本発明に係る面状発熱体は、耐熱性樹脂および硬質導電性フィラーを含有する発熱層と、当該発熱層に電気を流すための電極と、を有する。
上記耐熱性樹脂は、40〜300℃に加熱して使用可能な樹脂である。耐熱性樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。耐熱性樹脂の例には、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリアミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、これらの誘導体よりなる樹脂、および、これらの変性樹脂、が含まれる。耐熱性樹脂は、耐熱性や可撓性などの観点から、ポリイミドまたはポリアミドイミドであることが好ましい。
上記硬質導電性フィラーのビッカース硬度は、少なくとも50以上である。なお、硬質導電性フィラーは、電気抵抗率が10−6Ω・m以下の粒子状の材料を言う。上記ビッカース硬度は、硬質導電性フィラーの種類や組成などによって異なる。上記硬質導電性フィラーは、一種でもそれ以上でもよい。硬質導電性フィラーの材料の例には、ステンレス鋼、クロムモリブデン鋼、銀、アルミニウム、ニッケル、チタンおよび亜鉛が含まれる。上記ビッカース硬度は、例えば、マイクロビッカース硬度計を用いて、JIS Z2244に基づいて測定することが可能である。
上記硬質導電性フィラーのビッカース硬度は、50〜400であると、発熱層単独で抵抗変化が抑制され、均一な温度分布と十分な機械強度を有する面状発熱体を構成することが可能である。上記ビッカース硬度が50未満であると、加熱冷却の繰り返しに伴う発熱層の経時的な収縮を十分に防止することができなくなることがある。発熱層の寸法安定性および抵抗安定性の観点から、上記ビッカース硬度は、50以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましく、120以上であることがさらに好ましく、150以上であることがさらに一層好ましい。また、上記ビッカース硬度が400を超えると、発熱層が脆くなり、発熱層の機械強度(可撓性)が不十分となることがある。このような機械強度の観点から、上記ビッカース硬度は、350以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることがさらに好ましく、200以下であることがさらに一層好ましい。
上記硬質導電性フィラーのビッカース硬度は、400よりも大きくてもよい場合がある。この場合では、面状発熱体は、発熱層の表面に配置される絶縁層をさらに有する。絶縁層については後に説明する。ビッカース硬度が400よりも大きくなると、発熱層の機械強度が不十分となることがある。しかしながら、絶縁層をさらに配置することによって、当該機械強度の不足が補われる。上記硬質導電性フィラーのビッカース硬度は、本発明の効果が得られる範囲において決められるが、絶縁層による補強効果の観点から、800以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましく、500以下であることがさらに好ましい。
上記発熱層における上記硬質導電性フィラーの含有量は、上記耐熱性樹脂に対して10〜40体積%である。上記含有量が上記の範囲内であると、抵抗変化が抑制され、温度分布が均一であり、かつ機械強度が十分な面状発熱体が構成される。上記含有量が10体積%未満であると、発熱層の面方向における抵抗の均一性が損なわれ、温度分布におけるムラが大きくなることがある。上記含有量が40体積%を超えると、発熱層が脆くなり、発熱層の機械強度が不十分となることがある。上記硬質導電性フィラーの上記含有量は、抵抗変化の抑制と温度分布の均一性の観点から、12体積%以上であることが好ましく、15体積%以上であることがより好ましく、18体積%以上であることがさらに好ましい。また、上記硬質導電性フィラーの上記含有量は、発熱層の機械強度の観点から、35体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましく、25体積%以下であることがさらに好ましい。
また、上記硬質導電性フィラーの粒子形状は、本発明の効果が得られる範囲において、適宜に決めることができる。例えば、硬質導電性フィラーの粒子形状は、繊維状であることが、発熱層の導電性をより高め、また導電性の均一性をより高める観点から好ましい。この場合の硬質導電性フィラーの直径(A)は0.5〜30μmであり、硬質導電性フィラーの長さ(B)は5.0〜1000μmであり、硬質導電性フィラーのアスペクト比は0.025〜0.25であることが、発熱層の均一かつ十分な発熱を実現する観点から好ましい。
上記硬質導電性フィラーの直径(A)および長さ(B)は、例えば、走査型電子顕微鏡写真を用いて500倍にて硬質導電性フィラーを撮影し、スキャナーにて取り込んだ画像から最低500個の硬質導電性フィラーの直径と長さを測定し、それぞれの測定値の平均値として算出される。また、硬質導電性フィラーのアスペクト比は、硬質導電性フィラーの直径(A)を硬質導電性フィラーの長さ(B)で除算すること(A/B)により求められる。
