以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
〈エンジンの全体構成〉
図1は、実施形態にかかる始動制御装置が適用された予混合圧縮着火式エンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのガソリンエンジンである。具体的に、このエンジンは、紙面に直交する方向に列状に並ぶ複数の気筒2A〜2D(後述する図4も参照)を有する直列4気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路28と、エンジン本体1で生成された排気ガスを排出するための排気通路29とを有している。
エンジン本体1は、複数の気筒2A〜2Dが内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上部に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2A〜2Dに往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されており、この燃焼室6には、後述するインジェクタ15からの噴射によって燃料が供給される。そして、噴射された燃料が燃焼室6で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。なお、当実施形態のエンジンはガソリンエンジンであるため、燃料としてはガソリンが用いられる。ただし、燃料の全てがガソリンである必要はなく、例えばアルコール等の副成分が燃料に含まれていてもよい。
ピストン5は、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7と図外のコネクティングロッドを介して連結されており、上記ピストン5の往復運動に応じてクランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
各気筒2A〜2Dの幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、18以上50以下に設定されている。これにより、燃焼室6を大幅に高温・高圧化することができ、ガソリンを自着火により燃焼させるHCCI燃焼(予混合圧縮着火燃焼)を実現することができる。
ここで、図示のような4サイクルかつ直列4気筒型のエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン5が、クランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。このため、エンジンの通常運転時、各気筒2A〜2Dでの燃焼(そのための燃料噴射)のタイミングは、基本的に180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的に、紙面手前側から奥側に向けて気筒が2A,2B,2C,2Dの順に並んでいるものとし、これらの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に燃焼が行われる(後述する図5等も参照)。このため、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる。
シリンダヘッド4には、吸気通路28から供給される空気を各気筒2A〜2Dの燃焼室6に導入するための吸気ポート9と、各気筒2A〜2Dの燃焼室6で生成された排気ガスを排気通路29に導出するための排気ポート10と、吸気ポート9の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁11と、排気ポート10の燃焼室6側の開口を開閉する排気弁12とが設けられている。
吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に向けて燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火エネルギを供給する点火プラグ16とが、各気筒2A〜2Dにつきそれぞれ1組ずつ設けられている。ただし、当実施形態のエンジンは、混合気をピストン5の圧縮により自着火させるHCCI燃焼を基本とするため、点火プラグ16は、HCCI燃焼が不可能かまたは困難な状況(例えばエンジン冷却水の温度がかなり低いとき)でのみ作動し、HCCI燃焼の実行時には基本的に点火プラグ16の作動は休止される。
インジェクタ15は、ピストン5の上面を臨むような姿勢でシリンダヘッド4に設けられている。各気筒2A〜2Dのインジェクタ15にはそれぞれ燃料供給管17が接続されており、各燃料供給管17を通じて供給される燃料(ガソリン)が、インジェクタ15の先端部に設けられた複数の噴孔(図示省略)から噴射されるようになっている。
より具体的に、燃料供給管17の上流側には、エンジン本体1により駆動されるプランジャー式のポンプ等からなるサプライポンプ18が設けられているとともに、このサプライポンプ18と燃料供給管17との間には、全気筒2A〜2Dに共通の蓄圧用のコモンレール(図示省略)が設けられている。そして、このコモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2A〜2Dのインジェクタ15に供給されることにより、各インジェクタ15からは、20MPa以上の高い圧力で燃料が噴射可能とされている。
クランク軸7には、ベルト等を介してオルタネータ32が連結されている。このオルタネータ32は、図外のフィールドコイルへの印加電流(フィールド電流)を制御して発電量を調節するレギュレータ回路を内蔵しており、車両の電気負荷やバッテリの残容量等から定められる目標発電量に基づいてフィールド電流を調節しつつ、クランク軸7から駆動力を得て発電を行う。
