JP5991263B2 - 予混合圧縮着火式エンジンの始動制御装置 - Google Patents

予混合圧縮着火式エンジンの始動制御装置 Download PDF

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Description

本発明は、圧縮上死点よりも前に気筒内に噴射された燃料を空気と混合しつつピストンの圧縮により自着火させる予混合圧縮着火燃焼が可能なエンジンに設けられた始動制御装置に関する。
従来、ガソリンエンジンの分野では、点火プラグの火花点火により強制的に混合気を着火させる燃焼形態(火花点火燃焼)が一般的であったが、近年、このような火花点火燃焼に代えて、いわゆる予混合圧縮着火燃焼をガソリンエンジンに適用する研究が進められている。予混合圧縮自己着火燃焼とは、圧縮上死点よりも前に気筒内に噴射された燃料が空気と混合されてできた混合気を、ピストンの圧縮による高温環境下で自主的に(火花点火によらず)着火させるというものである。このような予混合圧縮着火燃焼は、気筒内で混合気が同時多発的に燃焼する形態であるため、火花点火による燃焼に比べて燃焼期間が短く、より高い熱効率が得られると言われている。なお、以下では、予混合圧縮着火燃焼(Homogeneous-Charge Compression Ignition Combustion)のことを、HCCI燃焼と略称することがある。
上記のような予混合圧縮着火式エンジンにおいて、より一層の燃費性能の改善を図るには、エンジンを自動的に停止または再始動させる、いわゆるアイドルストップ制御を実行することが有効である。
上記のようなアイドルストップ制御に関する技術として、例えば下記特許文献1のものが知られている。この特許文献1には、軽油を圧縮着火により燃焼(拡散燃焼)させる多気筒ディーゼルエンジン、またはガソリンを圧縮着火により燃焼(予混合燃焼)させる多気筒ガソリンエンジンにおいて、特定の気筒のピストン停止位置に基づいて、エンジンを再始動させる際の制御の態様を切り換えることが開示されている。
具体的に、特許文献1では、エンジンが自動停止されると、その時点で圧縮行程にある停止時圧縮行程気筒のピストンの停止位置が調べられる。その後、エンジンの再始動条件が成立すると、上記停止時圧縮行程気筒のピストン停止位置が、予め定められた所定位置よりも下死点側にあるか否かが判定され、下死点側にある場合には、上記停止時圧縮行程気筒に最初の燃料が噴射され、エンジン全体として1回目の圧縮上死点を迎える1圧縮目から燃焼が再開されることにより、エンジンが始動される(以下、これを「1圧縮始動」という)。
一方、上記停止時圧縮行程のピストン停止位置が上記所定位置よりも上死点側にある場合には、吸気行程で停止していた気筒(停止時吸気行程気筒)が圧縮行程に移行してから当該気筒に最初の燃料が噴射され、エンジン全体として2回目の圧縮上死点を迎える2圧縮目から燃焼が再開されることにより、エンジンが始動される(以下、これを「2圧縮始動」という)。
特開2012−012993号公報
上記特許文献1の技術によると、停止時圧縮行程気筒のピストンが下死点寄りにあるときには、1圧縮目から燃料を噴射する1圧縮始動によって迅速にエンジンを再始動させることができる一方、ピストンが上死点寄りにある場合には、1圧縮目ではなく2圧縮目から燃料を噴射する2圧縮始動により、始動の迅速性は多少犠牲にしながらも、燃料の失火を防止して確実なエンジンの再始動を図ることができる。
ところで、エンジンをできるだけ迅速に再始動したいという要求からすれば、再始動中に燃焼が行われる各気筒において、混合気の当量比を理論空燃比に相当する値の近傍(≒1)に設定し、それによってエネルギーの大きい燃焼を起こさせることが望ましい。しかしながら、始動の迅速性だけでなくエミッション性能(排気ガスのクリーンさ)をも考慮した場合には、理論空燃比下での燃焼が常にベストな燃焼であるとは限らない。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、必要時にはできるだけ迅速にエンジンを再始動させながらも、状況に応じてエミッション性能を優先した燃焼を行わせることが可能な予混合圧縮着火式エンジンの始動制御装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、複数の気筒と、各気筒に往復動可能に設けられたピストンと、ピストンの往復動に連動して回転するクランク軸と、クランク軸を強制的に回転させるスタータモータと、各気筒に燃料を噴射するインジェクタと、気筒から排出された排気ガス中の有害成分を浄化する触媒とを備えるとともに、圧縮上死点よりも前に上記インジェクタから気筒内に噴射された燃料を空気と混合しつつ上記ピストンの圧縮により自着火させる予混合圧縮着火燃焼が可能な車両搭載エンジンに設けられた始動制御装置であって、所定の自動停止条件が成立したときに上記エンジンを自動停止させる自動停止制御部と、上記エンジンの自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに、上記スタータモータを駆動してクランク軸を回転させるクランキングを行いつつ、圧縮行程で停止していた気筒、または上記クランキングにより当該気筒の次に圧縮行程を迎える気筒のいずれかから選ばれる初爆気筒に対し、その圧縮行程中に上記インジェクタから最初の燃料を噴射してこれを自着火により燃焼させるとともに、上記初爆気筒に続いて圧縮行程を迎える複数の気筒に対し順次燃料を噴射して自着火させる再始動制御部とを備え、上記再始動条件の成立が、運転者が車両を発進させようとする発進要求に基づかないものであり、かつ上記触媒の温度がその活性状態の判断指標として設定された所定の閾値以上である場合、上記再始動制御部は、上記初爆気筒を含む複数の気筒での燃焼を経てエンジンの再始動が完了するまでの間、上記インジェクタからの燃料噴射により各気筒に形成される混合気の当量比を、運転者の発進要求に基づく再始動条件の成立時に比べて小さくし、上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づかないものであり、かつ上記触媒の温度が上記閾値未満である場合、上記再始動制御部は、上記当量比を低下させる制御の実行を禁止する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
