[管状発熱体]
本発明に係る管状発熱体の一実施形態を図1に示す。管状発熱体10は、図1に示されるように、シームレス樹脂ベルト12と、シームレス樹脂ベルト12に電気を流すための電極14とを有する。シームレス樹脂ベルト12は、耐熱性樹脂で構成されており、導電性フィラーが分散されている。シームレス樹脂ベルト12の厚さは、管状発熱体10の用途に応じて決められる。たとえば、管状発熱体10の用途が画像形成装置の定着装置における発熱ベルトである場合では、シームレス樹脂ベルト12の厚さは、所期の発熱量を得る観点から、30〜200μmであることが好ましく、40〜150μmであることがより好ましく、50〜100μmであることがさらに好ましい。
上記耐熱性樹脂は、200〜300℃に加熱して使用可能な樹脂である。耐熱性樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。耐熱性樹脂の例には、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリアミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、これらの誘導体よりなる樹脂、および、これらの変性樹脂、が含まれる。耐熱性樹脂は、耐熱性や可撓性などの観点から、ポリイミドまたはポリアミドイミドであることが好ましい。なお、ポリイミドは、可溶性ポリイミドを含む。
上記導電性フィラーには、金属または非金属の導電性材料の粒子が用いられる。導電性フィラーは、一種でもそれ以上でもよい。導電性フィラーの材料の例には、C;Ni、Au、Ag、Fe、Al、Ti、Pd、Ta、Cu、Co、Cr、Pt、Mo、Ru、Rh、W、Inなどの金属;VO2、Ru2O、ZrO2、InOなどの金属酸化物;TaN、Ta2N、ZrN、NbN、VNなどの金属窒化物;TiB2、ZrB2、HfB2、TaB2、MoB2、CrB2、B4C、MoBなどのホウ素化合物;SiC、ZrC、VC、TiCなどの金属炭化物;および、Ag−Pd、Cu−Ni、Cu−Zn、ステンレス鋼などの合金;が含まれる。
上記耐熱性樹脂に対する導電性フィラーの含有量は、管状発熱体10の用途に応じて適宜に決められうる。たとえば、管状発熱体10の用途が画像形成装置の定着装置における発熱ベルトである場合では、上記耐熱性樹脂に対する導電性フィラーの含有量は、10〜80体積%であることが好ましく、15〜60体積%であることがより好ましい。
また、上記導電性フィラーの粒子形状は、本発明の効果が得られる範囲において、適宜に決めることができる。例えば、導電性フィラーの粒子形状は、繊維状であることが、シームレス樹脂ベルト12の導電性をより高め、また導電性の均一性をより高める観点から好ましい。この場合の導電性フィラーの直径(A)は0.5〜30μmであり、導電性フィラーの長さ(B)は5.0〜1000μmであり、導電性フィラーのアスペクト比は0.025〜0.25であることが、シームレス樹脂ベルト12の均一かつ十分な発熱を実現する観点から好ましい。
上記導電性フィラーの直径(A)および長さ(B)は、例えば、走査型電子顕微鏡写真を用いて500倍にて硬質導電性フィラーを撮影し、スキャナーにて取り込んだ画像から最低500個の導電性フィラーの直径と長さを測定し、それぞれの測定値の平均値として算出される。また、導電性フィラーのアスペクト比は、導電性フィラーの直径(A)を導電性フィラーの長さ(B)で除算すること(A/B)により求められる。
シームレス樹脂ベルト12は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した耐熱性樹脂および導電性フィラー以外の他の材料をさらに含有していてもよい。このような他の材料の発熱層中における含有量は、本発明の効果が得られる範囲において、適宜に決めることができる。上記他の材料の例には、SiO2、Al2O3、AlNおよびSiCなどの熱伝導性フィラーが含まれる。
シームレス樹脂ベルト12において、導電性フィラーは、シームレス樹脂ベルト12の面方向に実質的に一様に存在する。「実質的に一様」とは、シームレス樹脂ベルト12の電気抵抗率の変化率(抵抗変化率)が1%以下であることを言う。「実質的に一様」である範囲において、シームレス樹脂ベルト12の面方向における導電性フィラーの若干の濃淡は許容される。上記抵抗変化率が1%を超えると、上記発熱ベルトに用いたときに、定着ムラを生じることがある。当該定着ムラを防止する観点から、上記抵抗変化率は0.5%以下であることがより好ましい。上記抵抗変化率は、シームレス樹脂ベルト12の二点間の電気抵抗率の測定値から求めることが可能である。当該電気抵抗値は、例えばLCRメーターによって測定可能である。
電極14は、シームレス樹脂ベルト12の外周面の両端部に周設されている。電極14は、例えば金属薄板の環をシームレス樹脂ベルト12の外周面に導電性接着剤によって接着されることによって配置される。電極14間に電圧を印加することによって管状発熱体10に電気が流れ、シームレス樹脂ベルト12が発熱する。シームレス樹脂ベルト12の軸方向における電極14の位置は、通常は軸方向の端部であるが、所期の発熱部分に応じて、適宜に決めることが可能である。また、電極14は、シームレス樹脂ベルト12の外周面に配置されてもよいし、内周面に配置されてもよい。電極14の材料には、電極として通常用いられる金属が用いられ、電極14の材料の例には、銅、アルミニウム、ニッケル、真鍮、リン青銅、ステンレス鋼および鉄クロムが含まれる。
