JP4394841B2 - 耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末及びその製造方法に関する。本発明に係る耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末は、例えばIC等の半導体分野や、放熱板等の高温構造材料分野に好適に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
窒化アルミニウムは、高熱伝導性を有する絶縁材料であり、また優れた機械的特性を持つ材料として知られている。このため、例えば半導体分野や、放熱板等の高温構造材料分野に窒化アルミニウムを積極的に実用化することが期待されている。特に、半導体分野では、その高集積化に伴う発熱の問題に対処すべく、高い熱伝導性をもつ窒化アルミニウム材料に対する期待が大きい。
【0003】
しかし、窒化アルミニウムは、大気中の水分を吸着して次式のように容易に加水分解し、アンモニアを発生するという欠点がある。
【0004】
AlN+3H2 O→Al(OH)3 +NH3 …(1)
特に、窒化アルミニウムを粉末材料として使用する場合は、粉末は比表面積が大きいことから、体積に対する実質的表面積が極めて大きく、上記(1)式の反応が生じやすい。その結果、窒化アルミニウム粉末は、その表面を無処理な状態で保存したり、さらにそれを原料として使用したりする場合、製品に対して期待する性能が得られないばかりか、その後の性能劣化も著しいものとなる。
【0005】
そこで、上記(1)式の加水分解を防ぐべく、窒化アルミニウム粉末の表面を各種方法で被覆処理し、その耐水性又は耐湿性を向上させることが提案されている。例えば、窒化アルミニウム粉末の表面を酸化処理して酸化皮膜を形成する方法(特開平1−141811号公報、特開平4−175209号公報)、有機樹脂皮膜で被覆する方法(特開平1−179711号公報)、有機系シランカップリング剤を用いてシロキサン結合を有する皮膜を形成する方法(特開平4−321506号公報)、等種々の方法が開示されている。
【0006】
また、特開平7−33415号公報には、窒化アルミニウム粉末の表面に酸化アルミニウム皮膜層を形成し、さらに有機リン酸系カップリング剤を所定量添加して処理する方法が開示されている。
【0007】
しかし、何れの方法を用いて窒化アルミニウム粉末の表面処理を行っても、十分な耐水性を付与することができていないのが現状である。特に、電気・電子材料用の合成樹脂に練り込む樹脂フィラーとして窒化アルミニウム粉末を使用する場合は、加工成形する際の加熱時及び成型使用時の発熱時等における耐水性が要求され、少なくとも150℃程度の高温下における高い耐水性が必要である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、室温から200℃程度の高温にわたって高い耐水性を発揮しうる、耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末を提供することを解決すべき技術課題とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末は、表面に耐水性皮膜が形成された耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末であって、前記窒化アルミニウム粉末は、不純物として、0.5重量%以下のSi及び合計量で0.5重量%以下のSiと異なる金属元素の含有を許容し、前記耐水性皮膜は、前記窒化アルミニウム粉末の表面上に形成された酸化アルミニウム皮膜と、該酸化アルミニウム皮膜上に形成されたリン酸アルミニウム皮膜とから構成されており、前記酸化アルミニウム皮膜は、前記窒化アルミニウム粉末の表面積当たり酸素換算で0.001〜0.1g/m 2 の酸化アルミニウムを含有し、前記リン酸アルミニウム皮膜は、該窒化アルミニウム粉末の表面積当たりリン換算で0.0005〜0.05g/m 2 のリン酸アルミニウムを含有することを特徴とするものである。
【0010】
上記課題を解決する本発明の耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末の製造方法は、不純物として、0.5重量%以下のSi及び合計量で0.5重量%以下のSiと異なる金属元素の含有を許容する窒化アルミニウム粉末を酸素含有雰囲気下で酸化処理温度500〜900℃で加熱して、該窒化アルミニウム粉末の表面上に、該窒化アルミニウム粉末の表面積当たり酸素換算で0.001〜0.1g/m 2 の酸化アルミニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜を形成する酸化処理工程と、前記酸化処理工程の後、前記酸化アルミニウム皮膜が形成された前記窒化アルミニウム粉末をリン酸アルミニウム水溶液で処理して、該酸化アルミニウム皮膜上に、該窒化アルミニウム粉末の表面積当たりリン換算で0.0005〜0.05g/m 2 のリン酸アルミニウムを含有するリン酸アルミニウム皮膜を形成するリン酸塩処理工程と、前記リン酸塩処理工程の後、前記酸化アルミニウム皮膜及び前記リン酸アルミニウム皮膜が形成された前記窒化アルミニウム粉末に対し、200℃未満の水で洗浄する洗浄工程及び80〜850℃に加熱する乾燥工程を実施することを特徴とするものである。
【0011】
好適な態様において、前記リン酸アルミニウム水溶液の前記リン酸アルミニウムの濃度は、0.05〜20重量%である。
【0012】
好適な態様において、前記リン酸塩処理工程において、前記リン酸アルミニウム水溶液1000gに対し、前記窒化アルミニウム粉末の実質的表面積が10〜500m 2 となる割合で、該リン酸アルミニウム水溶液に該窒化アルミニウム粉末を投入する。
【0013】
好適な態様において、前記リン酸塩処理工程は、前記リン酸アルミニウム水溶液を非飽和又は飽和状態にして行う第1段階の皮膜形成工程と、該リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態にして行う第2段階の皮膜形成工程とからなる。
【0014】
