以下、図面に基づき、本発明による船外機における好適な実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る船外機10の一部破断した外観を示す後方斜視図である。船外機10は図2のように船舶1の船体後部に搭載され、この場合その前部側にて図3に示されるように船舶1の船体の後尾板Pに固定されるものとする。なお、図3は船外機10の概略構成例を示す左側面図であるが、以下の説明中で各図において必要に応じて、船外機10の前方を矢印Frにより、また後方を矢印Rrによりそれぞれ示し、また船外機10の側方右側を矢印Rにより、側方左側を矢印Lによりそれぞれ示す。
先ず、船外機10の全体基本構成について説明する。図1及び特に図3において、上部から下部へエンジンユニットもしくはパワーユニット11、ミッドユニット12及びロアユニット13が順に配置され、これらのユニットは一体的に結合構成される。エンジンユニット11においてエンジン14はエンジンベースもしくはエンジンホルダを介して、そのクランクシャフト15が鉛直方向を向くように縦置きに搭載支持される。なお、エンジン14としては、例えばV型多気筒エンジン等が選ばれる。エンジンユニット11及びミッドユニット12まわりは図1のように外装カバーにより覆われるが、図1ではミッドユニット12の外装カバーの一部を仮想的に破断した状態が示され、概略図示したドライブシャフトハウジング16内部に後述のドライブシャフトが配設される。なお、エンジン14はドライブシャフトハウジング16の上部に搭載される。
ミッドユニット12は、アッパマウント17A及びロアマウント17Bを介して、スイベルブラケット18に設定された支軸19(ステアリング軸)のまわりに一体に回動可能となるように支持される。スイベルブラケット18の左右両側にはクランプブラケット20が設けられ、このクランプブラケット20を介して船体の後尾板Pに固定される。スイベルブラケット18は、左右水平方向に設定された支軸21(チルト軸)のまわりに上下方向に回動可能に支持される。
ミッドユニット12において、クランクシャフト15の下端部に連結するドライブシャフト22が上下方向に貫通配置され、このドライブシャフト22の駆動力が、ロアユニット13のギヤケース内の後述するプロペラシャフトに伝達されるようになっている。ドライブシャフト22の前側には、前後進の切換等を行うためのシフトロッド23が上下方向に平行配置される。ミッドユニット12は、ドライブシャフト22を収容するドライブシャフトハウジング16を有している。
ロアユニット13において、ドライブシャフト22の駆動力によりプロペラ24を回転駆動する複数のギヤ等を含むギヤケース25を有する。ミッドユニット12から下方へ延出したドライブシャフト22はそれ自体に取り付けたギヤが、ギヤケース25内のギヤと噛合することで最終的にプロペラ24を回転させるが、シフトロッド23の作用でギヤケース25内のギヤ装置の動力伝達経路を切り換える、即ちシフトするようになっている。また、一体形成されたケーシング26にはミッドユニット12との合せ面付近にて上下に配置されたアンチスプラッシュプレート27及びアンチキャビテーションプレート28を有し、これらの下方へ延出したケーシング26の下部には、前後方向に弾丸状もしくは砲弾状を呈するように配置されたギヤケース25が配置される。
ケーシング26におけるギヤケース25の砲弾状の先端部側にシフトロッド23が上下に挿通支持される。シフトロッド23は、プロペラシャフト29の軸線延長線と交差する位置まで垂設される。また、ケーシング26の前後方向の略中央部付近には、ドライブシャフト22が挿通支持される。ギヤケース25において、プロペラシャフト29が前後方向に沿って配置され、複数のベアリングを介して回転自在に支持される。ドライブシャフト22の下端部にはドライブギヤ30が取り付けられ、プロペラシャフト29にはドライブギヤ30と噛合する前後一対のフォワード(前進)ギヤ31及びリバース(後進)ギヤ32が、それぞれ回転自在に支持される。
