JP6160085B2 - 肝細胞癌の検出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、肝細胞癌の検出方法に関する。具体的には、体液中の特定の糖タンパク質の存在量を指標とする肝細胞癌の検出方法に関する。
現在、癌の診断は内視鏡やPET、MRIといった画像診断が中心であるが、これらは患者に対する苦痛が大きく、または費用負担が大きいなどの理由で、健常人が定期的に受ける診断として必ずしも普及していないのが実情である。
自覚症状のない初期癌を発見するためには、画像診断よりも簡便でかつ費用の少ない血液検査が望ましいが、現在の癌マーカーは精度が不十分であるために、健常人が定期的に受ける健康診断では実施されていない。仮にこれを実施すると偽陽性と判定される健常者が続出し、彼らの追加検査(画像診断など)によっては病院の診断機能が麻痺してしまうためである。特に肝細胞癌の診断に使われるマーカーであるAFP、PIVKA−IIは慢性肝炎、肝硬変患者でも高値を示すため、再発モニターなど特別な用途にしか使われていないのが現状である。
一方、血清に含まれる糖タンパク質は癌化に伴い糖鎖構造が変化することが古くから知られており、糖鎖構造の変化としては、特にフコシル化が進むことが知られている。例えば、肝細胞癌の糖鎖マーカーとしては、3本鎖または4本鎖N結合型糖鎖であるシアリルルイスX抗原が肝細胞癌患者血清において顕著に増加することが開示されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2、特許文献1を参照)。これらの文献では、血清中に含まれるすべての糖タンパク質を対象としているため、生体内の数千種の糖タンパク質の糖鎖構造変化が平均化されてしまうという問題があった。
そこで、血清中に含まれる全ての糖タンパク質ではなく、ある特定の糖タンパク質の糖鎖構造変化をマーカーとする例として、特定の糖タンパク質と、フコースとを認識するAALレクチンとのサンドイッチエライザ法による肝細胞癌の診断技術が報告され、前記特定の糖タンパク質の一例としてセロトランスフェリンが開示されている(例えば、非特許文献3、特許文献2を参照)。しかしながら、これらの文献では、糖鎖一本あたりに結合するフコースの数まで詳しく解析がなされていない。
また、セロトランスフェリンに含まれる糖鎖のうち、A3G3Fc、A2G2Fo、A4G4で表わされる糖鎖が肝細胞癌マーカーとして用い得ることも報告されているが、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有する糖鎖については記載がない(特許文献3を参照)。
また、セロトランスフェリンを血液中から単離し、その糖鎖をHPLC等で分析し、癌の進行との関係を解析している例もあるが(例えば、非特許文献4)、糖鎖一本あたりに結合するフコースの数までは詳しく解析がなされていない。
特開2009−222670号公報 特表2008−541060号公報 特開平2−32030号公報
Hepatology, vol. 46, No.5, p1426-1435 (2007) Biochem Biophys Res Commun. vol.374, No.2, p219-225 (2008). J. Proteome Res., vol.8, No.2, p595-602 (2009) Anal.Chem., vol.82, No.24, p10208-10215 (2010)
上述の文献に記載されているように、これまでにセロトランスフェリンの糖鎖の構造変化(例えば、フコシル化)と、肝細胞癌との関係は調べられてきた。
しかしながら、上述の文献に記載されているような従来の検出方法では、特異度も感度も不充分であった。これは、フコースの結合数に着目していないためと考えられる。上述のいずれの文献においても、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有する糖鎖をもつセロトランスフェリンが、糖鎖1本につき1つのフコースしか結合しないセロトランスフェリンに比べて癌を有意に判別ができる例を示したものはない。
本発明は、感度および特異度が高い肝細胞癌マーカー糖タンパク質、およびそれを用いた肝細胞癌の検出方法を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく、セロトランスフェリンの詳細なフコースの結合様式と疾患との関係を検討した結果、糖鎖一本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖、即ち、マルチフコースのN結合型糖鎖を、糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本以上もつセロトランスフェリンを肝細胞癌マーカーとして用いると、肝細胞癌を特異的に検出できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明の要旨は、以下の(1)〜()に存する。
(1)体液中のマルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量または当該マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量に基づいて算出される値を指標とすることを特徴とする肝細胞癌検出するための方法。