好適な態様において、前記第2段階の皮膜形成工程で、昇温処理及びアルカリ添加処理のうちの少なくとも一方の処理により、前記リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態とする。
【0016】
好適な態様において、前記洗浄工程及び乾燥工程の後、さらに50℃以上の水で温水洗浄するか、又は超音波洗浄する再洗浄工程を実施する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末及び本発明の耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末の製造方法により製造された窒化アルミニウム粉末は、表面に耐水性皮膜が形成された耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末であって、該窒化アルミニウム粉末は、不純物として、0.5重量%以下のSi及び合計量で0.5重量%以下のSiと異なる金属元素の含有を許容し、該耐水性皮膜は、該窒化アルミニウム粉末の表面上に形成された酸化アルミニウム皮膜と、該酸化アルミニウム皮膜上に形成されたリン酸アルミニウム皮膜とから構成されており、該酸化アルミニウム皮膜は、該窒化アルミニウム粉末の表面積当たり酸素換算で0.001〜0.1g/m 2 の酸化アルミニウムを含有し、該リン酸アルミニウム皮膜は、該窒化アルミニウム粉末の表面積当たりリン換算で0.0005〜0.05g/m 2 のリン酸アルミニウムを含有するものである。
【0018】
このように酸化アルミニウム皮膜とリン酸アルミニウム皮膜との複合皮膜よりなる耐水性皮膜が表面に形成された本発明に係る窒化アルミニウム粉末は、室温から200℃程度の高温にわたって高い耐水性を発揮しうる。
【0019】
リン酸アルミニウム皮膜はまずエッチングにより形成されるわけだが、このとき窒化アルミニウムのエッチングにより形成されるリン酸アルミニウム皮膜と、酸化アルミニウムのエッチングにより形成されるリン酸アルミニウム皮膜とでは、皮膜中の成分が以下のように異なる。
【0020】
すなわち、窒化アルミニウムのエッチングでは、例えば
3AlN+2Al(H2 PO4 )3 →5AlPO4 +(NH4 )3 PO4…(2)
上記(2)式で示される反応が起こり、リン酸アルミニウム皮膜中にリン酸アンモニウム((NH4 )3 PO4 )が取り込まれる場合がある。このリン酸アンモニウムは、リン酸アルミニウムと比べて水溶性が格段と高い。このため、リン酸アンモニウム自体が皮膜欠陥部として存在するのみでなく、自らも水に溶解して伝導度を高めてしまう。これに対し、酸化アルミニウムのエッチングでは、
Al2 O3 +3Al(H2 PO4 )3 →5AlPO4 +3H2 O …(3)
上記(3)式で示される反応が起こり、生成されるのは水とリン酸アルミニウムのみであり、リン酸アルミニウム皮膜中に溶解性成分が取り込まれることがない。
【0021】
したがって、リン酸アルミニウム皮膜を直接、窒化アルミニウム粉末の表面に形成するよりも、窒化アルミニウム粉末の表面にまず酸化アルミニウム皮膜を形成し、この酸化アルミニウム皮膜の上にリン酸アルミニウム皮膜を形成する方が、リン酸アルミニウム皮膜における耐水性をより向上させることが可能となる。
【0022】
以下、本発明に係る耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末の詳細な構成について、製造方法とともに説明する。
【0023】
原料として用いる窒化アルミニウム粉末としては、金属アルミニウム粉末と窒素あるいはアンモニアとの反応を利用した方法、還元剤としての炭素の存在下における、金属アルミニウム粉末と窒素あるいはアンモニアとの反応を利用した方法、ハロゲン化アルミニウムとアンモニアとの反応を利用した方法等、いずれの方法により製造されたものでもよい。なお、この窒化アルミニウム粉末の平均粒径は0.1〜100μm程度とすることができる。
【0024】
高熱伝導性や絶縁性等、窒化アルミニウム粉末として優れた特性を発揮させるためには、窒化アルミニウム粉末が高純度であることが求められる。また、窒化アルミニウム粉末中に存在する不純物は、窒化アルミニウム粉末表面における組成の不均一化を招くため、耐水皮膜を均一に被覆できなくなる等、耐水皮膜の被覆性に対し悪影響を与えやすい。
【0025】
本発明に係る窒化アルミニウム粉末における不純物は、窒化アルミニウム粉末の高熱伝導性や絶縁性等を大きく害さない程度の濃度であればよい。そうであれば、その不純物の存在に関わりなく、表面処理により良好な耐水性を付与することができる。
【0026】
具体的には、原料として用いる窒化アルミニウム粉末は、不純物として、0.5重量%までのSi及び合計量で0.5重量%までのその他の金属元素(Fe、Ni、Cu、Mg、Cr、Na、CaやZn等)の含有を許容する。
【0027】
また、窒化アルミニウム自体が化学的に不安定であることから、大気中での経時変化により、窒化アルミニウム粉末の表面は水酸化物(Al(OH)3 )及び酸化物(Al2 O3 )でほぼ覆われている。このように水酸化物や酸化物で覆われた窒化アルミニウム粉末に対して所定の表面処理を施すことにより、酸化アルミニウム皮膜及びリン酸アルミニウム皮膜よりなる耐水性皮膜が表面に形成された本発明に係る耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末を製造することができる。
【0028】
すなわち、本発明に係る耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末は、窒化アルミニウム粉末を酸素含有雰囲気下で酸化処理温度500〜900℃で加熱して、該窒化アルミニウム粉末の表面上に酸化アルミニウム皮膜を形成する酸化処理工程と、上記酸化アルミニウム皮膜が形成された窒化アルミニウム粉末をリン酸アルミニウム水溶液で処理して、該酸化アルミニウム皮膜上にリン酸アルミニウム皮膜を形成するリン酸塩処理工程と、酸化アルミニウム皮膜及びリン酸アルミニウム皮膜が形成された窒化アルミニウム粉末に対し、200℃未満の水で洗浄する洗浄工程及び80〜850℃に加熱する乾燥工程を順に実施することにより、製造することができる。
【0029】
