JP6168541B2 - 硬質潤滑被膜および硬質潤滑被膜被覆工具 - Google Patents

硬質潤滑被膜および硬質潤滑被膜被覆工具 Download PDF

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Description

本発明は、母材の表面に被覆して設けられる硬質潤滑被膜およびその硬質潤滑被膜が被覆された硬質潤滑被膜被覆工具に関し、特に、硬質及び耐摩耗性を共に向上させるための改良に関する。
炭素鋼、ステンレス、および軟鋼などの材料を切削加工するドリルやタップ等の穴加工用工具には、被削材を切削するに必要な硬度や工具寿命を長くすることにつながる耐摩耗性などの性質が求められる。そのため、切削工具の母材表面には、耐摩耗性を向上させるために硬質被膜が被覆して設けられる。この切削工具用硬質被膜としては、TiN系、CrN系、TiCN系、及びTiAlN系などのコーティングが広く用いられており、その性能を更に向上させるために改良が図られている。例えば、特許文献1および特許文献2に記載された硬質積層被膜がそれである。
たとえば特許文献1においては、TiaCrbAlcMo1-a-b-cの窒化物又は炭窒化物から成る第1被膜層と、TidCreAl1-d-eの窒化物又は炭窒化物から成る第2被膜層とが、交互に2層以上積層された多層膜から構成される硬質積層被膜が、また特許文献2においては、TiaCrbAlcMo1-a-b-cの窒化物又は炭窒化物から成る単層膜から構成される硬質積層被膜がそれぞれ提案されている。
特開2012−115924 特開2012−115923
しかし、前述したような従来の技術により硬質積層被膜が形成された母材では、潤滑性や耐摩耗性が依然として十分ではなく、それ故に欠損や摩耗により母材から構成される切削工具は早期寿命に至る場合があるという問題があった。したがって、硬質且つ耐摩耗性を有する硬質積層被膜の開発が求められていた。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、硬質且つ耐摩耗性を有する硬質潤滑被膜および硬質潤滑被膜被覆工具を提供することにある。
本発明者等は、以上の事情を背景として鋭意研究するうち、チタン(Ti)は酸化しやすいため、被膜を構成する元素としてTiを含めないことを意図して、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、バナジウム(V)およびホウ素(B)をA層、またタングステン(W)をB層の構成元素とし、さらにA層に酸素を導入すると、Cr、Mo、WおよびVの酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物から成る結晶の微細組織が形成されるため、高硬度でありながら一層高潤滑性が得られるという事実を見出した。本発明はこのような知見に基づいて為されたものである。A層の上記結晶はB層との積層構造において層の厚みにより結晶成長が抑制されて被膜の硬度を高める微細な結晶構造が生成されるとともに、上記Cr、Mo、WおよびVの酸炭化物、酸窒化物又は酸炭窒化物の結晶は、モリブデン硫化物或いは窒化物と類似した固体潤滑構造を有しているために被膜の潤滑性が高められると推定される。
すなわち、第1発明の要旨とするところは、母材の表面に被覆される硬質潤滑被膜であって、(CrMo1−x−y−zの酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成るA層と、W(1−f)から成るB層とが、交互に2層以上積層された硬質潤滑被膜であって、前記A層に係る原子比aは0.2≦a≦0.7、bは0.05≦b≦0.6、cは0≦c≦0.3、dは0≦d≦0.05、e=1−a−b−c−dは0≦e≦0.05、xは0≦x≦0.6、yは0≦y≦0.6、zは0<z≦0.2、x+y+zは0.3≦x+y+z≦0.6であり、前記B層に係る原子比fは0.3≦f≦0.6であり、且つ、前記A層の膜厚は2nm以上500nm以下、前記B層の膜厚は1nm以上500nm以下、総膜厚は0.1μm以上10.0μm以下の範囲内であることを特徴とする硬質潤滑被膜および硬質潤滑被膜が被覆された硬質潤滑被膜被覆工具にある。
また、第2発明の要旨とするところは、前記第1発明の硬質潤滑被膜において、前記A層は結晶相とアモルファス相とが混在した複相組織であることを特徴とする。
第1発明の硬質潤滑被膜によれば、上述のように、(CrMo1−x−y−zの酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成るA層と、W(1−f)の窒化物から成るB層とが、交互に2層以上積層して形成されたものであることから、積層されたA層にはMo、WおよびVの酸化物、酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成る微細組織が形成されることにより被膜の硬度が高められ、且つMo、WおよびVの酸化物、酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物は固体潤滑性を有していることにより被膜の潤滑性が高められるので、硬質且つ耐摩耗性を有する硬質潤滑被膜および硬質潤滑被膜被覆工具を得ることができる。
