JP6221458B2 - 検体の注入状態を判定する方法 - Google Patents

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Description

本発明は液体クロマトグラフィにおいて、検体注入状態を正確に判定する方法に関する。
液体クロマトグラフィによる測定では様々な要因によるトラブルが発生する可能性を抱えているが、測定結果の精度、信頼性向上のため、多様な対応策が事前に採られている。分析カラムに検体を導入する「検体注入機構」もその1つとして良く知られている。
カラムに検体を注入する方法として、例えば2つの流路形態を切り替えることができる、2位置6方バルブを使用することがあげられる(図3参照)。第一の位置(ロード状態)では検体を保留し計量するループと分析流路が切り離された状態であり、この状態で、ループ内に検体を導入する。第二の位置(インジェクション状態)ではループが分析流路に接続された状態であり、第一の状態から第二状態に切り替えることで、ループ内に保持された検体が分析流路に導入されカラムにより分離される。
正確な分析/定量を行うには、検体保持ループは全量、検体溶液が満たされる必要がある。
検体注入時には、図4に示すような不具合が発生することがある。
図4aは検体が正常に吸引された状態である。計量ループ内は検体溶液で完全に満たされている。図4bは、検体吸引機構の動作不足等の要因により、ループ内に検体が送り込まれず、前回の測定に使用した溶離液が計量ループに残ってしまう場合である。図4cは、検体不足等の要因により、ループ内に検体が全く送り込まれず、全量空気になってしまう場合である。図4dは、ループ内に検体が送り込まれるものの、検体不足等の要因により一部不足し、一部空気になってしまう場合である。図4eは、検体内または検体吸引工程等で気泡が発生し、ループ内に僅かに気泡が混入してしまう場合である。これらの事象が生じた場合(図4b〜e)、何らかの方法で検知し、その分析結果が正常でない旨および原因等をユーザに示す必要がある。
一般的なクロマトの場合、検体注入時の不具合は、システム全体に掛かる圧力を監視することで検知することができる。
図5は、数ミクロンのゲルを使用したイオン交換クロマトのように、システム圧力が10〜15MPa程度かかるような分析系でのクロマトグラムおよび圧力の変動を模式的に示した図である(測定対象:ヘモグロビンA1c)。正常に検体が注入された場合、図5aのように圧力はほぼ一定の値を示す。検体保持ループに空気が混入した場合、図5b、cのように注入と同時に圧力が低下しその後元に回復する。システム全体に一定の圧力が掛かっているところに空気が入り、圧縮されるためである。検出器のシグナルは絶対注入量の低下に比例して小さくなる。このように、圧力変動から注入異常を検知/判断することは可能である。また、空気が混入した場合でも、その量が少なければ、圧力により押し潰され、検出器のシグナルに大きな影響を与えることは少ない(図5bは気泡がセル内で発生せず検出器に影響しない場合、図5cは気泡がセル内で発生し検出器に影響する場合)。
しかしながら、システム圧力が数MPa〜数100KPaしかかからないような分析系では、分析圧力と空気混入時の圧力差が少なくなり、圧力変動からを注入異常を検知/判断することが難しくなる。また、システム圧が低いため、僅かな空気の混入であっても、圧力により押し潰されずにセル内で気泡が発生し、検出器のシグナルに影響を与えやすい(図6参照)。
これにより、検体注入時に空気が混入し、検出器セル内で気泡が発生した場合、絶対注入量が低下したにもかかわらず、セル内の光量が増加してしまい検出器のシグナルに影響する。図4dのように検体計量ループ内に一部空気が混入すると、注入量が低下したにも関わらず、シグナルは逆に大きくなりやすくなる。図6bは検出器セル内で気泡が発生しない場合、図6cは検出器セル内で気泡が発生した場合の検出器シグナルの変化および圧力の変化を模式的に示した図である。
空気による検出器のシグナルの変化は、カラムのボイド容量が溶出される付近に発生することが多い。
