JP4475397B2 - 切削加工用工具とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、切削加工用工具及びその製造方法に関する。詳しくは、旋削加工、ドリル加工、エンドミル加工及びフライス加工など各種の切削加工用途に適した、耐摩耗性に優れた切削加工用工具、特に、接触する相手材の凝着を大きく抑制でき、しかも、基材と皮膜との密着性に優れ、これによって優れた耐摩耗性を確保することができる切削加工用工具とその製造方法に関する。
工業製品に対する要求特性の高度化に伴って、各種の切削工具の耐摩耗性を向上させることが求められている。
すなわち、切削工具については、切削加工能率を一層高めるために、高速で切削加工した場合にも良好な耐摩耗性を確保できる工具が要求され、また、いわゆる「ハイテン780(HT780)」など「ハイテン材」と称される高張力鋼をはじめ13Cr系のマルテンサイト系ステンレス鋼などの高強度材、更には、オーステナイト系やフェライト系のステンレス鋼といった難削材に対しても凝着を生じることなく優れた切削機能を有する工具が要求されている。
斯様な要求に対処するために、従来、超硬合金からなる基材の表面に、硬質保護膜として、TiやZrなどの炭化物、窒化物及び炭窒化物、並びに、Alなどを形成させることが行われている。具体的には、化学蒸着法(CVD法)や物理蒸着法(PVD法)によって、基材の表面に前記した硬質保護膜を単層もしくは複層で、数μmから数十μmの厚さで形成させることが行われ、切削工具の摩耗抑制及び被切削材との凝着抑制が図られている。
しかしながら、従来の硬質保護膜、例えば、100℃以上の温度で形成されたTiN、Ti(C、N)、TiAlN及びAlなどの皮膜は、常温では優れた密着力と耐摩耗性を有するものの、高速で切削加工する場合や高強度材を切削加工する場合には、被切削材との接触面が1000℃以上の高温に上昇するので、酸化分解や被切削材との化学反応が生じ、また、皮膜生成時に熱応力も発生するので、密着力が低下してしまう。その結果、耐摩耗性の低下や被切削材の凝着などが生じ、硬質保護膜としての機能が著しく損なわれる。
このため、硬質保護膜には従来にも増した耐酸化性や密着力が要求されるようになり、この要求に応えるべく、いくつかの新しい技術が提案されている。
例えば、特許文献1に、硬質保護膜の酸化分解を抑制する技術、換言すれば、酸化開始温度を高くして耐酸化特性を向上させる技術が開示されている。すなわち、特許文献1には、基材上に形成された4a族元素、5a族元素、6a族元素及びAlからなる群の中から選択される1種以上の元素の窒化物又は炭窒化物を主成分とする耐摩耗性皮膜の中に、皮膜の硬度を高めることを目的として、B4C、BN、TiB2、TiB、TiC、WC、SiC、SiNX(X=0.5〜1.33)及びAl23よりなる群から選択される少なくとも1種の超微粒化合物を含有させた切削工具が提案されている。
特許文献2には、母材(基材)の表面近傍の塑性変形性を高めるとともに、皮膜との密着性を改善させる技術が開示されている。すなわち、特許文献2には、超硬合金母材と硬質皮膜との間に母材の硬質相粒子と皮膜粒子とからなる硬質複合層を設けた被覆超硬合金が記載されている。
具体的には、硬質相粒子が炭化タングステン、或いは炭化タングステンと周期律表の4a族元素、5a族元素及び6a族金属の炭化物、窒化物及び炭窒化物、並びにこれらの相互固溶体の中の1種以上からなる立方晶化合物で、結合相が鉄族金属である超硬合金を母材とし、その母材表面から内部に向かって3〜20μmの深さに亘って、結合相の量が2重量%以下で、且つ母材の硬質相粒子と周期律表の4a族元素、5a族元素、6a族元素、Al及びSiの炭化物、窒化物及び酸化物、並びにこれらの相互固溶体の中から選ばれた1種以上の化合物粒子とから構成された均一な硬質複合層とを有し、更に、母材表面に前記4a族元素からSiまでの炭化物、窒化物及び酸化物、並びにこれらの相互固溶体の中から選ばれた1種以上の化合物でなる単層又は2層以上の積層でなる0.5〜20μmの硬質膜を被覆した被覆超硬合金が提案されている。
