以下に、本発明に係る車両制御システム及び車両の制御方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
[実施例]
本発明に係る車両制御システム及び車両の制御方法の実施例を図1から図5に基づいて説明する。
本実施例の車両制御システムには、本システムに関わる制御を実施する制御装置を設けている。その制御装置は、図1に示すように、車両の走行に関わる制御を行う電子制御装置(以下、「走行制御ECU」という。)1と、機関2の制御を行う電子制御装置(以下、「機関ECU」という。)3と、変速機4の制御を行う電子制御装置(以下、「変速機ECU」という。)5と、を備える。走行制御ECU1は、機関ECU3や変速機ECU5との間でセンサの検出情報や演算処理結果等の授受を行う。また、走行制御ECU1は、機関ECU3や変速機ECU5に指令を送り、その指令に応じた機関2の制御を機関ECU3に実施させ、また、その指令に応じた変速機4の制御を変速機ECU5に実施させる。
機関2とは、所謂エンジンであって、動力(機関トルク)を出力する内燃機関や外燃機関のことをいう。この機関2は、機関ECU3の機関制御部によって、始動、停止、出力制御等が実施される。尚、この機関2は、後述する走行中の機関停止状態から再始動させるためのスタータモータ2aを備えている。
変速機4としては、機関2側と駆動輪W側とを切り離して、その間の動力伝達を断つことができるもの、つまり変速機4の入出力間の動力伝達を自動的に断接可能な自動変速機を用いる。具体的に、この変速機4は、後述する例示のように、変速部(変速比の変更を担う部分)よりも機関2側と当該変速部よりも駆動輪W側とに各々制御可能な動力断接装置を備える。この変速機4の変速部とは、動力伝達部材間の滑りを抑えるための挟圧力を発生させることで、入出力間の動力伝達を可能にするものである。例えば、この変速部は、ベルト式の無段変速機、トロイダル式の無段変速機のようなトラクションドライブなどである。そして、この変速部の動力伝達部材とは、ベルト式の無段変速機であれば、プライマリプーリやセカンダリプーリやベルト等であり、トロイダル式の無段変速機であれば、パワーローラや入出力ディスク等である。
本実施例の変速機4は、図2に示すように、トルクコンバータ10と前後進切替装置20と変速機本体(変速部)30とを備えたベルト式の無段変速機である。
トルクコンバータ10は、変速機4のハウジング(図示略)内に収容されたポンプインペラ11とタービンランナ12とステータ13とを有し、そのハウジング内に流体(所謂ATF)が充填された流体伝動装置である。ポンプインペラ11には、機関2の出力軸(例えばエンジン回転軸)101が接続される。このポンプインペラ11と出力軸101は、互いに一体になって回転することができる。また、タービンランナ12は、タービン軸41を介して前後進切替装置20に接続する。また、ステータ13は、ハウジングに接続されている。
前後進切替装置20は、車両の前進と後進とを切り替えるための装置である。この前後進切替装置20は、第1クラッチCL1とブレーキBKと動力伝達機構21とを備える。
第1クラッチCL1とブレーキBKは、2つの係合要素を備えたいわゆる摩擦係合装置である。この第1クラッチCL1とブレーキBKの係合動作又は解放動作は、油圧制御装置51(図1)における作動油の調圧によって実施される。
その油圧制御装置51とは、作動油の油圧を調整するための油圧制御回路のことである。この油圧制御装置51は、図示しないが、第1クラッチCL1への作動油の油圧(供給油圧)を調整するための第1クラッチ圧調圧回路(例えばクラッチ圧の調圧弁)と、ブレーキBKへの作動油の油圧(供給油圧)を調整するためのブレーキ圧調圧回路(例えばブレーキ圧の調圧弁)と、を備える。更に、この油圧制御装置51は、後述する第2クラッチCL2への作動油の油圧を調整するための第2クラッチ圧調圧回路を備える。その第1クラッチ圧調圧回路と第2クラッチ圧調圧回路は、その動作が変速機ECU5のクラッチ制御部によって制御される。ブレーキ圧調圧回路は、その動作が変速機ECU5のブレーキ制御部によって制御される。
クラッチ制御部は、その第1クラッチ圧調圧回路を制御し、第1クラッチCL1への供給油圧を調整することで、この第1クラッチCL1を半係合状態又は完全係合状態又は解放状態に制御することができる。また、第2クラッチCL2も後述するように2つの係合要素を備えた摩擦係合装置なので、クラッチ制御部は、第2クラッチ圧調圧回路を制御し、第2クラッチCL2への供給油圧を調整することで、この第2クラッチCL2を半係合状態又は完全係合状態又は解放状態に制御することができる。また、ブレーキ制御部は、ブレーキ圧調圧回路を制御し、ブレーキBKへの供給油圧を調整することで、このブレーキBKを半係合状態又は完全係合状態又は解放状態に制御することができる。半係合状態とは、それぞれの係合要素が互いに接しながら相対回転可能な係合状態(つまり係合要素間で滑りを発生させることのできる係合状態)のことである。このため、半係合状態に制御するには、第2クラッチCL2の係合要素間を滑らせながら当該第2クラッチCL2の係合状態を維持するように、この第2クラッチCL2に供給する油圧を制御する。完全係合状態とは、それぞれの係合要素が互いに接しながら一体になって回転可能な係合状態のことである。解放状態とは、それぞれの係合要素が互いに接していない状態のことである。
クラッチ制御部は、解放状態のときに供給油圧を第1油圧まで増圧させることによって、第1クラッチCL1や第2クラッチCL2を半係合状態に制御することができる。つまり、その第1油圧は、例えば半係合状態においての下限供給油圧であり、第1クラッチCL1や第2クラッチCL2のパックエンド圧(ストロークエンド圧)に半係合状態保持分の最低油圧Px1を加えたものである。また、クラッチ制御部は、半係合状態のときに供給油圧を第2油圧(>第1油圧)まで増圧させることによって、第1クラッチCL1や第2クラッチCL2を完全係合状態に制御することができる。つまり、その第2油圧は、例えば完全係合状態においての下限供給油圧であり、パックエンド圧に完全係合状態保持分の最低油圧Px2(>Px1)を加えたものである。このクラッチ制御部は、完全係合状態を保つためのマージンとして、供給油圧を更に第3油圧(>第2油圧)まで増圧させることができる。
一方、クラッチ制御部は、完全係合状態のときに供給油圧を第2油圧まで減圧させることによって、低い供給油圧で完全係合状態を保つことができる。そして、このクラッチ制御部は、完全係合状態のときに供給油圧を第2油圧よりも低い油圧(>第1油圧)まで減圧させることによって、第1クラッチCL1や第2クラッチCL2を半係合状態に制御することができ、半係合状態のときに供給油圧を第1油圧よりも低い油圧(パックエンド圧以下の油圧)まで減圧させることによって、第1クラッチCL1や第2クラッチCL2を解放状態に制御することができる。このため、クラッチ制御部は、供給油圧を第2油圧で保持しておくことによって、そこから供給油圧を減圧させた際に、完全係合状態から半係合状態、半係合状態から解放状態へと、第1クラッチCL1や第2クラッチCL2を順次応答性良く移行させることができる。つまり、その第2油圧は、第1クラッチCL1や第2クラッチCL2を応答性良く完全係合状態から解放させる際の下限側の待機油圧といえる。
