通信の高速化、大容量化に対する要求が高まっており、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(Hetero-junction Bipolar Transistor;HBT)などの高周波半導体トランジスタの性能向上が求められている。また、近年では、ミリ波やテラヘルツ帯と呼ばれる、〜1THz程度の帯域で動作させるICにおいても、特に高周波特性の優れたInP系HBTを用いる研究が盛んに行われている。
トランジスタの高周波特性を評価する指標として、電流利得遮断周波数(Current Gain Cut-off Frequency)fTと、最大発振周波数(Maximum Oscillation frequency)fmaxがある。fTは次のような式で表現される。
上記式において、τEはエミッタ充電時間、τBはベース走行時間、τCはコレクタ走行時間、τCCはコレクタ充電時間である。τEおよびτCCは、エミッタやコレクタのコンタクト抵抗や容量によって表される。従ってfTの向上のために、素子面積を小さくして容量を低減させることや、高濃度にドーピングしたコンタクトによってコンタクト抵抗を低減することが重要である。また、τBおよびτCは、ベース、コレクタを、電子が通過するために必要な時間を表しており、さらなるfTの向上にはこれら走行時間の短縮が必要である。
またfmaxに関しては、次の式で表すことができる。
上記式において、RBはベース抵抗、CBCはベース−コレクタ間の容量である。これらを低減することが、さらなるfmax向上に必要である。特にベース抵抗については、エミッタ直下のベースの真性抵抗、ベース電極からキャリアが流れる領域までのアクセス抵抗、およびベース電極とのコンタクト抵抗の和によって表される。fmaxを向上させるためには、高濃度ドーピングされたベースによって、真性抵抗を低減することも1つの手段ではあるが、電流利得がドーピング濃度の増大によって低下するために、むやみにドーピング濃度を高めることは望まれない。従って、コンタクト抵抗などの他の成分を小さくすることによってfmaxを向上させる手段が求められる。
ところで、HBTの作製においては、まず、MOCVDやMBEなどのエピタキシャル成長法により、InPなどの基板上に、サブコレクタ形成層、コレクタ形成層、ベース形成層、エミッタ形成層、エミッタコンタクト形成層などの所望の化合物半導体による層構造を積層する。このような積層構造に対し、公知のリソグラフィ技術およびエッチング技術によりパターニングを施し、メサ構造を作製する。この作製においては、エッチング選択性の高いエッチャントを用い、所望の半導体層のみをエッチングして必要な層を残すようにしている。このようにメサ構造を作製し、エミッタコンタクト電極、ベースコンタクト電極、コレクタコンタクト電極を形成することでHBTを作製する。
先述の、HBTのfTを向上させる手法として、ベースのバンドギャップをベース内で連続的に変化させ、擬似電界を誘起し、エミッタ側から走行する電子をベース内で加速し、ベース内での走行時間を短縮させる技術が、広く用いられている。例えば、InGaAsからベースを構成したHBTにおいては、一般的には、ベースのエミッタ側からコレクタに近い側にかけて、固相In組成を小さい状態から大きい状態に変化させている。この構成では、ベースのバンドギャップは、エミッタ側からコレクタ側にかけて、バンドギャップが大きい状態から小さい状態へと変化する。このようなバンドギャップの変化に伴い、ベース内には擬似的に電界が印加され、エミッタから注入された電子は加速される。この擬似電界の効果により、キャリア走行時間が短縮され、ベースが組成傾斜構造とされていない場合よりも高いfTを得ることができる(非特許文献1)。
また、ベースをGaAsSbから構成したHBTにおいては、As組成をエミッタ側からコレクタ側にかけて、大きい状態から小さい状態へと変化させるような手法が報告されている。この構成としたベースのバンドギャップ変化は、InGaAsによるベースの場合と同様である(非特許文献2)。