特許文献3には、特定の密度を有する高硬度の炭素膜が開示されている。この特許文献3で提案された炭素膜は、ダイアモンド膜やダイアモンド状炭素膜に代わって、工具、金型や機械部品などの耐摩耗性及び耐久性を向上させることができるものである。
特開2001−293601号公報 特開2002−38205号公報 特開2003−147508号公報
本発明の目的は、接触する相手材の凝着を大きく抑制でき、しかも基材と皮膜との密着性に優れ、これによって優れた耐摩耗性を確保することが可能で、旋削加工、ドリル加工、エンドミル加工及びフライス加工など各種の切削加工用途に好適な切削加工用工具とその製造方法を提供することである。
前述の特許文献1で提案された工具を用いれば、250m/分という高速切削の場合にも、優れた耐摩耗性、高い潤滑性が確保でき、また凝着抑制の効果も得られる。しかし、この工具の基材上には、前記特定の元素の窒化物又は炭窒化物を主成分とし、その中に、上述のB4CからAl23までの中から選択される少なくとも1種の超微粒化合物を含む皮膜を設ける必要がある。このため、工業的な量産規模での製造が極めて難しい。更に、前記皮膜の現実的な合成温度は500℃という高い温度である。つまり、特許文献1の段落[0032]に記載されているように、前記の皮膜を生成させるためには、現実問題として、基材を500℃という高温に加熱する必要があるので、熱応力によって基材に寸法変化が生じた結果、皮膜との界面における密着力が低下し、耐摩耗性が低下する場合がある。
次に、特許文献2で提案された被覆超硬合金は、硬質複合層が母材の塑性変形を抑制すると同時に母材と硬質膜との密着性を高めるので、切削工具に用いると、500m/分という極めて大きな切削速度の場合にも、優れた耐摩耗性が確保でき、長い工具寿命が得られる。しかし、この被覆超硬合金は、母材である超硬合金の表面から結合相である鉄族金属を一旦除去したうえで、前述の硬質膜を被覆し、硬質膜と母材との間に硬質複合相を母材表面から3〜20μmの範囲に形成させる必要がある。このため、工業的な量産規模での製造が極めて難しく、また、製造コストも嵩む。更に、前記皮膜の現実的な合成温度は500℃以上という高い温度である。つまり、特許文献2の段落[0022]における表3に記載されているように、前記の皮膜を生成させるためには、現実問題として、基材を500℃以上の高温に加熱する必要があるので、熱応力によって基材に寸法変化が生じた結果、皮膜との界面における密着力が低下し、耐摩耗性が低下する場合がある。
そして、特許文献3で提案された技術は、工具使用温度が400℃以下の冷間加工が主な対象であって、熱間加工には不向きである。すなわち、炭素膜は400℃以上では酸素と反応して炭酸ガスとして気化してしまうので、硬質保護膜としての機能が著しく損なわれてしまうという問題がある。
更に、前記皮膜の現実的な合成温度は100〜300℃である。つまり、特許文献3の段落[0019]及び[0020]等に記載されているように、前記の皮膜を生成させるためには、現実問題として、基材を100〜300℃に加熱する必要があり、このため、熱応力によって基材と皮膜との界面における密着力が低下し、耐摩耗性が低下する場合がある。
本発明者らは、このような問題点を解決するために、基材の一例に、WC−TiC−Co超硬合金を用いて、基材表面を被覆する硬質保護膜の化学組成とそれらの皮膜生成方法について詳細に検討した。その結果、下記(a)〜(f)、(h)および(i)の知見を得た。
(a)摩耗を抑制し、更に、接触する相手材の凝着を抑制するためには、硬質保護膜である皮膜の酸化分解開始温度が高いことが必要であり、しかも、その皮膜は、接触する相手材との化学反応、特に、液相析出を抑止できるものとする必要がある。
(b)皮膜を生成させる温度を100℃未満にすれば、皮膜生成時に発生する熱応力を極力抑えることができるので、基材と硬質保護膜との界面における密着力の低下を抑えることが可能である。
(c)Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物並びにSiの炭化物及び窒化物は、いずれも酸化分解の開始温度が1200℃以上で、高温でも極めて安定した状態を保つことがことができる。
