図1は、本発明の一実施例である車両用変速機78を搭載した車両10の骨子図である。
車両10は、走行用駆動力源としてのエンジン12およびトランスアクスル(T/A)としての動力伝達装置14を備える。
動力伝達装置14は、エンジン12から出力されるトルク(駆動力)がトルクコンバータ16を経由して入力軸26に入力される。動力伝達装置14は、入力軸26に入力されたトルクが前後進切換装置18等を経由して出力軸28に伝達される第1動力伝達経路と、入力軸26に入力されたトルクが無段変速機部60を経由して出力軸28に伝達される第2動力伝達経路と、を並列に備えており、車両10の走行状態に応じて動力伝達経路が切り替えられるように構成されている。なお、第1動力伝達経路上にある前後進切換装置18や後述のギヤ機構22、カウンタ軸38、第1ギヤ50、噛合クラッチD1、第2ギヤ52、アイドラギヤ42、および入力ギヤ54等が、本発明における「有段変速機部20」に相当する。第2動力伝達経路上には無段変速機部60があり、この有段変速機部20とベルト式の無段変速機部60とが並列に配設されて車両用変速機78が構成される。出力軸28を介して出力されるエンジン12からの動力は、出力軸28およびカウンタ軸44に各々相対回転不能に設けられて噛み合う出力ギヤ24およびドライブギヤ46、カウンタ軸44および差動歯車装置74に各々相対回転不能に設けられて噛み合うドリブンギヤ48およびデフリングギヤ72、および一対の車軸70を介して一対の駆動輪76に伝えられる。
エンジン12は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関にて構成されている。トルクコンバータ16は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車16p、およびトルクコンバータ16の出力側部材に相当する入力軸26を介して前後進切換装置18に連結されたタービン翼車16tを備えており、流体を介して動力伝達を行う。ポンプ翼車16pおよびタービン翼車16tの間にはロックアップクラッチ56が設けられており、ロックアップクラッチ56が完全係合させられることでポンプ翼車16pおよびタービン翼車16tは一体回転させられる。
前後進切換装置18は、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、およびダブルピニオン型の遊星歯車装置30を主体として構成されており、キャリア30cが入力軸26および無段変速機部60の入力側回転軸32に一体的に連結され、リングギヤ30rが後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング58に選択的に連結され、サンギヤ30sがギヤ機構22を構成する小径ギヤ36に連結されている。サンギヤ30sとキャリア30cとが、前進用クラッチC1を介して選択的に連結される。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断接装置に相当するもので、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
ギヤ機構22は、小径ギヤ36とカウンタ軸38に相対回転不能に設けられている大径ギヤ40とを含んで構成されている。また、アイドラギヤ42が、カウンタ軸38と同じ回転中心線を中心にしてカウンタ軸38に対して相対回転可能に設けられている。カウンタ軸38とアイドラギヤ42との間には、これらを選択的に断接する噛合クラッチD1が設けられている。噛合クラッチD1は、カウンタ軸38に形成されている第1ギヤ50と、アイドラギヤ42に形成されている第2ギヤ52と、これら第1ギヤ50および第2ギヤ52と嵌合可能(係合可能、噛合可能)な図示されていないスプライン歯が形成されている図示されていないハブスリーブと、を含んで構成されており、ハブスリーブがこれら第1ギヤ50および第2ギヤ52と嵌合することで、カウンタ軸38とアイドラギヤ42とが接続される。また、噛合クラッチD1は、第1ギヤ50と第2ギヤ52とを嵌合する際に回転を同期させる同期機構としてのシンクロメッシュ機構S1をさらに備えている。