例えば液体クロマトグラフィ法によるヘモグロビンA1c(以下、A1cとする)測定法には、大別してイオン交換法とアフィニティ法の2つが存在する。図1はイオン交換法によるA1c測定の流路図および代表的なクロマトグラムである。イオン交換クロマト法では塩濃度の異なる複数の溶離液をステップワイズで切り替え、6分画程度に分画し、A1cの含有量を算出する方法が一般的である。図2はアフィニティ法によるA1c測定の流路図および代表的なクロマトグラムである。アフィニティクロマト法では、ヘモグロビンA0(以下、A0とする)を含む成分を第1の溶離液で溶出させ、その後、グルコース等を含有した第2の溶離液でA1cを含む成分を溶出させる方法が一般的である。
前者のイオン交換法では、A1c、A0ともカラムに対して保持があることから、カラムのボイド容量以降に溶出されてくる。一方、アフィニティ法ではA0は殆どカラムに保持されず、カラムのボイド容量付近に溶出する。そのため、A0のピークと検体の溶血液の成分のピークや注入バルブの切り替えによるベース変動等が重なることがある。しかしながら、正常に動作している場合は、検体を希釈/溶血した溶液成分のピークや注入バルブの切り替えによるベース変動はA0のピークと比較して極端に小さいことから定量結果に大きく影響するものではない。また、これらの影響を排除するため、2波長測定により補正することも行われている。検体に吸収のある第一の波長(一般的には415nm)と、検体に吸収のない第二の波長(一般的には500nm)の2つの波長で同時に測定を行い、前者から後者を差し引くことでベースラインの変動を差し引き、影響を少なくする方法が採られることも多い(特許文献1〜3参照)。これらの方法はいずれも、対象となる成分の測定精度の向上を目的としたもので、装置への検体の注入状態の判定に用いるものではない。
イオン交換法によるA1c分離では、A1c、A0ともカラムに対して保持があることから、カラムのボイド容量以降に溶出されてくる。このため、気泡混入によるシグナル異常を検知判断することはできるものの難しい。一方、アフィニティ法ではA0を含む成分は殆どカラムに保持されず、カラムのボイド容量付近に溶出するため、気泡混入によるベース変動とA0のピークが重なり異常を検知判断することが難しくなる。
国際公開第2007/111282号パンフレット 国際公開第2007/111283号パンフレット 特開2007−315942号公報
本発明は、液体クロマトグラフィにおいて、注入状態の異常検出を的確に行うことを目的とし成されたものであり、特にA1cの測定において、カラムのボイド付近にA0が溶出するアフィニティによる分離に際し好適である。
本発明者は上記課題に関し鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち本発明は、以下の通りである。
(1)液体クロマトグラフィにおいて、検出対象成分を検出するための第一波長と、検出対象成分に吸収がなく、溶離液のベースライン変動をモニタするための第二波長を用いてカラム溶出物の検出出力を取得し、両波長による出力変化に基づいて検体の注入状態を判定する方法。
(2)上述の(1)に記載の方法において、検出対象がヘモグロビンA1cである方法。
(3)上述の(2)に記載の方法において、第一波長として405nmから420nm、第二波長として490nmから520nmを用いる方法。
(4)上述の(2)又は(3)に記載の方法において、アフィニティ液体クロマトグラフィ法である方法。
(5)上述の(2)〜(4)いずれかに記載の方法において、少なくとも、第一波長ではヘモグロビンA1c由来のシグナル変動が計測され、第二波長では微小なベースライン変動が計測された場合、検体がカラムに正常に注入されたと判定する方法。
(6)上述の(2)〜(4)いずれかに記載の方法において、少なくとも、第一波長ではカラムのボイド付近にボイドピークが計測され、第二波長でもカラムのボイド付近にボイドピークが計測された場合、検体が注入されずに代わりに溶離液が注入されたと判定する方法。
(7)上述の(2)〜(4)いずれかに記載の方法において、少なくとも、第一波長ではカラムのボイド付近にボイドピークが計測されず、第二波長でもカラムのボイド付近にボイドピークが計測されない場合、カラムには何も注入されなかったと判定する方法。
(8)上述の(2)〜(4)いずれかに記載の方法において、少なくとも、第一波長ではヘモグロビンA1c由来のシグナル変動が計測され、第二波長では過大なベース変動が計測された場合、検体と気泡がカラムに注入されたと判定する方法。
