以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
[記録方法]
本発明の一実施形態は、色材と光重合性化合物と光重合開始剤とを含む第1インク組成物を記録ヘッドから被記録媒体上に向けて吐出することにより被記録媒体上に付着された第1インク組成物に向かって、第1インク組成物の硬化率が70〜95%となるように光源から光を照射することにより、第1インク組成物を硬化させる第1の工程と、色材と光重合性化合物と光重合開始剤とを含む第2インク組成物を記録ヘッドから硬化した第1インク組成物に向けて吐出することにより第1インク組成物上に付着された第2インク組成物に向かって光源から光を照射することにより、第2インク組成物を硬化させる第2の工程と、を有する記録方法に係る。
この記録方法では、下記図1に示すように、さらに、第3、第4、及び第5工程を有してもよい。第3の工程においては色材と光重合性化合物と光重合開始剤とを含む第3インク組成物を記録ヘッドから硬化した第2インク組成物に向けて吐出することにより第2インク組成物上に付着された第3インク組成物に向かって光源から光を照射することにより、第3インク組成物を硬化させる。第4の工程においては、色材と光重合性化合物と光重合開始剤とを含む第4インク組成物を記録ヘッドから硬化した第3インク組成物に向けて吐出することにより第3インク組成物上に付着された第4インク組成物に向かって光源から光を照射することにより、第4インク組成物を硬化させる。そして、第5の工程においては、色材と光重合性化合物と光重合開始剤とを含む第5インク組成物を記録ヘッドから硬化した第4インク組成物に向けて吐出することにより第4インク組成物上に付着された第5インク組成物に向かって光源から光を照射することにより、第5インク組成物を硬化させる。まず、当該記録方法に使用する記録装置を説明しつつ、本実施形態を詳細に説明する。
ここで、仮硬化(ピニング)とは、インクの仮止めを意味し、ドット間の滲みの防止やドット径の制御のために行う硬化をいう。また、インクの硬化率とは、インク組成物中の光重合性化合物の転化率を表す。
[記録装置]
〔記録装置構成〕
本発明の一実施形態に係る記録装置は、上記記録方法に用いることができる。当該記録装置は、色材と光重合性化合物と光重合開始剤とを含む第1インク組成物を記録ヘッドから被記録媒体上に向けて吐出する第1吐出部と、前記被記録媒体上に付着した前記第1インク組成物に光源から光を照射して、硬化率が70〜95%の範囲で前記第1インク組成物を硬化させる第1光照射部と、色材と光重合性化合物と光重合開始剤とを含む第2インク組成物を記録ヘッドから被記録媒体の前記硬化させた第1インク組成物に向けて吐出する第2吐出部と、前記硬化させた第1インク組成物に付着した前記第2インク組成物に光源から光を照射して、前記第2インク組成物を硬化させる第2光照射部と、を備えるものである。
本実施形態で用いられる記録装置は、プリントヘッドが被記録媒体の搬送方向と直交した方向を往復移動運動しながら記録が行われるラインプリンターであってもよく、プリントヘッドがほぼ移動せずに記録が行われるシリアルプリンターであってもよい。以下では、本実施形態で使用される記録装置として、ラインプリンターを例に説明する。
図1は、本実施形態の記録装置の一例であるラインプリンター1の一態様における記録領域周辺の概略図である。
本実施形態で使用するプリンター1は、液状のインクの一例として、光の照射によって硬化する光硬化型インクを吐出することにより、被記録媒体に画像を形成する装置である。光硬化型インクは、光重合性化合物及び光重合開始剤などを含む光硬化性樹脂組成物を含むインクであり、光の照射を受け重合反応が起こることにより硬化する。光硬化型インクの具体的組成については後述する。多色印刷の色パターン(使用するインク種、及びインクの使用順序)は特に限定されず、またクリアインクの使用は任意であるが、例えば、図1に示すような多色印刷の色パターンが挙げられる。即ち、プリンター1は、背景色としてのホワイトの光硬化型インク(W)と、BkCMYの4色の光硬化型インクと、無色透明の光硬化型インク(クリアインク、CL)と、を用いて印刷する(画像を形成する)。ここで、BkCMYとは、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の4色を意味する。
被記録媒体を所定の方向(以下、「搬送方向」という。)に搬送させるための記録領域は、図1に示すように、例えば、上流側搬送ローラー23A及び下流側搬送ローラー23Bと、ベルト24と、を有する。搬送モータ(不図示)が回転すると、上流側搬送ローラー23A及び下流側搬送ローラー23Bが回転し、ベルト24が回転する。給紙ローラー(不図示)によって給紙された被記録媒体Sは、ベルト24によって、印刷可能な領域(記録ヘッドと対向する領域)まで搬送される。ベルト24が被記録媒体Sを搬送することによって、被記録媒体Sが記録ヘッドセット(不図示)に対して搬送方向に移動する。印刷可能な領域を通過した被記録媒体S(被着体)は、ベルト24によって外部へ排紙される。なお、搬送中の被記録媒体Sは、ベルト24に静電吸着又はバキューム吸着されている。また、ここでは、便宜上、「給紙」という文言を用いたが、本実施形態における被記録媒体Sとしては、後述の被記録媒体を用いる。
