以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る変速機3を備えた車両1の構成例を示す概略図である。
本実施形態の車両1は、駆動力を発生するエンジン2と、エンジン2から伝達される駆動力の回転数を所望の回転数に変速する変速機3と、変速機3の油圧作動機器(後述するプーリ機構20、前後進切換機構70、第1から第4クラッチ61,62,63,64及びトルクコンバータ12)を駆動する油圧を供給する油圧回路4と、変速機3から伝達される駆動力を左右の駆動輪WL,WRに分配する差動機構5と、差動機構5によって分配された各駆動力を左右の駆動輪WL,WRにそれぞれ伝達する左右のドライブシャフト6L,6Rと、左右のドライブシャフト6L,6Rによって伝達された駆動力を車両1の推進力に変換する左右の駆動輪WL,WRとを備える。
エンジン2は、内燃機関の他、電動機或いはこれらが組み合わされたハイブリッドエンジンである。
油圧回路4は、オイルストレーナ(図示せず)から作動油(オイル)を吸引して下流へ圧送する油圧ポンプ(図示せず)と、信号油圧とスプリング力との力の釣り合いによって所定の油圧に調圧するレギュレータ弁(図示せず)と、通電量に応じた油圧を供給する複数のリニアソレノイド弁(図示せず)と、リニアソレノイド弁の制御対象(供給先)を切り替える複数のオン/オフソレノイド弁(図示せず)等から構成される。
また、車両1は、エンジン2及び変速機3をそれぞれ制御するための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)10を備える。電子制御ユニット10は、複数の制御対象物に対し1つのユニットとして構成されるだけでなく、単一の制御対象物に対し1つのユニットとして構成されていても良い。例えばエンジン2を制御するためのエンジンECU、変速機3を制御するためのAT−ECUなどのように、単一の制御対象物に対し1つのユニットとして構成されていても良い。なお、本実施形態の電子制御ユニット10は、エンジン2及び変速機3を制御する1つのユニットとして構成されている。
また、電子制御ユニット10には、制御パラメータとして、例えばアクセルペダルセンサ31から出力されるアクセルペダル開度、エンジン回転センサ33から出力されるエンジン回転数、主入力軸回転センサ34から出力される主入力軸回転数、副入力軸回転センサ35から出力される副入力軸回転数、第1出力軸回転センサ36から出力される第1出力軸回転数、第2出力軸回転センサ37から出力される第2出力軸回転数、車速センサ39から出力される車速、の各種計測信号等がリアルタイム又は必要に応じ入力されるようになっている。
次に、本実施形態の車両1が備える変速機3の構成を説明する。図2は、図1に示す変速機3のスケルトン図である。また、図3はエンジン2から差動機構5に到る動力伝達経路を示す説明図である。
図3に示されるように、変速機3は主変速機構としてプーリ機構20と、副変速機構としてギヤ対51,52,54,55とを備えた平行軸式変速機である。エンジン2から伝達される駆動力は、プーリ機構20の第1プーリ21とエンジン2とを連結する第1入力経路IP1を介して、或いは第2プーリ22とエンジン2とを連結する第2入力経路IP2を介して選択的にプーリ機構20へ入力される。これら入力経路の切替は、第1クラッチ61及び第2クラッチ62のクラッチ締結状態を繋ぎ替えることにより行われる。なお、ここで言う「クラッチ締結状態を繋ぎ替える」とは、締結状態にあるクラッチを解放状態にする一方、解放状態にあるクラッチを締結状態にすることを意味している。
他方、プーリ機構20を通過した駆動力は、プーリ機構20の第2プーリ22と差動機構5とを連結する第1出力経路OP1を介して、或いは第1プーリ21と差動機構5とを連結する第2出力経路OP2を介して選択的に差動機構5に出力される。これら出力経路の切替は、第3クラッチ63及び第4クラッチ64のクラッチ締結状態を繋ぎ替えることにより行われる。また、以降では、プーリ機構20の入力側(上流側)をドライブ側(DR側)と呼び、出力側(下流側)をドリブン側(DN側)と呼ぶことにする。