第2発明の硬質潤滑被膜によれば、A層は結晶相とアモルファス相とが混在した複相組織である。このように、Mo、WおよびVの酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成る微細なNaCl構造の結晶相(δ−(Cr、Mo、W、V)Nおよびγ−MoNなど)とアモルファス相との複相組織が形成されることにより、硬質且つ耐摩耗性を有する硬質潤滑被膜および硬質潤滑被膜被覆工具を得ることができる。
本発明の一例の硬質被膜が被覆されたエンドミルを軸線Cに垂直な方向から見た正面図である。 図1のエンドミルの表面部分の積層構造を説明するための概念的な断面図である。 図1のエンドミルを形成するためのプロセスチャートである。 図1のエンドミルを形成する際に好適に用いられるスパッタリング装置を説明する概略構成図である。 本発明の硬質被膜の効果を検証するための摩擦摩耗試験に用いられた摩耗摩擦試験機の構成を示す図である。 ナノインデンテーション法により得られた膜の硬さH(GPa)と摩擦摩耗試験により得られた摩擦係数μを試験品1〜40および比較品1〜6ごとに示したグラフである。 硬質被膜の摩擦摩耗試験における試験時間の経過に伴う摩擦係数の推移を示すグラフである。 摩擦摩耗試験において用いられた試験品35のテストピースの半球状端部における硬質被膜の摩耗痕の写真であり、(a)マイクロスコープ(MICROSCOPE)により撮影した写真、(b)走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真、(c)SEMによるEDS分析の酸素分析結果を示す写真である。 摩擦摩耗試験において用いられた試験品12のテストピースの半球状端部における硬質被膜の摩耗痕の写真であり、(a)マイクロスコープ(MICROSCOPE)により撮影した写真、(b)走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真、(c)SEMによるEDS分析の酸素分析結果を示す写真である。 摩擦摩耗試験において用いられた比較品6のテストピースの半球状端部における硬質被膜の摩耗痕の写真であり、(a)マイクロスコープ(MICROSCOPE)により撮影した写真、(b)走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真、(c)SEMによるEDS分析の酸素分析結果を示す写真である。 試験品1の硬質被膜におけるA層の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した写真である。
以下、本発明の硬質潤滑被膜の一実施例について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例である硬質被膜10が被覆されたエンドミル12をその軸線Cに垂直な方向から見た正面図である。図1に示すように、エンドミル12は、例えば超硬合金にて構成される工具母材14にシャンク及び刃部16が一体に設けられた回転切削工具である。この刃部16には、切れ刃として外周刃18及び底刃20が設けられており、図示しない切削装置に取り付けられてその切削装置により軸線Cまわりに回転駆動させられることにより、上記外周刃1及び底刃20によって被削材に対する切削加工が行われる。なお、硬質被膜10は本発明の硬質潤滑被膜に、工具母材14は本発明の母材に、またエンドミル12は本発明の硬質潤滑被膜被覆工具にそれぞれ相当する。
図2は、図1のエンドミル12の表面部分の積層構造を説明するための概念的な断面図である。この図2に示すように、上記エンドミル12の表面には、その表面を被覆する硬質被膜10がコーティングされている。図1の斜線部は、上記エンドミル12においてこの硬質被膜10が設けられた部分が示されており、硬質被膜10は、好適には、エンドミル12における刃部16に対応する工具母材14の表面に被覆して設けられる。
図2から明らかなように、本実施例の硬質被膜10は、酸素元素を含むA層22とタングステン(W)を含むB層24とが交互に2層以上積層された多層膜であり、斯かるA層22及びB層24は、以下に示す化学組成を満足する材料から構成される。すなわち、A層22は、(CrMo1−x−y−zの酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物であって、原子比aは0.2≦a≦0.7、bは0.05≦b≦0.6、cは0≦c≦0.3、dは0≦d≦0.05、e=1−a−b−c−dは0≦e≦0.05、xは0≦x≦0.6、yは0≦y≦0.6、zは0<z≦0.2、x+y+zは0.3≦x+y+z≦0.6である。A層22において、モリブデン硫化物或いは窒化物と類似した固体潤滑構造を有するMo、WおよびVの酸化物、酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成る微細組織が形成される。硬質被膜10におけるA層22としては、たとえば(Cr0.4Mo0.60.520.380.1などが好適に例示される。また、B層24は、W(1−f)であって、原子比fは0.3≦f≦0.6である。硬質被膜10におけるB層24としては、たとえばW0.700.30などが好適に例示される。