但し、当該マルチフコースを有するセロトランスフェリンとは、糖鎖1本につき(ここでいう糖鎖1本につきとは、セロトランスフェリンを構成するタンパク質部分の1つのアスパラギンに結合できる糖鎖全体を1本として数えることとする)、少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を、1分子あたり少なくとも1本もつセロトランスフェリンを表わし、かつ、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo3が結合した糖タンパク質またはこれらの2種以上の混合物である。
)前記N結合型糖鎖のフコース結合様式がルイスX型であることを特徴とする、(1)に記載の肝細胞癌検出するための方法。
)体液中の糖タンパク質から、前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する工程を有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の肝細胞癌検出するための方法。
)体液中の糖タンパク質から予めセロトランスフェリンを分離する工程、および、分離されたセロトランスフェリンに含まれる前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する工程を有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の肝細胞癌検出するための方法。
)前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量と、前記体液中の全セロトランスフェリンの総量との比を指標とすることを特徴とする、(1)〜()の何れか一項に記載の肝細胞癌検出するための方法。
(6)前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量と、前記体液中の総糖タンパク質量との比を指標とすることを特徴とする、(1)〜()の何れか一項に記載の肝細胞癌検出するための方法。
(7)マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定し得る試薬を含んでいることを特徴とする、肝細胞癌検出用キット。
但し、当該マルチフコースを有するセロトランスフェリンとは、糖鎖1本につき(ここでいう糖鎖1本につきとは、セロトランスフェリンを構成するタンパク質部分の1つのアスパラギンに結合できる糖鎖全体を1本として数えることとする)、少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を、1分子あたり少なくとも1本もつセロトランスフェリンを表わし、かつ、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo3が結合した糖タンパク質またはこれらの2種以上の混合物である。
本発明により、従来よりも感度および特異度の高い肝細胞癌の検出方法、並びに肝細胞癌検出用測定キットまたは装置を提供することができる。
A3G3S2Fo2の構造を示す。 A3G3S3Fo2の構造を示す。 A3G3S3Fo3の構造を示す。 A4G4S3Fo2の構造を示す。 A4G4S4Fo2の構造を示す。 A4G4S4Fo3の構造を示す。
本発明は、被検動物から採取された体液中の、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を、1分子あたり少なくとも1本もつセロトランスフェリン(以下、これを「マルチフコースを有するセロトランスフェリン」または「本発明の肝細胞癌マーカー」と称する)の存在量、または前記マルチフコースを有するセロトランスフェリン(本発明の肝細胞癌マーカー)の存在量に基づいて算出される値を指標とすることを特徴とする肝細胞癌の検出方法(以下、「本発明の検出方法」と称することがある)である。
<肝細胞癌マーカー>
本発明の肝細胞癌マーカーは、マルチフコースを有するセロトランスフェリンであり、具体的には、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を、1分子あたり少なくとも1本もつことを特徴とするセロトランスフェリンである。以下、本発明の肝細胞癌マーカーの、「糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖」、即ち、マルチフコースを有するN結合型糖鎖のことを「本発明の糖鎖部」と称する。
セロトランスフェリンとは、血漿に含まれるタンパク質の一種で、鉄イオンを結合しその輸送を担っている。
セロトランスフェリンは、前記N結合型糖鎖を含む糖鎖部分と、セロトランスフェリンから前記糖鎖部分を除いたタンパク質部分とを有するが、前記糖鎖部分と前記タンパク質部分の結合様式は、アスパラギンとN−グリコシド結合をなしている。
セロトランスフェリンにおいて前記糖鎖部分を除いたタンパク質部分(以下、「タンパ
ク質部」と称する場合がある。)のアミノ酸配列としては、配列表1に記載の配列等が挙げられる。ただし、前記配列表1に記載のアミノ酸配列は、本発明の効果が得られる範囲内で変異が入っていてもよい。
本発明で検出すべきタンパク質部は、前記セロトランスフェリンのタンパク質部の全長でなくてもよく、その一部を構成するペプチドでもよい。前記タンパク質部の一部を構成するペプチドとは、後述する測定方法等で、セロトランスフェリンの一部であることが特定できるものであればいずれのものでもよい。
前記タンパク質部に結合する本発明の糖鎖部は、N結合型糖鎖であり、かつ、前記N結合型糖鎖1本あたり少なくとも2つのフコースを有する、即ち、マルチフコースを有することを特徴とするものである。本発明の糖鎖部の基本骨格は、特に制限はないが、通常、分岐しており、肝細胞癌マーカーとしての識別力が高い傾向にあることから、好ましくは3本分岐鎖以上である。このN結合型糖鎖に結合するフコースは、糖鎖1本あたり(ここでいう糖鎖1本あたりとは、前記分岐鎖1本あたりではなく、アスパラギン1分子に結合できる糖鎖分子全体を1本として数えることとする。)、肝細胞癌マーカーとしての識別力が高い傾向にあることから、好ましくは2個以上であり、また、フコースがN結合型糖鎖に結合し得る最大数であることから通常5個以下、より好ましくは4個以下である。