シリンダブロック3には、エンジンを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aと、モータ本体34aにより回転駆動されるピニオンギア34bとを有している。ピニオンギア34bは、クランク軸7の一端部に連結されたリングギア35と離接可能に噛合している。そして、スタータモータ34を用いてエンジンを始動する際には、ピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動してリングギア35と噛合し、ピニオンギア34bの回転力がリングギア35に伝達されることにより、クランク軸7が回転駆動される。
吸気通路28は、1本の共通通路部28cと、共通通路部28cの下流端部に接続された所定容積のサージタンク28bと、サージタンク28bから下流側に延びて各気筒2A〜2Dの吸気ポート9とそれぞれ連通する複数本の独立通路部28a(図1にはそのうちの1本のみを示す)とを有している。
吸気通路28の共通通路部28cには、その内部の流通断面積を可変とするためのスロットル弁30が設けられている。スロットル弁30は、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル36の開度と非連動で操作可能なように、電動式とされている。すなわち、スロットル弁30は、共通通路部28cの内部に設けられたバタフライ式の弁本体と、この弁本体を開閉駆動する電動式のアクチュエータとを有している。
排気通路29は、その詳しい図示を省略するが、各気筒2A〜2Dの排気ポート10と連通する複数本の独立通路部と、独立通路部の各下流端部が集合した排気集合部と、排気集合部から下流側に延びる1本の共通通路部とを有している。
排気通路29(より詳しくはその共通通路部)には触媒コンバータ31が設けられている。触媒コンバータ31は、例えば三元触媒等からなる触媒31aを内蔵しており、排気通路29を通過する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を触媒31aの作用により浄化する機能を有している。尚、触媒31aは、三元触媒に限られず、少なくとも酸化機能を有する触媒であればよい。
〈制御系〉
次に、エンジンの制御系について説明する。当実施形態のエンジンは、その各部がECU(エンジン制御ユニット)50によって統括的に制御される。ECU50は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロプロセッサからなるものである。ECU50は、エンジンの始動制御装置の一例である。
エンジンもしくは車両には、その各部の状態量を検出するための複数のセンサが設けられており、各センサからの情報がECU50に入力されるようになっている。
例えば、シリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通する図外のウォータジャケットが設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出する水温センサSN1が、シリンダブロック3に設けられている。
また、シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度および回転速度を検出するクランク角センサSN2が設けられている。このクランク角センサSN2は、クランク軸7と一体に回転するクランクプレート25の回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランク軸7の回転角度(クランク角)および回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
シリンダヘッド4には、気筒判別情報を出力するためのカム角センサSN3が設けられている。すなわち、カム角センサSN3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じてパルス信号を出力するものであり、この信号と、クランク角センサSN2からのパルス信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるのかが判別されるようになっている。
吸気通路28のサージタンク28bには、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dに吸入される空気の量(吸入空気量)を検出するエアフローセンサSN4が設けられている。
触媒コンバータ31には、その内部の触媒31aの温度を検出する触媒温度センサSN5が設けられている。
また、車両には、その走行速度(車速)を検出する車速センサSN6と、アクセルペダル36の開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN7と、ブレーキペダル37のON/OFF(ブレーキの有無)を検出するブレーキセンサSN8と、バッテリ(図示省略)の残容量を検出するバッテリセンサSN9と、車室内の温度を検出する室温センサSN10とが設けられている。
ECU50は、これらのセンサSN1〜SN10と電気的に接続されており、それぞれのセンサから入力される信号に基づいて、上述した各種情報(エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度など)を取得する。
また、ECU50は、各センサSN1〜SN10からの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU50は、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁30、オルタネータ32、およびスタータモータ34と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
ECU50のより具体的な機能について説明する。ECU50は、いわゆるアイドリングストップ制御に関わる特有の機能的要素として、自動停止制御部51および再始動制御部52を有している。自動停止制御部51及び再始動制御部52が制御部の一例である。
