本発明は、フォトニック結晶によるフォトニック結晶共振器から構成された光素子に関する。
近年、通信およびインターネットの大容量化に対応するため、光通信技術は欠くことのできないものとなっている。光通信技術では、光ファイバにより伝送されてきた光信号を回線毎に合分波および信号処理を行い、再度光ファイバに送出するといった処理が必要となる。このような処理を行う光部品については、1つのチップ上の集積したオンチップ光回路化が進んでいる。更に、チップのプラットフォームも高速化・高機能化・小型化・光電子融合化などの要件から石英系プレーナ光波回路(silica-based planar lightwave circuit:PLC)などの石英光導波路を使った回路から、シリコンフォトニクスやInP光集積回路などの、半導体ベースの光集積回路への移行が進みつつある。
半導体ベースの光集積回路における究極の小型化を可能にする技術として、フォトニック結晶(Photonic Crystal)はますます重要になりつつある。最近、フォトニック結晶レーザの電流注入室温CW(Continuous Wave)発振が実現され、また100ビットの光メモリが実現されるなど、フォトニック結晶光部品の実用化は現実に近づきつつある。
一方、学術的には、フォトニック結晶共振器が高いQ値と極めて小さい閉じ込め体積を同時に実現することが大きな関心を集め、多くの研究成果が報告されてきた。特にパーセル効果などの共振器電磁力学(cavity−QED)において大きな増強が得られること、電子や正孔に特異な状態密度を与える量子ドットや量子井戸、ダイヤモンドのNV中心などの機能材料の配置と組み合わせ、共振器モードとの間で強結合状態を形成できることが注目されている。これらにより将来的に、次世代技術として期待されている量子情報通信に不可欠な量子ビットや、極めて低パワーで動作する光電子素子の実現につながることが期待されている。
なお、ダイヤモンドのNV中心は、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素(Nitrogen)と、この置換窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔(Vacancy)との対からなる複合不純物欠陥である。このNV中心により、例えば電子スピンが形成できる。また、NV中心に対する光照射で、スピンの状態を基底状態に偏極させることができる。
ところで、フォトニック結晶には、1次元/2次元/3次元のものが存在するが、本発明では最も研究開発が進んでいる2次元スラブ(薄膜)型フォトニック結晶を対象とする。この種のフォトニック結晶の中で、コンパクトでQ値の高い共振器の代表的なものとしてモードギャップ型共振器(非特許文献1参照)、および点欠陥型共振器(特許文献1参照)が挙げられる。
モードギャップ型共振器は、特にQ値が高いことに加え、比較的長い線欠陥を有していることから、面内に配置した光導波路との結合も行いやすい。一方、点欠陥型共振器は、よりコンパクトであり、特に小さな閉じ込め体積を必要とする用途には最も有利であり、Q値についても、十分に大きな値が得られることが報告されている(特許文献2参照)
以下、点欠陥型共振器について、図5を用いて説明する。図5は、2次元スラブ型のフォトニック結晶501の構成を示す平面図である。フォトニック結晶501は、板状の基部502と、基部502に設けられた柱状の複数の格子要素503とから構成されている。格子要素503は、三角格子状に配列されている。ここでは、中空構造から格子要素503を構成している。
このように構成されたフォトニック結晶501において、図5の(a)に示すように、複数の点欠陥を直線状に配列した光閉じ込め部504を設けることで、この周囲を反射部として光閉じ込め部504に光を閉じ込めることができるようになり、共振器として構成することができる。格子要素503のない部分が欠陥である。この場合、L型共振器と呼ばれ、図5の(a)に示す構成では、光閉じ込め部504が直線状に連続する4つの点欠陥から構成されており、L4共振器と呼ばれる。例えば、3つの点欠陥が直線状に連続して共振器を構成する場合、L3共振器となる。
また、図5の(b)に示すように、2次元的な複数の点欠陥よりなる光閉じ込め部505を設けても、光閉じ込め部505に光を閉じ込めることができるようになり、共振器として構成することができる。この場合、H型共振器と呼ばれる。図5の(b)に示す構成は、三角格子の格子点にある特定の点欠陥を中心とし、これに隣接する1周外側の円周上の6個の格子点に点欠陥を配置して光閉じ込め部505としており、H2共振器と呼ばれる。例えば、1つの点欠陥より構成した場合、H1共振器となる。H型共振器を構成する光閉じ込め部505は、六方対称性を有し6重極モードを有する。
