JP6297354B2 - 酵素処理植物エキスの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、植物エキスの風味改善方法に関し、さらに詳しくは植物原料を水蒸気蒸留して得られる水蒸気抽出植物エキスにアルコールを加えた後、リパーゼ処理することによる、エステル由来の芳醇な香りや熟成香を有する植物エキスの製造方法に関する。
茶類、コーヒー、種実類、野菜、果実、ハーブ、スパイスなどの植物エキスは、飲食品の香気香味付与剤として、また、口腔用品類、化粧品類、たばこ類、医薬品類のフレーバーとして古くから広く利用されている。従来、植物材料から植物エキスを得る方法としては、例えば、植物原料を水または有機溶媒で抽出する方法、植物原料から水蒸気蒸留により植物エキスを製造する方法、液体、亜臨界または超臨界状態の二酸化炭素を抽剤として処理する方法などが一般的に行われている。
植物材料から香気と香味を併せ持つ植物エキスを得るための簡便な方法としては、上述した水または有機溶媒で抽出する方法が一般的に採用されているが、該方法によって得られる植物エキスはナチュラル感やフレッシュ感を付与することはできるが、芳醇な香りや熟成香を付与することが出来なかった。
一方で、従来の植物エキスから得られるナチュラル感やフレッシュ感に、さらに高級感のある香りを付与する植物エキスの製造方法の検討がされてきた。例えば、特許文献1には、天然原料を水蒸気蒸留して香気を含む留出液を得た後、水蒸気蒸留残渣に水を加えて抽出することにより得られる抽出液の一部または全量を、香気を含む留出液に混合後、逆浸透膜を用いて濃縮して香気濃縮物を得る方法が記載されている。特許文献2には、天然香料の原料となり、有機酸を含む天然物をエタノール溶液で抽出し、前記有機酸を含むエタノール溶液抽出物を得た後、該エタノール溶液抽出物をエステル化処理して得られる香料が記載されている。特許文献3には、粉砕した焙煎コーヒーの水性混合物を、加圧下、200℃を越える温度で水蒸気により前処理し、約1〜10分間に亙りこの温度と圧力を維持した後、容器内の内容物を速やかに大気に曝露し、得られたスラリーを加水分解酵素または加水分解酵素混合物で処理して所望の製品を得る、改良されたコーヒーエキスの製造方法が記載されている。
しかしながら、上記の方法では、不快臭の低減や植物原料がもつ香りのバランスを得ることはできたものの、芳醇な香りや熟成感を得ることはできなかった。
また、酵素反応により、植物エキスの風味改善を行う試みがなされている。例えば、特許文献4には、茶類原料の抽出時および/または抽出後に糖類分解酵素を用いて酵素分解処理する茶類エキスの製造方法が記載されている。本方法により、苦味および渋味が少なく、茶本来の風味を有し、強い旨味・甘味感を付与する茶類エキスを提供することができた。また、特許文献5にはコーヒーオイルをリパーゼで処理するコーヒーフレーバーの製造方法が記載されている。本方法により、エスプレッソをイメージさせる深い味わいを醸し出すコーヒーフレーバーを得ることができる。
しかしながら、上記の方法では、芳醇な香りや熟成感を得ることはできなかった。
特開2010−13510号公報 特開2007−39609号公報 特許第3065670号公報 特開2008−86280号公報 特許第4546358号公報
本発明の目的は、上記の従来技術における問題点を解決し、植物エキスに高級感をもたらす、芳醇な香りや熟成香を有する植物エキスを製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、植物原料を水蒸気蒸留して得られる水蒸気抽出植物エキスにアルコールを加えた後、リパーゼ処理することにより、芳醇な香りや熟成香を有する植物エキスを製造する方法を見いだし、本発明を完成するに至った。
かくして、本発明は、植物原料を水蒸気蒸留して得られる水蒸気抽出植物エキスに、アルコール濃度が0.1質量%〜50質量%になるようにアルコールを加えた後、水蒸気抽出植物エキスに対して0.1質量%〜1質量%の濃度のリパーゼを添加するリパーゼ処理することを特徴とする酵素処理植物エキスの製造方法を提供するものである。
また、本発明は、リパーゼ処理時に20℃〜60℃で加熱することを特徴とする前記の製造方法を提供するものである。