ここで、第1油圧と第2油圧と第3油圧は、それぞれに作動油の油温に応じて変化する閾値である。このため、変速機ECU5には、その第1油圧と第2油圧と第3油圧を各々設定する閾値設定部を設けている。閾値設定部は、例えば、油温センサ71の検出信号に基づいて第1油圧と第2油圧と第3油圧を設定する。その油温センサ71は、変速機4の作動油の油温を検出する。尚、この例示の第1クラッチCL1と第2クラッチCL2とでは、変速比γの関係から、後述するように第2クラッチCL2の方が第1クラッチCL1よりもクラッチトルク容量が大きくなっている。従って、第1油圧と第2油圧と第3油圧は、それぞれ第1クラッチCL1と第2クラッチCL2とで大きさが異なる。
更に、油圧制御装置51は、後述する変速機本体30の作動油室34への作動油の油圧(供給油圧)を調整するためのプライマリ圧調圧回路(例えばプライマリ圧の調圧弁)と、後述する変速機本体30の作動油室35への作動油の油圧(供給油圧)を調整するためのセカンダリ圧調圧回路(例えばセカンダリ圧の調圧弁)と、を備える。プライマリ圧調圧回路は、その動作が変速機ECU5の変速制御部によって制御される。セカンダリ圧調圧回路は、その動作が変速機ECU5の挟圧制御部によって制御される。
この例示の動力伝達機構21は、サンギヤSとキャリアCとリングギヤRと第1及び第2のピニオンギヤP1,P2とを備えるダブルピニオン型の遊星歯車機構である。サンギヤSは、タービン軸41に接続され、このタービン軸41と一体になって回転することができる。更に、このサンギヤSとタービン軸41は、第1クラッチCL1の一方の係合要素に接続され、この係合要素と一体になって回転することができる。また、キャリアCは、第1クラッチCL1の他方の係合要素に接続され、この係合要素と一体になって回転することができる。更に、このキャリアCと第1クラッチCL1の他方の係合要素は、変速機本体30の入力軸42に接続され、この入力軸42と一体になって回転することができる。また、リングギヤRは、ブレーキBKの一方の係合要素に接続され、この係合要素と一体になって回転することができる。ここで、そのブレーキBKの他方の係合要素は、変速機4のケース(図示略)に接続されている。
車両を前進させる場合には、第1クラッチCL1を完全係合させ、かつ、ブレーキBKを解放させることで、機関トルクを変速機本体30に伝える。また、車両を後進させる場合には、第1クラッチCL1を解放させ、かつ、ブレーキBKを完全係合させることで、機関トルクを前進時とは逆向きにして変速機本体30に伝える。尚、その第1クラッチCL1とブレーキBKは、イグニッションがオフのときに共に解放させる。
この例示では、後述するように、その第1クラッチCL1を変速部よりも機関2側に配置した動力断接装置として用いる。つまり、その第1クラッチCL1は、前進時の係合対象や後進時の解放対象であると共に、機関2側と駆動輪W側とを切り離す際の動力断接装置となる。
変速機本体30は、プライマリプーリ31と、セカンダリプーリ32と、これらに巻き掛けられたベルト33と、を備える。プライマリプーリ31には、変速機本体30の入力軸42が一体になって回転できるように接続されている。セカンダリプーリ32には、変速機本体30の出力軸43が一体になって回転できるように接続されている。この変速機本体30においては、その入力軸42と出力軸43との間で変速比γが無段階に切り替えられる。
プライマリプーリ31とセカンダリプーリ32には、それぞれに作動油室34,35が設けられている。変速機ECU5の変速制御部は、油圧制御装置51を制御することによって、プライマリプーリ31の作動油室34の油圧(以下、「プライマリ圧」という。)を調圧し、変速比γを変化させる。また、変速機ECU5の挟圧制御部は、油圧制御装置51を制御することによって、セカンダリプーリ32の作動油室35の油圧(以下、「セカンダリ圧」という。)を調圧し、ベルト挟圧力を制御する。この変速機本体30においては、そのベルト挟圧力の制御によってベルト33のプライマリプーリ31やセカンダリプーリ32に対する滑りを抑制する。
変速機本体30の出力軸43は、第2クラッチCL2を介して減速機110に接続される。その第2クラッチCL2は、前述した変速部よりも駆動輪W側に配置した動力断接装置として用いる。具体的に、この第2クラッチCL2は、2つの係合要素を備えた摩擦係合装置である。この第2クラッチCL2は、一方の係合要素が出力軸43と一体になって回転し、他方の係合要素が減速機110の一方の歯車の回転軸と一体になって回転することができる。この第2クラッチCL2の係合動作又は解放動作は、変速機ECU5のクラッチ制御部が油圧制御装置51を制御することによって行われる。尚、第2クラッチCL2は、変速機本体30と駆動輪W(具体的には下記の差動装置120)との間の何れかの位置に配置すればよい。
減速機110は、差動装置120に連結される。よって、この車両においては、機関2の動力が変速機4や減速機110等を介して駆動輪Wに伝えられる。
この変速機4における作動油には、メカオイルポンプ61A又は電動オイルポンプ61Bから吐出されたものを利用する。
メカオイルポンプ61Aから吐出された作動油は、油圧制御装置51を介して、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、ブレーキBK、プライマリプーリ31の作動油室34及びセカンダリプーリ32の作動油室35に供給される。このメカオイルポンプ61Aは、機関2の回転に応じた動力(つまり機関トルク)と駆動輪Wの回転に応じた動力の内の一方を駆動力として用いる。その駆動力は、回転軸44に伝達され、歯車対62a,62bを介してメカオイルポンプ61Aの駆動軸45に伝えられる。具体的に、この例示のメカオイルポンプ61Aは、機関2側の回転(ポンプインペラ11の回転)に伴う駆動軸45の回転数と駆動輪W側の回転(入力軸42の回転)に伴う駆動軸45の回転数の内の高回転側によって駆動する。尚、その駆動力は、歯車対62a,62bを介さずにメカオイルポンプ61Aの駆動軸45に伝えてもよい。この変速機4には、第1動力伝達装置63と第2動力伝達装置64とが設けられている。