本発明の糖鎖部が有する少なくとも2つのフコースは、フコースであれば、そのN結合型糖鎖に対する結合様式に特に制限はなく、N結合型糖鎖の還元末端に存在するGlcNAcにα1−6結合するコアフコースであっても、それ以外のアウターフコースであってもよいが、アウターフコースであることが好ましい。アウターフコースとしては、N結合型糖鎖の還元末端に存在するGlcNAcにα1−3結合するフコース(ルイスX型フコース)と、N結合型糖鎖の還元末端に存在するGlcNAcにα1−4結合するフコース(ルイスA型フコース)があるが、その存在割合が大きいことから、ルイスX型フコースであることが好ましい。なお、本発明の糖鎖部は、少なくとも2つのフコースを有するが、これら2つのフコースの結合様式は、同一でも異なっていてもよい。
また、本発明の糖鎖部は、肝細胞癌マーカーとしての識別力が高い傾向にあることから、N結合型糖鎖に少なくとも2つのシアル酸残基を有することが好ましく、少なくとも3つのシアル酸残基を有することがより好ましい。
本発明の糖鎖部の具体的な構造としては、好ましくはA3G3S2Fo2、A3G3S3Fo2、A3G3S3Fo3、A4G4S3Fo2、A4G4S4Fo2、A4G4S4Fo3などが挙げられる。ここで、Aは分岐数、Gはガラクトース数、Sはシアル酸(N−アセチルノイラミン酸)数、Foはルイス型フコース数を示す。具体的な構造の好ましい例として、図1にA3G3S2Fo2の構造を、図2にA3G3S3Fo2の構造を、図3にA3G3S3Fo3の構造を、図4にA4G4S3Fo2の構造を、図5にA4G4S4Fo2の構造を、図6にA4G4S4Fo3の構造を示す。
即ち、本発明の糖鎖部は、3本または4本の分岐鎖を有するN結合型糖鎖であり、ガラクトース数が3個または4個であり、シアル酸数が2個、3個または4個であり、主鎖であるN結合型糖鎖1本あたりに結合するフコースが2個または3個であることが好ましい。この場合、シアル酸とフコースの結合位置に特に制限はない。
本発明の肝細胞癌マーカーは、糖タンパク質1分子あたり本発明の糖鎖部を1本以上有していることを必須とするが、糖タンパク質1分子あたり2本以上の本発明の糖鎖部を有していてもよい。
本発明の糖鎖部は、その結合部位に特に制限はないが、セロトランスフェリンのAsn432、およびAsn630に結合することができる。Asn432とは、N末端から432番目のアミノ酸であることを意味する。
上述した本発明の肝細胞癌マーカーとして、より好ましい構造は、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo3が結合した糖タンパク質などが挙げられる。これらの中でも、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質が特に好ましい。
<肝細胞癌の検出方法>
本発明の肝細胞癌検出方法は、被検動物から採取された体液中の、上述の本発明の肝細胞癌マーカー(マルチフコースを有するセロトランスフェリン、即ち、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を、糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本以上もつセロトランスフェリン)の存在量を測定し、マルチフコースを有するセロトランスフェリンまたは当該マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量に基づいて算出される値を指標として肝細胞癌を検出する方法である。つまり、体液中から、(i)タンパク質部がセロトランスフェリンのタンパク質部と一致すること、(ii)糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖(マルチフコースを有するN結合型糖鎖)を、糖タンパク質1分子あたり少なくとも1本以上有すること、という2つの条件を満たす糖タンパク質の存在量の測定し、必要に応じて解析を行なうことで検出する方法である。後述の具体的な測定方法に記載するように、上記(i)と(ii)とは、別工程として測定してもよいし、一つの工程で測定してもよく、上記(i)と(ii)の測定する順序にも特に制限はなく任意に設定することができる。
ここで、本発明の検出方法においては、必ずしも上述の本発明の肝細胞癌マーカー(マルチフコースを有するセロトランスフェリン)全体を検出する必要はなく、本発明の肝細胞癌マーカーであることが判定できればその部分構造を検出するような測定方法を用いてもよい。また、上述の本発明の肝細胞癌マーカーの好ましい構造として挙げたマルチフコースを有するセロトランスフェリン1種を単独でマーカーとして用いることもできるが、それらの2種以上の混合物をマーカーとして用いる、つまり、それらの混合物の合計量を肝細胞癌検出のための指標として用いることも可能である。このような検出を行うことができれば、測定方法自体に特に制限はない。
本発明の測定方法の検体としては、被検動物から採取された体液が用いられる。体液としては、血液、リンパ液、髄液、尿及びその処理物などが用いられるが、好ましくは血液、さらに好ましくは該血液を分離して得られる血清、血漿が用いられる。また、被検動物としては、好ましくはヒトであるが、本発明の肝細胞癌マーカーは、ヒト以外の動物実験にも用いることができる。
本発明の肝細胞癌の検出方法における測定方法の具体例としては、例えば、以下の2つの方法が挙げられる。
