JP6239518B2 - 耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法 - Google Patents
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Description
(i)少なくとも粒子表面にイットリアが存在する窒化アルミニウム粉末と、酸溶液とを接触させる工程;及び、
(ii)前記窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物とを接触させる工程
を上記順に有し、前記工程(i)の後濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末に対して1mol/L塩酸による抽出操作を行った場合に抽出されるイットリアの量が、前記濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末100gに対して1000mg以下であることを特徴とする、耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法である。
(a)上記濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末10gを、50mLサンプル瓶中の1mol/L塩酸25mLに、25℃において加える工程;
(b)サンプル瓶を超音波槽中の水に浸漬した状態で保持し、25℃において43kHzの超音波を30分間印加する工程;
(c)サンプル瓶中の内容物を濾過することにより、濾液を得る工程;
(d)濾液中のイットリウム含有量を、ICP発光分光法により定量する工程;及び
(e)濾液中のイットリウム含有量を、イットリアとしての含有量に換算する工程。
ここで工程(b)において使用する超音波槽としては、ブランソン製ブランソニック卓上型超音波洗浄器(槽内寸法:幅295×奥行150×高さ150mm、槽容量:6.0L、超音波出力:120W)を好ましく採用できる。またサンプル瓶を超音波槽中に保持する際の深度としては、サンプル瓶の底部外表面から超音波槽の水面までの距離が40mmとなる深度を好ましく採用できる。なおサンプル瓶は本体がガラス製のものを用いるものとする。
リン酸化合物の付着量をオルトリン酸イオン(PO4 3−)の量に換算するにあたっては、リン酸化合物のリン原子1molがオルトリン酸イオン(PO4 3−)1molに対応するものとする。
「窒化アルミニウム粉末の単位表面積あたりのリン酸化合物の付着量」は、原料窒化アルミニウム粉末のBET法による比表面積(S)、及び、オルトリン酸イオンの量に換算されたリン酸化合物の付着量(Z)に基づいて、式(Z/S)により算出するものとする。
酸洗工程S11(以下において「S11」と略記することがある。)は、少なくとも粒子表面にイットリアが存在する窒化アルミニウム粉末と、酸溶液とを接触させる工程である。酸洗工程S11における窒化アルミニウム粉末と酸溶液との接触は、例えば、酸溶液中に窒化アルミニウム粉末を分散させる方法や、窒化アルミニウム粉末が溶媒(例えば水等。)中に分散されたスラリーと酸溶液とを混合する方法等により行うことができる。
本発明において、原料となる窒化アルミニウム粉末は、粒子表面にイットリアが存在する限りにおいて、特に制限されない。
酸洗工程S11において、窒化アルミニウム粉末と接触させる酸溶液は、イットリアを溶解可能な公知の酸の溶液を使用することができ、溶媒としては水が好ましく使用される。上記酸としては、後述するリン酸化合物以外の酸が用いられ、具体的には、塩化水素、硝酸、硫酸、過塩素酸、ヨウ化水素、臭化水素、過マンガン酸、チオシアン酸などの強酸が好適に使用される。
窒化アルミニウム粉末と酸溶液とを接触させる温度は特に限定されないが、通常5℃〜100℃であり、好ましくは20℃〜40℃である。温度が低すぎるとイットリアの溶解度が下がるため効率が悪く、温度が高すぎると窒化アルミニウムの加水分解が促進されるおそれがある。
酸洗工程S11後における窒化アルミニウム粉末の粒子表面のイットリア量は、後述のリン酸化合物による表面処理を妨害しない量まで低減されていればよい。好ましくは、酸洗工程S11の後濾別及び乾燥された窒化アルミニウム粉末に対して1mol/L塩酸による抽出操作を行った場合に抽出されるイットリアの量が、1000mg/100g(窒化アルミニウム粉末)以下、より好ましくは250mg/100g(窒化アルミニウム粉末)以下である。
(a)上記濾別及び乾燥された窒化アルミニウム粉末10gを、50mLサンプル瓶中の1mol/L塩酸25mLに、25℃において加える工程;
(b)サンプル瓶を超音波槽中の水に浸漬した状態で保持し、25℃において43kHzの超音波を30分間印加する工程;
