JP6269340B2 - 3d造形用組成液、3d造形用インクセットおよび3d造形物の製造方法 - Google Patents

3d造形用組成液、3d造形用インクセットおよび3d造形物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、3D造形用光組成液、3D造形用インクセットおよび3D造形物の製造方法に関する。
近年、3D造形物を製造する方法として、液体状の光硬化組成物にレーザー光や紫外線を照射してその照射部分を硬化・積層させる方法や、インクジェットにより基材上に光硬化組成物を着弾させ、着弾した光硬化組成物に紫外線を照射して硬化させる方法が広く知られている。
最近では、3D造形物の試作段階において、試作品の形状だけでなく機能についても確認したいという要望がある。特にABSライクの材料を用いた試作品について、ABS並みの靱性を持った造形物で性状を確認したいという要望がある。
靱性とは、高い剛性と降伏後伸びることによる破断しにくさとを併せもつ性質で、靱性が高い高分子としては、たとえばABS樹脂のように堅いポリスチレンアクリロニトリル樹脂にブタジエンゴムを配合することにより達成するゴム添加型樹脂、ならびに、ポリエチレンテレフタレートおよびポリカーボネート樹脂のように、剛直で分子間相互作用が強い高分子が上げられる。しかし、光硬化による3D造形法では、モノマーを重合させて造形物を製造するため、上記の樹脂と同じように別のゴムを配合する製造方法は採用できない。たとえば、ゴムを配合したモノマーを光重合で3D造形物を作成しても、靱性が低いものしかできなかった。
高い靱性を有する3D造形物を得る方法としては、カチオン重合系とラジカル重合系を併用して、硬化速度の違いを用いて硬化物内で相分離を起こさせる方法がある(特許文献1、特許文献2)。
一方、UVインクジェットを用いて高強度の光造形物を得る方法としては、特許文献3に、光硬化感度を高めつつ、不要な硬化が起きるのを防ぐために、多官能アクリレートと連鎖移動材のチオール化合物を用いる方法が記載されている。
特開2013−151703号公報 特開2013−166893号公報 特表2007−530724号公報 特開2012−255045号公報 特開2012−219255号公報
特許文献1や特許文献2に記載のように、カチオン重合系とラジカル重合系とを併用した組成物を用いて3D造形物を製造しようとすると、ラジカル重合系を単独で用いる場合よりも光硬化感度が低下するため、紫外線では組成物が硬化せず、高価なレーザー光を用いなければならない。そのため、製造コストが高くなるという欠点があった。
また、特許文献3に記載の方法では、多官能アクリレートを多く用いるため、高い剛性は得られているものの、伸びはほとんどなく、靱性が低い造形物に留まっていた。
上記の問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、紫外線照射によって硬化させることができ、さらには高い靱性が得られる3D造形物が得られる3D造形用組成液、それを含む3D造形用インクセット、および、それを用いた3D造形物の製造方法を提供することである。
上記の課題に鑑み、本発明の第一は、3D造形用組成液に関する。
[1]エチレン重合性基を有する少なくとも2種類の単官能モノマーと光開始剤とを含有する3D造形用組成液であって、該単官能モノマーは、イオン性基を有する単官能モノマーおよびイオン性基を有しない単官能モノマーを含み、該組成液は、該イオン性基の対イオンをさらに含有する、組成液。
[2]前記イオン性基を有しない単官能モノマーは、芳香族基を有するモノマーおよび脂環式基を有するモノマーの少なくともいずれかを含有することを特徴とする、[1]に記載の組成液。
[3]エチレン重合性基を有する多官能モノマーをさらに含有する、[1]または[2]に記載の組成液。
[4]前記イオン性基はカルボン酸基およびリン酸基の少なくともいずれかであり、前記対イオンは1〜3価の陽イオンである、[1]〜[3]のいずれかに記載の組成液。
[5]前記イオン性基は3級アミノ基および4級アンモニウム基の少なくともいずれかであり、前記対イオンは1〜3価の陰イオンである、[1]〜[3]のいずれかに記載の組成液。
[6]該組成液は、カチオン重合性の化合物を実質的に含有しない、[1]〜[5]のいずれかに記載の組成液。
[7]剥離剤をさらに含有する、[1]〜[6]のいずれかに記載の組成液。
また、本発明の第二は、3D造形用インクセットに関する。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の組成液と、サポート材組成液とを含む、3D造形用インクセット。
また、本発明の第三は、3D造形物の製造方法に関する。
[9][1]〜[7]のいずれかに記載の組成液に活性光線を照射する工程を有する、3D造形物の製造方法。
本発明の3D造形用組成液を用いて3D造形物を造形することにより、紫外線照射によって硬化させることができ、さらには高い靱性を有し、壊れにくい3D造形物が得られる。また、本発明によれば、高い靱性を有して、壊れにくい3D造形物が得られる3D造形物の製造方法を提供することができる。
図1はUV−IJ法による3D造形システムの1態様を示す模式図である。 図2はUV−IJ法による3D造形物の製造方法のフロー図である。 図3はUV−IJ法による3D造形物の製造方法の工程(その一)の側面図である。 図4AはUV−IJ法による3D造形物の製造方法の工程(その二)の側面図および図4Bはその上面図である。 図5AはUV−IJ法による3D造形物の製造方法の工程(その三)の側面図および図5Bはその上面図である。 図6AはUV−IJ法による3D造形物の製造方法の工程(その四)の側面図および図6Bはその上面図である。 図7AはUV−IJ法による3D造形物の製造方法の工程(その五)の側面図および図7Bはその上面図である。 図8は本発明の3D造形物の製造方法により得られたモデル材の斜視図である。
以下に、実施形態を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
1.3D造形用組成液
本発明の3D造形用組成液は、エチレン重合性基を有する少なくとも2種類の単官能モノマーと光開始剤とを含有する3D造形用組成液であって、前記単官能モノマーは、イオン性基を有する単官能モノマーおよびイオン性基を有しない単官能モノマーを含み、前記組成液は、前記イオン性基の対イオンをさらに含有する。
1−1.エチレン重合性基を有する単官能モノマー
