(1)全体構成
図1は、本発明の実施形態にかかる予混合圧縮着火式エンジンの全体構成図である。このエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのガソリンエンジンである。具体的に、このエンジンは、紙面に直交する方向に列状に並ぶ4つの気筒2(図1にはそのうちの1つの気筒のみを示す)を有するエンジン本体1と、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1で生成された排気ガスを排出するための排気通路30と、排気通路30を流通する排気ガスの一部を吸気通路20に還流するためのEGR装置40とを備えている。
エンジン本体1は、上記4つの気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上部に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。ピストン5の頂面には、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ5aが形成されている。
ピストン5の上方には燃焼室10が形成されており、この燃焼室10には、後述するインジェクタ11からの噴射によって燃料が供給される。そして、噴射された燃料が燃焼室10で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。なお、本実施形態のエンジンはガソリンエンジンであるため、燃料としてはガソリンが用いられる。ただし、燃料の全てがガソリンである必要はなく、例えばアルコール等の副成分が燃料に含まれていてもよい(例えばE3等の混合燃料等)。
ピストン5は、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸15とコネクティングロッド16を介して連結されており、上記ピストン5の往復運動に応じてクランク軸15が中心軸回りに回転する。
各気筒2の幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室10の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室10の容積との比は、ガソリンエンジンとしてはかなり高めの値である15以上20以下に設定されている。これは、ガソリンを自着火により燃焼させるHCCI燃焼を実現するために、燃焼室10を大幅に高温・高圧化する必要があるからである。
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気(以下「吸気」ともいう)を各気筒2の燃焼室10に導入するための吸気ポート6と、各気筒2の燃焼室10で生成された排気ガスを排気通路30に導出するための排気ポート7と、吸気ポート6の燃焼室10側の開口(気筒2の入口)を開閉する吸気弁8と、排気ポート7の燃焼室10側の開口を開閉する排気弁9とが設けられている。
なお、本実施形態では、吸気ポート6は、吸気通路20の最下流端部側の部分、排気ポート7は、排気通路30の最上流端部側の部分とする。
吸気弁8および排気弁9は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト等を含む動弁機構18,19により、クランク軸15の回転に連動して開閉駆動される。
吸気弁8用の動弁機構18には、吸気弁8のリフト量を連続的に(無段階で)変更することが可能な可変機構18aが組み込まれている。このような可変機構18aは、連続可変バルブリフト機構(CVVL)等として既に公知であり、具体的な構成例として、吸気弁8駆動用のカムをカム軸の回転と連動して往復揺動運動させるリンク機構と、リンク機構の配置(レバー比)を可変的に設定するコントロールアームと、コントロールアームを電気的に駆動することによって上記カムの揺動量(吸気弁8を押し下げる量と期間)を変更するステッピングモータとを備えたものを挙げることができる。
このような可変機構18aにより、図2に実線Inと破線Inとで示すように、吸気弁8のリフト量が大リフト(実線)と小リフト(破線)との間で無段階に変更される。また、併せて、吸気弁8の開弁タイミングが無段階に変更される。もっとも、吸気弁8の閉弁タイミングが無段階に変更されてもよく、さらには、吸気弁8の開弁タイミングおよび閉弁タイミングの双方が無段階に変更されてもよい。この観点から、吸気弁8用の可変機構18aは、吸気弁8のリフト量および開閉タイミングを含むリフト特性を変更するものであるということができる。
排気弁9用の動弁機構19には、吸気行程中に排気弁9を押し下げる機能を有効または無効にする切替機構19aが組み込まれている。すなわち、この切替機構19aは、排気弁9を排気行程だけでなく吸気行程でも開弁可能にするとともに、この吸気行程中の排気弁9の開弁動作(いわゆる排気弁9の2度開き)を実行するか停止するかを切り替える機能を有している。
このような切替機構19aは既に公知であり、具体的な構成例として、排気弁9駆動用の通常のカム(排気行程中に排気弁9を押し下げるカム)とは別に吸気行程中に排気弁9を押し下げるサブカムと、このサブカムの駆動力が排気弁9に伝達されるのを有効または無効にするいわゆるロストモーション機構とを備えたものを挙げることができる。
このような切替機構19aにより、図2に実線Exと破線Exとで示すように、排気弁9の開弁動作が、排気弁9が排気行程だけで開弁する通常動作(実線)と、排気弁9が排気行程だけでなく吸気行程でも開弁する2度開き動作(破線)とに切り替えられる。そのため、上記切替機構19aのサブカムによる排気弁9の押し下げが有効にされると、つまり2度開き動作が行われると、排気弁9が排気行程だけでなく吸気行程中にも開弁するので、高温の排気ガス(これを「ホットEGRガス」という)が排気ポート7から燃焼室10に逆流する、いわゆる内部EGRが実現される。その結果、燃焼室10の高温化ひいては圧縮端温度の高温化が図られるとともに、燃焼室10に導入される吸気の量が低減される。