本発明によれば、運転者の発進要求によらずにエンジンの再始動条件が成立し、かつ触媒の温度が所定の閾値以上である場合に、再始動が完了するまで各気筒の当量比が小さくされるので、有害成分(HC、CO、NOx)の発生量が少ないリーンなHCCI燃焼を実現することができ、エンジン再始動時のエミッション性能を向上させることができる。ただし、当量比の小さいリーンな燃焼では、燃焼による膨張エネルギーが少なく、ピストンに加わる押し下げ力が小さくなるので、エンジン回転速度の上昇率(加速度)は小さくならざるを得ない。このことは、エンジン再始動が完了するまでに要する時間が長くなることを意味するが、上述したように、当量比を小さくする制御は、運転者の発進要求によらずに再始動条件が成立した場合にしか実行されない。このように、再始動の迅速性が要求されない状況でしか当量比が小さくされないので、運転者に余計なストレスがかかることがなく、車両の商品性を良好に維持することができる。
一方で、運転者の発進要求に基づき再始動条件が成立した場合には、混合気の当量比が増大されるので、大きな膨張エネルギーを有する力強いHCCI燃焼を各気筒で起こさせて、ピストンに充分な押し下げ力を加えることができ、運転者の要求に応じた迅速なエンジン再始動を図ることができる。
また、本発明では、再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づかないものであっても、触媒の温度が上記閾値未満である場合には、上記当量比を低下させる制御の実行が禁止されるので、触媒の活性化が充分でない場合には常に(発進要求に基づく再始動条件であるか否かにかかわらず)当量比の値が大きくされることになり、混合気の燃焼温度ひいては排気ガスの温度を高くすることができ、触媒の活性化を促進することができる。
本発明において、好ましくは、上記再始動制御部は、上記当量比を低下させる制御の実行時、当量比を0.3〜0.4の範囲内の値に設定する(請求項2)。
この構成によれば、有害成分の発生量が最も少ないよりクリーンなHCCI燃焼を実現することができる。
本発明において、好ましくは、上記再始動制御部は、上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づくものであるか否かにかかわらず、エンジン再始動が完了するまでの間に行われる各気筒への燃料噴射の開始時期を、燃焼回数が進むにつれてクランク角基準で徐々に早める(請求項3)。
このように、各気筒への噴射開始時期を徐々に進角させるようにした場合には、燃焼回数の進行に伴いエンジン回転速度が上昇しても(つまりクランク角の変化スピードが上昇しても)、燃料噴射の開始から自着火までの時間である着火遅れ時間を充分に確保することができる。これにより、気筒内での燃料の分布に大きな偏りが生じた状態、つまり極端に燃料リッチまたは燃料リーンな領域ができた状態で燃焼が起きることが回避されるので、HC、CO、NOxやスート(煤)の発生量を抑制し、エミッション性能をさらに向上させることができる。
以上説明したように、本発明の予混合圧縮着火式エンジンの始動制御装置によれば、必要時にはできるだけ迅速にエンジンを再始動させながらも、状況に応じてエミッション性能を優先した燃焼を行わせることができる。
本発明の一実施形態にかかる始動制御装置が適用された予混合圧縮着火式エンジンの全体構成を示す図である。 上記エンジンの自動停止・再始動制御の具体的手順を示すフローチャート(その1)である。 上記エンジンの自動停止・再始動制御の具体的手順を示すフローチャート(その2)である。 上記エンジンの自動停止制御が終了した後の各気筒の状態を例示する図である。 上記エンジンを1圧縮始動する際に行われる燃料噴射の順序を示す図である。 上記エンジンを2圧縮始動する際に行われる燃料噴射の順序を示す図である。 1圧縮始動時または2圧縮始動時に行われる各回の燃料噴射の開始時期と、各燃料噴射の実行時のエンジン回転速度とを示すグラフである。 混合気の当量比とHC、CO、NOx濃度との関係を示すグラフである。
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる始動制御装置が適用された予混合圧縮着火式エンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのガソリンエンジンである。具体的に、このエンジンは、紙面に直交する方向に列状に並ぶ複数の気筒2A〜2D(後述する図4も参照)を有する直列4気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路28と、エンジン本体1で生成された排気ガスを排出するための排気通路29とを有している。
エンジン本体1は、上記複数の気筒2A〜2Dが内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上部に設けられたシリンダヘッド4と、各気筒2A〜2Dに往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されており、この燃焼室6には、後述するインジェクタ15からの噴射によって燃料が供給される。そして、噴射された燃料が燃焼室6で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。なお、当実施形態のエンジンはガソリンエンジンであるため、燃料としてはガソリンが用いられる。ただし、燃料の全てがガソリンである必要はなく、例えばアルコール等の副成分が燃料に含まれていてもよい。
ピストン5は、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7と図外のコネクティングロッドを介して連結されており、上記ピストン5の往復運動に応じてクランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
各気筒2A〜2Dの幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、ガソリンエンジンとしてはかなり高めの値である18以上50以下に設定されている。これは、ガソリンを自着火により燃焼させるHCCI燃焼(予混合圧縮着火燃焼)を実現するために、燃焼室6を大幅に高温・高圧化する必要があるからである。
ここで、図示のような4サイクルかつ直列4気筒型のエンジンでは、各気筒2A〜2Dに設けられたピストン5が、クランク角で180°(180°CA)の位相差をもって上下運動する。このため、エンジンの通常運転時、各気筒2A〜2Dでの燃焼(そのための燃料噴射)のタイミングは、基本的に180°CAずつ位相をずらしたタイミングに設定される。具体的に、紙面手前側から奥側に向けて気筒が2A,2B,2C,2Dの順に並んでいるものとし、これらの気筒番号をそれぞれ1番、2番、3番、4番とすると、1番気筒2A→3番気筒2C→4番気筒2D→2番気筒2Bの順に燃焼が行われる(後述する図5等も参照)。このため、例えば1番気筒2Aが膨張行程であれば、3番気筒2C、4番気筒2D、2番気筒2Bは、それぞれ、圧縮行程、吸気行程、排気行程となる。
