JP6178628B2 - 断熱金型及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば光学素子、精密部品等の樹脂成形のために用いられる断熱金型及びその製造方法に関する。
微細形状樹脂成形用の金型を用いた近年の射出樹脂成形において、溶融樹脂が金型に深く形成された微細な加工溝に流れ、その形状を正確に転写するためには、断熱金型が有効である。通常の金型では、金属製金型の成形面上で成形される高温の溶融樹脂の熱が金型基材を通って逃げる結果、その樹脂が成形中に必要以上に温度降下することによって起こる樹脂成形の不良が生じるが、断熱金型ではそのような成形不良を効果的に回避することができる。
断熱金型では、金属製金型母材と樹脂の転写面を形成する皮膜の間に、熱伝導性が低く、かつ、強度のある断熱層が配置されている。かかる断熱層としては、断熱効果があり、しかも射出成形等の樹脂成形時の高い成形圧力にも耐える強度を有するセラミックス材料が選択される。とりわけ、酸化ジルコニウム(以下、ジルコニアと記す。)の焼結体の板状部材のほか、ジルコニアの溶射膜等のようなジルコニア結晶を主たる材料として用いた断熱層(以下、ジルコニア断熱層と記す)が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
また、断熱金型においては、複雑かつ微細な形状の転写による樹脂成形を行う要求に対し、ジルコニア断熱層の上部成形側表面には、通常、緻密で機械加工性に富んだ非晶質ニッケルりん合金からなる金属皮膜を無電解めっき法で形成し、この表面層に精密な機械加工が施される。
一般に、樹脂成形の際には、溶融樹脂が金型の金属皮膜表面を流れるため、その金属皮膜表面の温度は溶融樹脂の温度まで上昇する。ところが、上記のように製造された断熱金型においては、その金属皮膜の直下に熱伝導率が低い断熱層が配置されているため、その断熱層の下層にある金属製金型母材に溶融樹脂の熱が伝わりにくくなる。これにより溶融樹脂の温度低下が抑制される結果、高温の溶融樹脂は、金型表面に施された深い溝等の微細加工パターンに低い粘度を維持したまま流れ込むことができるので、そのパターン形状を正確に転写することが可能となる。
ところで、断熱金型の成形面の金属皮膜として、一般にめっき膜からなる金属皮膜が採用されている。例えば、断熱層の成形側表面に、機械加工によって微細パターンを形成し易い無電解ニッケルりん合金のめっき膜から成る金属皮膜を形成し、この表面に機械加工で転写パターンの微細加工がなされた光学素子成形用金型が知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、上記の構成では、光学素子成形において昇温・降温が繰り返されることにより、断熱層(ZrO:熱膨張率10〜11×10−6/℃、熱伝導率1〜1.5W/mK)と表面の無電解ニッケルりん合金のめっき膜(熱膨張率11〜12×10−6/℃、熱伝導率4.0〜7.2W/mK)との熱膨張率の差が生じる結果、二層の境界部分の熱応力に起因して膜剥離が起こるおそれがある。
そこで、そのような剥離を防ぐため、両層の熱膨張率に近く、かつ、両層に材料的になじみの良く、密着性の良い材料を中間層として設けた断熱金型も提案されている。例えば、熱膨張率が13×10−6/Kで熱伝導率20W/mKのNiAl合金で高速フレーム溶射法によってつくられたものが用いられている。あるいは、上記の中間層として、金属とセラミックの混合焼結体の複合材料であるサーメットの溶射膜を用いる方法のほか、断熱層と表面加工層の両者の組成に注目し、膜厚方向に組成の傾斜材料を用いた構成も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
また、断熱層にジルコニア焼結体を用いる金型においても、同様に、成形の度に昇温・降温が繰り返されるときに発生する材料特有の熱膨張率の差によって発生する二層の境界部分の熱応力が原因で膜剥離が起こるおそれを回避するため、まず断熱層の中央部にはジルコニア粒子を焼結して作製した多孔質ジルコニア焼結体を配し、その上部にはニッケル金属粒子とジルコニア粒子の混合粒子を上部ほどニッケル金属粒子を多く混合して傾斜組成の多孔質焼結体を積層し、さらにその上にニッケル金属製のシート材を銀ろう材で接合させ、その上にニッケルりんめっきの皮膜層を形成され、一方、上記の多孔質ジルコニア焼結体の下部には、ニッケル金属粒子の代わりに、金型母材(ステンレス鋼製)と同じ、組成の金属粒子を用いて膜厚方向に組成の傾斜した多孔質焼結体を積層した断熱金型がある(例えば、特許文献4参照)。
特開2004−175112 特許第4135304号 国際公開WO2007/020769 特開2010−194805
しかしながら、ジルコニア断熱層を断熱層として用いた断熱金型を射出成形に用いると、初期は十分な強度があるが、経時的に金型強度が低下するという現象が起こり、製品寿命としては短命になってしまうという問題がある。より具体的には、経時的に断熱層の強度が低下し、最終的には断熱層の崩壊、剥離等が生じてしまう。
本発明者らは、上記の問題が発生する原因の追求した結果、この断熱金型の劣化原因が、断熱膜の材料としてのジルコニア結晶と、その上層に形成された金属皮膜との関係にあることをつきとめた。すなわち、金属皮膜に存在する微量の水分がジルコニアに経時的に作用することによって断熱層が劣化し、ひいては断熱金型の短寿命化を招くことを知見した。
ジルコニア断熱層において、金属皮膜との層間あるいは断熱層中に水分が存在する状態が引き起こされる。とりわけ、細孔が比較的多いジルコニア溶射膜においては細孔中に水分を保持しやすいことから劣化もより顕著となる。
一般に、溶射法は、金属又はセラミックスの粒子を溶融ないしは半溶融状態まで加熱し、それらをノズルから高速で噴射させて素材表面に衝突・堆積させることによって皮膜形成する方法である。通常、高温で溶融されて液体となった原料粒子が溶射された粒子は被覆される基材までの飛翔の間に冷却され、その基材に衝突、同時に扁平化する。扁平化した粒子が次々と堆積することにより成膜されるため、通常の溶射条件で得られる皮膜は、溶射膜特有の積層ラメラ構造が観察できるが、積層ラメラ間には未接合部が存在し、開気孔からなる細孔が多く存在する。このため、セラミック皮膜においては、さらに上記のようなラメラ構造又は開気孔からなる細孔の存在が顕著になる(例えば:福本昌宏、「溶射」 溶接学会誌、第66巻(1999)第8号、617〜633 参照)。
ここで、溶射粒子が堆積する際の下地が極端に高温である場合は、積層ラメラ間で融着が進み、開気孔が塞がった膜を形成できる。これに対し、成形金型母材に使用される鉄鋼材、ステンレス鋼材等は、例えば成形金型でコアの場合は、キャビティー空間のクリアランスを考慮して精密に機械加工されているので、極端に高温にすると精密加工後の金型母材に焼きなましが起こって加工精度が狂うことを避けるために通常は比較的低温で溶射膜が形成される。そのため、溶射膜のラメラ構造に多くの開気孔からなる細孔が存在することになる。いずれにしても、従来の断熱金型に用いる溶射膜については、断熱層のジルコニア膜に加え、その上に形成する金属溶射膜又はサーメット溶射膜からなる密着層膜も多くの開気孔からなる細孔が存在することになる。
一方、ジルコニア断熱層の上部表面には、めっき法でニッケルりん合金の表面加工膜が形成される。その方法は、一般的には以下のa)〜d)の通りである。
a)まず、NaOH水溶液等を用い、被めっき物にアルカリ脱脂を行い、水洗する。
b)次に、塩酸水溶液を用いて表面エッチングを行い、超音波洗浄で十分に水洗する。
c)塩酸酸性の塩化すず水溶液を用いた鋭敏化処理(センシタイジング)と塩酸酸性の塩化パラジウム水溶液を用いた活性化処理(アクチベーティング)を行い、ジルコニア表面にパラジウム触媒粒子を担持する。
d)次に、無電解ニッケルーリンめっき槽に被めっき物を浸漬しめっき処理を行い、めっき膜を形成する。
上記a)〜c)の前処理によって、ジルコニア溶射膜表面に担持されたパラジウム触媒粒子が成長起点となって無電解ニッケルりんめっきの膜が形成される(例えば:鈴木宗明、「合金めっき技術の研究」、茨城県工業技術センター研究報告、第15号(昭和61年度研究報告書)参照)。
従って、ジルコニア断熱層にめっき膜を形成する際に、めっき膜形成工程から入る水分がわずかながらもジルコニア断熱層とニッケルりん合金のめっき膜との間の密閉空間に残存し、特にジルコニア溶射膜の場合はラメラ構造の気孔部分の中に閉じ込められて残存することになる。
ところで、純粋なジルコニア(ZrO)は、その性質として、温度によって三つの異なる結晶構造をとる金属酸化物であって、一般に、温度上昇とともに単斜晶から1100℃で正方晶へ、正方晶から2300℃で立方晶に結晶構造が可逆的に変化する。超高温域から室温までの降温過程において、超高温域で安定な立方晶から高温域で安定な正方晶に相転移するときに約8%の大きな体積収縮を伴い、高温域で安定な正方晶から低温域で安定な単斜晶に相転移するときに、約4%の大きな体積膨張が生じる。そのため、機械的強度が著しく低下する。従って、純粋なジルコニアは通常の用途には使用することが困難である。そこで、一般的には、酸化イットリウム(Y)、酸化カルシウム(CaO)等の安定化剤と呼ばれる物質を純粋なジルコニアに固溶させることによって、ジルコニアセラミックスの作製時に高温層の結晶構造である正方晶又は立方晶を、通常に使用される室温ないしは低温でもそのまま維持させて安定化し、温度降下によって単斜晶への相転移を抑制させる。相転移を完全に防止するまで安定化剤を添加した安定化ジルコニア(立方晶)のほか、安定化剤をより少なくすることで生成させた立方晶と正方晶の混合相からなる部分安定化ジルコニアがあるが、特に機械的強度が要求される用途には、より強度の高いジルコニアセラミックである、正方晶を多く含まれる部分安定化ジルコニア材が用いられている。断熱金型に用いられるジルコニア焼結体又はジルコニア溶射膜も、樹脂成形時の高いプレス圧力に耐えるために通常は部分安定化ジルコニアの結晶相になるように安定化剤が加えられている。
しかしながら、部分安定化ジルコニア焼結体の場合、焼結体中に混在する正方晶ジルコニアの結晶部分は安定化剤によって結晶構造が安定化されるものの、セラミックスにとっては比較的低い温度(例えば温度80〜300℃)で水蒸気を含んだ雰囲気に長時間保持した場合、この雰囲気にさらされた結晶相において、正方晶から単斜晶へと相転移が加速されて変化し、この相転移に伴って大きな体積膨張が起こり、次第に強度劣化するという現象が生じる。
この現象は、ジルコニアセラミックスを形成する酸化ジルコニウム(ZrO)が上記の温度範囲で高温の水蒸気にさらされると、水(HO)と化学反応を起こし、結晶構造中のZr−O−Zr結合が切断し、その部分が水酸化ジルコニウムに化学変化し、これが起点になって、酸化ジルコニウムの結晶粒子の正方晶部分が単斜晶に相転移を促進されることが原因と考えられている。この相転移によって、ジルコニアセラミックス本体の相転移の部分は大きな体積膨張を起こし、ジルコニアセラミックスにマイクロクラックが多量に発生する。さらに、それらのマイクロクラックによってできた隙間に水分が侵入し、隙間内部の表面で再び上記の相転移が進行し、体積膨張によって、新しいマイクロクラックが増殖することになり、ひいてはジルコニアセラミックスそのものが破壊してしまうことによると考えられる。
すなわち、この水分を含む雰囲気で起こる低温劣化現象は、その前兆として、その温度で正方晶から単斜晶に相転移が起こることから始まる。それが、徐々に拡大していくことになってジルコニアセラミックス全体に多量のマイクロクラックが発生することによって、最終的にジルコニアセラミックス本体の破壊を起こす(例えば:四方良一、山本泰次、西川友三、「材料」第39巻、第441号、171〜175ページ参照)。
