JP6311608B2 - 肝臓癌の検出方法および肝硬変の検出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、肝臓癌の検出方法および肝硬変の検出方法に関する。具体的には、体液中の特定の糖タンパク質量を指標とする肝臓癌の検出方法および肝硬変の検出方法に関する。
現在、肝臓癌や肝硬変の診断は内視鏡やPET、MRIといった画像診断が中心であるが、これらは患者に対する苦痛が大きく、または費用負担が大きいなどの理由で、健常人が定期的に受ける診断として必ずしも普及していないのが実情である。
自覚症状のない初期の肝硬変や肝臓癌等の肝疾患を発見するためには、画像診断よりも簡便でかつ費用の少ない血液検査が望ましいが、現在の肝臓癌や肝硬変に対するマーカーは精度が不十分であるために、健常人が定期的に受ける健康診断では実施されていない。仮にこれを実施すると偽陽性と判定される健常者が続出し、彼らの追加検査(画像診断など)によっては病院の診断機能が麻痺してしまうためである。
一方、血清に含まれる糖タンパク質は、古くから癌化に伴い糖鎖構造が変化することが知られ、特にフコシル化が進むことが知られている。例えば、血清中に含まれる全ての糖タンパク質の糖鎖総量において、3本鎖または4本鎖N結合型糖鎖であるシアリルルイスX抗原が、肝臓癌患者から採取した血清では顕著に増加することが開示されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、特許文献1を参照)。
上述のように血清中に含まれる全糖タンパク質の糖鎖総量ではなく、ある特定の糖タンパク質の糖鎖における構造変化をマーカーとして使用する例としては、α1−酸性糖タンパク質など血清タンパク質と、フコースを認識するAALレクチンとのサンドイッチエライザ法による肝臓癌の診断技術が開示されている(例えば、非特許文献3、特許文献2を参照)。また、α1−酸性糖タンパク質の3本鎖および4本鎖構造を有するN結合型糖鎖の存在比率と当該N結合型糖鎖に付加したフコースの修飾率を求め、手術後の癌患者の予後を判定する方法も開示されている(例えば、非特許文献4および特許文献3を参照)。具体的には、この方法では、「Aw+Asの値(AwはAALレクチンに対して弱く反応する画分、AsはAALレクチンに対して強く反応する画分を示す。)」をフコースの修飾率と定義して癌患者の予後の判定を行なっている。ここで、「フコース修飾率」とは、単にフコース付加の有無を意味しているに過ぎず、画分Asが画分Awに比べて癌患者に強く現れているとは述べられていない。また、肝硬変の進行、すなわち肝繊維化の進行度合いを表すマーカーとしても、α1−酸性糖タンパク質のフコース修飾量が、有効であることも開示されている(例えば、非特許文献5を参照)。特許文献2[0081]段落にも、さらなる解析により、α1−酸性糖タンパク質等が、ただの癌においてではなく、主として肝硬変においてフコシル化されることが示されたと記載されている。
さらに、α1−酸性糖タンパク質のフコシル化は、肝臓癌や肝硬変により増加するのと同時に手術などの炎症とともに増加することも知られている(例えば、非特許文献6を参照)。
特開2009−222670号公報 特表2008−541060号公報 特開2005−69846号公報
Hepatology, vol. 46, No.5, p1426-1435 (2007) Biochem Biophys Res Commun. vol.374, No.2, p219-225 (2008). J. Proteome Res., vol.8, No.2, p595-602 (2009) Cancer, vol 101, No. 12, p2825-2836 (2004) Clinical Chemistry, vol. 48, No.12, p2195-2201 (2002) Biochimica Biophysica Acta, vol. 1725, p128-135 (2005)
上述の文献に記載されているように、これまでにα1−酸性糖タンパク質の糖鎖の構造変化(例えば、フコシル化)と、肝臓癌や肝硬変との関係は調べられてきた。
しかしながら、非特許文献1、非特許文献2、および特許文献1に記載の方法では、血清中に含まれる全ての糖タンパク質を対象としているため、生体内の数千種の糖タンパク質の糖鎖構造変化が平均化されてしまうという問題があった。
α1−酸性糖タンパク質のフコシル化については、上述した文献等で報告されているが、いずれの文献においても、1本の糖鎖に複数のフコースが結合した場合に着目したものはなく、肝臓癌や肝硬変を特異的に識別することは難しかった。
なお、α1−酸性糖タンパク質においてAALレクチンに強く結合する例としては、一本の糖鎖に複数のフコースが結合する場合のみではなく、1本の糖鎖に一つのフコースを有する糖鎖を複数有する場合や、コアフコースをもつ場合などがあるので、非特許文献4、および特許文献3に記載の方法は、一本の糖鎖に複数のフコースが結合した場合に着目したものではない。
また、α1−酸性糖タンパク質のフコシル化は、手術後の炎症等によっても検出されるため(非特許文献5、6や特許文献2を参照)、フコースの結合数には着目しないα1−酸性糖タンパク質の全フコシル化量の変化を調べる従来の検出方法では、肝臓癌や肝硬変を特異的に識別することができなかった。
本発明は、感度および特異度が高い肝臓癌マーカー糖タンパク質および肝硬変マーカー糖タンパク質、並びにこれらを用いた肝臓癌の検出方法および肝硬変の検出方法を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく、α1−酸性糖タンパク質の詳細なフコースの結合様式と疾患との関係を検討した結果、糖鎖一本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を1タンパク質あたりに少なくとも1本以上もつα1−酸性糖タンパク質を、肝臓癌マーカーまたは肝硬変マーカーとして用いると、肝臓癌または肝硬変を特異的に検出できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明の要旨は、以下の(1)〜(12)に存する。
(1)体液中の糖タンパク質の存在量または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値を指標とする肝臓癌の検出方法であって、当該糖タンパク質が、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする、肝臓癌の検出方法。
(2)体液中の糖タンパク質の存在量または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値を指標とする肝硬変の検出方法であって、当該糖タンパク質が、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする、肝硬変の検出方法。
(3)前記N結合型糖鎖の基本骨格が、3本分岐鎖または4本分岐鎖であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の検出方法。
(4)前記N結合型糖鎖のフコース結合様式がシアリルルイスX型であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の検出方法。
