JP6239518B2 - 耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法 - Google Patents

耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐水性窒化アルミニウム粉末の新規な製造方法に関する。
窒化アルミニウムは熱伝導性、電気絶縁性に優れた特性を持った物質である。放熱フィラーとして好適な窒化アルミニウム粉末の製造方法として、特許文献1には、アルミナまたはアルミナ水和物と、カーボン粉末と、希土類金属元素を含む化合物との混合粉末を、含窒素雰囲気中、所定の温度において焼成することにより、アルミナ(又はアルミナ水和物)の還元窒化を進行させる方法が開示されている。
特許文献1に記載の製造方法によれば、希土類金属化合物(共融解剤)を使用することにより、製造される窒化アルミニウム粉末の粒径を増大させることが可能であり、フィラーとして有用な大きさを有するほぼ球状の窒化アルミニウム粒子が得られる。
一方、窒化アルミニウムは容易に加水分解するという性質も有している。加水分解により水酸化アルミニウムが生成することで窒化アルミニウムの優れた特性は失われ、アンモニアの生成により取り扱い上の問題や腐食等の問題が発生する。
そこで、窒化アルミニウム粉末に耐水性を付与するために、窒化アルミニウム粉末にリン酸化合物を接触させるリン酸化合物処理(特許文献2、3)や、シランカップリング処理(特許文献4)など、種々の方法が提案されている。
国際公開WO2012/043574号パンフレット 特開2002−226207号公報 国際公開WO2012/147999号パンフレット 特開2004−083334号公報
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法において希土類金属化合物(共融解剤)としてイットリアを使用した場合、得られた窒化アルミニウム粉末をリン酸化合物で処理しても、窒化アルミニウム粉末に十分な耐水性を付与できないことが、本発明者らの試験により判明した。本発明者らはさらなる調査の結果、特許文献1に記載の製造方法において共融解剤としてイットリアを使用した場合に得られる窒化アルミニウム粉末の表面には、イットリウムがその酸化物であるイットリアの形で存在することを知見した。
本発明は、粒子の表面にイットリアが存在する窒化アルミニウム粉末に対して良好な耐水性を付与することが可能な、耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは検討の結果、窒化アルミニウム粉末の粒子表面に存在するイットリアは、酸溶液により効果的に除去可能であること、及び、粒子表面に存在するイットリアを充分に減少させた後にリン酸化合物による耐水化処理を行うことによって、窒化アルミニウム粉末に良好な耐水性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、窒化アルミニウム粉末の粒子表面を処理することによって耐水性窒化アルミニウム粉末を製造する方法であって、
(i)少なくとも粒子表面にイットリアが存在する窒化アルミニウム粉末と、酸溶液とを接触させる工程;及び、
(ii)前記窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物とを接触させる工程
を上記順に有し、前記工程(i)の後濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末に対して1mol/L塩酸による抽出操作を行った場合に抽出されるイットリアの量が、前記濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末100gに対して1000mg以下であることを特徴とする、耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法である。
ここで、窒化アルミニウム粉末について「少なくとも粒子表面にイットリアが存在する」ことは、(A)当該窒化アルミニウム粉末の粒子を走査電子顕微鏡(加速電圧1.0kV、反射電子検出モード)で観察した際に、他の部位よりコントラストの高い(白い)部位が粒子表面に観察され、且つ、(B)当該窒化アルミニウム粉末の粉末X線回折においてイットリアの存在が観察されることにより、確認できる。なお粉末X線回折におけるイットリアの存在は2θ=29°の位置にピークが観察されることにより確認できる。
上記「抽出されるイットリアの量」は、次の工程(a)乃至(e)を順に行うことにより決定するものとする。
(a)上記濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末10gを、50mLサンプル瓶中の1mol/L塩酸25mLに、25℃において加える工程;