電極14の幅は、シームレス樹脂ベルト12に対する電極14の接着面積を十分に大きくする観点、および、電極14に電荷を供給する給電装置に対する電極14の接触面積を十分に大きくする観点、から、例えば5〜30mmが好ましい。電極の幅とは、例えば、管状発熱体10の軸方向における長さである。電極14の厚さは、適度の強度と柔軟性との両立の観点から適宜に決めることが可能であり、例えば10〜100μmであることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましい。
上記導電性接着剤は、例えば、接着母材と導電性フィラーとを含む組成物、またはシランカップリング剤、である。上記接着母材の例には、エポキシ樹脂が含まれる。導電性接着剤の導電性フィラーは、シームレス樹脂ベルト12に分散される導電性フィラーと同じであってもよいし異なっていてもよい。導電性接着剤中の導電性フィラーの好ましい例には、銀フィラー、ニッケルフィラーおよびステンレス鋼フィラーが含まれる。また、上記シランカップリング剤の例には、アルキルアミノトリアルコキシシランが含まれる。
なお、電極14は、他のタイプの電極であってもよい。たとえば、電極14は、導電性ペーストの塗布または印刷および焼き付けによって構成される電極であってもよい。上記導電性ペーストの例には、銀ペーストが含まれる。銀ペーストは、銀製の導電性フィラーと有機系のバインダーとの混合物である。銀ペーストにおける銀の含有量は、例えば、80〜95%である。
本発明に係る管状発熱体の第二の実施形態を図2に示す。管状発熱体20は、図2に示されるように、弾性体層16および離型層18をさらに有する。すなわち、管状発熱体20は、シームレス樹脂ベルト12と、シームレス樹脂ベルト12の両端部のそれぞれに配置された電極14と、シームレス樹脂ベルト12の外周面上に配置された弾性体層16と、弾性体層16の外周面上に配置された離型層18とを有する。
弾性体層16は、通常、シームレス樹脂ベルト12の外側に形成される。弾性体層16の厚さは、シームレス樹脂ベルト12からの熱の伝達とトナー画像や記録媒体に対する密着性との観点から、5〜300μm程度であることが好ましい。弾性体層16の材料は一、一種でもそれ以上でもよい。弾性体層16の材料の例には、シリコーン、熱可塑性エラストマーおよびゴム材料が含まれる。熱可塑性エラストマーの例には、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、スチレン−ブタジエントリブロック系エラストマーおよびポリオレフィン系エラストマーが含まれる。上記ゴム材料の例には、スチレン−ブタジエンゴム、ハイスチレンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合体、ニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴムおよびノルボルネンゴムが含まれる。
離型層18は、管状発熱体20の表面の離型性を高めるための層である。離型層18の厚さは、例えば5〜20μmである。離型層18は、上記の離型性に加えて、弾性体層16よりも高い弾性率を有することが好ましい。離型層18の材料は、一種でもそれ以上でもよい。離型層18の材料の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、アルコール可溶性ナイロン、ポリカーボネート、ポリアリレート、フェノール、ポリオキシメチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリホスファゼン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、ポリパラバン酸、ポリアリルフェノール、フッ素樹脂、ポリ尿素、アイオノマー、シリコーン、および、これらの混合物または共重合体、が含まれる。特に、フッ素樹脂、ポリウレタンまたはシリコーンは、好ましい。
上記フッ素樹脂の例には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキビニルエーテル、フッ化エチレンプロピレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフロライドの共重合体、ポリビニリデンフロライドが含まれる。
上記ポリウレタンには、塗料に用いられる公知のポリウレタンが使用可能である。特に水系ポリウレタンが好ましい。ポリウレタンを構成するポリオール化合物の例には、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール(ポリジエン系ポリオールを水素添加したポリオールを含む)、ポリブタジエン系ポリオール、ポリイソプレン系ポリオール、アクリル樹脂系ポリオールが含まれる。ポリウレタンの硬化剤には、ポリウレタンの原料として一般的に用いられているイソシアネート化合物を用いることができる。この場合、イソシアネート化合物とは、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。
上記イソシアネート化合物の例には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、リジンエステルジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、ウンデカントリイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、および上記イソシアネート化合物の重合体、誘導体、変性体、水素添加体が含まれる。