また、図5の(c)に示すように、周囲より間隔を開けて配置した格子要素503よりなる光閉じ込め部506を設けても、光閉じ込め部506に光を閉じ込める共振器とすることができる。この共振器は、点欠陥を用いておらず、6重極モードを有しないが、慣用的にH0共振器と呼ばれている。
これらの共振器は、光閉じ込め部周囲のフォトニック結晶が有するフォトニックバンドギャップ(PBG)により内部に光を閉じ込めている。また、フォトニック結晶の無い板厚方向に対しては、基部502と、基部502周囲の空気や誘電体などからなるクラッド層との屈折率差により光を閉じ込めている。 基部502内を進行する光において、境界面に対し全反射の臨界角より小さい入射角に相当する運動量(波数)を有するものは基部502外に放射される。
波数空間において全反射されない光の領域はライトコーンと呼ばれる。フォトニック結晶においては、屈折・反射に加え回折により面外放射を制御できる。照明や液晶バックライト等に使用されている高出力面型発光ダイオードは、表面にフォトニック結晶ないし類似の構造を設けることで、光の成分をライトコーン内に集中させ、外部への光取出効率を高めている。ナノ共振器の設計指針はこれとは正反対に、ライトコーン内の波数に相当する光の成分を抑制することで、光の面外放射を抑制して共振器Q値を高めている。
また、図5の(d)に示すように、複数の欠陥を連続して直線状に配置した線欠陥からなるコア部507を設けることで、光導波路とすることができる。三角格子の1辺を延長する方向に沿う線欠陥によりコア部を構成することができる。このとき、複数の点欠陥を1列に並べた線欠陥によるコア部507から構成した光導波路は、帯域が十分広く、唯一横モードが単一モードとなる。これは、導波する光がコア部507の延在方向に進行するとき、板状の基部502の平面内で延在方向に垂直な方向の1つしかたたないシングルモードになることを意味する。このため、複数の点欠陥を1列に並べた線欠陥によるコア部による光導波路構造(W1光導波路)は、広く採用されている。
W1光導波路の特性は、光導波路両側のフォトニック結晶(格子要素群)をシフトさせ光導波路幅を変調することで制御可能である。前述したモードギャップ共振器は、W1光導波路をベースとし、光導波路の一部に局所的な幅の変調や埋め込みヘテロ構造の配置などの部分的な構造変調を加える(一部分だけ構造を変える)ことで、導波モード端に光を閉じ込めるようにしている。
上述したフォトニック結晶共振器において、外部に設けた励起光源より共振器中心(光閉じ込め部中心)に配置した活性媒質に励起光を供給することで、利得を発生させて発光させることができる。このようにフォトニック結晶発光素子として動作させる場合において、共振器がモードギャップ共振器である場合は、共振モードよりも短波長の光に対して光導波路となる中心線欠陥を伴うため、励起光の共振器への導入は制限が少なく容易である。上述したフォトニック結晶共振器においては、W1光導波路の一部の幅を変え、または板状の基部の一部に埋め込みへテロ構造を設けることで構成したモードギャップ型共振器の光閉じ込め部に、同じW1光導波路を経由して励起光を届けることが可能になる。
実際に、非特許文献2では中心線欠陥を介して励起光を導入している。これに対し、L型共振器およびH型共振器は、構造上周囲を完全にフォトニック結晶に囲まれており、また全方位のフォトニック結晶による光閉じ込めを基盤としていることから、線欠陥を用いた光導波路による励起光の導入は困難である。
これらのL型共振器およびH型共振器でも、実験室レベルでは、例えば励起光をフォトニック結晶の上下からレンズ等の空間光学系により共振器付近に絞り込んで照射することによりレーザ発振が達成されている。しかしこの技術では、大型かつ高価な空間光学系を用いても励起効率は十分高くならない。加えて、発光に寄与する活性媒質の領域の大きさ(面積)および光学系で絞り込んだスポット径は、ともに平方μmのスケールであり、両者の精密な位置合わせが常時必要なため、光部品に採用することは困難であった。
空間光学系を用いることなく安定的に光励起を行い、低消費電力でコンパクトな光部品として成立させるためには、同じチップ(基板)上でフォトニック結晶面内に設けた結合光導波路から高い効率で励起光を導入することが重要となる。