(b)サンプル瓶を超音波槽中の水に浸漬した状態で保持し、25℃において43kHzの超音波を30分間印加する工程;
(c)サンプル瓶中の内容物を濾過することにより、濾液を得る工程;
(d)濾液中のイットリウム含有量を、ICP発光分光法により定量する工程;及び
(e)濾液中のイットリウム含有量を、イットリアとしての含有量に換算する工程。
ここで工程(b)において使用する超音波槽としては、ブランソン製ブランソニック卓上型超音波洗浄器(槽内寸法:幅295×奥行150×高さ150mm、槽容量:6.0L、超音波出力:120W)を好ましく採用できる。またサンプル瓶を超音波槽中に保持する際の深度としては、サンプル瓶の底部外表面から超音波槽の水面までの距離が40mmとなる深度を好ましく採用できる。なおサンプル瓶は本体がガラス製のものを用いるものとする。
本出願において「リン酸化合物」とは、下記一般式(1)で表される基を有する全ての酸性リン化合物及びそれらの塩を包含する概念である。
Figure 0006239518
本発明における原料の窒化アルミニウム粉末としては、平均粒径が1〜30μm、より好ましくは3〜30μmである窒化アルミニウム粉末を好適に用いることができる。
なお本出願において、「平均粒子径」とは、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布(体積分布)の中間値に対応する球相当径(直径)を意味するものとする。レーザー回折散乱法による粒度分布の測定は、市販のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例えば日機装(株)製MT3300等。)によって行うことができる。
好ましくは、上記工程(i)における酸溶液の溶媒は水であり、該酸溶液のpHは4以下である。酸溶液のpHはより好ましくは3以下である。
好ましくは、上記工程(ii)におけるリン酸化合物は、無機リン酸、無機リン酸の金属塩、及び、有機基を有する有機リン酸から選ばれる1種以上の化合物である。
本出願において「無機リン酸」又は単に「リン酸」とは、オルトリン酸HPOだけでなく、ピロリン酸H及びさらに高次の縮合リン酸Hn+23n+1、並びにメタリン酸(ポリリン酸)(HPOをも包含する概念である。また本出願において「有機リン酸」とは、有機基を有するリン酸化合物を意味し、リン酸の不完全エステルのみならず、ホスホン酸及びその不完全エステルをも包含する概念である。
好ましくは、上記工程(ii)において、窒化アルミニウム粉末の単位表面積あたりのリン酸化合物の付着量が、オルトリン酸イオン(PO 3−)換算で0.5〜50mg/mであり、より好ましくは1〜10mg/mである。
ここで、窒化アルミニウム粉末へのリン酸化合物の付着量は、上記工程(ii)において用いたリン酸化合物の量(X)、及び、上記工程(ii)において用いたリン酸化合物のうち、窒化アルミニウム粉末に付着しなかったリン酸化合物の量(Y)に基づいて、式(X−Y)により算出するものとする。例えば工程(ii)を、リン酸化合物溶液に窒化アルミニウム粒子を分散させることにより行い、工程(ii)の後他の固液分離処理(例えば濾過、デカンテーション等。)を経ることなく混合物を蒸発乾固させることにより耐水性窒化アルミニウム粉末を得た場合には、リン酸化合物溶液に含まれていたリン酸化合物の量がXであり、Y=0である。また例えば工程(ii)を、リン酸化合物溶液に窒化アルミニウム粒子を分散させることにより行い、工程(ii)の後窒化アルミニウム粒子を濾別及び乾燥することにより耐水性窒化アルミニウム粉末を得た場合には、リン酸化合物溶液に含まれていたリン酸化合物の量がXであり、濾液に含まれるリン酸化合物の量がYである。
リン酸化合物の付着量をオルトリン酸イオン(PO 3−)の量に換算するにあたっては、リン酸化合物のリン原子1molがオルトリン酸イオン(PO 3−)1molに対応するものとする。
「窒化アルミニウム粉末の単位表面積あたりのリン酸化合物の付着量」は、原料窒化アルミニウム粉末のBET法による比表面積(S)、及び、オルトリン酸イオンの量に換算されたリン酸化合物の付着量(Z)に基づいて、式(Z/S)により算出するものとする。
本発明の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法によれば、粒子表面にイットリウムが酸化物の形態で存在する窒化アルミニウム粉末に対して、良好な耐水性を付与することが可能である。
本発明の一の実施形態に係る耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法を説明するフローチャートである。 本発明の他の実施形態に係る耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法を説明するフローチャートである。 実施例1で準備した原料窒化アルミニウム粉末粒子の走査電子顕微鏡(SEM)像である。 実施例1で準備した原料窒化アルミニウム粉末の粉末X線回折の結果である。
