EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1は、多層反射膜12が形成されるのとは反対側のガラス基板11の面(裏面)に、静電チャッキングを促進するための導電膜18を有する場合がある。本発明者らは、反射型マスクブランク1に発生する欠陥について検証を重ねた結果、反射型マスクブランク1では、タンタルを含有する導電膜18の膜応力が時間の経過とともに圧縮応力の傾向が強くなるとの知見を得た。
そこで、本発明者らは、ガラス基板11に成膜直後のタンタルを含有する導電膜18が、時間の経過とともに、圧縮応力が増大する原因について鋭意研究を行った。まず、導電膜18を成膜した後の導電膜付きガラス基板の保管方法に原因がないかを確認するため、種々の保管ケースや保管方法で検証したが、何れの場合も、導電膜付きガラス基板の主表面71の平坦度が経時的に変化しており、明確な相関性は得られなかった。次に、主表面71の平坦度が凸形状の方向に変化した導電膜付きガラス基板に対して、ホットプレートを用いて加熱処理を行ってみた。加熱処理の条件は、200℃で5分程度とした。この加熱処理を行うと、一時的には主表面71の凸形状が多少良好な方向に変化した。しかし、加熱処理後、時間が経過すると導電膜付きガラス基板の主表面71の平坦度が再び変化していき、根本的な解決には至らないことがわかった。
なお、ガラス基板11の「主表面71」とは、図5に例示するように、ガラス基板11周縁部(側面72及び面取面73)を除く表面のことをいう。すなわち、ガラス基板11の「主表面71」とは、図5において、対向する2つの「主表面71」として示される表面をいう。
次に、本発明者らは、タンタルを含有する材料は、水素を取り込みやすい特性を有することが関係している可能性を検討した。すなわち、タンタルを含有する導電膜18中に、時間の経過とともに徐々に水素が取り込まれ、圧縮応力が増大するという仮説を立てた。ただ、この時間経過で圧縮応力が増大する現象が生じた導電膜付きガラス基板は、従来の知見では水素が取り込まれる要因が見当たらないものであった。この導電膜付きガラス基板に使用しているガラス基板11は、合成石英ガラス又は低熱膨張の特性を有するSiO2−TiO2系ガラス等のガラス材料で構成され、ガラス材料中に少なからず水素が取り込まれている。
タンタルを含有する導電膜18中に成膜終了からの時間経過で水素が取り込まれているのかどうかを確認するため、以下の検証を行った。具体的には、タンタルを含有する材料からなる導電膜18を備える導電膜付きガラス基板について、成膜してからケースに収納して2週間程度と日数がさほど経過しておらず、導電膜18の平坦度の変化が見られない導電膜付きガラス基板と、成膜してからケースに収納して4カ月が経過しており、導電膜18の圧縮応力が増大して平坦度が変化(ガラス基板11の主表面71の中心を基準とした一辺が142mmの正方形の内側領域におけるCoordinate TIRでの平坦度において、平坦度の変化量が300nm程度)した導電膜付きガラス基板のそれぞれに対して、膜組成の分析を行った。膜分析はHFS/RBS分析法(水素前方散乱分析法/ラザフォード後方散乱分析法)を用いた。その結果、成膜してから2週間程度の導電膜18中は、水素含有量が検出下限値以下であったのに対し、成膜してから4カ月経過した導電膜18は、水素が6原子%程度含有されていることが判明した。
これらの結果から、成膜後のタンタルを含有する導電膜18に水素が取り込まれていくことで膜応力が変化していることが確認された。次に、本発明者らは水素の発生源としてガラス基板11を疑った。そこで、本発明者らは、ガラス基板11の主表面71の平坦度や表面粗さを、反射型マスクブランク1用のガラス基板11として求められる水準以上になるまで研磨を行った後、ガラス基板11から導電膜18へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜17をガラス基板11に形成した。その後、タンタルを含有する材料からなる導電膜18を成膜して上記と同様の検証を行った。その結果、水素侵入抑制膜17を形成したガラス基板11を用いた導電膜付きガラス基板の場合、成膜後4か月経過したものでも、平坦度の変化度合いは小さく、また膜中の水素含有量も抑制されていた。
導電膜付きガラス基板のガラス基板11に、水素の発生源となるOH基、水素及び水等が存在する要因としては、ガラス材料の他に以下の可能性が考えられる。
通常、反射型マスクブランク1に用いられるガラス基板11に求められる主表面71の平坦度や表面粗さの条件は厳しく、ガラスインゴットからガラス基板11の形状に切り出した状態のままでは、反射型マスクブランク1用のガラス基板11としてはその条件を満たすことは困難である。切り出した状態のガラス基板11に対して、研削工程及び研磨工程を複数段階行い、主表面71を高い平坦度及び表面粗さに仕上げていく必要がある。また、研磨工程で使用される研磨液には、研磨材としてコロイダルシリカ砥粒が含まれている。コロイダルシリカ砥粒はガラス基板11の表面に付着しやすいことから、複数の研磨工程の間や後に、ガラス基板11の表面をエッチングする作用を有するフッ酸や珪フッ酸を含有する洗浄液を用いて洗浄することも通常に行われている。
研削工程や研磨工程では、ガラス基板11の表層に加工変質層が形成されやすく、その加工変質層にOH基や水素が取り込まれている可能性がある。また、このとき加工変質層からさらにガラス基板11の内部にOH基や水素が取り込まれている可能性がある。研磨工程間等の洗浄時において、ガラス基板11の表面を微小にエッチングするときにもOH基や水素が取り込まれている可能性もある。さらに、ガラス基板11の表面に水和層が形成されている可能性もある。
本発明は、以上のことを考慮してなされたものである。すなわち、本発明のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランク1は、ガラス基板11上に、EUV光を反射する多層反射膜12が形成され、さらに多層反射膜12が設けられた面に対して反対側の面に導電膜18が形成された多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランク1であって、導電膜18が、タンタルを含有し、かつ水素を実質的に含有しない材料からなり、ガラス基板11と導電膜18との間にガラス基板11から導電膜18へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜17を備えることを特徴とする。
本発明の多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランク1は、ガラス基板11と、タンタルを含有する導電膜18との間に、ガラス基板11から導電膜18へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜17を備えることにより、タンタルを含有する導電膜18中に水素が取り込まれることを抑制でき、導電膜18の圧縮応力の増大を抑制することができる。
図1は本発明の反射型マスクブランク1の一例の断面模式図、図2は本発明により得られる反射型マスク2の一例の断面模式図である。また、図3は本発明の反射型マスク2の製造方法にかかる概略工程の一例を示す断面模式図である。本発明の多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランク1では、ガラス基板11上に、EUV光を反射する多層反射膜12が形成される。なお、本発明でいうEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板とは、ガラス基板11上に、EUV光を反射する多層反射膜12が形成されたものである。また、本発明でいうEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板は、ガラス基板11上に、EUV光を反射する多層反射膜12と、さらに、多層反射膜12上に、吸収体膜パターン形成時に多層反射膜12を保護する保護膜13(キャッピング層)とが形成されたものも含む。また、本発明のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板は、後述する欠陥の位置情報の基準となるマークを、リソグラフィープロセスにより多層反射膜12や保護膜13に形成する場合には、多層反射膜12や保護膜13上にレジスト膜19が形成されたものも含む。
本発明の反射型マスク2の製造方法に用いる反射型マスクブランク1の例は、図1に示すように構成されている。すなわち、図1の例は、ガラス基板11上に、順に、EUV領域を含む短波長域の露光光を反射する多層反射膜12、吸収体膜パターン形成時及び吸収体膜パターン修正時に多層反射膜12を保護する保護膜13、及びEUV領域を含む短波長域の露光光を吸収する吸収体膜16を有してなり、この吸収体膜16は、本実施形態では下層を、EUV領域を含む短波長域の露光光吸収体層14とし、上層を、吸収体膜パターンの検査に使用する検査光に対する低反射層15とした二層構造で構成された反射型マスクブランク1である。