ドーピング濃度の変化によっても、同様にベース内に擬似電界を誘起することができる。ベースのドーピング濃度が高くなると、縮退した半導体ではフェルミエネルギーが価電子帯の内側に入り、この分、熱平衡状態での伝導帯エネルギーが上昇する。従って、材料のバンドギャップを変化させずとも、ベースにおけるドーピング濃度をエミッタ側からコレクタ側へと小さくなるようにすることで、内部電界を誘起することができる(非特許文献3)。
上述した組成傾斜構造は、ベース内で組成やドーピング濃度を連続的に変化させることによって形成したが、ベース内で組成傾斜やドーピング傾斜を形成する技術として、階段状のプロファイル形成を行う手法も報告されている。例えば、ベースのうちのエミッタに近い側の領域のうち数nm程度を、通常よりも高いp型ドーピング状態とする技術が報告されている。この構造には様々な用途があるが、1つは電流利得を大きく損なうことなく、低いベースコンタクト抵抗を実現し、これにより高いfmaxを実現することである。ベースのうち、エミッタに近い側だけを高濃度にドーピングされた状態とすることで、ベース全体の平均のシート抵抗は大きく下げずに、ベース電極とのコンタクト抵抗を低減することができるため、結果的にfmaxの向上が可能である(非特許文献4)。
上述した技術は、InGaAsからベースを構成しているが、GaAsSbからベースを構成するHBTにおいても、同様の構造が報告されている。特にこの報告では、ベースのうち、エミッタに近い領域4nm程度を、As組成が高く、かつ高濃度ドーピングされた状態とすることで、上記のベースコンタクト抵抗低減効果と合わせて、ベース内での擬似電界制御にも用いている(非特許文献5)。
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)の構成を示す断面図である。
このHBTは、基板101と、基板101の上に形成されたバッファ102と、バッファ102の上に形成されたサブコレクタ103と、サブコレクタ103の上に形成されたコレクタ104と、コレクタ104の上に形成された第1ベース105と、第1ベース105の上に形成された第2ベース106と、第2ベース106の上に形成されたエミッタ107と、エミッタ107の上に形成されたエミッタキャップ108とを備える。
エミッタキャップ108の上には、エミッタ電極111が形成されている。また、エミッタ107およびエミッタキャップ108によるエミッタメサの周囲の第2ベース106の上にベース電極112が形成されている。また、コレクタ104、第1ベース105、および第2ベース106によるコレクタメサ周囲のサブコレクタ103の上にコレクタ電極113が形成されている。バッファ102およびサブコレクタ103は、所定のメサ形状とされ、素子分離されている。このメサよりコレクタメサは小さい面積とされ、コレクタメサよりエミッタメサは小さい面積とされている。
また、基板101は、例えば、鉄をドープすることで半絶縁性としたInPから構成され、バッファ102は、InPから構成されている。また、サブコレクタ103は、n型不純物が高濃度(1×1019cm-3以上)に添加された厚いInPと、n型不純物が高濃度(1×1019cm-3以上)に添加された薄いInGaAsとから構成されている。
また、コレクタ104は、n型のInPから構成され、エミッタ107は、n型のInPから構成され、エミッタキャップ108は、n型不純物が高濃度(1×1019cm-3以上)に添加されたInGaAsから構成されている。
また、第1ベース105は、炭素がドープされたp型のInGaAsSbから構成され、第2ベース106は、炭素がドープされたp型のGaAsSbから構成されている。第2ベース106は、第1ベース105より高い正孔濃度とされている。ここで、第1ベース105は、正孔濃度が1×1019cm-3以上とされているとよい。また、実施の形態1では、第1ベース105は、積層方向に第2ベース106に近い領域ほど、In組成およびSb組成が低くされて大きなバンドギャップとされている(組成傾斜)。なお、第2ベース106の層厚は、1〜5nm程度であれば、十分にコンタクト抵抗低減効果を得ることができる。