上記シリコーンには、2官能性(D単位)、3官能性(T単位)のシロキサン単位を10mol%以上、好ましくは主骨格として含む公知のシリコーンを用いることが可能である。シリコーンの例には、フェニル系シリコーン、メチル系シリコーンおよびメチルフェニル系シリコーンが含まれる。シリコーンは、加熱硬化型シリコーンでもよいし、室温硬化型シリコーンでもよい。さらに、シリコーンには、シリコーンゴムを用いることが可能である。シリコーンゴムの例には、メチルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴムが含まれる。さらに、シリコーンは、シリコーンゴムと添加物による過酸化反応、縮合反応または付加反応による架橋構造を有していてもよい。さらに、シリコーンは、シリカなどの添加剤によって補強されていてもよい。
さらに、離型層18の材料の例には、光または熱によるモノマーのラジカル重合体が含まれる。ラジカル重合体の例には、アクリル系樹脂が含まれる。アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリレートがラジカル重合してなる樹脂であり、当該アクリル系樹脂の例には、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート系樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート系樹脂、および、ポリオール(メタ)アクリレート系樹脂、が含まれる。
(メタ)アクリルウレタン系樹脂は、例えば、ポリエステルポリオールに、イソシアネートモノマー、またはイソシアネートプレポリマーを反応させて得られた生成物に、さらに2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる。(メタ)アクリルウレタン系樹脂の例には、特開昭59−151110号公報に記載の紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、および、ユニディック17−806(DIC株式会社製)100部とコロネートL(日本ポリウレタン工業株式会社製)1部との混合物、が含まれる。なお、「ユニディック」はDIC株式会社の、「コロネート」は日本ポリウレタン工業株式会社の、登録商標である。
ポリエステル(メタ)アクリレート系樹脂は、例えば、ポリエステルポリオールに、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる。ポリエステル(メタ)アクリレート系樹脂の例には、特開昭59−151112号公報に記載の紫外線硬化型ポリエステル(メタ)アクリレート系樹脂が含まれる。
管状発熱体20は、本発明の効果が得られる範囲において、弾性体層16および離型層18以外の他の層をさらに有していてもよい。たとえば、管状発熱体20は、補強層をさらに有していてもよい。
上記補強層は、シームレス樹脂ベルト12の形状制御、保持を目的とする層である。補強層の厚さは、概ね20〜100μmである。補強層を構成する材料は、補強層の剛性と柔軟性とのバランスの観点から、ナノインデンテーション法により測定したヤング率が5.0〜15.0GPaである材料が好ましく、8.0〜15.0GPaである材料がより好ましい。このような材料の例には、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリエーテル、エーテルケトン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリアミドおよびポリフェニレンサルファイドが含まれる。これらの中でも、ポリフェニレンサルファイドまたはポリイミドが好ましい。
さらに、上記補強層、弾性体層16および離型層18は、本発明の効果が得られる範囲において、前述以外の他の成分をさらに含有していてもよい。このような他の成分の例には、アルミナ粒子や酸化チタン粒子などの金属酸化物粒子が含まれる。上記他の成分の含有量は、本発明の効果が得られる範囲において任意に決められる。
管状発熱体10および20は、いずれも、シームレス樹脂ベルト12を有し、シームレス樹脂ベルト12の上記抵抗変化率は1%以下である。このように、シームレス樹脂ベルト12の抵抗変化率が非常に低いことから、管状発熱体10および20は、いずれも、面方向における電気抵抗の所期の均一性を有する。
また、管状発熱体20は、弾性体層16をさらに有する。管状発熱体20が弾性体層16をさらに有することは、管状発熱体20の表面の被加熱物に対する接触性を高め、被加熱物の加熱ムラを防止する観点からより効果的である。
さらに、管状発熱体20は、管状発熱体20の表面を構成する離型層18をさらに有する。管状発熱体20が離型層18をさらに有することは、管状発熱体20の表面の被加熱物に対する離型性をより高め、管状発熱体20の寿命をさらに伸ばす観点からより効果的である。
[シームレス樹脂ベルトの製造方法]
シームレス樹脂ベルト12は、例えば、以下の方法によって製造することが可能である。
当該方法は、樹脂材料液を基体の周面にスパイラル塗布によって塗布する第一の工程と、上記周面に塗布された上記樹脂材料液の塗膜を加熱してシームレス樹脂ベルトを作製する第二の工程と、を含む。
上記第一の工程において、上記樹脂材料液は、溶媒、耐熱性樹脂または当該耐熱性樹脂の前駆体、および前述した導電性フィラーを含有する。溶媒は、耐熱性樹脂材料を溶解する液体である。溶媒は、一種でもそれ以上でもよい。溶媒の例には、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが含まれる。