さらに、本発明は、(1)植物原料を水蒸気蒸留して水蒸気抽出植物エキスを得る工程、(2)工程(1)で得られた植物エキスを、逆浸透膜を用いて濃縮する工程、(3)工程(2)で得られた逆浸透膜濃縮植物エキスにアルコール濃度が0.1質量%〜50質量%になるようにアルコールを加えた後、20℃〜60℃にて水蒸気抽出植物エキスに対して0.1質量%〜1質量%の濃度のリパーゼを添加するリパーゼ処理する工程、を含む酵素処理植物エキスの製造方法を提供するものである。
さらに、本発明は、植物原料がコーヒーまたは茶類である前記の製造方法を提供するものである。
さらに、本発明は、アルコールがエタノールである前記の製造方法を提供するものである。
本発明によれば、植物原料を水蒸気蒸留して得られる水蒸気抽出植物エキスにアルコールを加えた後、リパーゼ処理することにより、風味改善された、エステル由来の芳醇な香りや熟成香を有する植物エキスを製造することができる。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の芳醇な香りや熟成香とは、高級感を有する甘い香気、発酵臭等でエステル様の芳香を有し、特に、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチルといったエチルエステルが芳醇な香りや熟成香に貢献している。
本発明の方法において使用しうる植物原料としては特に限定されないが、例えば、コーヒー、茶類(緑茶、紅茶、中国茶、麦茶、玄米茶、ハブ茶など)、ハーブ類(ラベンダー、シソ、ジャスミン、 セージ、オレガノ、ベルガモット、ホップ、レモンバーム、カモミール、ローズマリー、 タイム、ミント、コリアンダーなど)、果実(リンゴ、ブドウ、パイナップル)、ナッツ類(クルミ、栗、ピーナッツなど)、を挙げることができる。特に、コーヒー、茶類の使用が望ましい。
これら植物原料は生のままで使用しても良いが、焙煎、焙焼などの加熱処理により、香気を増強あるいは改善して使用しても良い。また、必要に応じて粉砕を行い、蒸留による香気回収率の改善を行っても良い。
例えば、コーヒー豆の焙煎に使用する原料生豆としては、アラビカ種、リベリカ種、ロブスタ種等いずれでも良く、その種類、産地を問わず、ブラジル、コロンビア、インドネシア種等いずれの産地のコーヒー豆も使用することができる。また、原料生豆は、一種類の豆のみを単独で使用しても、また、二種類以上の豆をブレンドして使用してもよい。
これらの生豆をコーヒーロースターにより焙煎したものを原料とすることができる。焙煎の方法としてはコーヒーロースターなどを用い常法により行うことができる。例えば、コーヒー生豆を回転ドラムの内部に投入し、この回転ドラムを回転攪拌しながら、下方からガスバーナー等で加熱することで焙煎できる。かかるコーヒー豆の焙煎の程度は、通常飲用に供される程度の焙煎であればいかなる範囲内でも良いが、L値が16〜30になるよう焙煎することを例示できる。L値とはコーヒーの焙煎の程度を表す指標で、コーヒー焙煎豆の粉砕物の明度を色差計で測定した値である。黒をL値0で、白をL値100で表す。従って、コーヒー豆の焙煎が深いほど数値は低い値となり、浅いほど高い値となる。
焙煎コーヒー豆は引き続き粉砕を行うが、粉砕方法についても特に制限はなく、いかなる粉砕方法、粉砕粒度も採用することができ、粉砕装置も、特に限定されるものではない。しかしながら、外気と接触せず、不活性気体中で適宜冷却でき短時間で粉砕できる装置を採用することにより香気の飛散が防止できるためより好ましい。
茶類、ハーブ類、ナッツ類などの焙煎または焙焼品は、市販品を用いるか、あるいは焙煎または焙焼に通常、使用される装置を用い、嗜好に適した焙煎または焙焼を行うことにより得ることもできる。
水蒸気蒸留法は植物原料に水蒸気を通気し、水蒸気に伴われて留出してくる香気成分を水蒸気とともに凝縮させる方法であり、加圧水蒸気蒸留、常圧水蒸気蒸留、減圧水蒸気蒸留、気−液向流接触蒸留(スピニングコーンカラム)などの方法を採用することができる。