第1動力伝達装置63は、図示しない歯車等と共に一方向クラッチ63aを備える。その一方向クラッチ63aは、回転軸44と一体になって回転する一方の係合要素と、回転軸46と一体になって回転する他方の係合要素と、を備える。その回転軸46には、ポンプインペラ11のトルクが伝達される。この一方向クラッチ63aは、そのトルクによって回転している回転軸46が回転軸44に対して正転しているときにのみ係合して、この回転軸44,46を一体になって回転させることができる。よって、この一方向クラッチ63aは、係合時にポンプインペラ11のトルクを回転軸44に伝えることができる。尚、ここでいう正転とは、機関2の動力で前進しているときの回転軸46の回転方向のことである。
一方、第2動力伝達装置64は、図示しない歯車等と共に一方向クラッチ64aを備える。その一方向クラッチ64aは、回転軸44と一体になって回転する一方の係合要素と、回転軸47と一体になって回転する他方の係合要素と、を備える。その回転軸47には、入力軸42のトルクが伝達される。この一方向クラッチ64aは、そのトルクによって回転している回転軸47が回転軸44に対して正転しているときにのみ係合して、この回転軸44,47を一体になって回転させることができる。よって、この一方向クラッチ64aは、係合時に入力軸42のトルクを回転軸44に伝えることができる。尚、この第2動力伝達装置64は、その入力軸42のトルクに替えて、第2クラッチCL2と駆動輪Wとの間のトルク(例えば減速機110のトルク)を回転軸44に伝えるよう構成してもよい。また、ここでいう正転とは、機関2の動力で前進しているときの回転軸47の回転方向のことである。
通常走行の前進時(第1クラッチCL1が完全係合し、ブレーキBKが解放しているとき)は、回転軸44に対して、第1動力伝達装置63の回転軸46と第2動力伝達装置64の回転軸47とが各々同一の回転方向に回っている。その際、回転軸46の方が回転軸47よりも高回転のときには、第1動力伝達装置63の一方向クラッチ63aが係合状態となり、第2動力伝達装置64の一方向クラッチ64aが解放状態となるので、ポンプインペラ11のトルク(つまり機関トルク)によってメカオイルポンプ61Aが駆動させられる。一方、回転軸47の方が回転軸46よりも高回転のときには、第1動力伝達装置63の一方向クラッチ63aが解放状態となり、第2動力伝達装置64の一方向クラッチ64aが係合状態となるので、入力軸42のトルクによってメカオイルポンプ61Aが駆動させられる。尚、通常走行とは、機関2の動力を駆動輪Wに伝えて走行している走行状態のことをいう。
通常走行の後進時(第1クラッチCL1が解放し、ブレーキBKが完全係合しているとき)は、回転軸44に対して、第1動力伝達装置63の回転軸46が正転する一方、第2動力伝達装置64の回転軸47が逆転する。このため、後進時には、一方向クラッチ63aが係合状態となり、一方向クラッチ64aが解放状態となるので、ポンプインペラ11のトルク(機関トルク)によってメカオイルポンプ61Aが駆動させられる。
後述する惰性走行(フリーランS&S走行又は減速S&S走行)においては、第1クラッチCL1とブレーキBKが共に解放しており、かつ、機関2が停止している。このため、惰性走行時には、停止中の第1動力伝達装置63の回転軸46に対して第2動力伝達装置64の回転軸47が正転しているので、第1動力伝達装置63の一方向クラッチ63aが解放状態となり、第2動力伝達装置64の一方向クラッチ64aが係合状態となる。よって、惰性走行時は、入力軸42のトルク(駆動輪Wの回転トルク)によってメカオイルポンプ61Aが駆動させられるので、そのメカオイルポンプ61Aから変速機4の作動油が吐出される。
尚、その第1動力伝達装置63と第2動力伝達装置64は、一方向クラッチ63a,64aを摩擦クラッチやドグクラッチ等の別の係合装置に置き換えてもよい。その場合、その係合装置の係合状態と解放状態は、変速機ECU5のクラッチ制御部に制御させる。そのクラッチ制御部は、例えば、惰性走行の場合、第1動力伝達装置63の係合装置を解放させ、第2動力伝達装置64の係合装置を完全係合させる。
ここで、この変速機4には、図1に示すように、電動機65によって駆動させられる電動オイルポンプ61Bを設けている。変速機ECU5のポンプ制御部は、その電動機65を介して電動オイルポンプ61Bを駆動させる。その電動オイルポンプ61Bから吐出された作動油は、油圧制御装置51を介して、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2に供給させる。
ところで、この車両は、機関2側を駆動輪Wから切り離して惰性で走行(惰性走行)させることができる。このため、走行制御ECU1には、惰性走行(惰行)に関わる制御(以下、「惰行制御」という。)を行う惰行制御部が設けられている。その惰行制御部は、所定の惰性走行の実行条件が成立したときに、前進の通常走行中に第1クラッチCL1を解放させることによって、変速機4において機関2側を駆動輪W側から切り離す。これにより、この車両は、機械的な負荷(摩擦損失やポンピングロス等)を減少させた惰性走行を行うことができる。
この例示の車両には、複数種類の惰性走行モードが用意されている。具体的には、少なくともフリーランストップ&スタート(以下、「フリーランS&S」という。)走行モードと減速ストップ&スタート(以下、「減速S&S」という。)走行モードが用意されている。そのフリーランS&S走行と減速S&S走行は、機関2側を駆動輪W側から切り離し、かつ、機関2を停止させて行う惰性走行のことである。
その惰性走行モードを実施するため、走行制御ECU1には、フリーランS&S走行モードに関わる制御(以下、「フリーランS&S制御」という。)を行うフリーランS&S制御部と、減速S&S走行モードに関わる制御(以下、「減速S&S制御」という。)を行う減速S&S制御部と、が惰行制御部として設けられている。また、この走行制御ECU1には、そのフリーランS&S走行モードと減速S&S走行モードの内の何れを使うのかを選択する惰行モード選択部が設けられている。その選択は、所定車速VMを閾値にして行う。
ところで、惰性走行中(フリーランS&S走行中又は減速S&S走行中)は、機関2の動力が使えないので、例えば図3に示すように、車速Vが低いほどメカオイルポンプ61Aからの作動油の吐出圧Pmopが低下する。その吐出圧Pmopは、車両が停車する前に0になる。このため、その吐出圧Pmopの低下時には、メカオイルポンプ61Aを用いて、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、ブレーキBK、プライマリプーリ31の作動油室34及びセカンダリプーリ32の作動油室35における全ての必要油圧を賄うことが難しい。
