JP2007090483A - 切削工具及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 接触する被切削材の凝着を大きく抑制でき、しかも、基材と皮膜との密着性に優れ、これによって優れた耐摩耗性を確保することが可能な切削工具と、工業的な量産規模での製造を可能とする前記切削工具の製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る切削工具1は、超硬合金からなる基材1Aと、該基材1Aの表面に形成された皮膜1Bとを備え、少なくとも被切削材Mと接触する接触面、或いは少なくとも逃げ面において、前記皮膜1Bの最外層がSiCからなることを特徴とする。切削工具1は、SiCを成膜源とする物理蒸着法(好適にはレーザデポジション法)を用いて、超硬合金からなる基材1Aの表面に最外層がSiCからなる皮膜1Bを形成することによって製造される。
【選択図】 図2

Description

本発明は、切削工具及びその製造方法に関する。詳しくは、旋削加工、ドリル加工、エンドミル加工及びフライス加工など各種の切削加工に用いる切削工具であって、接触する被切削材の凝着を大きく抑制でき、しかも、基材と皮膜との密着性に優れ、これによって優れた耐摩耗性を確保することができる切削工具とその製造方法に関する。
鋼管等の各種工業製品に対する要求特性の高度化に伴って、鋼管端部のねじ切り加工用など各種の切削工具の耐摩耗性を向上させることが求められている。
より具体的には、切削加工能率を一層高めるために、高速で切削加工した場合にも良好な耐摩耗性を確保できる切削工具が要求されている。また、13Cr系のマルテンサイト系ステンレス鋼などの高強度材、更には、オーステナイト系やフェライト系のステンレス鋼といった難削材に対しても凝着を生じることなく優れた切削機能を有する切削工具が要求されている。
斯様な要求に対処するために、従来、超硬合金からなる基材の表面に、硬質保護膜として、TiやZrなどの炭化物、窒化物及び炭窒化物、並びに、Alなどを形成させることが行われている。具体的には、化学蒸着法(CVD法)や物理蒸着法(PVD法)によって、基材の表面に前記した硬質保護膜を単層もしくは複層で、数μmから数十μmの厚さで形成させることが行われ、切削工具の摩耗抑制及び被切削材との凝着抑制が図られている。
しかしながら、従来の硬質保護膜、例えば、TiN、Ti(C、N)、TiAlN及びAlなどの皮膜は、常温では優れた密着力と耐摩耗性を有するものの、高速で切削加工する場合や高強度材を切削加工する場合には、被切削材との接触面が1000℃以上の高温に上昇するので、酸化分解や被切削材との化学反応が生じ、密着力が低下してしまう。その結果、耐摩耗性の低下や被切削材の凝着などが生じ、硬質保護膜としての機能が著しく損なわれる。
このため、硬質保護膜には従来にも増した耐酸化性や密着力が要求されるようになり、この要求に応えるべく、いくつかの新しい技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、硬質保護膜の酸化分解を抑制する技術、換言すれば、酸化開始温度を高くして耐酸化特性を向上させる技術が開示されている。より具体的に説明すれば、特許文献1には、基材上に形成された4a族元素、5a族元素、6a族元素及びAlからなる群の中から選択される1種以上の元素の窒化物又は炭窒化物を主成分とする耐摩耗性皮膜の中に、皮膜の硬度を高めることを目的として、BC、BN、TiB、TiB、TiC、WC、SiC、SiN(X=0.5〜1.33)及びAlよりなる群から選択される少なくとも1種の超微粒化合物を含有させた切削工具が提案されている。
特許文献2には、母材(基材)の表面近傍の塑性変形性を高めるとともに、皮膜との密着性を改善させる技術が開示されている。すなわち、特許文献2には、超硬合金母材と硬
質皮膜との間に母材の硬質相粒子と皮膜粒子とからなる硬質複合層を設けた被覆超硬合金が記載されている。