上記耐熱性樹脂の前駆体は、第二の工程の加熱(前記基体を第三の温度に維持すること)によって前述した耐熱性樹脂となる材料である。たとえば、ポリアミド酸は、ポリイミドの前駆体である。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの等モル反応生成物の構造を有する。ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを有機極性溶媒に溶解させ、溶液状態で反応させることにより得られる。
上記樹脂材料液は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した溶媒、耐熱性樹脂または当該耐熱性樹脂の前駆体、導電性フィラー、および、発熱層の説明で前述した他の材料、以外のさらなる材料をさらに含有していてもよい。このようなさらなる材料の例には、樹脂とフィラーの結着性を向上させる材料、前駆体溶液の流動性を向上させる材料、可塑剤、および、イミド化剤などの添加剤が含まれる。
上記樹脂材料液は、たとえば、前述した材料を脱泡攪拌装置によって混合することによって調製することが可能である。樹脂材料液の調製では、導電性フィラーを少量ずつ複数回に分けて添加し、分散させること、および、マルチ攪拌システムなどの超高速攪拌装置によって攪拌し、導電性フィラーを樹脂材料液中に一次分散させること、が、導電性フィラーの樹脂材料液中における分散性をより高める観点から好ましい。
上記樹脂材料液は、第一の温度ではせん断によって流動性を獲得するとともに、第二の温度では温度による流動性を獲得する。
第一の温度は、樹脂材料液の性状に実質的な影響を及ぼさない温度である。樹脂材料液を加熱すると、耐熱性樹脂または当該耐熱性樹脂の前駆体が析出することがある。よって、スパイラル塗布時における配管の詰まりなどの不具合を防止するためには、通常、スパイラル塗布時における樹脂材料液の温度が上昇しないように、樹脂材料液を管理する必要がある。第一の温度は、例えば、20〜50℃であり、あるいは、樹脂材料液の使用温度±10℃である。樹脂材料液の温度を第一の温度に維持するために、必要に応じて、公知のヒータやクーラーなどの温度調整装置が用いられる。
第一の温度において、樹脂材料液の流動性は、樹脂材料液の送液時に当該樹脂材料液にせん断を加えることで生じる。樹脂材料液へのせん断力が強いほど、樹脂材料液の流動性は高くなる。第一の温度におけるせん断による樹脂材料液の流動性は、スパイラル塗布のノズルから樹脂材料液が均一な組成物として吐出される程度の流動性であればよい。このようなせん断流動性は、例えば、ギアポンプやコンプレッサなどの高い圧力で流体を搬送する装置によって樹脂材料液を上記ノズルに送ることによって、樹脂材料液に付与することが可能である。
第二の温度は、上記第一の温度よりも高い温度であり、樹脂材料液に前述の流動性を付与する温度であり、樹脂材料液からの耐熱性樹脂あるいは当該耐熱性樹脂の前駆体の析出を実質的に生じさせない温度である。第二の温度は、例えば、上記溶媒および耐熱性樹脂または当該耐熱性樹脂の前駆体の溶液の粘度が十分に低くなる温度に決めることが可能である。第二の温度は、例えば、51〜79℃である。基体の温度は、基体を加熱する公知のヒータによって、第二の温度に維持することが可能である。
第二の温度において、前述の温度による樹脂材料液の流動性は、樹脂材料液が基体の周面に付着してから軸方向へ拡散して一体化するまで、当該周面上で連続してレベリングされる程度の流動性であればよい。レベリングの連続は、例えば、基体の周面に付着した樹脂材料液の高さが、樹脂材料液が一体化するまで連続して減少することによって確認される。
第一の工程では、上記第一の温度の上記樹脂材料液は、せん断によって流動し、上記第二の温度に維持されている上記基体の上記周面に、スパイラル塗布によって塗布される。「スパイラル塗布」とは、樹脂材料液を吐出するノズルを回転する基体の軸方向に、当該基体に対して相対的に移動させながら、樹脂材料液をノズルから吐出する塗布方法である。スパイラル塗布は、上記基体を回転させながら支持する支持装置と、回転する基体の軸方向に移動可能なノズルから樹脂材料液を塗布する塗布装置とを有する公知の塗布装置によって行うことが可能である。ノズルから吐出された樹脂材料液は、上記基体の周面にらせん状に付着し、基体の軸方向に沿って拡散し、一体化して塗膜を構成する。ここで、基体とは、円柱面状の周面を有する。基体の例には、円柱および円筒が含まれる。当該周面は、外周面であってもよいし、内周面であってもよい。基体の材料の例は、アルミニウム、ステンレス鋼およびガラスが含まれる。
樹脂材料液は、前述した第一の温度におけるせん断による流動性および第二の温度による流動性の両方を獲得する。このような樹脂材料液は、一般に、比較的高い粘度を有し、または、比較的高い含有量で導電性フィラーを含有する。
上記樹脂材料液の粘度は、例えば、20℃で20Pa・s以下であることが好ましい。上記樹脂材料液の粘度は、前述のせん断力を樹脂材料液に付与する観点、および第二の温度による流動性を獲得する観点から、1〜20Pa・sであることが好ましく、1〜15Pa・sであることがさらに好ましく、1〜10Pa・sであることが特に好ましい。
また、上記樹脂材料液における導電性フィラーの含有量は、例えば、耐熱性樹脂または当該耐熱性樹脂の前駆体に対して10体積%以上である。上記発熱ベルトとして十分な熱を生じさせる観点、および前述した二つの流動性を獲得する観点から、上記導電性フィラーの含有量は、10〜80体積%であることがより好ましく、15〜60体積%であることがさらに好ましく、15〜40体積%であるであることがさらに一層好ましい。