但し、この例示では、電動オイルポンプ61Bから吐出された作動油の吐出圧Peop(=Peop1)で第1クラッチCL1と第2クラッチCL2の必要油圧を賄うことができる。また、惰性走行中は、ブレーキBKが解放されているので、このブレーキBKへの供給油圧が不足する事態を考慮に入れる必要はない。また、プライマリプーリ31の作動油室34については、変速機本体30の変速比γを一定に保持させるのであれば(例えば減速S&S走行モードでは変速比γを最大変速比γmaxに保持している)、作動油室34への供給油圧が不足する事態も考慮に入れる必要はない。
ここで、セカンダリプーリ32の作動油室35には、ベルト33の滑りを抑制するための必要油圧Pspが供給される。その必要油圧Pspは、車速Vの低下と共に徐々に低くなり、停車時(V=0)に略0になる。また、この必要油圧Pspは、その変化勾配が制動力の大きさによって変わる。この必要油圧Pspの変化勾配は、制動力が大きいほど、つまり急制動になるほど大きくなる。このように作動油室35の必要油圧Pspは、車速Vや制動力によって変化する。
例えば、この必要油圧Pspの変化勾配は、メカオイルポンプ61Aの吐出圧Pmopの変化勾配と異なる場合がある。このため、この場合、必要油圧Pspの変化の線と吐出圧Pmopの変化の線とが交差するので、セカンダリプーリ32の作動油室35では、その交差部分よりも低速の領域において、供給油圧が必要油圧Pspに対して不足してしまう。
図3には、その吐出圧Pmopと必要油圧Pspとの関係の一例を示している。交差部分の車速V1よりも高速で走行しているときには、吐出圧Pmopの方が必要油圧Pspよりも高い。このため、その必要油圧Pspを吐出圧Pmopで賄うことができるので、変速機4においては、ベルト33の滑りが抑制される。これに対して、車速V1より低速で走行しているときには、吐出圧Pmopの方が必要油圧Pspよりも低くなる。このため、その必要油圧Pspを吐出圧Pmopで賄うことができないので、変速機4においては、ベルト33の滑りが発生してしまう可能性がある。図3のハッチング部分は、ベルト滑りの発生領域である。また、制動力が大きいほど必要油圧Pspの変化勾配が大きくなるので、交差部分(車速V1)は、制動力が大きいほど(急制動になるほど)、低車速側に移り、ベルト滑りの発生領域が広がる。尚、本図の例示では、減速S&S走行中に、急制動等によって駆動輪Wから変速機4側に大きなトルクが入力されるものとしている。このため、「V1」と「V2」は、図示しない所定車速VMよりも低速側に存在している。
ここで、図3の例示では減速S&S走行が行われる領域(減速S&S領域)に交差部分(車速V1)が存在しているが、その交差部分(車速V1)は、フリーランS&S走行が行われる領域(フリーランS&S領域)に存在している場合もある。このため、以下においては、特に言及しない限り、フリーランS&S走行と減速S&S走行の何れかが行われているときの制御として説明をする。
そのベルト33の滑りを抑えるためには、例えば、電動オイルポンプ61Bを大型化し、その吐出圧Peopを後述する所定圧P1(>Peop1)まで増圧させればよい。しかしながら、電動オイルポンプ61Bの大型化は、変速機4の体格の大型化を招いてしまう。また、電動オイルポンプ61Bの吐出圧Peopの増圧は、燃費の悪化を招いてしまう。
そこで、クラッチ制御部には、機関2の停止を伴う惰性走行中(フリーランS&S走行中又は減速S&S走行中)にメカオイルポンプ61Aの吐出圧Pmopが所定圧P1以下になった場合、油圧制御装置51の制御によって、完全係合状態の第2クラッチCL2を半係合状態に制御させる。つまり、その場合には、第2クラッチCL2を半係合状態に制御することで、駆動輪W側からの入力トルクが第2クラッチCL2に伝わったときに係合要素同士を滑らせる。このため、変速機4においては、駆動輪W側からの入力トルクを第2クラッチCL2で吸収することができるので、その入力トルクの変速機本体30への伝達が緩和され、ベルト33の滑りの発生を抑えることができる。以下においては、その第2クラッチCL2の半係合制御のことを「トルクヒューズ制御」という。
その半係合状態を為すための第2クラッチCL2への供給油圧は、前述した第1油圧以上でかつ第2油圧よりも低い範囲内で変化させてもよく、その範囲内における一定の値に予め決めておいてもよい。具体例は、後で述べる。
また、その所定圧P1とは、吐出圧Pmopと必要油圧Pspとが一致する車速V1のときの油圧である。よって、クラッチ制御部には、メカオイルポンプ61Aの吐出圧Pmopではなく、車速Vを契機にして、第2クラッチCL2によるトルクヒューズ制御を実施させてもよい。つまり、クラッチ制御部には、機関2の停止を伴う惰性走行中に車速が所定車速V1以下になった場合、油圧制御装置51の制御によって、完全係合状態の第2クラッチCL2を半係合状態に制御させてもよい。
クラッチ制御部は、その所定圧P1と所定車速V1とがフリーランS&S領域に存在している場合、吐出圧Pmopが所定圧P1以下でかつ車速Vが所定車速V1以下のフリーランS&S領域と減速S&S領域とをトルクヒューズ制御の実施領域S1にする。一方、この場合には、吐出圧Pmopが所定圧P1よりも高くかつ車速Vが所定車速V1よりも高いフリーランS&S領域をトルクヒューズ制御の非実施領域S2にする。
また、クラッチ制御部は、その所定圧P1と所定車速V1とが減速S&S領域に存在している場合、吐出圧Pmopが所定圧P1以下でかつ車速Vが所定車速V1以下の減速S&S領域をトルクヒューズ制御の実施領域S1にする。一方、この場合には、吐出圧Pmopが所定圧P1よりも高くかつ車速Vが所定車速V1よりも高い減速S&S領域とフリーランS&S領域をトルクヒューズ制御の非実施領域S2にする。前述した図3は、この場合を表したものである。
このように、本実施例の車両制御システムは、惰性走行時(フリーランS&S走行時又は減速S&S走行時)に第2クラッチCL2への供給油圧を減圧させ、この第2クラッチCL2を半係合状態にするだけで、ベルト33の滑りを抑えることができる。そして、この車両制御システムは、ベルト33の滑りを抑えるために、電動オイルポンプ61Bを大型化する必要がない。このため、この車両制御システムは、惰性走行時に燃費の悪化を抑えつつ変速機4のベルト挟圧力を確保することができる。また、この車両制御システムは、変速機4の体格を大型化する必要もない。
ところで、その所定圧P1又は所定車速V1を閾値にしてトルクヒューズ制御を開始する場合、クラッチ制御部は、吐出圧Pmopが所定圧P1まで低下したとき又は車速Vが所定車速V1まで低下したときに、油圧制御装置51に対して、第2クラッチCL2を半係合状態にするよう指令を送る。しかしながら、第2クラッチCL2は、前述した第3油圧で完全係合状態になっているので、そのときに半係合制御の指令が行われたとしても、第3油圧と前述した第2油圧の差の分だけその指令から遅れて半係合状態になる。このため、変速機4においては、第2クラッチCL2が半係合状態になるまでの応答遅れの間、ベルト33に滑りが発生してしまう可能性がある。