自動停止制御部51は、エンジンの運転中に、予め定められたエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動停止させる制御を実行するものである。
再始動制御部52は、エンジンが自動停止した後、予め定められた再始動条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動的に再始動させる制御を実行するものである。
〈自動停止・再始動制御〉
次に、エンジンの自動停止・再始動制御を司るECU50の具体的な制御手順について、図2および図3のフローチャートを用いて説明する。
このフローチャートに示す処理がスタートすると、ECU50は、各種センサ値を読み込む処理を実行する(ステップS1)。具体的には、水温センサSN1、クランク角センサSN2、カム角センサSN3、エアフローセンサSN4、触媒温度センサSN5、車速センサSN6、アクセル開度センサSN7、ブレーキセンサSN8、バッテリセンサSN9、および室温センサSN10からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度、気筒判別情報、吸入空気量、触媒31aの温度、車速、アクセル開度、ブレーキの有無、バッテリの残容量、車室内温度等の各種情報を取得する。
次いで、ECU50の自動停止制御部51は、ステップS1で取得された情報に基づいて、エンジンの自動停止条件が成立しているか否かを判定する処理を実行する(ステップS2)。例えば、車両が停止状態にあること、アクセルペダル36の開度がゼロであること(アクセルOFF)、ブレーキペダル37が踏み込まれていること(ブレーキON)、エンジンの冷却水温が所定値以上であること(つまり暖機がある程度進んでいること)、バッテリの残容量が所定値以上であること、エアコンの負荷(車室内温度とエアコンの設定温度との差)が比較的少ないこと、等の複数の要件が全て揃ったときに、自動停止条件が成立したと判定する。尚、この自動停止条件は、一例であり、これ以外の条件を自動停止条件としてもよい。
自動停止条件の成立判定では、車速やアクセル/ブレーキ操作だけでなく、バッテリやエアコン、エンジンの冷却水温(暖機の程度)についても考慮される。これは、エンジンを自動停止した後の再始動性などを考慮してのものである。例えば、エンジンが冷間状態にあったり、バッテリの残容量が極端に少ない時などは、エンジンを自動停止させた後、エンジンを再始動させることが困難になる虞がある。また、車室内の温度とエアコンの設定温度との差が大きい、つまりエアコンの負荷が大きい場合には、エアコンを継続的に稼動させる必要がある。そのため、このような場合には、エンジンを自動停止することなく、作動させておくようにしている。このようなシステム上の制約から、自動停止条件には、バッテリやエアコン等の要件が含まれている。
ステップS2でYESと判定されて自動停止条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部51は、スロットル弁30の開度を、アイドル運転時に設定される通常の開度から、所定の低開度(例えば0%)まで低下させる処理を実行する(ステップS3)。
次いで、自動停止制御部51は、インジェクタ15からの燃料の噴射を停止する燃料カットの処理を実行する(ステップS4)。すなわち、各気筒2A〜2Dのインジェクタ15から噴射すべき燃料の量である目標噴射量をゼロに設定し、全てのインジェクタ15からの燃料噴射を停止することにより、燃料カットを実現する。
燃料カットの後、エンジンは惰性で回転し、最終的に完全停止に至る。スロットル弁30の閉動作及び燃料カットのタイミングを、エンジンの回転速度に応じて適宜設定することによって、ピストンの停止位置を或る程度の範囲に制御することができる。それに加えて、オルタネータ制御によりエンジンの回転速度を制御することによって、ピストンの停止位置をさらに精度良く制御することもできる。
その後、自動停止制御部51は、エンジンの回転速度が0rpmであるか否かを判定する処理を実行する(ステップS5)。そして、ここでYESとなってエンジンが完全停止していることが確認されると、自動停止制御部51は、スロットル弁30の開度を所定の高開度(例えば80%)まで増大させる処理を実行する(ステップS6)。
以上のような自動停止制御が終了した後のエンジンの各気筒2A〜2Dの状態を、図4に例示する。この図4の例では、1番気筒2Aが膨張行程で停止し、2番気筒2Bが排気行程で停止し、3番気筒2Cが圧縮行程で停止し、4番気筒2Dが吸気行程で停止している。なお、以下では、自動停止制御によって○○行程で停止した気筒のことを、「停止時○○行程気筒」ということがある。例えば、膨張行程で停止した気筒2Aのことを「停止時膨張行程気筒2A」といい、排気行程で停止した気筒2Bのことを「停止時排気行程気筒2B」といい、圧縮行程で停止した気筒2Cのことを「停止時圧縮行程気筒2C」といい、吸気行程で停止した停止した気筒2Dのことを「停止時吸気行程気筒2D」という。ただし、図4のような状態でエンジンが停止するのはあくまで一例に過ぎず、各気筒2A〜2Dがどの行程で停止するかはその都度変わり得る。ただしその場合でも、以下に説明する制御(エンジンが自動停止した後に行われる制御)の中身は、気筒番号が異なる以外は全て同じである。
上記のようにしてエンジンが完全停止すると、ECU50の再始動制御部52は、各種センサ値に基づいて、エンジンの再始動条件が成立しているか否かを判定する処理を実行する(ステップS7)。例えば、ブレーキペダル37がリリースされたこと、アクセルペダル36が踏み込まれたこと、エンジンの冷却水温が所定値未満になったこと、バッテリの残容量の低下量が許容値を超えたこと、エンジンの停止時間(自動停止後の経過時間)が所定の上限時間を越えたこと、エアコン作動の必要性が生じたこと(つまり車室内温度とエアコンの設定温度との差が許容値を超えたこと)等の要件の少なくとも1つが成立したときに、再始動条件が成立したと判定する。尚、この再始動条件は、一例であり、これ以外の条件を再始動条件としてもよい。