より具体的に説明すれば、特許文献2には、硬質相粒子が炭化タングステン、或いは炭化タングステンと周期律表の4a族元素、5a族元素及び6a族金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物、並びにこれらの相互固溶体の中の1種以上からなる立方晶化合物で、結合相が鉄族金属である超硬合金を母材とし、その母材表面から内部に向かって3〜20μmの深さに亘って、結合相の量が2重量%以下で、且つ母材の硬質相粒子と周期律表の4a族元素、5a族元素、6a族元素、Al及びSiの炭化物、窒化物及び酸化物、並びにこれらの相互固溶体の中から選ばれた1種以上の化合物粒子とから構成された均一な硬質複合層とを有し、更に、母材表面に前記4a族元素からSiまでの炭化物、窒化物及び酸化物、並びにこれらの相互固溶体の中から選ばれた1種以上の化合物でなる単層又は2層以上の積層でなる0.5〜20μmの硬質膜を被覆した被覆超硬合金が提案されている。
特許文献3には、特定の密度を有する高硬度の炭素膜が開示されている。この特許文献3で提案された炭素膜は、ダイヤモンド膜やダイヤモンド状炭素膜に代わって、切削工具の耐摩耗性及び耐久性を向上させることができるものである。
特開2001−293601号公報 特開2002−38205号公報 特開2003−147508号公報
前述の特許文献1で提案された切削工具を用いれば、250m/分という高速切削の場合にも、優れた耐摩耗性や高い潤滑性が確保でき、また凝着抑制の効果も得られる。しかしながら、この切削工具の基材上には、前記特定の元素の窒化物又は炭窒化物を主成分とし、その中に、上述のBCからAlまでの中から選択される少なくとも1種の超微粒化合物を含む皮膜を設ける必要がある。このため、工業的な量産規模での製造が極めて難しいという問題がある。
次に、特許文献2で提案された被覆超硬合金は、硬質複合層が母材の塑性変形を抑制すると同時に母材と硬質膜との密着性を高めるので、切削工具に用いると、500m/分という極めて大きな切削速度の場合にも、優れた耐摩耗性が確保でき、長い工具寿命が得られる。しかし、この被覆超硬合金は、母材である超硬合金の表面から結合相である鉄族金属を一旦除去したうえで、前述の硬質膜を被覆し、硬質膜と母材との間に硬質複合相を母材表面から3〜20μmの範囲に形成させる必要がある。このため、工業的な量産規模での製造が極めて難しく、また、製造コストも嵩む。
そして、特許文献3で提案された技術は、工具使用温度が400℃以下の冷間加工が主な対象であって、熱間加工には不向きである。すなわち、炭素膜は400℃以上では酸素と反応して炭酸ガスとして気化してしまうので、硬質保護膜としての機能が著しく損なわれてしまうという問題がある。
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、接触する被切削材の凝着を大きく抑制でき、しかも、基材と皮膜との密着性に優れ、これによって優れた耐摩耗性を確保することが可能な切削工具と、工業的な量産規模での製造を可能とする前記切削工具の製造方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するべく、本発明の発明者らは、超硬合金からなる基材を用いて、該基材の表面を被覆する硬質保護膜の化学組成とそれらの皮膜生成方法について詳細に検討した。その結果、下記(a)〜(g)の知見を得た。
(a)摩耗を抑制し、更に、接触する被切削材の凝着を抑制するためには、硬質保護膜である皮膜の酸化分解開始温度が高いことが必要であり、しかも、その皮膜は、接触する被切削材との化学反応、特に、液相析出を抑止できるものとする必要がある。
(b)SiCは、酸化分解の開始温度が1200℃以上で、高温でも極めて安定した状態を保つことができる。
(c)SiCは、熱的に安定している。このため、高温に曝されても基材との密着性に優れ、剥離することがない。そして、SiCの線膨張係数は、基材である超硬合金に比べて十分小さいので、高温に曝された場合、基材と皮膜の界面に引張応力が発生し、基材との密着性は極めて優れている。