例えば、常圧水蒸気蒸留を用いる方法は、焙煎コーヒー豆を仕込んだ水蒸気蒸留釜の底部から水蒸気を吹き込み、上部の留出側に接続した冷却器で留出蒸気を冷却することにより、凝縮物として香気を含む留出液を捕集することができる。必要に応じて、この香気捕集装置の先に冷媒を用いたコールドトラップを接続することにより、より低沸点の香気成分をも確実に捕集することができる。また、水蒸気蒸留の際に、窒素ガスなどの不活性ガス及び/又はビタミンCなどの抗酸化剤の存在下で蒸留すると、香気成分の加熱による劣化を効果的に防止することができるので好適である。水蒸気蒸留では蒸留の初期に香気が多く留出し、その後、徐々に香気の留出が少なくなる。どこで蒸留を終了するかは、何回かの結果を参考に経済性等も考慮して決めるが、その結果、焙煎コーヒー豆1質量部に対して、回収香は0.1質量部〜5質量部、好ましくは、1質量部〜3質量部となり、Bx0.5〜5°程度の回収香が得られる。
例えば、焙煎粉砕コーヒー豆を水と混合しスラリーとして、それを気−液向流接触蒸留法により香気回収する方法は、例えば、特公平7−22646号公報に記載の装置を用いて蒸留する方法を採用することができる。この装置を用いて香気を回収する手段を具体的に説明すると、回転円錐と固定円錐が交互に組み合わせられた構造を有する気−液向流接触抽出装置の回転円錐上に、液状またはペースト状の嗜好性飲料用原料を上部から流下させると共に、下部から蒸気を上昇させ、該原料に本来的に存在している香気成分を回収する方法を例示することができる。この気−液向流接触抽出装置の操作条件としては、該装置の処理能力、原料の種類および濃度、香気の強度その他によって任意に選択することができる。コーヒースラリーのコーヒー豆と水の比率は、コーヒースラリーが流動性をもつ状態となる量であればいかなる比率も採用することができるがおおよそ、コーヒー豆1重量部に対し水5倍量〜30倍量を例示することができる。水が、この範囲を下回る場合、流動性が出にくく、また、水がこの範囲をはずれて多い場合、得られる留出液の香気が弱くなる傾向がある。
上記の水蒸気蒸留法で得られた水蒸気抽出植物エキスに、炭酸水素ナトリウムを添加してpH調整を行うことにより、本発明の芳醇な香りや熟成香を有する植物エキスの原料を得ることができる。炭酸水素ナトリウムの添加量は、水蒸気抽出植物エキス1質量部に対して0.001質量部〜0.05質量部、好ましくは0.002質量部〜0.01質量部を挙げることができる。また、pHは4.5〜5.5程度に調整するのが好ましい。
上記のpH調整した水蒸気抽出植物エキスを、場合により、逆浸透膜(以下RO膜と記す)を用いて濃縮することにより、リパーゼ処理によるエステル化が効率的に進行する。
本発明で用いるRO膜は、その材質、分子構造など特に限定はないが、例えば、市販品であるSU−720(食塩阻止率99.4%)、SU−720F(食塩阻止率99.4%)、SU−720L(食塩阻止率99.0%)、SU−820(食塩阻止率99.75%)、SU−820L(食塩阻止率99.7%)、以上、東レ株式会社製RO膜;低圧スパイラル型ROエレメントNTR−759HR(食塩阻止率99%)、低圧スパイラル型ROエレメントLF10シリーズ(食塩阻止率98.5%)、低圧スパイラル型ROエレメントES10(食塩阻止率99.5%)、低圧スパイラル型ROエレメントES15−D(食塩阻止率99.5%)、低圧スパイラル型ROエレメントES20−D(食塩阻止率99.7%)、低圧スパイラル型ROエレメントES15−U(食塩阻止率93%)、NTR70HG S2F(食塩阻止率99%)、NTR759HG S2F(食塩阻止率99%)、以上、日東電工社製RO膜;フィルムテックSW30−HR320(食塩阻止率99.4%)、フィルムテックSW30−HR380(食塩阻止率99.4%)、フィルムテックSW30−XLE400i(食塩阻止率99.6%)、以上、ムロマチテクノス社製RO膜等を挙げることができる。特に食塩阻止率99%以上の膜は香気バランスの良い天然濃縮エキスが得られるので好ましい。
RO膜による濃縮は0.1〜50MPaの操作圧力で行う。また、操作温度は濃縮を行う天然原料によって適宜選択するが、例えば、5〜50℃程度の温度範囲で行う。一般に温度が高い方が水の透過速度が大きくなるが、含有する成分の溶解性、安定性、逆浸透膜への吸着性なども原料により異なるので、好ましい温度を検討してから実際の操作を行う。RO膜濃縮の進行に伴って水が膜を通過し、除去される結果、濃縮液の固形分濃度が上昇し、濃縮液の粘性が高くなり、通常、約Bx30°程度まで濃縮すると、濃縮液浸透圧が高くなるため、ほとんど水が通過しなくなる。よって、濃縮液は膜、ポンプおよびこれらを連結するパイプ内を循環することが困難になり、実質的に水の通過が止まる。このレベルまで濃縮するか、あるいはそれ以前の任意の段階で濃縮を終了する。
