JP6311608B2 - 肝臓癌の検出方法および肝硬変の検出方法 - Google Patents
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Description
自覚症状のない初期の肝硬変や肝臓癌等の肝疾患を発見するためには、画像診断よりも簡便でかつ費用の少ない血液検査が望ましいが、現在の肝臓癌や肝硬変に対するマーカーは精度が不十分であるために、健常人が定期的に受ける健康診断では実施されていない。仮にこれを実施すると偽陽性と判定される健常者が続出し、彼らの追加検査(画像診断など)によっては病院の診断機能が麻痺してしまうためである。
しかしながら、非特許文献1、非特許文献2、および特許文献1に記載の方法では、血清中に含まれる全ての糖タンパク質を対象としているため、生体内の数千種の糖タンパク質の糖鎖構造変化が平均化されてしまうという問題があった。
なお、α1−酸性糖タンパク質においてAALレクチンに強く結合する例としては、一本の糖鎖に複数のフコースが結合する場合のみではなく、1本の糖鎖に一つのフコースを有する糖鎖を複数有する場合や、コアフコースをもつ場合などがあるので、非特許文献4、および特許文献3に記載の方法は、一本の糖鎖に複数のフコースが結合した場合に着目したものではない。
本発明は、感度および特異度が高い肝臓癌マーカー糖タンパク質および肝硬変マーカー糖タンパク質、並びにこれらを用いた肝臓癌の検出方法および肝硬変の検出方法を提供することを課題とする。
即ち、本発明の要旨は、以下の(1)〜(12)に存する。
(1)体液中の糖タンパク質の存在量または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値を指標とする肝臓癌の検出方法であって、当該糖タンパク質が、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする、肝臓癌の検出方法。
(2)体液中の糖タンパク質の存在量または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値を指標とする肝硬変の検出方法であって、当該糖タンパク質が、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする、肝硬変の検出方法。
(3)前記N結合型糖鎖の基本骨格が、3本分岐鎖または4本分岐鎖であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の検出方法。
(4)前記N結合型糖鎖のフコース結合様式がシアリルルイスX型であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の検出方法。
(5)前記N結合型糖鎖が、A4G4S4Fo2、A4G4S4Fo3、A4G4S3Fo2、A4G4S3Fo3、およびA3G3S3Fo2(ただし、Aは分岐数、G はガラクトース数、Sはシアル酸数、FoはルイスX型フコース数を示す。)よりなる群から選ばれる何れかの構造を有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の検出方法。
(6)前記N結合型糖鎖が、前記α1−酸性糖タンパク質の、Asn72、Asn93、およびAsn103よりなる群から選ばれる少なくとも一つの部位に結合していることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の検出方法。
(7)体液中の糖タンパク質から、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定する工程を有することを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の検出方法。
(8)体液中の糖タンパク質から予めα1−酸性糖タンパク質を分離する工程、および、当該α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定する工程を有することを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の検出方法。
(9)前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量と、前記α1−酸性糖タンパク質の総量との比を指標とすることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の検出方法。
(10)前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量と、血清中の総タンパク質量との比を指標とすることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の検出方法。