(d)SiCは、機械的に安定しており、硬さ、ヤング率、耐熱衝撃性などに優れるので、硬質保護膜として適している。
(e)例えば、各種鋼材の切削工具として、基材の表面にSiCを被覆したものを用いれば、SiCは、被切削材である鋼材の主成分としてのFeとの反応性が極めて低いので、高速切削時の高温状態においても化学的に安定した状態で存在することができる。
(f)SiCの化学的な組成変動を生じ難くし、前述した各物性を損なうことなく皮膜として適用するためには、純度の高いSiCを十分に焼結した後、これを原料、つまり、成膜源(以下、「ターゲット」ともいう。)として用い、物理蒸着法によって基材表面に皮膜を生成させればよい。換言すれば、物理蒸着法によって上述のターゲットから励起されたクラスターイオンを基材の表面に堆積させた皮膜の物性は、上記のSiCの物性と変わらない。
(g)物理蒸着法の採用によって、ターゲットから皮膜への正確な物質移動が可能になり、しかも、好ましくは粒径0.4μm以下の原料微粉焼結体ターゲットの使用により、クラスターイオンの微細化も可能となるので、基材の表面凹凸状態に関係なく、直接に緻密な皮膜の生成が実現できる。
本発明は、上記の発明者らの知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、超硬合金からなる基材と、該基材の表面に形成された皮膜とを備え、少なくとも被切削材と接触する接触面において前記皮膜の最外層がSiCからなることを特徴とする切削工具を提供するものである。
また、本発明は、超硬合金からなる基材と、該基材の表面に形成された皮膜とを備え、少なくとも逃げ面において前記皮膜の最外層がSiCからなることを特徴とする切削工具としても提供される。
さらに、前記課題を解決するべく、本発明は、SiCを成膜源とする物理蒸着法を用いて、超硬合金からなる基材の表面に最外層がSiCからなる皮膜を形成することを特徴とする切削工具の製造方法としても提供される。
好ましくは、前記物理蒸着法は、レーザデポジション法とされる。
本発明に係る切削工具によれば、少なくとも被切削材と接触する接触面或いは逃げ面において皮膜の最外層をSiCからなるものとしたことにより、接触する被切削材の凝着を大きく抑制でき、しかも、基材と皮膜との密着性に優れ、これによって優れた耐摩耗性を確保することが可能である。また、本発明に係る切削工具の製造方法によれば、上記の特性を有する切削工具を安定且つ確実に得ることができると共に、工業的な量産規模での製造が可能である。
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る切削工具及びその製造方法について説明する。
図1は、本実施形態に係る切削工具の概略構成を示す図であり、図1(a)は本実施形態に係る切削工具によって、円柱状の被切削材を切削している状態を模式的に示す図を、図1(b)は、図1(a)に示す切削工具の逃げ面近傍の断面を模式的に示す図を表す。図1(a)に示すように、本実施形態に係る切削工具1は、略直方体状の形状を有し、その4つの側面が逃げ面、上下面がすくい面とされている。そして、2つの逃げ面1a、1bと、上側のすくい面1cとが交差する角部が切り込み箇所とされ、該切り込み箇所によって被切削材Mの外周面が切削される。より具体的に説明すれば、被切削材Mの外周面に切削工具1の前記切り込み箇所を接触させた状態で、被切削材Mを周方向に回転させると共に、切削工具1を被切削材Mの軸方向に所定の速度で送ることにより、被切削材Mの外周面が切削されることになる。