(c)サンプル瓶中の内容物を濾過することにより、濾液を得る工程;
(d)濾液中のイットリウム含有量を、ICP発光分光法により定量する工程;及び
(e)濾液中のイットリウム含有量を、イットリアとしての含有量に換算する工程。
固液分離工程S12(以下において「S12」と略記することがある。)は、S11の後、酸溶液と窒化アルミニウム粉末とを分離する工程である。S12における分離の具体的な方法としては、濾過、デカンテーション、遠心分離、及びこれらの組み合わせ等を例示できる。S12においては、酸溶液から分離した窒化アルミニウム粉末に対して更に水等による洗浄処理を行い、窒化アルミニウム粉末から酸を除去することが好ましい。
リン酸化合物処理工程S13(以下において「S13」と略記することがある。)は、S12を経た窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物とを接触させる工程である。S13において窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物を接触させる方法としては、公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、窒化アルミニウム粉末をリン酸化合物溶液中に分散させる方法や、窒化アルミニウム粉末をリン酸化合物溶液に練り込みペースト状にする方法等が挙げられる。窒化アルミニウム粉末をリン酸化合物溶液中に分散させるにあたっては、ディスパーザー、ホモジナイザー、超音波分散機等の公知の装置を用いることができる。
S13におけるリン酸化合物としては、窒化アルミニウム粉末の耐水化に使用する公知のリン酸化合物を特に制限なく使用可能である。S13において使用可能なリン酸化合物の例としては、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸等の無機リン酸;リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム等の無機リン酸金属塩;リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等の無機リン酸アンモニウム塩;及び、有機基を有する有機リン酸を挙げることができる。好ましい有機リン酸としては、下記一般式(2)で表される有機リン酸を挙げることができる。
S13において、窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物とを接触させる際の条件としては、公知の条件を特に制限なく採用可能である。例えば、接触時間は通常1〜120分間とすることができ、また、接触時の温度は通常0〜90℃とすることができる。
後処理工程S14(以下において「S14」と略記することがある。)は、S13において得られた窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物溶液との混合物から耐水性窒化アルミニウム粉末として取り出す工程である。S14の具体的な態様としては例えば、(A)混合物から溶媒を蒸発させることにより混合物を乾固させる態様;(B)混合物から窒化アルミニウム粉末を濾別し、濾別した窒化アルミニウム粉末を乾燥する態様;及び、(C)混合物から窒化アルミニウム粉末を濾別し、適当な溶媒(例えば水等。)で洗浄した後、乾燥する態様、等を挙げることができる。
酸化膜形成工程S22(以下において「S22」と略記することがある。)は、酸洗工程S11及び固液分離工程S12を経て粒子表面のイットリアが低減された窒化アルミニウム粉末の粒子表面に、酸化膜を形成する工程である。S22を経ることにより、リン酸化合物との反応性を高めることが可能である。S22において酸化膜を形成する方法としては、公知の酸化膜形成方法を採用することができる。S22において形成する酸化膜の量は、原料窒化アルミニウム粉末の表面積(BET法)当たり酸素換算で0.001〜0.1g/m2の酸化アルミニウムが存在する程度の量が好ましい。窒化アルミニウム粉末の粒子表面の酸化膜量は、窒化アルミニウム粉末の酸素濃度を、酸素・窒素分析装置(例えば商品名:EMGA−620W、堀場製作所製)を使用し、不活性ガスとしてヘリウムガスを使用して不活性ガス融解−赤外線吸収検出法にて定量することにより、該酸素濃度から以下の式によって決定できる。
酸化膜量=酸素濃度(wt%)/(BET比表面積(m2/g)×100)
本発明によって製造される耐水性窒化アルミニウム粉末は、窒化アルミニウムの性質を生かした種々の用途、特に放熱シート、放熱グリース、放熱接着剤、塗料、熱伝導性樹脂などの放熱材料に充填するフィラーとして広く用いることができる。