また、図2に示すように、本発明により得られる反射型マスク2は、上記のような反射型マスクブランク1における吸収体膜16(すなわち低反射層15及び露光光吸収体層14)がパターン状に形成されたものである。なお、上記のような積層構成の吸収体膜16を備える反射型マスク2において、マスク表面の吸収体膜16を、露光光を吸収する層と、マスクパターン検査波長に対して反射率の小さい層とにそれぞれ機能を分離して積層構成することにより、マスクパターン検査時のコントラストを十分得ることができる。
本発明により得られる反射型マスク2は、従来のフォトリソグラフィー法による転写限界を上回るより微細なパターンの転写を可能とするため、EUV光の領域を含む短波長域の光を使用するリソグラフィーに用いられ、EUV露光光用の反射型マスク2として使用することができるものである。
本発明のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板に用いる基板11は、良好な平滑性及び平坦度が得られることから、ガラス基板11を好ましく用いることができる。具体的には、基板11の材料として、合成石英ガラス、及び低熱膨張の特性を有するSiO2−TiO2系ガラス(2元系(SiO2−TiO2)及び3元系(SiO2−TiO2−SnO2等))、例えばSiO2−Al2O3−Li2O系の結晶化ガラス、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスなどを挙げることができる。
ガラス基板11は0.2nmRms以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることが高反射率及び転写精度を得るために好ましい。なお、本発明において平滑性を示す単位Rmsは、二乗平均平方根粗さであり、原子間力顕微鏡で測定することができる。また、本発明における平坦度は、TIR(total indicated reading)で示される表面の反り(変形量)を示す値である。これは、ガラス基板11の表面を元に最小二乗法で定められる平面を焦平面としたとき、この焦平面より上にあるガラス基板11の表面の最も高い位置と、焦平面より下にある最も低い位置の高低差の絶対値である。平滑性は10μm角エリアでの平滑性、平坦度は142mm角エリアでの平坦度で示している。
ガラス基板11の主表面71上に形成される多層反射膜12は、EUV領域を含む短波長域の露光光を反射する材質で構成される。多層反射膜12は、EUV光などの短波長域の光に対する反射率が極めて高い材質で構成することが反射型マスク2として使用する際のコントラストを高められるので特に好ましい。例えば、12〜14nm程度の軟X線領域であるEUV光の多層反射膜12としては、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)の薄膜を交互に積層した周期積層膜が代表的である。通常は、これらの薄膜(数nm程度の厚さ)を40〜60周期(層数)繰り返して積層し多層反射膜12とする。EUV光の領域で使用されるその他の多層反射膜の例としては、Ru/Si周期多層反射膜、Mo/Be周期多層反射膜、Mo化合物/Si化合物周期多層反射膜、Si/Nb周期多層反射膜、Si/Mo/Ru周期多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層反射膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層反射膜などが挙げられる。この多層反射膜12の成膜は、例えばイオンビームスパッタ法やマグネトロンスパッタリング法などを用いて行う。
本発明の多層反射膜付き基板は、ガラス基板11の多層反射膜12が設けられた主表面71に対して反対側の主表面71(「裏面」という。)に導電膜18が形成される構造を有する。本発明の多層反射膜付き基板は、導電膜18がガラス基板11の裏面上だけでなく、その裏面に接する面取面73にまで形成されている場合も含まれる。さらには、その面取面73に接する側面72の少なくとも一部にまで形成されている場合も含まれる。図5にガラス基板11の側面72及び面取面73を例示する。
導電膜18は、タンタルを含有し、かつ水素を実質的に含有しない材料であることにより、静電チャック時における導電膜18の耐摩耗性及び薬液耐性を向上することができる。
タンタルは水素を取り込むと脆性化する特性を有するため、タンタルを含有する材料からなる導電膜18を成膜した直後の状態でも水素の含有量を抑制することが望まれる。このため、本発明の多層反射膜付き基板では、ガラス基板11の主表面71上に形成する導電膜18には、タンタルを含有し、かつ水素を実質的に含有しない材料を選定している。「水素を実質的に含有しない」とは、導電膜18中の水素含有量が少なくとも5原子%以下であることをいう。導電膜18中の水素含有量の好ましい範囲は、3原子%以下であることが好ましく、検出下限値以下であることがより好ましい。また、同様の理由で、本発明の多層反射膜付き基板を作製する際の導電膜18を成膜する工程では、ガラス基板11を成膜室内に設置し、タンタルを含有するターゲットを用い、水素を含有しないスパッタガスを成膜室内に導入し、ガラス基板11の主表面71上に形成された水素侵入抑制膜17上に、スパッタリング法によって導電膜18を形成することが好ましい。
ガラス基板11上に設けられる導電膜18を形成するための材料、すなわちタンタルを含有し、かつ水素を実質的に含有しない材料としては、例えば、タンタル金属、並びにタンタルに、窒素、酸素、ホウ素及び炭素から選択される一以上の元素を含有し、水素を実質的に含有しない材料などが挙げられる。導電膜18は、具体的には、Ta、TaN、TaO、TaON、TaB、TaBN、TaBO、TaBON、TaSi、TaSiN、TaSiO及びTaSiONから選択した材料の一種類薄膜又は二種類以上の複数の薄膜であることができる。また、耐摩耗性を向上し、パーティクル発生を抑制するために、導電膜18は、表面平滑性の高い非晶質(アモルファス)構造であることが好ましい。なお、上述の材料は、本発明の効果が得られる範囲で、タンタル以外の金属を含有することができる。
本発明の多層反射膜付き基板の導電膜18は、タンタル及び窒素を含有し、かつ水素を実質的に含有しない材料を含むことができる。タンタルに窒素を含有させることで、導電膜18中のタンタルの酸化を抑制することができる。
耐摩耗性及び薬液耐性の観点から、導電膜18の材料として、TaBN及び/又はTaNを用いることが好ましく、TaBN/Ta2O5又はTaN/Ta2O5を用いることがさらに好ましい。導電膜18は、単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。
導電膜18がTaB薄膜の場合の組成比は、Bを5〜25原子%含み、残部がTaであることが好ましい。導電膜18がTaBNの場合の組成比は、Bを5〜25原子%、Nを5〜40原子%含み、残部がTaであることが好ましい。導電膜18がTaNの場合の組成比は、Nを5〜40原子%含み、残部がTaであることが好ましい。導電膜18がTaOの場合の組成比は、Oを1〜20原子%含み、残部がTaであることが好ましい。
なお、タンタル以外にも水素を取り込みやすい性質を有する金属があるが、これらの導電膜18の材料中のタンタルを他の水素を取り込みやすい性質を有する金属に置換した場合も、本発明と同様の効果が得られる。他の水素を取り込みやすい性質を有する金属としては、ニオブ、バナジウム、チタン、マグネシウム、ランタン、ジルコニウム、スカンジウム、イットリウム、リチウム及びプラセオジムなどが挙げられる。また、タンタルと、これらの水素を取り込みやすい性質を有する金属群から選択される2以上の金属とからなる合金についても同様の効果が得られる。これらの金属又は合金を含有する材料からなる導電膜18をガラス基板11に形成する場合にも、水素侵入抑制膜17を、導電膜18とガラス基板11との間に挿入することは有効である。
静電チャックが適性に動作するために、導電膜18のシート抵抗は好ましくは200Ω/□以下、より好ましくは100Ω/□以下、さらに好ましくは75Ω/□以下、特に好ましくは50Ω/□以下であることができる。シート抵抗は、導電膜18の組成及び膜厚を調整することにより、適切なシート抵抗の導電膜18を得ることができる。
また、本発明の多層反射膜付き基板の導電膜18は、薬液耐性の観点から、酸素を60原子%以上含有する高酸化層が、導電膜18の表層(ガラス基板11の主表面71とは反対側の導電膜18の表層、すなわち水素侵入抑制膜17とは反対側の導電膜18の表層)に形成されていることが好ましい。上述のように、水素はガラス基板11からだけでなく、反射型マスクブランク1を取り囲む気体中の水素も導電膜18表面から内部に入り込む。導電膜18の表層の高酸化物の被膜には、未結合のタンタル金属が存在し得ず、高酸化物の被膜は水素の導電膜18内への侵入を阻止する特性を有する。また、タンタルを含有する材料の高酸化層(タンタル高酸化層)は、優れた耐薬性及び耐温水性も兼ね備える。高酸化層の耐性が高いことにより、水素の侵入を阻止する機能を高い状態のまま維持することが可能となる。