上記の第1吐出部及び第2吐出部に対応する吐出部としての記録ヘッドセットから、被着体に光硬化型インクが吐出される。なお、本実施形態では、光硬化型インクとして、画像を形成するためのホワイトインク及びカラーインクと無色透明のクリアインクとを吐出する。記録ヘッドセットを構成する各記録ヘッドは、搬送中の被着体に対して各色のインクを吐出することによって、被着体にドットを形成し、被記録媒体上に画像を形成する。本実施形態で使用するプリンター1はラインプリンターであり、記録ヘッドセットの各記録ヘッドは媒体幅分のドットを一度に形成することができる。即ち、図1に示す装置では、搬送方向の上流側から順に、第1インク組成物(単に「第1インク」ともいう。以下同様。)であるホワイトの光硬化型インクを吐出する第1記録ヘッドW、第2インクであるブラックの光硬化型インクを吐出する第2記録ヘッドBk、第3インクであるシアンの光硬化型インクを吐出する第3記録ヘッドC、第4インクであるマゼンダの光硬化型インクを吐出する第4記録ヘッドM、第5インクであるイエローの光硬化型インクを吐出する第5記録ヘッドY、更にクリアインクを吐出するクリアインク用記録ヘッドCLからなる各記録ヘッドが設けられている。以下、「記録ヘッド」を単に「ヘッド」ともいう。この場合、各ヘッドが紙面の奥から手前方向(搬送方向と垂直な方向)に、媒体幅分のドットを吐出可能に、複数個配置されている。よって、上流側から各ヘッドを制御し、媒体幅分の一ラインにおいて必要な箇所においてドットを形成することにより、被記録媒体を搬送方向に一度走査するだけで、画像を形成することができる。
なお、上記の被記録媒体の搬送方向は、ヘッドと被記録媒体とが相対的に移動しながらヘッドから被記録媒体にインクを吐出する走査方向である。被記録媒体がヘッドに近づくように搬送されてくる側(図1の左側)が搬送方向の上流側であり、被記録媒体がヘッドに対して遠ざかるよう搬送されていく側(図1の右側)が搬送方向の下流側である。また、変形例として、被記録媒体の位置が固定されており、ヘッドと光源とが被記録媒体に対して移動しながらヘッドからインクを被記録媒体に吐出させる走査を行ってもよい。この場合、ヘッドと光源が被記録媒体に対して、例えば図1の左方向に移動する走査をするのであれば、図1の左側が走査方向の上流側であり、図1の右側が走査方向の下流側である。
上記の第1光照射部及び第2光照射部に対応する光照射部としての光源から、被着体に付着した光硬化型インク組成物に向けて、光が照射される。被着体上に付着したインク滴、即ち形成されたドットは、光照射部からの光の照射を受けることにより硬化する。本実施形態における光照射部は、図1に示すように、仮硬化用照射部(仮硬化用光源)42a〜42e及び本硬化用照射部(本硬化用光源)44を備えている。
仮硬化用照射部42a〜42eは、被着体に形成されたドットを仮硬化させるための光を照射する。よって、ドット状のインク組成物の少なくとも表面等の一部分が硬化されればよい。
仮硬化用照射部である第1光源42a、第2光源42b、第3光源42c、第4光源42d、及び第5光源42e(各光源は、同一のものであっても異なるものであってもよく、また、光源が異なる場合は同種であっても異種であってもよい。)はそれぞれ、第1ヘッドW、第2ヘッドBk、第3ヘッドC、第4ヘッドM、及び第5ヘッドYの搬送方向下流側に設けられている。つまり、インク色ごとに仮硬化用照射部が設けられている。
背景色インク(ホワイトインク)を硬化するための仮硬化用照射部42aは、光照射の光源として発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)又はランプ(メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ等)を備えることが好ましい。LEDは入力電流の大きさを制御することによって、照射エネルギーを容易に変更することが可能である。
一方、画像形成インクを硬化するための仮硬化用照射部42b〜42eは、光照射の光源としてLEDを備えることが好ましい。
ここで、第1光源42aは、好ましくは波長が450nm以下の波長を有する紫外線(UV)を発する光源であるとよい。この場合、インクに光重合反応を開始させ、所望の硬化を与えることができるという効果が得られる。また、第1光源42aにおける仮硬化の光照射量、即ち光照射エネルギーに制限はなく、インク組成によっても異なるが、例えば50mJ/cm2以上であり、硬化率が70〜95%の範囲となる硬化エネルギーが好ましい。
また、第2光源42b、第3光源42c、第4光源42d、及び第5光源42eは、それぞれ独立に、好ましくは450nm以下、より好ましくは300〜450nmにピーク波長を有する紫外線(UV)を発する光源であることが好ましい。この場合、インクに光重合反応を開始させ、ブリーディングを抑制するための十分な仮硬化の効果をインクに与えることができる。また、第2光源42b、第3光源42c、第4光源42d、及び第5光源42eにおける仮硬化の光照射量、即ち光照射エネルギーに制限はなく、インク組成によっても異なるが、例えば、50mJ/cm2以下であり、好ましくは3〜40mJ/cm2である。さらに、第2光源42b、第3光源42c、第4光源42d、及び第5光源42eにおいて、記録装置の小型化及び小電力化の観点から、光照射の光源としてLEDが好ましい。
本硬化用照射部44は、被着体に形成されたドットをほぼ完全に硬化させるための光を照射する。本硬化用照射部44は、クリアインク用ヘッドCLよりも搬送方向下流側に設けられている。また、本硬化用照射部44の媒体幅方向の長さは媒体幅以上である。そして、本硬化用照射部44は、ヘッドセットの各ヘッドによって形成されたドットに光を照射する。