また、硬質被膜10において、A層22の膜厚D1は2nm以上500nm以下の範囲内、B層24の膜厚D2は1nm以上500nm以下の範囲内、硬質被膜10の総膜厚Dは0.1μm以上10.0μm以下の範囲内とされる。すなわちA層22及びB層24の積層数は、硬質被膜10の総膜厚D及び各被膜層22、24の膜厚D1、D2に係る上記数値範囲を逸脱しない限りにおいて適宜定められるが、少なくともA層22およびB層24を1層ずつ有する多層膜であればよい。また、硬質被膜10における複数のA層22の膜厚D1はすべて等しいものであってもよいし、上記数値範囲内で相互に異なるものであってもよい。同様に、硬質被膜10における複数のB層24の膜厚D2はすべて等しいものであってもよいし、上記数値範囲内で相互に異なるものであってもよい。
また、硬質被膜10において、A層22及びB層24の積層順は、好適には、図2に示すように工具母材14側からA層22、B層24、・・・、A層22、B層24の順で積層されたものである。すなわち、硬質被膜10の基層(工具母材14と接する最下層)はA層であり、表層(硬質被膜10の最上層)は、B層とされる。
次に、工具母材14の刃部16が硬質被膜10により被膜されたエンドミル12を形成する工程を図3および図4を参照して詳細に説明する。図3は図1のエンドミル12を形成するためのプロセスチャートであり、図4は図1のエンドミル12を形成する際に好適に用いられるスパッタリング装置26を説明する概略構成図(模式図)である。
図3における母材の研削工程P1では、工具母材14の基材である超硬合金に対して研削が施されて工具母材14が得られる。たとえば、先ず工具母材14の大まかな形すなわち軸心を有する円柱状の形状を形成するために超硬合金に対して円筒研が施される。次に、円柱状形状の一端部側の外周側面に螺旋状の溝などを形成する溝研が施される。最後に、溝が形成されることにより生じる凸部が被削材を切削するための外周刃や底刃となるようにその先端に対して刃研が施される。次に、洗浄工程P2では、硬質被膜10の被覆に先立って工具母材14の表面が洗浄される。エッチング工程P3では、スパッタリング装置26により前処理として工具母材14の表面が粗面化される。被膜10の成膜工程P4では、スパッタリング装置26により工具母材14の刃部に対して硬質被膜10が被覆されてエンドミル12が形成される。検査工程P5では、硬質被膜10が被覆されたエンドミル12が切削工具としての使用基準を満たしているか否かの判定をするための検査が行われる。
次に、スパッタリング装置26により行われる上記エッチング工程P3および上記被膜の成膜工程P4に関して図4を参照してさらに詳細に説明する。スパッタリング装置26はチャンバー28とチャンバー28の底面の略中心の貫通穴を通じて貫通される回転軸と回転軸のチャンバー28内部側の一端部に固設された円盤状の基台30とを備えている。先ず、円盤状の基台30上には、基台30の中心から等間隔の位置にある円周上において周方向に互いに等間隔で研削工程P1で得られた複数本の工具母材14が基台30に自転可能に設置される。図示しないヒーターにより工具母材14が約500℃まで昇温され、チャンバー28内が所定の圧力以下の真空度に保たれつつチャンバー28内にアルゴン(Ar)ガスが導入される。この状態でバイアス電源32により工具母材14にたとえば−200〜−500Vのバイアス電圧がかけられ、Arガス中で発生したグロー放電により生じたArイオンによる工具母材14の表面のエッチング処理が行われる。エッチング処理終了後、チャンバー28内からArガスが排気される。上記のようにしてエッチング工程P3が終了した後、引き続き被膜の成膜工程P4が行われる。すなわち、硬質被膜10を構成するCr、Mo、W等のターゲット34、35に電源36により一定のカソード電圧(たとえば−100〜−500V程度)を印加するとともに、バイアス電源32により前記工具母材14に一定の負のバイアス電圧(例えば−100V程度)を印加することにより、アルゴンイオンAr+を上記ターゲット34、35に衝突させてCr、Mo、W等の構成物質を叩き出しイオン化させる。上記電源36及びバイアス電源32により印加される電圧はコントローラ38により制御される。チャンバー28内には、アルゴンガスの他に窒素ガス(N2)、炭化水素ガス(CH4、C22)あるいは酸素ガス(O)の反応ガスが所定の流量、圧力で選択的に導入され、その窒素原子(N)、炭素原子(C)あるいは酸素原子(O)がターゲット34、35から叩き出されたCr、Mo、Wなどと結合してA層22としてたとえば(Cr0.4Mo0.60.520.380.1のような酸窒化物、(Cr0.6Mo0.350.030.010.020.450.40.10.05のような酸炭窒化物が形成され、B層24としてたとえばW0.450.55のような窒化物が形成される。そして、工具母材14は、チャンバー28に対して回転させられる基台30上においてさらに基台30に対して回転させられるため、それらは工具母材14の表面に均質な硬質被膜10として被覆させられる。ここで、Cr、Mo、W、VおよびBに係る組成比の制御および成膜時の各種反応ガスの制御により、あるいは成膜時の各種反応ガスの制御のみで、A層22およびB層24の被覆が成膜される。たとえば、B層24の被覆の際には反応ガスとしての炭化水素ガス(CH4、C22)および酸素(O2)ガスは不要なため、炭化水素ガス(CH4、C22)および酸素(O2)ガスのチャンバー28内への導入がオフとされることによりB層24が形成される。そして、反応ガスの切替えおよびターゲット34、35の選択に応じてA層22とB層24との工具母材14への交互の被覆が繰り返されて、最終的に硬質被膜10が被覆されたエンドミル12が形成される。