また、例えばドライブ側クラッチ61,62のクラッチ締結状態が繋ぎ替わると、入力経路IP1,IP2が切り替わるのと同時に駆動力が通過する副変速機構51,52も同時に切り替わる。従って、以降ではドライブ側クラッチ61,62の繋ぎ替え、入力経路IP1,IP2の切替、及びドライブ側副変速機構51,52の切替は互いに同じ意味として用いることにする。同様に、ドリブン側クラッチ63,64の繋ぎ替え、出力経路OP1,OP2の切替、及びドリブン側副変速機構54,55の切替は互いに同じ意味として用いることにする。
このように、変速機3はプーリ機構20の上流側と下流側に副変速機構をそれぞれ備える共に、各副変速機構に対し個別にクラッチを備える。そしてドライブ側副変速機構51,52の切替及びドリブン側副変速機構54,55の切替は、ドライブ側クラッチ61,62の繋ぎ替え、並びにドリブン側クラッチ63,64の繋ぎ替えによってそれぞれ行われることになる。以下、図2を参照しながら変速機3の各構成について更に説明する。
変速機3は、エンジン2のクランクシャフト16と入力軸13との間にトルクコンバータ12を備えている。従って、本実施形態に係る変速機3を備えた車両1では、発進時の半クラッチ制御はトルクコンバータ12によって行われる。変速機3は、エンジン2からトルクコンバータ12を介して接続された入力軸13と、入力軸13に対して平行に配置され内周軸14A及び外周軸14Bから成る同芯二重軸の第1出力軸14と、同じく入力軸13に対して平行に配置された第2出力軸15とを備える。
入力軸13は、エンジン2から伝達される駆動力が入力される主入力軸13Aと、主入力軸13Aと回転中心が同じで第2クラッチ62を介して連結される副入力軸13Cとから構成される。
第1出力軸14と第2出力軸15との間には、プーリ機構(主変速機構)20が配設される。プーリ機構20は、第1出力軸14に設けられた第1プーリ21と、第2出力軸15に設けられた第2プーリ22と、第1プーリ21と第2プーリ22との間に巻き掛けられた無端ベルト23とを備える。第1プーリ21及び第2プーリ22の溝幅は油圧(プーリ側圧)によって相互に逆方向に増減され、これにより第1出力軸14及び第2出力軸15間の変速比を連続的に変化させる。第1プーリ21は、第1出力軸14の外周軸14Bに固定された第1固定プーリ21Aと、第1固定プーリ21Aに対して接近・離間可能な第1可動プーリ21Bとで構成される。また、第2プーリ22は、第2出力軸15に固定された第2固定プーリ22Aと、第2固定プーリ22Aに対して接近・離間可能な第2可動プーリ22Bとで構成される。
主入力軸13Aと第1固定プーリ21Bとの間には、副入力軸13Cに相対回転可能に配設される第1駆動ギヤ51Aと、第1出力軸14の外周軸14Bに一体に配設される第1従動ギヤ51Bとから成る上述した第1副変速機構51が設けられている。第1駆動ギヤ51Aと第1従動ギヤ51Bのギヤ比は1よりも大きい。そのため、第1副変速機構51は、主入力軸13Aからの駆動力を減速させて第1固定プーリ21Bに伝達する減速ギヤ列として機能する。
また、上述した第1入力経路IP1は、主入力軸13A、第1副変速機構51及び第1出力軸14の外周軸14Bとによって構成されている。
主入力軸13Aと第2固定プーリ22Bとの間には、副入力軸13Cに相対回転可能に配設される第2駆動ギヤ52Aと、第2出力軸15に配設される第2従動ギヤ52Bとから成る上述した第2副変速機構52が設けられている。第2駆動ギヤ52Aと第2従動ギヤ52Bのギヤ比は1よりも小さい。そのため、第2副変速機構52は、主入力軸13Aからの駆動力を増速させて第2固定プーリ22Bに伝達する増速ギヤ列として機能する。
また、上述した第2入力経路IP2は、主入力軸13A、副入力軸13C、第2副変速機構52及び第2出力軸15とによって構成されている。
主入力軸13Aと第1出力軸14との間には、副入力軸13Cに相対回転可能に配設される第3駆動ギヤ53Aと、後述する第4クラッチ64に配設される第3従動ギヤ53Cと、第3駆動ギヤ53Aと第3従動ギヤ53Cとの間に配設される第3アイドルギヤ53Bとから成る第3副変速機構53が設けられている。第3アイドルギヤ53Bはアイドル軸17上に相対回転自在に支持されている。第3アイドルギヤ53Bがあることによって、上記の3つのギヤ53A,53B,53Cからなるギヤ列は、駆動力の回転方向を逆転させて伝達するギヤ列として機能する。