タンタル高酸化層は、TaO結合、Ta2O3結合、TaO2結合及びTa2O5結合が混在する状態になりやすい。遮光膜中の所定の表層に、Ta2O5結合の存在比率が高くなるにつれて、耐薬性及び耐温水性がともに高くなり、TaO結合の存在比率が高くなるにつれてこれらの特性が低下する傾向がある。また、タンタル高酸化層は、層中の酸素含有量によって層中のタンタルと酸素との結合状態が変化する。すなわち、タンタル高酸化層の層中の酸素含有量が60原子%以上であると、最も安定した結合状態である「Ta2O5」だけでなく、「Ta2O3」や「TaO2」の結合状態も含まれることになる。また、層中の酸素含有量が60原子%以上であることによって、少なくとも一番不安定な結合であるTaO結合が、耐薬性を低下させるような影響を与えない程度の非常に少ない量になる。したがって、層中の酸素含有量の下限値は、60原子%であることが好ましいと考えられる。また、タンタル高酸化層中の酸素含有量が68原子%以上であると、TaO2結合が主体になるだけでなく、Ta2O5の結合状態の比率も高くなると考えられるため、層中の酸素含有量の下限値は、68原子%であることが好ましく、71.4原子%であることがより好ましい。
タンタル高酸化層のTa2O5結合の存在比率は、高酸化層を除く導電膜18におけるTa2O5結合の存在比率よりも高いことが望ましい。Ta2O5結合は、非常に高い安定性を有する結合状態であり、高酸化層中のTa2O5結合の存在比率を多くすることで、耐薬性、耐温水性などのマスク洗浄耐性が大幅に高まる。特に、タンタル高酸化層は、Ta2O5の結合状態だけで形成されていることが最も好ましい。なお、タンタル高酸化層の窒素及びその他の元素の含有量は、水素侵入を阻止する特性等の作用効果に影響のない範囲であることが好ましく、実質的に含まれないことが好ましい。
タンタル高酸化層の厚さは、2nm以上4nm以下であることが好ましい。2nm未満では薄すぎて水素侵入を阻止する効果が期待できない。タンタル高酸化層の厚さが4nmを超えると、導電膜18としての導電性に悪影響を与える観点からはマイナスに働いてしまう。なお、導電膜18全体の導電性と、水素侵入を阻止する特性及び耐薬性の向上の観点との双方のバランスを考慮すると、高酸化層の厚さは2nm以上3nm以下とすることがより望ましい。
タンタル高酸化層の形成方法は、導電膜18が成膜された後の反射型マスクブランク1に対して、温水処理、オゾン含有水処理、酸素を含有する気体中での加熱処理、酸素を含有する気体中での紫外線照射処理及び/又はO2プラズマ処理等を行うことなどが挙げられる。なお、高酸化層は、導電膜18を形成する金属の高酸化層に限定されない。水素侵入を阻止する特性があればどの金属の高酸化層であってもよく、導電膜18の表面にその高酸化層を積層した構成でもよい。また、導電膜18への水素の侵入を阻止する特性を有する材料であれば、高酸化物でなくてもよく、導電膜18の表面にその材料膜を積層した構成とすることもできる。
本発明の多層反射膜付き基板は、ガラス基板11の主表面71と導電膜18との間に、ガラス基板11から導電膜18へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜17を備えることを特徴とする。本発明の多層反射膜付き基板は、水素侵入抑制膜17を備えることにより、ガラス基板11から導電膜18への水素(具体的にはOH基、水素、水等)の侵入を抑制することができる。その結果、本発明の多層反射膜付き基板を用いることにより、平坦度が経時的に変化することをより抑制した反射型マスクブランク1を得ることができる。
水素侵入抑制膜の材料は、水素が透過しにくく、ガラス基板11から導電膜18への水素の侵入を抑制することができる材料であればどのような種類であってもよい。水素侵入抑制膜17の材料としては、具体的には、例えば、Si、SiO2、SiON、SiCO、SiCON、SiBO、SiBON、Cr、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、Mo、MoSi、MoSiN、MoSiO、MoSiCO、MoSiON、MoSiCON、TaO及びTaON等を挙げることができる。水素侵入抑制膜17は、これらの材料の単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。
本発明の多層反射膜付き基板の水素侵入抑制膜17は、珪素、クロム及びモリブデンから選択される少なくとも一つを含む材料、又はこれらの元素にさらに酸素、窒素及び炭素から選択される少なくとも一つを含む材料であって、かつ水素を実質的に含有しない材料からなることが好ましい。水素侵入抑制膜17が、上記の材料であることにより、水素侵入抑制膜17の水素の透過を小さくすることができる。そのため、ガラス基板11から導電膜18への水素の侵入を、抑制することができる。その結果、本発明の多層反射膜付き基板を用いることにより、平坦度が経時的に変化することをより抑制したEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板を得ることができる。
水素侵入抑制膜17は、珪素と酸素とを含有する材料で形成されてもよい。珪素と酸素とを含有する材料で形成される水素侵入抑制膜17の場合、材料中における珪素と酸素の比率は、1:1〜1:2であることが好ましい。材料中の珪素よりも酸素の比率が多いと、酸素と未結合状態の珪素の存在比率が高くなり、水素の侵入抑制効果が得られにくくなる。珪素と酸素とを含有する材料からなる水素侵入抑制膜17をスパッタ法で形成する場合、スパッタターゲットの導電性が低いため、形成される水素侵入抑制膜に欠陥が発生しやすい。この点を考慮する場合、水素侵入抑制膜17はRFスパッタ法又はイオンビームスパッタ法で形成することが好ましい。
導電膜18への水素の侵入を確実に抑制するために、水素侵入抑制膜17の材料は、タンタル及び酸素を含有する材料であることが好ましい。水素侵入抑制膜17の材料として好ましい材料は、TaO及びTaONを挙げることができる。水素侵入抑制膜17の材料は、TaO及びTaONから選択される材料であって、酸素含有量が50原子%以上の材料であることがより好ましい。水素侵入抑制膜17は、これらの材料の単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。
水素侵入抑制膜17は、結晶構造が微結晶、好ましくは非晶質であることが望まれる。このような水素侵入抑制膜17では、水素侵入抑制膜17内の結晶構造が単一構造にはなりにくく、複数の結晶構造が混在した状態になりやすい。このため、水素侵入抑制膜17は、酸素と未結合のTa、TaO結合、Ta2O3結合、TaO2結合及びTa2O5結合が混在する状態(混晶状態)になりやすい。膜中の酸素と未結合のTaの存在比率が多くなるに従い、水素を取り込みやすくなり、膜中を水素が通過しやすくなる。水素侵入抑制膜17に酸素を50原子%以上含有させることで、理論上、膜中のタンタルはすべて酸素と結合していることになる。また、前記のような混晶状態であっても、酸素と未結合のタンタルが存在する比率を大幅に低く抑えることができると考えられる。したがって、ガラス基板11から導電膜18への水素の侵入を、さらに確実に抑制するために、水素侵入抑制膜17は、酸素を50原子%以上含有することが好ましい。
タンタル及び酸素を含有する水素侵入抑制膜17において、膜中の酸素含有量が60原子%以上66.7原子%未満であると、膜中のタンタルと酸素との結合状態はTa2O3結合が主体になる傾向が高くなると考えられる。この膜中の酸素含有量の場合、一番不安定な結合であるTaO結合は、膜中の酸素含有量が60原子%未満の場合に比べて非常に少なくなると考えられる。また、酸素と未結合のタンタルは、存在し得なくなってくる。水素侵入抑制膜17において、膜中の酸素含有量が66.7原子%以上であると、膜中のタンタルと酸素との結合状態はTaO2結合が主体になる傾向が高くなると考えられる。この膜中の酸素含有量の場合、一番不安定な結合であるTaO結合及びその次に不安定な結合であるTa2O3の結合は、ともに非常に少なくなると考えられる。
水素侵入抑制膜17が、膜中の酸素含有量が68原子%以上であると、TaO2結合が主体になるだけでなく、Ta2O5の結合状態の比率も高くなると考えられる。このような酸素含有量になると、「Ta2O3」や「TaO2」の結合状態はまれに存在する程度となり、「TaO」の結合状態は存在し得なくなってくる。水素侵入抑制膜17の膜中の酸素含有量が71.4原子%であると、実質的にTa2O5の結合状態だけで形成されていると考えられる。したがって、膜中の酸素含有量の下限値は、50原子%であることが好ましく、60原子%であることがより好ましい。