エチレン重合性基を有する単官能モノマーとは、エチレン重合性基を分子内に1つ有するモノマーである。本発明の3D造形用組成液は、エチレン重合性基を有する少なくとも2種類の単官能モノマーを含み、この単官能モノマーとして、イオン性基を有する単官能モノマーおよびイオン性基を有しない単官能モノマーを含有する。
1−1−1.イオン性基を有する単官能モノマー
本発明のイオン性基を有する単官能モノマーとは、分子内にエチレン重合性基を1つ有し、さらに分子内にイオン性基を有するモノマーである。
イオン性基とは、正または負の電荷を有する官能基を意味する。イオン性基は極性が高いため、本発明の3D造形用組成液を重合して得られる炭化水素鎖からなる高分子中でイオン性基が集まってドメインを形成する。このドメインは比較的弱い力で集合しており、応力を加えられると破壊されやすいが、またすぐに再形成されやすいという性質を有する。本発明の3D造形用組成液に活性光線を照射して製造した3D造形物では、このドメインが3D造形物中に散在しているため、応力付加時にこのドメインの破壊および再形成が生じて応力が分散され、強度および伸びが向上するものと考えられる。
また、3D造形物を製造する際に、イオン性基は光硬化中に各層の表面に排斥されやすい。次の層を形成する際に、この表面に排斥されたイオン性基が次の層のイオン性基とドメインを形成することにより、本発明では3D造形物の積層間の強度および伸びも向上すると考えられる。
エチレン重合性基には、エチレン基、プロペニル基、ブテニル基、ビニルフェニル基、(メタ)アクリル基、アリルエーテル基、ビニルエーテル基、マレイル基、マレイミド基、(メタ)アクリルアミド基、アセチルビニル基およびビニルアミド基などが含まれる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」、「メタクリル」の双方又はいずれかを意味し、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」、「メタクリレート」の双方又はいずれかを意味する。
これらのうち(メタ)アクリレート基、ビニルエーテル基および(メタ)アクリルアミド基が好ましく、(メタ)アクリレート基がさらに好ましい。
イオン性基としては、酸性基および塩基性基のいずれをも用いることができる。イオン性基を有する単官能モノマーが有することができる酸性基の例には、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基が含まれる。塩基性基の例には、1〜3級アミノ基、4級アンモニウム基などが含まれる。これらのうち、酸性基としては、カルボン酸基およびリン酸基の少なくともいずれかであることが好ましく、塩基性基としては、3級アミノ基および4級アンモニウム基の少なくともいずれかであることが好ましい。
イオン性基を有する単官能モノマーの数平均分子量を、150〜1000とすることで、UV−IJ(ultraviolet-inkjet)法による3D造形物の製造時にインクジェット出射性を高めることができるほか、SLA(stereolithography)法による3D造形物の製造時に液体の対流を防いで硬化性を大きくし、破断応力を高めることが可能となる。また、イオン性基を有する単官能モノマーの数平均分子量を150〜600とすることで、インクジェット出射性および硬化性をさらに高めることができる。
3D造形用組成液中に含まれるイオン性基を有する単官能モノマーの比率は、特に限定されないが、組成液の全質量に対して5質量%〜40質量%であることが好ましく、10質量%〜30質量%であることがさらに好ましい。イオン性基を有する単官能モノマーの量を5質量%以上とすることで、剛性が向上し、イオン性基を有する単官能モノマーの量を40質量%以下とすることで、降伏後の延びを保持することが出来る。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記カルボン酸基を有する単官能モノマーの例には、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテートアンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、および4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物等の分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有する重合性モノマーが含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記リン酸基を有する単官能モノマーの例には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェート、および2−(メタ)アクリロイルオキシエチル2−ブロモエチルハイドロジェンフォスフェート等の分子内にホスフィニコオキシ基又はホスホノオキシ基を有す重合性単量体、ならびにビニルリン酸、p−ビニルベンゼンリン酸等の分子内にホスホノ基を有する重合性モノマーが含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記スルホン酸基を有する単官能モノマーの例には、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、およびビニルスルホン酸等の重合性モノマーが含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記3級アミノ基または4級アンモニウム基を有する単官能モノマーの例には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、およびp−ビニル−N−ジメチルアニリンならびにこれらの4級化物などが挙げられる。
1−1−2.イオン性基を有しない単官能モノマー
本発明のイオン性基を有しない単官能モノマーとは、分子内にエチレン重合性基を1つ有し、さらに分子内にイオン性基を有しないモノマーである。
イオン性基を有しない単官能モノマーは、重合したときに直鎖構造を形成することにより、製造した3D造形物の伸びを高めることができる。
エチレン重合性基には、前記イオン性基を有する単官能モノマーと同様に、エチレン基、プロペニル基、ブテニル基、ビニルフェニル基、(メタ)アクリル基、アリルエーテル基、ビニルエーテル基、マレイル基、マレイミド基、(メタ)アクリルアミド基、アセチルビニル基およびビニルアミド基などが含まれる。