(1)体液中の糖タンパク質から、前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する工程を有することを特徴とする、肝細胞癌の検出方法。
(2)体液中の糖タンパク質から予めセロトランスフェリンを分離する工程、および、分離されたセロトランスフェリンに含まれる前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する工程を有することを特徴とする、肝細胞癌の検出方法。
前記(1)体液中の糖タンパク質から、前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する工程を有する検出方法とは、上記(i)と(ii)とを一つの工程で測定する検出方法であり、体液中の糖タンパク質からマルチフコースを有するセロトランスフェリンのみを測定対象として、本発明の肝細胞癌マーカーの存在量を測定する工程を有する検出方法である。この検出方法は、質量分析装置等により、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖をもつセロトランスフェリン(マルチフコースを有するセロトランスフェリン)に由来する糖ペプチドを検出し、その存在量を測定することにより行なう。
より具体的には、体液に含まれる全糖タンパク質を抽出し、抽出された全糖タンパク質をプロテアーゼ等によりペプチド断片化し(以下、断片化された糖タンパク質を「糖ペプチド」と称する)、得られた糖ペプチドの混合物から、本発明の肝細胞癌マーカーに由来する糖ペプチドを質量分析装置等で検出する方法が挙げられる。この際、体液中の他のタンパク質とともにプロテアーゼ処理しても構わない。断片化した糖ペプチドはそのまま質量分析装置で計測しても問題ないが、レクチンなどで予め濃縮することが望ましく、さらにはAALレクチンまたはAOLレクチンを使ってフコース結合糖ペプチドを濃縮することが望ましい。質量分析装置による計測は、質量分析装置単体でも問題ないが、液体クロマトグラフィーやキャピラリー電気泳動などのクロマトグラフィーと組み合わせることが望ましい。目的の糖ペプチド量を測定する方法としては、目的糖鎖ピーク面積を計測する方法が挙げられる。以下、本発明の肝細胞癌マーカーを検出する方法について工程ごとに詳細に説明する。
被検動物体液から全タンパク質を取り出す工程は、まず、体液に対し2〜10倍の溶媒を加える。溶媒はタンパク質を沈殿させるものであればどのようなものでもよく、アセトン、メタノール、エタノール、トリクロロ酢酸、塩酸水溶液などが好ましいが、アセトン、メタノールが特に望ましい。沈殿したタンパク質は変性後、還元アルキル化し、プロテアーゼを使いペプチド断片化する。プロテアーゼはタンパク質をペプチドに分解するものであればどのようなものでもよいが、トリプシン、リシルエンドペプチターゼ、またはその両方が用いることが望ましい。
分解後のペプチドはそのまま分析してもよいが、抗体やレクチンを使って糖ペプチドを濃縮すること、特に、本発明の肝細胞癌マーカー由来の糖ペプチドを濃縮することが望ましい。具体的にはレクチンカラムを使って糖ペプチドを濃縮することが好ましく、特にAALレクチンカラムを用いることが望ましい。濃縮した糖ペプチドの中から本発明の肝細胞癌マーカー由来の糖ペプチドを選択的に検出できる分析方法であれば、どのような方法でもよいが、好ましくは液体クロマトグラフィー質量分析装置が用いられる。セロトランスフェリンの標準品の分解物と照合することで、混合物の中から本発明の肝細胞癌マーカー由来糖ペプチドを見分けることができる。
また、(2)体液中の糖タンパク質から予めセロトランスフェリンを分離する工程、および、分離されたセロトランスフェリンに含まれる前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する工程を有することを特徴とする、肝細胞癌の検出方法は、上記(i)と(ii)とを二つの工程に分けて行なう検出方法である。以下、(A)体液中から、セロトランスフェリンを分離する工程(以下、「セロトランスフェリン分離工程(A)」)と、(B)分離されたセロトランスフェリンに含まれる前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する工程(以下、「マルチフコースを有す
るセロトランスフェリンの存在量の測定工程(B)」を含む方法等が挙げられる。なお、マルチフコース糖タンパク質の存在量の測定工程(B)としては、マルチフコース糖タンパク質全体を測定の対象としてもよいしマルチフコース糖タンパク質の糖鎖部分(本発明の糖鎖部)のみを測定の対象としてもよいが、本発明の糖鎖部のみを検出の対象とすることが好ましい。
以下、前記(A)および(B)について工程ごとに詳細に説明する。
前記セロトランスフェリン分離工程(A)としては、セロトランスフェリンを特異的に認識して、体液中のその他の糖タンパク質から分離し得る方法であればいずれのものでもよい。具体的には、抗セロトランスフェリン抗体を用いた免疫沈降法または抗体アフィニティーカラムによりセロトランスフェリンを分離する方法が挙げられる。
この(A)工程の具体例としては、以下の方法が挙げられる。まず、アガロースビーズまたは磁気ビーズにセロトランスフェリンに対する抗体を結合させる。ここで、結合の様式は共有結合でもよいし、ビオチン−アビジンによる結合でもよい。次に、抗体結合ビーズに対して被検動物の体液を混合し、抗体にセロトランスフェリンを結合させた後、ビーズを充分に洗浄し、さらに弱酸で抗体からセロトランスフェリンを遊離させることで、セロトランスフェリンを分離する。