このRO膜による濃縮により、香気濃縮倍率が1.1〜10程度の香気濃縮物を得ることができる。得られる香気濃縮物は呈味成分などの不揮発性の水溶性成分も含むため、食品の風味の改善に有用である。
リパーゼ処理をする際には、水蒸気抽出植物エキスに含まれる有機酸とエステル反応させるためにアルコールを添加する。使用するアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコールなどの中から選ばれる一種もしくは複数種の混合物を例示することができる。これらの中では、特にエタノールの使用がより好ましい。
水蒸気抽出植物エキスに含まれる有機酸とエステル反応させるアルコールは、リパーセ処理をする水蒸気抽出植物エキスのアルコール濃度が、0.1質量%〜50質量%、好ましくは1質量%〜40質量%、より好ましくは5質量%〜30質量%となるように添加することにより、リパーゼ処理後の植物エキスに、芳醇な香りや熟成香を付与することができる。アルコール濃度が50質量%を越えた場合は、エステル濃度が減少してしまい、リパーゼ処理後の植物エキスに、芳醇な香りや熟成香を付与することが出来ない。
水蒸気抽出植物エキスをリパーゼ処理する際のリパーゼの濃度は、リパーゼ処理後に植物エキスが芳醇な香りや熟成香を有していれば特に限定されないが、水蒸気抽出植物エキスに対して0.1質量%〜1質量%、好ましくは0.2質量%〜0.5質量%を挙げることができる。
水蒸気抽出植物エキスをリパーゼ処理する際の条件は、通常、20℃〜60℃、好ましくは、30℃〜50℃であって、処理時間は1時間〜1週間、好ましくは2時間〜48時間処理を行う。2時間〜48時間といった比較的短時間での処理で植物エキスのにおいを損なわず、かつ熟成香を有していることが望ましい。
本発明において利用することのできるリパーゼとしては、特に制限されるものではなく、例えば、アスペルギルス属、リゾムコール属、リゾープス属、ペニシリウム属、キャンディダ属、ピキア属、クロモバクテリウム属、アルカリゲネス属、ストレストマイセス属、アクチノマデュラ属、バチラス属等の各種微生物から採取されるリパーゼ、豚の膵臓から得られるリパーゼ、子山羊、子羊、子牛の口頭分泌腺から採取したオーラルリパーゼなどを適宜利用することができる。また、市販品としてはリパーゼL、リパーゼM、リパーゼAP、リパーゼAY、リパーゼP、リパーゼAK、リパーゼCES、リパーゼM−AP、リパーゼD、リパーゼN、リパーゼCT、リパーゼR、リパーゼMER(以上、天野エンザイム(株)製)、スミチームNLS、スミチームRLS、スミチームALS(以上、新日本化学工業(株)製:登録商標);リパーゼMY、リパーゼPL、リパーゼQLM(以上、名糖産業(株)製)、リパーゼP、リパーゼA−10D、PLA2、リパーゼ−サイケン(登録商標)(以上、ナガセケムテックス(株)製)、豚膵臓リパーゼ(シグマアルドリッチジャパン(株)製)、レシターゼ(登録商標)、パラターゼ、パラダーゼM(以上、ノボザイムズ(株)製)、タリパーゼ(田辺製薬(株)製)等を例示することができる。これらのリパーゼは単独又は複数組み合わせて利用することもできる。
前記の方法により得られたリパーゼ処理した植物エキスを、60℃〜120℃の条件で2秒〜90分間加熱することにより酵素失活させた後冷却し、静置、遠沈処理、および濾過等の適宜な処理を行い、本発明の酵素処理植物エキスを得ることができる。
上記の方法により得られた本発明の酵素処理植物エキスは、そのまま含水アルコール溶液の形態として使用することもできるが、所望により該エキスにデキストリン、加工澱粉、サイクロデキストリン、アラビアガム等の賦形剤を添加又は添加しないで、ペースト状とすることもでき、さらにまた、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの適宜な乾燥手段を採用して乾燥することにより粉末状とすることもできる。
本発明で得られた酵素処理植物エキスは、所望により、他の方法で得られる植物エキス、香料、抗酸化剤、色素、ビタミンなどの任意の食品素材または添加剤を添加することもできる。