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装(株)製MT3300)によって粒度分布(体積分布)を測定し、その中間値に対応する球相当径(直径)を平均粒子径とした。
BET一点法にて測定を行った。
次の工程(a)乃至(f)を順に行うことにより決定した。
(a)酸溶液との接触後、濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末10gを、50mLサンプル瓶(アズワン製スクリュー管瓶No.7、本体は硼珪酸ガラス製)中の1mol/L塩酸25mLに、25℃において加えた。
(b)サンプル瓶を超音波槽(ブランソン製ブランソニック卓上型超音波洗浄器、槽内寸法:幅295×奥行150×高さ150mm、槽容量:6.0L、超音波出力:43kHz、120W)中の水(5L)に浸漬した状態で保持し、25℃において43kHzの超音波を30分間印加した。なお超音波槽の水面からサンプル瓶の底部外側表面までの深さは40mmとした。
(c)サンプル瓶中の内容物を濾過することにより、濾液を得た。
(d)濾液中のイットリウム含有量を、ICP発光分光法により定量した。
(e)濾液中のイットリウム含有量を、イットリアとしての含有量に換算した。
(f)換算されたイットリア含有量を、上記「酸溶液との接触後、濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末」100g当たりの値に換算した。
窒化アルミニウム粉末の酸素濃度を、酸素・窒素分析装置(商品名:EMGA−620W、堀場製作所製)を使用し、不活性ガスとしてヘリウムガスを使用して不活性ガス融解−赤外線吸収検出法にて定量した。得られた酸素濃度から次の式によって酸素膜量を算出した。
リン酸処理工程を経て得られた耐水性窒化アルミニウム粉末2gを室温の純水100g中に分散させ、分散液のpHをpH試験紙にて測定した後、この分散液を圧力容器に充填し120℃まで加熱し、24時間保持した後、水冷によって室温まで冷却し、分散液のpHをpH試験紙にて再度測定し、加熱前と加熱後の2つのpH値を記録した。加熱後のpHが加熱前のpHより上昇していれば、窒化アルミニウムの加水分解が進行したことを意味する。
(原料窒化アルミニウム粉末の準備)
Al源として、平均粒子径1.2μm、比表面積10.7m2/gのα−アルミナを使用し、カーボン粉末として、比表面積125m2/gのカーボンブラックを使用し、希土類金属化合物(共融解剤)として、平均粒子径1.0μm、比表面積11.7m2/gの酸化イットリウムを使用した。
上記得られた原料窒化アルミニウム粉末500gと1mol/Lの濃度の塩酸1200mLを5Lビーカーに入れ、室温にてスターラーで1時間撹拌して、酸溶液との接触処理を行った。
次いで、吸引ろ過により、窒化アルミニウム粉末を酸溶液から濾別し、水による洗浄を行った後、窒化アルミニウム粉末を回収した。上記酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末から塩酸抽出により抽出されるイットリアの量は、乾燥した酸洗済み窒化アルミニウム粉末100gに対して200mgであった。
上記酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末を0.5wt%の濃度のオルトリン酸水溶液0.6Lに分散させ、30分間羽根撹拌(撹拌翼を用いて撹拌)した後、分散液を乾固させて耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。
酸溶液を1mol/L硝酸に変更した以外は、実施例1と同様にして耐水性窒化アルミニウム粉末を製造した。
(酸洗工程及び固液分離工程)
5Lビーカーに実施例1で準備した原料窒化アルミニウム粉末500gと1mol/L塩酸1200mLを入れ、室温にてスターラーで1時間撹拌し、吸引ろ過及び水洗により粉末を回収した。酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末から塩酸抽出により抽出されるイットリアの量は、乾燥した酸洗済み窒化アルミニウム粉末100gに対して200mgであった。
上記酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末を、大気雰囲気中、1000℃で5時間酸化処理を行った。酸化処理後の窒化アルミニウム粉末の粒子表面の酸化膜量は0.02g/m2であった。
上記酸化処理を経た窒化アルミニウム粉末を4wt%の濃度のオルトリン酸水溶液0.6Lに分散させ、30分間羽根撹拌した後、分散液を乾固させることにより、耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。耐水性試験の結果、加熱前のpH=6.5に対して加熱後のpH=6.5であり、窒化アルミニウム粉末の加水分解が進行しなかったことが判明した。