シリンダヘッド4には、吸気通路28から供給される空気を各気筒2A〜2Dの燃焼室6に導入するための吸気ポート9と、各気筒2A〜2Dの燃焼室6で生成された排気ガスを排気通路29に導出するための排気ポート10と、吸気ポート9の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁11と、排気ポート10の燃焼室6側の開口を開閉する排気弁12とが設けられている。
吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
シリンダヘッド4には、燃焼室6に向けて燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火エネルギーを供給する点火プラグ16とが、各気筒2A〜2Dにつきそれぞれ1組ずつ設けられている。ただし、当実施形態のエンジンは、混合気をピストン5の圧縮により自着火させるHCCI燃焼を基本とするため、点火プラグ16は、HCCI燃焼が不可能かまたは困難な状況(例えばエンジン冷却水の温度がかなり低いとき)でのみ作動し、HCCI燃焼の実行時には基本的に点火プラグ16の作動は休止される。
インジェクタ15は、ピストン5の上面を臨むような姿勢でシリンダヘッド4に設けられている。各気筒2A〜2Dのインジェクタ15にはそれぞれ燃料供給管17が接続されており、各燃料供給管17を通じて供給される燃料(ガソリン)が、インジェクタ15の先端部に設けられた複数の噴孔(図示省略)から噴射されるようになっている。
より具体的に、燃料供給管17の上流側には、エンジン本体1により駆動されるプランジャー式のポンプ等からなるサプライポンプ18が設けられているとともに、このサプライポンプ18と燃料供給管17との間には、全気筒2A〜2Dに共通の蓄圧用のコモンレール(図示省略)が設けられている。そして、このコモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2A〜2Dのインジェクタ15に供給されることにより、各インジェクタ15からは、20MPa以上の高い圧力で燃料が噴射可能とされている。
クランク軸7には、ベルト等を介してオルタネータ32が連結されている。このオルタネータ32は、図外のフィールドコイルへの印加電流(フィールド電流)を制御して発電量を調節するレギュレータ回路を内蔵しており、車両の電気負荷やバッテリの残容量等から定められる目標発電量に基づいてフィールド電流を調節しつつ、クランク軸7から駆動力を得て発電を行う。
シリンダブロック3には、エンジンを始動するためのスタータモータ34が設けられている。このスタータモータ34は、モータ本体34aと、モータ本体34aにより回転駆動されるピニオンギア34bとを有している。ピニオンギア34bは、クランク軸7の一端部に連結されたリングギア35と離接可能に噛合している。そして、スタータモータ34を用いてエンジンを始動する際には、ピニオンギア34bが所定の噛合位置に移動してリングギア35と噛合し、ピニオンギア34bの回転力がリングギア35に伝達されることにより、クランク軸7が回転駆動される。
吸気通路28は、1本の共通通路部28cと、共通通路部28cの下流端部に接続された所定容積のサージタンク28bと、サージタンク28bから下流側に延びて各気筒2A〜2Dの吸気ポート9とそれぞれ連通する複数本の独立通路部28a(図1にはそのうちの1本のみを示す)とを有している。
吸気通路28の共通通路部28cには、その内部の流通断面積を可変とするためのスロットル弁30が設けられている。スロットル弁30は、運転者により踏み込み操作されるアクセルペダル36の開度と非連動で操作可能なように、電動式とされている。すなわち、スロットル弁30は、共通通路部28cの内部に設けられたバタフライ式の弁本体と、この弁本体を開閉駆動する電動式のアクチュエータとを有している。
排気通路29は、その詳しい図示を省略するが、各気筒2A〜2Dの排気ポート10と連通する複数本の独立通路部と、独立通路部の各下流端部が集合した排気集合部と、排気集合部から下流側に延びる1本の共通通路部とを有している。
排気通路29(より詳しくはその共通通路部)には触媒コンバータ31が設けられている。触媒コンバータ31は、例えば三元触媒等からなる触媒31aを内蔵しており、排気通路29を通過する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を触媒31aの作用により浄化する機能を有している。
(2)制御系
次に、エンジンの制御系について説明する。当実施形態のエンジンは、その各部がECU(エンジン制御ユニット)50によって統括的に制御される。ECU50は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロプロセッサからなるものである。
エンジンもしくは車両には、その各部の状態量を検出するための複数のセンサが設けられており、各センサからの情報がECU50に入力されるようになっている。
例えば、シリンダブロック3やシリンダヘッド4の内部には、冷却水が流通する図外のウォータジャケットが設けられており、このウォータジャケット内の冷却水の温度を検出する水温センサSN1が、シリンダブロック3に設けられている。
また、シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度および回転速度を検出するクランク角センサSN2が設けられている。このクランク角センサSN2は、クランク軸7と一体に回転するクランクプレート25の回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランク軸7の回転角度(クランク角)および回転速度(エンジン回転速度)が検出されるようになっている。
シリンダヘッド4には、気筒判別情報を出力するためのカム角センサSN3が設けられている。すなわち、カム角センサSN3は、カムシャフトと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じてパルス信号を出力するものであり、この信号と、クランク角センサSN2からのパルス信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるのかが判別されるようになっている。
吸気通路28のサージタンク28bには、エンジン本体1の各気筒2A〜2Dに吸入される空気の量(吸入空気量)を検出するエアフローセンサSN4が設けられている。
