JP6149126B1 - 低電圧ヒューズの製造方法及び低電圧ヒューズ - Google Patents

低電圧ヒューズの製造方法及び低電圧ヒューズ Download PDF

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Abstract

ヒューズ(1)の製造方法は、基板の主面(102)上に、金属をナノ粒子化した金属ナノ粒子が溶媒中に分散した分散液のインク膜を形成する液膜形成ステップ(ステップS102)と、前記液膜を、平均粒子径がマイクロメートル以上である金属の溶融温度よりも低い温度で加熱して、隣接する金属ナノ粒子の間に空隙(25)が点在するエレメント膜を主面(102)上に形成するエレメント形成ステップ(ステップS106)と、を有する。

Description

本発明は、低電圧ヒューズの製造方法及び低電圧ヒューズに関する。
電子機器においては、故障等で生じた過電流の流入により回路破壊が発生することを防止するために、ヒューズが利用されている。具体的には、ヒューズは、エレメント(可溶体)を有し、回路に異常な電流が流れた場合に、エレメントが溶断して回路を遮断することで回路破壊を防止する(特許文献1参照)。
特開2007−95592号公報
近年、電子機器の小型化の進展に伴い、電子機器に搭載された回路に組み込まれたヒューズの小型化や、ヒューズに通電する通電電流の微小化(低定格電流化)が要請されている。しかし、ヒューズを小型化し、通電電流を微小化する場合には、ヒューズの電気抵抗が増大することが知られている。
また、ヒューズが組み込まれた回路の駆動電圧としては、これまで32(V)が一般的であったが、駆動電圧の低電圧化(例えば5(V))も要請されている。しかし、駆動電圧が小さい回路に上述した電気抵抗が増大するヒューズを組み込んだ場合には、回路に流す電流の制約を受けるため回路が適切に機能せず、ヒューズが正常に溶断しないという問題が発生する恐れがある。
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、低電圧でも確実に溶断する低定格電流のヒューズを提供することを目的とする。
本発明の第1の態様においては、基板の主面上に、金属をナノ粒子化した金属ナノ粒子が溶媒中に分散した分散液の液膜を形成する液膜形成ステップと、前記液膜を、平均粒子径がマイクロメートル以上である前記金属の溶融温度よりも低い温度で加熱して、隣接する前記金属ナノ粒子の間に空隙が点在するエレメントを前記主面上に形成するエレメント形成ステップと、を有する、低電圧ヒューズの製造方法を提供する。
また、前記エレメント形成ステップにおいて、前記金属ナノ粒子を焼結させて、前記エレメントを前記主面上に形成することとしてもよい。
また、前記エレメント形成ステップにおいて、前記液膜の表面にレーザ光を照射して、膜状のエレメントであるエレメント膜を形成することとしてもよい。
また、前記エレメント形成ステップにおいて、前記液膜に対して前記レーザ光を一回走査させて、前記レーザ光のスポット径に対応する幅、及び走査幅に対応する長さの前記エレメント膜を形成することとしてもよい。
また、前記低電圧ヒューズの製造方法は、前記エレメント膜を焼成する焼成ステップを更に有することとしてもよい。
また、前記低電圧ヒューズの製造方法は、前記金属ナノ粒子をガス中蒸発法で製造するステップを更に有することとしてもよい。
本発明の第2の態様においては、基板と、前記基板上に設けられ、互いに電気的に接続している金属をナノ粒子化した複数の金属ナノ粒子を含むエレメントと、を備え、前記エレメントは、隣接する前記金属ナノ粒子の間に位置する空隙を複数有する、低電圧ヒューズを提供する。
また、前記複数の空隙のうちの少なくとも一部の空隙が、前記エレメントが通電されることにより、塞がった状態となることとしてもよい。
また、前記複数の空隙は、前記金属ナノ粒子の平均粒子径よりも大きい幅の空隙を含むこととしてもよい。
また、前記エレメントは、前記基板の主面に膜状に形成されたエレメント膜であり、前記エレメント膜が通電された後の前記エレメント膜の厚さは、通電される前の前記エレメント膜の厚さよりも小さいこととしてもよい。
また、前記エレメントの通電前の前記金属ナノ粒子の抵抗率が、平均粒子径がマイクロメートル以上である前記金属の抵抗率の1.5倍〜5倍であることとしてもよい。
また、前記エレメントの溶断時の前記エレメントの抵抗値が、前記エレメントの通電前の抵抗値の6倍以下であることとしてもよい。
また、前記金属ナノ粒子は、銀ナノ粒子であり、前記基板は、ポリイミド製基板であることとしてもよい。
本発明によれば、低電圧でも確実に溶断する小型・低定格電流のヒューズを提供できるという効果を奏する。
比較例1に係るヒューズ900の断面模式図である。 ヒューズ900の平面模式図である。 ヒューズ900の定格電流Iと抵抗Rとの関係を示す図である。 ヒューズ900の溶断特性を示す図である。 図4の点Dでヒューズ900が溶断する際の電流波形C3及び端子間電圧波形C4を示す。 電源電圧が5(V)である場合にヒューズ900を溶断した際の溶断時端子間電圧を示す図である。 比較例1に係るヒューズ900の溶断時ホット抵抗R(h)を示す図である。 ヒューズ900の溶断過程におけるホット抵抗比率及びコールド抵抗比率の関係を示す図である。 純銀から成るエレメント線の溶断特性と、三つの金属元素から成るエレメント線の溶断特性を示す図である。 エレメント線を組み込んだヒューズの溶断時端子間電圧特性を示す図である。 エレメント線を組み込んだヒューズの溶断時抵抗比率特性を示す図である。 本発明の一実施形態に係るヒューズ1の断面模式図である。 ヒューズ1の平面模式図である。 通電前のエレメント膜20の表面の撮影画像である。 0.001(sec)の間通電した後のエレメント膜20の表面の撮影画像である。 0.01(sec)の間通電した後のエレメント膜20の表面の撮影画像である。 通電前のエレメント膜20の断面の撮影画像である。 0.01(sec)の間通電した後のエレメント膜20の断面の撮影画像である。 比較例2に係るヒューズのエレメント膜の通電前の断面の撮影画像である。 本実施形態に係るヒューズ1及び比較例2に係るヒューズの溶断時電圧特性を示す図である。 本実施形態に係るヒューズ1及び比較例2に係るヒューズの溶断時抵抗比率を示す図である。 比較例2に係るヒューズに溶断点S(図21)に至るまで通電する際の、当該ヒューズのホット抵抗比率とコールド抵抗比率の推移を示す図である。 本実施形態に係るヒューズ1の溶断点U(図21)に至るまで通電する際の、ヒューズ1のホット抵抗比率とコールド抵抗比率の推移を示す図である。 本実施形態に係るヒューズ1と比較例2に係るヒューズの溶断特性を示す図である。 本実施形態に係るヒューズ1と比較例1に係るヒューズの溶断特性を示す図である。 ヒューズ1の製造工程を示すフローチャートである。 集合基板100上に形成されたインク膜110を示す模式図である。 レーザ照射装置200の構成の一例を示す模式図である。 エレメント膜形成工程の詳細を示すフローチャートである。 エレメント膜形成後の集合基板100を示す模式図である。 後工程の詳細を示すフローチャートである。
以下では、下記に示す順序で説明を行う。
1.比較例
1−1.比較例に係るヒューズの構成
1−2.比較例に係るヒューズの抵抗
1−3.比較例に係るヒューズの溶断特性
1−4.比較例に係るヒューズの抵抗特性
1−5.比較例に係るヒューズ膜の成分
1−6.金属材料と、溶断・端子間電圧・溶断時抵抗比率特性との関係
2.本実施形態
2−1.ヒューズの構成
2−2.エレメント膜の内部構造
2−3.蒸着法で形成されたエレメント膜との特性の対比
2−4.ヒューズの製造方法
2−5.変形例
<1.比較例>
本発明に係るヒューズについて説明する前に、比較例に係るヒューズについて説明する。以下においては、比較例に係るヒューズの構成について説明した後に、比較例に係るヒューズにおいて発生する諸問題について説明する。