これらのうち、(メタ)アクリル基、アリルエーテル基、ビニルエーテル基およびマレイミド基が好ましく、(メタ)アクリル基がさらに好ましい。
イオン性基を有しない単官能モノマーの数平均分子量は、150〜1000とすることで、UV−IJ法による3D造形物の製造時にインクジェット出射性を高めることができるほか、SLA法による3D造形物の製造時に液体の対流を防いで硬化性を大きくし、破断応力を高めることが可能となる。
3D造形用組成液中に含まれるイオン性基を有しない単官能モノマーの比率は、特に限定されないが、組成液の全質量に対して50質量%〜95質量%であることが好ましく、65質量%〜90質量%であることがさらに好ましい。イオン性基を有する単官能モノマーの量を5質量%以上と40質量%とすることで、剛性と延び、すなわち靱性を向上させることができる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記(メタ)アクリル基を有しイオン性基を有しない単官能モノマーの例には、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、n-ステアリルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエトキシエチルアクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、および2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート等が含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記アリルエーテル基を有しイオン性基を有しない単官能モノマーの例には、フェニルアリルエーテル、o−,m−,p−クレゾールモノアリルエーテル、ビフェニル−2−オールモノアリルエーテル、ビフェニル-4-オールモノアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル、およびシクロヘキサンメタノールモノアリルエーテル等が含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記ビニルエーテル基を有しイオン性基を有しない単官能モノマーの例には、ブチルビニルエーテル、ブチルプロペニルエーテル、ブチルブテニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、エチルエトキシビニルエーテル、アセチルエトキシエトキシビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、およびアダマンチルビニルエーテル等が含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記マレイミド基を有しイオン性基を有しない単官能モノマーの例には、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、およびn−ヘキシルマレイミドなどが含まれる。
イオン性基を有しない単官能モノマーは、芳香族基を有するモノマーおよび脂環式基を有するモノマーの少なくともいずれかを含有することが好ましい。なお、本発明において芳香族基には、炭素環式芳香族基および複素環式芳香族基のいずれもが含まれる。芳香族基は、2以上の環状構造を含んでいてもよく、任意に置換されていてもよい。本発明において脂環式基とは、芳香族以外の飽和または不飽和の炭素環を含む官能基を意味する。炭素環は炭素以外の原子を含んでもよく、任意に置換されていてもよい。脂環式基は2以上の炭素環を含んでもよい。
イオン性基を有しない単官能モノマーが、芳香族基を有するモノマーおよび脂環式基を有するモノマーの少なくともいずれかを含有すると、芳香族基または脂環式基が、π−π結合または立体障害等により高分子鎖の移動を妨げるため、製造した3D造形物の靱性をより高めることが出来る。
このようなモノマーの例には、ベンジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエトキシエチルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ビス(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ビス(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのEO付加物ビス(メタ)アクリレート等が含まれる。
1−2.対イオン
本発明の3D造形用組成液は、上記イオン性基を有するモノマーが有するイオン性基の対イオンを含有する。対イオンとは、上記イオン性基とイオン対を形成することのできるイオンをいい、上記イオン性基が酸性基の場合は塩基性イオンを、上記イオン性基が塩基性基の場合は酸性イオンを、それぞれ用いることができる。
例えば、前記イオン性基を有するモノマーとして酸性基を有するモノマーを用いた場合、対イオンとしては、水素原子または1〜3価の陽イオンをもちいることが出来る。用いることが出来る陽イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、亜鉛イオン、チタニウムイオン、カルシウムイオン、鉄イオン、銅イオンなどの金属イオン、水素イオン、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムなどの有機アンモニウムイオンが挙げられる。
また、前記イオン性基を有するモノマーとして塩基基を有するモノマーを用いた場合、対イオンとしては、水素原子または1〜3価の陰イオンを用いることができる。用いることができる対イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、酢酸イオン、フタル酸イオン、硫酸イオン、コハク酸イオンなどが挙げられる。
1−3.エチレン重合性基を有する多官能モノマー
本発明の3D造形用組成液は、エチレン重合性基を有する多官能モノマーをさらに含有してもよい。
3D造形物の伸びと強度を確保するため、本発明の3D造形用組成液は、エチレン重合性基を有する多官能モノマーを0質量%以上20質量%以下、好ましくは5質量%以上15質量%以下、含んでもよい。