(9)上述の(2)〜(4)いずれかに記載の方法において、少なくとも、第一波長ではヘモグロビンA1cに由来のシグナル変動が計測されず、第二波長では過大なベース変動が計測された場合、カラムに検体を注入できずに空気を注入したと判定する方法。
以下に本発明を更に詳細に説明する。
本発明において、検出対象成分を検出するための第一波長と、検出対象成分に吸収がなく、溶離液のベースライン変動をモニタするための第二波長を用いてカラム溶出物の検出出力を取得し、両波長による出力変化に基づいて検体の注入状態を判定する。ここで第一波長としては検出対象に吸収のある波長を用いる。また第二波長としては検出対象に吸収のない波長を用いるが、第一波長に近い波長を用いることが好ましい。
本発明において、検出対象としては特に限定はないが、例えばA1cをあげることができる。A1cの場合は第一波長として405〜420nm、第二波長として490〜520nmを用いることが好ましい。
本発明において、液体クロマトグラフィの種類は特に限定されるものではないが、A1cを検出対象にする場合はアフィニティ液体クロマトグラフィを用いることが好ましい。
本発明に用いられる検出器としては、第一波長、第二波長の両方の光を照射できる1つの光源を使用し、セルに照射し透過光を前記第一波長と前記第二波長に分け、各々検出する方式の検出器が好適である。しかしながら、前記第一波長で検出できる検出器と、前記第二波長で検出できる検出器を直列に接続しても同様の効果がある。この際は、検出器や各接続配管の容量によるピークの広がりの影響を最小にすることが好ましい。第一波長の検出器を上流側、第二波長の検出器を下流側に配置することが望ましい(図9参照)。
検体注入の方式は、例えば液体クロマトグラフィで一般的に使用される2位置切り替え6方バルブに検体保持ループを接続し、一定量の検体をカラムに導入できるバルブを使用することが好ましい。前記バルブの第一の位置では、ポンプからの溶離液はカラムに直接送液され、この間に検体保持ループ内に検体を吸引または吐出手段を用いて導入させる。第二の位置に切り替えることで、ポンプからの溶離液は検体が保留されているループを経由してカラムに送液される。これにより、検体保持ループ内の検体はカラムに導入/分離され、検出器により強度が測定される。
以下に、検体注入状態による検出器のシグナル変動について、上述の検体注入の方式を用いて、A1cをアフィニティクロマトグラフィで検出場合を例にして、図7および表1をもとに説明する。
Figure 0006221458
図中のa〜dの検出器ベース変動(ピーク)は、以下の通りである。a:注入バルブ切り替えによる変動(ボイドピーク)、b:溶離液切り替えによるによる変動(ステップグラジエント)、c:気泡又は空気による変動、d0:A0由来の変動、d1c:A1c由来の変動。
検体の注入状態は以下の6つに大別される。
E0:検体保持ループに検体が確実に保留され、カラムに注入された場合(正常測定)である。第一波長ではd0が一定量以上計測され、これはaと重なり合ってボイド付近に見られる。またd1cも一定量以上計測される。bは存在するが、他のピークと重なりあい直接的には観察されない。第二波長では、ステップグラジエントによるベースライン変動bが計測され、またaがボイド付近に計測されるが、いずれも変動は微小である。
E1:何らかの要因により、検体保持ループに検体が全く保留できず、検体が注入されずに代わりに溶離液が注入された場合である。第一波長では、ステップグラジエントによるベースライン変動bが計測され、またaがボイド付近に計測されるが、いずれも変動は微小である。第二波長でも、ステップグラジエントによるベースライン変動bが計測され、またaがボイド付近に計測されるが、いずれも変動は微小である。
E2:検体を注入するバルブが何らかの要因によりロード状態からインジェクション状態に切り替わらなかったため、カラムには何も注入されなかった場合である。第一波長では、ステップグラジエントbによるベースライン変動のみが計測され、その変動は微小である。第二波長でも、ステップグラジエントbによるベースライン変動のみが計測され、その変動は微小である。なおボイド付近には、第一波長、第二波長いずれも変動は検出されない。