以降では、主入力軸13A、副入力軸13C及び第3副変速機構53とから成る動力伝達経路を第3入力経路IP3と呼ぶことにする。
第2可動プーリ22Aと差動機構5との間には、第2出力軸15に配設される中間駆動ギヤ54Aと、第1出力軸14の内周軸14Aに配設される中間従動ギヤ54Cと、中間駆動ギヤ54Aと中間従動ギヤ54Cとの間に配設される中間アイドルギヤ54Bと、最終駆動ギヤ26と、差動機構5の外周に形成され最終駆動ギヤに噛み合う最終従動ギヤ27とから成る上述した第4副変速機構54が設けられている。中間アイドルギヤ54Bはアイドル軸18上に相対回転自在に支持されている。ここで、図2において、中間アイドルギヤ54Bと中間従動ギヤ54Cは隣接していないが、実際には、中間アイドルギヤ54Bと中間従動ギヤ54Cとは互いに隣接し、これらは互いに噛合(係合)している。
また、上述した第1出力経路OP1は、第2出力軸15と第4副変速機構54とによって構成されている。
第1出力軸14の内周軸14Aの下流側には、最終駆動ギヤ26と、この最終駆動ギヤ26に噛み合う最終従動ギヤ27とから成る上述した第5副変速機構55が設けられている。また、上述した第2出力経路OP2は、第1出力軸14の内周軸14Aと第5副変速機構55とによって構成されている。
入力軸13の副入力軸13Cと同軸には、前後進切換機構70が配設される。前後進切換機構70は、副入力軸13Cからの駆動力を第2副変速機構52(第2入力経路IP2)に伝達するか第3副変速機構53(第3入力経路IP3)に伝達するかを選択的に切り換えるように構成されている。上述した通り、副入力軸13Cには第2駆動ギヤ52A及び第3駆動ギヤ53Aが相対回転可能に支持されており、前後進切換機構70のスリーブ71を中立位置から図中左に動かすと、第2駆動ギヤ52Aと副入力軸13Cとが結合し、駆動力が第2入力経路IP2に伝達される。一方、前後進切換機構70のスリーブ71を中立位置から図中右に動かすと、第3駆動ギヤ53Aと副入力軸13Cとが結合し、駆動力が第3入力経路IP3に伝達される。
また、上述した通り、本実施形態の変速機3は、上述したクラッチ繋ぎ替えに係る4つのクラッチ(多板摩擦クラッチ)を備えている。具体的には、エンジン2から第1入力経路IP1への動力伝達の有無を切り替える第1クラッチ61と、エンジン2から第2入力経路IP2への動力伝達の有無を切り替える第2クラッチ62と、第2プーリ22から第1出力経路OP1への動力伝達の有無を切り替える第3クラッチ63と、第1プーリ21から第2出力経路OP2への動力伝達の有無を切り替える第4クラッチ64である。
従って、第1クラッチ61及び第2クラッチ62のクラッチ締結状態を繋ぎ替えることにより、エンジン2から伝達される駆動力が入力する入力経路が第1入力経路IP1から第2入力経路IP2へ、或いは第2入力経路IP2から第1入力経路IP1へ切り替わる。
他方、第3クラッチ63及び第4クラッチ64のクラッチ締結状態を繋ぎ替えることにより、プーリ機構20から駆動力が出力される出力経路が第1出力経路OP1から第2出力経路OP2へ、或いは第2出力経路OP2から第1出力経路OP1へ切り替わる。
なお、上記ドライブ側クラッチ及びドリブン側クラッチの各繋ぎ替えは、油圧回路4から供給される油圧(作動油)によって行われ、油圧回路4は電子制御ユニット10によって制御されるようになっている。
図4は、本実施形態の変速機3に係る変速モード及び副変速機構の切替判断回転数を示すグラフである。なお、グラフの縦軸は主入力軸13Aの回転数に相当する入力軸回転数(rpm)を示し、横軸はドライブシャフト(出力軸)の回転数に相当する車速(km/h)を示している。従って、グラフの傾きは、プーリ機構20での変速レシオ(以下、「プーリレシオ」という。)と副変速機構での変速レシオ(以下、「ギヤレシオ」という。)とが掛け合わされた全変速レシオ(オーバーオールレシオ)に相当するものである。
実線Rmaxは、全変速レシオが最大となるLOW端レシオでの入力軸回転数と車速との相関を示している。他方、実線Rminは、全変速レシオが最小となるOD端レシオでの入力軸回転数と車速との相関を示している。