もっとも、切替機構19aは、排気弁9の閉弁タイミングだけでなく、排気弁9の開弁タイミングを変更してもよく、さらには、排気弁9の閉弁タイミングおよび開弁タイミングの双方を変更してもよい。また、併せて、排気弁9のリフト量を変更してもよい。この観点から、排気弁9用の切替機構19aは、排気弁9のリフト量および開閉タイミングを含むリフト特性を変更するものであるということができる。
シリンダヘッド4には、燃焼室10に向けて燃料を噴射するインジェクタ11と、インジェクタ11から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火エネルギーを供給する点火プラグ12とが、各気筒2につきそれぞれ1組ずつ設けられている。
インジェクタ11は、ピストン5の頂面を臨むような姿勢でシリンダヘッド4に設けられている。各気筒2のインジェクタ11にはそれぞれ燃料供給管13が接続されており、各燃料供給管13を通じて供給される燃料が、インジェクタ11の先端部に設けられた複数の噴孔(図示省略)から噴射される。
燃料供給管13の上流側に、クランク軸15の回転により駆動されるプランジャー式の燃料ポンプであるサプライポンプ14が設けられている。サプライポンプ14と燃料供給管13との間に、全気筒に共通の蓄圧用のコモンレール(図示省略)が設けられている。コモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2のインジェクタ11に供給されることにより、各インジェクタ11から最大で120MPa程度の高い圧力の燃料が噴射される。
インジェクタ11から噴射される燃料の噴射圧力(燃圧)は、サプライポンプ14から圧送された燃料の一部を燃料タンク側に戻す量(燃料の逃がし量)を増減させることにより調節可能である。すなわち、サプライポンプ14には、燃料の逃がし量を調節するための燃圧制御弁14a(図4参照)が内蔵されており、この燃圧制御弁14aを用いて燃圧を所定範囲内(例えば30〜120MPaの間)で調節することが可能である。
吸気通路20は、上述したように、吸気ポート6を最下流端部側の部分として含む他、単一の共通通路21と、共通通路21の上流端部に配設されたエアクリーナ22と、共通通路21の下流端部に接続された所定容積のサージタンク24と、サージタンク24から下流側に延びて各気筒2の吸気ポート6とそれぞれ連通する4つの独立通路25(図1にはそのうちの1つの独立通路のみを示す)とを有している。共通通路21のサージタンク24寄りに、共通通路21を流通する吸気の流量を調節するスロットル弁29と、気筒2に導入する吸気ひいては燃焼室10内の混合気にオゾン(O3)を供給するオゾン生成器76とが、上流側からこの順に配設されている。
オゾン生成器76は、図3に示すように、共通通路21の横断面上で、上下または左右方向に所定間隔を設けて並列された複数の電極を備えて構成されている。オゾン生成器76は、吸気に含まれる酸素(O2)を原料ガスとして、無声放電によりオゾンを生成する。つまり、電極に対して、図外の電源から高周波交流高電圧を印加することにより、放電間隙において無声放電が発生し、そこを通過する吸気中の酸素がオゾン化される。こうしてオゾンが供給された吸気は、サージタンク24から独立通路25を介して、各気筒2に導入される。オゾン生成器76の電極に対する電圧の印加態様を変更し、あるいは電圧を印加する電極の数を変更することによって、オゾン生成器76を通過した後の吸気中のオゾン濃度を調節することができる。後述するECU60(図4参照)は、こうしたオゾン生成器76に対する制御を通じて、気筒2に導入する吸気中のオゾン濃度の調節を行う。吸気ないし混合気にオゾンを供給することにより、混合気の着火性およびHCCI燃焼の安定性の向上を図ることができる。
排気通路30は、上述したように、吸気ポート7を最上流端部側の部分として含む他、各気筒2の排気ポート7とそれぞれ連通する4つの独立通路31(図1にはそのうちの1つの独立通路のみを示す)と、各独立通路31の下流端部が集合した集合部32と、集合部32から下流側に延びる単一の共通通路33とを有している。共通通路33の集合部32寄りに、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、第1触媒装置34と第2触媒装置35とが、上流側からこの順に配設されている。各触媒装置34,35は、それぞれ、筒状ケース内の流路に配置された三元触媒等を備えて構成されている。本実施形態では、上記触媒装置34,35は、温度が600K(本発明にかかる「基準温度」に相当する)以上であると、触媒活性状態であるとともに、オゾンを熱で分解させることができる。
EGR装置40は、排気通路30と吸気通路20とを互いに連通するEGR通路41と、EGR通路41の途中部に配設されたEGRクーラ42およびEGR弁43とを有している。
EGR通路41は、排気通路30を流通する排気ガスの一部を吸気通路20に還流するための通路であり、本実施形態では、排気通路30の排気集合部32と吸気通路20の各独立通路25とを相互に連通している。なお、図示しないが、EGR通路41の下流部(吸気通路20側の端部)は、気筒2ごとに設けられた4つの独立通路25に対応して4つに分岐しており、各独立通路25と1対1で接続されている。
EGRクーラ42は、EGR通路41を流通する排気ガスを冷却するための水冷式の熱交換器である。すなわち、EGRクーラ42では、その内部に導入される冷却水との熱交換によって排気ガスが冷却される(これを「クールドEGRガス」という)。EGRクーラ42で用いられる冷却水は、エンジン本体1を冷却するための冷却水(エンジン冷却水)と同じものを用いてもよく、また、より高い冷却効果を得るために、エンジン冷却水とは別の冷却水を用いてもよい。