(11)糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定し得る試薬を含んでいることを特徴とする、肝臓癌検出用キット。
(12)糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定し得る試薬を含んでいることを特徴とする、肝硬変検出用キット。
本発明の肝臓癌の検出方法では、肝臓癌を発症した被検動物において、特異的に、肝臓癌マーカーの発現量が増加する傾向にあるため、当該肝臓癌マーカーの存在量を測定すれば、肝臓癌の検出を行なうことができる。
本明細書において、肝臓癌とは、悪性腫瘍物が肝臓または胆管に発生したものをいい、原発性および転移性の両方が含まれる。具体的には、肝細胞癌、胆管癌等が挙げられる。
本発明の検出方法で用いられる肝臓癌マーカー(以下、本肝臓癌マーカーという。)は、糖タンパク質であり、より詳しくは、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有することを特徴とするα1−酸性糖タンパク質である。以下、本肝臓癌マーカーの「糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖」のことを「本糖鎖部」と称する。
α1−酸性糖タンパク質は、前記N結合型糖鎖を含む糖鎖部分と、α1−酸性糖タンパク質から前記糖鎖部分を除いたタンパク質部分とを有するが、前記N結合型糖鎖部分と前記タンパク質部分の結合様式は、アスパラギンとN−グリコシド結合をなしている。
本発明で検出すべきα1−酸性糖タンパク質は、前記α1−酸性糖タンパク質の全長でなくてもよく、その一部を構成するペプチドでもよい。前記α1−酸性糖タンパク質の一部を構成するペプチドとは、後述する測定方法等で、α1−酸性糖タンパク質の一部であることが特定できるものであればいずれのものでもよい。
なお、以下の構造式において、「Gal」はガラクトースを、「GlcNAc」はN−アセチルグルコサミン、を「Man」はマンノースを、「Fuc」はフコースを、および「NeuAc」はN−アセチルノイラミン酸(シアル酸)を表す。
本糖鎖部は、その結合部位に特に制限はないが、Asn33、Asn56、Asn72、Asn93、Asn103に結合することができる。中でも、Asn72、Asn93、Asn103が好ましく、Asn72、Asn93がより好ましい。なお、例えば、前記Asn72とは、N末端から72番目のアミノ酸であることを意味する。また、上記アミノ酸(Asn)番号は配列番号1のもので示したが、本発明の効果が得られる範囲内でアミノ酸の欠失や挿入等の変異がある場合は、上記アミノ酸(Asn)番号に相当するものであればよい。
本発明で用いられる肝硬変マーカーは、肝硬変を発症した被検動物において、特異的に、肝硬変マーカーの発現量が増加する傾向にあり、当該肝硬変マーカーの存在量を測定すれば、肝硬変の検出を行なうことができる。
本明細書において、肝硬変とは、肝の繊維化により肝機能が大幅に低下したものをいい、主に、B型、C型肝炎やアルコール性肝炎などを原因として発症するものである。特に進行した肝硬変では、肝癌を発病するリスクが極めて高く、例えば、C型肝炎由来肝硬変は約7割が肝癌を発症することが知られている。
本肝硬変マーカーが有する構造等についての説明は、上述の本肝臓癌マーカーの説明と同様である。
本発明の肝臓癌の検出方法は、被検動物から採取された体液中の、上述の本肝臓癌マーカー(即ち、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質)の存在量を測定し、本肝臓癌マーカーの存在量または本肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標として肝臓癌を検出する方法である。つまり、体液中から、(i)α1−酸性糖タンパク質であること、(ii)糖鎖1本あたりに少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有すること、という2つの条件を満たす糖タンパク質の存在量の測定し、必要に応じて解析を行なうことで検出する方法である。後述の具体的な検出方法に記載するように、上記(i)と(ii)とは、別工程として検出してもよいし、一つの工程で検出してもよく、上記(i)と(ii)の測定する順序にも特に制限はなく任意に設定することができる。
(1)体液中の糖タンパク質から、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質(本発明の肝臓癌マーカー)の存在量を測定する工程を有することを特徴とする、肝臓癌の検出方法。
(2)体液中の糖タンパク質から予めα1−酸性糖タンパク質を分離する工程、および、該α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質(本発明の肝臓癌マーカー)の存在量を測定する工程を有することを特徴とする、肝臓癌の検出方法。