上記発熱層は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した耐熱性樹脂および硬質導電性フィラー以外の他の材料をさらに含有していてもよい。このような他の材料の発熱層中における含有量は、本発明の効果が得られる範囲において、適宜に決めることができる。上記他の材料の例には、硬質導電性フィラー以外の他の導電性フィラー、および、塗膜特性向上剤が含まれる。塗膜特性向上剤は、後述する発熱層材料液の塗膜の特性を向上させる成分であり、当該塗膜特性向上剤の例には、FZ−2110(東レ・ダウコーニング株式会社製)などのシリコーン塗料添加剤、および、カーボンナノファイバー(CNF)など極微小サイズのカーボン系フィラー、が含まれる。上記塗膜特性向上剤は、上記発熱層中に微量または少量添加される。
上記他の導電性フィラーは、ビッカース硬度が50未満の導電性フィラーである。その他の導電性フィラーは、一種でもそれ以上でもよい。その他の導電性フィラーの含有量は、本発明の効果が得られる範囲において、例えば発熱層の所期の発熱量に応じて適宜に決められる。他の導電性フィラーの材料の例には、グラファイト、CNFおよび繊維状黒鉛が含まれる。他の導電性フィラーは、微小サイズまたは極微小サイズであることが好ましく、上記発熱層中に少量添加されることが好ましい。
上記他の導電性フィラーを含有する場合では、上記硬質導電性フィラーと他の導電性フィラーの混合物の導電性は、より高いことが、発熱層の導電性または導電性の均一性をより高める観点から好ましい。たとえば、上記混合物の体積抵抗率は、3.8×10−6Ω・m以下であることが好ましく、1.5×10−6Ω・m以下であることがより好ましい。なお、上記体積抵抗率は、例えば、粉体抵抗測定システム(株式会社三菱化学アナリテック製)によって測定することが可能である。
また、上記の体積抵抗率を実現する観点から、上記混合物中の上記硬質導電性フィラーの含有量は、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、95体積%以上であることがさらに好ましく、100体積%であることがさらに一層好ましい。
上記発熱層の厚さは、本発明の効果が得られる範囲において、適宜に決めることができる。たとえば、発熱層の厚さは、20〜250μmである。面状発熱体の用途が画像形成装置の定着装置における発熱ベルトである場合の発熱層の厚さは、所期の発熱量を得る観点から、30〜200μmであることが好ましく、40〜150μmであることがより好ましく、50〜100μmであることがさらに好ましい。
上記発熱層の形状は、面状発熱体の用途に応じて適宜に決めることができる。たとえば、発熱層の形状は、シート状であってもよいし、無端ベルト状であってもよい。面状発熱体の用途が上記発熱ベルトである場合の発熱層の形状は、無端ベルト状であることが好ましい。
上記電極は、上記発熱層の面方向において電気を流すように配置される。電極は、発熱層の表面の一方に配置されてもよいし、他方に配置されてもよい。また、電極は、発熱層の両端部に配置される一対の導電体であってもよいし、発熱層に接着されるプリント基板に形成されていてもよいし、発熱層の表面に印刷によって形成される配線であってもよい。
上記発熱層上の電極は、導電性ペーストの塗布または印刷および焼き付けによって形成することができる。あるいは、上記電極は、金属製の薄板の接着によって形成することができる。上記導電性ペーストの例には、銀ペーストおよびECA−19(セメダイン株式会社製)が含まれる。銀ペーストは、銀製の導電性フィラーと有機系のバインダーとの混合物である。
上記金属製の薄板の材料の例には、銅、アルミニウム、ニッケル、真鍮、リン青銅、ステンレス鋼および鉄クロムが含まれる。上記薄板の幅は、発熱層に対する上記薄板の接着面積を十分に大きくする観点から、5〜30mmであることが好ましい。また、上記薄板の厚さは、電極の剛性と柔軟性とのバランスの観点から、10〜100μmであることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましい。上記薄板の形状は、上記発熱層の形状に合わせた形状であればよく、例えば、発熱層の形状が無端ベルト状であれば、上記薄板の形状は、管状である。
上記面状発熱体は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した発熱層および電極以外の他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成の例には、絶縁層が含まれる。絶縁層は、本発明において、ビッカース硬度が400を超える硬質導電性フィラーを発熱層が有する場合に、面状発熱体にさらに配置される。本発明において、ビッカース硬度が50〜400の硬質導電性フィラーを用いる場合には、絶縁層の配置は任意である。面状発熱体が絶縁層をさらに有することは、発熱層を電気的に絶縁する観点、および、面状発熱体の機械強度を向上させる観点、からより好ましい。
上記絶縁層は、発熱層の発熱面を覆う。絶縁層は、発熱層の一方の表面にのみ形成されてもよいし、発熱層の他方の表面にのみ形成されてもよいし、発熱層の両方の表面に形成されてもよい。さらに、絶縁層は、上記電極を覆ってもよいし、覆わなくてもよい。絶縁層は、前述した耐熱性樹脂で構成することができ、発熱層を構成する耐熱性樹脂と同じであっても異なっていてもよい。絶縁層は、発熱層を構成する耐熱性樹脂と同じ種類の耐熱性樹脂で構成されていることが、発熱層と絶縁層の接着性をより高める観点、および絶縁層をより簡略に作製する観点、から好ましい。また、絶縁層は、所期の絶縁性が発現される範囲において、耐熱性樹脂以外の他の材料を含んでいてもよい。