エチレン重合性基には、前記イオン性基を有する単官能モノマーと同様に、エチレン基、プロペニル基、ブテニル基、ビニルフェニル基、(メタ)アクリル基、アリルエーテル基、ビニルエーテル基、マレイル基、マレイミド基、(メタ)アクリルアミド基、アセチルビニル基およびビニルアミド基などが含まれる。
これらのうち、(メタ)アクリル基、アリルエーテル基およびビニルエーテル基が好ましく、(メタ)アクリル基がさらに好ましい。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記(メタ)アクリル基を有する多官能モノマーは、二官能または三官能以上の(メタ)アクリレート化合物であってもよい。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、二官能(メタ)アクリレート化合物の例には、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートおよびポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、三官能以上の(メタ)アクリレート化合物の例にはトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレートなどが含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記(メタ)アクリル基を有する多官能モノマーは、ウレタンアクリレートであってもよい。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記(メタ)アクリル基を有する多官能モノマーは、変性物であってもよい。変性物の例には、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物;カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のカプロラクトン変性(メタ)アクリレート化合物;およびカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のカプロラクタム変性(メタ)アクリレート化合物などが含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記アリルエーテル基を有する多官能モノマーは、二官能または三官能以上のアリルエーテル化合物であってもよい。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、二官能アリルエーテル化合物の例には、1,4-シクロヘキサンジメタノールジアリルエーテル、アルキレン(炭素数2〜5)グリコールジアリルエーテル、及びポリエチレングリコール(重量平均分子量:100〜4000)ジアリルエーテルなどが挙げられる。また、グリセリンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテルおよびポリグリセリン(重合度2〜5)ジアリルエーテルなどが含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、三官能以上のアリルエーテル化合物の例には、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、グリセリントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテルおよびテトラアリルオキシエタン、ならびにペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジグリセリントリアリルエーテル、ソルビトールトリアリルエーテルおよびポリグリセリン(重合度3〜13)ポリアリルエーテルなどが含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、前記ビニルエーテル基を有する多官能モノマーは、二官能、三官能または四官能以上のビニルエーテル化合物であってもよい。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、二官能ビニルエーテル化合物の例には、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールビニルエーテル、ブチレンジビニルエーテル、ジブチレングリコールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ノルボルニルジメタノールジビニルエーテル、イソバイニルジビニルエーテル、ジビニルレゾルシンおよびジビニルハイドロキノンなどが含まれる。
本発明の3D造形用組成液が含有することのできる、三官能以上のビニルエーテル化合物の例には、グリセリントリビニルエーテル、グリセリンエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数6)、トリメチロールプロパントリビニルエーテルおよびトリビニルエーテルエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数3)等の三官能ビニルエーテル化合物、ならびにペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンヘキサビニルエーテルおよびそれらのオキシエチレン付加物等の四官能以上のビニルエーテル化合物などが含まれる。
1−4.光開始剤
本発明の3D造形用組成液は、光開始剤を含有する。光開始剤としては、光ラジカル開始剤を用いることができる。
光ラジカル開始剤には、開裂型と水素引き抜き型とがある。本発明の3D造形用組成液は、少なくとも開裂型の光開始剤を含むことが好ましい。つまり、本発明の3D造形用組成液は、(a)開裂型と水素引き抜き型の両方の光開始剤を含有していてもよく、(b)開裂型の光開始剤のみを含有していてもよい。所望の効果に応じて、用いる光開始剤の種類を適宜使い分ければよい。
3D造形用組成液が、(a)開裂型と水素引き抜き型の両方の光開始剤を含有している場合は、開裂型の開始剤を質量比として多く含有していることが好ましい。光開始剤における水素引き抜き型開始剤の割合は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。
3D造形用組成液中に光開始剤として開裂型と水素引き抜き型の両方の種類の重合開始剤を含有していると、3D造形用組成液の硬化速度が上昇する。この理由は定かではないが、開裂型と水素引き抜き型の光開始剤が並存すると、水素引き抜き型の重合開始剤が増感剤のような役割を果たすために重合速度が向上するものと考えられる。これは通常の印刷に比べ、はるかに大きな時間を要する3D造形物の製造において、重要である。