触媒コンバータ31には、その内部の触媒31aの温度を検出する触媒温度センサSN5が設けられている。
また、車両には、その走行速度(車速)を検出する車速センサSN6と、アクセルペダル36の開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN7と、ブレーキペダル37のON/OFF(ブレーキの有無)を検出するブレーキセンサSN8と、バッテリ(図示省略)の残容量を検出するバッテリセンサSN9と、車室内の温度を検出する室温センサSN10とが設けられている。
ECU50は、これらのセンサSN1〜SN10と電気的に接続されており、それぞれのセンサから入力される信号に基づいて、上述した各種情報(エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度‥‥など)を取得する。
また、ECU50は、上記各センサSN1〜SN10からの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU50は、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁30、オルタネータ32、およびスタータモータ34と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
ECU50のより具体的な機能について説明する。ECU50は、いわゆるアイドリングストップ制御に関わる特有の機能的要素として、自動停止制御部51および再始動制御部52を有している。
自動停止制御部51は、エンジンの運転中に、予め定められたエンジンの自動停止条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動停止させる制御を実行するものである。
再始動制御部52は、エンジンが自動停止した後、予め定められた再始動条件が成立したか否かを判定し、成立した場合に、エンジンを自動的に再始動させる制御を実行するものである。
(3)自動停止・再始動制御
次に、エンジンの自動停止・再始動制御を司るECU50の具体的な制御手順について、図2および図3のフローチャートを用いて説明する。
このフローチャートに示す処理がスタートすると、ECU50は、各種センサ値を読み込む処理を実行する(ステップS1)。具体的には、水温センサSN1、クランク角センサSN2、カム角センサSN3、エアフローセンサSN4、触媒温度センサSN5、車速センサSN6、アクセル開度センサSN7、ブレーキセンサSN8、バッテリセンサSN9、および室温センサSN10からそれぞれの検出信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジンの冷却水温、クランク角、回転速度、気筒判別情報、吸入空気量、触媒31aの温度、車速、アクセル開度、ブレーキの有無、バッテリの残容量、車室内温度等の各種情報を取得する。
次いで、ECU50の自動停止制御部51は、上記ステップS1で取得された情報に基づいて、エンジンの自動停止条件が成立しているか否かを判定する処理を実行する(ステップS2)。例えば、車両が停止状態にあること、アクセルペダル36の開度がゼロであること(アクセルOFF)、ブレーキペダル37が踏み込まれていること(ブレーキON)、エンジンの冷却水温が所定値以上であること(つまり暖機がある程度進んでいること)、バッテリの残容量が所定値以上であること、エアコンの負荷(車室内温度とエアコンの設定温度との差)が比較的少ないこと、等の複数の要件が全て揃ったときに、自動停止条件が成立したと判定する。
上記ステップS2のように、自動停止条件の成立判定では、車速やアクセル/ブレーキ操作だけでなく、バッテリやエアコン、エンジンの冷却水温(暖機の程度)についても考慮されるが、これは、エンジンを自動停止した後の再始動性などを考慮してのものである。例えば、エンジンが冷間状態にあったり、バッテリの残容量が極端に少ないときなどは、エンジンを自動停止させた後、エンジンを再始動させることが困難になるおそれがあるので、エンジンを自動停止させるべきではない。また、車室内の温度とエアコンの設定温度との差が大きい、つまりエアコンの負荷が大きい場合には、エアコンを継続的に稼動させる必要があるので、やはりエンジンを停止させるべきではない。このようなシステム上の制約から、上記自動停止条件には、バッテリやエアコン等の要件が含まれている。
上記ステップS2でYESと判定されて自動停止条件が成立したことが確認された場合、自動停止制御部51は、スロットル弁30の開度を、アイドル運転時に設定される通常の開度から、所定の低開度(例えば0%)まで低下させる処理を実行する(ステップS3)。
次いで、自動停止制御部51は、インジェクタ15からの燃料の噴射を停止する燃料カットの処理を実行する(ステップS4)。すなわち、各気筒2A〜2Dのインジェクタ15から噴射すべき燃料の量である目標噴射量をゼロに設定し、全てのインジェクタ15からの燃料噴射を停止することにより、燃料カットを実現する。
上記燃料カットの後、エンジンは一時的に惰性で回転するが、最終的には完全停止に至る。そのことを確認するため、自動停止制御部51は、エンジンの回転速度が0rpmであるか否かを判定する処理を実行する(ステップS5)。そして、ここでYESとなってエンジンが完全停止していることが確認されると、自動停止制御部51は、スロットル弁30の開度を所定の高開度(例えば80%)まで増大させる処理を実行する(ステップS6)。
以上のような自動停止制御が終了した後のエンジンの各気筒2A〜2Dの状態を、図4に例示する。この図4の例では、1番気筒2Aが膨張行程で停止し、2番気筒2Bが排気行程で停止し、3番気筒2Cが圧縮行程で停止し、4番気筒2Dが吸気行程で停止している。なお、以下では、自動停止制御によって○○行程で停止した気筒のことを、「停止時○○行程気筒」ということがある。例えば、膨張行程で停止した気筒2Aのことを「停止時膨張行程気筒2A」といい、排気行程で停止した気筒2Bのことを「停止時排気行程気筒2B」といい、圧縮行程で停止した気筒2Cのことを「停止時圧縮行程気筒2C」といい、吸気行程で停止した停止した気筒2Dのことを「停止時吸気行程気筒2D」という。ただし、図4のような状態でエンジンが停止するのはあくまで一例に過ぎず、各気筒2A〜2Dがどの行程で停止するかはその都度変わり得る。ただしその場合でも、以下に説明する制御(エンジンが自動停止した後に行われる制御)の中身は、気筒番号が異なる以外は全て同じである。
