JP6189031B2 - 生体試料の切断装置及び切断方法並びに細胞観察方法 - Google Patents
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Description
本発明の第1の態様は、生体試料のワーク(W)を薄片に切断するための切断装置であって、前記ワーク(W)が載置される基板(4)と、前記ワーク(W)を前記基板(4)上に凍結固定する手段と、一定の回転方向(r)への回転動作により前記基板(4)上に凍結固定された前記ワーク(W)を切断して薄片を切り出すためのブレード(1)と、を備え、前記ブレード(1)の刃先(11)の形状は、回転軸(C)からの距離(Rmin)が最も短い最近点(Pmin)である一端から、前記回転軸(C)からの距離(Rmax)が最も長い最遠点(Pmax)である他端まで、前記回転軸(C)からの距離が単調増加する曲線であって、前記最遠点(Pmax)は前記最近点(Pmin)より回転方向(r)において後方に位置し、かつ、最近点(Pmin)と最遠点(Pmax)を結ぶ直線(Q)に対して前記回転軸(C)の反対側に凸となる曲線であることを特徴とする。
・回転軸Cから最近点Pminまでの距離Rmin:40mm〜60mm
(距離Rminは、図1の例では円形の支持板3の半径に相当する)
・回転軸Cから最遠点Pmaxまでの距離Rmax:50mm〜75mm
・刃先11の縦方向長さL1:10mm〜15mm
・刃先11の横方向長さL2:18mm〜30mm
(刃先11の「縦方向長さL1」及び「横方向長さL2」は、図3に示すように最遠点Pmaxが最下位置にあるときを採っている)
・ワークWの高さh:5〜8mm
人間又は動物等の生体の内臓や身体の一部等から適宜の大きさの試料を切除する。試料に含まれる細胞は、上述した生きている状態のものである。この時の試料の大きさは、切断に必要なワークが十分にとれる程度の大きさとする。その後に直ちに本発明による切断作業を行う場合は、後述する<ワークの準備工程>へ移行する。直ちに切断作業を行わない場合は、切除した試料を速やかに液体窒素により凍結し、液体窒素温度に維持して保存する。このような保存技術は公知であり、保存された試料は、細胞が生きた状態を半永久的に保持することができる。
必要な設備が配置されたクリーンな空間内で作業を行う。
生体から切除した直後の試料の場合は、液体窒素を滴下するか液体窒素中に浸漬するかして試料を瞬間的に凍結させ、凍結させた部分から適切な大きさのワークを切り出す。
また、液体窒素温度で保存していた試料の場合は、その温度をなるべく維持して速やかに適切な大きさのワークを切り出す。
図7(a)に示すように、液体窒素を充填した容器の下面に滴下ノズルを具備する液体窒素滴下装置8を適宜の高さに設置する。
液体窒素滴下装置8の下方にテーブル5と基板4を移動させて配置する。テーブル5及び基板4は、予め−30℃程度に冷却しておく。
前述した通り、基板4の上に凝固剤を塗布することが好ましい。凝固剤は、粘性を有しており、ワークWを基板へ仮止めすることができる。凝固剤は無菌化されたものを用いることが好ましい。なお、図2で示したように、凝固剤の厚さは、ワークWの下面を基板4の表面から持ち上げる役割を果たせる程度とすることが好ましい。
続いて、図7(a)の位置から図7(b)の位置へテーブルをX方向に移動させる(白矢印参照)。図7(b)に示すように、切断装置の回転軸部材2の直下にワークを位置させる。この時点では、切断装置の回転軸部材2は高さ調節Hにより上昇している。また、ブレード1は、切断位置から十分な角度をもって離れた準備位置にある。
続いて、ワークWを適切な位置とするために位置調整を行う。水平面内の位置調整は、テーブル5のX方向及びY方向の平行移動と、θ方向の回転移動により行う。これらのテーブル5の移動機構は、手動でも電動モータによるものでもよい。好適には、移動量を設定可能な制御機構を備えた電動モータを用いることが好ましい。
X方向の移動は、ワークWを、ブレード1の回転軸Cの直下に位置させるために行う。Y方向の移動は、ワークWの最初の切断位置及びワークWから切り出される薄片の厚さを決定するために行う。θ方向の回転移動は、ワークWを凍結固定した際の反りの調整やワークWの向きを調整するために行う。
