記第2噛合位置と前記第2非噛合位置との間で移動させる移動機構70と、移動機構70を駆動させるアクチュエータ72とが備えられている。なお、第1リターンスプリング68は、第2軸受60に隣接して設けられた環状部材74と断接スリーブ66との間に予圧された状態で介在されており、第1リターンスプリング68によって断接スリーブ66が第2回転軸線C2方向において第1軸受58側に付勢されている。
移動機構70には、図2に示すように、アウトプットシャフト62に対して相対回転可能に設けられ、第1リターンスプリング68の付勢力に抗して断接スリーブ66を前記第2非噛合位置へ移動させるピストン76と、アクチュエータ72の作動により第2回転軸線C2まわりに相対回転させられる環状の一対の第1カム部材(カム部材)78および第2カム部材(カム部材)80、および一対の第1カム部材78および第2カム部材80が互いに向い合う対向面78a、80aにそれぞれに形成された溝状のカム面78b、80bに挟まれた球状転動体82とを有し、一対の第1カム部材78および第2カム部材80が第2回転軸線C2まわりに相対回転させられると、一対の第1カム部材78および第2カム部材80の一方の第1カム部材78がピストン76に向けて移動させられるボールカム84と、第1カム部材78を第2カム部材80に向けて付勢する第2リターンスプリング86と、複数段(本実施例では2段)の第1掛止歯(図3参照)88aおよび第2掛止歯(図3参照)88bを有し、アウトプットシャフト62に相対回転不能かつ第2回転軸線C2方向に移動不能に設けられ、第1掛止歯88aまたは第2掛止歯88bでピストン76を掛け止めることにより断接スリーブ66を前記第2噛合位置および前記第2非噛合位置に位置決めするホルダー88とが備えられている。なお、移動機構70には、断接スリーブ66が前記第2非噛合位置から前記第2噛合位置へ移動する際に、リングギヤ54の回転速度(回転)とアウトプットシャフト62の回転速度(回転)とを同期させる同期装置90が備えられている。
図2に示すように、ボールカム84は、例えば、ピストン76と第1軸受58との間に、第2回転軸線C2方向において重なるように介挿された環状の一対の第1カム部材78および第2カム部材80と、それら第1カム部材78と第2カム部材80とにおいて周方向の3箇所(図4参照)に形成された、周方向で深さD(図5参照)が変化する互いに対向する溝状のカム面78b、80bに挟まれた3個の球状転動体82とを有し、それら第1カム部材78と第2カム部材80とが第2回転軸線C2まわりに相対回転させられると、それら第1カム部材78と第2カム部材80が第2回転軸線C2方向に離隔させられる。なお、第1カム部材78の内周面には、図示されていないが、アウトプットシャフト62に形成された外周スプライン歯と相対回転不能且つ第2回転軸線C2方向の移動可能に噛み合う内周噛合歯が形成されている。これによって、アウトプットシャフト62が例えば第2回転軸線C2まわりに回転すると、第1カム部材78も第2回転軸線C2まわりに回転し、例えばアクチュエータ72が作動していない場合には、第2カム部材80が球状転動体82を介して第1カム部材78と一体的に回転する。
上記のように構成されたアクチュエータ72である電磁コイル、ボールカム84および可動片92では、例えば、車両走行中でアウトプットシャフト62が第2回転軸線C2まわりに回転している状態において、アクチュエータ72が作動して前記電磁コイルによって可動片92がその電磁コイルに吸着されると、可動片92が非回転部材である前記電磁コイルに吸着されることによって第2カム部材80に回転制動トルクが伝達される。このため、アクチュエータ72が非作動状態から作動すると、前記回転制動トルクによって、第1カム部材78と第2カム部材80とが相対回転して、第1カム部材78が球状転動体82を介して第2回転軸線C2方向において第1リターンスプリング68および第2リターンスプリング86の付勢力に抗してピストン76に向けて移動すると共に、ピストン76等を介して断接スリーブ66が第2軸受60側へ移動させられる。また、アクチュエータ72が作動した状態から非作動になると、第1リターンスプリング68の付勢力により断接スリーブ66が第1軸受58側へ移動させられると共に、第2リターンスプリング86の付勢力によって第1カム部材78が第2カム部材80に接近する方向へ移動する。なお、可動片92と第2カム部材80とは相対回転不能に連結されている。