上記酸化処理工程では、下記(4)式及び(5)式に示す反応により、まず窒化アルミニウム粉末の表面上に酸化アルミニウム皮膜が形成される。この酸化アルミニウム皮膜を構成する酸化アルミニウムの結晶形態は明らかではないが、γ−Al2 O3 又はδ−Al2 O3 と、これらの結晶化していないものとで構成されているものと推測される。
【0030】
この酸化アルミニウム皮膜を窒化アルミニウム粉末上に形成するための酸化処理では、酸素分圧を特に制御する必要はない。すなわち、この酸化処理は大気雰囲気中で行うことができる。ただし、酸化アルミニウム皮膜をリン酸アルミニウム皮膜形成のための下地層として良好に機能させるべく、酸化処理温度を特定する必要がある。したがって、酸化処理温度を500〜900℃とする。好ましくは750〜850℃、より好ましくは780〜820℃の温度で酸化処理することが望ましい。酸化処理温度が低すぎると、リン酸アルミニウム皮膜形成のための下地層としての皮膜量が不十分となり、一方、酸化処理温度が高すぎると、形成される酸化アルミニウム皮膜の酸による耐エッチング性が高くなり、後述する第1段階におけるリン酸アルミニウムの析出が起こりにくくなると考えられる。また、酸化処理温度が極端に高くなると、室温まで降温する際に粉末表面に微小なクラックが生じるおそれもある。
【0031】
また、酸化処理時間は、5分〜10時間程度の処理が必要であるが、昇温時間や時間効率を考慮し、0.5〜2時間程度の処理時間が適切(1時間程度が最適)であり、これによって窒化アルミニウムの表面積当たり酸素換算で0.001〜0.1g/m2 の酸化アルミニウムを含む酸化アルミニウム皮膜を形成することができる。
【0032】
ここに、上記酸化アルミニウム皮膜は、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり酸素換算で0.001〜0.1g/m2の酸化アルミニウムを含有する。この値が0.001g/m2未満になると、その後のリン酸アルミニウム皮膜を形成する際の下地層として皮膜量が不十分となる。一方、0.1g/m2を超えると、窒化アルミニウムの高熱伝導性を害するおそれがある。
【0033】
上記リン酸塩処理工程では、上記酸化アルミニウム皮膜が形成された窒化アルミニウム粉末をリン酸アルミニウム水溶液で処理することにより、リン酸アルミニウムを酸化アルミニウム皮膜上に析出させて、リン酸アルミニウム皮膜を形成する。具体的には、リン酸アルミニウム(Al(H2 PO4 )3 )水溶液よりなる処理液中に酸化アルミニウム皮膜が形成された窒化アルミニウム粉末を投入し、撹拌することにより、リン酸アルミニウムを析出させることができる。
【0034】
上記リン酸アルミニウム皮膜形成用のリン酸アルミニウム水溶液のAl(H2 PO4 )3 濃度は、0.05〜20重量%が好ましく、より好ましくは0.2〜3重量%であり、さらにより好ましくは0.4〜0.8重量%である。リン酸アルミニウム水溶液のAl(H2 PO4 )3 濃度が低すぎると、リン酸アルミニウム皮膜量が不十分となりやすく、また高すぎると、浴の過飽和状態を制御しにくい。なお、処理液として用いるリン酸アルミニウム水溶液は、pH調整のための他の成分を含んでいてもよい。
【0035】
そして、この処理液中でのリン酸アルミニウムの析出は2段階に分けて行うことが望ましい。すなわち、上記リン酸塩処理工程は、前記リン酸アルミニウム水溶液を非飽和又は飽和状態にして行う第1段階の皮膜形成工程と、該リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態にして行う第2段階の皮膜形成工程とからなることが好ましい。こうすることで、膜欠陥を防止しつつ、リン酸アルミニウム皮膜の皮膜量を細かく制御することができる。
【0036】
上記リン酸アルミニウム水溶液を非飽和又は飽和状態にして行う第1段階の皮膜形成工程では、リン酸アルミニウム水溶液において、窒化アルミニウム粉末の最表層に存在する酸化アルミニウムのエッチングと、酸の消費による局所的なpHの上昇とにより、リン酸アルミニウムが析出する。この反応は、例えば下記(6)式のように起こる。
【0037】
Al2 O3 +Al(H2 PO4 )3 →3AlPO4 +3H2 O …(6)
このとき形成されるリン酸アルミニウムの形態は、その水和状態を含め明らかではないが、上記(6)式で示す第3リン酸塩の他、第2リン酸塩及びその水和物から形成されているものと推測される。
【0038】
なお、上記した局所的なpHの上昇によるリン酸アルミニウムの析出は、酸化処理を施していない窒化アルミニウムのエッチングによっても生じる。しかし、前述のとおり、窒化アルミニウムのエッチングにより形成されるリン酸アルミニウム皮膜には欠陥が発生し易い。これに対し、適切な酸化処理により形成された酸化アルミニウム皮膜上ではより均一にエッチングが進み、その結果リン酸アルミニウム皮膜の形成も欠陥なく行われる。このように酸化アルミニウム皮膜は、リン酸アルミニウム皮膜形成用の優れた下地層として作用する。
【0039】
ここに、リン酸塩処理工程のうち第1段階の皮膜形成工程における特徴は、形成されるリン酸アルミニウム皮膜のアルミニウム成分が酸化アルミニウムと処理溶液中のリン酸アルミニウムとの両者から供給されることである。しかしながら、この第1段階における皮膜形成工程における反応は、上記(6)式に示すように、酸化アルミニウムのエッチングが駆動力となって進行するものであることから、既に形成されたリン酸アルミニウム皮膜上にさらなるリン酸アルミニウム皮膜は形成されにくい。そのため、第1段階で得られるリン酸アルミニウム皮膜のみでは、皮膜量の不足により、良好な耐水性の確保が難しい。
【0040】
そこで、リン酸アルミニウム皮膜の十分な皮膜量を確保すべく、第1段階の皮膜形成工程の後に、第2段階の皮膜形成工程を実施することが望ましい。この第2段階の皮膜形成工程は、処理液からの不均一核生成により生じるリン酸アルミニウム皮膜の成長によるものである。リン酸アルミニウム水溶液は、希薄溶液であっても、液の温度を上げる、又はアルカリを添加することによって、過飽和状態となって下記(7)式の反応により、リン酸アルミニウムを析出する特性をもつ。また、リン酸アルミニウム水溶液は、溶解しているAl(H2 PO4 )3 の非飽和状態から飽和状態に移行する状態推移が遅く、過度現象としての過飽和状態を長時間維持できる特性をもつ。
【0041】