このようにエンドミル12に被覆された硬質被膜10は、(CrMo1−x−y−zの酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物であるA層22と、W(1−f)の窒化物であるB層24とが交互に積層されて成る、すなわちA層22の薄膜界面にB層24が挿入されて成るものであるため、A層およびB層を構成する被膜粒子の粒径がさらに小さくなり微細組織構造が形成されることから低摩耗性や摩擦寿命が向上し、耐摩耗性に優れ、ひいてはエンドミル12の工具寿命の向上に帰結する。また、硬質被膜10は、スパッタリング装置26において、反応ガスの導入の有無およびターゲット34、35の選択が行われ、A層22を構成する薄膜組成が精密に制御されて成るものであることから、高温条件下における低摩擦特性および耐摩耗性に優れる。
続いて、本発明の効果を検証するために本発明者等が行った試験について図5ないし図11、表1および表2に基づいて詳細に説明する。
表1は本試験に供された試験品1〜40および比較品1〜6のA層とB層の各薄膜組成を示し、表2は試験品1〜40および比較品1〜6のA層とB層の各膜厚および総膜厚と各試験の結果が示されている。なお、試験品1〜40は硬質被膜10の各被膜構造および膜厚の条件を満たすものであり、比較品1〜6は硬質被膜10に要求される条件を満たさないものである。
表2における膜の硬さH(GPa)は以下のようにして求めた。先ず直径6mmφの超硬合金製のピンから成るテストピースの半球状の端面に表1に示す各被膜構造、膜厚の条件を満たすように硬質被膜を被覆させ、膜の硬さ試験に供する試験品1〜40および比較品1〜6の各テストピース40を図3のP2、P3、P4に示す工程と同様の工程で作成した。作成した上記テストピース40についてナノインデンテーション法にしたがってそれぞれの膜の硬さを測定した。すなわち、先端がダイヤモンドチップから成る三角錐型(バーコビッチ型)の圧子を硬質被膜が被覆された上記テストピース40の表面に荷重Pで押し込み、圧子の下の射影面積Aを算出した。なお、荷重Pを面積Aで割ることで膜の硬さH(GPa)が算出される。
また、表2における摩擦係数μは摩擦摩耗試験を行い、以下のようにして求めた。先ずテストピースの半球状端面に表1に示す各被膜構造、膜厚の条件を満たすように硬質被膜を被覆させ、試験品1〜40および比較品1〜6に対応するテストピース40を作成した。作成した各テストピース40をピンオンディスク方式の摩耗摩擦試験機42に設置した。
図5は摩耗摩擦試験機42の構成を示す図である。図5において、摩耗摩擦試験機42は、回転中心まわりに回転駆動される円盤状の回転ステージ44と、回転ステージ44の中央部に固定された被削材46と、被削材46の回転中心からずらした位置に上記試験品1〜40および比較品1〜6の硬質被膜が被覆された半球状端部48を所定の印加荷重Wにより上記回転中心から所定の角度で斜めに押し付ける負荷ウェイト50と、所定の線速度で回転ステージ44が回転させられたときにテストピース40における回転ステージ44に押し付けられた半球状端部48が受ける引張り力Fを検出する応力センサ52とを備えている。なお、摩耗摩擦試験機42により測定された上記引張り力Fを上記印加加重Wで割ることで摩擦係数μ(=)が算出される。本試験においては以下の試験条件で摩擦摩耗試験を行った。
[試験条件]
・テストピース40:超硬圧子 (直径6mmφ)
・被削材46:S45C(直径25mmφ)
・印加荷重W:2(N)
・線速度:200(mm/min)
・試験時間:900(s)
・温度:28(℃)
・湿度:57(%)
上記摩擦摩耗試験において、試験開始から200秒経過時から600秒経過時の間に測定された摩擦係数の平均値によって試験品1〜40および比較品1〜6の摩擦係数μを評価した。
Figure 0006168541
Figure 0006168541
図6はナノインデンテーション法により得られた膜の硬さH(GPa)と摩擦摩耗試験により得られた摩擦係数μを試験品1〜40および比較品1〜6ごとに示したグラフである。すなわち、図6は表2の膜の硬さH(GPa)および摩擦係数μをグラフ化したものである。なお、図6の横軸は試験品1〜40および比較品1〜6の番号を、左軸は試験品1〜40および比較品1〜6の膜の硬さH(GPa)を、右軸は試験品1〜40および比較品1〜6の摩擦係数μをそれぞれ示す。表2および図6に示されるように、硬質被膜10の要件を満たす被膜が被覆された試験品1〜40の全てにおいて、その膜の硬さH(GPa)は29.6GPa以上、摩擦係数μは0.34以下であった。殊に、ホウ素(B)がA層の薄膜組成中に含まれる試験品31〜40に限れば、膜の硬さH(GPa)は35.0GPa以上、摩擦係数μは0.26以下であり、より良好な値を示した。なお、ナノインデンテーション法において、硬さは15〜20GPaで柔らかい、30GPa以上で硬い、50〜60GPaで脆いと評価される。