かくして、本発明によれば、例えば、清涼飲料、炭酸飲料、乳飲料、機能性飲料などの飲料類;キャンディー、クッキー、ケーキ、ゼリーなどの菓子類などに酵素処理植物エキスの適当量を添加することにより、植物原料の持つ、バランスのよい、良好な天然風味が付与された飲食品を提供することができる。また、本発明によれば、例えば、シャンプー類、ヘアクリーム類、その他の毛髪化粧料基剤;オシロイ、口紅、その他の化粧用基剤や化粧用洗剤類基剤;洗濯用洗剤類、消毒用洗剤類、防臭洗剤類、その他各種の保健・衛生用洗剤類;歯磨き、ティッシュ、トイレトペーパーなどの各種保健・衛生材料類;医薬品類などに酵素処理植物エキスの適当量を添加することにより、天然感の向上した、嗜好性の高い消費材を提供することができる。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
(参考例1:コーヒーエキスの製造)
市販の焙煎コーヒー豆であるコロンビアEX(L値20)50kgをステンレス製カラムに充填し、100〜105℃で2.5時間、水蒸気蒸留を行い、留出液100kgを得た。上記の留出液に炭酸水素ナトリウムを525g加え、pH5.10としたものをRO膜濃縮機NTR−70HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/minで3時間の処理することにより、コーヒーエキス12.0kg(参考品1、Bx4.05°、pH5.34)を得た。
(実施例1:コーヒーエキスのエタノール濃度10%+酵素処理)
参考品1のコーヒーエキス27gに、95%エタノール水溶液3gおよびリパーゼAY(天野エンザイム(株)製)90mgを加え、40℃で16時間、静置にて酵素処理を行った。酵素処理後、70℃達温にて酵素を加熱失活させ、その後30℃以下に冷却し、200メッシュ濾過を行うことにより、酵素処理コーヒーエキス30g(本発明品1)が得られた。
(実施例2:酵素処理時の酵素変更)
実施例1において、酵素をリパーゼMER(天野エンザイム(株)製)に変更した以外は、すべて実施例1と同様に処理することにより、酵素処理コーヒーエキス30g(本発明品2)が得られた。
(比較例1:酵素未処理品)
実施例1において、リパーゼAYを添加しない以外は、すべて実施例1と同様に処理することにより、コーヒーエキス30g(比較品1)が得られた。
(実施例3:酵素処理時の温度変更)
実施例1において、リパーゼAYを加えた酵素処理時の温度を25℃に変更した以外は、すべて実施例1と同様に処理することにより、酵素処理コーヒーエキス30g(本発明品3)が得られた。
(実施例4:酵素処理時の温度変更)
実施例1において、リパーゼAYを加えた酵素処理時の温度を50℃に変更した以外は、すべて実施例1と同様に処理することにより、酵素処理コーヒーエキス30g(本発明品4)が得られた。
(比較例2:酵素処理時の温度変更)
実施例1において、リパーゼAYを加えた酵素処理時の温度を70℃に変更した以外は、すべて実施例1と同様に処理することにより、酵素処理コーヒーエキス30g(比較品2)が得られた。
(実施例5:コーヒーエキスのエタノール濃度30%+酵素処理)
実施例1において、参考品1のコーヒーエキス21gに、95%エタノール水溶液9gおよびリパーゼAY(天野エンザイム(株)製)90mgを加える操作以降は、すべて実施例1と同様に処理することにより、酵素処理コーヒーエキス30g(本発明品5)が得られた。
(実施例6:コーヒーエキスのエタノール濃度50%+酵素処理)
実施例1において、参考品1のコーヒーエキス15gに、95%エタノール水溶液15gおよびリパーゼAY(天野エンザイム(株)製)90mgを加える操作以降は、すべて実施例1と同様に処理することにより、酵素処理コーヒーエキス30g(本発明品6)が得られた。
(比較例3:コーヒーエキスのエタノール濃度60%+酵素処理)
実施例1において、参考品1のコーヒーエキス12gに、95%エタノール水溶液18gおよびリパーゼAY(天野エンザイム(株)製)90mgを加える操作以降は、すべて実施例1と同様に処理することにより、酵素処理コーヒーエキス30g(比較品3)が得られた。
(実施例7:酵素処理時間の変更)
実施例1において、酵素処理時間を8時間に変更した以外は、すべて実施例1と同様に処理することにより、酵素処理コーヒーエキス30g(本発明品7)が得られた。
実施例1〜7および比較例1〜3の条件の比較を、表1および表2に示す。
Figure 0006297354
Figure 0006297354
(実施例8:コーヒーエキスの官能評価)