また、実線Rmaxと実線Rminとの間に位置する点線R0は、上記第1から第4クラッチ61,62,63,64での各差回転がゼロ又はその近傍に収束するオーバーオールレシオ(以下、「切替レシオ」という。)での入力軸回転数と車速との相関を示している。従って、切替レシオR0から離れるに従い、上記第1から第4クラッチ61,62,63,64での各差回転は増大する。
実線Rmaxと切替レシオR0とによって挟まれた部分は、車両1の低速度域でのオーバーオールレシオを規定する低速モード(LOWモード)における入力軸回転数と車速との相関を示している。他方、切替レシオR0と実線Rminとによって挟まれた部分は、高速度域での全変速レシオを規定する高速モード(HIGHモード)における入力軸回転数と車速との相関を示している。従って、切替レシオR0は、LOWモードからHIGHモードへ或いはHIGHモードからLOWモードへ変速モードが切り替わるときの入力軸の回転数(切替回転数)を示している。
なお、LOWモードでは、ドライブ側クラッチとして第1クラッチ61が締結されると共にドリブン側クラッチとして第3クラッチ63が締結される。そのため、ドライブ側副変速機構として第1副変速機構51が選択され、ドリブン側副変速機構として第4副変速機構54が選択される。そして、プーリ機構20において第1プーリ21が駆動プーリとなると共に、第2プーリ22が従動プーリとなり、トルクフローは第1プーリ21から第2プーリ22へ流れる。
一方、HIGHモードでは、ドライブ側クラッチとして第2クラッチ62が締結されると共にドリブン側クラッチとして第4クラッチ64が締結される。そのため、ドライブ側副変速機構として第2副変速機構52が選択され、ドリブン側副変速機構として第5副変速機構55が選択される。そして、高速モードでは、プーリ機構20において第1プーリ21が従動プーリとなると共に、第2プーリ22が駆動プーリとなり、トルクフローは第2プーリ22から第1プーリ21へ流れる。
従って、LOWモードとHIGHモードとの間の変速モードの切替は、ドライブ側及びドリブン側における副変速機構の切り替えに等しい。従って、以降では変速モードの切替のことを副変速機構の切替とも呼ぶことにする。
鎖線L1_Lは、LOWモードからHIGHモードへ変速モードが切り替わるときの入力軸回転数に係るLOWモード側の切替判断回転数である。鎖線L1_Lは切替レシオR0に交わらない直線、例えば切替レシオR0に平行な直線であり、所定の回転数だけLOWモード側に隔てて設けられている。詳細については図5及び図8を参照しながら後述するが、鎖線L1_Lと切替レシオR0とによって挟まれた第1領域A1_Lの内部に入力軸回転数がタイマ時間T0に渡り存在しているか否かに基づいてLOWモードからHIGHモードへの変速モード切替の許可に係る第1の切替判断が行われる。
他方、鎖線L1_Hは、鎖線L1_Lとは逆にHIGHモードからLOWモードへ変速モードが切り替わるときの入力軸回転数に係るHIGHモード側の切替判断回転数である。鎖線L1_Hも、L1_Lと同様に例えば切替レシオR0に平行な直線であり、L1_Lと異なり所定の回転数だけHIGHモード側に隔てて設けられている。詳細については図6及び図8を参照しながら後述するが、鎖線L1_Hと切替レシオR0とによって挟まれた第1領域A1_Hの内部に入力軸回転数がタイマ時間T0に渡り存在しているか否かに基づいてHIGHモードからLOWモードへの変速モード切替の許可に係る第1の切替判断が行われる。
鎖線L2_Lは、鎖線L1_Lと対を成す切替判断回転数である。すなわち、LOWモードからHIGHモードへ変速モードが切り替わるときの目標入力軸回転数に係るHIGHモード側の切替判断回転数である。なお、ここで言う「目標入力軸回転数」とは、電子制御ユニット10が現在の入力軸回転数を現在の車速とアクセル開度に基づいて変速する場合の変速目標回転数(推定値)のことである。鎖線L2_LもL1_Lと同様に例えば切替レシオR0に平行な直線であり、所定の回転数だけHIGHモード側に隔てて設けられている。
