JP2007144522A - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】 高速切削や、乾式切削等の高温を発する切削条件において、長寿命な表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】 基体2の表面に単層または複層からなる硬質被覆層3を被着形成し、硬質被覆層3の最表面5における水の接触角θが91〜140°の範囲内にあり、最表面層が、X線回折分析にて検出されるピーク強度から算出される(200)結晶面の配向係数Tが0.4〜0.9の窒化チタンからなる表面被覆切削工具1である。
=[I(200)/I(200)][1/6Σ(I(hkl)/I(hkl))]−1
但し、
Σ(I(hkl)/I(hkl)):(111)、(200)、(220)、(311)、(222)、(400)面における[X線回折ピーク強度測定値]/[標準X線回折ピーク強度]の値の合計
【選択図】 図3

Description

本発明は、表面に硬質被覆層を被着形成した、優れた耐欠損性および耐摩耗性等の切削特性を有する表面被覆切削工具に関する。
従来より、基体の表面に硬質被覆層を被着形成した表面被覆切削工具として、超硬合金やサーメット、セラミックス等の硬質基体の表面に、TiC層、TiN層、TiCN層、Al層およびTiAlN層等の単層または複層の硬質被覆層を被着形成した切削工具が多用されている。
かかる切削工具を用いた切削加工の形態においては、環境負荷の低減が求められており、切削液を使用しない乾式切削加工が注目されてきている。かかる乾式切削加工では、切削工具の切刃が非常に高温になり易く、被削材が切刃に溶着しやすくなる傾向にある。このように被削材が工具の切刃に溶着すると、切刃が変質していわゆる構成切刃が発生してしまい、加工精度が低下したり、溶着した被削材が切刃から脱落する際に硬質被覆層の剥離やチッピング等の切刃の損傷が発生しやすくなる。そして、これが引き金となって切刃の欠損や異常摩耗が発生する等の不具合が発生して、結果的に工具の長寿命化が困難であるという問題があった。
また、表面被覆切削工具については、切刃表面の性状が切削特性に大きな影響を及ぼすことが知られており、例えば、特許文献1には、酸化物層を含む多層膜からなる硬質被覆層を成膜した表面被覆切削工具の切刃において酸化物層を含む多層膜からなる硬質被覆層の一部を除去することで、硬質被覆層の耐剥離性および耐欠損性を向上させることが開示されている。
また、特許文献2には、硬質被覆層を成膜した表面被覆切削工具の最表面を研磨して工具全体が光沢を持つほどの平滑な表面に仕上げることによって、切削の際の切刃と被削材との摩擦係数を小さくし、切刃における発熱や被削材の溶着を防ぐことが開示されている。
特開平8−11005号公報 特開2004−50385号公報
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に記載されているように硬質被覆層の切刃を含む表面を加工して表面を平滑化させるだけでは、切削抵抗が小さくなって摺動性は向上するものの、乾式切削の場合には切削によって切刃および被削材の切刃が接触する部分における温度が非常に高温となって被削材が軟化しやすくなることから被削材の溶着を抑えることができないため、溶着した被削材の脱離やこれに伴う膜剥離や切刃のチッピング等の工具損傷が発生してしまうという問題点があった。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、高速切削や乾式加工によって発生しやすい切刃への被削材の溶着を抑えて、高速切削や乾式切削においても優れた性能を発揮する、長寿命な表面被覆切削工具を提供することにある。
本発明者は、上記課題に対し、表面被覆切削工具の表面における水に対する濡れ性を低くすることによって、乾式切削加工において発生する熱で被削材が溶着し易くなっても表面被覆切削工具の表面に溶着しにくくなり、その結果、付着した被削材が剥離する際に硬質膜の剥離や切刃のチッピング等の損傷を引き起こすことを防ぐことができ、高速切削や乾式切削においても優れた切削性能を発揮する表面被覆切削工具とすることができることを知見した。
