JP6198886B2 - インク、インクカートリッジ及びインクジェット記録方法 - Google Patents
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Description
本発明のインクが顔料の熱分解及び再結晶化による析出物の生成を抑制するメカニズムについて、本発明者らは以下のように推測している。
前述のように、長期間の吐出を行うとインクに過剰な熱エネルギーが付与される回数が増加する。例えば、モノアゾ顔料と樹脂を含有する(式(1)で表される界面活性剤を含有しない)インク(以下、「インクA」とも記す)に過剰の熱エネルギーが付与された場合、本発明者らは以下のような現象が生ずるものと推測している。
モノアゾ顔料と式(1)で表される界面活性剤を含有する(樹脂を含有しない)インク(以下、「インクB」とも記す)に過剰の熱エネルギーが付与された場合、本発明者らは以下のような現象が生ずるものと推測している。
インクA及びインクBを用いて長期間の吐出を行った場合には、生成した析出物がインクの吐出安定性に影響を与えるレベルに至っていた。しかし、モノアゾ顔料、樹脂、及び界面活性剤を含有するインク(以下、「インクC」とも記す)を用いて長期間の吐出を行った場合であっても、析出物が生成せず、インクの吐出安定性が低下しない。その理由を本発明者らは以下のように推測している。
(A)モノアゾ顔料と樹脂を含有するインクの場合
モノアゾ顔料と樹脂を含有するインク(式(1)で表される界面活性剤を含有しない)インクAを用いて長期間の吐出を行った場合であっても、ヒーターが劣化したり、ヒーターに電圧を印加する配線が断線したりすることはない。しかし、吐出速度が低下する場合がある。そのメカニズムについて、本発明者らは以下のように推測している。
モノアゾ顔料と式(1)で表される界面活性剤を含有する(樹脂を含有しない)インクBを用いて長期間の吐出を行うと、ヒーター部分の接液面が劣化し、ヒーターに電圧を印加する配線の断線が生じる場合があることがわかった。そのメカニズムについて、本発明者らは以下のように推測している。
モノアゾ顔料、樹脂、及び界面活性剤を含有するインクCを用いて長期間の吐出を行った場合であっても、ヒーターに電圧を印加する配線は断線せず、吐出速度の低下も生じない。そのメカニズムについて、本発明者らは以下のように推測している。
以下、本発明のインクを構成する成分について説明する。
本発明のインクを構成する色材は、モノアゾ顔料であり、自己分散型であることを要する。モノアゾ顔料の種類は特に限定されず、公知のものをいずれも用いることができる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー:1、2、3、5、6、49、61、62:1、65、73、74、75、97、98、111、116、130、133、168、169、C.I.ピグメントオレンジ1、C.I.ピグメントレッド269などが挙げられる。本発明においては、より高い画像の発色性が得られるため、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー74、及びC.I.ピグメントレッド269からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。また、これらの顔料の中でも、C.I.ピグメントイエロー74を用いることが特に好ましい。インク中のモノアゾ顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上6.0質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明のインクには、酸価が240mgKOH/g以下である樹脂を含有させることを要する。前述の通り、この樹脂は、自己分散型のモノアゾ顔料の分散を補助する作用が付与されることを期待して含有させた成分であり、水溶性であることが好ましい。なお、本発明において「樹脂が水溶性である」とは、樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、粒子径を測定しうる粒子を形成しないことを意味する。このような樹脂を、本発明においては「水溶性樹脂」と記載する。この樹脂のインク中の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明のインクには、下記式(1)で表される界面活性剤を含有させる。この界面活性剤は、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体(プルロニック型界面活性剤)であり、エチレンオキサイド基とプロピレンオキサイド基の付加形態にはランダム型とブロック型がある。すなわち、形式上、下記式(1)の構造式として示しているが、エチレンオキサイド基(−CH2−CH2−O−)とプロピレンオキサイド基(−CH2−CH(CH3)−O−)の配列はどのような順序であってもよい。
本発明のインクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を水性媒体として含有させることが好ましい。本発明においては、水性媒体として少なくとも水を含有する、水性のインクとすることが好ましい。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤としては、従来、例えば、インクジェット用のインクに一般的に使用される公知のものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上の水溶性有機溶剤を用いることができる。具体的には、1価又は多価のアルコール類、アルキレン基の炭素数が1〜4程度のアルキレングリコール類、数平均分子量200〜2,000程度のポリエチレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などが挙げられる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