アイドラギヤ42は、アイドラギヤ42よりも大径の入力ギヤ54と噛み合っている。入力ギヤ54は、無段変速機部60の後述するセカンダリプーリ64の回転中心線と同じ回転中心線に配置されている出力軸28に対して相対回転不能に設けられている。出力軸28は、回転可能に配置されており、入力ギヤ54および出力ギヤ24が相対回転不能に設けられている。これにより、エンジン12のトルクが入力軸26からギヤ機構22を経由して出力軸28に伝達される第1動力伝達経路上には、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、および噛合クラッチD1が介挿されている。
無段変速機部60と出力軸28との間には、これらの間を選択的に断接するベルト走行用クラッチC2が介挿されている。ベルト走行用クラッチC2が係合されると、エンジン12のトルクが入力軸26および無段変速機部60を経由して出力軸28に伝達される。ベルト走行用クラッチC2が解放されると、無段変速機部60から出力軸28にトルクが伝達されない。
無段変速機部60は、入力軸26に連結された入力側回転軸32と出力軸28との間の動力伝達経路上に設けられている。無段変速機部60は、入力側回転軸32に設けられた有効径が可変の可変プーリであるプライマリプーリ62と、入力側回転軸32に並行な出力側回転軸34に設けられた有効径が可変の可変プーリであるセカンダリプーリ64と、その一対のプライマリプーリ62およびセカンダリプーリ64の間に巻き掛けられた伝動ベルト66と、を備え、一対のプライマリプーリ62およびセカンダリプーリ64と伝動ベルト66との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
プライマリプーリ62は、入力側回転軸32に固定された固定シーブ62aと、入力側回転軸32に対してその回転中心線まわりに相対回転不能かつその回転中心線方向に移動可能に設けられた可動シーブ62bと、固定シーブ62aと可動シーブ62bとの間のV溝幅を変更する為に可動シーブ62bを移動させるための推力を発生させる入力側油圧アクチュエータ62cと、を備える。セカンダリプーリ64は、出力側回転軸34に固定された固定シーブ64aと、出力側回転軸34に対してその回転中心線に相対回転不能かつその回転中心線方向に移動可能に設けられた可動シーブ64bと、固定シーブ64aと可動シーブ64bとの間のV溝幅を変更する為に可動シーブ64bを移動させるための推力を発生させる出力側油圧アクチュエータ64cと、を備える。
一対のプライマリプーリ62、セカンダリプーリ64のV溝幅が変化して伝動ベルト66の掛かり径、すなわち有効径が変更されることで、無段変速機部60の変速比γ2(=入力側回転軸32の回転速度ωin(rpm)/出力側回転軸34の回転速度ωout(rpm))が連続的に変更させられる。無段変速機部60の変速比γ2は、変更範囲である最小変速比γminと最大変速比γmaxとの間の任意の値とされる。なおωは、角速度(rad/sec)ではなく、回転速度(rpm)を表す記号として用いており、これ以降に用いる記号についても同様である。例えば、プライマリプーリ62のV溝幅が狭くされると、変速比γ2が小さくされて無段変速機部60がアップシフトされる。プライマリプーリ62のV溝幅が広くされると、変速比γ2が大きくされて無段変速機部60がダウンシフトされる。
図2は、図1の動力伝達装置14の走行パターンの切り替りを説明するための図である。図2において、C1が前進用クラッチC1の作動状態に対応し、C2がベルト走行用クラッチC2の作動状態に対応し、B1が後進用ブレーキB1の作動状態に対応し、D1が噛合クラッチD1の作動状態に対応し、「○」が係合、すなわち接続を示し、「×」が解放、すなわち遮断を示している。なお、噛合クラッチD1は、シンクロメッシュ機構S1を備えており、噛合クラッチD1が係合する際にはシンクロメッシュ機構S1が作動する。
まず、ギヤ機構22を経由してエンジン12のトルクが出力軸28に伝達されるギヤ走行、すなわち有段変速機部20によりトルクが伝達される走行について説明する。ギヤ走行では、前進用クラッチC1および噛合クラッチD1が係合される一方、ベルト走行用クラッチC2および後進用ブレーキB1が解放される。