Ta2O5結合は、非常に高い安定性を有する結合状態であり、水素侵入抑制膜17中のTa2O5結合の存在比率を多くすることで、耐薬性、耐温水性などのマスク洗浄耐性が大幅に高まる。水素侵入抑制膜17の耐性が高いことによって、水素侵入を阻止する機能の低下を抑制することができる。特に、水素侵入抑制膜17は、Ta2O5の結合状態だけで形成されていることが最も好ましい。なお、水素侵入抑制膜17の窒素及びその他の元素の含有量は、水素侵入を阻止する特性等の作用効果に影響のない範囲であることが好ましく、実質的に含まれないことが好ましい。
水素侵入抑制膜17の材料が、タンタル及び酸素を含有する材料からなる場合、この水素侵入抑制膜17に対して、XPS分析(X線光電子分光分析)を行ったときのTa4fのナロースペクトルが、25eV以上の結合エネルギーで最大ピークを有するような材料を適用することが好ましい。このような物性を有する水素侵入抑制膜17は、膜中のTa2O5結合の存在比率が高く、水素を取り込みにくいため、ガラス基板からタンタルを含有する導電膜18への水素侵入を抑制する高い効果が得られる。
水素侵入抑制膜17の厚さは、2nm以上であることが好ましく、5nm以上、さらには10nm以上であるとより好ましい。水素侵入抑制膜17の厚さが2nm未満の場合には、水素侵入抑制膜17が薄すぎて水素侵入を阻止する効果が期待できない。また、水素侵入抑制膜17の厚さが2nm未満の場合には、スパッタリング法であってもガラス基板11の主表面71上にほぼ均一な膜厚で、ほぼ均一な膜組成のものを形成することは容易ではない。上述の水素侵入抑制膜17の材料が、珪素と酸素とを含有する材料からなる場合、水素侵入抑制膜17の厚さは、5nm以上であることが好ましく、さらには10nm以上であるとより好ましい。
導電膜18がガラス基板11に接触しないように、ガラス基板11の主表面71における導電膜18の形成領域と同じか、又は導電膜18の形成領域よりも広い領域に水素侵入抑制膜17が形成されていることが好ましい。
図6(a)及び図6(b)は本発明の多層反射膜付き基板の導電膜18が形成されている側(裏面)から見た平面図(上図)、及び側面図(下図)である。
図6(a)は、ガラス基板11の主表面71(裏面)における導電膜18の形成領域と、水素侵入抑制膜17の形成領域が同じ場合の多層反射膜付き基板であり、図6(b)は、ガラス基板11の主表面71(裏面)における導電膜18の形成領域よりも広い領域に水素侵入抑制膜17が形成されている多層反射膜付き基板である。
水素侵入抑制膜17及び導電膜18をスパッタリング法で形成する際に、主表面71(裏面)に対して遮蔽部材を離間して設け、主表面71(裏面)と遮蔽部材の距離、主表面71(裏面)に対する遮蔽部材による遮蔽領域を調整することにより、水素侵入抑制膜17及び導電膜18の形成領域を調整することができる。
例えば、ガラス基板11が6025サイズ(152.4mm×152.4mm)の場合、図6(a)の多層反射膜付き基板における水素侵入抑制膜17及び導電膜18の形成領域は、基板11の側面から1mm幅の領域を除いた150mm×150mmとすることができる。また、図6(b)の多層反射膜付き基板における水素侵入抑制膜17の形成領域は、基板11の側面から1mm幅の領域を除いた150mm×150mm、導電膜18の形成領域は、基板11の側面から2mm幅の領域を除いた148mm×148mmとすることができる。
本発明のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板は、導電膜18が形成される側の少なくともガラス基板11の主表面71が、鏡面研磨されてなることが好ましい。
本発明の多層反射膜付き基板に用いるガラス基板11は、0.2nmRms以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることが好ましい。ガラスインゴットから切り出した状態のガラス基板11では、このような高い平坦度及び表面粗さの条件を満たすことはできない。高い平坦度及び表面粗さの条件を満たすために、少なくともガラス基板11の主表面71に対して鏡面研磨を行うことは必須となる。この鏡面研磨は、コロイダルシリカの研磨砥粒を含有する研磨液で、ガラス基板11の両主表面71を両面研磨で同時に研磨することが好ましい。また、切り出した状態のガラス基板11に対し、研削工程及び研磨工程を複数段階行うことによって、求められる平坦度及び表面粗さの条件を満たす主表面71に仕上げることが好ましい。この場合、少なくとも研磨工程の最終段階では、コロイダルシリカの研磨砥粒を含有する研磨液を用いることが好ましい。
主表面71に対して鏡面研磨を行ったガラス基板11を準備した後、このガラス基板11に対して熱エネルギーや光エネルギーを付与してガラス基板11の加熱処理を行うことにより、ガラス基板11の表層又は内部に取り込まれているOH基、水素及び水等を強制的に追い出すことができるので好ましい。例えば、熱エネルギーによる加熱処理は、ガラス基板11を150℃以上に加熱する処理であることが好ましい。150℃未満の加熱処理では、温度が不十分なので、ガラス基板11中の水素をガラス基板11外に排出させる効果が十分には得られない。加熱処理は、200℃以上であるとより効果が得られ、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは400℃以上、特に好ましくは500℃以上であると、加熱時間を短くしても水素をガラス基板11外に排除する十分な効果が得られる。一方、加熱処理は、ガラス基板11の軟化点温度未満であることが必要である。そのため、ガラス基板11として合成石英ガラスを使用する場合、加熱温度は1600℃未満であることが必要であり、SiO2−TiO2系ガラスを使用する場合、1490℃未満であることが必要である。ガラス基板11の加熱温度が軟化点温度以上であるとガラス基板11が軟化して変形してしまうためである。加熱処理は、1000℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより望ましい。また、ガラス基板11に対して行う加熱処理の処理時間は、加熱温度にもよるが、少なくとも10分以上であることが望まれる。また、ガラス基板11に対して行う加熱処理の処理時間は、30分以上であることが好ましく、40分以上であることがより好ましい。
加熱処理は、ガラス基板11の周囲に水素が極力排除された気体が存在する状態で行われることが好ましい。空気中には水素自体の存在量は少ないが、水蒸気は多く存在する。クリーンルーム内の空気でも湿度がコントロールされてはいるが、水蒸気は比較的多く存在する。ガラス基板11に対する加熱処理をドライエア中で行うことで、水蒸気に起因する水素のガラス基板11への侵入を抑制することができる。さらに、水素や水蒸気を含まない気体(窒素等の不活性ガスや希ガスなど)中でガラス基板11を加熱処理することがより好ましい。
加熱処理を行う場合、所定の洗浄工程によってガラス基板11を洗浄することが望ましい。研磨工程時に使用した研磨砥粒が付着した状態で加熱処理を行うと、ガラス基板11の表面に固着してしまい、加熱処理後に通常の洗浄工程を行っても除去できない場合がある。特にコロイダルシリカのようなガラス基板11に類似した材料である場合、ガラス基板11の表面に強固に付着してしまう恐れがあるため、ガラス基板11の表面をエッチングする作用を有するフッ酸や珪フッ酸を含有する洗浄液で洗浄することが望ましい。
本発明のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板は、多層反射膜12が形成される側に、EUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板の欠陥の位置情報の基準となるマークが設けられていることが好ましい。
一般に、EUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランク1においては、大きさが球相当直径で約20nm程度以上の大きさの欠陥が存在しないことが要求されている。しかしながら、このような非常に小さな欠陥が全く存在しない多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランク1を製作することは非常に困難である。反射型マスクブランク1に欠陥が存在する場合に、その欠陥を修正するために、欠陥の位置情報の基準となるマークが設けることが提案されている。欠陥の位置情報が明らかとなれば、その欠陥を修正する、又は欠陥を転写パターンに重ならない位置に配置するように露光するなどの方法により、欠陥の悪影響を排除することが可能となる。本発明の多層反射膜付き基板は、平坦度が経時的に変化することを抑制することができるので、欠陥の位置情報の基準となるマークを有する場合、欠陥の位置情報の精度を高めることができる。なお、基準となるマークは、多層反射膜12が形成される側であれば、どこに形成しても構わない。例えば、ガラス基板11の主表面71や、多層反射膜12、保護膜13、吸収体膜16の何れかに形成することができる。また、基準となるマークは、リソグラフィープロセス、集束イオンビーム照射、レーザー光照射、ダイヤモンド針等を走査しての加工痕、微小圧子によるインデンション、インプリント法による型押しなどの方法で形成することができる。