次に、本糖鎖部の存在量の測定工程(B)を行なう。前記α1−酸性糖タンパク質分離工程(A)で分離された上記α1−酸性糖タンパク質のうち、糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖の存在量を測定する。
糖鎖を分解する方法としては、ヒドラジン分解法や、酵素(N−グリカナーゼ)消化法等が挙げられる。これらのうち、定量的に糖鎖を切断するにはヒドラジン分解法が好ましく、例えば、Y. Otake et al., J Biochem (Tokyo)129 (2001) 537-42に記載の方法等が好ましく用いられる。ここで、ヒドラジン分解法を用いた場合には、ヒドラジン分解によって脱離したアセチル基を再アセチル化する必要があり、例えば、K. Tanabe et al., Anal.Biochem. 348 (2006) 324-6.記載の方法等を用いることができる。また、シアル化糖鎖を検出したい場合には、検出を容易にするためにノイラミニダーゼ等のシアル酸切断酵素を用いてシアル酸を切断してもよい。
蛍光検出法を用いて本糖鎖部を検出する場合は、上述の2−アミノピリジンなどの蛍光物質で予め糖鎖を標識化する必要があり、また質量分析法を使う場合は上述の2−アミノピリジンやTMAPAにより予め糖鎖にイオン性化合物を付加することが望ましく、特にTMAPAを用いることが望ましい。また、蛍光検出法の検出条件は、検出対象とする本糖鎖部を検出できるものであれば、特に限定されるものではない。2−アミノピリジンを標識化合物に使った場合は、励起光に波長280nm〜330nm、蛍光検出に波長350nm〜420nmを選択することが好ましい。
上述の方法により、体液から検出された本肝臓癌マーカーの存在量、または本肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標として、該検体を提供した被検動物の肝臓癌の可能性を判断することができる。
「本肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値」とは、「本肝臓癌マーカーの存在量」と、他の指標とを組み合わせ、算出したものをいう。「本肝臓癌マーカーの存在量」と組み合わせる指標としては、肝癌判定の精度が上がれば特に制限されるものではないが、他の癌マーカー値、生化学検査値、特定のタンパク質量や全タンパク質量、代謝物の発現量等が挙げられ、より具体的には、血清中の総タンパク質量、α1−酸性糖タンパク質の総量(糖鎖の構造に関わらず、体液中に含まれるα1−酸性糖タンパク質の存在量の総量をいう。)、質量分析または蛍光検出器で検出した全ピークの合計面積などが挙げられる。中でも、本肝臓癌マーカーの存在量と、α1−酸性糖タンパク質の総量との比を指標とすることや、本肝臓癌マーカーの存在量と、血清中の総タンパク質量との比を指標とすることが好ましい。
また、本肝臓癌マーカーの肝臓癌動物における存在量は、慢性肝炎を発症している動物における存在量よりも有意に多くなるという特徴があるため、肝臓癌を慢性肝炎と区別して検出する際に好ましく用いられる。慢性肝炎とは、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)に感染することで発症するウイルス性肝炎であり、将来的に肝硬変、肝癌に発展する可能性が高い疾患である。
本発明の肝硬変の検出方法は、被検動物から採取された体液中の、上述の本肝硬変マーカー(即ち、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質)の存在量を測定し、本肝硬変マーカーの存在量または本肝硬変マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標として肝硬変を検出する方法である。つまり、上述の肝臓癌の検出方法の場合と同様、体液中から、(i)α1−酸性糖タンパク質であること、(ii)糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有すること、という2つの条件を満たす糖タンパク質の存在量の測定し、必要に応じて解析を行なうことで検出する方法である。後述の具体的な測定方法に記載するように、上記(i)と(ii)とは、別工程として検出してもよいし、一つの工程で検出してもよく、上記(i)と(ii)の測定する順序にも特に制限はなく任意に設定することができる。
(1)体液中の糖タンパク質から、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質(本発明の肝硬変マーカー)を検出する工程を有することを特徴とする、肝硬変の検出方法。
(2)体液中の糖タンパク質から予めα1−酸性糖タンパク質を分離する工程、および、該α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質(本発明の肝硬変マーカー)を検出する工程を有することを特徴とする、肝硬変の検出方法。