本実施形態における本硬化用照射部44は、光照射の光源として、LED又はランプ(メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ等)を備えている。照射光源は特に制限されないが、450nm以下の波長の光を照射できるものが好ましい。本硬化の光照射量、即ち光照射エネルギーに制限はなく、インク組成によっても異なるが、例えば、100mJ/cm2以上であり、第2光源42b、第3光源42c、第4光源42d、及び第5光源42eの仮硬化の光照射エネルギーより2〜300倍程度である。
〔印刷動作(記録方法)〕
図1に示すように、先ず、被記録媒体が第1ヘッドW(ホワイトインクを吐出するヘッド)の下を通る際に第1ヘッドWからホワイトインクを吐出させて、ドットを被記録媒体に形成させる。その後、被記録媒体が仮硬化用照射部42aを通る際に光を照射させ、第1ヘッドWによって形成されたドットの仮硬化を行う。第2ヘッドBkを使用するブラックインク、第3ヘッドCを使用するシアンインク、第4ヘッドMを使用するマゼンダインク、第5ヘッドYを使用するイエローインクについても同様にドット形成及び光照射を行う。
このように、ホワイトインクやカラーインクによるドットが色毎に形成された直後に、対応する仮硬化用照射部からそれぞれ光照射が行われる。
そして、クリアインク用ヘッドCLによって全面にクリアインクを塗布し、本硬化用照射部44によって、被着体に形成されたドットに光を照射して本硬化させる。
本実施形態の特徴的構成(方法)は、第1インク組成物の硬化率が70〜95%となるように第1光源42aから光を照射することにある。第1インクを所定範囲の硬化率で硬化した層の上に、次のインク、即ち第2インク、第3インク、第4インク、及び第5インクのうち少なくともいずれかを重ね塗りすることにより、重ね塗り印刷を行う際に、硬化層におけるブリーディング及びハジキの発生を抑制し、画像の耐久性に優れ、且つ第1インク層である下地のホワイトインク層を十分に硬化することができる。特に、第1インクの硬化率を70〜95%とすることにより、その第1インク層がホワイトインク層の場合でも、ブリーディングもハジキもない優れた印刷画質が得られる。他方、95%を超える硬化率で第1インクを硬化した層の上に、次のインク、即ち第2インク、第3インク、第4インク、及び第5インクのうち少なくともいずれかを重ね塗りすると、ハジキが発生してカラー画像に不具合が生じる。また、70%未満の硬化率で第1インクを硬化した層の上に、次のインク、即ち第2インク、第3インク、第4インク、及び第5インクのうち少なくともいずれかを重ね塗りすると、ブリーディングが発生してカラー画像に不具合が生じる。
第1光源42aからの光の照射における、第1インク組成物の硬化率として、好ましくは70〜90%であり、より好ましくは75〜90%である。
図1においては、第1インクとして背景色インク(ホワイトインク)を用いている。ここで、第1インクが背景色インク(ホワイトインク)でなく、画像形成インク(カラーインク)である変形例が挙げられる。そこで、第1インクが、背景色インクの場合と画像形成インクの場合とに分けて説明する。第1インクが背景色インクの場合と第1インクが画像形成インクの場合との間で、最も異なるのは仮硬化条件である。第1インクが背景色インクの場合、硬化率が70〜95%となるような仮硬化エネルギー(例えば、50mJ/cm2以上)が好ましい。
一方、第1インクが画像形成インクの場合、仮硬化エネルギーはブリーディングを抑えるのに必要なエネルギー(例えば、50mJ/cm2以下)であることが好ましい。その際の本硬化エネルギーは、例えば、100mJ/cm2以上が好ましい。
背景色インク及び画像形成インクにおける仮硬化条件が互いに異なる点をさらに説明する。本実施形態において、第1ヘッドから吐出されるインクは、被記録媒体における任意の範囲を均一に塗布し、主に画像の背景色として付与することができる。そこで、背景色インクとしてホワイトインクを用いることで、カラーインクによる印刷画像をより高品位にしたり、透明又は半透明の被記録媒体、例えば軟包装フィルムにも高品位な画像を形成できたり、被記録媒体の色に依存することなく、所望の画質を形成できたりする。
背景色を付与する記録の場合、背景色を付与しない記録の場合に比べて、単位面積当たりの総打ち込みインク量は背景色インク分だけ更に増量するため、ブリーディングの懸念及び画像耐久性の劣化懸念が増す。さらに、オーバーコート側のインク特性、即ち色材の光吸収特性に劣り、且つ膜厚により光透過率が低下し、場合によっては益々、界面でのブリーディングの懸念及び画像耐久性の劣化懸念が増す。よって、背景色を付与する記録の場合は、背景色インクに対して、最適な硬化方法が必要となる。
ここで、本実施形態における硬化率の測定方法を説明する。上述のとおり、インクの硬化率とは、インク組成物中の光重合性化合物の転化率を表す。また、インクの硬化率は、仮硬化状態の指標となる光硬化性樹脂の硬化の進行度を表すということもできる。本実施形態における転化率の測定装置としては、リアルタイム測定可能な赤外分光光度計(NEXUS470〔商品名〕、サーモ・ニコレー社(Thermo Nicolet Corp.)製)を用いる。
本実施形態における第1インク組成物の硬化率は、第1インク組成物に向けて第1光源42aより光が照射される前から、照射されて第2インク組成物が吐出される直前までの、第1インク組成物中の光重合性化合物が転化した割合を表す。