図3は、移動機構70の作動原理を説明する模式図であり、環状のピストン76、環状の第1カム部材78の押圧部78c、および環状のホルダー88をそれぞれ展開した状態を示している。図3に示すように、環状のピストン76には、ホルダー88側に突設された突起76aが形成されている。また、環状のホルダー88には、ピストン76の突起76aを掛け止めるための円周方向に連なる2段の第1掛止歯88aおよび第2掛止歯88bが周期的に形成されており、ホルダー88は、アウトプットシャフト62に位置固定に配設されている。また、環状の第1カム部材78の押圧部78cには、ホルダー88に形成された第1掛止歯88aおよび第2掛止歯88bと同様の形状であるが周方向に所定位相ずれた形状で周方向に連なり、ピストン76の突起76aを受け止める2段の第1受止歯78dおよび第2受止歯78eが周期的に形成されている。環状の第1カム部材78の押圧部78cは、ホルダー88に対して相対回転不能且つ第2回転軸線C2方向の移動可能に設けられ、第1リターンスプリング68および第2リターンスプリング86の付勢力に抗してピストン76をボールカム84の1ストローク分だけ移動させられる。なお、第1カム部材78の押圧部78cの第2受止歯78eおよびホルダー88の第2掛止歯88bの先端の斜面には、ピストン76の突起76aの滑りを止めるストッパ78fおよび88cがそれぞれ設けられている。
図3の(a)および(e)は、ピストン76の突起76aがホルダー88の第1掛止歯88aに掛け止められ、断接スリーブ66が前記第2噛合位置にある時を示している。図3の(a)および(e)に示すように、ピストン76から突設された突起76aがホルダー88の第1掛止歯88aに掛け止められた位置に位置している状態では、第1カム部材78の押圧部78cがそのベース位置に位置させられている。図3の(b)は、ピストン76が、アクチュエータ72である電磁石への通電すなわちアクチュエータ72の作動状態によるボールカム84の駆動により移動ストロークST分だけ第1リターンスプリング68および第2リターンスプリング86の付勢力に抗してそのベース位置から移動させられた状態を示している。この過程では、第1カム部材78の押圧部78cによりピストン76が移動させられてホルダー88から離されると共に、ピストン76が第1カム部材78の押圧部78cの第1受止歯78dの斜面78gを滑り落ちる。なお、図3の(b)に示されている一点鎖線は、移動ストロークSTを説明するために図3の(a)の第1カム部材78の押圧部78cのベース位置を示すものである。図3の(c)は、第1カム部材78の押圧部78cが、アクチュエータ72である電磁石への非通電すなわちアクチュエータ72の非作動状態によるボールカム84の非駆動により第2リターンスプリング86の付勢力に従って移動ストロークST分だけ戻されてベース位置に位置させられた状態を示している。この過程では、ピストン76の突起76aがホルダー88の第2掛止歯88bに掛け止められ、断接スリーブ66が前記第2非噛合位置に保持される。図3の(d)は、再び第1カム部材78の押圧部78cが、アクチュエータ72である電磁石への通電によるボールカム84の駆動により移動ストロークST分だけ第1リターンスプリング68および第2リターンスプリング86の付勢力に抗してそのベース位置から移動させられた状態を示している。この過程では、ピストン76が更に第1リターンスプリング68側に移動させられて断接スリーブ66が前記第2非噛合位置を超えて第2軸受60側に移動させられるので、同期装置90によってリングギヤ54の回転速度と断接スリーブ66すなわちアウトプットシャフト62の回転速度とが回転同期させられる。次いで、図3の(e)に示すように、第1カム部材78の押圧部78cが、アクチュエータ72である電磁石への非通電によるボールカム84の非駆動により第2リターンスプリング86の付勢力に従って移動ストロークST分だけ戻されてベース位置に位置させられると、ピストン76の突起76aがホルダー88の第1掛止歯88aに掛け止められ、断接スリーブ66が前記第2噛合位置へ位置させられる。
これにより、移動機構70では、ボールカム84による第1カム部材78の往復移動によりピストン76を周方向へ移動させ、ホルダー88に形成された第1掛止歯88aおよび第2掛止歯88bによってピストン76の突起76aを掛け止める位置を変えることにより、断接スリーブ66を前記第2非噛合位置と前記第2噛合位置との間で移動させられる。すなわち、ピストン76が第1カム部材78によって1回往復移動させられると、ピストン76の突起76aがホルダー88の第2掛止歯88bに掛け止められて断接スリーブ66が前記第2非噛合位置に位置させられる。そして、ピストン76が第1カム部材78によって2回往復移動すなわち断接スリーブ66が前記第2非噛合位置にある状態においてさらにピストン76が第1カム部材78によって1回往復移動させられると、ピストン76の突起76aがホルダー88の第2掛止歯88bから掛け外され第1リターンスプリング68の付勢力によりピストン76の突起76aがホルダー88の第1掛止歯88aに掛け止められて、断接スリーブ66が前記第2噛合位置に位置させられる。
