JP6167802B2 - 溶銑の精錬方法 - Google Patents
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Description
また、製鋼プロセスにおいて、精錬材の滓化促進材として、CaF2(蛍石)などのハロゲン化物が使用されてきた。しかし、環境問題に対する社会的関心が高まる中、フッ素は水中への溶出が問題とされており、その代替としてAl2O3が広く利用されるようになった。このAl2O3源として、市販のプリメルトフラックスを使用できるが、例えば、Al2O3を含有した廃棄耐火物や取鍋等のスラグを利用することで、廃棄物削減としてのリサイクル効果もある。
しかしながら、上記した精錬材の滓化促進効果やリサイクル効果の向上のため、Al2O3の添加量を増加させるに伴い、スラグフォーミングが発生し易くなるとと共に、一般に転炉耐火物として利用されているMgO系煉瓦の溶損が顕著になることから、Al2O3の添加量増加には限界があった。
特許文献1には、転炉吹錬において、りん濃度0.04%未満、珪素濃度0.1%以下の溶銑を、蛍石などのハロゲン化物を使用せずに、スラグ中のAl2O3濃度を3.5%以上とすることで、脱りん能を確保した精錬方法が開示されている。
また、特許文献2には、スラグ中のAl2O3濃度が3.5%を超えると、転炉耐火物の溶損が急激に増加するため、Al2O3濃度を1.0〜3.5%に規定した精錬方法が開示されている。
なお、本明細書においては、特に断りがない限り、濃度や化学成分に関する「%」は「質量%」を意味する。
特許文献1の技術には、スラグ中のAl2O3濃度の上昇による転炉耐火物の溶損顕著化についての記述がある。しかし、Al2O3濃度の影響についての具体的な記載はなく、また、転炉耐火物の溶損抑制方法についても記載がない。
また、特許文献2の技術では、スラグ中のAl2O3濃度が低く設定されているため、前記したAl2O3の添加量増加に対応できず、例えば、Al2O3を含有した廃棄耐火物や取鍋等のスラグのリサイクルによる廃棄物の削減を促進するには、別の対策が必要である。
前記精錬炉内に、脱炭処理後の該精錬炉内のスラグ中Al2O3濃度が3.5質量%以上10質量%以下となるように前記Al2O3源を添加すると共に、脱炭処理後の前記精錬炉内のスラグの質量に対して内数で7質量%を超える量のMgOを含むMgO含有造滓材を更に添加し、かつ、
前記精錬炉の溶銑装入開始から出鋼及び排滓完了までに要する時間を30分以内にする。
従って、滓化促進材となるAl2O3源を多量に添加しても、スラグフォーミングを抑制すると共に耐火物の溶損抑制が可能となる。
まず、従来行われている溶銑の精錬方法について、簡単に説明する。
溶銑は、予め脱珪及び脱りんの溶銑予備処理が行われたものである。
なお、上記した溶銑は、通常の溶銑予備処理が行われたものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、成分が、C:3.4〜4.0%、Si:0.01〜0.10%、P:0.005〜0.045%のものである。
なお、転炉装入時の溶銑温度は、1280〜1350℃程度である。
続いて、転炉内にランスを挿入し、上吹き酸素を流すことにより吹錬を開始して、脱炭処理を行う。
この吹錬の開始前又は吹錬の初期に、一般的な副原料であるCaO源やSiO2源等と共に、Al2O3源を転炉に添加する。
なお、吹錬の初期とは、例えば、吹錬の開始から終了までの時間を100%として、吹錬開始から10%程度までの範囲を意味する。これらの副原料は、必ずしも同時に添加する必要はなく、個別に断続的に添加してよいが、滓化促進材であるハロゲン化物は添加しない。
なお、Al2O3含有廃材には、例えば、Al2O3を含有した廃棄耐火物を使用でき、また、Al2O3含有副産物には、例えば、取鍋スラグを使用できる。
なお、脱炭処理後の溶鋼は、例えば、成分が、C:0.03〜1.0%、P:0.005〜0.021%、であり、温度が1650〜1720℃程度である。
上記したように、転炉への溶銑装入開始から、転炉からの出鋼及び排滓完了までの操作(即ち、1サイクル)を順次行うことで、溶鋼を製造できる。
しかし、転炉内にAl2O3を添加する場合、転炉耐火物として一般に利用されているMgO系煉瓦(例えば、マグカーボン煉瓦)の溶損が顕著になることから、Al2O3の添加量増加には限界があった。
表1から、Al2O3濃度の増加に伴い、スラグの飽和MgO濃度が増加していることがわかる。このため、滓化促進材としてAl2O3を添加すると、煉瓦中のMgOがスラグへ溶出する量が増えることになり、煉瓦の溶損が進行すると考えられる。なお、この結果は、熱力学的平衡状態におけるバランスで求めたものであり、反応速度は考慮されていない。