(d)上記のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物並びにSiの炭化物及び窒化物は、いずれも熱的に安定している。このため、高温に曝されても基材との密着性に優れ、剥離することがない。上記のうちでも特に、Siの炭化物(つまり、SiC)の線膨張係数は、例えば、基材である超硬合金に比べて十分小さいので、高温に曝された場合、基材と皮膜の界面に引張応力が発生し、基材との密着性は極めて優れている。
(e)上記のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物並びにSiの炭化物及び窒化物は、いずれも機械的に安定しており、硬さ、ヤング率、耐熱衝撃性などに優れるので、硬質保護膜として適している。
(f)例えば、各種鋼材の切削工具として、基材の表面に、上記のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物並びにSiの炭化物及び窒化物を被覆したものを用いれば、この酸化物、炭化物及び窒化物は、いずれも被切削材である鋼材の主成分としてのFeとの反応性が極めて低いので、高速切削時の高温状態においても化学的に安定した状態で存在することができる。
(h)上記のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物並びにSiの炭化物及び窒化物における化学的な組成変動を生じ難くし、前述した各物性を損なうことなく皮膜として適用するためには、純度の高い各酸化物、並びにSiの炭化物及び窒化物を十分に焼結した後、これを原料、つまり、成膜源(以下、「ターゲット」ともいう。)として用い、100℃未満の温度域で、物理蒸着法によって基材表面に皮膜を生成させればよい。換言すれば、物理蒸着法によって上述のターゲットから励起されたクラスターイオンを、100℃未満の温度域で基材の表面に堆積させた皮膜の物性は、上記の各酸化物、並びに、Siの炭化物及び窒化物の物性と変わらない。
(i)100℃未満の温度域での物理蒸着法の採用によって、ターゲットから皮膜への正確な物質移動が可能になり、しかも、粒径0.4μm以下の原料微粉焼結体ターゲットの使用により、クラスターイオンの微細化も可能となるので,基材の表面凹凸状態に関係なく、直接に緻密な皮膜の生成が実現できる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
本発明の要旨は、下記(1)に示す切削加工用工具、並びに(2)及び(3)に示す切削加工用工具の製造方法にある。
(1)内部に基材を有し、Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる厚さが0.5〜10μmで、100℃未満の温度で生成した皮膜を最外層に有することを特徴とする切削加工用工具。
(2)上記(1)に記載の切削加工用工具を製造する方法であって、真空槽内に導入した不活性ガス雰囲気下において、100℃未満の温度域で、Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる焼結体を原料としてクラスターイオンを励起させ、前記励起したクラスターイオンを堆積させることにより、厚さ0.5〜10μmの皮膜を切削加工用工具の最外層に生成させることを特徴とする切削加工用工具の製造方法。
(3)原料としての焼結体が、粒径0.4μm以下で、且つ、純度97%以上のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる微粉末を、理論密度に対して95%以上で焼結させたものであることを特徴とする上記(2)に記載の切削加工用工具の製造方法。
なお、Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物とは、例えば、Al23、TiO2及びZrO2のような酸化物を指す。
粉末の粒径とは粒径分布が50%以上の割合を有する粒子の直径を、また、焼結の理論密度とは格子定数から計算される単一格子体積と単一格子内の含有原子質量から算出される密度を指す。
以下、上記(1)の切削加工用工具に係る発明、並びに(2)及び(3)の切削加工用工具の製造方法に係る発明を、それぞれ本発明(1)〜本発明(3)という。また、総称して本発明ということがある。