(1−1.比較例に係るヒューズの構成)
図1は、比較例1に係るヒューズ900の断面模式図である。図2は、ヒューズ900の平面模式図である。
図1及び図2に示すように、ヒューズ900は、支持基板910と、エレメント膜920と、内部端子930と、オーバーコート940と、外部端子950とを有する。ヒューズ900は、回路に直列に挿入されており、例えば回路に過電流が流入した場合にはエレメント膜920が溶断することにより、回路を保護している。
支持基板910は、例えばアルミナから成り、エレメント膜920及び内部端子930を支持する。エレメント膜920は、2種類の金属(例えばニッケル及び亜鉛)から成り、支持基板910の主面912上に形成されている。内部端子930は、エレメント膜920の長手方向両端側にそれぞれ形成されており、エレメント膜920と電気的に接続している。オーバーコート940は、無機質材料から成り、エレメント膜920を覆っている。外部端子950は、内部端子930上に、内部端子930と電気的に接続するように形成されている。
(1−2.比較例に係るヒューズの抵抗)
比較例1に係るヒューズ900は、小型で低定格電流のチップヒューズである。このようなチップヒューズの場合には、ヒューズ900の抵抗Rが増大しやすい。
まず、ヒューズ900の小型化に伴い抵抗Rが増大する理由を説明する。
ここでは、ヒューズ900の長さ(図1のX方向)、幅(Y方向)、厚さ(Z方向)が半分の大きさに小型化したのに伴い、エレメント膜920の長さ、幅、厚さも半分(1/2)になったものとする。そして、エレメント膜920の長さ、幅、厚さを長さl、幅w、厚さhとすると、下記の式(1)から分かるように、エレメント膜920の抵抗Rは、2倍の大きさとなる。
なお、ρは、エレメント膜920の材質によって決まるエレメント膜920の抵抗率である。
一般に、エレメント膜920の抵抗Rは、ヒューズ900の抵抗Rの大部分を占める。このため、ヒューズ900の小型化に伴いエレメント膜920の抵抗Rが増大すると、ヒューズ900の抵抗Rも増大する。
次に、ヒューズ900の低定格電流化に伴い抵抗Rが増大する理由を説明する。
エレメント膜920の材質、支持構造及び長さ等のエレメント膜920の溶断に関連する主因子が一定である場合には、エレメント膜920が所定の通電時間で溶断するのに必要な電流密度(I/a)も、一定となることが知られている。なお、Iは通電電流であり、aはエレメント膜920の断面積である。
ここでは、ヒューズ900の定格電流が半分になったのに伴い、通電電流Iも半分になったものとする。前述したように、エレメント膜920の溶断に関連する主因子が一定である場合には、電流密度(I/a)も一定となるので、通電電流Iが1/2になれば、断面積aも1/2となる。この場合、下記の式(2)から分かるように、エレメント膜920の抵抗Rは、2倍の大きさとなる。
式(2)において、ρ及び長さlが一定の場合には、通電断面積aが1/2になると、Rは2倍となる。このように、ヒューズ900の低定格電流化に伴い、ヒューズ900の抵抗Rの大部分を占めるエレメント膜920の抵抗Rが増大することで、ヒューズ900の抵抗Rも増大する。
図3は、ヒューズ900の定格電流Iと抵抗Rとの関係を示す図である。グラフの横軸は定格電流Iを示し、縦軸は抵抗Rを示す。図3を見ると分かるように、定格電流I が小さくなるに従い、抵抗Rは大きくなっている。
(1−3.比較例に係るヒューズの溶断特性)
図4は、ヒューズ900の溶断特性を示す図である。グラフの横軸は通電時間Tを示し、縦軸は通電電流Iを示す。図4を見ると分かるように、ヒューズ900の溶断特性は、通電時間Tが大きくなるにつれて、通電電流Iが小さくなる傾向を示す。
図4の溶断特性曲線C1は、電源電圧が24(V)の回路でヒューズ900を溶断した場合の溶断特性を示し、溶断特性曲線C2は、電源電圧が5(V)の回路でヒューズ900を溶断した場合の溶断特性を示す。例えば、溶断特性曲線C1の点Aは、ヒューズ900に通電電流Iを通電時間Tだけ通電した際に、ヒューズ900が溶断することを示す。
溶断特性曲線C2において、通電電流IがIよりも大きい領域(別言すれば、通電時間TがTよりも小さい領域)では、ヒューズ900の溶断特性を得られていない。すなわち、ヒューズ900は、電源電圧が5(V)の回路においては十分な溶断特性を有していないことになる。一方で、溶断特性曲線C1が示すように、電源電圧が24(V)の回路においては、通電電流IがIよりも大きい領域でもヒューズ900の溶断特性を得られている。
図5は、図4の点Dでヒューズ900が溶断する際の電流波形C3及び端子間電圧波形C4を示す。グラフの横軸は通電時間Tを示し、縦軸は電流iと端子間電圧Vを示す。なお、端子間電圧は、外部端子950(図1)間の電圧である。
ここでは、図5に示すように、電流iが急激に減少し、同時に端子間電圧Vが急激に増加する点を、電流波形C3及び端子間電圧波形C4上の溶断点とみなしている。具体的には、通電時間Tにおける電流波形C3の点G及び端子間電圧波形C4の点Hを、それぞれ溶断点とみなしている。また、溶断点に対応する溶断時電流及び溶断時端子間電圧を、それぞれ電流i、端子間電圧Vとした場合には、図5において、通電時間Tにおける電流iMDが点Dに対応する溶断時電流であり、端子間電圧VMDが点Dに対応する溶断時端子間電圧である。
なお、ヒューズ900の溶断特性における通電電流Iは、所定の通電時間Tで通電する際の電流iの平均値である。例えば、点Dにおける通電電流Iは、下記の式(3)で示される。
前述したように、電源電圧が5(V)のように低電圧である場合には、ヒューズ900は十分な溶断特性を得ることができない。この原因を、以下に説明する。
図6は、電源電圧が5(V)である場合にヒューズ900を溶断した際の溶断時端子間電圧を示す図である。グラフの横軸は通電時間Tを示し、縦軸は溶断時端子間電圧Vを示す。図6の点Eにおける端子間電圧VMEは、通電時間Tにおける溶断時端子間電圧である。端子間電圧VMEの値は、ここでは約4.8(V)である。
ところで、点Eにおける端子間電圧VMEは、図4の点Dにおける溶断時端子間電圧でもある。図4に示すように、通電時間Tが通電時間Tよりも小さい領域(通電電流Iが通電電流Iよりも大きい領域)において、ヒューズ900は溶断されない。この原因は、図6に示すように、点Eにおける端子間電圧VMEが約4.8(V)であるため、ヒューズ900以外の回路抵抗を考量すると、電源電圧が5(V)の場合には、通電電流Iよりも大きい電流をヒューズ900に流すことができないからである。
(1−4.比較例に係るヒューズの抵抗特性)
まず、ヒューズ900の抵抗特性として、ホット抵抗及びコールド抵抗について説明する。
ヒューズ900のホット抵抗は、ヒューズ900に電流iが通電されている際の抵抗である。ヒューズ900の端子間電圧をVとした場合、ホット抵抗R(h)は、下記の式(4)で示される。
以下では、溶断の瞬間のホット抵抗を、溶断時ホット抵抗と呼ぶ。
ヒューズ900のコールド抵抗は、通電をしていない状態における製品抵抗である。特に、一度も通電をしたことがないヒューズ900のコールド抵抗を通電前コールド抵抗と呼び、少なくとも一度通電した後のヒューズ900のコールド抵抗を通電後コールド抵抗と呼ぶ。ただし、ここで述べる通電は、ヒューズ900の抵抗を測定するときのように、ヒューズ900にダメージを与えないように通電する微小な電流を含まない。微小な電流は、例えば定格電流の1/10以下の電流(具体的には、数mA程度の電流)である。
前述したように、溶断点に対応する溶断時電流を及び溶断時端子間電圧を、それぞれ電流i、端子間電圧Vとした場合に、ヒューズ900の溶断時ホット抵抗R(h)は、下記の式(5)のような関係となる。