そこで、上記した結果から、煉瓦の溶損を抑制するためには、Al2O3を含むスラグの煉瓦への接触時間を短縮して、熱力学的平衡状態にまで至らないようにすることが有効であると考えた。
以上のことから、次に、前記した転炉への溶銑装入、吹錬、出鋼待ち、出鋼、排滓、という処理サイクルのサイクルタイム(1チャージあたり要する時間)が、煉瓦の溶損速度に及ぼす影響を、調査検討した。
なお、上記条件で脱炭処理を行うに際しては、脱炭処理後の転炉内のスラグの平均塩基度を3.5〜4.0とし、該スラグ中の平均Al2O3濃度が3〜14%となる範囲で転炉内にAl2O3源を添加し、更に添加するMgO含有造滓材の(脱炭処理後のスラグの全質量に対する内数で)平均MgO濃度(以下、インプットMgO濃度という)が3〜14%になるように調整した。ここで、上記した塩基度は、溶銑予備処理を行った溶銑の精錬において、Al2O3を使用することも考慮し、溶銑の脱りん能に必要な値を考慮して設定した。
なお、図1において、区間溶損速度(mm/ch)とは、同一炉代の炉回数(処理チャージ数)のうち、ある一定区間(ある処理チャージ数区間(ch))における1チャージ(ch)当たりの煉瓦の溶損厚み(mm)、即ち、ある一定区間での溶損速度(傾き)を意味している。つまり、区間溶損速度が遅い(値が小さい)ほど、煉瓦の溶出を低減できることを意味する。なお、煉瓦の厚みは、公知のレーザプロフィールメータにより測定した。
図1に示すように、サイクルタイムが短くなると、区間溶損速度が低下し、特に、サイクルタイムが30分以内であれば、区間溶損速度の上昇を抑制できる(区間溶損速度を0.20mm/ch未満に低減できる)ことが判明した。
図2に示すように、サイクルタイムに対する出鋼待ちの時間比率が低いほど、即ち、出鋼待ち時間が短くなるほど、煉瓦の区間溶損速度が低下したことから、区間溶損速度の低下には、出鋼待ち時間の短縮の効果が大きいことも判明した。
これは、吹錬処理後の溶鋼温度が高温であることが影響しているものと考えられる。このため、区間溶損速度の低下には、溶鋼温度が高温となる脱炭処理の時間短縮の効果も大きいものと考えられる。
しかし、スラグ中のAl2O3濃度が増加するに伴い、スラグがフォーミングするため、サイクルタイムを30分以下に安定して短縮するためには、何らかの対策を必要とする。
そこで、スラグのフォーミングを抑制するため、前記したように、吹錬の開始前又は吹錬の初期に転炉内にAl2O3源を添加するに際し、MgO含有造滓材も併せて添加して、その添加効果を調べることにした。
なお、MgO含有造滓材の添加時期は、吹錬の初期であれば特に限定されるものではなく、Al2O3源と同時でもよいし、また、いずれが先でもよい。この造滓材には、例えば、MgOを含有した市販の材料や、軽焼ドロマイト等を使用できる。
ここで、前記した溶銑条件と脱炭処理条件において、インプットMgO濃度別に、転炉のサイクルタイムと、Al2O3濃度の変化に対する溶出MgO濃度の変化を、チャージ単位でマスバランス調査した結果について、図3(A)、(B)、図4(A)、(B)を参照しながら説明する。
なお、インプットMgO濃度とは、脱炭処理後の転炉内スラグの全質量を分母として、MgO含有造滓材中のMgO質量を分子とした場合の100分率であり、溶出MgO濃度(溶出(%MgO))とは、実際のスラグ中MgO濃度の分析値と、上記計算により求めたインプットMgO濃度との差である。
従って、この溶出MgO濃度の値が正(プラス)であれば、その正のMgO濃度分は、MgO含有造滓材中のMgO以外のMgO源からスラグ中に移行したものと考えられ、具体的には、転炉煉瓦のMgOがその起源と考えられる。
しかし、インプットMgO濃度を6〜7%(▲印)にすると、溶出MgO濃度の値のレベルが小さくなったことに加えて、Al2O3濃度が高くなった場合の溶出MgO濃度の上昇への影響も小さくなっていた。
ただし、滓化促進効果を安定的に発揮させるためには、Al2O3濃度を3.5%以上にすることが効果的と分かっていることや、前記した特許文献2の記載で3.5%超で転炉耐火物の溶損が急激に増加すると分かっていることから、スラグ中Al2O3濃度の下限値は3.5%としておくことが適当と考えられる。この場合、溶出MgO濃度を安定して小さくするために、インプットMgO濃度を7%超にしておく必要がある。
また、このインプットMgO濃度を7%超と高くしておくことにより、スラグのフォーミングも抑制されるので、サイクルタイムが30分以内の高能率吹錬が安定して達成されるという効果もある。なお、インプットMgO濃度を3〜5%と低くした場合にも、スラグフォーミング抑制効果はある程度認められ、それゆえに、サイクルタイムを30分以下にすることができたのであるが、その効果は十分でない場合もあって、一部ではサイクルタイムを予定した30分以内に収めることができなかった。