本発明の切削加工用工具は、接触する相手材の凝着を大きく抑制でき、しかも基材と皮膜との密着性に優れるので、旋削加工、ドリル加工、エンドミル加工及びフライス加工など各種の切削加工用工具に用いることができる。この切削加工用工具は、本発明の方法によって安定、且つ確実に得ることができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
(A)最外層の皮膜の構成材
Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物並びにSiの炭化物及び窒化物は、いずれも酸化分解温度が1200℃以上と高く、しかも、熱的及び機械的に安定しているため、高温に曝されても基材との密着性に優れ、剥離することがないし、安定した機械的性質を発揮することができる。したがって、各種鋼材の切削工具として、基材の表面に、上記のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物を被覆したものを用いれば、この酸化物、炭化物及び窒化物は、いずれも被切削材である鋼材の主成分としてのFeとの反応性が極めて低いので、高速切削時の高温状態においても化学的に安定した状態で存在しうる。更に、上記のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる皮膜は、摺動部における摩擦係数が極めて小さいし、化学的安定性にも優れる。
したがって、前記の本発明(1)に係る切削加工用工具は、最外層にAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる皮膜を有するものとした。
(B)最外層の皮膜の厚さ
最外層に前記(A)項に記載のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる皮膜を有する場合であっても、その厚さが0.5μmを下回る場合には、十分な耐摩耗性が得られない場合がある。一方、最外層の皮膜の厚さが10μmを超えても耐摩耗性は飽和し、コストが嵩むばかりである。
したがって、前記の本発明(1)に係る切削加工用工具における最外層の皮膜の厚さを、0.5〜10μmと規定した。なお、前記の最外層における皮膜の厚さは、1〜5μmとすることが好ましい。
(C)最外層の皮膜の生成温度
最外層に前記(A)項及び(B)項に記載の皮膜、つまり、Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる厚さが0.5〜10μmの皮膜を有する場合であっても、その生成温度が100℃以上である場合には、皮膜生成時に発生する熱応力のために皮膜の密着力が低下し、十分な耐摩耗性が得られないことがある。
したがって、前記の本発明(1)に係る切削加工用工具における最外層の皮膜は、100℃未満の温度で生成したものと規定した。なお、前記(A)項に記載の、Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる前記皮膜の生成温度の下限は15℃であっても構わない。
上記(A)〜(C)項に記載の理由により、前記の本発明(1)に係る切削加工用工具は、内部に基材を有し、Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる厚さが0.5〜10μmで、100℃未満の温度で生成した皮膜を最外層に有するものと規定した。
なお、上記の基材には、部材としての要求特性に応じて、例えば、WC、WC−TiC、WC−TiC−Coなどの超硬合金や、高速度鋼、セラミックス、サーメット、ダイス鋼、各種金型用鋼材、Ti合金など、各種の材料を用いることができる。
(D)最外層の皮膜の生成方法
前記したAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、並びに、Siの炭化物及び窒化物の皮膜が有する各種の特性、つまり、高い酸化分解温度、熱的及び機械的な安定性、高速切削時の高温状態における化学的安定性、極めて小さい摩擦係数などの特性は、以下に示す物理蒸着法によって皮膜を生成させることによって確保することができる。