上記のようにしてエンジンが完全停止すると、ECU50の再始動制御部52は、各種センサ値に基づいて、エンジンの再始動条件が成立しているか否かを判定する処理を実行する(ステップS7)。例えば、ブレーキペダル37がリリースされたこと、アクセルペダル36が踏み込まれたこと、エンジンの冷却水温が所定値未満になったこと、バッテリの残容量の低下量が許容値を超えたこと、エンジンの停止時間(自動停止後の経過時間)が所定の上限時間を越えたこと、エアコン作動の必要性が生じたこと(つまり車室内温度とエアコンの設定温度との差が許容値を超えたこと)等の要件の少なくとも1つが成立したときに、再始動条件が成立したと判定する。
上記ステップS7のように、再始動条件の成立判定では、アクセルペダル36またはブレーキペダル37に対する操作(つまり運転者が車両を発進させようとする操作)だけでなく、バッテリやエアコン、エンジンの冷却水温、停止時間についても考慮される。例えば、バッテリの残容量が極端に少なくなったり、エンジンの停止時間が長時間に及ぶなどしてエンジンが冷えると、エンジンを再始動させることが困難になるため、そうなる前にエンジンを再始動させる必要がある。また、車室内の温度とエアコンの設定温度との差が大きくなると、快適性が損なわれるため、エアコンを稼動させるためにやはりエンジンを再始動させる必要がある。このようなシステム上の制約から、上記再始動条件には、バッテリやエアコン等の要件が含まれている。
エンジンの再始動条件が上記のように設定されているため、再始動条件は、運転者によるアクセル/ブレーキ操作が行われた場合だけでなく、当該操作がない場合でも成立し得る。このため、再始動条件は、運転者の発進要求に基づくものと、発進要求に基づかないものとの2種類に分類することができる。前者(発進要求に基づく再始動条件)は、運転者によるアクセル/ブレーキ操作によって成立するものであり、後者(発進要求に基づかない再始動条件)は、バッテリやエアコンの状態、もしくはエンジンの上限停止時間や冷却の程度といったシステム上の制約によって成立するものである。
上記ステップS7でYESと判定されて再始動条件が成立したことが確認された場合、上記再始動制御部52は、この成立した再始動条件が、運転者の発進要求に基づき成立したものであるか否かを判定する(ステップS8)。すなわち、運転者がアクセルペダル36を踏み込むかまたはブレーキペダル37をリリースしたことによって再始動条件が成立した場合には、運転者の発進要求に基づくものであると判定し、その他の要件(バッテリやエアコン、エンジンの上限停止時間等のシステム上の制約)によって再始動条件が成立した場合には、運転者の発進要求に基づかないものであると判定する。
上記ステップS8でNOと判定されて運転者の発進要求によらずに再始動条件成立したことが確認された場合、再始動制御部52は、触媒温度センサSN5により検出される触媒31aの温度が、予め設定された所定の閾値Tx以上であるか否かを判定する処理を実行する(ステップS9)。ここで用いられる閾値Txは、触媒31aが活性化しているか否かを判断するための指標であり、例えば、触媒のライトオフ温度を閾値Txとして採用することができる。ライトオフ温度とは、触媒が浄化すべき成分の浄化率が50パーセントに達する温度のことであり、例えば150〜200℃程度に設定される。なお、閾値Txとしては、必ずしもライトオフ温度に設定する必要はなく、より触媒31aの性能を高いレベルに維持する観点から、ライトオフ温度よりも高い温度を閾値Txとして設定してもよい。
上記ステップS9でNOと判定された場合、つまり、運転者の発進要求によらずに再始動条件が成立したことが確認され、かつ触媒31aの温度が閾値Tx未満であること(つまり触媒31aが活性であること)が確認された場合、もしくは、上記ステップS8でYESと判定されて運転者の発進要求により再始動条件が成立したことが確認された場合、再始動制御部52は、後述するエンジンの再始動動作(ステップS15、S16)の際に各気筒2A〜2Dにおいて実現すべき当量比φの目標値として1を設定する処理を実行する(ステップS10)。なお、当量比φとは、混合気の理論空燃比を実空燃比で割った値のことであり、理論空燃比に相当する量(気筒内の空気に対して過不足ない量)の燃料が噴射されたときにφ=1となり、それより少ない量の燃料が噴射されたときにφ<1となる。
また、再始動制御部52は、エンジンの再始動時に各気筒2A〜2Dに燃料を噴射する際の目標の噴射開始時期を、ECU50の記憶部に予め記憶されたデータ等から読み出す処理を実行する(ステップS12)。なお、ここで取得される目標の噴射開始時期は、燃料が噴射され始めてからこれが自着火に至るまでの時間(着火遅れ時間)が少なくとも3msec以上確保されるような時期に設定されている。
一方、上記ステップS9YESと判定された場合、つまり、運転者の発進要求によらずに再始動条件が成立したことが確認され、かつ触媒31aの温度が閾値Tx以上であること(触媒31aが活化していること)が確認された場合、再始動制御部52は、後述するエンジンの再始動動作(ステップS15、S16)の際に各気筒2A〜2Dにおいて実現すべき当量比φの目標値として0.3を設定する処理を実行する(ステップS11)。また、エンジンの再始動時に各気筒2A〜2Dに燃料を噴射する際の目標の噴射開始時期として、着火遅れ時間が3msec以上確保されるような開始時期を取得する処理を実行する(ステップS12)。
上記のようにして目標当量比の設定が終了すると、再始動制御部52は、上記エンジンの自動停止に伴い圧縮行程で停止した気筒(図4の停止時圧縮行程気筒2C)のピストン停止位置を、クランク角センサSN2およびカム角センサSN3に基づき特定し、その特定したピストン停止位置が、図4に示す上限位置Xよりも下死点側に設定された特定範囲Rx(より詳しくは上限位置Xから下死点までの間であって上限位置Xを含む範囲)にあるか否かを判定する処理を実行する(ステップS14)。なお、上限位置Xは、エンジンの形状(排気量、ボア/ストローク比等)や暖機の進行度合い等によって異なり得るが、例えば上死点前(BTDC)90〜75°CAの間のいずれかの位置に設定することができる。