特に、ラインプリンター1においては、上述したように、被記録媒体を搬送方向に一度走査するだけで、画像を形成するため、シリアルプリンターなどと比較し、異なる色のドットが隣接する可能性が高い。よって、ブリーディングが生じやすいため、ブリーディング対策がより重要になる。ただし、上述のとおり、本実施形態で用いられる記録装置はラインプリンターに制限されることはなく、シリアルプリンターであってもよい。シリアルプリンターの具体例として、国際公開公報2005/105452号の図3〜図5に示すものが挙げられる。
このようなラインプリンター1においても、上記のように、第1インク組成物を所定範囲の硬化率で仮硬化することにより、ブリーディングを低減でき、印刷特性を向上させることができる。
上記記録方法においては、上述から明らかなように、インクジェット記録方式を用いることが好ましい。即ち、上述した光硬化型インク組成物を用いて被記録媒体に画像形成を行う際、好ましくはインクジェット記録方法を用いる。このインクジェット記録方式としては、従来公知の方式はいずれも使用でき、特に圧電素子の振動を利用してインク滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)を用いることで、優れた画像記録を行うことが可能である。
〔インク組成物〕
上記実施形態の記録方法及び記録装置(以下、単に「本実施形態」ともいう。)に使用されるインク組成物、即ち、第1インク、第2インク、第3インク、第4インク、及び第5インクは、それぞれ、光重合性化合物(第1インクに含まれる光重合性化合物、第2インクに含まれる光重合性化合物、第3インクに含まれる光重合性化合物、第4インクに含まれる光重合性化合物、及び第5インクに含まれる光重合性化合物)、光重合開始剤(第1インクに含まれる光重合開始剤、第2インクに含まれる光重合開始剤、第3インクに含まれる光重合開始剤、第4インクに含まれる光重合開始剤、及び第5インクに含まれる光重合開始剤)、及び色材(第1インクに含まれる色材、第2インクに含まれる色材、第3インクに含まれる色材、第4インクに含まれる色材、及び第5インクに含まれる色材)を少なくとも含む。また、クリアインクは、光重合性化合物及び光重合開始剤を少なくとも含む。
ここで、上記第1インク及び上記第2インクは、インクの色などの役割が異なるため、互いに組成の異なるインク組成物であることが好ましい。なお、ここでいう「組成の異なるインク組成物」とは、含有する成分の種類及び含有量のうち少なくともいずれかが互いに異なるインク組成物を意味する。さらに、上記第1インク及び上記第2インクだけでなく、上記第3インク、上記第4インク、及び上記第5インクについても同様に、上記の第1〜第5のインクのうち、少なくとも2つのインクが互いに組成の異なるインク組成物であることが好ましく、全てのインクが互いに組成の異なるインク組成物であることがより好ましい。
以下、第1インク、第2インク、第3インク、第4インク、及び第5インクは、それぞれ上述のホワイト、ブラック、シアン、マゼンダ、及びイエローの各インクに限定されないものとして説明する。
(1.光重合性化合物)
本実施形態におけるインク組成物に用いられる光重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により紫外線(UV)などの光の照射時に重合し、固化する化合物であれば、特に制限はないが、単官能基、2官能基、及び3官能基以上の多官能基を有する種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。
上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド、及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート、及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
また、他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニル化合物を含んでいてもよい。N−ビニル化合物としては、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、及びそれらの誘導体等が挙げられる。このうち、被記録媒体への密着性が一層良好になるため、第1インク及び第2インク(さらには第3インク、第4インク、及び第5インク)は、N−ビニルカプロラクタムを含有することが好ましい。
上記で列挙したものの中でも(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましい。
なお、本明細書における「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルを意味する。
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの中でも、硬化時のインク層の伸び性が高く、かつ低粘度であるため、インクジェット記録時の射出安定性が得られやすいという観点から、光重合性化合物として、単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。さらにインク層の硬さが増すという観点から、単官能(メタ)アクリレートと2官能(メタ)アクリレートとを併用することがより好ましい。上記の光重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