ステップS7のように、再始動条件の成立判定では、アクセルペダル36またはブレーキペダル37に対する操作(つまり運転者が車両を発進させようとする操作)だけでなく、バッテリやエアコン、エンジンの冷却水温、停止時間についても考慮される。例えば、バッテリの残容量が極端に少なくなったり、エンジンの停止時間が長時間に及ぶなどしてエンジンが冷えると、エンジンを再始動させることが困難になるため、そうなる前にエンジンを再始動させる必要がある。また、車室内の温度とエアコンの設定温度との差が大きくなると、快適性が損なわれるため、エアコンを稼動させるためにやはりエンジンを再始動させる必要がある。このようなシステム上の制約から、再始動条件には、バッテリやエアコン等の要件が含まれている。
つまり、再始動条件には、運転者の発進要求に基づくものと、発進要求に基づかないものとが含まれる。発進要求に基づく再始動条件は、運転者によるアクセル/ブレーキ操作によって成立するものであり、発進要求に基づかない再始動条件は、バッテリやエアコンの状態、もしくはエンジンの上限停止時間や冷却の程度といったシステム上の制約によって成立するものである。
ステップS7でYESと判定されて再始動条件が成立したことが確認された場合、再始動制御部52は、再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づくものか否かを判定する(ステップS8)。すなわち、運転者がアクセルペダル36を踏み込むかまたはブレーキペダル37をリリースしたことによって再始動条件が成立した場合には、再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づくものであると判定し、その他の要件(バッテリやエアコン、エンジンの上限停止時間等のシステム上の制約)によって再始動条件が成立した場合には、再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づかないものであると判定する。
ステップS8でYESと判定された場合、即ち、運転者の発進要求に基づく再始動条件が成立した場合、再始動制御部52は、上記エンジンの自動停止に伴い圧縮行程で停止した気筒(図4の停止時圧縮行程気筒2C)のピストン停止位置を、クランク角センサSN2およびカム角センサSN3に基づき特定し、その特定したピストン停止位置が、図4に示す上限位置Xよりも下死点側に設定された所定範囲Rx(より詳しくは上限位置Xから下死点までの間であって上限位置Xを含む範囲)にあるか否かを判定する処理を実行する(ステップS9)。なお、上限位置Xは、エンジンの形状(排気量、ボア/ストローク比等)や暖機の進行度合い等によって異なり得るが、例えば上死点前(BTDC)90〜75°CAの間のいずれかの位置に設定することができる。
一方、ステップS8でNOと判定された場合、即ち、運転者の発進要求に基づかない再始動条件が成立した場合は、再始動制御部52は、フラグFを2に設定する(ステップ12)。
ステップS9でYESと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が所定範囲Rxにあることが確認された場合、再始動制御部52は、触媒温度センサSN5により検出される触媒31aの温度が、予め設定された所定温度Tx以上であるか否かを判定する処理を実行する(ステップS10)。ここで用いられる所定温度Txは、触媒31aが活性化しているか否かを判断するための指標であり、例えば、触媒のライトオフ温度を所定温度Txとして採用することができる。ライトオフ温度とは、触媒が浄化すべき成分の浄化率が50パーセントに達する温度のことであり、例えば150〜200℃程度に設定される。なお、所定温度Txとしては、必ずしもライトオフ温度に設定する必要はない。例えば、より触媒31aの性能を高いレベルに維持する観点から、ライトオフ温度よりも高い温度を所定温度Txとして設定してもよい。
ステップS10でYESと判定された場合、つまり、触媒31aの温度が所定温度Tx以上であること(即ち、触媒31aが活性化していること)が確認された場合、再始動制御部52は、フラグFを1に設定する(ステップS11)。
一方、ステップS10でNOと判定された場合、つまり、触媒31aの温度が所定温度Tx未満であること(即ち、触媒31aが活性化していないこと)が確認された場合、再始動制御部52は、フラグFを3に設定する(ステッS13)。
続いて、再始動制御部52は、再始動制御部52は、エンジンを始動させるべく、スタータモータ34を作動させて、クランク軸7に回転力を付与する(ステップS14)。
そして、再始動制御部52は、フラグFが1であるか否かを判定する(ステップS15)。フラグFが1である場合には、再始動制御部52は、図5に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cが圧縮上死点を迎える1圧縮目から混合気の燃焼を開始する1圧縮始動を実行する(ステップS16)。具体的には、再始動制御部52は、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が上昇している途中で(圧縮上死点に至る前に)、当該気筒2Cに対しインジェクタ15から燃料を噴射させる(F1)。以下、この最初の燃料噴射を第1燃料噴射と称し、それに続く燃料噴射を順次、第2燃料噴射、第3燃料噴射、…と称する。そして、第1燃料噴射F1により気筒2C内に供給された燃料と空気との混合気をピストン5の圧縮に伴い自着火させることにより、エンジン全体として1回目の上死点を迎える1圧縮目からHCCI燃焼を行わせる。
このとき、再始動制御部52は、目標当量比φを1.0に設定し、該目標当量比φに応じた燃料量を第1燃料噴射F1によって気筒内に供給する。当量比φとは、混合気の理論空燃比を実空燃比で割った値のことであり、理論空燃比に相当する量(気筒内の空気に対して過不足ない量)の燃料が噴射されたときにφ=1となり、それより少ない量の燃料が噴射されたときにφ<1となる。つまり、ステップS16においては、理論空燃比に相当する量の燃料が第1燃料噴射F1により供給される。
