JP6269361B2 - シュウ酸ジフェニルの製造方法、炭酸ジフェニルの製造方法およびポリカーボネートの製造方法 - Google Patents

シュウ酸ジフェニルの製造方法、炭酸ジフェニルの製造方法およびポリカーボネートの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、シュウ酸ジアルキルとフェノールを触媒存在下で反応させることによるシュウ酸ジフェニルの製造方法に関する発明である。詳しくは、このシュウ酸ジフェニルの製造に好適な触媒を用いることにより、高純度なシュウ酸ジフェニルを効率良く、安定して連続的に製造できる方法を提供することについての発明である。また、このシュウ酸ジフェニルの製造方法により製造されたシュウ酸ジフェニルから炭酸ジフェニルを製造し、この炭酸ジフェニルから更にポリカーボネートを製造する方法についての発明である。
シュウ酸ジフェニル、シュウ酸アルキルフェニルなどのシュウ酸アリールエステルを製造する方法としては、シュウ酸と芳香族ヒドロキシ化合物をエステル化反応させる方法、シュウ酸ジアルキルと炭酸ジアリールをエステル交換させる方法、シュウ酸ジアルキルと低級脂肪族カルボン酸アリールとをエステル交換させる方法、シュウ酸ジアルキルと芳香族ヒドロキシ化合物をエステル交換させる方法などが知られている。
シュウ酸ジアルキルとフェノールのエステル交換反応に用いる触媒としては、ジフェノキシ鉛、トリフェノキシ鉄、ジフェノキシ亜鉛、Sn(OPh)、BuSn(OPh)、EtSn(OPh)、Al(OPh)、Ti(OPh)、VO(OPh)などの金属フェノキシドが有用であることが知られている(特許文献1参照)。なお、金属アルコキシドは、ヒドロキシ化合物とエステル交換反応することから(特許文献2〜4参照)、これらの触媒は、原料フェノールとの間でエステル交換反応が起きても異なる芳香族ヒドロキシ基を有する金属アリールオキシドになることが無いように、無置換フェニル基を有する金属フェノキシドを用いている。
特開平10−59905号公報 国際公開WO2011090138号公報 J.Am.Chem.Soc.108(1986)982 特開2011−42593号公報
しかしながら、上記の方法は、必ずしも効率が良いとは言えず、高純度なシュウ酸ジフェニルを、更に効率的且つ安定的に製造できる方法を提供することが求められていた。
本発明は、シュウ酸ジフェニルを分解させ難い触媒を用いることにより、高純度なシュウ酸ジフェニルを効率良く、安定して連続的に製造できる方法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。そして、シュウ酸ジフェニルの高温状態での安定性について検討した結果、Ti(OPh)共存下でシュウ酸ジフェニルが分解されてしまうこと、および、シュウ酸ジアルキルとフェノールを触媒存在下で反応させることによるシュウ酸ジフェニルの製造方法について、特定の金属アリールオキシドを触媒として用いることにより上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明の第1の要旨は、シュウ酸ジアルキルとフェノールを触媒存在下で反応させることを含むシュウ酸ジフェニルの製造方法であって、前記触媒として下記一般式(1)で示される化合物を用いることを特徴とするシュウ酸ジフェニルの製造方法に存する。
M(OAr) (1)
(式中、Mは、Al、Ti、V、Fe、Zn、SnおよびPbの何れかの金属を示す。Arは置換基を有するアリール基又は無置換のフェニル基以外の無置換のアリール基を示し、Rはアルキル基を示し、mは2〜4の整数を示し、nは0〜2の整数を示し、m+nはMの価数を示す。)
また、本発明の第2の要旨は、前記MがTiである、第1の要旨に記載のシュウ酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第3の要旨は、前記Arの有する置換基が炭素数1〜10の有機基である、第1又は第2の要旨に記載のシュウ酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第4の要旨は、前記Arの有する置換基が炭素数1〜10の有機基である、第1乃至3の何れか1つの要旨に記載のシュウ酸ジフェニルの製造方法に存する。
そして、本発明の第5の要旨は、第1乃至4の何れか1つの要旨に記載のシュウ酸ジフェニルの製造方法により製造されたシュウ酸ジフェニルを脱カルボニル化反応させることを含む、炭酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第6の要旨は、第5の要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法により製造された炭酸ジフェニルを、エステル交換触媒の存在下で芳香族ジヒドロキシ化合物と重縮合させること含む、ポリカーボネートの製造方法に存する。
本発明によれば、シュウ酸ジアルキルとフェノールを特定の触媒存在下で反応させることにより、高純度なシュウ酸ジフェニルを効率良く、安定して連続的に製造することができる。
以下、本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法の実施の形態について、詳細に説明する。
[シュウ酸ジフェニルの製造方法]
本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法は、シュウ酸ジアルキルとフェノールを触媒存在下で反応させることを含む。ここで、触媒として、下記一般式(1)で示される化合物(以下、「本発明に係る金属アリールオキシド触媒」と言う場合がある。)を用いる。