すなわち、本発明の表面被覆切削工具は、基体の表面に単層または複層の硬質被覆層を被着形成した表面被覆切削工具であって、前記硬質被覆層の最表面における水の接触角θが91〜140°の範囲内にあることを特徴とするものである。
ここで、単層の前記硬質被覆層または複層の前記硬質被覆層のうちの最表面層が、X線回折分析にて検出されるピーク強度と下記の式にて算出される(200)結晶面の配向係数Tが0.4〜0.9の窒化チタンからなることが、硬質被覆層の最表面における界面エネルギーを小さくすることができ、硬質被覆層の最表面における水の濡れ性を本発明の範囲内に容易に最適化することができるため望ましい。
=[I(200)/I(200)][1/6Σ(I(hkl)/I(hkl))]−1
但し、
I(200) :(200)面におけるX線回折ピーク強度測定値
(200):JCPDSカード番号6−642の(200)面における標準X線回折ピーク強度
Σ(I(hkl)/I(hkl)):(111)、(200)、(220)、(311)、(222)、(400)面における[X線回折ピーク強度測定値]/[標準X線回折ピーク強度]の値の合計
さらに、単層の前記硬質被覆層または複層の前記硬質被覆層のうちの最表面層における平均粒径が1〜3μm、特に、1.5〜3μmとすることが、最表面における表面エネルギーを低くすることができ、最表面における被削材に対する濡れ性を低くすることができるため望ましい。
また、前記硬質被覆層の最表面の最大高さRzを0.3〜1.2μmの範囲内とすることによって、水の接触角θを上記の範囲内に容易に調整することができるため望ましい。
本発明の表面被覆切削工具によれば、基体の表面に被着形成した硬質被覆層の最表面における水の接触角θが91〜140°の範囲内にあることによって、切削による熱が非常に高くなる切削液を使用しない乾式切削加工、特に高速の乾式切削加工において、切削による熱で溶解した被削材が硬質被覆層の表面に溶着しにくくなる。そのため、溶着物が脱落する際に起こる膜剥離や切刃のチッピング、また、溶着物の付着による加工面粗度の低下などを防ぐことができる。その結果、特に切削加工時に切刃が高温となりやすい切削加工においても、切刃の損傷を防止できるとともに、優れた切削加工精度を発揮できるものとすることができる。
なお、本発明においては、硬質被覆層の最表面における水の接触角θは硬質被覆層の最表面における界面エネルギーを制御することによって調整することが可能である。したがって、硬質被覆層の最表面における水のなじみやすさを制御することによって硬質被覆層の表面における界面エネルギーを制御することが可能である。すなわち、かかる界面エネルギーは硬質被覆層の成膜履歴や研磨状態によって変化し、かつ直接測定することはできないものであるが、本発明はこれらの条件を総合的に適正化することによって硬質被覆層の最表面における界面エネルギー、すなわち水の接触角θを所定範囲に制御することを可能としたものである。より詳細には、硬質被覆層の最表面における界面エネルギーを低くすると水の接触角θが大きくなる。
水の接触角θを制御するための具体的な手法として、例えば、単層の前記硬質被覆層、または複層の硬質被覆層の最表面層に窒化チタン(TiN)を用いる場合、通常の方法で窒化チタンを成膜すると水に対する濡れ性がよくて水の接触角θは90°を下回るものであるが、本発明によれば、例えば成膜条件を制御して単層または最表面層の窒化チタンの結晶を(200)面への配向を抑えた膜質、詳細には上述した配向係数Tcを0.4〜0.9に制御することによって、理由は不明であるが、硬質被覆層の粒界エネルギーや表面エネルギーを低下させることができ、接触角θを本発明の範囲内にすることができる。
このとき、単層の前記硬質被覆層または複層の硬質被覆層の最表面層における結晶粒子の粒径を大きくすることにより、結晶の界面が少なくなるため、界面エネルギーのひとつである粒界におけるエネルギー(粒界エネルギー)を低くすることができて、水の接触角θをより好適な範囲に制御することができる。単層または最表面層の平均粒径の望ましい範囲は1〜3μmである。