フォトニック結晶内にL型またはH型共振器と光導波路を配置する場合のレイアウトには図6に示す構成と、図7に示す構成とがある。図6に示す構成では、L3共振器となる光閉じ込め部601に対し、図6の紙面上方に配置されたW1光導波路602から励起光度導入する。または、光閉じ込め部601に対し、図6の紙面右下側に配置されたW1光導波路603から励起光を導入する。
この構成では、光閉じ込め部601の共振モードと、W1光導波路602またはW1光導波路603の光導波路モードとの結合のみが、励起光入力手段となり、励起光を共振モードに同調(共振)させることが、光閉じ込め部601および光閉じ込め部601に配置した活性媒質に励起光を導入させる条件となる。言い換えると、励起光を共振モードに共振させないと、活性媒質に励起光を導入することができない。励起光の波長にはフォトニック結晶のPBGが存在しない状態では、フォトニック結晶に励起光が存在できることになるが、上述した構成では、光導波路の軸上から共振器の位置が外れているため、共振モードに共振していない場合は、共振器に励起光が入射することは無い。
一方で、励起光を共振器共振モードと同調させる場合、励起波長と出力波長とを同じとすることは応用上問題があるため、励起波長および出力波長に、各々異なる共振モードを割り当てる。しかし例えば非特許文献3にあるように、2つの共振器モードの相対波長間隔は、L2、L3などの基本共振器構造と結晶パラメータとに制約され決定され、応用用途に合わせ自由に設定することは困難である。
例えば、L2共振器やL3共振器などの2つの共振器モードの波長間隔が50nmの場合、発光波長を1550nmに合わせるとすると、励起光の波長は1500nmに設定する必要があった。加えて、共振モードの線幅が一般に狭いため、これに励起光を同調させるためには、励起光源として精密な波長設定が可能な高価な波長可変光源が必要になる。
今日では、量産され安価で高出力の励起用の光源として、波長405nmのInGaNレーザ、波長850nmのAlGaAsレーザ、波長980nmのInGaAsレーザ、波長1300nmのInGaAsPレーザなどの電流注入型半導体レーザが市販されている。これらの固定波長光源に共振器モードを同調させると、発光波長も固定されてしまい、応用上有用な波長に設定できないことになり問題となる。
2つの共振モードの一方を発光出力に使用し、他方を光励起に使用する場合、両方のモードを光導波路に結合させる必要がある。デバイス動作時の共振器Q値は、共振器内部Q値と光導波路との結合により決定される。この場合、発光(レーザ発振)に用いる共振モードのQ値を最適に設定すると、励起光に用いるモードのQ値が最適にならない場合がある。逆に、光励起に最適になるように光導波路設計をすると、信号処理用のモードのQ値を必ずしも最適にできないという問題があった。
また、共振器の設計上、光励起用と光出力用との2つの共振モードの両方に必要な性能を与えるのが困難な場合がある。また、共振モードが1つしか存在しない場合が存在するという問題があった。
今日の半導体発光素子においては、効率上の要求により活性媒質には量子井戸構造が採用されている。しかしながら光励起の場合、励起光を体積が極めて小さい量子井戸層に吸収させるよりも、量子井戸バリア層あるいは量子井戸層よりもバンドギャップの大きい光吸収層に吸収させるほうが、特に大きな出力を得るために有利である。この場合、励起光の波長と素子発光波長との差は、通常数十から数百nmと大きくなる。このような大きな間隔の共振器モードを設計により与えることは通常困難である。このため、フォトニック結晶共振器を用いた半導体発光素子の活性媒質に励起光を供給する場合、励起光を共振器モードに同調させることなく活性媒質に供給できることが望ましい。このようにすることで、発光波長が励起光波長により制約を受けることもなくなる。
光励起の場合、フォトニック結晶共振器発光素子に対し、励起光用と発光出力光用の光導波路をモノリシックに設けることが重要となる。励起光が共振器モードに同調していない状況において、共振器内に配置した活性媒質に光を導入させるためには、励起光を活性媒質が直線延長線上にあるように設けた光導波路から導入することが必要である。
励起光の波長がフォトニック結晶のPBGの外にある場合、材料吸収を無視すれば光導波路の終端から数〜十数μmは大きく減衰せずに光導波路の延長線上を伝搬する。励起光の波長がPBG内にある場合はPBGによる反射と減衰が加わる。この場合、光導波路終端と共振器中心(光閉じ込め部中心)との間は、励起光に対してフォトニック結晶バリア領域となる。しかしながら、この場合においても、フォトニック結晶の数周期程度は、励起光が侵入すると考えられる。従って、活性媒質が直線延長線上に配置される構成の光導波路の終端を、共振器に近づけ、フォトニック結晶バリア領域を極めて狭くすれば、共振器中心の活性媒質の励起が可能になる。