Al(H2 PO4 )3 →AlPO4 +2H3 PO4 …(7)
この反応は、リン酸アルミニウム水溶液が非飽和又は飽和状態から過飽和状態に移行する瞬間にまず一気に起こり、その後も過飽和状態が維持されている間は継続する。すなわち、第2段階の皮膜形成工程では、過飽和状態を経ることにより、過飽和となる瞬間にリン酸アルミニウム皮膜が一気に形成され、過飽和状態が維持されている間はこのリン酸アルミニウム皮膜が成長し続ける。このとき、過飽和となる瞬間に形成されるリン酸アルミニウム皮膜の皮膜量は、その後過飽和状態が維持されている間に形成される皮膜量よりも圧倒的に多くなる。
【0042】
なお、酸化アルミニウム皮膜が形成された窒化アルミニウム粉末を、過飽和状態に維持されたリン酸アルミニウム水溶液中に投入することによっても、酸化アルミニウム皮膜上にリン酸アルミニウム皮膜を形成することは可能ではある。しかし、この場合は非飽和又は飽和状態から過飽和の状態へ移行する瞬間を経ることがないため、リン酸アルミニウムの析出量、すなわちリン酸アルミニウム皮膜の皮膜量が必ずしも十分でない。
【0043】
また、上記(7)式の反応によるリン酸アルミニウムの析出は、均一核生成により溶液中でも生じる。しかし、既にリン酸アルミニウムが存在していれば、そのリン酸アルミニウムを核とする析出・成長が可能となる。このため、第1段階の皮膜形成工程として、非飽和又は飽和状態で酸化アルミニウムのエッチングにより予めリン酸アルミニウム皮膜を形成した後に、第2段階の皮膜形成工程として、リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態にして不均一核生成によりさらにリン酸アルミニウムを析出・成長させることにより、第1段階で形成されたリン酸アルミニウム皮膜における欠陥を無くすとともに該皮膜をより厚くすることが可能となる。
【0044】
ここに、上述したように、リン酸アルミニウム水溶液は過飽和になる温度(以下、「Tex」という)が存在する。このTexは、Al(H2 PO4 )3 の濃度のみでなく、pHを変えうる他の処理液中成分にも左右され、特にアルカリ成分の添加により下がる特性がある。
【0045】
すなわち、第2段階の皮膜形成工程では、昇温処理及びアルカリ添加処理のうちの少なくとも一方の処理を施すことにより、リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態とすることができる。このように、リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態とするには、非飽和又は飽和状態にあるリン酸アルミニウム水溶液をTex以上に昇温するか、あるいはTex以下の液温であってもアルカリ添加によりリン酸アルミニウム水溶液のTexそのものを液温より下げればよいが、昇温処理により処理浴温度をTex以上に上げ、その温度で所定時間保持し、その後過飽和状態から飽和状態へ移行する時を見計らってさらにアルカリを添加することが特に好ましい。こうすることで、過飽和状態をより長く維持することができ、リン酸アルミニウム皮膜の皮膜量を増大させることが可能となる。
【0046】
このように第2段階の皮膜形成工程においては、リン酸アルミニウム水溶液の過飽和状態が維持されている間は、第1段階の皮膜形成工程で形成されたリン酸アルミニウム皮膜上にさらにリン酸アルミニウム皮膜が形成される。このリン酸アルミニウム水溶液が過飽和状態に維持される時間は、処理液の組成によって異なるが、30〜200℃程度の温度で1分〜5時間程度である。
【0047】
また、処理液としてのリン酸アルミニウム水溶液のpHは、第1段階及び第2段階ともに1.5〜5程度のpH範囲とすることが好ましい。pHが1.5よりも小さいと液温を上げることによる過飽和状態がつくりづらくなり、pHが5よりも大きいとリン酸アルミニウムが浴中に析出してしまい、初期のリン酸アルミニウム濃度が低くなりすぎる。特に、アルカリ添加により過飽和状態とするときは、添加後のリン酸アルミニウム水溶液のpHを7未満とすることが好ましい。pHが7以上になると、形成されたリン酸アルミニウム皮膜が再溶解する場合があるからである。pH調整のために使用するアルカリとしては、苛性ソーダや水酸化カリウム等、リン酸根(PO4 3-)と不溶性の塩を形成する金属イオンを含まないものであれば何れのものでも使用が可能である。
【0048】
リン酸アルミニウム水溶液中でリン酸アルミニウム皮膜を形成させる際の窒化アルミニウム粉末の投入量は、窒化アルミニウム粉末の比表面積(厳密に言えば、窒化アルミニウム粉末の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜の比表面積)によって決定することができる。これは、窒化アルミニウム粉末の投入量と比表面積の積が、処理液中で処理される実質的表面積を与えるためである。この窒化アルミニウム粉末の実質的表面積が小さすぎると、極端に厚くて脆いリン酸アルミニウム皮膜が形成されやすくなり、大きすぎると十分な厚さのリン酸アルミニウム皮膜が形成できなくなる。したがって、処理液1000gに対し窒化アルミニウム粉末の実質的表面積が10〜500m2 となる割合で窒化アルミニウム粉末を投入するのが好ましく、40〜120m2 となる割合で窒化アルミニウム粉末を投入するのがより好ましい。
【0049】
以上の処理により、窒化アルミニウム粉末の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜上には、窒化アルミニウム粉末の表面積当たりリン換算で0.0005〜0.05g/m2 のリン酸アルミニウムを含有するリン酸アルミニウム皮膜が形成される。この値が0.0005g/m2 未満になると、十分な耐水性能が得られない。一方、0.05g/m2 を超えると、窒化アルミニウムの高熱伝導性を害するおそれがある。よって、リン酸アルミニウム皮膜層の皮膜量は、窒化アルミニウム粉末の表面積当たりリン換算で0.001〜0.01g/m2 とすることがより好ましく、これにより耐水性能と高熱伝導性とのバランスをより良好に保つことができる。
【0050】