M(OAr) (1)
(式中、Mは、Al、Ti、V、Fe、Zn、SnおよびPbの何れかの金属を示す。Arは置換基を有するアリール基又は無置換のフェニル基以外の無置換のアリール基を示し、Rはアルキル基を示し、mは2〜4の整数を示し、nは0〜2の整数を示し、m+nはMの価数を示す。)
本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法は、シュウ酸ジアルキルとフェノールとをエステル交換反応させることによりシュウ酸アルキルフェニルを得た後(下記反応式(2)参照)、シュウ酸アルキルフェニルの不均化反応によりシュウ酸ジフェニルを得ても良いし(下記反応式(3)参照)、シュウ酸アルキルフェニルを更にフェノールとエステル交換反応させることによりシュウ酸ジフェニルを得ても良い(下記反応式(4)式参照)。また、実質的に、シュウ酸ジアルキルとフェノールとの反応では、上記反応式(2)〜(4)の反応が同時に起こっていても良い。そこで、シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応(2)では、シュウ酸アルキルフェニルや脂肪族アルコールの他にシュウ酸ジフェニルやシュウ酸ジアルキルが副生しても良いし、シュウ酸アルキルフェニルとフェノールとのエステル交換反応(4)では、シュウ酸ジフェニルや脂肪族アルコールの他にシュウ酸ジアルキルが副生しても良い。なお、シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応(2)およびシュウ酸アルキルフェニルとフェノールとのエステル交換反
応(4)は、通常、副生する脂肪族アルコールを反応系外へ除去しながら行う。また、シュウ酸アルキルフェニルの不均化反応は、通常、シュウ酸ジアルキルを反応系外へ除去しながら行う。
本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法は、高濃度なシュウ酸ジフェニルを得やすいことから、シュウ酸ジアルキルとフェノールとをエステル交換反応(2)させることによりシュウ酸アルキルフェニルを得た後、シュウ酸アルキルフェニルの不均化反応(3)によりシュウ酸ジフェニルを得ることが好ましい。
Figure 0006269361
[シュウ酸ジアルキル]
本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法において、シュウ酸ジアルキル(以下、「本発明に係るシュウ酸ジアルキル」又は単に「シュウ酸ジアルキル」と言う場合がある)は、シュウ酸ジフェニルを製造する原料である。本発明に係るシュウ酸ジアルキルを原料として用いることにより、高選択率でシュウ酸ジフェニルを得ることができる。そして、本発明に係るシュウ酸ジアルキルを原料として得られるシュウ酸ジフェニルを原料として用いることにより、ポリカーボネートの原料として好適な高純度な炭酸ジフェニルを得ることができる。
本発明に係るシュウ酸ジアルキルは、下記反応式(5)で示すように、一酸化炭素、酸素及び脂肪族アルコールを原料とする酸化カルボニル化反応で製造したものなどを用いることができる。
Figure 0006269361
(式中、R’は炭素数1〜16のアルキル基である。)
本発明に係るシュウ酸ジアルキルが有する2つのアルキル基は、同一であっても異なっても良い。また、該アルキル基は、鎖状でも環状でも良く、鎖状の場合、直鎖でも分岐でも良い。但し、沸点が低く、反応速度が速いことから、アルキル基は、鎖状が好ましく、直鎖が更に好ましい。アルキル基は置換基を有していても良い。R‘が有する炭素数は、エステル交換反応で副生するアルコールを除去しやすい点では少ないことが好ましい。そこでR’が有する炭素数は、アルキル基が置換基を有する場合はこれも含め、16以下であることが好ましく、10以下であることが更に好ましく、6以下であることが特に好ましく、4以下であることが最も好ましい。具体的には、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジプロピル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸メチルエチルなどを挙げることができる。これらの内、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジプロピルおよびシュウ酸ジブチルが好ましい。
[シュウ酸アルキルフェニル]
本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法において、シュウ酸ジアルキルとフェノールとをエステル交換反応させることにより得られるシュウ酸アルキルフェニルとしては、具体的には、シュウ酸メチルフェニル、シュウ酸エチルフェニル、シュウ酸プロピルフェニル、シュウ酸ブチルフェニルなどを挙げることができる。これらの内、シュウ酸メチルフェニル、シュウ酸エチルフェニル、シュウ酸プロピルフェニル、シュウ酸ブチルフェニルなどが好ましい。
シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応に用いる両原料の比は、触媒の種類、量及び反応条件などによって変わる。シュウ酸ジアルキルが多いとシュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応(2)が起こり易く、フェノールが多いとシュウ酸アルキルフェニルの不均化反応(3)が起こり易い。そこで、通常、シュウ酸ジアルキル1モルに対して、フェノールが0.01倍以上であることが好ましく、0.1倍以上であることが更に好ましく、0.5倍以上であることが特に好ましく、また、一方で、1000倍以下であることが好ましく、100倍以下であることが更に好ましく、20倍以下であることが特に好ましい。