図7は、電源電圧が5(V)である場合の比較例1に係るヒューズ900の溶断時ホット抵抗R(h)を示す図である。グラフの横軸が通電時間Tを示し、縦軸が溶断時ホット抵抗R(h)を示す。図を見ると分かるように、溶断時ホット抵抗R(h)は、通電時間Tが小さくなるにつれて大きくなっている。例えば、点Fにおける溶断時ホット抵抗R(h)は、約36(Ω)である。
以上の実験結果から、ヒューズ900は、溶断過程において溶断時ホット抵抗R(h) が増大し、これに伴いヒューズ900の溶断時端子間電圧Vも増大している。このため、例えば電源電圧が5(V)のような低電圧電源を含む回路では、ヒューズ900に通電させる電流に制約が生じることになる。
次に、ヒューズ900の溶断時抵抗比率について説明する。溶断時抵抗比率は、下記のように定義される。
溶断時抵抗比率=溶断時ホット抵抗/製品抵抗
なお、製品抵抗は、常温時の抵抗である。
ここで、ヒューズ900の製品抵抗は、約3(Ω)であるものとする。かかる場合に、図7の点Fにおける溶断時ホット抵抗R(h)が約36(Ω)であるため、ヒューズ900の溶断時抵抗比率は、約12に達することになる。
以下では、ヒューズ900の溶断時抵抗比率が大きくなる原因の実験結果について説明する。ここでは、図4の溶断点Jにおいて、ヒューズ900への通電開始から溶断するまでの間、ホット抵抗比率とコールド抵抗比率がどのように推移するかを実験した。実験では、それぞれ通電開始から溶断までの通電時間Tがそれぞれ異なる(例えば、0.01(sec)、0.1(sec)、1(sec)等)、複数のヒューズを用いた。
ここで、ホット抵抗比率及びコールド抵抗比率は、それぞれ下記のように定義される。
ホット抵抗比率=ホット抵抗/通電前コールド抵抗
コールド抵抗比率=通電後コールド抵抗/通電前コールド抵抗
なお、通電前コールド抵抗は、常温時の抵抗である。
図8は、ヒューズ900の溶断過程におけるホット抵抗比率及びコールド抵抗比率の関係を示す図である。図を見ると分かるように、通電時間Tが大きくなると、ホット抵抗比率が大きくなり、点K(ホット抵抗比率は約11.8)でヒューズ900が溶断する。一方で、コールド抵抗比率は、通電開始から約1(sec)間はほとんど変化せず、5(sec)を経過すると急激に大きくなる。例えば、点Mにおけるコールド抵抗比率は、約3となる。この間、ホット抵抗比率も、コールド抵抗比率と同様に変化し、点Lにおいて急激に大きくなる。
実験結果から、コールド抵抗比率の増大と同期するようにホット抵抗比率が増大することから、次の二点が判明した。一点目として、ヒューズ900の溶断時ホット抵抗の大幅な増大は、コールド抵抗の大幅な増大が原因である。二点目として、ヒューズ900のホット抵抗は、通電によるエレメント膜920の温度上昇に起因した抵抗増大とは別に、コールド抵抗の増大も含んでいる。
(1−5.比較例に係るヒューズ膜の成分)
本発明者は、コールド抵抗の増大の原因を究明するために、ヒューズ900のエレメント膜920の成分を分析した。
エレメント膜920は、前述したようにニッケルと亜鉛の2成分から構成されている。ヒューズ900の溶断過程におけるエレメント膜920を分析したところ、ニッケルと亜鉛が合金化することが判明した。そして、合金の電気抵抗(コールド抵抗)は、ニッケル単体の電気抵抗及び亜鉛単体の電気抵抗よりも高いことが確認された。
このことから、ヒューズ900のコールド抵抗が増大する原因は、以下のようなメカニズムと推定される。すなわち、通電により生じたエレメント膜920の合金化によって、金属の格子欠陥(結晶格子の均一性が低下)が増大する。そして、格子欠陥に起因して自由電子が散乱して、電気抵抗(残留抵抗)が上昇したものと推定できる。
なお、上述した現象は、図4の点Jで生じた現象であるが、本発明者は、点Jに限らず、例えば図4の点D近傍でも類似の現象が生じていることを確認した。
(1−6.金属材料と、溶断・端子間電圧・溶断時抵抗比率特性との関係)
本発明者は、ヒューズのエレメントの金属材料に着目し、平均粒子径がμm以上の金属材料の溶断特性、端子間電圧特性、及び溶断時抵抗比率特性を実験した。
具体的には、低抵抗金属である純金、純銀、純銅の何れかから成るエレメント線を組み込んだヒューズと、銀、銅及び錫の三つの金属から成り溶断中に合金化するエレメント線を組み込んだヒューズの溶断実験を行った。三つの金属から成るエレメント線は、銀線に銅を被せたクラッド材に錫メッキを施したものであり、通電前の状態では三つの金属はそれぞれ純金属と同様な状態を保っている。なお、溶断実験の前に、各エレメント線をアニール処理しており、加工等に起因した格子欠陥を減らし、いわゆる残留抵抗を極力下げるようにしている。
図9は、純銀から成るエレメント線の溶断特性と、三つの金属元素から成るエレメント線の溶断特性を示す図である。図9を見ると分かるように、純銀エレメント線は、通電時間Tが約0.003(sec)である短時間領域まで溶断する。一方で、銀、銅及び錫の三つの金属元素から成るエレメント線は、通電時間が約0.02(sec)までしか溶断しない結果となった。
図10は、エレメント線を組み込んだヒューズの溶断時端子間電圧特性を示す図である。図10を見ると分かるように、何れのエレメント線も、溶断時端子間電圧Vが電源電圧24Vに近い約22Vとなる点で溶断が終点となることが判明した。また、純銀、純金、純銅のいずれかから成るエレメント線に比べて、銀、銅及び錫の三つの金属元素からなるエレメント線は、相対的に通電時間Tが長い領域で端子間電圧Vが増大する傾向があることが判明した。例えば、三つの金属元素からなるエレメント線の端子間電圧Vは、通電時間Tが0.02(sec)でVが約22Vに達する。一方、低抵抗金属の中でも特に純銀については、通電時間Tが約0.003(sec)と最も短い通電時間において、溶断時端子間電圧Vが約22Vに達することが判明した。
図11は、エレメント線を組み込んだヒューズの溶断時抵抗比率特性を示す図である。なお、ここで説明する溶断時抵抗比率(以下、エレメント線溶断時抵抗比率)は、前述した溶断時抵抗比率とは異なり、以下のように定義される。
エレメント線溶断時抵抗比率=溶断時ホット抵抗/通電前コールド抵抗
図11を見ると分かるように、銀、銅及び錫の三つの金属元素からなるエレメント線のエレメント線溶断時抵抗比率は、純銀、純金、純銅のいずれかから成るエレメント線に比べて大きい。なお、純銀のエレメント線のエレメント線溶断時抵抗比率が、もっとも小さい。図11の各材料のエレメント線溶断時抵抗比率の大小関係は、図10の溶断時端子間電圧の大小関係と似た関係となっている。
上記の結果から、銀、銅及び錫の三つの金属元素から成るエレメント線に通電し溶断する過程において、三つの金属が合金化し、電気抵抗(コールド抵抗)が増大する。これに伴い、エレメント線の溶断時ホット抵抗も増大することで、エレメント線溶断時抵抗比率も増大することが判明した。
一般に、主成分の金属に対して他の金属が加えられた場合には、他の金属が自由電子を散乱させるように作用するため、(温度上昇に起因する結晶格子の振動による散乱に加えて)合金化により新たに発生した散乱の効果が生じて、電気抵抗が増大することが知られている。また、Siなどが不純物として含有される場合においても、電気抵抗が増大することが知られている。本発明者は、主成分の金属(例えば、銅や銀)に他の金属を加えた合金をヒューズ線の材料として応用した実験においても、主成分のみから成る純金属のエレメント線に比べて、溶断時ホット抵抗及びエレメント線溶断時抵抗比率が増大することを確認した。
なお、上述した溶断時ホット抵抗は、溶断過程における溶断時のヒューズ線の電気抵抗である。具体的には、溶断時ホット抵抗は、通電による温度上昇に起因した電気抵抗と、金属の格子欠陥等に起因し温度には依存しない残留抵抗とを含んでいる。
本発明者は、純銀のエレメント線においては、溶断過程において、コールド抵抗が大きく増大することはないことを確認した。