前記の製造方法により得られたコーヒーエキスを、よく訓練されたパネラー10名により香気評価を行った。香気評価は、30mLサンプル瓶に前記の酵素処理コーヒーエキスを用意し、比較品1を対象として瓶口の香気およびその溶液をにおい紙につけて評価を行った。香気評点は比較品1(酵素未処理品)と比較して、−1:香気が劣化している、0:大差なし、1:わずかながら熟成感のあるコーヒー様香気、2:熟成感のあるコーヒー様香気、3:著しく熟成感のあるコーヒー様香気、として採点した。そのパネラー10名の平均点および平均的な香気評価結果を表3に示す。
Figure 0006297354
表3の結果より、リパーゼ処理を行うことにより、熟成感のあるコーヒーエキスを製造できることが示された。また、リパーゼ処理を行うことより、コーヒー由来の不快な焙煎臭が低減され、発酵臭が増強された。また、比較例2のように、リパーゼ処理の温度を高くすると、リパーゼ処理の途中で酵素が失活してしまい、熟成感のあるコーヒーエキスを製造することができなかった。さらに、比較例3のようにリパーゼ処理をする際のコーヒーエキスのエタノール濃度を高くした場合も、熟成感のあるコーヒーエキスを製造することができなかった。
(参考例2:コーヒー抽出液の製造)
市販の焙煎コーヒー豆であるコロンビアEX(L値20)10kgをステンレス製カラムに充填し、95℃に加温した軟水を流速2500mL/hrでカラム上部から下部へ送り込み、3時間抽出することにより、コーヒー抽出液60kg(参考品2、Bx3.0°)を得た。
(実施例9:ブラックコーヒーの風味評価)
以下の表4に示すように、ブラックコーヒー基材に前記本発明品1〜7および比較品1〜3を配合し、ブラックコーヒーを調製した。
Figure 0006297354
前記の方法で調製したブラックコーヒーについて、比較品1を配合したブラックコーヒーを対象としてよく訓練されたパネラー10名により風味評価を行った。風味評価は、本発明品1〜7および比較品1〜3を配合したブラックコーヒーを試飲することにより評価した。風味評点は比較品1(酵素未処理品)と比較して、−1:風味が劣化している、0:大差なし、1:わずかながら熟成感のあるコーヒー様風味、2:熟成感のあるコーヒー様風味、3:著しく熟成感のあるコーヒー様風味、として採点した。そのパネラー10名の平均点および平均的な風味評価結果を表5に示す。
Figure 0006297354
表5の結果より、リパーゼ処理を行うことにより、チョコレート様の甘さのあるブラックコーヒーを製造できることが示された。また、リパーゼ処理を行うことより、コーヒー豆由来のえぐみが低減され、チョコレート様の甘さが口の中で広がり、発酵感が増加した。また、比較例2のように、リパーゼ処理の温度を高くすると、リパーゼ処理の途中で酵素が失活してしまい、発酵感のあるブラックコーヒーを製造することができなかった。さらに、比較例3のようにリパーゼ処理をする際のブラックコーヒーのエタノール濃度を高くした場合も、発酵感のあるブラックコーヒーを製造することができなかった。
(実施例10:コーヒーエキス中の脂肪酸エチルエステルの定量)
本発明品1〜7および比較品1〜3に含まれる酢酸エチル、プロピオン酸エチルおよび酪酸エチルの含有率をHPLC法にて測定した。分析結果を表6に示す。
[HPLC法による脂肪酸エチルエステルの測定]
標準液調製
10mLのメスフラスコに酢酸エチル、プロピオン酸エチルおよび酪酸エチル標準品を約0.1g精密に量りとり、アセトニトリルでメスアップした後にさらに50%アセトニトリルで適宜精密に希釈し、標準液を調製した。
HPLC測定試料調製
抽出物約1gを10mLのメスフラスコに精密に量りとり、アセトニトリルでメスアップした後、PVDFメンブランフィルタ(ミリポア社、孔径0.45μm)処理を行った。この調製液をHPLC分析に供した。
HPLC分析条件
機種 :SHIMADZU PROMINENCE(島津製作所)
カラム :INERTSIL ODS(ジーエル・サイエンス社製)
内径4.6mm×長さ150mm、粒子径3.3μm
カラム温度 :40℃
移動相 :A液 水:アセトニトリル:ギ酸=900:100:1
B液 水:アセトニトリル:ギ酸=100:900:1
グラジェント条件:(A):(B)=70:30(0分),50:50(5分),
〜0:100(20分),0:100(30分)
流速 :0.6mL/min
注入量 :10μL
測定時間 :55min.