3D造形用組成液が、(b)開裂型の光開始剤のみを含有している(水素引き抜き型の開始剤を含有していない)場合には、(a)開裂型と水素引き抜き型の両方の光開始剤を含有している場合と比較して、3D造形用組成液の硬化物の伸びまたは弾性が向上することがある。この理由は定かではないが、以下のように考えることができる。単官能モノマーの重合により得られる線状高分子間で、水素引き抜き型の重合開始剤によってグラフト反応が発生すると、不規則な架橋が生じることがある。架橋が規則的であれば、硬化物を伸長させた際に均一に力を受けるため、高い伸縮性を維持することができる。ところが、硬化物中に不規則な架橋があると、硬化物を伸長させた際に組成物中の特定の部位に応力が集中する。そのため、架橋部位または線状高分子鎖の破断を招くために、かえって伸びまたは弾性が低下すると考えられる。
そのため、3D造形物の作製スピードを早めることが求められる場合には、3D造形用組成液に、(a)開裂型と水素引き抜き型の両方の種類の重合開始剤を含有させることが好ましい。一方、硬化物の耐久性を重視する場合には、(b)開裂型の光開始剤のみを含有させる(水素引き抜き型の光開始剤を実質的に含有させない)ことが好ましい。
開裂型の光開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン系;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン類;2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系;ベンジルおよびメチルフェニルグリオキシエステルなどが含まれる。
水素引き抜き型の光開始剤の例には、ベンゾフェノン類(ベンゾフェノン、N,N-ジエチルベンゾフェノン、等)、チオキサントン類(2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、イソプロポキシクロロチオキサントン等)、アントラキノン類(エチルアントラキノン、ベンズアントラキノン、アミノアントラキノン、クロロアントラキノン等)、アクリジン類(9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9,9'-アクリジニル)ヘプタン等)等が含まれる。
3D造形用組成液における光開始剤の含有量は、活性光線や本発明で用いる各種モノマーの種類などにもよるが、0.01質量%〜10質量%であることが好ましい。
1−5.剥離剤
3D造形用組成液には、その硬化物と後述のサポート材組成液の硬化物との剥離を容易にするために、さらに剥離剤を含んでもよい。剥離剤は、インクの全質量に対して0.01質量%〜3.0質量%含有することが好ましい。0.01質量%未満では基材との剥離性が低下し、3.0質量%を超えると、硬化前の3D造形用組成液の液滴が合一しやすくなり、インク滲みの原因となることがある。
剥離剤としては、シリコン界面活性剤、フッ素界面活性剤、セバシン酸ステアリルのような高級脂肪酸エステルが挙げられるが、好ましくは、シリコン界面活性剤である。また、剥離剤は、3D造形用組成液および下記で述べるサポート材組成液のいずれかに含有させればよいが、両方に含有させることがより好ましい。
1−6.他のインク成分
本発明の3D造形用組成液には、必要に応じて光開始助剤や重合禁止剤などがさらに含まれていてもよい。光開始助剤は、たとえば第3級アミン化合物であってよく、芳香族第3級アミン化合物が好ましい。芳香族第3級アミン化合物の例には、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステル、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、トリエチルアミンおよびN,N-ジメチルヘキシルアミン等が含まれる。なかでも、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステルが好ましい。3D造形用組成液に、これらの化合物が、一種のみ含まれていてもよく、二種類以上が含まれていてもよい。
重合禁止剤の例には、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等が含まれる。
また、3D造形用組成液には、前記イオン性基を有する単官能モノマー、イオン性基を有しないモノマーまたは多官能モノマー以外の重合性化合物が含まれていてもよい。含まれていてもよい重合性化合物には、上記したもの以外のモノマー、重合度が2〜20であり重合性を有するオリゴマーおよび重合性を有するポリマー等が含まれる。
なお、本発明の3D造形用組成液には、エポキシ基を有する化合物等の、カチオン重合性の化合物が含まれてもよい。なお、ビニルエーテル基はラジカル重合およびカチオン重合のいずれの重合もすることができるため、ここでいうカチオン重合性の化合物には含めない。カチオン重合性の化合物の含有量は、組成物の全質量に対して0質量%以上10質量%以下とすることができるが、本発明の3D造形用組成液は、カチオン重合性の化合物を実質的に含まないことが好ましい。カチオン重合性の化合物を0質量%以上10質量%以下と少なくすることで、光硬化感度の低下を防ぎ、紫外線でも組成液を硬化させることが可能となる。カチオン重合性の化合物を実質的に含まないとは、組成液の全質量に対して、カチオン重合性の化合物の含有比が1質量%以下であることを意味する。
本発明の3D造形用組成液をインクジェットヘッドより出射する場合は、3D造形用組成液の粘度は100mPa.s以下であることが好ましい。
2.3D造形用インクセット
本発明の3D造形用組成液を、後述するUV−IJ法による3D造形物の製造方法におけるモデル材組成液として用いる場合、モデル材組成液としての本発明の3D造形用組成液を、サポート材組成液とあわせて3D造形用インクセットとしてもよい。サポート材組成液は、後述する3D造形物の製造方法における一態様において、3D造形物の空間部分を形作り、モデル材組成液としての本発明の3D造形用組成液を製造中に支えるために用いることができる。3D造形用インクセットに含まれるサポート材組成液は、特に限定されないものの、熱溶融するもの、または光硬化性でその硬化物が水溶性であるか、または水膨潤性であるものが好ましい。また、サポート材組成液の硬化物と、モデル材組成液の硬化物とが剥離しやすいことが好ましい。