こうして酸化処理工程及びリン酸塩処理工程を実施した後は、酸化アルミニウム皮膜及びリン酸アルミニウム皮膜が形成された窒化アルミニウム粉末に対し、200℃未満、より好ましくは100℃未満の水で洗浄する洗浄工程及び80〜850℃に加熱する乾燥工程を実施する。このように水洗後、所定温度に加熱して乾燥させることにより、優れた耐水性をもつ窒化アルミニウム粉末が得られる。このときの乾燥温度が低すぎると、乾燥不十分により窒化アルミニウム粉末に水分が残存し、製品としての粉末の使用時にトラブルを生じる可能性がある。一方、乾燥温度が高すぎると、形成したリン酸アルミニウム皮膜にクラックが生じ、耐水性が低下する場合がある。このため、乾燥温度は、80〜850℃の範囲とする。100〜140℃の範囲がより好ましい。
【0051】
そして、上記200℃未満、より好ましくは100℃未満の水で洗浄する洗浄工程及び80〜850℃に加熱する乾燥工程を実施した後は、さらに50℃以上、より好ましくは100℃以上の水で温水洗浄するか、又は超音波洗浄する再洗浄工程を実施することが望ましい。
【0052】
窒化アルミニウム粉末の表面は、その製造方法によって表面の状態に違いはあるものの、複雑な形状をした多くの凹凸を有している。そのため、通常の水洗浄では、リン酸塩処理工程で表面の凹凸に入り込んでいる水溶性成分(処理液中のリン等の水溶性成分やリン酸アルミニウム皮膜中に取り込まれている極表層部のリン酸アンモニウム等)の除去が完全に行えない場合が多い。この水溶性成分の残存は、耐水処理後の窒化アルミニウム粉末の見かけの耐水性能を悪化させる。
【0053】
また、一般に、洗浄は温度の高い純水で行う方がより効果的である。しかし、リン酸塩処理は当然ながらウェットな状態で行われており、その後の処理として、窒化アルミニウム粉末を一度も乾燥させない状態で100℃を超える温水洗浄を行うと、かえってその後の耐水性を低下させる場合がある。一方、リン酸アルミニウム皮膜は100〜140℃の範囲で乾燥させることにより、皮膜がより強固となり、化学的、物理的に安定な状態となる。したがって、リン酸塩処理工程とその後の特に100℃を超える温水洗浄工程との間に、乾燥工程を実施することが好ましい。
【0054】
そして、乾燥後の再洗浄は、50〜200℃(より好ましくは100〜200℃)の温水中で行うことが好ましい。特に100℃以上の水で洗浄することにより、リン酸塩処理工程で表面の凹凸に入り込んだ水溶性成分をほぼ完全に除去できるからである。また、50℃以上の水で洗浄する温水洗浄の代わりに、超音波洗浄器を用いた超音波洗浄をすることも効果的である。その場合、20〜100℃の水中で超音波洗浄することにより、十分な洗浄効果が得られる。こうして表面の水溶性成分をほぼ完全に除去することにより、飛躍的に優れた耐水性を有する窒化アルミニウム粉末を得ることができる。
【0055】
【実施例】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、以下の%表記はすべて重量%を示す。
【0056】
(実施例1)
表1に示す組成を有する6063アルミニウム合金から、平均粒径約36.3μm、比表面積0.90m2 /gを有する原料粉末としての窒化アルミニウム粉末を製造した。この窒化アルミニウム粉末は、6063アルミニウム合金の原料粉末(2〜3mmの切り粉)に窒化促進剤(Al−25Mg合金、粒径100μm)を加え、直接窒化することにより製造した(特開平9−12308号公報参照)。
【0057】
【表1】
【0058】
得られた原料粉末としての窒化アルミニウム粉末から、以下に示すように、図1に示す工程図に従って、耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末を製造した。
【0059】
<酸化処理工程>
得られた原料粉末としての窒化アルミニウム粉末を電気炉に入れ、800℃で1時間の酸化処理を施して、窒化アルミニウム粉末の表面に酸化アルミニウム皮膜を形成した。
【0060】
この酸化アルミニウム皮膜について、不活性ガス中で融解−赤外検出法で皮膜量を測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、酸素換算で0.016g/m2 の酸化アルミニウムを含有していた。
【0061】
<リン酸塩処理工程>
<<第1段階の皮膜形成工程>>
次に、容量1000mlのガラス容器に、25℃の0.5%Al(H2 PO4 )3 水溶液を900g入れ、そこに酸化処理済みの窒化アルミニウム粉末を100g投入し、撹拌、分散させた。なお、このリン酸アルミニウム水溶液は、Texが約55℃であり、初期pHが2.7である。そして、この状態で10分間保持することにより、リン酸アルミニウム水溶液を非飽和状態にして行う第1段階の皮膜形成工程を実施し、窒化アルミニウム粉末の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜上にリン酸アルミニウム皮膜を形成した。
【0062】
<<第2段階の皮膜形成工程>>
続いて、処理液をTex以上の70℃に昇温して、リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態とし、その温度で1時間保持して第2段階の皮膜形成工程を実施した。これにより、第1段階の皮膜形成工程で酸化アルミニウム皮膜の上に形成されたリン酸アルミニウム皮膜上に、さらにリン酸アルミニウム皮膜を形成した。
【0063】
<洗浄・乾燥工程>
上記酸化処理工程及び上記リン酸塩処理工程を経た窒化アルミニウム粉末を、25℃の純水でよく洗浄した後、120℃で2時間の乾燥を経て回収した。
【0064】
最終的に得られた窒化アルミニウム粉末におけるリン酸アルミニウム皮膜について、蛍光X線分析装置で測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.0018g/m2 のリンを含有していた。
【0065】
(実施例2)
前記実施例1において、リン酸塩処理工程のうち第2段階の皮膜形成工程を次のように変更すること以外は、前記実施例1と同様である。
【0066】
すなわち、本実施例では、酸化処理工程及び第1段階の皮膜形成工程を前記実施例1と同様に行った。
【0067】
<<第2段階の皮膜形成工程>>