前進用クラッチC1が係合されることで、遊星歯車装置30のキャリア30cとサンギヤ30sとが一体回転させられるので、小径ギヤ36が入力軸26と同じ回転速度で回転させられる。小径ギヤ36は、カウンタ軸38に設けられている大径ギヤ40と噛み合わされているので、カウンタ軸38も同様に回転させられる。また、噛合クラッチD1が係合されているので、カウンタ軸38とアイドラギヤ42とが接続され、アイドラギヤ42が入力ギヤ54と噛み合わされているので、入力ギヤ54と一体的に設けられている出力軸28が回転させられる。このように、前進用クラッチC1および噛合クラッチD1が係合されると、エンジン12のトルクが、トルクコンバータ16、入力軸26、および有段変速機部20を経由して出力軸28に伝達される。
次いで、無段変速機部60を経由してエンジン12のトルクが出力軸28に伝達されるベルト走行(高車速)について説明する。ベルト走行(高車速)では、ベルト走行用クラッチC2が接続される一方、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、および噛合クラッチD1が遮断される。
ベルト走行用クラッチC2が接続されることで、セカンダリプーリ64と出力軸28とが接続されるので、セカンダリプーリ64と出力軸28とが一体回転させられる。このとき、噛合クラッチD1が解放されるのは、ベルト走行中におけるギヤ機構22等の引き摺りをなくすとともに、高車速においてギヤ機構22等が高回転化するのを防止するためである。このように、ベルト走行用クラッチC2が係合されると、エンジン12のトルクが、トルクコンバータ16、入力軸26、および無段変速機部60を経由して出力軸28に伝達される。
ギヤ走行は、低車速領域において選択される。有段変速機部20の変速比γ1(変速比γ1は、第1動力伝達経路上にある歯車の歯数によって決定される)は、無段変速機部60の最大変速比γmaxよりも大きな値に設定されている。すなわち、有段変速機部20の変速比γ1は、無段変速機部60では設定されていない値に設定されている。例えば、車速Vが上昇するなどしてベルト走行に切り替える決定がなされると、ベルト走行に切り替えられる。ここで、ギヤ走行からベルト走行(高車速)、ないしはベルト走行(高車速)からギヤ走行へ切り替えられる際には、ベルト走行(中車速)を過渡的に経由して切り替えられる。
例えば、ベルト走行(高車速)からギヤ走行に切り替えられる場合、ベルト走行用クラッチC2が係合された状態から、ギヤ走行への切替準備として噛合クラッチD1が係合される状態に過渡的に切り替えられる。このとき、ギヤ機構22を経由して遊星歯車装置30のサンギヤ30sにも回転が伝達された状態となり、この状態から前進用クラッチC1およびベルト走行用クラッチC2の掛け替え、すなわち前進用クラッチC1の係合、ベルト走行用クラッチC2の遮断が実行されることで、動力伝達経路が無段変速機部60から有段変速機部20に切り替えられる。このとき、車両用変速機78においては実質的にダウンシフトさせられる。
例えば、ギヤ走行からベルト走行(高車速)に切り替えられる場合、ギヤ走行に対応する前進用クラッチC1および噛合クラッチD1が係合された状態から、ベルト走行用クラッチC2および噛合クラッチD1が係合された状態に過渡的に切り替えられる。すなわち、前進用クラッチC1およびベルト走行用クラッチC2の掛け替えが実行される。このとき、動力伝達経路が有段変速機部20から無段変速機部60に切り替えられ、車両用変速機78においては実質的にアップシフトさせられる。そして、動力力伝達経路が切り替えられた後、不要な引き摺りやギヤ機構22等の高回転化を防止するために噛合クラッチD1が解放される。
図3は、図1の車両用変速機78において、無段変速機部60から有段変速機部20へ動力伝達経路の切替が行われるタイミングチャートの一例である。
時刻t0において、ドライバによる操作、例えばアクセルペダルの戻し操作に基づいて動力伝達経路の無段変速機部60から有段変速機部20への切替を行うことが決定されると、無段変速機部60の変速比γ2は、有段変速機部20の変速比γ1に近づけられるべく、最小変速比γmin側から最大変速比γmax側に戻される。すなわち、動力伝達経路の切替に伴う変速ショックを低減するために無段変速機部60の変速比γ2が上昇させられる。図3の一点鎖線で示すように、通常、時刻t0から所定の判定時間Tjdgが経過した目標タイミングt−tagよりも早い時刻t1において、無段変速機部60の変速比γ2は判定変速比γjdg以上とされる。