同期装置90には、図2に示すように、断接スリーブ66とピストン76との間に介在された環状の環状部材94と、環状部材94の外周に形成され第2回転軸線C2に対して僅かに傾斜した円錐状外周摩擦面94aとリングギヤ54のピストン76側の端部の内周に形成され第2回転軸線C2に対して僅かに傾斜した円錐状内周当接面54bとの間にそれぞれ配設された環状の一対の第1摩擦係合部材96および第2摩擦係合部材98とが備えられている。なお、環状部材94は、アウトプットシャフト62に対して相対回転不能かつ第2回転軸線C2方向に移動可能に設けられている。また、環状部材94の一部は、第1リターンスプリング68の付勢力によって断接スリーブ66とピストン76とに挟まれているので、環状部材94は、断接スリーブ66およびピストン76の第2回転軸線C2方向の移動に連動して第2回転軸線C2方向に移動するようになっている。また、第1摩擦係合部材96には、第2摩擦係合部材98の内周面に形成され第2回転軸線C2に対して僅かに傾斜した第2円錐状内周摩擦面98aに摺接可能な第1円錐状外周摩擦面96aと、環状部材94の円錐状外周摩擦面94aに摺接可能な第1円錐状内周摩擦面96bとが形成されている。また、第2摩擦係合部材98には、前述した第2円錐状内周摩擦面98aと、リングギヤ54の円錐状内周当接面54bに当接可能な第2円錐状外周当接面98bとが形成されている。
このため、断接スリーブ66が前記第2非噛合位置でピストン76が第1カム部材78によって1回往復移動させられる時において、第1カム部材78が往動して断接スリーブ66が前記第2非噛合位置を超えて移動させられると、第2摩擦係合部材98の第2円錐状外周当接面98bがリングギヤ54の円錐状内周当接面54bに当接し、環状部材94の円錐状外周摩擦面94aが、第1摩擦係合部材96および第2摩擦係合部材98を介してリングギヤ54の円錐状内周当接面54bを押し付けるので、環状部材94が相対回転不能に設けられたアウトプットシャフト62の回転速度とリングギヤ54の回転速度とを同期させる同期動作が行われる。なお、第1カム部材78が復動すると、リングギヤ54の円錐状内周当接面54bから第2摩擦係合部材98の第2円錐状外周当接面98bが離れるので、前記同期動作が停止させられる。
図2、図4、および図5は、断接スリーブ66が前記第2非噛合位置でアクチュエータ72が作動および非作動させられることにより第1カム部材78が1回往復移動させられる時において、第1カム部材78が往動した時の状態を示す図である。図4および図5に示すように、第1カム部材78および第2カム部材80にそれぞれ形成されたカム面78b、80bには、アクチュエータ72の作動時における第1カム部材78と第2カム部材80との相対回転の回転方向すなわち第2カム部材80に対する第1カム部材80の第2回転軸線C2まわりの回転方向F1において、回転方向F1に向かうに連れて第1カム部材78および第2カム部材80の溝の深さD(図5参照)が深くなるように傾斜した第1傾斜面78h、80cと、回転方向F1に向かうに連れて第1カム部材78および第2カム部材80の溝の深さDが浅くなるように傾斜した第2傾斜面78i、80dとが隣接して形成されている。なお、第1カム部材78において、対向面78aに対する第1傾斜面78hの角度θは、対向面78aに対する第2傾斜面78iの角度θと同じである。また、第2カム部材80において、対向面80aに対する第1傾斜面80cの角度θは、対向面80aに対する第2傾斜面80dの角度θと同じであり、第1カム部材78の対向面78aに対する第1傾斜面78hの角度θは、第2カム部材80の対向面80aに対する第1傾斜面80cの角度θと同じである。
以上のように構成された4輪駆動車両10では、例えば、第1クラッチ24および第2クラッチ32が共に係合されている4輪駆動状態において、図示しない電子制御装置で2輪駆動走行モードが選択されると、アクチュエータ46によって断接スリーブ40が前記第1噛合位置から前記第1非噛合位置に移動して第1クラッチ24が開放され、且つ後輪用駆動力配分装置30においてアクチュエータ72によって断接スリーブ66が前記第2噛合位置から前記第2非噛合位置に移動して第2クラッチ32が開放されて、エンジン12から駆動力が主駆動輪である前輪14L、14Rだけに伝達する2輪駆動状態となる。また、第1クラッチ24および第2クラッチ32が共に開放されている2輪駆動状態すなわちエンジン12とプロペラシャフト28との間の動力伝達経路および後輪16とプロペラシャフト28との間の動力伝達経路がそれぞれ切り離されたディスコネクト状態において、図示しない電子制御装置で4輪駆動走行モードが選択されると、アクチュエータ46によって断接スリーブ40が前記第1非噛合位置から前記第1噛合位置に移動して第1クラッチ24が係合され、その第1クラッチ24の係合後にアクチュエータ72によって断接スリーブ66が前記第2非噛合位置から前記第2噛合位置に移動して第2クラッチ32が係合されて、前記ディスコネクト状態が解除される。