さらに、上記水に対する濡れ性が悪い単層または最表面層の最表面について研磨加工を施した場合には、硬質被覆層の最表面における界面エネルギーおよび水の接触角θをさらに好適な範囲に制御することができる。硬質被覆層の最表面における最大高さRzの望ましい範囲は、0.3〜1.2μmである。
本発明の表面被覆切削工具の実施の形態の一例について、スローアウェイチップ型切削工具(以下、本発明の表面被覆切削工具を単に工具と略すことがある。)の要部拡大断面図である図1、およびその概略斜視図である図2を用いて説明する。
図1、図2において、工具1は基体2の表面に硬質被覆層3を有する構成となっている。なお、図1に示す例においては、硬質被覆層3は、第1層3aが窒化チタン層、第2層3bが炭窒化チタン層、第3層3cが炭酸窒化チタン層、第4層3dが酸化アルミニウム層、第5層が最表面層4の窒化チタン層にて構成されている。
ここで、本発明の工具1によれば、硬質被覆層3の最表面5における水の接触角θを91〜140°の範囲内にすることによって、表面被覆層3の最表面5の切削によって発生する熱で工具の切刃が高温となって被削材が軟化したとしても、その一部が工具1の最表面に付着しにくくすることができる。そのため、切刃が高温となりやすい乾式切削加工でも硬質被覆層3が劣化せず、優れた工具寿命を発揮することができる。
すなわち、硬質被覆層3の最表面5における水の接触角θが91°より小さいと、切刃が高温となりやすい切削加工における切削中に被削材が最表面5に溶着してしまい、その溶着によって層剥離や切刃に欠損等の損傷が発生するとともに、溶着した被削材によって加工面の精度が悪くなってしまう。
一方、硬質被覆層3の最表面5における水の接触角θが140°を超えると、被削材への切刃の食いつきが劣化し、工具の切れ味が低下するため切削抵抗が増大する結果、工具1の突発欠損やビビリによる加工面精度の低下等の問題が発生してしまう。なお、硬質被覆層3の最表面5における水の接触角θの望ましい範囲は、被削材の溶着を防ぎ、かつ、切削抵抗の増加を抑えることを考慮すれば93〜120°、より望ましくは95〜115°である。
ここで、硬質被覆層3の最表面5における水の接触角θの測定方法としては、メニスコグラフ法や毛細管法などの測定方法を使用することもできるが、図3に模式図で示すように、蒸留水からなる液滴6を被測定物である硬質被覆層3(最表面層4)の最表面5に置き、その液滴6が被測定物と接触している領域の周縁部における液滴6の接線Lと被測定物の最表面5とのなす角θを測定する静滴法をJIS R3257に準拠して用いることにより、容易かつ正確に測定できる。
なお、硬質被覆層3の最表面5における水の接触角θの制御は、硬質被覆層3の表面および粒界によるエネルギーを総合的に適正化することによって達成することができる。界面エネルギーを構成する表面エネルギーおよび粒界エネルギーは、硬質被覆層3の最表面層4の膜質、粒径、表面粗さ等の物性に加えて、成膜時の熱履歴、原料ガスの流量、成膜時間等の製法に関する条件などの総合的な性状により変化するため、物性、製法等の条件を総合的に考慮する必要がある。
また、最表面層4をX線回折分析にて検出されるピーク強度値と下記に示される式にて算出される(200)結晶面の配向係数Tが0.4〜0.9の窒化チタンからなる場合には、理由は不明であるが、最表面層4の界面エネルギーが小さくなって最表面層における水の濡れ性を本発明の範囲内に容易に最適化できる。窒化チタンの配向係数Tの望ましい範囲は0.5〜0.8、より望ましくは0.6〜0.8である。
=[I(200)/I(200)][1/6Σ(I(hkl)/I(hkl))]−1
但し、
I(200) :(200)面におけるX線回折ピーク強度測定値
(200):JCPDSカード番号6−642の(200)面における標準X線回折ピーク強度
Σ(I(hkl)/I(hkl)):(111)、(200)、(220)、(311)、(222)、(400)面における[X線回折ピーク強度測定値]/[標準X線回折ピーク強度]の値の合計
