JP2015203094A - 水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法 - Google Patents

水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法 Download PDF

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有弘 齋藤
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Abstract

【課題】モノアゾ顔料に由来する析出物による吐出安定性の低下を抑制しつつ、画像の高い発色性を得られるインクを提供する。【解決手段】熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録方法に用いられる水性インクである。モノアゾ顔料、及びシリコーングラフト樹脂を含有し、モノアゾ顔料が自己分散顔料であり、かつ、モノアゾ顔料の顔料種が、C.I.ピグメントイエロー74などであり、シリコーングラフト樹脂が、シリコーン側鎖含有ユニットと、疎水性ユニットと、アニオン性ユニットを有し、重量平均分子量が1,500以上20,000以下であり、かつ、シリコーングラフト樹脂に占める、前記シリコーン側鎖含有ユニットの割合が、5.0質量%以上であり、インク全質量を基準とした、シリコーングラフト樹脂の含有量(質量%)が、モノアゾ顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上である。【選択図】なし

Description

本発明は、水性インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
インクジェット記録方法は、様々な記録媒体へ画像を記録することが可能な記録方法である。そして、より良好な画像記録を企図して、例えば、光沢紙などに写真画質の画像を記録するのに適したインクや、普通紙などに文書を記録するのに適したインクなど、用途に応じた種々のインクが提案されている。特に近年、文字や図表を含むビジネス文章などの記録において、インクジェット記録方法の利用頻度が格段に増加している。ビジネス文書などの記録においては普通紙などの記録媒体に文字や図表を記録することが多い。したがって、このような使用方法に適したインクとして、従来、色材として顔料を用いてきたブラックインクだけでなく、カラーインクの色材としても顔料を用いることが増えてきている。
インクジェット用のインクに使用する顔料の中でも、モノアゾ顔料は発色性に優れ、コスト面でも有利であるため、カラーインク用の色材としての利用が進められている。しかし、一般に、モノアゾ顔料は熱に弱いため、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット方式(サーマル方式)に適用する場合には、以下に述べるような課題が生じていた。例えば、代表的なモノアゾ顔料であるC.I.ピグメントイエロー74を使用すると、インクを吐出した際に記録ヘッドのインク流路の内壁に顔料に由来する析出物が堆積することが知られている。そして、堆積した析出物によってインクの吐出方向が曲がってしまい、記録媒体へのインク滴の付着位置がずれるため、画像のかすれが生じる、すなわち、吐出安定性が低下するという課題が生じていた。
このようなモノアゾ顔料に由来する析出物の堆積を抑制するための手法として、顔料の分散剤としてノニオン性界面活性剤などに加えて樹脂をインクに含有させることで、インクの吐出安定性を改善させることが提案されている(特許文献1参照)。この技術においては、樹脂分散剤として、α−オレフィン−無水マレイン酸共重合体が用いられている。
また、顔料の分散安定性を高めるために、ビニル基を有するシリコーン系マクロマー、炭化水素基を有するビニルモノマー、及びアニオン性官能基を有するモノマーの共重合体を樹脂分散剤として用いた顔料インクが提案されている(特許文献2及び3参照)。前記技術においては、ビニルモノマーとしてアクリル酸エステルなどが、アニオン性官能基を有するモノマーとしてメタクリル酸などが用いられている。
特開2007−169470号公報 特開2008−169385号公報 特開平09−188732号公報
近年、記録ヘッドの長寿命化により、インクジェット記録装置の記録可能枚数を向上させたいという要求が高まっている。これに伴って、長期間にわたってインクを吐出させた場合でも、吐出安定性を損なうことなく、良好に保つことが強く求められている。
本発明者らは、前記特許文献1乃至3に記載されたインクを、サーマル方式の記録ヘッドから長期間にわたって吐出させた。その結果、いずれのインクも近年要求される高いレベルの吐出安定性を満足するには至らなかった。すなわち、吐出安定性に関しては、前記従来技術では、従来のレベルの吐出安定性は満足したが、それよりも長期間にわたってインクを吐出させる評価を行った場合、画像のかすれが生じることが判明した。
本発明者らは、前記特許文献1乃至3に記載されたインクを、長期間にわたって吐出させた場合に、吐出安定性が低下する原因について考察した。サーマル方式の記録ヘッドにおいて、インクを吐出するために記録ヘッドのヒーターに与えられるエネルギー量は、常に一定ではなく、ある程度の幅がある。そして、インクを吐出するために必要とされる、基準のエネルギー量よりも多くのエネルギーがインクに付与される場合もある。モノアゾ顔料は熱安定性が低いので、多くの熱エネルギーがインクに付与されるような場合には、以下のような現象が生じる。
まず、過剰な熱エネルギーによって、顔料の分散状態が不安定化することによって、顔料から樹脂が脱離し、その小片化や一部の小片の溶解が生じ、これらも分散状態が不安定化する。熱エネルギーが付与されない状態となると、分散状態が不安定な顔料が冷却されて再び結晶化することで、溶解性の低い析出物が生成する。従来の吐出安定性の評価では、近年ほどに記録可能枚数の向上が要求されていなかったため、インクを吐出する期間が比較的短く、インクに過剰な熱エネルギーが付与される回数が少なかった。したがって、析出物の生成頻度が少なく、吐出安定性に大きな問題が生じなかったと考えられる。一方、従来よりも長期間の吐出を想定した場合には、吐出回数の増加に伴い、ヒーターに過剰な熱エネルギーが付与される回数も飛躍的に増加する。その結果、顔料の分散状態の不安定化、再結晶化(析出物の生成)が繰り返され、析出物の結晶が除々に成長し、初期の結晶の数倍の大きさにもなる。この増大した析出物が、インク流路の内壁に強固に付着し、インクの吐出方向が曲がってしまうため、記録媒体の所望の位置へインクを付与することができず、画像にかすれが生じると考えられる。このような現象により、前記特許文献1乃至3に記載されたようなインクでは、析出物の発生を抑制しきれず、吐出安定性が低下したと考えられる。
したがって、本発明の目的は、サーマル方式の記録ヘッドからインクを吐出させた場合に、モノアゾ顔料に由来する析出物による吐出安定性の低下を抑制しつつ、画像の高い発色性を得られる水性インクを提供することである。また、本発明の別の目的は、発色性の高い画像を安定して記録することが可能なインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することにある。
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明によれば、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法に用いられる水性インクであって、モノアゾ顔料、及びシリコーングラフト樹脂を含有し、前記モノアゾ顔料が、その粒子表面に直接又は他の原子団を介して、−COOM、−SO3M、及び−PO32(式中のMは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである)からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性基が結合されている自己分散顔料であり、かつ、前記モノアゾ顔料の顔料種が、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー74、及びC.I.ピグメントレッド269からなる群より選ばれるものであり、前記シリコーングラフト樹脂が、下記式(1)で表されるユニットと、下記式(2)で表されるユニットと、下記式(3)で表されるユニットを有し、重量平均分子量が1,500以上20,000以下であり、かつ、前記シリコーングラフト樹脂に占める、式(1)で表されるユニットの割合が、5.0質量%以上であり、インク全質量を基準とした、前記シリコーングラフト樹脂の含有量(質量%)が、前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上であることを特徴とする水性インクが提供される。