なお、本発明において、耐熱性樹脂の前駆体に対する硬質導電性フィラーの含有量は、耐熱性樹脂に対する硬質導電性フィラーの含有量と実質的に同じとみなすことが可能である。これは、耐熱性樹脂の前駆体から耐熱性樹脂への変化は、通常、質量の実質的な変化を伴わないためである。
第二の工程では、上記基体の温度は、第三の温度に維持される。「第三の温度」は、第二の温度よりも高い温度であり、樹脂材料液から溶媒が留去する温度であり、樹脂材料液が耐熱性樹脂の前駆体を含有する場合は、さらに耐熱性樹脂の前駆体から耐熱性樹脂が生成する温度である。第二の工程において、当該樹脂材料液は、上記基体の周面全体を覆っていることから、第三の温度に基体の温度を維持することによって、基体の周面に上記シームレス樹脂ベルトが作製される。第三の温度は、一定の温度に設定されていてもよいし、段階的に複数の温度に設定されてもよい。
第三の温度は、溶媒、耐熱性樹脂または耐熱性樹脂の前駆体の種類に応じて適宜に決めることが可能である。第三の温度は、樹脂材料液より溶媒を留去することと、耐熱性樹脂の前駆体を使用する場合は前駆体より耐熱性樹脂を生成させることが可能な温度で、例えば、80〜400℃である。上記基体を第三の温度に維持する時間は、溶媒の留去および耐熱性樹脂の前駆体から耐熱性樹脂への生成に十分であればよい。また、上記基体は、前述したように、基体を加熱する公知のヒータによって第三の温度に維持することが可能である。
たとえば、上記耐熱性樹脂の前駆体がポリアミド酸である場合では、耐熱性樹脂はポリイミドである。この場合、上記第一の温度は、20〜50℃である。上記第二の温度は、51〜79℃である。上記第三の温度は、80〜400℃である。
上記シームレス樹脂ベルトの製造方法を、樹脂材料液にポリアミド酸のワニスを用いる場合を例に、図3を示して説明する。
まず、円筒状の基体31を回転させ、かつ不図示のヒータによって加熱する。基体31の温度は、51〜79℃である。基体31の温度は、上記ワニスの溶媒が蒸発する温度かその近傍であること、例えば、60℃〜70℃であることがより好ましい。
一方で、上記ワニスに導電性フィラーを混合して、塗布すべき樹脂材料液33を調製する。上記ワニスは、ポリアミド酸と溶媒(例えば、N−メチルピロリドン)を含有するポリアミド酸の溶液である。導電性フィラーには、高いアスペクト比を有する導電性フィラーを用いる。シームレス樹脂ベルトは、管状発熱体において発熱層を構成し、当該発熱層は、低い電気抵抗を必要とする。上記の導電性フィラーは、高い導電性を発現することが可能である。また、樹脂材料液33には、シームレス樹脂ベルトの高い導電性を発現するために、当該導電性フィラーが多量に添加される。たとえば、樹脂材料液における導電性フィラーの含有量は、上記ワニス中のポリアミド酸に対して、15〜50体積%である。
次いで、調製した樹脂材料液33を、基体31の軸方向に所定の速度で移動するノズル35から、回転している基体31の外周面に、連続して供給する。樹脂材料液33の温度は、例えば室温である。樹脂材料液33は、攪拌、混合後、ギアポンプなどの高圧輸送可能な送液装置によってノズル35まで送られる。ノズル35に送られる樹脂材料液33には、上記送液装置による送液によって高いせん断力が付与され続け、樹脂材料液33の均一な組成が維持される。こうして、基体31の周方向に樹脂材料液33を一定時間供給し、軸方向に一定の間隔を置くように塗布する(図3A)。
樹脂材料液33は、多量の導電性フィラーを含有する。このため、基体31の外周面上では、上記せん断流動は生じない。しかしながら、基体31は、前述した第二の温度に加温されている。このため、基体31の外周面上では上記ワニスの粘度が十分に低下し、また、ポリアミド酸のイミド化が実質的には生じないので、基体31の外周面に塗布された樹脂材料液33は、第二の温度により流動性を即座に獲得する。よって、樹脂材料液33の流動性が連続して維持され、樹脂材料液33が基体31の軸方向に沿って流動し続け、一体化する。
こうして、塗布過程で導電性フィラーがワニスと分離せず、樹脂材料液33の組成と厚さが均一な塗膜が基体31の外周面上に形成される。スパイラル塗布された樹脂材料液33では、導電性フィラーは、通常は、基体31の周方向に配向する傾向を有するが、前述の方法で作製された上記塗膜では、導電性フィラーは、ランダムに配向する。これは、基体31の周面に付着した樹脂材料液33が基体31の軸方向に流れるときに、導電性フィラーが当該軸方向にも配向しようとするため、と考えられる。
上記塗膜を第三の温度にするべくさらに加熱することで乾燥させて固化し、さらに加熱することで塗膜中のポリアミド酸をイミド化してポリイミド樹脂を生成する。こうして、高い含有量の導電性フィラーが分散したポリイミド樹脂のシームレスベルトが作製される。
上記の方法によれば、抵抗変化率が1%以内の上記シームレスベルトが作製される。当該シームレスベルトを前述した発熱ベルトに用いると、画像形成装置の定着安定性がより一層高められる。
また、上記の方法では、スパイラル塗布されるべき樹脂材料液33が、常温で、せん断流動によってノズル35に送られる。このように、樹脂材料液33を加温せずに送液することから、スパイラル塗布装置中では、耐熱性樹脂または耐熱性樹脂の前駆体は析出しない。このため、スパイラル塗布装置における樹脂材料液33の供給管の詰まりが生じず、上記シームレスベルトを安定して製造することが可能である。