このようなジルコニア断熱層として用いた断熱金型を用いて樹脂成形を行う際、ジルコニア断熱層とめっき膜からなる金属皮膜との微細な空間に閉じ込められた水分(溶射膜の場合はその気孔内に残って閉じ込められた水分も含む)に接触したジルコニア表面は、高温高圧で注入された溶融樹脂が流れる金型表面層の温度(通常100℃から250℃の範囲の温度)まで高温に加熱され、金型パターンを転写された樹脂成形物を取り出し温度まで冷却され、常圧で取り出すまでのサイクルを、強い圧縮応力で樹脂成形される毎に繰り返され、さらに樹脂成形が終了したら圧力が抜かれ、金型加熱が止められ、室温まで冷却されるという大きな温度の上下に加え、押圧変化にも同時にさらされることになる。この際に、上述したジルコニアと水分(水蒸気)との反応が促進され、内部に生成したマイクロクラックは徐々に拡張し、ジルコニア材の劣化・崩壊が発生・進行することが、上記した断熱金型の寿命が短くなる原因であると考えられる。すなわち、このような状況下で射出成形した場合に、その射出成形圧力によってクラックの進展を促進させて亀裂の拡張を早める。その結果、ジルコニア断熱層が崩れて陥没状態になる。
従って、本発明の主な目的は、ジルコニア断熱層を有する断熱金型におけるジルコニア断熱層の劣化が効果的に抑制ないしは防止された断熱金型を提供することにある。
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する断熱金型が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、下記の断熱金型及びその製造方法に係る。
1. 金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に断熱層を有する金型であって、
(1)前記断熱層はジルコニアを含み、
(2)前記断熱層と前記金属皮膜との間に水分遮断層が配置されており、
(3)水分遮断層が、互いに組成が異なる複数の層から構成されている、
ことを特徴とする断熱金型。
2. 水分遮断層が金属単体又は合金から形成されている、前記項1に記載の断熱金型。
3. 水分遮断層が、銅、鉄、チタニウム、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン及びこれらを含む合金の少なくとも1種から形成されている、前記項2に記載の断熱金型。
4. 水分遮断層が、断熱層に接するように断熱層上に形成された第1水分遮断層と、第1水分遮断層に接するように第1水分遮断層上に形成された第2水分遮断層とを含む、前記項1に記載の断熱金型。
5. 第1水分遮断層が、チタニウム、タンタル、クロム、モリブデン及びタングステン、鉄及びこれらを含む合金の少なくとも1種から形成されている、前記項4に記載の断熱金型。
6. 第2水分遮断層が、銅、鉄及びこれらを含む合金の少なくとも1種から形成されている、前記項4又は5に記載の断熱金型。
7. 第1水分遮断層の厚みが0.02〜0.8μmである、前記項4〜6のいずれかに記載の断熱金型。
8. 第2水分遮断層の厚みが1〜20μmである、前記項4〜7のいずれかに記載の断熱金型。
9. 水分遮断層が物理的気相成長法によって形成されてなる、前記項4〜8のいずれかに記載の断熱金型。
10. 水分遮断層が、断熱層の上面及び側面を取り囲むように形成されている、前記項4〜9のいずれかに記載の断熱金型。
11. 前記断熱層がジルコニア焼結体からなる、前記項4〜10のいずれかに記載の断熱金型。
12. 前記断熱層が溶射法により形成されてなる、前記項4〜10のいずれかに記載の断熱金型。
13. 樹脂成分を含む組成物の成形のために用いる、前記項1〜12のいずれかに記載の断熱金型。
14. 前記項1に記載の断熱金型を製造する方法であって、
(1)金属製金型母材の成形面側の表面にジルコニアを含む断熱層を形成する工程、
(2)断熱層の表面上に水分遮断層を物理的気相成長法によって形成する工程、
(3)水分遮断層の表面上に金属皮膜をめっき法によって形成する工程及び
(4)金属皮膜の表面に機械加工を施すことにより樹脂成形のための転写形状表面を形成する工程、
を含み、かつ、
前記(1)の工程において、
(1−1)金属製金型母材の成形面側の表面に接着層を配置する工程、
(1−2)接着材の上からジルコニア焼結体を配置する工程及び
(1−3)ジルコニア焼結体を加熱下で加圧することにより接着層を介して断熱層を形成する工程を含む、
ことを特徴とする断熱金型の製造方法。
15. 前記(1)の工程において、
(1−1)金属製金型母材の成形面側の表面に接着層を溶射法により形成する工程及び
(1−2)接着層の上から溶射法によりジルコニアを含む断熱層を形成する工程
を含む、前記項14に記載の製造方法。
本発明によれば、ジルコニア断熱層を有する断熱金型におけるジルコニア断熱層の劣化が効果的に抑制ないしは防止された断熱金型を提供することができる。より具体的には、例えばジルコニア焼結体、ジルコニア溶射膜等が断熱層として適用された断熱金型において、同じタイプの従来の断熱金型と比較して、本発明の断熱金型では水分遮断層を有する特定の構造が採用されていることから、ジルコニア断熱層の強度の経時劣化が原因で起こる金型表面の凹みの発生等が起こり難くなり、断熱金型として長寿命化を図ることができる。
特に、例えば成形面を構成する金属皮膜が湿式プロセスであるめっき法で形成されたときでも、ジルコニア断熱層は水分遮断層を介して完全に隔離された状態になるので、ジルコニア断熱層への水分の侵入を効果的に抑制ないしは防止できる。これにより、低温劣化の引き金となるジルコニア断熱層のジルコニア結晶表面への水分吸着を防ぐことができる。その結果、樹脂成形に際して、一つの金型の成形繰り返し使用の回数が格段に増加させることができ、ひいては断熱金型の長寿命化によりランニングコストの低減化を図ることが可能になる。
特に、水分遮断層の形成に物理的気相成長法(とりわけスパッタリング法)を採用する場合には、まず、スパッタリング膜形成の準備工程において、下地となるジルコニア断熱層の凹凸表面又は開気孔の細孔内部に存在していた水分は、スパッタリング装置内において真空排気時に完全に排気除去されるので、下地のジルコニア断熱層は十分に乾燥されることから、ジルコニア断熱層の劣化をより効果的に抑制することができる。
また、水分遮断層として、酸化されて強固な酸化物皮膜を表面に形成し易い金属皮膜からなる第1水分遮断層と、導電性金属皮膜からなる第2水分遮断層から構成されるような場合は、特に第2水分遮断層は、スパッタリング法による薄膜特有の圧縮応力がかかったままの金属膜であるため、薄くても緻密な膜を形成でき、より高い水分遮断効果を発揮することができる。
さらに、第1水分遮断層として、酸化物セラミックスであるジルコニアと水分遮断層の間に酸化されて強固な酸化物皮膜を作りやすい金属膜(例えばチタニウム(Ti)等)を形成することによって、例えばジルコニア断熱層の表面に存在するジルコン原子−酸素原子結合(Zr−O)に第1水分遮断層の金属原子(例えばTi)が付いて、Zr−O―Ti結合ができ、ジルコニア断熱層表面と強固に接合できる。一方、上記の第1水分遮断層とその上の良導電性金属膜からなる第2水分遮断層は、スパッタリング法で形成される場合は、金属どうしの強固な接合が得られる。
加えて、断熱層の上層にある第2水分遮断層は導電性金属膜である場合、電解めっき法のニッケルストライクめっきも実施可能になり、無電解めっき膜の強固なニッケル下地層ができる。その上層として、相性の良い非晶質ニッケルりん合金の無電解めっき膜を連続して形成できるので、精密加工表面を形成する金属皮膜は水分遮断層に対して強固な接合形成が可能になる。
このように、スパッタリング法での上記二層構成からなる水分遮断層を形成することにより、ジルコニア断熱層から金属皮膜まで高い密着性が確保でき、樹脂成形作業における温度サイクルに対しても耐え得る性能を確保できることになる。その結果、長期の成形作業における断熱金型の信頼性をよりいっそう高めることが可能となる。
以上のような特徴を有する本発明の断熱金型は、特に微細形状を有する樹脂成形体の製造に好適である。従って、例えば光学部品(レンズ、プリズムシート、導光板、CD・DVDディスク等の光ディスク)等の製造にも有用である。
本発明の実施例1における断熱金型の概略断面図である。 本発明の実施例1における断熱金型の作製工程を示す図である。 本発明の実施例1における断熱金型の構成の評価用試料と従来の断熱金型の構成の評価用試料の概略断面図である。 本発明の実施例1における断熱金型構成の評価用試料と従来金型構成の評価試料の劣化評価試験前後のX線回折パターンを示す図である。 本発明の実施例1における断熱金型の評価用試料の密着強度試験装置の概略図である。 本発明の実施例14における断熱金型の断面の概略図である。 本発明の実施例14における断熱金型の作製工程を示す図である。 本発明の実施例14における断熱金型の構成の評価用試料と従来の断熱金型の構成の評価用試料の概略断面図である。 本発明の実施例14における断熱金型構成の評価用試料と従来金型構成の評価試料の劣化評価試験前後のX線回折パターンを示す図である。 本発明金型を用いて溶融樹脂を成形する場合の工程例を示す図である。 本発明金型の構成例を示す概要図である。
1、31 断熱金型
2、32 金属製金型母材
2a 中心領域
2b 周囲領域
2c 側壁部
3、13、33、43 接着層
4、34、44 断熱層
5、15、35、45 第1水分遮断層
6、16、36、46 第2水分遮断層
7、17、37、47 水分遮断層
8、18、38、48 第1金属皮膜
9、19、39、49 第2金属皮膜
9a、39a 精密加工表面
10、20、40、50 金属皮膜
11a、21a、41a、51a 第1試料
11b、21b、41b、51b 第1比較試料
12 下地基板部品
14 断熱基板
22 角柱部品
23 測定台
24 支柱
25 滑車
26 ワイヤロープ
27 重り
44 金属製基板
101 固定型
102 可動型
103 樹脂
1.断熱金型
本発明の断熱金型(本発明金型)は、金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に断熱層を有する金型であって、
(1)前記断熱層はジルコニアを含み、
(2)前記断熱層と前記金属皮膜との間に水分遮断層が配置されている、
ことを特徴とする。
上記のように、本発明金型は、金属製金型母材/断熱層/水分遮断層/金属皮膜という基本構造を有するものであるが、必要に応じて他の層が含まれていても良い。なお、本明細書では、特にことわりのない限り、「金属」は、金属単体に加え、合金、金属間化合物等も含む意である。
本発明金型の構成例の概要図を図11に示す。金属製金型母材2の成形面側の上面の周囲領域2bを残して中心領域2a上に断熱層4が形成されている。図11では、中心領域2aは周囲領域2bよりも高い位置に形成されているが、同じ高さに設定することもできる。この場合、例えば図11に示すように、中心領域2aの周囲に側壁部2cを形成し、その内部空間(凹部)に断熱層4を収容するようにしても良い。側壁部2cを形成することによって、断熱層4が外気に晒されないようにできる結果、断熱層4の断熱効果(保温効果)をより高めることができる。また、図11では側壁部2cが形成されているが、本発明金型では側壁部が形成されていても、形成されていなくても良い。さらに、図11では周辺領域2bが形成されているが、本発明金型では周辺領域を設けても良いし、あるいは設けなくても良い。
断熱層4上には水分遮断層7が形成される。図11に示すように、水分遮断層による水分遮断効果をより高めるため、断熱層4の上面及び側面を取り囲むように水分遮断層7を形成することが望ましい。この場合、図11では、断熱層4の側面と水分遮断層7との間には両層に接するように前記側壁部2cが介在しているが、側壁部2cを形成しない場合は、断熱層4の側面と水分遮断層7とが互いに接するように配置されることになる。また、水分遮断層7の両端部は、その水分遮断効果をより高めるべく、図11に示すように断熱層4の下面より低い位置まで延伸されていることが望ましい。