また、4輪駆動車両10では、第1クラッチ24の係合後に第2クラッチ32で断接スリーブ66が第1カム部材78の往復移動によって前記第2非噛合位置から前記第2噛合位置に移動させられる際において、第1カム部材78の往動によって断接スリーブ66が前記第2非噛合位置を超えて移動させられると同期装置90の前記同期動作によりアウトプットシャフト62の回転速度がリングギヤ54の回転速度にまで引き上げられるが、断接スリーブ66の外周断接歯66aをリングギヤ54の内周断接歯54aに噛み合わせるために第1カム部材78が復動させられると、同期装置90が非作動となるので、後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62までのガタが詰まり左右の後輪16L、16Rによってアウトプットシャフト62が駆動されるまで、アウトプットシャフト62の回転速度が低下する。後輪用駆動力配分装置30では、上述したアウトプットシャフト62の回転速度が低下した状態で、断接スリーブ66の外周断接歯66aがリングギヤ54の内周断接歯54aに噛み合わないように、つまり、第1カム部材78の復動が終わって断接スリーブ66の外周断接歯66aがリングギヤ54の内周断接歯54aが噛み合う前に、後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62までのガタが詰まってアウトプットシャフト62の回転速度が回復するように、第1カム部材78が復動するときの第2カム部材80に対する第1カム部材78の第2回転軸線C2まわりの戻り角度Φ(図4参照)(°)を、後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62までのガタ角度Ψ(°)よりも大きく(Φ>Ψ)している。
なお、後輪用駆動力配分装置30では、第1カム部材78が往復移動させられ断接スリーブ66が前記第2非噛合位置から前記第2噛合位置に移動するときにおいて、第1カム部材78が復動するときの第2カム部材80に対する第1カム部材78の第2回転軸線C2まわりの戻り角度Φがガタ角度Ψより大きくなるように、アクチュエータ72の通電時間が図示しない電子制御装置によって制御される。また、ガタ角度Ψ(°)は、例えば、後輪16L、16Rの回転を停止させた状態において、アウトプットシャフト62に第2回転軸線C2まわり所定方向のトルクを加えた状態から、そのアウトプットシャフト62に第2回転軸線C2まわり前記所定方向とは反対方向のトルクを加えて、アウトプットシャフト62が第2回転軸線C2まわりに回動した予め実験等で測定された角度である。但し、ガタ角度Ψ(°)を測定する際には、左電子制御カップリング64Lおよび右電子制御カップリング64Rはそれぞれ完全係合状態である。
また、第1カム部材の戻り角度Φを、図2、図4、図5に示すように、ボールカム84において対向面78a、80aに対する第1カム部材78および第2カム部材80の第1傾斜面78h、80dの角度をθ(図5参照)、第1カム部材78および第2カム部材80のそれぞれに形成された3つの溝状のカム面78b、80bの中心Ckを通る円Cの半径をR(図4参照)、第1カム部材78が復動した時における断接スリーブ66の第2回転軸線C2方向の戻り量をA(図2および図5参照)、円周率をπとしたとき、戻り角度Φは以下の式(1)で表される。
Φ=(A/tanθ)×(180/(π×R))・・・(1)
なお、図4および図5で示されている球状転動体82の重心Gbは、アクチュエータ72が非作動で第2リターンスプリング86の付勢力によって、第1カム部材78の第1傾斜面78hおよび第2傾斜面78iと第2カム部材80の第1傾斜面80cおよび第2傾斜面80dとの間に球状転動体82が挟まれたときのその球状転動体82の位置を示している。また、図4および図5に示されている球状転動体82の重心Gsは、アクチュエータ72が作動して第1カム部材78が往動した時における球状転動体82の位置を示している。また、図4および図5で示されている球状転動体82の移動量Bは、図4に示すように、アクチュエータ72の作動により第1カム部材78が往動した時において、円Cの接線Lcの方向における球状転動体82の重心の移動量を示している。但し、カム面80bの中心Ckが円Cの接点である。なお、本実施例では、戻り角度Φは比較的小さな角度であるので、上記移動量Bを以下の式(2)で表している。