なお、判定変速比γjdgは、無段変速機部60の変速比γ2が判定変速比γjdg以上であれば、無段変速機部60から有段変速機部20への変速が行われても変速ショックが比較的小さくなるような値に予め実験的に或いは設計的に設定される。つまり、動力伝達経路の切替が許可される許可変速比範囲γpmtとは、変速ショックが小さくなるように予め設定される無段変速機60の変速比の変更範囲のうちの有段変速機部20の変速比γ1側の所定の範囲であって、本実施例においては無段変速機部60の変速比γ2が判定変速比γjdg以上且つγmax以下の範囲である。また、所定の判定時間Tjdgは、後述するように無段変速機部60から有段変速機部20へ動力伝達経路の切替の応答性が高くてもその動力伝達経路の切替がドライバへ与える違和感が比較的低くなるような時間に予め実験的に或いは設計的に設定される。これにより、目標タイミングt−tagにおいて動力伝達経路が切り替えられても、その変速ショックはドライバの意図するタイミングからそれほど外れておらず、ドライバは違和感をあまり受けない。
ところで、ベルト式の無段変速機部60においては、入力側油圧アクチュエータ62cや出力側油圧アクチュエータ64cに必要な作動油の流量が確保されず、目標とする巻き掛け位置まで伝動ベルト66が移動しない、所謂ベルト戻り遅れが発生することがある。例えば、図3の実線で示すように、無段変速機部60の変速比γ2が判定変速比γjdgになるのが時刻t2であり、無段変速機部60の変速比γ2が切替可能となる判定変速比γjdg以上になるまでの時間である伝動ベルト66の戻り時間Trtnは時刻t0から時刻t2までかかっている。このとき、無段変速機部60の変速比γ2が判定変速比γjdgになるのに、目標タイミングt−tagに対して遅延時間Tdlyが発生している。このような場合、時刻t2において動力伝達経路が切り替えられると、無段変速機部60の変速比γ2と有段変速機部20の変速比γ1との不整合に基づく変速ショックは比較的小さくされているが、この動力伝達経路が切り替えられる時刻t2は、ドライバによって操作がなされた時刻t0からの経過時間が比較的短い目標タイミングt−tagに対して遅延時間Tdlyが経過している。そのため、上記の変速比γ1、γ2の不整合に基づく変速ショックは比較的小さいとしても、動力伝達経路の切替に伴う変速ショックがドライバの意図しないタイミングで発生し、ドライバが違和感を受けてしまうおそれがある。そこで、後述するように、伝動ベルト66の戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdgを超過している場合には、戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdg以下の場合よりも動力伝達経路の切替が緩やかに、すなわち低い応答性で切替が実行されることで、ドライバに与える違和感が低減される。なお、前述のように、有段変速機部20の変速比γ1は無段変速機部60の最大変速比γmaxよりも大きな値に設定されているため、無段変速機部60の変速比γ2が許可変速比範囲γpmt内であってもある程度の変速ショックは発生し、切替の応答性の高低によって変速ショックの大きさは変わる。
図4は、車両10における各種制御の為の電子制御装置80の制御機能及び制御系統の要部を例示する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、Electronic control unitとも呼ばれ、CPU、RAM、ROM、および入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、車両10の各種装置を制御する。なお、電子制御装置80は、本発明における「制御装置」に相当する。
電子制御装置80には、車両10に設けられた車速センサ90、プライマリプーリ回転速度センサ92、セカンダリプーリ回転速度センサ94、およびアクセル開度センサ96によってそれぞれ検出された、車速V(km/h)、入力側回転軸32の回転速度ωin(rpm)、出力側回転軸34の回転速度ωout(rpm)、およびアクセルペダルの踏込操作量に対応したアクセル開度(%)の各種信号が入力される。