式(1)
Figure 2015203094
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2はヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、nは1以上150以下の整数を表す。)
式(2)
Figure 2015203094
(式中、Xは単結合又はエステル基、R3は水素原子又はメチル基、R4は炭素数4以上7以下の炭化水素基を表す。)
式(3)
Figure 2015203094
(式中、R5は水素原子又はメチル基、M2は水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
本発明の水性インクによれば、サーマル方式の記録ヘッドからの、モノアゾ顔料に由来する析出物による吐出安定性の低下を抑制しつつ、画像の高い発色性を得ることができる。また、本発明のインクカートリッジ及びインクジェット記録方法によれば、発色性の高い画像を安定して記録することができる。
以下に、好ましい形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、水性インクのことを単に「インク」と記載することがある。また、C.I.とは、カラーインデックスの略である。
本発明のインクの特徴は、自己分散型のモノアゾ顔料と、特定構造のシリコーングラフト樹脂を含有する構成としたことにある。前記シリコーングラフト樹脂は、式(1)で表されるユニット、式(2)で表されるユニット、及び式(3)で表されるユニットを有する。そして、前記シリコーングラフト樹脂と自己分散型モノアゾ顔料の分解物との相互作用、及び前記シリコーングラフト樹脂とインク流路の内壁との相互作用によって、顔料に由来する析出物による吐出安定性の低下を抑制するものである。以下に、本発明の構成に至った経緯について説明する。
本発明者らは、まず、顔料の分散形態の違いによって、インク流路の内壁に付着する析出物に違いが見られるのか確認を行った。まず、樹脂分散剤を用いて顔料を分散させた樹脂分散型のモノアゾ顔料と、粒子表面に親水性基などを化学的に結合させた自己分散型のモノアゾ顔料を用意した。さらに、この2種のモノアゾ顔料を使用し、2種類のインクを作製した。そして、これらのインクをサーマル方式の記録ヘッドから長期間にわたって吐出させた。その結果、樹脂分散型のモノアゾ顔料よりも自己分散型のモノアゾ顔料の方が、インク流路の内壁に付着する析出物の量が少なく、吐出安定性が比較的良好であることがわかった。この要因について、本発明者らは、以下のように推測している。
樹脂分散型のモノアゾ顔料は、疎水性である顔料粒子の表面と樹脂分散剤の疎水部が物理的な相互作用により吸着する一方、樹脂分散剤の親水部が水と親和性を保つことで、顔料の分散状態が安定化している。しかし、樹脂分散型のモノアゾ顔料に過剰な熱エネルギーが付与されると、顔料の分散状態が不安定化することによって、顔料から樹脂が脱離し、その小片化や一部の小片の溶解が生じ、これらも分散状態が不安定化する。また、小片化した顔料の断面や樹脂の脱離によって顔料粒子の表面が露出した部分には、ヒーターから熱エネルギーが直接付与されるようになる。顔料の断面や顔料粒子の表面が露出した部分は、樹脂分散剤が吸着している部分と比較してより不安定なので、小片化や一部の小片の溶解がより進みやすくなる。これに加えて、顔料の断面や顔料粒子の表面が露出した部分の近傍には樹脂が存在しないため、分散状態がさらに低下しやすくなっている。このため、より安定な状態を取るべく、顔料の断面や顔料粒子の表面が露出した部分は、樹脂材料で形成され、疎水性を示すインク流路の内壁に付着しやすくなる。このようにしてインク流路の内壁に付着した分散状態が不安定な顔料は、熱エネルギーが付与されない状態となると、冷却されて再び結晶化することで、溶解性の低い析出物を形成する。このような現象が吐出のたびに繰り返されることによって、析出物は徐々に成長し、前記析出物がインク流路の内壁に堆積しやすくなる。
一方、自己分散型のモノアゾ顔料においては、分散性を付与する親水性基が顔料粒子の表面に化学的に結合されている。この場合、過剰な熱エネルギーによって、顔料の分散状態が不安定化し、その小片化や一部の小片の溶解が生じたとしても、顔料粒子の表面からの親水性基の脱離は生じない。したがって、小片化や溶解した顔料にも、依然として分散性を付与する親水性基が結合されているため、その分散性をある程度保つことができ、インク流路の内壁への付着が少なくなる。その結果、自己分散型のモノアゾ顔料は、樹脂分散型のモノアゾ顔料よりも良好な吐出性を保つことができると推測している。
しかし、インクに用いる色材を樹脂分散型のモノアゾ顔料から自己分散型のモノアゾ顔料に変更しただけでは、近年要求される吐出安定性のレベルには至らなかった。そこで、本発明者らは、吐出安定性をさらに高いレベルとするための検討を進めた。本発明者らは、従来技術の検討から、熱エネルギーによって小片化や溶解した顔料の分散状態を安定化することによって、その凝集を抑制するだけでは、吐出安定性の課題を本質的に解決することができないと考えた。そして、本発明者らは、小片化や溶解した顔料の分散状態の安定化に加えて、吐出安定性を向上させるための新たな対処を行うことが必要であると考え、様々な検討を行った。その結果、色材として自己分散型のモノアゾ顔料を用いることに加えて、特定構造のシリコーングラフト樹脂を含有するインク組成とすることで、従来よりも高いレベルでインク流路の内壁における析出物の発生及び堆積を抑制することができることがわかった。前記シリコーングラフト樹脂は、式(1)で表されるユニットと、式(2)で表されるユニットと、式(3)で表されるユニットを有する。
本発明者らは、サーマル方式の記録ヘッドから前記インクを長期間にわたって吐出させた場合、以下の2つの作用が働くことで、顔料に由来する析出物の発生及び堆積を抑制することができると推測している。
(I)シリコーングラフト樹脂による顔料の分散状態の安定化
前記インクを長期間にわたって吐出させた場合、過剰な熱エネルギーによって、顔料の分散状態が不安定化し、その小片化や一部の小片の溶解が生じる。しかし、顔料の分散形態が自己分散型であるため、顔料粒子の表面からの親水性基の脱離は生じず、小片化や溶解した顔料は、その分散性をある程度保った状態で存在する。小片化した顔料の断面は疎水性であるため、疎水性相互作用により式(1)で表されるユニットのシリコーン鎖が配向する。この際、シリコーン鎖のSi−CH3間の結合はフレキシブルであるので、シリコーン鎖のメチル基が顔料の断面に効率よく配向することができ、シリコーングラフト樹脂は小片化した顔料に吸着する。さらに、この配向によって、式(2)で表されるユニットも顔料の断面に近い位置に存在することになる。前記式(2)で表されるユニットは疎水性を示すため、顔料の断面との疎水性相互作用により、シリコーングラフト樹脂の小片化した顔料への吸着が強固となり、顔料のさらなる分解が抑制される。また、式(3)で表されるユニットによる水性媒体との親和性、及びシリコーングラフト樹脂による立体反発の作用により、顔料の分散状態の安定化も図られる。
(II)シリコーングラフト樹脂によるインク流路の内壁の親水化
インク流路の内壁に析出物を付着させにくくするためには、インク流路の内壁に疑似的にアニオン性基を付与して、自己分散顔料のアニオン性基との間に静電反発を生じさせるのが有効である。インク流路の内壁へのシリコーングラフト樹脂の相互作用を強め、強固に吸着させるためには、シリコーングラフト樹脂の吸着部位の表面エネルギーを、インクの表面エネルギーよりも、インク流路の内壁の表面エネルギーに近くすることが好ましい。一般的な樹脂材料で形成されるインク流路の内壁の表面エネルギーは約30mN/mであり、インクの表面エネルギー(水性インクの主成分である水の表面張力で近似できる)は約70mN/mである。