本発明は、上述のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板の多層反射膜12上に、少なくとも吸収体膜16を備えることを特徴とするEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1である。図1に、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1の一例の断面模式図を示す。図1に示すように、本発明のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板の多層反射膜12上に、所定の吸収体膜16を備えることにより、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1として用いることができる。なお、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1は、吸収体膜16の上に、吸収体膜をパターニングするための電子線描画用レジスト膜19等の薄膜を、さらに有することができる。すなわち、本発明のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1は、本発明のEUVリソグラフィー用多層反射膜付き基板の多層反射膜12上に、所定の吸収体膜16及び電子線描画用レジスト膜19を備えた構造を有することができる。
なお、図1に示す反射型マスクブランク1の例では、多層反射膜12と吸収体膜16との間に保護膜13を形成している。保護膜13を設けることにより、吸収体膜のパターン形成時だけでなく、パターン修正時の多層反射膜へのダメージが防止されるため、多層反射膜を高反射に維持することが可能となるので好ましい。
本発明は、上述のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1の吸収体膜16をパターニングして、多層反射膜12上に吸収体膜16のパターン(吸収体膜パターン22)を形成することを特徴とするEUVリソグラフィー用反射型マスク2の製造方法である。図2に、本発明の反射型マスク2の構成の一例の断面模式図を示す。図3を参照して本発明の反射型マスク2の製造方法を説明する。
図3(a)は本発明に用いる反射型マスクブランク1の構成の一例を示している。その構成についてはすでに上述したとおりである。この反射型マスクブランク1は、ガラス基板11上に、多層反射膜12、保護膜13、露光光吸収体層14、及び検査光の低反射層15をこの順に積層して形成される。反射型マスクブランク1は、さらにレジスト膜19を有することができる(図3(b))。
次に、EUV光31の吸収体である露光光吸収体層14及び検査光の低反射層15からなる吸収体膜16を加工して所定の吸収体膜パターンを形成する。通常は、吸収体膜16の表面に、電子線描画用レジスト膜19を塗布・形成し、レジスト膜付きの反射型マスクブランク1を準備する(図3(b))。次に、電子線描画用レジスト膜19に所定のパターンを描画し、現像を経て、所定のレジストパターン21を形成する(同図(c))。次いで、レジストパターン21をマスクにして吸収体膜16のエッチングを行い、最後にレジストパターン21を除去して、吸収体膜パターン22を有する反射型マスク2を得る(同図(d))。本実施の形態では、吸収体膜16が、EUV光31の吸収体で構成する露光光吸収体層14と、マスクパターンの検査光の吸収体で構成する低反射層15との積層構成からなり、何れもタンタル(Ta)を主成分とする材料からなる。この吸収体膜16をエッチングする工程において、同一エッチングガスを使用してドライエッチングしたときに、吸収体膜16を構成する各層のエッチングレート比が0.1〜10の範囲であることが好ましい。これにより、積層構成のタンタル系吸収体膜16のエッチング制御性を改善することができ、そのためパターン線幅や保護膜13へのダメージの程度等の面内均一性を改善することができる。
本発明では、上記積層構成の吸収体膜16をドライエッチングするときのエッチングガスとしてフッ素(F)を含むガスを用いるのが最も好適である。フッ素(F)を含むガスを用いて前記積層構成のタンタル系吸収体膜16をドライエッチングすると、吸収体膜16を構成する各層のエッチングレート比を上記の好ましい範囲となるように制御することができるからである。
フッ素(F)を含むガスとしては、例えば、CF4、CHF3、C2F6、C3F6、C4F6、C4F8、CH2F2、CH3F、C3F8、SF6及びF等が挙げられる。このようなフッ素を含むガスを単独で用いても良いが、上記フッ素ガスより選択される2種以上の混合ガスや、例えばアルゴン(Ar)等の希ガスや塩素(Cl2)ガス等を混合して用いても良い。
上記吸収体膜16を構成する露光光吸収体層14と低反射層15の何れか一方が、タンタル(Ta)とホウ素(B)と酸素(O)とを含む材料からなり、他方がタンタル(Ta)とホウ素(B)と窒素(N)とを含む材料からなる場合において、この吸収体膜16を、フッ素を含むガスを用いてドライエッチングすると、吸収体膜16を構成する各層のエッチングレート比が0.15〜5.0の範囲となるように制御することができるので、本発明は特に好適である。
積層構成のタンタル系吸収体膜16を例えばフッ素を含有するガスを用いてドライエッチングすることにより、吸収体膜16を構成する各層のエッチングレート比を0.1〜10の範囲とすることによって、吸収体膜16のエッチング制御性を改善することができ、また吸収体膜16をエッチングしたときの下層のダメージを最小限に抑えることができる。
以上のようにして、吸収体膜16をエッチングした後、残存するレジストパターンを酸素アッシング等の方法で除去する。
上述のようにして作製した反射型マスク2を、EUV光31で露光するとマスク表面の吸収体膜16のある部分では吸収され、それ以外の吸収体膜16を除去した部分では露出した保護膜13及び多層反射膜12でEUV光31が反射されることにより(同図(d)参照)、EUV光を用いるリソグラフィー用の反射型マスク2として使用することができる。
本発明の反射型マスク2は、上述のような導電膜18及び水素侵入抑制膜17を有することを特徴とする反射型マスク2である。製造されてから一定期間以上経過した反射型マスクブランク1は、時間経過による導電膜18の圧縮応力の増大が抑制されているため、反射型マスクブランク1の平坦度は求められている高い水準で維持されている。このような特性を有する反射型マスクブランク1を用いれば、でき上がった反射型マスク2は求められる高い平坦度とすることができる。また、導電膜18の圧縮応力が抑制されているため、反射型マスク2を作製するエッチングプロセス後に、周りの圧縮応力から解放された導電膜18の各パターンが起こす主表面71上における位置ずれ量を抑制することもできる。
一方、製造されてから時間が経過していない反射型マスクブランク1を用いて、反射型マスク2を作製した場合、従来の製造方法によって作製した直後の反射型マスク2(従来の反射型マスク2)は、求められる高い平坦度となっている。しかし、従来の反射型マスク2は、その後、使用せずにマスクケースに収納して保管していた場合や露光装置にセットして継続使用した場合、導電膜18の圧縮応力が増大することで、平坦度が経時的に変化してしまうため、導電膜18の各パターンが大きく位置ずれを起こしてしまう恐れがある。本発明の製造方法で製造された反射型マスクブランク1を用いて作製した本発明の反射型マスク2を用いるならば、時間経過による導電膜18の圧縮応力の増大を抑制できるため、作製後に使用せずにマスクケースに収納して保管していた場合や露光装置にセットして継続使用した場合でも、求められる高い平坦度を維持し続けることができ、導電膜18の各パターンの位置ずれも抑制できる。
本発明は、上述の反射型マスク2の製造方法によって得られた反射型マスク2を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