さらに、上記配向係数Tの窒化チタンの最表面層4について、最表面層4の平均粒径を1〜3μm、特に1.2〜2μmの範囲内とすることによって、工具1の硬質被覆層3の最表面5の粒界エネルギーを適正化することができ、硬質被覆層3の水の濡れ角をより好適な範囲に制御できて、乾式切削加工のように切刃に被削材が溶着しやすい加工においても被削材が切刃に溶着することを抑制し、膜剥離等の溶着に起因する工具損傷を防ぐことができる。
なお、本発明の工具1における硬質被覆層3の最表面層4の平均粒径とは、最表面層4の表面または断面について走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いた組織観察を行ない、100nm×100nm以上の視野領域にて観察される画像において、最表面層4を構成している粒子のそれぞれの面積を画像解析法にて算出して、それらの平均面積を見積もった後、この平均面積を有する円に換算して求められる円の直径を意味する。
さらには、最表面層4の表面である硬質被覆層3の最表面5における最大高さRzを0.3〜1.2μmの範囲内にすることによって、硬質被覆層3の表面全体にわたって特性バラツキを抑制して水の接触角θをさらに好適な範囲内に容易に調整することができるため望ましい。さらにまた、この最大高さRzの範囲内においても、とりわけ、最表面層4の表面である硬質被覆層3の最表面5における算術平均粗さRaを0.05〜0.3μmの範囲内にすることが表面エネルギーを適正化して水の接触角θを最適化できるとともに、摺動性が増し、より被削材の溶着を防ぐことができる状態に容易に調整することができるため望ましい。
ここで、硬質被覆層3(最表面層4)の最表面5の算術平均粗さRaおよび最大高さRzを測定する方法としては、JIS B0601’01に準拠して触針式表面粗さ測定器を用いて測定すればよく、かかる測定が困難な場合には、レーザー顕微鏡や原子間力顕微鏡等の測定器を用い、硬質被覆層3の最表面5における凹凸形状を走査しながら見積もることによって測定することが可能である。この表面粗さ(Rz、Ra)の測定においては、触針式表面粗さ測定器を用いる場合には、カットオフ値:0.25mm、基準長さ:0.8mm、走査速度:0.1mm/秒にて測定する。
また、硬質被覆層3を構成する材質としては、周期律表の第4、5、6族金属元素、AlおよびSiから選ばれる1種以上の元素と、酸素、窒素、炭素、硼素から選ばれる1種以上の元素との化合物の単層または複層が切削性能の面で好適に使用でき、特に、最表面層4は窒化チタンからなることが、硬質被覆層3の水の接触角を本発明の範囲内に容易に制御できるため望ましい。
なお、本発明の工具1に使用する基体2としては、炭化タングステン(WC)、炭化チタン(TiC)または炭窒化チタン(TiCN)と、所望により周期律表第4、5、6族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物の群から選ばれる少なくとも1種からなる硬質相をコバルト(Co)および/またはニッケル(Ni)の鉄族金属から成る結合相にて結合させた超硬合金やサーメット、または窒化珪素(Si)や酸化アルミニウム(Al)質セラミック焼結体、立方晶窒化ホウ素(cBN)、ダイヤモンドを主体とした超硬質焼結体等の硬質材料、または炭素鋼、高速度鋼、合金鋼等の金属等の高硬度材料を用いるとよい。図1に示す例では、炭化タングステン(WC)を主成分とした硬質相とコバルト(Co)からなる結合相とで構成される超硬合金にて基体2が構成されている。基体2が超硬合金からなる場合には、硬度および靭性のバランスが良くて高速湿式切削加工用として安定した切削加工をすることができる。
(本発明の表面被覆切削工具の製造方法)
また、上述した本発明の表面被覆切削工具1を製造するには、まず、上述した硬質合金を焼成によって形成しうる金属炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物等の無機物粉末に、金属粉末、カーボン粉末等を適宜添加して混合し、プレス成形、鋳込成形、押出成形、冷間静水圧プレス成形等の公知の成形方法によって所定の工具形状に成形した後、真空中または非酸化性雰囲気中にて焼成することによって、上述した硬質材料からなる基体2を作製する。