また、第1燃料噴射F1の噴射タイミングは、自着火の燃焼の燃焼重心のクランク各位置が圧縮上死点以降の所定時期となるように設定されている。所定時期は、膨張行程初期(例えば、膨張行程を3分割したときの始めの期間)に設定し得る。
続いて、停止時吸気行程気筒2D、停止時排気行程気筒2B、停止時膨張行程気筒2Aに対し、それぞれの気筒の圧縮行程中に第2〜第4燃料噴射F2〜F4を実行し、それに基づき各気筒で順次HCCI燃焼を行わせる。このときの目標当量比φは1.0に設定されている。また、第2〜第4燃料噴射F2〜F4の各噴射タイミングも、第1燃料噴射F1と同様に、自着火の燃焼の燃焼重心のクランク各位置が圧縮上死点以降の所定時期となるように設定されている。
一方、フラグFが1でない場合には、再始動制御部52は、フラグFが2であるか否かを判定する(ステップS17)。フラグFが2である場合には、再始動制御部52は、図6に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cが圧縮上死点を迎える1圧縮目からではなく、吸気行程で停止していた停止時吸気行程気筒2Dが圧縮上死点を迎える2圧縮目から混合気の燃焼を開始する2圧縮始動を実行する(ステップS18)。具体的には、再始動制御部52は、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が一旦下降してから上昇に転じて圧縮上死点に至るまで、スタータモータ34の駆動力のみによってクランク軸7を回転させるとともに、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が上昇している途中で(圧縮上死点に至る前に)、当該気筒2Dに対しインジェクタ15から燃料を噴射させる(F1’)。そして、第1燃料噴射F1’により気筒2D内に供給された燃料と空気との混合気をピストン5の圧縮に伴い自着火させることにより、エンジン全体として2回目の上死点を迎える2圧縮目からHCCI燃焼を行わせる。このHCCI燃焼が最初の燃焼となるので、停止時吸気行程気筒2Dが初爆気筒となる。
このとき、再始動制御部52は、目標当量比φを1.0に設定し、該目標当量比φに応じた燃料量を第1燃料噴射F1’によって気筒内に供給する。つまり、ステップS18においては、理論空燃比に相当する量の燃料が第1燃料噴射F1’により供給される。
また、第1燃料噴射F1’の噴射タイミングは、自着火の燃焼の燃焼重心のクランク各位置が圧縮上死点以降の所定時期となるように設定されている。
続いて、停止時排気行程気筒2B、停止時膨張行程気筒2A、停止時圧縮行程気筒2Cに対し、それぞれの気筒の圧縮行程中に第2〜第4燃料噴射F2’〜F4’を実行し、それに基づき各気筒で順次HCCI燃焼を行わせる。このときの目標当量比φは1.0に設定されている。また、第2〜第4燃料噴射F2’〜F4’の各噴射タイミングは、第1燃料噴射F1’と同様に、自着火の燃焼の燃焼重心のクランク各位置が圧縮上死点以降の所定時期となるように設定されている。
フラグFが2でない場合には、再始動制御部52は、フラグFが3であるか否かを判定する(ステップS19)。フラグFが3である場合には、再始動制御部52は、1圧縮始動を実行する(ステップS20)。
このときの1圧縮始動の基本的な内容は、ステップS16における1圧縮始動と同じである。ただし、このときの1圧縮始動では、再始動制御部52は、目標当量比φを0.3に設定し、該目標当量比φに応じた燃料量を第1燃料噴射F1によって気筒内に供給する。つまり、ステップS20においては、理論空燃比に相当する量よりも少ない量の燃料が第1燃料噴射F1により供給される。
このように、ステップS20の1圧縮始動では、ステップS16の1圧縮始動と異なり、第1燃料噴射F1の目標当量比φが0.3に設定されている。
また、第1燃料噴射F1の噴射タイミングは、自着火の燃焼の燃焼重心のクランク各位置が圧縮上死点以降の所定時期となるように設定されている。
続いて、停止時吸気行程気筒2D、停止時排気行程気筒2B、停止時膨張行程気筒2Aに対し、それぞれの気筒の圧縮行程中に第2〜第4燃料噴射F2〜F4を実行し、それに基づき各気筒で順次HCCI燃焼を行わせる。このときの目標当量比φは1.0に設定されている。つまり、第2燃料噴射F2以降の目標当量比φは、ステップS16の1圧縮始動と同様に設定されている。また、第2〜第4燃料噴射F2〜F4の各噴射タイミングは、第1燃料噴射F1と同様に、自着火の燃焼の燃焼重心のクランク各位置が圧縮上死点以降の所定時期となるように設定されている。
再始動制御部52は、1圧縮始動又は2圧縮始動を実行した後、即ち、最初のHCCI燃焼があった後、エンジン回転速度が所定の第1速度Ne1以上か否かを判定する(ステップS21)。エンジン回転速度が第1速度Ne1未満である場合は、再始動制御部52は、エンジン回転速度が第1速度Ne1以上となるまで、各気筒における目標当量比φ=1.0での燃料噴射及び燃焼を継続する。
エンジン回転速度が第1速度Ne1以上の場合は、再始動制御部52は、スタータモータ34の作動を停止する(ステップS22)。例えば、図5,6の例では、2回目の燃焼後にエンジン回転速度が第1速度Ne1以上となるので、このタイミングでクランキングが終了する。
その後、再始動制御部52は、目標当量比φ=1.0での燃料噴射及び燃焼を継続しつつ、エンジン回転速度が所定の第2速度Ne2以上か否かを判定する(ステップS23)。エンジン回転速度が第2速度Ne2未満である場合は、再始動制御部52は、エンジン回転速度が第2速度Ne2以上となるまで、目標当量比φ=1.0での燃料噴射及び燃焼を継続する。
エンジン回転速度が第2速度Ne2以上である場合は、再始動制御部52は、エンジンの始動が完了したと判定する。再始動制御部52は、フラグをリセット(即ち、フラグを0に設定)して(ステップS24)、自動停止・再始動制御を終了する。