すなわち、上記の結果から、(CrMo1−x−y−zの酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成るA層22と、W(1−f)の窒化物から成るB層24とが、交互に2層以上積層されて成るものであり、A層22に係る原子比aは0.2≦a≦0.7、bは0.05≦b≦0.6、cは0≦c≦0.3、dは0≦d≦0.05、e=1−a−b−c−dは0≦e≦0.05、xは0≦x≦0.6、yは0≦y≦0.6、zは0<z≦0.2、x+y+zは0.3≦x+y+z≦0.6であり、B層24に係る原子比fは0.3≦f≦0.6であり、且つ、A層22の膜厚D1は2nm以上500nm以下、B層24の膜厚D2は1nm以上500nm以下、総膜厚Dは0.1μm以上10.0μm以下の範囲内である硬質被膜10が被覆された試験品1〜40はその膜の硬さHが29.6GPa以上、且つその摩擦係数μは0.34以下であり、良好な値を示した。
それに対して、比較品1は(Ti0.25Mo0.750.460.240.3から成る膜厚90nmのA層の単層膜であり、A層においてチタン(Ti)が含有されており、クロム(Cr)が含有されておらず、モリブデン(Mo)の原子比bが0.75であり、酸素の原子比zが0.3であるため、硬質被膜10のA層22に係る薄膜組成とは異なる元素チタン(Ti)が含有されており、且つクロム(Cr)の原子比aの0.2≦a≦0.7、モリブデン(Mo)の原子比bの0.05≦b≦0.6、酸素(O)の原子比zの0<z≦0.2をそれぞれ逸脱し、B層がA層の薄膜界面に挿入形成されていないため、硬質被膜10のA層22とB層24とが交互に積層されて成るという要件から逸脱し、総膜厚が硬質被膜10に係る総膜厚Dの0.1μm以上10.0μm以下の範囲を逸脱するものである。そのため、比較品1の膜の硬さHは18.0GPaと試験品と比較して小さく、摩擦係数μは0.65であり、試験品と比較して大きな値となった。この結果から特に、A層22に係るクロム(Cr)の原子比aは0.2以上、モリブデン(Mo)の原子比bは0.6以下、酸素(O)の原子比zは0.2以下、総膜厚Dは0.1μm以上とすべきであり、またB層24はA層22の薄膜界面に挿入形成され、A層22とB層24とが交互に積層されるべきであることが検証され、本発明に係る硬質被膜10に求められる要件の意義が確かめられた。
また、比較品2はMo0.550.45から成る膜厚11000nmのA層の単層膜であり、A層においてクロム(Cr)が含有されておらず、モリブデン(Mo)の原子比bが1であり、酸素(O)が含有されていないため、硬質被膜10のA層22に係るクロム(Cr)の原子比aの0.2≦a≦0.7、モリブデン(Mo)の原子比bの0.05≦b≦0.6、酸素(O)の原子比zの0<z≦0.2をそれぞれ逸脱し、B層がA層の薄膜界面に挿入形成されていないため、硬質被膜10のA層22とB層24とが交互に積層されて成るという要件から逸脱し、A層および総膜厚が硬質被膜10に係るA層22の膜厚D1の2nm以上500nm以下、総膜厚Dの0.1μm以上10.0μm以下の範囲をそれぞれ逸脱するものである。そのため、比較品2の膜の硬さHは25.0GPaと試験品と比較して小さく、摩擦係数μは0.50であり、試験品と比較して大きな値となった。この結果から特に、A層22に係るクロム(Cr)の原子比aは0.2以上、モリブデン(Mo)の原子比bは0.6以下、酸素(O)の原子比zは0よりも大きく、A層の膜厚D1は500nm以下、総膜厚Dは10.0μm以下とすべきであり、またB層24はA層22の薄膜界面に挿入形成され、A層22とB層24とが交互に積層されるべきであることが検証され、本発明に係る硬質被膜10に求められる要件の意義が確かめられた。
また、比較品3は(Ti0.25Mo0.750.40.30.3から成る膜厚2500nmのA層の単層膜であり、A層においてチタン(Ti)が含有されており、クロム(Cr)が含有されておらず、モリブデン(Mo)の原子比bが0.75であり、酸素(O)の原子比zが0.3であるため、硬質被膜10のA層22に係る薄膜組成とは異なる元素チタン(Ti)が含有されており、クロム(Cr)の原子比aの0.2≦a≦0.7、モリブデン(Mo)の原子比bの0.05≦b≦0.6、酸素(O)の原子比zの0<z≦0.2をそれぞれ逸脱し、B層がA層の薄膜界面に挿入形成されていないため、硬質被膜10のA層22とB層24とが交互に積層されて成るという要件から逸脱し、A層が硬質被膜10に係るA層22の膜厚D1の2nm以上500nm以下の範囲を逸脱するものである。そのため、比較品3の膜の硬さHは19.0GPaと試験品と比較して小さく、摩擦係数μは0.59であり、試験品と比較して大きな値となった。この結果から特に、A層22に係るクロム(Cr)の原子比aは0.2以上、モリブデン(Mo)の原子比bは0.6以下、酸素(O)の原子比zは0.2以下、A層の膜厚D1は500nm以下とすべきであり、またB層24はA層22の薄膜界面に挿入形成され、A層22とB層24とが交互に積層されるべきであることが検証され、本発明に係る硬質被膜10に求められる要件の意義が確かめられた。