水分遮断層7の上には金属皮膜10が形成される。図11では、金属皮膜10も水分遮断層7に追従するようなかたちで断熱層4の上面及び側面を取り囲むように形成されているが、必要に応じて断熱層4の上面のみに金属皮膜10を形成することもできる。金属皮膜10の上面(成形面)には、所定の凹凸形状からなる精密加工表面9aが形成されている。
以下において、本発明金型の基本構造をなす金属製金型母材、断熱層、水分遮断層及び金属皮膜の各層について説明する。
金属製金型母材
金属製金型母材は、金属から構成されていれば良く、公知又は市販の金型で用いられる材質と同じものであっても良い。例えば、鉄、アルミニウム、銅等の金属(金属単体)、
炭素鋼、ステンレス鋼、銅合金、チタン合金等の合金等が挙げられる。また、金属製金型母材は、溶製材又は焼結体のいずれであっても良い。特に、本発明では、高い硬度と良好な加工性とを有することから金属製金型母材として鉄系金属を用いることが好ましい。すなわち、金属鉄及び鉄合金の少なくとも1種の鉄系金属を用いることが好ましい。鉄合金としては特に限定されず、例えば炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)、クロムモリブデン鋼等を好適に用いることができる。
また、金属製金型母材の成形面側は、平面又は曲面のいずれの形状をなしていても良く、また最終成形体に付与すべき微細形状の反転型となっていても良く、目的とする成形体の形状に応じて適宜構成することができる。例えば、特に金型が深い凹部(溝部)を必要とする場合は、金属製金型母材の成形面側に予め成形面に転写すべき形状の反転型又はそれに類似する形状(凹部)とすれば良い。
水分遮断層
本発明における水分遮断層は、特に断熱層への水分の侵入ないしは接触(とりわけ金属皮膜から断熱層への水分の侵入ないしは接触)を防止するためのものであり、かかる機能を果たす限り、その材質等は特に限定されない。本発明では、物理的気相成長法(特にスパッタリング法)で形成しやすく、なおかつ、その上層に金属皮膜を形成しやすいという点で金属単体又は合金から形成されていることが望ましい。より具体的には、銅、鉄、チタニウム、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン及びこれらを含む合金の少なくとも1種から水分遮断層が形成されていることが望ましい。
水分遮断層の厚みは限定的ではないが、通常は1〜50μm程度とし、特に1〜30μmとすることが好ましい。この範囲内において、より優れた水分遮断効果を得ることができる。
本発明では、水分遮断層は、単層から構成されていても良いし、互いに組成が異なる複数の層から構成されていても良い。具体的には、断熱層の表面上に単層として水分遮断層を直接的に形成しても良いし、あるいは第1水分遮断層と第2水分遮断層とを含む二層構成とした上で断熱層と第2水分遮断層との間に接合膜(下地層)として第1水分遮断層を介在させた構成であっても良い。この水分遮断層は、金属製金型母材上に形成されたジルコニア断熱層と金属皮膜の間に両者に接して形成されることが望ましい。例えば、図1に示すように、水分遮断層7が、断熱層4に接するように断熱層4上に形成された第1水分遮断層5と、第1水分遮断層5に接するように第1水分遮断層5上に形成された第2水分遮断層6とから構成される構造を好適に採用することができる。
前記のような二層構成をとる場合、各水分遮断層の組成・構成は、所望の水分遮断性能等に応じて適宜設定することができる。
まず、第2水分遮断層の組成は、導電性の高い金属から構成されている限り、特に限定されず、スパッタリング法によって緻密な膜が形成し易く、かつ、電解めっき法で強固な金属めっき膜が形成し易い良導電性の金属材料等を用いることができる。本発明では、特に銅、鉄及びこれらを含む合金の少なくとも1種から形成されていることが好ましい。第2水分遮断層の導電性金属膜の厚みは、それを構成する金属元素の種類、断熱層の厚み、表面の凹凸性等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は2〜20μm程度の範囲内とすれば良い。かかる範囲内に設定することによって、より効果的な水分遮断効果を得ることができる。
第1水分遮断層は、特に下地層(例えば、断熱層を含む下地層)との接合膜としての役割を果たすように、酸化されて強固な酸化物皮膜を表面に形成し易い金属が好ましい。より具体的には、チタニウム、タンタル、クロム、モリブデン及びタングステン、鉄及びこれらを含む合金の少なくとも1種から第1水分遮断層が形成されていることが望ましい。第1水分遮断層の厚みは、それを構成する金属元素の種類、断熱層の表面の凹凸性等に応じて適宜設定すれば良いが、上記役割からみて、通常は0.02〜0.8μm程度の範囲内とすれば良い。
水分遮断層は、特に水分が実質的に存在しない状態で成膜することができる物理的気相成長法によって形成することが望ましい。この中でも特にスパッタリング法により形成することがより望ましい。スパッタリング法では、真空雰囲気下で実施されるスパッタ装置内で形成するので、ジルコニア断熱層の表面凹凸部分又は開気孔からなる細孔内は完全に真空乾燥された状態で水分遮断層を形成することができる。また、下地のジルコニア断熱層の表面及び側面に対して、第1水分遮断層の金属膜を形成した後、その上に導電性金属膜からなる第2水分遮断層をジルコニア断熱層の露出部分を完全に覆い隠す厚みまで形成される。これによって、これに続く断熱金型の製造工程でのめっき水溶液を用いためっき法による金属皮膜形成工程において、ジルコニア断熱層の表面とめっき液は完全に隔離された状態になるので、樹脂成形時において、ジルコニア断熱層の劣化の起点となり、その劣化を促進する水分(水蒸気)の影響を全く受けない断熱金型を提供できることになる。
金属皮膜
金属皮膜は、金属から構成されていれば良く、公知又は市販の金型の成形面に採用されている材質と同じものであっても良い。例えば、鉄、ニッケル、銅、クロム等の金属、ニッケルりん合金、ニッケルホウ素、ニッケルタングステンりん合金、ニッケル銅りん合金等の合金等が挙げられる。
また、金属皮膜の構成は、単層であっても良く、また多層であっても良い。例えば、断熱層と金属皮膜との密着性(接合性)をより高めるために、金属皮膜を第1金属皮膜及び第2金属皮膜からなる2層構成とし、水分遮断層と第2金属皮膜との層間に接着層(下地層)として第1金属皮膜を介在させることができる。より具体的には、当該水分遮断層上に形成された金属めっき膜(第1金属皮膜)及び前記金属めっき膜上に形成された微細加工金属膜(第2金属皮膜)からなる構成を採用することができる。この場合は、水分遮断層を構成する材質によらずに、成形面を構成する層として表面に微細加工(凹凸面)を施した微細加工金属膜(第2金属皮膜)を密着性良く形成することができる。
金属皮膜の形成方法として、例えば採用する金属種、下地となる層の組成等に応じて公知の方法を採用することができる。例えば、電解めっき、無電解めっき等のめっき法(液相成長法);熱CVD、MOCVD、RFプラズマCVD等の化学的気相成長法;スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、真空蒸着法等の物理的気相成長法等の各種の公知の薄膜形成方法を1種又は2種以上組み合わせて適宜採用することができる。特に、本発明では、断熱層に水分による影響を与えやすいめっき法も好適に採用することができる。つまり、本発明の断熱金型では、水分遮断層を有するので、水分に起因するジルコニア断熱層の劣化を効果的に抑制ないしは防止することができることから、めっき法によるデメリットを受けることなく、樹脂成形を行うことができる。他方、めっき法は、コスト面等において他の方法よりも有利であることから、樹脂成形のコストにもそれを反映させることが可能となる。このため、本発明では、めっき法として、特に、水を含むめっき液を用いる湿式プロセスであるめっき法も好適に採用することができる。
金属皮膜が多層構造をとる場合は、各層の形成方法が異なっていても良く、前記で示した薄膜形成方法の中から適宜組み合わせて採用することができる。例えば、接着層(下地層)としての第1金属皮膜とその上に形成された第2金属皮膜から構成されるような場合は、次のような方法で各層を形成することができる。例えば、水分遮断層上に、ストライクめっき膜のように電解めっき法で形成された金属めっき膜(第1金属皮膜)を形成し、さらに、その金属めっき膜上に厚い微細加工金属膜をめっき法により形成することができる。このような構成をとることにより、水分遮断層と金属皮膜との接合強度をより高めることができる。
成形面の作製方法も限定的でなく、公知の断熱金型の場合と同様にすれば良い。例えば、金属皮膜表面を切削加工等の機械的加工を施すことによって所定の形状(凹凸形状)からなる成形面を形成することができる。
本発明金型における金属皮膜の厚み(多層構造の場合は各層の合計厚み)は特に限定的ではないが、通常は20〜300μm程度とし、特に50〜150μmとすることが好ましい。多層構造の場合の各層の厚みは、層の数、各層の材質等に応じて適宜設定すれば良い。
断熱層
本発明金型における断熱層は、金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に形成されている。これにより、溶融している成形材料のもつ熱が金属製金型母材に急速に奪われる現象を効果的に抑制ないしは防止することができる。
断熱層は、強度が高くかつ断熱効果の高い材料の皮膜として、ジルコニア(ZrO)を含む層からなる。特にジルコニアは、機械的強度等の点からみて結晶体(多結晶体)から構成されることが好ましい。かかる見地より、ジルコニアとしては、特にCaO、MgO、CeO、Y、HfO等の酸化物を安定化剤として含む安定化ジルコニア(特に立方晶ジルコニア結晶体)、部分安定化ジルコニア(特に立方晶及び正方晶の混合相からなるジルコニア結晶体)等を好適に用いることができる。特に、より高い機械的強度を達成することができる部分安定化ジルコニアがより好ましい。断熱層中におけるジルコニアの含有量は限定的ではないが、断熱層中80〜100重量%、特に90〜100重量%とすれば良い。従って、例えばジルコニア100重量%の断熱層を好適に用いることができる。このような断熱層としては、例えばジルコニア焼結体、ジルコニア溶射膜等のジルコニア材を適用することができる。すなわち、予め作製されたジルコニア焼結体を取り付ける方法、溶射法によってジルコニア膜を形成する方法等によって断熱層を形成することができる。このようなジルコニア材の適用は、公知の断熱金型の場合と同様にすれば良いが、前記ジルコニア焼結体の場合は例えば金属製金型母材の表面に板状のジルコニア焼結体を接着層を介して形成する方法、前記ジルコニア溶射膜の場合は金属製金型母材の表面に直接に溶射法によって形成する方法又はその金属製金型母材表面に予め密着性を高める目的で形成された接着層を介して溶射法によって形成する方法等を好適に採用することができる。
また、断熱層の厚みは、特に限定されないが、例えば50μm〜100mmの範囲内において、例えば用いる成形材料の種類、所望の断熱性等に応じて適宜設定すれば良い。
断熱金型の使用
本発明の断熱金型は、公知又は市販の金型と同様にして用いることができる。また、金型を用いて成形する場合の成形条件等も公知の方法に従って実施することができる。
本発明金型を用いて成形する場合は、金型の成形空間を構成する一部又は全部として本発明金型を用いることができる。例えば、固定型と可動型の2つの型により形成された成形空間に射出成形することにより成形する場合は、固定型及び可動型の少なくとも一方に本発明金型を採用することができる。また、市販の金型(成形装置)の一部又は全部を本発明金型に取り替えるだけでも、本発明金型による成形を実施することができる。