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。また、特に断らない限り、数値範囲について「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
図1は、本発明の一の実施形態に係る耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法S1(以下において単に「製造方法S1」ということがある。)を説明するフローチャートである。図1に示すように、製造方法S1は、酸洗工程S11と、固液分離工程S12と、リン酸化合物処理工程S13と、後処理工程S14とをこの順に有する。以下、各工程について順に説明する。
<酸洗工程S11
酸洗工程S11(以下において「S11」と略記することがある。)は、少なくとも粒子表面にイットリアが存在する窒化アルミニウム粉末と、酸溶液とを接触させる工程である。酸洗工程S11における窒化アルミニウム粉末と酸溶液との接触は、例えば、酸溶液中に窒化アルミニウム粉末を分散させる方法や、窒化アルミニウム粉末が溶媒(例えば水等。)中に分散されたスラリーと酸溶液とを混合する方法等により行うことができる。
(原料窒化アルミニウム粉末)
本発明において、原料となる窒化アルミニウム粉末は、粒子表面にイットリアが存在する限りにおいて、特に制限されない。
ここで、「粒子の表面にイットリアが存在する」とは、窒化アルミニウム粉末の粒子の表面にイットリアが存在する状態を全て含む。そのような状態としては例えば、窒化アルミニウム粉末の粒子の一部または全部がイットリアを含む層により被覆されている状態;窒化アルミニウム粉末の粒子表面にイットリアの粒子が付着している状態;窒化アルミニウム粉末の粒子が、窒化アルミニウム結晶粒子が粒界相を介して焼結することにより形成されており、粒界相にイットリアが含まれる状態、などが挙げられる。
上記粒子の表面にイットリアが存在する窒化アルミニウム粉末は、いかなる方法で得られたものでも良い。例えば、従来公知の製造方法である、直接窒化法、還元窒化法、気相合成法などによって得られたものや、窒化アルミニウム粉末を成形、焼成したものであっても良い。
中でも、本発明において好適な窒化アルミニウム粉末としては、特許文献1に記載のように、アルミナまたはアルミナ水和物と、カーボン粉末と、イットリアとを含む混合粉末を、窒素雰囲気中で焼成することによりアルミナ(又はアルミナ水和物)を還元窒化する方法によって得られた窒化アルミニウム粉末が挙げられる。
具体的には、100質量部のアルミナまたはアルミナ水和物と、0.5乃至30質量部のイットリアと、38乃至46質量部のカーボン粉末とを混合し、得られた混合物を、含窒素雰囲気下、1620〜1900℃の温度に2時間以上保持することにより、アルミナまたはアルミナ水和物を還元窒化することによって得られる窒化アルミニウム粉末を例示できる。このようにして製造された窒化アルミニウム粉末は、その製造方法の結果として、粒子表面の一部または全部がイットリアを含む層により被覆されている状態を成す。
原料となる窒化アルミニウム粉末の粒度は、用途に応じて適宜決定されるものであり、特に制限されるものではない。原料となる窒化アルミニウム粉末の平均粒径(レーザー回折散乱法により測定した体積分布の中間値に対応する球相当径)は通常0.1〜500μm、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜30μm、更に好ましくは3〜30μmである。また粉末の形状も特に制限されるものではなく、不定形、球状等であり得る。ただし好ましくは球状である。
(酸溶液)
酸洗工程S11において、窒化アルミニウム粉末と接触させる酸溶液は、イットリアを溶解可能な公知の酸の溶液を使用することができ、溶媒としては水が好ましく使用される。上記酸としては、後述するリン酸化合物以外の酸が用いられ、具体的には、塩化水素、硝酸、硫酸、過塩素酸、ヨウ化水素、臭化水素、過マンガン酸、チオシアン酸などの強酸が好適に使用される。
酸溶液の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.1mol/L以上、より好ましくは1mol/L以上である。酸溶液の濃度が低すぎるとイットリアが溶解し難い。なお、窒化アルミニウム粉末と酸溶液との接触を、窒化アルミニウム粉末が溶媒中に分散されたスラリーと酸溶液とを混合することにより行う場合には、該スラリーが含む溶媒によって酸溶液が希釈された後の濃度が上記範囲内であることが好ましい。酸溶液の溶媒が水である場合、酸溶液のpHは好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。