前記式(1)で表されるユニットのシリコーン鎖は、無機物である珪素原子に有機物であるメチル基が結合し、その珪素原子と酸素原子とが結合してジメチルシロキサン単位を形成し、このジメチルシロキサン単位が連なって形成されている。このシリコーン鎖は、シロキサン結合が6個で1回転するらせん構造をとり、らせん構造体の外側にメチル基が配置されることが知られている。さらに、Si−O−Si間の結合は自由に回転することができるため、シリコーン鎖はフレキシブルな構造をとる。そのため、前記らせん構造体の外表面は疎水性のメチル基で覆われており、その表面エネルギーは約25mN/mであるので、インクの表面エネルギーよりもインク流路の内壁の表面エネルギーに近い。
つまり、表面エネルギーの関係は、低いほうから高いほうに順番で並べると、式(1)で表されるユニット、インク流路の内壁、インク、という順序となる。インク流路の内壁とインクとの間の表面エネルギー差よりも、式(1)で表されるユニットとインク流路の内壁との間の表面エネルギー差のほうが小さいので、シリコーングラフト樹脂は式(1)で表されるユニットの作用によってインク流路の内壁に配向する。この際、シリコーン鎖のSi−CH3間の結合はフレキシブルであるので、シリコーン鎖のメチル基がインク流路の内壁に特に効率よく配向することができ、シリコーングラフト樹脂はインク流路の内壁に吸着する。さらに、この配向によって、式(2)で表されるユニット(表面エネルギーは約35mN/m)もインク流路の内壁に近い位置に存在することになり、その疎水性によって、シリコーングラフト樹脂のインク流路の内壁への吸着がより強固とななる。一方、式(3)で表されるユニットは親水性を示すため、インク流路の内壁とは反対側、すなわち固液界面の液体であるインク側に配向する。その結果、固液界面の固体であるインク流路の内壁は式(3)で表されるユニットのアニオン性基によって覆われた状態となる。
(II)で説明したメカニズムにより、シリコーングラフト樹脂が吸着したインク流路の内壁、擬似的にアニオン性基が付与された状態となる。また、(I)で説明したメカニズムにより、顔料の粒子表面にもシリコーングラフト樹脂が吸着し、その外側にはアニオン性基が位置している状態となる。そのため、インク流路の内壁に疑似的に付与されたアニオン性基と、顔料粒子の外側に位置するアニオン性基との間に静電反発が生じ、インク流路の内壁への顔料の吸着が抑制されるものと考えられる。
前記のように、(I)、(II)の両方が作用することで、初めて、インク流路の内壁にモノアゾ顔料に由来する析出物が付着し、堆積することを抑制することができ、従来よりも高いレベルの吐出安定性を確保することができると推測している。
本発明者らは、前記シリコーングラフト樹脂以外のシリコーン材料でも、同様に、インク流路の内壁に対する析出物の付着を抑制することができるのか確認した。まず、シリコーン系界面活性剤と、自己分散型のモノアゾ顔料を含有するインクを、サーマル方式の記録ヘッドから長期間にわたって吐出させた。シリコーン系界面活性剤としては、シリコーンの側鎖にポリエーテルが結合した構造のシリコーンオイル(信越シリコーン製、商品名「KF−354L」)を使用した。その結果、近年要求される吐出安定性のレベルには達しなかった。本発明者らは、この理由について以下のように推測している。
シリコーン系界面活性剤と自己分散型のモノアゾ顔料を含有するインクを長期間にわたって吐出させた場合、顔料が小片化した断面にシリコーン系界面活性剤の疎水部でありシリコーン鎖が配向する。また、樹脂材料で形成され、疎水性を示すインク流路の内壁にもシリコーン系界面活性剤の疎水部であるシリコーン鎖が配向する。このとき、固液界面の液体であるインク側には、親水性が相対的に高いポリエーテル鎖が配向するため、固液界面の固体であるインク流路の内壁の疎水性は低下する。しかし、本発明で用いるシリコーングラフト樹脂とは異なり、シリコーン系界面活性剤はその分子構造の主鎖にシリコーン鎖を有する。このため、シリコーン系界面活性剤の分子同士の絡み合いが生じやすく、インク流路の内壁や顔料の断面への、シリコーン鎖の配向効率は低くなる。そのため、インク流路の内壁や顔料の断面へのシリコーン系界面活性剤の吸着力が低くなるので、過剰な熱エネルギーの付与が繰り返されると、インク流路の内壁や顔料の断面からシリコーン系界面活性剤が脱離する。このような理由から、インク流路の内壁へのモノアゾ顔料に由来する析出物の付着を抑制することができず、近年要求される吐出安定性のレベルには至らなかったと推測している。
また、側鎖ではなく、主鎖にシリコーン鎖を有するシリコーン系樹脂と、自己分散型のモノアゾ顔料を含有するインクを、サーマル方式の記録ヘッドから長期間にわたって吐出させた。前記シリコーン系樹脂としては、ポリジメチルシロキサン鎖の両末端にメタクリロイルエステル基が結合した化合物、メタクリル酸ベンジル、及びメタクリル酸を共重合したものを使用した。その結果、近年要求される吐出安定性のレベルには達しなかった。本発明者らは、この理由について以下のように推測している。
前記シリコーン系樹脂と自己分散型のモノアゾ顔料を含有するインクを長期間にわたって吐出させた場合、顔料が小片化した断面にシリコーン系樹脂の疎水部(ベンゼン環やシリコーン鎖など)が配向する。その結果、シリコーン系樹脂のアニオン性基による水性媒体との親和性、及びシリコーン系樹脂の立体反発の作用により、顔料の分散状態の安定化が図られる。また、樹脂材料で形成され、疎水性を示すインク流路の内壁にもシリコーン系樹脂の疎水部であるシリコーン鎖が配向する。このとき、固液界面の液体であるインク側には、親水性が相対的に高いアニオン性基が配向するため、固液界面の固体であるインク流路の内壁の疎水性は低下する。しかし、本発明で用いるシリコーングラフト樹脂とは異なり、前記シリコーン系樹脂はその分子構造の主鎖にシリコーン鎖を有する。このため、シリコーン系樹脂の分子同士の絡み合いが生じやすく、インク流路の内壁や顔料の断面への、シリコーン鎖の配向効率は低くなる。そのため、インク流路の内壁や顔料の断面へのシリコーン系界面活性剤の吸着力が低くなるので、過剰な熱エネルギーの付与が繰り返されると、インク流路の内壁や顔料の断面からシリコーン系樹脂が脱離する。このような理由から、インク流路の内壁へのモノアゾ顔料に由来する析出物の付着を抑制することができず、近年要求される吐出安定性のレベルには至らなかったと推測している。
前記のように、本発明者らは、近年要求される高いレベルの吐出安定性を満足するためには、自己分散型のモノアゾ顔料、及びシリコーン鎖が主鎖から枝わかれして側鎖に存在しているシリコーングラフト樹脂を使用することが必要であるとの結論に至った。具体的には、シリコーングラフト樹脂として前記(1)で表されるユニットと、前記式(2)で表されるユニットと、前記式(3)で表されるユニットを有するシリコーングラフト樹脂を使用することが必要である。
これを実証するため、色材を自己分散型のモノアゾ顔料から樹脂分散型のモノアゾ顔料に置き換えて、前記シリコーングラフト樹脂を添加したインクを調製し、長期間にわたって吐出させた。その結果、記録ヘッドの吐出口に析出物が付着し、吐出安定性が低下した。この理由について以下のように推測している。
前記のように、過剰な熱エネルギーの付与が繰り返されると、樹脂分散型のモノアゾ顔料は、樹脂が顔料粒子の表面から脱離し、分散状態が保たれなくなる。樹脂分散型のモノアゾ顔料においては、モノアゾ顔料の粒子表面に親水性基が結合されていない。したがって、たとえ、樹脂の脱離によって顔料粒子の表面が露出した部分や顔料が小片化した断面にシリコーングラフト樹脂の疎水部が配向しても、顔料の分散状態を回復することはできず、インク流路の内壁に分散状態が不安定な顔料が付着しやすくなる。そのため、シリコーングラフト樹脂によって記録ヘッドのインク流路の内壁に、擬似的にアニオン性基が付与されたとしても、この付着物の発生を抑制することができず、吐出安定性が低下したと考えられる。
さらに、本発明者らは、色材として、自己分散型のモノアゾ顔料を用いて、シリコーングラフト樹脂を添加したインクを調製し、発色性を調べた。その結果、インクにシリコーングラフト樹脂を添加することによって、発色性が向上することがわかった。この理由は以下のように推測される。水性インクにおいては、通常、樹脂を親水化する際に樹脂の酸性基をアルカリにより中和して用いる。インクにシリコーングラフト樹脂を添加することにより、前記シリコーングラフト樹脂のイオン性基に由来する電解質がインク中に存在することになるため、インク中の電解質濃度が高まる。そして、記録媒体にインクが付与されると、水分などの蒸発や記録媒体へ液体成分の浸透に伴い、液体成分が減少するので、顔料や電解質の濃度が相対的に高まる。すると、電解質の作用により顔料が凝集しやすくなり、記録媒体の表面やその近傍に顔料を効率的に存在させることができるようになったため、シリコーングラフト樹脂を添加しないインクよりも、発色性が高くなったと考えられる。