以上の検討結果から、溶断時端子間電圧Vの増大を抑え、かつ低電圧で溶断可能なヒューズを実現する上で、エレメントを構成する金属は、不純物の少ない純金属が好ましく、純銀がより好適であることが判明した。また、エレメントを複数種の金属から構成する場合、溶断過程において合金化させないことが重要であることが判明した。
<2.本実施形態>
(2−1.ヒューズの構成)
図12及び図13を参照しながら、本発明の一実施形態に係るヒューズ1の構成について説明する。図12は、一実施形態に係るヒューズ1の断面模式図である。図13は、ヒューズ1の平面模式図である。
ヒューズ1は、小型で低定格電流のチップヒューズである。ヒューズ1は、電子機器の回路に直列になるように挿入され、回路基板等に表面実装されており、回路に異常な電流が流れた際に溶断する。ヒューズ1の長手方向の長さL1は約1.6(mm)であり、幅方向の長さL2は約0.8(mm)であり、厚さL3は約0.4(mm)である。
ヒューズ1は、図12、図13に示す様に、支持基板10とエレメント膜20と、内部端子31、32と、オーバーコート40と、外部端子51、52とを有する。ヒューズ1は、外部端子51、52を介して回路基板と電気的に接続されており、回路基板から外部端子51、52を介してエレメント膜20へ電流が供給される。
支持基板10は、エレメント膜20や内部端子31、32を支持する基板である。支持基板10は、例えば有機化合物からなる基板であり、ここでは非熱可塑性ポリイミド樹脂基板である。支持基板10の厚さは、約250(μm)である。
エレメント膜20は、膜状に形成されており、支持基板10の主面12上に接合されている。エレメント膜20は、金属をナノ粒子化した複数の金属ナノ粒子を含む。本実施形態の金属ナノ粒子としては、例えば銀をナノ粒子化した銀ナノ粒子が用いられる。また、エレメント膜20は、詳細は後述するが、隣接する金属ナノ粒子の間に位置する空隙を複数有する。
エレメント膜20の幅wは約10(μm)であり、エレメント膜20の厚さtは約0.25(μm)である。エレメント膜20は、詳細は後述するが、金属ナノ粒子を含有するインク膜にレーザ光を照射することで、主面12上に形成されている。
通電前のエレメント膜20の抵抗率ρeoは、約3.5(μΩcm)であり、純銀の約2.2倍の抵抗率である。なお、エレメント膜20の抵抗率ρeoは、下記の式(6)、(7)から算出される。
上記の式において、ρeoは通電前の常温におけるエレメント膜20の抵抗率を示し、aは通電前の常温におけるエレメント膜20の通電断面積を示し、tは通電前の常温におけるエレメント膜20の厚さを示し、wは通電前の常温におけるエレメント膜20の幅を示し、lは通電前の常温におけるエレメント膜20の長さを示す。エレメント膜20の抵抗Reoは、内部端子31、32間の電気抵抗を公知の四端子法で測定したものである。
なお、上記では、通電前のエレメント膜20の抵抗率ρeoの大きさは、純銀の約2.2倍の抵抗率であることとしたが、これに限定されない。例えば、通電前のエレメント膜20の抵抗率ρeoは、平均粒子径がマイクロメートル(μm)以上の金属である純銀の抵抗率の1.5倍〜5倍であってもよい。
通電前のエレメント膜20の抵抗率が、平均粒子径がマイクロメートル(μm)以上の一般の純金属(銀等)の1.5倍よりも小さくなると、金属ナノ粒子から構成されるエレメント膜20に散在可能な空隙の数が制約を受ける。かかる場合には、溶断過程において空隙を塞いで空隙を減らすことができなかったり、金属ナノ粒子が十分に大きくならなかったりして、溶断時ホット抵抗を十分に低下させることができない。一方で、通電前のエレメント膜20の抵抗率が、一般の純金属の5倍よりも大きくなると、ヒューズ1の抵抗そのものが大きくなり、好ましくない問題が発生しうる。このため、通電前のエレメント膜20の抵抗率ρeoは、平均粒子径がマイクロメートル以上の金属(銀等)の抵抗率の1.5倍〜5倍であることが望ましい。
内部端子31、32は、一部分がエレメント膜20の上に被さるようにして支持基板10の主面12に接合されている。図13に示す様に、内部端子31は、エレメント膜20の長手方向一端側と接続する接続端子であり、内部端子32は、エレメント膜20の長手方向他端側と接続する接続端子である。
オーバーコート40は、エレメント膜20の長手方向の中央側を覆う被覆部である。オーバーコート40は、内部端子31及び内部端子32の一部分も覆うように設けられている。オーバーコート40は、例えばエポキシ樹脂を含む有機化合物からなる。
外部端子51は、エレメント膜20の長手方向一端側にて、内部端子31と電気的に接続している。外部端子52は、エレメント膜20の長手方向他端側にて、内部端子32と電気的に接続している。
上記では、支持基板10が有機化合物から成る基板であることとしたが、これに限定されない。例えば、支持基板10は、有機化合物と無機化合物を組み合わせた基板であってもよい。また、支持基板10は、無機化合物から成る基板であってもよい。
(2−2.エレメント膜の内部構造)
前述したように、エレメント膜20は、隣接する金属ナノ粒子の間に位置する空隙(ボイド)を複数有する。以下では、図14〜図18を参照しながら、当該空隙の詳細について説明する。
図14は、通電前のエレメント膜20の表面の撮影画像である。図15は、0.001(sec)の間通電した後のエレメント膜20の表面の撮影画像である。図16は、0.01(sec)の間通電した後のエレメント膜20の表面の撮影画像である。図17は、通電前のエレメント膜20の断面の撮影画像である。図18は、0.01(sec)の間通電した後のエレメント膜20の断面の撮影画像である。
図14〜図18の撮影画像は、公知の走査電子顕微鏡(SEM)により観察された画像であり、エレメント膜20の長手方向の中央部近傍を観察したものである。また、図14〜図16の撮影画像は、それぞれ倍率60000倍で撮影され、図17及び図18の撮影画像は、それぞれ倍率100000倍で撮影されている。
通電前のエレメント膜20では、図14に示すように、エレメント膜20を構成する銀ナノ粒子間に空隙25が点在していることが観察された。銀ナノ粒子の平均粒子径は、約52(nm)であった。また、空隙25として、複数(図17に示す撮影画像では12個)が観察された。複数の空隙25には、銀ナノ粒子の平均粒子径よりも大きい幅の空隙を含まれている。
エレメント膜20を通電すると、銀ナノ粒子が通電前よりも大きくなる。具体的には、エレメント膜20を0.001(sec)の間通電した場合には、銀ナノ粒子が図15に示すように大きくなり、銀ナノ粒子の平均粒子径は約129(nm)となった。また、エレメント膜を0.01(sec)の間通電した場合には、銀ナノ粒子が図16に示すように更に大きくなり、銀ナノ粒子の平均粒子径は約254(nm)となった。すなわち、銀ナノ粒子は、通電前の平均粒子径の約5倍の大きさになっている。
また、エレメント膜20を0.01(sec)の間通電した場合には、図18に示すように、銀ナノ粒子間の空隙25が減少している。前述したように図17では12個の空隙25が観察されたが、図18では3個の空隙25が観察された。すなわち、複数の空隙25のうちの少なくとも一部の空隙25が、エレメント膜20が通電されることにより、塞がった状態となる。なお、空隙25の数は、エレメント膜20の通電時間に比例して減少する傾向を示す。このように空隙25が減少することで、エレメント膜20の有効通電断面積が増大することになる。
また、エレメント膜20が通電された後のエレメント膜20の厚さは、通電される前のエレメント膜の厚さよりも小さい。具体的には、通電前のエレメント膜20の厚さは約0.25(μm)であるが、0.01(sec)の間通電した後のエレメント膜20の厚さは約0.22(μm)であった。なお、通電前後でエレメント膜20の幅の大きさの変化は、認められなかった。