B=2πR×(Φ/360)・・・(2)
図6は、4輪駆動車両10の走行中において、第1クラッチ24および第2クラッチ32が共に開放された前記ディスコネクト状態から、第1クラッチ24および第2クラッチ32が共に係合されて前記ディスコネクト状態が解除されるまでの間の、前輪14L、14Rの回転速度Nwf(rpm)、後輪16L、16Rの回転速度Nwr(rpm)、リングギヤ54の回転速度Nr(rpm)、アウトプットシャフト62の回転速度No(rpm)を示す図である。なお、前輪14L、14Rの回転速度Nwfは、左右の前輪14L、14Rの平均回転速度であり、図6では、前輪14L、14Rの回転速度Nwfは一定である。また、後輪16L、16Rの回転速度Nwrは、左右の後輪16L、16Rの平均回転速度であり、図6では、後輪16L、16Rの回転速度Nwrは一定である。但し、前記ディスコネクト状態において、前輪14L、14Rの回転速度Nwfは、後輪16L、16Rの回転速度Nwrより僅かに速い。また、後輪16L、16Rが回転駆動していると一対の左電子制御カップリング64Lおよび右電子制御カップリング64Rでの引きずりトルクによってアウトプットシャフト62の回転速度Noが後輪16L、16Rの回転速度Nwfまで上昇するようになっている。
図6に示すように、同期装置48で同期動作が行われる第1時点t1からリングギヤ38の回転速度が上昇すると共にプロペラシャフト28の回転速度が上昇して、第2時点t2において入力軸34の回転速度とリングギヤ38の回転速度とが同期する。なお、リングギヤ38の回転速度が上昇するとプロペラシャフト28を介してリングギヤ54の回転速度Nrが上昇する。次に、断接スリーブ40が前記第1噛合位置に切り替えられる第3時点t3では、第1クラッチ24が係合されエンジン12からの動力が第1クラッチ24、プロペラシャフト28等を介してリングギヤ54に伝達される。
次に、第1カム部材78が復動して同期装置90においてリングギヤ54の円錐状内周当接面54bから第2摩擦係合部材98の第2円錐状外周当接面98bが離れる第4時点t4では、後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62に伝達させる駆動力によって後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62までのガタが詰まる第5時点t5まで、アウトプットシャフト62の回転速度Noが低下する。なお、第5時点t5の後は、後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62までのガタが詰まりアウトプットシャフト62の回転速度Noが回復する。また、次に、断接スリーブ66が前記第2噛合位置に切り替えられる第6時点t6では、第2クラッチ32が係合されエンジン12からの動力が後輪16L、16Rに伝達される。なお、本実施例では、後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62までのガタが詰まってアウトプットシャフト62の回転速度Noが回復した後に、断接スリーブ66が前記第2噛合位置に切り替えられるように、すなわち戻り角度Φがガタ角度Ψ(°)よりも大きく(Φ>Ψ)なるように、アクチュエータ72の通電時間が図示しない電子制御装置によって制御される。しかしながら、例えば、戻り角度Φがガタ角度Ψ(°)よりも小さくなるように制御すると、第4時点t4と第5時点t5との期間中すなわちアウトプットシャフト62の回転速度Noが低下している時に、断接スリーブ66が前記第2噛合位置に切り替えられて、断接スリーブ66の外周断接歯66aとリングギヤ54の内周断接歯54aとから比較的大きな異音が発生する。