また、インプットMgO濃度を高くしても、その溶出MgO低減効果が更に高まる訳ではなく、全体としてのスラグ量が多くなってしまうし、またMgO含有造滓材のコストも嵩むため、実際上今回調査した14%以下で十分である。なお、コスト面を重視するなら、インプットMgO濃度は8%以下とすることが好ましい。
図4(A)に示すように、インプットMgO濃度を3%以上7%以下の範囲で変化させた場合、上記した図3(A)と同様、Al2O3濃度が上昇するに伴って、溶出MgO濃度も上昇する傾向にあった。
また、図4(B)に示すように、インプットMgO濃度を7%超10%以下の範囲で変化させた場合にも溶出MgO濃度が小さくならず、上記した図3(B)と比較して、インプットMgO濃度を7%超にして溶出MgO濃度を低減する効果を確認できなかった。
一方、造滓材のインプットMgO濃度の上限値については、インプットMgO濃度を7%超とすることで、スラグのフォーミング抑制や、煉瓦の溶損抑制効果が得られるため、特に規定する必要はない。しかし、インプットMgO濃度を高め過ぎても、前記したように、溶出MgOの低減効果の更なる顕著な向上はなく、また、全体としてのスラグ量の増加や、造滓材のコストの増加、更には、造滓材の入れ過ぎに伴う不要なコストの上昇(例えば、熱ロスに伴う熱の付与)を招くため、現実的には、14%(更には8%)以下程度である。
一方、スラグ中のAl2O3濃度の上限値については、Al2O3濃度の上昇と共に、例えば、前記した製鉄所で発生するAl2O3含有廃材やAl2O3含有副産物の使用量を増加できるため、特に規定していない。しかし、Al2O3濃度を高め過ぎると、それに伴う造滓材の添加量の不要な増加を招き、また、前記したように、スラグフォーミングの吹錬安定性への影響が現れてくるため、現実的には、10%以下程度である。
一方、転炉のサイクルタイムの下限値については、煉瓦の溶損を抑制する観点から、サイクルタイムを短縮することが好ましいため、特に規定していないが、転炉操業を考慮すれば、現実的には、19分程度である。なお、サイクルタイムの短縮方法としては、転炉から溶銑が溢れ出さない範囲で、吹錬時の吹酸速度を調整(上昇)する方法等がある。
実施例と比較例は共に、溶銑成分(溶銑条件)が、C:3.4〜4.0%、Si:0.01〜0.10%、P:0.005〜0.045%の範囲内、温度が1280〜1350℃の範囲内にある溶銑80トンを、上底吹き転炉へ装入し、上吹き酸素の供給開始とほぼ同時に(上吹き酸素の供給開始から30秒間以内に)、副原料として生石灰と珪砂のほか、Al2O3源として取鍋スラグを、MgO含有造滓材として軽焼ドロマイトを、それぞれ必要量添加して、脱炭処理を実施した。なお、脱炭処理後の終点成分(終点結果)は、C:0.03〜1.0%、P:0.005〜0.021%の範囲内で、終点温度が1650〜1720℃の範囲内、である。
ここで、転炉処理条件とその処理結果、及び区間溶損速度の平均値の一覧を、表2に示す。なお、表2に記載のサイクルタイム及び区間溶損速度のデータは、前記した図1、図2で説明した方法により得た結果である。
表2に示すように、区間溶損速度は0.13〜0.15mm/chと低く、また、比較的バラツキも小さく、安定していた。
表2に示すように、区間溶損速度は実施例よりも大きい0.20〜0.23mm/chとなった。これは、インプットMgO濃度が低いため、スラグの飽和MgO濃度とインプットMgO濃度の差が大きく、煉瓦溶損の駆動力が大きくなったことで、溶損が進行したことによるものと考えられる。
表2に示すように、サイクルタイムが長くなるに伴い、区間溶損速度も0.21〜0.26mm/chと大きくなった。これは、転炉の煉瓦とスラグとの接触時間が長くなったことで、スラグ中のMgO濃度がより飽和MgO濃度へ近づくため、溶損が進行したものと考えられる。
Claims (2)
- 予め脱珪及び脱りんの溶銑予備処理を実施した溶銑を精錬炉に装入し、該精錬炉内にAl2O3源を添加して脱炭処理を行った後、前記精錬炉からの出鋼及び排滓を行う溶銑の精錬方法において、
前記精錬炉内に、脱炭処理後の該精錬炉内のスラグ中Al2O3濃度が3.5質量%以上10質量%以下となるように前記Al2O3源を添加すると共に、脱炭処理後の前記精錬炉内のスラグの質量に対して内数で7質量%を超える量のMgOを含むMgO含有造滓材を更に添加し、かつ、
前記精錬炉の溶銑装入開始から出鋼及び排滓完了までに要する時間を30分以内にすることを特徴とする溶銑の精錬方法。 - 請求項1記載の溶銑の精錬方法において、前記精錬炉への前記Al2O3源の添加は、製鉄所で発生するAl2O3含有廃材及びAl2O3含有副産物のいずれか一方又は双方を用いて行うことを特徴とする溶銑の精錬方法。
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