次に、マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量の測定工程(B)を行なう。前記セロトランスフェリン分離工程(A)で分離されたセロトランスフェリンに含まれる、本発明の糖鎖部、もしくは、マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する。以下、(B)工程において本発明の糖鎖部を測定する場合について、より具体的に説明する。
本発明の糖鎖部を検出する方法としてはいずれのものでもよいが、例えば、前記セロトランスフェリン分離工程(A)で分離されたセロトランスフェリンの糖鎖部分を、グリカナーゼやヒドラジンを使って分解して遊離させた後、測定の対象とする本発明の糖鎖部を必要に応じて誘導体化または化学修飾して、液体クロマトグラフィー等により本発明の糖鎖部を分離することで、その存在量を測定することができる。
糖鎖を分解する方法としては、ヒドラジン分解法や、酵素(N−グリカナーゼ)消化法等が挙げられる。これらのうち、定量的に糖鎖を切断するにはヒドラジン分解法が好ましく、例えば、Y. Otake et al., J Biochem (Tokyo)129 (2001) 537-42に記載の方法等が
好ましく用いられる。ここで、ヒドラジン分解法を用いた場合には、ヒドラジン分解によって脱離したアセチル基を再アセチル化する必要があり、例えば、K. Tanabe et al., Anal.Biochem. 348 (2006) 324-6.記載の方法等を用いることができる。また、シアル酸は
検出を阻害することがあるため、必要に応じて、検出を容易にするためにノイラミニダーゼ等のシアル酸切断酵素を用いてシアル酸を切断してもよい。
上述のようにして調製した糖鎖において、検出したい本発明の糖鎖部を標識、誘導体化する方法としては、特に限定されるものではないが、質量分析法装置を使う場合はイオン化効率を高める4級アンモニウム標識法、より具体的には、TMAPA (トリメチル(4-アミノフェニル)アンモニウムクロライド)を用いる方法が特に好ましい。蛍光検出器を使う場合は2-アミノピリジンにより糖鎖を標識することが好ましい。また、上述のように
して標識した糖鎖を誘導体化する方法として、標識にTMAPAを用いる場合は、例えば、M. Okamoto et al., Rapid Commun Mass Spectrom 9 (1995) 641-3.に記載の方法等が
用いられ、標識に2-アミノピリジンを用いる場合はY. Otake et al., J Biochem (Tokyo)
129 (2001) 537-42に記載の方法等が用いられる。
上述のようにして、標識、誘導化された糖鎖を分離する方法としては、液体クロマトグラフィーの他、電気泳動等を用いることができるが、好ましくは液体クロマトグラフィーを用いることができる。液体クロマトグラフィーの条件は特に限定されるものではないが、逆相または順相カラムが望ましく、溶離液が安定的に送液できるものであればどのような仕様でもよく、特に限定されるものではない。
次に、本発明の糖鎖部の存在量の測定を行なうが、この方法としては、本発明の糖鎖部を選択的に検出できるものであれば、特に限定されるものではないが、紫外可視光吸収法、蛍光検出法、質量分析法、核磁気共鳴法、本発明の糖鎖部に特異的な抗体を用いる方法などが挙げられ、中でも、蛍光検出法や質量分析法が望ましい。
蛍光検出法を用いて検出する場合は、上述の2−アミノピリジンなどの蛍光物質で予め糖鎖を標識化する必要がある。蛍光検出法の検出条件は、検出対象とする本発明の糖鎖部を検出できるものであれば、特に限定されるものではない。2−アミノピリジンを標識化合物に使った場合は、励起光に波長280nm〜330nm、蛍光検出に波長350nm〜420nmを選択することが好ましい。
また、質量分析法を使う場合は上述の2−アミノピリジンやTMAPAにより予め糖鎖にイオン性化合物を付加することが望ましく、特にTMAPAを用いることが望ましい。質量分析法を用いて検出する場合、質量分析装置の検出範囲としては、検出対象とする本発明の糖鎖部を検出できる範囲であれば、特に限定されるものではない。イオン化法はESIの他、APCIなどでもよいが、ESIが最も好ましい。質量分析装置は四重極型、TOF型、イオントラップ型、磁場型、フーリエ変換型のいずれでもよいが、定量性の高い四重極型、感度の高いTOF型が特に好ましい。また、検出するイオンは、親イオンに限定されるものではなく、フラグメントイオン、付加イオン、2量体イオンなど関連イオンであってもよい。このようにして求められる本発明の癌マーカーの含有量を測定する方法としては、検出対象とする糖鎖(本発明の糖鎖部)に相当するピークのピーク面積を計測する方法等が挙げられる。なお、質量分析法を用いて検出する場合、液体クロマトグラフィーの機能も有するLS−MSを用いることが好ましい。
また、上述した方法の他、被検動物から採取された体液から、本発明の糖鎖部を有する糖タンパク質を分離する工程と、分離された本発明の糖鎖部をもつ糖タンパク質に含まれるセロトランスフェリンの存在量を測定する工程とを含む方法を用いることもできる。
(評価方法)
上述の方法により、被検動物の体液中の本発明の肝細胞癌マーカーの存在量、または本発明の肝細胞癌マーカーの存在量に基づいて算出される値を指標として、該体液を提供した被検動物の肝細胞癌の可能性を判断することができる。