L型およびH型共振器は、三角格子フォトニック結晶内に形成されるため、励起光導入用の光導波路は、フォトニック結晶の結晶方位に平行に配置されたW1型線欠陥光導波路となる。上述したように、光導波路終端と共振器との間のフォトニック結晶バリア領域を極めて狭くする(可能な範囲で光導波路終端を共振器に近づける)ことで、励起光がフォトニック結晶バリア領域を透過する際の損失を許容範囲に抑えることができる。
非特許文献4に示されているように、従来のL型共振器に対し同軸直線上に配置する形で提案報告されている結合光導波路は全て、W1光導波路の線欠陥幅をW1よりも5%以上広くする変調を加えている。これは、L型共振器がQ値の高い基本モードの利用を必須としてきたため、基本モード波長を光導波路の帯域内に確実に収容しつつ、損失の高いモード端付近を基本モードから遠ざける必要があるためである。
E. Kuramochi, M. Notomi, S. Mitsugi, A. Shinya, and T. Tanabe, "Ultrahigh-Q photonic crystal nanocavities realized by the local width modulation of a line defect", Applied Physics Letters, vol.88, 041112, 2006.
S. Matsuo, A. Shinya, T. Kakitsuka, K. Nozaki, T. Segawa, T. Sato, Y. Kawaguchi and M. Notomi , "High-speed ultracompact buried heterostructure photonic-crystal laser with 13 fJ of energy consumed per bit transmitted", Nature Photonics, vol.4, pp.648-654, 2010.
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M. Notomi, A. Shinya, S. Mitsugi, E. Kuramochi, and H-Y. Ryu, "Waveguides, resonators and their coupled elements in photonic crystal slabs", Optics Express, vol.12, no.8, pp.1551-1561, 2004.
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しかしながら、図7に示すように、従来知られている構成のW1光導波路702,703を、光閉じ込め部701と同軸直線上に配置した上で、光閉じ込め部701の極めて近くで終端すると、発光出力用の共振器モードも励起光導入用のW1光導波路702と強く結合することになる。このため、意図しない信号光の、励起光導入用のW1光導波路702への漏れ出しが発生することになる。この状態では、共振器モードのQ値低下を招くことになり問題となる。なお、W1光導波路702に対し、同軸直線上に配置しない状態でW1光導波路703aを配置することで、共振器(光閉じ込め部701)を通り抜けた励起光がW1光導波路703aに入ることが抑制できる。ここで、図7では、光閉じ込め部701を1つの点欠陥で構成しているが(H1共振器)、直線状に配置した3つの点欠陥(L3共振器)、直線状に配置した3つの点欠陥(L4共振器)で構成する場合も同様である。
また、共振器(光閉じ込め部)近傍への光導波路の配置そのものが、共振器構造に変調を加えQ値を低下させる恐れがあった。以上に説明したように、従来では、共振モードのQ値を向上させようとすると、発光出力用の共振器モードに影響を与えてしまうという問題があった。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、発光出力用の共振器モードに影響を与えることなく、励起光の活性媒質への入射効率を高めることができるようにすることを目的とする。