電子制御装置80からは、エンジン12の出力制御のためのエンジン出力制御信号Se、無段変速機部60の変速に関する油圧制御のための変速用油圧制御信号Scvt、動力伝達装置14の走行モードの切替えに関連する前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、ベルト走行用クラッチC2、および噛合クラッチD1を制御するための走行モード切替用油圧制御信号Sswt、トルクコンバータ16の油圧制御のためのトルクコンバータ用油圧制御信号Slu等が、それぞれ出力される。例えば、走行モード切替用油圧制御信号Sswtとして、前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、ベルト走行用クラッチC2、噛合クラッチD1の各々の油圧アクチュエータへ供給される各油圧を調圧する各ソレノイド弁を駆動するための指令信号(油圧指令)が油圧制御回路100へ出力される。
電子制御装置80は、変速比判定部80a、戻り時間判定部80b、および応答性設定部80cを備える。
変速比判定部80aは、ドライバによって操作がなされた時刻t0から所定の判定時間Tjdgが経過した目標タイミングt−tagになると、例えば無段変速機部60の入力側回転軸32の回転速度ωinおよび出力側回転軸34の回転速度ωoutに基づいて無段変速機部60の変速比γ2(=ωin/ωout)が許可変速比範囲γpmt内に戻ったか否か、すなわち無段変速機部60の変速比γ2が判定変速比γjdg以上となったか否かを判定する。変速比γ2が判定変速比γjdg以上であると判定された場合、動力伝達経路の無段変速機部60から有段変速機部20への切替の制限が解除されるように、変速比判定部80aは指令信号を戻り時間判定部80bに出力する。変速比γ2が判定変速比γjdg未満であると判定された場合、変速比判定部80aは変速比γ2が判定変速比γjdg以上となるまで判定を繰り返し、判定変速比γjdg以上となった後に、変速比判定部80aは指令信号を戻り時間判定部80bに出力する。
戻り時間判定部80bは、戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdgよりも長いか否かを判定する。例えば、時刻t0から所定の判定時間Tjdgが経過した目標タイミングt−tagにおいて、変速比判定部80aが無段変速機部60の変速比γ2が判定変速比γjdg以上であると判定した場合には、戻り時間Trtnは所定の判定時間Tjdg以下であると判定され、変速比判定部80aが無段変速機部60の変速比γ2が判定変速比γjdg未満であると判定した場合には、戻り時間Trtnは所定の判定時間Tjdgを超過していると判定される。そして戻り時間判定部80bは、指令信号を応答性設定部80cに出力する。
応答性設定部80cは、戻り時間判定部80bから指令信号が入力されると、戻り時間判定部80bの判定結果に基づいて無段変速機部60から有段変速機部20への動力伝達経路の切替の応答性を設定する。具体的には、戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdg以下と判定された場合には、応答性設定部80cは動力伝達経路の切替の応答性を高く設定する。戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdgを超過したと判定された場合には、応答性設定部80cは動力伝達経路の切替の応答性を低く設定する。つまり、戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdgを超過したと判定された場合には、戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdg以下と判定された場合に比べて、動力伝達経路の切替の応答性は低く設定される。動力伝達経路の切替の応答性が高く設定された場合、前進用クラッチC1およびベルト走行用クラッチC2の掛け替え、すなわち前進用クラッチC1の係合、ベルト走行用クラッチC2の遮断の実行(係合開始から係合完了までの時間や遮断の開始から遮断の完了までの時間)は、比較的短い時間で行われる。一方、動力伝達経路の切替の応答性が低く設定された場合、前進用クラッチC1およびベルト走行用クラッチC2の掛け替えは、比較的長い時間で行われる。すなわち、切替の応答性が高く設定された場合は、前述のクラッチの掛け替えは速やかに行われ、切替の応答性が低く設定された場合は、前述のクラッチの掛け替えは緩やかに行われる。そして、動力伝達経路の切替に関して設定された応答性に応じて、電子制御装置80は走行モード切替用油圧制御信号Sswtを油圧制御回路100へ出力する。