図19は、比較例2に係るヒューズのエレメント膜の通電前の断面の撮影画像である。撮影画像は、図17と同様に、倍率100000倍で撮影されたSEM撮影画像である。比較例2に係るヒューズは、本実施形態のエレメント膜20とは異なり、銀を公知の蒸着法で形成したエレメント膜を有する。図19を見ると分かるように、比較例2のエレメント膜は、ほぼ一様な断面を成しており、空隙を有しない。そして、比較例2に係るエレメント膜では、通電した際にエレメント膜20で発生しているような金属ナノ粒子及び空隙の変化は見られない。また、比較例2のエレメント膜においては、通電してもエレメント膜の厚さの変化も発生していない。
(2−3.蒸着法で形成されたエレメント膜との特性の対比)
次に、電源電圧が5(V)である回路において本実施形態に係るヒューズ1と比較例2に係るヒューズを溶断した際の特性について、図20〜図23を参照しながら説明する。
比較例2に係るヒューズは、ヒューズ1と同じ大きさであり、エレメント膜の長さ、幅、厚さも、ヒューズ1のエレメント膜20と同じ大きさである。なお、比較例2に係るエレメント膜の抵抗率ρは、約2.5(μΩcm)であり、本実施形態に係るエレメント膜の抵抗率ρよりも小さい。
図20は、本実施形態に係るヒューズ1及び比較例2に係るヒューズの溶断時電圧特性を示す図である。両方のヒューズの同じ溶断時端子間電圧となる点(ここでは、ヒューズ1の点Nと、比較例2のヒューズの点O)における通電時間Tを比較すると、点Nの通電時間が点Oの通電時間よりも小さい。このため、ヒューズ1の方が、短い通電時間の領域まで溶断可能である。
図21は、本実施形態に係るヒューズ1及び比較例2に係るヒューズの溶断時抵抗比率を示す図である。図21を見ると分かるように、本実施形態に係るヒューズ1の溶断時抵抗比率は、比較例2に係るヒューズの溶断時抵抗比率よりも小さい。具体的には、ヒューズ1の溶断時抵抗比率は、比較例2に係るヒューズの溶断時抵抗比率の1/2〜1/3の大きさである。なお、溶断時抵抗比率が高いヒューズは、溶断時ホット抵抗が高く、低電圧ヒューズとして不向きであるため、ヒューズ1の溶断時抵抗比率は、6以下となっている。すなわち、溶断時のエレメント膜20の抵抗値が、通電前のエレメント膜20の抵抗値の6倍以下となっている。
図22は、比較例2に係るヒューズに溶断点S(図21)に至るまで通電する際の、当該ヒューズのホット抵抗比率とコールド抵抗比率の推移を示す図である。図22を見ると分かるように、通電時間Tが大きくなると、ホット抵抗比率も増大し、ヒューズは点Xで溶断する。一方で、コールド抵抗比率は、通電開始から溶断点までほとんど変化しない。コールド抵抗比率がほとんど変化しないため、通電によるホット抵抗の増大は、エレメント膜の温度上昇に起因しており、エレメント膜の残留抵抗はほとんど変化がないものと推定できる。
図23は、本実施形態に係るヒューズ1の溶断点U(図21)に至るまで通電する際の、ヒューズ1のホット抵抗比率とコールド抵抗比率の推移を示す図である。図23を見ると分かるように、通電時間Tが大きくなると、ホット抵抗比率は緩やかに増大し、点Yで溶断する。なお、点Yにおけるホット抵抗値は、図22の点Xにおけるホット抵抗値の約1/3である。一方で、コールド抵抗比率は、通電開始から緩やかに減少し、溶断間近の点Yにおけるコールド抵抗比率は、通電開始時の2/3程度になっている。
上述した本実施形態に係るヒューズ1と比較例2に係るヒューズとの対比結果をまとめると、下記の表1及び表2のようになる。表1が、比較例2に係るヒューズについてまとめたものであり、表2が、本実施形態に係るヒューズ1についてまとめたものである。
表1から、比較例2に係るヒューズにおいては、通電することによりエレメント膜が発熱しても、エレメント膜の有効通電断面積aefが増大することはなく、コールド抵抗比率の変化も微小である。すなわち、コールド抵抗はほぼ一定である。表1によれば、通電時間が0.01(sec)おけるコールド抵抗比率が0.96とやや低下しているが、これは蒸着銀薄膜に内在する応力が通電によって解放されたものと推測される。
一方で、表2から、本実施形態に係るヒューズ1においては、通電することによりエレメント膜20が発熱し、エレメント膜20を構成する銀ナノ粒子が成長し、粒子サイズを大きくしながら、銀ナノ粒子間に存在した空隙を埋める又はエレメント膜20の外部へ排除するという現象が生じていると推定される。この推定によれば、通電に伴って、エレメント膜20の有効通電断面積aefが増大し、(エレメント膜20の有効通電断面積a が一定の場合に比べ)コールド抵抗比率の上昇が抑制されると考えられる。すなわち、コールド抵抗の上昇が抑制される。
また、ヒューズ1のエレメント膜20の抵抗Rは、エレメント膜20の長さをL、エレメント膜20の有効通電断面積をaef、銀ナノ粒子の抵抗率をρAgnとすれば、下記の式(8)のようになる。
式(8)によれば、銀ナノ粒子から構成されるエレメント膜に通電することにより、エレメント膜が温度上昇し、温度上昇により抵抗率ρAgnが増大する。一方で、前述したように、エレメント膜20の有効通電断面積aefが増大するので、温度上昇によるエレメント膜20の抵抗Rの上昇を抑制することができる。したがって、銀ナノ粒子から構成されるエレメント膜20のホット抵抗比率の上昇を抑制し、その結果、ホット抵抗の上昇を抑制することができる。
図24は、本実施形態に係るヒューズ1と比較例2に係るヒューズの溶断特性を示す図である。図24を見ると分かるように、本実施形態に係るヒューズ1は、比較例2に係るヒューズに比べて、電源電圧が5(V)という低電圧でも広範囲の通電時間Tにおいて溶断する特性を示す。特に、ヒューズ1は、通電時間Tが短い領域でも十分に溶断可能である。
図25は、本実施形態に係るヒューズ1と比較例1に係るヒューズ900(図1)の溶断特性を示す図25である。図を見ると分かるように、本実施形態に係るヒューズ1は、比較例1に係るヒューズ900に比べて、より広範囲の通電時間Tにおいて溶断する特性を示す。特に、ヒューズ1は、通電時間Tが短い領域でも十分に溶断可能である。
(2−4.ヒューズの製造方法)
図26を参照しながら、ヒューズ1の製造方法の一例について説明する。
図26は、ヒューズ1の製造工程を示すフローチャートである。ヒューズ1の製造工程は、図26に示すように、液膜形成工程、乾燥工程、エレメント膜形成工程、洗浄工程、焼成工程、後工程、検査工程を含む。以下では、工程毎に説明する。
(液膜形成工程:S102)
液膜形成工程では、集合基板100の主面である表面102(図27参照)上に、金属をナノ粒子化した金属ナノ粒子が溶媒中に分散した分散液の液膜であるインク膜110を形成する。具体的には、不図示のスピンコータを使用して、金属ナノ粒子を含むインクを集合基板100の表面102全体に所定の厚さだけ形成する。
金属ナノ粒子としては、例えば銀ナノ粒子が用いられる。銀ナノ粒子は、ここではガス中蒸発法で製造される。一般に、高純度の不活性ガス中の凝縮現象を活用するガス中蒸発法によって製作される銀ナノ粒子は、粒子の純度が高い。本実施形態の銀ナノ粒子の銀純度は、99.99(w%)以上である。また、銀ナノ粒子の平均粒子径は、5〜30(nm)であり、ここでは約15(nm)である。インク(銀ナノインク)中の銀ナノ粒子の含有量は、例えば約50(wt%)である。なお、銀ナノ粒子の含有量は、上記に限定されず、例えば20〜60(wt%)であってもよい。
分散液中の溶媒は、例えば炭化水素の一種であるテトラデカンである。テトラデカンは低沸点の溶媒であるが、分散液は、高沸点の他の溶媒を含みうる。また、分散液は、金属ナノ粒子を溶媒に分散させるための分散剤を含んでおり、分散剤は、例えば脂肪族アミンなどの有機物質からなる。
図27は、集合基板100上に形成されたインク膜110を示す模式図である。本実施形態では、ヒューズ1を大量に生産できるように、複数のヒューズ1の支持基板10に相当する集合基板100上に、インク膜110が複数形成されている。ここで、集合基板100は、有機化合物(具体的には、非熱可塑性ポリイミド)から成る。集合基板100の厚さは約250(μm)であり、表面粗さRaは約0.05(μm)である。