尚、ECU50は、エンジンの再始動後は、エンジンの吹き上がりを抑制するために目標当量比φを低下させる。
以上説明したように、ECU50は、状況に応じて再始動の仕方を変えている。具体的には、フラグFが3の場合には、1圧縮始動が実行され、最初に圧縮行程を行う気筒2Cの当量比φを2番目に圧縮行程を行う気筒2Dの当量比φに比べて小さくなるように燃料噴射量を制御している(以下、この制御を「当量比低減制御」と称する)。すなわち、フラグFが3の場合は、発進要求に基づく再始動条件が成立し且つ、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が所定範囲Rx内であり且つ、触媒温度が所定温度Tx未満の場合である。発進要求に基づく再始動条件が成立している場合には、発進要求に基づかない再始動条件が成立している場合に比べて、迅速なエンジン始動の必要性が高い。停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が所定範囲Rx内である場合は、1圧縮始動の実行が可能である。そして、触媒温度が所定温度Tx未満である場合は、触媒31aの活性状態が低い。つまり、迅速なエンジン始動の必要性が高く、1圧縮始動を実行可能であり、触媒31aの活性状態が低いときは、目標当量比φを小さくすることによってHC,CO,NOxの発生を低減しつつ、1圧縮始動によりエンジンを迅速に始動している。
詳しくは、1圧縮始動では停止時圧縮行程気筒2Cから燃焼が実行される。停止時圧縮行程気筒2Cでは、ピストンが圧縮下死点と圧縮上死点との間に停止しているため、圧縮容積が小さくなる傾向にある。圧縮容積が小さいと、圧縮端における気筒内温度が低くなり、燃焼温度が低くなる。
図7は、縦軸に混合気の当量比φを横軸に混合気の燃焼温度Tをとったグラフ上に、HC,CO,NOx,スートの発生量が多くなる領域を図示したものであり、いわゆるφ−Tマップである。このマップに示されるように、燃焼温度の低い領域(グラフの左側)では、HC,COが増大する。また、NOxは主に燃焼温度が高い領域(グラフの右側)で増大し、スートは主に当量比φの大きいリッチ領域(グラフの上側)で増大する。そのため、HC,CO,NOx,スートの発生を抑制するために、当量比φが概ね1.0以下で且つ燃焼温度が中間程度の値になる目標燃焼領域(図中のハッチング領域)が設定される。そして、燃焼ができる限り目標燃焼領域内行われるように制御される。前述の如く、停止時圧縮行程気筒2Cで燃焼を実行することで燃焼温度が低くなると、HC,COが増大する虞がある。
ここで、HC,COの発生量は、当量比φが小さい領域(例えば、当量比φが0.5以下の領域)においては、当量比φが小さくなるほど少なくなっている。そのため、目標燃焼領域のうち当量比φが小さい部分は、燃焼温度が低い方へ拡大されている。つまり、燃焼温度が低い場合には、当量比φを低減することによって、HC,COの発生を低減することができる。
図8は、混合気の当量比φと、触媒31aを通過する前の排気ガス中に含まれるHC,CO,NOxの濃度(ppm)との関係の一例を示すグラフである。このグラフによれば、HC,CO,NOxの濃度が平均的に低くエミッション性能に優れているといえる当量比φは、0.3または0.4である。当量比φが0.4を超えて0.5になるとNOx濃度が1000ppmを超え、当量比φが0.7になるとNOx濃度が10000ppmを超える。さらに、図示を省略するが、当量比φが0.7を超える範囲では、0.7のときの値よりもさらにNOx濃度が上昇する。一方、当量比φが0.3を下回り0.2になると、CO濃度が10000ppmを超える。このように、当量比φが0.2または0.4以上のときにはCOまたはNOxの濃度が大幅に上昇するのに対し、当量比φが0.3または0.4のときは、HC,CO,NOxのいずれについても、その濃度が1000ppm未満に抑えられる。
そのため、触媒31aが活性化していないときの1圧縮始動においては、当量比φを0.3に設定することによって、HC,CO,NOxの発生を低減している。尚、2番目に燃焼する気筒、即ち、停止時吸気行程気筒2Dは、圧縮容積を十分に確保でき、燃焼温度が高いので、目標当量比φを1.0に設定している。これにより、2番目の燃焼以降は、出力トルクを高くしている。
一方、フラグFが1の場合には、目標当量比φが1.0に設定され、1圧縮始動が実行される。フラグFが1の場合は、発進要求に基づく再始動条件が成立し且つ、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が所定範囲Rx内であり且つ、触媒温度が所定温度Tx以上の場合である。触媒31aが活性化しているときは、触媒31aによりHC,COを浄化できるので、出力トルクを優先して、目標当量比φを大きく設定している。つまり、迅速なエンジン始動の必要性が高く、1圧縮始動を実行可能であり、触媒31aが活性化しているときは、目標当量比φを1.0に設定することで出力トルクを確保しつつ、1圧縮始動によりエンジンを迅速に始動している。
また、フラグFが2の場合には、目標当量比φが1.0に設定され、2圧縮始動が実行される。フラグFが2の場合は、発進要求に基づかない再始動条件が成立する場合か又は、発進要求に基づく再始動条件が成立し且つ停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が所定範囲Rx外である場合である。前者の場合は、エンジンを迅速に始動する必要性が低い。後者の場合は、1圧縮始動を行うことが困難である。そのため、これらの場合には、2圧縮始動を実行する。2圧縮始動では、停止時圧縮行程気筒2Cでの燃焼は行わず、停止時吸気行程気筒2Dから燃焼が開始される。そのため、最初の燃焼から圧縮容積が十分に確保され、燃焼温度が高くなる。燃焼温度が高いと、HC,COの発生量も少ないので、目標当量比φを大きくしても、φ−Tマップ上の目標燃焼領域で多くの混合気を燃焼させることが可能になり、エミッション性能に優れた燃焼を実現することができる。それに加えて、目標当量比φを大きくすることによって、出力トルクを大きくすることができる。