前記(1)、および(2)の検出方法等の説明は、上述の<肝臓癌の検出方法>の場合と同様である。
上述の方法により、体液から検出された本肝硬変マーカーの存在量、または本肝硬変マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標として、該検体を提供した被検動物の肝硬変の可能性を判断することができる。
その他、評価方法については、肝臓癌の検出方法の場合と同様である。
また、肝臓癌もしくは肝硬変の予防薬または治療薬を動物に投与した後に、該動物より採取された体液中の本肝臓癌マーカーもしくは本肝硬変マーカーの存在量を測定し、得られた本肝臓癌マーカーもしくは本肝硬変マーカーの存在量またはその値に基づき算出される値を指標とすることによって、該動物における肝臓癌もしくは肝硬変の予防効果、または、肝臓癌もしくは肝硬変の治療効果の評価を行うこともできる。
ここで用いる肝硬変治療薬としては、特に限定されないが、例えば、マロチラート(一般名カンテック)、ラクツロース(一般名モニラック)、アミノレバン(一般名アミノレバンEN)などが挙げられる。
さらに、肝臓癌もしくは肝硬変の予防薬の候補化合物、または、肝臓癌もしくは肝硬変の治療薬の候補化合物を動物に投与した後に該動物より採取された体液中の本肝臓癌マーカーもしくは本肝硬変マーカーの存在量を測定し、該本肝臓癌マーカーもしくは本肝硬変マーカーの存在量またはこれらから算出される値を指標とすることによって、該候補化合物の肝臓癌もしくは肝硬変の予防薬の候補化合物、または、治療薬の候補化合物の評価をすることもできる。
ここで用いる候補化合物としては、低分子化合物でもよいし、ペプチドやタンパク質などであってもよい。また、評価対象の動物として好ましくはヒトである。
本発明の肝臓癌検出用または肝硬変検出用の測定キット、もしくは、肝臓癌検出用または肝硬変検出用の測定装置(以下、「本発明のキット」および「本発明の装置」と称する場合がある。)とは、体液中の糖タンパク質の存在量を測定し得る試薬を含んでなる、肝臓癌検出用または肝硬変検出用の測定キット、もしくは測定装置であって、前記糖タンパク質が、糖鎖一本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする。
血清サンプルから得られた糖ペプチドについて液体クロマトグラフィー(Agilent HP1200、Agilent technologies社製)および質量分析装置(Q-TOF 6520、Agilent technologies社製)を用いて以下の条件で測定を行なった。
インフォームドコンセントを取得した血清を東京大学医科学研究所バイオバンクおよび株式会社総合医科学研究所より入手した。はじめに、入手した血清サンプルを以下のグループに分類した。
グループ1:非癌患者・健常者グループ 105名
(健常者または糖尿病患者35名、慢性肝炎患者(B型肝炎)27名、慢性肝炎患者(C型肝炎)26名、肝硬変患者17名が含まれる。)
グループ2:肝臓癌患者グループ 42名
次に各患者の血清100μLに対しアセトン400μLを加えた後、12,000rpm、20分間、4℃で遠心分離し、タンパク質を沈殿させた。上清を除去後、沈殿物に尿素を含む変性剤を加え、タンパク質を変性後、還元アルキル化を行った。変性剤、還元剤を除去後、トリプシンを添加してタンパク質をペプチド断片化し、それをAALレクチンカラムによりフコース含有糖ペプチドを濃縮した。調整したフコース含有糖ペプチドを、上述の条件で、液体クロマトグラフィー(Agilent HP1200、Agilent technologies社製)・質量分析装置(Q-TOF 6520、Agilent technologies社製)を用いて分析し、各血清に含まれるα1−酸性糖タンパク質由来の糖ペプチド量を計測した。
なお、AUC値は以下のようにして算出した。
比較したいサンプルを上述の通り2群(グループ1(非癌患者・健常者)と、グループ2(肝臓癌患者))に分け、AUC値算出の対象とするマーカーのカットオフ(閾値)を0から∞に変化させたときの感度(肝臓癌患者の陽性率)および1−特異度(非癌患者群の陰性率)をプロットしてROCカーブを作成した。ROCカーブは、縦1×横1の正方形の中に描かれ、感度=1、特異度=1の場合(すなわち肝臓癌患者群を完全に非癌患者と識別できる場合)は左上の頂点を通る線となる。AUC(Area Under Curve)値とは、ROCカーブにより区切られた正方形の右下部分の面積のことである(感度=1、特異度=1のときにAUCは1となる)。
実施例1で用いたグループ1(非癌患者・健常者)とグループ2(肝臓癌患者)の血清サンプルから、各グループからそれぞれ任意に27サンプルを選択し、実施例1と同様の方法により糖ペプチドを得て、上記のLS−MSを用いて分析した。