実施の形態1におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタは、まず、図2に示すように、III−V族化合物半導体からなるコレクタ形成層204と、III−V族化合物半導体からなるエミッタ形成層207と、コレクタ形成層204とエミッタ形成層207との間に配置された第1ベース形成層205と、第1ベース形成層205とエミッタ形成層207との間において第1ベース形成層205に接して配置された第2ベース形成層206とからなる積層構造を、基板101の上に形成する。実施の形態1では、基板101の側より、コレクタ形成層204,第1ベース形成層205,第2ベース形成層206,エミッタ形成層207の順に形成している。各層の層厚は、適宜に設定する。
第1ベース形成層205は、炭素がドープされたInGaAsSbから構成し、第2ベース形成層206は、炭素がドープされたGaAsSbから構成する。また、第2ベース形成層206は、第1ベース形成層205より高い正孔濃度とし、第1ベース形成層205は、正孔濃度を1×1019cm-3以上とする。
実施の形態1では、基板101の上に、InPからなるバッファ形成層202、n+−InPおよびn+−InGaAsからなるサブコレクタ形成層203の上に、上述した積層構造を形成し、また、エミッタ形成層207の上には、エミッタキャップ形成層208を形成している。
上述した各半導体層は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD)または分子線エピタキシャル成長法(MBE)などにより、順次に成長させていけばよい。
上述した積層構造を形成した後、まず、エミッタキャップ形成層208の上にエミッタ電極材料を堆積して金属膜を形成し、この金属膜およびエミッタキャップ形成層208,エミッタ形成層207を、公知のリソグラフィ技術およびエッチング技術によりパターニングし、エミッタ電極111およびエミッタ107、エミッタキャップ108によるエミッタメサを形成する。エミッタメサの周囲には、第2ベース形成層206の上面が露出する。
次に、エミッタメサ周囲に露出した第2ベース形成層206の所定箇所に、よく知られたリフトオフ法により、ベース電極112を形成する。
次に、エミッタメサ形成部を中心としたベース電極112の形成領域を含む所定の領域を保護するマスクパターンをリソグラフィ技術により形成する。次いで、形成したマスクパターンを用いた選択的なエッチングにより、第2ベース形成層206、第1ベース形成層205、コレクタ形成層204を順次にパターニングし、コレクタ104、第1ベース105、第2ベース106によるコレクタメサを形成する。コレクタメサの周囲には、サブコレクタ形成層203の上面が露出する。なお、コレクタメサを形成した後、上記マスクパターンは除去する。
次に、コレクタメサの周囲に露出したサブコレクタ形成層203の所定箇所に、リフトオフ法によりコレクタ電極113を形成する。この後、サブコレクタ形成層203およびバッファ形成層202を順次にパターニングし、バッファ102およびサブコレクタ103を形成する。各電極の形成では、例えば、Au、Ti、Pt、W、Moなどを含むような積層構造を蒸着法により堆積することで形成すればよい。これらのことにより、ヘテロ接合バイポーラトランジスタが形成される。
なお、エミッタ電極111、ベース電極112、コレクタ電極113は、メサ形成の後に形成してもよい。また、長期信頼性や歩留まり向上の観点から、SiO2、SiN、Al2O3、ベンゾシクロブテン(BCB:Benzo cyclo butene)などの酸化膜材料や保護膜材料で、メサ周囲のパッシベーションを行ってもよい。
ここで、第1ベース形成層205および第2ベース形成層206の形成について、図3を用いてより詳細に説明する。図3は、実施の形態1の構造を作製する際の、本発明におけるベース形成層の形成時における原料の供給シークエンスを示したものである。実施の形態1では、Ga原料としてトリエチルガリウム(Triethylgallium;TEGa)、In原料としてトリメチルインジウム(Trimethylindium;TMIn)、As原料としてアルシン(Arsine;AsH3)、P原料としてホスフィン(Phosphine;PH3)、Sb原料としてトリメチルアンチモン(Trimethylantimony;TMSb)を用いた。また、Cドーピング原料には、ハロメタン系原料である四臭化炭素(Carbon tetrabromide;CBr4)を用いた。