詳細については図5及び図8を参照ながら後述するが、鎖線L2_Lと切替レシオR0とによって挟まれた第2領域A2_Lを除くHIGHモード内に目標入力軸回転数がタイマ時間T0に渡り存在しているか否かに基づいてLOWモードからHIGHモードへの変速モード切替の許可に係る第2の切替判断が行われる。そして、第1の切替判断と第2の切替判断が共に成立する場合に限り、電子制御ユニット10はLOWモードからHIGHモードへの変速モードの切替を許可する。つまり、電子制御ユニット10は、現在の入力軸回転数が第1領域A1_Lに存在する場合は、原則LOWモードからHIGHモードへの変速モードの切替を禁止することとしている。しかし、第1の切替判断と第2の切替判断が共に成立する場合に限り、電子制御ユニット10はドライバーがLOWモードからHIGHモードへ移行する意思があるものと判断し、LOWモードからHIGHモードへの変速モードの切替を許可することとしている。
他方、鎖線L2_Hは、鎖線L1_Hと対を成す切替判断回転数である。すなわち、HIGHモードからLOWモードへ変速モードが切り替わるときの目標入力軸回転数に係るLOWモード側の切替判断回転数である。なお、ここで言う「目標入力軸回転数」とは、電子制御ユニット10が現在の入力軸回転数を現在の車速とアクセル開度に基づいて変速する場合の変速目標回転数(推定値)のことである。鎖線L2_HもL1_Lと同様に例えば切替レシオR0に平行な直線であり、所定の回転数だけLOWモード側に隔てて設けられている。
詳細については図6及び図8を参照ながら後述するが、鎖線L2_Hと切替レシオR0とによって挟まれた第2領域A2_Hを除くLOWモード内に目標入力軸回転数がタイマ時間T0に渡り存在しているか否かに基づいてHIGHモードからLOWモードへの変速モード切替の許可に係る第2の切替判断が行われる。そして、第1の切替判断と第2の切替判断が共に成立する場合に限り、電子制御ユニット10はHIGHモードからLOWモードへの変速モードの切替を許可する。つまり、電子制御ユニット10は、現在の入力軸回転数が第1領域A1_Hに存在する場合は、原則HIGHモードからLOWモードへの変速モードの切替を禁止することとしている。しかし、第1の切替判断と第2の切替判断が共に成立する場合に限り、電子制御ユニット10はドライバーがHIGHモードからLOWモードへ移行する意思があるものと判断し、HIGHモードからLOWモードへの変速モードの切替を許可することとしている。
図5は、本実施形態の電子制御ユニット10によるLOWモードからHIGHモードへの変速モードの切替に係る第1の切替判断及び第2の切替判断を示す説明図である。なお、図中の上方の曲線N1_Lは、車両1がLOWモードで走行しているときの現在の入力軸回転数(実測値)を示している。対する下方の曲線N2_Lは、電子制御ユニット10が現在の入力軸回転数を現在の車速とアクセル開度に基づいて変速する場合の目標入力軸回転数(推定値)を示している。
また、鎖線L1_Lは現在の入力軸回転数N1_Lについての切替判断回転数であり、鎖線L2_Lは目標入力軸回転数N2_Lについての切替判断回転数である。
現在の入力軸回転数N1_Lが第1領域A1_Lの内部に入ると、電子制御ユニット10はオフタイマ(タイマ時間T0)を作動させ、現在の入力軸回転数N1_Lがタイマ時間T0に渡り第1領域A1_Lの内部に存在するか否かを確認し始める。これによりLOWモードからHIGHモードへの変速モード切替の許可に係る第1の切替判断処理がスタートする。
同時に、電子制御ユニット10は現在の入力軸回転数N1_Lに対応する目標入力軸回転数N2_Lが、タイマ時間T0に渡り第2領域A2_Lを除くHIGHモード内に存在するか否かを確認し始める。これにより、LOWモードからHIGHモードへの変速モード切替の許可に係る第2の切替判断処理がスタートする。
電子制御ユニット10はオフタイマがゼロになるとき、第1の切替判断処理および第2の切替判断処理を終了する。そして電子制御ユニット10は現在の入力軸回転数N1_Lがタイマ時間T0に渡り第1領域A1_Lの内部に存在し、且つ目標入力軸回転数N2_Lがタイマ時間T0に渡り第2領域A2_Lを除くHIGHモード内に存在する場合に限り、ドライバーがLOWモードからHIGHモードへ移行する意思があるものと判断し、LOWモードからHIGHモードへの変速モードの切替(副変速機構の切替)を許可する。