(5)前記N結合型糖鎖が、A4G4S4Fo2、A4G4S4Fo3、A4G4S3Fo2、A4G4S3Fo3、およびA3G3S3Fo2(ただし、Aは分岐数、G はガラクトース数、Sはシアル酸数、FoはルイスX型フコース数を示す。)よりなる群から選ばれる何れかの構造を有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の検出方法。
(6)前記N結合型糖鎖が、前記α1−酸性糖タンパク質の、Asn72、Asn93、およびAsn103よりなる群から選ばれる少なくとも一つの部位に結合していることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の検出方法。
(7)体液中の糖タンパク質から、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定する工程を有することを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の検出方法。
(8)体液中の糖タンパク質から予めα1−酸性糖タンパク質を分離する工程、および、当該α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定する工程を有することを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の検出方法。
(9)前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量と、前記α1−酸性糖タンパク質の総量との比を指標とすることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の検出方法。
(10)前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量と、血清中の総タンパク質量との比を指標とすることを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の検出方法。
(11)糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定し得る試薬を含んでいることを特徴とする、肝臓癌検出用キット。
(12)糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定し得る試薬を含んでいることを特徴とする、肝硬変検出用キット。
本発明によれば、従来よりも感度や特異度の高い肝臓癌および肝硬変の検出方法を提供することができる。また、本発明によれば従来よりも感度や特異度の高い肝臓癌検出用または肝硬変検出用の測定キットおよび測定装置を提供することができる。
実施例4で得られたROC曲線を示す。
本発明は、被検動物から採取された体液中の、糖鎖一本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を1タンパク質あたりに少なくとも1本以上もつα1−酸性糖タンパク質(肝臓癌の検出にも肝硬変の検出にも用いることができ、以下、これを用途等に応じて、「本発明の肝臓癌マーカー」、「本発明の肝臓癌マーカー糖タンパク質」、「本発明の肝硬変マーカー」、または「本発明の肝硬変マーカー糖タンパク質」と称することがある。)の存在量、または前記本発明の肝臓癌マーカーまたは肝硬変マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標とすることを特徴とする肝臓癌の検出方法および肝硬変の検出方法(以下、これらを「本発明の検出方法」と称することがある)である。
<肝臓癌マーカー>
本発明の肝臓癌の検出方法では、肝臓癌を発症した被検動物において、特異的に、肝臓癌マーカーの発現量が増加する傾向にあるため、当該肝臓癌マーカーの存在量を測定すれば、肝臓癌の検出を行なうことができる。
本明細書において、肝臓癌とは、悪性腫瘍物が肝臓または胆管に発生したものをいい、原発性および転移性の両方が含まれる。具体的には、肝細胞癌、胆管癌等が挙げられる。
以下、本発明の検出方法で用いられる肝臓癌マーカーが有する構造について、以下、詳細に説明する。
本発明の検出方法で用いられる肝臓癌マーカー(以下、本肝臓癌マーカーという。)は、糖タンパク質であり、より詳しくは、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有することを特徴とするα1−酸性糖タンパク質である。以下、本肝臓癌マーカーの「糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖」のことを「本糖鎖部」と称する。
α1−酸性糖タンパク質とは、別名オロムソコイドのことであり、弱アルカリ性のもとで電気泳動を行なうとα1グロブリン画分に移動する、その糖成分の一つであるシアル酸含有量が多いため酸性度が大きい、といった特徴を有するものである。
α1−酸性糖タンパク質は、前記N結合型糖鎖を含む糖鎖部分と、α1−酸性糖タンパク質から前記糖鎖部分を除いたタンパク質部分とを有するが、前記N結合型糖鎖部分と前記タンパク質部分の結合様式は、アスパラギンとN−グリコシド結合をなしている。
α1−酸性糖タンパク質において前記糖鎖部分を除いたタンパク質部分(以下、「タンパク質部」と称する場合がある。)のアミノ酸配列としては、配列表の配列番号1に記載の配列等が挙げられる。ただし、前記配列番号1に記載のアミノ酸配列は、本発明の効果が得られる範囲内で変異が入っていてもよい。
本発明で検出すべきα1−酸性糖タンパク質は、前記α1−酸性糖タンパク質の全長でなくてもよく、その一部を構成するペプチドでもよい。前記α1−酸性糖タンパク質の一部を構成するペプチドとは、後述する測定方法等で、α1−酸性糖タンパク質の一部であることが特定できるものであればいずれのものでもよい。
前記タンパク質部に結合する本糖鎖部は、N結合型糖鎖であり、かつ、前記N結合型糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有することを特徴とするものである。本糖鎖部の基本骨格は、特に制限はないが、通常、分岐しており、好ましくは3本分岐鎖以上、より好ましくは3本分岐鎖または4本分岐鎖、最も好ましくは4本分岐鎖である。このN結合型糖鎖に結合するフコースは、糖鎖1本あたり(ここでいう糖鎖1本あたりとは、前記分岐鎖1本あたりではなく、アスパラギン1分子に結合できる糖鎖分子全体を1本として数えることとする。)、好ましくは2個以上であり、また、好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下である。フコースのN結合型糖鎖への結合様式は特に限定されないが、シアリルルイスX型(α1−3結合)であることが特に好ましい。
本糖鎖部の具体的な構造としては、好ましくは、A4G4S4Fo2、A4G4S4Fo3、A4G4S3Fo2、A4G4S3Fo3、A3G3S3Fo2などが挙げられる。ここで、Aは分岐数、Gはガラクトース数、Sはシアル酸(N−アセチルノイラミン酸)数、FoはシアリルルイスX型フコース数を示す。具体的な構造の好ましい例として、A4G4S4Fo2、A4G4S4Fo3、A4G4S3Fo2、A4G4S3Fo3およびA3G3S3Fo2の構造を下記に示す。即ち、本糖鎖部は、3本または4本の分岐鎖を有するN結合型糖鎖であり、ガラクトース数が4個であり、シアル酸数が3個または4個であり、主鎖であるN結合型糖鎖1本あたりに結合するフコースが2個または3個であることが好ましい。この場合、シアル酸とフコースの結合位置に特に制限はない。