もしも、従来技術で行われた様に、基体31を十分に加温せずに樹脂材料液33を基体31の外周面にスパイラル塗布によって塗布すると、基体31の外周面上で樹脂材料液33は、せん断流動を失い、そして第二の温度による流動性を得られない。このため、基体31の塗布部において、導電性フィラーが沈殿し、ワニスがレベリングする。よって、導電性フィラーがワニスから分離した樹脂材料液33の塗膜が作製される。当該塗膜において、導電性フィラーはスパイラル塗布によりらせん状に配置し、基体31の周方向に沿って主に配向する(図3B)。上記塗膜を加熱して作製されたシームレスベルトの抵抗変化率が大きくなることがあり、上記発熱ベルトに用いたときの上記定着安定性の低下をもたらすことがある。
[定着装置]
本発明に係る管状発熱体は、画像形成装置の定着装置における発熱ベルトに用いられうる。
定着装置70は、図4Aおよび図4Bに示されるように、定着ローラー72、発熱ベルト73、加圧ローラー74および給電装置75を有する。発熱ベルト73は、管状発熱体10に該当する。本実施形態では、管状発熱体10の形状は、無端ベルト状である。
定着ローラー72は、円柱状の芯金721と、その周面上に配置される樹脂層722とを有する。樹脂層722の外径は、発熱ベルト73の内径よりも小さい。定着ローラー72は、発熱ベルト73の内側に配置される。定着ローラー72は、発熱ベルト73の周方向における一部分で発熱ベルト73の内周面に接触する。
加圧ローラー74は、円柱状の芯金741と、その周面上に配置される樹脂層742とを有する。加圧ローラー74は、発熱ベルト73を介して定着ローラー72に対向して配置される。加圧ローラー74は、定着ローラー72に向けて発熱ベルト73の外周面を押圧可能に配置されている。加圧ローラー74は、通常は、発熱ベルト73と離れて配置される。
樹脂層722、742は、例えば、公知の樹脂の層または公知の樹脂が発泡してなる層である。上記樹脂の例には、シリコーンゴムおよびフッ素ゴムが含まれる。樹脂層722、742の少なくともいずれかは、加圧ローラー74による押圧によって変形する弾性を有する。
加圧ローラー74は、普通紙などの記録媒体に対する離型性を有する離型層を、樹脂層742上にさらに有していてもよい。この離型層は、フッ素系チューブやフッ素系コーティングによって構成される。離型層の材料の例には、フッ素樹脂が含まれる。上記離型層の厚さは、例えば1〜20μmであることが好ましい。
給電装置75は、交流電源751と、電極14に接触する給電部材752と、交流電源751および給電部材752を接続する導線753とを有する。給電部材752は、電極14に向けて、板バネやコイルバネなどの弾性部材(図示せず)で付勢されている。給電部材752は、電極14に対して摺動する部材であってもよいし、回転する部材であってもよい。給電部材752の例には、黒鉛や銅−黒鉛複合材料などのカーボン系材料で構成されたカーボンブラシが含まれる。
発熱ベルト73、定着ローラー72および加圧ローラー74は、いずれも回動可能である。それぞれが独立して回動可能であってもよいし、回転駆動する一つに従って他が回動してもよい。
加圧ローラー74が定着ローラー72に向けて発熱ベルト73の外周面を押圧することによって発熱ベルト73と加圧ローラー74の接触部(ニップ部)が形成される。ニップ部は、定着ローラー72が窪んで形成されてもよいし、加圧ローラー74が窪んで形成されてもよい。
トナー画像の定着に際して、各ローラーおよび発熱ベルト73の回動、発熱ベルト73への給電およびニップ部の形成は、公知の定着装置と同様に行うことができる。定着装置70は、公知の定着装置が有する他の構成をさらに有していてよい。
発熱ベルト73は、管状発熱体10で構成されていることから、抵抗変化が生じず、温度分布が均一で、かつ十分な機械強度(可撓性)を有する。よって、発熱ベルト73は、長期にわたって安定して均一な加熱が可能である。このため、定着装置70における定着ムラなどの定着不良が長期にわたって防止される。
[画像形成装置]
上記定着装置を有する画像形成装置を、図5に基づいて説明する。画像形成装置50は、画像形成部、中間転写部および定着装置70を有する。画像形成装置50は、画像読み取り部および記録媒体搬送部をさらに有する。
上記画像形成部は、例えば、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの各色に対応する四つの画像形成ユニットを含む。画像形成ユニットは、図5に示されるように、感光体ドラム51、感光体ドラム51を帯電させる帯電装置52、帯電した感光体ドラム51に光を照射して静電潜像を形成する露光装置53、静電潜像が形成された感光体ドラム51にトナーを供給して静電潜像に応じたトナー画像を形成する現像装置54、および、感光体ドラム51の残留トナーを除去するクリーニング装置55、を有する。
感光体ドラム51は、例えば、光導電性を有する負帯電型の有機感光体である。帯電装置52は、例えば、コロナ帯電器である。帯電装置52は、帯電ローラーや帯電ブラシ、帯電ブレードなどの接触帯電部材を感光体ドラム51に接触させて帯電させる接触帯電装置であってもよい。露光装置53は、例えば、半導体レーザーで構成される。現像装置54は、前述した本発明に係る現像装置に該当する。「トナー画像」とは、トナーが画像状に集合した状態を言う。
上記中間転写部は、一次転写ユニットと二次転写ユニットを含む。当該一次転写ユニットは、中間転写ベルト61、一次転写ローラー62、バックアップローラー63、複数の支持ローラー64およびクリーニング装置65を有する。中間転写ベルト61は、無端状のベルトである。中間転写ベルト61は、バックアップローラー63および支持ローラー64によって、ループ状に張架される。バックアップローラー63および支持ローラー64の少なくとも一つのローラーが回転駆動することにより、中間転写ベルト61は、無端軌道上を一方向に一定速度で走行する。