(乾燥工程:S104)
乾燥工程では、集合基板100上のインク膜110を乾燥させる。具体的には、送風加熱炉を使用して、インク膜110を例えば約70(℃)の温度で約1時間以下の乾燥を行う。これにより、インク膜110中の低沸点の溶媒(例えば、テトラデカンの一部)が蒸発して、集合基板100上に厚さが一様な乾燥したインク膜110が形成される。
(エレメント膜形成工程:S106)
エレメント膜形成工程においては、集合基板100上のインク膜110にレーザ照射装置によってレーザ光をインク膜110に照射することで、膜状のエレメント膜を形成する。以下では、エレメント膜形成工程を説明する前に、レーザ照射装置の構成について説明する。
(レーザ照射装置200の構成)
図28は、レーザ照射装置200の構成の一例を示す模式図である。レーザ照射装置200は、制御部210と、レーザ出力部220と、光学部230と、可動テーブル240と、テーブル駆動装置245と、検出部250とを有する。
制御部210は、レーザ照射装置200の動作全体を制御する。例えば、制御部210は、エレメント膜の形状及び位置に関するCAD情報をパーソナルコンピュータから受け取ると、可動テーブル240の移動とレーザ光の照射とを制御して、集合基板100上のインク膜に相対的な走査速度でレーザ光を照射する。また、制御部210は、レーザ光の走査速度や照射強度を調整する。
レーザ出力部220は、電源222と、レーザ発振器224とを含む。レーザ発振器224は、電源222からの出力に応じて、レーザ光を連続発振する。ここで、レーザ光のスポット径φ(L)は、例えば10(μm)である。また、レーザ光は、例えば波長が1064(nm)で平均照射強度が3.0×10〜5.0×10(W/cm2)のNd−YAGレーザ光である。
光学部230は、ミラー232と、光学フィルター234と、レンズ236と、を含む。ミラー232は、レーザ光の照射方向を調整する。光学フィルター234は、レーザ光の光量を減衰させる機能を有する。光学フィルター234は、例えばND(Neutral Density)フィルターである。レンズ236は、光学フィルター234で減衰されたレーザ光を集光する。
上記の光学フィルター234を用いることで、レーザ光の照射条件(例えば、照射強度)の選択範囲が広がる。例えば、平均照射強度を3.0×10〜5.0×10(W/cm2)に制御する場合において、電源222の出力を所定の値以下とするとレーザ光の発振が不安定となる場合があり、インク膜の焼成に支障をきたす。かかる問題に対して、レーザ光の光量の減衰が有効であるため、光学フィルター234を用いている。また、光学フィルター234は、着脱自在に装着されている。これにより、特性が異なる光学フィルターの中から適切な光学フィルター234を選択して装着できる。
可動テーブル240は、X−Y方向に移動可能である。可動テーブル240は、基板吸着部を有し、集合基板100を吸着保持する。テーブル駆動装置245は、可動テーブル240をX方向及びY方向にそれぞれ独立に移動させる。
検出部250は、例えばCCDカメラであり、集合基板100の位置や集合基板100上のレーザ光の照射状態を検出する。
以上、レーザ照射装置200の構成を説明した。次に、レーザ照射装置200を用いたエレメント膜形成工程(S106)の詳細について、図29及び図30を参照しながら説明する。
図29は、エレメント膜形成工程(S106)の詳細を示すフローチャートである。図30は、エレメント膜形成後の集合基板100を示す模式図である。なお、図30には、エレメント膜形成後の一つのヒューズに対応するエレメント膜を含むサブ組立体118が、模式的に示されている。
エレメント膜形成工程において、まず、表面102にインク膜110が形成された集合基板100を、可動テーブル240に吸着固定する(ステップS132)。次に、集合基板100上のインク膜110の隅にレーザ光を照射して、図30に示すようなアライメントマーク115a、115b、115cを形成する(ステップS134)。形成されたアライメントマーク115a〜115cの形状は、例えば略十字状である。ここで、アライメントマーク115a〜115cとは、複数のエレメント膜を集合基板100に形成する形成位置を調整するための位置調整マークである。
次に、検出部250により3つのアライメントマーク115a〜115cを読み取り、読み取ったアライメントマークの位置を基準として集合基板100のX方向とY方向を決め、同時に原点も決定する(ステップS136)。ここでは、アライメントマーク115aを原点とする。
(インク膜110の加熱工程:S138)
次に、乾燥したインク膜110の表面にレーザ光を照射して、インク膜110を加熱する(ステップS138)。この際、レーザ光を照射する部分は、アライメントマーク115aの位置(原点)に基づいて特定される。すなわち、制御部210は、エレメント膜の形状と、アライメントマーク115aの位置を基準としたエレメント膜の位置とに関するCAD情報をパーソナルコンピュータから受け取って、可動テーブル240の移動及びレーザ光の照射の制御を行う。例えば、制御部210は、約3〜90(mm/sec)の走査速度で、インク膜110の表面に対してほぼ垂直にレーザ光を照射させる。
本実施形態では、インク膜110中の高沸点の溶媒及び分散剤を気化させるように、インク膜110を加熱する。具体的には、レーザ光が照射されるインク膜110は、主に沸点の高い溶媒と分散剤と銀ナノ粒子とで構成されている。ここで、銀ナノ粒子は、平均粒子径が約15(nm)であり、波長が1064(nm)のレーザ光を吸収する吸収特性を有するため、レーザ光を吸光(プラズモン吸光)して瞬間的に発熱する。これにより、銀ナノ粒子が、瞬間的に温度上昇して、例えば500℃に達すると、高沸点の溶媒及び分散剤(一部)が気化する。例えば、溶媒及び分散剤は、蒸発又はガス化(酸化)する。そして、分散剤が気化することで、分散剤と銀ナノ粒子の間の結合も解放される。
分散剤との結合が解放された銀ナノ粒子は、むきだしの状態となり、銀ナノ粒子の表面の活性が高まる。そして、銀ナノ粒子が溶融するとともに、一部の銀ナノ粒子同士が焼結して銀粒子となる。
通常、金属ナノ粒子は、平均粒子径がマイクロメートル以上の金属に比べ、融点降下が生じることが知られている。本実施形態に係る銀ナノ粒子は、平均粒子径が約15nmであるため、銀の融点約961℃に比べ十分に低い温度(例えば500℃以下の温度)において溶融し、銀ナノ粒子同士が焼結する。そこで、本実施形態では、平均粒子径がマイクロメートル以上の銀の溶融温度よりも低い温度でインク膜110を加熱する。焼結後のエレメント膜においては、隣接する銀粒子間と銀ナノ粒子間に空隙(図14の空隙25)が点在する。
本実施形態では、レーザ光をインク膜110に対して1度だけ照射して、インク膜110を加熱焼結する。このため、レーザ光の照射強度は大きい方が望ましいが、照射強度が過度に大きい場合には、表面102上のインク膜110にレーザ光を照射した際にインク膜110が吹き飛んでしまい(所謂アブレーション)、エレメント膜を適切に形成できないなどの問題が生じる恐れがある。
一方で、レーザ光の照射強度を低く設定して複数回照射した場合には、下記のような不具合が生じる。
すなわち、インク膜110中の銀ナノ粒子の吸光反応は、インク膜110の表層で生じる。このため、1回目のレーザ光の照射により、インク膜110の表層において吸光発熱反応が生じて、表層の分散剤の炭化や硬化、及び銀ナノ粒子の焼結が生じる。その後、2回目の照射を行った場合には、炭化又は硬化した分散剤等が障害となって、インク膜110の表層下部に存在する未焼結の銀ナノ粒子へレーザ光が十分に届かない。又は、インク膜110の表層下部に存在する未焼結の銀ナノ粒子が発生するガス等が、表層に阻まれて十分に大気中へ排出されない。このため、インク膜110の表層から集合基板100の表面102にわたって、十分に焼結させることができない。そして、インク膜110の表層から集合基板100の表面102にわたって十分に焼結させることができない場合には、抵抗率等の物性値を管理することが困難となったり、焼結後のエレメント膜の内部に点在する、銀粒子間と銀ナノ粒子間に空隙の分布が、不均一となったりする。