また、比較品4はTi0.750.10.10.05から成る膜厚20nmのA層と、W0.30.7から成る膜厚20nmのB層とが、交互に2層以上積層して形成された総膜厚6.00μmの多層膜であり、A層においてチタン(Ti)が含有されており、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)が含有されておらず、炭素(C)と窒素(N)と酸素(O)の原子比の総和x+y+zが0.25であるため、硬質被膜10のA層22に係る薄膜組成とは異なる元素チタン(Ti)が含有されており、且つクロム(Cr)の原子比aの0.2≦a≦0.7、モリブデン(Mo)の原子比bの0.05≦b≦0.6、炭素(C)と窒素(N)と酸素(O)の原子比の総和x+y+zの0.3≦x+y+z≦0.6を逸脱し、B層において窒素(N)の原子比fが0.7であるため、硬質被膜10のB層24に係る窒素(N)の原子比fの0.3≦f≦0.6の範囲を逸脱するものである。そのため、比較品4の膜の硬さHは22.0GPaと試験品と比較して小さな値となり、摩擦係数μは0.72であり、試験品と比較して大きな値となった。この結果から特に、A層22に係るクロム(Cr)の原子比aは0.2以上、モリブデン(Mo)の原子比bは0.05以上、炭素(C)と窒素(N)と酸素(O)の原子比の総和x+y+zは0.3以上、B層24に係る窒素(N)の原子比fは0.6以下とすべきことが検証され、本発明に係る数値範囲の意義が確かめられた。
また、比較品5は(Ti0.15Cr0.1Mo0.750.520.320.16から成る膜厚50nmのA層と、W0.80.2から成る膜厚60nmのB層とが、交互に2層以上積層して形成された総膜厚11.00μmの多層膜であり、A層においてチタン(Ti)が含有されており、クロム(Cr)の原子比aは0.1であり、モリブデン(Mo)の原子比bは0.75であるため、硬質被膜10のA層22に係る薄膜組成とは異なる元素チタン(Ti)が含有されており、クロム(Cr)の原子比aの0.2≦a≦0.7、モリブデン(Mo)の原子比bの0.05≦b≦0.6を逸脱し、B層において窒素(N)の原子比fが0.2であるため、硬質被膜10のB層24に係る窒素(N)の原子比fの0.3≦f≦0.6の範囲を逸脱し、総膜厚が硬質被膜10に係る総膜厚Dの0.1μm以上10.0μm以下の範囲を逸脱するものである。そのため、比較品5の膜の硬さHは24.0であり試験品と比較して小さな値となり、摩擦係数μは0.55であり試験品と比較して大きな値となった。この結果から特に、A層22に係るクロム(Cr)の原子比aは0.2以上、モリブデン(Mo)の原子比bは0.6以下、B層24に係る窒素(N)の原子比fは0.3以上、総膜厚Dは10.0μm以下とすべきことが検証され、本発明に係る数値範囲の意義が確かめられた。
また、比較品6は(Ti0.15Cr0.1Mo0.70.050.350.150.5から成る膜厚100nmのA層と、W0.40.6から成る膜厚150nmのB層とが、交互に2層以上積層されて形成された総膜厚8.00μmの多層膜であり、A層においてチタン(Ti)が含有されており、クロム(Cr)の原子比aは0.1であり、モリブデン(Mo)の原子比bは0.7であり、酸素(O)の原子比zは0.5であり、炭素(C)と窒素(N)と酸素(O)の原子比の総和x+y+zは0.65であるため、硬質被膜10のA層22に係る薄膜組成とは異なる元素チタン(Ti)が含有されており、クロム(Cr)の原子比aの0.2≦a≦0.7、モリブデン(Mo)の原子比bの0.05≦b≦0.6、酸素(O)の原子比zの0<z≦0.2、炭素(C)と窒素(N)と酸素(O)の原子比の総和x+y+zの0.3≦x+y+z≦0.6を逸脱するものである。そのため、比較品6の膜の硬さHは10.0GPaであり試験品と比較して小さな値となり、摩擦係数μは0.80であり試験品と比較して大きな値となった。この結果から特に、A層22に係るクロム(Cr)の原子比aは0.2以上、モリブデン(Mo)の原子比bは0.6以下、酸素(O)の原子比zは0.2以下、炭素(C)と窒素(N)と酸素(O)の原子比の総和x+y+zは0.6以下とすべきことが検証され、本発明に係る数値範囲の意義が確かめられた。
図7は硬質被膜10の摩擦摩耗試験における試験時間の経過に伴う摩擦係数μの移動平均値の推移を示すグラフである。図7において、縦軸は摩擦係数μ、横軸は試験開始からの経過時間(s)であり、プロットされているのは試験品を代表する試験品12、試験品17および試験品35と比較品を代表する比較品1、比較品6である。また、図7において、各試験品および比較品の摩擦係数μは、試験品12は実線で、試験品17は一点鎖線で、試験品35は二点鎖線で、比較品1は点線で、比較品6は破線でそれぞれ示されている。試験品12、17、35および比較品1、6のいずれも試験開始200秒前後からその摩擦係数は安定しているが、試験品12、17、35の摩擦係数は約0.3以下に収まるのに対して、比較品1、6の摩擦係数は約0.35以上である。また、試験品12、17、35は試験開始から200秒経過時までほぼなだらかに摩擦係数が大きくなっている一方、比較品1、6は試験開始から100秒経過時までの間に摩擦係数が一旦0.5付近まで上昇したのちにわずかに下降する現象が見られた。これにより、比較品1、6の耐摩耗性が十分ではないことが示される。