一方、樹脂分散型のモノアゾ顔料や樹脂が粒子表面に結合された樹脂結合型のモノアゾ顔料は、低分子量の官能基が結合された自己分散型のモノアゾ顔料よりも発色性が低かった。すなわち、発色性は、顔料の分散形態によって異なる。この理由について、以下のように推測している。樹脂分散型のモノアゾ顔料や樹脂が粒子表面に結合された樹脂結合型のモノアゾ顔料では、樹脂同士の立体反発が生じる。この立体反発により、インクが記録媒体に付与された後、水分の蒸発や記録媒体へ液体成分の浸透に伴う液体成分の減少が生じても、顔料同士の衝突が妨げられてしまうため、顔料の凝集物が形成されにくい。この結果、低分子量の官能基が結合した自己分散型のモノアゾ顔料よりも高い発色性を得にくいと考えられる。
<インク>
以下、本発明の水性インクを構成する各成分について詳細に説明する。
(シリコーングラフト樹脂)
シリコーングラフト樹脂は、式(1)で表されるユニットと、式(2)で表されるユニットと、式(3)で表されるユニットを有する。本発明で用いるシリコーングラフト樹脂は、シリコーン鎖の機能が効率よく発揮されることが好ましい。具体的には、主鎖にはシリコーン構造を含まず、ユニットの側鎖にシリコーン鎖を有するグラフト樹脂である必要がある。インク中のシリコーングラフト樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
本発明におけるグラフト樹脂とは、「一本の幹樹脂(主鎖)に枝樹脂(側鎖)が結合した構造を有する樹脂」のことである。そして、ある樹脂の構造がグラフト樹脂となっているか否かを判別する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーと多角度光散乱検出器とを組み合わせて、絶対分子量と分子サイズを測定することにより、ある樹脂の構造がグラフト樹脂となっていることを判別することができる。具体的には、これらの方法により測定される絶対分子量と分子サイズの測定値が乖離すればするほど、その樹脂は、分岐度が高いことを表しており、グラフト樹脂の形態をとっていると判断することができる。
また、シリコーングラフト樹脂の重量平均分子量は1,500以上20,000以下である必要がある。重量平均分子量を1,500以上とした場合、顔料が小片化した断面に吸着した際に、十分な立体反発の効果を得ることができる。したがって、モノアゾ顔料由来の析出物の分散状態を安定化する効果を得ることができ、析出物の堆積を抑制することができる。20,000以下とした場合、インクの粘度が過剰に高くならず、安定してインクを吐出させることができる。
本発明のインクにおいては、前記シリコーングラフト樹脂に占める、前記(1)で表されるユニットの割合が、5.0質量%以上である必要がある。5.0質量%以上とした場合、小片化した顔料の断面やインク流路の内壁にシリコーングラフト樹脂を吸着させることができる。したがって、モノアゾ顔料由来の析出物の堆積抑制効果が十分得られ、満足するレベルの吐出安定性が得られる。また、前記シリコーングラフト樹脂に占める、前記(1)で表されるユニットの割合は、40.0質量%以下であることが好ましい。
インク全質量を基準とした、シリコーングラフト樹脂の含有量(質量%)が、前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上である必要がある。0.1倍以上とした場合、インク流路の内壁や顔料が小片化した断面に吸着するために必要な量のシリコーングラフト樹脂を供給することができる。したがって、析出物の堆積抑制効果を十分に得ることができ、満足するレベルの吐出安定性が得られる。また、インク全質量を基準とした、シリコーングラフト樹脂の含有量(質量%)が、前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、2.0倍以下であることが好ましい。2.0倍以下の場合、画像の顔料層中に存在するシリコーングラフト樹脂を少なくすることができる。これにより、顔料の凝集物同士がすべることによる、画像の耐擦過性の低下を抑制することができる。
シリコーングラフト樹脂は、その酸価が、50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下の範囲内にあることがより好ましい。シリコーングラフト樹脂の酸価が50mgKOH/g以上の場合、インク中でシリコーングラフト樹脂が安定な溶解状態を保てるため、シリコーングラフト樹脂がインク中で動きやすくなる。したがって、小片化した顔料の断面やインク流路の内壁にシリコーングラフト樹脂を十分に吸着させることができ、より高い吐出安定性を得ることができる。シリコーングラフト樹脂の酸価が250mgKOH/g以下であれば、シリコーングラフト樹脂中の式(2)で表されるユニットの相対量を確保できる。したがって、小片化した顔料の断面やインク流路の内壁にシリコーングラフト樹脂を十分に吸着させることができ、より高い吐出安定性を得ることができる。シリコーングラフト樹脂の酸価は、当該シリコーングラフト樹脂に占める、前記(3)で表されるユニットの割合や、式(3)で表されるユニットの構造を適宜に設定することにより調節することができる。その他のユニットの分子量にもよるが、前記シリコーングラフト樹脂に占める、前記(3)で表されるユニットの割合が、5.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。
シリコーングラフト樹脂の合成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、シリコーンマクロモノマーを用い、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合機構により重合することが可能である。また、前記シリコーングラフト樹脂は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合などの公知の重合法により、ビニル基を有するモノマーから重合することができる。
なお、本発明のインク中には、塩基を添加してもよい。前記塩基の添加により、インクを構成する水性媒体中にシリコーングラフト樹脂を安定に存在させることができる。この際の塩基としては、下記に挙げるものから適宜に選択して使用できる。例えば、アンモニア;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミンメチルプロパノール、N,N−ジメチルエタノールアミンなどの有機アミン;である。また、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物である。シリコーングラフト樹脂のアニオン性基の中和剤としてこれらの塩基を用い、中和されたシリコーングラフト樹脂を用いてインクを調製することによって、これらの塩基をインクに添加してもよい。
〔式(1)で表されるユニット〕
式(1)で表されるユニットについて詳しく説明する。前記のように、式(1)で表されるユニットは、側鎖にシリコーン鎖を有することが必要である。
式(1)
Figure 2015203094
(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2はヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、nは1以上150以下の整数を表す。)
本発明では、式(1)で表されるユニットのシリコーン鎖はシロキサンユニットの繰り返し数nが1以上150以下の整数であることが必須である。シロキサンユニットの繰り返し数nが1以上の場合、小片化した顔料の断面やインク流路の内壁にシリコーン鎖が配向し、シリコーングラフト樹脂を吸着させることができる。したがって、モノアゾ顔料由来の析出物の堆積抑制効果が得られ、満足するレベルの吐出安定性が得られる。また、前記式(1)で表されるユニットのシロキサンユニットの繰り返し数nが150以下の場合、インクを構成する水性媒体中にシリコーングラフト樹脂を安定に存在させることができる。したがって、モノアゾ顔料由来の析出物の堆積抑制効果が得られ、満足するレベルの吐出安定性が得られる。