なお、以下の構造式において、「Gal」はガラクトースを、「GlcNAc」はN−アセチルグルコサミン、を「Man」はマンノースを、「Fuc」はフコースを、および「NeuAc」はN−アセチルノイラミン酸(シアル酸)を表す。
[A4G4S4Fo2]
Figure 0006311608
[A4G4S4Fo3]
Figure 0006311608
[A4G4S3Fo2]
Figure 0006311608
[A4G4S3Fo3]
Figure 0006311608
[A3G3S3Fo2]
Figure 0006311608
本肝臓癌マーカーは、糖タンパク質1分子あたり本糖鎖部を1本以上有していることを必須とするが、糖タンパク質1分子あたり2本以上の本糖鎖部を有していてもよい。
本糖鎖部は、その結合部位に特に制限はないが、Asn33、Asn56、Asn72、Asn93、Asn103に結合することができる。中でも、Asn72、Asn93、Asn103が好ましく、Asn72、Asn93がより好ましい。なお、例えば、前記Asn72とは、N末端から72番目のアミノ酸であることを意味する。また、上記アミノ酸(Asn)番号は配列番号1のもので示したが、本発明の効果が得られる範囲内でアミノ酸の欠失や挿入等の変異がある場合は、上記アミノ酸(Asn)番号に相当するものであればよい。
上述した本肝臓癌マーカーのより好ましい構造は、α1−酸性糖タンパク質のAsn72にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn72にA4G4S3Fo2が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn93にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn72にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn93にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn33にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn103にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn103にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質などが挙げられる。これらの中でも、α1−酸性糖タンパク質のAsn93にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn72にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn93にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn72にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、α1−酸性糖タンパク質のAsn72にA4G4S3Fo2が結合した糖タンパク質が特に好ましい。
<肝硬変マーカー>
本発明で用いられる肝硬変マーカーは、肝硬変を発症した被検動物において、特異的に、肝硬変マーカーの発現量が増加する傾向にあり、当該肝硬変マーカーの存在量を測定すれば、肝硬変の検出を行なうことができる。
本明細書において、肝硬変とは、肝の繊維化により肝機能が大幅に低下したものをいい、主に、B型、C型肝炎やアルコール性肝炎などを原因として発症するものである。特に進行した肝硬変では、肝癌を発病するリスクが極めて高く、例えば、C型肝炎由来肝硬変は約7割が肝癌を発症することが知られている。
本発明で用いられる肝硬変マーカー(以下、「本肝硬変マーカー」という。)は、肝硬変へと進行する可能性のある、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を原因とする肝硬変の検出にも用いることができる。
本肝硬変マーカーが有する構造等についての説明は、上述の本肝臓癌マーカーの説明と同様である。
<肝臓癌の検出方法>
本発明の肝臓癌の検出方法は、被検動物から採取された体液中の、上述の本肝臓癌マーカー(即ち、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質)の存在量を測定し、本肝臓癌マーカーの存在量または本肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標として肝臓癌を検出する方法である。つまり、体液中から、(i)α1−酸性糖タンパク質であること、(ii)糖鎖1本あたりに少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有すること、という2つの条件を満たす糖タンパク質の存在量の測定し、必要に応じて解析を行なうことで検出する方法である。後述の具体的な検出方法に記載するように、上記(i)と(ii)とは、別工程として検出してもよいし、一つの工程で検出してもよく、上記(i)と(ii)の測定する順序にも特に制限はなく任意に設定することができる。
ここで、本発明の検出方法においては、必ずしも上述の本肝臓癌マーカー(α1−酸性糖タンパク質)全体を検出する必要はなく、本肝臓癌マーカーであることが判定できればその部分構造を検出するような測定方法を用いてもよい。また、上述の本肝臓癌マーカーの好ましい構造として挙げた糖タンパク質1種を単独でマーカーとして用いることもできるが、それらの2種以上の混合物をマーカーとして用いる、つまり、それらの混合物の合計量を肝臓癌検出のための指標として用いることも可能である。このような検出を行うことができれば、測定方法自体に特に制限はない。
本発明の肝臓癌の検出方法における検体としては、被検動物から採取された体液が用いられる。体液としては、血液、リンパ液、髄液、尿およびその処理物などが用いられるが、好ましくは血液、さらに好ましくは該血液を分離して得られる血清、血漿が用いられる。また、被検動物としては、好ましくはヒトであるが、本肝臓癌マーカーは、ヒト以外の動物実験にも用いることができる。
本発明の肝臓癌の検出方法の具体例としては、例えば、以下の2つの方法が挙げられる。
(1)体液中の糖タンパク質から、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質(本発明の肝臓癌マーカー)の存在量を測定する工程を有することを特徴とする、肝臓癌の検出方法。
(2)体液中の糖タンパク質から予めα1−酸性糖タンパク質を分離する工程、および、該α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質(本発明の肝臓癌マーカー)の存在量を測定する工程を有することを特徴とする、肝臓癌の検出方法。
前記(1)体液中の糖タンパク質からα1−酸性糖タンパク質のみを測定対象として、本肝臓癌マーカーを検出する工程を有する検出方法の具体例としては、体液から全糖タンパク質を抽出し、抽出された全糖タンパク質をプロテアーゼ等によりペプチド断片化し(以下、断片化された糖タンパク質を「糖ペプチド」と称する)、得られた糖ペプチドの混合物から、本肝臓癌マーカーに由来する糖ペプチドの存在量を質量分析装置等で測定する方法が挙げられる。即ち、この検出方法は、質量分析装置等により、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖をもつα1−酸性糖タンパク質に由来する糖ペプチドを検出し、その存在量を測定することにより行なう。