EGR弁43は、EGR通路41におけるEGRクーラ42よりも下流側に設けられた電動式のバルブであり、その開閉動作に応じて、EGR通路41を通じて吸気通路20に還流される排気ガス、つまりクールドEGRガスの量が調節される。
(2)制御系
次に、図4を参照して、エンジンの制御系について説明する。本実施形態のエンジンは、その各部がECU(エンジン制御ユニット)60によって統括的に制御される。ECU60は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロプロセッサからなるものであり、本発明にかかる「制御手段」に相当する。
ECU60は、エンジンおよびこれを搭載する車両に設けられた下記のセンサSN1〜SN12と電気的に接続されており、各センサから入力される信号に基づいて、各種情報を取得する。
・ エンジン本体1のクランク軸15の回転速度(つまりエンジン回転速度)を検出するエンジン速度センサSN1
・ エンジン冷却水の温度(つまりエンジン本体1の温度)を検出する水温センサSN2
・ サージタンク24を通過する吸気の温度を検出する吸気温センサSN3
・ サージタンク24を通過する吸気の流量を検出するエアフローセンサSN4
・ 外気の温度を検出する外気温センサSN5
・ 運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(踏込量)を検出するアクセル開度センサSN6
・ 車室内空間の温度を検出する室温センサSN7
・ バッテリの電圧を検出するバッテリ電圧センサSN8
・ 運転者により操作される図外のブレーキペダルの開度(踏込量)を検出するブレーキペダル開度センサSN9
・ 車両の走行速度を検出する車速センサSN10
・ 第1触媒装置34または第2触媒装置35の温度を検出する触媒温度センサSN11
・ 運転者により選択されるレンジを検出するレンジセンサSN12
また、ECU60は、車室内空間の空調を行うエアコン52およびイグニッションスイッチ53とも電気的に接続されており、エアコンからは空調の設定温度に関する情報を取得し、イグニッションスイッチ53からはイグニッションスイッチ53のオン・オフに関する情報を取得する。
そして、ECU60は、取得した各種情報に基づいて、種々の演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU60は、インジェクタ11、点火プラグ12、サプライポンプ14の燃圧制御弁14a、吸気弁8用の可変機構18a、排気弁9用の切替機構19a、スロットル弁29、EGR弁43、エンジンを始動させる際にクランク軸15を回転させる(クランキングする)スタータモータ51、およびオゾン生成器76と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
例えば、ECU60は、次に説明するように、予混合圧縮着火燃焼を行うCIモード(HCCI運転)と、火花点火燃焼を行うSIモード(SI運転)とを切り替えるモード切替制御を実行するようにプログラミングされている。
また、ECU60は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジンを自動停止させ、その後所定の再始動条件が成立したときにエンジンを再始動させるアイドルストップ制御を実行するようにプログラミングされている。
(3)運転状態に応じたエンジン制御
次に、図5を参照して、運転状態に応じたエンジン制御の具体的内容について説明する。
図5は、エンジンの負荷および回転速度を縦軸および横軸として表したエンジンの運転領域を燃焼形態の相違によって複数の領域に分けたマップである。
本実施形態のエンジンは、燃費性能およびエミッション性能の向上を目的として、エンジン負荷が最低負荷域を含む低負荷側の領域では、点火プラグ12による火花点火燃焼(SI燃焼)ではなく、予混合圧縮着火燃焼(HCCI燃焼)が行われる。しかし、エンジン負荷が高くなるに従い、HCCI燃焼では燃焼が急峻になりすぎて、異常燃焼や燃焼騒音等の問題が生じる。そのため、本実施形態のエンジンでは、エンジン負荷が最高負荷域を含む高負荷側の領域では、燃焼形態がHCCI燃焼からSI燃焼に切り替えられる。このように、本実施形態のエンジンは、エンジンの運転状態、特にエンジン負荷に応じて、予混合圧縮着火燃焼を行うCIモード(HCCI運転)と、火花点火燃焼を行うSIモード(SI運転)とが切り替えられるように構成されている。ただし、モード切替え(運転切替え)の境界線は、図5に例示されたものに限定されるものではない。
CIモードが実行されるCI領域は、エンジン負荷の高低に応じてさらに2つの領域に分けられる。具体的に、CI領域は、CI領域内の低中負荷側の領域(「CI低中負荷域」という)(1)と、CI領域内の高負荷側の領域(「CI高負荷域」という)(2)とに分けられる。なお、モード切替えの境界線は、CI高負荷域(2)に含まれる。
CI低中負荷域(1)では、混合気の着火性およびHCCI燃焼の安定性を高めるために、相対的に温度の高いホットEGRガスが気筒2に導入される。このホットEGRガスの導入は、上述したように、排気弁9を2度開き動作させ(図2の破線Ex参照)、内部EGRを行うことで実現される。ホットEGRガスの導入は、気筒2内の圧縮端温度を高め、CI低中負荷域(1)において、混合気の着火性およびHCCI燃焼の安定性を高める上で有利となる。また、CI低中負荷域(1)では、吸気行程のいずれかの時期にインジェクタ11から気筒2内に燃料が噴射される。これにより、均質な混合気が形成され、その均質混合気は圧縮上死点付近において自着火する。