本発明に係る光素子は、基部および基部に対象とする光の波長以下の間隔で三角格子状に周期的に設けられて基部とは異なる屈折率の柱状の複数の格子要素を備えるフォトニック結晶本体と、フォトニック結晶本体に設けられてフォトニック結晶の格子要素がない部分から構成された複数の欠陥からなる直線状の線欠陥から構成され、励起光を導入するための導入光導波路を構成する第1コアと、第1コアの終端より、格子要素の1〜3個の幅のフォトニック結晶バリア領域を挾んでフォトニック結晶本体に配置され、格子要素が形成されていない欠陥からなる光閉じ込め部を有するフォトニック結晶共振器と、光閉じ込め部に設けられた活性媒質と、線欠陥から構成されてフォトニック結晶共振器で励起する励起光に共振する出力光導波路を構成する第2コアとを備え、第1コアの線欠陥の幅は、フォトニック結晶本体の格子間隔で構成した場合の線欠陥の幅より狭くされて、第1コアがフォトニック結晶共振器で励起する励起光に共振しない状態とされている。
上記光素子において、光閉じ込め部は、複数の欠陥が直線状に配列されていればよい。
上記光素子において、光閉じ込め部は、第1コアが配列する直線上に配列された複数の欠陥から構成されていればよい。なお、光閉じ込め部は、第1コアが配列する直線に対して60°異なる直線上に配列された複数の欠陥から構成されているようにしてもよい。
以上説明したように、本発明によれば、第1コアの幅を、フォトニック結晶の格子間隔で構成した場合より狭くしたので、発光出力用の共振器モードに影響を与えることなく、励起光の活性媒質への入射効率を高めることができるという優れた効果が得られる。
図1は、本発明の実施の形態1における光素子の構成を示す平面図である。
図2は、実施の形態1における光素子に対してFDTDによる解析を行った結果を示す説明図である。
図3は、実施の形態1におけるフォトニック結晶バリア領域106の幅を、2穴列、3穴列、4穴列とした各条件における共振器Q値の変化を示す特性図である。
図4は、本発明の実施の形態2における光素子の構成を示す平面図である。
図5は、2次元スラブ型のフォトニック結晶501の構成を示す平面図である。
図6は、フォトニック結晶内にL型共振器と光導波路を配置した状態を示す説明図である。
図7は、フォトニック結晶内にH型共振器と光導波路を配置した状態を示す説明図である。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1における光素子の構成を示す平面図である。この光素子は、フォトニック結晶本体101、第1コア104、光閉じ込め部105、第2コア107を備える。
フォトニック結晶本体101は、基部102および基部102に対象とする光の波長以下の間隔で三角格子状に周期的に設けられて基部102とは異なる屈折率の柱状の複数の格子要素103を備える。フォトニック結晶本体101は、いわゆるスラブ型のフォトニック結晶である。基部102は、例えばInPから構成されている。格子要素103は、例えば円柱状の中空構造である。
第1コア104は、フォトニック結晶本体101に設けられ、フォトニック結晶の格子要素103がない部分から構成された複数の欠陥からなる直線状の線欠陥から構成されている。第1コア104は、フォトニック結晶の結晶方位の方向に延在している。第1コア104により、励起光を導入するための導入光導波路が構成されている。
光閉じ込め部105は、格子要素103が形成されていない欠陥から構成されている。実施の形態1において、光閉じ込め部105は、複数の欠陥が直線状に配列され、また、第1コア104が配列する直線上に配列されている。また、光閉じ込め部105は、第1コア104の終端104aより、フォトニック結晶バリア領域106を挾んでフォトニック結晶本体101に配置されている。なお、フォトニック結晶バリア領域106は、1〜3個の格子要素103から構成されている。光閉じ込め部105と、光閉じ込め部105の周囲のフォトニック結晶領域との境界によるミラー領域とから、フォトニック結晶共振器が構成される。
また、光閉じ込め部105に、活性媒質(不図示)が設けられている。活性媒質は、例えばInGaAs層からかるコア層の上下を、InGaAsPからなるクラッド層で覆った構成とされ、光閉じ込め部105の基部102に埋め込まれた埋め込みヘテロ(buried heterostructure;BH)構造とされている。活性媒質を備えることで、フォトニック結晶共振器は、レーザや光変調器などの光素子として機能させることができる。