被検動物の肝細胞癌の可能性を判断するにあたっては、被検動物の体液中の本発明の肝細胞癌マーカーの存在量、または本発明の肝細胞癌マーカーの存在量に基づいて算出される値を、参照値と比較することにより行なう。参照値とは、比較対象とする体液中の本発明の肝細胞癌マーカーの存在量、または本発明の肝細胞癌マーカーの存在量に基づいて算出される値のことであり、具体的には、健常者、非癌患者(糖尿病患者など)、および肝臓病変のある患者(慢性肝炎患者(B型肝炎、C型肝炎など)、肝硬変患者)からなる群から選ばれる少なくとも一種の、体液中の本発明の肝細胞癌マーカーの存在量、または本発明の肝細胞癌マーカーの存在量に基づいて算出される値のことであり、複数のサンプルの平均値を用いることが好ましい。
「本発明の肝細胞癌マーカーの存在量に基づいて算出される値」とは、「本発明の肝細胞癌マーカーの存在量」と、他の指標とを組み合わせ、算出したものをいう。「本発明の肝細胞癌マーカーの存在量」と組み合わせる指標としては、肝細胞癌判定の精度が上がれ
ば特に制限されるものではないが、他の癌マーカー値、生化学検査値、特定のタンパク質量や全タンパク質量、代謝物の発現量等が挙げられ、より具体的には、体液中の総糖タンパク質量(体液中に含まれる全ての糖タンパク質の存在量の総量をいう。)、体液中のセロトランスフェリンの総量(糖鎖の構造に関わらず、体液中に含まれるセロトランスフェリンの存在量の総量をいう。)、質量分析または蛍光検出器で検出した全ピークの合計面積などが挙げられる。中でも、本発明の肝細胞癌マーカーの存在量と、セロトランスフェリンの総量との比を指標とすることや、本発明の肝細胞癌マーカーの存在量と、体液中の総糖タンパク質量との比を指標とすることが好ましい。
組み合わせる他の指標の数は限定されないが、「本発明の肝細胞癌マーカーの存在量」を含め、2〜5個が好ましく、2〜3個が特に好ましい。組み合わせの方法(計算方法)は特に限定されるものではないが、2個の指標を組み合わせるときは和、差、比や線形一次式を用いたり、3個以上の指標を組み合わせるときは、線形一次式を用いたりすることが好ましい。
本発明における肝細胞癌の検出方法では、本発明の肝細胞癌マーカーの存在量として、その絶対量を必ずしも求める必要はなく、上記測定方法などで検出された個々の本発明の肝細胞癌マーカー固有のピークを数値化したり、基準とするピークとの比を求めたりすることによっても求めることもできる。この具体的な方法としては、検出された各ピークの高さを数値化する方法、ピーク面積を数値化する方法等があり、液体クロマトグラフィーでは定量性を有する測定方法であるのでどちらかに限定されるものではないが、LC−MS法ではピーク面積を数値化する方法が、精度がよく、好ましい。
「本発明の肝細胞癌マーカーの存在量」は、非癌動物の体液中では少ないが、肝細胞癌動物の体液中では顕著に多くなるため、体液中の「本発明の肝細胞癌マーカーの存在量」または該糖タンパク質の存在量に基づいて算出される値が非癌動物の値より有意に大きいときに、その被検動物は肝細胞癌を発症している可能性が高いということができる。
また、本発明の肝細胞癌マーカーの肝細胞癌動物における存在量は、慢性肝炎を発症している動物における存在量よりも有意に多くなるという特徴があるため、肝細胞癌を慢性肝炎と区別して検出する際に好ましく用いられる。慢性肝炎とは、B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)に感染することで発症するウイルス性肝炎であり、将来的に肝硬変、肝細胞癌に発展する可能性が高い疾患である。
<肝細胞癌予防薬もしくは治療薬の評価方法>
また、肝細胞癌予防薬もしくは治療薬を動物に投与した後に、該動物より採取された体液中の本発明の肝細胞癌マーカーの存在量を測定し、得られた本発明の肝細胞癌マーカーの存在量またはその値に基づき算出される値を指標とすることによって、該動物における肝細胞癌の予防もしくは治療効果の評価を行うこともできる。
例えば、本発明の肝細胞癌マーカーの存在量またはその値に基づいて算出される値を、肝細胞癌予防薬もしくは治療薬投与前と投与後数日〜数ヵ月の時点において比較し、後者における本発明の肝細胞癌マーカーの存在量またはその値に基づいて算出される値が低下していれば予防または治療効果があったと判断することができる。評価対象の動物として好ましくはヒトである。
個々で用いる肝細胞癌治療薬としては、例えば、ネクサバール(一般名ソラフェニブ)、テガフール(一般名ウラシル)、エピルビジン(一般名)、マイトマイシンC(一般名
)、フルオロウラシル(一般名)、シクロホスファミド(一般名)、ミトキサントロン(一般名)などが挙げられる。
<肝細胞癌予防薬もしくは治療薬候補化合物の評価方法>
さらに、肝細胞癌予防薬または治療薬の候補化合物を動物に投与した後に該動物より採取された体液中の本発明の肝細胞癌マーカーの存在量を測定し、該本発明の肝細胞癌マーカーの存在量またはそれから算出される値を指標とすることによって、該候補化合物の肝細胞癌の予防もしくは治療効果を評価することもできる。
例えば、本発明の肝細胞癌マーカーの含有量、該候補化合物は肝細胞癌予防薬または治療薬の有力な候補物質であると判断またはそれから算出される値を、候補化合物投与前と投与後数日〜数ヵ月の時点において比較し、後者における当該本発明の肝細胞癌マーカーの含有量またはその値に基づいて算出される値が低下していればすることができる。
ここで用いる候補化合物としては、低分子化合物でもよいし、ペプチドやタンパク質などであってもよい。また、評価対象の動物として好ましくはヒトである。
<肝細胞癌検出用測定キットまたは装置>
本発明の肝細胞癌検出用測定キットまたは肝細胞癌検出用測定装置(以下、「本発明のキット」または「本発明の装置」と称する場合がある。)とは、マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定し得る試薬を含んでいることを特徴とする、肝細胞癌検出用キットまたは装置である。但し。当該マルチフコースを有するセロトランスフェリンとは、糖鎖1本につき少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を、1分子あたり少なくとも1本もつセロトランスフェリンを表わす。