絶縁層の厚さは、面状発熱体の機械強度を高める観点から、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。また、絶縁層の厚さは、発熱層の熱を被加熱体に十分に伝える観点から、100μm以下であることが好ましく、90μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることがさらに好ましい。
上記面状発熱体は、以下の方法によって製造することができる。
当該方法は、耐熱性樹脂または耐熱性樹脂の前駆体に上記硬質導電性フィラーを混合、分散して発熱層材料液を調製する第一の工程と、上記発熱層材料液を基体に塗布する第二の工程と、上記発熱層材料液の塗膜を加熱し、または光で照射することによって上記塗膜から析出または生成した上記耐熱性樹脂で構成された上記発熱層を形成する第三の工程と、上記発熱層上に電極を形成する第四の工程と、を含む。
上記第一の工程において、上記耐熱性樹脂の前駆体は、後述する第三の工程の加熱または光照射によって前述した耐熱性樹脂となる材料である。上記前駆体は、例えば、耐熱性樹脂がポリイミドである場合はポリアミド酸であり、耐熱性樹脂がラジカル共重合体である場合はラジカル重合性モノマーまたはラジカル重合性オリゴマーである。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの等モル反応生成物の構造を有する。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを有機極性溶媒に溶解させ、溶液状態で反応させることにより得られる。
耐熱性樹脂に対する前述した含有量の上記硬質導電性フィラーが、耐熱性樹脂またはその前駆体と混合され、発熱層材料液に分散する。当該混合は、「自転、公転ミキサー」などの脱泡攪拌装置によって好適に行われる。なお、発熱層材料液中の耐熱性樹脂またはその前駆体の質量は、通常、当該発熱層材料液で形成される発熱層中の耐熱性樹脂の質量と実質的に同じになるので、耐熱性樹脂に対する硬質導電性フィラーの上記含有量は、耐熱性樹脂の前駆体に対する硬質導電性フィラーの含有量に置き換え可能である。
上記発熱層材料液は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した耐熱性樹脂またはその前駆体および上記硬質導電性フィラー以外の他の成分をさらに含有していてもよい。このような他の成分の例には、発熱層の前述した他の材料、および、上記耐熱性樹脂または上記前駆体を溶解する有機溶剤、が含まれる。
上記発熱層材料液の粘度は、上記の攪拌によって硬質導電性フィラーを発熱層材料液中に均一に分散させる観点、および、後述する第二の工程における発熱層材料液の塗布性の観点、から、5〜80Pa・sであることが好ましく、10〜60Pa・sであることがより好ましく、10〜40Pa・sであることがさらに好ましく、10〜30Pa・sであることがさらに一層好ましい。
硬質導電性フィラーは、前述した他の導電性フィラーに比べて、一般に比重が大きい。このため、第一の工程において、前記の脱泡攪拌装置による発熱層材料液の混合に先立って、発熱層材料液をマルチ攪拌システムなどの超高速攪拌装置によって攪拌して一次分散させることが、硬質導電性フィラーの発熱層材料液中における分散性をより高める観点から好ましい。また、第一の工程において、硬質導電性フィラーを少量ずつ複数回に分けて添加し、分散させることが、硬質導電性フィラーの発熱層材料液中における分散性をより高める観点から好ましい。
上記第二の工程において、上記発熱層材料液は、バーコート法、浸漬塗布法、スパイラル塗布法などの公知の方法によって基体に塗布することが可能である。上記基体は、発熱層を形成するための土台であり、シート状の発熱層であれば、例えばガラス板や金属板、樹脂板などであり、無端ベルト状の発熱層であれば、例えば金属製の円筒体である。また上記基体は、前述した絶縁層やプリント基板などの、面状発熱体の上記発熱層が重ねられる面状発熱体の他の構成であってもよい。
上記第三の工程において、上記発熱層材料液中の耐熱性樹脂は、例えば、上記加熱によって発熱層材料液中の有機溶剤が蒸発することによって析出し、発熱層を構成する。たとえば、発熱層材料液中の有機溶剤は、適当な温度(例えば80〜250℃)で蒸発する。このような加熱により、耐熱性樹脂が発熱層材料液から析出する。耐熱性樹脂の析出では、上記塗膜を減圧された環境に配置して上記の加熱を行ってもよい。
また、第三の工程において、上記発熱層材料液中の耐熱性樹脂の前駆体は、上記加熱または光照射によって反応して、耐熱性樹脂を生成し、生成した耐熱性樹脂が発熱層を構成する。上記反応の例には、縮合反応およびラジカル重合反応が含まれる。たとえば、ポリアミド酸は、200℃以上の温度でイミド化し、耐熱性樹脂であるポリイミドを生成する。また、ラジカル重合性モノマーやラジカル重合性オリゴマーなどは、紫外線の照射によってラジカル共重合体を生成する。このように、第三の工程における加熱または光照射は、耐熱性樹脂または耐熱性樹脂の前駆体に上記のような変化をもたらし、その結果、発熱層が形成される。