前記式(1)において、主鎖とシロキサン鎖とはプロピルエステル基で結合されている。また、R1は水素原子又はメチル基である。また、シリコーン鎖の各珪素原子には2個のメチル基が結合しており、ジメチルシロキサンの構造を有する。前記式(1)における末端R2は、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であれば、いずれも好ましく用いることができる。前記ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、硫黄原子であり、前記炭化水素基としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキンなどの鎖状の炭化水素基;シクロアルカン、シクロアルケン、シクロアルキン、アリールなどの環状の炭化水素基である。
〔式(2)で表されるユニット〕
次に、式(2)で表されるユニットについて説明する。前記式(2)におけるR4の炭素数4以上7以下の炭化水素基は、樹脂材料で形成され、疎水性を示すインク流路の内壁や小片化した顔料の断面へのシリコーングラフト樹脂を効率的に吸着させるために必要となる。
式(2)
Figure 2015203094
(式中、Xは単結合又はエステル基、R3は水素原子又はメチル基、R4は炭素数4以上7以下の炭化水素基を表す。)
前記式(2)におけるXは、単結合又はエステル基である。エステル基とは−C(=O)O−基を指す。R3は、水素原子又はメチル基である。また、R4で表される炭素数4以上7以下の炭化水素基は、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、或いはベンゼン環を有する炭化水素基である。前記式(2)で表されるユニットを構成し得る単量体の具体例としては、下記のものが挙げられる。例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル化合物;n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート;である。
炭素数が4以上の場合、インク流路の内壁や顔料が小片化した断面にシリコーングラフト樹脂を効率的に吸着させることができる。一方、炭素数が7以下の炭化水素基を有するビニルモノマーを用いれば、形成されるシリコーングラフト樹脂の水溶性がさほど低下しないため、インクの吐出特性を低下させることがない。
〔式(3)で表されるユニット〕
また、インクを構成する水性媒体中にシリコーングラフト樹脂を安定に存在させるために、前記シリコーングラフト樹脂は、式(3)で表されるユニットを有することが必要となる。
式(3)
Figure 2015203094
(式中、R5は水素原子又はメチル基、M2は水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
前記式(3)におけるR5は水素原子又はメチル基である。M2は水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。M2で表されるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムであり、有機アンモニウムは、例えば、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、N,N−ジメチルエタノールアンモニウム、N,N−ジエチルエタノールアンモニウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアンモニウムである。但し、前記式(3)で表されるユニットは、M2が水素原子であることが好ましい。前記式(3)で表されるユニットを構成し得る単量体の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸である。
(その他の水溶性樹脂)
本発明のインクは、必要に応じて、前記シリコーングラフト樹脂以外にその他の水溶性樹脂を添加してもよい。前記その他の水溶性樹脂としては、例えば(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリペプチド、セルロース及びその変性体、ポリビニルアルコール、ポリオレフィンなどである。
その他の水溶性樹脂の形態は限定されず、ランダム、ブロック、グラフトなどの形態の共重合体を用いることができる。また、その他の水溶性樹脂の重量平均分子量は、1,000以上30,000以下であることが好ましく、3,000以上15,000以下であることがさらに好ましい。
また、インク中のその他の水溶性樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、インク全質量を基準とした、その他の水溶性樹脂の含有量(質量%)が、前記シリコーングラフト樹脂の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.2倍以上2.0倍以下であることが好ましい。
(モノアゾ顔料)
本発明のインクを構成する色材は、自己分散型のモノアゾ顔料である。モノアゾ顔料の顔料種は、具体的には、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー74、及びC.I.ピグメントレッド269からなる群より選ばれるものを使用する。インク中の前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、2.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上6.0質量%以下であることがさらに好ましい。
前記モノアゾ顔料は、その粒子表面に直接又は他の原子団を介して特定の親水性基が結合されてなるものである。この親水性基は、−COOM、−SO3M、及び−PO32からなる群より選ばれる少なくとも1種である。なお、式中のMは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。他の原子団(−R−)としては、アルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;その他、アミド基、スルホニル基、アミノ基、イミノ基、カルボニル基、エステル基、エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基などを挙げることができる。本発明においては、顔料の粒子表面に結合させる、親水性基を含む官能基の分子量が、1,200程度以下であることが好ましい。前記式中、Mで表されるアルカリ金属の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどである。また、有機アンモニウムの具体例としては、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、N,N−ジメチルエタノールアンモニウム、N,N−ジエチルエタノールアンモニウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアンモニウムである。親水性基が塩を形成している場合、インク中の塩は、その一部が解離した状態又は全てが解離した状態のいずれであってもよい。
前記モノアゾ顔料は、表面酸化処理が施された前記モノアゾ顔料であってもよい。前記表面酸化処理の方法としては、例えば次亜塩素酸ソーダによる酸化処理、水中オゾン処理、オゾン処理を施した後に酸化剤により湿式酸化し、粒子表面を改質するなどの方法である。なお、本発明の効果が得られる範囲で、他の分散形態の顔料(例えば、樹脂分散顔料、マイクロカプセル顔料、樹脂結合型顔料など)をさらに併用してもよい。
本発明に言う「自己分散」とは、顔料粒子の表面に結合された、親水性基を含む官能基の作用によって顔料の分散が可能であること、すなわち界面活性剤や樹脂分散剤を用いなくても、顔料の分散が可能であることを意味する。換言すれば、前記界面活性剤や前記樹脂分散剤などが顔料粒子の表面に吸着し、基本的に、これらのもつ分散作用のみによって顔料を分散させるものではないことを意味する。本発明における「自己分散型のモノアゾ顔料」は、粒子表面に直接又は他の原子団を介して所定の親水性基が化学的に結合されており、結合された親水性基の作用によって顔料の分散が可能となったものである。つまり、本発明における「自己分散型のモノアゾ顔料」は、界面活性剤や樹脂により分散される顔料に用いられる、粒子表面に官能基が結合されていないモノアゾ顔料、粒子表面に樹脂が結合された自己分散型のモノアゾ顔料とは異なる。