そして、処理液をTex以上の70℃に昇温して、リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態とし、その温度で1時間保持した。その後、処理液を70℃に維持しつつ、さらにアルカリとしての苛性ソーダ(NaOH)を0.90g添加して1時間保持した。なお、アルカリ添加直後のリン酸アルミニウム水溶液の70℃でのpHは3.7である。
【0068】
そして、洗浄・乾燥工程を前記実施例1と同様に行った。
【0069】
最終的に得られた窒化アルミニウム粉末におけるリン酸アルミニウム皮膜について、蛍光X線分析装置で測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.0029g/m2 のリンを含有していた。
【0070】
(実施例3)
前記実施例1において、リン酸塩処理工程のうち第2段階の皮膜形成工程を前記実施例2と同様に変更するとともに、洗浄・乾燥工程を次のように変更すること以外は、前記実施例1と同様である。
【0071】
すなわち、本実施例では、酸化処理工程及び第1段階の皮膜形成工程を前記実施例1と同様に行った後、第2段階の皮膜形成工程を前記実施例2と同様に行った。
【0072】
<洗浄・乾燥工程>
こうして酸化処理工程及びリン酸塩処理工程を経た窒化アルミニウム粉末を、100℃の沸騰水中で1時間洗浄し、さらに25℃の純水でよく洗浄した後、120℃で2時間の乾燥を経て回収した。
【0073】
最終的に得られた窒化アルミニウム粉末におけるリン酸アルミニウム皮膜について、蛍光X線分析装置で測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.0013g/m2 のリンを含有していた。
【0074】
(実施例4)
前記実施例1において、リン酸塩処理工程のうち第2段階の皮膜形成工程を前記実施例2と同様に変更するとともに、前記実施例1と同様の洗浄・乾燥工程の後にさらに次のような再洗浄・乾燥工程を実施すること以外は、前記実施例1と同様である。
【0075】
すなわち、本実施例では、酸化処理工程及び第1段階の皮膜形成工程を前記実施例1と同様に行った後、第2段階の皮膜形成工程を前記実施例2と同様に行った。こうして酸化処理工程及びリン酸塩処理工程を経た窒化アルミニウム粉末を、25℃の純水で洗浄した後、120℃で2時間乾燥した。
【0076】
<再洗浄・乾燥工程>
そして、洗浄・乾燥工程を経た窒化アルミニウム粉末に対して、さらに25℃の純水中で500Wの超音波洗浄器を用いて30分間の再洗浄を行い、さらに25℃の純水でよく洗浄した後、120℃で2時間の乾燥を経て回収した。
【0077】
最終的に得られた窒化アルミニウム粉末におけるリン酸アルミニウム皮膜について、蛍光X線分析装置で測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.0021g/m2 のリンを含有していた。
【0078】
(実施例5)
上記実施例1において、リン酸塩処理工程のうち第2段階の皮膜形成工程を前記実施例2と同様に変更するとともに、前記実施例1と同様の洗浄・乾燥工程の後にさらに次のような再洗浄・乾燥工程を実施すること以外は、前記実施例1と同様である。
【0079】
すなわち、本実施例では、酸化処理工程及び第1段階の皮膜形成工程を前記実施例1と同様に行った後、第2段階の皮膜形成工程を前記実施例2と同様に行った。こうして酸化処理工程及びリン酸塩処理工程を経た窒化アルミニウム粉末を、25℃の純水で洗浄した後、120℃で2時間乾燥した。
【0080】
<再洗浄・乾燥工程>
そして、洗浄・乾燥工程を経た窒化アルミニウム粉末に対して、さらに100℃の沸騰水中で1時間の再洗浄を行い、さらに25℃の純水でよく洗浄した後、120℃で2時間の乾燥を経て回収した。
【0081】
最終的に得られた窒化アルミニウム粉末におけるリン酸アルミニウム皮膜について、蛍光X線分析装置で測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.0020g/m2 のリンを含有していた。
【0082】
(実施例6)
前記実施例1において、リン酸塩処理工程として、第1段階の皮膜形成工程のみを行い、第2段階の皮膜形成工程を行わなかったこと以外は、前記実施例1と同様である。
【0083】
すなわち、本実施例では、酸化処理工程を前記実施例1と同様に行った。
【0084】
<リン酸塩処理工程>
そして、容量1000mlのガラス容器に、25℃の0.5%Al(H2 PO4 )3 水溶液を900g入れ、そこに酸化処理済みの窒化アルミニウム粉末を100g投入し、撹拌、分散させた。そして、この状態で10分間保持することにより、リン酸アルミニウム水溶液を非飽和状態にして行う第1段階の皮膜形成工程を実施し、窒化アルミニウム粉末の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜上にリン酸アルミニウム皮膜を形成した。
【0085】
そして、洗浄・乾燥工程を前記実施例1と同様に行った。
【0086】
最終的に得られた窒化アルミニウム粉末におけるリン酸アルミニウム皮膜について、蛍光X線分析装置で測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.0009g/m2 のリンを含有していた。
【0087】
(実施例7)
前記実施例1において、リン酸塩処理工程として、第2段階の皮膜形成工程のみを行い、第1段階の皮膜形成工程を行わなかったこと以外は、前記実施例1と同様である。
【0088】
すなわち、本実施例では、酸化処理工程を前記実施例1と同様に行った。
【0089】
<リン酸塩処理工程>
そして、容量1000mlのガラス容器に、25℃の0.5%Al(H2 PO4 )3 水溶液を900g入れた。そして、処理液をTex以上の70℃に昇温して、リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態としてから、そこに酸化処理済みの窒化アルミニウム粉末を100g投入し、撹拌、分散させた。そして、この状態で1時間保持することにより、リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態にして行う第2段階の皮膜形成工程を実施し、窒化アルミニウム粉末の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜上にリン酸アルミニウム皮膜を形成した。