[金属アリールオキシド触媒]
本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法は、シュウ酸ジアルキルとフェノールとからシュウ酸ジフェニルを製造するための反応の触媒として、下記一般式(1)で示される化合物を用いる。
M(OAr) (1)
(式中、Mは、Al、Ti、V、Fe、Zn、SnおよびPbの何れかの金属を示す。Arは置換基を有するアリール基又は無置換のフェニル基以外の無置換のアリール基を示し、Rはアルキル基を示し、mは2〜4の整数を示し、nは0〜2の整数を示し、m+nはMの価数を示す。)
式中、Mはエステル交換反応が起こり易いことからTiが好ましい。
式中、Arは、置換基を有するアリール基又は無置換のフェニル基以外の無置換のアリール基を示す。なお、一般式(1)で示される化合物は、ヒドロキシ化合物とエステル交換反応する可能性がある。そこで、従来は、原料フェノールとのエステル交換反応が起きても異なる芳香族ヒドロキシ基を有する金属アリールオキシドを生じることが無いように、一般式(1)におけるArが無置換フェニル基である金属フェノキシドが触媒として用いられていた。しかしながら、本発明者らは、Arが置換基フェニル基ではない金属フェノキシドについて敢えて検討を行った結果、置換基を有するアリール基又は無置換のフェニル基以外の無置換のアリール基であることにより、高純度なシュウ酸ジフェニルを効率良く、安定的に生成やすいことを見出した。
置換基を有するアリール基のアリール基は、フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基であっても、ピリジル基、チエニル基などの芳香族複素環基であっても良い。また、置換基を有するアリール基のアリール基は、芳香族炭化水素基が好ましく、単環が更に好ましく、フェニル基であることが特に好ましい。置換基は、炭素数1〜10の有機基が好ましい。炭素数1〜10の有機基としては、例えば、メチル基;エチル基;n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基およびt−ブチル基などのアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基およびt−ブトキシ基などのアルコキシ基;フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基などのアリールオキシ基;アミノ基などが挙げられる。これらの内、アルキル基が好ましい。置換基は、アリール基のo−、m−、p−の何れの位置に結合していても良い。即ち、置換基を有するアリール基のアリール基は、ブチル基を有するフェニル基が好ましく、t−ブチル基を有するフェニル基が特に好ましい。
無置換のフェニル基以外の無置換のアリール基は、上記アリール基のうち、フェニル基を除いたものなどが挙げられる。
一般式(1)で示される化合物が有する複数個のArは、各々同一であっても異なっていても良いが、同一であることが好ましい。そこで、一般式(1)で示される化合物は、t−ブチル基を2個以上有することが更に好ましく、t−ブチル基を3個以上有することが特に好ましく、t−ブチル基を4個以上有することが最も好ましい。また、複数個のArは、互いに結合していても良く、一般式(1)で示される化合物は、下記一般式(6)で示される化合物のように、2つの酸素原子が同一のArに結合していても良い。
Figure 0006269361
(式中、Mは、Al、Ti、V、Fe、Zn、SnおよびPbの何れかの金属を示す。Arは置換基を有していても良いアリール基を示し(但し、無置換のフェニル基は除く。)、Rはアルキル基を示し、m’は0又は2を示し、n’は1又は2を示し、m’+n’はMの価数を示す。)
式中、M、ArおよびRは、上記一般式(1)におけるM、ArおよびRと同義である。また、n’は上記一般式(1)におけるnに相当する。
一般式(1)で示される化合物は、t-ブチル基などの電子供与性の基を有することに
より、金属Mのルイス酸性が低下するために、これを用いてシュウ酸ジフェニルの製造を行ったときにシュウ酸ジフェニルの分解が起こり難いと考えられる。
一般式(1)で示される化合物としては、例えば、Pb(OAr)、Fe(OAr)、Zn(OAr)、Sn(OAr)、RSn(OAr)、RSn(OAr)、Al(OAr)、Ti(OAr)、VO(OAr)などが挙げられる。
一般式(1)で示される化合物は、1種類のみを用いても、2種類以上を任意の組み合わせと比率で用いても良い。すなわち、同じ触媒を用いてシュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応(2)とシュウ酸アルキルフェニルの不均化反応(3)、または、シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応(2)とシュウ酸アルキルフェニルとフェノールとのエステル交換反応(4)を行っても良いし、シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応(2)を行った後、他の触媒を用いてシュウ酸アルキル