検出器 :PDA(測定波長:270nm)
Figure 0006297354
表6の結果により、リパーゼ処理を行うことにより、エステル化反応が促進され、脂肪酸エチルエステルが増加することが示された。これによって、官能評価の結果とあわせて、脂肪酸エチルエステルがコーヒーエキスの熟成感に寄与することが示された。比較例2のように、リパーゼ処理の温度を高くすると、リパーゼ処理の途中で酵素が失活してしまい、脂肪酸エチルエステルが生成しにくいことが示唆された。また、比較例3のようにリパーゼ処理をする際の含水エタノール溶媒のエタノール濃度を高くした場合も、同様に脂肪酸エチルエステルが生成しにくいことが示唆された。
(参考例3:紅茶エキスの製造)
市販の紅茶茶葉であるウバプレーンタイプ100kgをステンレス製カラムに充填し、100〜105℃で3時間、水蒸気蒸留を行い、留出液200kgを得た。上記の留出液をRO膜濃縮機NTR−70HG S2F(日東電工社製)を用い、操作圧4MPa、循環流量7L/minで3時間の処理することにより、紅茶エキス14.0kg(参考品3、Bx0.45°、pH4.41)を得た。
(実施例11:紅茶エキスのエタノール濃度10%+酵素処理)
参考品3の紅茶エキス27gに、95%エタノール水溶液3gおよびリパーゼAY(天野エンザイム(株)製)90mgを加え、40℃で16時間、静置にて酵素処理を行った。酵素処理後、70℃達温にて酵素を加熱失活させ、その後30℃以下に冷却し、200メッシュ濾過を行うことにより、酵素処理紅茶エキス30g(本発明品8)が得られた。
(実施例12:酵素処理時の酵素変更)
実施例11において、酵素をリパーゼMER(天野エンザイム(株)製)に変更した以外は、すべて実施例11と同様に処理することにより、酵素処理紅茶エキス30g(本発明品9)が得られた。
(比較例4:酵素未処理品)
実施例11において、リパーゼAYを添加しない以外は、すべて実施例11と同様に処理することにより、紅茶エキス30g(比較品4)が得られた。
(実施例13:酵素処理時の温度変更)
実施例11において、リパーゼAYを加えた酵素処理時の温度を25℃に変更した以外は、すべて実施例11と同様に処理することにより、酵素処理紅茶エキス30g(本発明品10)が得られた。
(実施例14:酵素処理時の温度変更)
実施例11において、リパーゼAYを加えた酵素処理時の温度を50℃に変更した以外は、すべて実施例11と同様に処理することにより、酵素処理紅茶エキス30g(本発明品11)が得られた。
(比較例5:酵素処理時の温度変更)
実施例11において、リパーゼAYを加えた酵素処理時の温度を70℃に変更した以外は、すべて実施例11と同様に処理することにより、酵素処理紅茶エキス30g(比較品5)が得られた。
(実施例15:紅茶エキスのエタノール濃度30%+酵素処理)
実施例11において、参考品3の紅茶エキス21gに、95%エタノール水溶液9gおよびリパーゼAY(天野エンザイム(株)製)90mgを加える操作以降は、すべて実施例11と同様に処理することにより、酵素処理紅茶エキス30g(本発明品12)が得られた。
(実施例16:紅茶エキスのエタノール濃度50%+酵素処理)
実施例11において、参考品3の紅茶エキス15gに、95%エタノール水溶液15gおよびリパーゼAY(天野エンザイム(株)製)90mgを加える操作以降は、すべて実施例11と同様に処理することにより、酵素処理紅茶エキス30g(本発明品13)が得られた。
(比較例6:紅茶エキスのエタノール濃度60%+酵素処理)
実施例11において、参考品3の紅茶エキス12gに、95%エタノール水溶液18gおよびリパーゼAY(天野エンザイム(株)製)90mgを加える操作以降は、すべて実施例11と同様に処理することにより、酵素処理紅茶エキス30g(比較品6)が得られた。
(実施例17:酵素処理時間の変更)
実施例11において、酵素処理時間を8時間に変更した以外は、すべて実施例11と同様に処理することにより、酵素処理紅茶エキス30g(本発明品14)が得られた。
実施例11〜17および比較例4〜6の条件の比較を、表7および表8に示す。
Figure 0006297354
Figure 0006297354
(実施例18:紅茶エキスの官能評価)
前記の製造方法により得られた紅茶エキスを、よく訓練されたパネラー10名により香気評価を行った。香気評価は、30mLサンプル瓶に前記の酵素処理紅茶エキスを用意し、比較品4を対象として瓶口の香気およびその溶液をにおい紙につけて評価を行った。香気評点は比較品4(酵素未処理品)と比較して、−1:香気が劣化している、0:大差なし、1:わずかながら熟成感のある紅茶様香気、2:熟成感のある紅茶様香気、3:著しく熟成感のある紅茶様香気、として採点した。そのパネラー10名の平均点および平均的な香気評価結果を表9に示す。
Figure 0006297354