この際、α1−酸性糖タンパク質を体液中から予め単離してからプロテアーゼ処理してもよく、または体液中の他のタンパク質とともにプロテアーゼ処理しても構わない。断片化した糖ペプチドはそのまま質量分析装置で計測しても問題ないが、レクチンなどで予め濃縮することが望ましく、さらにはAALレクチンまたはAOLレクチンを使ってフコース結合糖ペプチドを濃縮することが望ましい。質量分析装置による測定は、質量分析装置単体でも問題ないが、液体クロマトグラフィーやキャピラリー電気泳動などのクロマトグラフィーと組み合わせることが望ましい。目的の糖ペプチド量を測定する方法としては、目的糖鎖ピーク面積を測定する方法が挙げられる。以下、本肝臓癌マーカーを検出する方法について工程ごとに詳細に説明する。
被検動物体液から全タンパク質を取り出す工程は、体液に対し2〜10倍の溶媒を加える。溶媒はタンパク質を沈殿させるものであればどのようなものでもよく、アセトン、メタノール、エタノール、トリクロロ酢酸、塩酸水溶液などが好ましいが、アセトン、メタノールが特に望ましい。沈殿したタンパク質は変性後、還元アルキル化し、プロテアーゼを使いペプチド断片化する。プロテアーゼはタンパク質をペプチドに分解するものであればどのようなものでもよいが、トリプシン、リシルエンドペプチターゼ、またはその両方が用いることが望ましい。
分解後のペプチドはそのまま分析してもよいが、抗体やレクチンを使って糖ペプチドを濃縮すること、特に、本肝臓癌マーカー由来の糖ペプチドを濃縮することが望ましい。具体的にはレクチンカラムを使って糖ペプチドを濃縮することが好ましく、特にAALレクチンカラムを用いることが望ましい。濃縮した糖ペプチドの中から本肝臓癌マーカー由来の糖ペプチドを選択的に検出できる分析方法であれば、どのような方法でもよいが、好ましくは液体クロマトグラフィー・質量分析装置(以下、「LC−MS」と称することがある。)が用いられる。α1−酸性糖タンパク質の標準品の分解物と照合することで、混合物の中から本肝臓癌マーカー由来糖ペプチドを見分けることができる。
また、(2)体液中の糖タンパク質から予めα1−酸性糖タンパク質を分離する工程、および、該α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、本肝臓癌マーカーの存在量を測定する工程を有する検出方法の具体例としては、(A)被検動物から採取された体液中から、α1−酸性糖タンパク質を分離する工程(以下、「α1−酸性糖タンパク質分離工程(A)」)と、(B)分離されたα1−酸性糖タンパク質の糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖の存在量を測定する工程(以下、「本糖鎖部の存在量の測定工程(B)」と称す。)を含む方法等が挙げられる。即ち、前記α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、本肝臓癌マーカーの存在量を測定する工程としては、本肝臓癌マーカー糖タンパク質全体を測定の対象としてもよいし、本肝臓癌マーカー糖タンパク質の糖鎖部分(本糖鎖部)を測定の対象としてもよいが、本糖鎖部を測定の対象とすることが好ましい。
前記α1−酸性糖タンパク質分離工程(A)としては、α1−酸性糖タンパク質を特異的に認識して、体液からその他の糖タンパク質から分離し得る方法であればいずれのものでもよい。具体的には、抗α1−酸性糖タンパク質抗体を用いた免疫沈降法または抗体アフィニティーカラムによりα1−酸性糖タンパク質を分離する方法が挙げられる。
次に、本糖鎖部の存在量の測定工程(B)を行なう。前記α1−酸性糖タンパク質分離工程(A)で分離された上記α1−酸性糖タンパク質のうち、糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖の存在量を測定する。
この方法において、本糖鎖部の存在量を測定するにあたって、本糖鎖部を分離する方法としてはいずれのものでもよいが、例えば、前記α1−酸性糖タンパク質分離工程(A)で分離されたα1−酸性糖タンパク質の糖鎖部分を、グリカナーゼやヒドラジンを使って分解して遊離させ、検出の対象とする本糖鎖部を必要に応じて誘導体化または化学修飾して、液体クロマトグラフィー等により本糖鎖部を分離することができる。以下、前記(A)および(B)について工程ごとに詳細に説明する。
まず、α1−酸性糖タンパク質分離工程(A)を行なう。この(A)工程では、まず、アガロースビーズまたは磁気ビーズにα1−酸性糖タンパク質に対する抗体を結合させる。結合の様式は共有結合でもよいし、ビオチン−アビジンによる結合でもよい。抗体結合ビーズに対して被検動物の体液を混合し、抗体にα1−酸性糖タンパク質を結合させた後、ビーズを充分に洗浄し、さらに弱酸で抗体からα1−酸性糖タンパク質を遊離させることで、α1−酸性糖タンパク質を分離する。
次に、本糖鎖部の存在量の測定工程(B)を行なう。この(B)工程では、前記(A)工程で分離したα1−酸性糖タンパク質を測定対象として、当該α1−酸性糖タンパク質に含まれる本糖鎖部の存在量を測定することで、被検動物の体液に含まれる本肝臓癌マーカーの存在量を求める。
糖鎖を分解する方法としては、ヒドラジン分解法や、酵素(N−グリカナーゼ)消化法等が挙げられる。これらのうち、定量的に糖鎖を切断するにはヒドラジン分解法が好ましく、例えば、Y. Otake et al., J Biochem (Tokyo)129 (2001) 537-42に記載の方法等が好ましく用いられる。ここで、ヒドラジン分解法を用いた場合には、ヒドラジン分解によって脱離したアセチル基を再アセチル化する必要があり、例えば、K. Tanabe et al., Anal.Biochem. 348 (2006) 324-6.記載の方法等を用いることができる。また、シアル化糖鎖を検出したい場合には、検出を容易にするためにノイラミニダーゼ等のシアル酸切断酵素を用いてシアル酸を切断してもよい。
上述のようにして調製した糖鎖において、検出したい本糖鎖部を標識、誘導体化する方法としては、特に限定されるものではないが、質量分析装置を使う場合はイオン化効率を高める4級アンモニウム標識法、より具体的には、TMAPA (トリメチル(4-アミノフェニル)アンモニウムクロライド)を用いる方法が特に好ましい。蛍光検出器を使う場合は2-アミノピリジンにより糖鎖を標識することが好ましい。また、上述のようにして標識した糖鎖を誘導体化する方法として、標識にTMAPAを用いる場合は、例えば、M. Okamoto et al., Rapid Commun Mass Spectrom 9 (1995) 641-3.に記載の方法等が用いられ、標識に2-アミノピリジンを用いる場合はY. Otake et al., J Biochem (Tokyo) 129 (2001) 537-42に記載の方法等が用いられる。
上述のようにして、標識、誘導体化された糖鎖を分離する方法としては、液体クロマトグラフィーの他、電気泳動等を用いることができるが、好ましくは液体クロマトグラフィーを用いることができる。液体クロマトグラフィーの条件は特に限定されるものではないが、逆相または順相カラムが望ましく、溶離液が安定的に送液できるものであればどのような仕様でもよく、特に限定されるものではない。