一方、CI高負荷域(2)では、気筒2内の温度が高くなるので、過早着火等の異常燃焼を抑制するために、ホットEGRガスの導入量が減少されるとともに、EGRクーラ42で冷却されたクールドEGRガスが気筒2に導入される。また、CI高負荷域(2)では、CI低中負荷域(1)と同じように吸気行程のいずれかの時期に燃料を噴射すると過早着火等の異常燃焼が生じ易いので、圧縮行程後期から膨張行程初期の間のいずれかの時期にインジェクタ11から気筒2内に燃料が噴射される(これを「リタード噴射」という)。これにより、過早着火等の異常燃焼が抑制され、HCCI燃焼の安定化が図られる。また、CI領域全体の高負荷側への拡大が図られる。
なお、本発明において、行程の「初期」とは、行程開始のクランク角CAを0°CA、行程終了のクランク角CAを180°CAとした場合に、クランク角CAが0°〜60°CAの範囲にある時期をいい、「中期」とは、クランク角CAが60°〜120°CAの範囲にある時期をいい、「後期」とは、クランク角CAが120°〜180°CAの範囲にある時期をいう。
このようなCI領域に対し、SIモードが実行されるSI領域では、排気弁9を通常動作に切り替え(図2の実線Ex参照)、ホットEGRガスの気筒2への導入を停止するとともに、クールドEGRガスの気筒2への導入は継続する。その場合、スロットル弁29を全開としつつ、EGR弁43の開度を調節することにより、気筒2に導入する新気の量とクールドEGRガスの量との割合を調節する。これにより、ポンピングロスが減るとともに、大量のクールドEGRガスを気筒2に導入することによる異常燃焼の回避、SI燃焼の燃焼温度を低く抑えることによるRawNOxの生成抑制、および冷却損失の低減が図られる。なお、全開負荷域つまり最高負荷域では、EGR弁43を閉弁することにより、クールドEGRガスの気筒2への導入も停止する。
以上に加え、CI領域内のCI低中負荷域(1)において、燃料噴射量が相対的に少なく、熱発生量が相対的に少ないCI低負荷域、特にその低回転域(3)では、混合気の着火性およびHCCI燃焼の安定性をより一層高めるために、オゾン生成器76を作動させて、気筒2に導入する吸気にオゾンを供給する。気筒2に導入する吸気ひいては燃焼室10内の混合気にオゾンを供給することにより、混合気の着火性およびHCCI燃焼の安定性の向上を図ることができる。このようなオゾンの供給は、外気温が低いときに特に有利に働く。その理由は、外気温が低いときは、新気の温度が低くなり、圧縮開始時の混合気の温度が低くなり、その結果、圧縮端温度が低下して、混合気が自着火し難くなるからである。
なお、オゾンを供給する領域を、上記CI低負荷・低回転域(3)に限らず、状況に応じて、回転速度に拘らずCI低中負荷域(1)のCI低負荷域全域としてもよく、あるいはCI低中負荷域(1)全域としてもよく、さらにはCI高負荷域(2)を含めたCI領域全域としてもよい。
上述したように、オゾン濃度は、ECU60がオゾン生成器76の電極に対する電圧の印加態様を変更したり、電圧を印加する電極の数を変更することによって調節される。その場合、オゾン濃度は、エンジン負荷が低下するに従い連続的または段階的に高まるように調節されてもよい。こうすることで、着火性および燃焼安定性を確保する上で必要最低限のオゾン濃度に調節することが可能となり、オゾンの生成に必要な電力消費を最低限に抑えることができて、燃費の面で有利となる。また、オゾン濃度は、エンジン負荷に拘らず一定濃度に調節されてもよい。さらに、その場合、最大のオゾン濃度は、例えば5〜30ppm程度に制限されてもよい。
オゾンは500〜600Kの温度下では数秒で分解する。そのため、燃焼室10内の混合気に供給されたオゾンは、HCCI燃焼で発生する気筒2内の熱で容易に分解する。
(4)問題の所在
上述したように、通常、HCCI燃焼中は、オゾンは気筒2内の熱で分解し、大気に放出されることがない。しかし、例えば次のようなシーンでは、オゾンの大気への放出が起きる可能性がある。すなわち、いま、車両が長い下り坂を制動しつつ降りて来て、一度もアクセルペダルを踏むことなく、坂の下の交差点で信号待ちにより走行を停止し、アイドルストップ制御によりエンジンが自動停止されるシーンを考える。
図6に示すポイント(ア)は、車両が下り坂に入る前の状態を示す。この状態では、アクセルペダルが踏まれており、CI領域でHCCI燃焼が行われ、ホットEGRガスを気筒2に導入するために排気弁9が2度開きされている。
この状態から、車両が下り坂に入ると、アクセルペダルの踏み込みがなくなり、代わりにブレーキペダルが踏み込まれる。その結果、エンジン負荷がゼロのポイント(イ)に移行し、減速燃料カットが開始する。つまり、インジェクタ11からの燃料噴射が停止する。この減速燃料カットの期間中、エンジンでは燃焼が起きていないから、エンジン本体1が冷え、気筒2内の温度が低下する。また、高温の排気ガスの排出がないから、触媒装置34,35が走行風により冷やされる。このような状態が長い下り坂を走行中、長時間続く。
そして、交差点に近づくにつれて車速が落ち、エンジン回転速度が所定回転速度まで低下すると、ポイント(ウ)に到達して燃料復帰(燃料噴射が再開)される、つまり減速燃料カットが終了する。この燃料復帰後の状態は、CI領域内のCI低中負荷域(1)のCI低負荷域の低回転域、つまりCI低負荷・低回転域(3)にある。そのため、ホットEGRガス導入のための排気2度開きと、均質混合気形成のための吸気行程噴射と、着火性および燃焼安定性向上のためのオゾン供給とによるHCCI燃焼が行われる。