シフトロッド23を介してのシフト操作によりフォワードギヤ31又はリバースギヤ32からプロペラシャフト29への動力伝達経路が形成される。エンジン14が始動することで、その出力トルクがドイブシャフト22から推進装置に伝達される。即ち、フォワードギヤ31又はリバースギヤ32を介してプロペラシャフト29及びプロペラ24が回転して船外機10が推進力を発生し、従ってこれを搭載する船舶1が前進又は後進する。
上記の基本構成でなる船外機10において、図4にも示すようにミッドユニット12において、クランクシャフト15の下端部に連結するドライブシャフト22が上下方向に貫通配置され、このドライブシャフト22は更に、ロアユニット13のギヤケース25内のプロペラシャフト29に連結される。本発明では特に、図4のようにドライブシャフト22は、クランクシャフト15と連結するドライブシャフト入力軸22Aとプロペラ24を駆動するドライブシャフト出力軸22Bとに上下に分離される。これらドライブシャフト入力軸22A及びドライブシャフト出力軸22B間に、変速比を少なくとも高低2段に切換可能な歯車式変速機33が介装される。
ミッドユニット12においてドライブシャフトハウジング16の下方にて、変速機33の後述する変速機室37を形成するためのアッパケース34及びロアケース35が相互に一体に結合する。アッパケース34はドライブシャフトハウジング16に結合し、ロアケース35はロアユニット13と結合する。図5はアッパケース34及びロアケース35の具体的構成例を示しており、両者は上下に重合して、主にアッパケース34の前半部内に変速機33の変速機室37を形成するためのスペースを有する。なお、アッパケース34及びロアケース35とも後半部には上方に配置されたエンジン14から排出される排気ガスを、下方のロアユニット13側へと流して排出するための排気通路36が形成されている。ここでは、アッパケース34及びロアケース35はドライブシャフトハウジング16と別体に構成されるが、ドライブシャフトハウジング16の下部で一体に形成することも可能である。これらの部材は実質的にドライブシャフトハウジング16の一部として機能し、従って変速機33自体もドライブシャフトハウジング16内に配置構成されるとしてもよい。
図6は、ミッドユニット12まわりの外装カバーを取り外し、アッパケース34及びロアケース35内に構成される変速機33を示す破断斜視図である。前述のように一体的に結合するアッパケース34及びロアケース35の内部には、変速機33の変速機室37が形成され、この変速機室37内に変速機33の複数の構成部材が収容配置される。変速機室37内は液密構造になっている。図7は変速機室37の横断面を示しており、アッパケース34の前半部に変速機室37が配置されると共に、その後半部には排気通路36が形成される。
変速機33について、図8等を用いて更に具体的に説明する。変速機33は、変速機室37に収容され、ドライブシャフト22と平行に配設されたカウンタシャフト38と、これらドライブシャフト22のドライブシャフト入力軸22A及びドライブシャフト出力軸22Bとカウンタシャフト38との間にそれぞれ掛け渡された歯車列39と、高速段と低速段とを選択的に切換可能なドッグクラッチ機構40とを含んで構成される。
特にドッグクラッチ機構40を駆動する後述の駆動装置63を油圧シリンダで駆動する油圧駆動装置で構成すると共に、この油圧シリンダを変速機室37内に配置する。
更に図9をも参照して、ドライブシャフト入力軸22Aは、変速機室37の前部寄りで左右方向略中央部に上方から挿入され、その下端部がベアリング41(以下、特にことわらない限りテーパローラベアリングを意味する)を介して間接的にアッパケース34に回転可能に支持される。ドライブシャフト出力軸22Bはドライブシャフト入力軸22Aの真下位置で、その上端側がベアリング42を介して間接的にロアケース35に回転可能に支持される。また、カウンタシャフト38はその上下端部がベアリング43,44を介して、それぞれアッパケース34及びロアケース35に回転可能に支持される。