そこで、本実施例の車両制御システムには、所定車速V1よりも高い車速領域に、第2クラッチCL2への供給油圧を完全係合状態が保持される範囲内で低下させることが可能なトルクヒューズ制御の実施準備領域S3を設定させる(図3)。そして、車両が惰性走行(フリーランS&S走行又は減速S&S走行)をしながら減速している場合には、車速Vがトルクヒューズ制御の実施準備領域S3のときに第2クラッチCL2の待機圧制御を実施し、吐出圧Pmopが所定圧P1まで低下したとき又は車速Vが所定車速V1まで低下したときの第2クラッチCL2の解放動作の応答性を高める。その第2クラッチCL2の待機圧制御とは、第2クラッチCL2への供給油圧を完全係合状態が保持される範囲内で低下させておく制御のことである。よって、トルクヒューズ制御の実施準備領域S3とは、トルクヒューズ制御を実施する(完全係合状態の第2クラッチCL2を半係合状態に制御する)前の第2クラッチCL2の準備領域であり、その第2クラッチCL2を完全係合状態のまま保持可能な目標待機油圧まで低下させる車速の幅を持った領域(待機圧制御領域)といえる。走行制御ECU1には、その実施準備領域(待機圧制御領域)S3を設定する領域設定部を設けている。
トルクヒューズ制御の実施準備領域S3は、第2クラッチCL2への供給油圧を完全係合状態が保持される範囲内で低下させることができるだけの車速の幅を持たせた領域である。この実施準備領域S3の車速の幅は、第2クラッチCL2への供給油圧をどの程度の目標値(以下、「目標待機油圧」という。)まで低下させ、そのままの状態で第2クラッチCL2を待機させるのかによって決まる。その目標待機油圧は、第2クラッチCL2を完全係合状態のまま保持可能な供給油圧であり、前述した第2油圧以上で、かつ、第3油圧よりも低い大きさに設定する。実施準備領域S3を設ける目的は第2クラッチCL2の完全係合状態から半係合状態への切り替え動作の応答性を高めることなので、この例示では、第2クラッチCL2を完全係合状態のまま保持できる最も低い供給油圧(下限供給油圧)である第2油圧を目標待機油圧に設定することが望ましい。
具体的に、その実施準備領域S3は、車両の減速度Gs(>0)と第2クラッチCL2の供給油圧を目標待機油圧まで低下させる油圧低下応答時間Tとに基づき上限車速V2を算出することで決まる。その実施準備領域S3の上限車速V2は、下記の式1に基づき算出する。油圧低下応答時間Tは、第2クラッチCL2や油圧制御装置51の構成によって予め決まっている設計値である。但し、この油圧低下応答時間Tは、油温によって変化する。
V2=V1+Gs*T … (1)
この式1に依れば、減速度Gsが高いほど上限車速V2が高くなる。このため、実施準備領域S3の車速の幅は、急減速走行時ほど広くなる。また、油圧低下応答時間Tが長くなるにつれて上限車速V2が高くなるので、実施準備領域S3の車速の幅は、油圧低下応答時間Tが長いほど広くなる。よって、クラッチ制御部には、減速度Gsが高いほど、また、油圧低下応答時間Tが長い第2クラッチCL2であるほど、早めに第2クラッチCL2への供給油圧を目標待機油圧まで低下させ始める必要がある。
尚、定速走行時(Gs=0)には、「V2=V1」となり、実施準備領域S3が設定されない。また、第2クラッチCL2の供給油圧が既に目標待機油圧まで低下している場合には、油圧低下応答時間Tが0になるので、「V2=V1」となり、実施準備領域S3が設定されない。このため、上限車速V2は、所定車速V1以上に設定される。
以下、この車両制御システム及び車両の制御方法における惰性走行時のトルクヒューズ制御(ベルト滑りの抑制制御)に関わる演算処理の一例について図4のフローチャートに基づき説明する。
領域設定部は、機関2の停止を伴う惰性走行(フリーランS&S走行又は減速S&S走行)の許可中であるのか否かを判定する(ステップST1)。この判定は、走行制御ECU1がフリーランS&S制御や減速S&S制御の実行指令を機関ECU3等に送っているのか否かに基づいて行う。
領域設定部は、惰性走行の許可中でなければ、この演算処理を一旦終わらせて、ステップST1を繰り返す。一方、領域設定部は、惰性走行の許可中の場合、前後加速度センサ72で検出した減速度Gsの情報に基づいて、上記式1により上限車速V2を算出する(ステップST2)。つまり、このステップST2においては、トルクヒューズ制御の実施準備領域S3が設定される。その上限車速V2の情報は、車速センサ73で検出した自車両の車速Vの情報と共に変速機ECU5に送られる。
クラッチ制御部は、自車両の車速Vが上限車速V2よりも高くなっているのか否かを判定する(ステップST3)。
クラッチ制御部は、車速Vが上限車速V2よりも高い場合、トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEと第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBとを各々設定する(ステップST4)。トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEとは、車速Vがトルクヒューズ制御の実施領域S1に入っている旨を表したフラグである。第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBとは、車速Vがトルクヒューズ制御の実施準備領域S3に入っている旨を表したフラグである。車速Vが上限車速V2よりも高い場合には、車速Vがトルクヒューズ制御の非実施領域S2に入っている。このため、このステップST4では、そのトルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEと第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBを降ろす(XC2TRQFUSE=0、XC2TRQFUSEENB=0)。これにより、この車両においては、トルクヒューズ制御と実施準備領域S3における第2クラッチCL2の待機圧制御の実施が禁止される。クラッチ制御部は、これらのフラグの設定後、ステップST1に戻す。
一方、クラッチ制御部は、車速Vが上限車速V2以下の場合、その車速Vが所定車速(トルクヒューズ制御の実施準備領域S3の下限車速)V1よりも高くなっているのか否かを判定する(ステップST5)。つまり、このステップST5では、車速Vがトルクヒューズ制御の実施準備領域S3に入っているのか否かを判定する。