α1−酸性糖タンパク質の4本分岐鎖にフコースが2つ以上結合した7つの糖ペプチドについて、感度および特異度を算出し、既存肝臓癌マーカーAFPと比較した結果(表3)、特異度ではAFPにやや劣るものの、感度において有意にAFPを上回った。
実施例2に示した7つの本発明の肝臓癌マーカーそれぞれについて、質量分析装置で算出される値(本発明の肝臓癌マーカーの存在量)から求めたAUC値(表4における「補正なし」)と、本発明の肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値(本発明の肝臓癌マーカーの存在量に対し、補正を行なった値)から求めたAUC値(表4における「補正あり」)との比較を行なった。サンプルは、実施例1で用いたグループ1(非癌患者・健常者)とグループ2(肝臓癌患者)の血清サンプルを使用した。
その結果、以下、表4に示すとおり、全糖タンパク質ピーク面積による補正を行なうと、補正を行なわなかった場合と比較してAUC値が著しく改善した。全糖タンパク質の含有量には個体差があるので、このような補正を行なうと有効であることがわかる。
インフォームドコンセントを取得した血清を東京大学医科学研究所バイオバンクより入手した。はじめに、入手した血清サンプルを以下のグループに分類した。
グループ1:非肝硬変患者(慢性肝炎患者)・健常者グループ 88名
(健常者または糖尿病患者35名、慢性肝炎患者(B型肝炎)27名、慢性肝炎患者(C型肝炎)26名)
グループ2:肝硬変患者グループ 49名
次に各患者の血清100μLに対しアセトン400μLを加えた後、12,000rpm、20分間、4℃で遠心分離し、タンパク質を沈殿させた。上清を除去後、沈殿物に尿素を含む変性剤を加え、タンパク質を変性後、還元アルキル化を行った。変性剤、還元剤を除去後、トリプシンを添加してタンパク質をペプチド断片化し、それをAALレクチンカラムによりフコース含有糖ペプチドを濃縮した。調整したフコース含有糖ペプチドを、上述の条件で、液体クロマトグラフィー(Agilent HP1200、Agilent technologies社製)・質量分析装置(Q-TOF 6520、Agilent technologies社製)(以下、「LC−MS」と称することがある。)を用いて分析し、各血清に含まれるα1−酸性糖タンパク質由来の糖ペプチド量を計測した。
次に、質量分析装置で取得した個々のピーク面積から発現量を換算し、グループ2(肝硬変患者)の血清サンプルのα1−酸性糖タンパク質に由来する糖ペプチド発現量と、グループ1(非肝硬変患者・健常者)の血清サンプルのα1−酸性糖タンパク質に由来する糖ペプチド発現量とを比較した。α1−酸性糖タンパク質に結合しているフコース数により分類し、ROC曲線を作成し(図1)、AUCを求めた(表5)。
本比較例では、分析対象を、α1−酸性糖タンパク質に特定せずに、血清に含まれる全ての糖タンパク質とした。
インフォームドコンセントを取得した血清を香川大学および総合医科学研究所より入手した。はじめに、入手した血清サンプルを以下のように分類した。
グループ1: 肝臓癌患者グループ 59名
グループ2: 非癌患者(肝炎、肝硬変患者)・健常者グループ 35名
次に各患者の血清100μLにアセトン900μLを加え、タンパク質を沈殿させ、充分に乾燥させた後、ヒドラジン200μLを加えて100℃で10時間反応させた。その後、グラファイトカーボンカラムに反応液を通液し、糖タンパク質から切断した糖鎖をカラムに保持させた。そこに、無水酢酸を添加し、糖鎖の再アセチル化を行った後、アセトニトリルを通液することで糖鎖を溶出させた。溶出した糖鎖は、2−アミノピリジンで還元末端を標識化した後、シアリダーゼで全シアル酸を除去した。得られたサンプルについて、上述の測定条件ではなく、以下の測定条件で液体クロマトグラフィーを用いて各血清に含まれる糖鎖の構造の解析、および各糖鎖の存在量の計測を行なった。
カラム:Asahipak NH2-P (Shodex) 4.6mmI.D. x 250mm, 5μm
オーブン:30℃
溶離液A:930mL アセトニトリル,70mL MilliQ水,酢酸 3mL,
28%アンモニア水溶液 500μL
溶離液B:200mL アセトニトリル,800mL MilliQ水,酢酸 3mL,
28%アンモニア水溶液 3.5mL
流速: 0.6ml/min
励起波長:310nm
検出波長:380nm
グラジエント:Gradient time (min) 0 - 180 min
B(%) concentration 25 - 42 %
注入量:2μL
その結果、血清に含まれる全ての糖タンパク質におけるA4G4Fo2(なお、シアル酸は分析前に除去した。)のROC(AUC)値は58%であった。