上記第四の工程において、電極は、前述した導電性ペーストや金属製の薄板などによって構成される。たとえば、導電性ペーストによる電極は、発熱層に導電性ペーストを塗布する工程と、塗布された前記導電性ペーストを前記発熱層に焼き付ける工程と、によって発熱層上に形成される。導電性ペーストは、通常、導電性ペーストを150〜200℃まで加熱することによって、発熱層に焼き付けられる。金属製の薄板も、通常、導電性接着剤を介して当該薄板を120〜200℃まで加熱することによって、発熱層に接着する。
上記の方法は、ビッカース硬度が400を超える硬質導電性フィラーを用いる場合には、上記発熱層の表面に上記絶縁層を形成する工程、をさらに含む。当該工程は、ビッカース硬度が50〜400の硬質導電性フィラーを用いる場合には、任意である。上記絶縁層は、上記発熱層材料液の塗膜または発熱層に絶縁層材料液を塗布し、当該絶縁性材料液の塗膜を硬化させることによって、発熱層の表面の一部または全面に形成される。絶縁層材料液は、例えば、前述した耐熱性樹脂または耐熱性樹脂の前駆体、および必要に応じて有機溶剤、によって構成される。絶縁層材料液の塗膜は、前述した発熱層材料液と同様の方法によって形成される。当該絶縁層は、前述した発熱層と同様に、加熱や光照射などによる当該塗膜の硬化によって形成される。絶縁層を形成する場合では、絶縁層の硬化(例えば、上記前駆体から耐熱性樹脂への反応)の一部または全部を、発熱層の硬化の一部または全部と同時に行ってもよい。
本発明の一実施の形態における面状発熱体を図1に示す。
面状発熱体10は、図1に示されるように、発熱層12、電極14および絶縁層16を有する。発熱層12は、硬質導電性フィラーを含有するポリイミドの膜である。硬質導電性フィラーは、例えばSUS鋼製のフィラーである。当該硬質導電性フィラーのビッカース硬度は50〜400の範囲内(例えば250)である。当該硬質導電性フィラーは、ポリイミドに対して10〜40体積%の量(例えば20体積%)でポリイミド中に含有され、分散している。
電極14は、発熱層12の両端のそれぞれに配置されている。電極14は、発熱層12の端部に塗布された導電性ペーストの焼き付けによって形成されている。絶縁層16は、ポリイミドの層であり、発熱層12の表面を覆うように配置されている。絶縁層16は、電極14の表面を覆わないように配置されている。
面状発熱体10は、例えば、以下の方法で製造される。まず、不図示の基体の表面に、発熱層材料液としての、硬質導電性フィラーを含有するポリアミド酸のワニスを塗布して第一の塗膜を形成する。そして、形成された第一の塗膜を乾燥させて固化する。次いで、当該第一の塗膜の表面に、発熱層材料液としてのポリアミド酸のワニスを塗布し、第二の塗膜を形成する。そして、形成された第二の塗膜を乾燥させて固化する。次いで、第一の塗膜と第二の塗膜の積層体を350〜450℃の加熱炉内で熱硬化(イミド化)させて、発熱層12および絶縁層16を得る。次いで、発熱層12の、絶縁層16に覆われていない両端に、導電性ペースト(例えば銀ペースト)を塗布し、導電性ペーストの塗膜を200℃、1時間の条件で発熱層12に焼き付ける。
電源を電極14、14に接続して発熱層12を含む電気回路を形成すると、発熱層12に電気が流れ、発熱層12は、発生する電気抵抗に応じて発熱する。このとき、発熱層12の温度は、例えば、100〜300℃になる。当該温度は、例えば、温度センサーで検出される発熱層12の温度に基づいて、発熱層12を流れる電気の量を制御することによって調整される。電源からの電気の供給を止めると、発熱層12は、常温まで冷却される。なお、発熱層12の温度は、発熱層12中の硬質導電性フィラーの組成や当該硬質導電性フィラーの含有量に応じて変化し、例えば150〜300℃であってもよい。
一般に、物体は、加熱されると膨張し、冷却されると収縮する。耐熱性樹脂も、加熱されると膨張し、冷却されると収縮する。耐熱性樹脂の層が形成された直後では、上記膨張に比べて上記収縮が強い傾向にある。このため、図2Aに示されるように、耐熱性樹脂の層20は、製造直後では所期の寸法を有していても、加熱と冷却を繰り返すうちに徐々に収縮する。
耐熱性樹脂の層20に通常使用されるカーボンブラックなどの導電性フィラー28を分散しても、上記の収縮の傾向は変わらない。すなわち、図2Bに示されるように、上記導電性フィラー28を含有する耐熱性樹脂製の発熱層22では、加熱冷却の繰り返しによって発熱層22が面方向において徐々に縮小し、発熱層22中の導電性フィラー28の間隔が徐々に狭まる。その結果、発熱層22の電気抵抗が下がり、所期の発熱量が得られないことがある。この場合、発熱層22の表面温度は、所期の温度とは異なってしまう。このような発熱層22の所期の表面温度を実現するためには、面状発熱体に印加する電圧を、経時的に変化していく実際の表面温度に応じて制御する必要がある。しかしながら、経時的に変化する表面温度(発熱層の電気抵抗)に合わせて上記電圧を制御することは、実用上困難である。