本発明に使用するモノアゾ顔料は、体積基準の累積10%粒径(D10)が30nm以上であることがより好ましい。ここで、D10とは、顔料粒子の集合体の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが10%となる点の粒子径である。前記体積基準の累積10%径(D10)は、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(例えば、商品名「マイクロトラックUPA150」、日機装製など)を使用して測定することができる。つまり、本発明で規定する顔料の粒径は、通常平均粒子径として用いられる累積50%粒子径(D50)とは異なり、さらに小さい領域の粒径を意味する。前記顔料のD10が30nm以上の場合、過剰の熱エネルギーによる影響を受けやすい小粒径の顔料粒子が少ない。その結果、顔料の分解物の量が少なくなるため、より高い吐出安定性を得ることができる。
(水性媒体)
本発明のインクは、水性媒体として少なくとも水を含有する、水性のインクであることが好ましい。水性媒体としては、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒などを用いることができる。水は、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましく、50.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
水溶性有機溶剤は、水溶性であれば特に制限はなく、1価ないしは多価のアルコール、(ポリ)アルキレングリコール、グリコールエーテル、含窒素極性溶媒、含硫黄極性溶媒などを用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。
また、インクはさらに、式(4)で表される水溶性有機溶剤を含有することが好ましい。R6は水素原子、メチル基、又はCH2CH2OHである。具体的な化合物としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンである。式(4)で表される水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。前記式(4)で表される水溶性有機溶剤は、シリコーン鎖の良溶媒であるため、本発明のインクにシリコーングラフト樹脂とともにこの水溶性有機溶剤を含有させると、インク中でシリコーングラフト樹脂のシリコーン鎖が広がりやすくなる。そのため、小片化した顔料の断面やインク流路の内壁へのシリコーングラフト樹脂の吸着力が向上することで、より高い吐出安定性を得ることができる。インク中の前記式(4)で表される水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
式(4)

Figure 2015203094
(その他の添加剤)
本発明のインクは、前記各成分以外にも必要に応じて、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類;尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体;などである。さらに、本発明のインクは、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び水溶性樹脂など、種々の添加剤を含有してもよい。
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、インク収容部に収容されているインクが、本発明のインクである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、負圧によりインクを含浸した状態で保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室、及び、負圧発生部材により含浸されない状態でインクを収容するインク収容室で構成されるものが挙げられる。負圧発生部材としては、毛管力を備えた繊維集合体、例えばスポンジなどを用いることができる。また、前記のようなインク収容室を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸した状態で保持する構成や、負圧発生部材を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸されない状態で収容する構成のインク収容部としてもよい。さらに、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。前記形態のインクカートリッジにおいては、記録ヘッドの吐出口を構成する材料としては、例えば、光硬化性エポキシ樹脂などの疎水性材料により構成されていることが好ましい。
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット方式の記録ヘッドから本発明のインクを吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。本発明においては、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するサーマル方式を採用する。本発明のインクを用い、サーマル方式の記録ヘッドを採用すること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
本発明において利用する記録ヘッドは、熱エネルギーの作用によりインクを吐出する方式のものであり、その構成は公知のものとすることができる。記録ヘッドのインク流路の構成材料としては、例えば、エポキシ樹脂などの疎水性を示す樹脂材料が挙げられる。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。また、各種の物性は、25℃において測定した値である。
<シリコーングラフト樹脂の合成>
撹拌機、温度計、及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、下記表1に表す量(部)の各モノマー、重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル)、及び1−メトキシ−2−プロパノール500.0部を入れた。前記各モノマーを窒素ガス雰囲気下、温度110℃で4時間反応させ、反応液を得た。得られた反応液を減圧乾燥させることにより、共重合体を得た。得られた共重合体にメチルエチルケトン25.0部を加えて前記共重合体を溶解させ、溶解液とした。その後、前記溶解液に、前記共重合体のアニオン性基に対して0.98当量となるように30.0%の水酸化カリウム水溶液を加えて、共重合体のアニオン性基の一部を中和した。中和後、さらにイオン交換水300.0部を加えて撹拌し、前記共重合体を含む液体を得た。得られた液体から、減圧下、温度60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに水の一部を除去することにより前記液体を濃縮して、樹脂(固形分)の含有量が20.0%である、樹脂1〜20を含む樹脂水溶液1〜20をそれぞれ得た。樹脂の番号と樹脂水溶液の番号とは互いに対応している。表1には、前記シリコーングラフト樹脂に占める、前記式(1)で表されるユニット割合(%)(「Siユニットの割合(%)」と表記)、前記共重合体の重量平均分子量及び樹脂の酸価を表した。なお、表1における略称は以下の通りである。
・FM11:商品名「FM0711」、JNC製。数平均分子量が約1,000、前記式(1)中のR1がメチル基で、R2が炭化水素基で、nが10である構造を有する化合物。
・X24:商品名「X−24−8201」、信越化学製。数平均分子量が約2,500、前記式(1)中のR1がメチル基で、R2が炭化水素基で、nが30である構造を有する化合物。
・FM21:商品名「FM0721」、JNC製。数平均分子量が約5,000、前記式(1)中のR1がメチル基で、R2が炭化水素基で、nが64である構造を有する化合物。
・FM25:商品名「FM0725」、JNC製。数平均分子量が約10,000、前記式(1)中のR1がメチル基で、R2が炭化水素基で、nが131である構造を有する化合物。
・X22:商品名「X−22−164A」、信越シリコーン製。ポリジメチルシロキサン鎖の両末端にメタクリロイルエステル基(CH2=C(CH3)C=O−O−R−)が結合した化合物。官能基当量は860g/mol。