クラッチ制御部は、車速Vが下限車速V1よりも高い場合、トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEと第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBとを各々設定する(ステップST6)。車速Vが下限車速V1よりも高い場合には、車速Vがトルクヒューズ制御の実施準備領域S3に入っている。このため、このステップST6では、そのトルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEを降ろすと共に(XC2TRQFUSE=0)、第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBを立てる(XC2TRQFUSEENB=1)。これにより、この車両においては、トルクヒューズ制御の実施準備領域S3における第2クラッチCL2の待機圧制御の実施が許可される。よって、クラッチ制御部は、前述したように第2クラッチCL2の待機圧制御を実施して、この第2クラッチCL2への供給油圧を前述した目標待機油圧まで減少させる(ステップST7)。この例示では、このステップST7の演算処理の後、ステップST1に戻る。
また、クラッチ制御部は、車速Vが下限車速V1以下の場合にも、トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEと第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBとを各々設定する(ステップST8)。車速Vが下限車速V1以下の場合には、車速Vがトルクヒューズ制御の実施領域S1に入っている。このため、このステップST8では、そのトルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEを立てると共に(XC2TRQFUSE=1)、第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBを降ろす(XC2TRQFUSEENB=0)。これにより、この車両においては、トルクヒューズ制御の実施が許可されると共に、トルクヒューズ制御の実施準備領域S3における第2クラッチCL2の待機圧制御の実施が禁止される。よって、クラッチ制御部は、第2クラッチCL2を半係合状態にするトルクヒューズ制御を実施する(ステップST9)。その際、クラッチ制御部は、第2クラッチCL2の待機圧制御を実施していたのであれば、これを終了させ、トルクヒューズ制御に切り替える。この例示では、このステップST9の演算処理の後、ステップST1に戻る。
ここで、トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEに応じた第2クラッチCL2の目標供給油圧PCL2の指令値の一例を示す。
トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEが降りている場合(XC2TRQFUSE=0)、目標供給油圧PCL2の指令値は、目標供給油圧PCL2が第2クラッチCL2への最大供給油圧PCL2maxとなるようにする(PCL2=PCL2max)。但し、第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBが立っている場合(XC2TRQFUSEENB=1)、目標供給油圧PCL2の指令値は、目標供給油圧PCL2が前述した目標待機油圧となるようにする。
一方、トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEが立っている場合(XC2TRQFUSE=1)、目標供給油圧PCL2の指令値は、目標供給油圧PCL2が次の油圧PC2TRQFUSEとなるようにする。その油圧PC2TRQFUSEとは、駆動輪Wからの入力トルクが入力されたときに、第2クラッチCL2の係合要素間が変速部の動力伝達部材間よりも先に滑るよう制御された(つまり第2クラッチCL2の係合要素間がベルト33よりも先に滑るよう制御された)第2クラッチCL2への供給油圧である。例えば、この油圧PC2TRQFUSEは、滑りの抑制の為に必要なベルト挟圧に相当する第2クラッチCL2の油圧から所定値分の油圧を減算したものである。この油圧PC2TRQFUSEは、予め設定した値であってもよく、例えば車速に応じて可変させる値であってもよい。
以上示したように、本実施例の車両制御システム及び車両の制御方法は、機関2の停止を伴う惰性走行による減速時に車速Vがトルクヒューズ制御の実施準備領域S3に入った場合、完全係合状態にある第2クラッチCL2の供給油圧を完全係合状態のまま目標供給油圧まで低下させる。このため、この車両制御システム及び車両の制御方法は、その後、車速Vが低下してトルクヒューズ制御の実施領域S1に入ったときに、その第2クラッチCL2を応答性良く半係合状態に制御することができるので、応答性良くトルクヒューズ制御を開始することができる。つまり、この車両制御システム及び車両の制御方法は、メカオイルポンプ61Aの吐出圧Pmopが所定圧P1まで低下したとき又は車速Vが所定車速V1まで低下したときに、直ぐに第2クラッチCL2によるトルクヒューズ制御を開始することができる。よって、この車両制御システム及び車両の制御方法は、吐出圧Pmopが所定圧P1まで低下したとき又は車速Vが所定車速V1まで低下したとき直ぐに、変速部の動力伝達部材間の滑り(つまりベルト33の滑り)を抑えられる状態にできる。従って、この車両制御システム及び車両の制御方法は、急制動等によって駆動輪W側からの入力トルクが入力されたとしても、その入力トルクを半係合状態の第2クラッチCL2の滑りによって吸収することができるので、変速部の動力伝達部材間の滑り(ベルト33の滑り)が抑制される。
ここで、本実施例の変速機4から第2動力伝達装置64を除外した従来の変速機について見てみる。その従来の変速機においては、機関の停止を伴う惰性走行中にメカオイルポンプを駆動させることができないので、このメカオイルポンプからの吐出圧Pmopが0になる(図5)。このため、従来の変速機には、電動オイルポンプが設けられている。その電動オイルポンプは、その吐出圧Peop0を例えば第1クラッチへの供給油圧と第2クラッチへの供給油圧とセカンダリプーリの作動油室への供給油圧と変速機のライン圧に用いている。よって、この電動オイルポンプは、セカンダリプーリの作動油室における必要油圧Pspの一部を担うことができる。そこで、その必要油圧Pspを電動オイルポンプで賄うためには、電動オイルポンプの大型化が考えられる。しかしながら、従来の変速機では、如何に電動オイルポンプの大型化で吐出圧Peop0を大きくしたとしても、車速V5よりも高速側の全領域にベルト滑りの発生領域(図5のハッチング部分)が存在するので、広範囲に渡って第2クラッチCL2によるトルクヒューズ制御の実施が必要になる。これに対して、本実施例の変速機4は、機関2の停止を伴う惰性走行中もメカオイルポンプ61Aを駆動させることができるので、電動オイルポンプ61Bを大型化させなくても、ベルト滑りの発生領域を狭めることができる。従って、本実施例の車両制御システム及び車両の制御方法は、惰性走行時に第2クラッチCL2によるトルクヒューズ制御を実施することによって、電動オイルポンプ61Bの大型化に伴う変速機4の体格の大型化やコストの増加(電動オイルポンプ61Bそのもののコストの増加、電動オイルポンプ61Bへの電力供給回路や電動オイルポンプ61Bの制御回路のコストの増加)、燃費の悪化を回避しながら、変速部における挟圧力を確保して当該変速部の動力伝達部材間の滑り(ベルト33の滑り)を抑えることができる。