(処理条件)
窒化アルミニウム粉末と酸溶液とを接触させる温度は特に限定されないが、通常5℃〜100℃であり、好ましくは20℃〜40℃である。温度が低すぎるとイットリアの溶解度が下がるため効率が悪く、温度が高すぎると窒化アルミニウムの加水分解が促進されるおそれがある。
窒化アルミニウム粉末を酸溶液と接触させる際の、窒化アルミニウム粉末(固形分)の濃度は特に限定されないが、窒化アルミニウム粉末と酸溶液との混合物全量に対して好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%である。窒化アルミニウム粉末の濃度が高すぎるとイットリアが溶解し難く、低すぎると生産性が低下する。
窒化アルミニウム粉末と酸溶液とを接触させる時間は温度、濃度等の条件によって異なるが、通常5分〜24時間、好ましくは30分〜2時間接触させれば良い。接触時間が短すぎるとイットリアが十分溶解しないおそれがあり、長すぎると窒化アルミニウムの加水分解が進行するおそれがある。
(残存イットリア量)
酸洗工程S11後における窒化アルミニウム粉末の粒子表面のイットリア量は、後述のリン酸化合物による表面処理を妨害しない量まで低減されていればよい。好ましくは、酸洗工程S11の後濾別及び乾燥された窒化アルミニウム粉末に対して1mol/L塩酸による抽出操作を行った場合に抽出されるイットリアの量が、1000mg/100g(窒化アルミニウム粉末)以下、より好ましくは250mg/100g(窒化アルミニウム粉末)以下である。
ここで、上記「抽出されるイットリアの量」は、次の工程(a)乃至(e)を順に行うことにより決定される値である。
(a)上記濾別及び乾燥された窒化アルミニウム粉末10gを、50mLサンプル瓶中の1mol/L塩酸25mLに、25℃において加える工程;
(b)サンプル瓶を超音波槽中の水に浸漬した状態で保持し、25℃において43kHzの超音波を30分間印加する工程;
(c)サンプル瓶中の内容物を濾過することにより、濾液を得る工程;
(d)濾液中のイットリウム含有量を、ICP発光分光法により定量する工程;及び
(e)濾液中のイットリウム含有量を、イットリアとしての含有量に換算する工程。
なお、特許文献1に記載の窒化アルミニウム粉末の製造方法において希土類金属化合物としてイットリアを使用して得られる窒化アルミニウム粉末に対して、上記工程(a)乃至(e)を行った場合に抽出されるイットリアの量は、2000mg/100g(窒化アルミニウム粉末)以上である。
<固液分離工程S12>
固液分離工程S12(以下において「S12」と略記することがある。)は、S11の後、酸溶液と窒化アルミニウム粉末とを分離する工程である。S12における分離の具体的な方法としては、濾過、デカンテーション、遠心分離、及びこれらの組み合わせ等を例示できる。S12においては、酸溶液から分離した窒化アルミニウム粉末に対して更に水等による洗浄処理を行い、窒化アルミニウム粉末から酸を除去することが好ましい。
酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末は、例えば、水に分散した状態で、或いは、濾過後の水を含んだ状態で、後段の処理に供することができる。また、窒化アルミニウム粉末を乾燥させてから後段の処理に供してもよい。ただし、水を含んだ状態で後段の処理(リン酸化合物との接触処理)に供することが、乾燥操作に必要なエネルギーを節約できること、及び、窒化アルミニウム粉末のリン酸溶液中への分散性が良好であることから好ましい。
<リン酸化合物処理工程S13>
リン酸化合物処理工程S13(以下において「S13」と略記することがある。)は、S12を経た窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物とを接触させる工程である。S13において窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物を接触させる方法としては、公知の方法を特に制限なく採用することができる。例えば、窒化アルミニウム粉末をリン酸化合物溶液中に分散させる方法や、窒化アルミニウム粉末をリン酸化合物溶液に練り込みペースト状にする方法等が挙げられる。窒化アルミニウム粉末をリン酸化合物溶液中に分散させるにあたっては、ディスパーザー、ホモジナイザー、超音波分散機等の公知の装置を用いることができる。
(リン酸化合物)
S13におけるリン酸化合物としては、窒化アルミニウム粉末の耐水化に使用する公知のリン酸化合物を特に制限なく使用可能である。S13において使用可能なリン酸化合物の例としては、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸等の無機リン酸;リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム等の無機リン酸金属塩;リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等の無機リン酸アンモニウム塩;及び、有機基を有する有機リン酸を挙げることができる。好ましい有機リン酸としては、下記一般式(2)で表される有機リン酸を挙げることができる。