・St:スチレン(R4の炭素数が6)
・BzMA:メタクリル酸ベンジル(R4の炭素数が7)
・nBMA:メタクリル酸n−ブチル(R4の炭素数が4)
・SMA:メタクリル酸ステアリル(R4の炭素数が18)
・MMA:メタクリル酸メチル(R4の炭素数が1)
・MAA:メタアクリル酸
・AA:アクリル酸
Figure 2015203094
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液1)
5.5gの水に5.0gの濃塩酸を溶かした溶液を調製した。5℃に冷却した前記溶液に2.0gの処理剤(4−アミノベンゼンスルホン酸)を加えた。次いで、この溶液が入った容器をアイスバスに入れて前記溶液を撹拌することにより液温を常に10℃以下に保った状態にし、これに5℃の水9.0gに2.4gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液を15分間撹拌後、比表面積が65.5m2/gのC.I.ピグメントイエロー74(モノアゾ顔料)6.0gを撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌し、スラリーを得た。得られたスラリーを超音波で5時間分散し、分散液を得た。得られた分散液をろ紙(商品名「標準用濾紙No.2」、アドバンテック製)によりろ過した後、ろ別した顔料を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散顔料を調製した。この自己分散顔料に水を加え、顔料の含有量を調整して、顔料分散液1を得た。顔料分散液1には、粒子表面に−C64−SO3Na基が結合された自己分散型のモノアゾ顔料が含まれている。D10は50nm、顔料の含有量は10.0%であった。
(顔料分散液2)
顔料分散液1の調製において、処理剤をp−アミノ安息香酸に変更した。それ以外は、顔料分散液1の場合と同様の手順で、顔料分散液2を得た。顔料分散液2には、粒子表面に−C64−COONa基が結合された自己分散型のモノアゾ顔料が含まれている。D10は50nm、顔料の含有量は10.0%であった。
(顔料分散液3)
顔料分散液1の調製において、処理剤を4−アミノフェニルホスホン酸に変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液3を得た。顔料分散液3には、粒子表面に−C64−PO3Na2基が結合された自己分散型のモノアゾ顔料が含まれている。D10は50nm、顔料の含有量は10.0%であった。
(顔料分散液4)
顔料分散液1の調製において、顔料種をC.I.ピグメントレッド269(モノアゾ顔料)に変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液4を得た。顔料分散液4には、粒子表面に−C64−SO3Na基が結合された自己分散型のモノアゾ顔料が含まれている。D10は50nm、顔料の含有量は10.0%であった。
(顔料分散液5)
顔料分散液1の調製において、顔料種をC.I.ピグメントイエロー180(ジスアゾ顔料)に変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液5を得た。顔料分散液5には、粒子表面に−C64−SO3Na基が結合された自己分散型のジスアゾ顔料が含まれている。D10は50nm、顔料の含有量は10.0%であった。
(顔料分散液6)
15.0部のスチレン−アクリル酸共重合体(酸価140mgKOH/g、重量平均分子量10,000)、50.0部のプロピレングリコールモノメチルエーテル、200.0部のイオン交換水、及び1.0部の水酸化カリウムを十分に混合した。その後、15.0部のC.I.ピグメントイエロー74(モノアゾ顔料)を添加し、プレミキシングを30分間行い、混合物を得た。次いで、1mm径のジルコニアビーズの充填率(体積基準)を75%としたサンドグラインダー(五十嵐機械製)に前記混合物を入れ、3時間分散処理を行った。過剰の酸を添加して沈殿した固形分を分取した後、1.0%の水酸化カリウム水溶液を添加して共重合体のアニオン性基を中和し、撹拌して顔料を分散させた。さらに、水を加え、顔料の含有量を調整して、顔料分散液6を得た。顔料分散液6には、樹脂分散剤により分散されたモノアゾ顔料が含まれている。D10は50nm、顔料の含有量は10.0%であった。
(顔料分散液7)
顔料分散液1の調製において、超音波による分散時間を7時間に変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液7を得た。顔料分散液7には、粒子表面に−C64−SO3Na基が結合された自己分散型のモノアゾ顔料が含まれている。D10は30nm、顔料の含有量は10.0%であった。
(顔料分散液8)
顔料分散液1の調製において、超音波による分散時間を9時間に変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液8を得た。顔料分散液8には、粒子表面に−C64−SO3Na基が結合した自己分散型のモノアゾ顔料が含まれている。D10は25nm、顔料の含有量は10.0%であった。
(顔料分散液9)
顔料分散液1の調製において、顔料種をC.I.ピグメントイエロー1(モノアゾ顔料)に変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液9を得た。顔料分散液9には、粒子表面に−C64−SO3Na基が結合された自己分散型のモノアゾ顔料が含まれている。D10は50nm、顔料の含有量は10.0%であった。
(顔料分散液10)
C.I.ピグメントイエロー74(モノアゾ顔料)500g、アミノフェニル(2−スルホエチル)スルホン(APSES)45g、及び蒸留水900gを反応器に仕込んだ。そして、内容物を55℃、回転数300rpmで20分間撹拌して混合物を得た。得られた混合物に、25%の亜硝酸ナトリウム水溶液40gを15分間かけて添加し、さらに蒸留水50gを添加した後、60℃で2時間反応させた。反応物を蒸留水で希釈しながら取り出し、固形分の含有量が15.0%となるように調整した。その後、遠心分離により不純物を除去して分散液1を得た。得られた分散液1中には、粒子表面にAPSESが結合された顔料が含まれていた。
次いで、得られた分散液1中の顔料粒子の表面に結合された基(APSES)のモル数を求めるために、以下の操作を行った。ナトリウムイオン電極(商品名「1512A−10C」、堀場製作所製)を使用し、分散液1中のナトリウムイオン濃度を測定し、顔料の固形分あたりのモル数に換算した。次に、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)溶液に、前記分散液1を強力に撹拌しながら1時間かけて滴下して混合物を得た。なお、PEHA溶液中のPEHA濃度は、前記分散液1中のナトリウムイオンのモル数の2〜3倍量とし、PEHA溶液の量は分散液1と同量とした。得られた混合物を48時間撹拌した後、不純物を除去して分散液2を得た。得られた分散液2中には、粒子表面にAPSESを介してPEHAが結合された顔料が含まれている。固形分の含有量は10.0%であった。
水溶性樹脂であるスチレン−アクリル酸共重合体(重量平均分子量15,000、酸価140mgKOH/g)を溶解させた水溶液に、500gの前記分散液2を撹拌しながら滴下して混合物を得た。なお、この際に用いた水溶液は、スチレン−アクリル酸共重合体190gに蒸留水1,800gを加え、前記共重合体を中和するのに必要な水酸化ナトリウムをさらに加え、撹拌して溶解させたものである。なお、得られた混合物を耐熱ガラス(商品名「パイレックス(登録商標)」、コーニング製)からなる蒸発皿に移し、150℃で15時間加熱して揮発分を蒸発させた。その後、得られた蒸発乾固物を室温に冷却した。水酸化ナトリウムでpHを9.0に調整した蒸留水中に、得られた蒸発乾固物を添加し、分散機を用いて分散させた。さらに撹拌下で1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加して、液体のpHを10〜11に調整した。その後、脱塩、不純物と粗大粒子の除去、顔料に結合されていない樹脂の除去を行って顔料分散液10を得た。顔料分散液10には、粒子表面に前記樹脂が結合された樹脂結合型の自己分散顔料が含まれている。D10は50nm、顔料の含有量は10.0%であった。なお、顔料分散液10中の自己分散顔料は粒子表面に結合している樹脂によって分散されているものであり、自己分散顔料ではない。