上記ステップS14でYESと判定されて停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が特定範囲Rxにあることが確認された場合、再始動制御部52は、図5に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cが圧縮上死点を迎える1圧縮目から混合気の燃焼を開始する1圧縮始動によりエンジンを再始動させる処理を実行する(ステップS15)。すなわち、再始動制御部52は、スタータモータ34を駆動してクランク軸7に回転力を付与しつつ、それによって停止時圧縮行程気筒2Cのピストン5が上昇している途中で(圧縮上死点に至る前に)、当該気筒2Cに対しインジェクタ15から燃料を噴射させる(F1)。そして、この最初の燃料噴射F1により気筒2C内に供給された燃料と空気との混合気をピストン5の圧縮に伴い自着火させることにより、エンジン全体として1回目の上死点を迎える1圧縮目からHCCI燃焼を行わせる。さらに、停止時吸気行程気筒2D、停止時排気行程気筒2B、停止時膨張行程気筒2Aに対し、それぞれの気筒の圧縮行程中に燃料噴射を実行し(F2,F3,F4)、それに基づき順次HCCI燃焼を行わせる。
上述した最初の燃料噴射F1により停止時圧縮行程気筒2CでHCCI燃焼が起きると、当該気筒2Cのピストン5にそのHCCI燃焼による膨張エネルギーが作用する結果、エンジン回転速度が急激に上昇し始める。その後、エンジン回転速度は、2回目以降の燃料噴射F2,F3,F4に基づき気筒2D,2B,2Aで順番に起きるHCCI燃焼を受けてさらに上昇し、4つ目の気筒2AでのHCCI燃焼が終了した時点、つまり全ての気筒2A〜2Dで1回ずつHCCI燃焼が済んだ完爆の時点では、アイドリング回転速度(例えば700rpm前後)よりも高い回転速度まで上昇する。当実施形態では、このようにしてエンジンが完爆した時点を、エンジンの再始動が完了した時点とする。なお、以下では、1回目のHCCI燃焼が起きる気筒のことを、特に初爆気筒ということがある。図5のような1圧縮始動のケースでは、停止時圧縮行程気筒2Cが初爆気筒に該当する。
このような1圧縮始動時に各気筒2A〜2Dに供給される燃料の量(燃料噴射F1〜F4により供給される燃料の量)は、上述したステップS10またはS11により設定された目標当量比に基づき設定される。すなわち、上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づくものであった場合には、上記ステップS10で目標当量比が1とされたことに合わせて、上記各燃料噴射F1〜F4により供給される燃料の量が、理論空燃比に相当する量に設定される。一方、上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づかないもの(システム上の要求によるもの)であった場合には、上記ステップS11で目標当量比が0.3とされたことに合わせて、上記各燃料噴射F1〜F4により供給される燃料の量が、理論空燃比相当量よりも7割少ない量に設定される。
また、1圧縮始動時に各気筒2A〜2Dに対し実行される燃料噴射F1〜F4の開始時期は、上述したステップS12で設定された目標時期に一致するように設定される。既に述べたとおり、上記ステップS12では、各燃料噴射F1〜F4の開始時期が、着火遅れ時間が3msec以上確保されるように設定される。図7は、このような基準で設定される噴射開始時期の一例を示す図であり、1〜4回目の燃料噴射F1〜F4が行われるときのエンジン回転速度と、各燃料噴射F1〜F4の開始時期との関係を示すグラフである。なお、4回目の燃料噴射F4が行われてエンジンが完爆(全気筒2A〜2Dで1回ずつ燃焼が行われた状態)に至った後は、アクセル開度に基づく通常の制御に移行するので、5回目以降の燃料噴射についてはその図示を省略している。
ここで、図7のグラフは当量比φを1とした場合のものである。当量比φを0.3とした場合については、当量比φが1の場合と比べて燃焼により発生するエネルギーが小さいことから、各回の燃料噴射時のエンジン回転速度がやや小さくなるし、噴射開始時期も多少異なり得る。ただし、グラフ全体の傾向としては同じであるので、ここではφ=0.3のときの噴射開始時期は省略している。
図7から明らかなように、燃焼噴射の回数(これに伴う燃焼回数)が進んでエンジン回転速度が上昇していくと、この回転速度の上昇と相関するように、各気筒への燃焼噴射F1〜F4の開始時期は、圧縮上死点からより遠ざかった進角側の時期へとずらされていく。つまり、2回目の燃料噴射F2の開始時期は最初の燃料噴射F1の開始時期よりも進角され、3回目の燃料噴射F3の開始時期は2回目の燃料噴射F2の開始時期よりも進角され、4回目の燃料噴射F4の開始時期は3回目の燃料噴射F3の開始時期よりも進角される。なお、停止時圧縮行程気筒2Cに対し行われる最初の燃料噴射F1については、図7中に破線で示すように、当該気筒2Cのピストン停止位置(上限位置Xからどれだけ下死点側に離れているか)に応じて、所定の範囲内で変動させてもよい。
次に、上記ステップS14でNOと判定された場合、つまり、停止時圧縮行程気筒2Cのピストン停止位置が上記特定範囲Rxを外れている(上限位置Xよりも上死点側にある)場合の制御について説明する。この場合、再始動制御部52は、図6に示すように、停止時圧縮行程気筒2Cが圧縮上死点を迎える1圧縮目からではなく、吸気行程で停止していた停止時吸気行程気筒2Dが圧縮上死点を迎える2圧縮目から混合気の燃焼を開始する2圧縮始動によりエンジンを再始動させる処理を実行する(ステップS16)。すなわち、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が一旦下降してから上昇に転じて圧縮上死点に至るまで、スタータモータ34の駆動力のみによってクランク軸7を回転させるとともに、停止時吸気行程気筒2Dのピストン5が上昇している途中で(圧縮上死点に至る前に)、当該気筒2Dに対しインジェクタ15から燃料を噴射させる(F1’)。そして、この最初の燃料噴射F1’により気筒2D内に供給された燃料と空気との混合気をピストン5の圧縮に伴い自着火させることにより、エンジン全体として2回目の上死点を迎える2圧縮目からHCCI燃焼を行わせる。さらに、停止時排気行程気筒2B、停止時膨張行程気筒2A、停止時圧縮行程気筒2Cに対し、それぞれの気筒の圧縮行程中に燃料噴射を実行し(F2’,F3’,F4’)、それに基づき順次HCCI燃焼を行わせる。
このような2圧縮始動では、最初の燃料噴射F1’により停止時吸気行程気筒2Dで起きるHCCI燃焼が最初の燃焼となるので、この最初の燃焼が起きる停止時吸気行程気筒2Dが初爆気筒となる。この初爆気筒(停止時吸気行程気筒2D)でのHCCI燃焼が起きるまでは、スタータモータ34の駆動力のみ(クランキングのみ)によってクランク軸7が回転させられるので、その間のエンジン回転速度はそれほど大きくは上昇しない。一方、初爆気筒でHCCI燃焼が起きると、エンジン回転速度はこれをきっかけに急激に上昇し始め、気筒2Cで起きる4回目のHCCI燃焼の時点(つまりエンジン完爆の時点)では、アイドリング回転速度(例えば700rpm前後)よりも高い回転速度まで上昇する。