まず、MOCVDやMBEなどの手法により、コレクタ形成層204までを基板101上に形成する。この後、ステップS301で適当な成長中断を挿入し、成長温度や各種原料の流量調整を行う。実施の形態1ではこの成長中断の際には、例えばPH3を供給し続ける。
この後、ステップS302で、Ga、In、As、Sb、Cドーピング原料の供給を開始することで、第1ベース形成層205の形成を開始する(このときPH3は供給を停止する)。第1ベース形成層205の成長開始の後、C原料であるCBr4の流量を徐々に増大させる。このとき、Ga、In、As、Sb原料の供給量は一切変化させない。このように、第1ベース形成層205および第2ベース形成層206の形成では、ハロメタン系原料を用いて炭素のドーピングを行い、ハロメタン系原料の供給量を変化させるところに特徴がある。このようにすると、第1ベース形成層205のコレクタ形成層204に近い側から成長方向にかけて、固相In組成およびSb組成が徐々に減少するような組成傾斜が形成される。
この点について説明する。非特許文献6によれば、ハロメタン系原料はエッチング効果を有するため、InGaAsSbの成長の際、CBr4を供給することで固相組成が変動する。このエッチング効果の多寡が、各元素によって異なる。InとGaとで比較すると、Inの方がエッチング効果の影響が大きい。これに伴い、CBr4の供給によってIn組成が減少する。また、CBr4の供給によってAsの取り込みが促進され、Sb組成は減少する。このため、第1ベース形成層205を形成する際に、コレクタ形成層204側から成長方向にかけてCBr4の供給量を増大させることで、固相In組成およびSb組成が徐々に減少するような組成傾斜が形成される。
以上のようにして第1ベース形成層205を形成した後、ステップS303で、In原料であるTMInの供給を停止することで、第2ベース形成層206を形成する。この形成において、Ga、As、Sbの供給量は、ステップS302の段階と同一とする。以上のように、第1ベース形成層205および第2ベース形成層206の形成は、III−V族化合物半導体を構成する原料の中でIn原料以外の原料の供給量は一定とした状態で、In原料の供給の制御により成長中断をすることなく連続して行う。
本発明では、第1ベース形成層205をInGaAsSbから構成し、第2ベース形成層206をGaAsSbから構成しているため、第2ベース形成層206の形成は、上述したように、第1ベース形成層205の形成の直後、結晶成長を中断することなく形成可能である。このため、成長中断を挿入することが無く、成長中断による再結合中心密度の増大が抑制でき、従って電流利得の低下を抑制した状態で階段状組成傾斜を形成することができる。
また、上述した製造方法においては、第2ベース形成層206は、第1ベース形成層205の形成の後に、単にTMInの供給を停止しただけであるため、TEGaの供給量は変化していない。ところで、成長レートに関しては、III族元素の供給律速であるため、第2ベース形成層206は、第1ベース形成層205に比べて、III族元素のトータルの供給量が減少している。成長レートが減少すると、その分ドーピング原料の取り込まれる量が増えるため、第2ベース形成層206の方が、必然的に正孔濃度が高くなる。
第2ベース形成層206を形成した後に、ステップS304で、所望の手続きによりエミッタ形成層207を形成する。なお、ここでは、第2ベース形成層206を形成した後に直接エミッタ形成層207の成長を開始しているが、これに限るものではなく、成長中断を導入し、界面形成に関する所望の手続きを行ってもよい。また、第2ベース形成層206とエミッタ形成層207との間に、界面品質を向上させるなどの目的で、スペーサ形成層などを挿入してもよい。
次に、実施の形態1におけるHBTのバンドギャップ状態について、図4のバンド図を用いて説明する。図4は、実施の形態1におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの、熱平衡状態におけるバンド図を示したものである。