Figure 0006239518
(式(2)中、nは0又は1であり;Rは炭素数1〜12の炭化水素基であり;Rは水素又は炭素数1〜12の炭化水素基である。)
上記一般式(2)で表される有機リン酸の好ましい具体例としては、メチルリン酸(リン酸モノメチル若しくはリン酸ジメチル又はそれらの混合物)、エチルリン酸(リン酸モノエチル若しくはリン酸ジエチル又はそれらの混合物)、プロピルリン酸(リン酸モノプロピル若しくはリン酸ジプロピル又はそれらの混合物)、ブチルリン酸(リン酸モノブチル若しくはリン酸ジブチル又はそれらの混合物)、ペンチルリン酸(リン酸モノペンチル若しくはリン酸ジペンチル又はそれらの混合物)、ヘキシルリン酸(リン酸モノヘキシル若しくはリン酸ジヘキシル又はそれらの混合物)、オクチルリン酸(リン酸モノオクチル若しくはリン酸ジオクチル又はそれらの混合物)、ドデシルリン酸(リン酸モノドデシル若しくはリン酸ジ(ドデシル)又はそれらの混合物)等のリン酸不完全エステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、オクチルホスホン酸、ビニルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸を挙げることができる。ホスホン酸は不完全エステル化されていてもよい。
上記のリン酸化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記リン酸化合物の中でも、無機リン酸、無機リン酸の金属塩、及び、有機リン酸から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
上記リン酸化合物は、窒化アルミニウム粉末との接触により、表面のアルミニウムと反応してリン酸アルミニウム結合(Al−O−P結合)を形成し、窒化アルミニウム粉末をリン酸アルミニウム層で被覆することにより、耐水性を発揮するものと推定される。
(処理条件)
S13において、窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物とを接触させる際の条件としては、公知の条件を特に制限なく採用可能である。例えば、接触時間は通常1〜120分間とすることができ、また、接触時の温度は通常0〜90℃とすることができる。
<後処理工程S14>
後処理工程S14(以下において「S14」と略記することがある。)は、S13において得られた窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物溶液との混合物から耐水性窒化アルミニウム粉末として取り出す工程である。S14の具体的な態様としては例えば、(A)混合物から溶媒を蒸発させることにより混合物を乾固させる態様;(B)混合物から窒化アルミニウム粉末を濾別し、濾別した窒化アルミニウム粉末を乾燥する態様;及び、(C)混合物から窒化アルミニウム粉末を濾別し、適当な溶媒(例えば水等。)で洗浄した後、乾燥する態様、等を挙げることができる。
後処理工程S14においては、上記得られた耐水性窒化アルミニウム粉末に対して、さらに100〜1000℃での加熱処理を行ってもよい。このような加熱処理により、耐水性窒化アルミニウム粉末の耐水性をさらに向上させることが可能である。
本発明に関する上記説明では、固液分離工程S12を経た窒化アルミニウム粉末をそのままリン酸化合物処理工程S13に供する形態の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法S1を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。例えば、固液分離工程S12を経た後、リン酸化合物処理工程S13の前に、S13でのリン酸化合物処理の効率を高めるための処理を行う形態の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法とすることも可能である。そのような形態の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法を以下に説明する。
図2は、本発明の他の実施形態に係る耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法S2(以下において「製造方法S2」ということがある。)を説明するフローチャートである。図2に示すように、製造方法S2は、酸洗工程S11と、固液分離工程S12と、酸化膜形成工程S22と、リン酸化合物処理工程S13と、後処理工程S14とをこの順に有する。酸化膜形成工程S22以外の工程については製造方法S1における同名の工程と同様である。