すなわち、真空槽内に導入した不活性ガス雰囲気下において、100℃未満の温度域で、前述のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物の焼結体をターゲットとしてクラスターイオンを励起させ、前記励起したクラスターイオンを厚さ0.5〜10μmに堆積させて皮膜を得ることによって、前記の各種特性が確保される。
ここで、真空槽内に導入した不活性ガス雰囲気下での処理とするのは、炭化物や窒化物の不要な酸化を防ぎ、また、酸化物の過酸化による組成変動を防ぐためである。なお、不活性ガスとしては、窒素ガスやArガスなどを、ターゲットに応じて適宜選択すればよい。これらのガスは、例えば、10-3Pa以下に真空引きした真空槽内に導入し、真空槽内の圧力を10-3Pa程度に保てばよい。100℃未満の温度域での処理とするのは、皮膜生成時に発生する熱応力を極力抑えて、密着性を高めるためである。
ターゲットである焼結体にレーザー光、電子線や高速加速された各種イオンなどを照射すれば、クラスターイオンが容易に励起され、このクラスターイオンを温度100℃未満の被皮膜処理材(基材)の最外層に厚さ0.5μm以上に堆積させることで、所望の特性を有する皮膜が得られる。なお、堆積厚さを10μm以下とするのは、10μmを超えても耐摩耗性は飽和し、コストが嵩むためである。
したがって、前記の本発明(2)に係る切削加工用工具の製造方法を、真空槽内に導入した不活性ガス雰囲気下において、100℃未満の温度域で、Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる焼結体を原料としてクラスターイオンを励起させ、前記励起したクラスターイオンを堆積させることにより、厚さ0.5〜10μmの皮膜を最外層に形成させることと規定した。
なお、ターゲットとしての焼結体に以下に示すものを用いれば、前記した皮膜の各種特性を安定且つ、確実に確保することができる。
すなわち、ターゲットである焼結体として、粒径0.4μm以下で、且つ、純度97%以上の微粉末を、理論密度に対して95%以上で焼結させたものを用いることによって、前述の皮膜の各種特性が安定且つ、確実に確保される。
ここで、粒径を0.4μm以下とするのは、ターゲットから励起されるクラスターイオンを微細化させることにより、成膜エネルギーを引き下げることが可能となるためである。なお、成膜エネルギーは、成膜時の核となるイオンが生成しやすいほど低くなるので、クラスターイオンの微細化が有効である。
また、純度が97%以上の微粉末を用いるのは、成膜後の膜質の均質性を向上させるためである。更に、理論密度に対して95%以上で焼結させたものを用いるのは、理論密度に対して95%未満で焼結させたものをターゲットにすれば、空隙に入り込んだ空気や前記不活性ガス雰囲気を構成する気体が、クラスターイオン励起のためにレーザー光、電子線や高速加速された各種イオンなどを照射した際に熱膨張し、ターゲットにクラックや割れを生じることがあるため、こうした事態を避けるためである。
したがって、前記の本発明(3)に係る切削加工用工具の製造方法は、ターゲットとしての焼結体に、粒径0.4μm以下で、且つ、純度97%以上のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる微粉末を、理論密度に対して95%以上で焼結させたものを用いるように規定した。
なお、ターゲットは超微粒で超高純度の微粉末を高い密度で焼結させたものとすることが好ましいので、例えば、Al23を成膜の場合、粒径は0.3μm以下、純度は99.9%以上、焼結密度は98%以上とするのがよい。
ここで、例えば、Al23ターゲット作製の場合、1500℃で1時間の焼成処理を行うことによって、理論密度に対して95%以上で焼結させることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
ISO型番SNMN120408の、幅が12.7mm、長さが12.7mmで厚さが4.76mmのチップ寸法のWC−TiC−Co超硬合金を基材として、これにAl23とSiCの皮膜を物理蒸着法によって生成させた。物理蒸着法による皮膜生成の詳細は、次に示すとおりである。