固定型と可動型からなる金型において、可動型として本発明金型を用いて成形材料を成形する工程例の模式図を図10に示す。図10では、成形装置として固定型101及び可動型102から構成される金型が使用される。固定型と可動型との間の空間(成形空間)に成形材料として樹脂103を溶融状態で射出して導入した後、図に示すように保圧したままで、樹脂103を冷却する。その後、可動型102を下降させて金型を開き、離型した後、所望の成形樹脂を回収すれば良い。この場合、可動型102として本発明金型を採用しており、本発明金型の成形面に所定の形状が付与されている。そして、本発明金型の断熱層により、溶融樹脂が射出され、金型の成形空間に導入された段階でも溶融樹脂の熱が急激に金型に奪われることなく、低い粘度が保たれた状態にて成形面に付与された凹凸又は溝部に溶融樹脂がくまなく行きわたる結果、その形状が樹脂側に忠実に転写される。これにより、微細な形状が正確に再現された成形品を得ることができる。
成形材料
本発明の断熱金型では、それに用いられる材料(成形材料)は制限されないが、特に樹脂成分を含む組成物(特に樹脂成分を主成分として含む樹脂組成物)の成形(射出成形等)に好適である。
例えば、樹脂成形にも好適に用いることができる。樹脂成分(特に合成樹脂)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等の熱可塑性樹脂のほか、ポリシクロオレフィン等を好ましい例として挙げることができる。樹脂成分以外の成分として、例えばフィラー、着色材、紫外線吸収材、帯電防止剤、難燃剤等も、必要に応じて上記組成物中に含まれていても良い。
2.断熱金型の製造方法
本発明金型の製造方法は、上記1.で示したような各層の形成方法に従って実施することができる。特に、本発明では、
(1)金属製金型母材の成形面側の表面にジルコニアを含む断熱層を形成する工程(断熱層形成工程)、
(2)断熱層の表面上に水分遮断層を物理的気相成長法によって形成する工程(水分遮断層形成工程)、
(3)水分遮断層の表面上に金属皮膜をめっき法によって形成する工程(金属皮膜形成工程)及び
(4)金属皮膜の表面に機械加工を施すことにより樹脂成形のための転写形状表面を形成する工程(成形面形成工程)、
を含むことを特徴とする断熱金型の製造方法によって、本発明金型を好適に製造することができる。
断熱層形成工程
断熱層形成工程では、金属製金型母材の成形面側の表面にジルコニアを含む断熱層を形成する。ジルコニアを含む断熱層の材質等は前記1.で示したものを採用することができる。特に、ジルコニア焼結体又はジルコニア溶射膜を適用する方法を採用することが望ましい。
また、本発明では、ジルコニアを含む断熱層と金属製金型母材との密着性を高めるために接着層を介して断熱層を形成することが好ましい。接着層の材質は、金属製金型母材の材質等に応じて公知又は市販の接着材から適宜選択することができるが、例えば各種の金属又は合金からなるろう材等を好適に用いることができる。
断熱層を形成する方法として、ジルコニア焼結体を適用する場合は、(1−1)金属製金型母材の成形面側の表面に接着層を配置する工程、(1−2)接着層の上からジルコニア焼結体を配置する工程及び(1−3)板状ジルコニア焼結体を加熱下で加圧することにより接着層を介して断熱層を形成する工程を含む方法を採用することが望ましい。
断熱層を形成する方法として、ジルコニア溶射膜を適用する場合は、(1−1)金属製金型母材の成形面側の表面に接着層を溶射法により形成する工程及び(1−2)接着層の上から溶射法によりジルコニアを含む断熱層を形成する工程を含む方法を採用することが望ましい。
これらの方法としてより具体的には、特に下記の方法で実施することが望ましい。すなわち、1)金属製金型母材の成形面側の表面に銀ろう材等のシート状の接着材を配置し、さらに接着材の上に密着して断熱層の板状ジルコニア焼結体を配置し、積層方向に加圧・加熱しながら接着する方法、又は2)金属製金型母材の成形面側の表面に溶射法でニッケル・クロム・アルミ・イットリウム合金等の接合材を形成し、さらに該接合材の上に溶射法でジルコニア溶射膜を形成する方法によって、ジルコニアを含む断熱層を形成することが好ましい。
水分遮断層形成工程
水分遮断層形成工程では、断熱層の表面上に水分遮断層を物理的気相成長法によって形成する。水分遮断層の材質等は前記1.で説明した通りである。また、図11で示したように、より確実に水分遮断効果を得るため、断熱層の露出面をすべて覆うように水分遮断層を形成することが望ましい。
物理的気相成長法(PVD法)としては限定的ではなく、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、真空蒸着法等が挙げられるが、特にスパッタリング法が好ましい。スパッタリング法によれば、水分遮断層は、スパッタリング装置の真空容器内で形成されることから、ジルコニア断熱層の凹凸表面の吸着水が除去できるほか、断熱層が開気孔からなる細孔を有する場合でも、その細孔内までも完全に真空乾燥されて水分を除去できる。スパッタリング法は、公知又は市販のスパッタリング装置を用いて実施することができる。特に、本発明では、DCマグネトロンスパッタリング装置あるいはRFマグネトロンスパッタリング装置が好ましく、スパッタリングの条件も限定的ではないが、特に不活性ガスにアルゴンを用い、真空度は0.2〜2.0Paにて、基板加熱温度50〜300℃という条件を採用することが望ましい。
水分遮断層は単層から構成されていても良いし、多層から構成されていても良い。特に、上記の水分遮断層は、ジルコニア断熱層と強固な密着を目的とする第1水分遮断層と、水分の透過の防止効果と後に続くめっき膜形成を促す良導電性とを有する第2水分遮断層からなることが好ましい。
すなわち、上記水分遮断層を形成する工程が、断熱層との接合膜からなる第1水分遮断層をスパッタリング法を用いて形成する工程と、導電性金属膜からなる第2水分遮断層をスパッタリング法を用いて形成する工程からなる複合工程とすることが望ましい。
第1水分遮断層としては、特に、酸化されて強固な酸化物皮膜を表面に形成し易い金属が好ましい。例えば、チタニウム(Ti)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等あるいはこれらの合金が好ましい。第1水分遮断層である接合膜の厚みは、第1水分遮断層を構成する金属元素の種類、断熱層の厚みや表面の凹凸性等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は0.02〜0.8μm程度の範囲内とすれば良い。
また、第2水分遮断層としては、導電性の高い金属から構成されている限り、特に限定されず、スパッタリング法によって緻密な膜が形成し易く、かつ、電解めっき法で強固な金属めっき膜が形成し易い金属等を用いることができる。特に、導電性金属膜の組成としては、例えば銅、鉄の金属単体のほか、銅合金、鉄合金等の合金を好適に採用することができる。第2水分遮断層の厚みは、第2水分遮断層を構成する金属元素の種類、断熱層の表面の凹凸性等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は2〜20μm程度の範囲内とすれば良い。
金属皮膜形成工程
金属皮膜形成工程では、水分遮断層の表面上に金属皮膜をめっき法によって形成する。この場合、上記導電性金属膜の表面にめっき法を用いて金属皮膜を形成する工程は、公知の方法に従って実施することも可能であるが、特に下記の方法で実施することが望ましい。すなわち、水分遮断層をなす導電性金属膜を電極にして下地電気めっき膜を形成後、無電解めっき法によって金属皮膜を形成する方法が望ましい。ここで、下地電気めっき膜の形成方法として、特にNiストライクめっき法が望ましい。また、その表面に無電解めっき法で形成する金属膜としては、特にニッケルりん合金めっき膜が好ましい。前記のストライクめっき法又は無電解めっき法の条件等は公知の方法に従えば良い。
成形面形成工程
成形面形成工程では、金属皮膜の表面に機械加工を施すことにより樹脂成形のための転写形状表面を形成する。機械加工は、公知の方法に従って実施すれば良く、例えば公知又は市販の精密切削加工機等を用いて金属皮膜の表面に所望の形状(凹凸形状)を付与することができる。
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
実施例1
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
図1には、本実施例1のジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ本発明の断熱金型1の構成を示す断面図を示す。断熱金型1は、精密な微細加工形状をもつ樹脂製部品の成形加工に用いられる金型であり、互いに直径が異なる2つの円柱が同じ中心軸上に積み重なった形状を有している。すなわち、下端が高さ7.5mmの低背の円柱(直径40.0mm)になっていて、その上が高さ32.6mmの円筒(直径35.0mm)が積み重なった形状をなしている。
金属製金型母材2の材料として、高い硬度を有するステンレス鋼を用いた。金属製金型母材2は、高さ7.5mmの低背の円柱を含めた底面からの高さが40.0mmで成形面側は直径が35.0mmの円筒形(高さ32.5mm)であり、かつ、外周から幅1.5mmの部分が残るように、上面は、中心部の円板状部分(直径32.0mm、深さ0.34mm)が削られた凹部の形状になっている。前記の凹部の内部空間に銀ろう合金からなる接着層3(厚さ0.04mm)を介してジルコニア焼結体からなる断熱層4(厚さ0.30mm)が配置・固定されている。さらに、その表面を覆い隠すように水分遮断層7が配置され、その上に金属皮膜10が配置されている。上記の水分遮断層7は、断熱層4に接する側に下部の酸化物表面(ジルコニア焼結体表面及びステンレス鋼の不動態膜表面)との密着向上の目的でチタンからなる接合膜である第1水分遮断層5(膜厚0.2μm)と、その上部層として高電気伝導性を示す銅からなる第2水分遮断層6(膜厚2μm)とが形成されている。第2水分遮断層6の上に金属皮膜10が形成されている。上記の金属皮膜10は、ニッケルからなるめっき下地膜である第1金属皮膜8(厚さ2μm)と、さらにその上に形成された非晶質ニッケルりん合金からなる微細加工用金属膜である第2金属皮膜9(最大厚さ100μm)から構成されている。この第2金属皮膜9の成形面側は、最大深さ28μmの樹脂成形用微細パターンが精密機械加工により形成された精密加工表面9aになっている。
上記構成によれば、熱伝導率が低い断熱層をなす板状のジルコニア焼結体が断熱金型の製造工程中の金属皮膜形成時のめっき工程で水分に触れることがないため、ジルコニア焼結体の劣化(低温劣化等)を抑制することができる。このため、かかる断熱金型を用いる場合、微細なパターンをもつ良好な樹脂成形を長期にわたり実施することが可能になる。
図2には、本発明の断熱金型1の製造工程を示す。前記した寸法より少し大きめに外形加工したステンレス鋼製の金型母材2を準備した。すなわち、金属製金型母材2は、中心軸が同じ2つの円柱が重なった構造であり、下側が高さ7.7mmの低背の円柱(直径40.2mm)で、その上に高さ32.4mmの円柱(直径35.2mm)が積み重なった構造になっている。さらに、上面は、中心軸が同じであって、高さ0.34mmの低背の円柱(直径32.0mm)が削られた凹部が形成された形状となるように機械加工されている。さらに、同じ上面から0.5mmの幅で、同じ中心軸を合わせて半径34.8mmの外側の外周部分を除くように段付き研削加工されている。金属金型母材2の成形面側に形成した凹部(深さ0.34μm、直径32.0mm)に、シート状の銀ろう合金材(31mm径、厚さ0.05mm)を挿入した(図2(1))。