【0090】
そして、洗浄・乾燥工程を前記実施例1と同様に行った。
【0091】
最終的に得られた窒化アルミニウム粉末におけるリン酸アルミニウム皮膜について、前記と同様に蛍光X線分析装置で測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.0011g/m2 のリンを含有していた。
【0092】
(実施例8)
表2に示す組成を有する6063アルミニウム合金から、平均粒径約31.5μm、比表面積1.62m2 /gを有する原料粉末としての窒化アルミニウム粉末を、前記実施例1と同様に製造した。
【0093】
【表2】
【0094】
<酸化処理工程>
得られた窒化アルミニウム粉末を電気炉に入れ、800℃で1時間の酸化処理を施して、窒化アルミニウム粉末の表面に酸化アルミニウム皮膜を形成した。
【0095】
この酸化アルミニウム皮膜について、不活性ガス中で融解−赤外検出法で皮膜量を測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、酸素換算で0.026g/m2 の酸化アルミニウムを含有していた。
【0096】
<リン酸塩処理工程>
<<第1段階の皮膜形成工程>>
次に、容量1000mlのガラス容器に、25℃の0.5%Al(H2 PO4 )3 水溶液を950g入れ、そこに酸化処理済みの窒化アルミニウム粉末を50g投入し、撹拌、分散させた。なお、このリン酸アルミニウム水溶液は、Texが約55℃であり、初期pHが2.7である。そして、この状態で10分間保持することにより、リン酸アルミニウム水溶液を非飽和状態にして行う第1段階の皮膜形成工程を実施し、窒化アルミニウム粉末の表面に形成された酸化アルミニウム皮膜上にリン酸アルミニウム皮膜を形成した。
【0097】
<<第2段階の皮膜形成工程>>
続いて、処理液をTex以上の70℃に昇温して、リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態とし、その温度で1時間保持した。その後、処理液を70℃に維持しつつ、さらにアルカリとしての苛性ソーダ(NaOH)を0.90g添加してさらに1時間保持し、第2段階の皮膜形成工程を実施した。これにより、第1段階の皮膜形成工程で酸化アルミニウム皮膜の上に形成されたリン酸アルミニウム皮膜上に、さらにリン酸アルミニウム皮膜を析出・成長させた。なお、アルカリ添加直後のリン酸アルミニウム水溶液の70℃でのpHは3.7である。
【0098】
<洗浄・乾燥工程>
上記酸化処理工程及び上記リン酸塩処理工程を経た窒化アルミニウム粉末を、25℃の純水でよく洗浄した後、120℃で2時間乾燥した。
【0099】
<再洗浄・乾燥工程>
そして、洗浄・乾燥工程を経た窒化アルミニウム粉末に対して、さらに100℃の沸騰水中で1時間の再洗浄を行い、さらに25℃の純水でよく洗浄した後、120℃で2時間の乾燥を経て回収した。
【0100】
最終的に得られた窒化アルミニウム粉末におけるリン酸アルミニウム皮膜について、蛍光X線分析装置で測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.0025g/m2 のリンを含有していた。
【0101】
(比較例1)
前記実施例1で製造した窒化アルミニウム粉末を、酸化処理及びリン酸塩処理を行わずにそのままの状態とした。
【0102】
この窒化アルミニウム粉末について、前記と同様に、融解−赤外検出法で粉末表面における酸素付着量を測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.001g/m2 以下であった。また、前記と同様に、蛍光X線分析装置で粉末表面におけるリン付着量を測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.00001g/m2 以下であった。
【0103】
(比較例2)
前記実施例1において、耐水処理として、酸化処理工程のみを行い、リン酸塩処理工程及びその後の洗浄・乾燥工程を行わなかったこと以外は、前記実施例1と同様である。
【0104】
すなわち、この比較例では、酸化処理工程を前記実施例1と同様に行い、窒化アルミニウム粉末の表面に酸化アルミニウム皮膜を形成した。
【0105】
この酸化アルミニウム皮膜について、前記と同様に、融解−赤外検出法で皮膜量を測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、酸素換算で0.016g/m2 の酸化アルミニウムを含有していた。
【0106】
(比較例3)
前記実施例1において、耐水処理として、リン酸塩処理のみを行い、酸化処理を行わなかったこと以外は、前記実施例1と同様である。
【0107】
すなわち、この比較例では、酸化処理工程を行うことなく、前記実施例1と同様のリン酸塩処理工程を行い、窒化アルミニウム粉末の表面にリン酸アルミニウム皮膜を形成した。
【0108】
そして、洗浄・乾燥工程を前記実施例1と同様に行った。
【0109】
最終的に得られた窒化アルミニウム粉末におけるリン酸アルミニウム皮膜について、蛍光X線分析装置で測定したところ、窒化アルミニウム粉末の表面積当たり、0.0017g/m2 のリンを含有していた。
【0110】
(耐水性能の評価)
前記実施例1〜8及び比較例1〜3で最終的に得られた窒化アルミニウム粉末の耐水性能を以下の用法により評価した。
【0111】
すなわち、耐水処理を施した窒化アルミニウム粉末7gと純水70gとをテフロン製の容器に入れ、室温で10分間撹拌し、その分散液の比電気伝導度を測定した。その後、オートクレーブを用いて180℃で2時間保持した後、空冷し、25℃まで冷却された際の分散液の比電気伝導度を再度測定した。測定結果を表4に示す。
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
【0114】
表4から明らかなように、酸化アルミニウム皮膜及びリン酸アルミニウム皮膜の複合皮膜よりなる耐水皮膜を有する本実施例1〜8に係る窒化アルミニウム粉末は、該複合皮膜よりなる耐水皮膜を有しない比較例1〜3に係る窒化アルミニウム粉末と比べて、良好な耐水性が確保でき、180℃の高温下でも優れた耐水性を発揮した。
【0115】
