JP6318808B2 - ボールねじ - Google Patents
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Description
例えば特許文献1に記載の技術では、ねじ溝の両縁部に所定のR面取りを施すことによって、ボールねじの高速化を実現している。また、同文献では、ねじ軸外径(ランド部)とボールとの衝突に関し、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の10%以下にすることにより、ボールの衝突を防ぎ得るとしている。
例えば、特許文献1記載の技術では、ねじ溝の両縁部のR面取りとねじ軸直径との境界にボールが衝突すること(以下、「外径エッジ衝突」とも称する)を避けるために、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を10%以下に規制するものの、(リード/軸径)比の大きいボールねじにおいては、ねじ溝の軌道のねじれが大きくなるため、リターンチューブからボールが戻るときに、ねじ溝に対して斜め上からボールが侵入する。そのため、外径エッジ衝突が生じてしまうという問題がある。この問題を避けるために、循環路下穴の掬い上げ角度を大きくするという方策もあるものの、(リード/軸径)比の設定には限界がある。また、過度に掬い上げ角度を大きくしすぎると、循環路下穴の掬い上げ部でのボール軌道変化が大きくなるので、ボールの衝突が大きくなってしまい、更なる高速化を達成するには限界があった。
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るボールねじは、ねじ軸と、ナットと、複数のボールとを有し、前記ねじ軸は前記ナットを貫通し、前記ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のねじ溝と前記ナットの内周面に形成された螺旋状のねじ溝とにより前記ボールが転動する転動路が形成されるとともに、前記転動路の終点から始点に前記ボールを戻すボール戻し路が外部循環部材によって形成され、前記ナットに、前記外部循環部材の端部が連結される循環路下穴が前記転動路に連通するように形成されている外部循環方式のボールねじにおいて、前記ねじ軸は、前記ねじ溝の両縁部に、前記ねじ軸の外径面に滑らかに接続する面取りを有し、前記面取りと前記ねじ軸の外径面との境界に接するように前記ボールを位置させたときに、そのボール中心が前記ねじ溝に沿って描くらせん軌跡を「エッジ衝突時ボール中心軌跡」と呼び、このエッジ衝突時ボール中心軌跡を前記循環路下穴に直角な断面に投影した時の軌跡を「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と呼ぶとき、前記エッジ衝突時ボール中心投影軌跡から前記循環路下穴中心までの距離の最小値をEmin、ボール直径をDw、循環路下穴直径をDtとしたとき、下記(式1)の関係を満たすように、前記ボール中心が前記ねじ溝中心に沿って描くらせん軌道上からずらした位置に前記循環路下穴中心の位置が配置されていることを特徴とする。
本発明の第一態様に係るボールねじによれば、(式1)の関係を満たす範囲で、ボール中心が描くらせん軌道上から意図的にずらした位置に循環路下穴中心を配置したことにより、後に詳述するように、ボール中心の取り得る範囲が、R面取りとねじ軸直径との境界よりも常にねじ溝の内側寄りに位置することが可能となる。そのため、「外径エッジ衝突」が防止され、致命的な早期損傷なくボールねじを更に高速化することができる。
ここで、上記第一態様において、前記面取りがR面取り(凸曲面からなる面取り)であることは好ましい。このような構成であれば、ねじ軸の外径面に滑らかに接続する面取りをR面取りとすることで、その形状が単純であり、生産が容易であるからコストを下げる上で好適である。
さらに、上記第一態様において、前記面取りが、ねじ溝側に滑らかに接続するR面取りと、このR面取りの外側から前記ねじ軸の外径面に滑らかに接続する直線面取りとから形成されていることは好ましい。
ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差が小さい場合において、前記面取りをR面取りのみから構成しようとすると、面取りがねじ軸の外径面に達せず、ねじ溝の形状として成り立たない場合があるところ、このような構成であれば、R面取りの外側を直線面取りとしたことでねじ軸の外径面に達することができ、ねじ溝の形状として成立する。また、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差が小さい場合において、前記面取りをR面取りのみから構成する場合に比べてねじ溝の溝幅が広くなりすぎることを抑えることができ、加工時の取代を小さく抑える上で好適である。
また、上記第一から第三態様のいずれか一の態様において、前記循環路下穴中心は、前記ボール中心が描くらせん軌道上からボール直径の15%以下の範囲でずらした位置に配置されていることは好ましい。
試作検証した結果によれば、ボール直径の15%以下の範囲のずらし量であれば、ボールがスムーズに循環可能であった。なお、ボール直径の15%を超えて過度にずらすと、すくい上げ点においてボールが循環経路方向に対して横方向に移動する量が増えてしまうため、作動性悪化の懸念が生じる。