したがって、本実施形態によれば複数の気筒2A〜2Dと、クランク軸7を回転させるスタータモータ34と、該気筒2A〜2Dのそれぞれに燃料を噴射するインジェクタ15とを有するエンジンの始動制御装置(ECU50)は、所定の自動停止条件が成立したときに前記エンジンを自動停止させる一方、自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに前記スタータモータ34により前記クランク軸7を回転させつつ前記インジェクタ15による燃料噴射を行うことによって該エンジンを再始動させる自動停止制御部51及び再始動制御部52とを備え、前記自動停止制御部51及び再始動制御部52は、前記エンジンの再始動の際に前記複数の気筒2A〜2Dのうち最初に圧縮行程を行う気筒(停止時圧縮行程気筒2C)から燃焼を開始させるときには、該最初に圧縮行程を行う気筒の当量比φを2番目に圧縮行程を行う気筒(停止時吸気行程気筒2D)の当量比φに比べて小さくなるように制御する当量比低減制御を行う(ステップS20)。
この構成によれば、再始動時に最初に圧縮行程を行う気筒から燃焼を開始させるので、エンジンを迅速に始動させることができる。それに加えて、最初に圧縮行程を行う気筒の当量比φを小さくすることによって、燃焼温度が低い場合であってもHC,COの発生を抑制することができる。その結果、エンジンの迅速始動とエミッション性能の向上との両立を図ることができる。
また、前記エンジンは、酸化機能を有する触媒31aを有しており、前記自動停止制御部51及び再始動制御部52は、前記触媒31aの活性状態が所定の活性状態よりも低いときに前記当量比低減制御を行う(ステップS10,S13,S19,S20)。
前記の構成によれば、触媒31aの活性状態が低いときには、触媒31aの浄化能力が低いので、当量比低減制御によってHC,COの発生量自体を低減する。これにより、エンジン全体としてのエミッション性能を向上させることができる。
尚、前記実施形態においては、触媒31aの活性状態が所定の活性状態よりも高いときには当量比低減制御を行わない。具体的には、最初に圧縮行程を行う気筒の当量比φを2番目に圧縮行程を行う気筒の当量比φと同程度に設定している。この場合、最初に圧縮行程を行う気筒での燃焼により発生するHC,COは、当量比低減制御を行う場合と比べて増加するものの、発生したHC,COは触媒31aにより十分に浄化されるため、エンジン全体としてのエミッション性能が悪化することはない。逆に、当量比φが大きくなることによって、出力トルクが大きくなり、始動性が向上する。
また、前記自動停止制御部51及び再始動制御部52は、前記触媒31aの活性状態が所定の活性状態よりも低いときであって且つ前記再始動条件の成立が運転者の車両を発進させようとする発進要求に基づくものであるときに前記当量比低減制御を行う一方(ステップS8,S10,S13,S19,S20)、前記触媒31aの活性状態が所定の活性状態よりも低いときであって且つ前記再始動条件の成立が前記発進要求に基づかないものであるときには、前記最初に圧縮行程を行う気筒に燃焼を行わせることなく、前記2番目に圧縮行程を行う気筒から燃焼を行わせる(ステップS8,S12,S17,S18)。
前記の構成によれば、触媒31aの活性状態が低い場合であっても再始動条件の成立が発進要求に基づくものか否かによって再始動時の制御内容が異なる。具体的には、発進要求に基づく再始動条件が成立したときには最初の燃焼の当量比φを低減した1圧縮始動(即ち、当量比低減制御)が行われる一方、発進要求に基づかない再始動条件が成立したときには2圧縮始動が行われる。つまり、発進要求に基づく再始動条件が成立したときには、エンジンの迅速な始動が求められるので1圧縮始動を行い、それに加えて、最初の燃焼の当量比φを低減することによってエミッション性能の悪化を防止している。一方、発進要求に基づかない再始動条件が成立したときには、エンジンの迅速な始動の必要性が低いので、HC,COの発生が少ない2圧縮始動が行われる。
また、前記自動停止制御部51及び再始動制御部52は、前記最初に圧縮行程を行う気筒の前記自動停止後のピストン停止位置が所定のクランク角位置(上限位置X)か又は該所定のクランク角位置よりも圧縮下死点側に位置するときに前記当量比低減制御を行う一方(ステップS9,S13,S19,S20)、前記最初に圧縮行程を行う気筒の前記自動停止後のピストン停止位置が前記所定のクランク角位置よりも圧縮上死点側に位置するときには、該最初に圧縮行程を行う気筒に燃焼を行わせることなく、前記2番目に圧縮行程を行う気筒から燃焼を行わせる(ステップS9,S12,S17,S18)。
前記の構成によれば、最初に圧縮行程を行う気筒において燃焼を実行するのに十分な圧縮容積が確保できない場合には、当量比低減制御を行うことなく、2圧縮始動を行う。
前記エンジンは、前記気筒2A〜2D内の混合気を圧縮着火させるように構成されており、圧縮着火による燃焼の燃焼重心のクランク角位置は、圧縮上死点以降に設定されている。具体的には、自動停止制御部51及び再始動制御部52は、圧縮着火による燃焼の燃焼重心のクランク角位置が圧縮上死点以降となるように燃料の噴射タイミングを制御している。
この構成によれば、気筒2A〜2Dにおける燃焼は自着火によるものである。自着火による燃焼では、燃焼エネルギのピークが比較的大きくなる。そのため、当量比低減制御により当量比φが小さく設定された場合であっても、再始動時の出力トルクを確保することができる。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
前記実施形態では、当量比低減制御における目標当量比φを0.3に設定しているが、これに限られるものではない。第1燃料噴射F1の目標当量比φは、第2燃料噴射F2の目標当量比φよりも低ければ任意の値に設定することができる。ただし、図8を用いて説明したように、低エミッション化を図るためには、目標当量比φを0.3〜0.4の範囲内で設定することが好ましい。