フェニルの不均化反応(3)やシュウ酸アルキルフェニルとフェノールとのエステル交換反応(4)を行っても良い。但し、シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応(2)とシュウ酸アルキルフェニルの不均化反応(3)、または、シュウ酸ジアルキルとフェノールとのエステル交換反応(2)とシュウ酸アルキルフェニルとフェノールとのエステル交換反応(4)を連続して行う場合には、同種の触媒を用いることが好ましい。また、一般式(1)で示される化合物と共に、一般式(1)で示される化合物以外の化合物を併用しても良い。
触媒の量は、触媒の種類、反応装置の形式(例えば多段蒸留塔)とサイズ、原料シュウ酸ジアルキルの種類、原料比、反応条件などによって異なるが、反応速度が速い点では多いことが好ましく、副生成物が生成し難い点では少ないことが好ましい。そこで、触媒の量は、シュウ酸ジアルキルとフェノールの合計量に対して、約1重量ppm以上であることが好ましく、10重量ppm以上であることが更に好ましく、50重量ppm以上であることが特に好ましい。また、一方、50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることが更に好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
また、特にシュウ酸アルキルフェニルの不均化反応(3)における触媒の量についても、シュウ酸アルキルフェニルに対して、約1重量ppm以上であることが好ましく、10重量ppm以上であることが更に好ましく、50重量ppm以上であることが特に好ましい。また、一方、50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることが更に好ましく、20重量%以下であることが特に好ましい。
[反応条件]
上記一般式(2)、(4)におけるエステル交換反応および上記一般式(3)における不均化反応おいて、反応温度は各原料や生成物を含有している反応液が溶融する温度以上であり、且つシュウ酸アルキルフェニルやシュウ酸ジフェニルが熱分解しない温度であることが好ましい。即ち、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることが更に好ましく、120℃以上でることが特に好ましい。また、一方で、350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることが更に好ましく、280℃以下であることが特に好ましい。また、反応圧力は減圧、常圧、加圧のいずれであっても良いが、副生する脂肪族アルコール等を蒸発させやすい圧力が好ましい。具体的には、例えば、反応温度が約50〜350℃であれば、反応圧力は0.1PaA以上であることが好ましく、1PaA以上であることが更に好ましく、10PaA以上であることが特に好ましく、また、一方で、20MPaA以下であることが好ましく、10MPaA以下であることが更に好ましく、5MPaA以下であることが特に好ましい。反応時間は、約0.001〜100時間であることが好ましい。
本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法は、連続反応で行うことが好ましい。
反応器については、上記一般式(2)、(4)におけるエステル交換反応は、副生する低沸点な脂肪族アルコールを反応液から迅速に除去しながらエステル交換反応を行うことができれば、どのような反応装置を使用しても良い。副生する脂肪族アルコールを除去しながら反応装置内で液相状態の反応液中でエステル交換反応を行うことができる反応装置が好ましい。そのような反応装置としては、例えば、連続多段蒸留塔からなる反応装置を挙げることができる。連続多段蒸留塔からなる反応装置は、理論段数が通常2段以上、好ましくは5段以上、更に好ましくは7段以上であり、また、一方で、理論段数が通常100段以下、好ましくは50段以下である連続多段蒸留塔型の反応装置が良い。具体的には、例えば、泡鐘トレイ、多孔板トレイ、バブルトレイなどを用いた棚段式蒸留塔;ラシヒリング、レッシングリング、ポールリングなどの不規則充填物や規則充填物などの各種充填物を充填した充填式蒸留塔などを使用することができる。また、棚段式及び充填式を併せもつ蒸留塔も使用できる。
[シュウ酸ジフェニルの精製]
上記一般式(2)〜(4)の反応により得られたシュウ酸ジフェニルは、通常、蒸発器や蒸留塔などからなる蒸留分離装置を用いて、反応液から軽質分や高沸物(触媒を含む)を除去することにより精製される。なお、シュウ酸ジアルキルとフェノールを触媒存在下で反応させることにより得られたシュウ酸ジフェニルを含む反応液に含まれる触媒は、シュウ酸ジフェニルを製造するための触媒として再利用することが好ましい。
[シュウ酸ジフェニル]
本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法においては、上記一般式(1)で示される化合物を触媒として用いることにより、シュウ酸ジフェニルの分解による副生物の生成を抑制し、高純度なシュウ酸ジフェニルを効率良く、安定して連続的に製造することができる。そこで、上述の本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法により得られるシュウ酸ジフェニルの純度は、通常95重量%以上、好ましくは97重量%以上、更に好ましくは99重量%以上である。シュウ酸ジフェニルが分解するとキサントン、4−ヒドロキシ安息香酸フェニル、サリチル酸フェニル、安息香酸フェニルなどを生じることがあるが、その場合の合計含有量は、通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、更に好ましくは0.01重量%以下である。