このような2圧縮始動時に各気筒2A〜2Dに供給される燃料の量(燃料噴射F1’〜F4’により供給される燃料の量)は、上述した1圧縮始動(ステップS15)のときと同様、上記ステップS10またはS11により設定された目標当量比に基づき設定される。すなわち、上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づくものであった場合には、上記ステップS10で目標当量比が1とされたことに合わせて、上記各燃料噴射F1’〜F4’により供給される燃料の量が、理論空燃比に相当する量に設定される。一方、上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づかないもの(システム上の要求によるもの)であった場合には、上記ステップS11で目標当量比が0.3とされたことに合わせて、上記各燃料噴射F1’〜F4’により供給される燃料の量が、理論空燃比相当量よりも7割少ない量に設定される。
また、2圧縮始動のときに実行される燃料噴射F1’〜F4’の開始時期についても、基本的に、1圧縮始動のときの燃料噴射F1〜F4の開始時期と同様に設定される。すなわち、着火遅れ時間を3msec以上確保する観点から上記ステップS12で取得された目標の噴射開始時期に一致するように、燃料噴射F1’〜F4’の開始時期が設定される。このため、図7に示す噴射開始時期の設定例には、1圧縮始動時の燃料噴射F1〜F4のプロットと2圧縮始動時の燃料噴射F1’〜F4’のプロットとを重ねて図示している。なお、この図7によれば、1圧縮始動時に各回の燃料噴射F1〜F4が行われるときのエンジン回転速度(横軸の値)と、2圧縮始動時に各回の燃料噴射F1’〜F4’が行われるときのエンジン回転速度とが同一ということになるが、1圧縮始動時と2圧縮始動時とでは、厳密には、各回の燃料噴射時におけるエンジン回転速度は微妙に異なる。ただし、その違いはわずかであるので、図7では各プロットを重ねて図示している。
(4)作用等
以上説明したように、当実施形態では、インジェクタ15から気筒2A〜2D内に噴射された燃料を空気と混合しつつピストン5の圧縮により自着火させるHCCI燃焼(予混合圧縮着火燃焼)が可能で、しかもアイドルストップ機能を備えたエンジンにおいて、次のような特徴的な構成を採用した。
エンジンの自動停止後、所定の再始動条件が成立すると、ECU50の再始動制御部52は、スタータモータ34を駆動してクランク軸7を回転させるクランキングを行いつつ、圧縮行程で停止していた停止時圧縮行程気筒2C、または上記クランキングにより当該気筒2Cの次に圧縮行程を迎える停止時吸気行程気筒2Dのいずれかから選ばれる初爆気筒に対し、その圧縮行程中にインジェクタ15から最初の燃料を噴射してこれを自着火により燃焼させるとともに(燃料噴射F1またはF1’)、上記初爆気筒に続いて圧縮行程を迎える複数の気筒に対し順次燃料を噴射して自着火させることにより(燃料噴射F2〜F4またはF2’〜F4’)、エンジンを再始動させる。特に、上記再始動条件の成立が、運転者が車両を発進させようとする発進要求に基づかないものである場合(ステップS8でNO)、再始動制御部52は、上記初爆気筒を含む複数の気筒(全気筒2A〜2D)での燃焼を経てエンジンの再始動が完了するまでの間、インジェクタ15からの燃料噴射により各気筒2A〜2Dに形成される混合気の当量比φを、運転者の発進要求に基づく再始動条件の成立時に比べて小さい値(φ=0.3)に設定する。このような構成によれば、必要時にはできるだけ迅速にエンジンを再始動させながらも、状況に応じてエミッション性能を優先した燃焼を行わせることができるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、運転者の発進要求によらずにエンジンの再始動条件が成立した場合に、再始動が完了するまで各気筒2A〜2Dの当量比φが小さくされるので、有害成分(HC、CO、NOx)の発生量が少ないリーンなHCCI燃焼を実現することができ、エンジン再始動時のエミッション性能を向上させることができる。ただし、当量比φの小さいリーンな燃焼では、燃焼による膨張エネルギーが少なく、ピストン5に加わる押し下げ力が小さくなるので、エンジン回転速度の上昇率(加速度)は小さくならざるを得ない。このことは、エンジン再始動が完了するまでに要する時間(完爆までの時間)が長くなることを意味するが、上述したように、当量比φを小さくする制御は、運転者の発進要求によらずに再始動条件が成立した場合にしか実行されない。このように、再始動の迅速性が要求されない状況でしか当量比φが小さくされないので、運転者に余計なストレスがかかることがなく、車両の商品性を良好に維持することができる。
一方で、運転者の発進要求に基づき再始動条件が成立した場合には、混合気の当量比φが増大されてφ=1に設定されるので、大きな膨張エネルギーを有する力強いHCCI燃焼を各気筒2A〜2Dで起こさせて、ピストン5に充分な押し下げ力を加えることができ、運転者の要求に応じた迅速なエンジン再始動を図ることができる。
図8は、混合気の当量比φと、触媒31aを通過する前の排気ガス中に含まれるHC、CO、NOxの濃度(ppm)との関係を示すグラフである。このグラフによれば、HC、CO、NOxの濃度が平均的に低くエミッション性能に優れているといえる当量比φは、0.3または0.4である。当量比φが0.4を超えて0.5になるとNOx濃度が1000ppmを超え、当量比φが0.7になるとNOx濃度が10000ppmを超える。さらに、図示を省略するが、当量比φが0.7を超える範囲では、0.7のときの値よりもさらにNOx濃度が上昇する。一方、当量比φが0.3を下回り0.2になると、CO濃度が10000ppmを超える。このように、当量比φが0.2または0.4以上のときにはCOまたはNOxの濃度が大幅に上昇するのに対し、当量比φが0.3または0.4のときは、HC、CO、NOxのいずれについても、その濃度が1000ppm未満に抑えられる。上記実施形態では、運転者の発進要求に基づかない再始動条件の成立時に、当量比φ=0.3で燃焼が行われるので、HC、CO、NOxの発生量を効果的に抑制することができ、エミッション性能に優れたエンジン再始動を図ることができる。
また、上記実施形態では、上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づかないものであっても、触媒31aの温度がその活性状態の判断指標として設定された閾値Tx未満である場合には(ステップS9でNO)、当量比φを0.3まで低下させる上述した制御の実行が禁止され、混合気の当量比φが1に設定される。このような構成によれば、触媒31aの活性化が充分でない場合には常に(発進要求に基づく再始動条件であるか否かにかかわらず)当量比φの値が大きくされるので、混合気の燃焼温度ひいては排気ガスの温度を高くすることができ、触媒31aの活性化を促進することができる。