また、リン酸塩処理として第1段階及び第2段階の皮膜形成工程の双方を実施した実施例1〜5、8に係る窒化アルミニウム粉末は、リン酸塩処理として第1段階及び第2段階の皮膜形成工程のうちのいずれか一方のみを実施した実施例6、7に係る窒化アルミニウム粉末と比較して、より良好な耐水性が確保できた。
【0116】
特に、25℃の水で洗浄後、乾燥してから、さらに100℃の沸騰水で再洗浄するか又は超音波洗浄器を用いて再洗浄した実施例4、5、8に係る窒化アルミニウム粉末は、耐水性が極めて優れていた。
【0117】
(酸化処理温度と耐水性能との関係)
前記実施例1において、酸化処理工程における処理温度を種々変更し、酸化処理温度と耐水性能との関係を調べた。
【0118】
なお、耐水性能は、前記と同様に、耐水処理を施した窒化アルミニウム粉末7gと純水70gとをテフロン製の容器に入れ、室温で10分間撹拌してから、オートクレーブを用いて180℃で2時間保持した後、空冷し、25℃まで冷却された際の分散液の比電気伝導度を測定することにより行った。測定結果を図2に示す。
【0119】
図2から明らかなように、酸化処理温度を500〜900℃とすることにより、窒化アルミニウム粉末の耐水性能が向上することがわかる。特に、酸化処理温度を750〜850℃(より好ましくは780〜820℃)とした場合、耐水性能が極めて優れていた。
【0120】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明に係る耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末は、室温から200℃程度の高温にわたって高い耐水性を発揮する。したがって、電気・電子材料用の樹脂フィラーとしての使用において、室温時には勿論のこと、加工成形時の加熱時等にも極めて良好な耐水性を発揮する。その結果、成形加工後に得られた電子部品は、高い放熱性を確保しつつ従来のシリカ粉末を使用した電子部品に劣らない高い化学的安定性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例に係る窒化アルミニウム粉末の製造方法の工程図である。
【図2】酸化処理温度と耐水性能との関係を示す線図である。
Claims (7)
- 表面に耐水性皮膜が形成された耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末であって、
前記窒化アルミニウム粉末は、不純物として、0.5重量%以下のSi及び合計量で0.5重量%以下のSiと異なる金属元素の含有を許容し、
前記耐水性皮膜は、前記窒化アルミニウム粉末の表面上に形成された酸化アルミニウム皮膜と、該酸化アルミニウム皮膜上に形成されたリン酸アルミニウム皮膜とから構成されており、
前記酸化アルミニウム皮膜は、前記窒化アルミニウム粉末の表面積当たり酸素換算で0.001〜0.1g/m 2 の酸化アルミニウムを含有し、前記リン酸アルミニウム皮膜は、該窒化アルミニウム粉末の表面積当たりリン換算で0.0005〜0.05g/m 2 のリン酸アルミニウムを含有することを特徴とする耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末。 - 不純物として、0.5重量%以下のSi及び合計量で0.5重量%以下のSiと異なる金属元素の含有を許容する窒化アルミニウム粉末を酸素含有雰囲気下で酸化処理温度500〜900℃で加熱して、該窒化アルミニウム粉末の表面上に、該窒化アルミニウム粉末の表面積当たり酸素換算で0.001〜0.1g/m 2 の酸化アルミニウムを含有する酸化アルミニウム皮膜を形成する酸化処理工程と、
前記酸化処理工程の後、前記酸化アルミニウム皮膜が形成された前記窒化アルミニウム粉末をリン酸アルミニウム水溶液で処理して、該酸化アルミニウム皮膜上に、該窒化アルミニウム粉末の表面積当たりリン換算で0.0005〜0.05g/m 2 のリン酸アルミニウムを含有するリン酸アルミニウム皮膜を形成するリン酸塩処理工程と、
前記リン酸塩処理工程の後、前記酸化アルミニウム皮膜及び前記リン酸アルミニウム皮膜が形成された前記窒化アルミニウム粉末に対し、200℃未満の水で洗浄する洗浄工程及び80〜850℃に加熱する乾燥工程を実施することを特徴とする耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末の製造方法。 - 前記リン酸アルミニウム水溶液の前記リン酸アルミニウムの濃度は、0.05〜20重量%であることを特徴とする請求項2記載の耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末の製造方法。
- 前記リン酸塩処理工程において、前記リン酸アルミニウム水溶液1000gに対し、前記窒化アルミニウム粉末の実質的表面積が10〜500m 2 となる割合で、該リン酸アルミニウム水溶液に該窒化アルミニウム粉末を投入することを特徴とする請求項2又は3記載の耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末の製造方法。
- 前記リン酸塩処理工程は、前記リン酸アルミニウム水溶液を非飽和又は飽和状態にして行う第1段階の皮膜形成工程と、該リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態にして行う第2段階の皮膜形成工程とからなることを特徴とする請求項2、3又は4記載の耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末の製造方法。
- 前記第2段階の皮膜形成工程で、昇温処理及びアルカリ添加処理のうちの少なくとも一方の処理により、前記リン酸アルミニウム水溶液を過飽和状態とすることを特徴とする請求項5記載の耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末の製造方法。
- 前記洗浄工程及び乾燥工程の後、さらに50℃以上の水で温水洗浄するか、又は超音波洗浄する再洗浄工程を実施することを特徴とする請求項2、3、4、5又は6記載の耐水性に優れた窒化アルミニウム粉末の製造方法。
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