[炭酸ジフェニルの製造方法]
本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法により製造されたシュウ酸ジフェニルは、これを脱カルボニル化反応させることにより、炭酸ジフェニルを製造することができる。脱カルボニル化反応は、液相反応で行うことが好ましい。脱カルボニル化反応の反応温度は、反応速度の点では高温であることが好ましいが、炭酸ジフェニルの純度の点では低温であることが好ましい。そこで、常圧の場合、反応温度は、通常100℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上が好ましく、また、一方で、通常450℃以下、特に400℃以下、とりわけ350℃以下が好ましい。反応時の圧力は、プロセス上の要件などから決めれば良い。
脱カルボニル化反応は、バッチ反応でも連続反応でも良いが、工業的には、連続反応が好ましい。連続反応の一般的な方法については、特開平10−109962号公報、特開平10−109963号公報及び特開2006−89416号公報等などに記載の方法などを用いることができる。
脱カルボニル化反応は、反応に用いる物質の融点以上の温度で反応を行う場合は、溶媒を用いる必要はないが、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリドン等の非プロトン性極性溶媒、炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等を適宜使用することもできる。
反応器の材質は、本発明のシュウ酸ジフェニルの製造方法により製造されたシュウ酸ジフェニルを脱カルボニル化反応させることにより炭酸ジフェニルを生成させることができれば特に制限はない。但し、副反応でフェノールが生成する場合があるので、耐酸性材質の金属製容器やグラスライニング製容器が好ましい。反応器の形式は、脱カルボニル化反応により炭酸ジフェニルを生成させることができれば、どのような形式の反応器でも使用することが可能である。このような反応器としては、例えば1槽または多槽式の完全混合型反応器(攪拌槽)、塔型反応器などを用いることができる。
[炭酸ジフェニルの精製]
上記脱カルボニル化反応により、原料シュウ酸ジフェニルに対応する炭酸ジフェニルを生成させることができる。脱カルボニル化反応後の反応液には、炭酸ジフェニル、脱カルボニル触媒、及び未反応シュウ酸ジフェニルなどが含まれている。また、この他に、シュ
ウ酸ジフェニル、炭酸ジフェニル、脱カルボニル触媒等の転位、分解、反応等により生じた副生物なども含まれている可能性がある。副生物としては、例えば、フェノール、フェニル4−クロロ安息香酸などが挙げられる。そこで、カルボニル化反応により得られた炭酸ジエステルは、用途に応じた純度や形態とするために適宜精製される。
なお、脱カルボニル化反応で副生する一酸化炭素は、反応液から自然に気液分離され、排出させることが好ましい。また、一酸化炭素は、亜硝酸エステルと一酸化炭素からシュウ酸ジアルキルを製造する場合の原料として再利用することも可能である。(例えば、特
開平10−152457号公報などに記載の方法を参照)。ここで、一酸化炭素にフェノ
ール、二酸化炭素、ハロゲン化水素などの不純物が含まれる場合は、吸収塔やスクラバーなどの精製装置を通した後に、シュウ酸ジアルキルの原料などに利用することが好ましい。
炭酸ジフェニルを蒸留により分離する場合、蒸留は、脱カルボニル化反応を行った反応器内で行っても良いし、反応液を蒸発装置に移して行っても良い。蒸発装置(蒸発方法)については、上記の目的を達成することができれば特に限定されることはない。蒸発装置としては、例えば、流下膜式蒸発器、薄膜式蒸発器などを用いて行うことが短時間に分離しやすいことから好ましい。また、反応器内で蒸発させる場合は、突沸が起こり難いように攪拌しながら、徐々に減圧しながら蒸発させることが好ましい。分離に要する時間は、伝熱効率や分離容器の形状にも影響されるが、不純物の副生が起こり難い点から短時間で行うことが好ましく、20時間以下が好ましく、15時間以下が更に好ましく、10時間以下が特に好ましい。蒸発は、不純物の副生が起こり難い点から低温で低圧力で行うことが好ましく、圧力は、減圧下で蒸発させることが好ましく、温度は、脱カルボニル化反応における反応温度以下で行うことが好ましい。具体的には、圧力は、0.1kPaA以上が好ましく、0.2kPaA以上が更に好ましく、一方、50kPaA以下が好ましく、20kPaA以下が更に好ましい。そして、温度は、通常100℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上、また通常450℃以下、特に400℃以下、とりわけ350℃以下が好ましい。
蒸発させた炭酸ジフェニルは、炭酸ジフェニルが通常70重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上であり、また、一方で、通常99.9重量%以下、好ましくは99.7重量%以下、更に好ましくは99.5量%以下である。