歯車列39として、ドライブシャフト入力軸22Aに回転一体に設けられた主ドライブギヤ45と、ドライブシャフト出力軸22Bに回転自在に軸支された主ドリブンギヤ46と、主ドライブギヤ45に噛合いカウンタシャフト38へ回転一体に設けられたカウンタドリブンギヤ47と、カウンタシャフト38と回転一体に設けられて主ドリブンギヤ46に噛合うカウンタドライブギヤ48とを含んでいる。
ドライブシャフト入力軸22Aの下端部に形成されたスプライン(雄)49と主ドライブギヤ45のボス部に形成されたスプライン(雌)50とが係合することで、ドライブシャフト入力軸22A及び主ドライブギヤ45が回転一体に結合する。また、カウンタドリブンギヤ47及びカウンタドライブギヤ48間にはスペーサ51が介装され、両ギヤの間隔、即ち上下方向位置が規制される。カウンタシャフト38のカウンタドリブンギヤ47及びカウンタドライブギヤ48対応部位にはスプライン(雄)52が形成され、カウンタドリブンギヤ47及びカウンタドライブギヤ48にはそれぞれスプライン(雌)53,54が形成され、これらのスプライン52及び53,54が係合することで、カウンタシャフト38及びカウンタドリブンギヤ47あるいはカウンタドライブギヤ48が回転一体に結合する。このため主ドライブギヤ45、カウンタドリブンギヤ47、カウンタドライブギヤ48及び主ドリブンギヤ46でなる歯車列39は常時接続状態に保持される。
ドライブシャフト出力軸22Bの上端部には中空のアイドルシャフト55が外嵌し、この場合ドライブシャフト出力軸22Bに形成されたスプライン(雄)56とアイドルシャフト55に形成されたスプライン(雌)57とが係合することで、ドライブシャフト出力軸22B及びアイドルシャフト55が回転一体に結合する。また、アイドルシャフト55に外嵌するインナスリーブ58と主ドリブンギヤ46との間にベアリング(ニードルベアリング)59が装着され、主ドリブンギヤ46はドライブシャフト出力軸22Bとの関係では回転自在となる。なお、アイドルシャフト55の上端と主ドライブギヤ45の間にはベアリング42Aが装着される。
歯車列39の各歯車はハス歯歯車で構成される。この場合、相互に係合する主ドライブギヤ45及びカウンタドリブンギヤ47に作用するスラスト反力と、相互に係合する主ドリブンギヤ46及びカウンタドライブギヤ48に作用するスラスト反力が互いに対向するようにハス歯のねじれ角度を設定している。
また、主ドライブギヤ45及びカウンタドリブンギヤ47間のギヤ比Gr1、主ドリブンギヤ46及びカウンタドライブギヤ48間のギヤ比Gr2とすると、歯車列39全体での減速比R=Gr1×Gr2である。
ドッグクラッチ機構40において、アイドルシャフト55に外嵌して、主ドライブギヤ45及び主ドリブンギヤ46間をアイドルシャフト55の軸方向に沿って上下に往復動可能に支持されるドッグクラッチ60を有する。アイドルシャフト55に形成されたスプライン(雄)61とドッグクラッチ60に形成されたスプライン(雌)62とが係合することで、アイドルシャフト55及びドッグクラッチ60が回転一体に結合する。上述のようにドライブシャフト出力軸22B及びアイドルシャフト55は回転一体に結合しており、従ってドッグクラッチ60、アイドルシャフト55及びドライブシャフト出力軸22Bの三者は回転一体に結合する。
ドッグクラッチ60を上下動させる駆動装置については後述するが、上方に移動して主ドライブギヤ45と係合し(上側係合位置)、下方に移動して主ドリブンギヤ46と係合する(下側係合位置)。そして、変速機33はドッグクラッチ60が上下にスライドして高速段と低速段とに切り換えるように構成され、ドッグクラッチ60の下側係合位置が低速段に設定される。図9ではドッグクラッチ60の中立、即ちニュートラル位置が示されているが、上方へ移動することでドッグクラッチ60は主ドライブギヤ45と係合し、この場合ドライブシャフト入力軸22A及びドライブシャフト出力軸22B間は主ドライブギヤ45及びドッグクラッチ60を介して直結される。また、ドッグクラッチ60が下方へ移動することでドッグクラッチ60は主ドリブンギヤ46と係合し、この場合ドライブシャフト入力軸22A及びドライブシャフト出力軸22B間は、主ドライブギヤ45、カウンタドリブンギヤ47、カウンタドライブギヤ48及び主ドリブンギヤ46を経てなる動力伝達経路を介して、減速比Rで接続される。