また、第2コア107は、線欠陥から構成されてフォトニック結晶共振器で励起する励起光に共振する出力光導波路を構成する。第2コア107は、第1コア104が延在する直線上に配置され、第1コア104と同じ結晶方位の方向に延在している。なお、第2コア107は、第1コア104と同じ結晶方位の方向に延在している必要はない。第2コア107は、第1コア104が延在する結晶方位とは60°または120°異なる方向に延在していてもよい。この場合、図1の紙面において、光閉じ込め部105の上側または下側に、第2コア107が配置されればよい。また、同じ結晶方位であっても、第1コア104が延在する直線上よりずれた位置に、第2コア107aを配置してもよい。このようにすることで、フォトニック結晶共振器(光閉じ込め部105)を通り抜けた励起光が、第2コア107aに入ることが抑制できる。
上述した構成に加え、実施の形態1の光素子では、第1コア104の幅(コア幅)は、フォトニック結晶本来の格子間隔で構成した場合より狭くされ、フォトニック結晶共振器で励起する励起光に共振しない状態とされている。例えば、第1コア104の両脇の格子要素群121を、各々第1コア104の側にずらす(シフトする)ことで、第1コア104のコア幅を狭くすればよい。なお、第1コア104が延在する方向に垂直な方向の側部を「脇」としている。
なお、実施の形態1では、第1コア104が延在する方向で光閉じ込め部105を挾む領域に、Q値向上構造を設けている。Q値向上構造は、格子要素111,112,113,114から構成されている。格子要素111,112は、光閉じ込め部105より離れる方向にシフトし、格子要素113,114は、光閉じ込め部105に近づく方向にシフトしている。いずれも結晶方位の方向にシフトしている(特許文献1参照)。上記構成とすることで、実施の形態1におけるフォトニック結晶共振器のQ値を向上させることができる。
上述したように、第1コア104のコア幅を狭くし、加えて、フォトニック結晶バリア領域106を狭くしたので、フォトニック結晶共振器の共振モードと同調することなく、光閉じ込め部105に対して励起光の導入が行えるようになる。具体的には、第1コア104の両脇の格子要素群121をシフトさせることで、フォトニック結晶本来の格子間隔で構成した場合に比較し、第1コア104のコア幅を8%減ずればよい。
例えば、フォトニック結晶の格子定数が434nmであれば、フォトニック結晶本来の格子間隔で構成した一列の線欠陥によるコア幅は、752nmとなる。これに対し、第1コア104の両脇の格子要素群121を第1コア104の側に、各々30nmシフトし、第1コア104のコア幅を692nmとすればよい。
このようにコア幅を60nm細くすれば、第1コア104による光導波路のモード端が約60nm短波長側にずれ、フォトニック結晶共振器の基本共振モードが、第1コア104のモード端の帯域外になる。結果としてフォトニック結晶共振器基本モードは、第1コア104と結合することなく、光が漏れ出すことが無くなるため、フォトニック結晶共振器のQ値が高く保たれる。
次に、フォトニック結晶バリア領域106について説明する。フォトニック結晶バリア領域106は、可能な範囲で狭くする。上述したように、励起光がフォトニック結晶共振器の共振モードと同調しない構成としているので、励起光は、フォトニック結晶バリア領域106を透過させることで、光閉じ込め部105に導入させる。このため、励起光がフォトニック結晶バリア領域106を透過する際の、散乱損失を最小化する必要がある。
実施の形態1では、格子要素111,112,113,114から構成したQ値向上構造を用いているため、フォトニック結晶バリア領域106は、最低2つの格子要素103から構成する。
実施の形態1では、波長が980nmの半導体レーザ光源を励起光に用いることを想定している。この励起光の波長は、光導波路モードでライトコーン内となるため、フォトニック結晶本体101外への回折損失が発生する。しかしながら、第1コア104による導入光導波路の導波路長が、100μmよりも短く、励起光源の出力が十分に強ければ、回折損失が応用上許容できる範囲である。また励起光の波長980nmは、フォトニック結晶のPBGの帯域外であるが、これはフォトニック結晶バリア領域106を透過する際の損失が減少するので都合が良い。
励起光の波長を1300nmにした場合、フォトニック結晶本体101のPBG帯域内となるため、フォトニック結晶本体101バリアにおける散乱損失がより大きくなる。しかしながら、フォトニック結晶バリア領域106の幅を穴数列分に抑えれば、損失はやはり許容できる範囲である。第1コア104による励起光導入用の光導波路(導入光導波路)においては、励起光の波長がPBG帯域の内外どちらかにかかわらず、屈折率閉じ込めにより励起光は伝搬する。