一方、面状発熱体10では、加熱冷却の繰り返しによる前述の経時的な収縮が生じない。これは、発熱層12が、ビッカース硬度が50〜400の硬質導電性フィラー29をポリイミドに対して10〜40体積%含有していることから、硬質導電性フィラー29が発熱層12の面方向における収縮を抑制しているため、と考えられる。このため、図2Cに示されるように、発熱層12の面方向における大きさは、加熱冷却の繰り返しによっても変化せず、その結果、発熱層12の電気抵抗(発熱量)が一定となる。
電極14および絶縁層16も、加熱冷却の繰り返しによって経時的に収縮する傾向を有することがある。このため、電極14や絶縁層16などが重ねて配置されている発熱層12は、電極14や絶縁層16などの経時的な収縮が加わる分、経時的により強く収縮する。しかしながら、上記のような発熱層12の寸法安定性は、電極14や絶縁層16などの発熱層12に重なる構成をさらに有していても十分に発現される。よって、発熱層12を有することによって、面状発熱体10全体の面方向における寸法安定性がもたらされる。また、面状発熱体10は、硬質導電性フィラー29を十分量含有することから、加熱時の温度分布が均一であり、かつ十分な機械強度(可撓性)が発現される。
絶縁層16は、耐熱性樹脂に起因する機械強度の向上効果をさらにもたらす。すなわち、発熱層12の機械強度に絶縁層16の機械強度が合わさって、面状発熱体10の機械強度となる。このため、発熱層12のみでは機械強度が不十分であっても、絶縁層16をさらに配置することによって、良好な機械強度を有する面状発熱体10を構成することが可能である。
また、発熱層12は、面方向における寸法安定性を有することから、導電性ペースト由来の電極割れを防止する観点からより効果的である。また、電極が金属製の薄板の接着によって形成される場合では、発熱層12が面方向における寸法安定性を有することから、当該薄板と発熱層12との接着面のずれが抑制され、電極の接着強度を高める観点からより効果的である。さらに、電極14を作製する場合の加熱冷却に対しても、発熱層12の寸法安定性は発現される。このため、面状発熱体10が焼き付けによって作製される電極14を有する面状発熱体10では、電極14の焼き付けによる寸法の変動も抑制されうる。
[定着装置]
本発明に係る面状発熱体は、画像形成装置の定着装置における発熱ベルトに用いられうる。
定着装置70は、図3Aおよび図3Bに示されるように、定着ローラー72、発熱ベルト73、加圧ローラー74および給電装置75を有する。発熱ベルト73は、面状発熱体10に該当する。本実施形態では、面状発熱体10の形状は、無端ベルト状である。
定着ローラー72は、円柱状の芯金721と、その周面上に配置される樹脂層722とを有する。樹脂層722の外径は、発熱ベルト73の内径よりも小さい。定着ローラー72は、発熱ベルト73の内側に配置される。定着ローラー72は、発熱ベルト73の周方向における一部分で発熱ベルト73の内周面に接触する。
加圧ローラー74は、円柱状の芯金741と、その周面上に配置される樹脂層742とを有する。加圧ローラー74は、発熱ベルト73を介して定着ローラー72に対向して配置される。加圧ローラー74は、定着ローラー72に向けて発熱ベルト73の外周面を押圧可能に配置されている。加圧ローラー74は、通常は、発熱ベルト73と離れて配置される。
樹脂層722、742は、例えば、公知の樹脂の層または公知の樹脂が発泡してなる層である。上記樹脂の例には、シリコーンゴムおよびフッ素ゴムが含まれる。樹脂層722、742の少なくともいずれかは、加圧ローラー74による押圧によって変形する弾性を有する。
加圧ローラー74は、普通紙などの記録媒体に対する離型性を有する離型層を、樹脂層742上にさらに有していてもよい。この離型層は、フッ素系チューブやフッ素系コーティングによって構成される。離型層の材料の例には、フッ素樹脂が含まれる。上記離型層の厚さは、例えば5〜100μmであることが好ましい。
給電装置75は、交流電源751と、電極14に接触する給電部材752と、交流電源751および給電部材752を接続する導線753とを有する。給電部材752は、電極14に向けて、板バネやコイルバネなどの弾性部材(図示せず)で付勢されている。給電部材752は、電極14に対して摺動する部材であってもよいし、回転する部材であってもよい。給電部材752の例には、黒鉛や銅−黒鉛複合材料などのカーボン系材料で構成されたカーボンブラシが含まれる。
発熱ベルト73、定着ローラー72および加圧ローラー74は、いずれも回動可能である。それぞれが独立して回動可能であってもよいし、回転駆動する一つに従って他が回動してもよい。
加圧ローラー74が定着ローラー72に向けて発熱ベルト73の外周面を押圧することによって発熱ベルト73と加圧ローラー74の接触部(ニップ部)が形成される。ニップ部は、定着ローラー72が窪んで形成されてもよいし、加圧ローラー74が窪んで形成されてもよい。
トナー画像の定着に際して、各ローラーおよび発熱ベルト73の回動、発熱ベルト73への給電およびニップ部の形成は、公知の定着装置と同様に行うことができる。定着装置70は、公知の定着装置が有する他の構成をさらに有していてよい。
発熱ベルト73は、面状発熱体10で構成されていることから、抵抗変化が生じず、温度分布が均一で、かつ十分な機械強度(可撓性)を有する。よって、発熱ベルト73は、長期にわたって安定して均一な加熱が可能である。このため、定着装置70における定着ムラなどの定着不良が長期にわたって防止される。