また、焼結後のエレメント膜の深部(例えば、集合基板100の表面102と接する部位の近傍)において、インク膜110に含まれる有機物が蒸発せずに残っている場合には、当該部位における空隙が少なくなる。かかる場合には、ヒューズに通電した際に、エレメント膜における焼結の進展が阻害されて、本実施形態に係るエレメント膜の効果が十分に発揮できないという問題がある。
上述したレーザ光の照射強度に関する検討結果から、前述したように、レーザ光を、波長が1064(nm)で平均照射強度が3.0×10〜5.0×10(W/cm2)のNd−YAGレーザ光としている。ただし、これに限定されず、レーザ光を、波長が532(nm)で平均照射強度が2.0×10〜7.0×10(W/cm2)のNd−YAGレーザ光としてもよい。波長が532(nm)の高調波であるレーザ光は、波長が1064(nm)のレーザ光よりも銀ナノインクの吸収率が高いので、波長が532(nm)のレーザ光の平均照射強度の大きさを低くしている。
アブレーションを避け、インク膜110の表面から内部まで焼結し、焼結した銀粒子間と銀ナノ粒子間に空隙を形成するためには、レーザ光の照射強度に加えて、レーザ光の走査速度を制御する必要がある。例えば、レーザ光の走査速度が90(mm/s)を超えると、インク膜110の深部を十分に焼結することができなかった。このため、本実施形態では、レーザ光の走査速度を3〜90(mm/s)としている。なお、レーザ光の照射強度及び走査速度の設定については、特にインク膜110の厚さやレーザ光のスポット径も考慮することが望ましい。
ここで、熱力学の知見を本実施形態に適用して説明する。インク膜110の表面にレーザ光を照射して表面を加熱する系において、インク膜110の厚さ方向の平均的な熱の及び距離L(L)は、下記の式(9)となる。
なお、κはインク膜110の厚さ方向の平均的な熱拡散率であり、τは代表的なレーザ光の照射時間であり、α、βはα>0、β>0なる所定数であり、Kは比例定数である。
また、照射するレーザ光のスポット径をφ(L)とし、レーザ光の相対的な走査速度をV(L)とすれば、レーザ光を連続発振モードでインク膜110を照射する本実施形態に係る代表的なレーザ光の照射時間τは、下記の式(10)となる。
なお、Kはレーザ光の形状等に関する補正係数である。
式(10)を式(9)に代入すると、下記の式(11)となる。
式(11)によれば、熱の及ぶ距離L(L)は、κ、φ(L)、V(L)の各因子によって決まり、各因子の値には組み合わせが存在することを意味する。すなわち、熱拡散率κ及びスポット径φ(L)を固定値にした場合、距離L(L)は走査速度V(L)によって決まると考えられる。本実施形態においては、距離L(L)がインク膜110の表面から集合基板100の表面102までの距離(インク膜110を加熱する厚さ)を代表するものと考えると、インク膜110の厚さと平均的な熱拡散率κとを固定値にした場合には、走査速度V(L)は、スポット径φ(L)に応じて選定する必要があると考えられる。また、スポット径φ(L)と走査速度V(L)とを変化させて、インク膜110の厚さt(L)によってインク膜の深部、すなわち表面102と接する部位の焼結する状態の変化を観察した結果、距離L(L)は厚さt(L)と強い相関があることが判明した。すなわち、インク膜110の厚さ方向の平均的な熱の及ぶ距離L(L)は、厚さt(L)を代表しているものと考えられる。
なお、インク膜110の厚さが約3.0(μm)より大きい場合には、レーザ光の走査速度を極めて低くして加熱する必要が生じるので、実用的でない。一方、厚さが約0.1(μm)より小さい場合には、レーザ光の走査速度を大きくしても、インク膜を安定して焼結することができない。
また、本実施形態では、レーザ光をインク膜110に対して一回走査させることで、レーザ光のスポット径に対応する幅の直線状のエレメント膜が形成される。また、レーザ光の走査幅に対応する長さのエレメント膜が形成される。これにより、エレメント膜を短時間で大量に形成することが可能となる。
レーザ光の照射後のインク膜110の厚さ(第2厚さ)は、レーザ光の照射前のインク膜110の厚さ(第1厚さ)よりも小さくなる。第1厚さと第2厚さの対応関係については、予め実験等で解析されているため、前述したステップS102のインク膜110の形成工程において、第1厚さと第2厚さの対応関係に基づいて、第1厚さを調整してインク膜110が形成される。これにより、エレメント膜を所望の厚さに適切に管理できる。
また、本実施形態では、制御部210は、インク膜110の厚さに応じて、レーザ光の照射速度及び照射強度の少なくとも一方を調整して、インク膜110のレーザ光を照射してもよい。これにより、インク膜110の厚さの設定値が変わった場合においても、所望の厚さのエレメント膜を形成できる。
また、本実施形態では、前述したようにレーザ発振器224から発振されたレーザ光を減衰用の光学フィルター234で減衰し、減衰されたレーザ光をインク膜110に照射する。レーザ光の発振は、電源222の出力を所定値よりも小さくすると、不安定になりやすい。そこで、電源222の出力を必要以上に小さくする代わりに、光学フィルター234によって光量を減衰させることで、所望の照射強度を確保することが可能となる。これにより、レーザ光の発振が不安定になることを抑制できるので、照射後のインク膜110(エレメント膜)を集合基板100に適切に形成することができる。
(洗浄工程S108)
図26に戻り、洗浄工程においては、インク膜110のレーザ光を照射していないインクを洗い流し、乾燥させる。なお、洗浄方法としては、例えばイソプロピルアルコール溶液による超音波洗浄が用いられる。
(焼成工程S110)
焼成工程においては、例えば送付炉を使用して、エレメント膜が形成された集合基板100を約250℃で1時間焼成する。
特に、レーザ光のスポット形状が円形である場合には、レーザ光の走査領域のうちの両端部において金属ナノ粒子の焼結が不十分となり、当該両端部の抵抗率が高くなりやすい。これに対して、焼成を行うことで、抵抗率のバラツキが低減し、前記両端部において金属ナノ粒子の焼結が十分に行われることが判明した。本実施形態では、焼成後のエレメント膜の抵抗率ρeは、3.5(μΩcm)であった。
(後工程S112)
後工程においては、主に内部端子、オーバーコート及び外部端子の形成を行う。以下では、図31を参照しながら、後工程の詳細について説明する。
図31は、後工程の詳細を示すフローチャートである。
まず、サブ組立体118上に、エレメント膜の長手方向の両端側と接続する内部端子を形成する(ステップS150)。内部端子は、例えばエレメント膜と同様に、インク膜110にレーザ光を照射して、形成される。内部端子の形成後に、内部端子間の電気抵抗R を測定してもよい。測定した電気抵抗Rを用いることで、前述したようにエレメント膜の抵抗率ρeを求めることができる。
次に、サブ組立体118上に、オーバーコートを形成する(ステップS152)。オーバーコートは、前述した原点(アライメントマーク115aの位置)を基準に集合基板100上の各サブ組立体118の位置を割り出して、形成される。オーバーコートは、主にシリコーン樹脂からなる。オーバーコートは、例えばスクリーン印刷を用いて形成される。具体的には、印刷後に樹脂を所定温度で加熱硬化することで、オーバーコートが形成される。