即ち、本発明のキットまたは装置は、一種類以上の本発明の肝細胞癌マーカーの体液中の存在量を測定し得る試薬を含むものである。このような試薬としては、セロトランスフェリンを特異的に認識する抗体や、本発明の糖鎖部を特異的に認識する抗体、タンパク質をペプチド断片に分解する酵素などが挙げられる。ここで使用する抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、これらのフラグメントのいずれであってもよい。このような抗体は、セロトランスフェリンや、本発明の糖鎖部あるいはタンパク質部を抗原として公知の方法により取得することができる。また、抗体に加えて、本発明の糖鎖部を特異的に認識するレクチンを加えてもよい。
本発明のキットまたは装置は、肝細胞癌の検出だけではなく、肝細胞癌の治療効果または予防効果の評価や、肝細胞癌の治療薬または予防薬の候補化合物の評価用いることができる。
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[測定条件]
血清サンプルから得られた糖ペプチドについて液体クロマトグラフィー(Agilent HP1200、Agilent technologies社製)および質量分析装置(Q-TOF 6520、Agilent technologies社製。MSMS測定が可能。)を用いて以下の条件で測定を行なった。
液体クロマトグラフィーのカラムはイナートシルODS4(内径1.5mm,長さ100mm,粒径2μm)を用いた。溶離液にはA液:0.1%ギ酸水溶液,B液:0.1%ギ酸、90%アセトニトリル水溶液を使用し、40分間かけてB液比率を10%から56%まで直線的に変化させた後、さらに10分間B液比率を56%に維持した。カラムオーブン温度は40℃、流速は0.1ml/分とした。質量分析はネガティブモードとし、キャピラリーボルテージ:4000V,ネブライザーガス量:45psi,ドライガス10L/分(350℃)にて測定した。
前記質量分析装置を用いたペプチド同定を目的としたMSMS測定のコリジョンエネル
ギーは各ペプチドに応じて20eV〜70eV間で最適化した。
[実施例1]
肝臓疾患患者および類縁疾患患者の血清中に存在するセロトランスフェリンの糖鎖の検出および存在量の測定
インフォームドコンセントを取得した血清を東京大学医科学研究所バイオバンクより入手した。はじめに、入手した血清サンプルを以下のグループに分類した。
グループ1:非癌患者・健常者グループ 105名
(健常者または糖尿病患者35名、慢性肝炎患者(B型肝炎)26名、慢性肝炎患者(C型肝炎)25名、肝硬変患者17名が含まれる。)
グループ2:肝細胞癌患者グループ 44名
次に各患者の血清100μLに対しアセトン400μLを加えた後、12,000rpm、20分間、4℃で遠心分離し、タンパク質を沈殿させた。上清を除去後、沈殿物に尿素を含む変性剤を加え、タンパク質を変性後、還元アルキル化を行った。変性剤、還元剤を除去後、トリプシンを添加してタンパク質をペプチド断片化し、それをAALレクチンカラムによりフコース含有糖ペプチドを濃縮した。調整したフコース含有糖ペプチドを、上述の条件で、液体クロマトグラフィー(Agilent HP1200、Agilent technologies社製)・質量分析装置(Q-TOF 6520、Agilent technologies社製)(以下、「LC−MS」と称することがある。)を用いて分析し、各血清に含まれるセロトランスフェリン由来の糖ペプチドの構造を解析すると共に、各々の糖ペプチドの含有量を計測した。
なお、ヒト血清由来のセロトランスフェリン(シグマ製)標準試薬を上述の方法でペプチド断片化して上述の方法によりLC−MSを測定した。血清サンプル中のセロトランスフェリンに該当するピークを抽出し、質量数およびMSMSの結果から糖鎖結合位置、糖鎖構造を把握し、前記標準試薬と血清サンプルとが一致することを確認した。
次に、質量分析装置で取得した個々のピーク面積から発現量を換算し、グループ2(肝細胞癌患者)の血清サンプルのセロトランスフェリンに由来する糖ペプチド発現量と、グループ1(非癌患者・健常者)の血清サンプルのセロトランスフェリンに由来する糖ペプチド発現量とを比較した。糖鎖構造の異なるセロトランスフェリンそれぞれについてROC曲線を作成の上、AUC値を算出した。その結果を表1に示す。さらに、表1に記載の全てのセロトランスフェリン由来の糖ペプチドを、結合しているフコース数により分類し、それぞれのROC曲線のAUCを求めた(表2)。
なお、表1において、「Fo」はアウターフコース、「F」は、今回の測定においては、アウターフコース(Fo)であるかコアフコース(Fc)であるか判別ができなかったものを示す。表3においても同様である。
Figure 0006160085
Figure 0006160085
表1から、セロトランスフェリンに結合する3本または4本分岐鎖のN結合型糖鎖に、フコースが2つ以上結合するものが、肝細胞癌マーカーとして識別力が高い傾向にあることがわかる。また、表2から、特に、フコースが2つ以上結合している糖鎖が肝細胞癌マーカーとして識別力が高い傾向にあることがわかる。
なお、AUC値は以下のようにして算出した。
比較したいサンプルを上述の通り2群(グループ1(非癌患者・健常者)と、グループ2(肝細胞癌患者))に分け、AUC値算出の対象とするマーカーのカットオフ(閾値)を0から∞に変化させたときの感度(肝細胞癌患者の陽性率)および1−特異度(非癌患者群の陰性率)をプロットしてROCカーブを作成した。ROCカーブは、縦1×横1の正方形の中に描かれ、感度=1、特異度=1の場合(すなわち肝細胞癌患者群を完全に非