E3:検体保持ループに検体がほぼ保留されたものの、ループ内で僅かな気泡が発生してしまい、検体と気泡がカラムに注入された場合である。第一波長ではA0由来のシグナルd0、気泡によるベース変動c、及びaとが合算され、ボイド付近に過大なピークが計測される。またこれとは別に、A1cに由来するのピークも出現する。なおbも存在するものの、他のピークと重なって直接的には観察されない。第二波長では、気泡由来のベース変動cとaとが重なり、ボイド付近に過大な変動として計測される。また微小なbも計測される。
E4:検体保持ループに多量の空気が混入してしまい、検体が全く保留できず、カラムに検体や溶離液が全く注入されずに空気が注入された場合である。第一波長では空気由来のベース変動cが過大な変動としてボイド付近に計測され、また微小なbが計測される。しかしながらA1cに由来するピークは出現しない。第二波長では、空気由来のベース変動cが過大な変動としてボイド付近に計測される。また微小なbも計測される。
E5:その他の異常。
本発明においては、このようなE0〜E5で生じるシグナル変動のうち、E0〜E5の各状態で特徴的なものを選択し、それを用いて検体の注入状態を判定することができる。特徴的なシグナル変動としては、上述したもののうち例えば以下のものがあげられる。
E0:第一波長ではヘモグロビンA1c由来のシグナル変動が計測され、第二波長では微小なベースライン変動が計測される。
E1:第一波長ではカラムのボイド付近にボイドピークが計測され、第二波長でもカラムのボイド付近にボイドピークが計測される。
E2:第一波長ではカラムのボイド付近にボイドピークが計測されず、第二波長でもカラムのボイド付近にボイドピークが計測されない。
E3:第一波長ではヘモグロビンA1c由来のシグナル変動が計測され、第二波長では過大なベース変動が計測される。
E4:第一波長ではヘモグロビンA1cに由来のシグナル変動が計測されず、第二波長では過大なベース変動が計測される。
本発明においては、少なくともこのような特徴的なシグナル変動を基に判定すればよく、さらに他のシグナル変動をも加味して判定してもよい。
なお本発明においては、このようなE0〜E5の判定は、E5以外はそれぞれを単独で行ってもよく、またはE0〜E5の2以上を組合わせて行ってもよい。
図8に、E0〜E5を判定する一例をフローチャートに示した。
第一波長と第二波長による検出の際に、その出力変化から検体の注入状態を判定し、注入部での異常の要因を判定することもできる。
一般的なイオン交換クロマト法によるA1c測定方法を示した図である。aは流路図、bは代表的なクロマトグラムである。 一般的なアフィニティクロマト法によるA1c測定方法を示した図である。aは流路図、bは代表的なクロマトグラムである。 検体注入の注入方式を模式的に示した図である。 検体注入機構での不具合を模式的に示した図である。 システム圧が、10MPa〜15MPa程度かかる高圧のクロマトグラフィでの、検体注入時に空気が混入した場合のクロマトグラム、圧力変動を模式的に示した図である。aは正常測定時、bは空気混入時である。 システム圧が、数MPa〜数100kPa程度の低圧のクロマトグラフィでの、検体注入時に空気が混入した場合のクロマトグラム、圧力変動を模式的に示した図である。aは正常測定時、bは空気混入時でセル内で気泡が発生しない場合、cは空気混入時でセル内で気泡が発生した場合である。 検体注入状態による、第一波長と第二波長のシグナルの変化を模式的に示した図である。 第一波長と第二波長のシグナルの変化をもとに異常内容を判定するフローチャートである。 2波長測定の方式を示した図である。aは1つの検出器による2波長測定、bは2つの検出器による2波長測定の場合である。 実施例1で使用したアフィニティクロマト法の流路図である。 実施例1でのピークの同定法を示した図である。 実施例1で、正常に検体が注入された場合と一部気泡が混入して注入された場合の、第一波長および圧力シグナルの変動を示した図である。aは正常、bは気泡が混入した場合である。 図12aおよびbの第一波長のシグナル変動をフルスケールで重ね描きした図である。網掛け部はA0ピークの同定範囲を示している。 実施例1で、正常に検体が注入された場合と一部気泡が混入して注入された場合の、第二波長のシグナル変動を示した図である。 実施例1で、検体保留ループ内が完全に空気で満たされた状態で注入された場合の、第一波長、第二波長および圧力シグナルの変動を示した図である。 実施例1で、検体保留ループ内に検体が全く導入されず、代わりに溶離液が注入された場合の、第一波長および第二波長の変動を示した図である。 実施例1で、検体注入バルブが回転しなかった場合の、第一波長および第二波長の変動を示した図である。