次に、基体2の表面に例えば化学気相蒸着(CVD)法によって硬質被覆層3を成膜する。ここで、例えば、硬質被覆層3の最表面層4を成膜する際に、反応炉内の圧力を1〜30kPaと低く設定することで、反応炉内の原子数が少なくなり、原料原子・分子が表面拡散するときに十分に拡散し、欠陥を生成することなく結晶化することができ、表面エネルギーが低くなる。そのため、最表面5における界面エネルギーを小さくすることができるため、水の接触角θを本発明の範囲内にコントロールすることができる。
例えば、混合ガスに対する原料ガス濃度を0.05〜1.0体積%とし、かつ、成膜温度を880〜950℃の範囲にすることで、最表面層4における配向結晶性を制御することができ、その結果、最表面層の表面エネルギーを小さくすることができて水の接触角θを本発明の範囲内にコントロールすることができる。
より具体的には、例えば、最表面層4として窒化チタン(TiN)層を成膜するには、原料ガスとして塩化チタン(TiCl)ガスが0.05〜0.5体積%、反応ガスとして窒素(N)ガスが25〜50体積%、残りがキャリアガスとして水素(H)ガスからなる混合ガスを調整し、チャンバ内を炉内温度880〜950℃、圧力7〜10kPaとする。この条件で成膜するとTiN層の(200)結晶面の配向係数Tが0.4〜0.9となる可能性が高くなる。
次に、硬質被覆層3を成膜後に、硬質被覆層3の表面をブラシ、弾性砥石、ブラスト、等の研磨方法によって研磨することによって、工具1の表面粗さを小さくして最表面層4の濡れ性を制御する。ここで、研磨方法としては、ブラシ研磨を行うことが望ましい。この時、最表面層4を成膜する層厚とその後に研磨する研磨比率を制御することによって、最表面層4を構成するTiN粒子の平均粒径を制御することができる。接触角θを調整するとともに最表面層4の最表面5における局所的な濡れ性のばらつきをなくして均一化することができる。
なお、上記の実施の形態の例では化学気相蒸着(CVD)法にて硬質被覆層3の成膜を行なう方法について説明したが、本発明の工具1の製造方法はこれに限定されるものではなく、物理気相蒸着(PVD)法等のその他の成膜方法にて硬質被覆層3を成膜したものであってもよい。この場合でも成膜ガス流量を制御すること等によって最表面層4の膜質を制御した条件にて成膜すること、さらに上述した加工方法にて硬質被覆層3の最表面5を研磨加工して硬質被覆層3の最表面5における水の接触角を制御することができる。
また、上記の実施の形態の例では、硬質被覆層3が5層の複層からなる場合について説明したが、本発明の工具1では硬質被覆層3が4層以下、または6層以上の複層からなる場合について硬質被覆層3が単層からなるものであっても発明の効果を失わない。
平均粒径1.1μmの炭化タングステン(WC)粉末に対して、平均粒径1.2μmの金属コバルト(Co)粉末を5質量%、平均粒径2.0μmの炭化チタン(TiC)粉末を0.5質量%、平均粒径2.0μmのCr粉末を0.5質量%の割合で添加、混合して、プレス成形により切削工具形状(CNMA120412)に成形した後、脱バインダ処理を施し、0.01Paの真空中、1450℃で1時間焼成して超硬合金を作製した。さらに、作製した超硬合金にブラシ加工にてすくい面より切刃処理(ホーニングR)を施した。
次に、上記超硬合金に対して、化学気相蒸着(CVD)法により各種の硬質被覆層を表2に示す構成の多層膜からなる硬質被覆層を成膜した。なお、表2の各層の成膜条件は表1に示した。そして、硬質被覆層を被覆した後、表2に示す研磨方法によって試料の表面を研磨して最表面層の層厚を表2に記載の値に調整し、試料No.1〜9の表面被覆切削工具を作製した。
Figure 2007144522
得られた工具のすくい面の平坦部について、表面における水の接触角θの測定を図1に示すようなJIS R3257に準拠した静滴法を用いて行なった。結果は表2に示した。