本発明は、上述の反射型マスク2を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。上述の反射型マスク2を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することで、高精度のパターンを有する半導体デバイスを製造することができる。この理由は、上述の反射型マスク2は、作製時において求められる高い平坦度及びパターン位置精度を有しているためである。また、上述の反射型マスク2は、作製後に使用せずにマスクケースに収納して一定期間保管した後に露光装置にセットして露光転写に使用し始めたときや、マスク作製後、時間を置かずに露光装置にセットして露光転写に使用していたときにおいても、求められる高い平坦度を維持し続けることができ、導電膜18の各パターンの位置ずれも抑制できているためである。
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(試料1〜6並びに比較試料1及び2)
まず初めに、導電膜18の膜応力についての知見を得るために、試料1〜6並びに比較試料1及び2として、導電膜付きガラス基板による応力経時変化(平坦度変化)、耐薬性、及び耐摩耗性評価を行った。
なお、試料の薄膜の組成分析は、HFS/RBS分析法(水素前方散乱分析法/ラザフォード後方散乱分析法)により測定した。
形成した薄膜のシート抵抗は、4端子測定法により測定した。
試料の応力経時変化は、成膜直後の平坦度と、密封空間内にて1か月放置した後の平坦度との差(平坦度変化量、測定領域142mm×142mm)を測定することにより、評価した。平坦度は、試料表面を平坦度測定装置UltraFLAT 200M(Corning TROPEL社製)を用いて測定した。なお、導電膜付きガラス基板の平坦度変化量が50nm以下である場合には、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために好適に用いることができるといえる。
試料の薄膜の耐摩耗性は、静電チャックを3回繰り返した後の導電膜18表面の欠陥増加数(レーザーテック社製M1350、測定領域132mm×132mm)を測定することにより、評価した。
試料の耐薬性は、酸・アルカリ洗浄後の膜厚変化量を測定することで評価した。酸洗浄の条件は、硫酸(98質量%)と、過酸化水素(30質量%)を混合比率4:1とした硫酸過水を使用し、温度90℃、時間10分した。また、アルカリ洗浄の条件は、アンモニア(29質量%)と、過酸化水素(30質量%)と、水とを混合比率1:1:5としたアンモニア過水を使用し、温度70℃、時間10分とした。試料の薄膜の膜厚変化は、洗浄前後の導電膜18の膜厚を、分光膜厚計を用いて測定した。
[試料1の作製]
試料1として、TaBN導電膜/CrN水素侵入抑制膜/ガラス基板の膜構成を有する導電膜付きガラス基板を作製した。
試料1に使用した基板11は、SiO2−TiO2系のガラス基板11(6インチ角[152.4mm×152.4mm]、厚さが6.3mm)である。このガラス基板11を機械研磨することにより鏡面研磨され、表面粗さRms(二乗平均平方根粗さ)が0.15nm(測定領域:1μm×1μm、原子間力顕微鏡で測定)の平滑な表面と、0.05μm以下の平坦度とを有するガラス基板11を得た。
次に、ガラス基板11上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってCr及びNを含むCrN膜を、水素侵入抑制膜17として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Crターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:N2=80:20)を用いた。試料1の水素侵入抑制膜17の組成比は、Crが90原子%、Nが10原子%であり、膜厚は20nmだった。
次に、試料1の水素侵入抑制膜17上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってTa、B及びNを含むTaBN膜を導電膜18として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Ta及びBを含むターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:N2=90:10)を用いた。試料1の導電膜18の組成比は、Taが80原子%、Bが10原子%、Nが10原子%であり、膜厚は20nmだった。
次に、試料1の導電膜付きガラス基板の応力経時変化(平坦度変化)、耐薬性、耐摩耗性評価を行った。試料1のシート抵抗は100Ω/□以下、平坦度変化量は45nm、膜厚変化量は1nm未満、及び欠陥増加数は13個だった。試料1の平坦度変化量、耐薬性及び耐摩耗性の評価結果から、試料1の導電膜付きガラス基板は、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために好適に用いることができるといえる。
また、試料1と同様にして作製した導電膜付きガラス基板を加熱炉に設置し、炉内の気体を窒素に置換し、加熱温度300℃で1時間の加熱処理を行い、ガラス基板11中の水素を強制的に導電膜に取り込ませる加速試験を行った。加速試験後の導電膜18中の水素濃度の測定には、HFS分析法(水素前方散乱分析法)を用いて測定した。この導電膜付きガラス基板の、加速試験後の導電膜18中の水素含有量は検出下限値以下であった。
[試料2の作製]
試料2として、TaBN導電膜/SiON水素侵入抑制膜/ガラス基板の膜構成を有する導電膜付きガラス基板を作製した。試料2に使用した基板11は、試料1に使用したものと同様のガラス基板11を使用した。
試料2では、ガラス基板11上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってSi、O及びNを含むSiON膜を、水素侵入抑制膜17として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Siのターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと酸素(O2)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:N2:O2=40:59:1)を用いた。試料2の水素侵入抑制膜17の組成比は、Siが36原子%、Oが49原子%、Nが15原子%であり、膜厚は20nmだった。
次に、試料2の水素侵入抑制膜17上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってTa、B及びNを含むTaBN膜を導電膜18として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Ta及びBを含むターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:N2=90:10)を用いた。試料2の導電膜18の組成比は、Taが80原子%、Bが10原子%、Nが10原子%であり、膜厚は40nmだった。
次に、試料2の導電膜付きガラス基板の応力経時変化(平坦度変化)、耐薬性、耐摩耗性評価を行った。試料2のシート抵抗は100Ω/□以下、平坦度変化量は40nm、膜厚変化量は1nm未満、及び欠陥増加数は12個だった。試料2の平坦度変化量、耐薬性及び耐摩耗性の評価結果から、試料2の導電膜付きガラス基板は、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために好適に用いることができるといえる。
また、試料2と同様にして作製した導電膜付きガラス基板を加熱炉に設置し、炉内の気体を窒素に置換し、加熱温度300℃で1時間の加熱処理を行い、ガラス基板11中の水素を強制的に導電膜に取り込ませる加速試験を行った。加速試験後の導電膜18中の水素濃度の測定には、HFS分析法(水素前方散乱分析法)を用いて測定した。この導電膜付きガラス基板の、加速試験後の導電膜18中の水素含有量は検出下限値以下であった。
[試料3の作製]
試料3として、TaBN導電膜/TaO水素侵入抑制膜/基板の膜構成を有する導電膜付きガラス基板を作製した。試料3に使用した基板11は、試料1に使用したものと同様のガラス基板11を使用した。
試料3では、ガラス基板11上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってTa及びOを含むTaO膜を、水素侵入抑制膜17として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Taのターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガス(Ar:O2=70:30)を用いた。試料3の水素侵入抑制膜17の組成比は、Taが45原子%、Oが55原子%であり、膜厚は5nmだった。
次に、試料3の水素侵入抑制膜17上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってTa、B及びNを含むTaBN膜を導電膜18として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Ta及びBを含むターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:N2=90:10)を用いた。試料3の導電膜18の組成比は、Taが80原子%、Bが10原子%、Nが10原子%であり、膜厚は40nmだった。