図5は、図4の電子制御装置80の制御作動の要部を説明するフローチャートの一例である。
図5のフローチャートは、例えばドライバの操作によってアクセル開度θaccが小さくなることなどにより動力伝達経路が無段変速機部60から有段変速機部20への切替を行うとの電子制御装置80による決定によりスタートされる。
まず、変速比判定部80aに対応するステップS10において、無段変速機部60の変速比γ2に基づいて動力伝達経路の切替、すなわち無段変速機部60から有段変速機部20への変速の制限を解除するか否かが判定される。具体的には、無段変速機部60の変速比γ2が許可変速比範囲γpmt内に戻ったと判定、すなわち無段変速機部60の変速比γ2が判定変速比γjdg以上になったと判定されると、動力伝達経路の切替の制限が解除される。ステップS10の判定が肯定される場合はステップS20が実行される。ステップS10の判定が否定される場合は、再度ステップS10が実行される。
戻り時間判定部80bに対応するステップS20において、戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdgを超過しているか否かが判定される。ステップS20の判定が肯定される場合はステップS30が実行される。ステップS20の判定が否定される場合はステップS40が実行される。
応答性設定部80cに対応するステップS30において、動力伝達経路の切替の応答性が低く設定される。これにより、動力伝達経路の切替は比較的緩やかに行われ、すなわち前進用クラッチC1およびベルト走行用クラッチC2の掛け替えは比較的長い時間で行われ、無段変速機部60の変速比γ2から有段変速機部20の変速比γ1への変速が行われる。そして終了となる。
応答性設定部80cに対応するステップS40において、動力伝達経路の切替の応答性が高く設定される。これにより、動力伝達経路の切替は比較的速やかに行われ、すなわち前進用クラッチC1およびベルト走行用クラッチC2の掛け替えは比較的短い時間で行われ、無段変速機部60の変速比γ2から有段変速機部20の変速比γ1への変速が行われる。そして終了となる。
本実施例の車両10の電子制御装置80によれば、有段変速機部20とベルト式の無段変速機部60とが並列に配設された車両用変速機78において、無段変速機部60から有段変速機部20へ動力伝達経路の切替がされるとき、無段変速機部60の変速比γ2が切替可能となる許可変速比範囲γpmt内に戻るまでの戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdgを超過する場合は、戻り時間Trtnが所定の判定時間Tjdg以下の場合よりも切替の応答性が低くなるように制御される。これにより、無段変速機部60から有段変速機部20への動力伝達経路の切替が遅い場合は、ドライバの意図と異なるタイミングではあるが動力伝達経路の切替が緩やかに行われるため、切替に伴う変速ショックが低減されてドライバが受ける違和感が低減される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
前述の実施例では、所定の判定時間Tjdgは1つであったが、これに限らない。例えば、所定の判定時間Tjdgを複数設定し、戻り時間Trtnが長いほど無段変速機部60から有段変速機部20への動力伝達経路の切替の応答性が順次低くなるように制御されても良い。
前述の実施例では、無段変速機部60の変速比γ2が許可変速比範囲γpmt内に戻ったか否かは、プライマリプーリ回転速度センサ92およびセカンダリプーリ回転速度センサ94によってそれぞれ検出された入力側回転軸32の回転速度ωinおよび出力側回転軸34の回転速度ωoutに基づいて判定されたが、これに限らない。例えば、プライマリプーリ62の可動シーブ62bの回転中心線方向の位置を図示しないセンサで検出し、可動シーブ62bの回転中心線方向の位置が許可変速比範囲γpmtに対応する位置まで戻ったか否かに基づいて判定されても良い。
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。