導入光導波路の終端104aから先は、導波する構成となっていないために励起光は拡散するが、光の直進性が強いため、導入光導波路の導波方向同軸上に近接して共振器を配置することにより、光閉じ込め部105に十分強い励起光の導入が可能となる。光励起の共振器モードに結合しない状態であっても、例えば、光閉じ込め部105に埋め込まれた活性媒質に、十分な強度の励起光が届けば利得が発生するため、レーザ発振や光増幅などの光素子動作が可能となる。
本発明の特徴は、第1コア104を光閉じ込め部105の近くに配置しても、フォトニック結晶共振器のQ値が高く保たれることである。以下、広く採用されている電磁界解析手法である有限差分時間領域法(FDTD)によりシミュレーションを実施した結果について説明する。
この解析では、光閉じ込め部105には埋め込みヘテロ構造が埋め込まれていない状態の、フォトニック結晶共振器のみの構造を対象としている。また、格子要素111は、光閉じ込め部105より離れる方向に、格子定数×0.3075シフトさせ、格子要素112は、光閉じ込め部105より離れる方向に、格子定数×0.15375シフトさせる。格子要素113は、光閉じ込め部105に近づく方向に、格子定数×0.063シフトさせ、格子要素114は、光閉じ込め部105に近づく方向に、格子定数×0.0315シフトさせる。第1コア104が無い場合で基本共振器モードの波長は1565nm、Q値は160万となる。
上記構成において、第1コア104のコア幅を、フォトニック結晶本来の格子間隔で構成した場合に比較して8%狭くし、フォトニック結晶バリア領域106の幅を、2穴列とした条件で、FDTDによる解析を行った。解析の結果を図2に示す。図2において、(a)は、第1コア104のコア幅を8%狭くした状態の計算モデルを示し、(b)は、この場合の電磁界分布を示す。また、図2において、(c)は、コア幅をフォトニック結晶本来の格子間隔で構成した第1コア141による計算モデルを示し、(d)は、この場合の電磁界分布を示す。
図2に示す通り、コア幅を8%狭くすると、共振器モードから第1コア104への光漏れは大きく抑制されている。一方、コア幅をフォトニック結晶本来の格子間隔で構成した第1コア141に対しては、著しい光漏れが発生している。
また、図3に、フォトニック結晶バリア領域106の幅を、2穴列、3穴列、4穴列とした各条件における共振器Q値の変化を示す。図3において、(a)は、第1コア104のコア幅を8%狭くした場合の変化を示し、(b)は、コア幅をフォトニック結晶本来の格子間隔で構成した場合を示している。実施の形態1における第1コア104においては、第1コア104への光漏れが大幅に抑制されるためQ値の減少が抑制される。また、フォトニック結晶バリア領域106の幅が、がわずか2穴列の場合でも25万程度の有用なQ値となり、更に3穴列以上の場合に、Q値が100万以上を維持できる。
以上に説明したように、実施の形態1によれば、共振器モードのQ値を維持しながら、第1コア104による励起光導入光導波路を、光閉じ込め部105によるフォトニック結晶共振器の延長線上に極めて近接して配置することが可能となる。これにより、共振器モードに結合しない励起光を効率よく光閉じ込め部105の活性媒質に供給することが可能になる。
実施の形態1では、第1コア104の幅を狭くすることで、励起光導入光導波路の導波帯域を、共振器モードよりも短波長側にずらすことを実現した。なお、これに限るものではなく、第1コア104を形成する領域の格子要素の直径を拡大することで、第1コア104の幅を狭くするようにしてもよい。また、第1コア104を形成する領域の格子要素の格子間を短周期化することで、第1コア104の幅を狭くするようにしてもよい。また、第1コア104を形成する領域は、屈折率の小さい材料を採用することで、実質的に第1コア104の幅を狭くするようにしてもよい。
また、活性媒質は、埋め込みヘテロ構造ではなく、フォトニック結晶全面あるいは光閉じ込め部105に選択的に形成された量子ドットや量子井戸層などの量子構造から構成してもよい。また、共振器はL3型以外のL型共振器またはH型共振器であっても良い。
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の実施の形態2における光素子の構成を示す平面図である。この光素子は、フォトニック結晶本体201、第1コア204、光閉じ込め部205、第2コア207を備える。