上記二次転写ユニットは、二次転写ベルト66、二次転写ローラー67および複数の支持ローラー68を有する。二次転写ベルト66も、無端状のベルトである。二次転写ベルト66は、二次転写ローラー67および支持ローラー68によってループ状に張架される。
定着装置70は、例えば、図4に示される定着装置70である。用紙Sは、記録媒体に相当する。
上記画像読み取り部は、給紙装置81、スキャナー82、CCDセンサー83および画像処理部84を有する。上記記録媒体搬送部は、三つの給紙トレイユニット91および複数のレジストローラー対92を有する。給紙トレイユニット91には、坪量やサイズなどに基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。レジストローラー対92は、所期の搬送経路を形成するように配置されている。
画像形成装置50による画像の形成を説明する。
スキャナー82は、給紙装置81から送られたコンタクトガラス上の原稿Dを光学的に走査して読み取る。原稿Dからの反射光がCCDセンサー83により読み取られ、入力画像データとなる。入力画像データは、画像処理部84において所定の画像処理が施され、露光装置53に送られる。
一方で、感光体ドラム51は、一定の周速度で回転する。帯電装置52は、感光体ドラム51の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置53は、各色成分の入力画像データに対応するレーザー光で感光体ドラム51を照射する。こうして感光体ドラム51の表面には、静電潜像が形成される。現像装置54は、感光体ドラム51の表面にトナーを付着させることにより静電潜像を可視化する。こうして感光体ドラム51の表面に、静電潜像に応じたトナー画像が形成される。感光体ドラム51の表面のトナー画像は、中間転写ベルト61に転写される。感光体ドラム51の転写残トナーは、クリーニング装置55によって除去される。
感光体ドラム51上のトナー画像は、一次転写ローラー62によって中間転写ベルト61を感光体ドラム51に圧接させ、一次転写ローラー62に転写電圧を印加することによって、中間転写ベルト61に転写される。中間転写ベルト61には、各感光体ドラム51で形成された各色のトナー画像が順次重なるように転写される。
一方、二次転写ローラー67は、二次転写ベルト66をバックアップローラー63に向けて押圧し、中間転写ベルト61に圧接させる。それにより、二次転写ニップ部が形成される。他方、給紙トレイユニット91からレジストローラー対92を介して上記二次転写ニップ部に用紙Sが搬送される。レジストローラー対92は、用紙Sの傾きを補正し、また搬送のタイミングを調整する。
二次転写ニップに用紙Sが搬送されると、二次転写ローラー67に転写電圧が印加され、中間転写ベルト61上のトナー画像が用紙Sに転写される。トナー画像が転写された用紙Sは、二次転写ベルト66によって、定着装置70に搬送される。中間転写ベルト61上の転写残トナーは、クリーニング装置65によって除去される。
定着装置70では、用紙Sの搬送に際して加圧ローラー74が定着ローラー72および発熱ベルト73に向けて圧接し、定着ニップ部を形成する。用紙Sは、定着ニップ部で加熱、加圧される。こうして、用紙S上のトナー画像が用紙Sに定着する。トナー像が形成された用紙Sは、機外に排出される。
画像形成装置50は、定着装置70を有する。定着装置70では、前述したように、長期にわたって定着不良が防止される。よって、画像形成装置50は、高品質の画像を長期にわたり安定して形成することが可能である。
[実施例1]
(樹脂材料液の調製)
ポリアミド酸(U−ワニス−S 301、宇部興産株式会社製)100gと黒鉛繊維(ミルドファイバー XN−100、日本グライファイトファイバー株式会社製)20gを遊星方式の混合機で十分に混合し、樹脂材料液を調製する。当該樹脂材料液中の上記黒鉛繊維の含有量は、ポリアミド酸に対して40体積%である。
(芯金の加温)
ステンレス鋼製の円筒状の芯金の内部にハロゲンヒーターを設置し、当該芯金の表面温度を51℃に温め、維持する。「51℃」は、前述した第二の温度に相当する。また、「芯金」は、前述した基体に相当する。
(樹脂材料液の塗布)
51℃に加温された上記芯金の外周面に、室温の樹脂材料液をスパイラル塗布にて塗布し、厚さ500μmの塗膜を作製する。「室温」は、前述した第一の温度に相当する。
(塗膜の乾燥・焼成)
上記樹脂材料液の塗膜が作製された上記芯金の温度が150℃となるまで、2℃/分で芯金を加熱し、芯金の温度を150℃に10分間維持し、上記塗膜を乾燥させる。その後、芯金の温度が400℃になるまで芯金を2時間かけて加熱し、芯金の温度を400℃に20分間維持する。「400℃」は、前述した第三の温度に相当する。上記の加熱によりポリアミド酸がイミド化し、黒鉛繊維が分散したポリイミドのシームレス樹脂ベルト1が得られる。
(弾性体層の作製)
上記芯金の外周面上の上記シームレス樹脂ベルト1の表面に、当該シームレス樹脂ベルト1の両端からの約30mmの部分を除いて、プライマー(X331565、信越化学工業株式会社製)をはけで塗り、プライマーの塗膜を常温で30分間、乾燥させる。
一方で、シリコーンゴム(KE1379、信越化学工業株式会社製)の液状ゴムと、シリコーンゴム(DY356013、東レ・ダウコーニング株式会社製)との2液を、質量比で2:1の割合で混合し、弾性体層材料液を調製する。