<酸化膜形成工程S22>
酸化膜形成工程S22(以下において「S22」と略記することがある。)は、酸洗工程S11及び固液分離工程S12を経て粒子表面のイットリアが低減された窒化アルミニウム粉末の粒子表面に、酸化膜を形成する工程である。S22を経ることにより、リン酸化合物との反応性を高めることが可能である。S22において酸化膜を形成する方法としては、公知の酸化膜形成方法を採用することができる。S22において形成する酸化膜の量は、原料窒化アルミニウム粉末の表面積(BET法)当たり酸素換算で0.001〜0.1g/mの酸化アルミニウムが存在する程度の量が好ましい。窒化アルミニウム粉末の粒子表面の酸化膜量は、窒化アルミニウム粉末の酸素濃度を、酸素・窒素分析装置(例えば商品名:EMGA−620W、堀場製作所製)を使用し、不活性ガスとしてヘリウムガスを使用して不活性ガス融解−赤外線吸収検出法にて定量することにより、該酸素濃度から以下の式によって決定できる。
酸化膜量=酸素濃度(wt%)/(BET比表面積(m/g)×100)
<用途>
本発明によって製造される耐水性窒化アルミニウム粉末は、窒化アルミニウムの性質を生かした種々の用途、特に放熱シート、放熱グリース、放熱接着剤、塗料、熱伝導性樹脂などの放熱材料に充填するフィラーとして広く用いることができる。
ここで放熱材料のマトリックスとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂、またシリコーンゴム、EPR、SBR等のゴム類、シリコーンオイルが挙げられる。
これらのうち、放熱材料のマトリックスとしては、例えばエポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂が好適であり、高柔軟性放熱部材とするには付加反応型液状シリコーンゴムが望ましい。
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明について更に具体的に説明する。ただし本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例において、各種測定は次のように行った。
(平均粒子径)
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装(株)製MT3300)によって粒度分布(体積分布)を測定し、その中間値に対応する球相当径(直径)を平均粒子径とした。
(比表面積)
BET一点法にて測定を行った。
(塩酸抽出により抽出されるイットリア量)
次の工程(a)乃至(f)を順に行うことにより決定した。
(a)酸溶液との接触後、濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末10gを、50mLサンプル瓶(アズワン製スクリュー管瓶No.7、本体は硼珪酸ガラス製)中の1mol/L塩酸25mLに、25℃において加えた。
(b)サンプル瓶を超音波槽(ブランソン製ブランソニック卓上型超音波洗浄器、槽内寸法:幅295×奥行150×高さ150mm、槽容量:6.0L、超音波出力:43kHz、120W)中の水(5L)に浸漬した状態で保持し、25℃において43kHzの超音波を30分間印加した。なお超音波槽の水面からサンプル瓶の底部外側表面までの深さは40mmとした。
(c)サンプル瓶中の内容物を濾過することにより、濾液を得た。
(d)濾液中のイットリウム含有量を、ICP発光分光法により定量した。
(e)濾液中のイットリウム含有量を、イットリアとしての含有量に換算した。
(f)換算されたイットリア含有量を、上記「酸溶液との接触後、濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末」100g当たりの値に換算した。
(酸化膜量)
窒化アルミニウム粉末の酸素濃度を、酸素・窒素分析装置(商品名:EMGA−620W、堀場製作所製)を使用し、不活性ガスとしてヘリウムガスを使用して不活性ガス融解−赤外線吸収検出法にて定量した。得られた酸素濃度から次の式によって酸素膜量を算出した。
酸化膜量=酸素濃度(wt%)/(比表面積(m/g)×100)
(耐水性試験)
リン酸処理工程を経て得られた耐水性窒化アルミニウム粉末2gを室温の純水100g中に分散させ、分散液のpHをpH試験紙にて測定した後、この分散液を圧力容器に充填し120℃まで加熱し、24時間保持した後、水冷によって室温まで冷却し、分散液のpHをpH試験紙にて再度測定し、加熱前と加熱後の2つのpH値を記録した。加熱後のpHが加熱前のpHより上昇していれば、窒化アルミニウムの加水分解が進行したことを意味する。
<実施例1>