上述のように、本実施例の後輪用駆動力配分装置30によれば、第2クラッチ32は、リングギヤ54に形成された内周断接歯54aに噛合可能な外周断接歯66aを有し、アウトプットシャフト62に相対回転不能かつ第2回転軸線C2方向に移動可能に設けられ、断接スリーブ66の外周断接歯66aがリングギヤ54の内周断接歯54aに噛み合う第2噛合位置と断接スリーブ66の外周断接歯66aがリングギヤ54の内周断接歯54aに噛み合わない第2非噛合位置との間で移動させられる断接スリーブ66と、断接スリーブ66を前記第2非噛合位置から前記第2噛合位置に向けて付勢する第1リターンスプリング68と、アクチュエータ72と、アウトプットシャフト62に対して相対回転可能に設けられ、第1リターンスプリング68の付勢力に抗して断接スリーブ66を前記第2非噛合位置へ移動させるピストン76と、アクチュエータ72の作動により第2回転軸線C2まわりに相対回転させられる一対の第1カム部材78および第2カム部材80、及び一対の第1カム部材78および第2カム部材80の対向面78a、80aにそれぞれに形成された溝状のカム面78b、80bに挟まれた球状転動体82を有し、一対の第1カム部材78および第2カム部材80が相対回転させられると、第1カム部材78がピストン76に向けて移動させられるボールカム84と、第1掛止歯88aおよび第2掛止歯88bを有し、アウトプットシャフト62に相対回転不能かつ第2回転軸線C2方向に移動不能に設けられ、第1掛止歯88aまたは第2掛止歯88bでピストン76を掛け止めることにより断接スリーブ66を前記第2噛合位置および前記第2非噛合位置に位置決めするホルダー88と、を含み、第1カム部材78の往復移動によりピストン76を移動させ、ホルダー88によってピストン76を掛け止める位置を変えることにより、断接スリーブ66を前記第2非噛合位置と前記第2噛合位置との間で移動させており、同期装置90は、断接スリーブ66が前記第2非噛合位置を超えて移動させられると、リングギヤ54の回転速度とアウトプットシャフト62の回転速度とを同期させる同期動作が行われるようになっており、第1カム部材78が復動するときの第1カム部材78の第2回転軸線C2まわりの戻り角度Φが、後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62までのガタ角度Ψよりも大きくされている。このため、第1カム部材78が復動して同期装置90が非作動となりアウトプットシャフト62の回転速度が低下しても、断接スリーブ66の外周断接歯66aがリングギヤ54の内周断接歯54aに噛み合うよりも早く、後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62までのガタが詰められるので、断接スリーブ66の外周断接歯66aがリングギヤ54の内周断接歯54aに噛み合うよりも早くアウトプットシャフト62の回転速度が回復して、リングギヤ54の回転速度とアウトプットシャフト62の回転速度との差が比較的小さい状態で、断接スリーブ66の外周断接歯66aがリングギヤ54の内周断接歯54aに噛み合わせられる。これによって、断接スリーブ66の外周断接歯66aとリングギヤ54の内周断接歯54aとから発生する異音を好適に抑制することができる。
また、本実施例の後輪用駆動力配分装置30によれば、第1カム部材78および第2カム部材80にそれぞれ形成されたカム面78b、80bには、第1カム部材78および第2カム部材80が相対回転させられた時における第2カム部材80に対する第1カム部材78の第2回転軸線C2まわりの回転方向F1において、回転方向F1に向うに連れて溝の深さDが深くなるように傾斜した第1傾斜面78h、80cと、回転方向F1に向うに連れて溝の深さDが浅くなるように傾斜した第2傾斜面78i、80dとが隣接して形成されており、対向面78a、80aに対する第1カム部材78および第2カム部材80の第1傾斜面78h、80cの角度θは、対向面78a、80aに対する第1カム部材78および第2カム部材80の第2傾斜面78i、80dの角度θと同じであり、前記戻り角度をΦ、対向面78a、80aに対する第1カム部材78および第2カム部材80の第1傾斜面78h、80cの角度をθ、第1カム部材78および第2カム部材80のそれぞれに形成された3つの溝状のカム面78b、80bの中心Ckを通る円Cの半径をR、第1カム部材78が復動した時における断接スリーブ66の第2回転軸線C2方向の戻り量をA、円周率をπとしたとき、前記戻り角度Φは式Φ=(A/tanθ)×(180/(π×R))で表わされる。このため、第1カム部材78が復動して同期装置90が非作動となりアウトプットシャフト62の回転速度が低下しても、断接スリーブ66の外周断接歯66aがリングギヤ54の内周断接歯54aに噛み合うよりも早く、後輪16L、16Rからアウトプットシャフト62までのガタが詰められる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、ホルダー88には、2段の第1掛止歯88aおよび第2掛止歯88bが形成されていたが、例えば3段以上の掛止歯が形成されていても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。