癌患者と識別できる場合)は左上の頂点を通る線となる。AUC(Area Under
Curve)値とは、ROCカーブにより区切られた正方形の右下部分の面積のことである(感度=1、特異度=1のときにAUCは1となる)。
[実施例2]
本発明の肝細胞癌マーカーと既存マーカーAFPとの性能比較
実施例1で用いたグループ1(非癌患者・健常者)から27名とグループ2(肝細胞癌患者)から29名を選択し、実施例1と同一の条件で糖ペプチドを得て、上述の方法によりLC−MSを用いて分析を行なった。
セロトランスフェリンの3本または4本分岐鎖にフコースが2つ以上結合した8つの糖ペプチド(具体的には、表3に記載の糖ペプチド)について、ROCカーブをもとにカットオフ値を設定し、グループ1の陽性者数、グループ1の陰性者数、グループ2の陽性者数、グループ2の陰性者数を算出した。次ぎに(グループ1の陰性者数+グループ2の陽性者数)÷被験者全員(56人)をEfficiency値(Efficiency値とは、診断の正確さを表す指標であり、Efficiency値が100%であるとき偽陽性および偽陰性が0となる)とした。既存マーカーAFPも同様にEfficiency値を算出した。尚、AFPのカットオフ値は20ng/mlとした(表3)。その結果、8つの糖ペプチドマーカーはいずれもAFPのEfficiency値を有意に上回った。
Figure 0006160085

Claims (7)

  1. 体液中のマルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量または当該マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量に基づいて算出される値を指標とすることを特徴とする肝細胞癌検出するための方法。
    但し、当該マルチフコースを有するセロトランスフェリンとは、糖鎖1本につき(ここでいう糖鎖1本につきとは、セロトランスフェリンを構成するタンパク質部分の1つのアスパラギンに結合できる糖鎖全体を1本として数えることとする)、少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を、1分子あたり少なくとも1本もつセロトランスフェリンを表わし、かつ、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo3が結合した糖タンパク質またはこれらの2種以上の混合物である。
  2. 前記N結合型糖鎖のフコース結合様式がルイスX型であることを特徴とする、請求項1記載の肝細胞癌検出するための方法。
  3. 体液中の糖タンパク質から、前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する工程を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の肝細胞癌検出するための方法。
  4. 体液中の糖タンパク質から予めセロトランスフェリンを分離する工程、および、分離されたセロトランスフェリンに含まれる前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定する工程を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の肝細胞癌検出するための方法。
  5. 前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量と、前記体液中の全セロトランスフェリンの総量との比を指標とすることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の肝細胞癌検出するための方法。
  6. 前記マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量と、前記体液中の総糖タンパク質量との比を指標とすることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の肝細胞癌検出するための方法。
  7. マルチフコースを有するセロトランスフェリンの存在量を測定し得る試薬を含んでいることを特徴とする、肝細胞癌検出用キット。
    但し、当該マルチフコースを有するセロトランスフェリンとは、糖鎖1本につき(ここでいう糖鎖1本につきとは、セロトランスフェリンを構成するタンパク質部分の1つのアスパラギンに結合できる糖鎖全体を1本として数えることとする)、少なくとも2つのフコースを有するN結合型糖鎖を、1分子あたり少なくとも1本もつセロトランスフェリンを表わし、かつ、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo3が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA4G4S4Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn432にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S2Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo2が結合した糖タンパク質、セロトランスフェリンのAsn630にA3G3S3Fo3が結合した糖タンパク質またはこれらの2種以上の混合物である。
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