(原料窒化アルミニウム粉末の準備)
Al源として、平均粒子径1.2μm、比表面積10.7m/gのα−アルミナを使用し、カーボン粉末として、比表面積125m/gのカーボンブラックを使用し、希土類金属化合物(共融解剤)として、平均粒子径1.0μm、比表面積11.7m/gの酸化イットリウムを使用した。
上記のα−アルミナ100質量部、カーボンブラック42質量部、及び酸化イットリウム5.2質量部を混合した後、混合物をグラファイトのセッターに充填した。
ついで、窒素雰囲気下において、焼成温度1700℃、焼成時間15時間の条件での焼成により還元窒化を行った後、空気雰囲気下において700℃で12時間、酸化処理(脱炭素処理)を行って、原料窒化アルミニウム粉末を得た。得られた原料窒化アルミニウム粉末の平均粒径は5μmであった。また得られた原料窒化アルミニウム粉末から塩酸抽出により抽出されるイットリアの量は、原料窒化アルミニウム粉末100gに対して5000mgであった。得られた原料窒化アルミニウム粉末の走査電子顕微鏡(SEM)像(反射電子検出、加速電圧1.0kV、倍率1万倍)を図3に示す。また、得られた原料窒化アルミニウム粉末の粉末X線回折の結果およびピークのキャラクタリゼーションを図4に示す。図3及び図4から、粒子表面にイットリアが存在することが確認できた。
(酸洗工程)
上記得られた原料窒化アルミニウム粉末500gと1mol/Lの濃度の塩酸1200mLを5Lビーカーに入れ、室温にてスターラーで1時間撹拌して、酸溶液との接触処理を行った。
(固液分離工程)
次いで、吸引ろ過により、窒化アルミニウム粉末を酸溶液から濾別し、水による洗浄を行った後、窒化アルミニウム粉末を回収した。上記酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末から塩酸抽出により抽出されるイットリアの量は、乾燥した酸洗済み窒化アルミニウム粉末100gに対して200mgであった。
(リン酸化合物処理工程及び後処理工程)
上記酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末を0.5wt%の濃度のオルトリン酸水溶液0.6Lに分散させ、30分間羽根撹拌(撹拌翼を用いて撹拌)した後、分散液を乾固させて耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。
得られた耐水性窒化アルミニウム粉末について、耐水性試験を実施した結果、加熱前のpH=6.5に対し加熱後のpH=6.5であり、窒化アルミニウムの加水分解が進行しなかったことが判明した。
<実施例2>
酸溶液を1mol/L硝酸に変更した以外は、実施例1と同様にして耐水性窒化アルミニウム粉末を製造した。
酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末から塩酸抽出により抽出されるイットリアの量は、乾燥した酸洗済み窒化アルミニウム粉末100gに対して200mgであった。また、リン酸化合物との接触後の窒化アルミニウム粉末の耐水性試験の結果は、加熱前のpH=6.5に対し加熱後のpH=6.5であり、窒化アルミニウムの加水分解が進行しなかったことが判明した。
<実施例3>
(酸洗工程及び固液分離工程)
5Lビーカーに実施例1で準備した原料窒化アルミニウム粉末500gと1mol/L塩酸1200mLを入れ、室温にてスターラーで1時間撹拌し、吸引ろ過及び水洗により粉末を回収した。酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末から塩酸抽出により抽出されるイットリアの量は、乾燥した酸洗済み窒化アルミニウム粉末100gに対して200mgであった。
(酸化膜形成工程)
上記酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末を、大気雰囲気中、1000℃で5時間酸化処理を行った。酸化処理後の窒化アルミニウム粉末の粒子表面の酸化膜量は0.02g/mであった。
(リン酸化合物処理工程及び後処理工程)
上記酸化処理を経た窒化アルミニウム粉末を4wt%の濃度のオルトリン酸水溶液0.6Lに分散させ、30分間羽根撹拌した後、分散液を乾固させることにより、耐水性窒化アルミニウム粉末を得た。耐水性試験の結果、加熱前のpH=6.5に対して加熱後のpH=6.5であり、窒化アルミニウム粉末の加水分解が進行しなかったことが判明した。
<比較例1>
酸洗工程を行わなかった比較例である。5Lビーカーに、実施例1で準備した原料窒化アルミニウム粉末500g及び0.5wt%オルトリン酸水溶液0.6Lを入れ、30分間羽根撹拌した後、分散液を乾固させることにより耐水性窒化アルミニウム粉末の製造を試みた。耐水性試験の結果、加熱前のpH=6.5に対して加熱後のpH=11であり、窒化アルミニウムの加水分解が進行したことが判明した。