その上に、予め片面がメタライズされた円板形状の部分安定化ジルコニア焼結体(組成:ZrO/Y/HfO=96.0/3.1/0.9(mol%比)、大きさ:直径31.5mm×厚さ0.30mm)を準備し、メタライズ面を下面にして配置し,金型成形面に平行に加圧しながら真空炉を用いて750℃で熱処理することにより、板状のジルコニア焼結体からなる断熱層4を接着層3を介して金属製金型母材2と接合した。この時、金型成形面からはみ出た銀ろう合金は機械加工で除去した。さらに、上記の熱処理によって発生した歪み分を修正するために、図1に示した金属製金型母材の外形寸法に精密機械加工した(図2(2))。
次に、遊星回転機構を有し、2種類の6インチ径ターゲットを設置できる逆スパッタリング機能付の2元高周波マグネトロンスパッタリング装置を用いて、断熱膜4の表面に下記のようにして水分遮断層7を形成した(図2(3))。すなわち、断熱膜4まで形成された金属製金型母材については、まず、断熱層4が接着された金属製金型母材2の円柱側面において段付き加工した上面部分を除いて、その下部をマスクした。次に、スパッタリング装置内において、ターゲットに対して角度30°でこの金属製金型母材を基板ホルダに取り付け、その基板ホルダを遊星回転させながら、以下のようにしてジルコニア焼結体の表面に二層積層スパッタリング膜を形成した。まず、予め金属チタンのターゲット及び金属銅のターゲットを設置したスパッタリング装置中において、洗浄済みのジルコニア焼結体まで形成された金属製金型母材を基板ホルダに取り付け、真空排気しながら、150℃で1時間加熱した後、さらにスパッタリング膜を形成すべき金属製金型母材の表面に対し、スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用いて、真空度8Paで逆スパッタリングを行い、表面クリーニングを行った。その後、基板ホルダごと遊星回転させながら、まず金属チタンのターゲットを用いて真空度0.6Paにてスパッタリング投入電力2kWで2分間スパッタリングすることにより、第1水分遮断層(チタン)5を0.2μmの厚さで形成した。さらに、金属銅のターゲットを用いて、同じ真空度でスパッタリング投入電力2kWにて2分30秒間スパッタリングすることにより、厚さ1μmの緻密な第2水分遮断層(銅)6を連続して形成し、これら二層構成からなる水分遮断層7とした。なお、それぞれの水分遮断層の膜厚は、基板ホルダに取り付けたガラス基板上に成膜時間を変えて形成したそれぞれの膜の厚みと成膜時間の関係の検量線を作成し、スパッタリング形成した時間からその検量線に沿って決めた。ここで、上記の水分遮断層7の形成にスパッタリング装置を用いた理由としては、成膜前に下地の断熱層の表面に吸着していた大気中のわずかな水蒸気をも十分に除去するためである。さらに、金属チタン膜は、酸素の存在下で強固な酸化膜を形成し易いというチタンの性質を利用して、第1水分遮断層5のチタン膜は直下の酸化物からなる断熱層材料の組成の酸素成分に反応して界面のチタン膜が酸化されることによって密着強度を高める目的で形成したものである。さらに、その上の第2水分遮断層6の銅膜は、その下地のチタン膜と接合がなされて密着強度を高めると同時に、その膜厚の厚さによって、断熱層表面を完全に覆い隠す役割を担っている。つまり、第2水分遮断層6は、その後のめっき工程において、断熱層4のジルコニア焼結体へのめっき液の侵入を完全に遮断することが可能になる。さらに、その高電気伝導性から、めっき法によって上部に形成される金属皮膜層10を強く密着させて均一に成膜する役割を併せ持つ。
次に、ニッケルストライクめっき法によって、厚さ2μmの第1金属皮膜層8(ニッケル)を被覆した。さらに、無電解ニッケルめっき法によって厚み250μmの精密加工用の第2金属皮膜層9(非晶質ニッケルりん合金)を形成した。このようにして、第1金属皮膜層8とその上の第2金属皮膜層9からなる金属皮膜層10を作製し、200℃で3時間熱処理した(図2(4))。
その後、精密切削加工機を用いて、金属皮膜層10をまず金属製金型母材2の円筒側面と平滑になるように側面加工した。続いて、上記の第2金属皮膜層9を精密研削加工にて精密加工表面9aを形成することによって断熱金型1を得た(図2(5))。
断熱層劣化の評価
断熱層劣化の評価には、図3に示す断面の膜構成からなる試料を用いた。すなわち、図1の断熱層4の円板状ジルコニア焼結体と同じ条件で作られた同組成のジルコニア焼結体からなる断熱基板14(縦30mm、横30mm、厚さ6mm)を2個準備した。その一方の基板の表面全面には、本発明の断熱金型1の水分遮断層7の形成と全く同様に、第1水分遮断層15のチタン膜(厚さ0.2μm)と第2水分遮断層16の銅膜(厚さ1μm)の積層膜からなる水分遮断層17を形成して、第1試料11aを作製した。また、比較試料として、別の一枚は、水分遮断層が配置されないままで第1比較試料11bとして準備した。
ステンレス鋼製耐圧容器で作られたオートクレーブ装置を用い、第1試料11aと第1比較試料11bに対して湿潤雰囲気下での材料劣化の加速試験とそれらの評価を以下の方法で行った。第1試料11aと第1比較試料11bは、ステンレス鋼製円筒形容器(直径20cm×深さ20cm)の底から深さ10cmまで入った純水中に重ならないように配置し、密閉した。次に、この円筒容器を250℃に加熱して水熱環境を作り、一定時間経過後に室温まで冷却した。試料はX線回折装置を用いてジルコニア焼結体の結晶相を調べ、外観を観察した。なお、上記のオートクレーブ装置の加熱条件は、室温から約0.5時間で250℃まで昇温させ、250℃で一定時間保持後、約1時間かけて室温まで降温し、室温でX線回折測定を行った。これを繰り返すことによって250℃での保持時間を積算した時間と劣化の関係を評価した。ここで、第1比較試料11bは、樹脂成形使用時におけるジルコニア焼結体のみからなる従来の断熱金型のモデルとなるものである。すなわち、本評価試験の水熱環境は、断熱層の表面にめっき法で金属皮膜層を形成した断熱金型において、ジルコニア焼結体と金属皮膜層の間に閉じ込められた水分がジルコニア焼結体表面に接触した状況で100℃以上の温度で樹脂成形する場合と類似の環境になる。ただし、加速試験のため、水熱温度は通常の樹脂成形の温度よりもやや高温の250℃に設定した。一方、第1試料11aは、水分遮断層を配置することにより、ジルコニア焼結体が上記の閉じ込められた水分と接触しないように設計した本発明の断熱金型のモデルである。ジルコニア焼結体の結晶相について、水熱環境下の湿潤雰囲気における劣化の変化を調べた。250℃での水熱処理前における第1試料11aと第1比較試料11bの結晶相のCuKα線によるX線回折パターンを図4の(a―1)と(b−1)にそれぞれ示した。それぞれには、上部に2θが25〜50°の範囲でのパターンと、下部には結晶転移を確実に評価するために測定した2θが27〜33°の範囲のX線回折パターンを示した。
ここで、第1試料11aは、ジルコニア焼結体からなる断熱基板14の表面に厚めの銅(上層)と極薄のチタン(下層)の積層膜である水分遮断層17が形成されているため、第1試料11aのX線回折パターン(図4(a―1))には、表面層の金属銅膜に帰属する2θ=43.30°の強度の大きなピークが見られる。しかし、ジルコニア焼結体は銅膜の下にあるため、ジルコニアに帰属する各ピークの強度は小さくなっている。なお、図4(1−a)のX線回折パターンには、酸化第一銅(CuO)に由来するピークが観察される。これらのピークは金属銅の表面が酸化されて生成した酸化銅に帰属するものであり、実験に用いた第1試料11aはスパッタリング装置で水分遮断層17を形成した後、一昼夜かけて大気中に放置したものを用いたが、その際に表面に生成した酸化膜と考えられる。
ジルコニアセラミックスの場合、通常、2θ=30°付近には、立方晶、正方晶、単斜晶の各結晶相の(1 1 1)回折ピークが現れるが、各相が混合している場合は分離が難しく、それらの存在割合を評価しにくい。しかしながら、正方晶相が単斜晶相に相転移すると2θ=28°付近に単斜晶相(−1 1 1)に由来する回折ピークが現れることが知られている。このピークの増大により、相転移が起こっていることが確認できる。なお、図中では、正方晶相に帰属する回折ピークを「t」で、単斜晶相に由来する回折ピークを「m」で表示した。
第1比較試料11bにおいては、250℃の水熱雰囲気下で、ジルコニア焼結体内部では、単斜晶を示す結晶相が徐々に増え、その代わりに正方晶相が減っていくことがわかった。図4(b−2)には、250℃で30分間の水熱処理後における第1比較試料11bの結晶相のX線回折パターンを示す。明らかに、水熱処理前後で単斜晶相(-1 1 1)ピークが増大し、2θ=30°付近のピーク(正方晶相ピークに帰属)が減少していることがわかる。第1比較試料11bは、さらに上記の水熱環境に12時間さらされると、その表面の一部は崩れて破損し、20時間さらされると試料本体も素手で割ることができる状態にまで強度が劣化していた。評価結果を表1の比較試料11bとして表示した。ここで、表に示した水熱処理による結晶相の変化は、上記した水熱処理前後の試料のX線回折パターンの正方晶に由来するピークと単斜晶に由来するピークの強度の変化から判断した。
上記の変化は、ジルコニアセラミックスの湿潤低温劣化の際に起こる現象としてよく知られている変化である。この現象のメカニズムは、一般に、以下のように考えられている。すなわち、ジルコニア焼結体を構成している内部の正方晶相の酸化ジルコニウム結晶粒子の表面が、水熱環境下の水によって水酸化物に変化する。それによってそれらの酸化ジルコニウム焼結体を構成している結晶粒子が徐々に単斜晶相に変化する。それの伴って起こる大きな体積膨張により亀裂が入る。さらにその亀裂によって生まれた新しい表面の正方晶相部分が水熱環境下の水と接触することになり、上記と同様の水酸化物への変化を起こしながら単斜晶相に変化し、体積膨張するという繰り返しによって、上記の亀裂が時間とともに深くなり、その亀裂が進行していくことが原因と考えられる。
一方、図1の本発明の段熱金型1の水分遮断層7と同じ構成の水分遮断層17を形成した第1試料11aは、250℃で20時間の水熱処理後も、処理前のジルコニア焼結体に帰属するX線回折パターンに変化は見られず、試料本体も強度を保っており、素手では破壊できなかった。(評価結果を表1の実施例1として表示)。図4(a―2)には、30分間の水熱処理後のX線回折パターンを示した。ジルコニア焼結体に帰属する正方晶相と単斜晶相のピーク強度は変化していない。なお、図4(a−2)のX線回折パターンには、亜酸化銅(CuO)に帰属するピークが観察されるが、これは第2水分遮断層17の金属銅膜の表面の酸化銅(CuO)あるいは金属銅のいずれかが水熱処理によって新たに生成した酸化銅皮膜と考えられる。
以上から、本発明の構成の断熱金型1は、水分遮断層の形成によって、樹脂成形の長時間使用におけるジルコニア焼結体からなる断熱層4の強度劣化が起こり難く、断熱金型の長寿命化に貢献できることがわかる。
断熱層と金属皮膜の密着性の評価
本実施例において、断熱層4と水分遮断層7と金属皮膜10の密着性についても調べた。密着性の試験は図5で示す方法で行った。まず、断熱層劣化の評価に用いた第1試料11aと全く同様にして新しく作製した同形状の試料に、本発明の断熱金型1と同様な製法によって、第1金属皮膜18(厚さ2μmのニッケルめっき膜)と第2金属皮膜19(厚み30μmの非晶質ニッケルりん合金めっき膜)の積層膜からなる金属皮膜20を形成し、図3の示す断面構造の第2試料21aを作製した。第2試料21aの下面に形成された金属皮膜は、その全面(30mm×30mm)を100mm角で厚さ10mmの鉄製の下地基板部品12にエポキシ系接着剤による接着層13で接着されており、さらにその下地基板部品12は測定台23にネジ止めされて固定されている。一方、試料21aの上部に形成された金属皮膜の中央部分にステンレス鋼製の角柱部品22(10mm角で長さ40mm)の下面全面(10mm×10mm)を同じエポキシ系接着剤で張り付け、予めネジ穴が付けられた上面中心にフックを取り付け、ワイヤロープ26を介して、重り27からなる荷重で、金属皮膜面を引っ張る試験を行った。この装置では、測定台23に立てられた支柱24の上部に設置した滑車25によって、ワイヤロープの一端に取り付けた重り27の荷重が、接着層13を介して角柱部品22と接着している第2金属皮膜19をジルコニア焼結体からなる断熱基板14から引き剥がす力になり、本発明の断熱金型の積層構造体全体の密着性を測定できる。