例えば、触媒31aの温度が閾値Txよりも低いために触媒31aが充分に活性化していないと判断される状態で、仮に混合気の当量比φを0.3まで低下させた場合には、当量比φを1に設定した場合と比べて燃焼温度が低下するので、エンジンの自動停止・再始動が繰り返される中で触媒31aがなかなか活性化に至らないおそれがある。これに対し、上記実施形態では、触媒31aの温度が閾値Txよりも低ければ当量比φが1に設定される(0.3への低下が禁止される)ので、上記のような問題を回避して、触媒31aの活性化を促進することができる。
また、上記実施形態では、上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づくものであるか否かにかかわらず、エンジン再始動が完了するまでの間に行われる各気筒2A〜2Dへの燃料噴射の開始時期が、燃焼回数が進むにつれてクランク角基準で徐々に早められる(図7参照)。このように、各気筒2A〜2Dへの噴射開始時期を徐々に進角させるようにした場合には、燃焼回数の進行に伴いエンジン回転速度が上昇しても(つまりクランク角の変化スピードが上昇しても)、燃料噴射の開始から自着火までの時間である着火遅れ時間を充分に(上記実施形態では3msec以上)確保することができる。これにより、気筒内での燃料の分布に大きな偏りが生じた状態、つまり極端に燃料リッチまたは燃料リーンな領域ができた状態で燃焼が起きることが回避されるので、HC、CO、NOxやスート(煤)の発生量を抑制し、エミッション性能をさらに向上させることができる。
なお、上記実施形態では、運転者の発進要求によらずに再始動条件が成立した場合の当量比φを0.3に設定したが、図8を用いて説明したように、低エミッション化を図ることのできる当量比φは0.3に限られず、0.4であってもよい。このため、上記条件で設定される当量比φは、0.3〜0.4の範囲内のいずれの値に設定することができる。
また、上記実施形態では、触媒温度センサSN5を用いて触媒31aの温度を直接検出し、その検出した温度を閾値Txと比較することで触媒31aの活性状態を判断するようにしたが、このような構成に代えて、触媒31aの上流側を流れる排気ガスの温度を検出し、その検出値を蓄積することで得られるエンジン運転中の排気ガス温度の履歴や、エンジンの停止時間などから、触媒31aの温度を予測により求めるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、エンジンの自動停止条件または再始動条件の成立を、アクセルペダル36やブレーキペダル37の操作に関する要件を含めて判断するようにしたが、これは、主に自動変速機を搭載したAT車を念頭に入れたものである。一方、AT車でない場合、つまり、手動変速機を搭載したMT車である場合は、上記とは異なる要件を採用することができる。例えば、自動停止条件に関しては、アクセルOFFかつブレーキONという要件に代えて、手動変速機の変速段がニュートラルであり、かつクラッチペダルがリリースされていること、という要件を設定することができる。また、再始動条件に関しては、アクセルONまたはブレーキOFFという要件に代えて、クラッチペダルが踏み込まれていること、という要件を設定することができる。
1 エンジン本体
2A〜2D 気筒
5 ピストン
7 クランク軸
15 インジェクタ
34 スタータモータ
51 自動停止制御部
53 再始動制御部

Claims (3)

  1. 複数の気筒と、各気筒に往復動可能に設けられたピストンと、ピストンの往復動に連動して回転するクランク軸と、クランク軸を強制的に回転させるスタータモータと、各気筒に燃料を噴射するインジェクタと、気筒から排出された排気ガス中の有害成分を浄化する触媒とを備えるとともに、圧縮上死点よりも前に上記インジェクタから気筒内に噴射された燃料を空気と混合しつつ上記ピストンの圧縮により自着火させる予混合圧縮着火燃焼が可能な車両搭載エンジンに設けられた始動制御装置であって、
    所定の自動停止条件が成立したときに上記エンジンを自動停止させる自動停止制御部と、
    上記エンジンの自動停止後に所定の再始動条件が成立したときに、上記スタータモータを駆動してクランク軸を回転させるクランキングを行いつつ、圧縮行程で停止していた気筒、または上記クランキングにより当該気筒の次に圧縮行程を迎える気筒のいずれかから選ばれる初爆気筒に対し、その圧縮行程中に上記インジェクタから最初の燃料を噴射してこれを自着火により燃焼させるとともに、上記初爆気筒に続いて圧縮行程を迎える複数の気筒に対し順次燃料を噴射して自着火させる再始動制御部とを備え、
    上記再始動条件の成立が、運転者が車両を発進させようとする発進要求に基づかないものであり、かつ上記触媒の温度がその活性状態の判断指標として設定された所定の閾値以上である場合、上記再始動制御部は、上記初爆気筒を含む複数の気筒での燃焼を経てエンジンの再始動が完了するまでの間、上記インジェクタからの燃料噴射により各気筒に形成される混合気の当量比を、運転者の発進要求に基づく再始動条件の成立時に比べて小さくし、
    上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づかないものであり、かつ上記触媒の温度が上記閾値未満である場合、上記再始動制御部は、上記当量比を低下させる制御の実行を禁止する、ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンの始動制御装置。
  2. 請求項1記載の予混合圧縮着火式エンジンの始動制御装置において、
    上記再始動制御部は、上記当量比を低下させる制御の実行時、当量比を0.3〜0.4の範囲内の値に設定する、ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンの始動制御装置。
  3. 請求項1または2記載の予混合圧縮着火式エンジンの始動制御装置において、
    上記再始動制御部は、上記再始動条件の成立が運転者の発進要求に基づくものであるか否かにかかわらず、エンジン再始動が完了するまでの間に行われる各気筒への燃料噴射の開始時期を、燃焼回数が進むにつれてクランク角基準で徐々に早める、ことを特徴とする予混合圧縮着火式エンジンの始動制御装置。
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