一方、実施例1に記載の通り、4本分岐鎖にフコースが2個(シアル酸が3個)結合した糖鎖がα1−酸性糖タンパク質に結合した糖タンパク質をマーカーとする場合、そのROC(AUC)値は85%(A4G4S3Fo2(Asn72))、79%(A4G4S4Fo2(Asn72))、78%(A4G4S4Fo2(Asn93))、75%(A4G4S4Fo2(Asn103))と高い値を示す。
これらの結果から、本糖鎖部とα1−酸性糖タンパク質との組み合わせが重要であることがわかる。
高分岐(3本鎖、4本鎖)と2本鎖の違いを調べる目的で、分析に用いた血清サンプル以外は実施例1と同様の方法で、α1−酸性糖タンパク質に結合する2本鎖型糖鎖(A2G2S2Fo2)を分析し、肝臓癌患者グループと非癌患者・健常者グループとで比較を行ない、ROC曲線を作成し、AUC値を求めた。
本比較例で用いた血清サンプルは、実施例1と異なり、肝臓癌患者グループ42名と非癌患者(肝炎、肝硬変患者を含む)・健常者グループ98名であった。
その結果、A2G2S2Fo2(2本鎖)が結合するα1−酸性糖タンパク質のROC(AUC)値は0.74であり、実施例1に示す高分岐型糖鎖のROC(AUC)値(表1を参照)のいずれの値も下回った。
なお、2012年9月24日に出願された日本特許出願2012−209819号および2013年6月5日に出願された日本特許出願2013−119072号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
Claims (11)
- 肝臓癌を検出するために、体液中の糖タンパク質の存在量または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値を測定する方法であって、
当該糖タンパク質が、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする方法。 - 肝硬変を検出するために、体液中の糖タンパク質の存在量または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値を測定する方法であって、
当該糖タンパク質が、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする方法。 - 前記N結合型糖鎖の基本骨格が、3本分岐鎖または4本分岐鎖であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
- 前記N結合型糖鎖のフコース結合様式がシアリルルイスX型であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- 前記N結合型糖鎖が、A4G4S4Fo2、A4G4S4Fo3、A4G4S3Fo2、A4G4S3Fo3、およびA3G3S3Fo2(ただし、Aは分岐数、G はガラクトース数、Sはシアル酸数、FoはルイスX型フコース数を示す。)よりなる群から選ばれるいずれかの構造を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
- 前記N結合型糖鎖が、前記α1−酸性糖タンパク質の、Asn72、Asn93、およびAsn103よりなる群から選ばれる少なくとも一つの部位に結合していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- 体液中の糖タンパク質から、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定する工程を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
- 体液中の糖タンパク質から予めα1−酸性糖タンパク質を分離する工程、および、当該α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定する工程を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
- 前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量と、前記α1−酸性糖タンパク質の総量との比を指標とすることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
- 前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量と、血清中の総タンパク質量との比を指標とすることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
- 糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定し得る、少なくとも抗体または酵素を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を実施するキット。
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