この状態で、車両が停止し、負荷ゼロ・回転ゼロのポイント(エ)に到達すると、所定の自動停止条件の成立を待ってアイドルストップ制御が実行され、エンジンが自動停止される。つまり、インジェクタ11からの燃料噴射が停止する。この燃料噴射の停止とともにオゾン生成器76によるオゾンの生成も停止する。クランク軸15は直ぐには停止せず、エンジンが完全停止するまで数回惰性回転する。その惰性回転している間、ピストン5は気筒2内で数回往復運動を続ける。そのため、吸気通路20の下流端部側にあるガスは吸気ポート6を介して気筒2に導入され、気筒2から排気ポート7を介して排気通路30に排出される。
このとき、燃料噴射が停止されるまでオゾン生成器76がオゾンを生成していたから、燃料供給が停止された時点では、オゾン生成器76からサージタンク24までの共通通路21内、サージタンク24内、4つの独立通路25内、および4つの吸気ポート6内にオゾンが吸気とともに残留する。残留したオゾンは惰性回転により吸気とともに気筒2に導入され、気筒2から排気通路30に排出される。その場合、エンジンでは燃焼が起きていないから、圧縮端温度が低く、気筒2に導入されたオゾンは気筒2内の熱で分解しない。また、排気通路30の触媒装置34,35は長時間走行風により冷やされて温度が低下している(600K以上ない)から、排気通路30に排出されたオゾンは触媒装置34,35の触媒作用や触媒の熱でも分解しない。以上により、オゾンが大気に放出される。
(5)問題に対処する制御
(5−1)概要
図7は、オゾンの大気への放出を回避する対策(つまり圧縮回数増大制御)が盛り込まれたアイドルストップ制御のタイムチャートである。図7は、アイドルストップ制御においてエンジンを自動停止させる際のエンジン回転速度およびクランク角の変化を示している。図中、時間軸に示す「F/C」は、エンジン停止のための燃料カットを意味し、「TDC」は、エンジンが停止する直前のエンジン全体としての最後の上死点を意味し(「最終TDC」ともいう)、「2TDC」は、上記TDCの1つ前のエンジン全体としての上死点を意味する(「停止前2TDC」ともいう)。
図6のポイント(エ)において、所定のエンジン停止条件(自動停止条件)が成立すると、エンジン停止のための燃料カットが開始される(F/C開始)。また、この燃料カットの開始とともにオゾン生成器76によるオゾンの生成が停止される(オゾン生成停止)。F/C開始後もクランク軸15は直ぐには停止せず、数回惰性回転する。惰性回転している間、エンジン回転速度が徐々に低下する。また、ピストン5が気筒2内で上死点と下死点との間を数回往復する。そして、2TDCおよび最終TDCを経て、最終的に回転速度がゼロになり、エンジンが完全停止する。
本実施形態では、このようにアイドルストップ制御においてエンジンを自動停止させる際、触媒装置34,35の温度が所定の基準温度(本実施形態では600K)より低く、かつ、エンジン停止のための燃料カット(F/C)が開始されるまでオゾン生成器76を作動させていたとき(つまりオゾンを供給していたとき)は、上記燃料カットが開始される前に燃料噴射量が増量されてエンジン回転速度が高められる。例えば、図7において、エンジン停止条件成立の時点までは、エンジン回転速度はアイドル回転速度(例えば500rpm)であるが、エンジン停止条件成立の時点以降は、燃料噴射量が増量されて、エンジン回転速度がアイドル回転速度より高い所定の回転速度A(例えば550rpm)まで高められる(エンジン回転速度up)。
すると、燃料カットが開始された後、エンジン回転速度が徐々に低下する間に、エンジン回転速度が所定の基準回転速度B(例えば250rpm)以上である圧縮上死点の回数が、符号(i),(ii),(iii),(iv)で示すように、4回に増大される。
ここで、上記基準回転速度Bは、圧縮時のガスの漏れ(例えばピストンリングの合い口等からのガスの漏れ)が少なく、圧縮端温度の低下が抑制されるという観点から設定される回転速度である。より詳しくは、燃料カットの開始後に気筒2に導入された残留オゾンが気筒2内で圧縮されたときに熱で分解し得る圧縮端温度が得られるのに十分な回転速度である。
また、上記4回という回数は、オゾン生成器76からサージタンク24までの共通通路21の容積と、サージタンク24の容積と、4つの独立通路25の容積と、4つの吸気ポート6の容積とを足し合わせた容積(これを「合算容積」という)のガスが気筒2に導入され、気筒2内で圧縮されるという観点から設定される回数(これを「設定回数」という)である。より詳しくは、燃料カットが開始された時点で残留したオゾンを含む吸気の全量(合算容積に相当する)が気筒2に導入され、気筒2内で圧縮され、その結果、残留オゾンの全量が気筒2内の熱で分解し得る圧縮端温度を被るのに十分な回数である。したがって、明らかなように、上記合算容積が小さい(大きい)ほど、あるいはピストン5が下死点にあるときの燃焼室10の容積が大きい(小さい)ほど、上記設定回数は少なく(多く)なる。
以上のような圧縮回数増大制御により、燃料カットの開始後に、圧縮端温度が高い圧縮上死点の回数が、残留オゾンの全量が分解するのに十分な回数に増大されるから、残留オゾンは気筒2を通過するときに分解し、排気通路30に排出されない。そのため、たとえ触媒装置34,35の温度が低くても、残留オゾンは大気に放出されない。
(5−2)制御動作
上記圧縮回数増大制御が盛り込まれたアイドルストップ制御をECU60の制御動作の観点からフローチャートに基いて説明する。
[自動停止制御]
図8〜図10に示すように、アイドルストップ制御においてエンジンを自動停止させる際は、ECU60は、ステップS1で、各種データを読み込んだ後、ステップS2で、エンジン停止条件の成立・不成立を判定し、成立している場合は、ステップS3に進み、成立していない場合は、ステップS1に戻る。
上記エンジン停止条件としては、例えば、エンジン冷却水の温度が所定温度(例えば50℃)以上であること(つまりエンジンが暖機状態であること)、車速がほぼゼロであること、ブレーキペダルの開度(踏込量)が大きいこと、Dレンジ(前進走行レンジ)が選択されていること、イグニッションスイッチ53がオンであること等が挙げられ、ECU60は、これらの全てが満足されているときにエンジン停止条件が成立していると判定する。