最後に、回転軸部材2の高さを切断位置まで降下させる。この時点では、ブレード1はワークWから離れた準備位置にあるので、ワークWには触れない。
回転軸部材2を回転させることにより、ブレード1を回転方向rの方向に回転させてワークWを切断する。このブレード1の回転は、手動でも電動モータによるものでもよい。位置調整工程及び切断工程の間、ワークW及び基板4の温度が上昇しないように、液体窒素補給装置6から適量の液体窒素を補給する。この補給は、連続的でも断続的でもよい。ブレード1がワークWを通過し、薄片を切り離すと、切り離された薄片は基板4上に倒れる。
別の実施形態として、ブレード1の回転中にワークWをX方向の右側から左側に平行移動させてもよい。さらに別の実施形態として、ブレード1の回転中に回転軸CをX方向の左側から右側に平行移動させてもよい。これらの別の実施形態の場合、刃先11は、ワークWに対して円運動と直線運動を合成した動きを行うこととなる。従って、刃先11の最遠点Pmax(図3参照)の動きは、ワークWの下面の左端から右端へ下面に沿って移動するような動きとなる。これにより、ワークWの下面近傍において刃先11が届かない領域がほぼなくなる。その場合は、凝固剤によるワークWの下面の持ち上げが不要となり、凝固剤は専ら仮止めのために用いられることになる。
次の薄片を続いて切断する場合は、ブレード1を回転方向rに回転させて図7(b)の準備位置に戻し、ワークWを次の薄片の厚さに応じた距離だけY方向に移動させる。切断可能な薄片の厚さの下限は、ブレード1の平坦部の厚さや切刃の長さ等の種々の条件に依存する。例えば、ブレード1の平坦部の厚さが200〜250μm程度の場合、数μmまでの薄片を切断できることが、切断実験により確認されている。
基板4上に倒れた薄片は、ピンセット等で取り出して直ちに組織培養液中に浸漬する。これは、薄片を保護すると同時に解凍させるためである。なお、複数回の切断を連続して行い、複数枚の薄片をまとめて取り出してもよい。組織培養液に移動させる間に温度が上昇しないように、切断された薄片に対して、取り出し直前に液体窒素を滴下して補給してもよい。
上記のようにして組織培養液中で解凍された生体試料の薄片は、例えば、次のような細胞観察に供される。
・観察方法1
容器に入った組織培養液中に薄片を浸漬した状態において、容器の外側から薄片に含まれる細胞を位相差顕微鏡にて観察する。
・観察方法2
上記観察方法1に続いて、薄片を浸漬した組織培養液の容器を炭酸ガス培養器(例えば、37℃、炭酸ガス濃度5%)に保管して培養を継続する。その途中で、容器の外側から薄片に含まれる細胞を位相差顕微鏡にて観察する。この観察は、細胞が生きた状態ではなくなるまで続けられる。この観察方法は、例えば、医薬等の化学物質を添加して細胞への影響を調べる場合に適用可能である。
・観察方法3
容器に入った組織培養液中に浸漬した薄片を取り出し、薄片に含まれる細胞を染色した後に顕微鏡にて観察する。
図8に示すクリーンベンチ20やグローブボックス等の無菌作業室の作業空間21内に上述した切断装置の主要部が設置されている。作業空間21は、周囲環境から遮蔽した状態で作業することが可能である。図示しないが、クリーンベンチ20の前面には、上下方向に可動のスライドドアが設けられている。あるいは、クリーンベンチ20の前面に作業用のグローブが設けられていてもよい。
図9における上下の面が、ブレードによる切断面である。薄片の厚さtは、一例として約30μmとする。符号CL1、CL2は、1つ1つの細胞を示している。この例では1つの細胞の直径dは10μm程度である。切断面に位置して一部が切断された細胞CL2は、細胞の内容物が流出して細胞膜のみが残っている。これに対し、2つの切断面の間に位置する細胞CL1は、全体がそのまま保持されている。例えば、顕微鏡観察を行うと、完全に保持されている細胞CL1等を観察できる。そして、このような細胞CL1は、元の生体内に存在していた状態(位置及び機能)を保持していることが確認された。すなわち、生体内で組織を形成していた細胞の位置がそのまま保持され、かつ、生体内で細胞に備わっていた増殖、修復、代謝、又は細胞間の情報交換等の機能がそのまま保持された生きている細胞であることが確認された。