酸洗工程を行わなかった比較例である。5Lビーカーに、実施例1で準備した原料窒化アルミニウム粉末500g及び0.5wt%オルトリン酸水溶液0.6Lを入れ、30分間羽根撹拌した後、分散液を乾固させることにより耐水性窒化アルミニウム粉末の製造を試みた。耐水性試験の結果、加熱前のpH=6.5に対して加熱後のpH=11であり、窒化アルミニウムの加水分解が進行したことが判明した。
オルトリン酸水溶液の濃度を5wt%とした以外は比較例1と同様にして、耐水性窒化アルミニウム粉末の製造を試みた。耐水性試験の結果、加熱前のpH=6.5に対して加熱後のpH=11であり、窒化アルミニウムの加水分解が進行したことが判明した。
酸洗工程における撹拌時間を0.5時間とした以外は実施例1と同様にして、耐水性窒化アルミニウム粉末を製造した。酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末から塩酸抽出により抽出されるイットリアの量は、乾燥した酸洗済み窒化アルミニウム粉末100gに対して918mgであった。得られた耐水性窒化アルミニウム粉末の耐水性試験の結果を表2に示す。
原料窒化アルミニウム粉末及び酸洗条件を変更することにより、酸洗工程後に塩酸抽出により抽出されるイットリアの量が本発明の範囲外(粉末100gあたり1000mg超)である3種類の窒化アルミニウム粉末を用意した。これら3種類の窒化アルミニウム粉末に対して実施例1と同様にリン酸化合物処理を行い、耐水性窒化アルミニウム粉末の製造を試みた。それぞれについて耐水性試験の結果を表2に示す。
一方、塩酸抽出により抽出されるイットリアの量が本発明の規定範囲を超える窒化アルミニウム粉末に対してリン酸化合物処理を施した比較例3〜5の耐水性窒化アルミニウム粉末は、耐水性試験において加熱前のpH=6.5に対して加熱後のpH=11であり、窒化アルミニウムの加水分解が進行したことが判明した。
Claims (5)
- 窒化アルミニウム粉末の粒子表面を処理することによって耐水性窒化アルミニウム粉末を製造する方法であって、
(i)少なくとも粒子表面にイットリアが存在する窒化アルミニウム粉末と、酸溶液とを接触させる工程;及び、
(ii)前記窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物とを接触させる工程
を上記順に有し、
前記工程(i)の後濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末に対して1mol/L塩酸による抽出操作を行った場合に抽出されるイットリアの量が、該濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末100gに対して1000mg以下であり、
前記抽出されるイットリアの量は、
(a)前記濾別及び乾燥された窒化アルミニウム粉末10gを、50mLサンプル瓶中の1mol/L塩酸25mLに、25℃において加える工程;
(b)前記サンプル瓶を超音波槽中に保持し、25℃において43kHzの超音波を30分間印加する工程;
(c)前記サンプル瓶中の内容物を濾過することにより、濾液を得る工程;
(d)前記濾液中のイットリウム含有量を、ICP発光分光法により定量する工程;及び
(e)前記濾液中のイットリウム含有量を、イットリアとしての含有量に換算する工程
を上記順に行うことにより決定される
ことを特徴とする、耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。 - 前記窒化アルミニウム粉末の平均粒子径が1〜30μmである、
請求項1に記載の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。 - 前記酸溶液の溶媒が水であり、前記酸溶液のpHが4以下である、請求項1又は2に記載の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。
- 前記リン酸化合物が、無機リン酸、無機リン酸の金属塩、及び、有機基を有する有機リン酸からなる群から選ばれる1種以上の化合物である、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。 - 前記工程(ii)において、前記窒化アルミニウム粉末の単位表面積あたりの前記リン酸化合物の付着量が、オルトリン酸イオン(PO4 3−)換算で0.5〜50mg/m2である、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。
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