表9の結果より、リパーゼ処理を行うことにより、熟成感のある紅茶エキスを製造できることが示された。また、リパーゼ処理を行うことより、紅茶の茶葉を水蒸気蒸留した際に発生する不快なこげ臭が低減され、フルーティー感が増強された。また、比較例5のように、リパーゼ処理の温度を高くすると、リパーゼ処理の途中で酵素が失活してしまい、熟成感のある紅茶エキスを製造することができなかった。さらに、比較例6のようにリパーゼ処理をする際の紅茶エキスのエタノール濃度を高くした場合も、熟成感のある紅茶エキスを製造することができなかった。
(参考例4:紅茶抽出液の製造)
市販の紅茶茶葉であるウバプレーンタイプ10kgをステンレス製カラムに充填し、12Lガラスカラムに紅茶葉100gを仕込み、90℃熱水100kg加えて、1時間静置抽出した。その後、茶葉を分離することにより、紅茶抽出液80kg(参考品4、Bx1.2°)を得た。
(実施例19:紅茶飲料の風味評価)
以下の表10に示すように、紅茶飲料基材に前記本発明品8〜14および比較品4〜6を配合し、紅茶飲料を調製した。
Figure 0006297354
前記の方法で調製した紅茶飲料について、比較品4を配合した紅茶飲料を対象としてよく訓練されたパネラー10名により風味評価を行った。風味評価は、本発明品8〜14および比較品4〜6を配合した紅茶飲料を試飲することにより評価した。風味評点は比較品4(酵素未処理品)と比較して、−1:風味が劣化している、0:大差なし、1:わずかながら熟成感のある紅茶様風味、2:熟成感のある紅茶様風味、3:著しく熟成感のある紅茶様風味、として採点した。そのパネラー10名の平均点および平均的な風味評価結果を表11に示す。
Figure 0006297354
表11の結果より、リパーゼ処理を行うことにより、フルーティー様の甘さのある紅茶飲料を製造できることが示された。また、リパーゼ処理を行うことより、紅茶由来の茶葉由来の渋み感や、水蒸気蒸留由来のこげ感が低減され、フルーティー様の甘さが口の中で広がり、発酵感が増加した。また、比較例5のように、リパーゼ処理の温度を高くすると、リパーゼ処理の途中で酵素が失活してしまい、発酵感のある紅茶飲料を製造することができなかった。さらに、比較例6のようにリパーゼ処理をする際の紅茶エキスのエタノール濃度を高くした場合も、発酵感のある紅茶飲料を製造することができなかった。
(実施例20:紅茶エキス中の脂肪酸エチルエステルの定量)
本発明品8〜14および比較品4〜6に含まれる酢酸エチル、プロピオン酸エチルおよび酪酸エチルの含有率をHPLC法にて測定した。分析結果を表12に示す。なお、HPLC法による脂肪酸エチルエステルの測定は、実施例10と同様の方法で行った。
Figure 0006297354
表12の結果により、リパーゼ処理を行うことにより、エステル化反応が促進され、脂肪酸エチルエステルが増加することが示された。これによって、官能評価の結果とあわせて、脂肪酸エチルエステルが紅茶エキスの熟成感に寄与することが示された。比較例5のように、リパーゼ処理の温度を高くすると、リパーゼ処理の途中で酵素が失活してしまい、脂肪酸エチルエステルが生成しにくいことが示唆された。また、比較例6のようにリパーゼ処理をする際の含水エタノール溶媒のエタノール濃度を高くした場合も、同様に脂肪酸エチルエステルが生成しにくいことが示唆された。

Claims (5)

  1. 植物原料を水蒸気蒸留して得られる水蒸気抽出植物エキスに、アルコール濃度が0.1質量%〜50質量%になるようにアルコールを加えた後、水蒸気抽出植物エキスに対して0.1質量%〜1質量%の濃度のリパーゼを添加するリパーゼ処理することを特徴とする酵素処理植物エキスの製造方法。
  2. リパーゼ処理時に20℃〜60℃で加熱することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  3. (1)植物原料を水蒸気蒸留して水蒸気抽出植物エキスを得る工程、(2)工程(1)で得られた植物エキスを、逆浸透膜を用いて濃縮する工程、(3)工程(2)で得られた逆浸透膜濃縮植物エキスにアルコール濃度が0.1質量%〜50質量%になるようにアルコールを加えた後、20℃〜60℃にて水蒸気抽出植物エキスに対して0.1質量%〜1質量%の濃度のリパーゼを添加するリパーゼ処理する工程、を含む酵素処理植物エキスの製造方法。
  4. 植物原料がコーヒーまたは茶類である請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法
  5. アルコールがエタノールである請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
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