11 刃先
12 切刃
13 平坦部
14 固定ボルト
15 固定ナット
16 固定板
2 回転軸部材
3 支持板
4 基板
5 テーブル
6 液体窒素補給装置
7 凝固剤
8 液体窒素滴下装置
9 散乱防止リング
10 可動台
20 クリーンベンチ
21 作業空間
22 ヘパフィルター装置
23 操作パネル
24 UVランプ
25 オゾン発生装置
26 手動切断用操作部
27 滴下装置Y軸操作部
28 可動台θ角度操作部
r 回転方向
C 回転軸
Pmin 刃先の最近点
Pmax 刃先の最遠点
W ワーク
W1 ワーク上面
W2 ワーク下面
CL1、CL2 細胞
d 細胞直径
t 薄片厚さ
Claims (11)
- 生体試料のワーク(W)を薄片に切断するための切断装置であって、
前記ワーク(W)が載置される基板(4)と、
前記ワーク(W)を前記基板(4)上に凍結固定する手段と、
一定の回転方向(r)への回転動作により前記基板(4)上に凍結固定された前記ワーク(W)を切断して薄片を切り出すためのブレード(1)と、を備え、
前記ブレード(1)の刃先(11)の形状は、回転軸(C)からの距離(Rmin)が最も短い最近点(Pmin)である一端から、前記回転軸(C)からの距離(Rmax)が最も長い最遠点(Pmax)である他端まで、前記回転軸(C)からの距離が単調増加する曲線であって、前記最遠点(Pmax)は前記最近点(Pmin)より回転方向(r)において後方に位置し、かつ、最近点(Pmin)と最遠点(Pmax)を結ぶ直線(Q)に対して前記回転軸(C)の反対側に凸となる曲線であることを特徴とする
生体試料の切断装置。 - 前記凍結固定する手段は、極低温液体を用いたものであることを特徴とする請求項1に記載の生体試料の切断装置。
- 前記ブレード(1)による切断中に前記ワーク(W)に対して極低温液体を補給することを特徴とする請求項2に記載の生体試料の切断装置。
- 前記極低温液体が液体窒素であることを特徴とする請求項2又は3に記載の生体試料の切断装置。
- 生体試料のワーク(W)を薄片に切断するための切断方法であって、
前記ワーク(W)を基板上に載置する工程と、
前記ワーク(W)を前記基板(4)上に凍結固定する工程と、
ブレード(1)を一定の回転方向(r)へ回転させることにより前記基板(4)上に凍結固定された前記ワーク(W)を切断して薄片を切り出す工程と、を備え、
前記ブレード(1)の刃先(11)の形状は、回転軸(C)からの距離(Rmin)が最も短い最近点(Pmin)である一端から、前記回転軸(C)からの距離(Rmax)が最も長い最遠点(Pmax)である他端まで、前記回転軸(C)からの距離が単調増加する曲線であって、前記最遠点(Pmax)は前記最近点(Pmin)より回転方向(r)において後方に位置し、かつ、最近点(Pmin)と最遠点(Pmax)を結ぶ直線(Q)に対して前記回転軸(C)の反対側に凸となる曲線であることを特徴とする
生体試料の切断方法。 - 前記凍結固定する工程において、極低温液体を用いることを特徴とする請求項5に記載の生体試料の切断方法。
- 前記ブレード(1)による切断中に前記ワーク(W)に対して極低温液体を補給することを特徴とする請求項6に記載の生体試料の切断方法。
- 前記極低温液体が液体窒素であることを特徴とする請求項6又は7に記載の生体試料の切断方法。
- 細胞観察方法であって、
請求項5〜8のいずれかに記載の、生体試料の切断方法を用いて生体試料の薄片を作製する工程と、
前記薄片を組織培養液に浸漬した状態にて前記薄片に含まれる細胞を位相差顕微鏡にて観察する工程と、を有する
細胞観察方法。 - 前記薄片を浸漬した前記組織培養液を炭酸ガス培養器に保管して培養を継続しつつ前記薄片に含まれる細胞を位相差顕微鏡にて観察する工程をさらに有する
請求項9に記載の細胞観察方法。 - 細胞観察方法であって、
請求項5〜8のいずれかに記載の、生体試料の切断方法を用いて生体試料の薄片を作製する工程と、
前記薄片を組織培養液に浸漬した後に取り出し、前記薄片に含まれる細胞を染色した後に顕微鏡にて観察する工程と、を有する
細胞観察方法。
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