すなわち、Al23とSiCの各々について、原料粉として、純度が97%以上で、粒径(つまり、平均直径)が0.4mm以下の粉末組成品を購入した。また、Al23については、原料粉として、純度が97%未満で、粒径が0.4mm以下の粉末組成品も購入した。次いで、これらの原料粉を、有機バインダーであるポリビニルアルコールを用いて造粒し、焼結後の寸法が直径30mmで厚さが10mmのペレット状となるように、超硬合金製金型を用いて加圧成形した。
なお、脱バインダー及び焼成の条件は、焼結密度がXRD(X線回折パターン)測定による単一格子の格子定数から計算される理論密度に対して95%以上となるようにした。具体的には、2つの組成のAl23に対する焼成は、いずれも大気中で1500℃×1.0時間の条件で行い、SiCに対する焼成は中性雰囲気中で1500℃×1.0時間の条件で行った。
上記のようにして得た直径30mmで厚さが10mmのペレット状のセラミックス焼結体をターゲットとし、レーザーデポジション法によって、基材であるWC−TiC−Co超硬合金にAl23とSiCの皮膜を生成させた。
すなわち、図1に概略を示すように、密閉したチャンバー3の内部に備えられた基材成膜ステージ5上の回転台4に基材1を載置した。なお、基材1は予め純水とエタノールによって洗浄した後、十分に乾燥させ、チップのすくい面側が上になるように回転台4上に20個載置した。
次いで、チャンバー3内の圧力が10-3Paになるまで真空引きし、その後、不活性ガスをチャンバー3内に導入し、チャンバー内を10-3Paに保った。なお、ターゲット2にAl23を用いた場合の不活性ガスは窒素ガスとし、また、ターゲット2にSiCを用いた場合の不活性ガスはArガスとした。
次に、レーザー装置6からレーザー光7をターゲット2に照射し、クラスターイオン8を励起させ、この励起したクラスターイオン8を基材1に堆積させて厚さ5μmの皮膜を生成させた。
なお、レーザー装置6の出力を約500Wに制御して、発振波長266nmのYAGレーザー光を照射した。
上記のレーザーデポジション法による処理全体を通じて、ターゲット2の原料粉として、純度が97%以上のAl23を用いた場合及びターゲット2にSiCを用いた場合のチャンバー3内の温度は20℃とし、また、ターゲット2の原料粉として、純度が97%未満のAl23を用いた場合のチャンバー3内の温度は500℃とした。
また、通常の化学蒸着法によって1000℃で、厚さ5μmのAl23皮膜を、前記したISO型番SNMN120408の、幅が12.7mm、長さが12.7mmで厚さが4.76mmのチップ寸法のWC−TiC−Co超硬合金からなる基材上に生成させた。
一方、化学蒸着法によってTiN皮膜を設けた市販の超硬合金切削工具(ISO型番SNMN120408の、幅が12.7mm、長さが12.7mmで厚さが4.76mmのチップ)を購入した。
上記の各皮膜について、密着性を評価した。また、上記の各皮膜を備えるチップを用いて旋削試験を行い、摩耗量と被切削材の凝着状況を調査することも行った。
皮膜の密着性は通常のスクラッチ方式によって調査した。すなわち、直径が2.0μmの針を皮膜の表面に触れさせて、0〜100Nの荷重掃印によるスクラッチ方式のテストを行い、密着力低下のシグナルの発生有無を調査した。
旋削試験は、表1に示す化学組成を有する直径100mmでビッカース硬さ(HV)が250の丸棒を供試材として、下記の条件で行った。
送り量:0.1mm/rev、
切り込み量:1.5mm、
切削速度:200m/分、
切削時間:3分、
潤滑:ドライ(無潤滑)
上記の切削試験を行った後、光学顕微鏡を用いて、チップ逃げ面の平均摩耗量を計測した。
表2に上記の各試験結果を示す。
Figure 0004475397
Figure 0004475397
なお、切削試験後のチップのうち、化学蒸着法によってTiN皮膜を設けた市販のチップには、被切削材の凝着が認められた。
そこで、次に、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いてチップ表面を詳細に観察した。