なお、詳細については図7を参照しながら後述するが、変速モードがLOWモードからHIGHモードへ切り替わった後、電子制御ユニット10は一定時間、変速モードの切替(副変速機構の切替)を禁止する。
図6は、本実施形態の電子制御ユニット10によるHIGHモードからLOWモードへの変速モードの切替に係る第1の切替判断及び第2の切替判断を示す説明図である。なお、図中の下方の曲線N1_Hは、車両1がHIGHモードで走行しているときの現在の入力軸回転数(実測値)を示している。対する上方の曲線N2_Hは、電子制御ユニット10が現在の入力軸回転数N1_Hを現在の車速とアクセル開度に基づいて変速する場合の目標入力軸回転数(推定値)を示している。
また、鎖線L1_Hは現在の入力軸回転数N1_Hについての切替判断回転数であり、鎖線L2_Hは目標入力軸回転数N2_Hについての切替判断回転数である。
現在の入力軸回転数N1_Hが第1領域A1_Hの内部に入ると、電子制御ユニット10はオフタイマ(タイマ時間T0)を作動させ、現在の入力軸回転数N1_Hがタイマ時間T0に渡り第1領域A1_Hの内部に存在するか否かを確認し始める。これによりHIGHモードからLOWモードへの変速モード切替の許可に係る第1の切替判断処理がスタートする。
同時に、電子制御ユニット10は現在の入力軸回転数N1_Hに対応する目標入力軸回転数N2_Hが、タイマ時間T0に渡り第2領域A2_Hを除くLOWモード内に存在するか否かを確認し始める。これにより、HIGHモードからLOWモードへの変速モード切替の許可に係る第2の切替判断処理がスタートする。
オフタイマがゼロになるとき、電子制御ユニット10は第1の切替判断処理および第2の切替判断処理を終了する。そして電子制御ユニット10は現在の入力軸回転数N1_Hがタイマ時間T0に渡り第1領域A1_Hの内部に存在し、且つ目標入力軸回転数N2_Hがタイマ時間T0に渡り第2領域A2_Hを除くLOWモード内に存在する場合に限り、ドライバーがHIGHモードからLOWモードへ移行する意思があるものと判断し、HIGHモードからLOWモードへの変速モードの切替(副変速機構の切替)を許可する。
なお、詳細については図7を参照しながら後述するが、変速モードがHIGHモードからLOWモードへ切り替わった後、電子制御ユニット10は一定時間、変速モードの切替(副変速機構の切替)を禁止する。
図7は、変速モード切替後の副変速機構の切替禁止を示すタイムチャートである。
上記図5又は図6における第1の切替判断処理および第2の切替判断処理の結果、第1の切替判断及び第2の切替判断が共に成立する場合に限り、副変速機構の切替(変速モードの切替)が開始される。その結果、副変速機構の切替フラグが立ち上がる。
そして、副変速機構の切替が終了したとき、副変速機構の切替フラグが立ち下がる。それと同時に、電子制御ユニット10はオフタイマ(タイマ時間T1)をセットする。そしてオフタイマがスタートするのと同時に副変速機構の切替禁止フラグが立ち上げる。これにより、一定時間T1の間、変速モードの切替(副変速機構の切替)が禁止される。
そして、オフタイマがゼロになるのと同時に副変速機構の切替禁止フラグが立ち下がる。オフタイマがゼロになった後は、電子制御ユニット10は通常制御に復帰する。これにより変速モードの切替(副変速機構の切替)が可能となる。
以上の副変速機構の切替(変速モードの切替)に係る電子制御ユニット10の処理をまとめたものを以下に記す。
図8は、本実施形態の電子制御ユニットによる副変速機構の切替制御を示すフロー図である。
ステップS1では、副変速機構の切替が実施中か否かを判断する。すなわち、副変速機構切替フラグが”1”か否かを判断する。副変速機構の切替が実施中の場合(YES)は、ステップS11へ進む。一方、副変速機構の切替が未だ実施されていない場合(NO)は、ステップS2へ進む。
ステップS2では、副変速機構の切替禁止タイマが作動中か否かを判断する。すなわち、副変速機構切替禁止フラグが”1”か否かを判断する。副変速機構の切替禁止タイマが作動中の場合(YES)は、ステップS9へ進む。一方、副変速機構の切替禁止タイマが作動していない場合(NO)は、ステップS3へ進む。
ステップS3では、副変速機構の切替禁止タイマが作動していないため、副変速機構切替禁止フラグをゼロに設定する。