変速機33の駆動装置63は、油圧シリンダによって駆動する油圧駆動装置で構成される。この油圧駆動装置は、電動式の油圧ポンプを備え、この油圧ポンプで発生させた油圧により油圧シリンダを作動させるようになっている。図10に示されるようにそのシリンダ軸線が鉛直方向に設定された油圧シリンダ64を有し、この例では油圧シリンダ64のシリンダ本体が変速機室37の天上部37aに固定支持される。油圧シリンダ64とドッグクラッチ60は、両者の間に配置されたスライドヨーク65を介して連結される。この場合スライドヨーク65は、変速機室37内に垂架されたガイドシャフト66に沿って上下にスライド可能に支持され、一端側は油圧シリンダ64の出力ロッド64aに連結される。これにより油圧シリンダ64によってスライドヨーク65を上下動させる。
また、スライドヨーク65の他端側にはシフトフォーク67が付設され、このシフトフォーク67はドッグクラッチ60側へ延出してこれと係合する。具体的にはドッグクラッチ60は図11等に示されるように平面視で概略円形状を呈し、図10及び図11のようにその外周縁に沿ってフランジ部60aが突設される。シフトフォーク67は図11のように平面視で円弧状を呈し、フランジ部60aを上下両側から挟むように係合する(図10)。
ここで、図11あるいは図12に示されるようにドライブシャフト22(ドライブシャフト入力軸22A及びドライブシャフト出力軸22)は変速機室37の最前部の左右方向中央部に配置される。また、カウンタシャフト38と油圧シリンダ64とをドライブシャフト22の後方でそれぞれ左右にオフセットして平面視において三角形状に配置する。つまりドライブシャフト22、カウンタシャフト38及び油圧シリンダ64の三者が、前後方向あるいは左右方向に直線的に並ばない配置関係となっている。
油圧シリンダ64には図6のように油圧配管68が接続され、これらの油圧配管68を介して油圧シリンダ64に圧油が流出入する。これら油圧シリンダ64直近の油圧配管68は外装カバー内に収容されるが、変速機33の駆動装置63のうち油圧シリンダ64を除く電動式油圧ポンプや電磁切換弁等は船外機10の外部、即ち船舶1の船体側に配置される。この場合、油圧配管68と船体側の油圧ポンプは図1に示される油圧ホース69を介して接続される。
変速機33において、図13に示したように少なくともスライドヨーク65の移動位置を、ドッグクラッチ60の上側係合位置に保持するデテント装置70を設けることができる。デテント装置70は図10(A矢視)をも参照して、アッパケース34の側壁に固定され、スライドヨーク65側へ突設されたデテントホルダ71を有し、このデテントホルダ71に装着されたボール72がスプリング73の弾力によりスライドヨーク65の外側面に弾接するようになっている。なお、このデテント装置70は必要に応じて選択的に設けることができる。
図14は、駆動装置63の全体構成例を示している。油圧シリンダ64を含む油圧系において、電動モータ74Aにより駆動される油圧ポンプ74、油圧調整を行うレギュレータ75、ワンウェイバルブ76、フィルタ77、アキュームレイタ78、ソレノイドバルブ79、油圧センサ80及びリザーバタンク81が油圧配管82を介して図示のように接続される。これらの構成部材は船体側に装備され、ソレノイドバルブ79と油圧シリンダ64とは前述したように油圧ホース69を介して接続される。ソレノイドバルブ79等は船体側に装備のECU(Engine Control Unit)2によって作動制御される。油圧シリンダ64にはストロークセンサ83が付帯され、このストロークセンサ83により油圧シリンダ64の少なくとも作動ストローク端が検出されて、その検出信号がECU2へ送出される。なお、図1に示されるように船舶1の操縦席にはステアリング装置3やリモートコントロール装置4等が配置されており、これらの操作に応じてECU2を介して駆動装置63が制御される。