本発明に係る切削工具は、超硬合金からなる基材と、該基材の表面に形成された皮膜とを備え、少なくとも被切削材と接触する接触面において前記皮膜の最外層がSiCからなるか、或いは、少なくとも逃げ面において前記皮膜の最外層がSiCからなることを特徴としている。本実施形態では、上記の切り込み箇所を変更して、逃げ面1a、1b以外の残りの2つの逃げ面も切削に供される場合があることを考慮し、少なくとも逃げ面において前記皮膜の最外層がSiCからなる構成とされている。すなわち、図1(b)に示すように、本実施形態に係る切削工具1は、超硬合金からなる基材1Aと、基材1Aの表面に形成された皮膜とを備え、少なくとも逃げ面において皮膜1Bの最外層がSiCから構成されている。以下、上記最外層のことを適宜「SiC層」という。
基材1Aは、上記のように超硬合金からなり、例えば、WC、WC−TiCを主成分とする超硬合金を用いることができる。
皮膜1Bは、単層又は複層のいずれの構成を採用することも可能であるが、いずれにせよ、上記のように最外層(単層の場合は当該層)がSiCから構成されている。前述のように、SiCは、酸化分解温度が1200℃以上と高く、しかも、熱的及び機械的に安定しているため、高温に曝されても基材1Aとの密着性に優れ、剥離することがないし、安定した機械的性質を発揮することができる。また、被切削材Mが各種鋼材である場合、SiCは、被切削材Mである鋼材の主成分としてのFeとの反応性が極めて低いので、高速切削時の高温状態においても化学的に安定した状態で存在しうる。従って、本実施形態に係る切削工具1によれば、接触する被切削材Mの凝着を大きく抑制でき、しかも、基材1Aと皮膜1Bとの密着性に優れ、これによって優れた耐摩耗性を確保することが可能である。
なお、SiC層の厚さが0.5μmを下回る場合には、十分な耐摩耗性が得られない場合がある。一方、SiC層の厚さが10μmを超えても耐摩耗性は飽和し、コストが嵩むばかりである。従って、SiC層の厚さは、0.5〜10μmとすることが好ましく、より好ましくは1〜5μmとされる。
切削工具1の製造方法(SiC層の生成方法)としては、SiCを成膜源とする物理蒸着法を用いて、超硬合金からなる基材1Aの表面に最外層がSiC層である皮膜1Bを形成することが好ましい。物理蒸着法によってSiC層を生成することにより、SiCが有する各種の特性、つまり、高い酸化分解温度、熱的及び機械的な安定性、高速切削時の高温状態における化学的安定性などの特性を確保することができる。
より具体的には、真空槽内に導入した不活性ガス雰囲気下において、SiCの焼結体をターゲットとしてクラスターイオンを励起させ、前記励起したクラスターイオンを堆積(好ましくは、厚さ0.5〜10μm)させて皮膜(SiC層)を得ることが好ましい。
ここで、真空槽内に導入した不活性ガス雰囲気下での処理とするのが好ましいのは、SiCの不要な酸化を防ぐためである。なお、不活性ガスとしては、窒素ガスやArガスなどを、ターゲットに応じて適宜選択すればよい。これらのガスは、例えば、10−3Pa以下に真空引きした真空槽内に導入し、真空槽内の圧力を10−3Pa程度に保てばよい。
また、クラスターイオンの励起は、ターゲットであるSiCの焼結体にレーザ光、電子線や高速加速された各種イオンなどを照射すればよい。特に、クラスターイオンの励起にレーザ光を用いるレーザデポジション法を採用すれば、SiC層の生成温度を室温(20℃)程度にすることができるという点で好ましい。つまり、SiC層の生成温度が高温であると、熱応力によって基材1Aに寸法変化が生じる結果、皮膜1Bとの界面における密着力が低下し、耐摩耗性が低下するおそれがあるが、レーザデポジション法によれば、生成温度を室温程度にすることができ、上記のような事態が生じるおそれがない。
ターゲットであるSiCの焼結体としては、粒径0.4μm以下で、且つ、純度97%以上の微粉末を、理論密度に対して95%以上で焼結させたものを用いることが好ましい。上記の焼結体を用いることにより、SiC層の各種特性を安定且つ確実に確保することができる。なお、粉末の粒径とは、粒径分布が50%以上の割合を有する粒子の直径を、焼結の理論密度とは、格子定数から計算される単一格子体積と単一格子内の含有原子質量から算出される密度を指す。