ステップS4では、現在の入力軸回転数に係る第1の切替判断処理を実行する。図5にて上述した通り、LOWモードからHIGHモードへ変速モードが切り替わる場合、現在の入力軸回転数N1_Lが第1領域A1_Lの内部に入ったときにオフタイマ(タイマ時間T0)が作動する。電子制御ユニット10は、タイマ時間がT0からゼロに減算されるまでの間、現在の入力軸回転数N1_Lがタイマ時間T0に渡り第1領域A1_Lの内部に存在しているか否かを確認する。
一方、HIGHモードからLOWモードへ変速モードが切り替わる場合は、図6にて上述した通り、現在の入力軸回転数N1_Hが第1領域A1_Hの内部に入ったときにオフタイマ(タイマ時間T0)が作動する。電子制御ユニット10は、タイマ時間がT0からゼロに減算されるまでの間、現在の入力軸回転数N1_Hがタイマ時間T0に渡り第1領域A1_Hの内部に存在しているか否かを確認する。
ステップS5では、目標入力軸回転数に係る第2の切替判断処理を実行する。図5にて上述した通り、LOWモードからHIGHモードへ変速モードが切り替わる場合、現在の入力軸回転数N1_Lについての目標入力軸回転数N2_Lがタイマ時間T0に渡り第2領域A2_Lを除くHIGHモード内に存在するか否かを電子制御ユニット10は確認する。
一方、HIGHモードからLOWモードへ変速モードが切り替わる場合は、図6にて上述した通り、現在の入力軸回転数N1_Hについての目標入力軸回転数N2_Hがタイマ時間T0に渡り第2領域A2_Hを除くLOWモード内に存在するか否かを電子制御ユニット10は確認する。
ステップS6では、第1の切替判断および第2の切替判断が共に成立しているか否かを確認する。すなわち、LOWモードからHIGHモードへ変速モードが切り替わる場合、第1の切替判断が成立する条件は、オフタイマがT0からゼロに減算されるまでの間、現在の入力軸回転数N1_Lが第1領域A1_Lの内部に存在することである。第2の切替判断が成立する条件は、オフタイマがT0からゼロに減算されるまでの間、その入力軸回転数N1_Lに対応する目標入力軸回転数N2_Lが第2領域A2_Lを除くHIGHモード内に存在することである。第1の切替判断および第2の切替判断が共に成立する場合(YES)は、ステップS7へ進む。一方、共に成立しない場合(NO)はステップS10へ進む。
一方、HIGHモードからLOWモードへ変速モードが切り替わる場合、第1の切替判断が成立する条件は、オフタイマがT0からゼロに減算されるまでの間、現在の入力軸回転数N1_Hが第1領域A1_Hの内部に存在することである。第2の切替判断が成立する条件は、オフタイマがT0からゼロに減算されるまでの間、その入力軸回転数N1_Hに対応する目標入力軸回転数が第2領域A2_Hを除くLOWモード内に存在することである。第1の切替判断および第2の切替判断が共に成立する場合(YES)は、ステップS7へ進む。一方、共に成立しない場合(NO)はステップS10へ進む。
ステップS7では、副変速機構の切替が開始されるため、副変速機構の切替実施フラグを”1”に設定する。
ステップS8では、副変速機構の切替を実施する。すなわち、電子制御ユニット10は油圧回路4を駆動してドライブ側クラッチ61,62及びドリブン側クラッチ63,64をそれぞれ繋ぎ替える。すなわち、LOWモードからHIGHモードへ変速モードが切り替わる場合は、ドライブ側の第1クラッチ61が締結状態から解放状態になると共に第2クラッチ62が解放状態から締結状態になる。また、ドリブン側の第3クラッチ63が締結状態から解放状態になると共に第4クラッチ64が解放状態から締結状態になる。その結果、ドライブ側の副変速機構は第1副変速機構51から第2副変速機構52に切り替わる。また、ドリブン側の副変速機構は第4副変速機構54から第5副変速機構55に切り替わる。
逆に、HIGHモードからLOWモードへ変速モードが切り替わる場合は、ドライブ側の第1クラッチ61が解放状態から締結状態になると共に第2クラッチ62が締結状態から解放状態になる。また、ドリブン側の第3クラッチ63が解放状態から締結状態になると共に第4クラッチ64が締結状態から解放状態になる。その結果、ドライブ側の副変速機構は第2副変速機構52から第1副変速機構51に切り替わる。ドリブン側の副変速機構は第5副変速機構55から第4副変速機構54に切り替わる。