[画像形成装置]
上記定着装置を有する画像形成装置を、図4に基づいて説明する。画像形成装置50は、画像形成部、中間転写部および定着装置70を有する。画像形成装置50は、画像読み取り部および記録媒体搬送部をさらに有する。
上記画像形成部は、例えば、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの各色に対応する四つの画像形成ユニットを含む。画像形成ユニットは、図4に示されるように、感光体ドラム51、感光体ドラム51を帯電させる帯電装置52、帯電した感光体ドラム51に光を照射して静電潜像を形成する露光装置53、静電潜像が形成された感光体ドラム51にトナーを供給して静電潜像に応じたトナー画像を形成する現像装置54、および、感光体ドラム51の残留トナーを除去するクリーニング装置55、を有する。
感光体ドラム51は、例えば、光導電性を有する負帯電型の有機感光体である。帯電装置52は、例えば、コロナ帯電器である。帯電装置52は、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム51に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置53は、例えば、半導体レーザーで構成される。現像装置54は、前述した本発明に係る現像装置に該当する。「トナー画像」とは、トナーが画像状に集合した状態を言う。
上記中間転写部は、一次転写ユニットと二次転写ユニットを含む。当該一次転写ユニットは、中間転写ベルト61、一次転写ローラー62、バックアップローラー63、複数の支持ローラー64およびクリーニング装置65を有する。中間転写ベルト61は、無端状のベルトである。中間転写ベルト61は、バックアップローラー63および支持ローラー64によって、ループ状に張架される。バックアップローラー63および支持ローラー64の少なくとも一つのローラーが回転駆動することにより、中間転写ベルト61は、無端軌道上を一方向に一定速度で走行する。
上記二次転写ユニットは、二次転写ベルト66、二次転写ローラー67および複数の支持ローラー68を有する。二次転写ベルト66も、無端状のベルトである。二次転写ベルト66は、二次転写ローラー67および支持ローラー68によってループ状に張架される。
定着装置70は、例えば、図3に示される定着装置70である。用紙Sは、記録媒体に相当する。
上記画像読み取り部は、給紙装置81、スキャナー82、CCDセンサー83および画像処理部84を有する。上記記録媒体搬送部は、三つの給紙トレイユニット91および複数のレジストローラー対92を有する。給紙トレイユニット91には、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。レジストローラー対92は、所期の搬送経路を形成するように配置されている。
画像形成装置50による画像の形成を説明する。
スキャナー82は、給紙装置81から送られたコンタクトガラス上の原稿Dを光学的に走査して読み取る。原稿Dからの反射光がCCDセンサー83により読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部84において所定の画像処理が施され、露光装置53に送られる。
一方で、感光体ドラム51は、一定の周速度で回転する。帯電装置52は、感光体ドラム51の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置53は、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光で感光体ドラム51を照射する。こうして感光体ドラム51の表面には、静電潜像が形成される。現像装置54は、感光体ドラム51の表面にトナーを付着させることにより静電潜像を可視化する。こうして感光体ドラム51の表面に、静電潜像に応じたトナー画像が形成される。感光体ドラム51の表面のトナー画像は、中間転写ベルト61に転写される。感光体ドラム51の転写残トナーは、クリーニング装置55によって除去される。
感光体ドラム51上のトナー画像は、一次転写ローラー62によって中間転写ベルト61を感光体ドラム51に圧接させ、一次転写ローラー62に転写電圧を印加することによって、中間転写ベルト61に転写される。中間転写ベルト61には、各感光体ドラム51で形成された各色のトナー画像が順次重なるように転写される。
一方、二次転写ローラー67は、二次転写ベルト66をバックアップローラー63に向けて押圧し、中間転写ベルト61に圧接させる。それにより、二次転写ニップ部が形成される。他方、給紙トレイユニット91からレジストローラー対92を介して上記二次転写ニップ部に用紙Sが搬送される。レジストローラー対92は、用紙Sの傾きを補正し、また搬送のタイミングを調整する。
二次転写ニップに用紙Sが搬送されると、二次転写ローラー67に転写電圧が印加され、中間転写ベルト61上のトナー画像が用紙Sに転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、二次転写ベルト66によって、定着装置70に搬送される。中間転写ベルト61上の転写残トナーは、クリーニング装置65によって除去される。