また、工具の切刃近くのランド等の平坦部における最表面の表面粗さ(最大高さRz、算術平均粗さRa)を触針式の表面粗さ測定器にて、JIS B0601’01に準拠して触針式表面粗さ測定器を用い、カットオフ値0.25mm、基準長さ:0.8mm、走査速度:0.1mm/秒にて測定した。結果は表2に示した。
さらに、得られた工具の硬質被覆層を透過型電子顕微鏡(TEM)にて500,000倍の倍率で観察し、画像解析法を用いて最表面層の粒径を測定した。結果は表2に示した。具体的には、個々の粒子について面積を算出し、その平均値を同じ面積の円に換算した時の円の直径を最表面層の平均粒径として算出した。
また、管球にCuを用いて最表面のTiN層のX線回折分析を行い、得られたピーク強度から、(200)面における配向係数Tを求めた。結果は表2に示した。
Figure 2007144522
そして、この工具を用いて下記の条件により切削試験を行い、性能を評価した。
(切削条件)
被削材 :SCM440 円柱材
工具形状:CNMA120408
切削速度:300m/分
送り速度:0.2mm/rev
切り込み:1.5mm
切削状態:乾式
評価項目:顕微鏡にて切刃を観察し、フランク摩耗量・先端摩耗量を測定
Figure 2007144522
表1〜3より、接触角θが91°よりも小さくなった試料No.7,8では、被削材が切刃に溶着してしまったために、チッピングや層剥離が発生し、耐摩耗性、耐欠損性が共に悪く、工具寿命の非常に短いものであった。
また、接触角θが140°を超えた試料No.9では、被削材への工具切刃の食いつきが悪いため、切削抵抗が高くなってしまい、切刃のチッピングや膜剥離が発生して耐摩耗性および耐欠損性がともに悪く、工具寿命の短いものであった。
それに対し、接触角θを91°〜140°の範囲内とした試料No.1〜6では、上記切削条件において耐摩耗性、耐欠損性共に優れ、切刃の損傷もほとんどなかった。
本発明の表面被覆切削工具の実施の形態の一例における硬質被覆層の層構成を示した要部拡大断面図である。 本発明の表面被覆切削工具の実施の形態の好適例であるスローアウェイチップの外観を示す概略斜視図である。 硬質被覆層の最表面における水の接触角を測定する方法を説明するための模式図である。
符号の説明
1:工具(表面被覆切削工具)
2:基体
3:硬質被覆層
4:最表面層
5:硬質被覆層の最表面
6:液滴
7:すくい面
8:逃げ面
9:切刃
θ:接触角

Claims (4)

  1. 基体の表面に単層または複層の硬質被覆層を被着形成した表面被覆切削工具であって、前記硬質被覆層の最表面における水の接触角θが91〜140°の範囲内にあることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 単層の前記硬質被覆層または複層の前記硬質被覆層のうちの最表面層が、X線回折分析にて検出されるピーク強度から下記の式にて算出される(200)結晶面の配向係数Tが0.4〜0.9の窒化チタンからなることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
    =[I(200)/I(200)][1/6Σ(I(hkl)/I(hkl))]−1
    但し、
    I(200) :(200)面におけるX線回折ピーク強度測定値
    (200):JCPDSカード番号6−642の(200)面における標準X線回折ピーク強度
    Σ(I(hkl)/I(hkl)):(111)、(200)、(220)、(311)、(222)、(400)面における[X線回折ピーク強度測定値]/[標準X線回折ピーク強度]の値の合計
  3. 単層の前記硬質被覆層または複層の前記硬質被覆層のうちの最表面層の平均粒径が1〜3μmの範囲内にあることを特徴とする請求項2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記硬質被覆層の最表面の最大高さRzが0.3〜1.2μmの範囲内にあることを特徴とする請求項2または3に記載の表面被覆切削工具。
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