[変形例]
前述した実施例の変速機4においては、電動オイルポンプ61Bの吐出圧Peopを第1クラッチCL1と第2クラッチCL2の必要油圧を賄うために使っている。これに対して、本変形例の電動オイルポンプ61Bの吐出圧Peopは、第1クラッチCL1と第2クラッチCL2の必要油圧を賄うためだけでなく、セカンダリプーリ32の作動油室35にも供給する。また、前述した実施例の車両制御システムは、減速時に第2クラッチCL2によるトルクヒューズ制御が行われるものとして説明した。これに対して、本変形例の車両制御システムは、増速時にも第2クラッチCL2によるトルクヒューズ制御が行われるものとして説明する。
図6には、本変形例の変速機4における吐出圧Pmopと必要油圧Pspとの関係の一例を示している。「V1」と「V2」は、実施例の図3で例示したものと同じである。このため、その車速間の領域は、実施例と同じように、トルクヒューズ制御の実施準備領域S3Hになる。また、その実施準備領域S3Hの車速V1よりも高速側の領域は、実施例と同じように、トルクヒューズ制御の非実施領域S2Hになる。また、「P1」は、実施例と同じように、車速V1のときの吐出圧Pmopと必要油圧Pspである。
本変形例の変速機4においては、電動オイルポンプ61Bの吐出圧Peop(=Peop2>Peop1)を第1クラッチCL1と第2クラッチCL2とセカンダリプーリ32の作動油室35の必要油圧を賄うために使っている。このため、その吐出圧Peop2の線と必要油圧Pspとの交差部分(車速V3)よりも低速側の領域においては、電動オイルポンプ61Bの吐出圧Peop2を利用して作動油室35の必要油圧Pspを賄うことができる。よって、その領域は、低速側におけるトルクヒューズ制御の非実施領域S2Lになる。そして、本変形例では、その車速V3と車速V1との間の領域がトルクヒューズ制御の実施領域S1になる。この実施領域S1内のハッチング部分は、ベルト滑りの発生領域を表している。
尚、図6は減速S&S領域に存在するトルクヒューズ制御の実施領域S1を表しているが、そのトルクヒューズ制御の実施領域S1がフリーランS&S領域に存在する可能性も考えられる。このため、以下においては、特に言及しない限り、フリーランS&S走行と減速S&S走行の何れかが行われているときの制御として説明をする。
ここで、例えば、機関2の停止を伴う惰性走行(フリーランS&S走行又は減速S&S走行)においては、車速Vが低下し、低速側におけるトルクヒューズ制御の非実施領域S2Lに入る場合がある。クラッチ制御部は、非実施領域S2Lに入ったときに、第2クラッチCL2を完全係合させ、トルクヒューズ制御を終了させる。そして、車両は、その非実施領域S2Lで運転者がアクセルオン操作を行うことによって、通常走行モードに復帰し、増速し始める。その際、例えば機関2の回転数が上昇し切れておらずにメカオイルポンプ61Aの吐出圧Pmopが足りないと、変速機4においては、ベルト滑りの発生領域が残ったままになり、急制動等で駆動輪W側からの入力トルクが入力されたときに、ベルト33に滑りが発生してしまう可能性がある。
そこで、本変形例のクラッチ制御部には、トルクヒューズ制御の非実施領域S2Lからの増速時に車速Vがトルクヒューズ制御の実施領域S1に入った場合、油圧制御装置51の制御によって、完全係合状態の第2クラッチCL2を半係合状態に制御させ、トルクヒューズ制御を実施する。このため、本変形例の車両制御システムは、増速時にも、第2クラッチCL2を半係合状態にするだけで、ベルト33の滑りを抑えることができる。
本変形例においては、低速側にもトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Lを設ける。その実施準備領域S3Lは、車速V3を上限車速とする。一方、この実施準備領域S3Lの下限車速V4は、下記の式2を用いて求める。つまり、この実施準備領域S3Lは、車両の加速度Ga(>0)と第2クラッチCL2の供給油圧を前述した目標待機油圧まで低下させる油圧低下応答時間Tとに基づき下限車速V4を算出することで決まる。
V4=V3−Ga*T … (2)
この式2に依れば、加速度Gaが高いほど下限車速V4が低くなる。このため、実施準備領域S3Lの車速の幅は、急加速走行時ほど広くなる。また、油圧低下応答時間Tが長くなるにつれて下限車速V4が低くなるので、実施準備領域S3Lの車速の幅は、油圧低下応答時間Tが長いほど広くなる。よって、クラッチ制御部には、加速度Gaが高いほど、また、油圧低下応答時間Tが長い第2クラッチCL2であるほど、早めに第2クラッチCL2への供給油圧を目標待機油圧まで低下させ始める必要がある。
尚、定速走行時(Ga=0)には、「V4=V3」となり、低速側の実施準備領域S3Lが設定されない。また、第2クラッチCL2の供給油圧が既に目標待機油圧まで低下している場合には、油圧低下応答時間Tが0になるので、「V4=V3」となり、実施準備領域S3Lが設定されない。このため、下限車速V4は、所定車速V3以下に設定される。
以下、この車両制御システム及び車両の制御方法における惰性走行時のトルクヒューズ制御(ベルト滑りの抑制制御)に関わる演算処理の一例について図7のフローチャートに基づき説明する。尚、ここでは、惰性走行が許可されている場合を例に挙げる。
領域設定部は、実施例のステップST1と同じように、機関2の停止を伴う惰性走行(フリーランS&S走行又は減速S&S走行)の許可中であるのか否かを判定する(ステップST11)。
領域設定部は、惰性走行の許可中でなければ、この演算処理を一旦終わらせて、ステップST11を繰り返す。一方、領域設定部は、惰性走行の許可中の場合、前後加速度センサ72で検出した減速度Gsと加速度Gaの情報に基づいて、高速側の実施準備領域S3Hの上限車速V2と低速側の実施準備領域S3Lの下限車速V4とを算出する(ステップST12)。つまり、このステップST12においては、高速側と低速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3H,S3Lが設定される。その上限車速V2と下限車速V4の情報は、自車両の車速Vの情報と共に変速機ECU5に送られる。