得られた弾性体層材料液を上記プライマーの塗膜の表面に塗布し、厚さ200μmの上記弾性体層材料液の塗膜を作製する。そして、当該塗膜の温度が150℃となるように上記芯金を加熱し、上記塗膜の温度を150℃に30分間維持して一次加硫する。さらに、上記塗膜の温度が200℃となるように上記芯金を加熱し、上記塗膜の温度を200℃に4時間維持し、ポスト加硫を行う。こうして、厚さ200μmの管状の弾性体層をシームレス樹脂ベルト1の表面に作製する。弾性体層の硬度は、デュロメータ(アスカーA型)で測定することができ、例えば、26度である。
(離型層の作製)
上記弾性体層の表面を洗浄し、その後、上記芯金を回転させながら、PTFE樹脂ディスパージョン(30J、デュポン社製、「第一フッ素材料液」とも言う)に3分間浸漬し、取り出し、常温で20分間乾燥し、次いで、シームレス樹脂ベルト1の両端部における第一フッ素材料液を布で拭き取る。
次いで、フッ素樹脂ディスパーション(855−510、デュポン社製、PTFE樹脂とPFA樹脂を7:3の質量比で混合した組成物、固形分濃度:45%、粘度:110mPa・s、「第二フッ素材料液」とも言う)に上記芯金を浸漬し、上記第一フッ素材料液の塗膜の表面に第二フッ素材料液を塗布し、厚さ15μmの塗膜を作製する。そして、シームレス樹脂ベルト1の上記両端部における第二フッ素材料液の塗膜を拭き取り、第二フッ素材料液の塗膜を室温で30分間乾燥した後、当該塗膜の温度を230℃に加熱し、30分間維持する。さらに、炉内温度が270℃に設定された内径100mmの管状炉内に上記芯金を約10分間かけて通し、フッ素樹脂製の離型層を作製する。
次いで、シームレス樹脂ベルト1の両端部に導電性接着材を塗布し、当該両端部のそれぞれをニッケル箔で被覆し、次いで、上記芯金を炉内温度が200℃の加熱炉内に60分間配置して当該ニッケル箔を上記両端部のそれぞれに焼き付ける。そして、上記芯金を冷却し、芯金から管状の樹脂積層体を取り外し、発熱層(シームレス樹脂ベルト)、弾性体層、離型層および電極を有する管状発熱体1を得る。これを実施例1とする。
[実施例2〜4および比較例1〜4]
上記樹脂材料液の塗布前における上記芯金の表面温度を60℃、70℃および79℃にそれぞれ変更する以外は実施例1と同様にして、管状発熱体2〜4をそれぞれ得る。また、上記樹脂材料液の塗布前における上記芯金の表面温度を25℃、50℃、80℃および100℃にそれぞれ変更する以外は実施例1と同様にして、管状発熱体C1〜C4をそれぞれ得る。以上の手順により得た管状発熱体2〜4を実施例2〜4、管状発熱体C1〜C4を比較例1〜4とする。
[評価]
(1)抵抗変化率
実施例1〜4(管状発熱体1〜4)および比較例1〜4(C1〜C4)のそれぞれを、図5に示す画像形成装置の定着装置に装着し、印字率5%の画像を90万枚形成する。この耐久試験の前後で、管状発熱体1〜4およびC1〜C4のそれぞれの外周面上の二点間の体積抵抗率R(Ω・m)をLCRメーターにて測定する。上記の二点は軸方向に沿う一直線上にあり、上記二点間の距離は300mmである。そして、耐久試験前の体積抵抗率をR1、耐久試験後の体積抵抗率をR2とし、耐久試験前後における発熱ベルトの体積抵抗率の抵抗変化率ΔRを下記式から求める。そして、下記の基準により抵抗変化率を評価する。結果を下記表1に示す。
(式)
ΔR(%)={(R2−R1)/R1}×100
(評価基準)
◎:抵抗変化率が0.5%以下
○:抵抗変化率が0.5%超1.0%以下
△:抵抗変化率が1.0%超1.5%以下
×:抵抗変化率が1.5%超
(2)定着性
上記耐久試験の最後に形成した画像の定着ムラの有無を目視で観察する。そして、下記の基準により定着性を評価する。なお、「定着ムラ」とは、トナーの固着不良と観察される部位である。当該部位の最大長さが1mm以下である場合、「定着ムラが小さい」とする。また、上記最大長さが1mm超である場合、「明確に定着ムラが確認できる」とする。結果を下記表1に示す。
◎:定着ムラが確認されない。
○:定着ムラが確認できるが、小さい。
×:明確に定着ムラが確認できる。
表1から明らかなように、実施例1〜4における管状発熱体1〜4では、いずれも、抵抗変化率が1%以下と低く、また、定着性も良好である。これは、管状発熱体1〜4の製造における樹脂材料液のスパイラル塗布で、芯金の外周面が第二の温度に維持されているためと考えられる。すなわち、当該スパイラル塗布において、第一の温度ではせん断によって流動していた樹脂材料液が、第二の温度に維持されている芯金の周面に供給される。芯金の周面に供給された樹脂材料液は、せん断による流動性を失うが、その一方で温度による流動性を獲得する。このため、樹脂材料液が芯金の周面に付着した位置から、樹脂材料液が芯金の軸方向に沿って流動し、当該流動に伴って、導電性フィラーが上記の付着位置から上記軸方向に沿って拡散する。その結果、樹脂材料液が多量の導電性フィラーを含有していても、電気抵抗の所期の均一性を有するシームレス樹脂ベルトが得られる、と考えられる。
これに対して、比較例1〜4における管状発熱体C1〜C4では、いずれも、抵抗変化率が1%を超え、また、定着性も不十分である。これは、樹脂材料液が多量の導電性フィラーを含有しているので、樹脂材料液のスパイラル塗布で、芯金の外周面に付着した樹脂材料液全体の流動性が失われるため、と考えられる。すなわち、芯金の外周面に樹脂材料液が付着すると、樹脂材料液中の導電性フィラー以外の成分(ワニス)は、芯金の軸方向に流動するが、当該成分の流動性は弱い。このため、導電性フィラーは、上記付着部分に取り残される。その結果、導電性フィラーがシームレス樹脂ベルト中にスパイラル状に存在し、シームレス樹脂ベルトにおける電気抵抗の均一性が不十分となる、と考えられる。