本発明のインクには、上記成分以外にも必要に応じて、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンや、尿素、エチレン尿素などの含窒素化合物など、常温(25℃)で固体の有機化合物を含有させてもよい。また、上記の成分の他に、さらに必要に応じて、その他の界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤などの種々の添加剤をインクに含有させてもよい。特に、本発明のインクには、インクジェット吐出に適用可能な表面張力を有するインクとするために、1,2−アルカンジオールやグリコールエーテル類などの水溶性有機溶剤やノニオン性界面活性剤によってインクの表面張力をコントロールすることが好ましい。インク中の1,2−アルカンジオールやグリコールエーテルなどの水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.0質量%以上1.0質量%以下とすることが好ましい。ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、アセチレンアルコール類、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。インク中のノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.01質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、インク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、液体のインクを収容するインク収容室、及び負圧によりその内部にインクを保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室で構成されるものが挙げられる。または、液体のインクを収容するインク収容室を持たず、収容量の全量を負圧発生部材により保持する構成のインク収容部であるインクカートリッジであってもよい。さらには、インク収容部と後述するような記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドにより上記で説明した本発明のインクを吐出して、記録媒体に画像を記録する方法である。本発明においては、インクを吐出する方式として、インクに熱エネルギーを付与する方式を利用するインクジェット記録方法を採用する。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
表1の上段に示す各単量体(単位:部)を常法により共重合させ、水溶性の樹脂A〜Fを合成した。得られたそれぞれの樹脂を用い、以下に示すようにして樹脂水溶液を調製した。具体的には、10.0%の水酸化ナトリウム水溶液を用い、樹脂中の全ての酸性基を中和した後、イオン交換水を加えて、樹脂(固形分)の含有量が10.0%である樹脂水溶液A〜Fを得た。表1の下段に樹脂の特性を示す。
(顔料分散液A)
水5.5gに濃塩酸5gを溶かして得た塩酸を5℃に冷却し、4−アミノベンゼンスルホン酸2.0gを加えて溶液を得た。得られた溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌し、液温を常に10℃以下に保った状態とした。これに、5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム2.4gを溶かした亜硝酸ナトリウム水溶液を加えた。さらに15分間撹拌後、比表面積が65.5m2/gのC.I.ピグメントイエロー74(モノアゾ顔料)6gを撹拌下で加え、さらに15分間撹拌してスラリーを得た。得られたスラリーをろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥した。これにより、顔料粒子の表面に−C6H4−SO3Na基が結合している自己分散型のモノアゾ顔料Aを調製した。調製したモノアゾ顔料Aに水を加えて、顔料の含有量が20.0%となるように分散させて顔料分散液Aを調製した。
4−アミノベンゼンスルホン酸をp−アミノ安息香酸に変更した以外は、前述の顔料分散液Aの場合と同様の手順により、顔料粒子の表面に−C6H4−COONa基が結合している自己分散型のモノアゾ顔料Bを調製した。調製したモノアゾ顔料Bに水を加えて、顔料の含有量が20.0%となるように分散させて顔料分散液Bを調製した。
4−アミノベンゼンスルホン酸を4−アミノフェニルホスホン酸に変更した以外は、前述の顔料分散液Aの場合と同様の手順により、顔料粒子の表面に−C6H4−PO3Na2基が結合している自己分散型のモノアゾ顔料Cを調製した。調製したモノアゾ顔料Cに水を加えて、顔料の含有量が20.0%となるように分散させて顔料分散液Cを調製した。
C.I.ピグメントイエロー74(モノアゾ顔料)500g、アミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン(APSES)45g、及び蒸留水900gを反応器に仕込んだ。そして、内容物を55℃、回転数300rpmで20分間撹拌して混合物を得た。得られた混合物に、25%の亜硝酸ナトリウム水溶液40gを15分間かけて添加し、さらに蒸留水50gを添加した後、60℃で2時間反応させ、反応物を得た。得られた反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分の含有量が15.0%となるように調整した。その後、遠心分離により不純物を除去して分散液1を得た。得られた分散液1中には、粒子表面にAPSESが結合した顔料が含まれていた。
常法にしたがって、式(1)で表される界面活性剤である、表2に示す化合物1〜25を合成した。具体的には、ポリプロピレングリコールに、エチレンオキサイド基となる成分を付加させ、プロピレンオキサイド基のブロックの両端にエチレンオキサイド基のブロックが結合している形態の化合物を合成した。したがって、nの値(エチレンオキサイド基の付加モル数)は、2つのエチレンオキサイド基のブロックの合計の値を示す。合成した化合物についてNMR分析を行って得られたn及びmの値から、界面活性剤に占める、エチレンオキサイド基の割合(EO基の割合[%])を算出した。
表3−1〜3−5の上段に示す各成分(単位:%)を混合して十分に撹拌した後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、実施例、比較例、及び参考例の各インクを調製した。なお、表3−1〜3−5中における「アセチレノールE100」は川研ファインケミカル製の界面活性剤である。また、表3−1〜3−5の下段に、顔料の含有量A[%]、樹脂の含有量B[%]、式(1)で表される界面活性剤の含有量C[%]、樹脂の含有量B/顔料の含有量Aの値[倍]、式(1)で表される界面活性剤の含有量C/顔料の含有量Aの値[倍]を示した。
上記で得られた各インクを、それぞれインクカートリッジに充填し、熱エネルギーの作用によりインクを吐出させる記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置(商品名「PIXUS Pro9500」キヤノン製)に搭載した。この記録ヘッドの解像度は600dpi×600dpiであり、ヒーター部分には、発熱抵抗体の保護層として、タンタル及び酸化タンタルで構成される層が形成されており、この保護層の表面がインクと接触する接液面となっている。そして、このインクジェット記録装置を用いて、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴あたり3.5pLのインク滴を6滴付与する条件で、各評価に用いるベタ画像を記録した。この際のプリンタドライバの設定は、用紙の種類:普通紙、印刷品質:標準、色調整:自動とした。また、記録媒体として普通紙(商品名「PB PAPER GF−500」、キヤノン製)を用いた。