さらに、上記単官能(メタ)アクリレートは、芳香環骨格、飽和脂環骨格、及び不飽和脂環骨格からなる群より選択される1種以上の骨格を有することが好ましい。上記光重合性化合物が上記骨格を有する単官能(メタ)アクリレートであることにより、インク組成物の粘度を低下させ、かつ、上記のエポキシ基含有ポリマーをインク組成物中に効果的に溶解させることができる。
芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、不飽和脂環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートとして、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記の光重合性化合物の含有量は、硬化時の塗膜の高硬度化、かつインクの低粘度化、インクジェット記録時の良好な射出安定性が得られるため、インクの総質量(100質量%)に対し、30〜90質量%が好ましく、40〜85質量%がより好ましい。特に、上述のように、第1インク及び第2インク(さらには第3インク、第4インク、及び第5インク)がN−ビニルカプロラクタムを含有する場合、当該N−ビニルカプロラクタムの含有量は、被記録媒体への密着性が一層良好になるため、インクの総質量に対し、インク毎に独立して10〜40質量%が好ましく、15〜30質量%がより好ましい。なお、第1インク及び第2インク(さらには第3インク、第4インク、及び第5インク)中の、N−ビニルカプロラクタムの含有量は、互いに同じであってもよく異なっていてもよい。
(2.光重合開始剤)
本実施形態におけるインク組成物に含まれる重合開始剤は、紫外線(UV)などの光のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記光重合性化合物の重合を開始させるものであれば、制限はないが、ラジカル重合開始剤やカチオン重合開始剤を使用することができ、中でもラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
上記のラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィン化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製商品名)、DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製商品名)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製商品名)、及びユベクリルP36(UCB社製商品名)などが挙げられる。
上記の中でも、DAROCUR TPO及びIRGACURE 819等のアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤が、硬化性を一層良好にできるため好ましい。
また、アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤は、臭気が低く、溶剤との相溶性に優れ、かつ、反応後の着色がより抑えられる点に優れる。アシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤の中でも、上記の各点に一層優れる上、チオキサントン系など他の種類の重合開始剤と比べてより黄変が生じにくいため、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)がより好ましい。
上記光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記光重合開始剤の含有量は、インクへの溶解性及び重合反応性が一層良好となるため、インクの総質量に対し、3〜15質量%が好ましく、3.5〜12質量%がより好ましい。
特に、第1インク(さらに第2インク、さらにまた第3インク、第4インク、及び第5インク)がアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を含有する場合、臭気がより低く、硬化性及び溶剤との相溶性により優れ、かつ、反応後の着色がより抑えられるため、インクの総質量に対し、8質量%以上が好ましく、8〜12質量%がより好ましい。
また、第1インク(さらに第2インク、さらにまた第3インク、第4インク、及び第5インク)がアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤のうち2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドを含有する場合、臭気がより低く、硬化性及び溶剤との相溶性により優れ、反応後の着色がより抑えられ、かつ、黄変がより生じにくいため、インクの総質量(100質量%)に対し、8質量%以上が好ましく、8〜12質量%がより好ましい。
(3.色材)
本実施形態におけるインク組成物として、色材をさらに含んでもよい。
本実施形態は、ホワイトインク、並びにカラーインク(例えばイエローインク、マゼンタインク、シアンインク、及びブラックインクの4色)からなり、更に、写真調の画像を得るためにライトマゼンタインクやライトシアンインクなどを備えることも好ましい。また、オレンジインクやグリーンインクを備えることにより、より印刷対象に近い画像が得られる。