ここで、粒径を0.4μm以下とするのが好ましいのは、ターゲットから励起されるクラスターイオンを微細化させることにより、成膜エネルギーを引き下げることが可能となるためである。なお、成膜エネルギーは、成膜時の核となるイオンが生成しやすいほど低くなるので、クラスターイオンの微細化が有効である。
また、純度が97%以上の微粉末を用いるのが好ましいのは、成膜後の膜質の均質性を向上させるためである。更に、理論密度に対して95%以上で焼結させたものを用いるのが好ましいのは、理論密度に対して95%未満で焼結させたものをターゲットにすれば、空隙に入り込んだ空気や前記不活性ガス雰囲気を構成する気体が、クラスターイオン励起のためにレーザ光、電子線や高速加速された各種イオンなどを照射した際に熱膨張し、ターゲットにクラックや割れを生じることがあるため、こうした事態を避けるためである。
以上に説明したように、本実施形態に係る切削工具1によれば、少なくとも逃げ面において皮膜1Bの最外層をSiCからなるものとしたことにより、接触する被切削材Mの凝着を大きく抑制でき、しかも、基材1Aと皮膜1Bとの密着性に優れ、これによって優れた耐摩耗性を確保することが可能である。また、本実施形態に係る切削工具1の製造方法によれば、上記の特性を有する切削工具1を安定且つ確実に得ることができると共に、工業的な量産規模での製造が可能である。
以下、実施例及び比較例を示すことにより、本発明の特徴をより一層明らかにする。
<実施例1>
ISO型番SNMN120408の、幅が12.7mm、長さが12.7mmで厚さが4.76mmのチップ寸法のWC超硬合金を基材として、これにSiCからなる皮膜を物理蒸着法(具体的にはレーザーデポジション法)によって生成させた。レーザデポジション法による皮膜生成の詳細は、次に示すとおりである。
すなわち、SiCの原料粉として、純度が97%以上で、粒径(つまり、平均直径)が0.4μm以下である市販の粉末組成品を用意した。次いで、これらの原料粉を、有機バインダーであるポリビニルアルコールを用いて造粒し、焼結後の寸法が直径30mmで厚さが10mmのペレット状となるように、超硬合金製金型を用いて加圧成形した。
なお、脱バインダー及び焼成の条件は、焼結密度がXRD(X線回折パターン)測定による単一格子の格子定数から計算される理論密度に対して95%以上となるようにした。具体的には、中性雰囲気中で1500℃×1.0時間の条件で焼成を行った。
上記のようにして得た直径30mmで厚さが10mmのペレット状の焼結体をターゲットとし、レーザデポジション法によって、基材であるWC超硬合金にSiCの皮膜を生成させた。
すなわち、図2に概略構成を示すように、密閉したチャンバー3の内部に備えられた基材成膜ステージ5上の回転台4に基材1Aを載置した。なお、基材1Aは、予め純水とエタノールによって洗浄した後、十分に乾燥させ、チップのすくい面側が上になるように回転台4上に20個(図2では、便宜上1個の基材1Aを図示)載置した。
次いで、チャンバー3内の圧力が10−3Paになるまで真空引きし、その後、不活性ガス(Arガス)をチャンバー3内に導入し、チャンバー3内を10−3Paに保った。
次に、レーザ光源6からレーザ光7をターゲット2に照射し、クラスターイオン8を励起させ、この励起したクラスターイオン8を基材1Aに堆積させて厚さ5μmの皮膜を生成させた。なお、レーザ光源6としては、発振波長266nmのYAGレーザを用い、レーザ光7の出力を約500Wに制御した。
なお、上記のレーザデポジション法による処理全体を通じて、チャンバー3内の温度は20℃とした。
以上のようにして、SiCの皮膜を有するチップを作製した。
<実施例2>
物理蒸着法として、ターゲット2からクラスターイオン8を励起させるために高周波電流を用いるRF(Radio Frequency)スパッタ法を用い、チャンバー3内の温度を300℃とした以外は、実施例1と略同様の条件で、基材であるWC超硬合金にSiCの皮膜を生成させて、チップを作製した。
<比較例1>
ターゲット2をTiNの焼結体とした以外は、実施例2と略同様の条件で、RFスパッタ法により、基材であるWC超硬合金にTiNの皮膜を生成させて、チップを作製した。