前記膜の硬さ試験および前記摩擦摩耗試験の結果から、表2に示された試験品1〜40は、膜の硬さHにおいて大きい値且つ摩擦係数μにおいて小さな値が得られ、高硬度且つ良好な耐摩耗性を有することが示された。一方、硬質被膜10に要求される薄膜組成、各元素の原子比、各膜厚および総膜厚の範囲を逸脱する比較品1〜6は、試験品1〜40と比較して膜の硬さHが小さく、摩擦係数μが大きな値であり、硬度および耐摩耗性が十分ではないことが示された。
また、硬質被膜10のA層22の薄膜組成中にホウ素(B)が含有される試験品31〜40は、A層22の微細組織構造において金属硼化物や窒化ホウ素(BN)が形成されることにより、膜の硬さおよび潤滑性が一層向上され、耐摩耗性および低摩擦性に優れると考えられた。
次に摩擦摩耗試験における溶着評価を行った。表2における耐溶着性は以下のようにして評価した。摩擦摩耗試験に供した試験品1〜40および比較品1〜6の各テストピース40の半球状端部48に形成された被削材46との摩擦による硬質被膜の摩耗痕を走査型電子顕微鏡(SEM)によりEDS成分分析を用いて酸素分析を行いマッピングし、酸化物の成分およびその量を分析した。なお、EDS成分分析においては酸素が存在すなわち酸化物が生成した領域は、それ以外の領域と視別し得る。上記EDS成分分析による各テストピース40の硬質被膜の摩耗痕における酸化物量から耐溶着性を評価した。すなわち、硬質被膜の摩耗痕に溶着がない場合、耐溶着性は優良(◎)、溶着部の面積が硬質被膜の摩耗痕の面積の20%以下の場合、耐溶着性は良好(○)、溶着部の面積が硬質被膜の摩耗痕の面積の50%以上の場合、耐溶着性は不良(×)と評価した。また、試験品1〜40を代表する試験品12、試験品35と比較品1〜6を代表する比較品6に係る硬質被膜の摩耗痕をマイクロスコープ(MICROSCOPE)および走査型電子顕微鏡(SEM)により拡大して観察した。
表2において、硬質被膜10が被覆された試験品1〜40の全てが耐溶着性について優良又は良好と評価された。それに対して、硬質被膜10に要求される条件を満たさない比較品1〜6の全ては耐溶着性が不良と評価された。
図8、図9および図10は、摩擦摩耗試験において用いられた試験品35、試験品12および比較品6のそれぞれにおけるテストピースの半球状端部の硬質被膜の摩耗痕の写真であり、図8(a)、図9(a)および図10(a)はマイクロスコープ(MICROSCOPE)により撮影した写真、図8(b)、図9(b)、図10(b)は走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した写真、図8(c)、図9(c)、図10(c)はSEMによるEDS分析の酸素分析結果を示す写真である。表2および図8において、硬質被膜10が被覆され、摩擦係数μが0.17と小さい試験品35はその硬質被膜10に摩耗痕はほとんど観察されず、図8(c)に示されるEDS分析結果において溶着は見られなかったため、耐溶着性は優良と評価された。また、表2および図9において、硬質被膜10が被覆され、摩擦係数μが0.24と小さい試験品12は、図9(c)に示されるようにその硬質被膜10の摩耗痕に摩耗痕の面積の20%以下に相当する範囲で溶着が観察されたため、耐溶着性は良好と評価された。それに対して、表2および図10において、硬質被膜10に要求される条件を満たさない被膜が被覆され、摩擦係数μが0.80と大きい比較品6は、図10(c)における○で囲んだ領域において、その被膜の摩耗痕に摩耗痕の面積の50%以上に相当する範囲にわたってチタン(Ti)の酸化物および超硬圧子の酸化物と考えられる溶着が観察されたため、耐溶着性は不良と評価された。
以上の溶着評価から、硬質被膜10が被覆された試験品1〜40は、摩耗による硬質被膜中のモリブデン(Mo)、タングステン(W)およびバナジウム(V)のそれぞれの酸化物が自己形成することにより固体潤滑粒子が生成することから、低摩耗性を有すると考えられた。
次に、高硬度且つ耐摩耗性に優れる試験品1〜40のそれぞれの硬質被膜10におけるA層22について、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察を行った。図11は試験品1の硬質被膜10におけるA層22の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)により撮影した写真である。その結果、A層22においては、図11における格子縞が観察される領域である微細な結晶粒から成る結晶(δ−(Cr、Mo、W、V)Nおよびγ−MoNなど)54と、それ以外の領域である酸素(O)を含むアモルファス相56との複相組織が形成されていた。このようなA層22を有する試験品1は、微細な結晶粒から成る結晶54が存在するため膜の硬さHが31.2GPaと高硬度であると共に、A層22において酸素(O)を含むアモルファス相56が存在するため、摩耗によるモリブデン(Mo)、タングステン(W)およびバナジウム(V)酸化物の形成が促進されることから摩擦係数μが0.29と良好な耐摩耗性および耐溶着性を有する。