被記録媒体に吐出され、直接付着して硬化する第1インク組成物は、背景色として用いられるのが通常である。このような背景色としての第1インク組成物は、カラーインク又はホワイトインクであり得る。第1インク組成物がカラーインクの場合、被記録媒体上に形成された第1インク組成物の層に重ね塗られる第2インク組成物として、別の色のカラーインク、ホワイトインク、又はクリアインクが挙げられる。第2インク組成物以降の第3インク組成物、第4インク組成物、及び第5インク組成物のうちの少なくともいずれかがホワイトインクの場合、次に使用されるインク組成物は無いか又はクリアインクであり得る。第2、第3、第4、及び第5インク組成物がクリアインクの場合であって、さらにその次に使用されるインク組成物は無いのが通常である。一方、第1インク組成物がホワイトインクの場合、被記録媒体上に形成された第1インク組成物の層に重ね塗られる第2インク組成物として、カラーインク又はクリアインクが挙げられる。第2、第3、第4、及び第5インク組成物がカラーインクの場合、さらにその次にインク組成物が使用される場合、そのインク組成物は別の色のカラーインク又はクリアインクであり得る。第2インク組成物以降のインク組成物がクリアインクの場合、次に使用されるインク組成物は無いのが通常である。
これらの中でも、第1インク組成物に含まれる色材は、ホワイト系の色材であることが好ましい。本実施形態においては、第1ヘッドから吐出されるインクは、被記録媒体の任意の範囲を均一に塗布し、主に画像の背景色として付与することができる。
そこで、背景色インクとしてホワイトインクを用いることで、カラーインクによる印刷画像をより高品位にしたり、透明または半透明の被記録媒体、例えば軟包装フィルムにも高品位な画像を形成できたり、被記録媒体の色に依存することなく、所望の画質を形成することができる。
ここで、ホワイト系とは、スペクトロリーノ(グレタグ社製商品名、測定条件は、D50、2°視野、白地バック(測定するメディアの下に敷く紙の色))での測定において、Lab系での標記がa*b*平面上で半径20の円周及びその内側にあり、かつL*が70以上で表される色相範囲内の色をいう。従って、白色のみならず、薄いグレーやクリーム色等も含まれる。
本実施形態に使用されるホワイトインクは色材として白色顔料を用いることができる。
白色顔料はインク組成物を白色にするものであればよく、通常、この分野に用いられる白色顔料を用いることができる。このような白色顔料としては、例えば白色無機顔料や白色有機顔料、白色の中空ポリマー微粒子を用いることができる。白色無機顔料としては、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩、微粉ケイ酸、合成ケイ酸塩等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。特に酸化チタンは隠蔽性及び着色性、分散粒径が好ましい白色顔料として知られている。
白色有機顔料としては、特開平11−129613号に示される有機化合物塩や特開平11−140365号、特開2001−234093号に示されるアルキレンビスメラミン誘導体が挙げられる。白色有機顔料の具体的な商品としては、ShigenoxOWP、ShigenoxOWPL、ShigenoxFWP、ShigenoxFWG、ShigenoxUL、ShigenoxU(以上、ハッコールケミカル社製、何れも商品名)などが挙げられる。
白色の中空ポリマー微粒子としては、米国特許第4,089,800号明細書に開示されている、実質的に有機重合体で作られた熱可塑性を示す微粒子などが挙げられる。
本実施形態においては、上述した白色顔料は1種単独で用いても良いし、併用しても良い。
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21等が挙げられる。
一方、カラーインクに用いられる色材としては光重合性化合物の主成分に溶解又は分散できる色材が使用できるが、耐候性の点で顔料が好ましい。顔料としては以下のものを使用できるが、これに限られる訳ではない。
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック類、酸化鉄等を使用することができる。
また、有機顔料として、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
例えば、イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、12、13、14、16、17、42、73、74、75、81、83、87、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213等が挙げられる。
また、マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 5、7、9、12、22、38、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、63:1、101、112、122、123、144、146、168、184、185、188、202、209、C.I.ピグメントヴァイオレット19等が挙げられる。
さらに、シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15:3、15:4、60、16、22が挙げられる。
ブラックインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブラック7が挙げられる。
その他には、オレンジインクとして、C.I Pigment Orange−16,36,38、グリーンインクとして、C.I Pigment Green−7,36、が挙げられる。
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の好ましい態様によれば、顔料はその平均粒径が10〜400nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50〜350nm程度のものである。
光硬化型インク組成物における色材の添加量は、0.1〜25質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜15質量%程度の範囲である。
中でも、第1インクに含まれる色材が無機顔料からなるホワイト系の色材である場合、第1インク組成物の総質量(100質量%)に対するホワイト系の色材の含有量が8〜16質量%であることが好ましく、より好ましくは9〜14質量%である。含有量が8質量%以上であると、第1インク層における光の隠蔽率が適度に高くなるため、背景色としてのホワイトインクの発色性が良好になる。一方、含有量が16質量%以下であると、ノズル目詰まりや、顔料沈降等の吐出不具合を抑制することができるため好ましい。
ここで、硬化率は、主にインク層の厚さ、インク層における光の透過率、及びインクの硬化反応性といった要因に対し、比例的に変化する。即ち、インク層の厚さ、インク層における光の透過率、及びインクの硬化反応性がそれぞれ増大するにつれて、硬化率も増大する。このうち、インク層における光の透過率は、インク層における光の隠蔽率及びインクの発色性と反比例の関係にある。
さらに、上記顔料は、分散剤又は界面活性剤で媒体中に分散させて用いることができる。好ましい分散剤としては、後述するものの他、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができる。
(4.その他の成分)
本実施形態におけるインク組成物は、上記に挙げた成分以外の成分を含んでもよい。例えば、インク組成物は界面活性剤や重合禁止剤を含んでもよい。
界面活性剤としては、例えばシリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(以上、ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製商品名)を挙げることができる。
また、重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤を添加することにより、インク組成物の保存安定性が向上する。重合禁止剤としては、例えば、ヒンダードアミン系重合禁止剤のIRGASTAB UV10、UV22(以上、BASF社製商品名)などを用いることができる。
さらに、分散剤、重合促進剤、スリップ剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、例えば定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、光吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
〔被記録媒体〕
被記録媒体としては、非吸収性の被記録媒体であれば特に制限はないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの樹脂材料を用いることができる。また、これらの基材の表面に処理層(コート層)などを有していてもよい。また、第1インクにホワイトインクを用いる場合は、透明又は半透明の樹脂フィルム等を用いることもできる。
〔インク組成物の物性〕
インクの粘度は、インクジェットで吐出する観点からいえば、25℃において、40mPa・s以下であることが好ましい。さらに好ましい範囲は、32mPa・s以下である。40mPa・sを超える場合、インクジェットヘッドから吐出され被着体に付着するドットが細長く尾を引く形状になったり、飛散して複数個に分かれた形状になったりして、ドット形状に不具合を与え、画質に悪影響を与える場合がある。一方、インクの粘度の下限は特に限定されないが、実用上の観点から、25℃において、好ましくは5mPa・s以上であり、より好ましくは10mPa・s以上である。
このように、本発明によれば、重ね塗り印刷を行う際に、硬化層におけるブリーディング及びハジキの発生を抑制し、画像の耐久性に優れ、第1インク層(例えば、上記下地のホワイトインク層)が十分に硬化され、かつ、インクの密着性にも優れた、記録方法及び記録装置を提供することができる。
本発明は、上記本実施形態に限定されない。例えば、本発明の別の実施形態に係る記録方法は、上記第1の工程及び第2の工程のみを有してもよく、あるいは、第5の工程の後に、さらに上記第2、第3、第4、及び第5の工程と同様の処理を施す一つ又は複数の工程を有してもよい。
[インクセット]
本発明の一実施形態に係るインクセットは、上記実施形態の記録方法(又は記録装置)に用いられる第1インク及び第2インク(さらには第3インク、第4インク、及び第5インク)を含むものである。このインクセットによれば、特に密着性に優れた記録物を記録することができる。