InGaAsSbは、特にInPに格子整合する組成の近傍では、In組成およびSb組成が大きいほど、バンドギャップが減少する傾向にある。従って、上述した製造方法によって成長した第1ベース形成層205による第1ベース105は、コレクタ104側から第2ベース106にかけてバンドギャップが徐々に大きくなるような構造となる。なお、前述したように、第1ベース105(第1ベース形成層205)は、Cドーピング原料の供給量を変化させることで、積層方向に第2ベース106(第2ベース形成層206)に近い領域ほど大きなバンドギャップとしているため、第2ベース106(第2ベース形成層206)に近い領域ほど高い正孔濃度とされることになる。
また、第2ベース106は、GaAsSbより構成され、In組成が0となるため、バンドギャップは第1ベース105に比べて大きくなる。また、第2ベース106は、第1ベース105よりドーピング濃度も高いため、フェルミ準位と価電子帯とのエネルギー差も大きくなる。
この構造において、ベース内での擬似電界は、第1ベース105における組成傾斜と、第1ベース105と第2ベース106の伝導帯のエネルギー差、および第1ベース105と第2ベース106のドーピング濃度の変化を反映する。図4においては、第2ベース106と第1ベース105の界面から、第1ベース105とコレクタ104との界面までの伝導帯のエネルギー変化に反映する。図4からもわかるよう、伝導帯のエネルギーは、連続的に変化している。上述した構成により、ベース内に擬似電界が生じ、結果、キャリア走行時間が減少し、fTの向上が見込める。
また、本発明によれば、ベース電極112は第2ベース106にオーミック接続させるようにしている。第2ベース106は、第1ベース105よりもドーピング濃度が高く設定されているため、ベース電極112とのコンタクト抵抗は、第2ベース106を介す本発明の構造の方が、より低抵抗化される。このようにコンタクト抵抗を低減させた結果、fmaxの向上が見込める。
ところで、本発明では、第1ベースと第2ベースとのバンドギャップ差を、Inの有無により構成している。例えば、第1ベース形成層の形成後に、Sb原料の供給を停止することで、InGaAsを成長させて第2ベース形成層を形成することも可能であるが、InGaAsの場合、Sbを含まないため、伝導帯エネルギが第1ベースより低くなってしまう。
また、InGaAsはInPよりも伝導帯エネルギが低いため、InPからなるエミッタとInGaAsSbからなる第1ベースとの間にある第2ベースが、電子にとってポテンシャル的にトラップされやすい構造となってしまう。また、MOCVDによって半導体層を成長する場合、原料に含まれる水素によって、CドープInGaAsの正孔が不活性される現象が顕著であり、InGaAsは第2ベースの材料として適していない。
また、第1ベース形成層の形成後、Ga原料の供給停止によってInAsSbを形成し、あるいは、As原料の供給停止によってInGaSbを形成することも可能である。しかしながら、どちらの材料も、InPに擬似格子整合させるにはあまりにも格子定数差が大きいため、コンタクト抵抗の低減に効果がある数nmの成長でも容易に臨界膜厚を超えて歪が緩和してしまい、結晶品質が損なわれてしまう。
これらのことに対し、本発明では、第1ベースをInGaAsSbから構成するとともに、第2ベースをGaAsSbから構成しているので、第2ベースの伝導帯エネルギを第1ベースより高く設定することができる。加えて、第2ベースをInPからなるエミッタを擬似格子整合させることができる。このように、本発明の構成は、電流利得遮断周波数fTおよび最大発振周波数fmaxを向上させる上で、有効である。
また、ベースを、GaAsSbやInGaAsSbなどのSbを含む材料により構成することで、ベースの伝導帯エネルギを、InGaAsから構成した場合に比較してより高くすることができる(非特許文献2)。例えば、InGaAsから構成されたベースの場合、InGaAsがInPより伝導帯エネルギが低いため、InPからコレクタを構成すると、ベース−コレクタ接合に、電子に対してエネルギ障壁が形成され、充電時間が増大しfTの低下を招いてしまう。これに対し、GaAsSbやInGaAsSbからベースを構成することで、伝導帯エネルギをInPより高くすることができ、高耐圧に有利なInPからコレクタを構成しても、上記エネルギ障壁が生じず、高いfTが、高い耐圧とともに得られるようになる。