ステップS9では、電子制御ユニット10は副変速機構切替禁止タイマ(図7)を減算させる。
ステップS10では、電子制御ユニット10は副変速機構の切替禁止を継続する(副変速機構の切替を実施しない)。
ステップS11では、副変速機構の切替が終了しているか否かを判断する。副変速機構の切替が終了している場合(YES)は、ステップS13へ進む。一方、副変速機構の切替が未だ終了していない場合(NO)は、ステップS12へ進む。
ステップS12では、電子制御ユニット10は副変速機構の切替を継続する。
ステップS13では、副変速機構の切替が終了しているため、副変速機構切替フラグをゼロに設定する。
ステップS14では、副変速機構の切替後一定時間だけ副変速機構の切替を禁止するため、副変速機構切替禁止タイマを一定時間T1(図7)だけセットする。
ステップS15では、副変速機構切替禁止フラグを”1”に設定する。
ステップS16では、副変速機構の切替禁止を開始する。
以上の通り、本実施形態に係る変速機3の副変速機構の切替制御によれば、現在の入力軸回転数N1_L,N1_Hについて切替判断回転数L1_L,L1_Hが設けられている。そして現在の入力軸回転数N1_L,N1_Hが、切替判断回転数と切替レシオR0とによって挟まれた第1領域A1_L,A1_Hの内部に存在する場合は、原則LOWモードからHIGHモードへ或いはHIGHモードからLOWモードへの変速モードの切替を禁止することとしている。
しかし、現在の入力軸回転数N1_L,N1_Hが一定タイマ時間T0に渡り第1領域A1_L,A1_Hの内部に存在する場合(第1の切替判断が成立する場合)であって、その入力軸回転数を現在の車速とアクセル開度に基づいて変速する場合の目標入力軸回転数N2_L,N2_Hが、その目標入力軸回転数に係る切替判断回転数L2_L,L2_Hと切替レシオR0とよによって挟まれた第2領域A2_L,A2_Hを除く変速モード内に一定タイマ時間T0に渡り存在する場合(第2の切替判断が成立する場合)に限り、電子制御ユニット10はドライバーがLOWモードからHIGHモードへ或いはHIGHモードからLOWモードへ移行する意思があるものと判断し、変速モードの切替を許可することとしている。また、一旦変速モードが切り替わった後は一定タイマ時間T1の間、副変速機構の切替が禁止されるように構成されている。
つまり、電子制御ユニット10は、上記第1の切替判断(現在の入力軸回転数N1_L,N1_Hについて切替判断回転数L1_L,L1_Hとタイマ時間T0)と第2の切替判断(目標入力軸回転数N2_L,N2_Hについての切替判断回転数L2_L,L2_Hとタイマ時間T0)によって、ドライバーの変速モードに対する切替意思を確認するようにしている。これにより、ドライバーの変速モードの切替意思に反する切替ハンチング等の不要な変速モード切替の発生を好適に抑制することが可能となる。
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態の一例を説明してきたが、本発明の実施形態は上記実施例だけに限定されるものでない。すなわち、本発明に係る技術的特徴の要旨を変更しない範囲において種々の技術的変更・修正を加えることが可能である。
例えば、現在の入力軸回転数N1_L,N1_Hに係る切替判断回転数L1_L,L1_Hと、現在の入力軸回転数に対応する目標入力軸回転数N2_L,N2_Hに係る切替判断回転数L2_L,L2_Hとについては、切替レシオROに対して平行な直線だけに限定されない。切替レシオR0に対し交わらない直線あるいは曲線であっても良い。
また、第1の切替判断および第2の切替判断に係るタイマ時間T0については、LOWモードからHIGHモードへ変速モードが切り替わる場合と、HIGHモードからLOWモードへ変速モードが切り替わる場合とによって異なるようにしても良い。
また、変速モード切替後の副変速機構の切替禁止(変速モード切替禁止)に係るタイマ時間T1については、LOWモードからHIGHモードへ変速モードが切り替わった場合と、HIGHモードからLOWモードへ変速モードが切り替わった場合とによって異なるようにしても良い。