炭酸ジフェニル以外の成分としてシュウ酸ジフェニルを含む場合は、通常0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上であり、また、一方で、通常2重量%以下、好ましくは1重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下である。これら以外の成分としては、フェノールなどが含まれる場合があるが、その場合の含有量は、通常1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下である。
蒸発させた炭酸ジフェニルは、そのままポリカーボネート製造等の用途に用いても良いが、必要な純度などに応じて、更に精製を行っても良い。更に精製する場合は、蒸留や吸着などにより行うことができる。具体的には、5〜50段の理論段を有する棚段塔あるいは充填塔などの蒸発装置を用いて蒸留精製することが好ましい。
[炭酸ジフェニル]
このようにして得られる炭酸ジフェニルの組成は、炭酸ジフェニルが通常99.0重量
%以上、好ましくは99.3重量%以上、更に好ましくは99.5重量%以上である。これら以外の成分としては、イオン性のClなどが含まれる場合があるが、その場合のイオン性Clの含有量は、通常1重量ppm以下、好ましくは0.1重量ppm以下、更に好ましくは0.01重量ppm以下である。
[ポリカーボネートの製造方法]
このようにして得られた炭酸ジフェニルの用途のひとつであるポリカーボネートは、上述の方法により製造された炭酸ジフェニルと、ビスフェノールAに代表される芳香族もしくは脂肪族ジヒドロキシ化合物とを、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させることで製造できる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に炭酸ジフェニルとビスフェノールAを原料とした一例を説明する。
上記のポリカーボネートの製造方法において、炭酸ジフェニルは、ビスフェノールAに対して過剰量用いることが好ましい。ビスフェノールAに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネートに末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネートを製造し易い点では少ないことが好ましい。具体的には、例えば、ビスフェノールA1モルに対して、通常1.001モル以上、好ましくは1.02モル以上、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下用いることが好ましい。
原料の供給方法としては、ビスフェノールAおよび炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方または両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
炭酸ジフェニルとビスフェノールAとのエステル交換反応でポリカーボネートを製造する際には、通常、触媒が使用される。上記のポリカーボネートの製造方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物が望ましい。
触媒は、ビスフェノールAまたは炭酸ジフェニル1モルに対して、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上、また一方で、通常5μモル以下、好ましくは4μモル以下、さらに好ましくは2μモル以下の範囲で用いられる。
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成型時の流動性に優れたポリカーボネートを得やすい。
アルカリ金属化合物としては、セシウム化合物が好ましい。好ましいセシウム化合物は、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムである。
上記方法によりポリカーボネートを製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネートの製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
[ポリカーボネート]
上述のようにして得られるシュウ酸ジフェニルは高純度であることから、本発明の製造方法により得られるシュウ酸ジフェニルを脱カルボニル化反応させて得られる炭酸ジフェニルと、芳香族ジヒドロキシ化合物とをエステル交換触媒の存在下で重縮合させることにより高純度なポリカーボネートを得ることができる。
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
[原料及び試薬]
シュウ酸ジメチルは、宇部興産株式会社製のシュウ酸ジメチルを用いた。フェノールは、三菱化学株式会社製のフェノールを使用した。p−t−ブチルフェノールおよび4−t−ブチルカテコール及びテトライソプロポキシチタンは、各々、東京化成工業株式会社製のp−t−ブチルフェノールおよび4−t−ブチルカテコール及びテトライソプロポキシチタンを使用した。シュウ酸ジフェニルは東京化成工業株式会社製のシュウ酸ジフェニルを蒸留精製した後に使用した。トルエン及びヘキサンは、和光純薬工業株式会社の特級品を使用した。
[組成分析]
組成分析は、ガスクロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。装置は、島津製作所社製「GC−2014」を使用した。カラムは、アジレントテクノロジー社製「DB―17」(内径0.53mm、カラム長60m、膜厚1μm)を使用した。キャリアーガスはヘリウムとし、その流量を毎分7.34cm、線速を毎秒50.7cmとした。注入口温度を220℃、検出器温度を260℃とした。カラムの昇温パターンは、先ず75℃で3分間保持させた後に毎分10℃で220℃まで昇温させ、220℃で10分間保持させた。次に、毎分40℃で250℃まで昇温させ、10分間保持させて分析した。