フォトニック結晶本体201は、基部202および基部202に対象とする光の波長以下の間隔で三角格子状に周期的に設けられて基部202とは異なる屈折率の、柱状の複数の格子要素203を備える。格子要素203は、例えば円柱状の中空構造である。
第1コア204は、フォトニック結晶本体201に設けられ、フォトニック結晶の格子要素203がない部分から構成された複数の欠陥からなる直線状の線欠陥から構成されている。第1コア204は、フォトニック結晶の結晶方位の方向に延在している。第1コア204により、励起光を導入するための導入光導波路が構成されている。また、第1コア204の幅(コア幅)は、フォトニック結晶本来の格子間隔で構成した場合より狭くしている。例えば、第1コア204の両脇の格子要素群221を、各々第1コア204の側にずらす(シフトする)ことで、第1コア204のコア幅を狭くすればよい。
光閉じ込め部205は、格子要素203が形成されていない欠陥から構成されている。実施の形態2においても、光閉じ込め部205は、複数の欠陥が直線状に配列されている。また、光閉じ込め部205は、第1コア204の終端204aより、フォトニック結晶バリア領域206を挾んでフォトニック結晶本体201に配置されている。また、実施の形態2において、光閉じ込め部205は、第1コア204が配列する直線211に対して60°異なる直線212上に配列された複数の欠陥から構成されている。
なお、フォトニック結晶バリア領域206は、1〜3個の格子要素203から構成されている。光閉じ込め部205と、光閉じ込め部205の周囲のフォトニック結晶領域との境界によるミラー領域とから、フォトニック結晶共振器が構成される。また、光閉じ込め部205に、活性媒質が設けられている。活性媒質を備えることで、フォトニック結晶共振器は、レーザや光変調器などの光素子として機能させることができる。
また、第2コア207は、線欠陥から構成されてフォトニック結晶共振器で励起する励起光に共振する出力光導波路を構成する。第2コア207は、第1コア204が延在する直線211上に配置され、第1コア204と同じ結晶方位の方向に延在している。なお、第2コア207は、第1コア204と同じ結晶方位の方向に延在している必要はない。第2コア207は、第1コア204が延在する結晶方位とは60°または120°異なる方向に延在していてもよい。この場合、図4の紙面において、光閉じ込め部205の上側または下側に、第2コア207が配置されればよい。また、同じ結晶方位の方向であっても、第1コア204が延在する直線上よりずれた位置に、第2コア207aを配置してもよい。このようにすることで、フォトニック結晶共振器(光閉じ込め部205)を通り抜けた励起光が、第2コア207aに入ることが抑制できる。
実施の形態2においても、コア幅をフォトニック結晶本来の格子間隔とした導入光導波路を用いる限りは、共振器モードと導入光導波路との結合が発生し、フォトニック結晶共振器からの光漏れが発生する。これに対し、幅を狭くした第1コア204により導入光導波路を構成すれば、基本共振器モードの導入光導波路との結合が無くなるため、同共振モードのQ値低下は抑制される。なお、フォトニック結晶バリア領域206は、可能な限り狭くすることが望ましいが、格子要素群221のシフト変調が共振器性能に影響を与えることを考えると、直線211上の穴数が3あるいは2程度が、最も狭くなる構成と考えられる。
以上に説明したように、本発明によれば、フォトニック結晶共振器に励起光を導入するための導入光導波路を構成する第1コアのコア幅を狭くしたので、導入光導波路に対する共振器モードからの光漏れが抑制されるようになり、発光出力用の共振器モードに影響を与えることなく、励起光の活性媒質への入射効率を高めることができるようになる。また、導入光導波路(第1コア)と出力光導波路(第2コア)とを独立に配置できるので、信号光処理用の光導波路結合やQ値の設定は、光励起用光導波路に左右されることなく任意に設定可能になる。また励起光が出力光導波路に混入して出力されることは、設計を適切に行えば無視できる程度に抑制できる。本発明は、フォトニック結晶共振器による光励起レーザ・発光ダイオード・光アンプ等への応用に特に有用と考えられる。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
101…フォトニック結晶本体、102…基部、103…格子要素、104…第1コア、104a…終端、105…光閉じ込め部、106…フォトニック結晶バリア領域、107…第2コア、111,112,113,114…格子要素、121…格子要素群。