以下、本発明を実施例を用いて説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
第一波長で検出ができる第一の可視検出器と、第二波長で検出できる第二の検出器をカラム下流に直列に接続して2波長検出を行い、アフィニティクロマトによるA1c測定を実施した。図10に使用した液体クロマトグラフの流路図を示す。
溶離液1a送液ポンプ(4)と検体注入バルブ(6)間に、溶液を保留できるループ(14)を備えた2位置切り替え6方バルブ(13)を挿入し、溶離液1bを前記の6方バルブのループに保留させ、バルブを切り替えることで、ステップグラジエントを行った。
溶離液1aを送液するポンプ(4)はKNF社製定量ポンプFMM20を使用し、毎分250マイクロリッタの流速、溶離液1bを充填するポンプ(12)も同上のポンプを使用した。
検出器(10、11)は東ソー製紫外可視検出器UV−8020を2台直列に接続して、第一波長として415nm(上流側)と第二波長として500nm(下流側)の波長で使用した。カラム(8)は内径1.5mm長さ10mmのTSKgel BORATE−5PW(東ソー(株)製)を充填したものを60℃に温調して使用した。検体は全血を希釈して使用した。溶離液1aはグリシン100mmol/L+硫酸Na 150mmol/L(pH9.2)、溶離液1bはTris 10mmol/硫酸Na 50mmol/L+D−ソルビトール100mmol/L(pH8.0)を使用した。溶離液1aで暫くカラムを平衡化した後、検体を注入し、0.55分後に溶離液1bに切り替え、更に0.75分後に溶離液1aに戻すステップグラジエントによる分離を行った。
カラムで分離され検出されたピークに対して、同定テーブルを元にピークの同定がなされ定量計算がされる。表2は一般的な同定テーブルを示したものである。
Figure 0006221458
各ピークに対して基準となる溶出時間とその変動の許容幅を設定する。
溶出時間が(tA0−tA0×α)〜(tA0+tA0×α)、のピークをA0として、溶出時間が(tA1c−tA1c×β)〜(tA1c+tA1c×β)のピークをA1cとして同定した後、定量計算を実施する(図11参照)。
表3の同定テーブルが今回使用したものである。許容幅に関してはA0、A1cとも基準溶出時間の10%とした。
Figure 0006221458
溶出時間が0.252〜0.308分までに検出されたピークをA0として、溶出時間が0.789〜0.965分までに検出されたピークをA1cとして同定し定量計算を実施した。
図12aは正常に検体が注入された場合、図12bは検体保留ループ内に気泡が混入してしまった場合である。上段は第一波長で計測されたクロマトグラム、下段はその際の圧力変動を示した図である。図13は両者のクロマトグラムを重ね書きした図である。
本条件では、カラム圧が100kPa程度であり一般的なクロマトグラフィよりかなり低いことから、僅かな気泡が混入しても、検体注入時の圧力変動(低下)は少なく、正常注入の場合との差異がみられず、圧力の変動パターンから注入異常を判定することが難しい。
第一波長のみ(図12)では、ボイド付近に溶出したピークは前記の同定テーブルから両者ともA0と同定されてしまう。
第二波長のクロマトグラムを見ると両者の差異が明確になる。検体が正常に注入された場合、第二波長では、溶媒ピークとステップグラジエントによる溶離液変化に由来する僅かなベースライン変動のみが観測されるが、気泡混入による注入異常の場合は第一波長と同様な気泡由来のピークがA0の溶出位置(ボイド容量付近)に観測される(図14参照)。
このように、検出対象に吸収のある第一波長のみを使用した場合はA0と判定されてしまうが、検出対象に吸収のない第二波長を同時にモニタすることで、空気混入によるベース変動であることと認定することが可能である。