[チタン濃度分析]
JIS H1073に記載された方法で実施した。
[チタン触媒の合成]
[合成例1]
国際公開WO2003080705号公報に記載された方法と同様にして、テトラ(p−t―ブチルフェノキシ)チタンを合成した。
受器および留出管を備えた500cmの三口フラスコに、p−t−ブチルフェノール50g(0.33モル)とトルエン130cmを仕込み、フラスコ内を窒素置換した。フラスコのボトムの内温を90℃に昇温し、テトライソプロボキシチタン23g(0.08モル)を添加した。フラスコのボトムの内温を100℃に昇温し、生成したイソプロピルアルコールの留出を開始し、更に内温を徐々に116℃まで昇温して、イソプロピルアルコールとトルエンの混合物である留出液80cmを留出させた。その後、フラスコ内を室温まで冷却して、晶析させた。析出した赤色結晶を濾過することにより取得し、500cmのナス型フラスコに仕込み、オイルバスを備えたロータリーエバポレータでオイルバス温度140℃、圧力50Torrで乾燥させ、テトラ(p−t―ブチルフェノキシ)チタン43g(0.07モル)を得た。得られたテトラ(p−t―ブチルフェノキシ)チタン中のチタン濃度を分析したところ、7.78重量%であった(理論値は7.42重量%)。
[合成例2]
国際公開WO2003080705号公報および国際公開WO2008007451号公報に記載された方法と同様にして、チタンジ(4−t-ブチルカテコラート)を合成し
た。
受器および留出管を備えた500cmの三口フラスコに、4−t−ブチルカテコール50.2g(0.3モル)とトルエン100cmを仕込み、フラスコ内を窒素置換した。フラスコのボトムの内温を100℃に昇温し、テトライソプロボキシチタン24.2g(0.1モル)を添加した。フラスコのボトムの内温を100℃に保持したまま、生成したイソプロピルアルコールの留出を開始し、更に内温を徐々に116℃まで昇温して、イソプロピルアルコールとトルエンの混合物である留出液80cmを留出させた。その後、ヘキサン50cmを加えた後、室温まで冷却して、晶析させた。析出した黒褐色結晶を濾過することにより取得し、500cmのナス型フラスコに仕込み、オイルバスを備
えたロータリーエバポレータでオイルバス温度140℃、圧力50Torrで乾燥させ、チタンジ(4−t-ブチルカテコラート)19.2g(0.1モル)を得た。得られたチ
タンジ(4−t-ブチルカテコラート)中のチタン濃度を分析したところ、12.43重
量%であった(理論値は12.72重量%)。
[合成例3]
合成例1を参考にして、テトラフェノキシチタンを合成した。
受器および留出管を備えた500cmの三口フラスコに、フェノール188.2g(2.0モル)とトルエン100cmを仕込み、フラスコ内を窒素置換した。フラスコのボトムの内温を100℃に昇温し、テトライソプロボキシチタン56.8g(0.2モル)を添加した。フラスコのボトムの内温を100℃に保持したまま、生成したイソプロピルアルコールの留出を開始し、更に内温を徐々に116℃まで昇温して、イソプロピルアルコールとトルエンの混合物である留出液80cmを留出させた。その後、ヘキサン50cmを加えた後、室温まで冷却して、晶析させた。析出した赤色結晶を濾過することにより取得し、500cmのナス型フラスコに仕込み、オイルバスを備えたロータリーエバポレータでオイルバス温度140℃、圧力50Torrで乾燥させ、テトラフェノキシチタン60.3g(0.1モル)を得た。得られたテトラフェノキシチタン中のチタン濃度を分析したところ、12.16重量%であった(理論値は11.39重量%)。
[実施例1]
[シュウ酸メチルフェニルの合成]
受器、留出管、還流装置、温度計および攪拌機を備え、塔内にスルーザーケムテック社製の規則充填物「スルーザーEXラボラトリーパッキング」を10個有し、塔径が25mmであるフルジャケット式1リットルのSUS製の回分式の反応蒸留塔の釜に、シュウ酸ジメチル407.8g(3.5モル)、フェノール432.2g(4.6モル)、上記合成例1で合成したテトラ(p−t―ブチルフェノキシ)チタン2.5g(3.9ミリモル)を仕込んだ。ボトム温度を170℃まで加熱して、常圧下で還流状態とした。
続いて、ジャケット温度を210℃、還流比を30として、副生するメタノールを留分として抜き出した。メタノールの留出開始からボトムの温度が184℃に到達するまでに要した時間を測定したところ、141分であった。ボトム液を0.1g取り、その組成を分析したところ、シュウ酸ジメチル31.3重量%、フェノール40.1重量%、シュウ酸メチルフェニル24.4重量%、シュウ酸ジフェニル3.4重量%、触媒を含むその他成分0.8重量%であった。また、蒸留塔のトップからの留出量は54.0gであり、その組成はメタノール86.9重量%、シュウ酸ジメチル12.8重量%、その他成分0.3重量%であった。
[シュウ酸ジフェニル合成]
上記ボトムの温度が184℃に到達後、還流比を0.3として、ジャケット温度を210℃のまま、蒸留塔のボトムを180〜184℃に維持しながら、留出量が一定となるように、蒸留塔内圧力を常圧から13kPaまで減圧し、70分間反応蒸留させた。ボトム液を0.1g取り、その組成を分析したところ、シュウ酸ジメチル1.2重量%、フェノール4.2重量%、シュウ酸メチルフェニル21.1重量%、シュウ酸ジフェニル72.2重量%、触媒を含むその他成分1.3重量%であった。また、蒸留塔のトップからの留出量は584.0gであり、その組成はシュウ酸ジメチル51.6重量%、フェノール48.1重量%、その他成分0.3重量%であった。