このボールねじは、ボールを戻すボール戻し路がリターンチューブによって形成されているチューブ式のボールねじであって、図1に示すように、ねじ軸1とナット2と複数のボール3を有する。ねじ軸1はナット2を貫通するように配置されている。ねじ軸1のねじ溝11とナット2のねじ溝21とでボール3の転動路が形成されている。ナット2には、循環部品として略U字状のリターンチューブ4が装着されている。リターンチューブ4の両端は、転動路に連通して形成されたチューブ装着穴31に取り付けられており、ボール3を転動路の終点から始点に戻すボール戻し路41が形成されている。
同図に示すように、このボールねじは、ねじ溝11の外側(両縁部)に、ねじ軸1の外径面12に滑らかに接続するR面取り7が施されている。そして、このボールねじは、図4に示すように、ボール3の中心Oがねじ溝11の中心に沿って描くらせん軌道SL上から、所定範囲内のずらし量を満足するずらし位置(図4では符号exで示す位置)に循環路下穴41の中心位置が配置されている。
以下、本発明の実施例を例にして、上記(式1)の関係を満たす、「エッジ衝突時ボール中心軌跡」を形成するように循環路下穴41の中心位置をずらして配置する理由について詳しく説明する。
図3に、上記ボールねじに設定する座標系を示す。同図に示すように、ねじ軸1の長手方向をX、循環路下穴の軸方向をZ、循環路下穴の軸に直角な方向をYとし、掬い上げ角度をγとする。このとき、X方向原点は、ねじ線(つまり、ボール3の中心Oがねじ溝11の中心に沿って描くらせん軌道)SLにおいて、掬い上げ角度γ=0°のねじ線位置であり、Y,Z方向の原点はねじ軸1の中心軸上にある。また、ボールピッチ円直径をDm[mm]、ボールねじリードをL[mm]、リード角をβとする。リード角βは下記の(式2)の関係にある。
tan(β)=L/(π×Dm) (式2)
図5に示すように、溝直角断面X’Y平面において、R面取り7とねじ軸1の外径面12(ねじ軸直径)との境界Kの座標を境界座標(Sk1,Rk1)、境界Kを与える角度をμk1とする。なお、境界Kを与える角度μk1は、境界Kに接するボール3の中心と境界Kとを結ぶ線分とY軸とのなす角である。境界座標(Sk1,Rk1)及び境界Kを与える角度μk1は、ボールねじの溝直角断面(X’Y平面)において形状測定を行った結果から求めてもよく、また、下記の方法によって設計値から算出してもよい。
Sp=±{(R−Dw/2)×sin(α)−(R+Rr)×sin(θa)}
Rp=Dm/2+(R−Dw/2)×cos(α)−(R+Rr)×cos(θa)
(式3)
Sq1=Sp±Rr×sin(μ)
Rq1=Rp+Rr×cos(μ) (式4)
R面取り7とねじ軸1の外径面12(ねじ軸直径)との境界Kにおいては、ねじ軸直径をD[mm]とすると、下記の(式5)を満足する。
{Sq1×sin(β)}2+Rq12=(D/2)2 (式5)
よって、式(5)に式(4)を代入した時の解μがμk1であり、R面取りとねじ軸直径との境界座標(Sk1,Rk1)は下記の(式6)によって与えられる。
Sk1=Sp±Rr×sin(μk1)
Rk1=Rp+Rr×cos(μk1) (式6)
Sb1=Sk1±(Dw/2)×sin(μk1)
Rb1=Rk1+(Dw/2)×cos(μk1) (式7)
X’YZ’座標系でのボール中心(Sb1,Rb1,0)からXYZ座標系のボール中心(Xb,Yb,Zb)への座標変換は、下記の(式8)によって与えられる。
Xb=Sb1×cos(β)
Yb=Rb1
Zb=−Sb1×sin(β) (式8)
X(H)=Xb+H×L/2/π
=Sb1×cos(β)+H×L/2/π
Y(H)=Yb×cos(H)−Zb×sin(H)
=Rb1×cos(H)+Sb1×sin(β)×sin(H)
Z(H)=Yb×sin(H)+Zb×cos(H)
=Rb1×sin(H)−Sb1×sin(β)×cos(H) (式9)
「エッジ衝突時ボール中心軌跡」の循環路下穴41に直角な断面への投影線は、上記(式9)のX(H)、Y(H)である。
Xt=γ×L/(2π)+ex
Yt=Dm/2×cos(γ)+ey (式10)
E(H)=√{(X(H)−Xt)2+(Y(H)−Yt)2} (式11)
ここで、具体的な計算例を実施例に基づき説明する。表1に実施例(および比較例)の具体的数値を示す。ここでは、上記[第二態様]の対応例である、表1中の実施例1−1のボールねじを例に説明する。
Emin−(Dt−Dw)/2>0 (式1)
試作検証した範囲では、上記範囲のずらし量のであればボールがスムーズに循環可能であった。ボール直径の15%の範囲を超えて過度に循環路下穴中心の位置をずらすと、すくい上げ点においてボールが循環経路方向に対して横方向に移動する量が増えてしまうため、作動性悪化の懸念が生じる。
なお、循環路下穴直径Dtが比較的大きい場合とは、ボールねじの製造における加工誤差を考慮した場合も含まれる。つまり、ボールねじ毎に循環路下穴中心位置や実際の循環路下穴直径にはばらつきがあり、循環路下穴直径Dtは、下記(式12)と同等にふるまう。ここで、(式12)において、循環路下穴直径設計値あるいは循環路下穴直径測定結果:Dt’、循環路下穴直径公差:ΔDt、循環路下穴中心位置度幾何公差:ΦZt、である。