重り27の重量として、5kg、10kg及び15kgの3種類を準備した。上記の方法では、例えば10kgの重りを用いた場合は、第2試料21aの上面の金属皮膜20の中央部分1cmを10kg重の力で引き剥がす検査を行ったことになる。このとき、密着性が悪いと、この積層構造体からなる断熱金型を用いて樹脂成形の際に、脱型時に強い引き剥がし力が働いた場合に金属皮膜に膨れ等の不具合が発生し、精密な転写に不具合が起こることになる。
本実施例では、水分遮断層17としてチタン膜(厚さ0.2μm)と銅膜(厚さ1μm)積層体の第1試料11aの密着性の試験を行った。その結果、重り27の重量が15kgの場合の試験でも金属皮膜20の表面に膨れは起こらなかった。ジルコニア焼結体と水分遮断層17及び金属皮膜層20は、高い密着性を有することがわかった。その結果も、断熱層劣化試験の評価に併せて表1の実施例1として示した。表中では、荷重試験によって、金属皮膜に膨れが発生した場合に「×」と表示し、全く外観変化のない場合には「○」と表示した。
密着性評価の比較試料として、断熱層劣化の評価用の図3に示した第1比較試料11bと同じ形状の新たな比較試料に、直接に、本発明の断熱金型1と同様な製法によって、第1金属皮膜18(厚さ2μmのニッケルめっき膜)と第2金属皮膜19(厚み30μmの非晶質ニッケルりん合金めっき膜)の積層膜からなる金属皮膜20を形成し、第2比較試料21bを作製した。これを、第2試料21aの代わりに用い、同様の密着性の評価を行った。その結果、重り27の重量が10kgの場合の試験では金属皮膜20の表面に膨れは起こらなかったが、15kgの場合には、金属皮膜20の表面に膜浮きが見られた。つまり、15kg/cmの力で引き剥がしを行うとジルコニア焼結体からなる断熱基板14と金属皮膜20の間に剥がれが発生した。
実施例2
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例1における本発明の断熱金型において、水分遮断層7を構成する第1水分遮断層5と第2水分遮断層6を、それぞれ厚さ0.1μmのチタン膜と厚さ10μmの銅膜にした。上記の水分遮断層の積層膜の形成方法は、実施例1と同様の方法によるものであり、成膜時間をチタン膜形成では1分間、銅膜形成では25分間と変えて作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例2の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例3
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例1における図3に示す第1試料及び第2試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様の断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価を行った。ここで、水分遮断層17を構成する第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ、厚さ0.02μmのチタン膜と厚さ4μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成も実施例1と同様の方法によるものであり、チタン膜形成時間を12秒間、銅膜形成時間を10分間にして作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例3の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例4
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例3と同様にして、第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ厚さ0.2μmのチタン膜と厚さ20μmの銅膜とした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、チタン膜形成時間を2分間、銅膜形成時間を50分間にし、その他は実施例3と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例4の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例5
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例3と同様にして、第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ厚さ0.8μmのチタン膜と厚さ8μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、チタン膜形成時間を8分間、銅膜形成時間を20分間にし、その他は実施例3と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例5の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例6
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例3と同様にして、第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ厚さ0.05μmのタンタル膜と厚さ8μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内のチタンのターゲットを同じ大きさのタンタルのターゲットに交換して膜形成した。タンタル膜形成時間を26秒間、銅膜形成時間を20分間にし、その他は実施例3と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例6の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例7
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例6と同様にして、第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ厚さ0.2μmのタンタル膜と厚さ8μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、タンタル膜形成時間を1分45秒間、銅膜形成時間を20分間にし、その他は実施例6と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例7の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例8
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例3と同様にして、第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ厚さ0.2μmのクロム膜と厚さ8μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内のチタンのターゲットを同じ大きさのクロムのターゲットに交換して膜形成した。クロム膜形成時間を50秒間、銅膜形成時間を20分間にし、その他は実施例3と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例8の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例9
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例3と同様にして、第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ厚さ0.2μmのモリブデン膜と厚さ8μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内のチタンのターゲットを同じ大きさのモリブデンのターゲットに交換して膜形成した。モリブデン膜形成時間を1分15秒間、銅膜形成時間を20分間にし、その他は実施例3と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。表1の結果を表1に示す。その結果からも明らかなように、本実施例9の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例10
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例3と同様にして、第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ厚さ0.2μmのタングステン膜と厚さ8μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内のチタンのターゲットを同じ大きさのタングステンのターゲットに交換して膜形成した。タングステン膜形成時間を1分45秒間、銅膜形成時間を20分間にし、その他は実施例3と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例10の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例11
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例3と同様にして、第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ厚さ0.2μmの鉄膜と厚さ8μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、鉄膜形成時間を1分3秒間、銅膜形成時間を20分間にし、その他は実施例3と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例11の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例12
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例3と同様にして、第1水分遮断層15と第2水分遮断層16を、それぞれ厚さ0.02μmのチタン膜と厚さ7μmの鉄膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内の銅のターゲットを同じ大きさの鉄のターゲットに交換して膜形成した。チタン膜形成時間を12秒間、鉄膜形成時間を36分間にし、その他は実施例3と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例12の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例13
〔ジルコニア焼結体からなる断熱層をもつ断熱金型〕