次に、試料3の導電膜付きガラス基板の応力経時変化(平坦度変化)、耐薬性、耐摩耗性評価を行った。試料3のシート抵抗は100Ω/□以下、平坦度変化量は40nm、膜厚変化量は1nm未満、及び欠陥増加数は10個だった。試料3の平坦度変化量、耐薬性及び耐摩耗性の評価結果から、試料3の導電膜付きガラス基板は、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために好適に用いることができるといえる。
また、試料3と同様にして作製した導電膜付きガラス基板を加熱炉に設置し、炉内の気体を窒素に置換し、加熱温度300℃で1時間の加熱処理を行い、ガラス基板11中の水素を強制的に導電膜に取り込ませる加速試験を行った。加速試験後の導電膜18中の水素濃度の測定には、HFS分析法(水素前方散乱分析法)を用いて測定した。この導電膜付きガラス基板の、加速試験後の導電膜18中の水素含有量は検出下限値以下であった。
[試料4の作製]
試料4として、TaN導電膜/CrN水素侵入抑制膜/基板の膜構成を有する導電膜付きガラス基板を作製した。試料4に使用した基板11は、試料1に使用したものと同様のガラス基板11を使用した。
試料4では、ガラス基板11上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってCr及びNを含むCrN膜を、水素侵入抑制膜17として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Crターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:N2=80:20)を用いた。試料4の水素侵入抑制膜17の組成比は、Crが90原子%、Nが10原子%であり、膜厚は20nmだった。
次に、試料4の水素侵入抑制膜17上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってTa及びNを含むTaN膜を導電膜18として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Taのターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:N2=90:10)を用いた。試料4の導電膜18の組成比は、Taが80原子%、Nが20原子%であり、膜厚は20nmだった。
次に、試料4の導電膜付きガラス基板の応力経時変化(平坦度変化)、耐薬性、耐摩耗性評価を行った。試料4のシート抵抗は100Ω/□以下、平坦度変化量は38nm、膜厚変化量は1nm未満、及び欠陥増加数は8個だった。試料4の平坦度変化量、耐薬性及び耐摩耗性の評価結果から、試料4の導電膜付きガラス基板は、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために好適に用いることができるといえる。
また、試料4と同様にして作製した導電膜付きガラス基板を加熱炉に設置し、炉内の気体を窒素に置換し、加熱温度300℃で1時間の加熱処理を行い、ガラス基板11中の水素を強制的に導電膜に取り込ませる加速試験を行った。加速試験後の導電膜18中の水素濃度の測定には、HFS分析法(水素前方散乱分析法)を用いて測定した。この導電膜付きガラス基板の、加速試験後の導電膜18中の水素含有量は検出下限値以下であった。
[試料5の作製]
試料5に使用した基板11として、ガラス基板11中に含まれている水素を脱離させるために、加熱処理を行った基板を使用した。詳しくは、試料1の機械研磨することにより、鏡面研磨されたガラス基板11を加熱炉に設置し、炉内の気体を炉外と同じ気体(クリーンルーム内の空気)とし、加熱温度550℃で45分間の加熱処理を行った。さらに加熱処理後のガラス基板11に対し、洗剤による洗浄と純水とによるリンス洗浄を行い、さらに、大気中でXeエキシマランプを照射し、紫外線と、その紫外線により発生するO3とによって主表面71の洗浄を行った。
その後、試料1と同様に、ガラス基板11上に、CrN膜の水素侵入抑制膜17と、TaBN膜の導電膜18を成膜して、導電膜付きガラス基板を作製した。
試料5の導電膜付きガラス基板の応力経時変化(平坦度変化)、耐薬性、耐摩耗性評価を行った。試料5のシート抵抗は100Ω/□以下、平坦度変化量は38nm、膜厚変化量は1nm未満、及び欠陥増加数は、12個だった。試料5の平坦度変化量、耐薬性及び耐摩耗性の評価結果から、試料5の導電膜付きガラス基板は、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために好適に用いることができるといえる。
また、試料5と同様にして作製した導電膜付きガラス基板を加熱炉に設置し、炉内の気体を窒素に置換し、加熱温度300℃で1時間の加熱処理を行い、ガラス基板11中の水素を強制的に導電膜に取り込ませる加速試験を行った。加速試験後の導電膜18中の水素濃度の測定には、HFS分析法(水素前方散乱分析法)を用いて測定した。この導電膜付きガラス基板の、加速試験後の導電膜18中の水素含有量は検出下限値以下であった。
[試料6の作製]
試料6として、TaBN導電膜/CrN水素侵入抑制膜/ガラス基板の膜構成を有する導電膜付きガラス基板を作製した。なお、CrN水素侵入抑制膜、TaBN導電膜は、DCマグネトロンスパッタリング法により成膜する際に、ガラス基板11の主表面(裏面)に離間して遮蔽部材を設けて、CrN水素侵入抑制膜、TaBN導電膜の形成領域を調整した。CrN水素侵入抑制膜の形成領域は、ガラス基板11の側面から1mm幅の領域を除いた150mm×150mm、TaBN導電膜の形成領域は、ガラス基板11の側面から2mm幅を除いた148mm×148mmとした。
試料6の導電膜付きガラス基板の応力経時変化(平坦度変化)、耐薬性、耐摩耗性評価を行った。試料6のシート抵抗は100Ω/□以下、平坦度変化量は36nm、膜厚変化量は1nm未満、及び欠陥増加数は、12個だった。試料6の平坦度変化量、耐薬性及び耐摩耗性の評価結果から、試料6の導電膜付きガラス基板は、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために好適に用いることができるといえる。
また、試料6と同様にして作製した導電膜付きガラス基板を加熱炉に設置し、炉内の気体を窒素に置換し、加熱温度300℃で1時間の加熱処理を行い、ガラス基板11中の水素を強制的に導電膜に取り込ませる加速試験を行った。加速試験後の導電膜18中の水素濃度の測定には、HFS分析法(水素前方散乱分析法)を用いて測定した。この導電膜付きガラス基板の、加速試験後の導電膜18中の水素含有量は検出下限値以下であった。
[比較試料1の作製]
比較試料1として、TaBN導電膜/基板の膜構成を有する導電膜付きガラス基板を作製した。比較試料1に使用した基板11は、試料1に使用したものと同様のガラス基板11を使用した。比較試料1では、水素侵入抑制膜17の成膜は行わなかった。
比較試料1では、ガラス基板11上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってTa、B及びNを含むTaBN膜を導電膜18として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Ta及びBを含むターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:N2=90:10)を用いた。比較試料1の導電膜18の組成比は、Taが80原子%、Bが10原子%、Nが10原子%であり、膜厚は40nmだった。
次に、比較試料1の導電膜付きガラス基板の応力経時変化(平坦度変化)、耐薬性、耐摩耗性評価を行った。比較試料1のシート抵抗は100Ω/□以下、平坦度変化量は250nm、膜厚変化量は1nm未満、及び欠陥増加数は18個だった。比較試料1の平坦度変化量は250nmという大きすぎる値であり、応力経時変化が確認された。したがって、比較試料1の導電膜付きガラス基板は、平坦度変化量が大きく、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために用いることはできないといえる。
また、比較試料1と同様にして作製した導電膜付きガラス基板を加熱炉に設置し、炉内の気体を窒素に置換し、加熱温度300℃で1時間の加熱処理を行い、ガラス基板11中の水素を強制的に導電膜に取り込ませる加速試験を行った。加速試験後の導電膜18中の水素濃度の測定には、HFS分析法(水素前方散乱分析法)を用いて測定した。この導電膜付きガラス基板の、加速試験後の導電膜18中の水素含有量は6原子%程度であることが判明した。
[比較試料2の作製]