次に、オーバーコートが形成されたサブ組立体118を、集合基板100から切り出す(ステップS154)。次に、サブ組立体118の長手方向両端部に、内部端子と接続する外部端子を形成する(ステップS156)。外部端子は、主に銀で構成されている。外部端子は、銀粒子を有機溶媒に分散させた銀ペーストをスクリーン印刷技術やディッピング技術を用いて印刷形成した後、所定の加熱条件で焼成することで、形成される。
次に、オーバーコートの表面に、捺印を行う(ステップS158)。例えば、オーバーコートの表面に、文字を捺印する。なお、オーバーコートに捺印したあと、外部端子にNiメッキ又はSnメッキを施してもよい。これにより、後工程が完了すると共に、製品形態1のヒューズ1となる。
(検査工程S114)
図26に戻り、検査工程においては、製品形態のヒューズ1の抵抗等を検査する。検査後に、ヒューズ1は、梱包し出荷される。これにより、本実施形態に係るヒューズ1の一連の製造工程が完了する。
上述したヒューズ1の製造方法においては、金属ナノ粒子を含有するインク膜110を基板上に形成した後、インク膜110にレーザ光を照射してエレメント膜を形成している。かかる場合には、エレメント膜のパターン化下地処理やパターン化マスク等を使用することなく、微細なエレメント膜を有するヒューズ1を安価かつ大量に製造することが可能となる。
なお、上述したヒューズ1の製造方法においては、ステップS102が液膜形成ステップに該当し、ステップS106がエレメント形成ステップに該当する。
(2−5.変形例)
上記では、ヒューズ1のエレメントが膜状のエレメント膜20であることとしたが、これに限定されない。ヒューズ1のエレメントは、膜以外の形態(例えば線状の形態)であってもよい。
また、上記では、スピンコータを使用して、金属ナノ粒子を含有するインク膜110を集合基板100の表面102全体に形成することとしたが、これに限定されない。例えば、インクジェットプリンタを使用して、表面102上のエレメント膜を形成する部分にインク膜を形成してもよい。
また、上記では、金属ナノ粒子が銀ナノ粒子であることとしたが、これに限定されない。例えば、金属ナノ粒子は、銅ナノ粒子、金ナノ粒子など他の金属ナノ粒子であってもよい。また、上記では、金属ナノ粒子の平均粒子径が約15(nm)であることとしたが、これに限定されない。例えば、金属ナノ粒子の平均粒子径は、例えば3(nm)又は50(nm)であってもよい。
また、上記では、支持基板10が非熱可塑性ポリイミド基板であることとしたが、これに限定されない。例えば、支持基板10は、熱可塑性ポリイミド基板、熱硬化性ポリイミド基板、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製基板、又は他の有機材料から成る基板のいずれかであってもよい。
また、上記では、レーザ光を、波長が1064(nm)で平均照射強度が3.0×10〜5.0×10(W/cm2)のNd−YAGレーザ光、又は波長が532(nm)で平均照射強度が2.0×10〜7.0×10(W/cm2)のNd−YAGレーザ光としたが、これに限定されない。例えば、レーザ光は、金属ナノ粒子がプラズモン吸収帯域を有する波長が800(nm)のチタンサファイアレーザ光であってもよい。また、レーザ光の平均照射強度の大きさは、レーザ光の波長に応じて調整してもよい。
また、上記では、レーザ光は連続発振モードで照射されることとしたが、これに限定されず、例えばレーザ光はパルス発振モードで照射されてもよい。また、上記では、レーザ光の走査速度が3〜90(mm/S)あることとしたが、これに限定されない。
また、上記では、レーザ光のスポット形状を円形としたが、これに限定されない。例えば、レーザ光のスポット形状は、楕円形状、正方形、長方形のいずれかであってもよい。スポット形状が正方形又は長方形である場合には、レーザ光の照射幅のほぼ全域を焼結できる。また、上記では、スポット形状が円形であるレーザ光の直径が10(μm)であることとしたが、これに限定されない。レーザ光の直径を、レーザ光の波長や照射強度に応じて調整してもよい。
また、上記では、直線状のエレメント膜20が一つ形成されていることとしたが、これに限定されない。例えば、曲線状エレメント膜を形成してもよく、エレメント膜を複数形成してもよい。
また、上記では、インク膜110にレーザ光を照射してインク膜を加熱することとしたが、これに限定されない。例えば、公知のマイクロ波加熱や誘導加熱によってインク膜110を加熱してもよい。ただし、インク膜110を短時間に集中加熱して集合基板100(支持基板)の変形を防止するためには、レーザ光を照射する方式が有効である。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
1 ヒューズ
10 支持基板
20 エレメント膜
25 空隙
100 集合基板
102 表面
110 インク膜

Claims (13)

  1. 基板の主面上に、金属をナノ粒子化した金属ナノ粒子が溶媒中に分散した分散液の液膜を形成する液膜形成ステップと、
    前記液膜を、平均粒子径がマイクロメートル以上である前記金属の溶融温度よりも低い温度で加熱して、隣接する前記金属ナノ粒子の間に空隙が点在するエレメントを前記主面上に形成するエレメント形成ステップと、
    を有する、低電圧ヒューズの製造方法。
  2. 前記エレメント形成ステップにおいて、前記金属ナノ粒子を焼結させて、前記エレメントを前記主面上に形成する、
    請求項1に記載の低電圧ヒューズの製造方法。
  3. 前記エレメント形成ステップにおいて、前記液膜の表面にレーザ光を照射して、膜状のエレメント膜を形成する、
    請求項1又は2に記載の低電圧ヒューズの製造方法。
  4. 前記エレメント形成ステップにおいて、前記液膜に対して前記レーザ光を一回走査させて、前記レーザ光のスポット径に対応する幅、及び走査幅に対応する長さの前記エレメント膜を形成する、
    請求項3に記載の低電圧ヒューズの製造方法。
  5. 前記エレメント膜を焼成する焼成ステップを更に有する、
    請求項3又は4に記載の低電圧ヒューズの製造方法。
  6. 前記金属ナノ粒子をガス中蒸発法で製造するステップを更に有する、
    請求項1から5のいずれか1項に記載の低電圧ヒューズの製造方法。
  7. 基板と、
    前記基板上に設けられ、互いに電気的に接続している金属をナノ粒子化した複数の金属ナノ粒子を含むレーザ焼結膜であるエレメントと、を備え、
    前記エレメントは、隣接する前記金属ナノ粒子の間に位置する空隙を複数有し、
    前記エレメントの厚さは、0.1(μm)〜3.0(μm)である、低電圧ヒューズ。
  8. 前記複数の空隙のうちの少なくとも一部の空隙が、前記エレメントが通電されることにより、塞がった状態となる、
    請求項7に記載の低電圧ヒューズ。
  9. 前記複数の空隙は、前記金属ナノ粒子の平均粒子径よりも大きい幅の空隙を含む、
    請求項7又は8に記載の低電圧ヒューズ。
  10. 前記エレメントは、前記基板の主面に膜状に形成されたエレメント膜であり、
    前記エレメント膜が通電された後の前記エレメント膜の厚さは、通電される前の前記エレメント膜の厚さよりも小さい、
    請求項7から9のいずれか1項に記載の低電圧ヒューズ。
  11. 前記エレメントの通電前の前記金属ナノ粒子の抵抗率が、平均粒子径がマイクロメートル以上である前記金属の抵抗率の1.5倍〜5倍である、
    請求項7から10のいずれか1項に記載の低電圧ヒューズ。
  12. 前記エレメントの溶断時の前記エレメントの抵抗値が、前記エレメントの通電前の抵抗値の6倍以下である、
    請求項7から11のいずれか1項に記載の低電圧ヒューズ。
  13. 前記金属ナノ粒子は、銀ナノ粒子であり、
    前記基板は、ポリイミド製基板である、
    請求項7から12のいずれか1項に記載の低電圧ヒューズ。

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