上記の条件で、A4サイズの記録媒体1,000枚に19cm×26cmのベタ画像を記録した。その後、インクジェット記録装置から記録ヘッドを取り外し、インク流路の内部を光学顕微鏡で観察した。この時点で堆積物が生じていない場合は、上記と同様の条件でベタ画像をさらに500枚分記録し、インク流路の内部を光学顕微鏡で観察した。この流れを、最大で記録媒体4,000枚分のベタ画像の記録を行うまで繰り返した。なお、堆積物がインク流路の内部の全体にわたって生じていることが確認された場合、その時点で評価を中止した。吐出安定性の評価結果を表4−1及び4−2に示す。また、吐出安定性の評価基準を以下に示す。なお、本発明においては、以下に示す評価基準で「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。
A:所定枚数の記録を行った時点で、堆積物がほとんど生じていなかった。
B:所定枚数の記録を行った時点で、堆積物がわずかに生じていた。
C:所定枚数の記録を行った時点で、堆積物がインク流路の内部の全体にわたって生じていた。
上記の吐出安定性の評価と同様の条件で、A4サイズの記録媒体4,000枚にベタ画像を記録した。そして、4,000枚目の記録媒体に記録したベタ画像を目視観察してヒーター耐久性を評価した。ヒーター耐久性の評価結果を表4−1及び4−2に示す。また、ヒーター耐久性の評価基準を以下に示す。なお、本発明においては、以下に示す評価基準で「A」を許容できるレベル、「B」を許容できないレベルとした。
A:ベタ画像にかすれが生じていなかった。
B:ベタ画像にかすれや断線による不吐出が生じていた。
Claims (13)
- 自己分散顔料、樹脂、及び界面活性剤を含有する、熱エネルギーの作用により記録ヘッドから吐出されるインクジェット記録方式に用いられるインクであって、
前記界面活性剤が、プロピレンオキサイド基のブロックの両端にエチレンオキサイド基のブロックが結合したブロック共重合体であり、
前記界面活性剤に占める、エチレンオキサイド基部分の分子量の割合が57%以上85%以下であり、
前記自己分散顔料が、−COOM、−SO3M、−PO3HM、及び−PO3M2(式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである)からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性基が、モノアゾ顔料の粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合している自己分散顔料であり、
前記樹脂の酸価が、240mgKOH/g以下であることを特徴とするインク。 - 前記自己分散顔料が、アルキレン基、アリーレン基、アミド基、スルホニル基、アミノ基、カルボニル基、エステル基、及びエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子団を介して、−COOM、−SO3M、−PO3HM、及び−PO3M2(式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである)からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性基が、前記モノアゾ顔料の粒子の表面に結合している自己分散顔料である請求項1に記載のインク。
- 前記インク中の、前記樹脂の含有量(質量%)が、前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.25倍以上1.0倍以下である請求項1又は2に記載のインク。
- 前記樹脂の酸価が、170mgKOH/g以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
- 前記樹脂の酸価が、100mgKOH/g以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインク。
- 前記インク中の前記樹脂の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、1.0質量%以上5.0質量%以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインク。
- 前記インク中の前記界面活性剤の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.05質量%以上5.0質量%以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインク。
- 前記インク中の前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、2.5質量%以上10.0質量%以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインク。
- 前記インク中の、前記界面活性剤の含有量(質量%)が、前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上0.5倍以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のインク。
- 前記モノアゾ顔料が、C.I.ピグメントイエロー:1、2、3、5、6、49、61、62:1、65、73、74、75、97、98、111、116、130、133、168、169、C.I.ピグメントオレンジ1、及びC.I.ピグメントレッド269からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のインク。
- 前記モノアゾ顔料が、C.I.ピグメントイエロー74である請求項1乃至10のいずれか1項に記載のインク。
- インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。 - 熱エネルギーの作用によりインクジェット方式の記録ヘッドからインクを吐出させて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項1乃至11のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
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