熱溶融するものとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、エステルワックス、アミドワックス、PEG20000などのワックス類が挙げられる。光硬化性でその硬化物が水溶性であるか、または水膨潤性であるものとは、例えば、光重合性官能基(炭素炭素不飽和基など)を有する水溶性化合物(水溶性モノマー)と、光開裂型開始剤と、水と、を主成分とする光硬化樹脂組成物でありうるが、特に限定されない。サポート材組成液には、さらに水溶性高分子が含まれていてもよい。
サポート材組成液に含まれる水溶性モノマーの例には、水溶性(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンジアクリレート、ポリオキシプロピレンジアクリレート、アクロロイルモルホリン、ヒドロキシアルキルアクリレート;水溶性のアクリルアミドとして、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドなどが含まれる。サポート材組成液に含まれる水溶性高分子の例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコールなどが含まれる。サポート材組成液に含まれる光開裂型開始剤の例には、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-メチル-1-プロパン-1-オンなどが挙げられるが、特に限定されない。
サポート材組成液をインクジェットヘッドより出射する場合は、サポート材組成液の粘度は100mPa.s以下であることが好ましい。
3.3D造形物の製造方法
本発明の3D造形物の製造方法は、上記した3D造形用組成液に活性光線を照射する工程を含む。活性光線としては、特に限定されることはないが、紫外線、電子線、レーザー光などを用いることができる。
UV−IJ法では、インクジェットを用いて3D造形用組成液を基材に塗布して、基材に着弾した3D造形用組成液に活性光線を照射して硬化させる。その後、塗布と硬化を繰り返すことで、3D造形物を製造する。SLA法では、容器に入れられた3D造形用組成液に活性光線を照射して、照射された3D造形用組成液を硬化させる。その後、硬化された3D造形用組成液を一層分の厚さだけ降下させた後、再度活性光線を照射してその上の層を硬化させていく。
活性光線が紫外線である場合、活性光線照射部(紫外線照射手段)の例には、蛍光管(低圧水銀ランプ、殺菌灯)、冷陰極管、紫外レーザー、数100Pa〜1MPaまでの動作圧力を有する低圧、中圧、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプおよびLED(発光ダイオード)等が含まれる。硬化性の観点から、照度100mW/cm以上の紫外線を照射する紫外線照射手段;具体的には、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプおよびLED等が好ましく、消費電力が少ない点から、LEDがより好ましい。具体的には、Phoseon Technology社製 395nm、水冷LEDを用いることができる。
活性光線が電子線である場合、活性光線照射部(電子線照射手段)の例には、スキャニング方式、カーテンビーム方式、ブロードビーム方式等の電子線照射手段が含まれる。処理能力の観点から、カーテンビーム方式の電子線照射手段が好ましい。電子線照射手段の例には、日新ハイボルテージ(株)製の「キュアトロンEBC−200−20−30」、AIT(株)製の「Min−EB」等が含まれる。
活性光線が電子線である場合、電子線照射の加速電圧は、十分な硬化を行うためには、30〜250kVとすることが好ましく、30〜100kVとすることがより好ましい。加速電圧が100〜250kVである場合、電子線照射量は30〜100kGyであることが好ましく、30〜60kGyであることがより好ましい。
活性光線がレーザー光である場合、半導体励起固体レーザー、Arレーザー、He−Cdレーザーなどの紫外線レーザーを用いることができる。
本発明の3D造形用組成液は、カチオン重合性の化合物の含有量を実質的に含まないため、最もエネルギー負荷、装置負荷が少ない紫外線でも十分に硬化させることができる。したがって、紫外線以上にエネルギーが高い電子線、レーザー光を使用しても良いが、紫外線を用いることで、より安価で3D造形物を製造することができる。
3−1.UV−IJ法による3D造形物の製造方法
UV−IJ法による3D造形物の製造方法では、上述の3D造形用組成液を含むモデル材組成液と、サポート材組成液と、を用いることが好ましい。3D造形物の造形過程において、3D造形用組成液の硬化前後の物理的・化学的性質が変化する。そのため、上述の3D造形用組成液を含むモデル材組成液と後述するサポート材組成液とを用いることによって、モデル材組成液の形状を維持しながら製造していくことがより好ましい。3D造形用組成液の硬化物とサポート材組成液の硬化物とは、剥離が比較的容易である。
このとき、サポート材組成液をインクジェットで吐出して3D造形物の空間部分を形作り、モデル材組成液をインクジェットで吐出して3D造形物を形作る。サポート材組成液とモデル材組成液とを同時に吐出してもよいし、サポート材組成液を先に吐出して、その後モデル材組成液を吐出してもよい。インクジェットで吐出したサポート材組成液およびモデル材組成液の少なくとも一方を含む第nの膜を硬化させて第nの硬化層を形成し、その上に同様に吐出した第n+1の膜を硬化させると、第n+1の膜は、第nの硬化層とも接着して硬化するため、積層方向にも接着しながら硬化していく。こうしてすべての硬化層を形成したあと、サポート材組成液の硬化物を除去することで、目的の3D造形物を得ることができる。
UV−IJ法による具体的な製造方法の例は、3D造形物の各層におけるモデル材組成液およびサポート材組成液の吐出位置を表す複数の平面データに含まれる第1の平面データに基づいて、モデル材組成液およびサポート材組成液の少なくともいずれか一方をインクジェットヘッドのノズルから基材上に吐出して第1の膜を形成し、前記第1の膜を光硬化させて第1の硬化層を形成する工程と、前記複数の平面データに含まれる第n(nは2以上の整数)の平面データに基づいて、モデル材組成液およびサポート材組成液の少なくともいずれか一方をインクジェットヘッドのノズルから第n−1の硬化層上に吐出して第nの膜を形成し、第nの膜を光硬化させて第nの硬化層を形成する工程とを有し、第nの膜を形成し第nの硬化層を形成する工程を少なくとも1回以上行い、その後サポート材組成液を除去する工程をさらに有する。