次に本糖鎖部の存在量を測定する方法は、本糖鎖部を選択的に検出し、その存在量を測定できるものであれば、特に限定されるものではないが、具体的には紫外可視光吸収法、蛍光検出法、質量分析法、核磁気共鳴法、本糖鎖部に特異的な抗体を用いる方法などが挙げられ、中でも、蛍光検出法や質量分析法が望ましい。
蛍光検出法を用いて本糖鎖部を検出する場合は、上述の2−アミノピリジンなどの蛍光物質で予め糖鎖を標識化する必要があり、また質量分析法を使う場合は上述の2−アミノピリジンやTMAPAにより予め糖鎖にイオン性化合物を付加することが望ましく、特にTMAPAを用いることが望ましい。また、蛍光検出法の検出条件は、検出対象とする本糖鎖部を検出できるものであれば、特に限定されるものではない。2−アミノピリジンを標識化合物に使った場合は、励起光に波長280nm〜330nm、蛍光検出に波長350nm〜420nmを選択することが好ましい。
質量分析法を用いて本糖鎖部を検出する場合、質量分析装置の検出範囲としては、検出対象とする本糖鎖部を検出できる範囲であれば、特に限定されるものではない。イオン化法はESIの他、APCIなどでもよいが、ESIが最も好ましい。質量分析装置は四重極型、TOF型、イオントラップ型、磁場型、フーリエ変換型のいずれでもよいが、定量性の高い四重極型、感度の高いTOF型、イオントラップ型が特に好ましい。また、検出するイオンは、親イオンに限定されるものではなく、フラグメントイオン、付加イオン、2量体イオンなど関連イオンであってもよい。このようにして求められる本肝臓癌マーカーの存在量を測定する方法としては、検出対象とする糖鎖(本糖鎖部)に相当するピークのピーク面積を計測する方法等が挙げられる。なお、質量分析法を用いて検出する場合、液体クロマトグラフィーの機能も有するLS−MSを用いることが好ましい。
また、上述した方法の他、被検動物から採取された体液から、N結合型糖鎖1本あたり少なくとも2つ以上のフコースを有する糖タンパク質を分離する工程(以下、「本糖鎖部をもつ糖タンパク質分離工程」)と、分離された本糖鎖部をもつ糖タンパク質を測定対象としてα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定する工程(以下、「α1−酸性糖タンパク質の存在量測定工程」)とを含む方法を用いることもできる。
(評価方法)
上述の方法により、体液から検出された本肝臓癌マーカーの存在量、または本肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標として、該検体を提供した被検動物の肝臓癌の可能性を判断することができる。
「本肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値」とは、「本肝臓癌マーカーの存在量」と、他の指標とを組み合わせ、算出したものをいう。「本肝臓癌マーカーの存在量」と組み合わせる指標としては、肝癌判定の精度が上がれば特に制限されるものではないが、他の癌マーカー値、生化学検査値、特定のタンパク質量や全タンパク質量、代謝物の発現量等が挙げられ、より具体的には、血清中の総タンパク質量、α1−酸性糖タンパク質の総量(糖鎖の構造に関わらず、体液中に含まれるα1−酸性糖タンパク質の存在量の総量をいう。)、質量分析または蛍光検出器で検出した全ピークの合計面積などが挙げられる。中でも、本肝臓癌マーカーの存在量と、α1−酸性糖タンパク質の総量との比を指標とすることや、本肝臓癌マーカーの存在量と、血清中の総タンパク質量との比を指標とすることが好ましい。
組み合わせる他の指標の数は限定されないが、「本肝臓癌マーカーの存在量」を含め、2〜5個が好ましく、2〜3個が特に好ましい。組み合わせの方法(計算方法)は特に限定されるものではないが、2個の指標を組み合わせるときは和、差、比や線形一次式を用いたり、3個以上の指標を組み合わせるときは、線形一次式を用いたりすることが好ましい。
本発明における肝臓癌の検出方法では、肝臓癌マーカー糖タンパク質の含有量として、その絶対量を必ずしも求める必要はなく、上記測定方法などで検出された個々の肝臓癌マーカー糖タンパク質固有のピークを数値化したり、基準とするピークとの比を求めたりすることによっても求めることもできる。この具体的な方法としては、検出された各ピークの高さを数値化する方法、ピーク面積を数値化する方法等があり、液体クロマトグラフィーでは定量性を有する測定方法であるのでどちらかに限定されるものではないが、LC−MS法では好ましくはピーク面積を数値化する方法が精度がよい。
「本肝臓癌マーカーの存在量」は、非癌動物の体液中では少ないが、肝臓癌動物の体液中では顕著に多くなるため、体液中の「本肝臓癌マーカーの存在量」または該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値が非癌動物の値より有意に大きいときに、その被検動物は肝臓癌を発症している可能性が高いということができる。
また、本肝臓癌マーカーの肝臓癌動物における存在量は、慢性肝炎を発症している動物における存在量よりも有意に多くなるという特徴があるため、肝臓癌を慢性肝炎と区別して検出する際に好ましく用いられる。慢性肝炎とは、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)に感染することで発症するウイルス性肝炎であり、将来的に肝硬変、肝癌に発展する可能性が高い疾患である。
<肝硬変の検出方法>
本発明の肝硬変の検出方法は、被検動物から採取された体液中の、上述の本肝硬変マーカー(即ち、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質)の存在量を測定し、本肝硬変マーカーの存在量または本肝硬変マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標として肝硬変を検出する方法である。つまり、上述の肝臓癌の検出方法の場合と同様、体液中から、(i)α1−酸性糖タンパク質であること、(ii)糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有すること、という2つの条件を満たす糖タンパク質の存在量の測定し、必要に応じて解析を行なうことで検出する方法である。後述の具体的な測定方法に記載するように、上記(i)と(ii)とは、別工程として検出してもよいし、一つの工程で検出してもよく、上記(i)と(ii)の測定する順序にも特に制限はなく任意に設定することができる。
ここで、本発明の肝硬変の検出方法においては、必ずしも上述の本肝硬変マーカー(α1−酸性糖タンパク質)全体を検出する必要はなく、本肝硬変マーカーであることが判定できればその部分構造を検出するような測定方法を用いてもよい。また、上述の本肝硬変マーカーの好ましい構造として挙げた糖タンパク質1種を単独でマーカーとして用いることもできるが、それらの2種以上の混合物をマーカーとして用いる、つまり、それらの混合物の合計量を肝硬変検出のための指標として用いることも可能である。このような検出を行うことができれば、測定方法自体に特に制限はない。本発明の肝硬変の検出方法としては、上述の<肝臓癌の検出方法>に記載の方法を用いることができる。
本発明の肝硬変の検出方法の具体例としては、例えば、以下の2つの方法が挙げられる。
(1)体液中の糖タンパク質から、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質(本発明の肝硬変マーカー)を検出する工程を有することを特徴とする、肝硬変の検出方法。