上述のように、本実施例の硬質被膜10すなわち試験品1〜40によれば、工具母材14の表面に設けられ、(CrMo1−x−y−zの酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成るA層22と、W(1−f)の窒化物から成るB層24とが、交互に2層以上積層されて形成されるものであり、A層22に係る原子比aは0.2≦a≦0.7、bは0.05≦b≦0.6、cは0≦c≦0.3、dは0≦d≦0.05、e=1−a−b−c−dは0≦e≦0.05、xは0≦x≦0.6、yは0≦y≦0.6、zは0<z≦0.2、x+y+zは0.3≦x+y+z≦0.6であり、B層24に係る原子比fは0.3≦f≦0.6であり、且つ、A層22の膜厚D1は2nm以上500nm以下、B層24の膜厚D2は1nm以上500nm以下、総膜厚Dは0.1μm以上10.0μm以下の範囲内であるため、積層されたA層22にはMo、WおよびVの酸化物、酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成る微細組織が形成されることにより被膜の硬度が高められ、且つMo、WおよびVの酸化物、酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物は固体潤滑性を有していることにより被膜の潤滑性が高められるので、硬質且つ耐摩耗性を有する硬質被膜10およびエンドミル12を得ることができる。
また、本実施例の硬質被膜10すなわち試験品1〜40によれば、A層22は結晶相54とアモルファス相56とが混在した複相組織である。このように、Mo、WおよびVの酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成る微細なNaCl構造の結晶相(δ−(Cr、Mo、W、V)Nおよびγ−MoNなど)54とアモルファス相56との複相組織が形成されることにより、硬質且つ耐摩耗性を有する硬質被膜10およびエンドミル12を得ることができる。
以上、本発明を表及び図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
たとえば、前述の実施例では、硬質被膜10におけるA層22及びB層24の積層順は、好適には、図2に示すように工具母材14側からA層22、B層24、・・・、A層22、B層24の順で積層されたものである。すなわち、硬質被膜10の基層(工具母材14と接する最下層)はA層22とされ、表層(硬質被膜10の最上層)は、B層24とされたものであるが、必ずしも斯かる構成には限定されず、上記基層がB層24とされ、上記表層がA層22あるいはB層24とされたものであっても、上記基層及び表層のいずれもがA層22とされても本発明の一応の効果を奏する。
また、前述の実施例では、硬質被膜10はエンドミル12に被覆されたものであったが、これに限定されるものではなく、たとえばドリル、タップ、ダイスなど切削工具や、打ち抜き、曲げなどの金属加工用金型などの金属加工工具に被覆されるものであってもよい。
また、前述の実施例では、エンドミル12の形成に際し、硬質被膜10はスパッタリング装置26により被覆されるものであったが、これに限定されるものではなく、たとえば、アークイオンプレーティング法などの他の物理蒸着法(PVD法)や、プラズマCVD法、熱CVD法などの化学蒸着法(CVD法)を用いて硬質被膜10が被覆されてもよい。
10:硬質被膜(硬質潤滑被膜)
12:エンドミル(硬質潤滑被膜被覆工具)
22:A層
24:B層

Claims (3)

  1. 母材の表面に被覆される硬質潤滑被膜であって、
    (CrMo1−x−y−zの酸炭化物、酸窒化物または酸炭窒化物から成るA層と、W(1−f)から成るB層とが、交互に2層以上積層された硬質潤滑被膜であって、
    前記A層に係る原子比aは0.2≦a≦0.7、bは0.05≦b≦0.6、cは0≦c≦0.3、dは0≦d≦0.05、e=1−a−b−c−dは0≦e≦0.05、xは0≦x≦0.6、yは0≦y≦0.6、zは0<z≦0.2、x+y+zは0.3≦x+y+z≦0.6であり、
    前記B層に係る原子比fは0.3≦f≦0.6であり、
    且つ、前記A層の膜厚は2nm以上500nm以下、前記B層の膜厚は1nm以上500nm以下、総膜厚は0.1μm以上10.0μm以下の範囲内であることを特徴とする硬質潤滑被膜。
  2. 前記A層は結晶相とアモルファス相とが混在した複相組織であることを特徴とする請求項1に記載の硬質潤滑被膜。
  3. 請求項1または2の硬質潤滑被膜により被覆されたことを特徴とする硬質潤滑被膜被覆工具。
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