なお、上記UV−IJ法による具体的な製造方法は、CAD(Computer Aided Design)データを3D造形用データであるSTL(Stereo Lithography)データに変換する工程、およびSTLデータに基づいて前記複数の平面データを作成する工程をさらに有していてもよい。また、購入する等の方法で入手したSTLデータまたは複数の平面データを用いてもよい。
3−2.UV−IJ法による3D造形システムおよび装置
図1には、UV−IJ法による3D造形システムの例の概要が示される。図1に示されるUV−IJ法による3D造形システムは、インクジェット部1に、上下(図面Z方向)に駆動する駆動手段(図示省略)を備えるステージ11と、左右(図面XY方向)に移動可能にレール(図示省略)上に配置された、モデル材組成液またはサポート材組成液を吐出するインクジェット装置12と、を有する。
インクジェット装置12は、モデル材組成液用インクジェットヘッド13と、サポート材組成液用インクジェットヘッド14と、膜厚調整用ローラ15と、光源16とを備える。モデル材組成液用インクジェットヘッド13およびサポート材組成液用インクジェットヘッド14は、それぞれ吐出用のノズルを有する。モデル材組成液用インクジェットヘッド13は、配管13aを介してポンプ13bと光硬化性組成物タンク13cに連通する。光硬化性組成物タンク13cには、本願発明の3D造形用組成液を含むモデル材組成液を入れることができる。サポート材組成液用インクジェットヘッド14は、配管14aを介してポンプ14bと光硬化性組成物タンク14cに連通する。光硬化性組成物タンク14cには、サポート材組成液を入れることができる。
図1に示すように、UV−IJ法による3D造形システムは、さらに演算制御部2と、CADデータ等の3D造形用データを入力するための入力装置4と、CADデータから変換されたSTLデータや、STLデータから得られたスライスデータを出力する出力装置5と、STLデータや仮想3D造形物等を表示する表示装置6と、3D造形物を製造するために必要な種々の情報、例えばロット番号と、CADデータ番号、STLデータ番号、モデル材組成液およびサポート材組成液を含む光硬化性組成物セットの番号等を関連付けて記録するための記憶装置3とを有する。
演算制御部2は、CADデータに基づいてSTLデータを算出するSTL演算手段21と、所望の3D造形物にあった光硬化性組成物セットを選択するよう情報を送るインクセット制御手段22と、ステージを駆動させる情報を送るステージ制御手段23と、モデル材組成液またはサポート材組成液を吐出させる情報を送るインクジェット制御手段24と、所望の厚さになるよう層を研磨する情報を送るローラ制御手段25と、吐出された光硬化性組成物を硬化させるために光照射するよう情報を送るUV光源制御手段26と、を備える。
演算制御部2は、CPU等の通常のコンピュータシステムで用いられる演算装置等で構成すればよい。入力装置4としては、例えばキーボード、マウス等のポインティングデバイスが挙げられる。出力装置5としては、例えばプリンタ等が挙げられる。表示装置6としては、例えば液晶ディスプレイ、モニタ等の画像表示装置等が挙げられる。記憶装置3としてはROM、RAM、磁気ディスクなどの記憶装置が使用可能である。
3−3.UV−IJ法による3D造形システムを用いた3D造形物の製造フロー
図1に示すUV−IJ法による3D造形システムを用いるUV−IJ法による3D造形物の製造方法について、図2のフロー図を参照しながら詳細に説明する。
(イ)ステップS101において、例えばCADデータを入力する。そしてステップS102において、CADデータを3D造形用データとしてのSTLデータに変換する。なお、STLデータから形成される仮想3D造形物を出力装置5上に表示して所望の形状が形成されるか否かを確認し、所望の形状が形成されない場合は、STLデータに修正を加えてもよい。
(ロ)ステップS103において、図3に示すように仮想3D造形物を図3のZ方向において複数の薄片状の層に微分割し、各層におけるモデル材組成液の吐出位置データを得る。また、各平面データにおいて、モデル材組成液を支持または固定するためのサポート材組成液の吐出位置データも併せて作成する。モデル材組成液のX,Y方向の周囲にサポート材組成液を吐出することで、いわゆるオーバーハング部分、例えば「K」の字の第二画目部分等を下方からサポート材組成液で支持することができる。モデル材組成液の吐出位置データとサポート材組成液の吐出位置データを同じ層ごとに組み合わせて、本発明における「第1の平面データD1、第2の平面データD2、…第Xの平面データDX」を得る。
(ハ)ステップS105において、仮想3D造形物のデータや複数の平面データに基づいて、最適な光硬化性組成物セットを用意する。
(ニ)ステップS108において、第1の平面データD1に基づき、駆動手段を作動させてステージとインクジェット装置との相対的な位置を合わせる。
(ホ)ステップS110において、図4に示すように、第1の平面データD1に基づいてインクジェットの位置を制御して、ステージ上の適切な位置にモデル材組成液(Ma)およびサポート材組成液(S)の少なくともいずれか一方をインクジェットヘッドのノズルから吐出していき、第1の膜を形成する。各ノズルから吐出される1滴あたりの液滴量は、画像の解像度にもよるが、1pl〜70plが好ましく、2〜50plがより好ましい。その後、ステップS112において、活性光線を照射して第1の膜を光硬化させて第1の硬化層を得る。なお、第1の硬化層の厚みが均一であるか否かを確認し、均一でない場合は厚い部分を研磨して、第1の硬化層の厚さを均一にすることが好ましい。なお、硬化後の各硬化層の厚さは、1〜25μm程度であることが好ましい。
活性光線の照射は、3D造形用組成液滴が記録媒体上に付着した後10秒以内、好ましくは0.001秒〜5秒以内、より好ましくは0.01秒〜2秒以内に行う。隣り合う3D造形用組成液滴同士が合一するのを抑制するためである。活性光線の照射は、1層分の3D造形用組成液を吐出した後に行われることが好ましい。
(ヘ)ステップS114において、形成すべき層がさらにあるかを判定する。形成すべき層がさらにある場合は、ステップS108に戻り、図5に示すように、ひとつの硬化層の厚さ分だけ、ステージ11の位置を下方(Z方向)に移動させる。その後、ステップS110、S112により第nの硬化層を第n−1の硬化層上に形成する。そして、図6、図7に示すように、最終層(第Xの硬化層)が積層されるまで、ステップS108、S110、S112、S114の手順を繰り返して複数の層を積層させる。ステップS114において、形成すべき層がこれ以上はない場合は、ステップS116に移行する。