(2)体液中の糖タンパク質から予めα1−酸性糖タンパク質を分離する工程、および、該α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質(本発明の肝硬変マーカー)を検出する工程を有することを特徴とする、肝硬変の検出方法。
前記(1)、および(2)の検出方法等の説明は、上述の<肝臓癌の検出方法>の場合と同様である。
(評価方法)
上述の方法により、体液から検出された本肝硬変マーカーの存在量、または本肝硬変マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標として、該検体を提供した被検動物の肝硬変の可能性を判断することができる。
「本肝硬変マーカーの存在量に基づいて算出される値」とは、「本肝硬変マーカーの存在量」と、他の指標とを組み合わせ、算出したものをいう。「本肝硬変マーカーの存在量」と組み合わせる指標としては、肝硬変判定の精度が上がれば特に制限されるものではないが、他の癌マーカー値、生化学検査値、特定のタンパク質量や全タンパク質量、代謝物の発現量等が挙げられ、より具体的には、血清中の総タンパク質量、α1−酸性糖タンパク質の総量(糖鎖の構造に関わらず、体液中に含まれるα1−酸性糖タンパク質の存在量の総量をいう。)、質量分析または蛍光検出器で検出した全ピークの合計面積などが挙げられる。中でも、本肝硬変マーカーの存在量と、α1−酸性糖タンパク質の総量との比を指標とすることや、本肝硬変マーカーの存在量と、血清中の総タンパク質量との比を指標とすることが好ましい。
また、本肝硬変マーカーの肝硬変動物における存在量は、慢性肝炎を発症している動物における存在量よりも有意に多くなるという特徴があるため、肝硬変を慢性肝炎と区別して検出する際に好ましく用いられる。慢性肝炎とは、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)に感染することで発症するウイルス性肝炎であり、将来的に肝硬変、肝癌に発展する可能性が高い疾患である。
その他、評価方法については、肝臓癌の検出方法の場合と同様である。
<肝臓癌もしくは肝硬変の予防薬または治療薬の評価方法>
また、肝臓癌もしくは肝硬変の予防薬または治療薬を動物に投与した後に、該動物より採取された体液中の本肝臓癌マーカーもしくは本肝硬変マーカーの存在量を測定し、得られた本肝臓癌マーカーもしくは本肝硬変マーカーの存在量またはその値に基づき算出される値を指標とすることによって、該動物における肝臓癌もしくは肝硬変の予防効果、または、肝臓癌もしくは肝硬変の治療効果の評価を行うこともできる。
例えば、本肝臓癌マーカーの存在量またはその値に基づいて算出される値を、肝臓癌予防薬もしくは治療薬投与前と投与後数日〜数ヵ月の時点において比較し、後者における本肝臓癌マーカーの存在量またはその値に基づいて算出される値が低下していれば予防または治療効果があったと判断することができる。評価対象の動物として好ましくはヒトである。
ここで用いる肝臓癌治療薬としては、特に限定されないが、例えば、ネクサバール(一般名ソラフェニブ)、テガフール(一般名ウラシル)、エピルビジン(一般名)、マイトマイシンC(一般名)、フルオロウラシル(一般名)、シクロホスファミド(一般名)、ミトキサントロン(一般名)などが挙げられる。
ここで用いる肝硬変治療薬としては、特に限定されないが、例えば、マロチラート(一般名カンテック)、ラクツロース(一般名モニラック)、アミノレバン(一般名アミノレバンEN)などが挙げられる。
<肝臓癌もしくは肝硬変の予防薬の候補化合物、または、肝臓癌もしくは肝硬変の治療薬の候補化合物の評価方法>
さらに、肝臓癌もしくは肝硬変の予防薬の候補化合物、または、肝臓癌もしくは肝硬変の治療薬の候補化合物を動物に投与した後に該動物より採取された体液中の本肝臓癌マーカーもしくは本肝硬変マーカーの存在量を測定し、該本肝臓癌マーカーもしくは本肝硬変マーカーの存在量またはこれらから算出される値を指標とすることによって、該候補化合物の肝臓癌もしくは肝硬変の予防薬の候補化合物、または、治療薬の候補化合物の評価をすることもできる。
例えば、上記糖タンパク質の存在量、または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値を、候補化合物投与前と投与後数日〜数ヵ月の時点において比較し、後者における当該糖タンパク質の存在量または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値が低下していれば、該候補化合物は肝臓癌もしくは肝硬変の予防薬、または治療薬の有力な候補物質であると判断することができる。
ここで用いる候補化合物としては、低分子化合物でもよいし、ペプチドやタンパク質などであってもよい。また、評価対象の動物として好ましくはヒトである。
<肝臓癌検出用もしくは肝硬変検出用の測定キットまたは測定装置>
本発明の肝臓癌検出用または肝硬変検出用の測定キット、もしくは、肝臓癌検出用または肝硬変検出用の測定装置(以下、「本発明のキット」および「本発明の装置」と称する場合がある。)とは、体液中の糖タンパク質の存在量を測定し得る試薬を含んでなる、肝臓癌検出用または肝硬変検出用の測定キット、もしくは測定装置であって、前記糖タンパク質が、糖鎖一本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする。
即ち、本発明のキットまたは装置は、一種類以上の本発明の肝臓癌マーカーもしくは肝硬変マーカーの体液中の存在量を測定し得る試薬を含むものである。このような試薬としては、α1−酸性糖タンパク質を特異的に認識する抗体や、本糖鎖部を特異的に認識する抗体、タンパク質をペプチド断片に分解する酵素などが挙げられる。ここで使用する抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、これらのフラグメントのいずれであってもよい。このような抗体は、α1−酸性糖タンパク質や、本糖鎖部あるいはタンパク質部を抗原として公知の方法により取得することができる。また、抗体に加えて、本糖鎖部を特異的に認識するレクチンを加えてもよい。
本発明のキットまたは装置は、肝臓癌もしくは肝硬変の検出だけではなく、肝臓癌もしくは肝硬変の治療効果の評価または予防効果の評価や、肝臓癌または肝硬変の治療薬の候補化合物または予防薬の候補化合物の評価にも用いることができる。
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[測定条件]
血清サンプルから得られた糖ペプチドについて液体クロマトグラフィー(Agilent HP1200、Agilent technologies社製)および質量分析装置(Q-TOF 6520、Agilent technologies社製)を用いて以下の条件で測定を行なった。
液体クロマトグラフィーのカラムはイナートシルODS4(内径1.5mm,長さ100mm,粒径2μm)を用いた。溶離液にはA液:0.1%ギ酸水溶液,B液:0.1%ギ酸、90%アセトニトリル水溶液を使用し、50分間かけてB液比率を10%から45%まで直線的に変化させた後、さらに10分間B液比率を45%に維持した。カラムオーブン温度は40℃、流速は0.1ml/分とした。質量分析はネガティブモードとし、キャピラリーボルテージ:4000V,ネブライザーガス量:45psi,ドライガス10L/分(350℃)にて測定した。ペプチド同定を目的としたMSMS測定のコリジョンエネルギーは各ペプチドに応じて20eV〜70eV間で最適化した。