Dt=Dt’+ΔDt+ΦZt (式12)
次に、上記[第三態様]に対応する例(表1,2中の実施例3−1)、つまり、ねじ溝の両縁部に設けられてねじ軸の外径面に滑らかに接続する面取りが、R面取りと直線面取りとからなる例について説明する。
このような構成であると、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差が小さい場合において、R面取りのみでは面取りがねじ軸直径に達せず、ねじ溝11が形状として成り立たない場合があるが、R面取り7の外側を直線面取り8としたことでねじ軸直径に達することができ、ねじ溝11が形状として成立する。また、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差が小さい場合において、R面取りのみに比べて溝幅が広くなりすぎることを抑えることができ、加工時の取代を小さく抑えることができる。
R面取り7の中心座標(Sp,Rp)は上記(式2)によって与えられる。R面取り7と直線面取り8との境界座標(Sc,Rc)は下記の(式13)によって与えられる。
Sc=Sp±Rr×sin(θc)
Rc=Rp+Rr×cos(θc) (式13)
θc=θa−θb (式14)
Rq2=Rc+abs(Sq2−Sc)×tan(θc) (式15)
ここで、abs(Sq2−Sc)は(Sq2−Sc)の絶対値を表す。直線面取り8とねじ軸直径との境界Kにおいては、下記の(式16)を満足する。
{Sq2×sin(β)}2+Rq22=(D/2)2 (式16)
Sk2=Sq2
Rk2=Rc+abs(Sq2−Sc)×tan(θc) (式17)
Sb2=Sk2±(Dw/2)×sin(θc)
Rb2=Rk2+(Dw/2)×cos(θc) (式18)
以降、「エッジ衝突時ボール中心軌跡」の循環路下穴に直角な断面への投影線X(H)、Y(H)、「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と循環路下穴中心との距離E(H)、を求めるまでの過程は、上述した(式8)、(式9)、(式10)、(式11)において、Sb1→Sb2,Rb1→Rb2と置き換えたものに同じである。
表1,2中の実施例3−1のボールねじは、上記の(式14)〜(式16)及び(式17)を用いた計算の結果、直線面取りとねじ軸直径との境界座標(Sk2,Rk2)=(±2.693,12.444)を得ることができた。また、上記(式10)から求めた循環路下穴中心は、(Xt,Yt)=(3.200,11.583)である。これを(式9)、(式11)、(式18)を用いてE(H)を求め、E(H)の最小値Eminを求めると、Emin−(Dt−Dw)/2=0.114(表2参照)である。これは上記(式1)の条件を満たしており、「外径エッジ衝突」が生じない。よって、致命的な早期損傷なくボールねじを高速化することができる。
2 ナット
3 ボール
4 リターンチューブ
7 R面取り
8 直線面取り
11 ねじ軸のねじ溝
12 ねじ軸の外径面
21 ナットのねじ溝
31 チューブ装着穴
41 ボール戻し路、循環路下穴
Claims (4)
- ねじ軸と、ナットと、複数のボールとを有し、前記ねじ軸は前記ナットを貫通し、前記ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のねじ溝と前記ナットの内周面に形成された螺旋状のねじ溝とにより前記ボールが転動する転動路が形成されるとともに、前記転動路の終点から始点に前記ボールを戻すボール戻し路が外部循環部材によって形成され、前記ナットに、前記外部循環部材の端部が連結される循環路下穴が前記転動路に連通するように形成されている外部循環方式のボールねじにおいて、
前記ねじ軸は、前記ねじ溝の両縁部に、前記ねじ軸の外径面に滑らかに接続する面取りを有し、
前記面取りと前記ねじ軸の外径面との境界に接するように前記ボールを位置させたときに、そのボール中心が前記ねじ溝に沿って描くらせん軌跡を「エッジ衝突時ボール中心軌跡」と呼び、このエッジ衝突時ボール中心軌跡を前記循環路下穴に直角な断面に投影した時の軌跡を「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と呼ぶとき、
前記エッジ衝突時ボール中心投影軌跡から前記循環路下穴中心までの距離の最小値をEmin、ボール直径をDw、循環路下穴直径をDtとしたとき、下記(式1)の関係を満たすように、前記ボール中心が前記ねじ溝中心に沿って描くらせん軌道上からずらした位置に前記循環路下穴中心の位置が配置されていることを特徴とするボールねじ。
Emin−(Dt−Dw)/2>0 (式1) - 前記面取りがR面取りである請求項1に記載のボールねじ。
- 前記面取りが、ねじ溝側に滑らかに接続するR面取りと、このR面取りの外側から前記ねじ軸の外径面に滑らかに接続する直線面取りとから形成されている請求項1に記載のボールねじ。
- 前記循環路下穴中心は、前記ボール中心が描くらせん軌道上からボール直径の15%以下の範囲でずらした位置に配置されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のボールねじ。
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