以下、本実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみに限定されるものではない。
[材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。
〔顔料〕
・C.I.ピグメントホワイト6(東洋インキ製造社(TOYO INK MFG. CO., LTD.)製)
・C.I.ピグメントブルー15:4(東洋インキ製造社製)
〔光重合開始剤〕
・DUROCUR TPO(BASF社製)
・DETX−S(日本化薬社製)
〔光重合性化合物〕
・N−ビニルカプロラクタム(BASF社製)
・トリプロピレングリコールジアクリレート(新中村化学工業社製)
・トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学工業社製)
〔界面活性剤〕
・BYK UV3500(ビックケミー・ジャパン社製)
〔重合禁止剤〕
・Irgastab UV10(BASF社製)
また、被記録媒体及び記録装置としては、下記のものを用いた。
〔被記録媒体〕
・PET50A(リンテック社製PETフィルム)
[記録装置]
図1に示すものと同様の基本構成を備える記録装置を用いた。当該記録装置の特徴を下記に列挙する。使用した2つのインクヘッドユニットは、複数個のプリンターヘッドで構成されたノズル解像度720dpiのインクヘッドユニットであった。毎分30mで被記録媒体を搬送し、搬送方向に対して720dpiの解像度でドットを記録した。吐出重量は18ngであった。背景色用及び画像形成用インクの光源として、ピーク波長395nmのLEDを使用した。本硬化の光源は、出力160W/cmの水銀ランプを使用した。第2インクへの仮硬化エネルギーは10mJ/cm2であった。本硬化エネルギーは、300mJ/cm2とした。第1インクへの仮硬化エネルギーは、実施例及び比較例ごとに調整を行い、各例の第1インク層の硬化率となるようにした。
[実施例1〜18、比較例1〜12]
下記表1に示す組成を有するように、インク組成物A、B、C、D、E、F、及びGをそれぞれ調製した(単位:質量%)。
[測定方法]
〔評価1:ブリーディング〕
下記表2〜表7に示す第1及び第2インクの組合せにおいて、第1インク(所定量)を下記表2〜表7に示す硬化率で仮硬化させて得られた第1インク層の上に、第2インクで4ptの文字を印字し、本硬化まで行った。その後、第2インクの滲み具合を目視で観察した。評価基準を下記に示す。また、評価結果を下記表2〜表7に示す。
A:滲みが見られなかった。
B:滲みが見られた。
〔評価2:ハジキ〕
下記表2〜表7に示す第1及び第2インクの組合せにおいて、第1インク(所定量)を下記表2〜表7に示す硬化率で仮硬化させて得られた第1インク層の上に、第2インクをベタ印字し、本硬化まで行った。その後、第2インクのハジキ具合を目視で観察した。評価基準を下記に示す。また、評価結果を下記表2〜表7に示す。
A:はじかないため、ベタ埋まりがよかった。
B:はじくため、ベタが埋まらなかった。
〔評価3:密着性〕
下記表2〜表7に示す第1及び第2インクの組合せにおいて、第1インク(所定量)を下記表2〜表7に示す硬化率で仮硬化させて得られた第1インク層の上に、第2インクをベタ印字し、本硬化まで行った。その後、本硬化まで完了した記録物(印刷物)に、ナイフの切れ込みが被記録媒体の表面に達する碁盤目状(百マス)の切り込みを作成した。セロハン粘着テープをこの碁盤目の上に粘着し、瞬間的に引き剥がしたときの、剥離の程度の結果を下記の基準で評価した。また、評価結果を下記表2〜表7に示す。Cランク以上が使用可能なレベルである。
A:剥離しなかった。
B:1マス剥離した。
C:2マス剥離した。
D:3マス以上剥離した。
〔評価4:黄変〕
被記録媒体(#125−E20、東レ(Toray Industries, Inc.)社製PETフィルム)に、下記表2〜表7に示す第1インク(所定量)を印字して仮硬化させた第1インク層の色相を、被記録媒体の色相と比較することにより色差ΔEを求めた。評価基準を下記に示す。また、評価結果を下記表2〜表7に示す。
A:ΔE<3。
B:ΔE≧3。
なお、表2〜表7中、第2インク吐出直前の第1インク層の硬化率(%)は、第1インク組成物用の光源の出力により調整した。
表2〜表7より、70〜95%の範囲の硬化率で第1インクを硬化した層の上に、第2インクを重ね塗りすることにより、硬化層におけるブリーディング及びハジキの発生を抑制でき、且つインク層間の密着性がより良好になることを見出した。インク層間の密着性がより良好になるということは、画像の耐久性に優れ、且つ下地のホワイトインク層を十分に硬化させることに繋がる。
また、表2〜表7(特に表3)の対比より、第1インク組成物に含まれる光重合開始剤の種類によって、下地のホワイトインク層の黄変の程度が変化することを確認した。黄変の程度から、光重合開始剤としてDUROCUR TPOが極めて優れることが分かった。さらに、表中には記載しなかったが、インクAの方がインクCよりも、インク組成物の硬化率を70〜95%とするのに必要な照射エネルギーが小さくて済むことが分かった。このことから、第1インク組成物の硬化率を70〜95%にするのに必要な照射エネルギーが小さくできる点で、第1インク組成物に光重合開始剤としてDUROCUR TPO等のアシルフォスフィンオキサイド系重合開始剤を含有することが有利であることが分かった。