[実施例1] 肝臓疾患患者および類縁疾患患者の血清中に存在するα1−酸性糖タンパク質の糖鎖の検出および含有量の測定
インフォームドコンセントを取得した血清を東京大学医科学研究所バイオバンクおよび株式会社総合医科学研究所より入手した。はじめに、入手した血清サンプルを以下のグループに分類した。
グループ1:非癌患者・健常者グループ 105名
(健常者または糖尿病患者35名、慢性肝炎患者(B型肝炎)27名、慢性肝炎患者(C型肝炎)26名、肝硬変患者17名が含まれる。)
グループ2:肝臓癌患者グループ 42名
次に各患者の血清100μLに対しアセトン400μLを加えた後、12,000rpm、20分間、4℃で遠心分離し、タンパク質を沈殿させた。上清を除去後、沈殿物に尿素を含む変性剤を加え、タンパク質を変性後、還元アルキル化を行った。変性剤、還元剤を除去後、トリプシンを添加してタンパク質をペプチド断片化し、それをAALレクチンカラムによりフコース含有糖ペプチドを濃縮した。調整したフコース含有糖ペプチドを、上述の条件で、液体クロマトグラフィー(Agilent HP1200、Agilent technologies社製)・質量分析装置(Q-TOF 6520、Agilent technologies社製)を用いて分析し、各血清に含まれるα1−酸性糖タンパク質由来の糖ペプチド量を計測した。
なお、ヒト血清由来のα1−酸性糖タンパク質(シグマ製)標準試薬を上述の方法でペプチド断片化して上述の方法により上記LC−MSを用いて分析した。血清サンプル中のα1−酸性糖タンパク質に該当するピークを抽出し、質量数およびMSMSの結果から糖鎖結合位置、糖鎖構造を把握し、前記標準試薬と血清サンプルとが一致することを確認した。
次に、質量分析装置で取得した個々のピーク面積から発現量を換算し、グループ2(肝臓癌患者)の血清サンプルのα1−酸性糖タンパク質に由来する糖ペプチド発現量と、グループ1(非癌患者・健常者)の血清サンプルのα1−酸性糖タンパク質に由来する糖ペプチド発現量とを比較した。糖鎖構造の異なるα1−酸性タンパク質それぞれについてROC曲線を作成の上、AUC値を算出した。その結果を表1に示す。さらにこれらをフコース結合数により分類し、それぞれのROC曲線のAUC値の平均値を求めた(表2)。
Figure 0006311608
Figure 0006311608
表1および表2から、α1−酸性糖タンパク質に結合する4本分岐鎖の糖鎖に、フコースが2つ以上結合するものが、肝臓癌マーカーとして識別力が高い傾向にあることがわかる。
なお、AUC値は以下のようにして算出した。
比較したいサンプルを上述の通り2群(グループ1(非癌患者・健常者)と、グループ2(肝臓癌患者))に分け、AUC値算出の対象とするマーカーのカットオフ(閾値)を0から∞に変化させたときの感度(肝臓癌患者の陽性率)および1−特異度(非癌患者群の陰性率)をプロットしてROCカーブを作成した。ROCカーブは、縦1×横1の正方形の中に描かれ、感度=1、特異度=1の場合(すなわち肝臓癌患者群を完全に非癌患者と識別できる場合)は左上の頂点を通る線となる。AUC(Area Under Curve)値とは、ROCカーブにより区切られた正方形の右下部分の面積のことである(感度=1、特異度=1のときにAUCは1となる)。
[実施例2] 本肝臓癌マーカーと既存マーカーAFPとの性能比較
実施例1で用いたグループ1(非癌患者・健常者)とグループ2(肝臓癌患者)の血清サンプルから、各グループからそれぞれ任意に27サンプルを選択し、実施例1と同様の方法により糖ペプチドを得て、上記のLS−MSを用いて分析した。
α1−酸性糖タンパク質の4本分岐鎖にフコースが2つ以上結合した7つの糖ペプチドについて、感度および特異度を算出し、既存肝臓癌マーカーAFPと比較した結果(表3)、特異度ではAFPにやや劣るものの、感度において有意にAFPを上回った。
Figure 0006311608
[実施例3] 本肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値の例
実施例2に示した7つの本発明の肝臓癌マーカーそれぞれについて、質量分析装置で算出される値(本発明の肝臓癌マーカーの存在量)から求めたAUC値(表4における「補正なし」)と、本発明の肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値(本発明の肝臓癌マーカーの存在量に対し、補正を行なった値)から求めたAUC値(表4における「補正あり」)との比較を行なった。サンプルは、実施例1で用いたグループ1(非癌患者・健常者)とグループ2(肝臓癌患者)の血清サンプルを使用した。
本実施例において、前記の本発明の肝臓癌マーカーの存在量に基づいて算出される値(補正を行なった値)としては、本発明の肝臓癌マーカーの存在量を、質量分析装置で検出される全糖タンパク質ピークの面積値合計(トータルイオンクロマトグラム面積値)で除した値を用いた。
その結果、以下、表4に示すとおり、全糖タンパク質ピーク面積による補正を行なうと、補正を行なわなかった場合と比較してAUC値が著しく改善した。全糖タンパク質の含有量には個体差があるので、このような補正を行なうと有効であることがわかる。
Figure 0006311608
[実施例4] 肝硬変疾患患者および類縁疾患患者の血清中に存在するα1−酸性糖タンパク質の糖鎖の検出および含有量の測定
インフォームドコンセントを取得した血清を東京大学医科学研究所バイオバンクより入手した。はじめに、入手した血清サンプルを以下のグループに分類した。
グループ1:非肝硬変患者(慢性肝炎患者)・健常者グループ 88名
(健常者または糖尿病患者35名、慢性肝炎患者(B型肝炎)27名、慢性肝炎患者(C型肝炎)26名)
グループ2:肝硬変患者グループ 49名
次に各患者の血清100μLに対しアセトン400μLを加えた後、12,000rpm、20分間、4℃で遠心分離し、タンパク質を沈殿させた。上清を除去後、沈殿物に尿素を含む変性剤を加え、タンパク質を変性後、還元アルキル化を行った。変性剤、還元剤を除去後、トリプシンを添加してタンパク質をペプチド断片化し、それをAALレクチンカラムによりフコース含有糖ペプチドを濃縮した。調整したフコース含有糖ペプチドを、上述の条件で、液体クロマトグラフィー(Agilent HP1200、Agilent technologies社製)・質量分析装置(Q-TOF 6520、Agilent technologies社製)(以下、「LC−MS」と称することがある。)を用いて分析し、各血清に含まれるα1−酸性糖タンパク質由来の糖ペプチド量を計測した。
なお、ヒト血清由来のα1−酸性糖タンパク質(シグマ製)標準試薬を上述の方法でペプチド断片化して上述の方法によりLC−MSを測定した。血清サンプル中のα1−酸性糖タンパク質に該当するピークを抽出し、質量数およびMSMSの結果から糖鎖結合位置、糖鎖構造を把握し、前記標準試薬と血清サンプルとが一致することを確認した。
次に、質量分析装置で取得した個々のピーク面積から発現量を換算し、グループ2(肝硬変患者)の血清サンプルのα1−酸性糖タンパク質に由来する糖ペプチド発現量と、グループ1(非肝硬変患者・健常者)の血清サンプルのα1−酸性糖タンパク質に由来する糖ペプチド発現量とを比較した。α1−酸性糖タンパク質に結合しているフコース数により分類し、ROC曲線を作成し(図1)、AUCを求めた(表5)。
Figure 0006311608