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、基板101と、基板101の上に形成されたバッファ102と、バッファ102の上に形成されたサブコレクタ103と、サブコレクタ103の上に形成されたコレクタ104と、コレクタ104の上に形成された第1ベース105と、第1ベース105の上に形成された第2ベース106と、第2ベース106の上に形成されたエミッタ107と、エミッタ107の上に形成されたエミッタキャップ108とを備える(図1)。
エミッタキャップ108の上には、エミッタ電極111が形成されている。また、エミッタ107およびエミッタキャップ108によるエミッタメサの周囲の第2ベース106の上にベース電極112が形成されている。また、コレクタ104、第1ベース105、および第2ベース106によるコレクタメサ周囲のサブコレクタ103の上にコレクタ電極113が形成されている。バッファ102およびサブコレクタ103は、所定のメサ形状とされ、素子分離されている。
ここで、実施の形態2では、第1ベース105における固相In組成および固相Sb組成は、組成傾斜が形成されておらず、第1ベース105は、層厚方向に均一組成のInGaAsSbから構成している。この点が、実施の形態1との違いであり、他の構成は同様となっている。また、製造方法についても、均一組成とした第1ベース105(第1ベース形成層205)以外は、前述した実施の形態1と同様であり、詳細は省略する。
以下、実施の形態2における第1ベース形成層205の形成について、図5を用いてより詳細に説明する。図5は、実施の形態2の構造を作製する際の、本発明におけるベース形成層の形成時における原料の供給シークエンスを示したものである。実施の形態2でも、Ga原料としてTEGa、In原料としてTMIn、As原料としてAsH3、P原料としてPH3、Sb原料としてTMSbを用いた。また、Cドーピング原料には、CBr4を用いた。
まず、MOCVDやMBEなどの手法により、コレクタ形成層204までを基板101上に形成する。この後、ステップS501で適当な成長中断を挿入し、成長温度や各種原料の流量調整を行う。実施の形態2でもこの成長中断の際には、例えばPH3を供給し続ける。
この後、ステップS502で、Ga、In、As、Sb、Cドーピング原料の供給を開始することで、第1ベース形成層205の形成を開始する(このときPH3は供給を停止する)。第1ベース形成層205の成長開始の後、Ga、In、As、Sb原料の供給量は一切変化させない。また、C原料であるCBr4の供給量も変化させない。このように、実施の形態2では、炭素のドーピングのためのハロメタン系原料の供給量を、第1ベース形成層205の成長中一定とする。従って、形成される第1ベース形成層205は、コレクタ形成層204に近い側から成長方向にかけて、固相In組成およびSb組成が均一となる。
以上のようにして均一組成の第1ベース形成層205を形成した後、ステップS503で、In原料であるTMInの供給を停止することで、第2ベース形成層206を形成する。このとき、Ga、As、Sbの供給量は、ステップS502の段階と同一とする。以上のように、第1ベース形成層205および第2ベース形成層206の形成は、III−V族化合物半導体を構成する原料の中でIn原料以外の原料の供給量は一定とした状態で、In原料の供給の制御により成長中断をすることなく連続して行う。
実施の形態2においても、第1ベース形成層205をInGaAsSbから構成し、第2ベース形成層206をGaAsSbから構成しているため、上述したように、第2ベース形成層206の形成は、第1ベース形成層205の形成の直後、結晶成長を中断することなく形成可能である。このため、成長中断を挿入することが無く、成長中断による再結合中心密度の増大が抑制でき、従って電流利得の低下を抑制した状態とすることができる。