次に、検体保留ループ内が完全に空気で満たされ注入され、検体が導入されなかった場合を図15に示す。図15は第一波長、bは第二波長で計測されたクロマトグラム、cはその際の圧力変動を示した図である。このように完全に空気を注入してしまった場合は、検体注入時の圧力変動(低下)が発生し、圧力の変動パターンからでも注入異常を判定することもできる。
このような場合、第一波長では、ボイド付近に大きなピークが溶出し、前記の同定テーブルからA0のピークとして同定されてしまう。しかしながら、A1cのピークが全く出現していないことから検体が注入できなかったことを疑わせる。第二波長でもボイド付近に大きなピークが溶出していることから、このピークはA0ではないと判断することができる。
次に、検体が検体保留ループに導かれず、代わりに溶離液が注入された場合を図16に示す。図16aは第一波長で計測されたクロマトグラム、図16bは第二波長で計測されたクロマトグラムを示した図である。第一波長、第二波長ともボイド付近に大きなピークは出現せず、ステップグラジエントによる溶離液変化に由来する僅かなベースライン変動bが観測される。また、第一波長、第二波長ともに注入バルブが切り変わったことによる微小な変動aがボイド付近に出現する。
次に、検体注入バルブが回転しなかった場合を図17に示す。図17aは第一波長で計測されたクロマトグラム、図17bは第二波長で計測されたクロマトグラムを示した図である。第一波長、第二波長とも、ボイド付近に大きなピークは出現せず、かつ注入バルブが切り変わったことによる変動も観測されない。また第一波長、第二波長ともに、ステップグラジエントによる溶離液変化に由来する僅かなベースライン変動が観測された。
このように、僅かな空気混入により注入異常が発生し、圧力の変動で判定が困難な場合であっても、第一波長のシグナル変動と、第二波長のシグナル変動の組み合わせにより、注入状態を容易に判定することができる。
1a,1b,1c.溶離液
2a,2b,2c.切替弁
3.脱気装置
4.ポンプ
5.圧力センサ
6.検体注入バルブ
7.検体ループ
8.分析カラム
9.カラム恒温槽
10.検出器1
11.検出器2
12.溶離液1b充填ポンプ
13.溶離液切り替えバルブ
14.溶離液1b保留ループ
15.検出器光源
16.セル
17.ハーフミラー
18.波長選択フィルタ1
19.波長選択フィルタ2
20.フォトセンサ1
21.フォトセンサ2
22.分岐合流ブロック

Claims (6)

  1. アフィニティ液体クロマトグラフィ法において、ヘモグロビンA1cを検出するための405nmから420nmの第一波長と、ヘモグロビンA1cに吸収がなく、溶離液のベースライン変動をモニタするための490nmから520nmの第二波長を用いてカラム溶出物の検出出力を取得し、両波長による出力変化に基づいて検体の注入状態を判定する方法。
  2. 請求項1に記載の方法において、少なくとも、第一波長ではヘモグロビンA1c由来のシグナル変動が計測され、第二波長では微小なベースライン変動が計測された場合、検体がカラムに正常に注入されたと判定する方法。
  3. 請求項1に記載の方法において、少なくとも、第一波長ではカラムのボイド付近にボイドピークが計測され、第二波長でもカラムのボイド付近にボイドピークが計測された場合、検体が注入されずに代わりに溶離液が注入されたと判定する方法。
  4. 請求項1に記載の方法において、少なくとも、第一波長ではカラムのボイド付近にボイドピークが計測されず、第二波長でもカラムのボイド付近にボイドピークが計測されない場合、カラムには何も注入されなかったと判定する方法。
  5. 請求項1に記載の方法において、少なくとも、第一波長ではヘモグロビンA1c由来のシグナル変動が計測され、第二波長では過大なベース変動が計測された場合、検体と気泡がカラムに注入されたと判定する方法。
  6. 請求項1に記載の方法において、少なくとも、第一波長ではヘモグロビンA1cに由来のシグナル変動が計測されず、第二波長では過大なベース変動が計測された場合、カラムに検体を注入できずに空気を注入したと判定する方法。
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