[触媒液の回収]
シュウ酸ジフェニルを合成した後、反応蒸留塔内を常圧に復圧して、分析に用いた残りのボトム液の全量204.0gを抜出し、受器、留出管、温度計、攪拌機を備えたフルジ
ャケット式1リットルのガラス製セパラブルフラスコに全量を仕込んだ。ジャケット温度を225℃として、全留出させながら、常圧から0.8kPaまで徐々に減圧して、留出がなくなるまで蒸発させ、リサイクル触媒液をフラスコボトムに調製した。なお、留出量は、196.0gであった。
[触媒液の再利用によるシュウ酸メチルフェニルの合成]
回収された触媒液を100℃に昇温し、シュウ酸ジメチル410.0g(3.5モル)とフェノール430.0g(4.6モル)を加え、30分間撹拌して均一溶液とした。この均一溶液を全量抜出し、シュウ酸ジフェニルの合成に用いた反応蒸留塔の釜に仕込んだ。ボトム温度を170℃まで加熱して、常圧下で還流状態とした。
続いて、ジャケット温度を210℃、還流比を30として、副生するメタノールを留分として抜き出した。メタノールの留出開始からボトムの温度が184℃に到達した時間を測定したところ、142分であった。ボトム液を0.1g取り、その組成を分析したところ、シュウ酸ジメチル31.9重量%、フェノール41.3重量%、シュウ酸メチルフェニル23.6重量%、シュウ酸ジフェニル3.1重量%、その他成分0.1重量%であった。また、蒸留塔のトップからの留出量は52gであり、その組成はメタノール79.7重量%、シュウ酸ジメチル18.6重量%、その他成分1.7重量%であった。
[実施例2]
実施例1において、テトラ(p−t―ブチルフェノキシ)チタン2.5gの代わりに、上記合成例2で合成したチタンジ(4−t−ブチルカテコレート)2.5g(6.6ミリモル)を用いた以外は、実施例1と同様に実験を行った。1回目のシュウ酸メチルフェニルの合成において、メタノールの留出開始からボトムの温度が184℃に到達するまでに要した時間は151分であった。また、触媒液を再利用したシュウ酸メチルフェニルの合成におけるボトムの温度がメタノールの留出開始から184℃に到達した時間は、149分であった。
[比較例1]
実施例1において、テトラ(p−t―ブチルフェノキシ)チタン2.5gの代わりに、上記合成例3で合成したテトラフェノキシチタン2.5g(5.9ミリモル)を用いた以外は、実施例1と同様に実験を行った。1回目のシュウ酸メチルフェニルの合成において、メタノールの留出開始からボトムの温度が184℃に到達するまでに要した時間は160分であった。また、触媒液を再利用したシュウ酸メチルフェニルの合成におけるボトムの温度がメタノールの留出開始から184℃に到達した時間は、167分であった。
実施例1、2および比較例1の結果を表1にまとめる。ここで、184℃は蒸留塔ボトム液の沸点であることから、シュウ酸メチルフェニルの合成においてメタノールの留出開始からボトムの温度が184℃に到達するまでに要する時間は、触媒の活性の高さを評価する指標となる。そこで、表1において、触媒液を再利用した場合も含め、シュウ酸メチルフェニルの合成においてメタノールの留出開始からボトムの温度が184℃に到達するまでに要する時間が、本発明に係る金属アリールオキシド触媒を用いた場合において短くなっていたことから、本発明に係る金属アリールオキシド触媒が高活性で効率良くシュウ酸メチルフェニルを合成することができ、しかも触媒液を再利用した場合であってもこの高活性が維持されることが裏付けられた。
Figure 0006269361
[実施例3]
還流冷却管、温度計および攪拌機を備えたフルジャケット式500cmのセパラブルフラスコに、合成例1で合成したテトラ(p−t―ブチルフェノキシ)チタン2.5g(3.9ミリモル)、シュウ酸ジフェニル20.0g、フェノール83.0gを仕込んだ。気相部を十分に窒素置換した後、反応液を195℃まで昇温させ、そのまま195℃に維持した。195℃に到達した時点(0.0時間)、その3.5時間後および5.0時間後におけるシュウ酸ジフェニルの濃度を測定した。この結果、0.0時間後は18.64重量%、3.5時間後は18.54重量%、5.0後は18.46重量%であった。
[比較例2]
実施例3において、テトラ(p−t―ブチルフェノキシ)チタン2.5gの代わりに、上記合成例3で合成したテトラフェノキシチタン2.5g(5.9ミリモル)を使用した以外は、実施例2と同様に実験を行った。この結果、0.0時間後は18.84重量%、3.5時間後は17.81重量%、5.0後は17.15重量%であった。
実施例3および比較例2の結果を表2にまとめる。表2において、シュウ酸ジフェニルの減少の程度が少ないことから、本発明に係る金属アリールオキシド触媒は、従来公知の触媒に比べ、シュウ酸ジフェニルを分解し難いことが裏付けられた。
Figure 0006269361

Claims (1)

  1. シュウ酸ジアルキルとフェノールを触媒存在下で反応させることを含むシュウ酸ジフェ
    ニルの製造方法であって、前記触媒としてテトラ(p−t−ブチルフェノキシ)チタン又
    はチタンジ(4−t−ブチルカテコレート)を用いることを特徴とするシュウ酸ジフェニ
    ルの製造方法。
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