前記の実施例11及び実施例12の水分遮断層の積層体の形成において、スパッタリング法による鉄膜は、第1水分遮断層と第2水分遮断層の両方の性質をもっていることがわかる。そこで、水分遮断層17として、鉄膜単層を実験した。膜形成は実施例1で用いたスパッタリング装置を用い、一つのターゲットに鉄薄板を用い、真空度0.6Paにてスパッタリング投入電力2kWで77分間スパッタリングすることにより、厚さ15μmからなる鉄単層からなる水分遮断層を形成した。250℃で30分間の水熱処理で、鉄膜の表面は、銅膜以上に変化して酸化鉄皮膜が形成されるが、ジルコニア焼結体からなる断熱基板には実施例1と同様に結晶相の変化が認められなかった。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図3に示すような実施例1において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様にして行った。その結果を表1に示す。表1の結果からも明らかなように、本実施例13の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例14
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
図6には、本実施例14のジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ本発明の断熱金型31の構成を示す断面図を示す。断熱金型31は、前記した本発明の実施例1の断熱金型と同様に、精密な微細加工形状をもつ樹脂製部品の成形加工に用いられる金型であり、同じ中心軸の2つの円柱が積み重なった形状である。すなわち、下端が高さ7.5mmの低背の円柱(直径40.0mm)になっており、その上が高さ32.6mmの円筒(直径35.0mm)が積み重なっている。
金型を構成する金属製金型母材32の材料として高い硬度を有するステンレス鋼を用いた。金属製金型母材32は、高さ7.5mmの低背の円柱を含めた底面からの高さが40.0mmで成形面側は直径が35.0mmの円筒形(高さ32.5mm)であり、かつ中心を合わせて、上面から0.3mmの幅で半径34.8mmの外側の外周部分を除くように段付き研削加工されて凸部の形状になっている。
金属金型母材32の半径34.8mmの成形面側の凸部表面に、ニッケル・クロム・アルミニウム・イットリウム合金の溶射膜からなる接着層33(厚さ50μm)が配置され、その上にジルコニア溶射膜(組成:ZrO/Y/HfO=94.6/4.8/0.6(mol%比)、厚さ200μm)からなる表面が平滑な断熱層34が配置され、さらにその上面と側面とを覆い隠すように水分遮断層37が形成されている。この水分遮断層37は、本発明の実施例1の水分遮断層7と同様な構成であり、チタン膜からなる第1水分遮断層35(膜厚0.2μm)と銅膜からなる第2水分遮断層36(膜厚10μm)から構成されている。この第2水分遮断層36の上に金属皮膜40が形成されている。この金属皮膜40は、本発明の実施例1の金属皮膜10と同様のニッケルめっき膜からなる第1金属皮膜38(厚さ2μm)と非晶質ニッケルりん合金めっき膜からなる第2金属皮膜39(最大厚さ100μm)から構成されている。この第2金属皮膜39の成形面側は、最大深さ28μmの樹脂成形用微細パターンが精密機械加工により形成された精密加工表面39aになっている。
上記構成によれば、熱伝導率が低い断熱膜であるジルコニア溶射膜が断熱金型の製造工程中の金属皮膜形成のめっき工程で水分に全く触れることがないため、この構成のジルコニア溶射膜が樹脂成形温度での低温劣化を起こすことを防止できる。その結果、このような断熱金型において、微細なパターンをもつ良好な樹脂成形を長期にわたり安定して行うことが可能になる。
図7には、本発明の断熱金型31の製造工程を示す。前記した寸法のステンレス鋼製の金属製金型母材32の表面上に、大気プラズマ溶射法を用い、ニッケル・クロム・アルミニウム・イットリウム合金の溶射膜からなる密着層33を50μmの厚さで形成した(図7(1))。その上にジルコニア膜を約300μmの厚みで大気プラズマ溶射法によって形成した。精密機械研磨により、前記のジルコニア溶射膜を200μmの厚みまで平滑面が出るように加工して断熱層34を作製した(図7(2))。
次に、本発明の実施例1と同じスパッタリング装置を用い、同じ方法で、金属チタンのターゲットを用いて、真空度0.6Paにてスパッタリング投入電力2kWで2分間スパッタリングすることにより、第1水分遮断層35(チタン)を0.2μmの厚さで形成した。さらに、金属銅のターゲットを用いて、同じ真空度にてスパッタリング投入電力2kWで25分間スパッタリングすることにより、緻密な第2水分遮断層36(銅)を厚さ10μmで形成した。このようにして、これら二層からなる水分遮断層37を形成した(図7(3))。
次に、本発明の実施例1と同じ方法で、ニッケルストライクめっき法によって、厚さ2μmの第1金属皮膜層38(ニッケル)を形成し、さらに無電解ニッケルめっき法によって厚さ250μmの第2金属皮膜層39(非晶質ニッケルりん合金)を形成した。このようにして、金属皮膜層40を作製し、200℃で3時間熱処理した(図7(4))。
その後、本発明の実施例1と同様にして、金属皮膜層40をまず金属製金型母材32の円筒側面と平滑になるように側面加工した。続いて、上記の第2金属皮膜層39を精密研削加工することによって精密加工表面39aを形成して、断熱金型31を得た(図7(5))。
断熱層劣化の評価
断熱層劣化の評価には、図8に示す断面の膜構成の第1試料41aを作製して用いた。すなわち、図6の金属製金型母材32と同じ材質の金属製基板(縦30mm、横30mm、厚さ6mm)を2個準備し、その両方に図6の接着層33及び断熱層34をなす金属合金溶射膜及びジルコニア溶射膜と同じ溶射方法、同じ溶射条件で、同組成の金属合金溶射膜からなる接着層43及びジルコニア溶射膜からなる断熱層44をそれぞれ形成した。作製された2個のうちの一方の基板の表面全面には、本発明の断熱金型31の水分遮断層37の形成と同じ条件で同様の第1水分遮断層45のチタン膜(厚さ0.2μm)と第2水分遮断層46の銅膜(厚さ10μm)の積層膜(水分遮断層47)を形成し、第1試料41aを作製した。また、比較評価のために、上記の2個のうちのもう一方の基板を用いてそのままの状態で、水分防止層が配置されない第1比較試料41bを作製した。
これらを用いて、実施例1と同様のオートクレーブ装置を用い、同じ方法で、同じ条件で経時変化を観察することによって、ジルコニア溶射膜からなる断熱層44の湿潤雰囲気下での材料劣化の評価を行った。
図9(a−1)及び(а―2)には、それぞれ第1試料41aの250℃で60時間の水熱処理の前後におけるX線回折パターンを示した。また、図9(b−1)及び(b―2)には、それぞれ第1比較試料41bの250℃で60時間の水熱処理の前後におけるX線回折パターンを示した。
溶射での膜形成の際に、溶融したジルコニア粒子が基板表面で急冷されてジルコニア溶射膜が得られる。このとき、正方晶相よりも高温で安定な立方晶相の結晶相が、溶射膜中において過冷却によってできる。図9(a−1)と(b−1)のX線回折パターンから、第1試料41a及び第1比較試料41bは立方晶相と正方晶相の混合相からなっていることがわかる。なお、図中では、立方晶、正方晶及び単斜晶に帰属する回折ピークをそれぞれ「c」、「t」及び「m」で示す。
図9(b−2)からわかるように、第1比較試料41bは、250℃の水熱雰囲気下で、ごくわずかであるが、内部の結晶内の単斜晶相に起因するパターンピーク(「m(−1 1 1)」で表示)が現れてきていることがわかる。すなわち、第1比較試料41bの結晶相の中の正方晶相部分の一部が単斜晶相に相転移を起こし始めていることがわかる。この変化は、実施例1で示したジルコニア焼結体の場合と同じ相転移の変化であり、ジルコニアセラミックスの湿潤低温劣化の際に起こる前兆現象としてよく知られている変化である。ジルコニア溶射膜を構成している内部の正方晶相の酸化ジルコニウム結晶粒子の表面が、水熱環境下の水によって徐々に単斜晶相に変化していると考えられる。この変化が進行すると、それに伴って起こる大きな体積膨張により、次第に劣化が進行していくと予想される。
一方、図6の本発明の段熱金型の水分遮断層37と同じ構成の水分遮断層47を形成した第1試料41aは、図9(а−2)に示すように、同じ60時間の水熱処理後も、ジルコニア焼結体に帰属するX線回折ピークの変化は見られなかった(表2中に実施例15として表示)。以上のことから、本発明の構成の断熱金型31は、樹脂成形の長時間使用において、ジルコニア溶射膜からなる断熱層34の強度劣化が従来に比べて起こり難くなっており、水分遮断層によって強度劣化が効果的に抑制されていることがわかる。
断熱層と金属皮膜の密着性の評価
本実施例14において、断熱層34と水分遮断層37と金属皮膜40の密着性についても調べた。密着性の試験は実施例1と同じ図5で示す装置を用いて、同様の方法で行った。まず、断熱層劣化の評価に用いた第1試料41aと同様にして新しく作製した同じ形状の試料に、本発明の断熱金型31と同様な製法によって、第1金属皮膜48(厚さ2μmのニッケルめっき膜)と第2金属皮膜49(厚み30μmの非晶質ニッケルりん合金めっき膜)の積層膜からなる金属皮膜50を形成し、第2試料51aを作製した。
この第2試料51aを実施例1の図5に示す密着性評価装置の第2試料21aの代わりに用いて、密着性試験を行った。その結果、重り27の重量が15kgの場合の試験でも金属皮膜50の表面に膨れないしは浮きは起こらなかった。ジルコニア焼結体と水分遮断層47及び金属皮膜層50は高い密着性を有していた。その結果も併せて表2に示す。
密着性評価の比較試料として、断熱層劣化の評価用の図8に示した第1比較試料41aと同じ形状の新たな比較試料に、直接に、本発明の断熱金型31と同様な製法によって、第1金属皮膜48(厚さ2μmのニッケルめっき膜)と第2金属皮膜49(厚み30μmの非晶質ニッケルりん合金めっき膜)の積層膜からなる金属皮膜50を形成し、第2比較試料51bを作製した。これを、第2試料51aの代わりに用いて、同様の密着性の評価を行った。その結果、重り27の重量が10kgの場合の試験では金属皮膜20の表面に膨れ等は起こらなかったが、15kgの場合には、金属皮膜20の表面に膜浮きが見られた。つまり、ジルコニア溶射膜からなる断熱層44と金属皮膜50の間に剥がれが発生した。
実施例15
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例14における本発明の断熱金型において、水分遮断層37を構成する第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ、厚さ0.1μmのチタン膜と厚さ10μmの銅膜にした。上記の水分遮断層の積層膜の形成方法は、実施例1と同様の方法によるものであり、成膜時間をチタン膜形成では1分間、銅膜形成では25分間にして作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例15の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例16
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例14における図8に示す第1試料及び第2試料と同様な試料を作製し、実施例1と同様の断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価を行った。第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ、厚さ0.02μmのチタン膜と厚さ8μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成も実施例14と同様の方法によるものであり、チタン膜形成時間を12秒間、銅膜形成時間を20分間にして作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例16の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例17