上記構成の変速機33の基本的動作において、油圧シリンダ64を作動させてスライドヨーク65を介して、例えばシフトフォーク67によりドッグクラッチ60を図9のニュートラル位置から上方へ移動させる。この場合、ドッグクラッチ60は主ドライブギヤ45と係合し、ドライブシャフト入力軸22A及びドライブシャフト出力軸22B間は主ドライブギヤ45及びドッグクラッチ60を介して直結され、変速機33は高速段にシフトする。一方、ソレノイドバルブ79を切り換えて、油圧シリンダ64を上記とは逆方向に作動させるとドッグクラッチ60は図9のニュートラル位置から下方へ移動する。この場合、ドライブシャフト入力軸22A及びドライブシャフト出力軸22B間は、歯車列39を介して、減速比Rで接続される。このように変速機33においてドッグクラッチ60を上下にスライドさせることにより、高速段と低速段とに適宜切り換えることができる。
このようにドライブシャフト22の途中に変速機33を設けたことで、動力性能や燃費性能等の向上を図ることができる。また、油圧シリンダ64を変速機室37内に配置されるため、油圧シリンダ64が海水に曝される心配はなく、装置の耐久性を大幅に向上することができる。
本発明において更に、変速機33を潤滑するための潤滑系を備え、歯車列39及びドッグクラッチ機構40等の潤滑を要する変速機33の各部に潤滑油を供給するようにしている。次にこの潤滑系について説明する。
図15及び図16において、変速機室37の底部37bにてカウンタシャフト38の下部軸受であるベアリング44の下部に、このベアリング44を通して流下した潤滑油を溜める潤滑油の下部溜り部84を設けられる。そして、この下部溜り部84から潤滑油を汲み上げて、変速機33の各部に潤滑油を送る潤滑油ポンプ85を備える。
潤滑油ポンプ85は、カウンタシャフト38の中空内部に螺旋溝を設けてなる螺旋ポンプにより構成される。より具体的には、カウンタシャフト38の中空内部に、上下に貫通する別体の筒体でなるヘリカルステータ86が挿入される。なお、ヘリカルステータ86の上端は、アッパケース34の上内壁に形成されたネジ部に螺着する。カウンタシャフト38及びヘリカルステータ86の下端部は下部溜り部84内に浸漬される。図9にも示されるようにヘリカルステータ86の外周には螺旋状の凹溝86aが形成され、この凹溝86aとカウンタシャフト38の中空内面との間に螺旋状の潤滑油通路87が形成される。このようにヘリカル状の潤滑油通路87を持つ螺旋ポンプによれば、カウンタシャフト38が回転することで、下部溜り部84内に溜まった潤滑油を潤滑油通路87に沿って上昇させる(図15、矢印L0)ことができる。
なおここで、本例では図9等に示されるようにヘリカルステータ86の外周に左ネジ方向に螺旋状の凹溝86aが形成される。一方、カウンタシャフト38の回転方向は上面視で反時計方向に設定され、カウンタシャフト38が回転すると、潤滑油はそれ自体の剪断抵抗により潤滑油通路87を上っていく。
汲み上げられた潤滑油は、ヘリカルステータ86の上端から溢れ出し、カウンタシャフト38の上部に形成された潤滑油の上部溜り部88に流入する。ここで、図5に示されるようにアッパケース34には、ドライブシャフト22及びカウンタシャフト38の嵌挿穴89,90がそれぞれ形成されている。カウンタシャフト38の嵌挿穴90の上側に設けられる上部溜り部88は、ドライブシャフト22の嵌挿穴89に向けて拡がるように形成される。更に、上部溜り部88と連通するかたちで、汲み上げられた潤滑油を上部溜り部88からカウンタシャフト38及びドライブシャフト入力軸22Aのそれぞれ軸受であるベアリング43,41に供給する潤滑油通路91,92が形成される。
上部溜り部88には図15のように蓋板93が被せられ、潤滑油通路91,92はアッパケース34外部から遮断されている。また、ヘリカルステータ86は中空構造を有するが、その上端にはプラグ94が嵌着し(図9参照)、潤滑油がヘリカルステータ86の上端からその中空内部に落ちて入ることはない。このため潤滑油は上部溜り部88から潤滑油通路91,92を通って、図15の矢印L1及び矢印L2のようにそれぞれベアリング43,41に供給される。