その後、クラッチ制御部は、実施例のステップST3〜ST7と各々同じステップST13〜ST17の演算処理を行う。このため、クラッチ制御部は、ステップST16において、トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEを降ろすと共に(XC2TRQFUSE=0)、第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBを立てる(XC2TRQFUSEENB=1)。よって、この車両においては、高速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Hにおける第2クラッチCL2の待機圧制御の実施が許可される。従って、クラッチ制御部は、ステップST17に進み、実施例と同じように第2クラッチCL2の待機圧制御を実施して、この第2クラッチCL2への供給油圧を前述した目標待機油圧まで減少させる。
本変形例のクラッチ制御部は、ステップST15で車速Vが下限車速V1以下と判定した場合、その車速Vが所定車速(低速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Lの上限車速)V3以上であるのか否かを判定する(ステップST18)。つまり、このステップST18では、車速Vがトルクヒューズ制御の実施領域S1に入っているのか否かを判定する。
車速Vが上限車速V3以上の場合には、トルクヒューズ制御の実施領域S1に入っている。このため、この場合のクラッチ制御部は、実施例のステップST8,ST9と同じように、トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEを立てると共に(XC2TRQFUSE=1)、第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBを降ろして(XC2TRQFUSEENB=0)、第2クラッチCL2を半係合状態にするトルクヒューズ制御を実施する(ステップST19,ST20)。その際、車両が減速しているときには、高速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Hにおいて、第2クラッチCL2の供給油圧が完全係合状態を保ちうる範囲内の目標待機油圧まで減少させられている。このため、この車両制御システムは、車速Vが下限車速V1まで低下したときに、第2クラッチCL2を応答性良く半係合状態に制御することができる。また、車両が増速しているときには、低速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Lにおいて、後述するように第2クラッチCL2の供給油圧が完全係合状態を保ちうる範囲内の目標待機油圧まで減少させられている。このため、この車両制御システムは、車速Vが上限車速V3まで上昇したときに、第2クラッチCL2を応答性良く半係合状態に制御することができる。
一方、クラッチ制御部は、車速Vが上限車速V3よりも低い場合、その車速Vが下限車速V4以上であるのか否かを判定する(ステップST21)。つまり、このステップST21では、車速Vが低速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Lに入っているのか否かを判定する。
クラッチ制御部は、車速Vが下限車速V4以上の場合、車速Vが低速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Lに入っているので、ステップST16に進み、トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEを降ろすと共に(XC2TRQFUSE=0)、第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBを立てる(XC2TRQFUSEENB=1)。これにより、この車両においては、低速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Lにおける第2クラッチCL2の待機圧制御の実施が許可される。よって、クラッチ制御部は、ステップST17に進み、実施例と同じように第2クラッチCL2の待機圧制御を実施して、この第2クラッチCL2への供給油圧を前述した目標待機油圧まで減少させる。
また、車速Vが下限車速V4よりも低い場合には、低速側のトルクヒューズ制御の非実施領域S2Lに入っている。このため、クラッチ制御部は、この場合、ステップST14に進み、トルクヒューズ制御許可フラグXC2TRQFUSEと第2クラッチ待機領域フラグXC2TRQFUSEENBを降ろす(XC2TRQFUSE=0、XC2TRQFUSEENB=0)。これにより、この車両においては、第2クラッチCL2の待機圧制御の実施が禁止される。
以上示したように、本変形例の車両制御システム及び車両の制御方法は、車両が減速中の場合、車速Vが高速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Hに入ったときに、完全係合状態にある第2クラッチCL2の供給油圧を完全係合状態のまま保ちうる目標待機油圧まで低下させる。つまり、この車両制御システム及び車両の制御方法は、車両が減速中の場合、メカオイルポンプ61Aの吐出圧Pmopが所定圧P1まで低下したとき又は車速Vが所定車速V1まで低下したときに、直ぐに第2クラッチCL2によるトルクヒューズ制御を開始することができる。よって、この車両制御システム及び車両の制御方法は、吐出圧Pmopが所定圧P1まで低下したとき又は車速Vが所定車速V1まで低下したとき直ぐに、変速部の動力伝達部材間の滑り(ベルト33の滑り)の発生が抑制される状態に変速機4を制御することができる。従って、この車両制御システム及び車両の制御方法は、例えば急制動等によって駆動輪W側からの入力トルクが入力されたとしても、その入力トルクを半係合状態の第2クラッチCL2の滑りによって吸収することができるので、変速部の動力伝達部材間の滑り(ベルト33の滑り)が抑制される。
更に、この車両制御システム及び車両の制御方法は、車両が加速中の場合、車速Vが低速側のトルクヒューズ制御の実施準備領域S3Lに入ったときに、完全係合状態にある第2クラッチCL2の供給油圧を目標待機油圧まで低下させる。つまり、この車両制御システム及び車両の制御方法は、車両が加速中の場合、車速Vが所定車速(上限車速V3)まで上昇したときに、直ぐに第2クラッチCL2によるトルクヒューズ制御を開始することができる。よって、この車両制御システム及び車両の制御方法は、車速Vが所定車速(上限車速V3)まで上昇したとき直ぐに、変速部の動力伝達部材間の滑り(ベルト33の滑り)の発生が抑制される状態に変速機4を制御することができる。従って、この車両制御システム及び車両の制御方法は、例えば加速途中で行った急制動等によって駆動輪W側からの入力トルクが入力されたとしても、その入力トルクを半係合状態の第2クラッチCL2の滑りによって吸収することができるので、変速部の動力伝達部材間の滑り(ベルト33の滑り)が抑制される。