また、前記実施形態では、触媒温度センサSN5を用いて触媒31aの温度を直接検出し、その検出した温度を閾値Txと比較することで触媒31aの活性状態を判断するようにしたが、このような構成に代えて、触媒31aの温度を予測するようにしてもよい。例えば、触媒31aの上流側を流れる排気ガスの温度を検出し、その検出値を蓄積することで得られるエンジン運転中の排気ガス温度の履歴や、エンジンの停止時間などから、触媒31aの温度を予測により求めるようにしてもよい。
また、前記実施形態では、エンジンの自動停止条件または再始動条件の成立を、アクセルペダル36やブレーキペダル37の操作に関する要件を含めて判断するようにしたが、これは、主に自動変速機を搭載したAT車を念頭に入れたものである。一方、AT車でない場合、つまり、手動変速機を搭載したMT車である場合は、上記とは異なる要件を採用することができる。例えば、自動停止条件に関しては、アクセルOFFかつブレーキONという要件に代えて、手動変速機の変速段がニュートラルであり、かつクラッチペダルがリリースされていること、という要件を設定することができる。また、再始動条件に関しては、アクセルONまたはブレーキOFFという要件に代えて、クラッチペダルが踏み込まれていること、という要件を設定することができる。この場合、クラッチペダルが踏み込まれたことは、発進要求に基づく再始動条件である。
前記実施形態では、再始動条件の種類、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置に基づいて、再始動時の制御内容を変更しているが、これに限られるものではない。例えば、再始動条件の種類、および停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置にかかわらず、当量比低減制御を行うようにしてもよい。あるいは、再始動条件の種類、および停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置以外の条件に基づいて、当量比低減制御を行うか否かを切り替えてもよい。また、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置及び触媒31aの温度にかかわらず、当量比低減制御を行ってもよい。つまり、自動停止制御部51及び再始動制御部52は、前記再始動条件の成立が運転者の車両を発進させようとする発進要求に基づくものであるときに前記当量比低減制御を行う一方、前記再始動条件の成立が前記発進要求に基づかないものであるときには、前記最初に圧縮行程を行う気筒に燃焼を行わせることなく、前記2番目に圧縮行程を行う気筒から燃焼を行わせるようにしてもよい。
さらには、再始動条件の種類、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置、および触媒31aの温度以外の条件を考慮して再始動時の制御内容を変更してもよい。例えば、図9に示すように、ECU250は、気筒の燃焼温度を予測する燃焼温度予測部253をさらに備えるようにしてもよい。燃焼温度予測部253は、吸入空気量、吸気温度、エンジンの冷却水温、燃料量、ピストン5の停止位置、高度(気圧)に基づいて、気筒の燃焼温度を計算する。このときの燃料量は、再始動を行う際の通常の燃料量であり、前記実施形態の例では当量比φ=1に相当する燃料量である。そして、前記自動停止制御部51及び再始動制御部52は、図10に示すように、前記燃焼温度予測部253により予測された、前記最初に圧縮行程を行う気筒の燃焼温度が、所定温度以下のときに前記当量比低減制御を行うようにしてもよい。詳しくは、前記燃焼温度予測部253により予測された、前記最初に圧縮行程を行う気筒の燃焼温度が、所定温度以下のときであって、触媒31aの温度が所定温度Txよりも低いときに、前記当量比低減制御を行って、目標当量比φを0.3に設定して1圧縮始動を行うようにしてもよい。逆を言えば、前記燃焼温度予測部253により予測された、前記最初に圧縮行程を行う気筒の燃焼温度が、所定温度よりも高い高温状態のときは、前記当量比低減制御を行わないようにしてもよい。これは、最初に圧縮行程を行う気筒の燃焼温度は、圧縮容積が小さく吸入空気量が少ないことから、2番目に圧縮行程を行う気筒の燃焼温度に対して相対的に低くなるものの、吸気温度やエンジンの冷却水温が高く、気圧が高い環境下では、気筒の燃焼温度(絶対値)が高くなり、HC,COの排出割合が減少するからである。
尚、前記所定温度は、例えば、図7に示すφ−Tマップにおける目標燃焼領域の燃焼温度が低い側の境界線に相当する温度に設定され得る。所定温度は、固定値でもよいし、図7の目標燃焼領域の燃焼温度が低い側の境界線のように当量比φに応じて変化する値であってもよい。図10に示すフローチャートでは、図2のフローチャートにステップS209が追加されている。ステップS209では、再始動制御部52は、燃焼温度予測部253の予測する燃焼温度が所定温度T以下であるか否かを判定する。予測燃焼温度が所定温度Tよりも高い高温状態である場合には、再始動制御部52は、フラグFを1に設定する(ステップS11)。フラグFが1に設定されると、図3のフローチャートに示すように、再始動制御部52は、目標当量比φを1.0に設定して1圧縮始動を行う(ステップS16)。一方、予測燃焼温度が所定温度T以下である場合には、再始動制御部52は、ステップS10へ進む。ステップS10以降の処理は、図2,3のフローチャートと同様である。つまり、触媒31aの温度が所定温度Tx以上であれば、再始動制御部52は、フラグFを1に設定し(ステップS11)、目標当量比φを1.0に設定して1圧縮始動を行い、触媒31aの温度が所定温度Txよりも低ければ、再始動制御部52は、フラグFを3に設定し(ステップS13)、目標当量比φを0.3に設定して1圧縮始動を行う。このように、最初に圧縮行程を行う気筒の予測燃焼温度が所定温度T以下であり、かつ、触媒31aの温度が所定温度Txよりも低い場合において、最初に圧縮行程を行う気筒の目標当量比φが0.3に設定される。