ここで、歯車列39を構成する主ドライブギヤ45、主ドリブンギヤ46、カウンタドリブンギヤ47及びカウンタドライブギヤ48にはそれぞれ、図11〜図13に示されるように複数の肉盗み穴95が歯幅方向に貫通形成されている。ベアリング43に供給された潤滑油の一部は、カウンタドリブンギヤ47及びカウンタドライブギヤ48のそれぞれ肉盗み穴95を通って順次落下しながら(図15、矢印L3)、それらの歯面や周辺部材を潤滑する。また、ベアリング41に供給された潤滑油の一部は、主ドライブギヤ45及び主ドリブンギヤ46のそれぞれ肉盗み穴95を通ると共に、ベアリング42A(図9)、シフトフォーク67、ドッグクラッチ60及びベアリング59(ニードルベアリング)に順次落下しながら(図15、矢印L4)、それらの歯面及び周辺部材を潤滑する。
また、ベアリング43及びベアリング41に供給された潤滑油の他の一部は、図16の矢印L5のようにカウンタドリブンギヤ47及び主ドライブギヤ45の上面を伝って、それらの外周部から落下し、あるいは飛散する。このように落下あるいは飛散する場合でもそれらの歯面や周辺部材を潤滑する。
上記のように上部溜り部88からベアリング43,41に供給された潤滑油は、その後図15あるいは図16の矢印L1〜矢印L5のような経路を通って、変速機室37内で落下あるいは飛散する。この場合、潤滑油が通る典型的な経路を示し、あるいは図示したものであり、この潤滑系によれば総じて、変速機室37内の細部まで潤滑油を満遍なく行き渡らせることができる。
変速機室37内の各部を潤滑した潤滑油は、変速機室37の底部37bに落下するが、図16に示されるように底部37bと下部溜り部84とは連通孔96を介して相互に連通している。これにより変速機33の潤滑に供した潤滑油は、変速機室37の底部37bに落下後、下部溜り部84に回収され、再び上記のように潤滑油ポンプ85によって汲み上げられて使用される。なお、連通孔96には図16のようにプラグ97が打設され、塞がれている。
次に本発明の船外機10における変速機33の特長的な作用効果について説明する。先ず、変速機室37の底部37bでカウンタシャフト38のベアリング44の下部に、このベアリング44を通して流下した潤滑油の下部溜り部84を設け、この下部溜り部84から潤滑油を汲み上げて、潤滑油を送る潤滑油ポンプ85を備える。
上記のように潤滑油の下部溜り部84を設けることで、変速機室37の下方に配置された特には主ドリブンギヤ46、カウンタドライブギヤ48及びそれらのベアリング42,44まわりは、下部溜り部84中の潤滑油に浴し、潤滑される。このため潤滑油の特別な供給装置を必要とすることなく、即ち構成の簡素化を図りながら、必要箇所を適正に潤滑することができる。その際、潤滑油を変速機室37内部に充満させることがない、つまり一定量の潤滑油を潤滑油ポンプ85により循環させているので、潤滑油の攪拌抵抗が小さて済む。
また、潤滑油ポンプ85はカウンタシャフト38を中空にしてその内部に螺旋状の凹溝86aを設けて螺旋ポンプを形成してなる。
このように特別な装置を設けることなく、簡単な構成で潤滑油ポンプ85を実現することができる。螺旋ポンプの作用により、潤滑油を下部溜り部84から上方のベアリング43へと容易且つ的確に導くことができる。
また、ヘリカルステータ86の外周の凹溝86aとカウンタシャフト38の中空内面との間に螺旋状の潤滑油通路87が形成される。
カウンタシャフト38と比べて機械的強度を必要としない別体のヘリカルステータ86に螺旋状の凹溝86aを形成したので、螺旋状の凹溝86aの成形が容易であり、製造上極めて有利である。更に、かかる螺旋溝の横断面をコ字状ではなく「ロ」(四角形)又は「○」(円形)形状の閉断面にできるのでポンプ効率が向上する。
また、潤滑油ポンプ85はカウンタシャフト38の中空内部を通して潤滑油の上部溜り部88に潤滑油を汲み上げ、この潤滑油の上部溜り部88からベアリング43,41に供給される。
特別な装置を設けることなく、潤滑油を上部溜り部88から主ドライブギヤ45上方のベアリング41に導くことができる。また、主ドライブギヤ45の上方のベアリング41を潤滑した潤滑油は、飛散することで主ドライブギヤ45及びこれに噛合するカウンタドリブンギヤ47を特別な潤滑油供給装置なしに潤滑することができる。