[比較例1] 分析対象を全糖タンパク質(血清に含まれる全ての糖タンパク質)とした比較例
本比較例では、分析対象を、α1−酸性糖タンパク質に特定せずに、血清に含まれる全ての糖タンパク質とした。
インフォームドコンセントを取得した血清を香川大学および総合医科学研究所より入手した。はじめに、入手した血清サンプルを以下のように分類した。
グループ1: 肝臓癌患者グループ 59名
グループ2: 非癌患者(肝炎、肝硬変患者)・健常者グループ 35名
次に各患者の血清100μLにアセトン900μLを加え、タンパク質を沈殿させ、充分に乾燥させた後、ヒドラジン200μLを加えて100℃で10時間反応させた。その後、グラファイトカーボンカラムに反応液を通液し、糖タンパク質から切断した糖鎖をカラムに保持させた。そこに、無水酢酸を添加し、糖鎖の再アセチル化を行った後、アセトニトリルを通液することで糖鎖を溶出させた。溶出した糖鎖は、2−アミノピリジンで還元末端を標識化した後、シアリダーゼで全シアル酸を除去した。得られたサンプルについて、上述の測定条件ではなく、以下の測定条件で液体クロマトグラフィーを用いて各血清に含まれる糖鎖の構造の解析、および各糖鎖の存在量の計測を行なった。
カラム:Asahipak NH2-P (Shodex) 4.6mmI.D. x 250mm, 5μm
オーブン:30℃
溶離液A:930mL アセトニトリル,70mL MilliQ水,酢酸 3mL,
28%アンモニア水溶液 500μL
溶離液B:200mL アセトニトリル,800mL MilliQ水,酢酸 3mL,
28%アンモニア水溶液 3.5mL
流速: 0.6ml/min
励起波長:310nm
検出波長:380nm
グラジエント:Gradient time (min) 0 - 180 min
B(%) concentration 25 - 42 %
注入量:2μL
次に、液体クロマトグラフィーから取得した個々のピーク面積から発現量を換算し、グループ2(非癌患者・健常者)の血清サンプルの全糖タンパク質に発現するA4G4Fo2(なお、シアル酸は分析前に除去した。)と、グループ1(肝臓癌患者)の血清サンプルの全糖タンパク質に発現するA4G4Fo2とを比較した。これらについてROC曲線を作成し、AUCを求めた。
その結果、血清に含まれる全ての糖タンパク質におけるA4G4Fo2(なお、シアル酸は分析前に除去した。)のROC(AUC)値は58%であった。
一方、実施例1に記載の通り、4本分岐鎖にフコースが2個(シアル酸が3個)結合した糖鎖がα1−酸性糖タンパク質に結合した糖タンパク質をマーカーとする場合、そのROC(AUC)値は85%(A4G4S3Fo2(Asn72))、79%(A4G4S4Fo2(Asn72))、78%(A4G4S4Fo2(Asn93))、75%(A4G4S4Fo2(Asn103))と高い値を示す。
これらの結果から、本糖鎖部とα1−酸性糖タンパク質との組み合わせが重要であることがわかる。
[比較例2] 高分岐鎖と2本分岐鎖との比較
高分岐(3本鎖、4本鎖)と2本鎖の違いを調べる目的で、分析に用いた血清サンプル以外は実施例1と同様の方法で、α1−酸性糖タンパク質に結合する2本鎖型糖鎖(A2G2S2Fo2)を分析し、肝臓癌患者グループと非癌患者・健常者グループとで比較を行ない、ROC曲線を作成し、AUC値を求めた。
本比較例で用いた血清サンプルは、実施例1と異なり、肝臓癌患者グループ42名と非癌患者(肝炎、肝硬変患者を含む)・健常者グループ98名であった。
その結果、A2G2S2Fo2(2本鎖)が結合するα1−酸性糖タンパク質のROC(AUC)値は0.74であり、実施例1に示す高分岐型糖鎖のROC(AUC)値(表1を参照)のいずれの値も下回った。
なお、2012年9月24日に出願された日本特許出願2012−209819号および2013年6月5日に出願された日本特許出願2013−119072号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

Claims (11)

  1. 肝臓癌を検出するために、体液中の糖タンパク質の存在量または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値を測定する方法であって、
    当該糖タンパク質が、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする方法。
  2. 肝硬変を検出するために、体液中の糖タンパク質の存在量または当該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値を測定する方法であって、
    当該糖タンパク質が、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質であることを特徴とする方法。
  3. 前記N結合型糖鎖の基本骨格が、3本分岐鎖または4本分岐鎖であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
  4. 前記N結合型糖鎖のフコース結合様式がシアリルルイスX型であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記N結合型糖鎖が、A4G4S4Fo2、A4G4S4Fo3、A4G4S3Fo2、A4G4S3Fo3、およびA3G3S3Fo2(ただし、Aは分岐数、G はガラクトース数、Sはシアル酸数、FoはルイスX型フコース数を示す。)よりなる群から選ばれるいずれかの構を有することを特徴とする、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。


  6. 前記N結合型糖鎖が、前記α1−酸性糖タンパク質の、Asn72、Asn93、およびAsn103よりなる群から選ばれる少なくとも一つの部位に結合していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 体液中の糖タンパク質から、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定する工程を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 体液中の糖タンパク質から予めα1−酸性糖タンパク質を分離する工程、および、当該α1−酸性糖タンパク質を測定対象として、前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定する工程を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量と、前記α1−酸性糖タンパク質の総量との比を指標とすることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量と、血清中の総タンパク質量との比を指標とすることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
  11. 糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本有するα1−酸性糖タンパク質の存在量を測定し得る、少なくとも抗体または酵素を含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を実施するキット。
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