また、上述した製造方法においても、第2ベース形成層206は、第1ベース形成層205の形成の後に、単にTMInの供給を停止しただけであるため、TEGaの供給量は変化していない。前述したように、成長レートに関しては、III族元素の供給律速であるため、第2ベース形成層206は、第1ベース形成層205に比べて、III族元素のトータルの供給量が減少している。成長レートが減少によりドーピング原料の取り込まれる量が増えるため、第2ベース形成層206の方が、必然的に正孔濃度が高くなる。
第2ベース形成層206を形成した後に、ステップS504で、所望の手続きによりエミッタ形成層207を形成する。なお、実施の形態2においても、第2ベース形成層206を形成した後に直接エミッタ形成層207の成長を開始しているが、これに限るものではなく、成長中断を導入し、界面形成に関する所望の手続きを行ってもよい。また、第2ベース形成層206とエミッタ形成層207の間に、界面品質を向上させるなどの目的で、スペーサ形成層などを挿入してもよい。
次に、実施の形態2におけるHBTにおける、バンドギャップの状態について、図6のバンド図を用いて説明する。図6は、実施の形態2におけるヘテロ接合バイポーラトランジスタの、熱平衡状態におけるバンド図を示したものである。
実施の形態1の場合とは異なり、第1ベース形成層205には組成傾斜が形成されていないので、第1ベース形成層205はバンドギャップ変化を伴わず、第1ベース形成層205全体にわたって一定のエネルギーとなる。第2ベース形成層206は、実施の形態1と同様、GaAsSbより構成される。In組成が0となるため、バンドギャップは第1ベース形成層205に比べて大きくなる。また、第2ベース106は、第1ベース105よりドーピング濃度も高いため、フェルミ準位と価電子帯とのエネルギー差も大きくなる。この結果、ベース内に擬似電界が生じ、結果、キャリア走行時間が減少し、fTの向上が見込める。
また、実施の形態2においても、ベース電極112は第2ベース106にオーミック接続させるようにしている。第2ベース106は、第1ベース105よりもドーピング濃度が高く設定されているため、ベース電極112とのコンタクト抵抗は、第2ベース106を介す、本発明の構造の方が、より低抵抗化される。このようにコンタクト抵抗を低減させた結果、fmaxの向上が見込める。
また、実施の形態2でも、第1ベース105および第2ベース106のいずれも、Sbを含んで構成しているので、fTおよびfmaxを向上させる上で、有効である。
以上より、実施の形態1,2においては、階段状プロファイル形成の際、界面形成が簡易化され、第1ベースと第2ベースとの界面形成の際に、むやみに成長中断を挿入することなく急峻なドーピング濃度の変化を得ることができ、電流利得の低下を引き起こすことなく、fmaxを向上させることができる。また、第2ベースにInを含まず、第1ベースにInを含む材料により構成し、第2ベースのドーピング濃度を第1ベースよりも高くすることで、ベース電極とベース形成層のコンタクト抵抗を低減し、fmaxを向上させることができる。
また、第1ベース形成層の形成において、コレクタ形成層側から第2ベース側(成長方向)にかけてCBr4の供給量を増大させることで、固相In組成およびSb組成が徐々に減少するような組成傾斜を形成すれば、形成される第1ベース内での擬似電界により、走行する電子の走行時間が短縮され、結果fTの向上が見込める。
以上に説明したように、本発明によれば、第1ベースは炭素がドープされたInGaAsSbから構成し、第1ベースの上に接して形成された第2ベースは、炭素がドープされたGaAsSbから構成するようにしたので、高周波特性の優れたInP系HBTが容易に作製できるようになる。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、結晶成長による各形成層の形成を、コレクタ側からではなく、エミッタ側から積層させ、作製した積層構造を別基板に転写してから素子構造を形成してもよい。この場合、第2ベース形成層の次に第1ベース形成層を成長するため、組成傾斜構造とする条件では、ハロメタン系原料の供給量を既に形成されている第2ベース形成層の側から、徐々に減少させればよい。