ECU60は、ステップS3で、オゾン生成器76がオゾンを生成中か否かを判定し、生成中の場合は、ステップS5に進み、生成中でない場合は、ステップS4に進む。
ECU60は、ステップS4で、数サイクル(4サイクル)より前でオゾン生成器76によるオゾンの生成が停止したか否かを判定し、YESの場合は、ステップS11に進み、NOの場合は、ステップS32に進む。ECU60は、ステップS32で、さらに数サイクルだけエンジンを稼動し、ステップS11に進む。ECU60は、ステップS11で、インジェクタ11からの燃料噴射を停止する(エンジン停止のための燃料カットを開始する)。
つまり、ECU60は、エンジン停止条件の成立前にオゾンの生成が停止されている場合(例えば、外気温が高く、圧縮開始時の混合気の温度が高くなり、圧縮端温度が上昇して、混合気が自着火し易くなった場合等)において、オゾン生成器76で生成されたオゾンの全量がHCCI燃焼で発生する気筒2内の熱ですでに分解しているとき(ステップS4でYES)は、燃料カットが開始された後にオゾンを分解させる必要がないので、直ちに燃料カットを開始する。
また、ECU60は、エンジン停止条件の成立前にオゾンの生成が停止されている場合において、オゾン生成器76で生成されたオゾンの一部がまだ吸気通路20に残っているとき(ステップS4でNO)は、その残留オゾンをHCCI燃焼で発生する気筒2内の熱で分解する(ステップS32)ので、やはり燃料カットが開始された後にオゾンを分解させる必要がなく、直ちに燃料カットを開始する。
ECU60は、ステップS5で、触媒装置34,35の温度が600K以上であるか否か(オゾンが触媒装置34,35で分解されるか否か)を判定し、600K以上である場合は、ステップS10に進み、600K以上でない場合は、ステップS6に進む。
ECU60は、ステップS6で、フラグFをF1にセットし、ステップS7で、燃料噴射量を増量してエンジン回転速度を高め、ステップS8で、エンジン回転速度が550rpm(図7の所定回転速度A)以上であるか否かを判定し、550rpm以上である場合は、ステップS9に進み、550rpm以上でない場合は、ステップS7に戻る。
なお、上記フラグFは、上記のように、触媒装置34,35の温度が600K以上でない場合にF1にセットされる他、このアイドルストップ制御の自動停止制御中に再始動条件が成立した場合にF2にセットされ(ステップS21参照)、その後、エンジンが完爆した場合にF0にリセットされる(ステップS26参照)フラグである。
ECU60は、ステップS9で、所定時間(例えば0.5秒)が経過したか否か、換言すればエンジン回転速度が550rpm以上である状態が所定時間続いたか否かを判定し、所定時間が経過した場合は、ステップS10に進み、所定時間が経過していない場合は、ステップS9に戻る。
ここで、エンジン回転速度が550rpm(所定回転速度A)以上である状態が所定時間続くと、燃料カットが開始された後、エンジン回転速度が徐々に低下する間に、エンジン回転速度が基準回転速度B以上の圧縮上死点が確実に4回以上に増大される。
ECU60は、ステップS10で、オゾン生成器76によるオゾンの生成を停止し、ステップS11で、インジェクタ11からの燃料噴射を停止する(エンジン停止のための燃料カットを開始する)。これにより、エンジン回転速度はクランク軸15の惰性回転により徐々に低下していく。
その場合に、ステップS11で燃料カットが開始されるまでオゾンが生成され(ステップS3でYES)、かつ、触媒装置34,35の温度が600K未満であるとき(ステップS5でNO)は、燃料噴射量が増量されてエンジン回転速度が高められている(ステップS7)ので、エンジン回転速度が徐々に低下する間に、エンジン回転速度が基準回転速度B以上の圧縮上死点が4回以上に増大され、気筒2に導入された残留オゾンの全量が気筒2内で圧縮されたときに熱で分解し、オゾンの大気への放出が回避される。
これに対し、エンジン停止条件の成立前にオゾンの生成が停止されているとき(ステップS3でNO)は、上述したように、燃料カットが開始された後にオゾンを分解させる必要がないので、エンジン回転速度は高められておらず、エンジン回転速度は比較的早期に基準回転速度B未満に低下する。また、触媒装置34,35の温度が600K以上であるとき(ステップS5でYES)は、触媒装置34,35がオゾンを触媒作用または触媒の熱で分解させるので、やはりエンジン回転速度は高められておらず、エンジン回転速度は比較的早期に基準回転速度B未満に低下する。
ECU60は、ステップS12で、フラグFがF1にセットされているか否かを判定し、セットされている場合(ステップS11で燃料カットが開始されるまでオゾンが生成され、かつ、触媒装置34,35の温度が600K未満である場合)は、ステップS13に進み、セットされていない場合(エンジン停止条件の成立前にオゾンの生成が停止されている場合、または触媒装置34,35の温度が600K以上である場合)は、ステップS17に進む。
ECU60は、ステップS13で、スロットル弁29が全開か否かを判定し、全開の場合は、ステップS15に進み、全開でない場合は、ステップS14に進む。
ECU60は、ステップS14で、スロットル弁29を全開とする。ここで、燃料カットが開始された後、エンジン回転速度が徐々に低下する間に、スロットル弁29を全開とすると、ポンピングロスが減り、エンジンの抵抗が小さくなり、エンジン回転速度が低下する度合いが小さくなるので、この点からも、エンジン回転速度が基準回転速度B以上の圧縮上死点が確実に4回以上に増大される。
ECU60は、ステップS15で、再始動条件の成立・不成立を判定し、成立している場合は、ステップS21に進み、成立していない場合は、ステップS16に進む。