定着装置70では、用紙Sの搬送に際して加圧ローラー74が定着ローラー72および発熱ベルト73に向けて圧接し、定着ニップ部を形成する。用紙Sは、定着ニップ部で加熱、加圧される。こうして、用紙S上のトナー画像が用紙Sに定着する。トナー像が形成された用紙Sは、機外に排出される。
画像形成装置50は、定着装置70を有する。定着装置70では、前述したように、長期にわたって定着不良が防止される。よって、画像形成装置50は、高品質の画像を長期にわたり安定して形成することが可能である。
[参考例1]
U−ワニスS(宇部興産株式会社製)にSMF300(直径:10μm、長さ:80μm、ビッカース硬度:50、JFEテクノリサーチ株式会社製)を、当該ワニス中のポリアミド酸に対して20体積%添加して、自転、公転ミキサー ARE−310(株式会社シンキー製)にて10分撹拌/10分脱泡し、発熱層材料液を調製した。
当該発熱層材料液をガラス基板上にバーコート法で厚み450μm、幅150mm、長さ200mmとなるように塗布して上記発熱層材料液の塗膜(第一の塗膜)を形成した。その後、ガラス基板上の第一の塗膜を、まず120℃30分間、次いで150℃15分間の条件で乾燥炉によって加熱し、固化させた。その後、200℃30分間、次いで250℃15分間、次いで400℃60分間、の条件で加熱し、第一の塗膜中のポリアミド酸のイミド化し、ポリイミド中にSUSECが分散してなる発熱層を得た。
次いで、発熱層の、長さ方向における両端から30mmの部分に、導電性接着材を塗布し、次いでニッケル箔を被覆し、次いで200℃60分間の条件で当該ニッケル箔を発熱層に焼き付け、発熱層に一対の電極を取り付けた。こうして、面状発熱体1を得た。
[参考例2]
SMF300に代えてDAP304L−U(直径:10μm、長さ:80μm、ビッカース硬度:250、大同特殊鋼株式会社製)を用いた以外は、参考例1と同様にして、面状発熱体2を得た。
[参考例3]
SMF300に代えてDAP630(直径:10μm、長さ:80μm、ビッカース硬度:400、大同特殊鋼株式会社製)を用いた以外は、参考例1と同様にして、面状発熱体3を得た。
[参考例4]
発熱層材料液におけるDAP304L−Uのポリアミド酸に対する含有量を10体積%に変更した以外は、参考例2と同様にして、面状発熱体4を得た。
[参考例5]
発熱層材料液におけるDAP304L−Uのポリアミド酸に対する含有量を40体積%に変更した以外は、参考例2と同様にして、面状発熱体5を得た。
[比較例1]
SMF300に代えて、クロムモリブデン鋼(CRMO)のDAP R625(直径:10μm、長さ:80μm、ビッカース硬度:410、大同特殊鋼株式会社製)を用いた以外は、参考例1と同様にして、面状発熱体C1を得た。
[比較例2]
SMF300に代えて、グラファイトのUP−10(直径:10μm、長さ:100μm、ビッカース硬度:40、日本黒鉛工業株式会社製)を用いた以外は、参考例1と同様にして、面状発熱体C2を得た。
[比較例3]
発熱層材料液におけるDAP304L−Uのポリアミド酸に対する含有量を5体積%に変更した以外は、参考例2と同様にして、面状発熱体C3を得た。
[比較例4]
発熱層材料液におけるDAP304L−Uのポリアミド酸に対する含有量を45体積%に変更した以外は、参考例2と同様にして、面状発熱体C4を得た。
[参考例6]
参考例2と同様にして、発熱層材料液の塗膜(第一の塗膜)をガラス基板上に形成した。その後、ガラス基板上の第一の塗膜を、まず120℃30分間、次いで150℃15分間の条件で乾燥炉によって加熱し、固化させた。
固化した第一の塗膜の長さ方向における両端から30mmの部分を除く第一の塗膜の上面の部分に、U−ワニスSを厚み100μmとなるように塗布し、固化した第一の塗膜の上にさらなる塗膜(第二の塗膜)を形成した。その後、得られた積層塗膜を、まず120℃30分間、次いで200℃30分間、次いで250℃15分間、次いで400℃60分間、の条件で加熱し、第一の塗膜および第二の塗膜中のポリアミド酸をイミド化し、ポリイミド中にDAP304L−Uが分散してなる発熱層と、この発熱層の上面を覆うポリイミド製の絶縁層との積層体を得た。
次いで、上記発熱層の上記絶縁膜で被覆されていない両端部に、導電性接着材を塗布し、次いでニッケル箔を被覆し、次いで200℃60分間の条件で当該ニッケル箔を発熱層に焼き付け、発熱層に一対の電極を取り付けた。こうして、面状発熱体6を得た。
[実施例7]
比較例1と同様にして第一の塗膜を形成した以外は、参考例6と同様にして、面状発熱体7を得た。
[比較例5]
比較例2と同様にして第一の塗膜を形成した以外は、参考例6と同様にして、面状発熱体C5を得た。
[評価]
(1)抵抗変化
まず、面状発熱体1〜7およびC1〜C5のそれぞれの表面における距離が120mmである二点間の電気抵抗(初期抵抗、「A」とする)を測定した。4探針プローブを備えた抵抗率計MCP−T360(株式会社三菱化学アナリテック製)を用いて当該電気抵抗を測定した。
次いで、図5に示される加熱冷却サイクルを10000サイクル実施した。当該加熱冷却サイクルは、各面状発熱体を200℃に加熱する電圧の1分間の印加と、当該電圧の印加の1分間の停止からなる。そして、10000サイクル後の面状発熱体の電気抵抗(電気抵抗「B」とする)を上記と同様に測定した。