比較試料2として、CrON導電膜/基板の膜構成を有する導電膜付きガラス基板を作製した。比較試料2に使用した基板11は、試料1に使用したものと同様のガラス基板11を使用した。比較試料2では、水素侵入抑制膜17の成膜は行わなかった。
比較試料2では、ガラス基板11上に、DCマグネトロンスパッタリング法によってCr、O及びNを含むCrON膜を導電膜18として成膜した。DCマグネトロンスパッタリング法による成膜には、Crのターゲットを用い、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)ガスと酸素(O2)ガスと窒素(N2)ガスの混合ガス(Ar:O2:N2=70:1:29)を用いた。比較試料2の導電膜18の組成比は、Crが58原子%、Oが5原子%、41原子%であり、膜厚は65nmだった。
次に、比較試料2の導電膜付きガラス基板の応力経時変化(平坦度変化)、耐薬性、耐摩耗性評価を行った。比較試料2のシート抵抗は100Ω/□以下、平坦度変化量は55nm、膜厚変化量は5nm、及び欠陥増加数は120個だった。比較試料2の平坦度変化量は55nmという大きな値であり、応力経時変化が確認された。また、欠陥増加数(耐摩耗性)は120個という非常に大きな値であった。また、膜厚変化量も5nmという大きな値だった。したがって、比較試料2の導電膜付きガラス基板は、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために用いることはできないといえる。
また、比較試料2と同様にして作製した導電膜付きガラス基板を加熱炉に設置し、炉内の気体を窒素に置換し、加熱温度300℃で1時間の加熱処理を行い、ガラス基板11中の水素を強制的に導電膜に取り込ませる加速試験を行った。加速試験後の導電膜18中の水素濃度の測定には、HFS分析法(水素前方散乱分析法)を用いて測定した。この導電膜付きガラス基板の、加速試験後の導電膜18中の水素含有量は2原子%程度であることが判明した。
(実施例1〜6及び比較例1)
次に、上述の試料1〜6及び比較試料1の導電膜付きガラス基板の導電膜18が形成された面とは反対側の面に、少なくともMo膜/Si膜周期多層反射膜12を成膜することにより、実施例1〜6及び比較例1の多層反射膜12付きガラス基板11を作製した。
具体的には、上述の試料1〜6及び比較試料1の導電膜付きガラス基板の導電膜18が形成された面とは反対側の面に、イオンビームスパッタリングによって、Si膜(4.2nm)とMo膜(2.8nm)とを一周期として、40周期積層することにより、Mo膜/Si膜周期多層反射膜12(合計膜厚280nm)を成膜した。さらに、Mo膜/Si膜周期多層反射膜12の上に、Ruからなる保護膜13(2.5nm)を成膜して、実施例1〜6及び比較例1の多層反射膜付きガラス基板を得た。この保護膜13に対し、13.5nmのEUV光を入射角6.0度で反射率を測定したところ、反射率は63.5%であった。
さらに、実施例1〜6及び比較例1の多層反射膜12付きガラス基板11の保護膜13及び多層反射膜12の所定位置に、FIBを照射することによって、ブランクス欠陥の位置情報の基準となる基準マークを付与した。
上述の試料1〜6並びに比較試料1及び2と同様に応力経時変化(平坦度変化)評価した。その結果、試料1〜6の導電膜付きガラス基板を使用した実施例1〜6の多層反射膜12付きガラス基板11においては、平坦度変化量50nm以下に抑えることができた。しかしながら、比較試料1の導電膜付きガラス基板を使用して作製した比較例1の多層反射膜12付きガラス基板11では、平坦度変化量が250nmを超え、応力経時変化が確認された。したがって、比較例1の多層反射膜12付きガラス基板11は、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために用いることはできないといえる。
また、実施例1〜6及び比較例1の基準マークを基準とした欠陥座標の位置精度について測定を行った。実施例1〜6の位置精度は、使用に耐える高い精度を示した。これに対して、応力経時変化が確認された比較例1の位置精度は低く、この点からも、比較例1の多層反射膜12付きガラス基板11は、反射型マスクブランク1や反射型マスク2の製造のために用いることはできないといえる。
(実施例1〜6のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1の作製)
上述のようにして製造した実施例1〜6の多層反射膜12付きガラス基板11のRuからなる保護膜13上に、さらに吸収体膜16を形成することにより、実施例1〜6のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1を作製した。
吸収体膜16を形成は、次のようにして行った。まず、Ruからなる保護膜13上に、吸収体膜16下層の露光光吸収体層14として、TaとBとNとを含むTaBN膜を、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。すなわち、Ta及びBを含むターゲットを用いて、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガス(Ar:N2=90:10)を使用して、DCマグネトロンスパッタリング法によって成膜した。成膜したTaBN膜の組成比は、Taが80原子%、Bが10原子%、Nが10原子%であり、膜厚は56nmだった。
この露光光吸収体層14の上にさらに低反射層15として、Ta、B、N及びOを含むTaBNO膜を、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。すなわち、Ta及びBを含むターゲットを用いて、アルゴン(Ar)ガスと窒素(N2)ガスと酸素(O2)ガスとの混合ガス(Ar:N2:O2=60:15:25)を使用して、DCマグネトロンスパッタリング法によって成膜した。成膜したTaBNO膜の組成比は、Taが40原子%、Bが10原子%、Nが10原子%、Oが40原子%であり、膜厚は14nmだった。このようにして、露光光吸収体層14及び低反射層15からなる吸収体膜16を有するEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1を得た。
(実施例1〜6のEUVリソグラフィー用反射型マスク2の作製)
次に、上述のようにして製造した実施例1〜6のEUVリソグラフィー用反射型マスクブランク1を用いて、デザインルールが22nmハーフピッチのDRAM用のパターンを有する実施例1〜6のEUV露光用反射型マスク2を以下のように作製した。
まず、上記反射型マスクブランク1上に電子線描画用レジスト膜(120nm)を形成し、電子線描画と現像により所定のレジストパターンを形成した。
次に、このレジストパターンをマスクとして、ICP(Inductively Coupled Plasma)型のドライエッチング装置を用いて、積層構成の吸収体膜16をドライエッチングし、吸収体膜16に転写パターンとなる吸収体膜パターン22を形成した。このとき、エッチングガスとして、CHF3ガス及びArガスの混合ガスを使用し、CHF3ガス及びArガスの流量比、ドライエッチング時のガス圧、ICPパワー、バイアスを適宜調整して吸収体膜16をドライエッチングした。
次に、塩素(Cl2)及び酸素(O2)の混合ガス(塩素(Cl2)及び酸素(O2)の混合比(流量比)は8:2)を用いて、反射領域上(吸収体膜パターンのない部分)のRu保護膜13を吸収体膜パターンに従ってドライエッチングして除去し、多層反射膜12を露出させ、実施例1〜6の反射型マスク2を得た。
上記マスク検査機を用いて、得られた実施例1〜6の反射型マスク2の最終確認検査を行ったところ、デザインルールが22nmハーフピッチのDRAM用のパターンを設計通りに形成できていることが確認できた。また、反射領域におけるEUV光の反射率は、多層反射膜付き基板で測定した反射率と同じく63.5%であった。
(実施例1〜6の反射型マスクを用いた露光転写)
次に、得られた実施例1〜6の反射型マスク2を用いて、図4に示すような、半導体基板34上へのEUV光によるパターン転写装置50による露光転写を行った。
反射型マスク2を搭載したパターン転写装置50は、レーザープラズマX線源32、縮小光学系33等から概略構成される。縮小光学系33は、X線反射ミラーを用いている。縮小光学系33により、反射型マスク2で反射されたパターンは通常1/4程度に縮小される。なお、露光波長として13〜14nmの波長帯を使用するので、光路が真空中になるように予め設定した。
このような状態で、レーザープラズマX線源32から得られたEUV光を反射型マスク2に入射し、ここで反射された光を、縮小光学系33を通してシリコンウエハ(レジスト膜付き半導体基板)34上に転写した。
以上のようにして半導体基板上へのパターン転写を行ったところ、実施例1〜6の反射型マスク2の精度は22nmデザインルールの要求精度を十分満たすものであった。