上記再始動条件としては、例えば、ブレーキペダルの開度(踏込量)が減少したこと等が挙げられ、ECU60は、これが満足されているときに再始動条件が成立していると判定する。
ECU60は、ステップS16で、停止前2TDC(図7の時間軸参照)であるか否かを判定し、停止前2TDCである場合は、ステップS17に進み、停止前2TDCでない場合は、ステップS16に戻る。
ECU60は、ステップS17で、スロットル弁29を全閉とする。つまり、ECU60は、オゾンが触媒装置34,35で分解される場合(ステップS12でNO)は、燃料カットが開始された後、直ちにスロットル弁29を全閉として筒内温度の低下を抑制する一方、オゾンが触媒装置34,35で分解されない場合(ステップS12でYES)は、エンジン回転速度が基準回転速度B以上の圧縮上死点が確実に4回以上に増大されるように、スロットル弁29を全開としてエンジンの抵抗を下げてから、停止前2TDCが到来した時点でスロットル弁29を全閉とする。
なお、図7では、エンジン回転速度が基準回転速度B以上である最後の圧縮上死点(iv)の次の上死点が停止前2TDCになっているが、これは単に一例に過ぎない。
ECU60は、ステップS18で、エンジンが完全停止したか否かを判定し、完全停止した場合は、ステップS19に進み、完全停止していない場合は、ステップS18に戻る。
ECU60は、ステップS19で、フラグFがF2にセットされているか否かを判定し、セットされている場合は、ステップS27に進み、セットされていない場合は、ステップS20に進む。つまり、この時点で再始動条件が成立している場合は、エンジンが完全停止した後(ステップS18でYES)、直ちにステップS27に進んで、エンジンを再始動させる。この時点で再始動条件が成立している場合とは、次に説明するように、停止前2TDCが到来する前に再始動条件が成立したけれども(ステップS15でYES)、エンジン回転速度が低かった場合(ステップS22でNO)、つまりスタータモータ51を駆動しなければエンジンをHCCI燃焼で再始動させることができなかった場合である。
ECU60は、ステップS20で、ピストン5の停止位置を記憶し、このアイドルストップ制御の自動停止制御を終了する。
ここで、ピストン5の停止位置とは、エンジンが停止したときにピストン5が属する行程のことであり、例えば、エンジンが停止したときにピストン5が圧縮行程に属する場合は、そのピストン5が挿入されている気筒2のことを「停止時圧縮行程気筒」という。このピストン5の停止位置は、図10に示すエンジンの再始動制御で用いられる。
また、ECU60は、ステップS21で、フラグFをF2にセットし、ステップS22で、エンジン回転速度が400rpm以上であるか否かを判定し、400rpm以上である場合は、ステップS23に進み、400rpm以上でない場合は、ステップS16に進む。
ECU60は、ステップS23で、インジェクタ11からの燃料噴射を開始し、ステップS24で、オゾン生成器76によるオゾンの生成を開始し、ステップS25で、完爆したか否か(エンジン回転速度が600rpmに到達したか否か)を判定し、完爆した場合は、ステップS26に進み、完爆していない場合は、ステップS23に戻る。
つまり、ECU60は、燃料カットが開始された後において、エンジン回転速度がまだ400rpm以上であり(ステップS22でYES)、スタータモータ51を駆動しなくてもエンジンをHCCI燃焼で再始動させることができる場合は、エンジンが完全停止する前にエンジンを再始動させる。これに対し、ECU60は、燃料カットが開始された後において、エンジン回転速度が400rpm未満であり(ステップS22でNO)、スタータモータ51を駆動しなければエンジンをHCCI燃焼で再始動させることができない場合は、エンジンが完全停止した後、改めてエンジンを再始動させる(ステップS19でYES)のである。
ECU60は、ステップS26で、フラグFをF0にリセットし、このアイドルストップ制御の自動停止制御を終了する。
また、ECU60は、ステップS27で、スタータモータ51の駆動を開始し、ステップS28で、インジェクタ11からの燃料噴射を開始し、ステップS29で、オゾン生成器76によるオゾンの生成を開始し、ステップS30で、完爆したか否か(エンジン回転速度が500rpmに到達したか否か)を判定し、完爆した場合は、ステップS31に進み、完爆していない場合は、ステップS28に戻る。
なお、ここで、ステップS30の完爆判定回転速度(500rpm)がステップS25の完爆判定回転速度(600rpm)よりも低い理由は、スタータモータ51でクランキングされており、エンジン回転がより安定しているからである。
ECU60は、ステップS31で、スタータモータ51の駆動を停止し、ステップS26で、フラグFをF0にリセットし、このアイドルストップ制御の自動停止制御を終了する。
[再始動制御]
図10に示すように、アイドルストップ制御において一旦自動停止させたエンジンを再始動させる際は、ECU60は、ステップS101で、各種データを読み込んだ後、ステップS102で、再始動条件の成立・不成立を判定し、成立している場合は、ステップS103に進み、成立していない場合は、ステップS101に戻る。
上記再始動条件としては、例えば、ブレーキペダルの開度(踏込量)が減少したこと等が挙げられ、ECU60は、これが満足されているときに再始動条件が成立していると判定する。
ECU60は、ステップS103で、スタータモータ51の駆動を開始し、ステップS104で、インジェクタ11からの燃料噴射を開始し、ステップS105で、オゾン生成器76によるオゾンの生成を開始し、ステップS106で、完爆したか否か(エンジン回転速度が500rpmに到達したか否か)を判定し、完爆した場合は、ステップS107に進み、完爆していない場合は、ステップS104に戻る。