<比較例2>
皮膜を生成させることなく、基材であるWC超硬合金そのものをチップとした。
<評価試験>
上記の実施例1、2及び比較例1の各皮膜について、密着性を評価した。また、実施例1、2及び比較例1の各皮膜を備えるチップ並びに比較例2のチップを用いて旋削試験を行い、摩耗量を調査した。また、実施例1、2及び比較例1のチップについて、被切削材の凝着状況を調査した。
なお、皮膜の密着性は、通常のスクラッチ方式によって調査した。すなわち、直径が2.0μmの針を皮膜の表面に触れさせて、0〜100Nの荷重掃印によるスクラッチ方式のテストを行い、密着力低下のシグナルの発生有無を調査した。
旋削試験は、下記の表1に示す化学組成を有する直径100mmでビッカース硬さ(HV)が250の丸棒を供試材として、下記の条件で行った。
送り量:0.1mm/rev、
切り込み量:1.5mm、
切削速度:200m/分、
切削時間:540秒
潤滑:ドライ(無潤滑)
Figure 2007090483

そして、上記の切削試験を行った後、光学顕微鏡を用いて、チップ逃げ面の平均摩耗量を計測した。
<評価結果>
表2及び図3に上記の各試験結果を示す。
Figure 2007090483
(1)密着性
表2に示すように、実施例1及び2に係るSiCの皮膜を有するチップの場合、上限である100N荷重時においても密着力低下のシグナルは検出されず、皮膜は良好な密着性を有していた。これに対し、比較例1に係るTiNの皮膜を有するチップの場合、密着力低下のシグナルは80Nで観察され、皮膜の密着性に劣っていた。以上の結果より、本発明に係る切削工具は、密着性に優れることが明らかである。
(2)摩耗量
表2又は図3に示すように、実施例1及び2に係るSiCの皮膜を有するチップの場合、摩耗量(切削開始から180秒経過後の摩耗量)は、それぞれ7μm、10μmと極めて小さいのに対し、比較例1に係るTiNの皮膜を有するチップの場合には、15μmと極めて大きく、下地(基材)が完全に露出していた。以上の結果より、本発明に係る切削工具は、耐摩耗性に優れることが明らかである。
(3)凝着
比較例2に係るTiNの皮膜を有するチップの場合には、被切削材の凝着が認められた。そこで、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いてチップ表面を詳細に観察したところ、チップ表面への凝着だけではなくTiN皮膜が剥離していることも判明した。一方、実施例1、2に係るSiNの皮膜を有するチップ表面には凝着は全く認められなかった。また、皮膜の剥離も認められなかった。
図1は、本発明の一実施形態に係る切削工具の概略構成を示す図である。 図2は、本発明の一実施形態に係る切削工具の製造装置(皮膜の生成装置)の概略構成を示す図である。 図3は、本発明の実施例及び比較例に係る切削工具の摩耗量評価結果の一例を示すグラフである。
符号の説明
1・・・切削工具
1A・・・基材
1B・・・皮膜
2・・・ターゲット
3・・・チャンバー
4・・・回転台
5・・・基材成膜ステージ
6・・・レーザ光源
7・・・レーザ光
8・・・クラスターイオン
M・・・被切削材

Claims (4)

  1. 超硬合金からなる基材と、該基材の表面に形成された皮膜とを備え、
    少なくとも被切削材と接触する接触面において前記皮膜の最外層がSiCからなることを特徴とする切削工具。
  2. 超硬合金からなる基材と、該基材の表面に形成された皮膜とを備え、
    少なくとも逃げ面において前記皮膜の最外層がSiCからなることを特徴とする切削工具。
  3. SiCを成膜源とする物理蒸着法を用いて、超硬合金からなる基材の表面に最外層がSiCからなる皮膜を形成することを特徴とする切削工具の製造方法。
  4. 前記物理蒸着法は、レーザデポジション法であることを特徴とする請求項3に記載の切削工具の製造方法。
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