そして、下記式から抵抗変動率ΔR(%)を求めた。
ΔR(%)={(B/A)×100}−100
さらに、ΔRを下記の基準で評価した。
○:ΔRが±1.0%以下
×:ΔRが±1.0%超
(2)温度分布
サーモトレーサTH1101(日本電気三栄株式会社製)を用いて、上記の電圧による通電開始から10秒後の各面状発熱体の表面温度を観測した。さらに、以下の基準で評価した。
○:表面温度のばらつきが15℃未満
×:表面温度のばらつきが15℃以上
(3)機械強度
テンシロン万能試験機(株式会社池田理化製)を用いて、JIS K7161に基づき、各面状発熱体の引張試験を実施した。さらに、以下の基準で評価した。
○:引張試験による破断強度が50MPa以上
×:引張試験による破断強度が50MPa未満
各面状発熱体の導電性フィラーの性状および添加量を表1に示す。また、各面状発熱体における前述の測定結果および評価結果を表2に示す。
(4)寸法変化率および抵抗変動率
発熱層材料液にDAP304L−Uを添加しなかった以外は参考例2と同様にして、耐熱樹脂層を作製した。そして、当該耐熱性樹脂層と、作製当初の面状発熱体2とのそれぞれに、10サイクルの上記(1)の加熱冷却サイクル試験を行い、そのときの寸法安定性を測定した。当該寸法安定性は、上記耐熱性樹脂層および面状発熱体2の試験片の寸法の初期値に対する、上記各サイクルにおける当該試験片の寸法の変化率を算出することによって求めた。試験片の寸法は、各試験片の両端の距離をノギスにて3〜5点測定し、得られた測定値の平均値である。同様に、上記耐熱性樹脂層と、作製当初の面状発熱体C2のそれぞれに、10サイクルの上記加熱冷却サイクル試験を行い、そのときの寸法安定性を測定した。さらに、作製当初の面状発熱体2と、作製当初の面状発熱体C2とのそれぞれに、10サイクルの上記加熱冷却サイクル試験を行い、そのときの抵抗変動率ΔRを測定した。上記寸法安定性の測定結果を図6Aおよび図6Bに示す。また、面状発熱体2と面状発熱体C2の上記10サイクルにおける上記抵抗変動率の測定結果を図6Cに示す。
図6Aから明らかなように、耐熱性樹脂層は、加熱冷却サイクルの繰り返しに伴って収縮するが、面状発熱体2は、実質的に収縮していない。よって、硬質導電性フィラーを含有する発熱層は、耐熱性樹脂の経時的な寸法の変化を防止することが分かる。一方で、面状発熱体C2は、図6Bに示されるように、耐熱性樹脂層よりもやや緩やかに収縮するが、耐熱性樹脂層と同程度の割合まで収縮する。よって、ビッカース硬度が50未満の導電性フィラーを含有する発熱層は、耐熱性樹脂の経時的な寸法の変化を抑えきれないことが分かる。そして、図6Cから明らかなように、発熱層の抵抗変化は、発熱層の寸法の変化と相関している。以上より、硬質導電性フィラーを含有する発熱層を有する面状発熱体では、面状発熱体の経時的な電気抵抗の変化が防止されていることが分かる。
参考例1〜5における面状発熱体1〜5は、発熱層の単層構造を有し、ビッカース硬度が50〜400の硬質導電性フィラーを、10〜40体積%含有しており、抵抗変化、温度分布および機械強度のいずれにおいても良好な結果を示した。これは、硬質導電性フィラーが発熱層に適量配合されることによって、発熱層の膨張および収縮が防止され、加熱時には発熱層が面方向において均一に発熱し、かつ、耐熱性樹脂による可撓性が十分に発現されたため、と考えられる。
これに対して、比較例1〜4における面状発熱体C1〜C4は、いずれも発熱層の単層構造を有するが、抵抗変化、温度分布および機械強度の少なくともいずれかで不十分な結果を示した。面状発熱体C1は、機械強度が不十分であった。これは、硬質導電性フィラーのビッカース硬度が410と高すぎ、発熱層が脆くなり、発熱層の可撓性が損なわれたため、と考えられる。また、面状発熱体C2は、抵抗変化と温度分布が不十分であった。これは、導電性フィラーのビッカース硬度が40と低すぎ、発熱層の膨張、収縮の抑制効果が不十分であり、また加熱時に発熱層を均一に発熱させるには導電性フィラーの含有量が少なかったため、と考えられる。また、面状発熱体C3は、温度分布が不十分であった。これは、硬質導電性フィラーの含有量が5体積%と、加熱時に発熱層を均一に発熱させるには少なすぎたため、と考えられる。また、面状発熱体C4は、機械強度が不十分であった。これは、硬質導電性フィラーの含有量が45体積%と多く、発熱層の可撓性が損なわれたため、と考えられる。
一方、参考例6および実施例7における面状発熱体6および7は、発熱層と絶縁層の積層構造を有する。面状発熱体2に絶縁層をさらに有する面状発熱体6は、面状発熱体2に比べて、機械強度がより向上した。これは、絶縁層による効果と考えられる。一方、面状発熱体C1に絶縁層をさらに有する面状発熱体7は、抵抗変化、温度分布および機械強度のいずれにおいても良好な結果を示した。これは、面状発熱体C1で不足していた機械強度が絶縁層の配置によって補われたため、と考えられる。
これに対して、比較例5における面状発熱体C5は、面状発熱体C2に絶縁層をさら有する積層構造を有するが、抵抗変化と温度分布が不十分であった。よって、絶縁層は、面状発熱体の機械強度の改善をもたらすが、面状発熱体の抵抗変化および温度分布の改善には実質的には寄与しない、と考えられる。