ここで、インジェクタ11からの燃料噴射は、上述した停止時圧縮行程気筒から開始する。そして、各気筒2ともに、初回の燃焼サイクルに限り、圧縮行程後半に所定量(A/F50相当)の燃料を噴射する。これにより、迅速なエンジン再始動が実現する。
ECU60は、ステップS107で、スタータモータ51の駆動を停止し、このアイドルストップ制御の再始動制御を終了する。
(6)作用等
以上のように、本実施形態にかかる予混合圧縮着火式エンジンの制御装置は、CI領域(図5参照)で予混合圧縮着火燃焼が行われるように構成された予混合圧縮着火式エンジンの制御装置であって、吸気通路20に配設されたオゾン生成器76と、上記オゾン生成器76を上記CI領域内のCI低中負荷域(1)のCI低負荷域で作動させるECU60とが備えられている。
上記ECU60は、上記エンジンを停止させる際、排気通路30に配設された触媒装置34,35の温度が600Kより低く(ステップS5でNO)、かつ、燃料供給が停止される(ステップS11)まで上記オゾン生成器76を作動させるとき(ステップS3でYES)は、燃料供給が停止されて(ステップS11)からエンジンの回転速度が所定の基準回転速度B未満となるまでにエンジン全体として圧縮上死点を越える回数を、上記オゾン生成器76から各気筒2の入口(吸気ポート6の燃焼室10側の開口)までの吸気通路20の容積分のガス、すなわち、オゾン生成器76からサージタンク24までの共通通路21の容積と、サージタンク24の容積と、4つの独立通路25の容積と、4つの吸気ポート6の容積とを足し合わせた合算容積分のガスが圧縮される4回(i),(ii),(iii),(iv)に増大させる圧縮回数増大制御を行う(図7参照)。
この構成によれば、予混合圧縮着火式エンジンを停止させる際、燃料供給が停止されて(ステップS11)からエンジンの回転速度が基準回転速度B以上で圧縮上死点を越える回数が、オゾン生成器76から各気筒2の入口までの吸気通路20の容積分のガスが圧縮される4回に増大される。エンジンの回転速度が基準回転速度B以上では、圧縮時のガスの漏れ(例えばピストンリングの合い口等からのガスの漏れ)が少ないので、ピストン5が圧縮上死点に至ったときの筒内温度、すなわち圧縮端温度の低下が抑制される。そのため、燃料供給が停止された時点(ステップS11)でオゾン生成器76から各気筒2の入口までの吸気通路20内に残留したオゾンは、エンジンが完全停止するまでの惰性回転により吸気とともに気筒2内に導入されるが、圧縮端温度が高いので、残留したオゾンの全量が、気筒2内で圧縮されたときに熱で分解し、オゾンのまま排気通路30に排出されることがない。したがって、予混合圧縮着火式エンジンを停止させる際、燃料供給が停止される(ステップS11)までオゾンが生成されていた場合に、触媒装置34,35の温度が低いとき(例えば触媒の活性温度未満のときやオゾンの分解温度未満のとき)でも、オゾンの大気への放出を回避できる。
本実施形態においては、上記ECU60は、燃料供給が停止される(ステップS11)前にエンジンの回転速度を高める(ステップS7)ことにより、上記圧縮回数増大制御を行う。
この構成によれば、燃料供給停止時点(ステップS11)でのエンジンの回転速度が所定回転速度A(図7参照)以上に高くなる(ステップS8でYES)ので、基準回転速度Bまでの落差が大きくなり、燃料供給停止(ステップS11)後におけるエンジンの回転速度が基準回転速度B以上の圧縮上死点の回数が良好に4回に増大する。
本実施形態においては、上記ECU60は、燃料供給が停止された(ステップS11)後にエンジンの抵抗を下げる(ステップS14)ことにより、上記圧縮回数増大制御を行う。
この構成によれば、燃料供給停止(ステップS11)後のエンジンの抵抗が小さくなるので、エンジンの回転速度が低下する度合いが小さくなり、燃料供給停止(ステップS11)後におけるエンジンの回転速度が基準回転速度B以上の圧縮上死点の回数が良好に4回に増大する。
本実施形態においては、上記ECU60は、上記圧縮回数増大制御の際に、スロットル弁29の開度を増大する(ステップS14)ことにより、エンジンの抵抗を下げる。
この構成によれば、ポンピングロスが減るので、エンジンの抵抗が確実に小さくなる。
本実施形態においては、上記ECU60は、所定の自動停止条件が成立したとき(ステップS2でYES)にエンジンを自動停止させ、その後所定の再始動条件が成立したとき(ステップS15,S102でYES)にエンジンを再始動させるアイドルストップ機能を有し、上記エンジンを自動停止させる際(図8〜図9)に上記圧縮回数増大制御を行う。
この構成によれば、自動車を運転中に高い頻度で実行されるアイドルストップでエンジンを自動停止させる際に上記圧縮回数増大制御が適用されるので、オゾンの大気への放出を回避できる効果がより大きくなる。
なお、上記実施形態では、圧縮回数増大制御の設定回数を4回としたが、5回以上でもよい。
また、上記実施形態では、圧縮回数増大制御の際に、スロットル弁29の開度を増大することにより、燃料供給停止後のエンジンの抵抗を下げるようにしたが、これに代えて、またはこれとともに、可変機構18aおよび切替機構19aで吸気弁8および排気弁9の少なくともいずれかのリフト特性をエンジンの抵抗が下がる方向に変更することにより、燃料供給停止後のエンジンの抵抗を下げるようにしてもよい。具体例としては、吸気弁8のリフト量、開弁タイミング、排気弁9のリフト量、閉弁タイミングのうちの少なくとも1つを変更して、吸気弁8および排気弁9の双方が開いたオーバーラップ期間をつくること、およびそのオーバーラップ期間を長くすること等により、エンジンの抵抗を下げることができる。
また、上記実施形態で記述された種々の数値は一例であり、それらに限定されないことはいうまでもない。