また、本発明において更に、エンジン14を冷却するための冷却系を備える。ここでは変速機33との関係で冷却系について概略説明する。ロアユニット13において、図17(A)に概略図示したように冷却水ポンプ98が設置され、この冷却水ポンプ98から上方へ冷却水パイプ99がロアケース35内へと延出する。なお、以下の図において、冷却系における冷却水の流れを矢印Cにより示す。冷却水パイプ99はロアケース35の側部から一旦、外部へ出て図17(B)のように冷却水ホース100に接続される。冷却水ホース100は図1にも示されるように変速機33のケース、特にはアッパケース35を迂回して、図18のようにミッドユニット12内の冷却水導入通路101に接続される。
冷却水導入通路101は図18のようにミッドユニット12内を上昇し、図19(A)のようにアッパユニット11の下端付近の冷却水路102に接続される。冷却水路102に流入した冷却水はその後、図19(B)のようにアッパユニット11内を上昇し、排気マニホールドやシリンダブロック周辺を流通しながら冷却する。
この冷却系において冷却水パイプ99はロアケース35の側部から外部へ出て、冷却水ホース100に接続されるが、外装カバーにより覆われて外観に露呈しない。変速機33をミッドユニット12においてドライブシャフト22の途中に配置するが、変速機33が極めてコンパクトに構成されているため、冷却水ホース100を迂回するように配置しても既存の外装カバーを使うことができる。
さて、以上説明した船外機10において本発明では特に、変速機33は、ドライブシャフト22を収容するドライブシャフトハウジング16とプロペラ24を駆動するプロペラシャフト29を収容するロアユニット13との間で変速機室37内に設けられる。この場合、変速機室37はアッパケース34及びロアケース35により形成される。そして特にアッパケース34及びロアケース35の接合面37A(図5、図6参照)が、船外機10を船体に支持するためのアッパマウント17Aとロアマウント17B(図3)との間に設定される。なお、図6において、ロアマウント17Bの概略位置が示される。
接合面37Aを上記のように設定し、つまりロアマウント17Bがロアケース35側に設けられる。両者をこのように配置することで、変速機33のギヤケース、即ち変速機室37に対して作用するプロペラ24の推進力による曲げモーメントがロアマウント17Bに分担されるので、変速機室37を形成するアッパケース34及びロアケース35間の接合面37Aに作用する曲げモーメントが軽減される。変速機室37には潤滑系により潤滑油が供給されるが、曲げモーメントに基づく接合面37Aの変形等をなくし、特に接合面37Aからの油漏れを防止して潤滑系の適正機能を保証することができる。
また、変速機室37は、ドライブシャフトハウジング16の下部を一体に形成して構成される。
ドライブシャフトハウジング16の機能として、その上部のエンジンユニット11とロアユニット13とを連結すると共にドライブシャフト22を収容することに加えて、排気通路36及び冷却水通路(冷却水導入通路101及び冷却水路102等、図17〜図19参照)を一体に形成することができる。これによりドライブシャフトハウジング16の構造を簡素化することが可能になり、結果的にコストダウンを図ることができる。
また、変速機室37のアッパケース34は、ドライブシャフトハウジング16と一体に形成する一方、ロアケース35はロアユニット13と別体に形成されて該ロアユニット13の上部を開閉可能に塞ぐと共に、ロアユニット13の上部に冷却水ポンプ98が配置される。
このように冷却水ポンプ98を水頭高さが低いロアユニット13内に配置できるので、吸入能力が低いポンプの場合であってもそれを有効に採用でき、常に冷却系の適正機能を保証することができる。なお、ロアユニット13を、変速機33を備えない船外機と兼用することができる。
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上記実施形態においてアッパケース34及びロアケース35の接合面37Aが、変速機室37の底面付近に設定された例を説明したが、該底面よりも上方に設定することも可能である。