<インクの調製>
表2−1〜表2−5の上段に表す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フイルム製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。なお、「アセチレノールE100」は川研ファインケミカル製のノニオン性界面活性剤(アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物)、「KF−354L」は信越シリコーン製のHLB16の側鎖型シリコーンオイル(シリコーン型界面活性剤)である。表2−1〜表2−5の下段には、顔料の含有量P(%)、前記シリコーングラフト樹脂の含有量R(%)、R/Pの質量比率(倍)、式(4)で表される水溶性有機溶剤(「特定溶剤」と表記)の含有量S(%)の各値も示した。
Figure 2015203094
Figure 2015203094

Figure 2015203094
Figure 2015203094
Figure 2015203094
<評価>
前記各インクをそれぞれインクカートリッジに充填し、熱エネルギーの作用によりインクを吐出させる記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置(商品名「PIXUS Pro9500」、キヤノン製)に搭載した。この記録ヘッドの解像度は600dpi×600dpiであり、インク流路は光硬化性エポキシ樹脂で構成されている。そして、このインクジェット記録装置を用いて、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴あたり3.5pLのインク滴を6滴付与する条件で、各評価に用いるベタ画像を記録した。この際のプリンタドライバの設定は、用紙の種類:普通紙、記録品質:標準、色調整:自動とした。また、記録媒体として普通紙(商品名「PB PAPER GF−500」、キヤノン製)を用いた。本発明においては、以下に表す評価基準で「AAA」、「AA」、「A」及び「B」を許容できるレベル、「C」を許容できないレベルとした。評価結果を表3に表す。
(吐出安定性)
前記条件で、A4サイズの記録媒体350枚に19cm×26cmのベタ画像を記録した。その後、インクジェット記録装置から記録ヘッドを取り外し、インク流路の内部を光学顕微鏡で観察した。この時点で堆積物が生じていることを確認することができない場合は、前記条件と同様の条件で、記録媒体400枚、450枚、475枚、500枚までベタ画像の記録を行い、インク流路の内部を光学顕微鏡で観察した。なお、堆積物がインク流路の内壁の全体にわたって生じていることが確認された場合、その時点で評価を中止した。吐出安定性の評価基準を以下に表す。
AAA:500枚の記録を行った時点で、堆積物が生じていることを確認できなかった。
AA:475枚の記録を行った時点で、堆積物がインク流路の内壁の一部にわずかに生じていたが、500枚の記録を終えるまで堆積物が増加することはなかった。
A:450枚の記録を行った時点で、堆積物がインク流路の内壁の一部にわずかに生じていたが、500枚の記録を終えるまで堆積物が増加することはなかった。
B:400枚の記録を行った時点で、堆積物がインク流路の内壁の一部にわずかに生じていたが、500枚の記録を終えるまで堆積物が増加することはなかった。
C:350枚の記録を行った時点で、堆積物がインク流路の内壁の全体にわたって生じていた。
(発色性)
前記の吐出安定性の評価と同様の条件で、A4サイズの記録媒体にベタ画像を記録した。得られた記録物を温度23℃、相対湿度55%の環境下で24時間乾燥させた。その後、分光光度計(商品名:Spectrolino;Gretag Macbeth製)を用いて、光源:D50、視野:2°の条件で測定した後、下記の基準にしたがって発色性の評価を行った。
A:基準値よりも光学濃度が高い。
B:基準値。
C:基準値よりも光学濃度が低い。
Figure 2015203094
実施例10のインクは、シリコーングラフト樹脂の酸価が低いため、インク中での溶解性が低くなり、粘度が若干高くなった。実施例28のインクは、シリコーングラフト樹脂の量が多すぎ、画像の耐擦過性が低下した。比較例3のインクは、使用するシリコーングラフト樹脂の分子量が高く、インクの粘度が高くなりすぎたため、正常にインクを吐出できず、評価できなかった。比較例12のインクは、前記式(2)で表されるユニットのR4の炭素数が18の炭化水素基を含むモノマーを使用している。そのため、シリコーングラフト樹脂の水溶性が低くなりすぎ、正常にインクを吐出できず、評価できなかった。

Claims (6)

  1. 熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法に用いられる水性インクであって、
    モノアゾ顔料、及びシリコーングラフト樹脂を含有し、
    前記モノアゾ顔料が、その粒子表面に直接又は他の原子団を介して、−COOM、−SO3M、及び−PO32(式中のMは、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである)からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性基が結合されている自己分散顔料であり、かつ、前記モノアゾ顔料の顔料種が、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー74、及びC.I.ピグメントレッド269からなる群より選ばれるものであり、
    前記シリコーングラフト樹脂が、下記式(1)で表されるユニットと、下記式(2)で表されるユニットと、下記式(3)で表されるユニットを有し、重量平均分子量が1,500以上20,000以下であり、かつ、前記シリコーングラフト樹脂に占める、式(1)で表されるユニットの割合が、5.0質量%以上であり、
    インク全質量を基準とした、前記シリコーングラフト樹脂の含有量(質量%)が、前記モノアゾ顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.1倍以上であることを特徴とする水性インク。
    式(1)
    Figure 2015203094
    (式中、R1は水素原子又はメチル基、R2はヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基、nは1以上150以下の整数を表す。)
    式(2)
    Figure 2015203094
    (式中、Xは単結合又はエステル基、R3は水素原子又はメチル基、R4は炭素数4以上7以下の炭化水素基を表す。)
    式(3)
    Figure 2015203094
    (式中、R5は水素原子又はメチル基、M2は水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。)
  2. 前記シリコーングラフト樹脂の酸価が、50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下である請求項1に記載の水性インク。
  3. 前記モノアゾ顔料の累積10%粒径(D10)が、30nm以上である請求項1又は2に記載の水性インク。
  4. さらに下記式(4)で表される水溶性有機溶剤を含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水性インク。
    式(4)
    Figure 2015203094
    (式中、R6は水素原子、メチル基、又はCH2CH2OHを表す。)
  5. インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
    前記インクが、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
  6. 熱エネルギーの作用により記録ヘッドから水性インクを吐出して記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
    前記インクが、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
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