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例16と同様にして、第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ厚さ0.2μmのチタン膜と厚さ20μmの銅膜とした。積層膜の形成には、チタン膜形成時間を2分間、銅膜形成時間を50分間にし、その他は実施例16と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例17の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例18
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例16と同様にして、第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ厚さ0.4μmのチタン膜と厚さ8μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、チタン膜形成時間を4分間、銅膜形成時間を20分間にし、その他は実施例16と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例18の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例19
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例16と同様にして、第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ厚さ0.05μmのタンタル膜と厚さ10μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内のチタンのターゲットを同じ大きさのタンタルのターゲットに交換して膜形成した。タンタル膜形成時間を26秒間、銅膜形成時間を25分間にし、その他は実施例16と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例19の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例20
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例19と同様にして、第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ厚さ0.2μmのタンタル膜と厚さ10μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、タンタル膜形成時間を1分45秒間、銅膜形成時間を25分間にし、その他は実施例19と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例20の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例21
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例16と同様にして、第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ厚さ0.2μmのクロム膜と厚さ10μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内のチタンのターゲットを同じ大きさのクロムのターゲットに交換して膜形成した。クロム膜形成時間を50秒間、銅膜形成時間を25分間にし、その他は実施例16と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例21の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例22
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例16と同様にして、第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ厚さ0.2μmのモリブデン膜と厚さ10μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内のチタンのターゲットを同じ大きさのモリブデンのターゲットに交換して膜形成した。モリブデン膜形成時間を1分15秒間、銅膜形成時間を25分間にし、その他は実施例16と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例22の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例23
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例16と同様にして、第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ厚さ0.2μmのタングステン膜と厚さ10μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内のチタンのターゲットを同じ大きさのタングステンのターゲットに交換して膜形成した。タングステン膜形成時間を1分45秒間、銅膜形成時間を25分間にし、その他は実施例16と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例23の構成でも水分遮断層は有効に機能している。
実施例24
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例16と同様にして、第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ厚さ0.2μmの鉄膜と厚さ10μmの銅膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、鉄膜形成時間を1分3秒間、銅膜形成時間を25分間にし、その他は実施例3と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例24の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例25
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例16と同様にして、第1水分遮断層35と第2水分遮断層36を、それぞれ厚さ0.02μmのチタン膜と厚さ15μmの鉄膜にした。これらの水分遮断層を構成する積層膜の形成として、スパッタリング装置内の銅のターゲットを同じ大きさの鉄のターゲットに交換して膜形成した。チタン膜形成時間を12秒間、鉄膜形成時間を77分間にし、その他は実施例16と同じ成膜条件で作製した。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例25の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
実施例26
〔ジルコニア溶射膜からなる断熱層をもつ断熱金型〕
実施例16で用いたスパッタリング装置を用い、一つのターゲットに鉄薄板を用い、真空度0.6Paにてスパッタリング投入電力2kWで100分間スパッタリングすることにより、厚さ20μmからなる鉄単層からなる水分遮断層を形成した。250℃で30分間の水熱処理で、鉄膜の表面は、銅膜以上に変化して、酸化鉄皮膜が形成されるが、ジルコニア溶射膜からなる断熱基板には実施例14と同様に結晶相の変化が見られなかった。断熱層劣化の評価及び断熱層と金属皮膜の密着性の評価は、図8に示すような実施例14において評価試験に用いた試料と同様な試料を作製し、実施例14と同様に実施した。その結果を表2に示す。表2の結果からも明らかなように、本実施例26の構成でも水分遮断層は有効に機能していることがわかる。
強度の経時劣化が効果的に抑制されたジルコニアセラミックスからなる断熱層を備えた本発明金型は、ジルコニア本来の優れた断熱性と高い機械強度を併せ持つことに加え、樹脂成形の長期にわたる繰り返しに対して成形面の金型強度において優れた耐久性を有することから、例えば光学素子、微細パターン形状の成形体等の複雑形状の樹脂成形の長寿命断熱金型として有用である。また、ナノインプリント用の成形金型等の用途にも応用できる。

Claims (15)

  1. 金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に断熱層を有する金型であって、
    (1)前記断熱層はジルコニアを含み、
    (2)前記断熱層と前記金属皮膜との間に水分遮断層が配置されており、
    (3)水分遮断層が、互いに組成が異なる複数の層から構成されている、
    ことを特徴とする断熱金型。
  2. 水分遮断層が金属単体又は合金から形成されている、請求項1に記載の断熱金型。
  3. 水分遮断層が、銅、鉄、チタニウム、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン及びこれらを含む合金の少なくとも1種から形成されている、請求項2に記載の断熱金型。
  4. 水分遮断層が、断熱層に接するように断熱層上に形成された第1水分遮断層と、第1水分遮断層に接するように第1水分遮断層上に形成された第2水分遮断層とを含む、請求項1に記載の断熱金型。
  5. 第1水分遮断層が、チタニウム、タンタル、クロム、モリブデン及びタングステン、鉄及びこれらを含む合金の少なくとも1種から形成されている、請求項4に記載の断熱金型。
  6. 第2水分遮断層が、銅、鉄及びこれらを含む合金の少なくとも1種から形成されている、請求項4又は5に記載の断熱金型。
  7. 第1水分遮断層の厚みが0.02〜0.8μmである、請求項4〜6のいずれかに記載の断熱金型。
  8. 第2水分遮断層の厚みが1〜20μmである、請求項4〜7のいずれかに記載の断熱金型。
  9. 水分遮断層が物理的気相成長法によって形成されてなる、請求項4〜8のいずれかに記載の断熱金型。
  10. 水分遮断層が、断熱層の上面及び側面を取り囲むように形成されている、請求項4〜9のいずれかに記載の断熱金型。
  11. 前記断熱層がジルコニア焼結体からなる、請求項4〜10のいずれかに記載の断熱金型。
  12. 前記断熱層が溶射法により形成されてなる、請求項4〜10のいずれかに記載の断熱金型。
  13. 樹脂成分を含む組成物の成形のために用いる、請求項1〜12のいずれかに記載の断熱金型。
  14. 請求項1に記載の断熱金型を製造する方法であって、
    (1)金属製金型母材の成形面側の表面にジルコニアを含む断熱層を形成する工程、
    (2)断熱層の表面上に水分遮断層を物理的気相成長法によって形成する工程、
    (3)水分遮断層の表面上に金属皮膜をめっき法によって形成する工程及び
    (4)金属皮膜の表面に機械加工を施すことにより樹脂成形のための転写形状表面を形成する工程、
    を含み、かつ、
    前記(1)の工程において、
    (1−1)金属製金型母材の成形面側の表面に接着層を配置する工程、
    (1−2)接着材の上からジルコニア焼結体を配置する工程及び
    (1−3)ジルコニア焼結体を加熱下で加圧することにより接着層を介して断熱層を形成する工程を含む、
    ことを特徴とする断熱金型の製造方法。
  15. 前記(1)の工程において、
    (1−1)金属製金型母材の成形面側の表面に接着層を溶射法により形成する工程及び
    (1−2)接着層の上から溶射法によりジルコニアを含む断熱層を形成する工程
    を含む、請求項14に記載の製造方法。
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