<比較例2>
オルトリン酸水溶液の濃度を5wt%とした以外は比較例1と同様にして、耐水性窒化アルミニウム粉末の製造を試みた。耐水性試験の結果、加熱前のpH=6.5に対して加熱後のpH=11であり、窒化アルミニウムの加水分解が進行したことが判明した。
上記実施例1〜3及び比較例1〜2の結果を表1に示す。
Figure 0006239518
<実施例4>
酸洗工程における撹拌時間を0.5時間とした以外は実施例1と同様にして、耐水性窒化アルミニウム粉末を製造した。酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末から塩酸抽出により抽出されるイットリアの量は、乾燥した酸洗済み窒化アルミニウム粉末100gに対して918mgであった。得られた耐水性窒化アルミニウム粉末の耐水性試験の結果を表2に示す。
<比較例3〜5>
原料窒化アルミニウム粉末及び酸洗条件を変更することにより、酸洗工程後に塩酸抽出により抽出されるイットリアの量が本発明の範囲外(粉末100gあたり1000mg超)である3種類の窒化アルミニウム粉末を用意した。これら3種類の窒化アルミニウム粉末に対して実施例1と同様にリン酸化合物処理を行い、耐水性窒化アルミニウム粉末の製造を試みた。それぞれについて耐水性試験の結果を表2に示す。
Figure 0006239518
酸溶液との接触後の窒化アルミニウム粉末から塩酸抽出により抽出されるイットリアの量が本発明の規定範囲内であった実施例4の耐水性窒化アルミニウム粉末は、耐水性試験において加熱前のpH=6.5に対して加熱後のpH=6.5であり、窒化アルミニウムの加水分解が進行しなかったことが判明した。
一方、塩酸抽出により抽出されるイットリアの量が本発明の規定範囲を超える窒化アルミニウム粉末に対してリン酸化合物処理を施した比較例3〜5の耐水性窒化アルミニウム粉末は、耐水性試験において加熱前のpH=6.5に対して加熱後のpH=11であり、窒化アルミニウムの加水分解が進行したことが判明した。

Claims (5)

  1. 窒化アルミニウム粉末の粒子表面を処理することによって耐水性窒化アルミニウム粉末を製造する方法であって、
    (i)少なくとも粒子表面にイットリアが存在する窒化アルミニウム粉末と、酸溶液とを接触させる工程;及び、
    (ii)前記窒化アルミニウム粉末とリン酸化合物とを接触させる工程
    を上記順に有し、
    前記工程(i)の後濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末に対して1mol/L塩酸による抽出操作を行った場合に抽出されるイットリアの量が、該濾別、水洗、及び乾燥された窒化アルミニウム粉末100gに対して1000mg以下であり、
    前記抽出されるイットリアの量は、
    (a)前記濾別及び乾燥された窒化アルミニウム粉末10gを、50mLサンプル瓶中の1mol/L塩酸25mLに、25℃において加える工程;
    (b)前記サンプル瓶を超音波槽中に保持し、25℃において43kHzの超音波を30分間印加する工程;
    (c)前記サンプル瓶中の内容物を濾過することにより、濾液を得る工程;
    (d)前記濾液中のイットリウム含有量を、ICP発光分光法により定量する工程;及び
    (e)前記濾液中のイットリウム含有量を、イットリアとしての含有量に換算する工程
    を上記順に行うことにより決定される
    ことを特徴とする、耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。
  2. 前記窒化アルミニウム粉末の平均粒子径が1〜30μmである、
    請求項1に記載の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。
  3. 前記酸溶液の溶媒が水であり、前記酸溶液のpHが4以下である、請求項1又は2に記載の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。
  4. 前記リン酸化合物が、無機リン酸、無機リン酸の金属塩、及び、有機基を有する有機リン酸からなる群から選ばれる1種以上の化合物である、
    請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。
  5. 前記工程(ii)において、前記窒化アルミニウム粉末の単位表面積あたりの前記リン酸化合物の付着量が、オルトリン酸イオン(PO 3−)換算で0.5〜50mg/mである、
    請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐水性窒化アルミニウム粉末の製造方法。
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