その結果、TiN皮膜を設けた市販のチップには、チップ表面への凝着だけではなくTiN皮膜が剥離していることも判明した。一方、その他のチップ表面には凝着は全く認められなかった。また、皮膜の剥離も認められなかった。
図2に、TiN皮膜を設けた市販のチップにおける凝着痕近傍のSEM写真を示す。
次に、上記SEM写真に対応する観察領域をEDS(エネルギー分散型X線分析装置)によって分析した。その結果、Feが検出され、凝着物の主成分は被切削材に由来することが明らかになった。なお、Fe−Kα線をEDSマッピング分析した結果、Fe検出箇所と凝着痕は完全に一致した。
図3及び図4に、それぞれ図2のSEM写真に対応する観察領域のFe−Kα線のEDSマッピング像及び凝着物のEDS分析結果を示す。また、上記凝着の有無の観察結果を表2に併せて示す。
表2から、本発明に係る皮膜を有するチップは、密着性に優れ、また、耐摩耗性にも優れることが明らかである。
すなわち、試験番号1及び試験番号2の本発明に係る皮膜を有するチップの場合、100N荷重時においても密着力低下のシグナルは検出されず、皮膜は良好な密着性を有することが明らかである。
これに対して、試験番号3の物理蒸着法によって500℃で生成させたAl23皮膜を有するチップの場合及び試験番号5のTiN皮膜を設けた市販のチップの場合、密着力低下のシグナルは80Nで観察され、また、試験番号4の通常の化学蒸着法によって1000℃で生成させたAl23皮膜を有するチップの場合、密着力低下のシグナルは50Nで観察され、いずれも皮膜の密着性に劣っていた。
摩耗量は、試験番号1及び試験番号2の本発明に係る皮膜を有するチップの場合、1〜2μmと極めて小さいのに対し、試験番号3の物理蒸着法によって500℃で生成させたAl23皮膜を有するチップの場合及び試験番号4の通常の化学蒸着法によって1000℃で生成させたAl23皮膜を有するチップの場合は10μmと大きく、また、試験番号5のTiN皮膜を設けた市販のチップの場合は15μmと極めて大きかった。なお、試験番号3、試験番号4及び試験番号5のいずれの場合にも下地(基材)が完全に露出していた。
本発明の切削加工用工具は、接触する相手材の凝着を大きく抑制でき、しかも基材と皮膜との密着性に優れるので、旋削加工、ドリル加工、エンドミル加工及びフライス加工など各種の切削加工用工具に用いることができる。この切削加工用工具は、本発明の方法によって安定、且つ確実に得ることができる。


レーザーデポジション法による成膜方法を説明する図である。 TiN皮膜を設けた市販のチップにおける凝着痕近傍のSEM写真を示す図である。 図2のSEM写真に対応する観察領域のFe−Kα線のEDSマッピング像を示す図である。 図2のSEM写真に対応する観察領域の凝着物のEDS分析結果を示す図である。
符号の説明
1:基材、
2:ターゲット、
3:チャンバー、
4:回転台、
5:基材成膜ステージ、
6:レーザー装置、
7:レーザー光、
8:クラスターイオン

Claims (3)

  1. 内部に基材を有し、Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる厚さが0.5〜10μmで、100℃未満の温度で生成した皮膜を最外層に有することを特徴とする切削加工用工具。
  2. 請求項1に記載の切削加工用工具を製造する方法であって、真空槽内に導入した不活性ガス雰囲気下において、100℃未満の温度域で、Al、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる焼結体を原料としてクラスターイオンを励起させ、前記励起したクラスターイオンを堆積させることにより、厚さ0.5〜10μmの皮膜を切削加工用工具の最外層に生成させることを特徴とする切削加工用工具の製造方法。
  3. 原料としての焼結体が、粒径0.4μm以下で、且つ、純度97%以上のAl、Ti、Zrのうちの少なくとも1種の元素の酸化物、又は、Siの炭化物若しくは窒化物からなる微粉末を、理論密度に対して95%以上で焼結させたものであることを特徴とする請求項2に記載の切削加工用工具の製造方法。
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