(ト)ステップS116において、サポート材組成液の硬化物を除去する。例えば、サポート材組成液の硬化物を水で膨潤させて除去する。この除去工程と併せて、他の除去工程、例えばサポート材組成液の硬化物に高圧水を噴霧してモデル材の硬化物からサポート材組成液の硬化物を除去してもよい。
以上により、図8に示すような、3D造形物Mを作製することができる。
[実施形態の変形例]
以上に記載した実施形態においては、モデル材組成液用のインクジェットヘッドが1つの例を示したが、モデル材組成液用のインクジェットヘッド数は1つに制限されない。例えばモデル材組成液用に2つのインクジェットヘッドを設け、各インクジェットヘッドのノズルから物性が異なるモデル材組成液を同時に吐出し、モデル材組成液を混合させて複合材料として造形することもできる。
(実施例1)
(モデル材組成液の調製)
2−アクリロイロキシヘキサヒドロフタル酸(対イオン:水素) 5質量部
フェノキシエチルアクリレート 58.6質量部
イソボルニルアクリレート 15質量部
イソステアリルアクリレート 10質量部
トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート 15質量部
2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(TPO) 1質量部
2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン(DETX) 0.3質量部
KF−969(シリコンオイル) 0.1質量部
を混合加熱溶解して、モデル材組成液とした。
(サポート材組成液の調製)
ポリオキシエチレン(n≒9)ジアクリレート40gと、水60gと、光開始剤irgacure2959(BASF社製)5gと、シリコン界面活性剤(TSF−4452)0.1gとを混合して溶解させサポート材組成液とした。
(3D造形物の製造)
ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、サポート材組成液を、コニカミノルタIJ社製のインクジェットヘッドKM512MHを用いて、サポート層を形成した。具体的には、1ドットあたりの液滴量を14plとし、720dpi×720dpiで液滴を出射した。着弾した液滴に、高圧水銀灯により光量400ml/cmの紫外線を照射して、硬化させる操作を繰り返して、10cm×2cm、厚さ1mmのサポート層を形成した。
形成したサポート層の上に、モデル材組成液を用いて、サポート層の作製と同じ方法で10cm×2cm、厚さ5mmのモデル層を形成した。次に、サポート層とモデル層との積層体を水に浸すことで、モデル層をポリエチレンテレフタレートフィルムとサポート層から分離させて、3D造形物(硬化膜)を得た。
モデル材組成液の組成を表1〜表3に記載のように変更し、それぞれについて同様の手順によって3D造形物を得た。
[降伏応力、破断伸びおよび破断応力の測定]
室温で、走査方向、および積層方向に引張速度 20mm/minで一定荷重をかけて降伏応力、破断時の破断伸びおよび破断応力を測定した。
[総合評価]
総合評価は以下の基準で行った。
○:降伏応力 25MPa以上、かつ、0.85<=破断応力/降伏応力<=1.2 かつ 破断伸び 5%以上
△:降伏応力 15MPa以上、かつ、0.6<破断応力/降伏応力<=1.7 かつ 破断伸び 3%以上で、○以外のもの
×:降伏点までに破壊された場合、または、上記条件よりも悪い場合
Figure 0006269340
Figure 0006269340
Figure 0006269340
本発明の3D造形用組成液を用いて製造した3D造形物は、降伏応力、破断応力および破断伸びのバランスがよく、高い靱性を有していた。また、今回の実施例で検討したインクは、すべて出射性は良好であった。
本発明の3D造形用組成液は紫外線によって硬化することができ、その硬化物は高い靱性を有する。そのため、3D造形によって、好ましい特性を有する試作品を廉価に製造することができる。
1 インクジェット部
2 演算制御部
3 記憶装置
4 入力装置
5 出力装置
6 表示装置
11 ステージ
12 インクジェット装置
13 モデル材用インクジェットヘッド
14 サポート材用インクジェットヘッド
16 光源

Claims (8)

  1. エチレン重合性基を有する少なくとも2種類の単官能モノマーとエチレン重合性基を有する多官能モノマーと光開始剤とを含有する3D造形用組成液であって、
    該単官能モノマーは、イオン性基を有する単官能モノマーおよびイオン性基を有しない単官能モノマーを含み、
    該組成液は、該イオン性基の対イオンをさらに含有する、組成液。
  2. 前記イオン性基を有しない単官能モノマーは、芳香族基を有するモノマーおよび脂環式基を有するモノマーの少なくともいずれかを含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成液。
  3. 前記イオン性基はカルボン酸基およびリン酸基の少なくともいずれかであり、前記対イオンは1〜3価の陽イオンである、請求項1または2に記載の組成液。
  4. 前記イオン性基は3級アミノ基および4級アンモニウム基の少なくともいずれかであり、前記対イオンは1〜3価の陰イオンである、請求項1または2に記載の組成液。
  5. 該組成液は、組成液の全質量に対するカチオン重合性の化合物の含有比が1質量%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成液。
  6. 剥離剤をさらに含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成液。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成液と、サポート材組成液とを含む、3D造形用インクセット。
  8. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成液に紫外線を照射する工程を有する、3D造形物の製造方法。
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